JP2015164891A - リチウムマンガンニッケルコバルト系複合酸化物の製造方法 - Google Patents

リチウムマンガンニッケルコバルト系複合酸化物の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】Li−Mn−Ni−Coの4元系複合酸化物であって、リチウムイオン二次電池の活物質に適用した場合に、電池の機能、特にサイクル特性に優れるLi−Mn−Ni−Coの4元系複合酸化物の簡便かつ安価な製造方法を提供すること。【解決手段】Li−Mn−Niの3元系複合酸化物、Li−Mn−Coの3元系複合酸化物およびLi−Ni−Coの3元系複合酸化物の生成量が少ない、リチウムマンガンニッケルコバルト系複合酸化物の製造方法であり、当該複合酸化物は、Li:Mn:Ni:Coがモル比で3:1:1:1になるように、リチウム化合物、マンガン化合物、ニッケル化合物およびコバルト化合物を、粉砕混合した後、酸化性雰囲気下でマイクロ波を照射して焼成することにより製造される。【選択図】なし

Description

本発明は、リチウムマンガンニッケルコバルト系複合酸化物の製造方法に関する。詳細には、マイクロ波焼成を採用することで、Li−Mn−Ni−Coの4元系複合酸化物中に混在しうる3元系複合酸化物、具体的には、Li−Mn−Ni系複合酸化物、Li−Mn−Co系複合酸化物およびLi−Ni−Co系複合酸化物の生成が抑制される、サイクル特性に優れるリチウムマンガンニッケルコバルト系複合酸化物の製造方法に関する。
近年、AV機器、パソコン、通信機器などのポータブル化あるいはコードレス化が急速に進展している。これらの電子機器あるいはその動力用の駆動機器用電源として、高エネルギー密度で負荷特性の優れた二次電池が要望され、特に高電圧、高エネルギー密度でサイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池の利用が拡大している。そして、電子機器や通信機器のより一層の多機能化、電気自動車や大型電力貯蔵装置などの新たな分野での利用に対応するため、リチウムイオン二次電池のさらなる高機能化、低価格化が望まれており、リチウムイオン二次電池を構成する各部材にはコスト・バイ・パフォーマンスの一層の向上が求められている。
リチウムイオン二次電池の電極材料である活物質の一つとして、LiCoOの組成で表される、リチウムコバルト系複合酸化物が知られている。しかしながら、コバルトは資源の量に制約があり、そのため高価でもあることから、コバルトに替わる金属を用いたリチウム遷移金属複合酸化物の開発が行われている。
こうしたリチウム遷移金属複合酸化物として、例えば、マンガンを用いたLiMnなどのリチウムマンガン系複合酸化物、ニッケルを用いたLiNiOなどのリチウムニッケル系複合酸化物、あるいはLi−Mn−Niなどの3元系複合酸化物、さらにはLi−Mn−Ni−Coなどの4元系複合酸化物などが検討されている。
これらのリチウム遷移金属複合酸化物の中でも、特にLi−Mn−Ni−Coの4元系複合酸化物は、リチウムイオン二次電池の正極活物質として用いた場合に放電容量、サイクル安定性、コストなどの面でバランスのとれた材料として注目されており、Mn、NiおよびCoの各元素のモル比が異なる様々な組成のLi−Mn−Ni−Coの4元系複合酸化物が提案されている。
様々な組成のLi−Mn−Ni−Coの4元系複合酸化物のうち、Mn:Ni:Coのモル比が等しい4元系複合酸化物として、例えば、特許文献1には、LiNi1/3Co1/3Mn1/3、特許文献2には、Li1.05Ni1/3Mn1/3Co1/3、また、特許文献3には、Li:Ni:Mn:Coのモル比が1.07:0.33:0.34:0.33のLi−Mn−Ni−Co4元系複合酸化物が開示されている。
しかしながら、特許文献1に開示されたLi−Mn−Ni−Co4元系複合酸化物は、Mn、NiおよびCoの塩の水溶液から、共沈法によりNi−Co−Mn複合水酸化物を作製し、これを焼成してNi−Co−Mn複合酸化物に変換した後、Li化合物と混合して再度焼成することで製造されるため、製造工程が極めて煩雑である。
