以下、エンジンの制御装置の実施形態を図面に基づいて説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎない。図1、2に示すように、エンジン・システムは、エンジン1、エンジン1に付随する様々なアクチュエーター、様々なセンサ、及びセンサからの信号に基づきアクチュエーターを制御するエンジン制御器100を有する。
エンジン1は、火花点火式内燃機関であって、図例では一つのみ図示するが、複数のシリンダ(気筒)11を有する。エンジン1は、自動車等の車両に搭載され、その出力軸は、図示しないが、変速機を介して駆動輪に連結されている。エンジン1の出力が駆動輪に伝達されることによって、車両が推進する。エンジン1は、シリンダブロック12と、その上に載置されるシリンダヘッド13とを備えており、シリンダブロック12の内部にシリンダ11が形成されている。
ピストン15は、各シリンダ11内に摺動自在に嵌挿されており、シリンダ11及びシリンダヘッド13と共に燃焼室17を区画している。この実施形態では、燃焼室17は、シリンダヘッド13の下面(燃焼室17の上面を区画する天井面)及びピストン15の冠面が共に、シリンダ11の軸心に対して垂直な面で構成されている。ピストン15の冠面には、比較的容積の小さいキャビティ15aが凹陥して形成されている。こうして、このエンジン1では、小さいキャビティ15aと、それに伴い拡大したスキッシュエリアとによって、後述するように、高い幾何学的圧縮比を実現している。
図1には一つのみ示すが、シリンダ11毎に2つの吸気ポート18がシリンダヘッド13に形成され、それぞれがシリンダヘッド13の下面に開口することで燃焼室17に連通している。同様に、シリンダ11毎に2つの排気ポート19がシリンダヘッド13に形成され、それぞれがシリンダヘッド13の下面に開口することで燃焼室17に連通している。吸気ポート18は、シリンダ11内に導入される新気が流れる吸気通路180に接続されている。図1では図示を省略するが、吸気通路180における上流側には、吸気流量を調整するスロットル弁20が介設しており、スロットル弁20は、エンジン制御器100からの制御信号を受けてその開度が調整される。一方、排気ポート19は、各シリンダ11からの既燃ガス(排気ガス)が流れる排気通路190に接続されている。排気通路190には一つ以上の触媒コンバータ191を有する排気ガス浄化システムが配置される。触媒コンバータ191は、例えば三元触媒を含む。
図1には概念的に示すが、排気通路190と吸気通路180との間には、既燃ガスの一部を吸気通路180に還流するための排気還流通路(つまり、EGR通路)51が設けられている。EGR通路51の途中には、既燃ガス(言い換えるとEGRガス)の還流量を調整するためのEGR弁52が配設されている。エンジン制御器100がEGR弁52の開度を調整することによって、燃焼室17内へEGRガス量が調整されることになる。尚、図示は省略するが、EGR通路51上には、燃焼室17内に導入するEGRガスを冷却するための、例えば水冷式のEGRクーラを配設してもよい。
吸気弁21及び排気弁22はそれぞれ、吸気ポート18及び排気ポート19を燃焼室17から遮断(閉)することができるように配設されている。吸気弁21は吸気弁駆動機構により、排気弁22は排気弁駆動機構により、それぞれ駆動される。吸気弁21及び排気弁22は所定のタイミングで往復動して、吸気ポート18及び排気ポート19を開閉し、シリンダ11内のガス交換を行う。吸気弁駆動機構及び排気弁駆動機構は、図示は省略するが、それぞれ、クランクシャフトに駆動連結された吸気カムシャフト及び排気カムシャフトを有し、これらのカムシャフトはクランクシャフトの回転と同期して回転する。また、少なくとも吸気弁駆動機構は、吸気カムシャフトの位相を所定の角度範囲内で連続的に変更可能な、液圧式又は機械式の位相可変機構(Variable Valve Timing:VVT)23を含んで構成されている。VVT23と共に、弁リフト量を連続的に変更可能なリフト可変機構(CVVL(Continuous Variable Valve Lift))を備えるようにしてもよい。
点火プラグ31は、例えばねじ等の周知の構造によって、シリンダヘッド13に取り付けられている。点火プラグ31は、この実施形態では、シリンダ11の軸心に対し、排気側に傾斜した状態で取り付けられており、その先端部(電極)は燃焼室17の天井部に臨んでいる。尚、点火プラグ31の配置はこれに限定されるものではない。点火システム32は、エンジン制御器100からの制御信号を受けて、点火プラグ31が所望の点火タイミングで火花を発生するよう、それに通電する。一例として、点火システム32はプラズマ発生回路を備え、点火プラグはプラズマ点火式のプラグとしてもよい。
