JP2014097536A - 高速断続切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮する表面被覆切削工具 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】WC基超硬合金、TiCN基サーメット、cBN基超高圧焼結体からなる基体表面に、六方晶結晶相と立方晶結晶相の混合組織からなる(Ti1−XAlX)(CYN1−Y)層(但し、X、Yは何れも原子比で、0.60≦X≦0.95、0.0005≦Y≦0.005)が被覆された表面被覆切削工具であって、基体表面の法線方向に対する上記六方晶結晶相の結晶粒の(0001)面の法線の傾斜角を測定した場合、2〜12度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが存在し、かつ該傾斜角区分に占める度数割合は40%以上であり、さらに、好ましくは、立方晶結晶粒の平均アスペクト比αcは2未満、平均粒子幅ωcは0.3μm以下、また、六方晶結晶粒の平均アスペクト比αhは2以上、平均粒子幅ωhは0.1〜2μmである。
【選択図】図1
Description
ただ、上記従来のTi−Al系の複合窒化物層を蒸着形成した被覆工具は、比較的耐摩耗性に優れるものの、高速断続切削条件で用いた場合にチッピング等の異常損耗を発生しやすいことから、硬質被覆層の改善についての種々の提案がなされている。
ただ、この被覆工具は、物理蒸着法により硬質被覆層を蒸着形成するため、Alの含有割合Xを0.6以上にはできず、より一段と切削性能を向上させることが望まれている。
例えば、特許文献2には、TiCl4、AlCl3、NH3の混合反応ガス中で、650〜900℃の温度範囲において化学蒸着を行うことにより、Alの含有割合Xの値が0.65〜0.95である(Ti1−XAlX)N層を蒸着形成できることが記載されているが、この文献では、この(Ti1−XAlX)N層の上にさらにAl2O3層を被覆し、これによって断熱効果を高めることを目的とするものであるから、Xの値を0.65〜0.95まで高めた(Ti1−XAlX)N層の形成によって、切削性能へ如何なる影響があるかという点についてまでの開示はない。
しかし、上記特許文献1に記載される被覆工具は、(Ti1−XAlX)N層からなる硬質被覆層が物理蒸着法で蒸着形成され、硬質被覆層中のAl含有量Xを高めることができないため、例えば、合金鋼の高速断続切削に供した場合には、耐チッピング性が十分であるとは言えない。
一方、上記特許文献2に記載される化学蒸着法で蒸着形成した(Ti1−XAlX)N層については、Al含有量Xを高めることができ、また、立方晶構造を形成させることができることから、所定の硬さを有し耐摩耗性にはすぐれた硬質被覆層が得られるものの、基体との密着強度は十分でなく、また、靭性に劣る。
さらに、上記特許文献3に記載される被覆工具は、所定の硬さを有し耐摩耗性にはすぐれるものの、靭性に劣ることから、合金鋼の高速断続切削加工等に供した場合には、チッピング、欠損、剥離等の異常損傷が発生しやすく、満足できる切削性能を発揮するとは言えない。
本発明は、合金鋼の高速断続切削等の高速断続切削加工に供した場合であっても、すぐれた靭性を備え、長期の使用に亘ってすぐれた耐チッピング性、耐摩耗性を発揮する被覆工具を提供することを目的とするものである。
例えば、トリメチルアルミニウム(Al(CH3)3)を反応ガス成分として含有する化学蒸着法により、複合炭窒化物層として、立方晶結晶相と六方晶結晶相との所定の面積割合の混合組織からなる(Ti1−XAlX)(CYN1−Y)層を蒸着形成することができるとともに、基体表面の法線方向に対する該複合炭窒化物層の六方晶結晶相の結晶粒の(0001)面の法線の傾斜角度数分布割合を40%以上とすることができ、これにより、複合炭窒化物層は、高い耐摩耗性を保ちつつ靭性が向上し、長期の使用に亘って、すぐれた耐チッピング性、耐摩耗性を示すことを見出したのである。
「(1) 炭化タングステン基超硬合金、炭窒化チタン基サーメット、または立方晶窒化ホウ素基超高圧焼結体のいずれかで構成された基体の表面に、硬質被覆層が被覆された表面被覆切削工具であって、
(a)上記硬質被覆層は、化学蒸着法により蒸着形成された平均層厚1〜20μmのTiとAlの複合炭窒化物層を少なくとも含み、その平均組成を、
