JP4507308B2 - 耐欠損性のすぐれた表面被覆超硬合金製フライス工具スローアウエイチップ - Google Patents
耐欠損性のすぐれた表面被覆超硬合金製フライス工具スローアウエイチップ Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、フライス工具の工具本体に着脱自在に取り付けられて用いられ、特に熱的衝撃と機械的衝撃を繰り返し受けるフライス切削を高速で行なうのに用いた場合にもすぐれた耐欠損性を発揮する表面被覆超硬合金製フライス工具スローアウエイチップ(以下、単にチップと云う)に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、一般にフライス工具には、平面削りや溝削りなどの切削形態の違いによって種々の形状のものが提案され、実用に供されており、例えば図3(a)に斜視図で、図4(a)に半部切欠き正面図で、さらに図4(b)に半部縦断面拡大図で示されるように、リング状工具本体の正面に所定間隔をもって複数個のチップを着脱自在に取り付けてなる構造の正面フライス工具などが知られている。
また、上記チップが、図3(b)に斜視図で、図3(c)縦断面図で例示されるように、逃げ面とすくい面、さらに前記逃げ面とすくい面の交わる切刃稜線部(主切刃とさらい刃からなる)で構成され、かつ炭化タングステン基超硬合金基体(以下、超硬基体と云う)の表面に、基本的にTiの炭化物(以下、TiCで示す)層、窒化物(以下、TiNで示す)層、炭窒化物(以下、TiCNで示す)層、炭酸化物(以下、TiCOで示す)層、および炭窒酸化物(以下、TiCNOで示す)層のうちの2種以上からなるTi化合物層と酸化アルミニウム(以下、Al2O3で示す)層からなる硬質被覆層を1〜10μmの平均層厚で化学蒸着してなる構造をもつことも知られている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
一方、近年の切削加工に対する省力化および省エネ化、さらに低コスト化の要求は強く、これに伴い、切削加工は高速化の傾向にあるが、上記の従来チップにおいては、これを高速切削に用いると、チップに繰り返し加わる熱的衝撃および機械的衝撃も一段と強力なものとなることから、チップの切刃稜線部に欠けやチッピング(微小欠け)が発生し易くなり、この欠けやチッピングが原因で比較的短時間で使用寿命に至るのが現状である。
【0004】
【課題を解決するための手段】
そこで、本発明者らは、上述のような観点から、上記のチップに着目し、高速切削に用いてもすぐれた耐欠損性を発揮するチップを開発すべく研究を行った結果、
(a)チップを構成する超硬基体を、電子顕微鏡による断面組織観察で、硬質分散相が、70.7〜81.6面積%の炭化タングステン(以下、WCで示す)と、2.2〜4.8面積%のTi、Ta、およびNbのうちの1種または2種以上とWとCrの複合炭化物[以下、(M,W,Cr)Cで示す](ただし、合量で70.7〜81.6面積%)からなり、残りがCoを主体とする結合相および不可避不純物からなる組織を有すると共に、全体に占める重量割合で、
Co:8.01〜12.90%、
Cr:0.70〜2.20%、
Ti、Ta、およびNbのうちの1種または2種以上:0.83〜2.81%、
を含有する組成を有するWC基超硬合金で構成すること。
【0005】
(b)一般に超硬基体は、所定の配合組成をもった混合粉末の圧粉体を、真空雰囲気中、1380〜1480℃の焼結温度に所定時間保持後、炉冷(冷却速度:10〜20℃/min)の条件で焼結することにより製造されるが、この焼結条件における焼結温度からの冷却を、「少なくとも1290℃までを5℃/min以下の冷却速度で徐冷する」条件で焼結することにより上記(a)の超硬基体を製造して、Coを主体とする結合相の結晶粒を粗大化すること。
【0006】
(c)従来、超硬基体の表面に上記硬質被覆層を形成するに先立っては、その表面を、所定の寸法出しのために通常「JIS粒度230以上」のダイヤモンド砥石を用いて研削加工しているが、上記(a)に示す組織および組成を有し、かつ上記(b)で結合相の結晶粒を粗大化した超硬基体の表面に、前記「JIS粒度230以上」に比して粒度が粗い「JIS粒度200以下」のダイヤモンド砥石を用いて研削加工を施すこと。
【0007】
