以下、本実施の形態に係る高エネルギー精度の高周波加速式のイオン加速・輸送装置である高エネルギーイオン注入装置の一例についてより詳細に説明する。はじめに、本願発明者らが本願発明に想到した経緯について説明する。
本発明の装置では、イオン源で生成したイオンを静電場で引き出し、イオンビームを生成するビーム引き出し系と、引き出されたイオンビームをさらに加速する高周波加速器と、加速されたビームのビームサイズ(空間分布)を調整するための少なくとも1台の収束要素と、エネルギー分析電磁石として使用する少なくとも一台の偏向電磁石とを有する。そして、そのエネルギー分析電磁石の下流側にエネルギー幅制限スリットとエネルギー分析スリットとを設置する。
ビームサイズ(イオンの空間分布)を調整するための収束要素は、高周波加速器とエネルギー分析電磁石との間、及びエネルギー分析電磁石とエネルギー分析スリットとの間に設置され、エネルギー幅のないビーム(高周波加速器に高周波電場を印加せず、引き出されたままのエネルギーで輸送されたビーム)が、エネルギースリットの位置に焦点を結ぶように調整される。
エネルギー幅のあるイオンビームを構成する個々のイオンの軌道は、それぞれのエネルギーに応じて、エネルギー分析電磁石によって、偏向面内で空間的に広がる(エネルギー分散)。エネルギー幅制限スリットは、エネルギー分析スリット上流であって、そのエネルギー分散がエネルギー幅のないビームのビームサイズと同程度になる位置に設ける。この位置は、エネルギー分析電磁石の出口付近になる。
前記のように配置されたエネルギー分析電磁石と二枚のスリットによるエネルギー分析の詳細について、90°偏向電磁石が二台あり、その間に二枚のスリットが設置されている場合を例に取って、以下に述べる。
ビームライン中心軸上の任意の位置(ビームライン起点からの飛行距離)sにおける水平面(偏向面)内横方向(ビーム軸と直交する方向)のイオンビームのサイズσ(s)(横方向ビームサイズ)は、次の式(1)で与えられる。
ここで、εはビームのエミッタンス、Eはビームエネルギー、ΔEWはエネルギー幅である。β(s)はベータトロン関数(振幅)と呼ばれ、ビーム輸送方程式の解である。η(s)はディスパージョン(分散)関数と呼ばれ、エネルギーのずれたビーム輸送方程式の解である。
イオン源から引き出されたイオンビームの中の個々のイオンは、ビーム(全イオンの集団)中心軸に対して、位置及び角度の分布を持っている。ここで、個々のイオンのビーム中心軸からの距離を横軸に、個々のイオンの進行方向ベクトルとビーム中心軸とが成す角度を縦軸に取ったグラフを位相空間プロットと呼ぶ。この位置の分布範囲と角度の分布範囲の積(位相空間でビームが占める面積)をエミッタンスと呼び、それを運動量で規格化したもの(規格化エミッタンス)は、イオン源引き出口からビーム輸送路の終端まで変化しない不変量になる。
前述の式(1)の第一項;
は、この初期のイオン分布に起因するビーム幅σ
1であり、σ
1を今後“エミッタンスによるビーム幅”と呼ぶ。また、エミッタンスは横方向と上下方向それぞれ独立に定義されるが、ここで問題になるのは横方向だけなので、今後特に断らない限り、エミッタンスεは横方向のエミッタンスを指す。
前述のように、この空間分布によるビームの広がりに加えて、高周波線形加速装置によって加速されたビームは、エネルギー分布(幅)を持つ。エネルギー分布(幅)を持つビームが偏向電磁石を通過するとき、エネルギーが比較的高いイオンは、曲率半径が大きい外側の軌道を通り、エネルギーが比較的低いイオンは、曲率半径の小さい内側の軌道を通る。このため、1点(空間分布無し)で偏向電磁石に入射しても、出口では、エネルギー幅に応じた空間分布(横方向分布)が生じる。式(1)の第二項;
は、このエネルギー分布が変化して生じた空間分布を表している。以後、エネルギー分布が偏向によって空間分布に変化していく現象をエネルギー分散、その結果生じたビーム幅σ
2をエネルギー分散によるビーム幅または単に分散と呼ぶ。式(1)は、ビームサイズがエミッタンスによるビーム幅と、エネルギー分散によるビーム幅の和であることを表している。
本願発明では、エネルギー幅制限スリットとエネルギー分析スリットの2枚のスリットを用いるが、初めに、エネルギー分析スリット1枚によってビームをカットする従来の方法を例に、エネルギー分析電磁石から、エネルギー分析スリットに至る領域の、ビームの分布を説明する。
図22は、エネルギー幅0%、中心エネルギーずれ0%のビームが、その焦点付近に置かれた1枚のエネルギー分析スリットを通過する様子を示す模式図である。
図23は、偏向ユニットで、当初±4%のエネルギー幅を持ったビームが、一枚のエネルギー分析スリットによってカットされ、±2.5%のエネルギー幅を持つビームに変わる様子を示す模式図である。横軸はイオン源出口からのイオンの飛行距離、縦軸はビームの幅及び各スリットの開口幅を表している。横軸のすぐ上には、エネルギー分析電磁石(EFM)や偏向電磁石(BM)などの位置が示されている。
図24は、図23のエネルギー分析電磁石(EFM)入り口(5.6m付近)及びエネルギー分析スリットの入り口と出口(7.4m付近)におけるビームの横方向の空間分布と、対応するエネルギー分布とを説明するための図である。空間分布の横軸は、設計中心軌道からの横方向の距離、エネルギー分布の横軸は、予定注入エネルギーとの差を予定注入エネルギーで割った値である。縦軸は、いずれの分布もビーム電流密度(単位時間に通過するイオンの数密度)である。エネルギー分析スリットは、エミッタンスによるビーム幅が極小になる位置に設置されている。
エネルギー分析電磁石(EFM)入り口での空間分布は、ガウス型に近い分布、エネルギー分布は、一様分布が想定されている。ビームがEFMに入り、分散が始まると、横方向の空間分布は引き延ばされて広がっていく。偏向電磁石には、分散を発生させる作用とともに、エミッタンスによるビーム幅を収束させる(βを小さくする)働きがあるため、式(3)の分散によるビーム幅σ2がどんどん大きくなるのに対して、式(2)のσ1は、どんどん小さくなっていき、横方向空間分布の端部はシャープになっていく。この間、エネルギー分布は変化しない。
EFMとBMの間には、横収束レンズQR1が挿入されている。このレンズは、エネルギー分散の拡大を止めて、縮小方向へ向かわせるとともに、エミッタンスによるビーム幅σ1の縮小を促進する働きがある。エネルギー分析スリットは、σ1が極小になる位置に設置されるため、横収束レンズQR1の効果によって設置位置がEFM側へ動き、スペースが節約できる。エネルギー分散によるビーム幅σ2は、横集束レンズQR1中心付近で最大になる。もし横集束レンズQR1がなければ、分散の拡大は、BM出口付近まで続く。