燃料噴射弁33は、この実施形態ではシリンダ11の軸心に沿って配置され、例えばブラケットを使用する等の周知の構造でシリンダヘッド13に取り付けられている。燃料噴射弁33の先端は、燃焼室17の天井部の中心に臨んでいる。
図3に示すように、燃料噴射弁33は、この実施形態では、シリンダ11内に燃料を噴射するノズル口41を開閉する外開弁42を有する、外開弁式のインジェクタである。但し、燃料噴射弁は、外開弁式には限定されない。ノズル口41は、シリンダ11の軸心に沿って延びる燃料管43の先端部において、先端側ほど径が大きくなるテーパ状に形成されている。燃料管43の基端側の端部は、内部にピエゾ素子44が配設されたケース45に接続されている。外開弁42は、弁本体42aと、弁本体42aから燃料管43内を通ってピエゾ素子44に接続された連結部42bとを有している。弁本体42aの連結部42b側の部分が、ノズル口41と略同じ形状を有しており、該部分がノズル口41に当接(着座)しているときには、ノズル口41が閉状態となる。このとき、弁本体42aの先端側の部分は、燃料管43の外側に突出した状態となっている。
ピエゾ素子44は、電圧の印加による変形により、外開弁42をシリンダ11の軸心方向の燃焼室17側に押圧することで、その外開弁42を、ノズル口41を閉じた状態からリフトさせてノズル口41を開放する。このとき、ノズル口41からシリンダ11内に燃料が、シリンダ11の軸心を中心とするコーン状(詳しくはホローコーン状)に噴射される。そのコーンのテーパ角は、本実施形態では、90°〜100°である(内側の中空部のテーパ角は70°程度である)。そして、ピエゾ素子44への電圧の印加が停止すると、ピエゾ素子44が元の状態に復帰することで、外開弁42がノズル口41を再び閉状態とする。このとき、ケース45内における連結部42bの周囲に配設された圧縮コイルバネ46がピエゾ素子44の復帰を助長する。
ピエゾ素子44に印加する電圧が大きいほど、外開弁42の、ノズル口41を閉じた状態からのリフト量(以下、単にリフト量という)が大きくなる。このリフト量が大きいほど、ノズル口41の開度が大きくなってノズル口41からシリンダ11内に噴射される燃料噴霧のペネトレーションが大きくなる(長くなる)とともに、単位時間当たりに噴射される燃料量が多くなりかつ燃料噴霧の粒径が大きくなる。
燃料供給システム34は、外開弁42(ピエゾ素子44)を駆動するための電気回路と、燃料噴射弁33に燃料を供給する燃料供給系とを備えている。エンジン制御器100は、所定のタイミングで、リフト量に応じた電圧を有する噴射信号を前記電気回路に出力することで、該電気回路を介してピエゾ素子44及び外開弁42を作動させて、所望量の燃料を、シリンダ11内に噴射させる。前記噴射信号の非出力時(噴射信号の電圧が0であるとき)には、外開弁42によりノズル口41が閉じられた状態となる。このようにピエゾ素子44は、エンジン制御器100からの噴射信号によって、その作動が制御される。こうしてエンジン制御器100は、ピエゾ素子44の作動を制御して、燃料噴射弁33のノズル口41からの燃料噴射及び該燃料噴射時におけるリフト量を制御する。ここで、このエンジン1の燃料は、この実施形態ではガソリンであるが、これに限定されるものではなく、例えばガソリン含有の各種の液化燃料としてもよい。
エンジン制御器100は、周知のマイクロコンピュータをベースとするコントローラであって、プログラムを実行する中央演算処理装置(CPU)と、例えばRAMやROMにより構成されてプログラム及びデータを格納するメモリと、電気信号の入出力をする入出力(I/O)バスと、を備えている。
エンジン制御器100は、図2に示すように、少なくとも、エアフローセンサ71からの吸気流量に関する信号、クランク角センサ72からのクランク角パルス信号、アクセル・ペダルの踏み込み量を検出するアクセル開度センサ73からのアクセル開度信号、車速センサ74からの車速信号をそれぞれ受ける。エンジン制御器100は、これらの入力信号に基づいて、以下のようなエンジン1の制御パラメーターを計算する。例えば、所望のスロットル開度信号、燃料噴射パルス、点火信号、バルブ位相角信号等である。そしてエンジン制御器100は、それらの信号を、スロットル弁20(スロットル弁20を動かすスロットルアクチュエーター)、燃料供給システム34、点火システム32、VVT23、及びEGR弁52等に出力する。
