JP2015186472A - 家畜用乳頭パック材料 - Google Patents

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友康 永沢
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Abstract

【課題】家畜の、主として非搾乳期の乳牛の乳頭を乳房炎から予防するために使用される乳頭パックにおいて、長期間乳頭に密着し剥離しないゲル状パックを容易な操作により、瞬時に形成させることが可能である材料を提供する。
【解決手段】家畜の乳頭に密着させるゲル状パックを形成するための材料であって、水、多糖類高分子電解質を主成分とするゲル化溶液と、水、多価金属化合物を主成分とする硬化用溶液からなることを特徴とする家畜用乳頭パック材料。
【選択図】なし

Description

本発明は長期間乳頭に密着し剥離せず、その結果、長期間殺菌効果が持続する乳頭パックを形成させるための家畜用乳頭パック材料に関する。
乳牛の重大な疾病の一つに乳房炎がある。乳房炎は、細菌その他の微生物が乳頭口から乳房内へ侵入し、定着・増殖することによって起こる感染病であるが、その発生機序が複雑であるので、いまだに根絶できず、酪農界に重大な経済的損失を与え続けている疾病である。乳房炎には種々のタイプや症状があるが、乳房の発赤、疼痛、膨張、発熱或いは乳汁中への乳魂の出現等、いわゆる臨床症状をともなった乳房炎の発見は容易であり、抗生剤治療の普及につれて世界的にも減少傾向にある。しかし、これらの臨床症状を示さないが乳汁を検査すると体細胞数の増加等の異常が発見される、いわゆる潜在性乳房炎については、産乳量や乳質の低下等多大な経済的損失を及ぼしているにも係わらず、その防除は遅々として進んでいない。
このような乳房炎を防除するために、現在世界的に推奨されているのは「5ポイント」と呼ばれる下記のような重点対策である。
(1)ミルカーの点検整備を含めた搾乳施設等の衛生対策、
(2)乳頭の消毒、
(3)臨床型乳房炎の治療、
(4)乾乳期治療(dry cow therapy,DCT)
(5)問題牛の淘汰(以上、非特許文献1,2,3)
上記に挙げられた対策の中でも、乳牛の乳頭消毒は、乳房炎防除の最も重要な予防対策の一つであり、英国のDoddらが1952年に乳頭消毒剤を開発、実施し、日本では昭和40年頃より乳質改善事業の一環として使用が実施されるようになり、今日では40%の普及率となっている。
現在一般に実施されている乳頭消毒は、搾乳後に乳頭をディッピング剤(殺菌消毒剤水溶液)に浸漬する方法(所謂ポストディッピング)であり、乳頭皮膚表面に付着する乳房炎起因菌を殺菌消毒し、さらに保湿剤によりひび割れ等の乳頭皮膚の状態を改善し、乳頭表面の細菌の増殖を抑制することにより、乳房炎を予防することにあり、これまで、様々なポストディッピング剤が提案(たとえば特許文献1、特許文献2)されており、市場では多数の製品が市販されている。
しかしながら、米国のthe National Institute for Research in Dairyingにより実施された試験において、ポストディッピング実施乳牛群の12カ月間での新たな感染は50%減少したものの、それは既に感染していた乳房の全体からみると僅か14%の減少でしかなかった。このことから、既存菌による亜臨床型感染が持続したことが伺えたと報告している。即ち、このポストディッピングは、伝播性の乳房炎起因菌による新たな感染の率は減少させるものの、いわゆる環境性乳房炎の起因菌に対する防除効果に関しては、思ったほど効果が期待できないということである。
つまり、搾乳後の消毒(ポストディッピング)のみでは、その効果持続期間(例えば適用後、乳頭が牛床などに接触した際に、薬液が乳頭から除かれて効果が失われるまでに、1〜2時間)が比較的短いため、次の搾乳までに殺菌効果が消失してしまうため、環境性の起因菌に対しては、その効果に限界があった。
一方、乳房炎起因菌から乳牛の乳頭を守る手段として、乳牛の乳頭全体をマスキングすることにより、細菌その他の微生物が乳頭口から乳房内へ侵入するのを防止する技術が提案されている。
例えば、特許文献3は、「乳牛の乾乳期において、乳房炎に感染しやすい乾乳期の初めの約2日〜9日程度の間、及び分娩前約2日〜9日程度の間、乳頭を乳頭シール剤に浸漬して乳頭に乳頭口を閉塞する薄膜を形成した状態に保持しておくことにより、乳房炎起因菌の感染を物理的に阻止することを特徴とする乳牛の乳房炎予防方法。」を開示している。更に、特許文献3は、乳頭口を浸漬させる乳頭シール剤として、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、トリクロロエタン、トリクロロエチレン、メチレンクロライド等のフロン代替体、トルエン、キシレン等の芳香族化合物を溶媒として、ウレタンゴム、ラテックスゴム、ブタジエン樹脂、ポリビニルアルコール、液状ブチルゴム、液状ゴム、天然ゴム、ブチルゴム、ニトリルゴム、クロロプレンゴム、酢酸ビニルゴム等から選択されたゴム素材を5〜15%の濃度で溶解したものを記載している。しかしながら、特許文献3のゴム系素材は乳頭との密着性が不十分であるので、乳頭から剥がれ易く、乳房炎起因菌の感染を阻止する必要がある上記約2日〜約9日の期間、必ずしも乳頭口の閉塞を持続することができないという問題がある。