エネルギー分析スリット入り口では、σ2はまだ非常に大きく、σ1は極小になる(そうなるように横収束レンズQR1や高周波加速器出口の収束要素によって調整されている)ため、横方向の空間分布の端部は非常にシャープになり、全体でエネルギー分布に近い形状(一様分布)になっている。
このビームが、エネルギー分析スリットによって、空間的にカットされる。まず、空間的なカットによってエネルギー分布の形状がどのように変化するか、一般的に説明する。この部分が本願発明を支える原理として、極めて重要である。
エネルギー分布が矩形分布(一様分布)であり、エネルギー分散によるビーム幅σ
2がエミッタンスによるビーム幅σ
1より十分大きく、かつスリット幅W
Aより十分大きければ、カットされた後の空間分布は完全な矩形分布(一様分布)になる。このときエネルギー分布も、スリット幅に応じたエネルギー幅にカットされる。そのエネルギー幅は、式(3)より;
である。
しかし、カットされたエネルギー分布は、空間分布と異なり、完全な矩形分布にはならない。カットされたエネルギー分布の両端部は、エミッタンスによるビームの幅σ
1に対応するエネルギー幅だけエネルギーが揃っていないからである。σ
1に対応するエネルギー幅をΔE
edge/Eとすると、それは式(4)と同様に;
と求められる。エネルギー分布端部の式(5)で与えられる範囲で、ビーム電流密度が矩形分布の値からゼロに向かって変化する。
つまり、スリットで空間的に矩形分布にカットされたビームのエネルギー分布は、−WA/η−2σ1/η〜−WA/η+2σ1/ηの区間でビーム電流密度がゼロからカット前の値に立ち上がり、−WA/η+2σ1/η〜+WA/η−2σ1/ηの区間で一定(カット前の値)で、+WA/η−2σ1/η〜+WA/η+2σ1/ηの区間でゼロまで下がるという形状になる。そして、その実効的な幅は、式(4)の値になる。
このようにして、一般には、スリット通過前後で、横方向の空間分布とエネルギー分布の形状が入れ替わり、エネルギー分布は矩形ではなくなる。しかし、図24の例のように、ビームの焦点位置に一枚のエネルギー分析スリットを置いてビームをカットする場合は、σ1がWAに比べて十分小さくなる(WA=25mm、σ1=0.6mm)ので、カットされたエネルギー分布もほぼ矩形とみなすことができる。
図25は、エネルギー幅制限スリットとエネルギー分析スリットを有する偏向ユニットで、当初±4%のエネルギー幅を持ったビームが、一枚のエネルギー分析スリットによってカットされ、±2.5%のエネルギー幅を持つビームに変わる様子を示す模式図である。図26は、図25のエネルギー分析電磁石(EFM)入り口、エネルギー幅制限スリットの入り口と出口、及びエネルギー分析スリットの入り口と出口におけるビームの横方向の空間分布と、対応するエネルギー分布とを説明するための図である。
EFM出口付近では、エネルギー分散によるビーム幅σ2は極大値に向かって増加中であり、エミッタンスによるビームサイズσ1は極小値に向かって減少中で、σ2がσ1より大きくなっているが、σ1もまだかなり大きい状態である。ここにエネルギー幅制限スリットを置いてビームをカットすると、空間分布は一時的に矩形分布になるが、エネルギー分布は、式(5)のエッジを鈍らせる効果が大きく効いて、矩形とはほど遠いなだらかな分布になる。
エネルギー幅制限スリットの開口幅を、例えば3%のエネルギー幅に相当する値に設定しても、エミッタンスによるビーム幅σ1が大きいので、予定注入エネルギーに対して3%以上のエネルギー差を持つイオンも多数通過してしまう。分散の拡大によって、これら大きくエネルギーのずれたイオンの軌道は、中心からどんどん遠ざかり、結果としてビーム外縁を含めたビームサイズをかなり大きくしてしまう。例えば、図26のように、高周波加速器から出たビームのエネルギー幅が4%であって、エネルギー幅制限スリット位置で計算した式(4)と式(5)のエネルギー幅の和が4%を超えていれば、外縁部を含めたビームサイズは、エネルギー幅制限スリットがないときと同じになる。ただし、スリットによるカットと分散による拡大で、この外縁部のイオン密度は非常に薄くなっている。このように、スリットでカットしきれなかったビーム外縁の密度の薄い部分をハローと呼ぶ。
このようなビームのハローを除去して、エネルギーを確定するために、やはりσ1が極小になる位置にエネルギー分析スリットが必要になる。図26の最後に示されているように、エネルギー幅制限スリットとエネルギー分析スリットで二重にフィルターをかけたビームのエネルギー分布は、もともと矩形分布であっても、ドーム状の分布に変わる。これによって、中心部のビーム電流密度が相対的に高くなる分、実効的なエネルギー幅を小さくすることができる。また、高周波線形加速器から出てきたイオンビームのエネルギー分布は、もともとドーム状になっているのが普通なので、エネルギー幅低減効果は、さらに大きくなる。
さらに、二重のスリットは、エネルギー幅と同時に、わずかな中心エネルギーずれを持つビームに対して、中心エネルギーずれを小さくする働きがある。
図27は、エネルギー幅0%、中心エネルギーずれ3%のビームが、エネルギー幅制限スリットとエネルギー分析スリットを通過する様子を示す模式図である。図27に示すように、エネルギー幅のないビーム(例えば設定加速エネルギー90keVの場合には90keV±0.000)のエネルギー分析では、エネルギー分析スリットの開口幅で規定される以上の中心エネルギーずれを起こしているビーム(例えば中心エネルギーずれ+3%の場合には92.7keV)は、完全に排除される。このような場合には、単純にスリットの開口幅を小さくすることで、エネルギー精度を上げることができる。
エネルギー幅があるビーム(例えば設定加速エネルギー3MeVでエネルギー幅±3%の場合には、分布範囲は2.91MeV〜3.09MeV)でも、エネルギー分析スリットを狭くすれば、エネルギー精度は上がるが、大部分のビームがそこで無駄になるため、利用できるビーム電流値が大幅に下がり、生産能力が大幅に低下する。
そこで、エネルギー分析スリットのスリット幅を広げたまま、中心エネルギーずれ(シフト)を低減する技術が必要である。これは、前述のように、エネルギー分散によるビーム幅に比べて、エミッタンスによるビーム幅が無視できない程度に大きい所に、エネルギー幅制限スリットを挿入することで、実現できる。
