JP2015157351A - 硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮する表面被覆切削工具 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】硬質被覆層が、組成式:(Ti1−x―yAlxMey)(CzN1−z)で表される複合窒化物または複合炭窒化物層(但し、Meは、Si、Zr、B、V、Crの中から選ばれる一種の元素)を含み、Alの平均含有割合Xav、Meの平均含有割合Yav、Cの平均含有割合Zav(Xav、Yav、Zav:原子比)が、0.60≦Xav≦0.95、0.005≦Yav≦0.10、0≦Zav≦0.005、Xav+Yav≦0.955を満足し、その層は少なくとも立方晶結晶粒を含み、該立方晶結晶粒の平均粒子幅Wが0.05〜1.0μm、平均アスペクト比Aが5以下の粒状組織を有し、立方晶結晶粒内に、TiとAlとMeの所定の周期の濃度変化が存在することにより、前記課題を解決する。
【選択図】図1
Description
ただ、前記従来のTi−Al系の複合窒化物層を被覆形成した被覆工具は、比較的耐摩耗性にすぐれるものの、高速断続切削条件で用いた場合にチッピング等の異常損耗を発生しやすいことから、硬質被覆層の改善についての種々の提案がなされている。
一方、従前より汎用されていた物理蒸着法による硬質被覆層の蒸着形成においては、Alの含有割合xを0.6以上にすることは困難で、より一段と切削性能を向上させることが望まれている。
例えば、特許文献4には、TiCl4、AlCl3、NH3の混合反応ガス中で、650〜900℃の温度範囲において化学蒸着を行うことにより、Alの含有割合xの値が0.65〜0.95である(Ti1−xAlx)N層を蒸着形成できることが記載されているが、この文献では、この(Ti1−xAlx)N層の上にさらにAl2O3層を被覆し、これによって断熱効果を高めることを目的とするものであるから、xの値を0.65〜0.95まで高めた(Ti1−xAlx)N層の形成によって、切削性能へ如何なる影響があるかという点についてまでの開示はない。
しかし、前記特許文献1に記載されている被覆工具は、(Ti1−xAlx)N層からなる硬質被覆層が物理蒸着法で蒸着形成され、硬質被覆層中にSi等の窒化物相を介在させることにより、fcc構造を有し柱状に成長するTiAlN層内にナノ結晶が分散し、このナノ結晶が格子歪を発生し分散強化機構により、TiAlNの硬度を上昇させるものであるが、このナノ結晶は粒界に偏析しているため、例えば、合金鋼の高速断続切削に供した場合には、耐摩耗性、耐チッピング性が十分であるとは言えないという課題があった。
また、特許文献2および特許文献3に記載されている被覆工具は、それぞれ耐欠損性および耐摩耗性・耐酸化特性を向上させることを意図しているが、高速断続切削等の衝撃が伴うような切削条件下では、耐チッピング性が十分でないという課題があった。
一方、前記特許文献4に記載されている化学蒸着法で蒸着形成した(Ti1−xAlx)N層については、Al含有割合xを高めることができ、また、立方晶結晶構造を形成させることができることから、所定の硬さを有し耐摩耗性にすぐれた硬質被覆層が得られるものの、基体との密着強度は十分でなく、また、靭性に劣るという課題があった。
さらに、前記特許文献5に記載されている被覆工具は、所定の硬さを有し耐摩耗性にはすぐれるものの、靭性に劣ることから、合金鋼の高速断続切削加工等に供した場合には、チッピング、欠損、剥離等の異常損傷が発生しやすく、満足できる切削性能を発揮するとは言えないという課題があった。
そこで、本発明者らは、硬質被覆層を構成する(Ti1−xAlx)(CyN1−y)層について鋭意研究したところ、硬質被覆層にSi、Zr、B、V、Crの中から選ばれる一種の元素(以下、「Me」で示す。)を含有させ(Ti1−x―yAlxMey)(CzN1−z)層を立方晶結晶相と六方晶結晶相とで構成し、かつ、立方晶結晶相内にTiとAlとMeの周期的な濃度変化を形成させるという全く新規な着想により、立方晶結晶粒に歪みを生じさせ、硬さと靭性を高めることに成功し、その結果、硬質被覆層の耐チッピング性、耐欠損性を向上させることができるという新規な知見を見出した。
(a)成膜工程
工具基体表面に、反応ガス組成(容量%)を、TiCl4:1.5〜2.5%、Al(CH3)3:0〜5%、AlCl3:6〜10%、MeCln:1〜3%、NH3:10〜12%、N2:6〜7%、C2H4:0〜1%、H2:残、反応雰囲気圧力:2〜3kPa、反応雰囲気温度:700〜900℃として、所定時間、熱CVD法を行うことにより、所定の目標層厚の(Ti1−x―yAlxMey)(CzN1−z)層を成膜する。
(b)エッチング工程
前記(a)の成膜工程時に、TiCl4:2.0〜5.0容量%、H2:残、反応雰囲気圧力:2〜5kPa、反応雰囲気温度:750〜900℃の条件からなる、TiCl4エッチング工程を所定時間、所定回数挟む。
