本発明の繊維強化複合体の製造方法は、発泡成形体の表面に強化繊維を積層して積層体を製造する積層工程と、上記積層体の上記強化繊維に合成樹脂を供給し上記強化繊維に上記合成樹脂を含浸させる含浸工程と、上記合成樹脂を固化又は硬化させることによって、上記合成樹脂が含浸された上記強化繊維を繊維強化プラスチック層とし、この繊維強化プラスチック層を上記発泡成形体の表面に積層一体化させる一体化工程とを含む繊維強化複合体の製造方法であって、上記含浸工程にて、上記発泡成形体の表面方向における上記強化繊維の移動量が0.05〜10%であることを特徴とする。
繊維強化複合体の製造方法に用いられる発泡成形体1の形態は、図1に示したようなシート状に限定されず、任意の所望形状であってよい。
発泡成形体1を構成している合成樹脂としては、特に限定されず、例えば、ポリカーボネート樹脂、アクリル系樹脂、熱可塑性ポリエステル樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリメタクリルイミド樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂などの熱可塑性樹脂が挙げられ、繊維強化プラスチック層に含浸されている熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂との接着性に優れていることから、熱可塑性ポリエステル樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリル系樹脂及びポリフェニレンエーテル系樹脂が好ましく、熱可塑性ポリエステル樹脂、アクリル系樹脂がより好ましい。なお、合成樹脂は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
熱可塑性ポリエステル樹脂は、ジカルボン酸と二価アルコールとが、縮合反応を行った結果得られた高分子量の線状ポリエステルである。熱可塑性ポリエステル樹脂としては、例えば、芳香族ポリエステル樹脂、脂肪族ポリエステル樹脂が挙げられる。
芳香族ポリエステル樹脂とは、芳香族ジカルボン酸単位とジオール単位とを含むポリエステルであり、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレートなどが挙げられ、ポリエチレンテレフタレートが好ましい。ポリエチレンテレフタレートは、そのジオール単位の一部に1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオールなどを含有させて変性させてもよい。なお、芳香族ポリエステル樹脂は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
なお、芳香族ポリエステル樹脂は、芳香族ジカルボン酸単位及びジオール単位以外に、例えば、トリメリット酸などのトリカルボン酸、ピロメリット酸などのテトラカルボン酸などの三価以上の多価カルボン酸やその無水物、グリセリンなどのトリオール、ペンタエリスリトールなどのテトラオールなどの三価以上の多価アルコールなどを構成単位として含有していてもよい。
又、芳香族ポリエステル樹脂は、使用済のペットボトルなどから回収、再生したリサイクル材料を用いることもできる。
ポリエチレンテレフタレートは架橋剤によって架橋されていてもよい。架橋剤としては、公知のものが用いられ、例えば、無水ピロメリット酸などの酸二無水物、多官能エポキシ化合物、オキサゾリン化合物、オキサジン化合物などが挙げられる。なお、架橋剤は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
ポリエチレンテレフタレートを架橋剤によって架橋する場合には、押出機にポリエチレンテレフタレートと共に架橋剤を供給すればよい。押出機に供給する架橋剤の量は、少なすぎると、ポリエチレンテレフタレートの溶融時の溶融粘度が小さくなりすぎて、破泡してしまうことがあり、多すぎると、ポリエチレンテレフタレートの溶融時の溶融粘度が大きくなりすぎて、発泡成形体を押出発泡によって製造する場合には押出発泡が困難となることがあるので、ポリエチレンテレフタレート100重量部に対して0.01〜5重量部が好ましく、0.1〜1重量部がより好ましい。
脂肪族ポリエステル樹脂としては、例えば、ポリ乳酸系樹脂が挙げられる。ポリ乳酸系樹脂としては、乳酸がエステル結合により重合した樹脂を用いることができ、商業的な入手容易性及びポリ乳酸系樹脂発泡粒子への発泡性付与の観点から、D−乳酸(D体)及びL−乳酸(L体)の共重合体、D−乳酸又はL−乳酸のいずれか一方の単独重合体、D−ラクチド、L−ラクチド及びDL−ラクチドからなる群から選択される1又は2以上のラクチドの開環重合体が好ましい。なお、ポリ乳酸系樹脂は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
ポリフェニレンエーテル系樹脂としては、例えば、ポリフェニレンエーテルとポリスチレン系樹脂との混合物、ポリフェニレンエーテルにスチレン系モノマーをグラフト共重合してなる変性ポリフェニレンエーテル、この変性ポリフェニレンエーテルとポリスチレン系樹脂との混合物、フェノール系モノマーとスチレン系モノマーとを銅(II) のアミン錯体などの触媒存在下で酸化重合させて得られるブロック共重合体、このブロック共重合体とポリスチレン系樹脂との混合物などが挙げられる。なお、ポリフェニレンエーテル系樹脂は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