特許文献2に開示されたLi−Mn−Ni−Co4元系複合酸化物は、Ni化合物、Mn化合物およびCo化合物の混合スラリーを調製し、該スラリーを噴霧乾燥した後、焼成して、Ni−Co−Mn複合酸化物に変換した後、Li化合物と混合して再度焼成することで製造されるため、製造工程が極めて煩雑である。
特許文献3に開示されたLi−Mn−Ni−Co4元系複合酸化物の製造法は、焼成工程は1度だけであるが、Mn、NiおよびCoの塩の水溶液から、共沈法によりNi−Co−Mn複合水酸化物を作製した後、Li化合物と混合して焼成するので、やはり煩雑な工程を必要とするものである。
一方、Li化合物、Mn化合物、Ni化合物およびCo化合物を、粉末状態で混合し、加熱して焼成するという簡便な工程でLi−Mn−Ni−Co4元系複合酸化物を得ることはできる。しかし、焼成を電気炉などの外部加熱方式により実施した場合、生成したLi−Mn−Ni−Co4元系複合酸化物を活物質として用いたリチウムイオン二次電池では、充放電を繰返すことにより容量が著しく低下する場合があり、サイクル特性に問題がある。この原因は定かではないが、4元系複合酸化物と3元系複合酸化物の結晶構造が異なるために、活物質が安定な結晶構造をとることができなくなることに起因するものと思われる。
特開2003−242976号公報(実施例1等) 特開2011−105594号公報(実施例1等) 特開2012−109191号公報(実施例5等)
本発明は、Li−Mn−Ni−Coの4元系複合酸化物であって、リチウムイオン二次電池の活物質に適用した場合に、電池の機能、特にサイクル特性に優れるLi−Mn−Ni−Coの4元系複合酸化物の簡便かつ安価な製造方法を提供することを目的とする。
上記課題を解決するため、本発明者は鋭意検討を行い、Li−Mn−Ni−Coの4元系複合酸化物中に混在しうる、Li−Mn−Ni、Li−Mn−CoおよびLi−Ni−Coの3元系複合酸化物の量をできるだけ抑えればよいこと、そしてそのためには、粉砕混合したリチウム化合物、マンガン化合物、ニッケル化合物およびコバルト化合物の焼成をマイクロ波照射で行えばよいことを知見し、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、リチウムマンガンニッケルコバルト(Li−Mn−Ni−Co)系複合酸化物の製造方法であって、Li:Mn:Ni:Coがモル比で3:1:1:1になるように、リチウム化合物、マンガン化合物、ニッケル化合物およびコバルト化合物を、粉砕混合した後、酸化性雰囲気下でマイクロ波を照射して焼成することを特徴とする製造方法を提供する。
リチウムマンガンニッケルコバルト系複合酸化物の好ましい組成は、LiMn1/3Ni1/3Co1/3である。
リチウムマンガンニッケルコバルト系複合酸化物は、該複合酸化物中に混在しうるLi−Mn−Niの3元系複合酸化物、Li−Mn−Coの3元系複合酸化物およびLi−Ni−Coの3元系複合酸化物系の量が抑制されたものであり、その合計量が7質量%以下である。
リチウム化合物が炭酸リチウム(LiCO)であり、マンガン化合物が酸化マンガン(MnもしくはMnO)であり、ニッケル化合物が水酸化ニッケル(Ni(OH))であり、コバルト化合物が酸化コバルト(CoO)であることが、最も好ましい。
焼成温度は550℃〜900℃であることが好ましい。
本発明に係るリチウムマンガンニッケルコバルト系複合酸化物の製造方法によれば、Li−Mn−Niの3元系複合酸化物、Li−Mn−Coの3元系複合酸化物およびLi−Ni−Coの3元系複合酸化物の生成を抑制できるので、均質で均一な結晶構造のLi−Mn−Ni−Coの4元系複合酸化物を提供することができる。当該複合酸化物は、放電電圧および放電容量が高く、サイクル特性に優れる活物質となり得、リチウムイオン二次電池などに好適に用いることができる。
また、本発明に係るリチウムマンガンニッケルコバルト系複合酸化物の製造方法によれば、マイクロ波を利用することにより、微細な結晶構造まで規則正しく構築することができる。ナノ粒子の粒径精密制御が可能である。