なお、上記[(a)成膜工程]において使用される反応ガス成分MeClnとしては、Me成分の種類に応じて例えば、SiCl4,ZrCl4,BCl3,VCl4,CrCl2がそれぞれ用いられる。あるいはSiH2Cl2のような塩素基の一部が水素に置き換わった反応ガスも使用可能である。
「(1) 炭化タングステン基超硬合金、炭窒化チタン基サーメットまたは立方晶窒化ホウ素基超高圧焼結体のいずれかで構成された工具基体の表面に、硬質被覆層を設けた表面被覆切削工具において、
(a)前記硬質被覆層は、化学蒸着法により成膜された平均層厚1〜20μmのTiとAlとMe(但し、Meは、Si、Zr、B、V、Crの中から選ばれる一種の元素)の複合窒化物または複合炭窒化物層を少なくとも含み、組成式:(Ti1−x―yAlxMey)(CzN1−z)で表した場合、AlのTiとAlとMeの合量に占める平均含有割合XavおよびMeのTiとAlとMeの合量に占める平均含有割合YavならびにCのCとNの合量に占める平均含有割合Zav(但し、Xav、Yav、Zavはいずれも原子比)が、それぞれ、0.60≦Xav≦0.95、0.005≦Yav≦0.10、0≦Zav≦0.005、Xav+Yav≦0.955を満足し、
(b)前記複合窒化物または複合炭窒化物層は、NaCl型の面心立方構造を有する複合窒化物または複合炭窒化物の相を少なくとも含み、
(c)また、工具基体表面と垂直な皮膜断面側から観察・測定した場合に、NaCl型の面心立方構造を有する複合窒化物または複合炭窒化物の結晶粒の平均粒子幅Wが0.05〜1.0μm、平均アスペクト比Aが5以下の粒状組織であり、
(d)さらに、前記NaCl型の面心立方構造を有する複合窒化物または複合炭窒化物の結晶粒内に、組成式:(Ti1−x―yAlxMey)(CzN1−z)におけるTiとAlとMeの周期的な濃度変化が存在し、Alの含有割合xの周期的に変化するxの値の極大値の平均値をXmax、また、Alの含有割合xの周期的に変化するxの値の極小値の平均値をXminとした場合、XmaxとXminの差が0.05〜0.25であることを特徴とする表面被覆切削工具。
(2) 前記複合窒化物または複合炭窒化物層中のTiとAlとMeの周期的な濃度変化が存在するNaCl型の面心立方構造を有する結晶粒において、TiとAlとMeの周期的な濃度変化が立方晶結晶粒の<001>で表される等価の結晶方位のうちの一つの方位に沿って存在し、その方位に沿った周期が3〜30nmであり、その方位に直交する面内でのAlの含有割合xの変化は0.01以下であること特徴とする(1)に記載の表面被覆切削工具。
(3) 前記複合窒化物または複合炭窒化物層中のTiとAlとMeの周期的な濃度変化が存在するNaCl型の面心立方構造を有する結晶粒において、
(a)TiとAlとMeの周期的な濃度変化が立方晶結晶粒の<001>で表される等価の結晶方位のうちの一つの方位に沿って存在し、その方位を方位dAとすると、方位dAに沿った周期が3〜30nmであり、方位dAに直交する面内でのAlの含有割合xの変化は0.01以下である領域A、
(b)TiとAlとMeの周期的な濃度変化が、方位dAと直交する立方晶結晶粒の<001>で表される等価の結晶方位のうちの一つの方位に沿って存在し、その方位を方位dBとすると、方位dBに沿った周期が3〜30nmであり、方位dBに直交する面内でのAlの含有割合xの変化は0.01以下である領域B、
前記領域Aおよび領域Bが結晶粒内に存在し、前記領域Aと領域Bの境界が{110}で表される等価な結晶面のうちの一つの面に形成されることを特徴とする(1)に記載の表面被覆切削工具。
(4)前記複合窒化物または複合炭窒化物層は、NaCl型の面心立方構造を有するTiとAlとMeの複合窒化物または複合炭窒化物の単相からなることを特徴とする(1)乃至(3)のいずれかに記載の表面被覆切削工具。
(5)前記複合窒化物または複合炭窒化物層は、2種以上の複数の相が共存する混合相からなり、該混合相は、NaCl型の面心立方構造を有するTiとAlとMeの複合窒化物または複合炭窒化物の相を少なくとも含み、混合相に共存するその他の各相はTiとAlとMeから選ばれる少なくとも1種の元素とC,Nから選ばれる少なくとも一種からなる化合物からなることを特徴とする(1)乃至(3)のいずれかに記載の表面被覆切削工具。
(6)前記複合窒化物または複合炭窒化物層には、ウルツ鉱型の六方晶構造を有する結晶粒が存在し、工具基体表面と垂直な皮膜断面側から測定した場合に、該ウルツ鉱型の六方晶構造を有する結晶粒の存在する面積割合は30面積%以下であることを特徴とする(1)乃至(3),(5)のいずれかに記載の表面被覆切削工具。
(7) 前記炭化タングステン基超硬合金、炭窒化チタン基サーメットまたは立方晶窒化ホウ素基超高圧焼結体のいずれかで構成された工具基体と前記TiとAlとMeの複合窒化物または複合炭窒化物層の間に、Tiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層および炭窒酸化物層のうちの1層または2層以上からなり、かつ、0.1〜20μmの合計平均層厚を有するTi化合物層を含む下部層が存在することを特徴とする(1)乃至(6)のいずれかに記載の表面被覆切削工具。