ポリフェニレンエーテル系樹脂としては、例えば、ポリ(2、6−ジメチルフェニレン−1、4−エーテル)、ポリ(2、6−ジエチルフェニレン−1、4−エーテル)、ポリ(2、6−ジクロロフェニレン−1、4−エーテル)、ポリ(2、6−ジブロモフェニレン−1、4−エーテル)、ポリ(2−メチル−6−エチルフェニレン−1、4−エーテル)、ポリ(2−クロロ−6−メチルフェニレン−1、4−エーテル)、ポリ(2−メチル−6−イソプロピルフェニレン−1、4−エーテル)、ポリ(2、6−ジ−n−プロピルフェニレン−1、4−エーテル)、ポリ(2−ブロモ−6−メチルフェニレン−1、4−エーテル)、ポリ(2−クロロ−6−ブロモフェニレン−1、4−エーテル)、ポリ(2−クロロ−6−エチルフェニレン−1、4−エーテル)などが挙げられる。ポリフェニレンエーテル系樹脂の重合度は、通常、10〜5000のものが用いられる。
アクリル系樹脂は、(メタ)アクリル系モノマーを重合させることによって製造される。なお、(メタ)アクリルとは、アクリル又はメタクリルの何れか一方又は双方を意味する。
(メタ)アクリル系モノマーとしては、特に限定されず、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリルアミドなどが挙げられる。
又、アクリル系樹脂は、上記(メタ)アクリル系モノマー以外にこれと共重合可能なモノマー単位を含有していてもよい。このようなモノマーとしては、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、無水イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸アミド、マレイン酸イミドなどが挙げられる。
ポリスチレン系樹脂としては、特に限定されず、例えば、スチレン、メチルスチレン、エチルスチレン、i−プロピルスチレン、ジメチルスチレン、クロロスチレン、ブロモスチレンなどのスチレン系モノマーをモノマー単位として含む単独重合体又は共重合体、スチレン系モノマーと、このスチレン系モノマーと共重合可能な一種又は二種以上のビニルモノマーとをモノマー単位として含む共重合体などが挙げられ、スチレン系モノマーと、このスチレン系モノマーと共重合可能な一種又は二種以上のビニルモノマーとをモノマー単位として含む共重合体が好ましく、メタクリル酸及び/又はメタクリル酸メチルと、スチレン系モノマーとをモノマー単位として含む共重合体がより好ましい。なお、ポリスチレン系樹脂は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
スチレン系モノマーと共重合可能なビニルモノマーとしては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル(アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチルなど)、メタクリル酸エステル(メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチルなど)などのアクリル系モノマー、無水マレイン酸、アクリルアミドなどが挙げられ、アクリル系モノマーが好ましく、メタクリル酸、メタクリル酸メチルを含むことがより好ましく、メタクリル酸、メタクリル酸メチルが特に好ましい。
発泡成形体1の製造方法としては、特に限定されず、例えば、(1)再発泡性を有する発泡粒子を金型内に充填し、熱水や水蒸気などの熱媒体によって発泡粒子を加熱して再発泡させ、発泡粒子の発泡圧によって発泡粒子同士を融着一体化させて所望形状を有する発泡成形体を製造する方法(型内発泡成形法)、(2)熱可塑性樹脂を押出機に供給して物理発泡剤の存在下にて溶融混練し、押出機に取り付けたダイから押出発泡させて発泡成形体を製造する方法(押出発泡成形法)などが挙げられ、所望形状を有する発泡成形体を製造することができるので、型内発泡成形法が好ましい。
なお、物理発泡剤としては、例えば、プロパン、ノルマルブタン、イソブタン、ノルマルペンタン、イソペンタン、ヘキサンなどの飽和脂肪族炭化水素、ジメチルエーテルなどのエーテル類、塩化メチル、1,1,1,2−テトラフルオロエタン、1,1−ジフルオロエタン、モノクロロジフルオロメタンなどのフロン、二酸化炭素、窒素などが挙げられ、ジメチルエーテル、プロパン、ノルマルブタン、イソブタン、二酸化炭素が好ましく、プロパン、ノルマルブタン、イソブタンがより好ましく、ノルマルブタン、イソブタンが特に好ましい。なお、物理発泡剤は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
得られた発泡成形体を熟成させて発泡成形体中に含有されている発泡剤の量を低減させてもよい(熟成工程)。熟成工程において、発泡成形体を熟成させる際の雰囲気温度は、低すぎると、発泡成形体中に含有されている発泡剤の量を低減させることができないことがあり、高すぎると、発泡成形体に変形を生じて、得られる繊維強化複合体の外観が低下することがあるので、40〜80℃が好ましく、50〜70℃がより好ましい。
熟成工程において、発泡成形体を熟成させる時間は、短すぎると、発泡成形体中に含有されている発泡剤の量を低減させることができないことがあり、長すぎると、発泡成形体の熟成温度によっては発泡成形体に変形を生じて、得られる繊維強化複合体の外観が低下することがあるので、48〜216時間が好ましく、72〜168時間がより好ましい。
発泡成形体中の残存発泡剤量は、後述する含浸工程において発泡成形体を適度に寸法変化させて、強化繊維の配向性を向上させ又は強化繊維の自由な動きを助長して強化繊維中への合成樹脂の含浸を均一且つ十分なものとし、得られる繊維強化プラスチック層の機械的強度を向上させることができるので、0.05〜1.0重量%が好ましい。
発泡成形体中の残存発泡剤量は下記の要領で測定される。発泡成形体全体の重量W1を測定する。発泡成形体中の残存発泡剤量はガスクロマトグラフを用いて測定することができ、例えば、下記装置を用いて下記条件にて発泡成形体中の残存発泡剤量を測定することができる。
発泡成形体の試料10〜30mgを20mLバイアル瓶に入れて精秤し、バイアル瓶を密閉してオートサンプラー付ガスクロマトグラフにセットし、バイアル瓶を210℃で20分間に亘って加熱した後、バイアル瓶の上部空間の気体をMHE(Multiple Headspace Extraction)法にて定量分析し、発泡成形体中の含有ガス量W2を測定する。