エンジン制御器100はまた、後述するように、触媒の活性状態を判断するために、触媒コンバータ191の上流側の温度を検出する温度センサ75と、その下流側の温度を検出する温度センサ76との検出信号をそれぞれ受ける。
このエンジン1の幾何学的圧縮比εは、15以上40以下とされている。この幾何学的圧縮比εは、特に25以上35以下が好ましい。本実施形態では、エンジン1は圧縮比=膨張比となる構成から、高圧縮比と同時に、比較的高い膨張比を有するエンジン1でもある。尚、圧縮比≦膨張比となる構成(例えばアトキンソンサイクルや、ミラーサイクル)を採用してもよい。
燃焼室17は、図1に示すように、シリンダ11の壁面と、ピストン15の冠面と、シリンダヘッド13の下面(天井面)と、吸気弁21及び排気弁22それぞれのバルブヘッドの面と、によって区画形成されている。そして、冷却損失を低減するべく、これらの各面に、断熱層61,62,63,64,65が設けられることによって、燃焼室17が断熱化されている。尚、以下において、これらの断熱層61〜65を総称する場合は、断熱層に符号「6」を付す場合がある。断熱層6は、これらの区画面の全てに設けてもよいし、これらの区画面の一部に設けてもよい。また、図例では、シリンダ壁面の断熱層61は、ピストン15が上死点に位置した状態で、そのピストンリング14よりも上側の位置に設けられており、これにより断熱層61上をピストンリング14が摺動しない構成としている。但し、シリンダ壁面の断熱層61はこの構成に限らず、断熱層61を下向きに延長することによって、ピストン15のストロークの全域、又は、その一部に断熱層61を設けてもよい。また、燃焼室17を直接区画する壁面ではないが、吸気ポート18や排気ポート19における、燃焼室17の天井面側の開口近傍のポート壁面に断熱層を設けてもよい。尚、図1に図示する各断熱層61〜65の厚みは実際の厚みを示すものではなく単なる例示であると共に、各面における断熱層の厚みの大小関係を示すものでもない。
燃焼室17の断熱構造について、さらに詳細に説明する。燃焼室17の断熱構造は、上述の如く、燃焼室17を区画する各区画面に設けた断熱層61〜65によって構成されるが、これらの断熱層61〜65は、燃焼室17内の燃焼ガスの熱が、区画面を通じて放出されることを抑制するため、燃焼室17を構成する金属製の母材よりも熱伝導率が低く設定される。ここで、シリンダ11の壁面に設けた断熱層61については、シリンダブロック12が母材であり、ピストン15の冠面に設けた断熱層62についてはピストン15が母材であり、シリンダヘッド13の天井面に設けた断熱層63については、シリンダヘッド13が母材であり、吸気弁21及び排気弁22それぞれのバルブヘッド面に設けた断熱層64,65については、吸気弁21及び排気弁22がそれぞれ母材である。したがって、母材の材質は、シリンダブロック12、シリンダヘッド13及びピストン15については、アルミニウム合金や鋳鉄となり、吸気弁21及び排気弁22については、耐熱鋼や鋳鉄等となる。
また、断熱層6は、冷却損失を低減する上で、母材よりも容積比熱が小さいことが好ましい。つまり、燃焼室17内のガス温度は燃焼サイクルの進行によって変動するが、燃焼室17の断熱構造を有しない従来のエンジンは、シリンダヘッドやシリンダブロック内に形成したウォータージャケット内を冷却水が流れることにより、燃焼室17を区画する面の温度は、燃焼サイクルの進行にかかわらず、概略一定に維持される。
一方で、冷却損失は、冷却損失=熱伝達率×伝熱面積×(ガス温度−区画面の温度)によって決定されることから、ガス温度と壁面の温度との差温が大きくなればなるほど冷却損失は大きくなってしまう。冷却損失を抑制するためには、ガス温度と区画面の温度との差温は小さくすることが望ましいが、冷却水によって燃焼室17の区画面の温度を概略一定に維持した場合、ガス温度の変動に伴い差温が大きくなることは避けられない。そこで、断熱層6の熱容量を小さくして、燃焼室17の区画面の温度が、燃焼室17内のガス温度の変動に追従して変化するようにすることが好ましい。
前記断熱層6は、例えば、母材上にZrO2等のセラミック材料をプラズマ溶射によってコーティングして形成すればよい。このセラミック材料の中には、多数の気孔を含んでいてもよい。このようにすれば、断熱層6の熱伝導率及び容積比熱をより低くすることができる。