図28は、エネルギー幅±4%、中心エネルギーずれ+3%のビームが、整形される様子を示す模式図である。図29は、図28のエネルギー分析電磁石(EFM)入り口、エネルギー幅制限スリットの入り口と出口、及びエネルギー分析スリットの入り口と出口におけるビームの横方向の空間分布と、対応するエネルギー分布とを説明するための図である。
図28及び図29に示すように、エネルギー幅±4%、中心エネルギーずれ+3%のビームが、整形される様子を示す。スリット幅が±3%のエネルギー幅に相当するエネルギー幅制限スリットがEFM出口付近に付けられていると、許容されるエネルギー範囲は、予定注入エネルギーの−1%〜+3%となる。
この場合、エネルギー分析スリットの幅が±1%相当以上あれば、予定注入エネルギーよりエネルギーが低いイオン(−1%〜0%)は、2つのスリットを全て通過する。したがって、エネルギー分布も、負側は元の形状が保存され、矩形分布であればそのまま矩形分布で、ウェハまで到達する。
予定注入エネルギーよりエネルギーが高いイオンに関しては、前述のエネルギー幅があり、中心エネルギーずれのない場合の二重スリットによる整形と全く同じようにエネルギー分布が整形される。矩形のエネルギー分布が(半)ドーム状の分布に整形されるので、分布の重心は、矩形分布より原点側に移動する。つまり、エネルギー分析スリット通過後のビームのエネルギー中心は、予定注入エネルギーに近づく。例えば、エネルギー分析スリットの幅を、エネルギー幅±2.5%相当に設定すると、もともと3%あった中心エネルギーずれは0.5%以下になる。
元々のエネルギー分布が、矩形(一様)分布よりガウス型の分布に近い場合は、エネルギー幅制限スリットによるエネルギー中心の矯正効果がもっと高くなる。
このように、設定ビームエネルギーに対して最大数%程度のエネルギー幅(エネルギー分布)を持っているとともに中心エネルギーずれの可能性を持つ加速システムで加速されたビームのエネルギー幅とエネルギー中心のずれをどちらか一方あるいは両方縮小して、エネルギー精度を上げるためには、エネルギー分散によるビームサイズとエミッタンスによるビームサイズが適正にコントロールされた位置に設置された二重スリットによるエネルギー制限が有効である。
エネルギーがずれたイオンを排除するためのエネルギー分析電磁石の運用方法としては、磁場を特定のエネルギーに相当する値に固定する方法を採る。分析電磁石の磁場(磁束密度)B[T]とイオンのエネルギーE[keV]との間には、次の厳密な関係がある。
E=4.824265×104×(B2・r2・n2)/m・・・式(6)
ここで、m[amu]はイオンの質量数、nはイオンの電価数、r[m]は電磁石内のビーム中心軌道の曲率半径である(これを偏向電磁石の曲率半径という)。このうち、mとnは注入条件から決まる固定値であり、rは電磁石の設計時点で決まる固定値である。したがって、磁場Bを固定して運用することは、イオンのエネルギーEを特定することを意味する。
磁極の中心付近を通過してきたイオンのみが通過できるように、エネルギー幅制限スリットとエネルギー分析スリットを設置すると、その特定のエネルギーを持ったイオンのみが分析スリットを通過するようになる。エネルギーが基準値より一定以上ずれたイオンは、このスリットの壁に衝突することで、ビームラインから排除される。
本来のビームのエネルギーが少しずれ(シフト)ていて、ビーム電流が不足する場合は、リナックの加速位相や加速電圧を微調整してエネルギーを補正し、ビーム電流を増やす。ビーム電流値(ビーム中心軌道位置)を調整するために、エネルギー分析電磁石の磁場を微調整することはない。
エネルギー分析電磁石として使用される偏向電磁石は、その磁場の値によって、イオンビームの注入エネルギーを確定するという重要な役割を持つため、磁場は、精密に設定され、一様に分布しなければならない。これは、磁極面平行度を±50μmで電磁石を製作し、磁場不均一性を±0.01%以下に抑えることで実現している。
このようにエネルギー分析電磁石とエネルギー幅制限スリットとエネルギー分析スリットを配置することによって、リナックによって加速されたエネルギー幅を持つビームに対して、高いエネルギー精度を保証することができる。
なお、ここでは、偏向ユニットを二台の電磁石で構成する場合について述べたが、さらに多数の偏向電磁石がある場合でも、また、電場式Qレンズ、Q電磁石(四重極電磁石)、偏向電磁石の面角など、他の収束要素が偏向ユニットに挿入されている場合でも、同様な手法で、高精度のエネルギー分析を行うことができる。
以下、本実施の形態に係る高エネルギー精度の高周波加速式のイオン加速・輸送装置である高エネルギーイオン注入装置の一例についてより詳細に説明する。はじめに、本願発明者らが本願発明に想到した経緯について説明する。
(平行化マグネット)
偏向磁場によって軌道を平行化する平行化マグネットを使用している従来の高エネルギーイオン注入装置には、次のような課題がある。
フォトレジスト付きウェハに高エネルギーイオンを注入すると、大量のアウトガスが発生し、このアウトガスの分子とビームイオンとが相互作用し、一部のイオンの価数が変化する。平行化マグネット通過中にこの価数変化が起こると、偏向角が変わるので、ビームの平行性が崩れ、ウェハへの注入角が一様ではなくなる。
また、注入されるイオンの量(個数またはドーズ)は、ウェハ付近に置かれたファラデーカップで、ビーム電流値を測定することによって求められるが、価数変化によってその計測値が狂い、予定の注入量から外れ、半導体素子の特性が予定された通りにならない。
さらに、1台の平行化マグネットによる平行化は、内側の軌道と外側の軌道で、偏向角と軌道長が異なるため、外側の軌道ほど価数変化するイオンの割合が増え、ウェハ面内のドーズ均一性も悪化する。
したがって、従来の高エネルギーイオン注入装置のビーム輸送方式では、最近の高精度注入への要求に十分応えることができない。
また、平行化マグネットは、スキャン方向に幅の広い磁極と、ある程度長い平行化区間とを必要とし、エネルギーが高くなるとさらに磁極が長く大きくなるので、重量が非常に大きくなる。装置を安全に据え付けし維持するために、半導体工場自体の強度設計を強化する必要が出てくる上に、消費電力も非常に大きくなる。
これらの問題は、前述の中電流イオン注入装置で用いられている電場平行化レンズと、電場式(電極式)エネルギーフィルター(AEF:Angular Energy Filter)を高エネルギー領域で使うことができれば、解消する。電場式平行化レンズは、軌道の対称性を保ちながらスキャン軌道を中心軌道方向に揃えて平行化し、AEFは、ウェハ直前で価数変化したイオンを除去する。これによって、アウトガスが多いときでも、エネルギーコンタミネーションのないビームを得ることができ、平行化マグネットのようなスキャン方向の注入角度のバラツキも発生せず、結果として、正確な深さ方向の注入分布と注入量(ドーズ)を均一に注入できるとともに、注入角度も一様になって、非常に精度の高いイオン注入が実現する。また、軽量な電極部材で構成され、電磁石と比べて、消費電力も少なくできる。