ここでいうMHE法とは、気固平衡にある気相ガスの放出を繰り返すことで得られるピーク面積の減衰を利用する定量方法である。
〔GC測定条件〕
測定装置:ガスクロマトグラフ Clarus500(Perkin-Elmer社製)
カラム:DB−1(1.0μm×0.25mmφ×60m:J&W社製)
検出器:FID
GCオーブン昇温条件:初期温度50℃(6分)
昇温速度:40℃/分(250℃まで)
最終温度:250℃(1.5分)
キャリアーガス(He),注入口温度:230℃,検出温度:310℃
レンジ:20
ベントガス 30mL/分(He)、追加ガス 5mL/分(He)
ガス圧力:初期圧力18psi(10分)、昇圧速度:0.5psi/min(24psiまで)
〔HS測定条件〕
測定装置:HSオートサンプラー TurboMatrix HS40(Perkin-Elmer社製)
加熱温度:210℃,加熱時間:20分,加圧ガス圧:25psi,加圧時間:1分
ニードル温度:210℃,トランスファーライン温度:210℃,試料導入時間:0.08分
〔算出条件〕
検量線用標準ガス:混合ガス(ジーエルサイエンス社製)
混合ガス含有量:i-ブタン 約1重量%,n-ブタン 約1重量%,バランス 窒素
算出方法:MHE法により試料の含有ガス量を算出した。結果は全てi-ブタン換算量とした。
発泡成形体中における残存発泡剤量は下記式に基づいて算出することできる。
発泡成形体中における残存発泡剤量(重量%)=100×W2/W1
発泡成形体の表面層の結晶化度は、低すぎると、含浸工程において、発泡成形体が合成樹脂の熱によって変形を生じて、得られる繊維強化複合体の外観が低下することがあり、高すぎると、繊維強化プラスチック層と発泡成形体との一体化が不十分となって機械的強度が低下することがあるので、5〜40%が好ましく、10〜30%がより好ましい。
発泡成形体の表面層とは、発泡成形体の表面と、この表面に対して直交する方向に発泡成形体のその方向における厚みの5%に相当する寸法だけ内側に入った部分との間に存在する発泡成形体部分をいう。
なお、発泡成形体の表面層の結晶化度は、JIS K7122:1987「プラスチックの転移熱測定方法」に記載されている方法で測定する。
具体的には、示差走査熱量計装置(エスアイアイナノテクノロジー社製 商品名「DSC6220型」)を用い、アルミニウム製の測定容器の底に隙間のないように、発泡成形体の表面層から切り出した好ましくは直方体形状の試料を約6mg充填して、試料を窒素ガス流量30mL/分の条件下にて30℃で2分間に亘って保持する。
しかる後、試料を速度10℃/分で30℃から290℃まで昇温した時のDSC曲線を得る。その時の基準物質はアルミナを用いた。発泡成形体の表面層の結晶化度は、融解ピークの面積から求められる融解熱量(mJ/mg)と結晶化ピークの面積から求められる結晶化熱量(mJ/mg)の差を合成樹脂の完全結晶の理論融解熱量ΔH0で徐して求められる割合である。例えば、ポリエチレンテレフタレートのΔH0は140.1mJ/mgである。発泡成形体の表面層の結晶化度は下記式に基づいて算出される。
発泡成形体の表面層の結晶化度(%)
=100×(│融解熱量(mJ/mg)│−│結晶化熱量(mJ/mg)│)/ΔH0(mJ/mg)
別に4個の発泡成形体を更に用意し、それぞれの発泡成形体の表面層の結晶化度を上述と同様の要領で測定し、5個の発泡成形体のそれぞれの表面層の結晶化度の相加平均値を発泡成形体の表面層の結晶化度とする。
型内発泡成形法で用いられる再発泡性を有する発泡粒子の製造方法としては、(1)合成樹脂を押出機内に供給して物理発泡剤の存在下にて溶融混練して押出機に取り付けたノズル金型から合成樹脂押出物を押出発泡させながら切断した後に冷却して発泡粒子を製造する方法、(2)合成樹脂を押出機内に供給して物理発泡剤の存在下にて溶融混練して押出機に取り付けたノズル金型から押出発泡してストランド状の合成樹脂押出物を製造し、この合成樹脂押出物を所定間隔毎に切断して合成樹脂発泡粒子を製造する方法、(3)合成樹脂を押出機内に供給して物理発泡剤の存在下にて溶融混練して押出機に取り付けた環状ダイ又はTダイから押出発泡して発泡体を製造し、この発泡体を切断することによって合成樹脂発泡粒子を製造する方法などが挙げられる。
発泡成形体は、後述する含浸工程において、適度に寸法変化することが好ましく、具体的には、発泡成形体における100℃、0.1MPaの減圧下での寸法変化率は−2〜10%が好ましく、−1.5〜5%がより好ましい。含浸工程中に発泡成形体が適度に寸法変化することによって、強化繊維の配向性を向上させ又は強化繊維の自由な動きを助長して強化繊維中への合成樹脂の含浸を均一且つ十分なものとし、得られる繊維強化プラスチック層の機械的強度を向上させることができる。発泡成形体の上記寸法変化率は、例えば、上述した熟成工程における雰囲気温度又は熟成時間を調整し、発泡成形体に含まれている発泡剤量を調整することによって制御することができる。
なお、発泡成形体における100℃、0.1MPaの減圧下での寸法変化率は下記の要領で測定された値をいう。発泡成形体から縦40mm×横40mm×厚み30mmの直方体形状の試験片を切り出し、試験片を23℃、相対湿度60%にて24時間に亘って静置する。この試験片の厚みを任意の三カ所において測定し、これらの三カ所の厚みの相加平均値を試験片の「加熱前寸法」とする。
次に、試験片を100℃に保持されたオーブン内に供給した後、オーブン内を0.1MPaの減圧状態とした上で試験片をオーブン内に15分間に亘って放置した。しかる後、試験片をオーブンから取り出して常圧下、23℃、相対湿度60%にて1時間に亘って放置した。試験片の厚みを加熱前に測定した同一の三カ所において測定し、これらの三カ所の厚みの相加平均値を試験片の「加熱後寸法」とする。寸法変化率を下記式に基づいて算出する。寸法変化率が負の値となった場合には試験片は収縮している。寸法変化率が正の値となった場合には試験片は膨張している。なお、オーブンとしては、TABAI ESPEC CORP社から商品名「LHV−112」にて市販されている真空オーブンを用いることができる。