(8) 前記複合窒化物または複合炭窒化物層の上部に、少なくとも1〜25μmの平均層厚を有する酸化アルミニウム層を含む上部層が存在することを特徴とする(1)乃至(7)のいずれかに記載の表面被覆切削工具。
(9) 前記複合窒化物または複合炭窒化物層は、少なくとも、トリメチルアルミニウムを反応ガス成分として含有する化学蒸着法により成膜されたものであることを特徴とする(1)乃至(8)のいずれかに記載の表面被覆切削工具。」
に特徴を有するものである。
なお、本発明における硬質被覆層は、前述のような複合窒化物または複合炭窒化物層をその本質的構成とするが、さらに、従来から知られている下部層や上部層などと併用することにより、複合窒化物または複合炭窒化物層が奏する効果と相俟って、一層すぐれた特性を創出することができることは言うまでもない。
本発明の硬質被覆層は、化学蒸着された組成式:(Ti1−x―yAlxMey)(CzN1−z)で表されるTiとAlとMeの複合窒化物または複合炭窒化物層を少なくとも含む。この複合窒化物または複合炭窒化物層は、硬さが高く、すぐれた耐摩耗性を有するが、特に平均層厚が1〜20μmのとき、その効果が際立って発揮される。その理由は、平均層厚が1μm未満では、層厚が薄いため長期の使用に亘っての耐摩耗性を十分確保することができず、一方、その平均層厚が20μmを越えると、TiとAlとMeの複合窒化物または複合炭窒化物層の結晶粒が粗大化し易くなり、チッピングを発生しやすくなる。したがって、その平均層厚を1〜20μmと定めた。
本発明の硬質被覆層を構成する複合窒化物または複合炭窒化物層は、組成式:(Ti1−x―yAlxMey)(CzN1−z)で表した場合(但し、Meは、Si、Zr、B、V、Crの中から選ばれる一種の元素)、AlのTiとAlとMeの合量に占める平均含有割合XavおよびMeのTiとAlとMeの合量に占める平均含有割合YavならびにCのCとNの合量に占める平均含有割合Zav(但し、Xav、Yav、Zavはいずれも原子比)が、それぞれ、0.60≦Xav≦0.95、0.005≦Yav≦0.10、0≦Zav≦0.005、Xav+Yav≦0.955を満足するように制御する。
その理由は、Alの平均含有割合Xavが0.60未満であると、TiとAlとMeの複合窒化物または複合炭窒化物層の硬さに劣るため、合金鋼等の高速断続切削に供した場合には、耐摩耗性が十分でない。一方、Alの平均含有割合Xavが0.95を超えると、相対的にTiの含有割合が減少するため、脆化を招き、耐チッピング性が低下する。したがって、Alの平均含有割合Xavは、0.60≦Xav≦0.95と定めた。
また、Meの平均含有割合Yavが0.005未満であると、TiとAlとMeの複合窒化物または複合炭窒化物層の硬さに劣るため、合金鋼等の高速断続切削に供した場合には、耐摩耗性が十分でない。一方、0.10を超えると粒界へのMeの偏析等により、TiとAlとMeの複合窒化物または複合炭窒化物層の靭性が低下し、合金鋼等の高速断続切削に供した場合には、耐チッピング性が十分でない。したがって、Meの平均含有割合Yavは、0.005≦Yav≦0.10と定めた。
ここで、Meの具体的な成分としては、Si、Zr、B、V、Crの中から選ばれる一種の元素を使用する。
Meとして、Yavが0.005以上になるようにSi成分あるいはB成分を使用した場合には、複合窒化物または複合炭窒化物層の硬さが向上するため耐摩耗性の向上が図られ、Zr成分は結晶粒界を強化する作用を有し、また、V成分は靭性を向上することから、耐チッピング性のより一層の向上が図られ、Cr成分は耐酸化性を向上させることから、工具寿命のよりいっそう長寿命化が期待される。しかし、いずれの成分も、平均含有割合Yavが0.10を超えると、相対的にAl成分、Ti成分の平均含有割合が減少することから、耐摩耗性あるいは耐チッピング性が低下傾向を示すようになるため、Yavが0.10を超えるような平均含有割合となることは避けなければならない。
また、複合窒化物または複合炭窒化物層に含まれるCの平均含有割合(原子比)Zavは、0≦Zav≦0.005の範囲の微量であるとき、複合窒化物または複合炭窒化物層と工具基体もしくは下部層との密着性が向上し、かつ、潤滑性が向上することによって切削時の衝撃を緩和し、結果として複合窒化物または複合炭窒化物層の耐欠損性および耐チッピング性が向上する。一方、Cの平均含有割合Zavが0≦Zav≦0.005の範囲を逸脱すると、複合窒化物または複合炭窒化物層の靭性が低下するため耐欠損性および耐チッピング性が逆に低下するため好ましくない。したがって、Cの平均含有割合Zavは、0≦Zav≦0.005と定めた。
前記複合窒化物または複合炭窒化物層中の各立方晶結晶粒について、工具基体表面と垂直な皮膜断面側から観察・測定した場合に、工具基体表面と平行な方向の粒子幅をw、また、工具基体表面に垂直な方向の粒子長さをlとし、前記wとlとの比l/wを各結晶粒のアスペクト比aとし、さらに、個々の結晶粒について求めたアスペクト比aの平均値を平均アスペクト比A、個々の結晶粒について求めた粒子幅wの平均値を平均粒子幅Wとした場合、平均粒子幅Wが0.05〜1.0μm、平均アスペクト比Aが5以下を満足するように制御する。