(A)本発明例の複合酸化物の電子顕微鏡写真。(B)比較例の複合酸化物の電子顕微鏡写真。 本発明例の複合酸化物を正極活物質とする電池の充放電曲線。 本発明例の複合酸化物を正極活物質とする電池の正極サイクル特性。
本発明に係るLi−Mn−Ni−Coの4元系複合酸化物は、Mn、NiおよびCoの合計モル数とLiのモル数が等しい、モル比として、Li:(Mn+Ni+Co)=1/1の化合物である。
Li以外の元素であるMn、NiおよびCoのモル比は、製造時において、上記3元系複合酸化物の生成が抑制され易いこと、バランスのとれた電池機能が発揮され易いこと等の点から、Mn:Ni:Co=1:1:1であることが好ましい。即ち、Mn、NiおよびCoのモル比が等しく、かつ、Mn、NiおよびCoの合計モル数とLiのモル数が等しい、組成が LiMn1/3Ni1/3Co1/3で示される Li−Mn−Ni−Coの4元系複合酸化物が好ましい。
本発明に係るLi−Mn−Ni−Coの4元系複合酸化物において、その中に混在しうるLi−Mn−Niの3元系複合酸化物、Li−Mn−Coの3元系複合酸化物およびLi−Ni−Coの3元系複合酸化物の量は、混合生成物であるLi−Mn−Ni−Coの4元系複合酸化物、すなわち、Li−Mn−Ni−Coの4元系複合酸化物と前記の3元系複合酸化物との合計量に対して、合計で7質量%以下であることが望ましい。上記3種類の3元系複合酸化物の量が合計で約7質量%以下であれば、4元系複合酸化物の活物質としての特性、即ちサイクル特性を各段に向上させることが可能となる。より好ましくは5質量%以下、特に好ましくは3質量%以下である。
上記3種類の3元系複合酸化物の組成は、それぞれ一般式、LiMn1−xNi、LiMn1−yCo、LiNi1−zCoで表される。組成は、原料となるリチウム化合物、マンガン化合物、ニッケル化合物およびコバルト化合物の仕込みモル比と一致するとは限らず、それぞれ、原料化合物の種類あるいは焼成条件によって若干変化することがある。
本発明において、Li−Mn−Ni−Coの4元系複合酸化物中に混在する3元系複合酸化物の量は、XRD(粉末X線回折)、XRF(蛍光X線)、EPMA(電子線プローブマイクロアナライザー)などにより求めることができる。
Li−Mn−Niの3元系複合酸化物、Li−Mn−Coの3元系複合酸化物およびLi−Ni−Coの3元系複合酸化物は、リチウムイオン二次電池の活物質としての機能を発揮するものと思われる。しかし、これらの複合酸化物が、Li−Mn−Ni−Coの4元系複合酸化物中に混在した場合に、活物質としての機能、特にサイクル特性が低下する理由は定かではない。
おそらく、Li−Mn−Ni−Coの4元系複合酸化物、ならびにLi−Mn−Ni、Li−Mn−CoおよびLi―Ni−Coの3元系複合酸化物は、いずれも層状岩塩型の結晶構造を有しており、3元系複合酸化物はLi−Mn−Ni−Coの4元系複合酸化物が形成する結晶構造中に局所的に取り込まれる形で存在すると考えられる。
しかし、4元系複合酸化物と3元系複合酸化物では、結晶の格子定数が異なるため、3元系複合酸化物が存在することで、4元系複合酸化物が形成する結晶構造に部分的に歪みが生ずることになる。そのため、充放電によるLiの脱離・挿入を繰り返すと、この結晶構造の歪みが拡大され、やがては結晶構造の破壊に繋がり、充放電機能の低下に繋がるものと考えられる。3元系複合酸化物の混在量が多くなる程、4元系複合酸化物の結晶構造中に存在する歪みの領域が多くなるため、充放電の繰り返しで結晶構造が破壊される確率も高くなり、充放電機能が早く失われることで電池のサイクル特性の低下が顕著になるものと推定される。
本発明に係るLi−Mn−Ni−Coの4元系複合酸化物において、混在しうるLi−Mn−Niの3元系複合酸化物、Li−Mn−Coの3元系複合酸化物およびLi−Ni−Coの3元系複合酸化物の合計量を7質量%以下に抑制するには、マイクロ波照射を採用することが重要である。これにより、電気炉などの外部加熱方式で焼成した場合に比べて、副生する3元系複合酸化物の量を大幅に抑制することが可能となる。