また、本実施形態では、図1に示すように、熱伝導率が非常に低くて断熱性に優れかつ耐熱性にも優れたチタン酸アルミニウム製のポートライナ181を、シリンダヘッド13に一体的に鋳ぐるむことによって、吸気ポート18に断熱層を設けている。この構成は、新気が吸気ポート18を通過するときに、シリンダヘッド13から受熱して温度が上がることを抑制乃至回避し得る。これによってシリンダ11内に導入する新気の温度(初期のガス温度)が低くなるため、圧縮から燃焼時のガス温度が低下し、ガス温度と燃焼室17の区画面との差温を小さくする上で有利になる。燃焼時のガス温度を低下させることは熱伝達を低くし得るから、そのことによる冷却損失の低減にも有利になる。尚、吸気ポート18に設ける断熱層の構成は、ポートライナ181の鋳ぐるみに限定されない。
このエンジン1ではまた、少なくとも一部の運転領域において、前記の燃焼室17及び吸気ポート18の断熱構造に加えて、燃焼室17内においてガス層による断熱層を形成することで、冷却損失を大幅に低減するようにしている。
具体的には、エンジン制御器100は、エンジン1の燃焼室17内の外周部に新気を含むガス層が形成されかつ中心部に混合気層が形成されるように、圧縮行程後期から膨張行程初期にかけての期間内において燃料噴射弁33のノズル口41から気筒内に燃料を噴射させるべく、燃料供給システム34に制御信号を出力する。すなわち、圧縮行程後期から膨張行程初期にかけての期間内において燃料噴射弁33により気筒内に燃料を噴射させかつその燃料噴霧のペネトレーションを、燃料噴霧が気筒内の外周部(ガス層)まで届かないような大きさ(長さ)に抑えることで、気筒内の中央部に混合気層が形成されかつその周囲に新気を含むガス層が形成されるという、成層化が実現する。このガス層は、新気のみであってもよく、既燃ガス(EGRガス)のみであってもよい。尚、ガス層に少量の燃料が混じっても問題はなく、ガス層が断熱層の役割を果たせるように混合気層よりも燃料リーンであればよい。
こうして、燃焼室17内において、ガス層と混合気層とが形成された状態で、その混合気層の混合気を、例えば圧縮自己着火により燃焼させれば、混合気層とシリンダ11等の壁面との間のガス層により、高温の燃焼ガスがシリンダ11等の壁面に接触することがなく、そのガス層が断熱層となって、シリンダ11等の壁面からの熱の放出を抑えることができる。その結果、冷却損失を大幅に低減することが可能になる。
尚、冷却損失を低減させるだけでは、その冷却損失の低減分が排気損失に転換されて図示熱効率の向上にはあまり寄与しないところ、このエンジン1では、高圧縮比化に伴う高膨張比化によって、冷却損失の低減分に相当する燃焼ガスのエネルギを、機械仕事に効率よく変換している。すなわち、エンジン1は、冷却損失及び排気損失を共に低減させる構成を採用することによって、図示熱効率を大幅に向上させているということができる。
ここで、図4は、エンジン1の制御マップの一例を示しており、この制御マップでは、主に、エンジン1の負荷の高低に応じて、(1)〜(4)の4つの領域に分けられている。先ず、エンジン負荷が最も低い領域(1)では、比較的早いタイミングで燃料噴射を行い、燃焼室17内に、比較的均質でかつリーンな混合気(例えばG/F≧30)を形成する。そうして、領域(1)では、その均質かつリーンな混合気を、基本的には、圧縮自着火により燃焼させるものの、燃焼安定性を確保するために、必要に応じて、圧縮上死点付近において点火プラグ31を作動させて、アシスト点火を行う。
領域(1)よりも負荷の高い領域(2)では、領域(1)と同様に、比較的早いタイミングで燃料噴射を行い、燃焼室17内に、比較的均質でかつリーンな混合気(例えばG/F≧30)を形成する。一方で、領域(2)では、領域(1)に比べて負荷が高いことで、気筒内の温度及び圧力が、相対的に高くなることから、アシスト点火は行わずに、圧縮自着火燃焼を行う。
領域(2)よりも負荷の高い領域(3)では、領域(1)(2)とは異なり、燃料の噴射タイミングを、前述の通り圧縮行程後期から膨張行程初期にかけての期間内の、比較的遅いタイミングに設定し、それによって、燃焼室17内の、中央部にリーンな混合気を形成すると共に、その外周部には、燃焼には寄与しないガス層を形成する。シリンダ11内全体において、例えばG/F≧30としてもよい。そうして、中央部のリーン混合気を、圧縮自着火により燃焼させる。これによって、前述の通り、外周部のガス層が断熱層として機能するため、冷却損失を大幅に低減することが可能になる。
