以下、本実施の形態に係る高エネルギーイオン注入装置の一例についてより詳細に説明する。はじめに、本願発明者らが本願発明に想到した経緯について説明する。
(平行化マグネット)
偏向磁場によって軌道を平行化する平行化マグネットを使用している従来の高エネルギーイオン注入装置には、次のような課題がある。
フォトレジスト付きウェハに高エネルギーイオンを注入すると、大量のアウトガスが発生し、このアウトガスの分子とビームイオンとが相互作用し、一部のイオンの価数が変化する。平行化マグネット通過中にこの価数変化が起こると、偏向角が変わるので、ビームの平行性が崩れ、ウェハへの注入角が一様ではなくなる。
また、注入されるイオンの量(個数またはドーズ)は、ウェハ付近に置かれたファラデーカップで、ビーム電流値を測定することによって求められるが、価数変化によってその計測値が狂い、予定の注入量から外れ、半導体素子の特性が予定された通りにならない。
さらに、1台の平行化マグネットによる平行化は、内側の軌道と外側の軌道で、偏向角と軌道長が異なるため、外側の軌道ほど価数変化するイオンの割合が増え、ウェハ面内のドーズ均一性も悪化する。
したがって、従来の高エネルギーイオン注入装置のビーム輸送方式では、最近の高精度注入への要求に十分応えることができない。
また、平行化マグネットは、スキャン方向に幅の広い磁極と、ある程度長い平行化区間とを必要とし、エネルギーが高くなるとさらに磁極が長く大きくなるので、重量が非常に大きくなる。装置を安全に据え付けし維持するために、半導体工場自体の強度設計を強化する必要が出てくる上に、消費電力も非常に大きくなる。
これらの問題は、前述の中電流イオン注入装置で用いられている電場平行化レンズと、電場(電極式)エネルギーフィルター(AEF:Angular Energy Filter)を高エネルギー領域で使うことができれば、解消する。電場平行化レンズは、軌道の対称性を保ちながらスキャン軌道を中心軌道方向に揃えて平行化し、AEFは、ウェハ直前で価数変化したイオンを除去する。これによって、アウトガスが多いときでも、エネルギーコンタミネーションのないビームを得ることができ、平行化マグネットのようなスキャン方向の注入角度のバラツキも発生せず、結果として、正確な深さ方向の注入分布と注入量(ドーズ)を均一に注入できるとともに、注入角度も一様になって、非常に精度の高いイオン注入が実現する。また、軽量な電極部材で構成され、電磁石と比べて、消費電力も少なくできる。
本発明の核心は、この中電流イオン注入装置の優れたシステムを高エネルギーイオン注入装置に導入し、高エネルギー装置でありながら中電流装置と同等の高精度注入ができる装置を生み出した点にある。その過程で解決されてきた課題について以下で述べる。第一に問題になるのは、装置の長さである。
イオンビームを同じ角度偏向する場合、必要な磁場はエネルギーの平方根に比例するのに対して、必要な電場はエネルギーそのものに比例する。したがって、偏向磁極の長さはエネルギーの平方根に比例するのに対して、偏向電極の長さはエネルギーに比例して長くなる。高エネルギーイオン注入装置に前記の電場平行化レンズと電場AEFを搭載して、高精度角度注入を実現しようとすると、ビーム輸送系(スキャナーからウェハまでの距離)が、平行化マグネットを使う従来の装置に比べて、大幅に長くなる。
例えば、このような電場による平行化機構を備える高エネルギーイオン注入装置として、従来の高エネルギーイオン注入装置と同様に、イオン源、質量分析磁石、タンデム型静電加速装置若しくは高周波線形加速装置、ビーム走査器、スキャン軌道平行化装置、エネルギーフィルター、注入処理室および基板搬送機器(エンドステーション)等の構成機器を、ほぼ直線状に据え付ける構造が考えられる。この場合、従来の装置の長さが8m程度であるのに対して、装置の全長が20m程度まで長くなり、設置場所の設定と準備、設置作業等が大がかりとなって、しかも設置面積も大きくなる。また、各機器の据付けアライメントの調整、装置稼働後のメンテナンスや修理、調整のための作業スペースも必要である。このような大がかりなイオン注入装置は、半導体製造ラインにおける装置サイズを、工場の製造ラインの配置の実状に合わせることへの要求を満たすことができない。
このような状況から、本発明のある態様におけるビームライン構成の目的は、十分な作業領域を確保しつつ設置場所の設定と準備、設置作業やメンテナンス作業を簡略化・効率化し、設置面積を抑える技術を実現することによって、電場平行化レンズと電場エネルギーフィルターとを備えた高精度の高エネルギーイオン注入装置を提供することである。
(U字状の折り返し型ビームライン)
前記目的は、高エネルギーイオン注入装置のビームラインを、イオン源で生成したイオンビームを加速する複数のユニットから成る長直線部と、スキャンビームを調整してウェハに注入する複数のユニットから成る長直線部とで構成し、対向する長直線部を有する水平のU字状の折り返し型ビームラインにすることによって達成できる。このようなレイアウトは、イオン源からイオンを加速するユニットの長さに合わせて、ビーム走査器、ビーム平行化器、エネルギーフィルターなどから成るビーム輸送ユニットの長さをほぼ同じ長さに構成することで実現している。そして、二本の長直線部の間に、メンテナンス作業のために十分な広さのスペースを設けている。
本発明のある態様は、こうしたビームラインのレイアウトを前提としてなされたものであり、その目的は、スキャンされた高エネルギーのイオンビームを電場によって左右対称に平行化し、アウトガスの多い環境でも精度良くイオン注入できる高エネルギーイオン注入装置を提供することである。
本発明のある態様の高エネルギーイオン注入装置は、イオン源で発生したイオンを加速してイオンビームを生成し、ビームラインに沿ってウェハまでイオンビームを輸送し、該ウェハにイオン注入する高エネルギーイオン注入装置であって、イオン源と質量分析装置を有するビーム生成ユニットと、イオンビームを加速して高エネルギーイオンビームを生成する高エネルギー多段直線加速ユニットと高エネルギーイオンビームをウェハに向けて方向変換する高エネルギービームの偏向ユニットと、偏向された高エネルギーイオンビームをウェハまで輸送する高エネルギービーム輸送ラインユニットと、輸送された高エネルギーイオンビームを均一に半導体ウェハに注入する基板処理供給ユニットと、を備える。ビーム輸送ラインユニットは、ビーム整形器と、高エネルギー用のビーム走査器と、高エネルギー用のビーム平行化器と、高エネルギー用の最終エネルギーフィルターとを有し、前記偏向ユニットを出た高エネルギーイオンビームを、ビーム走査器によりビームラインの基準軌道の両側にスキャンし、ビーム平行化器により左右対称性を維持したままスキャンビームの各軌道を基準軌道と平行化し、最終エネルギーフィルターにより、質量、イオン価数、エネルギー等が異なる混入イオンを取り除いて前記ウェハに注入するように構成されている。高エネルギー用のビーム平行化器は、イオンビームを加速させるとともに基準軌道側に近づく方向に偏向させる加速用電極対と、イオンビームを減速させるとともに基準軌道側に近づく方向に偏向させる減速用電極対とを備え、該加速用電極対および該減速用電極対を少なくとも2組以上有する加速減速電極レンズ群から構成されている。
本発明のある態様によれば、スキャンされた高エネルギーのイオンビームを左右対称に平行化することができる。これによって、アウトガスが多い状態でも、注入量(ドーズ)を均一に注入できるとともに、注入角度も一様に注入でき、精度の高いイオン注入が実現する。また、軽量な電極部材で構成され、電磁石と比べて、消費電力も少なくできる。
そこで、本実施の形態のある態様の高エネルギーイオン注入装置は、イオン源で発生したイオンを加速し、ビームラインに沿ってウェハまでイオンビームとして輸送し、ウェハに注入するイオン注入装置である。この装置は、イオンビームを加速して高エネルギーイオンビームを生成する高エネルギー多段直線加速ユニットと、高エネルギーイオンビームの軌道をウェハに向かって方向転換する偏向ユニットと、偏向された高エネルギーイオンビームをウェハまで輸送するビーム輸送ラインユニットとを備え、平行化したイオンビームをメカニカルに走査移動中のウェハに高精度に照射して、ウェハに注入するものである。
イオンビームを高加速する高周波(交流方式)の高エネルギー多段直線加速ユニットを出た高エネルギーイオンビームは、ある範囲のエネルギー分布を持っている。このため、後段の高エネルギーのイオンビームをビームスキャンおよびビーム平行化させてメカニカルに走査移動中のウェハに照射するためには、事前に高い精度のエネルギー分析と、中心軌道補正、及びビーム収束発散の調整を実施しておくことが必要となる。
ビーム偏向ユニットは、少なくとも二つの高精度偏向電磁石と少なくとも一つのエネルギー幅制限スリットとエネルギー分析スリット、及び、少なくとも一つの横収束機器とを備える。複数の偏向電磁石は、高エネルギーイオンビームのエネルギー分析とイオン注入角度の精密な補正、及び、エネルギー分散の抑制とを行うよう構成されている。高精度偏向電磁石のうちエネルギー分析を行う電磁石には、核磁気共鳴プローブとホールプローブが取り付けられており、他の電磁石にはホールプローブのみ取り付けられている。核磁気共鳴プローブは、ホールプローブの校正に使用され、ホールプローブは、磁場一定のフィードバック制御に使用される。
ビーム輸送ラインユニットは、高エネルギーのイオンビームをビームスキャンおよびビーム平行化させて、メカニカルに走査移動中のウェハに高精度にスキャンビームを照射して、イオンを注入することができる。
以下、本実施の形態に係る高エネルギーイオン注入装置の一例について、図面を参照しながら、より詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。また、以下に述べる構成は例示であり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。
(高エネルギーイオン注入装置)
はじめに、本実施の形態に係る高エネルギーイオン注入装置の構成を簡単に説明する。なお、本明細書の内容は、荷電粒子の種類の一つであるイオンビームのみならず荷電粒子ビーム全般にかかる装置にも適用できるものである。
図1は、本実施の形態に係る高エネルギーイオン注入装置100の概略レイアウトとビームラインを模式的に示した図である。
本実施の形態に係る高エネルギーイオン注入装置100は、高周波線形加速方式のイオン加速器と高エネルギーイオン輸送用ビームラインを有するイオン注入装置であり、イオン源10で発生したイオンを加速し、ビームラインに沿ってウェハ(基板)200までイオンビームとして輸送し、ウェハ200に注入する。
図1に示すように、高エネルギーイオン注入装置100は、イオンを生成して質量分離するイオンビーム生成ユニット12と、イオンビームを加速して高エネルギーイオンビームにする高エネルギー多段直線加速ユニット14と、高エネルギーイオンビームのエネルギー分析、中心軌道補正、エネルギー分散の制御を行うビーム偏向ユニット16と、分析された高エネルギーイオンビームをウェハまで輸送するビーム輸送ラインユニット18と、輸送された高エネルギーイオンビームを均一に半導体ウェハに注入する基板処理供給ユニット20とを備える。
イオンビーム生成ユニット12は、イオン源10と、引き出し電極40と、質量分析装置22と、を有する。イオンビーム生成ユニット12では、イオン源10から引き出し電極を通してビームが引き出されると同時に加速され、引き出し加速されたビームは質量分析装置22により質量分析される。質量分析装置22は、質量分析磁石22a、質量分析スリット22bを有している。質量分析スリット22bは、質量分析磁石22aの直後に配置する場合もあるが、実施例では、その次の構成である高エネルギー多段直線加速ユニット14の入り口部内に配置している。
質量分析装置22による質量分析の結果、注入に必要なイオン種だけが選別され、選別されたイオン種のイオンビームは、次の高エネルギー多段直線加速ユニット14に導かれる。高エネルギー多段直線加速ユニット14により、さらに加速されたイオンビームは、ビーム偏向ユニット16により方向が変化させられる。
ビーム偏向ユニット16は、エネルギー分析電磁石24と、エネルギー分散を抑制する横収束四重極レンズ26と、エネルギー幅制限スリット27(後述する図5参照)と、エネルギー分析スリット28と、ステアリング機能を持つ偏向電磁石30とを有する。なお、エネルギー分析電磁石24は、エネルギーフィルター電磁石(EFM)と呼ばれることもある。高エネルギーイオンビームは、偏向ユニットによって方向転換され、基板ウェハの方向へ向かう。
ビーム輸送ラインユニット18は、ビーム偏向ユニット16から出たイオンビームを輸送するものであり、収束/発散レンズ群から構成されるビーム整形器32と、ビーム走査器34と、ビーム平行化器36と、最終エネルギーフィルター38(最終エネルギー分離スリットを含む)とを有する。ビーム輸送ラインユニット18の長さは、イオンビーム生成ユニット12と高エネルギー多段直線加速ユニット14との長さに合わせて設計されており、ビーム偏向ユニット16で結ばれて、全体でU字状のレイアウトを形成する。
ビーム輸送ラインユニット18の下流側の終端には、基板処理供給ユニット20が設けられており、注入処理室の中に、イオンビームのビーム電流、位置、注入角度、収束発散角、上下左右方向のイオン分布等を計測するビームモニター、イオンビームによる基板の帯電を防止する帯電防止装置、ウェハ(基板)200を搬入搬出し適正な位置・角度に設置するウェハ搬送機構、イオン注入中ウェハを保持するESC(Electro Static Chuck)、注入中ビーム電流の変動に応じた速度でウェハをビームスキャン方向と直角方向に動かすウェハスキャン機構が収納されている。
このように各ユニットをU字状に配置した高エネルギーイオン注入装置100は、設置面積を抑えつつ良好な作業性が確保されている。また、高エネルギーイオン注入装置100においては、各ユニットや各装置をモジュール構成とすることで、ビームライン基準位置に合わせて着脱、組み付けが可能となっている。
次に、高エネルギーイオン注入装置100を構成する各ユニット、各装置について更に詳述する。
(イオンビーム生成ユニット)
図2(a)は、イオンビーム生成ユニットの概略構成を示す平面図、図2(b)は、イオンビーム生成ユニットの概略構成を示す側面図である。
