JP2015016512A - 高速断続切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮する表面被覆切削工具 - Google Patents

高速断続切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮する表面被覆切削工具 Download PDF

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Abstract

【課題】硬質被覆層がすぐれた靭性および熱遮蔽効果を備え、長期の使用に亘ってすぐれた耐チッピング性、耐欠損性を発揮する被覆工具を提供する。【解決手段】硬質被覆層が、化学蒸着された組成式:(Ti1−x—yAlxSiy)(CzN1−z)で表される領域A層と領域B層とからなる合計平均層厚1〜20μmの交互積層構造を有し、領域A層は、0.70≰x≰0.80、0.005≰y≰0.10、0≰z≰0.005を満足し、平均粒子幅Wが0.1μm以下、平均粒子長さLが0.1μm以下であり、領域B層は、0.85≰x≰0.95、0.005≰y≰0.10、0≰z≰0.005を満足し、平均粒子幅Wが0.1〜2.0μm以下、平均粒子長さLが0.5〜5.0μmであり、交互積層構造の最表面層は、領域A層であることにより、前記課題を解決する。【選択図】図1

Description

本発明は、切刃に対して衝撃的な負荷が作用する高速断続切削加工で、硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を備えることにより、長期の使用に亘ってすぐれた切削性能を発揮する表面被覆切削工具(以下、被覆工具という)に関するものである。
従来、一般に、炭化タングステン(以下、WCで示す)基超硬合金、炭窒化チタン(以下、TiCNで示す)基サーメットあるいは立方晶窒化ホウ素(以下、cBNで示す)基超高圧焼結体で構成された工具基体(以下、これらを総称して工具基体という)の表面に、硬質被覆層として、Ti−Al系の複合窒化物層を物理蒸着法により被覆形成した被覆工具が知られており、これらは、すぐれた耐摩耗性を発揮することが知られている。
ただ、前記従来のTi−Al系の複合窒化物層を被覆形成した被覆工具は、比較的耐摩耗性に優れるものの、高速断続切削条件で用いた場合にチッピング等の異常損耗を発生しやすいことから、硬質被覆層の改善についての種々の提案がなされている。
例えば、特許文献1には、第1被覆層および第2被覆層が、(Ti1−a−bAl)(C1−d)(但し、XはTiを除く周期表第4、5および6族元素、Siおよび希土類元素より選ばれる一種以上の元素であって、a、b、dは、原子比で、0.3≦a≦0.7、0≦b≦0.2、0≦d≦1)から構成されており、基体の表面に、第1被覆層と、柱状結晶から構成されて基体の表面の垂線方向に対して平均で1〜15°の角度で斜めの方向に成長した第2被覆層とを順次被覆していることによって、硬質被覆層に衝撃がかかっても第2被覆層から伝わる力が分散して第1被覆層には衝撃が伝わりにくくクラックが進展しにくくなる結果、硬質被覆層に発生するチッピングや大きな欠損を抑制した耐欠損性および耐チッピング性にすぐれた被覆工具が開示されている。
また、特許文献2には、基材と、基材上に形成された被膜とを備える被覆工具であって、被膜は、2以上の被覆層により構成されており、被覆層のうちの第1の層は、AlまたはCrのいずれか一方または両方の元素と、炭素、窒素、酸素およびホウ素からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素とにより構成される化合物を含み、被覆層のうちの第2の層は、元素周期律表のIVa族元素、Va族元素、VIa族元素、AlおよびSiからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素、窒素、酸素およびホウ素からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素により構成される化合物を含み、被覆層のうちの少なくとも1以上の層は、塩素を含むことを特徴とする被覆工具が開示されている。
このような観点から、化学蒸着法で硬質被覆層を形成することで、Alの含有割合Xを0.9程度にまで高める技術も提案されている。
例えば、特許文献3には、TiCl、AlCl、NHの混合反応ガス中で、650〜900℃の温度範囲において化学蒸着を行うことにより、Alの含有割合Xの値が0.65〜0.95である(Ti1−XAl)N層を蒸着形成できることが記載されているが、この文献では、この(Ti1−XAl)N層の上にさらにAl層を被覆し、これによって断熱効果を高めることを目的とするものであるから、Xの値を0.65〜0.95まで高めた(Ti1−XAl)N層の形成によって、切削性能へ如何なる影響があるかという点についてまでの開示はない。
また、例えば、特許文献4には、TiCN層、Al層を内層として、その上に、化学蒸着法により、立方晶構造あるいは六方晶構造を含む立方晶構造の(Ti1−XAl)N層(但し、Xは0.65〜0.9)を外層として被覆するとともに、該外層に100〜1100MPaの圧縮応力を付与することにより、被覆工具の耐熱性と疲労強度を改善することが提案されている。
特開2008−105164号公報 特開2006−82207号公報 特表2011−516722号公報 特表2011−513594号公報
近年の切削加工における省力化および省エネ化の要求は強く、これに伴い、切削加工は一段と高速化、高効率化の傾向にあり、被覆工具には、より一層、耐チッピング性、耐欠損性、耐剥離性等の耐異常損傷性が求められるとともに、長期の使用に亘ってのすぐれた耐摩耗性が求められている。
しかし、前記特許文献1に記載されている被覆工具は、(Ti1−a−bAl)(C1−d)層からなる硬質被覆層が物理蒸着法で蒸着形成され、硬質被覆層中のAl含有量aが、開示された実施例で最大0.7であることから明らかなように、Al含有量aを高めることができないため、例えば、合金鋼の高速断続切削に供した場合には、耐摩耗性、耐チッピング性が十分であるとは言えない。