本発明の核心は、この中電流イオン注入装置の優れたシステムを高エネルギーイオン注入装置に導入し、高エネルギー装置でありながら中電流装置と同等の高精度注入ができる装置を生み出した点にある。その過程で解決されてきた課題について以下で述べる。第一に問題になるのは、装置の長さである。
イオンビームを同じ角度偏向する場合、必要な磁場はエネルギーの平方根に比例するのに対して、必要な電場はエネルギーそのものに比例する。したがって、偏向磁極の長さはエネルギーの平方根に比例するのに対して、偏向電極の長さはエネルギーに比例して長くなる。高エネルギーイオン注入装置に前記の電場式平行化レンズと電場式AEFを搭載して、高精度角度注入を実現しようとすると、ビーム輸送系(スキャナーからウェハまでの距離)が、平行化マグネットを使う従来の装置に比べて、大幅に長くなる。
例えば、このような電場による平行化機構を備える高エネルギーイオン注入装置として、従来の高エネルギーイオン注入装置と同様に、イオン源、質量分析磁石、タンデム型静電加速装置若しくは高周波線形加速装置、ビーム走査器、スキャン軌道平行化装置、エネルギーフィルター、注入処理室および基板搬送機器(エンドステーション)等の構成機器を、ほぼ直線状に据え付ける構造が考えられる。この場合、従来の装置の長さが8m程度であるのに対して、装置の全長が20m程度まで長くなり、設置場所の設定と準備、設置作業等が大がかりとなって、しかも設置面積も大きくなる。また、各機器の据付けアライメントの調整、装置稼働後のメンテナンスや修理、調整のための作業スペースも必要である。このような大がかりなイオン注入装置は、半導体製造ラインにおける装置サイズを、工場の製造ラインの配置の実状に合わせることへの要求を満たすことができない。
このような状況から、本発明のある態様におけるビームライン構成の目的は、十分な作業領域を確保しつつ設置場所の設定と準備、設置作業やメンテナンス作業を簡略化・効率化し、設置面積を抑える技術を実現することによって、電場式平行化レンズと電場式エネルギーフィルターとを備えた高精度の高エネルギーイオン注入装置を提供することである。
(U字状の折り返し型ビームライン)
前記目的は、高エネルギーイオン注入装置のビームラインを、イオン源で生成したイオンビームを加速する複数のユニットから成る長直線部と、スキャンビームを調整してウェハに注入する複数のユニットから成る長直線部とで構成し、対向する長直線部を有する水平のU字状の折り返し型ビームラインにすることによって達成できる。このようなレイアウトは、イオン源からイオンを加速するユニットの長さに合わせて、ビーム走査器、ビーム平行化器、エネルギーフィルターなどから成るビーム輸送ユニットの長さをほぼ同じ長さに構成することで実現している。そして、二本の長直線部の間に、メンテナンス作業のために十分な広さのスペースを設けている。
本発明のある態様は、こうしたビームラインのレイアウトを前提としてなされたものであり、その目的は、高エネルギーのイオンビームをウェハサイズより十分広い範囲で走査でき、ビーム輸送で問題が発生したときに瞬時に輸送を停止できる応答性の良い高エネルギービームの走査を行うことにより、常に高精度の注入が維持できる高エネルギーイオン注入装置を提供することである。
本発明のある態様の高エネルギーイオン注入装置は、イオン源で発生したイオンを加速してイオンビームを生成し、ビームラインに沿ってウェハまでイオンビームを輸送し、該ウェハに注入する高エネルギーイオン注入装置であって、イオン源と質量分析装置を有するビーム生成ユニットと、イオンビームを加速して高エネルギーイオンビームを生成する高エネルギー多段直線加速ユニットと、前記高エネルギーイオンビームをウェハに向けて方向変換する高エネルギービームの偏向ユニットと、偏向された高エネルギーイオンビームをウェハまで輸送するビーム輸送ラインユニットと、輸送された高エネルギーイオンビームを均一に半導体ウェハに注入する基板処理供給ユニットと、を備える。ビーム輸送ラインユニットは、ビーム整形器と、高エネルギー用のビーム走査器と、高エネルギー用の電場式ビーム平行化器と、高エネルギー用の電場式最終エネルギーフィルターとを有し、偏向ユニットを出た高エネルギーイオンビームを、前記ビーム走査器および前記電場式ビーム平行化器により、ビームスキャンするとともに平行化し、前記高エネルギー用の電場式最終エネルギーフィルターにより、質量、イオン価数、エネルギー等が異なる混入イオンを取り除いて、ウェハに注入するように構成されている。
この構成の中の高エネルギー用のビーム走査器は、微調整可能な三角波で動作する電場式のビーム走査器とした。応答の早い電場式とすることで、イオン注入中に放電などが発生してビームが不安定になり、注入量が不均一になることが予想される場合に、瞬時に注入を中止し、安定化後直ちに再開するシステムを作ることができ、どんな場合でも注入精度を維持できる。また、動作周波数を可変にすることが容易で、イオン注入時にシリコン結晶中に生じる結晶欠陥の量を制御して、製品の品質を上げることもできる。
電場式ビーム走査器は、一対の偏向電極を有するが、高速で応答させるためには、その電極に余り高い電圧をかけることができない。しかし、ウェハ面全体の注入ドーズ不均一性を0.5%以下に抑える高精度注入を行うためには、走査範囲をウェハサイズより十分広く取らなければならない。そのためには、ビーム走査器が高エネルギービームに対して十分な偏向角を持たなければならない。そこで、本発明では、当該偏向電極対の間隔をD1、ビーム進行方向の長さをL1としたとき、L1≧5D1を満たすように構成することによって、十分な偏向角を得ている。
本発明のある態様によれば、高エネルギーのイオンビームをウェハサイズより十分広い範囲で走査でき、ウェハ前面で注入ドーズの不均一性を0.5%以下に抑える高精度注入が可能になる。また、ビーム輸送で電極の放電などの問題が発生したときに、瞬時にイオン注入を停止できる応答性の良い高エネルギービームの走査を行うことができる。これにより常に高精度の注入が維持できる。