組成式:(Ti1−XAlX)(CYN1−Y)
で表した場合、Al含有割合XおよびC含有割合Y(但し、X、Yは何れも原子比)は、それぞれ、0.60≦X≦0.95、0.0005≦Y≦0.005を満足し、
(b)上記複合炭窒化物層は、電子線後方散乱回折装置を用いて個々の結晶粒の結晶構造を、上記TiとAlの複合炭窒化物層の縦断面方向から解析した場合、立方晶結晶格子の電子線後方散乱回折像が観察される立方晶結晶相と六方晶結晶格子の電子線後方散乱回折像が観察される六方晶結晶相との混合組織からなり、かつ、立方晶結晶相と六方晶結晶相との合計に占める六方晶結晶相の面積割合は10〜50面積%であり、
(c)基体表面の法線方向に対する上記複合炭窒化物層の六方晶結晶相の結晶粒の結晶面である(0001)面の法線がなす傾斜角を測定し、該測定傾斜角のうち、基体表面の法線方向に対して0〜90度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分して各区分内に存在する度数を集計した場合、2〜12度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが存在するとともに、該2〜12度の傾斜角区分に存在する度数の合計は、傾斜角度数分布における度数全体の40%以上であることを特徴とする表面被覆切削工具。
(2) 上記複合炭窒化物層の立方晶結晶相の結晶粒の平均粒子幅ωcが0.3μm以下であり、平均アスペクト比αcが2未満であり、また、
上記複合炭窒化物層の六方晶結晶相の結晶粒の平均粒子幅ωhが0.1〜2μmであり、平均アスペクト比αhが2以上、であることを特徴とする前記(1)に記載の表面被覆切削工具。
(3) 上記複合炭窒化物層の立方晶結晶相の結晶粒の立方晶構造を有する結晶内に(Ti1−XAlX)(CYN1−Y)のTiとAlの周期的な濃度変化が存在し、周期的に変化するXの極大値と極小値の差が0.05〜0.25、望ましくは0.10〜0.20であり、その周期が3〜30nmであることを特徴とする前記(1)または(2)に記載の表面被覆切削工具。
(4) 上記複合炭窒化物層は、少なくとも、トリメチルアルミニウムを反応ガス成分として含有する化学蒸着法により蒸着形成されたものであることを特徴とする前記(1)から(3)のいずれかに記載の表面被覆切削工具。」
に特徴を有するものである。
なお、本発明における硬質被覆層は、前述のような複合炭窒化物層をその本質的構成とするが、さらに、従来より知られている下部層や上部層などと併用することにより、一層すぐれた特性を創出することができる。
上記(Ti1−XAlX)(CYN1−Y)層において、Alの含有割合X(原子比)の値が0.60未満になると、複合炭窒化物層の組織中における六方晶結晶相の面積割合の減少により、耐クレータ摩耗性が低下し、チッピング、欠損等の異常損傷を発生しやすくなり、一方、X(原子比)の値が0.95を超えると、相対的なTi含有割合の減少により、複合炭窒化物層の組織中における立方晶結晶相の面積割合の減少により、硬さが低下するとともに耐逃げ面摩耗性が低下することから、X(原子比)の値は、0.60以上0.95以下とすることが必要である。
また、上記(Ti1−XAlX)(CYN1−Y)層において、C成分には層の潤滑性を向上させ、一方、N成分には層の高温強度を向上させる作用があるが、C成分の含有割合Y(原子比)が0.0005未満となると高い潤滑性が得られなくなり、一方、Y(原子比)が0.005を超えると、高温強度が低下してくることから、Y(原子比)の値は、0.0005以上0.005以下と定めた。
なお、上記(Ti1−XAlX)(CYN1−Y)層は、その平均層厚が1μm未満では、長期の使用に亘っての耐摩耗性を十分確保することができず、一方、その平均層厚が20μmを越えると、高熱発生を伴う高速断続切削で熱塑性変形を起し易くなり、これが偏摩耗の原因となることから、その合計平均層厚は1〜20μmと定めた。
即ち、複合炭窒化物層の断面について、電子線後方散乱回折装置を用いてその結晶構造を解析した場合、立方晶結晶格子の電子線後方散乱回折像が観察される立方晶結晶相と六方晶結晶格子の電子線後方散乱回折像が観察される六方晶結晶相との混合組織からなり、かつ、立方晶結晶相と六方晶結晶相との合計に占める六方晶結晶相の面積割合は10〜50面積%である。
上記の混合組織からなる複合炭窒化物層において、六方晶結晶相の面積割合が50面積%を超えると硬さが低下し、特に、耐逃げ面摩耗性が低下する。