また、前記特許文献2に記載されている被覆工具も、物理蒸着法により硬質被覆層を蒸着形成するため、Alの含有割合を高くできず、開示されている実施例では、最大でも0.71で、そのため、よりAlの含有割合を高めて高硬度化を図り、一段と切削性能を向上させることが課題となっている。
さらに、前記特許文献3に記載される化学蒸着法で蒸着形成した(Ti1−XAl)N層については、Al含有量Xを高めることができ、また、立方晶構造を形成させることができることから、所定の硬さを有し耐摩耗性にすぐれた硬質被覆層が得られるものの、基体との密着強度は十分でなく、また、靭性に劣ることが課題となっていた。
さらに、前記特許文献4に記載されている被覆工具は、所定の硬さを有し耐摩耗性にすぐれるものの、靭性に劣ることから、合金鋼の高速断続切削加工等に供した場合には、チッピング、欠損、剥離等の異常損傷が発生しやすく、満足できる切削性能を発揮するとは言えない。
そこで、本発明が解決しようとする技術的課題、すなわち、本発明の目的は、合金鋼や炭素鋼等の高速断続切削等に供した場合であっても、すぐれた靭性を備え、長期の使用に亘ってすぐれた耐チッピング性、耐摩耗性を発揮する被覆工具を提供することである。
そこで、本発明者らは、前述の観点から、TiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物(以下、「(Ti,Al)(C,N)」あるいは「(Ti1−xAl)(C1−y)」で示すことがある)からなる硬質被覆層を化学蒸着で蒸着形成した被覆工具の耐チッピング性、耐摩耗性の改善をはかるべく、鋭意研究を重ねた結果、次のような知見を得た。
即ち、従来の少なくとも1層の(Ti1−xAl)(C1−y)層を含み、かつ所定の合計平均層厚を有する硬質被覆層は、(Ti1−xAl)(C1−y)層が基体に垂直方向に柱状をなして形成されている場合、高い耐摩耗性を有する。その反面、(Ti1−xAl)(C1−y)層の結晶組織の異方性が高くなるほど(Ti1−xAl)(C1−y)層の靭性が低下し、その結果、耐チッピング性、耐欠損性が低下し、長期の使用に亘って十分な耐摩耗性を発揮することができず、また、工具寿命も満足できるものであるとはいえなかった。
そこで、本発明者らは、硬質被覆層を構成する(Ti1−xAl)(C1−y)層について鋭意研究したところ、(Ti1−xAl)(C1−y)層に所定の量のSiを含有させることで、微粒粒状組織と柱状組織が混在する硬質被覆層を形成することに成功し、その結果、高Al含有量を保ったまま硬質被覆層の異方性を緩和し靭性を高めることによって、硬質被覆層の耐チッピング性、耐欠損性を向上させることができるという新規な知見を見出した。
具体的には、硬質被覆層を構成する(Ti1−x―yAlSi)(C1−z)層が、主として微粒粒状組織の(Ti1−x―yAlSi)(C1−z)層からなる領域A層と、主として柱状組織の(Ti1−x―yAlSi)(C1−z)層からなる領域B層との交互積層として構成することにより、すぐれた靭性を示す微粒粒状組織の(Ti1−x―yAlSi)(C1−z)層からなる領域A層とすぐれた耐摩耗性を示す柱状組織の(Ti1−x―yAlSi)(C1−z)層からなる領域B層とからなる交互積層構造があたかもそれぞれの特性を併せ持つ1つの層として機能するため、従来の硬質被覆層に比して、(Ti1−xAl)(C1−y)層の異方性が緩和され、その結果、耐チッピング性、耐欠損性が向上し、長期に亘ってすぐれた耐摩耗性を発揮することを見出した。
そして、前述のような構成の(Ti1−x―yAlSi)(C1−z)層は、例えば、トリメチルアルミニウム(Al(CH)を反応ガス成分として含有する以下の化学蒸着法によって成膜することができる。
(a)工具基体表面に、反応ガス組成(容量%)を、TiCl:1〜2%、Al(CH:0〜2%、AlCl:3〜5%、SiCl:0.5〜1%、NH:3〜6%、N:6〜10%、C:0〜1%、H:残、反応雰囲気圧力:2〜5kPa、反応雰囲気温度:700〜900℃として、所定時間、熱CVD法を行うことにより、所定の目標層厚の柱状組織の(Ti1−x―yAlSi)(C1−z)層を成膜する(領域B層)。
(b)その後、前記(a)の成膜工程を停止し、反応ガス組成(容量%)を、TiCl:3〜4%、Al(CH:0〜5%、AlCl:1〜2%、SiCl:1.5〜2%、NH:7〜10%、N:6〜10%、C:0〜1%、H:残、反応雰囲気圧力:2〜5kPa、反応雰囲気温度:700〜900℃として、所定時間、熱CVD法を行うことにより、所定の目標層厚の微粒粒状組織の(Ti1−x―yAlSi)(C1−z)層を成膜する(領域A層)。その後、
(c)前記(a)、(b)の工程を所定の回数繰り返し行なうことによって、柱状組織の(Ti1−x―yAlSi)(C1−z)層と微粒粒状組織の(Ti1−x―yAlSi)(C1−z)層との交互積層構造からなる硬質被覆層を形成することができる。
(d)微粒粒状組織の(Ti1−x―yAlSi)(C1−z)層の方が、柱状組織の(Ti1−x―yAlSi)(C1−z)層よりも靭性にすぐれているので、交互積層構造の最表面層は、微粒粒状組織の(Ti1−x―yAlSi)(C1−z)層、すなわち領域A層となるようにすることが、耐チッピング性向上の観点から好ましい。
そして、微粒粒状組織の(Ti1−x―yAlSi)(C1−z)層中のAlとTiとSiの合量に占めるAlの含有割合xが0.7≦x≦0.8であり、柱状組織の(Ti1−x―yAlSi)(C1−z)層中のAlとTiとSiの合量に占めるAlの含有割合xが0.85≦x≦0.95である場合には、特に、耐欠損性、耐チッピング性が向上し、切れ刃に断続的・衝撃的負荷が作用する鋼や鋳鉄の高速断続切削加工に用いた場合でも、硬質被覆層が、長期の使用に亘ってすぐれた切削性能を発揮し得ることを見出した。
本発明は、前記知見に基づいてなされたものであって、
「(1)炭化タングステン基超硬合金、炭窒化チタン基サーメットまたは立方晶窒化ホウ素基超高圧焼結体のいずれかで構成された工具基体の表面に、硬質被覆層を設けた表面被覆切削工具において、
前記硬質被覆層は、化学蒸着法により成膜されたTiとAlとSiの複合窒化物または複合炭窒化物層を少なくとも有し、
前記複合窒化物または複合炭窒化物層は、組成式:(Ti1−x―yAlSi)(C1−z)で表される領域A層と領域B層とからなる合計平均層厚1〜20μmの交互積層構造を有し、
