JP2015188433A - 植物の栽培方法および痒み抑制剤 - Google Patents

植物の栽培方法および痒み抑制剤 Download PDF

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竜平 小山
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Kyoko Ishiguro
京子 石黒
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Abstract

【課題】人工環境でのツリフネソウの葉の生産方法,及びこれにより得られるツリフネソウ葉の抽出物,及び当該抽出物を含有する痒み抑制剤の提供。
【解決手段】 ツリフネソウ葉の生産方法であって,人工環境下にツリフネソウの栽培が行われるものであり,該栽培が,(a) 水耕液として養液を用いて水耕栽培することによりツリフネソウを生育させるステップと,(b) 育成させたツリフネソウを収穫するステップを含み,所望によりステップ(a) の後に葉の収穫に先立ち水耕液を養液から水に切り替えて少なくとも2日にわたり水耕栽培するステップを更に含むものである生産方法,これにより得られた葉の抽出物,及び当該抽出物を含んでなる痒み防止剤。
【選択図】なし

Description

本発明は,人工環境におけるツリフネソウ葉の生産方法,当該方法により生産された葉の抽出物,及びこれに基づく痒み抑制剤に関する。
ルテオリン及びアピゲニンはフラボノイドの一種であり,これらの物質はヒスタミン遊離や炎症性サイトカインの発現を抑制し,また誘導型一酸化窒素合成酵素及びシクロオキシゲナーゼ−2の発現を抑制するほか,血小板凝集も抑制し,アレルギー反応の開始前および開始後の両段階で抑制的に作用することが明らかにされている。こうして,これらのフラボノイドについて,アレルギーや炎症の予防と治療における有効性が知られている(特許文献1,2及び非特許文献1)。
東アジアに分布し,日本では低山から山地にかけて,やや湿った薄暗い場所に自生している一年草として,ツリフネソウ科ツリフネソウ属のツリフネソウ(学名:Impatiens textori Miq.)が知られている。野生で採取されたツリフネソウについては,花弁又は葉の抽出物がルテオリン,アピゲニン,アピゲニン−7−O−グルコシドを含有し,抗アレルギー作用を有することも知られている(特許文献3,4)。
ツリフネソウは,このように抗アレルギー成分を含有する点で,薬剤,健康食品,化粧品等への利用に有望な植物であるが,山地に自生しているだけで,入手は限られており,広く利用するのは困難である。
しかも,ツリフネソウに関する上記の文献は,飽くまでも野生で採取された該植物体の分析結果を示したものである。一般に,同種の植物体でも,それが含有する薬理活性成分の含有量は生育環境によって影響を受けるため,ツリフネソウを野生以外の環境で生育させた場合に,ルテオリン及びアピゲニンが,実質的な量で含まれるか否かは,明らかでない。
他方,温度や光などの植物の生育に関わる種々の因子を調整した人工環境中で植物を栽培するシステムは,植物工場と呼ばれ,野菜等の農作物の栽培に用いられ始めている。農作物のように植物体全体やその一部を収穫して利用するために植物を栽培する場合,従来のような屋外環境での栽培では,その場所の環境因子の変動により成長が左右され,収量や成分含有量が変動してしまうが,植物工場ではそのよう変動はなくすことができ,それにより安定した収穫が確保できる。また,日長時間や気温の季節的変化を受け,植物体の花芽分化が起こると,それ以降は葉の収穫を続けることは制限されてしまう。これに対し植物工場では,環境条件を人為的に制御することにより,安定した生産が可能となる。
また,野菜に関しては,アスコルビン酸等の有用成分の濃度を水耕栽培で高めることができることが知られている。例えば,収穫直前の一定期間において,養液を水に切り替え且つ日長時間を17時間以上として水耕栽培することにより,ビタミンCや糖質の含有量を増加させる方法が知られている(特許文献5)。但し,天然に自生する薬用植物であるツリフネソウについては,本発明者知る限り,そのような人工環境での栽培の試みの報告はない。
特開2000−86510 特開2001−114686 特開2001−278796 特開2013−151451 WO2010/140632