(d)上記(a)〜(c)の条件によって製造された超硬基体の表面における結合相のCoを、CuKα線を用いてX線回折測定すると、図1のX線回折図形に示されるように、回折角:2θで、44〜45度および51〜52度に現れるピーク、すなわち面心立方(fcc)を示すピークのほかに、同じく回折角:2θで、41〜42度および47〜48度に明確なピーク、すなわち稠密六方(hcp)を示すピークが現れ、このことは面心立方と稠密六方の2種類の結晶構造をもったCoが存在することを示すこと。
一方、従来の超硬基体、すなわち上記の通常の条件で焼結され、通常の条件で研削加工された超硬基体の表面における結合相のCoのX線回折測定では、同じく図2のX線回折図形に示されるように、回折角:2θで、44〜45度および51〜52度にのみピークが現れ、前記Coが面心立方のみの結晶構造をもつもからなることを示すこと。
【0008】
(e)上記(d)の結合相のCoが面心立方と稠密六方の2種類の結晶構造をもったCoで構成された超硬基体表面に上記の硬質被覆相を形成してなるチップにおいては、前記の2種類の結晶構造が共存するCoで結合相が形成された超硬基体表面がクラック伝播を阻止する作用をもち、この作用は高速切削でも変わらず発揮されることから、通常の条件でのフライス切削は勿論のこと、高速切削で切刃稜線部の硬質被覆層に欠けやチッピング発生の起点となる微細クラックが発生しても、これが超硬基体内部に進行することはなく、この結果切刃稜線部に欠けやチッピングが発生するのが著しく抑制されるようになり、長期に亘ってすぐれた切削性能を発揮すること。
以上(a)〜(e)に示される研究結果をえたのである。
【0009】
この発明は、上記の研究結果に基づいてなされたものであって、
(a)電子顕微鏡による断面組織観察で、硬質分散相が、70.7〜81.6面積%のWCと、2.2〜4.8面積%の(M,W,Cr)C(ただし、合量で75.5〜83.8面積%)からなり、残りがCoを主体とする結合相および不可避不純物からなる組織を有すると共に、
(b)全体に占める重量割合で、
Co:8.01〜12.90%、
Cr:0.70〜2.20%、
Ti、Ta、およびNbのうちの1種または2種以上:0.83〜2.81%、
を含有する組成を有し、
(c)さらに、焼結条件における焼結温度からの冷却を徐冷する条件で焼結して、結合相の結晶粒を粗大化した状態で、硬質被覆層が蒸着形成される表面を、粒度の粗いダイヤモンド砥石を用いて研削加工して、前記表面の結合相における結晶構造が面心立方のCoの一部を稠密六方のCoに、X線回折図形における回折角:2θで、41〜42度および47〜48度に明確なピークが現れる割合に変態させて、前記表面における結合相に、結晶構造が面心立方のCoと稠密六方のCoを共存せしめた、
上記(a)〜(c)を満足する超硬基体の表面に、
(d)TiC層、TiN層、TiCN層、TiCO層、およびTiCNO層のうちの2種以上からなるTi化合物層とAl2O3 層からなる硬質被覆層を4.5〜8.6μmの平均層厚で化学蒸着してなる、
高速切削ですぐれた耐欠損性を発揮するチップに特徴を有するものである。
【0010】
つぎに、この発明のチップを構成する超硬基体の組織および組成、並びに硬質被覆層の平均層厚を上記の通りに定めた理由を説明する。
(1)超硬基体における硬質分散相の割合
その割合が75.5面積%未満では、相対的にCoを主体とする結合相の割合が多くなりすぎて、所望の耐摩耗性を確保することができず、一方その割合が83.8面積%を越えると、前記結合相の割合が低くなり、Coによる焼結性に低下傾向が現れ、この結果強度にも低下傾向が現れるようになることから、その割合を75.5〜83.8面積%と定めた。
なお、(M,W,Cr)Cは、原料粉末として用いたWC粉末および炭化クロム(以下、Cr3C2で示す)粉末、さらにTi、Ta、およびNbの炭化物(以下、それぞれTiC、TaC、およびNbCで示す)粉末のうちの1種または2種以上が焼結時に反応することにより形成され、これのWCとの共存によって一段と耐摩耗性は向上したものになるが、その割合は硬質分散相に占める割合で2.2〜4.8面積%であるのが望ましく、その理由は2.2面積%未満では常に安定した耐摩耗性向上効果が得られない場合があり、一方耐摩耗性向上効果は4.8面積%までの含有で十分であることにある。
【0011】
(2)超硬基体のCo含有量
Co成分には、超硬基体の焼結性を向上させ、かつ結合相を形成して強度を向上させる作用があるが、その割合が8.01重量%未満では前記作用を安定して得られず、一方その割合が12.90重量%を越えると硬質被覆層の超硬基体表面に対する密着性に低下傾向が現れるようになることから、その含有割合を8.01〜12.90重量%と定めた。
【0012】