前記領域A層は、AlのTiとAlとSiの合量に占める含有割合xおよびSiのTiとAlとSiの合量に占める含有割合yおよびCのCとNの合量に占める含有割合z(但し、x、y、zはいずれも原子比)が、それぞれ、0.70≦x≦0.80、0.005≦y≦0.10、0≦z≦0.005、x+y≦0.85を満足するとともに前記工具基体と平行な面内の粒子幅の平均値を平均粒子幅W、工具基体と垂直な方向の粒子長さの平均値を平均粒子長さLとすると、前記平均粒子幅Wが0.1μm以下、平均粒子長さLが0.1μm以下であり、
前記領域B層は、AlのTiとAlとSiの合量に占める含有割合xおよびSiのTiとAlとSiの合量に占める含有割合yおよびCのCとNの合量に占める含有割合z(但し、x、y、zはいずれも原子比)が、それぞれ、0.85≦x≦0.95、0.005≦y≦0.10、0≦z≦0.005、x+y≦0.955を満足しするとともに前記工具基体と平行な面内の粒子幅の平均値を平均粒子幅W、工具基体と垂直な方向の粒子長さの平均値を平均粒子長さLとすると、前記平均粒子幅Wが0.1〜2.0μm、平均粒子長さLが0.5〜5.0μmであり、
前記交互積層構造において、領域A層と領域B層は交互に少なくともそれぞれ1層以上存在し、最表面層は前記領域A層であることを特徴とする表面被覆切削工具。
(2) 前記領域A層について、電子線後方散乱回折装置を用いて個々の結晶粒の結晶方位を前記TiとAlとSiの複合窒化物または複合炭窒化物層の縦断面方向から解析した場合、立方晶結晶格子の電子後方散乱回折像が観測される立方晶結晶相と六方晶結晶格子の電子後方散乱回折像が観測される六方晶結晶相が存在し、立方晶結晶相と六方晶結晶相の占める合計の面積に対する立方晶結晶相の占める面積割合が50%以上であり、
前記領域B層について、前記立方晶結晶相と六方晶結晶相の占める合計の面積に対する六方晶結晶相の占める面積割合が50%以上であることを特徴とする(1)に記載の表面被覆切削工具。
(3) 前記工具基体と前記複合窒化物または複合炭窒化物層の間にTiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層および炭窒酸化物層のうちの1層または2層以上からなり、かつ、0.1〜20μmの合計平均層厚を有するTi化合物層を含む下部層が存在することを特徴とする(1)または(2)に記載の表面被覆切削工具。
(4) 前記複合窒化物または複合炭窒化物層の上部に、少なくとも1〜25μmの平均層厚を有する酸化アルミニウム層を含む上部層が存在することを特徴とする(1)乃至(3)のいずれかに記載の表面被覆切削工具。
(5) 前記硬質被覆層は、少なくとも、トリメチルアルミニウムを反応ガス成分として含有する化学蒸着法により成膜されたものであることを特徴とする(1)乃至(4)のいずれかに記載の表面被覆切削工具。」
に特徴を有するものである。
なお、本発明において、「TiとAlとSiの複合炭窒化物層」は、CのCとNの合量に占める含有割合zが0の場合には、「TiとAlとSiの複合窒化物層」を意味することは言うまでもない。また、本発明における硬質被覆層は、前述のような複合窒化物または複合炭窒化物層をその本質的構成とするが、さらに、従来から知られている下部層や上部層などと併用することにより、複合窒化物または複合炭窒化物層が奏する効果と相俟って、一層すぐれた特性を創出することができる。
本発明について、以下に詳細に説明する。
複合窒化物または複合炭窒化物層の平均層厚:
本発明の硬質被覆層は、化学蒸着された組成式:(Ti1−x―yAlSi)(C1−z)で表される領域A層と領域B層とからなる交互積層構造からなる複合窒化物または複合炭窒化物層を少なくとも有している。交互積層構造を構成するTiとAlとSiの複合窒化物または複合炭窒化物層は、硬さが高く、すぐれた耐摩耗性を有するが、特に合計平均層厚が1〜20μmのとき、その効果が際立って発揮される。その理由は、合計平均層厚が1μm未満では、層厚が薄いため長期の使用に亘っての耐摩耗性を十分確保することができず、一方、その合計平均層厚が20μmを越えると、TiとAlとSiの複合窒化物または複合炭窒化物層の結晶粒が粗大化し易くなり、チッピングを発生しやすくなる。したがって、その合計平均層厚を1〜20μmと定めた。
交互積層構造を構成する領域A層:
領域A層は、AlのTiとAlとSiの合量に占める含有割合xおよびSiのTiとAlとSiの合量に占める含有割合yおよびCのCとNの合量に占める含有割合z(但し、x、y、zはいずれも原子比)が、それぞれ、0.70≦x≦0.80、0.005≦y≦0.10、0≦z≦0.005、x+y≦0.85を満足する。この組成を満たすとき、結晶粒が高靭性となる。さらに、工具基体と平行な面内の粒子幅の平均値を平均粒子幅W、工具基体と垂直な方向の粒子長さの平均値を平均粒子長さLとすると、平均粒子幅Wが0.1μm以下、平均粒子長さLが0.1μm以下とする。この条件を満たすとき、領域A層を構成する(Ti1−x―yAlSi)(C1−z)層は微粒粒状組織となり、すぐれた靭性を示す。一方、組成が前記範囲を逸脱するとき、(Ti1−x―yAlSi)(C1−z)層は、粗大化し易くなり、平均粒子幅Wが0.1μm以下、平均粒子長さLが0.1μm以下を満足するような微粒粒状組織にならず、期待する靭性を奏することができない。
交互積層構造を構成する領域B層:
領域B層は、AlのTiとAlとSiの合量に占める含有割合xおよびSiのTiとAlとSiの合量に占める含有割合yおよびCのCとNの合量に占める含有割合z(但し、x、y、zはいずれも原子比)が、それぞれ、0.85≦x≦0.95、0.005≦y≦0.10、0≦z≦0.005、x+y≦0.955を満足する。この組成を満たすとき、結晶粒が高い硬さを示す。さらに、工具基体と平行な面内の粒子幅の平均値を平均粒子幅W、工具基体と垂直な方向の粒子長さの平均値を平均粒子長さLとすると、平均粒子幅Wが0.1〜2.0μm、平均粒子長さLが0.5〜5.0μmとする。この条件を満たすとき、領域B層を構成する(Ti1−x―yAlSi)(C1−z)層は柱状組織となり、すぐれた耐摩耗性を示す。一方、組成が前記範囲を逸脱するとき、(Ti1−x―yAlSi)(C1−z)層は、微粒になるまたは粗大になり易く、平均粒子幅Wが0.1〜2.0μm、平均粒子長さLが0.5〜5.0μmを満足するような柱状組織にならず、期待する耐摩耗性を奏することができない。