領域(3)よりも負荷の高い領域(4)では、燃料の噴射タイミングを、領域(3)と同様に、圧縮行程後期から膨張行程初期にかけての期間内の、比較的遅いタイミングに設定する。一方で、全開負荷を含む高負荷側の領域(4)では、燃焼室17内の、中央部にA/F=12.5〜15.0の混合気を形成すると共に、その外周部には、燃焼には寄与しないガス層を形成する。そうして、中央部の多少リッチな混合気乃至略λ=1混合気を、圧縮自着火により燃焼させる。この場合も、外周部のガス層が断熱層として機能するため、高温燃焼となる略λ=1燃焼においても、冷却損失を大幅に低減することが可能になる。
ここで、領域(1)〜(4)の全領域において、各領域の燃焼形態に応じた量のEGRガスが、シリンダ11内に導入されている。つまり、リーン燃焼を行う領域(1)〜(3)においては、シリンダ11内の温度を高く維持するために、比較的大量のEGRガスがシリンダ11内に導入される一方で、略λ=1燃焼を行う領域(4)では、相対的に少ない量のEGRガスがシリンダ11内に導入されるようになる。
このエンジン1では、前述の通り熱効率を高めているため、排気ガスの温度が比較的低く、このことは、触媒の活性状態を維持する上では不利である。つまり、エンジン1の始動後、触媒を活性化すべく、混合気をλ=1に設定して、高温燃焼を行った後に、図4の制御マップにおける領域(1)〜(3)、特に、エンジン1の暖機中で、中軽負荷の領域(2)のようなリーン燃焼を行う運転領域内での運転状態が継続したときには、比較的低温の排気ガスが、大量に触媒コンバータ191を通過することで触媒コンバータ191の温度が低下し、活性化していた触媒の活性状態が低下してしまう虞がある。そのような状態で、例えばエンジン1の負荷が高まって、エンジン1の運転状態が、λ=1燃焼を行う領域(4)、言い換えると、触媒による排気ガスの浄化が要求される領域へと変更したときには、排気エミッション性能の悪化を招く虞がある。そこで、このエンジン・システムにおいては、触媒の活性状態を維持するような制御を行う。
具体的に、エンジン制御器100は、図5に示すフローチャートに従って、触媒の活性状態を維持するようにする。次に、この図5のフローと、このフローの制御に伴う各状態量の変化(図6)を参照しながら、触媒活性維持制御について、説明する。
図5のフローは、エンジン1の始動後の、触媒が不活性状態でスタートし、ステップS1では、触媒の不活性時に実行するように予め設定されている、λ=1燃焼を実行する。この燃焼は、空気過剰率λ=1の混合気を燃焼させる高温燃焼により、排気ガスの温度を高めて、触媒を速やかに昇温させる。例えば前述した領域(4)での燃焼を採用してもよい。続くステップS2では、触媒の活性状態を判断する。この判断は、具体的には、触媒コンバータ191の上流側及び下流側に取り付けられた温度センサ75、76の検出温度差が、予め設定した所定値ΔT1以下であるか否かを判定することにより行う。ステップS2の判定がNG、つまり、触媒が活性化していないときには、ステップS1に戻って、触媒の活性化を継続する。一方、ステップS2の判定がOKのとき、つまり、触媒が活性化したときには、ステップS3に移行する。尚、ステップS2においては、触媒コンバータ191の下流側のガス温のみを検出し、この検出温度と、エンジン回転数及びエンジン負荷から推定した触媒コンバータ191の上流側のガス温との差に基づいて、触媒の活性状態を判断してもよい。さらに、触媒のベッド温度を直接検出するセンサを取り付け、その温度センサの検出値に基づいて、触媒の活性状態を判定してもよい。
ステップS3では、エンジン1の運転状態に応じた燃焼を行う。ここでは、領域(2)のリーン燃焼へ移行するとし、続くステップS4において、触媒の活性状況の判断を行う。ステップS4での判断は、ステップS2での判断と同様にすればよい。但し、触媒の活性状態を判断するための判定しきい値ΔT2は、ステップS2における判定しきい値ΔT1よりも大に設定する(つまり、ΔT2>ΔT1)ことが好ましい。これは、触媒活性に係るヒステリシス特性を考慮したものであり、一旦、活性化した触媒は、その活性温度を下回る温度になったとしても、所定の浄化率を維持することが可能であるためである。そうして、ステップS4の判定において、OKのときには、触媒の活性状態が維持されているため、ステップS3に戻って、エンジン1の運転状態に応じた燃焼を継続する。一方、ステップS4の判定において、NGのとき、言い換えると、触媒コンバータ191の前後温度差が、ΔT2を超えれば、触媒の活性状態が低下しており、触媒を活性化させる必要があるとして、ステップS5に移行する。これは、図6のタイムチャートにおいては、同図(h)に示す触媒前後温度差がΔT2を超えることに対応する(時刻t1)。