図2(a)、図2(b)に示すように、ビームラインの最上流に配置されているイオン源10の出口側には、イオンチャンバ(アークチャンバー)内で生成されたプラズマからイオンビームを引き出す引き出し電極40が設けられている。引き出し電極40の下流側近傍には、引き出し電極40から引き出されたイオンビーム中に含まれる電子が引き出し電極40に向かって逆流するのを抑制する引き出しサプレッション電極42が設けられている。
イオン源10は、イオン源高圧電源44と接続されている。引き出し電極40とターミナル48との間には、引き出し電源50が接続されている。引き出し電極40の下流側には、入射するイオンビームから所定のイオンを分離し、分離したイオンビームを取り出すための質量分析装置22が配置されている。
後述する図5に示すように、高エネルギー多段直線加速ユニット14の直線加速部ハウジング内の最前部に、イオンビームの総ビーム電流値を計測するためのファラデーカップ80a(インジェクター)が配置されている。
図14(a)は、インジェクターファラデーカップ80aとほぼ同じ構成のリゾルバーファラデーカップ80bを正面から見た模式図、図14(b)は、リゾルバーファラデーカップ80bの動作を説明するための模式図である。
インジェクターファラデーカップ80aは、駆動機構によりビームライン上に上下方向から出し入れ可能に構成され、また、水平方向に長い長方形の枡状形状で、開口部分をビームライン上流側に向けて構成されており、イオン源や質量分析電磁石の調整時に、イオンビームの総ビーム電流を計測する目的の他、ビームライン下流に到達するイオンビームを必要に応じてビームライン上で完全に遮断するために用いられる。さらに、インジェクターファラデーカップ80aの直前の高エネルギー多段直線加速ユニット14の入り口部内には、前述の通り、質量分析スリット22bが配置されており、単一の質量分析スリット、あるいは、質量の大きさにより、幅の異なる多数スリットの選択方式、または質量スリット幅を無段階または多段に変更できる方式の構成としている。
(高エネルギー多段直線加速ユニット)
図3は、高エネルギー多段直線加速ユニット14の概略構成を含む全体レイアウトを示す平面図である。高エネルギー多段直線加速ユニット14は、イオンビームの加速を行う複数の線形加速装置、すなわち、一つ以上の高周波共振器14aを挟む加速ギャップを備えている。高エネルギー多段直線加速ユニット14は、高周波(RF)電場の作用により、イオンを加速することができる。図3において、高エネルギー多段直線加速ユニット14は、高エネルギーイオン注入用の基本的な複数段の高周波共振器14aを備えた第1線形加速器15aと、さらに、超高エネルギーイオン注入用の追加の複数段の高周波共振器14aを備えた第2線形加速器15bとから構成されている。
一方、高周波(RF)加速を用いたイオン注入装置においては、高周波のパラメータとして電圧の振幅V[kV]、周波数f[Hz]を考慮しなければならない。更に、複数段の高周波加速を行う場合には、お互いの高周波の位相φ[deg]がパラメータとして加わる。加えて、加速の途中や加速後にイオンビームの上下左右への広がりを収束・発散効果によって制御するための磁場レンズ(例えば、四極電磁石)や電場レンズ(例えば、電場四極電極)が必要であり、それらの運転パラメータは、そこを通過する時点でのイオンのエネルギーによって最適値が変わることに加え、加速電界の強度が収束・発散に影響を及ぼすため、高周波のパラメータを決めた後にそれらの値を決めることになる。
図4は、複数の高周波共振器先端の加速電場(ギャップ)を直線状に並べた高エネルギー多段直線加速ユニット及び収束発散レンズの制御系の構成を示すブロック図である。
高エネルギー多段直線加速ユニット14には一つ以上の高周波共振器14aが含まれている。高エネルギー多段直線加速ユニット14の制御に必要な構成要素としては、オペレータが必要な条件を入力するための入力装置52、入力された条件から各種パラメータを数値計算し、更に各構成要素を制御するための制御演算装置54、高周波の電圧振幅を調整するための振幅制御装置56、高周波の位相を調整するための位相制御装置58、高周波の周波数を制御するための周波数制御装置60、高周波電源62、収束発散レンズ64のための収束発散レンズ電源66、運転パラメータを表示するための表示装置68、決定されたパラメータを記憶しておくための記憶装置70が必要である。また、制御演算装置54には、あらかじめ各種パラメータを数値計算するための数値計算コード(プログラム)が内蔵されている。
高周波線形加速器の制御演算装置54では、内蔵している数値計算コードによって、入力された条件を基にイオンビームの加速並びに収束・発散をシミュレーションし、最適な輸送効率が得られるよう高周波パラメータ(電圧振幅、周波数、位相)を算出する。また同時に、効率的にイオンビームを輸送するための収束発散レンズ64のパラメータ(Qコイル電流、またはQ電極電圧)も算出する。計算された各種パラメータは、表示装置68に表示される。高エネルギー多段直線加速ユニット14の能力を超えた加速条件に対しては、解がないことを意味する表示が表示装置68に表示される。
電圧振幅パラメータは、制御演算装置54から振幅制御装置56に送られ、振幅制御装置56が、高周波電源62の振幅を調整する。位相パラメータは、位相制御装置58に送られ、位相制御装置58が、高周波電源62の位相を調整する。周波数パラメータは、周波数制御装置60に送られる。周波数制御装置60は、高周波電源62の出力周波数を制御するとともに、高エネルギー多段直線加速ユニット14の高周波共振器14aの共振周波数を制御する。制御演算装置54はまた、算出された収束発散レンズパラメータにより、収束発散レンズ電源66を制御する。
イオンビームを効率的に輸送するための収束発散レンズ64は、高周波線形加速器の内部あるいはその前後に、必要な数が配置される。すなわち、複数段の高周波共振器14aの先端の加速ギャップの前後には交互に発散レンズまたは収束レンズが備えられている、その一方で、第2線形加速器15bの終端の横収束レンズ64a(図5参照)の後方には追加の縦収束レンズ64b(図5参照)が配置され、高エネルギー多段直線加速ユニット14を通過する高エネルギー加速イオンビームの収束と発散を調整して、後段のビーム偏向ユニット16に最適な二次元ビームプロファイルのイオンビームを入射させるようにしている。
高周波線形加速器の加速ギャップに生じる電界の方向は、イオンを加速する方向と減速する方向が数十ナノ秒毎に切り替わる。イオンビームを高エネルギーまで加速するためには、数十か所ある加速ギャップの全てで、イオンが加速ギャップに入ったとき、電界は加速方向を向いていなければならない。ある加速ギャップで加速されたイオンは、次の加速ギャップの電界が加速方向を向くまでの間に、二つの加速ギャップの間の電界がシールドされた空間(ドリフトスペース)を通過しなければならない。速すぎても遅すぎても減速されるので、高エネルギーに到達できない。全加速ギャップで加速位相に乗るのは、非常に厳しい条件になるため、予定エネルギーに達するということは、高周波線形加速器による、質量、エネルギー、電荷(速度を決める要因)に対する厳しい選別をくぐり抜けたことになる。その意味で、高周波線形加速器は良い速度フィルターでもある。
(ビーム偏向ユニット)
図1に示すように、ビーム偏向ユニット16は、エネルギーフィルター偏向電磁石(EFM)であるエネルギー分析電磁石24と、エネルギー幅制限スリット27(図5参照)と、エネルギー分析スリット28と、偏向後のエネルギー分散を制御する横収束四重極レンズ26と、注入角度補正機能を有する偏向電磁石30を含む。
図5(a)、図5(b)は、EFM(エネルギー分析用偏向電磁石)、エネルギー幅制限スリット、エネルギー分析スリット、BM(横方向中心軌道補正用偏向電磁石)、ビーム整形器、ビーム走査器(スキャナー)の概略構成を示す平面図である。なお、図5(a)に示す符号Lは、イオンビームの中心軌道を示している。
高エネルギー多段直線加速ユニット14通過後のイオンビームは、シンクロトロン振動によってエネルギー分布ができてしまう。また、加速位相の調整量が大きいときに、中心値が予定のエネルギーからややずれたビームが高エネルギー多段直線加速ユニット14から出てくることがある。そこで、後述のビーム偏向ユニット16により所望のエネルギーのイオンのみが通過できるように、エネルギーフィルター偏向磁石(EFM)の磁場を設定して、エネルギー幅制限スリット27とエネルギー分析スリット28により、ビームの一部を選択的に通過させ、イオンのエネルギーを設定値に揃える。通過できるイオンビームのエネルギー幅はエネルギー幅制限スリットと分析スリットの開口横幅によってあらかじめ設定できる。エネルギー分析スリットを通過したイオンのみが後段のビームラインに導かれ、ウェハに注入される。
エネルギー分布を持ったイオンビームが、前述したフィードバックループ制御系で磁場を一定値に制御されたエネルギーフィルター電磁石(EFM)に入射すると、入射イオンビーム全体が設計軌道に沿って偏向されながらエネルギー分散を起こし、所望のエネルギー幅の範囲にあるイオンが、EFM出口付近に設置されたエネルギー幅制限スリット27を通過する。この位置では、エネルギー分散は極大値に向かって増加中であり、エミッタンスによるビームサイズσ1(エネルギー幅がないときのビームサイズ)は、極小値に向かって減少中であるが、エネルギー分散によるビーム幅がエミッタンスによるビーム幅より大きくなっている。このような状態のイオンビームをスリットで切る場合、空間的な分布はシャープに切られるが、エネルギー分布は2σ1に対応するエネルギー幅でなまらされた切り口になる。言い換えると、例えば、スリット幅を、3%のエネルギー幅に対応する寸法に設定したとしても、予定注入エネルギーとのエネルギー差が3%より小さいイオンの一部はスリットの壁に当たって失われ、逆にエネルギー差が3%より大きいイオンの一部は、スリットを通過してしまう。
エネルギー分析スリットは、σ1が極小になる位置に設置する。この位置では、σ1はスリット幅に比べて無視できるほど小さくなるので、エネルギー分布も空間分布とほとんど同じくシャープに切断される。例えば、エネルギー分析スリットの開口幅もエネルギー幅3%に相当する寸法(0.03η)に設定した場合、エネルギー幅制限スリットを通過できたエネルギー差が3%を超えるイオンは、全てここで阻止される。この結果、最初矩形のエネルギー分布だったビームが二枚のスリットを通過した後では、0%でピークになり、±3%で高さが1/2に減り、その後急激にゼロまで低下するドーム状の分布に変わる。エネルギー差の小さいイオンの数が相対的に多くなるので、一枚のエネルギー分析スリットだけ設置して、ほぼ矩形のエネルギー分布のままスリットを通過させたときより、エネルギー幅が実質的に小さくなる。
二重のスリットシステムは、エネルギー分布の端部を削る効果によって、リナックにより加速されたビームのエネルギーが予定注入エネルギーからわずかにずれている場合、通過後のビームのエネルギーずれを小さくする効果がある。例えば、エネルギー幅が±3%で、エネルギーずれも3%ある場合、二重スリットを通過した後のエネルギー分布は、前記ドーム状分布のエネルギーのプラス側半分になり、その分布の重心であるエネルギー中心は、ほぼΔE/E=1%付近に来る。一方、単一のエネルギー分析スリットでカットした場合、中心はΔE/E=1.5%になる。分布をなまらせる効果は、必ずエネルギー中心のずれを抑える方向に働く。
このように、エネルギー幅とエネルギーずれの両方を持つ加速システムで、エネルギー幅とエネルギー中心のずれを両方縮小して、エネルギー精度を上げるためには、二重スリットによるエネルギー制限が有効である。
エネルギー分析電磁石には高い磁場精度が必要であるので、精密な磁場測定を行う高精度な測定装置86a,86bが、取り付けられている(図5(b)参照)。測定装置86a,86bは、MRP(磁気共鳴プローブ)とも呼ばれるNMR(核磁気共鳴)プローブとホールプローブとを適宜組み合わせたもので、MRPはホールプローブの校正に、ホールプローブは磁場一定のフィードバック制御にそれぞれ使用される。また、エネルギー分析電磁石は、磁場の不均一性が0.01%未満になるように、厳しい精度で製作されている。さらに、それぞれの電磁石には、電流設定精度と電流安定度とが1×10−4以上の電源とその制御機器が接続されている。
また、エネルギー分析スリット28の上流側(イオンビームラインの上流)であって、エネルギー分析スリット28とエネルギー分析電磁石24との間に、横収束レンズとして四重極レンズ26が配置されている。四重極レンズ26は、電場式若しくは磁場式で構成することができる。これによって、イオンビームがU字状に偏向された後のエネルギー分散が抑制され、ビームサイズが小さくなるので、高効率のビーム輸送ができる。また、偏向電磁石の磁極部ではコンダクタンスが小さくなるため、例えば、エネルギー分析スリット28の近傍に、アウトガス排出用の真空ポンプを配置することが有効である。磁気浮上式のターボ分子ポンプを使用する場合は、エネルギー分析電磁石24や偏向電磁石30の電磁石の漏れ磁場の影響を受けない位置に設置しなければならない。この真空ポンプによって、偏向ユニットでの残留ガス散乱によるビーム電流低下が防がれる。
高エネルギー多段直線加速ユニット14中の四重極レンズや、分散調整用四重極レンズ26、ビーム整形器32に、大きな据付け誤差があると、図5(b)に示されているビームの中心軌道が歪み、ビームがスリットに当たって失われやすくなり、最終的な注入角度と注入位置も狂ってしまう。これに対しては、注入角度補正機能を有する偏向電磁石30の磁場補正値によって、水平面上では、ビームの中心軌道が、必ずビーム走査器34の中心を通るようになっている。これによって、注入角度の狂いは矯正される。さらに、ビーム走査器34に適切なオフセット電圧を加えると、走査器からウェハまでの中心軌道の歪みはなくなり、注入位置の左右ずれは解消される。
ビーム偏向ユニット16の各偏向電磁石を通過中のイオンには、遠心力とローレンツ力が働いており、それらが釣り合って、円弧状の軌跡が描かれる。この釣合いを式で表すとmv=qBrとなる。mはイオンの質量、vは速度、qはイオン価数、Bは偏向電磁石の磁束密度、rは軌跡の曲率半径である。この軌跡の曲率半径rが、偏向電磁石の磁極中心の曲率半径と一致したイオンのみが、偏向電磁石を通過できる。言い換えると、イオンの価数が同じ場合、一定の磁場Bがかかっている偏向電磁石を通過できるのは、特定の運動量mvを持ったイオンのみである。EFMは、エネルギー分析電磁石と呼ばれているが、実際は、イオンの運動量を分析する装置である。BMや、イオン生成ユニットの質量分析電磁石も、全て運動量フィルターである。
また、ビーム偏向ユニット16は、複数の磁石を用いることで、イオンビームを180°偏向させることができる。これにより、ビームラインがU字状の高エネルギーイオン注入装置100を簡易な構成で実現できる。