本発明に係るリチウムマンガンニッケルコバルト系複合酸化物の製造方法では、原料となるリチウム(Li)化合物、マンガン(Mn)化合物、ニッケル(Ni)化合物およびコバルト(Co)化合物の粉末を、従来公知の方法で粉砕混合した後、酸化性雰囲気で、マイクロ波を照射して焼成する。焼成は一般的にマイクロ波焼成炉等を用いて実施できる。
マイクロ波照射による加熱は、電気炉などの輻射による加熱に比べて、被加熱物質の内部まで迅速に加熱されることはよく知られている。照射するマイクロ波の出力(被加熱物質の昇温速度)、マイクロ波の照射方法(連続あるいは断続)などの加熱条件が結晶性化合物の生成状況に及ぼす影響は不明である。
本発明において、Li−Mn−Ni、Li−Mn−CoおよびLi−Ni−Coの3元系複合酸化物の生成が抑制される理由は定かではない。
マイクロ波は、瞬間的に被加熱物質である原料粉末中に浸透し、原料粉末は均一に加熱される。この時、遷移金属であるMnやNi、Coの化合物は、Liよりもマイクロ波を吸収しやすいので、より高温となり、Li化合物との間で局所的な温度差が生じる。そのため、いわゆる固相拡散によりMn、NiおよびCoの原子あるいはイオンが、それぞれMn化合物粒子中、Ni化合物粒子中およびCo化合物粒子中を拡散し、Li化合物粒子中へ移動することで、4種類の金属の反応が同時に起こり、Li−Mn−Ni−Coの4元系複合酸化物が生成し易くなる。一方、Li−Mn−Ni、Li−Mn−CoあるいはLi−Ni−Coの3元系複合酸化物の反応は、停止ないし抑制されるものと推察される。
これに対して、従来の電気炉、ガス炉などによる外部加熱の場合には、原料粉末の集合体の内部に存在する粒子は、当該粒子の外側に存在する当該粒子と接触している粒子からの伝熱により加熱されるので、原料粉末の集合体はその外側部分から加熱され、徐々に内部が加熱されて行くことになる。また、原料粉末の個々の粒子も、まず粒子表面が加熱された後、粒子内部が伝熱により徐々に加熱されて行く。
したがって、Mn化合物、Ni化合物、およびCo化合物が均等に加熱されるとは限らず、またMnやNi、Coの遷移金属化合物がLi化合物より加熱され易いということもないので、マイクロ波照射のような固相拡散による反応は期待できない。そのため、反応は、温度が上昇した粒子同士からランダムに進行することになり、Li−Mn−Ni、Li−Mn−CoあるいはLi−Ni−Coの3元系複合酸化物の状態で反応が停止する頻度が高くなるものと推察される。
加えて、マイクロ波照射の場合には、前記したように固相拡散で反応が進行すると思われるので、微細な結晶構造まで規則正しく構築することができる。つまり、Li化合物粒子の中に、Mn、Ni、Coの原子やイオンが浸透して行くにつれて、Mn化合物、Ni化合物およびCo化合物の粒子は、縮小し、消滅して行くので、粒子同士の融着による凝集は起こり難く、粒子径の小さなLi−Mn−Ni−Coの4元系複合酸化物が得られるようになる。
これに対して、外部加熱の場合には、反応は接触している粒子表面から起こり、伝熱により内部が昇温されるにつれ、粒子が相互に混ざり合いながら反応が進行するので、粒子同士が融着して凝集した二次粒子となり易く、得られるLi−Mn−Ni−Coの4元系複合酸化物は、粒子径が大きくかつ粒度分布のバラツキが大きくなり易い。
本発明に係るLi−Mn−Ni−Coの4元系複合酸化物の製造に用いるLi化合物としては、水酸化リチウム(LiOH)、水酸化リチウム・1水和物(LiOH・HO)、炭酸リチウム(LiCO)、酸化リチウム(LiO)、硝酸リチウム(LiNO)、酢酸リチウム(CHCOLi)などが挙げられるが、これらの中でも、LiOHやLiCOが好ましい。水難溶性の炭酸リチウム(LiCO)が特に好ましい。
Mn化合物としては、三酸化二マンガン(Mn)、二酸化マンガン(MnO)、オキシ水酸化マンガン(MnO(OH))、炭酸マンガン(MnCO)、硝酸マンガン(Mn(NO)、酢酸マンガン((CHCOMn)などが挙げられるが、これらの中でも、水難溶性のMnやMnOが好ましい。