さらに領域A層と領域B層が交互積層構造を構成することによって、すぐれた靭性を示す微粒粒状組織の(Ti1−x―yAlSi)(C1−z)層からなる領域A層とすぐれた耐摩耗性を示す柱状組織の(Ti1−x―yAlSi)(C1−z)層からなる領域B層とからなる交互積層構造があたかもそれぞれの特性を併せ持つ1つの層として機能するため、従来の単層からなる硬質被覆層に比して、長期に亘ってすぐれた切削性能を維持することを見出した。ここで、本発明における交互積層構造とは、領域A層と領域B層とが膜厚方向に亘って、交互に少なくともそれぞれ1層以上存在することを意味している。
また、微粒粒状組織の(Ti1−x―yAlSi)(C1−z)層の方が、柱状組織の(Ti1−x―yAlSi)(C1−z)層よりも靭性にすぐれているので、交互積層構造の最表面層は、微粒粒状組織の(Ti1−x―yAlSi)(C1−z)層、すなわち、領域A層となるようにすることが、耐チッピング性向上の観点から好ましい。
領域A層および領域B層に含有される微量C:
領域A層および領域B層を構成するTiとAlの複合炭窒化物層中には、CとNの合量に占めるCの含有割合をzとしたとき(原子比)、0≦z≦0.005の範囲で示される微量のCを存在させても良い。このように、領域A層および領域 B層が微量のCを含有していることにより、領域A層および領域B層の密着性が向上し、かつ、潤滑性が向上することによって切削時の衝撃を緩和し、結果として交互積層構造の硬質被覆層の耐欠損性および耐チッピング性が向上する。
領域A層の立方晶結晶相の占める面積割合:
さらに、領域A層について、電子線後方散乱回折装置を用いて個々の結晶粒の結晶方位を、前記TiとAlとSiの複合窒化物または複合炭窒化物層の縦断面方向から解析した場合、立方晶結晶格子の電子後方散乱回折像が観測される立方晶結晶相と六方晶結晶格子の電子後方散乱回折像が観測される六方晶結晶相が存在し、立方晶結晶相と六方晶結晶相の占める合計の面積に対する立方晶結晶相の占める面積割合が50%以上であることがより好ましい。その理由は、立方晶結晶相の方が六方晶結晶相に比べて、高硬度であるため、領域A層の立方晶結晶相の占める面積割合が50%以上であることにより、領域A層の硬さが向上し、すぐれた靭性に加えて、さらに、耐摩耗性も向上する。
領域B層の六方晶結晶相の占める面積割合:
さらに、領域B層について、電子線後方散乱回折装置を用いて個々の結晶粒の結晶方位を、前記TiとAlとSiの複合窒化物または複合炭窒化物層の縦断面方向から解析した場合、立方晶結晶格子の電子後方散乱回折像が観測される立方晶結晶相と六方晶結晶格子の電子後方散乱回折像が観測される六方晶結晶相が存在し、立方晶結晶相と六方晶結晶相の占める合計の面積に対する六方晶結晶相の占める面積割合が50%以上であることがより好ましい。領域B層の六方晶結晶相の占める面積割合が50%以上であることにより、領域B層の熱的安定性が向上し、すぐれた耐摩耗性に加えて、さらに、塑性変形性も向上する。
また、本発明の複合窒化物または複合炭窒化物層は、下部層として、Tiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層および炭窒酸化物層のうちの1層または2層以上からなり、かつ、0.1〜20μmの合計平均層厚を有するTi化合物層を含む場合、及び/又は上部層として1〜25μmの平均層厚を有する酸化アルミニウム層を含む場合においても、前述した特性が損なわれず、これらの従来より知られている下部層や上部層などと併用することにより、これらの層が奏する効果と相俟って、一層すぐれた特性を創出することができる。下部層として、Tiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層および炭窒酸化物層のうちの1層または2層以上からなるTi化合物層を含む場合、Ti化合物層の合計平均層厚が20μmを超えると結晶粒が粗大化し易くなり、チッピングを発生しやすくなる。また、上部層として、酸化アルミニウム層を含む場合、酸化アルミニウム層の合計平均層厚が25μmを超えると結晶粒が粗大化し易くなり、チッピングを発生しやすくなる。
本発明の硬質被覆層を構成する交互積層構造を有するTiとAlとSiの複合窒化物または複合炭窒化物層の断面を模式的に表した図を図1に示す。
本発明は、炭化タングステン基超硬合金、炭窒化チタン基サーメットまたは立方晶窒化ホウ素基超高圧焼結体のいずれかで構成された工具基体の表面に、硬質被覆層を設けた表面被覆切削工具において、前記硬質被覆層は、化学蒸着された組成式:(Ti1−x―yAlSi)(C1−z)で表される領域A層と領域B層とからなる平均合計層厚1〜20μmの交互積層構造を有し、前記領域A層は、AlのTiとAlとSiの合量に占める含有割合xおよびSiのTiとAlとSiの合量に占める含有割合yおよびCのCとNの合量に占める含有割合z(但し、x、y、zはいずれも原子比)が、それぞれ、0.70≦x≦0.80、0.005≦y≦0.10、0≦z≦0.005、x+y≦0.85を満足するとともに工具基体と平行な面内の粒子幅の平均値を平均粒子幅W、工具基体と垂直な方向の粒子長さの平均値を平均粒子長さLとすると、前記平均粒子幅Wが0.1μm以下、平均粒子長さLが0.1μm以下であり、前記領域B層は、AlのTiとAlとSiの合量に占める含有割合xおよびSiのTiとAlとSiの合量に占める含有割合yおよびCのCとNの合量に占める含有割合z(但し、x、y、zはいずれも原子比)が、それぞれ、0.85≦x≦0.95、0.005≦y≦0.10、0≦z≦0.005、x+y≦0.955を満足するとともに工具基体と平行な面内の粒子幅の平均値を平均粒子幅W、工具基体と垂直な方向の粒子長さの平均値を平均粒子長さLとすると、前記平均粒子幅Wが0.1〜2.0μm、平均粒子長さLが0.5〜5.0μmであり、前記交互積層構造の最表面層は、前記領域A層であることにより、すぐれた靭性および熱遮蔽効果を示す微粒粒状組織の(Ti1−x―yAlSi)(C1−z)層からなる領域A層とすぐれた耐摩耗性、熱伝導率を示す柱状組織の(Ti1−x―yAlSi)(C1−z)層からなる領域B層とからなる交互積層構造があたかもそれぞれの特性を併せ持つ1つの層として機能する。その結果、耐チッピング性、耐欠損性向上という効果が発揮され、従来の硬質被覆層に比して、長期の使用に亘ってすぐれた切削性能を発揮し、被覆工具の長寿命化が達成されるものである。