また、特許文献4は、「少なくとも、水、カルシウム塩およびアルギン酸塩を含み、かつ、ゲル化前の粘度が5000〜150万mPa・secである乳頭パック。」を開示しており、更に、該乳頭パック中にヨウ素などの抗菌剤を配合しておくことで、長期間乳頭を乳房炎起因菌などから保護できるとして提案されている。
しかし、特許文献4に記載されている乳頭パックでは、アルギン酸塩や硫酸カルシウム塩からなる粉末成分を使用直前に、水などの溶剤と混錬して得られるペーストを乳頭に塗布して使用すると説明されている。硫酸カルシウムは水に不溶、つまり疎水性成分であり、水などの親水性溶剤中に均一に分散させることは非常に難しく、所望の分散性を得るためには、術者に多大な労力及び熟練を要求するだけでなく、混錬の際には粉末成分が周囲に飛散してしまうという問題を有していた。
また、特許文献4には、粉末であるアルギン酸塩や硫酸カルシウム塩からなる成分をグリセリンやプロピレングリコールなどの親水性溶剤に予め分散させておくことで、上記問題が軽減されるとしてあるが、この場合であっても表面が疎水的である硫酸カルシウムを親水性溶剤中に分散させておくのが困難なため、経時的に沈降分離を起こしてしまう。その結果、場合によっては、使用する際(水と混錬する際)に、かえって分散性を損ねてしまい、混錬に時間がかかったり、気泡が混入したりして、得られる乳頭パックの均一性や硬化性が低下し、乳頭への密着性が悪化したり、乳頭から剥離し易くなったりしていた。 以上のように、乳頭パックには、(イ)殺菌消毒剤の効果が長期間持続すること、(ロ)乳頭に密着し、長期間乳頭から剥離しないこと、特に乳頭口を閉塞しておくこと、(ハ)簡便な操作により乳頭へのパックが可能であること等が望まれている。
特開平8−175989号公報 特開平11−155404号公報 特開2000−41529号公報 特開2006−50911号公報
畜産大事典編集委員会代表者長沢弘著、1996年2月20日、畜産大事典、株式会社養賢堂 酪農大事典生理・飼育技術・環境管理、2011年3月31日、社団法人農山漁村文化協会 株式会社講談社サイエンティフィック編、新編畜産ハンドブック、2006年9月10日、株式会社講談社
以上の背景にあって本発明は、家畜の、主として乳牛の乳頭を乳房炎から予防するために使用される乳頭パックにおいて、長期間乳頭に密着し剥離しないゲル状パックを容易な操作により、瞬時に形成させることが可能である家畜用乳頭パック材料を提供することを目的とする。
上記目的に鑑み鋭意研究の結果、本発明者は、水、多糖類高分子電解質から成る溶液と水、多価金属化合物から成る溶液から形成されるゲル状乳頭パックが、パック装着操作が簡便である上、乳頭への密着性が良く、また乾燥に強く長期間剥離しない事を見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、家畜の乳頭に密着させるゲル状パックを形成するための材料であって、(A−1)水、(B)多糖類高分子電解質を主成分とするゲル化溶液と、(A−2)水、(C)多価金属化合物を主成分とする硬化用溶液とからなる家畜用乳頭パック材料である。
本発明のパックは、パックの強度を高めるため、前記(B)多糖類高分子電解質が、アルギン酸又はその誘導体であることが好ましい。
本発明のパックは、パックの強度を高めるため、前記(C)多価金属化合物が、塩化カルシウム、炭酸水素カルシウム、乳酸カルシウムから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
本発明のパックは、パックを施すことによる殺菌消毒効果を高めるため、前記ゲル化溶液または硬化用溶液の少なくとも一方に(D)殺菌消毒剤を含有することが好ましい。
本発明のパックは、高い殺菌消毒効果を発揮させるため、前記(D)殺菌消毒剤がヨウ素系化合物であることが好ましい。
本発明のパック装着の一実施態様は、上記のいずれか一項に記載の家畜用乳頭パック材料を用い、乳頭に密着させるゲルを生成させることが好ましい。
本発明のパック装着の一実施態様は、(A−1)水、(B)多糖類高分子電解質を主成分とするゲル化溶液、及び(A−2)水、(C)多価金属化合物を主成分とする硬化用溶液の一方を乳用家畜の乳頭に浸漬させ、次いで他方を浸漬させることにより乳頭に密着させるゲル状パックを生成させることが好ましい。
本発明のパック装着の一実施態様は、乳用家畜の乳頭を殺菌消毒剤に接触させた後、(A−1)水、(B)多糖類高分子電解質を主成分とするゲル化溶液、及び(A−2)水、(C)多価金属化合物を主成分とする硬化用溶液の一方を乳用家畜の乳頭に浸漬させ、次いで他方を浸漬させることにより乳頭に密着させるゲル状パックを生成させることが好ましい。
本発明の乳頭パック材料は、溶液状であるため乳頭パックを装着する際に、粉成分が舞うなどの問題を生じず、誰でも簡単に、瞬時に各成分の均一性(分散性)に優れる乳頭パックを調製できる。また、パックは乳頭に密着し、長期間乳頭から剥がれることがない。そのため、乳牛を乳房炎などの感染症から効率的に予防することができ、極めて有望である。
本図は、「被膜形成性」の評価方法を説明する概念図である。
本発明の乳頭パック材料を用いると、簡便な手法により、家畜の乳頭に密着したゲル状パックが得られ、該ゲル状パックは長期間乳頭から剥がれることがない。ゲル状パックは、ゲル化溶液、硬化用溶液の一方を家畜の乳頭に浸漬し、次いで他方を浸漬することで、多価金属イオンと多糖類高分子電解質とのイオン結合に伴うゲル化反応により生成するため、非常に簡便な手法で得ることができる。