ステップS5では、触媒活性燃焼への移行を開始する。この触媒活性燃焼は、具体的には、燃焼室17内の中央部にA/F=12.5〜15.0の混合気を形成すると共に、その外周部には、燃焼には寄与しないガス層を形成し、その略λ=1混合気を圧縮自着火により燃焼させる燃焼である。この触媒活性燃焼は、図4の制御マップにおける領域(4)の燃焼と、実質的に同じである。
ステップS6では、現在のエンジンの運転状態を確認し、続くステップS7において、現在のリーン燃焼から触媒活性燃焼へと移行したときに、トルクショックが生じないような、要求新気量、燃料噴射量及びEGR量をそれぞれ算出する。要求新気量は、現在のリーン燃焼時の新気量よりも少なくなる一方で、燃料噴射量は、現在のリーン燃焼時の燃料噴射量よりも多くなる。また、EGR量は、触媒活性燃焼での下限量以上で設定される。
ステップS7では、シリンダ11内に導入される新気量を要求新気量にまで減らすべく、吸気弁21の閉弁時期を、吸気下死点以降の所定の遅閉じ時期に設定すると共に、EGR量を要求量にまで減らすべく、EGR弁52の開度を、所定の開度に設定する。
つまり、図6(d)に示すように、時刻t1前のリーン燃焼時には、吸気弁21の閉弁時期が、シリンダ11内の流入ガス量が最大となるような吸気下死点付近のタイミングに設定されていたところ、これよりも新気量を減らすべく、吸気弁21の閉弁時期を、図6(d)に実線で示すように、吸気下死点以降に設定する(いわゆる遅閉じ制御)。尚、図6(d)に破線で示すように、吸気弁21の早閉じ制御を行うようにしてもよい。こうして、図6(b)に示すように、シリンダ11内に導入される新気量を要求新気量にまで減少させていくと共に、EGR弁52の開度を閉じ側に変更することにより、図6(c)に示すように、相対的に高く設定された下限値(この下限値は、リーンCI燃焼が可能となるEGR量の下限値である)以上のEGR量を、相対的に低く設定された下限値(この下限値は、触媒活性燃焼である略λ=1CI燃焼が可能となる下限値である)付近にまで減少させていく。
尚、ここでは、EGR弁52の開度調整によって、EGR量の調整を行うようにしているが、これに代えて、排気弁22の閉弁時期を変更することによって、EGR量の調整を行ってもよい。つまり、吸気弁21と排気弁22との開弁時期が重なっているとき(ポジティブオーバーラップ)のときには、排気弁22の閉弁タイミングを早めることによって、EGR量を減らすことが可能である。一方、吸気弁21と排気弁22との開弁時期が重なっていないとき(ネガティブオーバーラップ)のときには、排気弁22の閉弁タイミングを遅らせることによって、EGR量を減らすことが可能である。
ステップS9では、ステップS8の制御により、要求新気量に向けて減少する新気量に合わせて、λ=1となるように、燃料噴射量が設定される。すなわち、図6(a)に示すように、リーン燃焼から触媒活性燃焼へと切り替わることに伴い、混合気の空燃比A/Fは、リーンな状態から、理論空燃比(λ=1)へと変更される。前述の通り、リーン燃焼時には、シリンダ11内に大量の新気が導入されていた一方で、新気量は急激に減少させることはできないため、切り替え直後は、図6(e)に白抜きの矢印で示すように、比較的多いままの新気量に合わせて、燃料噴射量は不連続的に増大する。そしてその後、シリンダ11内に導入される新気量が減少するに従って、燃料噴射量も次第に減少する。
ステップS10では、要求新気量に向けて減少する新気量に合わせて、燃料の噴射タイミングが設定される。つまり、領域(2)でのリーン燃焼時には、燃料の噴射タイミングが相対的に早いタイミングに設定されていたところ、前述の通り、リーン燃焼から触媒活性燃焼への切り替えに伴い、燃料噴射量は、大幅に増大するため、燃焼騒音の急増を回避するために、燃料の噴射タイミングは、図6(f)に示すように、遅角側に、不連続的に変更する。つまり、燃料の噴射タイミングを遅らせ、それによって点火時期を遅らせることにより、圧力上昇率(dP/dθ)が大きくなることを抑制する。そしてその後、燃料噴射量が次第に減少するに従って、噴射タイミングも次第に進角させる。尚、ステップS10では、新気量に基づいて燃料の噴射タイミングを制御しているが、燃料噴射量に基づいて燃料の噴射タイミングを制御するようにしてもよい。