図5(a)に示すように、ビーム偏向ユニット16は、高エネルギー多段直線加速ユニット14から出たイオンビームを、エネルギー分析電磁石24で90°偏向する。そして、軌道補正兼用偏向電磁石30によりビーム進路をさらに90°偏向し、後述するビーム輸送ラインユニット18のビーム整形器32に入射させる。ビーム整形器32は、入射したビームを整形してビーム走査器34に供給する。また、図5(b)に示す四重極レンズ26のレンズ作用により、ビームのエネルギー分散による発散を防止し、あるいは、エネルギー分散によるビーム拡大効果を利用して、ビームが小さくなりすぎることを防いでいる。
図11(a)は、横収束レンズである四重極レンズを模式的に示す平面図、図11(b)は、四重極レンズを模式的に示す正面図である。図11(a)の平面図では、四重極レンズ26のビームライン進行方向の電極長さを示すとともに、エネルギー分析器(EFM偏向磁石)24に選別されたエネルギーのビームについて、横発散していくビームが四重極レンズ26により横収束される作用を示す。図11(b)の正面図では、四重極レンズ26の電極による収束発散作用によるビームの横収束作用を示す。
上述のように、ビーム偏向ユニット16は、イオン源で発生したイオンを加速してウェハまで輸送して打ち込むイオン注入装置において、高エネルギー多段直線加速ユニット14とビーム輸送ラインユニット18との間において、イオンビームの180°の偏向を複数の電磁石で行っている。つまり、エネルギー分析電磁石24および軌道補正兼用偏向電磁石30は、それぞれ偏向角度が90度となるように構成されており、その結果、合計の偏向角度が180度となるように構成されている。なお、一つの磁石で行う偏向量は90°に限られず、以下の組合せでもよい。
(1)偏向量が90°の磁石が1つ+偏向量が45°の磁石が2つ
(2)偏向量が60°の磁石が3つ
(3)偏向量が45°の磁石が4つ
(4)偏向量が30°の磁石が6つ
(5)偏向量が60°の磁石が1つ+偏向量が120°の磁石が1つ
(6)偏向量が30°の磁石が1つ+偏向量が150°の磁石が1つ
エネルギー分析部としてのビーム偏向ユニット16は、U字状のビームラインにおける折り返し路であり、それを構成する偏向電磁石の曲率半径rは、輸送できるビームの最大エネルギーを限定するとともに、装置の全幅や中央のメンテナンスエリアの広さを決定する重要なパラメータである(図5参照)。その値を最適化することによって、最大エネルギーを下げることなく、装置の全幅を最小に抑えている。そして、これにより、高エネルギー多段直線加速ユニット14とビーム輸送ラインユニット18との間の間隔が広くなり、十分な作業スペースR1が確保できている(図1参照)。
図12(a)、図12(b)は、電磁石の構成の一例を示す斜視図である。図13は、電磁石が備える開閉装置を模式的に示した図である。エネルギー分析電磁石24や偏向電磁石30を構成する電磁石は、例えば、図12(a)、図12(b)に示すように、アッパーヨーク87、ロアーヨーク88(*図の確認)、内側と外側のサイドヨーク89a,89b、上ポール(不図示)、下ポール93、上コイル91a、下コイル91b、で構成されている。また、図13に示すように、外側サイドヨーク89bは、2つの部材89b1,89b2に分割されており、開閉装置92a,92bによって、外側に観音開きできるようになっており、図示しない、ビームラインを構成するビームガイド容器を着脱できるよう構成されている。
また、ビーム偏向ユニット16の中央部の真空容器、例えば、エネルギー幅制限スリット27、四重極レンズ26、エネルギー分析スリット28等を収納している容器は、ビームラインから容易に脱着できる構造になっている。これによって、メンテナンス作業時に、U字状ビームライン中央の作業エリアに、簡単に出入りすることができる。
高エネルギー多段直線加速ユニット14は、イオンの加速を行う複数の線形加速装置を備えている。複数の線形加速装置のそれぞれは、共通の連結部を有しており、その連結部は、複数の電磁石のうちエネルギー分析スリット28よりも上流側にあるエネルギー分析電磁石24に対して着脱可能に構成されている。同様に、ビーム輸送ラインユニット18は、偏向電磁石30に対して着脱可能に構成されていてもよい。
また、エネルギー分析スリット28より上流側に設けられている、電磁石を含むエネルギー分析電磁石24は、上流の高エネルギー多段直線加速ユニット14に対して着脱したり連結したりできるように構成してもよい。また、後述するビーム輸送ラインユニット18をモジュール型のビームラインユニットで構成した場合、エネルギー分析スリット28より下流側に設けられている偏向電磁石30は、下流のビーム輸送ラインユニット18に対して着脱したり連結したりできるように構成してもよい。
リナック、ビーム偏向ユニットは、それぞれ平面架台上に配置され、それぞれの機器を通過するイオンビーム軌道が実質的に1水平面に含まれる(最終エネルギーフィルターの偏向後の軌道は除く)ように構成されている。
(ビーム輸送ラインユニット)
図6(a)は、ビーム走査器からビーム平行化器以降のビームラインから基板処理供給ユニットまでの概略構成を示す平面図、図6(b)は、ビーム走査器からビーム平行化器以降のビームラインから基板処理供給ユニットまでの概略構成を示す側面図である。
ビーム偏向ユニット16によって必要なイオン種のみが分離され、必要なエネルギー値のイオンのみとなったビームは、ビーム整形器32により所望の断面形状に整形される。図5、図6に示すように、ビーム整形器32は、Q(四重極)レンズ等(電場式若しくは磁場式)の収束/発散レンズ群により構成される。整形された断面形状を持つビームは、ビーム走査器34により図1(a)の面に平行な方向にスキャンされる。例えば、横収束(縦発散)レンズQF/横発散(縦収束)レンズQD/横収束(縦発散)レンズQFからなるトリプレットQレンズ群として構成される。ビーム整形器32は、必要に応じて、横収束レンズQF、横発散レンズQDをそれぞれ単独で、あるいは複数組み合わせて構成することができる。
図5に示すようにスキャナーハウジング内の最前部のビーム整形器32の直前部とには、イオンビームの総ビーム電流値を計測するためのファラデーカップ80b(リゾルバーファラデーカップと呼ぶ)が配置されている。
図14(a)は、リゾルバーファラデーカップ80bを正面から見た模式図、図14(b)は、リゾルバーファラデーカップ80bの動作を説明するための模式図である。
リゾルバーファラデーカップ80bは、駆動機構によりビームライン上に上下方向から出し入れ可能に構成され、また、水平方向に長い長方形の枡状形状で、開口部分をビームライン上流側に向けて構成されており、リナック及びビーム偏向部の調整の際に、イオンビームの総ビーム電流を計測する目的の他、ビームライン下流に到達するイオンビームを必要に応じてビームライン上で完全に遮断するために用いられる。またリゾルバーファラデーカップ80b、ビーム走査器34及びサプレッション電極74、グランド電極76a、78a、78bは、スキャナーハウジング82に収容されている。
ビーム走査器34は、周期変動する電場により、イオンビームの進行方向と直交する水平方向にイオンビームを周期的に往復走査させる偏向走査装置(ビームスキャナーとも呼ばれる)である。
ビーム走査器34は、ビーム進行方向に関して、イオンビームの通過域を挟むようにして対向配置された一対(2枚)の対向走査電極(二極式偏向走査電極)を備え、0.5Hz〜4000Hzの範囲の一定の周波数で正負に変動する三角波に近似する走査電圧が、2枚の対向電極にそれぞれ逆符号で印加される。この走査電圧は、2枚の対向電極のギャップ内において、そこを通過するビームを偏向させる変動する電場を生成する。そして、走査電圧の周期的な変動により、ギャップを通過するビームが水平方向にスキャンされる。
高エネルギーイオン注入された際に、シリコンウェハ内部に生成される結晶ダメージの量は、スキャン周波数に反比例する。そして、結晶ダメージの量が、生産される半導体デバイスの品質に影響することがある。このような場合に、スキャン周波数を自由に設定できるようにすることにより、生産される半導体デバイスの品質を高めることができる。
さらに、走査電圧をかけない状態で、ウェハ直近で測定されたビーム位置ずれ量を補正するために、オフセット電圧(固定電圧)が走査電圧に重畳される。このオフセット電圧によって、スキャン範囲が左右に偏ることがなくなり、左右対称なイオン注入が実施できる。
ビーム走査器34の下流側には、イオンビームの通過域に開口を有するサプレッション電極74が2つのグランド電極78a、78bの間に配置されている。上流側には、走査電極の前方にグランド電極76aを配置しているが、必要に応じて下流側と同じ構成のサプレッション電極を配置することができる。サプレッション電極は、正電極への電子の侵入を抑制する。
また、偏向電極87a,87bの上方と下方には、グランド遮蔽板89が配置されている。グランド遮蔽板は、ビームに付随する二次電子が、外側から回り込んでビーム走査器34の正電極に流れ込むことを防いでいる。サプレッション電極とグランド遮蔽板により、走査器の電源が保護されるとともに、イオンビームの軌道が安定化される。
ビーム走査器34の後方側にはビームパーク機能が備わっている。ビームパークは、ビームスキャナーを通過したイオンビームを必要に応じて水平に大きく偏向させてビームダンプ部95a,95bに導くように構成されている。
ビームパークは、電極の放電など、イオン注入中に予期せぬ障害が発生し、そのまま注入動作を続けると、ドーズの均一性不良などの注入不良が発生する場合に、瞬間的(10μs以内)にビーム輸送を中止するシステムである。実際には、ビーム電流の著しい低下を観測した瞬間に、ビームスキャナー電源の出力電圧を最大スキャン幅に対応する電圧の1.5倍に上げて、ビームをパラレルレンズ横のビームダンプ部95a,95bに導いている。障害が発生した時点のウェハ上のビーム照射位置を記憶しておき、障害が解消した後、上下に走査運動しているウェハがその位置に来た瞬間にビームを元の軌道に戻すことによって、あたかも何もなかったかのように、イオン注入が継続される。
スキャンハウジング内において、ビーム走査器34の下流側には、ビーム走査空間部が長い区間において設けられ、ビーム走査角度が狭い場合でも十分なスキャン幅を得られるように構成されている。ビーム走査空間部の下流にあるスキャンハウジングの後方には、偏向されたイオンビームを、ビーム走査偏向前のイオンビームの方向になるように調整する、つまり、ビームラインに平行となるように曲げ戻すビーム平行化器36が設けられている。
ビーム平行化器36で発生する収差(ビーム平行化器の中心部と左右端部の焦点距離の差)は、ビーム走査器34の偏向角の2乗に比例するので、ビーム走査空間部を長くして偏向角を小さくすることは、ビーム平行化器の収差を抑えることに大きく寄与する。収差が大きいと、半導体ウェハにイオンビームを注入する際に、ウェハの中心部と左右端部とでビームサイズとビーム発散角が異なるため、製品の品質にバラツキが生じることがある。
また、このビーム走査空間部の長さを調整することによって、ビーム輸送ラインユニットの長さを、高エネルギー多段直線加速ユニット14の長さに合わせることができる。
図7は、ビーム走査器の一例の主要部を上方から見た模式図である。図8は、ビーム走査器の一例の主要部を側方から見た模式図である。図9は、ビーム走査器の一例をイオンビームラインの途中経路に着脱自在に装着した構造を下流側から見た正面模式図である。
ビーム走査器134は、図7、図8に示すように、一対の偏向電極128、130とこれらの上流側近傍、下流側近傍に組み付けられたグランド電極132、133とが箱体150内に収容、設置されている。箱体150の上流側側面及び下流側側面であって、グランド電極132、133の開口部分に対応する箇所には、それぞれ、上流側開口部分(図示省略)、グランド電極133の開口部分より大きめの開口部分152Aが設けられている。
偏向電極と電源との接続は、フィードスルー構造にて実現されている。一方、箱体150の上面には偏向電極128、130と電源とを接続するためのターミナルとグランド用のターミナルが設けられている。また、箱体150には、ビーム軸に平行な2つの側面に、着脱や持ち運びに都合のよい取っ手が設けられている。なお、箱体150には、ビーム走査器134内の圧力を下げるための真空排気用の開口部分が形成されており、図示しない真空排気装置に接続されている。
図9に示すように、箱体150は、架台160上に固定設置されたビームガイドボックス170にスライド自在に設置されている。ビームガイドボックス170は箱体150より十分に大きく、底部には箱体150をスライド可能にするための2本のガイドレールが敷設されている。ガイドレールは、ビーム軸に直交する方向に延びており、その一端側のビームガイドボックス170の側面は扉172により開閉自在にされている。これにより、ビーム走査器134の保守・点検時には、箱体150をビームガイドボックス170から簡単に取り出すことができる。なお、ビームガイドボックス170内に押し込まれた箱体150をロックするために、ガイドレールの他端には係止機構(不図示)が設けられている。
これらのスキャナー周辺のユニット部材は、ビームラインのメンテナンス時の作業対象であり、メンテナンス作業は作業スペースR1から容易に実施することができる。高エネルギー多段直線加速ユニット14のメンテナンス作業時にも、同様に、作業スペースR1から容易に実施することができる。
ビーム平行化器36には、電場平行化レンズ84が配置されている。図6に示すように、電場平行化レンズ84は、略双曲線形状の複数の加速電極対と減速電極対で構成されている。各電極対は、放電が起きない程度の広さの加速・減速ギャップを介して向き合っており、加速減速ギャップには、イオンビームの加減速を引き起こす軸方向の成分と、基準軸からの距離に比例して強くなって、イオンビームに横方向の収束作用を及ぼす横成分とを併せ持つ電界が形成される。
加速ギャップを挟む電極対のうち下流側の電極と、減速ギャップの上流側の電極、及び、減速ギャップの下流側の電極と次の加速ギャップの上流側の電極とは、同一電位になるように、それぞれ一体の構造体を形成している。図6(b)に示すように、さらにこれらの構造体は、上部ユニットと下部ユニットの上下対の組体で構成され、上部ユニットと下部ユニットの間には、イオンビームが通過する空間部が設けられている。
電場平行化レンズ84の上流側から最初の電極(入射電極)と最後の電極(出射電極)は、接地電位に保たれている。これによって、平行化レンズ84通過前後で、ビームのエネルギーは変化しない。