寸法変化率(%)=100×(加熱後寸法−加熱前寸法)/加熱前寸法
発泡成形体1の見掛け密度は、0.05〜1.2g/cm3が好ましく、0.08〜0.9g/cm3がより好ましい。発泡成形体1の見掛け密度は、低すぎると、繊維強化複合体の機械的強度が低下することがある。発泡成形体1の見掛け密度は、高すぎると、繊維強化複合体の軽量性が低下することがある。なお、発泡成形体の見掛け密度は、JIS K7222「発泡プラスチック及びゴム−見掛け密度の測定」に準拠して測定された値をいう。繊維強化複合体Bの発泡成形体1の見掛け密度の測定は、繊維強化複合体Bから繊維強化プラスチック層4を剥離した後の発泡成形体に基づいて行う。
発泡成形体1の表面凹凸度合いは、大きすぎると、繊維強化複合体の外観が低下することがあるので、0.4mm以下が好ましく、0.3mm以下がより好ましい。なお、発泡成形体1の表面凹凸度合いは、発泡成形体を切断し、その切断面を走査型電子顕微鏡を用いて200倍にて撮影する。拡大写真に表れた凹凸の凹部の深さ(凹部の最も低い部分とこの凹部に隣接する凸部の頂点との差)の最大値を発泡成形体の表面凹凸度合いとする。又、発泡成形体1の表面に後述する溝部が形成されている場合には、発泡成形体の表面凹凸度合いを測定するにあたって溝部は除外する。
上記発泡成形体1の少なくとも一つの表面に強化繊維2を積層して積層体Aを製造する(積層工程)。発泡成形体1が発泡シートである場合、図1のように、発泡成形体1の両面に強化繊維が積層される必要はなく、発泡成形体1の両面のうち少なくとも一方の面に強化繊維が積層されればよい。強化繊維の積層は、繊維強化複合体の用途に応じて適宜、決定すればよい。なかでも、繊維強化複合体の表面硬度や機械的強度を考慮すると、発泡成形体1の厚み方向における両面のそれぞれに強化繊維を積層することが好ましい。
強化繊維としては、ガラス繊維、炭素繊維、炭化ケイ素繊維、アルミナ繊維、チラノ繊維、玄武岩繊維、セラミックス繊維などの無機繊維;ステンレス繊維やスチール繊維などの金属繊維;アラミド繊維、ポリエチレン繊維、ポリパラフェニレンベンズオキサドール(PBO)繊維などの有機繊維;ボロン繊維などが挙げられる。強化繊維は、一種単独で用いられてもよく、二種以上が併用されてもよい。なかでも、炭素繊維、ガラス繊維及びアラミド繊維が好ましく、炭素繊維がより好ましい。これらの強化繊維は、軽量であるにも関わらず優れた機械的強度を有している。
強化繊維は、所望の形状に加工された強化繊維基材として用いられることが好ましい。強化繊維基材としては、強化繊維を用いてなる織物、編物、不織布、及び強化繊維を一方向に引き揃えた繊維束(ストランド)を糸で結束(縫合)してなる面材などが挙げられる。織物の織り方としては、平織、綾織、朱子織などが挙げられる。また、糸としては、ポリアミド樹脂糸やポリエステル樹脂糸などの合成樹脂糸、及びガラス繊維糸などのステッチ糸が挙げられる。強化繊維基材としては、例えば、三菱レイヨン社から商品名「パイロフィル」にて市販されているものを用いることができる。
強化繊維基材は、一枚の強化繊維基材のみを積層せずに用いてもよく、複数枚の強化繊維基材を積層して積層強化繊維基材として用いてもよい。複数枚の強化繊維基材を積層した積層強化繊維基材としては、(1)一種のみの強化繊維基材を複数枚用意し、これらの強化繊維基材を積層した積層強化繊維基材、(2)複数種の強化繊維基材を用意し、これらの強化繊維基材を積層した積層強化繊維基材、(3)強化繊維を一方向に引き揃えた繊維束(ストランド)を糸で結束(縫合)してなる強化繊維基材を複数枚用意し、これらの強化繊維基材を繊維束の繊維方向が互いに相違した方向を指向するように重ね合わせ、重ね合わせた強化繊維基材同士を糸で一体化(縫合)してなる積層強化繊維基材などが用いられる。なお、糸としては、ポリアミド樹脂糸やポリエステル樹脂糸などの合成樹脂糸、及びガラス繊維糸などのステッチ糸が挙げられる。
強化繊維2の厚みは、0.02〜2mmが好ましく、0.05〜1mmがより好ましい。厚みが上記範囲内である強化繊維を用いることによって、得られる繊維強化プラスチック層は、軽量であるにも関わらず機械的強度に優れている。
強化繊維2の目付は、50〜4000g/m2が好ましく、100〜1000g/m2がより好ましい。目付が上記範囲内である強化繊維を用いることによって、得られる繊維強化プラスチック層は、軽量であるにも関わらず機械的強度に優れている。
後述する含浸工程前において、発泡成形体1と、この発泡成形体1の表面に積層された強化繊維2は仮固定されていることが好ましい。強化繊維に合成樹脂が含浸される前は、発泡成形体1と強化繊維2とが仮固定されており、強化繊維に含浸された合成樹脂によって、発泡成形体1と強化繊維2との仮固定が解除されることが好ましい。強化繊維に合成樹脂を含浸させる含浸工程の初期においては、強化繊維中に合成樹脂を含浸させる時の抵抗が比較的大きいため、強化繊維全体が発泡成形体の表面において動き易い。従って、強化繊維中に合成樹脂を含浸させる途上において、強化繊維に皺などを発生させることなく発泡成形体の所望個所に強化繊維を配設するために、強化繊維を発泡成形体の表面に仮固定しておくことが好ましい。強化繊維中に合成樹脂を含浸させる工程が進行していくにつれて、強化繊維と合成樹脂とが馴染み、強化繊維中に合成樹脂を含浸させる時の抵抗も徐々に低減するため、強化繊維を発泡成形体の表面に固定しておく必要はなく、強化繊維中への合成樹脂の含浸工程の初期を除いた工程においては、強化繊維と発泡成形体との仮固定を解除して後述するように強化繊維の自由な動きを確保することがむしろ好ましい。
なお、強化繊維として積層強化繊維基材を用いる場合には、強化繊維基材同士も上述と同様の理由により、仮固定されていることが好ましい。