そこで、本実施の形態のある態様のイオン加速・輸送装置である高エネルギーイオン注入装置は、イオン源で発生したイオンを加速し、ビームラインに沿ってウェハまでイオンビームとして輸送し、ウェハに注入するイオン注入装置である。この装置は、イオンビームを加速して高エネルギーイオンビームを生成する高エネルギー多段直線加速ユニットと、高エネルギーイオンビームの軌道をU字状に曲げる偏向ユニットと、分析された高エネルギーイオンビームをウェハまで輸送するビーム輸送ラインユニットとを備え、平行化したイオンビームをメカニカルに走査移動中のウェハに高精度に照射して、ウェハに注入するものである。
イオンビームを高加速する高周波(交流方式)の高エネルギー多段直線加速ユニットを出た高エネルギーイオンビームは、ある範囲のエネルギー分布を持っている。このため、後段の高エネルギーのイオンビームをビームスキャンおよびビーム平行化させてメカニカルに走査移動中のウェハに照射するためには、事前に高い精度のエネルギー分析と、中心軌道補正、及びビーム収束発散の調整を実施しておくことが必要となる。
ビーム偏向ユニットは、少なくとも二つの高精度偏向電磁石と少なくとも一つのエネルギー幅制限スリットとエネルギー分析スリット、及び、少なくとも一つの横収束機器とを備える。複数の偏向電磁石は、高エネルギーイオンビームのエネルギー分析とイオン注入角度の精密な補正、及び、エネルギー分散の抑制とを行うよう構成されている。高精度偏向電磁石のうちエネルギー分析を行う電磁石には、核磁気共鳴プローブとホールプローブが取り付けられており、他の電磁石にはホールプローブのみ取り付けられている。核磁気共鳴プローブは、ホールプローブの校正に使用され、ホールプローブは、磁場一定のフィードバック制御に使用される。
ビーム輸送ラインユニットは、高エネルギーのイオンビームをビームスキャンおよびビーム平行化させて、メカニカルに走査移動中のウェハに高精度にスキャンビームを照射して、イオンを注入することができる。
以下、本実施の形態に係る高エネルギーイオン注入装置の一例について、図面を参照しながら、より詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。また、以下に述べる構成は例示であり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。
(高エネルギーイオン注入装置)
はじめに、本実施の形態に係る高エネルギーイオン注入装置の構成を簡単に説明する。なお、本明細書の内容は、荷電粒子の種類の一つであるイオンビームのみならず荷電粒子ビーム全般にかかる装置にも適用できるものである。
図1は、本実施の形態に係る高エネルギーイオン注入装置100の概略レイアウトとビームラインを模式的に示した図である。
本実施の形態に係る高エネルギーイオン注入装置100は、高周波線形加速方式のイオン加速器と高エネルギーイオン輸送用ビームラインを有するイオン注入装置であり、イオン源10で発生したイオンを加速し、ビームラインに沿ってウェハ(基板)200までイオンビームとして輸送し、ウェハ200に注入する。
図1に示すように、高エネルギーイオン注入装置100は、イオンを生成して質量分離するイオンビーム生成ユニット12と、イオンビームを加速して高エネルギーイオンビームにする高エネルギー多段直線加速ユニット14と、高エネルギーイオンビームのエネルギー分析、中心軌道補正、エネルギー分散の制御を行うビーム偏向ユニット16と、分析された高エネルギーイオンビームをウェハまで輸送するビーム輸送ラインユニット18と、輸送された高エネルギーイオンビームを均一に半導体ウェハに注入する基板処理供給ユニット20とを備える。
イオンビーム生成ユニット12は、イオン源10と、引き出し電極40と、質量分析装置22と、を有する。イオンビーム生成ユニット12では、イオン源10から引き出し電極を通してビームが引き出されると同時に加速され、引き出し加速されたビームは質量分析装置22により質量分析される。質量分析装置22は、質量分析磁石22a、質量分析スリット22bを有している。質量分析スリット22bは、質量分析磁石22aの直後に配置する場合もあるが、実施例では、その次の構成である高エネルギー多段直線加速ユニット14の入り口部内に配置している。
質量分析装置22による質量分析の結果、注入に必要なイオン種だけが選別され、選別されたイオン種のイオンビームは、次の高エネルギー多段直線加速ユニット14に導かれる。高エネルギー多段直線加速ユニット14により、さらに加速されたイオンビームは、ビーム偏向ユニット16により方向が変化させられる。
ビーム偏向ユニット16は、エネルギー分析電磁石24と、エネルギー分散を抑制する横収束四重極レンズ26と、エネルギー幅制限スリット27(後述する図5参照)と、エネルギー分析スリット28と、ステアリング機能を持つ偏向電磁石30とを有する。なお、エネルギー分析電磁石24は、エネルギーフィルター電磁石(EFM)と呼ばれることもある。高エネルギーイオンビームは、偏向ユニットによって方向転換され、基板ウェハの方向へ向かう。
ビーム輸送ラインユニット18は、ビーム偏向ユニット16から出たイオンビームを輸送するものであり、収束/発散レンズ群から構成されるビーム整形器32と、ビーム走査器34と、ビーム平行化器36と、最終エネルギーフィルター38(最終エネルギー分離スリットを含む)とを有する。ビーム輸送ラインユニット18の長さは、イオンビーム生成ユニット12と高エネルギー多段直線加速ユニット14との長さに合わせて設計されており、偏向ユニットで結ばれて、全体でU字状のレイアウトを形成する。
ビーム輸送ラインユニット18の下流側の終端には、基板処理供給ユニット20が設けられており、注入処理室の中に、イオンビームのビーム電流、位置、注入角度、収束発散角、上下左右方向のイオン分布等を計測するビームモニター、イオンビームによる基板の帯電を防止する帯電防止装置、ウェハ(基板)200を搬入搬出し適正な位置・角度に設置するウェハ搬送機構、イオン注入中ウェハを保持するESC(Electro Static Chuck)、注入中ビーム電流の変動に応じた速度でウェハをビームスキャン方向と直角方向に動かすウェハスキャン機構が収納されている。
このように各ユニットをU字状に配置した高エネルギーイオン注入装置100は、設置面積を抑えつつ良好な作業性が確保されている。また、高エネルギーイオン注入装置100においては、各ユニットや各装置をモジュール構成とすることで、ビームライン基準位置に合わせて着脱、組み付けが可能となっている。
次に、高エネルギーイオン注入装置100を構成する各ユニット、各装置について更に詳述する。
(イオンビーム発生ユニット)