本発明の硬質被覆層を構成する交互積層構造を有するTiとAlとSiの複合窒化物または複合炭窒化物層の断面を模式的に表した膜構成模式図である。
つぎに、本発明の被覆工具を実施例により具体的に説明する。
原料粉末として、いずれも1〜3μmの平均粒径を有するWC粉末、TiC粉末、TaC粉末、NbC粉末、Cr32粉末、およびCo粉末を用意し、これら原料粉末を、表1に示される配合組成に配合し、さらにワックスを加えてアセトン中で24時間ボールミル混合し、減圧乾燥した後、98MPaの圧力で所定形状の圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を5Paの真空中、1370〜1470℃の範囲内の所定の温度に1時間保持の条件で真空焼結し、焼結後、ISO規格SEEN1203AFSNのインサート形状をもったWC基超硬合金製の工具基体A〜Cをそれぞれ作製した。
また、原料粉末として、いずれも0.5〜2μmの平均粒径を有するTiCN(質量比でTiC/TiN=50/50)粉末、Mo2C粉末、ZrC粉末、NbC粉末、WC粉末、Co粉末、およびNi粉末を用意し、これら原料粉末を、表2に示される配合組成に配合し、ボールミルで24時間湿式混合し、乾燥した後、98MPaの圧力で圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を1.3kPaの窒素雰囲気中、温度:1500℃に1時間保持の条件で焼結し、焼結後、ISO規格SEEN1203AFSNのインサート形状をもったTiCN基サーメット製の工具基体Dを作製した。
つぎに、これらの工具基体A〜Dの表面に、通常の化学蒸着装置を用い、
(a)表4に示される形成条件F〜J、すなわち、反応ガス組成(容量%)を、TiCl:3〜4%、Al(CH:0〜5%、AlCl:1〜2%、SiCl:1.5〜2%、NH:7〜10%、N:6〜10%、C:0〜1%、H:残、反応雰囲気圧力:2〜5kPa、反応雰囲気温度:700〜900℃として、所定時間、熱CVD法を行うことにより、表6に示される平均粒子幅Wおよび平均粒子長さLの柱状組織の(Ti1−x―yAlSi)(C1−z)層を成膜する(領域B層)。
(b)その後、前記(a)の成膜工程を停止し、表4に示される形成条件A〜E、すなわち、反応ガス組成(容量%)を、TiCl:1〜2%、Al(CH:0〜2%、AlCl:3〜5%、SiCl:0.5〜1%、NH:3〜6%、N:6〜10%、C:0〜1%、H:残、反応雰囲気圧力:2〜5kPa、反応雰囲気温度:700〜900℃として、所定時間、熱CVD法を行うことにより、表6に示される平均粒子幅Wおよび平均粒子長さLの微粒粒状組織の(Ti1−x―yAlSi)(C1−z)層を成膜する(領域A層)。
(c)前記(a)と(b)からなる工程を、表4に示された積層数となるよう繰り返し行なうことによって、表6に示される目標合計層厚を有する柱状組織の(Ti1−x―yAlSi)(C1−z)層と微粒粒状組織の(Ti1−x―yAlSi)(C1−z)層との交互積層構造からなる硬質被覆層を形成することにより本発明被覆工具1〜15を製造した。
(d)微粒粒状組織の(Ti1−x―yAlSi)(C1−z)層の方が、柱状組織の(Ti1−x―yAlSi)(C1−z)層よりも靭性にすぐれているので、交互積層構造の最表面層は、微粒粒状組織の(Ti1−x―yAlSi)(C1−z)層、すなわち領域A層となるようにすることが、耐チッピング性向上の観点から好ましい。
なお、本発明被覆工具6〜13については、表3に示される形成条件で、表5および/または表6に示したような下部層および/または上部層を形成した。
前記本発明被覆工具1〜15の硬質被覆層を構成するTiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物層について、走査型電子顕微鏡(倍率5000倍及び20000倍)を用いて複数視野に亘って観察したところ、図1に示した膜構成模式図に示されるように柱状組織の(Ti1−x―yAlSi)(C1−z)層からなる領域B層と微粒粒状組織の(Ti1−x―yAlSi)(C1−z)層からなる領域A層との交互積層構造が確認された。
また、比較の目的で、表1および表2に示した工具基体A〜Dの表面に、表3に示される条件かつ表7に示される目標合計層厚(μm)で本発明被覆工具1〜15と同様に、硬質被覆層の単層または交互積層構造のTiとAlとSiの複合窒化物または複合炭窒化物層を蒸着形成した。この時には、柱状組織(Ti1−x―yAlSi)(C1−z)層および微粒粒状組織(Ti1−x―yAlSi)(C1−z)層の作り分けは行わず、柱状組織(Ti1−x―yAlSi)(C1−z)層のみ、微粒粒状組織(Ti1−x―yAlSi)(C1−z)層のみからなる単層構造の(Ti1−x―yAlSi)(C1−z)層を形成することにより比較被覆工具1〜8を製造した。
なお、本発明被覆工具6〜13と同様に、比較被覆工具6〜13については、表3に示される形成条件で、表5および/または表7に示したような下部層および/または上部層を形成した。
参考のため、工具基体BおよびCの表面に、従来の物理蒸着装置を用いて、アークイオンプレーティングにより、参考例の(Ti1−x―yAlSi)(C1−z)層を目標層厚で蒸着形成することにより、表7に示される参考被覆工具14、15を製造した。
なお、アークイオンプレーティングの条件は、次のとおりである。
(a)前記工具基体BおよびCを、アセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、アークイオンプレーティング装置内の回転テーブル上の中心軸から半径方向に所定距離離れた位置に外周部にそって装着し、また、カソード電極(蒸発源)として、所定組成のAl−Ti−Si合金を配置し、