強化繊維と発泡成形体との仮固定、強化繊維基材同士の仮固定は、強化繊維に含浸される後述する合成樹脂と同様の合成樹脂又は汎用の糊を仮固定剤として用いればよい。但し、仮固定剤は、強化繊維に含浸される溶融状態の合成樹脂と接触すると、溶融するなどして固定力を消失する必要がある。
強化繊維が発泡成形体の表面に仮固定されている場合の仮固定力は、小さすぎると、強化繊維に合成樹脂を含浸させる工程において、強化繊維が発泡成形体の表面の所望位置から移動し、又は、強化繊維に皺が発生する虞れがあり、大きすぎると、含浸工程において、強化繊維が発泡成形体の表面に固定された状態が不測に維持されることによって強化繊維の自由な動きが阻害され、その結果、強化繊維中への合成樹脂の含浸が円滑に行われず、得られる繊維強化プラスチック層と発泡成形体との一体化が不十分となる虞れ、繊維強化プラスチック層中に気泡が発生する虞れ、又は、繊維強化プラスチック層に皺が発生して繊維強化複合体の外観が低下する虞れがあるので、1〜30N/cm2が好ましく、1〜20N/cm2がより好ましく、1〜10N/cm2が特に好ましく、1〜5N/cm2が最も好ましい。
なお、発泡成形体の表面への強化繊維の仮固定力は、JIS K6850(1999)に準拠して、積層体から切り出したものを試験片とし、試験速度10mm/分にて測定されたせん断引張力をいう。発泡成形体の表面への強化繊維の仮固定力は、例えば、小型卓上試験機(日本電産シンポ社製 商品名「FGS−1000TV/1000N+FGP−100」)を用いて測定することができる。
又、強化繊維として、強化繊維基材が複数枚、積層されてなる積層強化繊維基材を用いる場合、強化繊維基材同士の仮固定力は、小さすぎると、強化繊維に合成樹脂を含浸させる工程において、強化繊維基材が発泡成形体の表面の所望位置から移動し、又は、強化繊維基材に皺が発生する虞れがあり、大きすぎると、含浸工程において、強化繊維基材の強化繊維の自由な動きが阻害され、その結果、強化繊維基材中への合成樹脂の含浸が円滑に行われず、得られる繊維強化プラスチック層と発泡成形体との一体化が不十分となる虞れ、繊維強化プラスチック層中に気泡が発生する虞れ、又は、繊維強化プラスチック層に皺が発生して繊維強化複合体の外観が低下する虞れがあるので、1〜30N/cm2が好ましく、1〜20N/cm2がより好ましい。
なお、強化繊維基材同士の仮固定力は、JIS K6850(1999)に準拠して、積層強化繊維基材から切り出したものを試験片としたこと以外は、発泡成形体の表面への強化繊維の仮固定力と同様の要領で測定された値をいう。
次に、図1に示したように、積層体Aを雌雄金型31、32内に供給した後に雌雄金型31、32を型締めする。しかる後、雌雄金型31、32のキャビティ33内に樹脂供給路(図示せず)を通じて溶融状態の合成樹脂を供給して、強化繊維2に全体的に合成樹脂を含浸させると共に、強化繊維2と発泡成形体1との界面にも合成樹脂を全面的に行き渡らせる(含浸工程)。雌雄金型31、32のキャビティ33内に合成樹脂を供給するに際して、合成樹脂を雌雄金型31、32のキャビティ33内に圧入しても、又は、合成樹脂を雌雄金型31、32のキャビティ33内に大気圧下にて供給してもよいが、強化繊維に合成樹脂をより均一に含浸させ、得られる繊維強化プラスチック層をより強固に発泡成形体に積層一体化することができるので、合成樹脂を雌雄金型31、32のキャビティ33内に圧入することが好ましい。
発泡成形体1の表面に樹脂流通用の溝部を形成しておくことによって、強化繊維に含浸され、強化繊維2と発泡成形体1との界面に到達した合成樹脂を樹脂流通用の溝部を通じて、強化繊維2と発泡成形体1との界面に全体的に短時間のうちに行き渡らせることができ、繊維強化複合体を短時間で製造することができると共に、得られる繊維強化プラスチック層と発泡成形体とをより強固に一体化することができる。
樹脂流通用の溝部は、例えば、発泡成形体の表面に所定間隔を存して複数個、並列させて形成されればよい。樹脂流通用の溝部の幅は、狭すぎると、合成樹脂が円滑に流通しないことがあり、広すぎると、強化繊維と発泡成形体との一体化が阻害される虞れがあるので、0.5〜5mmが好ましく、1〜3mmがより好ましい。樹脂流通用の溝部の幅とは、溝部の開口端の幅をいう。
樹脂流通用の溝部の深さは、深すぎると、強化繊維が樹脂流通用の溝部に脱落し、強化繊維への合成樹脂の含浸が不均一となって、得られる繊維強化プラスチック層の機械的強度が低下することがあり、又は、強化繊維が樹脂流通用の溝部に脱落することによって、得られる繊維強化プラスチック層の外観が低下することがあるので、0.5〜10mmが好ましく、1〜5mmがより好ましい。
樹脂流通用の溝部同士の間隔(ピッチ)は、小さすぎると、多くの合成樹脂が溝部に含浸されてしまい軽量性が失われることがあり、大きすぎると、合成樹脂が円滑に流通しないことがあるので、2〜50mmが好ましく、3〜30mmがより好ましい。
含浸工程において、強化繊維2に合成樹脂を含浸させているが、この含浸中に強化繊維2が所定範囲内において移動するように調整している。強化繊維への合成樹脂の含浸中に強化繊維を所定範囲内において移動させることによって、強化繊維中への合成樹脂の含浸が略均一に且つ円滑に行われると共に、強化繊維中に含まれている空気が合成樹脂の強化繊維への含浸に伴って円滑に除去され、強化繊維が合成樹脂によって強固に結着一体化され、得られる繊維強化プラスチック層は優れた機械的強度を有する。
更に、強化繊維への合成樹脂の含浸が円滑に行われるので、強化繊維に対して余計な外力が不測に加わることはなく、強化繊維が変形し又は強化繊維に皺が生じるようなことはなく、得られる繊維強化プラスチック層は優れた外観を有する。