Ni化合物としては、水酸化ニッケル(Ni(OH))、酸化ニッケル(NiO)、オキシ水酸化ニッケル(NiO(OH))、炭酸ニッケル(NiCO)、硝酸ニッケル・6水和物(Ni(NO・6HO)、シュウ酸ニッケル・2水和物(NiC・2HO)などが挙げられるが、これらの中でも、Ni(OH)やNiO、NiO(OH)が好ましい。水難溶性の水酸化ニッケル(Ni(OH))が特に好ましい。
Co化合物としては、水酸化コバルト(Co(OH))、酸化コバルト(CoO)、三酸化二コバルト(CoO(OH))、硫酸コバルト・7水和物(CoSO・7HO)、酢酸コバルト・4水和物((CHCOCo・4HO)などが挙げられるが、これらの中でも、Co(OH)、CoO、CoO(OH)が好ましい。水難溶性の酸化コバルト(CoO)が特に好ましい。
本発明において、Li化合物、Mn化合物、Ni化合物およびCo化合物の粉砕混合方法として、従来公知の湿式粉砕または乾式粉砕を用いることができ、必要に応じて分散剤を添加することができる。粉砕混合方法は特に限定されるものではなく、ボールミル、振動ボールミル、ハンマーミル、撹拌ミル、ライカイ機、遊星粉砕機などを用いる方法が挙げられる。
粉砕混合した粒子の平均粒径は、50μm以下にすることが好ましく、より好ましくは0.1〜50μm、特に好ましくは0.1〜10μmである。平均粒径が50μm以下となることで、電極活物質としても機能、例えばサイクル特性を担保し易くなる。即ち、その後のマイクロ波照射による焼成によって生成する、Li−Mn−Ni−Coの4元系複合酸化物の粒子径を細かくすることができ、電池のサイクル特性などを確保し易くなる。粉砕混合に要する時間は、使用する装置や原料化合物の種類により異なり、所望の平均粒径に応じて適宜決定する。
粉砕混合後のLi化合物、Mn化合物、Ni化合物およびCo化合物は、粒子径や粒子形状などに微細なバラツキを有する状態で混合されていることがある。このような場合、外部加熱の場合には、粒子の大きさが異なれば粒子内部の昇温状況に差異が生じ、また粒子形状が異なれば粒子の接触状態が変化して伝熱状態に差異が生じるため、焼成温度や昇温速度などの焼成条件が同じでも、それぞれの粒子の加熱状態が同じになるとは限らず、副生する3元系複合酸化物の量にバラツキが生じ、Li−Mn−Ni−Coの4元系複合酸化物を再現性よく製造することが難しくなる。
一方、マイクロ波照射による焼成では、原料化合物粒子の加熱は、前記したようにマイクロ波が粒子内部まで浸透し、浸透したマイクロ波を原料化合物が吸収して発熱することによって生じるので、粒子径や粒子形状のバラツキの影響を受け難い。マイクロ波の照射条件を適宜調整することで、Li−Mn−Ni−Coの4元系複合酸化物を再現性よく製造することができる。製造される4元系複合酸化物は、粒子径が1μm以下のナノ粒子であり、粒子径がほぼ均一である。
粉砕混合が終了した後は、粉砕混合物を耐熱性の容器に移し、マイクロ波発振器を有する焼成炉内でマイクロ波を照射し、酸化性雰囲気下で熱処理を行う。酸化性雰囲気とは、酸素含有雰囲気下のことであり、安全性などを考慮すると酸素濃度10〜50体積%の雰囲気が好ましく、空気雰囲気下が最も好ましい。
照射するマイクロ波の周波数および出力は、適宜設定するが、周波数は1〜300GHz、出力は10W〜20kWの範囲で行うのが好ましい。通常、周波数2.45GHzのマイクロ波を照射する。
耐熱性の容器は、耐熱性の容器であれば特に限定されず、ガラス製あるいはセラミック製の容器等を用いることができる。
マイクロ波発振器を有する焼成炉として、市販のマイクロ波焼成炉などを用いることができ、型式などは特に限定されない。