(3)超硬基体のCr含有量
Cr成分は、一般にCr3C2粉末の形で配合され、焼結時に結合相中に固溶し、WC粒を平均粒径で1μm以下に微細化して超硬基体の強度を向上させると共に、上記の通り硬質分散相として(M,W,Cr)Cを形成して耐摩耗性を向上させる作用をもつが、その割合が0.70重量%未満では前記作用を十分に発揮させることができない場合が生じ、一方その割合が2.20重量%を越えるとCr3C2として分散分布する場合が生じ易くなり、この場合は超硬基体の強度低下が避けられないことから、その含有割合を0.70〜2.20重量%と定めた。
【0013】
(4)超硬基体のTi、Ta、およびNb含有量
これらの成分も同様にTiC粉末、TaC粉末、およびNbC粉末の形で配合され、焼結時に結合相中に固溶し、焼結過程の徐冷時に結合相の粒成長を促進し、もって後工程の研削加工で結晶構造が稠密六方のCoを出現せしめるのに寄与し、かつ(M,W,Cr)Cを形成して超硬基体の耐摩耗性向上に寄与する作用を有するが、その割合が0.83重量%未満では前記作用を十分に発揮させることができない場合が生じ、一方その割合が2.81重量%を越えると(M,W,Cr)Cの割合が多くなり、超硬基体の強度に低下傾向が現れるようになることから、その含有割合を0.83〜2.81重量%と定めた。
【0014】
(5)硬質被覆層の平均層厚
その平均層厚が4.5μm未満では、硬質被覆層形成による十分な耐摩耗性向上効果が得られず、一方その平均層厚が8.6μmを越えると、硬質被覆層に発生した微細なクラックが原因で僅かな剥離発生が見られるようになることから、その平均層厚を4.5〜8.6μmと定めた。
【0015】
【発明の実施の態様】
つぎに、この発明のチップを実施例により具体的に説明する。
原料粉末として、いずれも0.5〜6μmの範囲内の所定の平均粒径を有するWC粉末、TiC粉末、TaC粉末、NbC粉末、Cr3C2粉末、およびCo粉末を用意し、これら原料粉末を表1に示される配合組成に配合し、ボールミルで72時間湿式粉砕混合し、乾燥した後、1ton/cm2の圧力で圧粉体にプレス成形し、これらの圧粉体を10-3Torrの真空中、1380〜1480℃の範囲内の所定の温度に昇温し、昇温後この温度に1時間保持した後、Coを主体とする結合相の結晶粒を粗大化する目的で、前記温度から1290℃までを2℃/minの冷却速度で徐却する条件で焼結して超硬基体素材を形成し、ついでこのように結合相の結晶粒を粗大化した超硬基体素材の表面に、JIS粒度170のダイヤモンド砥石を用いて研削加工を施してISO規格SEEN1203AFTN1の形状(チップのさらい刃幅:1.4mm)をもった超硬基体d〜iを成形した。
【0016】
上記の超硬基体d〜iのそれぞれの縦断面中心部の組織(電子顕微鏡による)および組成を観察および分析したところ、表2に示される結果を示し、さらにこれらの超硬基体d〜iの表面の結合相のCoをCuKα線を用いてX線回折したところ、いずれも図1(超硬基体g)に示される通り、いずれも回折角:2θで、44〜45度および51〜52度に面心立方(fcc)を示すピークが現れると共に、41〜42度および47〜48度にも稠密六方(hcp)を示すピークが現れ、このことは超硬基体d〜iの結合相の表面には面心立方と稠密六方の2種類の結晶構造をもったCoが存在することを示すものである。
【0017】
ついで、これらの超硬基体d〜iの表面に、通常の化学蒸着装置を用い、表3(表中のl−TiCNは、例えば特開平6−8010号公報に記載される縦長成長結晶組織をもつTiCN層の形成条件を示すものであり、これ以外は通常の粒状結晶組織を有する各種層の形成条件を示すものである)に示される条件にて、表4に示される組成および目標層厚の硬質被覆層を形成することにより本発明チップ1〜6をそれぞれ製造した。
【0018】
また、比較の目的で、上記の超硬基体d〜iを製造するに際しての焼結条件における焼結温度からの冷却を「炉冷」とし、かつ超硬基体素材表面の研削加工を相対的に粒度の細かい「JIS粒度270」のダイヤモンド砥石を用いて行う以外は同一の条件で比較チップ1〜6を製造した。
なお、上記比較チップ1〜6の製造において、これを構成する超硬基体について、同じくその縦断面中心部の組織および組成を観察および分析したところ、本発明チップ1〜6のそれと実質的に同じ結果を示し、さらにこれらの超硬基体の研削加工後の表面の結合相のCoについてCuKα線を用いてX線回折したところ、いずれも図2(比較チップ2の超硬基体)に示される通り、回折角:2θで、44〜45度および51〜52度にのみ面心立方(fcc)を示すピークが現れるだけで、稠密六方(hcp)のCoの存在を示す41〜42度および47〜48度にはピーク出現はなく、これによって超硬基体表面の結合相には面心立方のみの結晶構造をもったCoだけが存在することが明らかである。