Biol. Pharm. Bull. (2010) 33, 714-716
上記の背景において,本発明は,人工環境でのツリフネソウの葉の生産方法,及びこれにより得られるツリフネソウ葉の抽出物,及びこれを含有する痒み抑制剤の提供を目的とする。
本発明者は,ツリフネソウを特定の方法で水耕栽培することにより,葉のルテオリン含有量を遥かに高めることができること,及び,そのような水耕栽培で得られた葉の抽出物が痒みを抑制できることを見出した。以下に示す本発明は,これらの発見に基づき,更に検討を重ねて完成させたものである。
1.ツリフネソウ葉の生産方法であって,人工環境下にツリフネソウの栽培が行われるものであり,該栽培が,
(a)水耕液として養液を用いて水耕栽培することによりツリフネソウを生育させるステップと,
(b)水耕栽培したツリフネソウの葉を収穫するステップと
を含むものである,生産方法。
2.ツリフネソウ葉の生産方法であって,人工環境下にツリフネソウの栽培が行われるものであり,該栽培が,
(a)水耕液として養液を用いて水耕栽培することによりツリフネソウを生育させるステップと,
(b)ステップ(a)により育成させたツリフネソウを,葉の収穫に先立ち水耕液を養液から水に切り替えて少なくとも2日にわたり水耕栽培するステップと,そして
(c)ステップ(b)により水耕栽培したツリフネソウの葉を収穫するステップと
を含むものである,生産方法。
3.ステップ(b)の水耕栽培における日長時間中のツリフネソウに対する照度が,少なくとも9000lxである,上記1又は2の生産方法。
4.ステップ(b)の水耕栽培における日長時間が,少なくとも17時間である,上記1又は3の何れかの生産方法。
5.ツリフネソウの葉の抽出物であって,該葉が,上記1〜4の何れかの生産方法により生産されたものである,抽出物。
6.上記5のツリフネソウの葉の抽出物を含んでなる痒み抑制剤であって,ルテオリン及びアピゲニンの合計含有量が少なくとも0.5mg/mlである,痒み抑制剤。
本発明によれば,ツリフネソウを安定して生育させることができ,葉を安定して収穫することができる。またその葉は,抗アレルギー成分であるルテオリン及びアピゲニンを含有しており,葉の抽出物は,肥満細胞からのヒスタミン遊離による痒みに対し抑制効果を有することから,痒み抑制剤等の抗アレルギー医薬品や健康食品等の形の抗アレルギー組成物として,また一般の食品や化粧品等に添加する痒み防止などの抗アレルギー成分として,利用することができる。
本明細書において,「人工環境」とは,植物の栽培における,空気(温度,組成),光(照度,照射時間),水耕液(組成,濃度,pH,電気伝導度)等の一般的な環境要素を屋内において人工的に調整することで作り出した環境をいう。
本発明において,ツリフネソウは人工環境において水耕栽培に付されるが,植物体が十分に育ち葉が収穫可能になった後,葉の収穫に先立つ数日間,水耕液をそれまでの養液から水に切り替えて栽培が行われる。本明細書において,葉の収穫に先立ってこのように条件を変えて行われる栽培を,「調整栽培」といい,調整栽培に移行するまでの期間の栽培を「育成栽培」という。
育成栽培は,ツリフネソウを十分に生育させることを目的とした工程であり,十分な生育ができる限り,公知の種々の水耕栽培条件(温度,養液,日長時間)及び生育日数を,適宜選択して用いればよく,特に限定されない。
生育栽培における日長時間(1日における明期)は,12時間,13時間,14時間,15時間,16時間等と適宜設定してよく,特に限定されない。通常は12〜16時間の範囲内に設定しておけばよい。
生育栽培及び調整栽培に用いる光源は,ツリフネソウに光合成を行わせるものである限り,植物栽培に利用できることが知られているものを適宜選択して用いることができる。例えば,白色蛍光灯の他に,LEDや高圧ナトリウムランプ等の種々の光源を用いることができ,特に限定されない。
本明細書において,水耕栽培における「養液」とは,植物が成長に必要とする種々の元素を,根からの吸収に適した化合物の形で水に含有させ,酸性度(pH),電気伝導度(EC)等の物性を必要に応じて調整した水溶液をいう。水に添加し溶解することで養液が調製できる組成物として種々の製品が市販されており,育成栽培用にはそれらを適宜選択して用いればよい。一例としては,野菜等の栽培に用いられる市販の肥料(例えば,大塚ハウスSA処方)を好適に用いることができるが,これに限定されない。