これにより、乳頭口付近が完全に密封されるため、乳房炎原生菌などの乳頭口への侵入を確実に防止する事が可能となる。
また、本発明の乳頭パック材は、使用直前の混練操作が不要であり、且つ、粉末形態ではない為、粉末成分などが周囲に飛散する心配も無く、混練不足による乳頭パックの不均一化や、気泡混入などの問題も解消される。
更に、乳用家畜の乳頭を殺菌消毒剤に接触させた後、乳頭パックを施すことで、殺菌消毒材が乳頭口付近に長時間保持されるため、乳頭口付近の殺菌消毒効果を長時間維持することが出来る。
本発明の家畜用乳頭パック材料は、(A−1)水、(B)多糖類高分子電解質を主成分とするゲル化溶液と、(A−2)水、(C)多価金属化合物を主成分とする硬化用溶液とからなる。ここで主成分とは、(A−1)水と(B)多糖類高分子電解質との合計量がゲル化溶液中の60質量%以上、好ましくは70質量%以上のことを意味し、(A−2)水と(C)多価金属化合物の合計量が硬化用溶液中の80質量%以上、好ましくは90質量%以上のことを意味する。
以下、本発明のゲル化溶液及び硬化用溶液の各構成成分について詳細に説明する。
(A)水
水は、(B)多糖類高分子電解質、(C)多価金属化合物を溶解して均一に分散させる溶媒の役割を果たし、また同時に多糖類高分子電解質と多価金属化合物との反応を促進する役割がある。
ゲル化溶液中における(A−1)水の配合量は、多糖類高分子電解質100質量部に対して、3000質量部〜9000質量部が好ましく、4000質量部〜6000質量部がより好ましい。
(A−1)水の配合量が多糖類高分子電解質100質量部に対して、9000質量部を超えて配合された場合、生成するゲルの強度が弱くなる傾向にある。また、水の配合量が多糖類高分子電解質100質量部に対して、3000質量部に満たない場合には、ゲル化溶液の粘度が高くなり、パック内への気泡混入の可能性が高くなる傾向にある。(A−1)水の配合量が多糖類高分子電解質100質量部に対して4000質量部〜6000質量部であれば、生成するゲルの強度がより強く、パック内への気泡混入がより生じ難くなる。
硬化用溶液中における(A−2)水の配合量は、多価金属化合物100質量部に対して、200質量部〜2000質量部が好ましく、200質量部〜1500質量部がより好ましい。水の配合量が多価金属化合物100質量部に対して、2000質量部を超えて配合された場合、生成するゲルの強度が弱くなる傾向にある。また、水の配合量が多価金属化合物100質量部に対して、200質量部に満たない場合には、多価金属化合物が十分に水に溶解しなくなる可能性を有する。
(B)多糖類高分子電解質
(C)多価金属化合物との反応により家畜の乳頭にゲル状パックを生成させるためにゲル化溶液中に多糖類高分子電解質を配合する。多糖類高分子電解質とは、水に溶解させたときに電離する官能基、例えば水酸基やカルボキシル基などを有する多糖類高分子又はその誘導体を指す。
多糖類高分子電解質として、アルギン酸又はその誘導体、サクラン、ムコ多糖タンパク(ヒアルロン酸等)、スルホン化アルキルセルロース、カルボキシメチルセルロース、デキストラン、カラギーナン、ジェランガム等が挙げられる。多糖類高分子電解質は二種以上の混合物であってもよい。
多糖類高分子電解質としてはアルギン酸又はその誘導体(以下単に「アルギン酸類」とよぶことがある)が、乳頭との密着性により優れ、且つ強度にも優れるゲル状パックを得る観点から好ましい。アルギン酸は、β-D-マンヌロン酸(M)とα-L-グルロン酸(G)の2種のブロックが(1-4)-結合した直線状のポリマーであり、その誘導体とは通常カルボン酸部分の反応物であり、アルギン酸塩、アルギン酸のエステル誘導体、アルギン酸のエーテル誘導体等が挙げられる。具体的には、アルギン酸塩としては、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム等のアルギン酸アルカリ金属塩;アルギン酸アンモニウム、アルギン酸トリエタノールアミン等のアルギン酸アンモニウム塩が挙げられる。アルギン酸のエステル誘導体としては、アルギン酸プロピレングリコール等のアルギン酸アルキレングリコールが挙げられ、アルギン酸のエーテル誘導体としては、プロピレングリコールアルギン酸エーテル等が挙げられる。中でもアルギン酸アルカリ金属塩がより好ましく、アルギン酸ナトリウムとアルギン酸カリウムが特に好ましく、ゲル化物の強度の観点からアルギン酸カリウムが最も好ましい。
アルギン酸類は、天然物及び合成品のいずれでも良い。代表的な天然物としては、アメリカ西海岸のマクロシスティス、南米チリのレッソニア、北欧のアスコフィラム等があるが、原料の海藻の種類や産地はいずれでも良い。また抽出方法については、アルカリ抽出法や熱水抽出法等があるが、特に規定されない。ゲル状パックを形成するために調製する本組成物の水練和物の粘度は、アルギン酸類の含有量だけでなくアルギン酸類の分子量にも大きく依存する。一般的には1万〜100万の広い範囲の質量平均分子量から採択される。水練和物を取扱い性に優れた一定の粘稠さを備えたものにするためには、上記質量平均分子量は2万〜30万の範囲であるのが好ましい。
アルギン酸の分子量としては、特にアルギン酸類の1質量%濃度水溶液の粘度(23℃)が0.5dPa・s〜10dPa・sの範囲である分子量が好適である。
多糖類高分子電解質は、通常、ゲル化溶液中に1〜5質量%の範囲で含まれているのが好ましい。