混合粉体がマイクロ波を吸収することにより発熱し焼成が開始されるとともに、焼成炉内の温度が上昇する。焼成温度(炉内温度)は、550℃〜900℃となるようマイクロ波の照射を制御することが好ましく、より好ましくは600℃〜800℃、さらに好ましくは600〜700℃、特に好ましくは600〜650℃である。焼成温度が高すぎると、伝熱によるLi化合物粒子の加熱が促進され、Mn化合物、Ni化合物およびCo化合物との間の温度差が縮小して固相拡散が妨げられ、4元系のLi−Mn−Ni−Co系複合酸化物の生成量が減少し、結果的に3元系複合酸化物の生成量が多くなる。反対に焼成温度が低すぎると、MnやNiあるいはCoの原子やイオンの固相拡散自体が起こりにくくなることで、やはり4元系のLi−Mn−Ni−Co系複合酸化物の生成量が減少し、結果的に3元系複合酸化物の生成量が多くなる。
焼成の時間は、温度により異なり特に限定されない。
焼成時の昇温速度および降温速度は、通常、1〜10℃/分で行うことが好ましい。昇温速度があまり遅すぎると時間が掛かり工業的に不利益となる。昇温温度が速すぎると、炉内温度が設定温度に追従しなくなるだけでなく、特に混合粉体の平均粒径が大きい場合に反応が不均一になり易い。焼成時の昇温速度および降温速度は、3〜7℃/分で行うことがより好ましい。
また、マイクロ波照射は、PID制御により行うことが望ましい。すなわち、炉内温度測定センサーとマイクロ波発振器のスイッチを連動させ、炉内温度が所定温度±1℃になるようにマイクロ波発振器のスイッチをオンオフすることにより制御する。
本発明に係るリチウムマンガンニッケルコバルト系複合酸化物の製造方法により得られたLi−Mn−Ni−Co系複合酸化物は、容量が高く、サイクル特性にも優れているため、リチウムイオン二次電池用正極材料等として好適である。
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
(実施例1)
Li−Mn−Ni−Coの4元系複合酸化物の製造に用いる原料は、すべて和光純薬工業(株)製のものとし、各原料を、Li:Mn:Ni:Co=3:1:1:1の割合で分取した。
炭酸リチウム(LiCO)(純度99.0%)7.74g
酸化マンガン(IV)(MnO(IV))(純度99.5%)2.99g
水酸化ニッケル(II)(Ni(OH)(II))(純度95.0%)3.34g
酸化コバルト(II)(CoO(II))2.57g
分取した原料をメノウ乳鉢に移し、約10分間、乾式で粉砕混合した。粉砕混合した原料をアルミナ製るつぼに入れ、マイクロ波焼成炉((株)共栄電気炉製作所製)を用いて、空気雰囲気下で焼成した。焼成温度は600℃、焼成時間は1時間とした。焼成時の昇温速度および降温速度は5℃/分で実施し、この間、継続してマイクロ波を照射した。
作製したLi−Mn−Ni−Coの4元系複合酸化物をメノウ乳鉢に移し、約15分間、乾式で粉砕した。
得られたLi−Mn−Ni−Coの4元系複合酸化物は正極活物質とし、導電助剤としてアセチレンブラック(キシダ化学(株))、結着剤としてポリフッ化ビニリデンを1−メチル2−ピロリドンに均一に分散させたバインダー((株)クレハ)、分散剤として1−メチル2−ピロリドン(和光純薬工業(株))を共にホモジナイザーで粉砕混合することにより正極スラリーを作製し、このスラリーをアルミ箔上に塗布および乾燥することで正極集電体を作製した。
負極活物質はグラファイト(和光純薬工業(株))とし、結着剤としてポリフッ化ビニリデンを1−メチル2−ピロリドンに均一に分散させたバインダー((株)クレハ)、分散剤として1−メチル2−ピロリドン(和光純薬工業(株))と共にホモジナイザーで粉砕混合することにより負極スラリーを作製し、このスラリーを銅箔上に塗布および乾燥することで負極集電体を作製した。
得られた集電体の一部を切り出し、電流取り出し口となる電極タブ(端子)を取り付け、正極電極および負極電極を作製した。このとき、正極集電体にはアルミ端子、負極集電体にはニッケル端子をそれぞれ超音波溶接した。
作製した正極電極および負極電極を対向させ、この間にセパレータを配置することで、電極積層体を作製した。この積層体を袋状に加工したアルミラミネートフィルム(富士加工紙(株))に収納し、熱シールを行うことで積層体をアルミラミネートフィルムに固定した。