中間の電極構造体において、加速ギャップの出口側電極と減速ギャップの入り口側電極には、可変式定電圧の負電源90が、減速ギャップの出口側電極と加速ギャップの入り口側電極には、可変式定電圧の正電源が接続されている(n段の時は負正負正負・・・)。これによって、イオンビームは加速・減速を繰り返しながら、ビームラインの中心軌道と平行な方向に段階的に向いていく。そして、最終的に偏向走査前のイオンビーム進行方向(ビームライン軌道方向)に平行な軌道に乗る。
このように、ビーム走査器34によりスキャンされたビームは、電場平行化レンズ等を含むビーム平行化器36により、スキャン前のイオンビーム進行方向(ビームライン軌道方向)に平行な偏向角0度の軸(基準軸)に対して平行になる。このとき、スキャン領域は、基準軸に関して左右対称になる。
電場平行化レンズ84から出たイオンビームは、電場最終エネルギーフィルター38(AEF(94):Angular Energy Filter)に送られる。最終エネルギーフィルター94では、ウェハに注入する直前のイオンビームのエネルギーに関する最終的な分析が行われ、必要なエネルギー値のイオン種のみが選択されるとともに、合わせて、中性化した価数のない中性粒子や、イオン価数の異なるイオンの除去が行われる。この電界偏向による最終エネルギーフィルター94は、ビームライン軌道方向の上下方向に対向する一対の平面若しくは曲面からなる板状の偏向電極により構成され、ビームライン軌道方向の上下方向において最終エネルギーフィルター94自身の偏向作用により下方に曲がっていくイオンビーム軌道に合わせて屈曲している。
図6(a)、図6(b)に示すように、電界偏向用電極は、一対のAEF電極104から構成され、イオンビームを上下方向より挟み込むように配置されている。一対のAEF電極104のうち、上側のAEF電極104には正電圧を、下側のAEF電極104には負電圧をそれぞれ印加している。電界による偏向時には、一対のAEF電極104間で発生する電界の作用によって、イオンビームを下方に約10〜20度偏向させ、目的エネルギーのイオンビームのみが選択されることとなる。図6(b)に示されるように、最終エネルギーフィルター94においては選択された価数のイオンビームのみが設定した軌道角度で下方に偏向される。このようにして選択されたイオン種のみからなるビームが正確な角度で一様に被照射物であるウェハ200に照射される。
実際に高エネルギービームを偏向する上では、上下方向に対向する一対の板状の偏向電極204は、図10に示すように、イオンビーム軌道に合わせて屈曲させるときに、偏向角と曲率半径に合わせて、前後にn分割し、それぞれの上部電極および下部電極が各々同電位に保たれた板状の電極とした方が、製作精度や経済性の点で優れている。また、前後にn分割された板状の偏向電極は、上部電極および下部電極を各々同電位に保つ構成のほか、n分割の上下一対の板状電極として、それぞれ別の電位設定とすることも可能である。
このような構造を取ることによって、電場式のエネルギーフィルターを高エネルギーのスキャンビーム輸送ラインに搭載することが可能になっている。電場によって、ビームスキャン面と直交する方向にビームを偏向するため、ビームスキャン方向の注入イオン密度分布(均一性)に影響を与えず、エネルギー分析を行うことができるようになっている。
さらに、最終エネルギーフィルターの搭載によって、本ビームラインには、高エネルギー多段直線加速ユニット14の高周波線形加速装置、U字状偏向部の磁場式のEFM(エネルギー分析電磁石24)とBM(偏向電磁石30)と合わせて、3種類のビームフィルターが搭載されることになった。前述のように、高周波線形加速装置は速度(v)フィルターであり、EFMとBMは運動量(mv)フィルターであり、この最終エネルギーフィルターはその名の通りエネルギー(mv2/2)フィルターである。このように、方式の異なる三重のフィルターをかけることにより、従来と比べてエネルギー純度が高いだけでなく、パーティクルやメタルコンタミネーションも少ない非常に純粋なイオンビームをウェハに供給できるようになっている。
なお、機能的には、EFMは高分解能で、高周波線形加速装置をすり抜けたエネルギーコンタミネーションの除去やエネルギー幅の制限を行い、AEFは比較的低分解能で、EFMによるエネルギー分析後のビーム輸送ラインユニットで、主にレジストアウトガスによって価数が変化したイオンを除去する役割を担っている。
最終エネルギーフィルター94は、最終エネルギーフィルター94の上流側にグランド電極108、および下流側の2つのグランド電極の間にAEFサプレッション電極110を設けた電極セットを備えている。このAEFサプレッション電極110は、正電極へ電子の侵入を抑制する。
最終エネルギーフィルター94の最下流側のグランド電極の左右端に配置されたドーズカップ122により、ドーズ量の目安とする注入注のビーム電流量を測定する。
(基板処理供給ユニット)
図6(a)においてウェハ200に隣接して示した矢印はビームがこれらの矢印の方向にスキャンされることを示し、図6(b)においてウェハ200に隣接して示した矢印はウェハ200がこれらの矢印の方向に往復移動、すなわち機械走査されることを示している。つまり、ビームが、例えば一軸方向に往復スキャンされるものとすると、ウェハ200は、図示しない駆動機構により上記一軸方向に直角な方向に往復移動するように駆動される。
ウェハ200を所定の位置に搬送供給し、イオン注入による処理を行う基板処理供給ユニット20は、プロセスチャンバ(注入処理室)116に収納されている。プロセスチャンバ116は、AEFチャンバ102と連通している。プロセスチャンバ116内には、エネルギー制限スリット(EDS:Energy Defining Slit)118が配置されている。エネルギー制限スリット118は、所用以外のエネルギー値と価数を持つイオンビームの通過を制限することにより、AEFを通過した所用のエネルギー値と価数を持つイオンビームだけを分離するために、スキャン方向に横長のスリットで構成されている。また、エネルギー制限スリット118は、スリットの分離の間隔を調整するために上下方向から可動式の部材でスリット体を構成し、エネルギー分析や、注入角度の測定など、複数の測定目的に対応できるようにしても良い。さらに、可動式の上下の切替えスリット部材は、複数のスリット面を備えて、これらのスリット面を切り替えた後、さらに上下スリットの軸を上下方向に調整させたり、回転させたりすることによって、所望のスリット幅に変更するよう構成しても良い。これら複数のスリット面をイオン種に応じて順次切り替えることにより、クロスコンタミネーションを低減する構成とすることも可能である。
プラズマシャワー120は、低エネルギー電子をイオンビームのビーム電流量に応じて軌道上のイオンビームとウェハ200の前面に供給し、イオン注入で生じる正電荷のチャージアップを抑制する。なお、最終エネルギーフィルター94の最下流側のグランド電極の左右端に配置されたドーズカップ122の代わりに、プラズマシャワー120の左右端にドーズ量を測定するドーズカップ(不図示)を配置しても良い。
ビームプロファイラ124は、イオン注入位置でのビーム電流の測定を行うためのビームプロファイラカップ(図示省略)を備えている。ビームプロファイラ124は、イオン注入前に水平方向へ移動させながら、イオン注入位置のイオンビーム密度を、ビームスキャン範囲において測定する。ビームプロファイル測定の結果、イオンビームの予想不均一性(PNU:Predicted Non Uniformity)がプロセスの要求に満たない場合には、ビーム走査器34の印加電圧の制御関数を補正して、プロセス条件を満たすように自動的に調整する。また、ビームプロファイラ124に、バーティカルプロファイルカップ(図示省略)を併設して、ビーム形状・ビームX−Y位置を測定して、注入位置でのビーム形状を確認し、ビーム幅やビーム中心位置、ダイバージェンスマスクと組み合わせて注入角度やビーム発散角を確認できるよう構成することも可能である。
ビームラインの最下流には、スキャン範囲のイオンビームをウェハ領域において全て計測できるビーム電流計測機能を有する横長ファラデーカップ126が配置されており、最終セットアップビームを計測するよう構成されている。図15は、横長ファラデーカップを正面から見た模式図である。なお、クロスコンタミネーションを低減するために、横長ファラデーカップ126は、イオン種に応じて三角柱の3面を切り替えることができるトリプルサーフェス構造のファラデーカップの切り換え式底面を持つ構成とすることも可能である。また、横長ファラデーカップ126に、バーティカルプロファイルカップ(図示省略)を併設して、ビーム形状やビーム上下位置を測定して、注入位置での上下方向の注入角度やビーム発散角をモニターできるよう構成することも可能である。
前述のように、高エネルギーイオン注入装置100は、図1に示すように、作業スペースR1を囲むように、各ユニットがU字状に配置されている。そのため、作業スペースR1にいる作業者は、最小限の移動により、多くのユニットに対して部品の交換やメンテナンス、調整を行うことができる。
(全体レイアウト、メンテナンス性、製造性、地球環境配慮)
以上、本実施の形態に係る高エネルギーイオン注入装置100は、イオンビーム生成ユニット12にて生成したイオンビームを、高エネルギー多段直線加速ユニット14にて加速するとともに、ビーム偏向ユニット16により方向転換し、ビーム輸送ラインユニット18の終端に設けられている基板処理供給ユニット20にある基板に照射する。
また、高エネルギーイオン注入装置100は、複数のユニットとして、高エネルギー多段直線加速ユニット14と、ビーム輸送ラインユニット18と、を含んでいる。そして、高エネルギー多段直線加速ユニット14およびビーム輸送ラインユニット18は、図1に示す作業スペースR1を挟んで対向するように配置されている。これにより、従来装置ではほぼ直線状に配置されてきた高エネルギー多段直線加速ユニット14と、ビーム輸送ラインユニット18とが折り返して配置されるため、高エネルギーイオン注入装置100の全長を抑えることができる。また、ビーム偏向ユニット16を構成する複数の偏向電磁石の曲率半径は、装置幅を最小にするように最適化されている。これらによって、装置の設置面積を最小化するとともに、高エネルギー多段直線加速ユニット14とビーム輸送ラインユニット18との間に挟まれた作業スペースR1において、高エネルギー多段直線加速ユニット14やビーム輸送ラインユニット18の各装置に対する作業が可能となる。
また、高エネルギーイオン注入装置100を構成する複数のユニットは、ビームラインの上流側に設けられている、イオンビームを発生させるイオンビーム生成ユニット12と、ビームラインの下流側に設けられている、イオンが注入される基板を供給し処理する基板処理供給ユニット20と、イオンビーム生成ユニット12から基板処理供給ユニット20へ向かうビームラインの途中に設けられている、イオンビームの軌道を偏向するビーム偏向ユニット16とを含んでいる。そして、イオンビーム生成ユニット12および基板処理供給ユニット20をビームライン全体の一方の側に配置し、ビーム偏向ユニット16をビームライン全体の他方の側に配置している。これにより、比較的短時間でメンテナンスの必要なイオン源10や、基板の供給、取り出しが必要な基板処理供給ユニット20が隣接して配置されるため、作業者の移動が少なくてすむ。
また、高エネルギー多段直線加速ユニット14は、イオンの加速を行う複数の一連の線形加速装置を備えており、複数の一連の線形加速装置のそれぞれは、共通の連結部を有していてもよい。これにより、基板へ注入するイオンに必要とされるエネルギーに応じて、線形加速装置の数や種類を容易に変更できる。
また、スキャナー装置であるビーム走査器34および平行化レンズ装置であるビーム平行化器36は、隣接するユニットとの連結部として標準化された形状を有していてもよい。これにより、線形加速装置の数や種類を容易に変更できる。そして、ビーム走査器34やビーム平行化器36は、高エネルギー多段直線加速ユニット14が備える線形加速装置の構成および数に応じて選択されてもよい。
また、高エネルギーイオン注入装置100において、各装置のフレームと真空チャンバとを一体化し、装置フレームまたは真空チャンバの基準位置に合わせて組付けを行うことにより、ビームの芯出し(位置調整)が可能となるように構成してもよい。これにより、煩雑な芯出し作業が最小限となり、装置立ち上げ時間が短縮でき、作業間違いによる軸ずれの発生が抑制できる。また、連続する真空チャンバ同士の芯出しを、モジュール単位で実施してもよい。これにより、作業負荷を低減できる。また、モジュール化された装置の大きさを、装置の移動がし易い大きさ以下にしてもよい。これにより、モジュールや高エネルギーイオン注入装置100の移設負荷を低減できる。
また、高エネルギーイオン注入装置100は、高エネルギー多段直線加速ユニット14、ビーム輸送ラインユニット18、排気装置等を含む構成機器を一体の架台に組み込んでもよい。また、高エネルギーイオン注入装置100は、高エネルギー多段直線加速ユニット14やビーム偏向ユニット16、ビーム輸送ラインユニット18を平面基盤上にほぼ一水平面に含まれるようにしている。これにより、高エネルギーイオン注入装置100を一水平面の平面基盤上に固定された状態で調整しブロック毎にそのまま運搬することもできるので、輸送中に調整ずれを生ずることが少なく、現地で再調整する手間が大いに省ける。そのため、現場に多数の熟練者を送り込んで長期間滞在させる不経済を避けることができる。
また、上記の平面基盤を架台の床でなく中間に形成すると、平面基盤上に、イオンビーム軌道に直接的に関係する上述の機器のみを搭載するようにできる。そして、これらに対する補助的な機器である高周波立体回路等の部材を、全て平面基盤の下に形成される空間中に組み込むことで、空間利用率を向上させ、よりコンパクトなイオン注入装置を実現することも可能になる。
したがって、上述の高エネルギーイオン注入装置100は、設置場所に余裕がない場所でも設置でき、製作工場内で組み付け調整したままの状態で需要箇所に輸送して、現地に据え付け、最終調整により使用ができる。また、高エネルギーイオン注入装置100は、半導体製造工場の半導体製造装置ラインの標準的な水準における利用に耐えられる以上の高エネルギーのイオン注入を実現できる。