(b)まず、装置内を排気して10−2Pa以下の真空に保持しながら、ヒーターで装置内を500℃に加熱した後、前記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に−1000Vの直流バイアス電圧を印加し、かつTi−Al−Si合金からなるカソード電極とアノード電極との間に200Aの電流を流してアーク放電を発生させ、装置内にTiイオン、AlイオンおよびSiイオンを発生させ、もって工具基体表面をボンバード洗浄し、
(c)次に、装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して4Paの反応雰囲気とすると共に、前記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に−50Vの直流バイアス電圧を印加し、かつ、前記Ti−Al−Si合金からなるカソード電極(蒸発源)とアノード電極との間に120Aの電流を流してアーク放電を発生させ、前記工具基体の表面に、表5に示される目標平均組成、目標平均層厚の(Ti,Al,Si)N層を蒸着形成し、参考被覆工具14、15を製造した。
また、本発明被覆工具1〜15、比較被覆工具1〜13および参考被覆工具14、15の各構成層の工具基体に垂直な方向の断面を、走査型電子顕微鏡(倍率5000倍)を用いて測定し、観察視野内の5点の層厚を測って平均して平均層厚を求めたところ、いずれも表5ないし表7に示される目標合計層厚と実質的に同じ平均合計層厚を示した。
また、硬質被覆層の平均Al含有割合x、平均Si含有割合y、平均C含有割合zについては、二次イオン質量分析(SIMS,Secondary−Ion−Mass−Spectroscopy)により求めた。イオンビームを試料表面側から70μm×70μmの範囲に照射し、スパッタリング作用によって放出された成分について深さ方向の濃度測定を行った。平均Al含有割合x、平均Si含有割合y、平均C含有割合zは領域A層および領域B層のそれぞれの層についての深さ方向の平均値を示す。
また、本発明被覆工具1〜15および比較被覆工具1〜13、参考被覆工具14、15については、同じく工具基体に垂直な方向の断面方向から走査型電子顕微鏡(倍率5000倍及び20000倍)を用いて、工具基体表面と水平方向に長さ10μmの範囲に存在する硬質被覆層の交互積層構造の領域A層を構成する微粒粒状組織(Ti1−x―yAlSi)(C1−z)層中の個々の結晶粒の工具基体表面と平行な粒子幅を測定し、測定範囲内に存在する粒子についての平均値を算出することで平均粒子幅W、工具基体表面に垂直な方向の粒子長さを測定し、測定範囲内に存在する粒子についての平均値を算出することで平均粒子長さLを求めた。また、領域B層を構成する柱状組織(Ti1−x―yAlSi)(C1−z)層中の個々の結晶粒の工具基体表面と平行な粒子幅を測定し、測定範囲内に存在する粒子についての平均値を算出することで平均粒子幅W、工具基体表面に垂直な方向の粒子長さを測定し、測定範囲内に存在する粒子についての平均値を算出することで平均粒子長さLを測定した。その結果を、表6および表7に示した。
また、電子線後方散乱回折装置を用いて、TiとAlとSiの複合窒化物または複合炭窒化物層からなる硬質被覆層の工具基体に垂直な方向の断面を研磨面とした状態で、電界放出型走査電子顕微鏡の鏡筒内にセットし、前記研磨面に70度の入射角度で15kVの加速電圧の電子線を1nAの照射電流で、前記断面研磨面の測定範囲内に存在する結晶粒個々に照射し、工具基体と水平方向に長さ100μmに亘り硬質被覆層について0.1μm/stepの間隔で、電子線後方散乱回折像を測定し、個々の結晶粒の結晶構造を解析することで立方晶構造あるいは六方晶構造であるかを同定し、領域A層の立方晶結晶相の占める面積割合および領域B層の六方晶結晶相の占める面積割合を求めた。
その結果を、表6および表7に示す。
つぎに、前述の各種の被覆工具をいずれもカッタ径125mmの工具鋼製カッタ先端部に固定治具にてクランプした状態で、本発明被覆工具1〜10、比較被覆工具1〜8および参考被覆工具9,10について、以下に示す、合金鋼の高速断続切削の一種である乾式高速正面フライス、センターカット切削加工試験を実施し、切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。
被削材: JIS・SCM440幅100mm、長さ400mmのブロック材
回転速度: 943 min−1
切削速度: 370 m/min、
切り込み: 1.2 mm、
一刃送り量: 0.12 mm/刃、
切削時間: 8分、
表8に、前記切削試験の結果を示す。
原料粉末として、いずれも1〜3μmの平均粒径を有するWC粉末、TiC粉末、ZrC粉末、TaC粉末、NbC粉末、Cr32粉末、TiN粉末およびCo粉末を用意し、これら原料粉末を、表9に示される配合組成に配合し、さらにワックスを加えてアセトン中で24時間ボールミル混合し、減圧乾燥した後、98MPaの圧力で所定形状の圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を5Paの真空中、1370〜1470℃の範囲内の所定の温度に1時間保持の条件で真空焼結し、焼結後、切刃部にR:0.07mmのホーニング加工を施すことによりISO規格CNMG120412のインサート形状をもったWC基超硬合金製の工具基体α〜γをそれぞれ製造した。
また、原料粉末として、いずれも0.5〜2μmの平均粒径を有するTiCN(質量比でTiC/TiN=50/50)粉末、NbC粉末、WC粉末、Co粉末、およびNi粉末を用意し、これら原料粉末を、表10に示される配合組成に配合し、ボールミルで24時間湿式混合し、乾燥した後、98MPaの圧力で圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を1.3kPaの窒素雰囲気中、温度:1540℃に1時間保持の条件で焼結し、焼結後、切刃部分にR:0.09mmのホーニング加工を施すことによりISO規格・CNMG120412のインサート形状をもったTiCN基サーメット製の工具基体δを形成した。
つぎに、これらの工具基体α〜δの表面に、通常の化学蒸着装置を用い、表4に示される条件で、表12に示される目標層厚、組成となるように(Ti1−X−YAlSi)(C1−Z)層を蒸着形成することにより、表12に示される本発明被覆工具16〜30を製造した。