この条件を満たすとき、複合窒化物または複合炭窒化物層を構成する立方晶結晶粒は粒状組織となり、すぐれた耐摩耗性を保ちながら、優れた耐チッピング性、耐欠損性を示す。一方、平均アスペクト比Aが5を超えると結晶粒が柱状晶になり、耐チッピング性、耐欠損性が低下するため好ましくない。
また、平均粒子幅Wが0.05μm未満であると耐摩耗性が低下し、1.0μmを超えると靭性が低下する。したがって、複合窒化物または複合炭窒化物層を構成する立方晶結晶粒の平均粒子幅Wは、0.05〜1.0μmと定めた。
さらに、立方晶結晶構造を有する結晶を組成式:(Ti1−x―yAlxMey)(CzN1−z)で表した場合、結晶粒内にTiとAlとMeの周期的な濃度変化が存在するとき(即ち、x、y、zは、一定値ではなく、周期的に変化する値であるとき)、結晶粒に歪みが生じ、硬さが向上する。しかしながら、TiとAlとMeの濃度変化の大きさの指標である前記組成式におけるAlの含有割合xの周期的に変化するxの値の極大値の平均値をXmax、また、Alの含有割合xの周期的に変化するxの値の極小値の平均値をXminとした場合、XmaxとXminの差が0.05より小さいと前述した結晶粒の歪みが小さく十分な硬さの向上が見込めない。一方、XmaxとXminの差が0.25を超えると結晶粒の歪みが大きくなり過ぎ、格子欠陥が大きくなり、硬さが低下する。そこで、立方晶結晶構造を有する結晶粒内に存在するTiとAlとMeの濃度変化は、XmaxとXminの差を0.05〜0.25とした。また、前記複合窒化物または複合炭窒化物層中のTiとAlとMeの周期的な濃度変化が存在する立方晶結晶構造を有する結晶粒において、TiとAlとMeの周期的な濃度変化が立方晶結晶粒の<001>で表される等価の結晶方位のうちの一つの方位に沿って存在した場合、結晶粒の歪みによる格子欠陥が生じにくく、靭性が向上する。また、前記のTiとAlとMeの周期的な濃度変化が存在する方位に直交する面内ではTiとAlとMeの濃度は実質的に変化せず、上記直交する面内でのTiとAlとMeの濃度変化のAlのTiとAlとMeの合量に占める含有割合の平均値Xoの変化は0.01以下である。
また、前記立方晶結晶粒の<001>で表される等価の結晶方位のうちの一つの方位に沿った濃度変化の周期が3nm未満では靭性が低下し、30nmを超えると硬さの向上効果が十分に発揮されない。したがって、より望ましい前記濃度変化の周期は3〜30nmである。
また、TiとAlとMeの周期的な濃度変化が直交する2方向に存在する、領域Aと領域Bが結晶粒内に存在する結晶粒については、結晶粒内で2方向の歪みが存在することで靭性が向上する。さらに、領域Aと領域Bの境界が{110}で表される等価な結晶面のうちの一つの面に形成されることで領域Aと領域Bの境界のミスフィットが生じないため、高い靭性を維持することが出来る。
即ち、TiとAlとMeの周期的な濃度変化が立方晶結晶粒の<001>で表される等価の結晶方位のうちの一つの方位に沿って存在し、その方位を方位dAとした場合、方位dAに沿った周期が3〜30nmであり、方位dAに直交する面内でのAlの含有割合xの変化が0.01以下である領域Aと、TiとAlとMeの周期的な濃度変化が、方位dAと直交する立方晶結晶粒の<001>で表される等価の結晶方位のうちの一つの方位に沿って存在し、その方位を方位dBとした場合、方位dBに沿った周期が3〜30nmであり、方位dBに直交する面内でのAlの含有割合xの変化が0.01以下である領域Bが形成されている場合には、結晶粒内で2方向の歪みが存在することで靭性が向上し、さらに、領域Aと領域Bの境界が{110}で表される等価な結晶面のうちの一つの面に形成されることで領域Aと領域Bの境界のミスフィットが生じないため、高い靭性を維持することが出来る。
本発明の複合窒化物または複合炭窒化物層は、立方晶結晶格子の電子後方散乱回折像が観測される立方晶結晶相の単相から構成することができるが、2種以上の複数の相が共存する混合相として構成しても良い。この場合、混合相に共存する立方晶結晶相以外の他の各相は、TiとAlとMeから選ばれる少なくとも1種の元素とC,Nから選ばれる少なくとも一種の化合物として構成することもできる。
その他の相としては、例えば、電子線後方散乱回折装置(EBSD)を用いて個々の結晶粒の結晶方位を、前記TiとAlとMeの複合窒化物または複合炭窒化物層の縦断面(工具基体表面と垂直な皮膜断面)方向から解析した場合、ウルツ鉱型の六方晶構造(以下、単に「六方晶」という)を有する六方晶結晶格子の電子後方散乱回折像が観測される六方晶結晶相が存在することが許される。
しかし、混合相としての六方晶結晶相が存在するとき、工具基体表面と垂直な皮膜断面側から該六方晶結晶相の占める面積割合を測定した場合、測定視野面積に占める該六方晶結晶相の面積割合は30面積%以下であることが好ましい。これは、結晶粒中の六方晶結晶相の占める面積割合が30面積%を超えると硬さが低下し、その結果、耐摩耗性が低下するという理由による。
つぎに、本発明の被覆工具の一実施態様を、実施例を用いて具体的に説明する。