図2(a)は、イオンビーム発生ユニットの概略構成を示す平面図、図2(b)は、イオンビーム発生ユニットの概略構成を示す側面図である。
図2(a)、図2(b)に示すように、ビームラインの最上流に配置されているイオン源10の出口側には、イオンチャンバ(アークチャンバー)内で生成されたプラズマからイオンビームを引き出す引き出し電極40が設けられている。引き出し電極40の下流側近傍には、引き出し電極40から引き出されたイオンビーム中に含まれる電子が引き出し電極40に向かって逆流するのを抑制する引き出しサプレッション電極42が設けられている。
イオン源10は、イオン源高圧電源44と接続されている。引き出し電極40とターミナル48との間には、引き出し電源50が接続されている。引き出し電極40の下流側には、入射するイオンビームから所定のイオンを分離し、分離したイオンビームを取り出すための質量分析装置22が配置されている。
後述する図5に示すように、高エネルギー多段直線加速ユニット14の直線加速部ハウジング内の最前部に、イオンビームの総ビーム電流値を計測するためのファラデーカップ80a(インジェクター)が配置されている。
図14(a)は、インジェクターファラデーカップ80aとほぼ同じ構成のリゾルバーファラデーカップ80bを正面から見た模式図、図14(b)は、同じくリゾルバーファラデーカップ80bの動作を説明するための模式図である。
インジェクターファラデーカップ80aは、駆動機構によりビームライン上に上下方向から出し入れ可能に構成され、また、水平方向に長い長方形の枡状形状で、開口部をビームライン上流側に向けて構成されており、イオン源や質量分析電磁石の調整時に、イオンビームの総ビーム電流を計測する目的の他、ビームライン下流に到達するイオンビームを必要に応じてビームライン上で完全に遮断するために用いられる。さらに、インジェクターファラデーカップ80aの直前の高エネルギー多段直線加速ユニット14の入り口部内には、前述の通り、質量分析スリット22bが配置されており、単一の質量分析スリット、あるいは、質量の大きさにより、幅の異なる多数スリットの選択方式、または質量スリット幅を無段階または多段に変更できる方式の構成としている。
(高エネルギー多段直線加速ユニット)
図3は、高エネルギー多段直線加速ユニット14の概略構成を含む全体レイアウトを示す平面図である。高エネルギー多段直線加速ユニット14は、イオンビームの加速を行う複数の線形加速装置、すなわち、一つ以上の高周波共振器14aを挟む加速ギャップを備えている。高エネルギー多段直線加速ユニット14は、高周波(RF)電場の作用により、イオンを加速することができる。図3において、高エネルギー多段直線加速ユニット14は、高エネルギーイオン注入用の基本的な複数段の高周波共振器14aを備えた第1線形加速器15aと、さらに、超高エネルギーイオン注入用の追加の複数段の高周波共振器14aを備えた第2線形加速器15bとから構成されている。
一方、高周波(RF)加速を用いたイオン注入装置においては、高周波のパラメータとして電圧の振幅V[kV]、周波数f[Hz]を考慮しなければならない。更に、複数段の高周波加速を行う場合には、お互いの高周波の位相φ[deg]がパラメータとして加わる。加えて、加速の途中や加速後にイオンビームの上下左右への広がりを収束・発散効果によって制御するための磁場レンズ(例えば、四極電磁石)や電場式レンズ(例えば、静電四極電極)が必要であり、それらの運転パラメータは、そこを通過する時点でのイオンのエネルギーによって最適値が変わることに加え、加速電界の強度が収束・発散に影響を及ぼすため、高周波のパラメータを決めた後にそれらの値を決めることになる。
図4は、複数の高周波共振器先端の加速電場(ギャップ)を直線状に並べた高エネルギー多段直線加速ユニット及び収束発散レンズの制御系の構成を示すブロック図である。
高エネルギー多段直線加速ユニット14には一つ以上の高周波共振器14aが含まれている。高エネルギー多段直線加速ユニット14の制御に必要な構成要素としては、オペレータが必要な条件を入力するための入力装置52、入力された条件から各種パラメータを数値計算し、更に各構成要素を制御するための制御演算装置54、高周波の電圧振幅を調整するための振幅制御装置56、高周波の位相を調整するための位相制御装置58、高周波の周波数を制御するための周波数制御装置60、高周波電源62、収束発散レンズ64のための収束発散レンズ電源66、運転パラメータを表示するための表示装置68、決定されたパラメータを記憶しておくための記憶装置70が必要である。また、制御演算装置54には、あらかじめ各種パラメータを数値計算するための数値計算コード(プログラム)が内蔵されている。
高周波線形加速器の制御演算装置54では、内蔵している数値計算コードによって、入力された条件を基にイオンビームの加速並びに収束・発散をシミュレーションし、最適な輸送効率が得られるよう高周波パラメータ(電圧振幅、周波数、位相)を算出する。また同時に、効率的にイオンビームを輸送するための収束発散レンズ64のパラメータ(Qコイル電流、またはQ電極電圧)も算出する。計算された各種パラメータは、表示装置68に表示される。高エネルギー多段直線加速ユニット14の能力を超えた加速条件に対しては、解がないことを意味する表示が表示装置68に表示される。
電圧振幅パラメータは、制御演算装置54から振幅制御装置56に送られ、振幅制御装置56が、高周波電源62の振幅を調整する。位相パラメータは、位相制御装置58に送られ、位相制御装置58が、高周波電源62の位相を調整する。周波数パラメータは、周波数制御装置60に送られる。周波数制御装置60は、高周波電源62の出力周波数を制御するとともに、高エネルギー多段直線加速ユニット14の高周波共振器14aの共振周波数を制御する。制御演算装置54はまた、算出された収束発散レンズパラメータにより、収束発散レンズ電源66を制御する。
イオンビームを効率的に輸送するための収束発散レンズ64は、高周波線形加速器の内部あるいはその前後に、必要な数が配置される。すなわち、複数段の高周波共振器14aの先端の加速ギャップの前後には交互に発散レンズまたは収束レンズが備えられている、その一方で、第2線形加速器15bの終端の横収束レンズ64a(図5参照)の後方には追加の縦収束レンズ64b(図5参照)が配置され、高エネルギー多段直線加速ユニット14を通過する高エネルギー加速イオンビームの収束と発散を調整して、後段のビーム偏向ユニット16に最適な二次元ビームプロファイルのイオンビームを入射させるようにしている。