このように、高エネルギーイオン注入装置100は、各ユニットや各装置のレイアウトを工夫することで、従来と比較して大いに小型化され、従来の半分程度の設置長さに納めることができる。また、本実施の形態に係るイオン注入装置は、製造工場内で各構成要素を基盤上に組み込み、基盤上で位置調整してイオンビーム軌道を確立したまま輸送車に搭載して現地に輸送し、架台ごと据え付けた上で輸送中に生じた狂いを微調整して除去することにより稼働させることができる。そのため、熟練者でなくとも現場調整が格段に容易かつ確実に実施でき、また立ち上げ期間を短縮できる。
また、長いU字状の折り返し型ビームラインのようなレイアウトを取ることによって、最高5〜8MeVの高エネルギーイオンを高精度で注入できるイオン注入装置を実現することができる。また、このイオン注入装置は、中央通路(中央領域)を持つこのレイアウトによって、小さな設置面積で十分なメンテナンスエリアを持つ。また、イオン注入装置の運転時においては、電場パラレルレンズや電場式スキャナー、電場AEF等の使用による低消費電力運転によって、消費電力を少なくできる。換言すると、本実施の形態に係るイオン注入装置は、電場偏向式の平行化レンズ装置の使用によるスキャンビームの平行化機構を有することで、低消費電力運転が可能となる。
以上、本発明を上述の実施の形態を参照して説明したが、本発明は上述の実施の形態に限定されるものではなく、実施の形態の構成を適宜組み合わせたものや置換したものについても本発明に含まれるものである。また、当業者の知識に基づいて各実施の形態における組合せや処理の順番を適宜組み替えることや各種の設計変更等の変形を各実施の形態に対して加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれうる。
以下、本願発明の異なる態様を実施の形態に沿って列挙する。
図1に示すように、本実施の形態に係る高エネルギーイオン注入装置100は、イオン源10から引き出したイオンビームを加速し、ビームラインに沿ってウェハまで輸送し、該ウェハに注入する高エネルギーイオン注入装置である。高エネルギーイオン注入装置100は、イオン源10と質量分析装置22を有するイオンビーム生成ユニット12と、イオンビームを加速して高エネルギーイオンビームを生成する高エネルギー多段直線加速ユニット14と、高エネルギーイオンビームを偏向しエネルギーを分析するとともにウェハに向けて方向転換する高エネルギービームの偏向ユニット16と、偏向された高エネルギーイオンビームをウェハまで輸送するビーム輸送ラインユニット18と、輸送された高エネルギーイオンビームを均一に半導体ウェハに注入する基板処理供給ユニット20と、を備える。ビーム輸送ラインユニット18は、ビーム整形器32と、高エネルギー用のビーム走査器34と、高エネルギー用のビーム平行化器36と、高エネルギー用の最終エネルギーフィルター38とを有する。
高エネルギーイオン注入装置100は、ビーム偏向ユニット16を出た高エネルギーイオンビームを、ビーム走査器34によりビームラインの基準軌道の両側にスキャンするとともに、ビーム平行化器36により平行化し、高エネルギー用の最終エネルギーフィルター38により、質量、イオン価数およびエネルギーの少なくともいずれかが異なる混入イオンを取り除いてウェハに注入するように構成されている。また、高エネルギー用のビーム平行化器36は、電場によって高エネルギービームの加速と減速を繰り返しながらスキャンビームを平行化していく電場式ビーム平行化器である
また、図6(a)、図6(b)に示すように、ビーム平行化器36は、ビームラインL1に対応するビーム入口開口部135aが形成され、ビーム進行方向にイオンを加速させる電界を発生させるように間隔G1を有して対向する少なくとも一対の加速用電極135(135b,135c)と、ビームラインL1に対応するビーム出口開口部136aが形成され、ビーム進行方向にイオンを減速させる電界を発生させるように間隔G2を有して対向する少なくとも一対の減速用電極136(136b,136c)と、を有する。
一対の加速用電極135は、イオンビームを加速させるとともに基準軌道側に近づく方向に偏向させる。また、一対の減速用電極136は、イオンビームを減速させるとともに基準軌道側に近づく方向に偏向させる。
一対の加速用電極135と一対の減速用電極136は、高エネルギーイオンビームを加速または減速させる成分と偏向する成分とを併せ持つ電界を発生させるように間隔(ギャップ)を有して対向する2つの電極からなる。そして、加速ギャップ出口側の電極135cと減速ギャップ入り口側の電極136b、及び、減速ギャップ出口側の電極136cと加速ギャップ入り口側の電極135bとをそれぞれ同電位としている。また、これらの電極は一体で形成されている。
この態様によると、スキャンされた高エネルギーのイオンビームを左右対称に平行化することができ、精度良くイオン注入することができる。
また、図6に示すビーム平行化器36においては、一対の加速用電極135のうちビームライン上流側の電極135bの電位を接地電位とし、一対の加速用電極135のうちビームライン下流側の電極135cおよび一対の減速用電極136のうちビームライン上流側の電極136bを導通(一体化)させ、平行化電源90により互いの電位を−50kVとし、一対の減速用電極136のうちビームライン下流側の電極136cの電位を接地電位としている。
このような構成のビーム平行化器36により発生する電場によって平行化を行う場合、各電極の間では加速または減速が生じており、イオンのエネルギーも変化することになるが、ビーム平行化器36の入り口と出口の電位は同一であるので、全体としてのエネルギー変化は生じない。つまり、ビーム平行化器36は、ビーム走査器34によりスキャンされたイオンビームのエネルギーと加速用電極135および減速用電極136により平行化されたイオンビームのエネルギーとが同じとなるように構成されている。
図16は、本実施の形態のある態様のビーム平行化器の概略構成を示す上面図である。なお、図6に示すビーム平行化器36と同じ構成については、同じ符号を付して説明を適宜省略する。
図16に示されるビーム平行化器137は、一対の加速用電極138のうちビームライン上流側の電極138aの電位を接地電位とし、一対の加速用電極138のうちビームライン下流側の電極138bの第1電位をV1[V](V1>0)とし、一対の減速用電極139のうちビームライン上流側の電極139aの第2電位を−V2[V](V2>0)とし、一対の減速用電極139のうちビームライン下流側の電極139bの電位を接地電位とする。電極138aには、正の電圧を付与する平行化電源140が接続されており、電極139aには、負の電圧を付与する平行化電源141が接続されている。
なお、平行化電源140に負の電圧を、平行化電源141に正の電圧を付与してもよい。また、第1電位および第2電位は、|V1|=|V2|を満たすように構成してもよい。これにより、イオンビームをバランスよく加減速しながら平行化できる。また、平行化電源140および平行化電源141として同じ構成の電源を用いることができる。
図17(a)は、本実施の形態のある態様のビーム平行化器の略構成を示す上面図、図17(b)は、本実施の形態のある態様のビーム平行化器の概略構成を示す側面図である。なお、図6に示すビーム平行化器36と同じ構成については、同じ符号を付して説明を適宜省略する。
図17(a)、図17(b)に示されるビーム平行化器142は、複数対の加速用電極143,144と、複数対の減速用電極145,146と、を有する加速減速電極レンズ群から構成されており、スキャンされたイオンビームを段階的に平行化するように構成されている。これにより、一つの加速用電極または一つの減速用電極に印加される電圧を小さくできるため、電源の簡素化、小型化が可能となり、また、放電の発生も抑制できる。
また、加速用電極143の下流側の電極143bと減速用電極145の上流側の電極145aは同電位となるように導通されており、第1の平行化電源147が接続されている。また、減速用電極145の下流側の電極145bと加速用電極144の上流側の電極144aは同電位となるように導通されており、第2の平行化電源148が接続されている。また、加速用電極144の下流側の電極144bと減速用電極146の上流側の電極146aは同電位となるように導通されており、第1の平行化電源147が接続されている。なお、加速用電極143の上流側の電極143aと減速用電極146の下流側の電極146bは、それぞれ接地電位となっている。このように一部の電極に印加される電圧を同じにすることで、用いられる電源を少なくできる。
なお、複数対の加速用電極143,144および複数対の減速用電極145,146のうち、ビームラインの最上流側に配置されている入口接地電極である電極143aと電極143aに隣接する電極143bとにより電子の流入を抑制する第1サプレッション電極を構成し、ビームラインの最下流側に配置されている出口接地電極である電極146bと電極146bに隣接する電極146aとにより電子の流入を抑制する第2サプレッション電極を構成してもよい。これにより、サプレッション電極を別に設ける必要がなくなる。
また、第1の平行化電源147により加速用電極143の下流側の電極143bに印加する電圧を−V1[V](V1>0)、第2の平行化電源148により減速用電極145の下流側の電極145bに印加する電圧をV2[V](V2>0)、加速用電極143の2つの電極143a,143bの間隔をG1、減速用電極145の2つの電極145a,145bの間隔をG2とすると、以下の関係を満たすとよい。
|V1|/G1=|V1+V2|/G2
このように、加速用電極と減速用電極における各電極間での電界強度が一様になるようにすることで、イオンビームをバランスよく加減速しながら平行化できる。
また、ビーム平行化器142は、ビーム平行化器への入射直前のイオンビームのエネルギーとビーム平行化器から出射直後のイオンビームのエネルギーとが同じとなるよう構成されている。より詳述すると、ビーム平行化器142は、ビーム走査器によりスキャンされたイオンビームのエネルギーと加速用電極対(143,144)および減速用電極対(145,146)により平行化されたイオンビームのエネルギーとが同じとなるように、ビーム平行化器142の入射電極(143a)および出射電極(146b)が共に接地され、加速ギャップ出口側の電極(143b,144b)と減速ギャップ入り口側の電極(145a,146a)、及び、減速ギャップ出口側の電極145bと加速ギャップ入り口側の電極144aとが正または負の同電位に構成されている。
また、ビーム平行化器142は、ビームライン上においてビーム走査器により基準軌道の両側にスキャンされたイオンビームを、スキャン平面上において、電極対が作る電界により段階的に基準軌道側に近づく方向に偏向させることにより、基準軌道と平行な軌道に方向を一致させるように各電極電位が設定されている。
図18は、本実施の形態の変形例に係るビーム平行化器の略構成を示す上面図である。図18に示すビーム平行化器161は、加速用電極および減速用電極からなる3つの平行化レンズ162,163,164が設けられている。ビーム走査器により偏向走査されたイオンビームは、ビームラインL1の下流に向かって広がる。そこで、3つの平行化レンズ162,163,164は、ビームラインL1の上流側から下流側に向かって幅が徐々に大きくなるようにそれぞれが構成されている。これにより、上流側の平行化レンズを小型化することができる。
なお、ビーム平行化器161は、平行化された後のイオンビームのスキャン方向の幅W1が、ビーム走査器によりスキャンされたイオンビームがビーム平行化器161に入射する際の幅W2の2倍以上になるように構成されていてもよい。これにより、ビーム走査器からビーム平行化器までの距離を小さくできる。
本実施の形態に係るビーム平行化器においては、図6、図16〜図18に示す加速用電極や減速用電極のように、対の弓形ギャップ電極で構成されている。また、加速用電極対のビームライン下流側の電極および減速用電極対のビームライン上流側の電極は、それぞれの両端で連結され、一体的に連続した電極ユニットとして構成されている。また、上述の各ビーム平行化器は、入射電極および出射電極が接地電位であるが、入射電極および出射電極の一方を接地電位、他方を特定電位とする、もしくは、それぞれ別々の特定電位とすることで、ビーム平行化器に入射したビームを平行化することにより出射したイオンビームのエネルギーを変化させることができる。
このように、本実施の形態に係る高エネルギーイオン注入装置は、高エネルギーイオンビームをビーム電流密度の均一性を保持しながら、低い電圧で動作できるとともに、ビーム平行化器の通過前後のビームエネルギーを変化させない電場を得ることができる。
また、本実施の形態に係る高エネルギーイオン注入装置は、高エネルギーのイオンビームを長い区間の電場を通過させることでビーム平行化するよう構成したものである。そして、さらにイオンビームの加減速が可能な複数の電極レンズ群でビーム平行化するよう構成するとともに、加減速の電極レンズ群を弓形ギャップ電極対レンズで構成し、通過前後でビームエネルギーを変化させないように構成した。
これにより、平行化電源の制御および平行化電場自体の調整が容易であり、平行度の精度と平行化されたビームの進行方向の角度精度を良くすることができる。しかも、左右(スキャン)方向のビーム行路差が対称で、左右均一とすることができるため、高エネルギーイオンビームにおいて、ビームの収束発散の一様性を保つことができる。その結果、平行度の精度と平行化されたビームの進行方向の角度精度を高くすることができる。さらに、ビームスキャンの範囲における高エネルギーイオンビームの密度分布(プロファイル)とビームサイズの変化をほとんどなくすることができ、ビーム電流密度の均一性を保持することができる。
また、ビームスキャン偏向角度を小さくし、ビームスキャン幅をできるだけ小さくするよう構成したビーム走査器の下流にある本実施の形態に係るビーム平行化器は、ビームスキャン幅が狭い入射ビームについても、ウェハをスキャンできる幅まで緩やかに高精度で平行化できる。その結果、ビームの質の変化を小さくして、ビーム電流密度の均一性を保持することができる。
なお、加速減速電極レンズ群が、n個の加速用電極対およびn個の減速用電極対で構成されており、ビームラインに沿って第1の加速用電極対、第1の減速用電極対、第2の加速用電極対、第2の減速用電極対、・・・、前記第n(nは1以上の奇数)の加速用電極対、前記第nの減速用電極対、が順に配置されていた場合、以下のように電位設定するとよい。具体的には、加速減速電極レンズ群において、第1の加速用電極対の入り口側電極の第1電位を接地電位とし、第1の加速用電極対の出口側電極および第1の減速用電極対の入り口側電極の第2電位を−V1[V](V1>0)とし、第1の減速用電極対の出口側電極および前記第2の加速用電極対の入り口側電極の第3電位をV2[V](V2>0)とし、第2の加速用電極対の出口側電極および第2の減速用電極対の入り口側電極の第4電位を−V1[V](V1>0)とし、第2の減速用電極対の出口側電極および第3の加速用電極対の入り口側電極の第5電位をV2[V](V2>0)とし、第nの加速用電極対の出口側電極の第(2n+1)電位を接地電位とする。ここで、第2電位と前記第3電位とは、V1=V2を満たすように設定してもよいし、V1≠V2を満たすように設定してもよい。