(a)表4に示される形成条件A〜V、すなわち、反応ガス組成(容量%)を、TiCl4:1.5〜2.5%、Al(CH3)3:0〜5%、AlCl3:6〜10%、MeCln:1〜3%、NH3:10〜12%、N2:6〜7%、C2H4:0〜1%、H2:残として、反応雰囲気圧力:2〜3kPa、反応雰囲気温度:700〜900℃として、所定時間、熱CVD法を行うことにより、表7、8に示される平均粒子幅Wおよび平均アスペクト比Aの粒状組織の(Ti1−x―yAlxMey)(CzN1−z)層を成膜する(成膜工程)。
なお、上記MeClnについては、Me(Si,Zr,B,V,Cr)の種別に応じて、それぞれ、SiCl4,ZrCl4,BCl3,VCl4,CrCl2を用いる。
(b)前記(a)の成膜工程時に、表5に示される形成条件a〜j、すなわち、反応ガス組成(容量%)を、TiCl4:2.0〜5.0%、H2:残として、反応雰囲気圧力:2〜5kPa、反応雰囲気温度:750〜900℃とするTiCl4エッチング工程を所定時間、所定回数挟む(エッチング工程)。
(c)前記(a)の成膜工程中に(b)からなるエッチング工程を表7、8に示された所定時間、所定回数、挟むことによって、表7、8に示される目標層厚を有する立方晶結晶を少なくとも含む粒状組織の(Ti1−x―yAlxMey)(CzN1−z)層からなる硬質被覆層を形成することにより本発明被覆工具1〜27を製造した。
なお、本発明被覆工具6〜13、17,18、20,21、24、27については、表3に示される形成条件で、表6に示される下部層および/または表7、8に示される上部層を形成した。
なお、本発明被覆工具6〜13、17,18、20,21、24、27と同様に、比較被覆工具6〜13、17,18、20,21、24、27については、表3に示される形成条件で、表6に示される下部層および/または表9,10に示される上部層を形成した。
参考のため、工具基体Bおよび工具基体Cの表面に、従来の物理蒸着装置を用いて、アークイオンプレーティングにより、参考例の(Ti1−x―yAlxMey)(CzN1−z)層を目標層厚で蒸着形成することにより、表9に示される参考被覆工具14、15を製造した。
なお、参考例の蒸着に用いたアークイオンプレーティングの条件は、次のとおりである。
(a)前記工具基体BおよびCを、アセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、アークイオンプレーティング装置内の回転テーブル上の中心軸から半径方向に所定距離離れた位置に外周部にそって装着し、また、カソード電極(蒸発源)として、所定組成のTi−Al−Me合金を配置し、
(b)まず、装置内を排気して10−2Pa以下の真空に保持しながら、ヒーターで装置内を500℃に加熱した後、前記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に−1000Vの直流バイアス電圧を印加し、かつTi−Al−Me合金からなるカソード電極とアノード電極との間に200Aの電流を流してアーク放電を発生させ、装置内にTiおよびAlおよびMeイオンを発生させ、もって工具基体表面をボンバード洗浄し、
(c)次に、装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して4Paの反応雰囲気とすると共に、前記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に−50Vの直流バイアス電圧を印加し、かつ、前記Ti−Al−Me合金からなるカソード電極(蒸発源)とアノード電極との間に120Aの電流を流してアーク放電を発生させ、前記工具基体の表面に、表9に示される目標組成、目標層厚の(Ti,Al,Me)N層を蒸着形成し、参考被覆工具14、15を製造した。
また、複合窒化物または複合炭窒化物層の平均Al含有割合xについては、電子線マイクロアナライザ(EPMA,Electron−Probe−Micro−Analyser)を用い、表面を研磨した試料において、電子線を試料表面側から照射し、得られた特性X線の解析結果の10点平均からAlの平均Al含有割合XavおよびMeの平均含有割合Yavを求めた。平均C含有割合Zavについては、二次イオン質量分析(SIMS,Secondary−Ion−Mass−Spectroscopy)により求めた。イオンビームを試料表面側から70μm×70μmの範囲に照射し、スパッタリング作用によって放出された成分について深さ方向の濃度測定を行った。平均C含有割合ZavはTiとAlとMeの複合窒化物または複合炭窒化物層についての深さ方向の平均値を示す。
また、本発明被覆工具1〜27および比較被覆工具1〜13、16〜27および参考被覆工具14、15について、工具基体に垂直な方向の断面方向から走査型電子顕微鏡(倍率5000倍及び20000倍)を用いて、工具基体表面と水平方向に長さ10μmの範囲に存在する複合窒化物または複合炭窒化物層を構成する粒状組織(Ti1−x―yAlxMey)(CzN1−z)層中の個々の結晶粒について、工具基体表面と垂直な皮膜断面側から観察し、基体表面と平行な方向の粒子幅w、基体表面に垂直な方向の粒子長さlを測定し、各結晶粒のアスペクト比a(=l/w)を算出するとともに、個々の結晶粒について求めたアスペクト比aの平均値を平均アスペクト比Aとして算出し、また、個々の結晶粒について求めた粒子幅wの平均値を平均粒子幅Wとして算出した。その結果を、表7〜10に示した。