又、強化繊維が所定範囲内にて移動することによって、上述の通り、強化繊維中への合成樹脂の含浸が略均一に行われ、強化繊維に含浸した合成樹脂の一部は、強化繊維の全面から、強化繊維と発泡成形体との界面に供給されると共に、この供給された合成樹脂によって、強化繊維と発泡成形体との界面に存在している空気が押し出されて除去される。従って、得られる繊維強化プラスチック層と発泡成形体とは、強化繊維と発泡成形体との界面に供給された合成樹脂によって強固に一体化される。
このように、含浸工程中において、強化繊維が適度な自由度でもって移動することによって、強化繊維中に合成樹脂が略均一に且つ円滑に含浸されると共に、強化繊維や、強化繊維と発泡成形体との界面に存在する空気も円滑に除去され、得られる繊維強化プラスチック層は優れた外観及び機械的強度を有すると共に、繊維強化プラスチック層は発泡成形体と強固に一体化し、得られる繊維強化複合体は優れた外観及び機械的強度を有する。
含浸工程中における強化繊維の移動量としては、具体的には、強化繊維が積層されている発泡成形体の表面方向において0.05〜10%に限定され、0.05〜5%が好ましい。含浸工程中における強化繊維の移動量は、発泡成形体に対する強化繊維の積層方向における積層体に加えられる押圧力の大きさ、強化繊維の目付、発泡成形体の表面への強化繊維の仮固定力、又は、強化繊維基材同士の仮固定力などを調整することによって制御することができる。
強化繊維の移動量は下記の要領で測定された値をいう。積層工程において製造された積層体の強化繊維の表面に一辺が1cmの平面正方形状の測定点(初期面積S0:1cm2)を描く。測定点を描くインキとしては、他の部材に接触すると色移りを生じるインキを用いる。なお、測定点は、強化繊維への合成樹脂の含浸に影響を及ぼさないようにする。
次に、後述する要領で含浸工程を行った後、強化繊維の表面に測定点を描くのに用いられたインキが金型表面又は可撓性フィルムに色移りしている。この色移りをした総面積S1(cm2)を算出し、下記式に基づいて算出する。
強化繊維の移動量(%)=100×(S1−S0)/S0
雌雄金型31、32のキャビティ33内に供給される溶融状態の合成樹脂の温度は、発泡成形体1を構成している合成樹脂のガラス転移温度Tgよりも低くなるように調整される。このように、溶融状態の合成樹脂の温度及び発泡成形体を構成している合成樹脂のガラス転移温度Tgを調整することにより、雌雄金型31、32のキャビティ33内に供給された合成樹脂によって、発泡成形体1が破泡するなどして変形することを防止しながら、合成樹脂を強化繊維中に円滑に含浸させることができると共に、強化繊維と発泡成形体との界面に合成樹脂を円滑に供給し、所望形状を有する発泡成形体の表面に強化繊維を一体化することができ、得られる繊維強化複合体は、優れた機械的強度及び外観を有する。
本発明において、熱可塑性樹脂のガラス転移温度は、JIS K7121:1987「プラスチックの転移温度測定方法」に記載されている方法で測定する。但し、サンプリング方法・温度条件に関しては以下のように行う。示差走査熱量計装置を用いアルミニウム製測定容器の底にすきまのないよう試料を約6mg充てんして、窒素ガス流量20mL/分のもと、試料を30℃から−40℃まで降温した後に10分間に亘って保持した後、試料を−40℃から290℃まで昇温(1st Heating)し290℃に10分間に亘って保持した後に290℃から−40℃まで降温(Cooling)、10分間に亘って保持した後に−40℃から290℃まで昇温(2nd Heating)した時のDSC曲線を得た。なお、全ての昇温速度及び降温速度は10℃/分で行い、基準物質としてアルミナを用いる。本発明において、ガラス転移温度とは、2nd Heating過程で得られたDSC曲線より得られた中間点ガラス転移温度のことをいう。又、この中間点ガラス転移温度はJIS K7121:1987(9.3「ガラス転移温度の求め方」)より求める。なお、示差走査熱量計装置としては、例えば、エスアイアイナノテクノロジー社から商品名「DSC6220型」で市販されている示差走査熱量計装置を用いることができる。
本発明において、熱硬化性樹脂のガラス転移温度は下記の要領で測定された温度をいう。熱硬化性樹脂のガラス転移温度を測定する場合には熱硬化性樹脂を予め硬化させる必要がある。熱硬化性樹脂の硬化温度はJIS K7121:1987において測定される発熱ピーク温度±10℃が目安とされる。熱硬化性樹脂の硬化時間は60分間が目安とされ、硬化後の熱硬化性樹脂の発熱ピークをJIS K7121:1987に準拠して測定した際に、発熱ピークが観察されなければ、硬化が完了されたとみなせ、この硬化後の熱硬化性樹脂を用いて、後述する要領で熱硬化性樹脂のガラス転移温度を測定する。なお、上述した熱硬化性樹脂の硬化温度の目安となる発熱ピーク温度の詳細な測定方法は、下記の通りである。熱硬化性樹脂の発熱ピーク温度は、JIS K7121:1987「プラスチックの転移温度測定方法」に記載されている方法で測定する。但し、サンプリング方法・温度条件に関しては以下の要領で行う。示差走査熱量計装置を用いてアルミニウム製測定容器の底にすきまのないよう試料を約6mg充てんして、窒素ガス流量20mL/分のもと、基準物質としてアルミナを用い、試料を30℃から220℃まで速度5℃/分で昇温させる。本発明において、熱硬化性樹脂の発熱ピーク温度とは1回目昇温時のピークトップの温度を読みとった値である。なお、示差走査熱量計装置としては、例えば、エスアイアイナノテクノロジー社から商品名「DSC6220型」にて市販されている示差走査熱量計装置を用いることができる。
熱硬化性樹脂のガラス転移温度は、JIS K7121(1987)「プラスチックの転移温度測定方法」における規格9.3「ガラス転移温度の求め方」に準拠して測定された温度とする。具体的には、ガラス転移温度を測定する、硬化後の熱硬化性樹脂6mgを試料として採取する。示差走査熱量計装置を用い、装置内で流量20mL/分の窒素ガス流の下、試料を20℃/分の昇温速度で30℃から200℃まで昇温して200℃にて試料を10分間に亘って保持する。その後、試料を装置から速やかに取出して25±10℃まで冷却した後、装置内で、流量20mL/分の窒素ガス流の下、20℃/分の昇温速度で試料を200℃まで再度、昇温した時に得られるDSC曲線よりガラス転移温度(中間点)を算出する。測定においては基準物質としてアルミナを用いる。なお、示差走査熱量計装置としては、例えば、エスアイアイナノテクノロジー社から商品名「DSC6220型」にて市販されている示差走査熱量計装置を用いることができる。