育成栽培及び調整栽培における室温及びCO施肥は,適宜宜設定すればよい。室温は例えば20±5℃付近に,CO施肥は例えば1500ppm付近に,それぞれ設定しておくことができる。
また,育成栽培にツリフネソウに対する日長時間中の照度は,9,000lx以上であることが好ましく,9,500lx以上であることがより好ましく,10,000lx以上であることが更に好ましい。また,照度は,強すぎることによる悪影響を植物体に及ぼすほどでない限り,照度に明確な上限はなく,30,000lx又は25,000lx,20,000lx等と,所望により設定すればよい。通常,照度を10,000〜20,000lxの範囲,例えば,15,000lxとして育成栽培すればよい。
上記の諸条件の組合せによる育成栽培で,ツリフネソウを順調に生育させることができる。
調整栽培は,葉の収穫に先立つ数日間行えばよい。調整栽培の日数は,2日又は3日以上とするのがよく,例えば5日まで行った場合,葉のルテオリン,アピゲニンの含有量は調整栽培日数に応じて高まって行くことが判明している。このため調整栽培は,例えば,2〜7日の範囲で設定することができる。
調整栽培における日長時間中の照度は,9,000lx以上であることが好ましく,9,500lx以上であることがより好ましく,10,000lx以上であることが更に好ましい。また,照度は,強すぎることによる悪影響を植物体に及ぼすほどでない限り,照度に明確な上限はなく,30,000lx又は25,000lx,20,000lx等と,所望により設定すればよい。通常,照度を10,000〜20,000lxの範囲,例えば,15,000lxとして調製栽培すればよい。
調整栽培における日長時間は,17時間以上24時間(すなわち暗期なし)までの範囲で任意の時間に設定してよい(例えば18時間,20時間,24時間等)。ルテオリン,アピゲニンの含有量増大という上述の効果は,日長時間の長さに応じて増大する。
調整栽培において水耕液として用いる水は,硝酸態窒素濃度をほとんど含まないものであることが好ましく,実質的に含まないものであることが特に好ましい。水としては,例えば水道水を用いるのが便利である。調整栽培において,水道水に含まれる程度の量のミネラルの存在は何ら差し支えなく,また,水耕液を水に切り替える際に栽培槽等の装置内に僅かに残留していた硝酸態窒素やミネラルが混入した水も,調整栽培において養液の代わりに使用するに適した「水」に包含される。
本発明において,ツリフネソウの「抽出物」の語は,ツリフネソウの葉を機械的に搾ることにより得られる搾汁及びツリフネソウの葉を抽出溶媒(特に極性溶媒)で抽出することにより得られる抽出液,並びにそれらから水又は抽出溶媒の一部又は全部を除去した後に得られる濃縮液又は残渣や,その乾燥物(例えば凍結乾燥物)であって,ルテオリン及びアピゲニンを含有するものを,包括的に意味する。
また,調整栽培後のツリフネソウの葉は,育成栽培のみのものや天然のツリフネソウと異なって,ルテオリンをアピゲニンに比べて顕著に多く含有していることが見出された。
後述の実施例に示すように,ツリフネソウの葉の抽出物が痒みを抑制する効果を発揮することが,本発明者らにより動物実験で見出された。
ツリフネソウの葉の抽出物は,従って,痒み抑制剤等の抗アレルギー組成物の成分として利用することができ,そのような組成物は,例えば,皮膚外用剤や経口用剤,又は注射剤(静脈内,筋肉内,皮下,皮内等)の形態をとることができ,また抗アレルギー食品,健康補助食品,保険機能食品等に,また化粧品におけるアレルギー防止成分としても利用することができる。
ツリフネソウの葉の抽出物を含んでなる痒み抑制用の皮膚外用剤は,ルテオリン及びアピゲニンの合計含有量が少なくとも0.5mg/mlであることが好ましく,1mg/ml以上であることがより好ましい。またルテオリン及びアピゲニンの合計含有量は,特段の上限はないが,通常は5mg/ml以下とすることが好ましく,4mg/ml以下とすることがより好ましく,3mg/ml以下とすることが更に好ましい。
例えば,本発明のツリフネソウの葉からの抽出物を用いた皮膚外用剤(軟膏剤,クリーム剤,ゲル剤,液剤等)は,限定するものではないが,水,生理食塩水,エタノール,マクロゴール,ワセリン,ラノリン,メチルセルロース,カルメロースナトリウム等,皮膚外用剤の製造に用いられる種々の基剤を適宜用いて,常法により製造することができる。