続くステップS11では、燃焼騒音の判断を行う。つまり、圧力上昇率dP/dθが所定値以下であるか否かを判断し、圧力上昇率が所定値以下であるとき(つまり、OKのとき)には、燃焼騒音が許容値以下であるとして、ステップS12に移行する一方、圧力上昇率が所定値を超えているとき(つまり、NGのとき)には、燃焼騒音を下げるべく、ステップS10に戻り、噴射タイミングをさらに遅角させる。こうして、ステップS10、S11において、燃焼騒音が許容値以下となるように、燃料の噴射タイミングを調整する。
ステップS12では、エンジン1の回転変動の判断を行う。これは、燃焼の安定化の判断であり、燃焼変動が所定値以下であれば、燃焼が安定している(つまりOK)として、ステップS14に移行する一方、燃焼変動が所定値を超えていれば、燃焼が不安定である(つまりNG)として、ステップS13に移行する。前述の通り、リーン燃焼から触媒活性燃焼への切り替え直後に、燃料噴射タイミングを、大幅に遅らせたようなときには、圧縮上死点以降に燃焼が開始することで燃焼が不安定になりやすく、そうした場合は、図6(g)に破線で示すように、圧縮上死点以降において、点火アシストを実行する。こうした点火アシストは、燃焼を安定化させ、燃焼変動(エンジンの回転変動)を抑制する上で、有効である。点火アシストタイミングは、燃料噴射タイミングに応じて(言い換えると着火のタイミングに応じて)設定され、燃料噴射タイミングが進角するに従って、点火アシストタイミングも進角する。
そうしてステップS14では、現在の新気量が、ステップS7で設定した要求新気量になったか否かを判定し、要求新気量まで減少していないとき(つまり、NOのとき)にはステップS9に戻って、新気量の減少、EGR量の減少、並びに、それに応じた燃料噴射量及び噴射タイミングの制御を継続する。一方、ステップS14において、新気量が要求新気量にまで減少したときには、ステップS15に移行し、触媒活性燃焼への移行が完了したとして、フローは終了する。尚、ステップS14では、新気量に基づく判定を行っているが、例えば現在の噴射量が、ステップS7で設定した要求噴射量になったか否かを判定してもよい。
こうして移行した触媒活性燃焼では、エンジン1の回転数及び負荷が同じであっても、リーン燃焼時に比べて新気量及びEGR量が減少すると共に(図6(b)(c)参照)、噴射タイミングが遅角側になる(図6(f))。これにより、触媒活性燃焼では、前述したように、燃焼室17内の中央部にA/F=12.5〜15.0の混合気が形成される一方、その外周部に、燃焼には寄与しないガス層が形成され、略λ=1混合気が圧縮自着火により燃焼することになる。
尚、触媒活性燃焼への移行完了後は、例えば図5のフローのステップS1に戻ることになり、触媒が活性化するまで、例えば触媒コンバータ191前後の温度差がΔT1以下になるまで、触媒活性燃焼を継続し、温度差がΔT1以下になれば、触媒活性燃焼を中止して、通常の制御に復帰すればよい。
次に、触媒活性燃焼の利点について、図7、8を参照しながら説明する。つまり、触媒の活性化を図る上では、前述したような触媒活性燃焼以外にも、シリンダ11内に均質なλ=1の混合気を形成し、それを火花点火によって燃焼させること(以下、このような燃焼をλ=1SI燃焼と呼ぶ)も考えられる。触媒活性燃焼は、こうしたλ=1SI燃焼と比較して、リーン燃焼から触媒活性燃焼への移行期間が短く、かつ、触媒活性燃焼への移行後は、排気の熱流束が高くて触媒の活性化に有利であるという、利点がある。
図7は、リーン燃焼から触媒活性燃焼への移行時(同図の実線参照)と、リーン燃焼からλ=1SI燃焼への移行時(同図の一点鎖線参照)との各パラメーターの変化を示している。また、図8は、横軸に空燃比A/F、縦軸にEGR量をとった、シリンダ11内の状態を示している。同図における「CI」は、圧縮自着火燃焼を行う領域、「弱成層λ=1SI」は、点火プラグ31の周りに相対的にリッチな混合気を形成して、火花点火を行う領域、「均質λ=1SI」は、シリンダ11内に均質なλ=1の混合気を形成して、火花点火を行う領域である。
先ず、図7(a)の混合気A/Fの変化を示す実線と、同図(b)のEGR量の変化を示す実線は、図6(a)及び(c)と同じである。前述したように、リーン燃焼から触媒活性燃焼への移行時には、空燃比A/Fをリーンから理論空燃比(A/F=12.5〜15.0)に直ちに切り替える。これは、図8においては、白丸で示す(1)の状態から、同じく白丸で示す(2)の状態へと移行することに対応する。その後、新気量及びEGR量を次第に減少させながら、それに応じて燃料噴射量を減少させていく。こうして、図8における(2)の状態から、黒丸で示す(3)の状態へと移行をする。この(3)の状態が、触媒活性燃焼の状態に相当する。