含浸工程において、発泡成形体1の表面を好ましくは10〜90℃に、より好ましくは
15〜80℃に加熱、保持した上で強化繊維に合成樹脂を含浸する。発泡成形体1の表面を上記温度範囲に保持しておくことによって、強化繊維に供給した合成樹脂が固化し又は溶融粘度が低下することに起因した流動不良が生じることを防止し、強化繊維に合成樹脂を略均一に含浸させることができると共に、強化繊維と発泡成形体との界面にも合成樹脂を略均一に供給することができる。更に、発泡成形体1が含浸工程において寸法変化を生じる場合には、発泡成形体の寸法変化が含浸工程の初期から開始し、強化繊維の配向性を向上させることができる。特に、発泡成形体1が含浸工程において膨張する場合には、発泡成形体が合成樹脂の供給圧によって押し潰されるのを防止すると共に、強化繊維を金型又は後述する可撓性フィルムに押し当てて強化繊維の配向性をより向上させることができる。従って、優れた外観及び機械的強度を有する繊維強化プラスチック層を形成することができる共に、繊維強化プラスチック層を発泡成形体に強固に積層一体化して繊維強化複合体の機械的強度及び外観を向上させることができる。
又、含浸工程において、強化繊維に含浸させる合成樹脂の温度は40〜90℃が好ましく、50〜80℃がより好ましい。合成樹脂の温度を上記温度範囲に保持しておくことによって、強化繊維に供給した合成樹脂が固化し又は溶融粘度が低下することに起因した流動不良が生じることを防止し、強化繊維に合成樹脂を略均一に含浸させることができると共に、強化繊維と発泡成形体との界面にも合成樹脂を略均一に供給することができる。更に、発泡成形体1が含浸工程において寸法変化を生じる場合には、発泡成形体の寸法変化が含浸工程の初期から開始し、強化繊維の配向性を向上させることができる。特に、発泡成形体1が含浸工程において膨張する場合には、発泡成形体が合成樹脂の供給圧によって押し潰されるのを防止すると共に、強化繊維を金型又は後述する可撓性フィルムに押し当てて強化繊維の配向性をより向上させることができる。従って、優れた外観及び機械的強度を有する繊維強化プラスチック層を形成することができる共に、繊維強化プラスチック層を発泡成形体に強固に積層一体化して繊維強化複合体の機械的強度及び外観を向上させることができる。
含浸工程において、強化繊維に合成樹脂を含浸させる前の発泡成形体の表面温度と、強化繊維に供給する合成樹脂の温度との差は、大きいと、強化繊維に供給した合成樹脂が発泡成形体によって加熱又は冷却され、合成樹脂の溶融粘度が強化繊維中に含浸される過程で変動し、強化繊維中において合成樹脂の流動性に変動が生じる結果、合成樹脂を強化繊維中に均一に含浸することができず、得られる繊維強化プラスチック層の外観が低下し又は機械的強度が低下する虞れがあるので、60℃以下が好ましく、50℃以下がより好ましく、40℃以下が特に好ましい。
雌雄金型31、32のキャビティ33内に供給された合成樹脂の一部は樹脂排出路(図示せず)を通じて雌雄金型31、32外に順次、排出される。なお、雌雄金型31、32のキャビティ33外への合成樹脂の排出は、大気圧下にて行ってもよいし、又は、真空ポンプなどを用いて積極的に吸引、排出してもよい。
このように、雌雄金型31、32のキャビティ33内に収納された積層体Aに合成樹脂を連続的に供給しながら、余分な合成樹脂を雌雄金型31、32のキャビティ33外に排出することによって、積層体Aの強化繊維2、及び強化繊維2と発泡成形体1との界面に、合成樹脂を全体的に且つ略均一に供給することができ、更に、強化繊維2中、及び、強化繊維2と発泡成形体1との界面に存在している空気を効率良く除去し、強化繊維同士を合成樹脂によって密に結着一体化することができると共に、強化繊維2を発泡成形体1の表面に密着させた状態に積層させることができる。余分な合成樹脂を雌雄金型31、32のキャビティ33外に吸引、排出することによって、雌雄金型31、32のキャビティ33内を減圧状態とし、積層体Aを減圧下に配設した状態にて強化繊維中に合成樹脂を含浸させることができ、上述の効果を更に効果的に発揮することができる。
強化繊維2に含浸させる上記合成樹脂としては、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂の何れも用いることができ、熱硬化性樹脂が好ましく用いられる。強化繊維2に含浸させる熱硬化性樹脂としては、特に限定されず、例えば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、マレイミド樹脂、ビニルエステル樹脂、シアン酸エステル樹脂、マレイミド樹脂とシアン酸エステル樹脂とを予備重合した樹脂などが挙げられ、耐熱性、衝撃吸収性又は耐薬品性に優れていることから、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂が好ましい。熱硬化性樹脂には、硬化剤、硬化促進剤などの添加剤が含有されていてもよい。なお、熱硬化性樹脂は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
又、強化繊維2に含浸させる熱可塑性樹脂としては、特に限定されず、オレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、熱可塑性エポキシ樹脂、アミド系樹脂、熱可塑性ポリウレタン樹脂、サルファイド系樹脂、アクリル系樹脂などが挙げられ、発泡成形体との接着性又は繊維強化プラスチック層を構成している強化繊維同士の接着性に優れていることから、ポリエステル系樹脂、熱可塑性エポキシ樹脂が好ましい。なお、熱可塑性樹脂は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