経口用医薬品の形態としては,錠剤,散剤,顆粒剤,軟カプセル剤,硬カプセル剤,丸剤等の固形製剤や,シロップ剤等の液状の製剤等,適宜の剤形を選択することができ,製剤化に当たり,必要に応じて,賦形剤,結合剤,滑沢剤,崩壊剤,甘味料等の種々の周知の添加剤を用いることができる。これらの剤形は製剤分野の当業者に周知であり,周知の賦形剤その他の材料等を適宜用いて常法により製造することができる。
注射剤の形態としては,静脈内注射,筋肉内注射,皮下注射,皮内注射等の種々の注射経路のための注射剤や点滴静注のための輸液の形態のものをも含む。これらの注射剤に用いられる基剤としては種々のものが周知であり,例えば,生理食塩水やブドウ糖液,種々のリンゲル液(例えば,リンゲル液,酢酸リンゲル液,乳酸リンゲル液,重炭酸リンゲル液)等を用いることができるほか,注射剤の製造に用いられている種々の添加剤,例えば,無機塩類,有機塩類,緩衝剤,pH調整剤,等張化剤,安定化剤,キレート化剤,抗酸化剤等を,適宜組み合わせて選択して,溶媒(注射用水等)に添加混合して調製し,基剤として使用してよい。
また,ツリフネソウの葉の抽出物は,所望の形態の化粧品(美顔パック,化粧水,シャンプー,リンス,ヘアートニック,育毛剤,養毛剤等)の,痒み防止等の抗アレルギー成分としても利用することができる。剤形としては,軟膏剤やクリーム剤,ゲル剤等,適宜の剤形を選択することができる。
これらの種々の製品の製造において一般に用いる他の成分や基剤,及びそれらの組み合わせは,種々のものが周知であり,本発明においても,目的に合わせそれらを適宜用いて製造すればよい。
ツリフネソウの葉の抽出物は,所望により種々の食品(例えば菓子類,飲料等)に成分として添加してもよく,必要に応じ,賦形剤,結合剤,滑沢剤,崩壊剤,甘味料等と共に製剤化する等により健康食品の形態とすることができる。健康食品は,健康の維持又は増進に役立つ特定の機能を特に謳った食品であり,本明細書において,健康補助食品(日本健康食品・栄養食品協会による認定),保健機能食品(食品衛生法に基づく認定)を包含する。健康食品の製造には,ツリフネソウの葉の搾汁又は抽出溶媒による抽出液から水又は抽出溶媒を除去した残渣(固形物)を用いることができるほか,搾汁や摂取可能な抽出溶媒(水,エタノール等)による抽出液それ自体やそれらから水や抽出溶媒を部分的に除去した濃縮液や完全な乾燥物(凍結乾燥物)を用いることもできる。
賦形剤としては,例えば,各種デンプン,結晶セルロース,乳糖,マンニトール,ショ糖,ブドウ糖,果糖,マルトース,ソルビトール,ステビオサイド,コーンシロップ,デキストリン,グリセリン,寒天,アラビアガム,カラギーナン,カゼイン,ゼラチン,ペクチン等を適宜用いることができる。
結合剤としては,例えば,結晶セルロース,白糖,D−マンニトール,デキストリン,ヒドロキシプロピルセルロース,ヒドロキシプロピルメチルセルロース,ポリビニルピロリドン等の高分子化合物を適宜用いることができる。
滑沢剤としては,例えば,ステアリン酸マグネシウム,ステアリン酸カルシウム,タルク,コロイドシリカ等を適宜用いることができる。
崩壊剤としては,例えば,デンプン,カルボキシメチルセルロース,カルボキシメチルセルロースカルシウム,クロスカルメロースナトリウム,カルボキシメチルスターチナトリウム等を適宜用いることができる。
甘味料としては,例えば,ブドウ糖,果糖,ショ糖,グリセリン,ソルビトール,アスパルテーム,サッカリンナトリウム,ステビア等を適宜用いることができる。
本発明において,ツリフネソウの葉の抽出操作には,種々の極性溶媒を単独で又は混合して用いることができる。抽出には冷浸,温浸,パーコレーション法等,当業者に知られた適宜の方法を用いればよい。極性溶媒の特に好ましい例は,メタノール,エタノール,プロパノール,イソプロパノール,n−ブタノール,イソブタノールその他,炭素数1〜8の一価アルコール又はその水溶液である。このうちエタノール又は水/エタノール混液は,葉の抽出操作後に抽出物を含んだ健康補助食品や化粧品等のような組成物の形に製剤化する際の取り扱い易さ及び安全性の面からは特に好ましい。エタノール水溶液を用いるときは,特に限定はないが,例えば35%〜100%(以下,特に示さないときは「v/v%」)のエタノールを用いるのが,抽出操作を能率よく進める上で有利である。