ゲル化溶液中に含まれる多糖類高分子電解質が1質量%未満の場合、生成するゲルの強度が弱くなる傾向にある。また、ゲル化溶液中に含まれる多糖類高分子電解質が5質量%を超えた場合、ゲル化液の粘度が高くなりパック中に気泡が入り易くなる傾向にある。
アルギン酸カリウムは、下記の構造式で示すように、β-D-マンヌロン酸(M)のカルボシキル基と、α-L-グルロン酸(G)のカルボキシル基にそれぞれカリウム(K)が結合した直鎖多糖類高分子で、その分子量は通常20,000〜250,000である。
Figure 2015186472
アルギン酸カリウムを水に溶解したときの-COOK基の電離平衡は下記の通りである。
Figure 2015186472
アルギン酸カリウムは水の存在下で-COO-、K+、H+、及びOH-の4種のイオンを発生し、これら4種のイオンが関係する(a)、(b)、(c)及び(d)の四個の電離平衡が可能である。そのため、水の存在下、ゲル化反応剤から生じた多価金属イオン、例えばカルシウムイオン(Ca2+)が介在すると、脱プロトン化したカルボキシル基(COO-)がCa2+とイオン結合して、下記式で示すような三次元ネットワーク構造のゲルを形成する。1個のCa2+を核として、1個の繰り返し単位が有する2個のカルボキシル基がイオン結合し、これらが複雑に重なり合って三次元ネットワーク構造のゲルを形成する。
Figure 2015186472
(C)多価金属化合物
多価金属化合物は、上記の(B)多糖類高分子電解質と反応しゲル状パックを形成する。これは、多価金属化合物が解離して二価以上の多価金属イオンを生成することにより、多糖類高分子電解質の分子鎖内又は分子鎖間にイオン結合を有する三次元ネットワーク構造を形成するためである。本発明に使用することができる多価金属化合物は、上記作用を有するものであれば、特に限定されること無く、既に公知のものすべてが使用できる。そのような多価金属化合物として、例えば、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化鉄、塩化スズ、塩化アルミニウム、塩化チタン、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸亜鉛、硫酸アルミニウム、硫酸鉄、硫酸ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化鉄、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化スズ、水酸化アルミニウム、水酸化鉄、水酸化ジルコニウム、水酸化スズ、酢酸カルシウム、酢酸亜鉛、乳酸カルシウム、乳酸亜鉛、フッ化チタン酸カリウムなどの2価以上の金属塩が挙げられる。これらの中でも、特に硬化時間の観点から、塩化カルシウム、酢酸カルシウム、乳酸カルシウムなどの2価の金属塩が好適である。また、これらの多価金属化合物は2種以上の混合物であっても良い。
多価金属化合物の配合量は特に制限されないが、通常硬化用溶液中に5〜35質量%の範囲で含まれているのが好ましい。
硬化用溶液中に多価金属化合物が35質量%を超えて配合される場合、多価金属化合物が十分に水に溶解しなくなる可能性を有する。また、硬化用溶液中に配合される多価金属化合物が5質量%に満たない場合には、生成するゲルの強度が弱くなる傾向にある。
[添加剤]
本発明のゲル化溶液及び硬化用溶液には、以上に説明した主成分としての各成分以外にも、必要に応じて各種の添加剤を配合することができる。添加剤としては、例えば、(D)殺菌消毒剤、保湿材、充填剤、増粘剤、有機溶剤、無機フッ素化合物、アミノ酸化合物、不飽和カルボン酸重合体、香料、着色料、防腐剤、pH調整剤等が挙げられる。
(D)殺菌消毒剤
乳頭パック装着による乳頭口付近の殺菌効果を持たせ、乳牛を乳房炎などの感染症からより効果的に予防するため、ゲル状パックに殺菌消毒剤を含めることが好ましい。殺菌消毒剤は、乳房炎などの病気を引き起こす各種の細菌、真菌、ウイルス等の広範囲の有害な微生物を死滅させることができるものであれば特に限定されず、例えば、ヨウ素化合物、銀、銅、亜鉛、チタン、鉄などの金属塩、茶葉粉末、ヒノキ粉末、キトサン、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、カプリル酸モノグリセリド、カプリン酸モノグリセリドなどの脂肪酸エステル、クエン酸、リンゴ酸、フマル酸、酒石酸、乳酸、グルコン酸、コハク酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸などのカルボン酸及びカルボン酸のナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、アンモニウム塩、鉄塩、コバルト塩、セリウム塩などのカルボン酸塩、トリクロサン、イソプロピルメチルフェノール、塩化セチルピリジニウム、レゾルシン、トリクロロカルバニド、ハロカルバン、クロルヘキシジン、塩酸クロルヘキシジン、グルコン酸クロルヘキシジン、アクリノール、次亜塩素酸ソーダ、過酸化水素等を例示することができる。
これらの中でも、ヒトあるいは家畜に対する皮膚刺激性や、殺菌消毒効果の持続性、およびコスト面における観点から、ヨウ素化合物が好適である。ヨウ素化合物としては、例えばヨウ素、ヨウ素酸ナトリウム、ヨウ素酸カリウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、ヨードホルムなどが挙げられる。