一方、六方晶結晶相の面積割合が10面積%未満となった場合には、耐クレータ摩耗性が低下し、切れ刃が異常損傷を起こしやすくなり、その結果として、工具寿命が短命となる。
したがって、立方晶結晶相と六方晶結晶相との混合組織からなる複合炭窒化物層中における六方晶結晶相の占める面積割合は10〜50面積%とする。
まず、複合炭窒化物層中の立方晶結晶相を構成する結晶粒について述べる。
基体表面と平行な方向の上記結晶粒の粒子幅をWc、また、基体表面に垂直な方向の上記結晶粒の粒子長さをLcとし、該WcとLcとの比Lc/Wcを各結晶粒のアスペクト比Acとし、さらに、個々の結晶粒について求めたアスペクト比Acの平均値を平均アスペクト比αc、個々の結晶粒について求めた粒子幅Wcの平均値を平均粒子幅ωcとした場合、平均アスペクト比αcを2未満、また、平均粒子幅ωcを0.3μm以下とすることによって、立方晶結晶相をより高硬度のものとすることができる。
次に、複合炭窒化物層中の六方晶結晶相を構成する結晶粒について述べる。
前記立方晶結晶相を構成する結晶粒についての場合と同様に、複合炭窒化物層中の六方晶結晶相の各結晶粒について、基体表面と平行な方向の粒子幅をWh、また、基体表面に垂直な方向の粒子長さをLhとし、該WhとLhとの比Lh/Whを各結晶粒のアスペクト比Ahとし、さらに、個々の結晶粒について求めたアスペクト比Ahの平均値を平均アスペクト比αh、個々の結晶粒について求めた粒子幅Whの平均値を平均粒子幅ωhとした場合、平均アスペクト比αhを2以上、また、平均粒子幅ωhを0.1〜2μmとすることによって、六方晶結晶相の耐クレータ摩耗性を向上させることができる。
したがって、この発明では、複合炭窒化物層中の立方晶結晶相を構成する結晶粒の平均アスペクト比αcを2未満、また、平均粒子幅ωcを0.3μm以下とし、また、六方晶結晶相を構成する結晶粒の平均アスペクト比αhを2以上、また、平均粒子幅ωhを0.1〜2μmとすることが好ましく、そしてこれによって、複合炭窒化物層の硬さの向上と耐クレータ摩耗性の向上を図ることができる。
反応ガス組成(容量%):
TiCl4 2.0〜3.0%、Al(CH3)3 3.0〜5.0%、
AlCl3 3.0〜5.0%、NH3 2.0〜5.0%、
N2 6.0〜10.0%、C2H40〜1.0%、
残りH2、
反応雰囲気温度: 700〜900 ℃、
反応雰囲気圧力: 2〜5 kPa、
上記条件の化学蒸着法によって、平均組成が、0.60≦X≦0.95、0.0005≦Y≦0.005(但し、X、Yは何れも原子比)を満足し、
組成式:(Ti1−XAlX)(CYN1−Y)
で表されるTiとAlの複合炭窒化物層が蒸着形成される。
なお、複合炭窒化物層中の立方晶結晶相と六方晶結晶相の面積割合は、特に、NH3の含有量によって影響され、例えば、他の条件を一定(反応ガス組成(容量%):TiCl4 3.0%、Al(CH3)3 4.0%、AlCl3 5.0%、N28.0%、C2H4 1%、 残りH2、反応雰囲気温度:900℃、反応雰囲気圧力: 4kPa)とし、NH3の含有量のみを変化させた場合、NH3の含有量が、下限の2.0%である場合には、六方晶結晶相の面積割合は33%、また、上限の5.0%である場合には、六方晶結晶相の面積割合は10%となる。
前述のようなTiCl4エッチング工程を成膜工程中に挟むことにより、立方晶TiAlCNが選択的にエッチングされ、結晶粒内にTiとAlの局所的な組成差が形成され、それが、安定化するために原子の再配列が起こり、組成の周期的な変化が生じ、その結果、硬さが向上することを見出した。
さらに、上記混合組織中の六方晶結晶相の結晶粒の結晶面である(0001)面の法線がなす傾斜角を測定し、該測定傾斜角のうち、基体表面の法線方向に対して0〜90度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分して各区分内に存在する度数を集計した場合、2〜12度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが存在するとともに、該2〜12度の傾斜角区分に存在する度数の合計は、傾斜角度数分布における度数全体の40%以上である傾斜角度数分布形態が形成される。
ここで、更に限定した蒸着条件とは、例えば、以下のとおりである。
反応ガス組成(容量%):