極性溶媒としては,上記のほか,水そのものを用いて抽出することもできるほか,エチレングリコール,プロピレングリコール等のグリコール類やグリセロール等,炭素数2〜6の多価アルコール又はそれらと水の混合物,アセトン,エチルメチルケトン,イソブチルメチルケトン,メチル−n−プロピルケトン等炭素数4〜5のケトン又はそれらと水の混合物,又は酢酸エチル,酢酸イソプロピル等炭素数4〜8のエステル類,又はジエチルエーテル,イソプロピルエーテル,n−ブチルエーテル等炭素数4〜8のエーテル等を用いてもよい。
ツリフネソウの花弁や葉の抽出に際しては,薄い組織であるにも拘わらず予め粉砕しておいた方が,抽出速度が飛躍的に高まり,粉砕しなかった場合に比して,一定期間内に抽出されてくる成分量が飛躍的に増大することが判明している。粉砕の方法に特段の限定はないが,例えば,生の植物体(例えば葉)を用いる場合,凍結状態での粉砕が容易に行え且つ粉砕中の成分の変性の懸念がない点でも好ましい。生の植物体の凍結方法に特段の限定は無いが,例えば,液体窒素を用いるのが便利である。
抽出液の濃縮操作には,加温や減圧乾燥,凍結乾燥,自然乾燥等の一般的な溶媒除去の方法を単独で又は混合して用いればよい。
以下,典型的な実施例を参照して本発明を更に具体的に説明するが,本発明がそれらの実施例に限定されることは意図しない。
〔実施例1〕 ツリフネソウの水耕栽培
<基本的栽培条件>
ツリフネソウを種子から水耕栽培した。以下の各実施例において,特に示さない限り次の条件は共通とした。
(1)光源: 白色蛍光灯
(2)照度: 平均約15,000 lx
(3)肥料: 大塚ハウスSA処方(表1)。
Figure 2015188433
(4)明期/暗期: 14時間/10時間
(5)栽培気温 : 20±3℃
(6)CO2 施肥: 1,500ppm
<生育栽培> 播種〜育苗
植物ホルモン(ジベレリン)での常法による処理で催芽させたツリフネソウの種子をウレタン培地上に植え,EC=1.8mS/cmに調整した養液で,根が完全に養液に浸る状態とした湛水式水耕栽培を行った(なお,催芽は低温処理で行っても同様である)。生育栽培は約2か月行い,適宜剪定することにより各株の大きさを30〜40cmとした。
<調整栽培>
生育栽培を行った植物体を,水耕液を水とした栽培槽に移動させ,日長時間を24時間に設定して5日間の調整栽培を行った。日長時間中の照度は平均約15,000lxとした。調整栽培後,葉のみを収穫してルテオリン,アピゲニンを含む成分の抽出に用いた。
<成分抽出>
育成栽培後及び調整栽培後にそれぞれ収穫した生のツリフネソウの葉を,4倍量(ml/g)の35%エタノール水溶液に漬け込み,2週間冷蔵庫内に静置して抽出を行った。定性用濾紙(JIS P 3801,2種)で濾過して得られた抽出液を用い,高速液体クロマトグラフィーによってルテオリンおよびアピゲニン含有量を測定した。測定条件は次のとおりとした。
測定条件:
装置:アジレントテクノロジー製 infinity1260
カラム:アジレントテクノロジー製 poroshell120 (4.6×50 mm)
カラム温度:37℃
移動相:水68%,アセトニトリル30%,0.5%酢酸2%
測定波長:343 nm
<結果>
測定結果を次の表に示す。(n=3)
Figure 2015188433
表2が示すように,育成栽培のみのものと較べ,更に調整栽培も行うことにより,抗アレルギー・抗炎症成分であるルテオリン及びアピゲニンの含有量が大きく増加した(それぞれ2.1倍及び1.2倍)。このことは,育成栽培のみものと較べ,調整栽培も経たツリフネソウの葉の抽出物は,より高い抗アレルギー及び抗炎症作用を有しており,アレルギー及び炎症の予防及び治療に一層有用であろうことを強く示唆している。また,調整栽培を経たものは,育成栽培のみを経て収穫された葉に比べて,ルテオリンの含有量がアピゲニンの含有量の2倍以上に上昇していた。
〔実施例2〕 マウスでのヒスタミン遊離による痒みに対する,抑制効果の検討