殺菌消毒剤の配合量は特に制限されないが、通常ゲル化溶液または硬化用溶液の少なくとも一方に0.1〜10質量%の範囲で含まれているのが好ましい。
[保湿材]
保湿材として非還元糖類などを配合することにより、硬化時の収縮や変形が一層小さく、乳頭に対する密着性が一層高く、長期間使用しても乾燥による変形が一層少ないゲル状パックを形成することができ好ましい。非還元糖類は、ゲル化溶液及び硬化用溶液の両方またはいずれかに添加しても良いが、より高い保湿効果をもたらす観点から、ゲル化溶液に入れるのがより好ましい。非還元糖としては、還元性を示さない公知の糖類であれば特に制限無く利用できる。ここで、「還元性」とは、アルカリ性水溶液中で、銀や銅等の重金属イオンに対して還元作用を示す性質を意味する。還元性を有する糖類は、重金属イオンに対する還元作用を利用したトレンス試薬、ベネジクト試薬又はフェーリング試薬によって検出される。これに対して、非還元糖は、これら試薬で検出できない糖類を意味する。
上述した特性を示す非還元糖としては、トレハロースやスクロース等の二糖類、ラフィノース、メレジトース、スタキオース、シクロデキストリン類等のオリゴ糖類等、公知の非還元糖が利用できる。しかし、非還元糖の分子量が大き過ぎる場合には、多糖類高分子電解質と非還元糖とが水素結合を形成して凝集してしまう可能性がある。したがって、非還元糖としては、グリコシド結合によって結合した2個〜10個の単糖分子から構成される糖が好ましく、二糖類がより好ましい。さらに、乳頭との密着性及び保湿性の点から、二糖類の中でもトレハロースが特に好ましい。
非還元糖の配合量は、ゲル化溶液又は硬化用溶液中に2〜40重量%の範囲で含まれているのが好ましく、8〜24重量%の範囲で含まれているのがより好ましい。この配合量を2重量%以上とすることにより、パック形成後にゲル状パックをより長時間放置しても、十分な保湿性が得られ、かつ成形精度の低下を抑制することができる。一方、この配合量を40重量%以下とすることにより、パック形成に際して、非還元糖が多糖類高分子電解質のゲル化反応を阻害するのを抑制することができる。
[充填材]
ゲル化溶液及び硬化用溶液の物性を調整するために充填材を用いても良い。充填材は、ゲル化溶液及び硬化用溶液の両方またはいずれかに添加しても良い。充填剤としては、珪藻土、タルク等の粘度鉱物を用いることが好ましく、シリカ、アルミナ等の金属または半金属の酸化物も用いることができる。充填剤の配合量は特に制限されるものではないが、ゲル化溶液及び硬化用溶液中に1〜20質量%の範囲で含まれているのが好ましく、2〜10重量%の範囲で含まれているのがより好ましい。
[増粘剤]
ゲル化溶液及び硬化用溶液の粘度を調整し、乳頭への溶液の歩留まりを改善するために、増粘剤を用いるのが好ましい。増粘剤は、下記に示す無機増粘剤、合成の石油をベースとする増粘剤のいずれかあるいは組み合わせて用いても良い。
無機増粘剤は、概して、コロイドケイ酸マグネシウムアルミニウム、コロイド粘土のような化合物であり、これらはヒューム処理するか、あるいは沈澱させて、大きい表面−サイズ比を有する粒子にされたものである。
合成の石油をベースとする水溶性ポリマーは、適当なモノマーの直接的重合により製造される。このモノマーの代表例は、ビニルアルコール、ビニルピロリドン、ビニルメチルエーテル、アクリル酸およびメタクリル酸、アクリルアミド、エチレンオキシド、およびエチレンイミンである。
[有機溶剤]
(C)多価金属化合物及び(D)殺菌消毒剤の分散性を向上させることで、多価金属イオンと多糖類高分子電解質のゲル化反応を促進させ、殺菌消毒作用を高めるために有機溶剤を用いても良い。有機溶剤は、ゲル化溶液及び硬化用溶液の両方、あるいはいずれかに添加しても良い。有機溶媒の種類は著しくヒト又は家畜に有害なものでない限り特に制限されないが、液分離の観点から親水性溶剤が好ましい。これらを例示すれば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ブテンジオール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオール、アリルアルコール、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−(メトキシエトキシ)エタノール、2−イソプロポキシエタノール、2−ブトキシエタノール、1−メトキシ−2−プロパノール、1−エトキシ−2−プロパノール、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、グリセリンエーテル等のアルコール類またはエーテル類、あるいはアセトン、メチルエチルケトン等のケトン類等が挙げられる。中でも、生体に対する為害作用の少ないものが望ましく、例としてはエタノール、プロパノール、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール等のアルコール類が好適である。
有機溶剤の配合量は特に制限されないが、一般的に、ゲル化溶液及び硬化用溶液中に、1〜30質量%の範囲で含まれているのが好ましく、2〜20質量%の範囲で含まれているのがより好ましい。
[無機フッ素化合物]