熱可塑性エポキシ樹脂としては、エポキシ化合物同士の重合体又は共重合体であって直鎖構造を有する重合体や、エポキシ化合物と、このエポキシ化合物と重合し得る単量体との共重合体であって直鎖構造を有する共重合体が挙げられる。具体的には、熱可塑性エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールフルオレン型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、環状脂肪族型エポキシ樹脂、長鎖脂肪族型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂などが挙げられ、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールフルオレン型エポキシ樹脂が好ましい。なお、熱可塑性エポキシ樹脂は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
熱可塑性ポリウレタン樹脂としては、ジオールとジイソシアネートとを重合させて得られる直鎖構造を有する重合体が挙げられる。ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオールなどが挙げられる。ジオールは、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。ジイソシアネートとしては、例えば、芳香族ジイソシアネート、脂肪族ジイソシアネート、脂環式ジイソシアネートが挙げられる。ジイソシアネートは、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。なお、熱可塑性ポリウレタン樹脂は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
次に、雌雄金型31、32のキャビティ33内に供給した合成樹脂が熱可塑性樹脂である場合には、熱可塑性樹脂を冷却することによって固化させ、強化繊維2に合成樹脂を含浸させてなる繊維強化プラスチック層4を形成し、この繊維強化プラスチック層4を発泡成形体1の少なくとも一つの表面に積層一体化して繊維強化複合体B(図2参照)を製造することができる(一体化工程)。
又、雌雄金型31、32のキャビティ33内に供給した合成樹脂が熱硬化性樹脂である場合には、熱硬化性樹脂を雌雄金型31、32のキャビティ33内に供給した時の樹脂温度に保持し又は更に高温に加熱することによって硬化させて、強化繊維2に合成樹脂を含浸させてなる繊維強化プラスチック層4を形成し、この繊維強化プラスチック層4を発泡成形体1の少なくとも一つの表面に積層一体化して繊維強化複合体B(図2参照)を製造することができる(一体化工程)。
得られた繊維強化複合体Bの繊維強化プラスチック層4中における合成樹脂の含有量は、20〜70重量%が好ましく、30〜60重量%がより好ましい。合成樹脂の含有量が少なすぎると、強化繊維同士の結着性や繊維強化プラスチック層と発泡成形体との接着性が不十分となり、繊維強化プラスチック層及び繊維強化複合体の機械的強度を十分に向上させることができない虞れがある。合成樹脂22の含有量が多すぎると、繊維強化プラスチック層の機械的強度が低下して、繊維強化複合体の機械的強度を十分に向上させることができない虞れがある。
図1に示した製造方法では、雌雄金型31、32として、スチール、アルミニウム、不変鋼(INVAR)などの金属、繊維強化プラスチック(FRP)、木材、石膏などの剛体から形成された金型を用いた場合を説明したが、雄金型の代わりに可撓性フィルムを用いてもよい。
具体的には、図3に示したように、雌金型31内に積層体Aを配設した後、積層体Aが配設された雌金型31を可撓性フィルム5によって包囲して密閉して、雌金型31を積層体Aと共に密閉空間51内に配設する。なお、可撓性フィルムとしては、積層体Aが配設された雌金型31を密閉した状態に包囲することができればよく、合成樹脂フィルムなどが挙げられる。合成樹脂フィルムを構成する合成樹脂としては、例えば、ナイロンなどのアミド樹脂、フッ素樹脂、シリコーン樹脂などが挙げられる。
しかる後、密閉空間51内に溶融状態の合成樹脂を供給して、強化繊維2に全体的に合成樹脂を含浸させると共に、強化繊維2と発泡成形体1との界面に合成樹脂を行き渡らせる。密閉空間51内に合成樹脂を供給するに際して、合成樹脂を密閉空間51内に圧入しても、又は、合成樹脂を密閉空間51内に大気圧下にて供給してもよいが、強化繊維に合成樹脂をより均一に含浸させ、得られる繊維強化プラスチック層をより強固に発泡成形体に積層一体化することができるので、合成樹脂を密閉空間51内に圧入することが好ましい。
そして、密閉空間51内に供給された合成樹脂の一部は密閉空間51外に順次、排出される。なお、密閉空間51外への合成樹脂の排出は、大気圧下にて行ってもよいし、又は、真空ポンプなどを用いて積極的に吸引、排出してもよい。その他の要領は、図1に示した製造方法と同様であるのでその説明を省略する。
このようにして得られた繊維強化複合体は、機械的強度及び軽量性に優れているため、自動車、航空機、鉄道車輛又は船舶などの輸送機器分野、家電分野、情報端末分野、家具の分野、発電設備分野などの広範な用途に用いることができる。
例えば、繊維強化複合体は、輸送機器の部品、及び、輸送機器の本体を構成する構造部材を含めた輸送機器構成用部材(特に自動車用部材)、ヘルメット用緩衝材、農産箱、保温保冷容器などの輸送容器、部品梱包材、発電機器部材として好適に用いることができる。自動車用部材としては、例えば、フロアパネル、ルーフ、ボンネット、フェンダー、アンダーカバーなどの部材が挙げられる。発電機器部材としては、例えば、風車や水力発電用ブレードなどの部材が挙げられる。