また、電子線後方散乱回折装置を用いて、TiとAlとMeの複合窒化物または複合炭窒化物層からなる硬質被覆層の工具基体表面に垂直な方向の断面を研磨面とした状態で、電界放出型走査電子顕微鏡の鏡筒内にセットし、前記研磨面に70度の入射角度で15kVの加速電圧の電子線を1nAの照射電流で、前記断面研磨面の測定範囲内に存在する結晶粒個々に照射し、工具基体表面と水平方向に長さ100μmに亘り硬質被覆層について0.01μm/stepの間隔で、電子線後方散乱回折像を測定し、個々の結晶粒の結晶構造を解析することで立方晶結晶構造あるいは六方晶結晶構造であるかを同定し、TiとAlとMeの複合窒化物または複合炭窒化物層には、立方晶の複合窒化物または複合炭窒化物の相が含まれていることを確認するとともに、さらに、該層に含まれる六方晶結晶相の占める面積割合を求めた。その結果を、同じく、表7〜10に示す。
さらに、透過型電子顕微鏡(倍率200000倍)を用いて、複合窒化物または複合炭窒化物層の微小領域の観察を行い、エネルギー分散型X線分光法(EDS)を用いて、断面側から面分析を行ったところ、前記立方晶結晶構造を有する結晶粒内に、組成式:(Ti1−x―yAlxMey)(CzN1−z)におけるTiとAlとMeの周期的な濃度変化が存在することを確認した。また、該結晶粒について電子線回折を行うことで、TiとAlとMeの周期的な濃度変化が立方晶結晶粒の<001>で表される等価の結晶方位のうちの一つの方位に沿って存在することを確認し、その方位に沿ったEDSによる線分析を5周期分の区間で行い、TiとAlとMeの合計に対するAlの周期的な濃度変化の極大値の平均値をXmaxとして求め、また、同区間での、TiとAlとMeの合計に対するAlの周期的な濃度変化の極小値の平均値をXminとして求め、その差(=Xmax−Xmin)を求めた。
また、TiとAlとMeの周期的な濃度変化がある立方晶結晶粒の<001>で表される等価の結晶方位のうちの一つの方位に直交する方向に沿った線分析を前記5周期分の距離に相当する区間で行い、その区間でのAlの含有割合xの最大値と最小値の差を、TiとAlとMeの周期的な濃度変化がある立方晶結晶粒の<001>で表される等価の結晶方位のうちの一つの方位と直交する面内での変化量の最大値ΔXoとして求めた。
さらに、領域Aと領域Bが結晶粒内に存在する結晶粒については、領域Aと領域Bのそれぞれに対して、前述と同様にTiとAlとMeの合計に対するAlの5周期分の周期的な濃度変化の極大値の平均値Xmaxと極小値の平均値Xminとの差(=Xmax−Xmin)を求めるとともに、TiとAlとMeの周期的な濃度変化がある立方晶結晶粒の<001>で表される等価の結晶方位のうちの一つの方位と直交する面内におけるTiとAlとMeの合計に対するAlの含有割合xの最大値と最小値の差を変化量の最大値として求めた。
即ち、領域AのTiとAlとMeの周期的な濃度変化が立方晶結晶粒の<001>で表される等価の結晶方位のうちの一つの方位に沿って存在し、その方位を方位dAとした場合、方位dAに沿った濃度変化の周期を求めるとともに、方位dAに直交する方向に沿った線分析を前記5周期分の距離に相当する区間で行い、その区間でのAlの含有割合xの最大値と最小値の差を、TiとAlとMeの周期的な濃度変化がある立方晶結晶粒の<001>で表される等価の結晶方位のうちの一つの方位と直交する面内での変化量の最大値ΔXodaとして求めた。
また、領域BのTiとAlとMeの周期的な濃度変化が立方晶結晶粒の<001>で表される等価の結晶方位のうちの一つの方位に沿って存在し、その方位を方位dBとした場合、方位dBに沿った濃度変化の周期を求めるとともに、方位dBに直交する方向に沿った線分析を前記5周期分の距離に相当する区間で行い、その区間でのAlの含有割合xの最大値と最小値の差を、TiとAlとMeの周期的な濃度変化がある立方晶結晶粒の<001>で表される等価の結晶方位のうちの一つの方位と直交する面内での変化量の最大値ΔXodbとして求めた。
また、dAとdBが直交し、領域Aと領域Bの境界が{110}で表される等価な結晶面のうちの一つの面に形成されることを確認した。
このような周期の確認は透過型電子顕微鏡(倍率200000倍)を用いた複合窒化物または複合炭窒化物層の微小領域の観察の視野における最低1個の該結晶粒で確認した。また、領域Aと領域Bが結晶粒内に存在する結晶粒については、透過型電子顕微鏡(倍率200000倍)を用いた複合窒化物または複合炭窒化物層の微小領域の観察の視野における最低1個の該結晶粒の該領域Aおよび領域Bのおのおので評価した値の平均を算出することによって求めた。
切削試験: 乾式高速正面フライス、センターカット切削加工、
被削材: JIS・SCM440幅100mm、長さ400mmのブロック材、
回転速度: 943 min−1、
切削速度: 370 m/min、
切り込み: 1.5 mm、