ゲル状パックの強度調節の観点から、フッ化チタンカリウム、ケイフッ化カリウム等の無機フッ素化合物、アミノ酸/ホルムアルデヒド縮合体等のアミノ酸化合物などを配合しても良い。また、ゲル状パックを構成する各成分を混合・練和した際、粘度の変化速度の制御を容易とするために、不飽和カルボン酸重合体を配合することもできる。
また、香料、着色料、防腐剤、pH調整剤等から選択されるいずれか1種または複数種の添加剤を必要に応じて配合することができる。
[調製方法及び使用方法]
(1)ゲル化溶液及び硬化用溶液の調製方法
ゲル化溶液及び硬化用溶液の調製方法は、特に制限されるものではないが、公知の攪拌混合機を用いて調製することが出来る。ここで、攪拌混合機としては、例えばボールミルのような回転容器型混合混錬機、リボンミキサー、コニーダー、インターナルミキサー、スクリューニーダー、ヘンシェルミキサー、万能ミキサー、レーディゲミキサー、バタフライミキサー、などの水平軸または垂直軸を有する固定容器型の混合混錬機を利用することが出来る。なお、硬化用溶液調製に関して(C)多価金属化合物が水に対して相対的に溶解性の高い場合は、溶解対象となる成分や、この成分が溶解した溶液に強いせん断力が加わらない攪拌装置を利用することもできる。このような攪拌装置としては、各種攪拌翼を備えた可搬型攪拌機、同堅型攪拌機、同側面攪拌機、管路攪拌機等を用いることが出来る。更に、ゲル化溶液や硬化用溶液の調製に関しては、上述した各種の混合攪拌機を2種類以上組み合わせて利用することもできる。
(2)ゲル状パック生成方法
本発明のゲル状パックは、少なくとも、(A−1)水、(B)多糖類高分子電解質を主成分とするゲル化溶液及び少なくとも、(A−2)水、(C)多価金属化合物を主成分とする硬化用溶液を調製しておき、片一方を乳頭に付着させ、次いで他方を付着させることにより生成する。ゲル化溶液を乳頭に付着させた後、硬化用溶液を乳頭に付着させるのが好ましい。生成したゲル状パックは、乳頭に密着し、長時間保持されるため、乳房炎原生菌などの乳頭口への侵入を防止できる。なお、ゲル化溶液や硬化用溶液を乳頭に付着させる前に、乳頭を殺菌消毒剤に接触させる態様が殺菌消毒効果を長時間維持することができるため好ましい。
被覆方法(付着方法)としては、浸漬法、はけ塗り法、噴霧法などが挙げられるが、特に制限されない。好ましくは浸漬法である。浸漬法を用いる場合のゲル化溶液及び硬化用溶液の粘度は、各溶液中に乳頭が容易に浸漬するように適宜選択すれば良い。浸漬法を用いる場合のゲル化溶液及び硬化用溶液の粘度は、23℃でコーンプレート型粘度計により測定した値で、50〜1500dPa・sの範囲にあるのが好ましい。なお、噴霧法を用いる場合のゲル化溶液及び硬化用溶液の粘度は、噴霧のし易さから50〜400dPa・sの範囲にあるのが好ましい。
浸漬法を用いる場合、例えば家畜の乳頭を収容可能な筒状又はカップ状の容器にゲル化溶液及び硬化用溶液をそれぞれ入れる。続いて、容器を乳頭の付け根方向に移動させ(引き上げ)、容器中の溶液に乳頭を浸漬した後、容器を乳頭先端方向に移動させる(引き下げる)操作をそれぞれの溶液について行う。浸漬は、乳頭長を100%として、長さ基準で、乳頭の5%以上が溶液に浸されるように行えば良い。浸漬時間は、ゲル化溶液、硬化用溶液それぞれについて乳頭に十分に付着させるため2秒以上が好ましい。
容器は清潔なものである限り、その材質は制限されず、金属、セラミック、プラスチック、紙などいずれでも使用できる。また、容器はゲル化溶液及び硬化用溶液の無駄を少なくするために、溶液を乳頭に付着させるために必要な最低限の内容積を有していればよい。円筒状又はカップ状容器の場合、内径が約4cm〜約6cmで、高さが約2cm〜約10cmのものを使用することが出来る。容器の内側に、適量の溶液を入れることができるようにした目印を備えていると便利である。
ゲル化溶液及び硬化用溶液を乳頭に均一に付着させるために、浸漬後に容器を乳頭先端方向に移動させる速度(引き下げる速度)は10〜100mm/秒とするのが好ましく、20〜50mm/秒とするのがより好ましい。ゲル化溶液又は硬化用溶液が乳頭に十分付着した状態で、他方の液を乳頭に付着させてゲル化させるために、2つの溶液を、間隔を置かずに乳頭に付着させるのが好ましい。ゲル化溶液と硬化用溶液の乳頭への付着量の比(ゲル化溶液/硬化用溶液 [質量部/質量部])は特に制限されるものではないが、通常は0.5〜2の範囲内であることが好ましい。
(3)家畜用乳頭パック
本発明の乳用家畜用ゲル状パックは、上記(2)のようにして、乳用家畜の乳頭に形成されることを特徴とする。乳用家畜用ゲル状パックは、乳用家畜の乳頭の保護に用いることができる。具体的には、伝染性乳房炎からの保護、環境性乳房炎からの保護、汚れその他の外的環境因子からの保護のために用いることができる。本発明において、乳用家畜とは、特に搾乳用家畜であり、例えば乳牛、山羊、その他搾乳が行われる家畜である。
以下、実施例1〜実施例18、及び実施例の効果などを検証するための比較例1〜比較例8を挙げて、本発明によるゲル化溶液と硬化用溶液の2液を用いる家畜の乳頭保護方法を具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
実施例1〜実施例18、及び比較例1〜比較例8において乳頭パック生成に用いた原料の略号及び「気泡混入の有無」、「被膜形成性」及び、「耐久性」の評価方法は以下の通りである。
<原料>
(B)多糖類高分子電解質
Alg−K:アルギン酸カリウム(23℃ 1%水溶液粘度 600mPa・sec)