電場式のビーム走査器34は、図6(a)及び図6(b)に示すように、イオンビームを通常のスキャン範囲の更に外側に偏向させて、電場式のビーム平行化器36の手前部に配設された左右いずれか一方のビームダンプ部95a,95bに導くことで、ビームを一時的にダンプできるように構成されていてもよい。
図19ないし図21は、本発明のある実施形態に係るビーム平行化器300の構成を概略的に示す図である。ビーム平行化器300は、図18に示すビーム平行化器161と同様に3つの平行化レンズを備える。ビーム平行化器300は、図18に示す平行化レンズ162,163,164に対応して、第1平行化レンズ302、第2平行化レンズ304、及び第3平行化レンズ306を備える。これら3つの平行化レンズ302、304、306は、ビームラインの上流側から下流側に向かって幅が徐々に大きくなるようにそれぞれが構成されている。また、ビーム平行化器300は、平行化レンズ302、304、306を囲む真空容器308を備える。
図19は、図20−1のB−B矢視断面図であり、イオンビームのスキャン平面による断面を示す。図19においては、図18と同様に、ビーム走査器(例えば、図1に示すビーム走査器34)により走査されたイオンビームが図中左側からビーム平行化器300に入射する。ビーム平行化器300により平行化されたイオンビームは図中右側から出射され、後段のビームライン構成要素(例えば、図1に示す最終エネルギーフィルター38)に入射する。また、図20−1は、図19のA−A矢視図である。ただし、図20−1には、真空容器308の一方の壁を真空容器308から取り外した状態のビーム平行化器300を示す。図20−2は図19の紙面に垂直な平面による加速または減速レンズ部の構成を示す部分断面図であり、図20−3は図20−2の加速または減速レンズ部に設けられた第1蓋部396および第2蓋部397の部分断面図である。図21は、ビーム平行化器300の主要部の斜視図を示す。ただし、図を見やすくするために、図21においては真空容器308及び上部ベースプレート368を省略する。
図19、図20−1において、平行化レンズ302、304、306の各々は、加速レンズ部310及び減速レンズ部312を備える。加速レンズ部310と減速レンズ部312とが交互に配列されている。各平行化レンズ302、304、306においては、加速レンズ部310が上流側に、減速レンズ部312が下流側に配置されている。
このように、ビーム平行化器300は6つの加速または減速レンズ部から構成される3つの平行化レンズを備える。これらの複数の加速または減速レンズ部は、イオン注入装置における基準軌道に沿って入射したイオンビームに関して、基準軌道に対し平行化されたビームをビーム平行化器300の出口に生成するように、基準軌道に沿って配列されている。ここで、基準軌道は例えば、図6(a)、図6(b)、図17、図18等に図示するビームラインL1に相当する。基準軌道またはビームラインL1は、ビームスキャンを作動させていないときのイオンビームの中心軌道を表す。
それぞれの加速レンズ部310は、弓形状湾曲ギャップとして弓形状に湾曲した加速ギャップ314を備える。加速レンズ部310は、加速ギャップ314に印加される電場によりイオンビームを加速するとともに基準軌道またはビームラインL1側に近づけるように偏向するよう構成されている。それぞれの減速レンズ部312は、弓形状湾曲ギャップとして弓形状に湾曲した減速ギャップ316を備える。減速レンズ部312は、減速ギャップ316に印加される電場によりイオンビームを減速するとともに基準軌道またはビームラインL1側に近づけるように偏向するよう構成されている。
詳しくは後述するように、ある加速または減速レンズ部とこれに隣接する減速または加速レンズ部との間に空間部322、324または開口部が設けられている。空間部322、324は、基準軌道またはビームラインL1上のビーム平行化平面と垂直に交差する方向に向けられている。言い換えれば、空間部322、324は、ビームラインL1に垂直な平面によるイオンビーム断面における短手方向に向けられている。ここで、短手方向は、ビーム断面における長手方向(すなわちビーム走査方向)に垂直な方向をいう。空間部322、324を通じて、ビームラインL1または基準軌道を含む内側領域(またはビームラインL1の近傍領域)が加速または減速レンズ部310、312の外側領域320へと連通されている。弓形状湾曲ギャップについても同様に、ビームラインL1または基準軌道を含む内側領域(またはビームラインL1の近傍領域)が弓形状湾曲ギャップを通じて加速または減速レンズ部310、312の外側領域320へと連通されている。
ここで、ビームラインL1または基準軌道の内側領域とは、平行化レンズ302、304、306の配列に沿ってビーム平行化器300の入口から出口へと延びるビーム輸送空間318をいう。本実施形態においては後述のように各加速または減速レンズ部は上部構造と下部構造とに分割されており、ビーム輸送空間318は上部構造と下部構造との間に形成されている。また、加速または減速レンズ部310、312の外側領域320とは、真空容器308と加速または減速レンズ部310、312との間の空間をいう。
以下では、各加速レンズ部310の下流側に設けられている空間部を各第1空間部322と称し、各減速レンズ部312の下流側に設けられている空間部を各第2空間部324と称する。すなわち、第1空間部322の上流側には加速レンズ部310があり、第1空間部322の下流側には減速レンズ部312があり、第1空間部322は、加速レンズ部310と減速レンズ部312とに挟まれている。また、第2空間部324の上流側には減速レンズ部312があり、第2空間部324の下流側には加速レンズ部310があり、第2空間部324は、減速レンズ部312と加速レンズ部310とに挟まれている。
なお、本実施形態においては各第1空間部322及び各第2空間部324はそれぞれ1つの空間であるが、ある実施形態においては、第1空間部322及び/または第2空間部324は、複数の空間に区分されていてもよい。
真空容器308は、入射部326、出射部328、容器上壁330、容器下壁332、第1容器側壁334、及び第2容器側壁336を備える。真空容器308は、概ね直方体形状を有しており、その直方体形状の各面が入射部326、出射部328、容器上壁330、容器下壁332、第1容器側壁334、及び第2容器側壁336のそれぞれに相当する。
入射部326は、入射開口327を有する真空容器308の壁である。イオンビームは入射開口327を通じてビーム平行化器300に入射する。出射部328は、出射開口329を有する真空容器308の壁である。イオンビームは出射開口329を通じてビーム平行化器300から出射する。出射部328は、入射部326に対向する。
容器上壁330は基準軌道またはビームラインL1上のビーム平行化平面と垂直に交差する方向における一方側に設けられ、容器下壁332は基準軌道またはビームラインL1上のビーム平行化平面と垂直に交差する方向における他方側に設けられており、容器上壁330と容器下壁332とは対向する。上方の外側領域320が、容器上壁330とレンズ部310、312との間に形成され、下方の外側領域320が、容器下壁332とレンズ部310、312との間に形成されている。
また、第1容器側壁334は基準軌道またはビームラインL1と垂直に交差する平面とビーム平行化平面が交差する直線の方向における一方側に設けられ、第2容器側壁336は基準軌道またはビームラインL1と垂直に交差する平面とビーム平行化平面が交差する直線の方向における他方側に設けられており、第1容器側壁334と第2容器側壁336とは対向する。第1容器側壁334及び第2容器側壁336によって容器上壁330と容器下壁332とが固定されている。第1容器側壁334は、真空容器308の開閉可能な壁部として設けられている。図20−1には、真空容器308から第1容器側壁334が取り外された状態を示す。第2容器側壁336には、詳しくは後述するが、レンズ部310、312に給電するよう構成されている給電部338(図19参照)が設けられている。
図19に示されるように、真空容器308には、ビーム輸送空間318及びレンズ部310、312の外側領域320を含む真空容器308の内部空間の真空排気をするための真空排気部309が設けられている。真空排気部309は、例えば、クライオポンプまたはターボ分子ポンプなどの高真空ポンプを備える。真空排気部309は、例えば容器下壁332に形成されている真空容器308の排気口に取り付けられていてもよい。
加速レンズ部310の各々は、一対の加速電極部材340、342を備える。一対の加速電極部材340、342は、入口加速電極部材340と出口加速電極部材342とから構成されている。入口加速電極部材340及び出口加速電極部材342の各々は、加速ギャップ314を定める湾曲面344を備える。入口加速電極部材340の湾曲面344は当該電極の出口側の表面であり、出口加速電極部材342の湾曲面344は当該電極の入口側の表面であり、これら二表面は対向する。湾曲面344は、電極中央部から両側にビーム輸送空間318の外縁へとビーム輸送空間318を横断するように延びている。ここで、電極中央部は、ビームラインL1に最も近い電極部材の部位を指す。湾曲面344は上述のように、双曲線状または円弧状に形成されている。なお、入口側とはビームラインL1の上流側をいい、出口側とはビームラインL1の下流側をいう。
また、入口加速電極部材340及び出口加速電極部材342の各々は、湾曲面344と反対側に背面346を備える。入口加速電極部材340の背面346は当該電極の入口側の表面であり、出口加速電極部材342の背面346は当該電極の出口側の表面である。背面346は、電極中央部から両側にビーム輸送空間318の外縁へとビーム輸送空間318を横断するように延びている。背面346は、湾曲面344に沿って湾曲している。なお、ある実施形態においては、背面346は、直線的に延びていてもよい。
また、減速レンズ部312の各々は、一対の減速電極部材348、350を備える。一対の減速電極部材348、350は、入口減速電極部材348と出口減速電極部材350とから構成されている。入口減速電極部材348及び出口減速電極部材350の各々は、減速ギャップ316を定める湾曲面344を備える。入口減速電極部材348の湾曲面344は当該電極の出口側の表面であり、出口減速電極部材350の湾曲面344は当該電極の入口側の表面であり、これら二表面は対向する。また、入口減速電極部材348及び出口減速電極部材350の各々は、湾曲面344と反対側に背面346を備える。入口減速電極部材348の背面346は当該電極の入口側の表面であり、出口減速電極部材350の背面346は当該電極の出口側の表面である。
なお、図19においては図面の煩雑を避けるために、入口加速電極部材340、出口加速電極部材342、湾曲面344、背面346、入口減速電極部材348、及び出口減速電極部材350を中央の第2平行化レンズ304に関して指し示す。しかし、図から理解されるように、第1平行化レンズ302及び第3平行化レンズ306はそれぞれ、第2平行化レンズ304と同様に、一対の加速電極部材340、342及び一対の減速電極部材348、350を備え、これら電極部材の各々は湾曲面344及び背面346を備える。
一般に、加速レンズ部310の弓形状の湾曲面344と減速レンズ部312の弓形状の湾曲面344とは、弓形状湾曲ギャップを構成することにより加速ギャップまたは減速ギャップを形成するため、それぞれ、平行化されたビームを最終的にビーム平行化器300の出射開口329に生成するように異なる湾曲形状に設計されている。加速レンズ部310の湾曲面344aと湾曲面344b、または、減速レンズ部312の湾曲面344cと湾曲面344dは、加速ギャップ、または、減速ギャップを形成するものであり、それぞれの電極の弓形状湾曲形状は、加速ギャップまたは減速ギャップの設計に応じて各々独立して形状が決定されるものである。加速レンズ部310の湾曲面344a、bと減速レンズ部312の湾曲面344c、dとが略同一の湾曲形状になる場合や、加速レンズ部310の湾曲面344a、bと減速レンズ部312の湾曲面344c、dとが異なる湾曲形状になる場合も有り、あるいは、類似の湾曲形状になる場合も有る。
空間部322、324は、隣接する2つのレンズ部のうち一方のレンズ部の出口側の電極部材の背面346dまたは346bと他方のレンズ部の入口側の電極部材の背面346aまたは346cとの間に形成されている。よって、第1空間部322は、出口加速電極部材342の背面346bと、その下流側に隣接する入口減速電極部材348の背面346cとに囲まれる領域である。第2空間部324は、出口減速電極部材350の背面346dと、その下流に隣接する入口加速電極部材340の背面346aとに囲まれる領域である。
図20−1に示されるように、一対の加速電極部材340、342の各々は、ビームラインL1を挟んで上下に離間配置される一組の加速電極片352、354、356、358を備える。入口加速電極部材340は、上部入口加速電極片352と下部入口加速電極片354とに分割されている。上部入口加速電極片352と下部入口加速電極片354とはビームラインL1を挟んで対向する。出口加速電極部材342は、上部出口加速電極片356と下部出口加速電極片358とに分割されている。上部出口加速電極片356と下部出口加速電極片358とはビームラインL1を挟んで対向する。詳しくは後述するが、上部入口加速電極片352及び上部出口加速電極片356は容器上壁330に支持され、下部入口加速電極片354及び下部出口加速電極片358は容器下壁332に支持されている。
また、一対の減速電極部材348、350の各々は、ビームラインL1を挟んで上下に離間配置される一組の減速電極片360、362、364、366を備える。入口減速電極部材348は、上部入口減速電極片360と下部入口減速電極片362とに分割されている。上部入口減速電極片360と下部入口減速電極片362とはビームラインL1を挟んで対向する。出口減速電極部材350は、上部出口減速電極片364と下部出口減速電極片366とに分割されている。上部出口減速電極片364と下部出口減速電極片366とはビームラインL1を挟んで対向する。詳しくは後述するが、上部入口減速電極片360及び上部出口減速電極片364は容器上壁330に支持され、下部入口減速電極片362及び下部出口減速電極片366は容器下壁332に支持されている。