一刃送り量: 0.12 mm/刃、
切削時間: 8分、
(a)表4に示される形成条件A〜V、すなわち、反応ガス組成(容量%)を、TiCl4:1.5〜2.5%、Al(CH3)3:0〜5%、AlCl3:6〜10%、MeCln:1〜3%、NH3:10〜12%、N2:6〜7%、C2H4:0〜1%、H2:残として、反応雰囲気圧力:2〜5kPa、反応雰囲気温度:750〜900℃として、所定時間、熱CVD法を行うことにより、表15、16に示される平均粒子幅Wおよび平均アスペクト比Aの粒状組織の(Ti1−x―yAlxMey)(CzN1−z)層を成膜する(成膜工程)。
なお、上記MeClnについては、実施例1と同様に、Me(Si,Zr,B,V,Cr)の種別に応じて、それぞれ、SiCl4,ZrCl4,BCl3,VCl4,CrCl2を用いる。
(b)前記(a)の成膜工程時に、表5に示される形成条件a〜j、すなわち、反応ガス組成(容量%)を、TiCl4:2.0〜5.0%、H2:残として、反応雰囲気圧力:2〜5kPa、反応雰囲気温度:750〜900℃とするTiCl4エッチング工程を所定時間、所定回数挟む(エッチング工程)。
(c)前記(a)の成膜工程中に(b)からなるエッチング工程を表15、16に示された所定時間、所定回数、挟むことによって、表15、16に示される目標層厚を有する立方晶結晶を少なくとも含む粒状組織の(Ti1−x―yAlxMey)(CzN1−z)層からなる硬質被覆層を形成することにより本発明被覆工具31〜57を製造した。
なお、本発明被覆工具34〜43、47、48、50、51、54、57については、表3に示される形成条件で、表14に示される下部層および/または表15、16に示される上部層を形成した。
なお、本発明被覆工具34〜43、47、48、50、51、54、57と同様に、比較被覆工具34〜43、47、48、50、51、54、57については、表3に示される形成条件で、表14に示される下部層および/または表17、18に示される上部層を形成した。
なお、アークイオンプレーティングの条件は、実施例1に示される条件と同様の条件を用いた。
また、前記本発明被覆工具31〜57、比較被覆工具31〜43,46〜57および参考被覆工具44,45の硬質被覆層について、実施例1に示される方法と同様の方法を用いて、平均Al含有割合Xav、平均Me含有割合Yav、平均C含有割合Zav、粒状組織(Ti1−x―yAlxMey)(CzN1−z)層を構成する結晶粒の平均粒子幅W、平均アスペクト比A、結晶粒における六方晶結晶相の占める面積割合を求めた。その結果を、表15〜18に示す。
切削条件1:
被削材:JIS・SCM435の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度: 360 m/min、
切り込み: 1.5 mm、
送り: 0.2 mm/rev、
切削時間: 5 分、
(通常の切削速度は、220m/min)、
切削条件2:
被削材:JIS・FCD450の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度: 350 m/min、
切り込み: 1.2 mm、
送り: 0.4 mm/rev、
切削時間: 5 分、
(通常の切削速度は、200m/min)、
表19に、前記切削試験の結果を示す。
なお、本発明被覆工具64〜68、71については、表3に示される形成条件で、表21に示すような下部層および/または表22、23に示すような上部層を形成した。
なお、本発明被覆工具64〜68、71と同様に、比較被覆工具64、67、68については、表3に示される形成条件で、表21に示すような下部層および/または表24、25に示すような上部層を形成した。
なお、アークイオンプレーティングの条件は、実施例1に示される条件と同様の条件を用い、前記工具基体の表面に、表24に示される目標組成、目標層厚の(Ti1−x―yAlxMey)(CzN1−z)層を蒸着形成し、参考被覆工具65,66を製造した。
切削試験: 浸炭焼入れ合金鋼の乾式高速断続切削加工、
被削材: JIS・SCr420(硬さ:HRC62)の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度: 260 m/min、
切り込み: 0.15 mm、
送り: 0.15 mm/rev、
切削時間: 4 分、
表26に、前記切削試験の結果を示す。
Claims (9)
- 炭化タングステン基超硬合金、炭窒化チタン基サーメットまたは立方晶窒化ホウ素基超高圧焼結体のいずれかで構成された工具基体の表面に、硬質被覆層を設けた表面被覆切削工具において、
(a)前記硬質被覆層は、化学蒸着法により成膜された平均層厚1〜20μmのTiとAlとMe(但し、Meは、Si、Zr、B、V、Crの中から選ばれる一種の元素)の複合窒化物または複合炭窒化物層を少なくとも含み、組成式:(Ti1−x―yAlxMey)(CzN1−z)で表した場合、AlのTiとAlとMeの合量に占める平均含有割合XavおよびMeのTiとAlとMeの合量に占める平均含有割合YavならびにCのCとNの合量に占める平均含有割合Zav(但し、Xav、Yav、Zavはいずれも原子比)が、それぞれ、0.60≦Xav≦0.95、0.005≦Yav≦0.10、0≦Zav≦0.005、Xav+Yav≦0.955を満足し、