これに対し、リーン燃焼、つまり、リーン混合気のCI燃焼から均質λ=1SI燃焼への移行時には、CI燃焼のままで、EGR量を減少させながら、そのEGRの減少分に合わせて、A/Fを次第にリッチへと変更していく(図7(a)(b)の二点鎖線参照)。これは、図8においては、(1)の状態から、(2)’の状態へと移行することに相当する。
そうして、図7(b)に示すように、時刻t1’において、弱成層λ=1SI燃焼が可能となるEGR量にまで、EGR量が減少すれば、リーンCI燃焼から均質λ=1SI燃焼へと切り替える。従って、図7(a)に示すように、空燃比A/Fは、理論空燃比(λ=1)に変更される。この切り替えは、図8においては、(2)’の状態から、(3)’の状態へと移行することに相当し(同図の白抜きの矢印参照)、これは、EGR量を変えずに、NOxが発生し得る空燃比領域を越えて、弱成層λ=1に変更することになる。
時刻t1’後も、図7(b)に一点鎖線で示すように、EGR量を減少させていき、シリンダ11内に導入されるEGR量が、均質λ=1SI燃焼が可能となる上限値を下回れば(時刻t3)、均質λ=1SI燃焼に切り替える。これは、図8においては、(3)’の状態から(4)の状態への移行に相当する。
このように、均質λ=1SI燃焼は、それが可能となるEGR量の上限値が、触媒活性燃焼が可能なEGR量と比較して、大幅に低い(図8の(3)と(4)とを参照)。つまり、均質λ=1SI燃焼におけるEGR量の上限値は、均質λ=1SI燃焼が失火しない限度で設定されるのに対し、触媒活性燃焼は、燃焼に寄与しないガス層を形成するため、相対的に多量のEGRガスを許容し得る。燃焼形態の切り替えに要する時間は、EGR量の減少幅に対応するから、リーン燃焼から触媒活性燃焼への移行は、時刻t1からt2までで完了する一方、リーン燃焼から均質λ=1SI燃焼への移行は、時刻t1からt3(>t2)まで必要となる。
また、リーン燃焼から均質λ=1SI燃焼への切り替え時には、前述の通り、空燃比A/Fをリッチ化しながらCI燃焼を継続し、その後、弱成層λ=1のSI燃焼に切り替え、そうして、均質λ=1SI燃焼へと切り替わるようになり、この切り替え途中の燃費及び排気エミッション特性はそれぞれ悪化する。従って、リーン燃焼から均質λ=1SI燃焼への切り替え時には、燃費及び排気エミッション特性が悪化してしまう燃焼切り替え期間が、比較的長くなるという不都合があるのに対し、リーン燃焼から触媒活性燃焼への切り替えは、そうした切り替え期間を短縮することが可能である。
さらに、触媒活性燃焼は、前述の通り、燃焼室17の外周部に、燃焼に寄与しないガス層を形成しており、これにより、図7(c)に示すように、シリンダ11内のガス量は、均質λ=1SI燃焼と比較して多くなる(同図の白抜きの矢印参照)。また、ガス層は、前述の通り、燃焼ガスと燃焼室17の壁面との接触を抑制するから、均質λ=1SI燃焼と比較して、冷却損失が大幅に低減する(同図の白抜きの矢印参照)。その結果、触媒活性燃焼時の排気温度は、燃費を悪化させることなく、均質λ=1SI燃焼時の排気温度と比較して高くなる(同図の白抜きの矢印参照)。こうして、シリンダ11内のガス量が増えることと、排気温度が高まることとが組み合わさって、触媒活性燃焼時は、排気の熱流束が高まり、触媒の温度を速やかに上昇させることが可能になる。その結果、触媒の活性状態を効率的に維持することが実現する。
尚、ここに開示する技術は、前述したような、燃焼室17の断熱構造を有する高圧縮比のエンジン1への適用に限定されるものではなく、例えば燃焼室17の断熱構造は省略してもよい。
また、ここでは、全運転領域において、燃焼室17の外周部にガス層を形成するように構成されたエンジン1を対象としているが、そうしたガス層を形成しない燃焼を行うエンジンに、ここに開示する技術を適用することも可能である。つまり、触媒活性燃焼を行う場合においてのみ、前述したように、燃料の噴射タイミングを圧縮行程後期から膨張行程初期にかけての期間内に設定して、燃焼室17の外周部に燃焼に寄与しないガス層を形成しつつ、中央部においては、空燃比A/Fが12.5〜15.0の混合気を形成し、その略λ=1混合気を燃焼させるようにしてもよい。