Alg−Na:アルギン酸ナトリウム(23℃ 1%水溶液粘度 120mPa・sec)
<その他成分>
充填材
QS−102:粒径0.015μmの非晶質シリカ(メチルトリクロロシラン処理物)
MT−10:粒径0.02μmの非晶質シリカ(メチルトリクロロシラン処理物)
硫酸カルシウム:硫酸カルシウム二水和物
DGTOE:デカグリセリントリオレイン酸エステル
<評価方法>
(1)「気泡混入の有無」の評価方法
乳牛の乳頭の形状(内径3cmφ、長さ4cm)をした型の中に、歯科用親水性シリコーン印象材(GC社製 「フュージョンII」)を入れ、印象材が硬化後、型から取り出し、疑似乳頭を作製した。
実施例1〜実施例18においては、ゲル化溶液及び硬化用溶液をそれぞれ、カップ(内径6cmφ、長さ8cmの筒状容器)の中に満たした。次に、上記疑似乳頭の上端を持ち、カップに満たされたゲル化溶液に接触させた状態から、ゆっくり力を加えていき、乳頭すべてが隠れるまで差し込み、直ちに引き抜いた。続いて、同様の方法により、ゲル化溶液でコーティングされた疑似乳頭を硬化用溶液に浸漬させる事で、疑似乳頭周辺にゲルを生成させた。
比較例1及び比較例2においては、粉成分と液成分の重量比が1:15となるように混練用カップの中に量り取り、混練用ヘラを用いて均一なペーストとなるまで混練し、得られたペーストをカップの中に満たした。次に、疑似乳頭の上端を持ち、カップに満たされたペーストに接触させた状態から、ゆっくり力を加えていき、乳頭すべてが隠れるまで差し込み、直ちに引き抜き、ペーストを硬化させた(10分程度放置)。
比較例3〜比較例6においては、ゲル化溶液と硬化材ペーストを重量比が2:1となるように混練用カップの中に量り取り、混練用ヘラを用いて、気泡が入らないようにゆっくり混練することによって均一なペーストを得た。次に得られたペーストをカップの中に満たし、疑似乳頭を、カップに満たされたペーストに接触させた状態から、ゆっくり力を加えていき、乳頭すべてが隠れるまで差し込み、直ちに引き抜き、ペーストを硬化させた(10分程度放置)。
比較例7及び比較例8においては、ゲル化溶液及び硬化用溶液をそれぞれ、カップ(内径6cmφ、長さ8cmの筒状容器)の中に満たした。次に、上記疑似乳頭の上端を持ち、カップに満たされたゲル化溶液に接触させた状態から、ゆっくり力を加えていき、乳頭すべてが隠れるまで差し込み、直ちに引き抜いた。続いて、同様の方法により、ゲル化溶液でコーティングされた疑似乳頭を硬化用溶液に浸漬させた。
上述した方法にて生成させたゲル(疑似乳頭周辺に生成させたゲル)の内部を目視にて観察し、ゲル内部に混入する気泡の数をカウントし、下記評価基準に基づいて「気泡混入の有無」を評価した。
気泡混入の有無 評価基準:
A:疑似乳頭に形成された被膜の中に気泡が確認されない。
B:疑似乳頭に形成された被膜の中に10個未満の気泡が目視で確認される。
C:疑似乳頭に形成された被膜の中に10個以上の気泡が目視で確認される。
上述した「気泡混入の有無」の評価を10人に実施させ、評価結果を集計した。
(2)「被膜形成性」の評価方法
前述した「気泡混入の有無」評価後の疑似乳頭を用い、乳頭に形成されたゲル被膜を乳頭から、壊さないよう慎重に取り外し、疑似乳頭の底部、側面下部、側面中部、側面上部(図1参照)に形成していたゲル被膜の厚みを、各部位5カ所(各部位円周上、等間隔となるように選んだ5点)についてマイクロメーターを用いて測定した。なお、被膜厚さの測定は10個(10人作製分)すべてに対して実施し、それぞれの部位毎に平均値を算出し、各部位の被膜厚さとした。
(3)「耐久性」の評価方法
「気泡混入の有無」の評価方法で先述した疑似乳頭周辺にゲルを生成させる作業を別途10人に実施させ、乳頭周辺にゲルを形成させた疑似乳頭サンプルを得た。得られたサンプルを、疑似乳頭の乳頭側を下方にぶら下げた状態で23℃、相対湿度50%の条件下に放置し、経時的にゲル(乳頭パック)の状態を目視観察し、下記評価基準により評価した。 耐久性 評価基準:
○:乳頭との密着性も良好で、脱落も生じていない状態。
△:乳頭との密着性が損なわれているものの、脱落までには至っていない状態。(乳頭パックが下方に移動している。)
×:乳頭パックが乳頭から脱落した状態。
上記評価基準の○の状態が維持された日数をゲルの「耐久性」とし、10人分の評価結果を集計した。
実施例1
(A−1)蒸留水1200g、(B)アルギン酸カリウム重量30.0gをそれぞれ量りとり、これらを小型混練機(アイコー産業社製アイコーミキサー)に投入し気泡が混入しないように1時間混練しゲル化溶液を調製した。また、(A−2)蒸留水800g、(C)塩化カルシウム400gを量りとり、蒸留水に塩化カルシウムを少しずつ投入し30分間撹拌して完全に塩化カルシウムを溶解させ硬化用溶液を調製した。得られたゲル化溶液及び硬化用溶液を用いて、「気泡混入の有無」、「被膜形成性」及び、「耐久性」の評価を行った。
実施例2〜実施例18
ゲル化溶液及び硬化用溶液の組成を表1及び表2に示す内容に変更した以外は、実施例1と同様にして、ゲル化溶液及び硬化用溶液を調製した。得られたゲル化溶液及び硬化用溶液を用いて、「気泡混入の有無」、「被膜形成性」及び、「耐久性」の評価を行った。
比較例1
アルギン酸カリウム重量20.0g、塩化カルシウム200gをそれぞれ小型ミキサー(イワタニ社製 フードミキサー)に投入し5分間撹拌し、均一な粉成分を得た。また液成分として蒸留水1500gを用意した。粉成分及び液成分を用いて、「気泡混入の有無」、「被膜形成性」及び、「耐久性」の評価を行った。