なお、本発明被覆工具19〜28については、表3に示される形成条件で、表11および/または表12に示されるような下部層および/または上部層を形成した。
また、比較の目的で、同じく工具基体α〜δの表面に、通常の化学蒸着装置を用い、表4に示される条件で、比較例の(Ti1−X−YAlSi)(C1−Z)層を目標層厚で蒸着形成することにより、表13に示される比較例被覆工具16〜28を製造した。
なお、本発明被覆工具19〜28と同様に、比較被覆工具19〜28については、表3に示される形成条件で、表11ないし表13に示されるような下部層および/または上部層を形成した。
参考のため、工具基体βおよび工具基体γの表面に、従来の物理蒸着装置を用いて、アークイオンプレーティングにより、参考例の(Ti1−X−YAlSi)(C1−Z)層を目標層厚で蒸着形成することにより、表13に示される参考被覆工具29,30を製造した。
なお、アークイオンプレーティングの条件は、実施例1に示される条件と同様の条件を用いた。
また、本発明被覆工具16〜30、比較例被覆工具16〜28および参考被覆工具29,30の各構成層の断面を、走査電子顕微鏡(倍率5000倍)を用いて測定し、観察視野内の5点の層厚を測って平均して平均層厚を求めたところ、いずれも表10および表11に示される目標層厚と実質的に同じ平均層厚を示した。
また、本発明被覆工具16〜30、比較被覆工具16〜28および参考被覆工具29、30の硬質被覆層について、前記本発明被覆工具11〜15の硬質被覆層を構成するTiとAlとSiの複合窒化物または複合炭窒化物層について、実施例1に示される方法と同様の方法を用いて、測定範囲内に存在する粒子について、平均粒子幅Wおよび平均粒子長さLを測定した。
表12および表13に、その結果を示す。
つぎに、前記各種の被覆工具をいずれも工具鋼製バイトの先端部に固定治具にてネジ止めした状態で、本発明被覆工具16〜30、比較被覆工具16〜28および参考被覆工具29,30について、以下に示す、炭素鋼の乾式高速断続切削試験、鋳鉄の湿式高速断続切削試験を実施し、いずれも切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。
切削条件1:
被削材:JIS・SCM435の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度:360m/min、
切り込み:1.5mm、
送り:0.2mm/rev、
切削時間:5分、
(通常の切削速度は、220m/min)、
切削条件2:
被削材:JIS・FCD450の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度:350m/min、
切り込み:1mm、
送り:0.2mm/rev、
切削時間:5分、
(通常の切削速度は、200m/min)、
表14に、前記切削試験の結果を示す。
原料粉末として、いずれも0.5〜4μmの範囲内の平均粒径を有するcBN粉末、TiN粉末、TiC粉末、Al粉末、Al粉末を用意し、これら原料粉末を表15に示される配合組成に配合し、ボールミルで80時間湿式混合し、乾燥した後、120MPaの圧力で直径:50mm×厚さ:1.5mmの寸法をもった圧粉体にプレス成形し、ついでこの圧粉体を、圧力:1Paの真空雰囲気中、900〜1300℃の範囲内の所定温度に60分間保持の条件で焼結して切刃片用予備焼結体とし、この予備焼結体を、別途用意した、Co:8質量%、WC:残りの組成、並びに直径:50mm×厚さ:2mmの寸法をもったWC基超硬合金製支持片と重ね合わせた状態で、通常の超高圧焼結装置に装入し、通常の条件である圧力:4GPa、温度:1200〜1400℃の範囲内の所定温度に保持時間:0.8時間の条件で超高圧焼結し、焼結後上下面をダイヤモンド砥石を用いて研磨し、ワイヤー放電加工装置にて所定の寸法に分割し、さらにCo:5質量%、TaC:5質量%、WC:残りの組成およびJIS規格CNGA120412の形状(厚さ:4.76mm×内接円直径:12.7mmの80°菱形)をもったWC基超硬合金製インサート本体のろう付け部(コーナー部)に、質量%で、Zr:37.5%、Cu:25%、Ti:残りからなる組成を有するTi−Zr−Cu合金のろう材を用いてろう付けし、所定寸法に外周加工した後、切刃部に幅:0.13mm、角度:25°のホーニング加工を施し、さらに仕上げ研摩を施すことによりISO規格CNGA120412のインサート形状をもった工具基体イ、ロをそれぞれ製造した。
つぎに、これらの工具基体イ、ロの表面に、通常の化学蒸着装置を用い、表3に示される条件で、本発明の(Ti1−x―yAlSi)(C1−z)層を目標層厚で蒸着形成することにより、表17に示される本発明被覆工具31〜40を製造した。
また、比較の目的で、同じく工具基体イ、ロの表面に、通常の化学蒸着装置を用い、表3に示される条件で、比較例の(Ti1−x―yAlSi)(C1−z)層を目標層厚で蒸着形成することにより、表18に示される比較被覆工具31〜38を製造した。
参考のため、工具基体イおよび工具基体ロの表面に、従来の物理蒸着装置を用いて、アークイオンプレーティングにより、参考例の(Ti1−x―yAlSi)(C1−z)層を目標層厚で蒸着形成することにより、表18に示される参考被覆工具39、40を製造した。
なお、アークイオンプレーティングの条件は、実施例1に示される条件と同様の条件を用い、前記工具基体の表面に、表18に示される目標平均組成、目標合計層厚の(Ti1−x―yAlSi)(C1−z)層を蒸着形成し、参考被覆工具39、40を製造した。
また、本発明被覆工具31〜40、比較例被覆工具31〜38および参考被覆工具39、40の各構成層の断面を、走査電子顕微鏡(倍率5000倍)を用いて測定し、観察視野内の5点の層厚を測って平均して平均層厚を求めたところ、いずれも表17および表18に示される目標合計層厚と実質的に同じ平均合計層厚を示した。