(b)前記複合窒化物または複合炭窒化物層は、NaCl型の面心立方構造を有する複合窒化物または複合炭窒化物の相を少なくとも含み、
(c)また、工具基体表面と垂直な皮膜断面側から観察・測定した場合に、NaCl型の面心立方構造を有する複合窒化物または複合炭窒化物の結晶粒の平均粒子幅Wが0.05〜1.0μm、平均アスペクト比Aが5以下の粒状組織であり、
(d)さらに、前記NaCl型の面心立方構造を有する複合窒化物または複合炭窒化物の結晶粒内に、組成式:(Ti1−x―yAlxMey)(CzN1−z)におけるTiとAlとMeの周期的な濃度変化が存在し、Alの含有割合xの周期的に変化するxの値の極大値の平均値をXmax、また、Alの含有割合xの周期的に変化するxの値の極小値の平均値をXminとした場合、XmaxとXminの差が0.05〜0.25であることを特徴とする表面被覆切削工具。 - 前記複合窒化物または複合炭窒化物層中のTiとAlとMeの周期的な濃度変化が存在するNaCl型の面心立方構造を有する結晶粒において、TiとAlとMeの周期的な濃度変化が立方晶結晶粒の<001>で表される等価の結晶方位のうちの一つの方位に沿って存在し、その方位に沿った周期が3〜30nmであり、その方位に直交する面内でのAlの含有割合xの変化は0.01以下であること特徴とする請求項1に記載の表面被覆切削工具。
- 前記複合窒化物または複合炭窒化物層中のTiとAlとMeの周期的な濃度変化が存在するNaCl型の面心立方構造を有する結晶粒において、
(a)TiとAlとMeの周期的な濃度変化が立方晶結晶粒の<001>で表される等価の結晶方位のうちの一つの方位に沿って存在し、その方位を方位dAとすると、方位dAに沿った周期が3〜30nmであり、方位dAに直交する面内でのAlの含有割合xの変化は0.01以下である領域A、
(b)TiとAlとMeの周期的な濃度変化が、方位dAと直交する立方晶結晶粒の<001>で表される等価の結晶方位のうちの一つの方位に沿って存在し、その方位を方位dBとすると、方位dBに沿った周期が3〜30nmであり、方位dBに直交する面内でのAlの含有割合xの変化は0.01以下である領域B、
前記領域Aおよび領域Bが結晶粒内に存在し、前記領域Aと領域Bの境界が{110}で表される等価な結晶面のうちの一つの面に形成されることを特徴とする請求項1に記載の表面被覆切削工具。 - 前記複合窒化物または複合炭窒化物層は、NaCl型の面心立方構造を有するTiとAlとMeの複合窒化物または複合炭窒化物の単相からなることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の表面被覆切削工具。
- 前記複合窒化物または複合炭窒化物層は、2種以上の複数の相が共存する混合相からなり、該混合相は、NaCl型の面心立方構造を有するTiとAlとMeの複合窒化物または複合炭窒化物の相を少なくとも含み、混合相に共存するその他の各相はTiとAlとMeから選ばれる少なくとも1種の元素とC,Nから選ばれる少なくとも一種からなる化合物からなることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の表面被覆切削工具。
- 前記複合窒化物または複合炭窒化物層には、ウルツ鉱型の六方晶構造を有する結晶粒が存在し、工具基体表面と垂直な皮膜断面側から測定した場合に、該ウルツ鉱型の六方晶構造を有する結晶粒の存在する面積割合は30面積%以下であることを特徴とする請求項1乃至3または請求項5のいずれかに記載の表面被覆切削工具。
- 前記炭化タングステン基超硬合金、炭窒化チタン基サーメットまたは立方晶窒化ホウ素基超高圧焼結体のいずれかで構成された工具基体と前記TiとAlとMeの複合窒化物または複合炭窒化物層の間に、Tiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層および炭窒酸化物層のうちの1層または2層以上からなり、かつ、0.1〜20μmの合計平均層厚を有するTi化合物層を含む下部層が存在することを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の表面被覆切削工具。
- 前記複合窒化物または複合炭窒化物層の上部に、少なくとも1〜25μmの平均層厚を有する酸化アルミニウム層を含む上部層が存在することを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の表面被覆切削工具。
- 前記複合窒化物または複合炭窒化物層は、少なくとも、トリメチルアルミニウムを反応ガス成分として含有する化学蒸着法により成膜されたものであることを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の表面被覆切削工具。
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