TiCl4 2.0〜2.5%、Al(CH3)3 3.0〜4.0%、
AlCl3 3.0〜4.0%、NH3 2.0〜5.0%、
N2 6.0〜10.0%、C2H4 0〜1.0%、残りH2、
反応雰囲気温度: 800〜900℃、
反応雰囲気圧力: 2〜3kPa、
さらに、本発明では、上記蒸着工程の際に、反応を一時停止し、TiCl4エッチング工程を所定回数挟むことにより、複合炭窒化物層の立方晶結晶相の結晶粒の立方晶構造を有する結晶内に(Ti1−XAlX)(CYN1−Y)のTiとAlの周期的な濃度変化が存在し、周期的に変化するXの極大値と極小値及び、周期を所定の数値範囲に定めた場合には、複合炭窒化物層の更なる硬さの向上と耐逃げ面摩耗性の向上を図ることができるのである。
なお、本発明被覆工具6〜13については、表3に示される形成条件で、下部層および/または上部層を形成した。
なお、本発明被覆工具6〜13と同様に、比較被覆工具6〜13については、表3に示される形成条件で、下部層および/または上部層を形成した。
なお、アークイオンプレーティングの条件は、次のとおりである。
(a)上記工具基体Aおよびaを、アセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、アークイオンプレーティング装置内の回転テーブル上の中心軸から半径方向に所定距離離れた位置に外周部にそって装着し、また、カソード電極(蒸発源)として、所定組成のAl−Ti合金を配置し、
(b)まず、装置内を排気して10−2Pa以下の真空に保持しながら、ヒーターで装置内を500℃に加熱した後、前記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に−1000Vの直流バイアス電圧を印加し、かつAl−Ti合金からなるカソード電極とアノード電極との間に200Aの電流を流してアーク放電を発生させ、装置内にAlおよびTiイオンを発生させ、もって工具基体表面をボンバード洗浄し、
(c)次に、装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して4Paの反応雰囲気とすると共に、前記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に−50Vの直流バイアス電圧を印加し、かつ、上記Al−Ti合金からなるカソード電極(蒸発源)とアノード電極との間に120Aの電流を流してアーク放電を発生させ、前記工具基体の表面に、表8に示される目標平均組成、目標平均層厚の(Ti1−XAlX)(CYN1−Y)層を蒸着形成し、
参考例被覆工具14、15を製造した。
平均Al含有割合X、平均C含有割合Yの測定:
二次イオン質量分析(SIMS, Secondary-Ion-Mass-Spectroscopy) 装置を用いて、イオンビームを試料表面側から70μm×70μmの範囲に照射し、スパッタリング作用によって放出された成分について深さ方向の濃度測定を行った。平均Al含有割合X、平均C含有割合Yは深さ方向の平均値を示す。
走査型電子顕微鏡を用い断面測定を行い、硬質被覆層を構成する各層についてそれぞれ5ヶ所の層厚を測定し、平均値を求め、その平均値を硬質被覆層の平均層厚とした。
電子線後方散乱回折装置を用いて、TiとAlの複合炭窒化物層からなる複合炭窒化物層の断面を研磨面とした状態で、電界放出型走査電子顕微鏡の鏡筒内にセットし、前記研磨面に70度の入射角度で15kVの加速電圧の電子線を1nAの照射電流で、前記断面研磨面の測定範囲内に存在する結晶粒個々に照射し、0.1μm/stepの間隔で、電子線後方散乱回折像を測定し、個々の結晶粒の結晶構造を解析することで立方晶構造あるいは六方晶構造であるかを同定し、立方晶結晶相と六方晶結晶相との合計に占める六方晶結晶相の面積割合を求めた。
複合炭窒化物層中の六方晶結晶相を構成する結晶粒について、電界放出型走査電子顕微鏡と電子線後方散乱回折装置を用いて基体表面の法線方向に対する六方晶結晶相の結晶粒の結晶面である(0001)面の法線がなす傾斜角を測定し、該測定傾斜角のうち、基体表面の法線方向に対して0〜90度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分して各区分内に存在する度数を集計し、最高ピークが存在する傾斜角区分を求めるとともに、2〜12度の傾斜角区分に存在する度数の合計を求め、該2〜12度の傾斜角区分に存在する度数の合計が傾斜角度数分布全体に占める度数割合を求めた。