上記のように作製されたラミネートセルに電解液(1mol/L LiPF/EC:DMC(1:1v/v%)キシダ化学(株))を注入し、注入口を熱シールすることでラミネート型電池を作製した。電解液注入の際は低酸素濃度および低水分量に保った真空グローブボックス中で作業を行った。
(比較例1)
実施例1において、粉砕混合した原料をアルミナ製るつぼに入れ、電気炉(アドバンテック製)を用いて、空気雰囲気下で焼成した。焼成温度および焼成時間は実施例1と同様とした。焼成時の昇温速度は3.3℃/分で実施し、650℃で1時間保持した後に電気炉を停止し、室温まで自然放冷した。作製したLi−Mn−Ni−Coの4元系複合酸化物をメノウ乳鉢に移し、約15分間、乾式で粉砕した。
[粒子結晶の観察]
図1に、(A)実施例1で作製した複合酸化物の電子顕微鏡写真と、(B)比較例1で作製した複合酸化物の電子顕微鏡写真を示す(いずれも焼成物の乾式粉砕品)。
[平均粒子径の測定]
複合酸化物の平均粒子径の測定は、キーエンス社製走査型電子顕微鏡(SEM)による3,000倍の画像を解析して、複合酸化物の面積および個数を導出し、求積法を用いて行った。3回の測定平均値として求めた。
その結果、本発明の製造方法では、粒子径1μm程度の均質・均一なナノ結晶粒子が生成していた。図1の電顕写真は、凝集した二次粒子が約3μm程度に見えている状態である。平均一次粒子径は0.8μmであった。本発明例では、比較例のような大きな粒子は存在しなかった。
一方、比較例の製造方法では、粒子径約5μmの粒子と粒子径1〜2μmの粒子が混在しており、ランダムで不均質な結晶粒子が生成していた。平均一次粒子径は3.0μmであった。
[充放電測定]
上記の電池作成例により作成した評価用電池について、電池充放電装置(北斗電工社製)を用いて、電池特性を評価した。電圧範囲は3.0〜4.2V、充放電レートは0.5Cとした。充放電曲線を図2、充放電のサイクル数による電池容量の変化(サイクル特性)を図3に示す。
図2および図3の結果より、本発明の製造方法で得られたLi−Mn−Ni−Coの4元系複合酸化物を正極材料として用いた電池は、高電圧でサイクル特性が優れていることが分かる。
本発明の製造方法で製造されるLi−Mn−Ni−Coの4元系複合酸化物は、生成物中に混在しうるLi−Mn−Ni、Li−Mn−CoおよびLi−Ni−Coの3元系複合酸化物が少なく、特にサイクル特性に優れた、非水系リチウムイオン二次電池用の電極材料として有用である。しかも、その製造工程は、粉砕混合したLi化合物、Mn化合物、Ni化合物およびCo化合物にマイクロ波を照射して焼成するという簡便な工程であるため、安価に製造できる。よって、その利用価値は大である。

Claims (5)

  1. リチウムマンガンニッケルコバルト系複合酸化物の製造方法であって、Li:Mn:Ni:Coがモル比で3:1:1:1になるように、リチウム化合物、マンガン化合物、ニッケル化合物およびコバルト化合物を、粉砕混合した後、酸化性雰囲気下でマイクロ波を照射して焼成することを特徴とする製造方法。
  2. リチウムマンガンニッケルコバルト系複合酸化物の組成が、LiMn1/3Ni1/3Co1/3である、請求項1に記載の製造方法。
  3. リチウムマンガンニッケルコバルト系複合酸化物が、該複合酸化物中に混在しうるLi−Mn−Niの3元系複合酸化物、Li−Mn−Coの3元系複合酸化物およびLi−Ni−Coの3元系複合酸化物の合計量が、7質量%以下である、請求項1または2に記載の製造方法。
  4. リチウム化合物が炭酸リチウム(LiCO)であり、マンガン化合物が酸化マンガン(MnもしくはMnO)であり、ニッケル化合物が水酸化ニッケル(Ni(OH))であり、コバルト化合物が酸化コバルト(CoO)である、請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
  5. 焼成温度が、550℃〜900℃である、請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
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