また、前記の本発明被覆工具31〜40、比較例被覆工具31〜38および参考被覆工具39、40の硬質被覆層について、実施例1に示される方法と同様の方法を用いて、硬質被覆層の平均Al含有割合x、平均Si含有割合y、平均C含有割合z、領域A層を構成する微粒粒状組織(Ti1−x―yAlSi)(C1−z)層の平均粒子幅W、平均粒子長さL、領域B層を構成する柱状組織(Ti1−x―yAlSi)(C1−z)層の平均粒子幅W、平均粒子長さL、領域A層の立方晶結晶相の占める面積割合および領域B層の六方晶結晶相の占める面積割合を求めた。その結果を、表17および表18に示す。
つぎに、前述の各種の被覆工具をいずれも工具鋼製バイトの先端部に固定治具にてネジ止めした状態で、本発明被覆工具31〜40、比較被覆工具31〜38および参考被覆工具39、40について、以下に示す、浸炭焼入れ合金鋼の乾式高速断続切削加工試験を実施し、切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。
被削材: JIS・SCr420(硬さ:HRC62)の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度: 220 m/min、
切り込み: 0.12mm、
送り: 0.12mm/rev、
切削時間: 4分、
表19に、前記切削試験の結果を示す。
表5、6、8、10、11、12、14、16、17、19に示される結果から、本発明被覆工具1〜40は、硬質被覆層の交互積層構造を構成する領域A層が微粒粒状組織を有しており、領域B層が柱状組織を有していることにより、靱性が向上し、鋼や鋳鉄等の高熱発生を伴い、しかも、切れ刃に断続的・衝撃的高負荷が作用する高速断続切削加工に用いた場合でも、耐チッピング性、耐欠損性にすぐれ、その結果、長期の使用に亘ってすぐれた耐摩耗性を発揮することが明らかである。
これに対して、硬質被覆層を構成する(Ti1−x―yAlSi)(C1−z)層が、微粒粒状組織を有する層と柱状組織を有している層との交互積層構造を有していない比較被覆工具1〜13、21〜38および参考被覆工具14、15、39、40については、高熱発生を伴い、しかも、切れ刃に断続的・衝撃的高負荷が作用する高速断続切削加工に用いた場合、チッピング、欠損等の発生により短時間で寿命にいたることが明らかである。
前述のように、本発明の被覆工具は、合金鋼の高速断続切削加工ばかりでなく、各種の被削材の被覆工具として用いることができ、しかも、長期の使用に亘ってすぐれた耐チッピング性、耐摩耗性を発揮するものであるから、切削装置の高性能化並びに切削加工の省力化および省エネ化、さらに低コスト化に十分満足に対応できるものである。

Claims (5)

  1. 炭化タングステン基超硬合金、炭窒化チタン基サーメットまたは立方晶窒化ホウ素基超高圧焼結体のいずれかで構成された工具基体の表面に、硬質被覆層を設けた表面被覆切削工具において、
    前記硬質被覆層は、化学蒸着法により成膜されたTiとAlとSiの複合窒化物または複合炭窒化物層を少なくとも有し、
    前記複合窒化物または複合炭窒化物層は、組成式:(Ti1−x―yAlSi)(C1−z)で表される領域A層と領域B層とからなる合計平均層厚1〜20μmの交互積層構造を有し、
    前記領域A層は、AlのTiとAlとSiの合量に占める含有割合xおよびSiのTiとAlとSiの合量に占める含有割合yおよびCのCとNの合量に占める含有割合z(但し、x、y、zはいずれも原子比)が、それぞれ、0.70≦x≦0.80、0.005≦y≦0.10、0≦z≦0.005、x+y≦0.85を満足するとともに前記工具基体と平行な面内の粒子幅の平均値を平均粒子幅W、工具基体と垂直な方向の粒子長さの平均値を平均粒子長さLとすると、前記平均粒子幅Wが0.1μm以下、平均粒子長さLが0.1μm以下であり、
    前記領域B層は、AlのTiとAlとSiの合量に占める含有割合xおよびSiのTiとAlとSiの合量に占める含有割合yおよびCのCとNの合量に占める含有割合z(但し、x、y、zはいずれも原子比)が、それぞれ、0.85≦x≦0.95、0.005≦y≦0.10、0≦z≦0.005、x+y≦0.955を満足しするとともに前記工具基体と平行な面内の粒子幅の平均値を平均粒子幅W、工具基体と垂直な方向の粒子長さの平均値を平均粒子長さLとすると、前記平均粒子幅Wが0.1〜2.0μm、平均粒子長さLが0.5〜5.0μmであり、
    前記交互積層構造において、領域A層と領域B層は交互に少なくともそれぞれ1層以上存在し、最表面層は前記領域A層であることを特徴とする表面被覆切削工具。
  2. 前記領域A層について、電子線後方散乱回折装置を用いて個々の結晶粒の結晶方位を前記TiとAlとSiの複合窒化物または複合炭窒化物層の縦断面方向から解析した場合、立方晶結晶格子の電子後方散乱回折像が観測される立方晶結晶相と六方晶結晶格子の電子後方散乱回折像が観測される六方晶結晶相が存在し、立方晶結晶相と六方晶結晶相の占める合計の面積に対する立方晶結晶相の占める面積割合が50%以上であり、
    前記領域B層について、前記立方晶結晶相と六方晶結晶相の占める合計の面積に対する六方晶結晶相の占める面積割合が50%以上であることを特徴とする請求項1に記載の表面被覆切削工具。
  3. 前記工具基体と前記複合窒化物または複合炭窒化物層の間にTiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層および炭窒酸化物層のうちの1層または2層以上からなり、かつ、0.1〜20μmの合計平均層厚を有するTi化合物層を含む下部層が存在することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の表面被覆切削工具。
  4. 前記複合窒化物または複合炭窒化物層の上部に、少なくとも1〜25μmの平均層厚を有する酸化アルミニウム層を含む上部層が存在することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の表面被覆切削工具。
  5. 前記硬質被覆層は、少なくとも、トリメチルアルミニウムを反応ガス成分として含有する化学蒸着法により成膜されたものであることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の表面被覆切削工具。
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