I型アレルギー反応では,感作された肥満細胞あるいは好塩基球からヒスタミンなどの化学伝達物質が遊離し,痒み等の症状が発現する。強力なヒスタミン遊離促進剤であるCompound48/80は,実験動物に実験的にアレルギー症状を引き起こす薬物として試験に用いられており,例えばマウスに皮内投与すると,肥満細胞からヒスタミンを遊離させて強い痒みを引き起こす。この反応を用いてツリフネソウの生葉からの抽出物の抗アレルギー作用を,痒みに対する掻破行動を指標として,以下のようにして調べた。なお葉としては,育成栽培のみを経て収穫したものを用いた。
<葉の抽出物の調製>
生育栽培を行ったツリフネソウの葉(1093g)を収穫し,液体窒素で凍結させた後に凍結状態で粉砕したものに3倍量(ml/g)の70%エタノール水溶液(3279ml)を加え,4日間室温に静置して抽出を行った。次いで,抽出液を定性用濾紙(JIS P 3801,2種)で濾過した後,エバポレーターにかけ溶媒を減圧留去して粘りのある固形物とし,さらに凍結乾燥することにより乾燥エキス(26.0g)を得た。高速液体クロマトグラフィーを用い,乾燥エキス中のルテオリンおよびアピゲニン含有量を測定した結果,それぞれ5.4μg/mg及び10.7μg/mgであった。
<試験薬剤の調製>
上記乾燥エキスを100mg/mlの濃度となるように基剤(蒸留水/エタノール/マクロゴール400=45/50/5 (v/v))と混合して試験薬剤とした。試験薬剤のルテオリン及びアピゲニンの濃度は,それぞれ,539.7μg/ml及び1073.6μg/mlであった(合計,1613.3μg/ml)。
〔薬効試験〕
ddy系雌性マウス(8週齢,体重約30g)を試験薬剤投与群(n=4)と対照群(n=4)とに分けた。マウス背部を除毛し,除毛部の皮膚表面に,群に応じて試験薬剤又は基剤を30μl塗布した。試験薬剤及び基剤の投与の60分後,塗布部位に,Compound 48/80の0.5%(w/v)溶液(生理食塩水に溶解)20μLを皮内投与し,その後30分間の掻把回数を目視にて計測した。結果を次の表3に示す。
Figure 2015188433
表3に見られるように,試験薬剤投与群では,対照群に比べてマウスの掻破回数は少なく,顕著な痒み抑制効果が認められた。Compound 48/80は,強力なヒスタミン遊離促進剤であり,同物質の皮内投与により引き起こされる痒みを試験薬剤が抑制したことは,試験薬剤が(従ってまた,使用した抽出物が),抗アレルギー剤として痒みの抑制に機能していることを示している。
本発明の,ツリフネソウ人工栽培方法は,抗アレルギー・抗炎症成分を含有し天然に自生するツリフネソウの安定な収穫を可能にし,更にそれら薬理活性成分の含量を高めたツリフネソウを収穫することも可能にすると共に,更には,ツリフネソウの葉の抽出物を含有する痒み抑制剤をも提供することから,医薬品,化粧品,健康食品などの分野において有用性が高い。

Claims (6)

  1. ツリフネソウ葉の生産方法であって,人工環境下にツリフネソウの栽培が行われるものであり,該栽培が,
    (a)水耕液として養液を用いて水耕栽培することによりツリフネソウを生育させるステップと,
    (b)水耕栽培したツリフネソウの葉を収穫するステップと
    を含むものである,生産方法。
  2. ツリフネソウ葉の生産方法であって,人工環境下にツリフネソウの栽培が行われるものであり,該栽培が,
    (a)水耕液として養液を用いて水耕栽培することによりツリフネソウを生育させるステップと,
    (b)ステップ(a)により育成させたツリフネソウを,葉の収穫に先立ち水耕液を養液から水に切り替えて少なくとも2日にわたり水耕栽培するステップと,そして
    (c)ステップ(b)により水耕栽培したツリフネソウの葉を収穫するステップと
    を含むものである,生産方法。
  3. ステップ(b)の水耕栽培における日長時間中のツリフネソウに対する照度が,少なくとも9000lxである,請求項1又は2の生産方法。
  4. ステップ(b)の水耕栽培における日長時間が,少なくとも17時間である,請求項1〜3の何れかの生産方法。
  5. ツリフネソウの葉の抽出物であって,該葉が,請求項1〜4の何れかの生産方法により生産されたものである,抽出物。
  6. 請求項5のツリフネソウの葉の抽出物を含んでなる痒み抑制剤であって,ルテオリン及びアピゲニンの合計含有量が少なくとも0.5mg/mlである,痒み抑制剤。
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