【0019】
この結果得られた本発明チップ1〜6および比較チップ1〜6を、それぞれ図3(a)に示される通り、正面直径:200mmのリング状工具本体の正面に10個を1組として等間隔に、かつ25度のアキシャルレーキ角で取り付けて正面フライス工具とした状態で、
被削材:JIS・SCM440(ブリネル硬さ250)の板材、
切削速度:400m/min、
切り込み:2.5mm、
送り:0.2mm/刃、
切削油:水溶性使用、
切削時間:20分、
の条件で合金鋼の湿式高速フライス切削試験を行い、1組:10個のそれぞれのチップの最大逃げ面摩耗幅を測定し、この結果を表5に示した。
【0020】
【表1】
【0021】
【表2】
【0022】
【表3】
【0023】
【表4】
【0024】
【表5】
【0025】
【発明の効果】
表1〜5に示される結果から、本発明チップ1〜6は、いずれもこれを構成する超硬基体の表面の結合相の主体が面心立方と稠密六方の2種類の結晶構造をもったCoからなるので、高速フライス切削で硬質被覆層に微細なクラックが発生してもこのクラックの伝播は前記2種類の結晶構造をもったCoを主体とする結合相によって阻止され、前記超硬基体内部まで進入することはなく、したがって切刃稜線部に欠けやチッピングの発生なく、すぐれた切削性能を発揮するのに対して、超硬基体表面の結合相の主体が面心立方のみの結晶構造をもったCoからなる比較チップ1〜6では、前記の高速フライス切削で硬質被覆層に発生した微細なクラックの超硬基体内部への進入を阻止することはできず、この結果切刃稜線部に欠けやチッピングが発生し、これが原因で比較的短時間で使用寿命に至ることが明らかである。
上述のように、この発明のチップは、通常の条件でのフライス切削は勿論のこと、チップに一段と強力な熱的衝撃と機械的衝撃が繰り返し加わる高速フライス切削においてもすぐれた耐欠損性を示し、切削加工に対する省力化および省エネ化、さらに低コスト化の要求に十分満足に対応できるものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明チップ4を構成する超硬基体gの表面における結合相のCoのX線回折図形である。
【図2】 比較チップ2を構成する超硬基体eの表面における結合相のCoのX線回折図形である。
【図3】(a)は正面フライス工具を例示する斜視図、(b)はチップを例示する斜視図、そして(c)はチップの縦断面図である。
【図4】(a)は正面フライス工具の半部切欠き正面図、(b)はこれの半部縦断面拡大図である。
Claims (1)
- (a)電子顕微鏡による断面組織観察で、硬質分散相が、70.7〜81.6面積%の炭化タングステンと、2.2〜4.8面積%のTi、Ta、およびNbのうちの1種または2種以上とWとCrの複合炭化物(ただし、合量で75.5〜83.8面積%)からなり、残りがCoを主体とする結合相および不可避不純物からなる組織を有すると共に、
(b)全体に占める重量割合で、
Co:8.01〜12.90%、
Cr:0.70〜2.20%、
Ti、Ta、およびNbのうちの1種または2種以上:0.83〜2.81%、
を含有する組成を有し、
(c)さらに、焼結条件における焼結温度からの冷却を徐冷する条件で焼結して、結合相の結晶粒を粗大化した状態で、硬質被覆層が蒸着形成される表面を、粒度の粗いダイヤモンド砥石を用いて研削加工して、前記表面の結合相における結晶構造が面心立方のCoの一部を稠密六方のCoに、X線回折図形における回折角:2θで、41〜42度および47〜48度に明確なピークが現れる割合に変態させて、前記表面における結合相に、結晶構造が面心立方のCoと稠密六方のCoを共存せしめた、
上記(a)〜(c)を満足する炭化タングステン基超硬合金基体の表面に、
(d)Tiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層、および炭窒酸化物層のうちの2種以上からなるTi化合物層と酸化アルミニウム層からなる硬質被覆層を4.5〜8.6μmの平均層厚で化学蒸着してなる、
高速切削ですぐれた耐欠損性を発揮する表面被覆超硬合金製フライス工具スローアウエイチップ。
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