高周波線形加速器の加速ギャップに生じる電界の方向は、イオンを加速する方向と減速する方向が数十ナノ秒毎に切り替わる。イオンビームを高エネルギーまで加速するためには、数十カ所ある加速ギャップの全てで、イオンが加速ギャップに入ったとき、電界は加速方向を向いていなければならない。ある加速ギャップで加速されたイオンは、次の加速ギャップの電界が加速方向を向くまでの間に、二つの加速ギャップの間の電界がシールドされた空間(ドリフトスペース)を通過しなければならない。速すぎても遅すぎても減速されるので、高エネルギーに到達できない。全加速ギャップで加速位相に乗るのは、非常に厳しい条件になるため、予定エネルギーに達するということは、高周波線形加速器による、質量、エネルギー、電荷(速度を決める要因)に対する厳しい選別をくぐり抜けたことになる。その意味で、高周波線形加速器は良い速度フィルターでもある。
(ビーム偏向ユニット)
図1に示すように、ビーム偏向ユニット16は、エネルギーフィルター偏向電磁石(EFM)であるエネルギー分析電磁石24と、エネルギー幅制限スリット27(図5参照)と、エネルギー分析スリット28と、偏向後のエネルギー分散を制御する横収束四重極レンズ26と、注入角度補正機能を有する偏向電磁石30を含む。
図5(a)、図5(b)は、EFM(エネルギー分析用偏向電磁石)、エネルギー幅制限スリット、エネルギー分析スリット、BM(横方向中心軌道補正用偏向電磁石)、ビーム整形器、ビーム走査器(スキャナー)の概略構成を示す平面図である。なお、図5(a)に示す符号Lは、イオンビームの中心軌道を示している。
高エネルギー多段直線加速ユニット14通過後のイオンビームは、シンクロトロン振動によってエネルギー分布ができてしまう。また、加速位相の調整量が大きいときに、中心値が予定のエネルギーからややずれたビームが高エネルギー多段直線加速ユニット14から出てくることがある。そこで、後述のビーム偏向ユニット16により所望のエネルギーのイオンのみが通過できるように、エネルギーフィルター偏向磁石(EFM)の磁場を設定して、エネルギー幅制限スリット27とエネルギー分析スリット28により、ビームの一部を選択的に通過させ、イオンのエネルギーを設定値に揃える。通過できるイオンビームのエネルギー幅はエネルギー幅制限スリットと分析スリットの開口横幅によってあらかじめ設定できる。エネルギー分析スリットを通過したイオンのみが後段のビームラインに導かれ、ウェハに注入される。
エネルギー分布を持ったイオンビームが、前述したフィードバックループ制御系で磁場を一定値に制御されたエネルギーフィルター電磁石(EFM)に入射すると、入射イオンビーム全体が設計軌道に沿って偏向されながらエネルギー分散を起こし、所望のエネルギー幅の範囲にあるイオンが、EFM出口付近に設置されたエネルギー幅制限スリットを通過する。この位置では、エネルギー分散は極大値に向かって増加中であり、エミッタンスによるビームサイズσ1(エネルギー幅がないときのビームサイズ)は、極小値に向かって減少中であるが、エネルギー分散によるビーム幅がエミッタンスによるビーム幅より大きくなっている。このような状態のイオンビームをスリットで切る場合、空間的な分布はシャープに切られるが、エネルギー分布は2σ1に対応するエネルギー幅でなまらされた切り口になる。言い換えると、例えば、スリット幅を、3%のエネルギー幅に対応する寸法に設定したとしても、予定注入エネルギーとのエネルギー差が3%より小さいイオンの一部はスリットの壁に当たって失われ、逆にエネルギー差が3%より大きいイオンの一部は、スリットを通過してしまう。
エネルギー分析スリットは、σ1が極小になる位置に設置する。この位置では、σ1はスリット幅に比べて無視できるほど小さくなるので、エネルギー分布も空間分布とほとんど同じくシャープに切断される。例えば、エネルギー分析スリットの開口幅もエネルギー幅3%に相当する寸法(0.03η)に設定した場合、エネルギー幅制限スリットを通過できたエネルギー差が3%を超えるイオンは、全てここで阻止される。この結果、最初矩形のエネルギー分布だったビームが二枚のスリットを通過した後では、0%でピークになり、±3%で高さが1/2に減り、その後急激にゼロまで低下するドーム状の分布に変わる。エネルギー差の小さいイオンの数が相対的に多くなるので、一枚のエネルギー分析スリットだけ設置して、ほぼ矩形のエネルギー分布のままスリットを通過させたときより、エネルギー幅が実質的に小さくなる。
二重のスリットシステムは、エネルギー分布の端部を削る効果によって、リナックにより加速されたビームのエネルギーが予定注入エネルギーからわずかにずれている場合、通過後のビームの中心エネルギーずれを小さくする効果がある。例えば、エネルギー幅が±3%で、中心エネルギーずれも3%ある場合、二重スリットを通過した後のエネルギー分布は、前記ドーム状分布のエネルギーのプラス側半分になり、その分布の重心であるエネルギー中心は、ほぼΔE/E=1%付近に来る。一方、単一のエネルギー分析スリットでカットした場合、中心はΔE/E=1.5%になる。分布をなまらせる効果は、必ずエネルギー中心のずれを抑える方向に働く。
このように、設定ビームエネルギーに対して最大数%程度のエネルギー幅(エネルギー分布)を持っているとともに中心エネルギーずれの可能性を持つ加速システムで加速されたビームのエネルギー幅とエネルギー中心のずれをどちらか一方あるいは両方縮小して、エネルギー精度を上げるためには、二重スリットによるエネルギー制限が有効である。
エネルギー分析電磁石には高い磁場精度が必要であるので、精密な磁場測定を行う高精度な測定装置86a,86bが、取り付けられている(図5(b)参照)。測定装置86a,86bは、MRP(磁気共鳴プローブ)とも呼ばれるNMR(核磁気共鳴)プローブとホールプローブとを適宜組み合わせたもので、MRPはホールプローブの校正に、ホールプローブは磁場一定のフィードバック制御にそれぞれ使用される。また、エネルギー分析電磁石は、磁場の不均一性が0.01%未満になるように、厳しい精度で製作されている。さらに、それぞれの電磁石には、電流設定精度と電流安定度とが1×10−4以上の電源とその制御機器が接続されている。
また、エネルギー分析スリット28の上流側であって、エネルギー分析スリット28とエネルギー分析電磁石24との間に、横収束レンズとして四重極レンズ26が配置されている。四重極レンズ26は、電場式若しくは磁場式で構成することができる。これによってU字状偏向後のエネルギー分散が抑制され、ビームサイズが小さくなるので、高効率のビーム輸送ができる。また、偏向電磁石の磁極部ではコンダクタンスが小さくなるため、例えば、エネルギー分析スリット28の近傍に、アウトガス排出用の真空ポンプを配置することが有効である。磁気浮上式のターボ分子ポンプを使用する場合は、エネルギー分析電磁石24や偏向電磁石30の電磁石の漏れ磁場の影響を受けない位置に設置しなければならない。この真空ポンプによって、偏向ユニットでの残留ガス散乱によるビーム電流低下が防がれる。