このようにして、加速レンズ部310は、4つの加速電極片352、354、356、358から構成されている。加速レンズ部310を構成する一組の加速電極片352、354、356、358の各々は、双曲線状または円弧状の湾曲棒状体359(図21参照)に形成されている。同様に、減速レンズ部312は、4つの減速電極片360、362、364、366から構成されている。減速レンズ部312を構成する一組の減速電極片360、362、364、366の各々は、双曲線状または円弧状の湾曲棒状体359に形成されている。湾曲棒状体の断面は例えば矩形であるが、それに限られない。電極片の断面形状は上下の電極片が上下方向に対称であればよく、前後方向には異なっていてもよい。例えば、各電極片の湾曲面及び背面のいずれかがビーム輸送方向に凹んでいてもよい。このようにして、上下の電極片それぞれの内側を切り欠く構成であってもよい。なお各電極片は厚板状体あるいは板状体に形成されていてもよい。
また、各々の入口加速電極部材340および出口減速電極部材350(ただし入射開口327または出射開口329近傍の入口加速電極部材340および出口減速電極部材350を除く)の両端部には、延長電極部340eまたは延長電極部350e(棒状体、板状体、もしくは網状体にて構成する)を備えるよう構成し、加速もしくは減速の同電位の電界領域を保持するよう構成している。
上部出口加速電極片356はその両端にて、上部出口加速電極片356に隣接する上部入口減速電極片360の両端に固定されている。これら2つの電極片356、360は直接的に互いに固定されていてもよいし、2つの電極片356、360間に連結部材を介在させて両者が間接的に固定されていてもよい。あるいは、こうした2つの電極片356、360の一体構造は、1つの母材から削り出すことによって一体に形成されていてもよい。同様に、下部出口加速電極片358はその両端にて、下部出口加速電極片358に隣接する下部入口減速電極片362の両端に固定されている。
一方、上部出口減速電極片364は、これに隣接する上部入口加速電極片352に固定されていない。上部出口減速電極片364と隣接する上部入口加速電極片352との間には、隙間367(図21参照)がある。電極片364、352はそれぞれが母材から削り出すことによって形成されていてもよい。しかし、これら2つの電極片364、352が互いに固定されていてもよい。下部出口減速電極片366及び下部入口加速電極片354についても同様である。
なお、図20−1においては図面の煩雑を避けるために、加速電極片352、354、356、358及び減速電極片360、362、364、366を第2平行化レンズ304に関して指し示す。しかし、図から理解されるように、第1平行化レンズ302及び第3平行化レンズ306についても第2平行化レンズ304と同様に、ビームラインL1に対し上部と下部とに分割されている。
図20−1に示されるように、第1平行化レンズ302は、上述の電極部材(または電極片、以下同様)を支持するために、一組のベースプレート368、370、具体的には上部ベースプレート368及び下部ベースプレート370を備える。上部ベースプレート368は、各平行化レンズ302、304、306と容器上壁330との間に、すなわちレンズ上方の外側領域320に設けられている。上部ベースプレート368は、第1平行化レンズ302(すなわち、加速レンズ部310と減速レンズ部312の組み合わせ)の上半分を支持する。下部ベースプレート370は、各平行化レンズ302、304、306と容器下壁332との間に、すなわちレンズ下方の外側領域320に設けられている。下部ベースプレート370は、第1平行化レンズ302の下半分を支持する。同様に、第2平行化レンズ304及び第3平行化レンズ306もそれぞれ、上部ベースプレート368及び下部ベースプレート370を備える。
ベースプレート368、370の各々は、空間部322、324を通じたビーム輸送空間318の真空排気を許容するよう構成されている。そのために、ベースプレート368、370の各々は、ベースプレート開口372(図19参照)を有する。ベースプレート開口372は、ベースプレート368、370に形成された貫通穴または開放領域であり、ベースプレート開口372は、空間部322、324の上方または下方に設けられている。ベースプレート開口372を通じて空間部322、324が外側領域320に接続される。
上述の電極部材は、対応するベースプレート368、370に導電取付部材374または絶縁取付部材376を介して取り付けられている。導電取付部材374は例えば筒状の導体小片であり、例えば金属製の円柱状の部材である。絶縁取付部材376は例えば、碍子の小片である。導電取付部材374及び絶縁取付部材376は、ビーム輸送方向における電極部材の厚さと同程度の幅を有する。このように導電取付部材374は小型であるので、1つの電極部材はいくつかの導電取付部材374を介してベースプレート368、370に取り付けられている。
ビーム平行化器300における最上流及び最下流の電極部材が導電取付部材374を介してベースプレート368、370に取り付けられている。よって、これらの電極部材には、ビーム平行化器300の動作時に、ベースプレート368、370と同一の電位(典型的には接地電位)が印加される。
具体的には、第1平行化レンズ302の上部入口加速電極片352は導電取付部材374を介して上部ベースプレート368に取り付けられ、第1平行化レンズ302の下部入口加速電極片354は導電取付部材374を介して下部ベースプレート370に取り付けられている。また、第3平行化レンズ306の上部出口減速電極片364は導電取付部材374を介して上部ベースプレート368に取り付けられ、第3平行化レンズ306の下部出口減速電極片366は導電取付部材374を介して下部ベースプレート370に取り付けられている。
最上流の電極部材と最下流の電極部材との中間に配置されている電極部材は絶縁取付部材376を介してベースプレート368、370に取り付けられている。よって、これらの電極部材には、ビーム平行化器300の動作時に、ベースプレート368、370と異なる電位が給電部338により印加されうる。上述のように絶縁取付部材376は小型であるので、1つの電極部材はいくつかの絶縁取付部材376を介してベースプレート368、370に取り付けられている。
なお、図19及び図20−1においては図面の煩雑を避けるために、導電取付部材374及び絶縁取付部材376を主として第3平行化レンズ306に関して指し示す。しかし、図から理解されるように、第1平行化レンズ302及び第2平行化レンズ304についても第3平行化レンズ306と同様に、電極部材は導電取付部材374または絶縁取付部材376を介してベースプレート368、370に取り付けられている。
ベースプレート368、370は、真空容器308に対し移動可能に構成されている。そのために、各ベースプレート368、370と真空容器308との間に当該ベースプレート368、370を案内する案内部378が設けられている。案内部378は、真空容器308の開閉可能な壁部(例えば第1容器側壁334)を通じてベースプレート368、370を真空容器308の外に引き出し可能に構成されている。
図22には、下部ベースプレート370をその上に搭載されている電極片とともに真空容器308の外に引き出した状態を示す。ベースプレート368、370にはハンドル380が設けられている。このハンドル380を人が持って引っ張ることにより、各平行化レンズ302、304、306の上部(または下部)を真空容器308の外に引き出すことができる。平行化レンズ302、304、306を真空容器308の外に簡単に取り出すことができるので、装置の組立やメンテナンスの作業をしやすい。また、ハンドル380を押し込むことにより、各平行化レンズ302、304、306の上部(または下部)を真空容器308内の定位置へと収納することができる。収納された状態が図19ないし図21に示されている。平行化レンズ302、304、306がこの定位置にあるときビーム平行化器300は動作する(すなわち、イオン注入が行われる)。
図23は、案内部378の一部を拡大した図である。図23に例示するのは、第3平行化レンズ306の上方の出口側の案内部378である。よって、この案内部378は、出射部328の近傍において容器上壁330と上部ベースプレート368との間に設けられている。
案内部378は、ガイドレール382及び複数の車輪384を備える。ガイドレール382は容器上壁330に固定されており、第1容器側壁334から第2容器側壁336へと真空容器308内を横断する方向385に沿って延在する。車輪384は、上部ベースプレート368に固定されている車輪取付リブ386に取り付けられている。車輪取付リブ386はガイドレール382に沿って延在しており、ガイドレール382には車輪取付リブ386に沿って車輪受け部387が形成されている。車輪384はガイドレール382の車輪受け部387に沿って移動可能であり、それにより、上部ベースプレート368は容器上壁330に対して上記の横断方向385に移動可能である。
また、ガイドレール382には締結ネジ穴383が設けられている。締結ネジ穴383はガイドレール382におけるハンドル380との対向面に形成されており、ハンドル380の端部にも締結ネジ穴383に対応する穴が形成されている。各平行化レンズ302、304、306の上部(または下部)を真空容器308内の定位置へと収納するとき、ハンドル380がガイドレール382に当接する。締結ネジ穴383とこれに対応するネジを用いてガイドレール382にハンドル380を固定することにより、各平行化レンズ302、304、306の上部(または下部)を真空容器308内の定位置に確実に保持することができる。
容器下壁332と下部ベースプレート370との間に設けられている案内部378についても、上述の案内部378と同様に構成されている。したがって、上記の案内部378についての説明においては、容器上壁330及び上部ベースプレート368をそれぞれ、容器下壁332及び下部ベースプレート370と読み替えてもよいものと理解されたい。
図19及び図20−1に例示するように、1つのベースプレート368、370に2つの案内部378が設けられている。各案内部378にガイドレール382、車輪384、及び車輪取付リブ386が設けられている。
なお、案内部による平行化レンズの移動方向は上述の方向385には限られない。ある実施の形態においては、平行化レンズが例えばビーム輸送方向に移動可能であるように案内部が構成されていてもよい。
ビーム平行化器300の動作時においては上述のように給電部338から、出口加速電極部材342及びそれに隣接する入口減速電極部材348に、共通する第1の高電圧が印加される。また、出口減速電極部材350及びそれに隣接する入口加速電極部材340には、共通する第2の高電圧が給電部338から印加される。ビーム平行化器300の最上流の入口加速電極部材340及び最下流の出口減速電極部材350には第1及び第2の高電圧の中間電圧が印加される。
例えば、第1の高電圧(例えば−50kV)と第2の高電圧(例えば+50kV)とが互いに反対で大きさの等しい電圧であり、中間電圧が接地電位であってもよい。このようにして、ビーム平行化器300は、入射開口327と出射開口329とでイオンビームのエネルギーが等しいように構成されていてもよい。
図19に示されるように、給電部338は真空容器308の一方側にまとめて設けられている。給電部338は、平行化レンズ302、304、306と真空容器308との間に配置されている給電プレート388を備える。給電部338は、真空容器308の外から給電プレート388に給電するための真空フィードスルー配線390を備える。給電プレート388は、第2容器側壁336に沿って延在する導体板であり、真空フィードスルー配線390は第2容器側壁336を通じて給電プレート388に給電する。給電プレート388は、絶縁部材391を介して第2容器側壁336に支持されている。給電プレート388は、第1の高電圧を電極部材に印加するための第1プレートと、第2の高電圧を電極部材に印加するための第2プレートと、を備える(図示せず)。
なお、給電プレート388は、平行化レンズ302、304、306と真空容器308の他の壁部との間に配置されていてもよい。この場合、真空フィードスルー配線390はその壁部を通じて給電プレート388に給電するよう構成されていてもよい。
給電プレート388には、給電プレート388から個々の電極部材に給電するための端子部392が設けられている。給電プレート388は複数の端子部392のための共通の電源であるとも言える。端子部392の各々は、対応する電極部材がイオン注入のための定位置にあるとき給電プレート388と当該電極部材との間で圧縮される弾性導体394を備える。弾性導体394は例えば金属製のバネである。弾性導体394により、平行化レンズ302、304、306を定位置へと押し込むだけで、給電プレート388との導通を簡単に確実にとることができる。
図24及び図25に示されるように、ビームラインL1から遠い側(すなわち、真空容器308に近い側)で空間部322、324を覆う蓋部が設けられている。よって、ビームラインL1の上側(下側)に配置される電極片については、その電極片の上側(下側)に蓋部が設けられる。蓋部は、例えば、2つの隣接するレンズ部のうち一方のレンズ部の電極部材と、これに対向する他方のレンズ部の電極部材とを、ビームラインL1から遠い側で空間部322、324を覆うように連結する。
図24には、第1空間部322を覆うように出口加速電極部材342とそれに隣接する入口減速電極部材348とを連結する第1蓋部396を示す。第1蓋部396は、例えばエキスパンドメタル、つまり金網状部材である。従って、第1蓋部396は、第1空間部322を通じた真空排気を許容するよう構成されている。
第1蓋部396を出口加速電極部材342及び入口減速電極部材348に取り付けるために、いくつかの取付プレート398が設けられている。取付プレート398は、電極部材342、348の湾曲形状に合わせて成形されている。第1蓋部396は、その外周部を取付プレート398と電極部材342、348との間に挟み込むようにして電極部材342、348に取り付けられる。