同様にして、複合炭窒化物層中の六方晶結晶相の各結晶粒について、基体表面と平行な方向の粒子幅Wh、基体表面に垂直な方向の粒子長さLhを測定し、各結晶粒のアスペクト比Ah(=Lh/Wh)を算出するとともに、個々の結晶粒について求めたアスペクト比Ahの平均値を平均アスペクト比αhとして算出し、また、個々の結晶粒について求めた粒子幅Whの平均値を平均粒子幅ωhとして算出した。
ここで、Wc、Lc、Wh、Lhの測定は、以下のように行った。
TiとAlの複合炭窒化物層からなる複合炭窒化物層の断面を研磨面とした状態で、複合炭窒化物層中の結晶粒について、走査電子顕微鏡(倍率20000倍)を用いて幅10μmに亘って複数視野観察し、個々の結晶粒についてWc、Lc、Wh、Lhを測定した。
表7に、これらの値を示す。
さらに、透過型電子顕微鏡(倍率200000倍)を用いて、複合炭窒化物層の微小領域の観察を行い、エネルギー分散型X線分光法(EDS)を用いて、断面側から組成分析を行ったところ、複合炭窒化物層中の立方晶構造を有する結晶内にTiとAlの周期的な濃度変化が観察され、Xが相対的に大きい領域と小さい領域が存在した。複合炭窒化物層中の立方晶構造を有する結晶のTiとAlの周期的な濃度変化が存在する結晶の中の5個の結晶について、Xが相対的に大きい領域と小さい領域の周期的な濃度変化の存在する方向に線分析を行い、測定した結晶のXの極大値と極小値のそれぞれの平均をとることで、Xが相対的に大きい領域と小さい領域のそれぞれの平均組成を求め、その差を測定した結晶のXの極大値と極小値の差として求め、測定した5個の結晶について平均することで、Xの極大値と極小値の差の平均値を求めた。同様に、複合炭窒化物層中の立方晶構造を有する結晶のTiとAlの周期的な濃度変化が存在する結晶の中の5個の結晶について、上記線分析の結果から、Xが相対的に大きい領域の距離の平均を算出することで、測定した結晶のTiとAlの濃度変化の周期を求め、測定した5個の結晶について平均することで、TiとAlの濃度変化の周期の平均値を求めた。
さらに、Wc、Lc、Wh、Lhを測定するとともに、αc、ωc、αh、ωhを算出した。
表8に、これらの値を示す。
被削材: JIS・SCM440幅100mm、長さ400mmのブロック材
回転速度: 943 min−1、
切削速度: 370 m/min、
切り込み: 1.2 mm、
一刃送り量: 0.10 mm/刃、
切削時間: 8分、
表9に、上記切削試験の結果を示す。
なお、本発明被覆工具19〜28については、表3に示される形成条件で、下部層および/または上部層を形成した。
なお、本発明被覆工具19〜28と同様に、比較被覆工具19〜28については、表3に示される形成条件で、下部層および/または上部層を形成した。
なお、アークイオンプレーティングの条件は、実施例1に示される条件と同様の条件を用い、前記工具基体の表面に、表14に示される目標平均組成、目標平均層厚の(Ti1−XAlX)(CYN1−Y)層を蒸着形成し、参考例被覆工具29、30を製造した。
また、複合炭窒化物層中の立方晶結晶相の各結晶粒について、Wc、Lc、Ac(=Lc/Wc)、αc、ωcを測定・算出し、さらに、複合炭窒化物層中の六方晶結晶相の各結晶粒について、Wh、Lh、Ah(=Lh/Wh)、αh、ωhを測定・算出した。
表13に、その結果を示す。
表14に、その結果を示す。
切削条件2:
被削材:JIS・SCM435の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度:350m/min、
切り込み:1.2mm、
送り:0.2mm/rev、
切削時間:5分、
(通常の切削速度は、220m/min)、
切削条件3:
被削材:JIS・FCD450の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度:340m/min、
切り込み:1.0mm、
送り:0.2mm/rev、
切削時間:5分、
(通常の切削速度は、200m/min)、
表15に、前記切削試験の結果を示す。
なお、本発明被覆工具34〜38については、表3に示される形成条件で、下部層および/または上部層を形成した。
なお、本発明被覆工具34〜38と同様に、比較被覆工具34〜38については、表3に示される形成条件で、下部層および/または上部層を形成した。