比較例2
粉成分の組成を表3に示す内容に変更した以外は、比較例1と同様にして、粉成分を調製した。粉成分及び液成分を用いて、「気泡混入の有無」、「被膜形成性」及び、「耐久性」の評価を行った。
比較例3
ゲル化溶液は実施例1で調製したものを用いた。また硬化材ペーストは、流動パラフィン1050g、デカグリン120g、塩化カルシウム390g、QS−102 60.0g、MT−10 30.0gをそれぞれ量りとり、これらを小型混練機(アイコー産業社製アイコーミキサー)に投入し気泡が混入しないように1時間混練し調製した。ゲル化溶液及び硬化材ペーストを用いて、「気泡混入の有無」、「被膜形成性」及び、「耐久性」の評価を行った。
比較例4〜比較例6
ゲル化溶液は実施例1で調製したものを用いた。また硬化材ペーストは、組成を表4に示す内容に変更した以外は、比較例3と同様にして調製した。ゲル化溶液及び硬化材ペーストを用いて、「気泡混入の有無」、「被膜形成性」及び、「耐久性」の評価を行った。
比較例7
ゲル化溶液として蒸留水500gを用意した。硬化用溶液は実施例1で調製したものを用いた。
比較例8
ゲル化溶液は実施例1で調製したものを用いた。硬化用溶液として蒸留水500gを用意した。
実施例1〜実施例18および比較例1〜8の家畜用乳頭パック材料の組成を表1〜表5に示した。また、実施例1〜18および比較例1〜6における、「気泡混入の有無」、「被膜形成性」及び「耐久性」の評価結果を表6及び表7に示す。
Figure 2015186472
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実施例1〜実施例18は、本発明の要件全てを満足するように調製したものであるが、いずれの場合においても、いずれも気泡混入が少なく、均一な被膜が得られ、耐久性が高いとの結果が得られた。疑似乳頭にパックした後、少なくとも5日以上、乳頭口を保護できることが分かった。すなわち、パックが非常に簡便な手法で形成され、長期間乳頭へ密着しうることが示された。
実施例6〜実施例8は、ゲル化溶液または硬化用溶液の少なくとも一方に(D)殺菌消毒剤を配合したものであるが、実施例1〜実施例5と同様にいずれも気泡混入が少なく、均一な被膜が得られ、耐久性が高いとの結果が得られた。
実施例9〜実施例12は、ゲル化溶液に各種添加成分を配合した例であるが、乳頭パックの耐久性が更に向上することが分かった。
これに対して、比較例1および比較例2は実施例とパックが同様の組成になるように粉成分と液成分を調製し、予め混練して使用した場合であるが、混錬時に気泡が多く混入し、また混錬物の粘度が均一でない為、疑似乳頭に均一な厚みのパック層を形成することができず、パックが一部剥がれを生じたり、1日未満でひび割れるなど、パックの耐久性が著しく低下していることがわかる。
比較例3〜比較例6は実施例とパックが同様の組成になるようにゲル化溶液と硬化材ペーストを予め混錬して使用した場合であるが、混錬時に気泡が多く混入し、また混錬物の粘度が均一でない為、疑似乳頭に均一な厚みのパック層を形成することができず、パックが部分的に剥離を生じたり、1日未満でひび割れるなど、パックの耐久性が著しく低下していることがわかる。
比較例7は本発明の(B)多糖類高分子電解質を使用しなかった場合であるが、パックが形成されなかったため、各種評価が出来なかった。
比較例8は本発明の(C)多価金属化合物を使用しなかった場合であるが、比較例7と同様にパックが形成されなかったため、各種評価が出来なかった。

Claims (8)

  1. 家畜の乳頭に密着させるゲル状パックを形成するための材料であって、(A−1)水、(B)多糖類高分子電解質を主成分とするゲル化溶液と、(A−2)水、(C)多価金属化合物を主成分とする硬化用溶液とからなる家畜用乳頭パック材料。
  2. 前記(B)多糖類高分子電解質が、アルギン酸又はその誘導体である請求項1に記載の家畜用乳頭パック材料。
  3. 前記(C)多価金属化合物が、塩化カルシウム、酢酸カルシウム、乳酸カルシウムから選ばれる少なくとも1種である請求項1又は請求項2に記載の家畜用乳頭パック材料。
  4. 前記ゲル化溶液または硬化用溶液の少なくとも一方に(D)殺菌消毒剤を含有させた請求項1〜3のいずれか一項に記載の家畜用乳頭パック材料。
  5. 前記(D)殺菌消毒剤がヨウ素系化合物である請求項4に記載の家畜用乳頭パック材料。
  6. 請求項1〜5のいずれか一項に記載の家畜用乳頭パック材料を用い、乳頭に密着させるゲルを生成させることを特徴とする乳用家畜の乳房炎予防方法。
  7. (A−1)水、(B)多糖類高分子電解質を主成分とするゲル化溶液、及び(A−2)水、(C)多価金属化合物を主成分とする硬化用溶液の一方を乳用家畜の乳頭に浸漬させ、次いで他方を浸漬させることにより乳頭に密着させるゲル状パックを生成させることを特徴とする乳用家畜の乳房炎予防方法。
  8. 乳用家畜の乳頭を殺菌消毒剤に接触させた後、(A−1)水、(B)多糖類高分子電解質を主成分とするゲル化溶液、及び(A−2)水、(C)多価金属化合物を主成分とする硬化用溶液の一方を乳用家畜の乳頭に浸漬させ、次いで他方を浸漬させることにより乳頭に密着させるゲル状パックを生成させることを特徴とする乳用家畜の乳房炎予防方法。
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