また、ビームラインL1から遠い側で空間部322、324を覆うようにして隣り合う2つの電極部材のうち一方の電極部材の背面346側に蓋部が設けられていてもよい。図25に示されるように、第2空間部324の半分を覆うように出口減速電極部材350の背面346側に第2蓋部397が設けられていてもよい。もう1つの第2蓋部397が、出口減速電極部材350に隣接する入口加速電極部材340の背面346側に設けられ、第2空間部324のもう半分がその第2蓋部397によって覆われていてもよい。第2蓋部397は、第1蓋部396と同様にして、取付プレート398と出口減速電極部材350との間に取り付けられる。
なお、上述の蓋部は、エキスパンドメタルのような網状部材に代えて、開口を有する板状部材であってもよい。あるいは、蓋部は、開口を有しない板状部材であってもよい。こうした蓋部を導体で形成し、電極部材と同電位となるよう取り付けることにより、レンズ周辺の電場均一性を確保するのに役立つ。
ある典型的なビーム平行化器の電極構成においては、ビーム輸送空間を囲む細長スリットが個々の電極に形成されている。しかし、こうした典型的な構成に比べて、図19ないし図25を参照して説明した実施形態によると、下記に列挙する利点の少なくとも1つを奏することができる。
1.構造が簡素であり、コストも低い。
2.材料の少量化、材料の軽量化。
3.真空コンダクタンスの改善による高真空度の確保。
4.高電圧絶縁構造・高電圧放電対策構造が簡素。
5.電極表面のイオンビーム被照射面積が小さいことによるコンタミ抑制及び汚れ防止。
6.レンズ電極と電極蓋体の組立及び分解の作業性の向上。
7.電極間の相対位置調整の容易化。
8.電極蓋体によるレンズ電極からの漏れ電場防止・電場歪み防止。
例えば、本実施形態によると、2つの隣接するレンズ部310、312の間に空間部322、324が設けられている。このように、複数のレンズ部をもつ平行化レンズ配列において、その中央部に空間部322、324が設けられている。空間部322、324を通じてビーム輸送空間318の真空排気をすることができるので、比較的長い平行化レンズ配列における真空コンダクタンスが改善される。よって、ビーム輸送空間318を所望の高真空度に維持することが容易となる。また、本実施形態によると、空間部322、324がビーム輸送空間318を横断するように広く開放されている。これにより、真空コンダクタンスを一層改善することができる。
また、本実施形態によると、空間部322、324は、基準軌道またはビームラインL1上のビーム平行化平面と垂直に交差する方向に向けられている。この場合、基準軌道またはビームラインL1と垂直に交差する平面とビーム平行化平面が交差する直線の方向において、空間体積を大きくとりやすい。これも、真空コンダクタンスの改善に役立つ。
本実施形態によると、空間部322、324を広くしたことに伴って、空間部322、324を囲む電極部材は細くなる。電極部材には本来のビーム軌道から外れたイオンが衝突しうる。イオンが付着すれば電極部材は汚れる。また、衝撃により電極材料がビーム輸送空間318に放出されれば、イオンビームが汚染されうる。ところが、本実施形態においては電極部材が細いので、イオンが衝突しうる面積が小さい。よって、電極表面及びイオンビームの汚染が軽減される。
また、本実施形態によると、各平行化レンズ302、304、306がビームラインL1の上側と下側とに分割され、相対位置を調整することができるように構成されている。上側の電極位置を下側の電極位置に対して独立に調整することができるので、ビームラインL1に対する上下方向の電極間隔を高精度に設定することが可能である。
本実施形態によると、各電極部材または各電極片が、弓形に湾曲した棒状体に形成され、各棒状体が、平行化レンズ機能を提供する湾曲面とその反対側の背面とを有する。2つの棒状体の湾曲面間に形成されるギャップによってレンズ部が構成され、背面間は開放されている。このようにして、最小限の材料で平行化レンズを作成することができるので、費用面で有利である。また、平行化レンズを軽量化することができるので、組立やメンテナンスなどの作業性の向上にも役立つ。
本実施形態によると、図20−3、図24、図25に示すように、電極部材の一部を構成する網状(もしくは多数の小穴の空いた薄板状)の蓋体396、397が空間部322、324(各電極片の真空容器側の端部面)に取り付けられている。このようにすれば、空間部322、324による真空コンダクタンスの改善を犠牲にすることなく、真空容器308の電位(例えば接地電位)が空間部322、324の電場に与える影響を極小に低減することができる。
以上、本発明を実施形態にもとづいて説明した。本発明は上記実施形態に限定されず、種々の設計変更が可能であり、様々な変形例が可能であること、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは、当業者に理解されるところである。
上述の実施形態においては、平行化レンズがビームラインの上側と下側とに分割されており、基準軌道またはビームラインL1に対して、互いに移動可能であるか、または相対位置を調整可能である。しかし、ある実施形態においては、平行化レンズの上部構造と下部構造とが互いに連結されていてもよい。この場合、上部構造と下部構造とが相対移動可能に構成されていてもよいし、あるいは上部構造と下部構造とが相対移動不能に固定されていてもよい。
上述の実施形態においては、ビーム平行化器300は高エネルギーイオン注入装置100に設けられているが、本発明はこれに限られない。ある実施形態においては、ビーム平行化器300は、高エネルギー多段直線加速ユニット14を有しないイオン注入装置に設けられていてもよい。
上述の実施形態においては、イオン注入装置はビーム走査器とビーム平行化器とを備える。しかし、ある他の実施形態においては、イオン注入装置は、ビーム走査器に代えて、リボンビーム発生器を備えてもよい。リボンビーム発生器は、イオンビームを扇形に発散させることにより扇形リボンビームを生成するよう構成されていてもよい。ビーム平行化器は、扇形リボンビームを平行化するよう構成されていてもよい。
以下、本発明の幾つかの態様を挙げる。
イオン注入装置のビーム平行化器であって、
基準軌道に対し平行化されたビームを前記ビーム平行化器の出口に生成するように、前記基準軌道に沿って配列されている複数の加速または減速レンズ部と、
前記複数のレンズ部を囲む真空容器と、を備え、
前記複数のレンズ部の各々は、少なくとも2つの電極から構成される弓形状湾曲ギャップを形成し、前記弓形状湾曲ギャップに印加される電場により前記基準軌道に対しビーム進行方向のなす角度を変えるよう構成されており、
前記複数のレンズ部のうち一のレンズ部の一方の電極と当該レンズ部に隣接するレンズ部の他方の電極を同電位に構成するとともに、
空間部が前記複数のレンズ部のうち一のレンズ部と当該レンズ部に隣接するレンズ部との間に設けられており、前記空間部は、前記基準軌道上のビーム平行化平面と垂直に交差する方向に向けられており、前記基準軌道を含む内側領域が、前記真空容器と前記複数のレンズ部の間となる外側領域へと前記空間部を通じて連通されていることを特徴とするビーム平行化器。
2.前記複数のレンズ部は、上部構造と下部構造とに分割されており、前記上部構造と前記下部構造との間に前記基準軌道を含む内側領域が形成されていることを特徴とする実施形態1に記載のビーム平行化器。
3.前記複数のレンズ部は、前記上部構造と前記下部構造との相対位置を前記基準軌道に対して調整可能であるよう構成されていることを特徴とする実施形態2に記載のビーム平行化器。
4.前記複数のレンズ部の各々は、前記弓形状湾曲ギャップを定める湾曲面を各々が備える一対の電極部材を備え、各電極部材は、前記基準軌道に近接する電極中央部から両側にビーム輸送空間の外縁へと延びる背面を前記湾曲面と反対側に備え、
前記空間部は、前記隣接するレンズ部に近い前記一のレンズ部の電極部材の背面と、前記一のレンズ部に近い前記隣接するレンズ部の電極部材の背面との間に形成されていることを特徴とする実施形態1から3のいずれかに記載のビーム平行化器。
5.前記真空容器は、前記基準軌道の一方側と他方側とにそれぞれ容器壁を備え、
前記一対の電極部材の各々は、前記基準軌道を挟んで離間配置される一組の電極片を備え、前記一組の電極片の一方は前記基準軌道の一方側の前記容器壁に支持され、前記一組の電極片の他方は前記基準軌道の他方側の前記容器壁に支持されていることを特徴とする実施形態4に記載のビーム平行化器。
6.各電極片は、弓形に湾曲した棒状体に形成されていることを特徴とする実施形態5に記載のビーム平行化器。
7.各電極部材の背面は、前記湾曲面に沿って湾曲していることを特徴とする実施形態4から6のいずれかに記載のビーム平行化器。
8.少なくとも1つのレンズ部は、前記基準軌道から遠い側で前記空間部を覆う蓋部を備えることを特徴とする実施形態1から7のいずれかに記載のビーム平行化器。
9.前記蓋部は、前記空間部を通じた前記内側領域の真空排気を許容するよう構成されていることを特徴とする実施形態8に記載のビーム平行化器。
10.前記複数のレンズ部の少なくとも一部を支持するベースプレートが前記複数のレンズ部の外側領域に設けられていることを特徴とする実施形態1から9のいずれかに記載のビーム平行化器。
11.前記ベースプレートは、前記空間部を通じた前記内側領域の真空排気を許容するよう構成されていることを特徴とする実施形態10に記載のビーム平行化器。
12.少なくとも1つの電極部材または電極片が絶縁体または導電体を介して前記ベースプレートに取り付けられていることを特徴とする実施形態10または11に記載のビーム平行化器。
13.前記ベースプレートは、前記真空容器に対し移動可能に構成され、前記ベースプレートと前記真空容器との間に前記ベースプレートを案内する案内部が設けられていることを特徴とする実施形態10から12のいずれかに記載のビーム平行化器。
14.前記真空容器は、開閉可能な壁部を備え、前記案内部は、前記壁部を通じて前記ベースプレートを前記真空容器の外に引き出し可能に構成されていることを特徴とする実施形態13に記載のビーム平行化器。
15.前記複数のレンズ部に給電するよう構成されている給電部をさらに備え、
前記給電部は、前記真空容器の外から給電され、前記真空容器と前記複数のレンズ部との間に配置されている給電プレートを備えることを特徴とする実施形態1から14のいずれかに記載のビーム平行化器。
16.前記給電部は、前記複数のレンズ部の少なくとも1つの電極部材または電極片に前記給電プレートから給電するための端子部を備え、
前記端子部は、前記複数のレンズ部がイオン注入のための定位置にあるとき前記給電プレートと前記少なくとも1つの電極部材または電極片との間で圧縮される弾性導体を備えることを特徴とする実施形態15に記載のビーム平行化器。
17.前記給電プレートは、前記真空容器の開閉可能な壁部とは反対側の壁部と前記複数のレンズ部との間に配置されていることを特徴とする実施形態15または16に記載のビーム平行化器。
18.前記ビーム平行化器の入口の上流にビームを遮蔽するビームダンプ部が設けられていることを特徴とする実施形態1から17のいずれかに記載のビーム平行化器。
19.前記複数のレンズ部は、複数の加速レンズ部と複数の減速レンズ部とを備え、加速レンズ部と減速レンズ部とが交互に配列されていることを特徴とする実施形態1から18のいずれかに記載のビーム平行化器。
20.各々の入口加速電極部材及び出口減速電極部材の両端部には、延長電極部を備えるよう構成し、加速または減速の同電位の電界領域を保持するよう構成したことを特徴とする実施形態1から19のいずれかに記載のビーム平行化器。
21.前記弓形状湾曲ギャップは、前記平行化されたビームの前記基準軌道に垂直な断面における短手方向に向けられており、前記基準軌道を含む内側領域が前記複数のレンズ部の外側領域へと前記弓形状湾曲ギャップを通じて連通されていることを特徴とする実施形態1から20のいずれかに記載のビーム平行化器。
22.イオン注入装置のビーム平行化器であって、
基準軌道に対し平行化されたビームを前記ビーム平行化器の出口に生成する少なくとも1つのレンズ部を備え、
前記少なくとも1つのレンズ部の各々は、弓形状湾曲ギャップを形成する一対の電極部材を備え、前記弓形状湾曲ギャップに印加される電場により前記基準軌道に対しビーム進行方向のなす角度を変えるよう構成されており、
前記一対の電極部材の各々は、複数の弓形状に湾曲した電極片を備えることを特徴とするビーム平行化器。
23.イオン注入装置のビーム平行化器であって、
基準軌道に対し平行化されたビームを前記ビーム平行化器の出口に生成する少なくとも1つのレンズ部と、
前記少なくとも1つのレンズ部を囲み、前記基準軌道の一方側と他方側とにそれぞれ容器壁を備える真空容器と、を備え、
前記少なくとも1つのレンズ部の各々は、弓形状湾曲ギャップを形成する一対の電極部材を備え、前記弓形状湾曲ギャップに印加される電場により前記基準軌道に対しビーム進行方向のなす角度を変えるよう構成されており、
前記一対の電極部材の各々は、前記基準軌道を挟んで離間配置される一組の電極片を備え、前記一組の電極片の一部は前記基準軌道の一方側の前記容器壁に支持され、前記一組の電極片の他の一部は前記基準軌道の他方側の前記容器壁に支持されていることを特徴とするビーム平行化器。
24.実施形態1から23のいずれかに記載のビーム平行化器を備えるビーム輸送ラインユニットと、
イオンビームを生成するイオンビーム生成ユニットと、
前記イオンビームを加速する高エネルギー多段直線加速ユニットと、
高エネルギーに加速されたイオンビームを前記ビーム輸送ラインユニットへと方向変換する偏向ユニットと、を備えることを特徴とする高エネルギーイオン注入装置。
25.ビームラインの基準軌道の両側にビームをスキャンするビーム走査器をさらに備え、
前記複数のレンズ部の各々は、前記基準軌道の両側にスキャンされたビームを、基準軌道側に近づく方向に偏向させることにより、前記複数のレンズ部を通過したビームの軌道が基準軌道と平行になるように調整するよう構成されていることを特徴とする実施形態24に記載の高エネルギーイオン注入装置。
26.基準軌道に対し平行化されたビームを生成するように複数の弓形状湾曲ギャップのそれぞれに電場を印加することと、
前記複数の弓形状湾曲ギャップのうち一の弓形状湾曲ギャップと当該弓形状湾曲ギャップに隣接する弓形状湾曲ギャップとの間に形成される空間部を通じて前記基準軌道を含む内側領域の真空排気をすることと、を備え、
前記空間部は、前記平行化されたビームの前記基準軌道に垂直な断面における短手方向に向けられていることを特徴とするビーム平行化方法。