なお、アークイオンプレーティングの条件は、実施例1に示される条件と同様の条件を用い、前記工具基体の表面に、表19に示される目標平均組成、目標平均層厚の(Ti1−XAlX)(CYN1−Y)層を蒸着形成し、参考例被覆工具39、40を製造した。
また、複合炭窒化物層中の立方晶結晶相の各結晶粒について、Wc、Lc、Ac(=Lc/Wc)、αc、ωcを測定・算出し、さらに、複合炭窒化物層中の六方晶結晶相の各結晶粒について、Wh、Lh、Ah(=Lh/Wh)、αh、ωhを測定・算出した。
表18に、その結果を示す。
表19に、その結果を示す。
被削材: JIS・SCr420(硬さ:HRC60)の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度: 220 m/min、
切り込み: 0.10 mm、
送り: 0.10mm/rev、
切削時間: 4分、
表20に、上記切削試験の結果を示す。
特に、本発明被覆工具4〜7、9〜15、19〜22、24〜30、34〜38、40については、立方晶結晶相と六方晶結晶相の各結晶粒の平均粒子幅、平均アスペクト比を所定の数値範囲にあることから、さらに、より一段と耐摩耗性が向上する。
これに対して、比較例被覆工具1〜13、16〜28、31〜38および参考例被覆工具14、15、29、30、39、40については、いずれも、硬質被覆層にチッピング、欠損、剥離等の異常損傷が発生するばかりか、比較的短時間で使用寿命に至ることが明らかである。
Claims (4)
- 炭化タングステン基超硬合金、炭窒化チタン基サーメット、または立方晶窒化ホウ素基超高圧焼結体のいずれかで構成された基体の表面に、硬質被覆層が被覆された表面被覆切削工具であって、
(a)上記硬質被覆層は、化学蒸着法により蒸着形成された平均層厚1〜20μmのTiとAlの複合炭窒化物層を少なくとも含み、その平均組成を、
組成式:(Ti1−XAlX)(CYN1−Y)
で表した場合、Al含有割合XおよびC含有割合Y(但し、X、Yは何れも原子比)は、それぞれ、0.60≦X≦0.95、0.0005≦Y≦0.005を満足し、
(b)上記複合炭窒化物層は、電子線後方散乱回折装置を用いて個々の結晶粒の結晶構造を、上記TiとAlの複合炭窒化物層の縦断面方向から解析した場合、立方晶結晶格子の電子線後方散乱回折像が観察される立方晶結晶相と六方晶結晶格子の電子線後方散乱回折像が観察される六方晶結晶相との混合組織からなり、かつ、立方晶結晶相と六方晶結晶相との合計に占める六方晶結晶相の面積割合は10〜50面積%であり、
(c)基体表面の法線方向に対する上記複合炭窒化物層の六方晶結晶相の結晶粒の結晶面である(0001)面の法線がなす傾斜角を測定し、該測定傾斜角のうち、基体表面の法線方向に対して0〜90度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分して各区分内に存在する度数を集計した場合、2〜12度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが存在するとともに、該2〜12度の傾斜角区分に存在する度数の合計は、傾斜角度数分布における度数全体の40%以上であることを特徴とする表面被覆切削工具。 - 上記複合炭窒化物層の立方晶結晶相の結晶粒の平均粒子幅ωcが0.3μm以下であり、平均アスペクト比αcが2未満であり、また、
上記複合炭窒化物層の六方晶結晶相の結晶粒の平均粒子幅ωhが0.1〜2μmであり、平均アスペクト比αhが2以上、
であることを特徴とする請求項1に記載の表面被覆切削工具。 - 上記複合炭窒化物層の立方晶結晶相の結晶粒の立方晶構造を有する結晶内に(Ti1−XAlX)(CYN1−Y)のTiとAlの周期的な濃度変化が存在し、周期的に変化するXの極大値と極小値の差が0.05〜0.25であり、その周期が3〜30nmであることを特徴とする請求項1または2に記載の表面被覆切削工具。
- 上記複合炭窒化物層は、少なくとも、トリメチルアルミニウムを反応ガス成分として含有する化学蒸着法により蒸着形成されたものであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の表面被覆切削工具。
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