高エネルギー多段直線加速ユニット14中の四重極レンズや、分散調整用四重極レンズ26、ビーム整形器32に、大きな据付け誤差があると、図5(b)に示されているビームの中心軌道が歪み、ビームがスリットに当たって失われやすくなり、最終的な注入角度と注入位置も狂ってしまう。これに対しては、注入角度補正機能を有する偏向電磁石30の磁場補正値によって、水平面上では、ビームの中心軌道が、必ずビーム走査器34の中心を通るようになっている。これによって、注入角度の狂いは矯正される。さらに、ビーム走査器に適切なオフセット電圧を加えると、走査器からウェハまでの中心軌道の歪みはなくなり、注入位置の左右ずれは解消される。
ビーム偏向ユニット16の各偏向電磁石を通過中のイオンには、遠心力とローレンツ力が働いており、それらが釣り合って、円弧状の軌跡が描かれる。この釣合いを式で表すとmv=qBrとなる。mはイオンの質量、vは速度、qはイオン価数、Bは偏向電磁石の磁束密度、rは軌跡の曲率半径である。この軌跡の曲率半径rが、偏向電磁石の磁極中心の曲率半径と一致したイオンのみが、偏向電磁石を通過できる。言い換えると、イオンの価数が同じ場合、一定の磁場Bがかかっている偏向電磁石を通過できるのは、特定の運動量mvを持ったイオンのみである。EFMは、エネルギー分析電磁石と呼ばれているが、実際は、イオンの運動量を分析する装置である。BMや、イオン生成ユニットの質量分析電磁石も、全て運動量フィルターである。
また、ビーム偏向ユニット16は、複数の磁石を用いることで、イオンビームを180°偏向させることができる。これにより、ビームラインがU字状の高エネルギーイオン注入装置100を簡易な構成で実現できる。
図5(a)に示すように、ビーム偏向ユニット16は、高エネルギー多段直線加速ユニット14から出たイオンビームを、エネルギー分析電磁石24で90°偏向する。そして、軌道補正兼用偏向電磁石30によりビーム進路をさらに90°偏向し、後述するビーム輸送ラインユニット18のビーム整形器32に入射させる。ビーム整形器32は、入射したビームを整形してビーム走査器34に供給する。また、図5(b)に示す四重極レンズ26のレンズ作用により、ビームのエネルギー分散による発散を防止し、あるいは、エネルギー分散によるビーム拡大効果を利用して、ビームが小さくなりすぎることを防いでいる。
図11(a)は、横収束レンズである四重極レンズを模式的に示す平面図、図11(b)は、四重極レンズを模式的に示す正面図である。図11(a)の平面図では、四重極レンズ26のビームライン進行方向の電極長さを示すとともに、エネルギー分析器(EFM偏向磁石)24に選別されたエネルギーのビームについて、横発散していくビームが四重極レンズ26により横収束される作用を示す。図11(b)の正面図では、四重極レンズ26の電極による収束発散作用によるビームの横収束作用を示す。
上述のように、ビーム偏向ユニット16は、イオン源で発生したイオンを加速してウェハまで輸送して打ち込むイオン注入装置において、高エネルギー多段直線加速ユニット14とビーム輸送ラインユニット18との間において、イオンビームの180°の偏向を複数の電磁石で行っている。つまり、エネルギー分析電磁石24および軌道補正兼用偏向電磁石30は、それぞれ偏向角度が90度となるように構成されており、その結果、合計の偏向角度が180度となるように構成されている。なお、一つの磁石で行う偏向量は90°に限られず、以下の組合せでもよい。
(1)偏向量が90°の磁石が1つ+偏向量が45°の磁石が2つ
(2)偏向量が60°の磁石が3つ
(3)偏向量が45°の磁石が4つ
(4)偏向量が30°の磁石が6つ
(5)偏向量が60°の磁石が1つ+偏向量が120°の磁石が1つ
(6)偏向量が30°の磁石が1つ+偏向量が150°の磁石が1つ
エネルギー分析部としてのビーム偏向ユニット16は、U字状のビームラインにおける折り返し路であり、それを構成する偏向電磁石の曲率半径rは、輸送できるビームの最大エネルギーを限定するとともに、装置の全幅や中央のメンテナンスエリアの広さを決定する重要なパラメータである(図5参照)。その値を最適化することによって、最大エネルギーを下げることなく、装置の全幅を最小に抑えている。そして、これにより、高エネルギー多段直線加速ユニット14とビーム輸送ラインユニット18との間の間隔が広くなり、十分な作業スペースR1が確保できている(図1参照)。
図12(a)、図12(b)は、電磁石の構成の一例を示す斜視図である。図13は、電磁石が備える開閉装置を模式的に示した図である。エネルギー分析電磁石24や偏向電磁石30を構成する電磁石は、例えば、図12(a)、図12(b)に示すように、アッパーヨーク87、ロアーヨーク88、内側と外側のサイドヨーク89a,89b、上ポール(不図示)、下ポール93、上コイル91a、下コイル91b、で構成されている。また、図13に示すように、外側サイドヨーク89bは、2つの部材89b1,89b2に分割されており、開閉装置92a,92bによって、外側に観音開きできるようになっており、図示しない、ビームラインを構成するビームガイド容器を着脱できるよう構成されている。
また、ビーム偏向ユニット16の中央部の真空容器、例えば、エネルギー幅制限スリット、四重極レンズ26、エネルギー分析スリット28等を収納している容器は、ビームラインから容易に脱着できる構造になっている。これによって、メンテナンス作業時に、U字状ビームライン中央の作業エリアに、簡単に出入りすることができる。
高エネルギー多段直線加速ユニット14は、イオンの加速を行う複数の線形加速装置を備えている。複数の線形加速装置のそれぞれは、共通の連結部を有しており、その連結部は、複数の電磁石のうちエネルギー分析スリット28よりも上流側にあるエネルギー分析電磁石24に対して着脱可能に構成されている。同様に、ビーム輸送ラインユニット18は、偏向電磁石30に対して着脱可能に構成されていてもよい。
また、エネルギー分析スリット28より上流側に設けられている、電磁石を含むエネルギー分析電磁石24は、上流の高エネルギー多段直線加速ユニット14に対して着脱したり連結したりできるように構成してもよい。また、後述するビーム輸送ラインユニット18をモジュール型のビームラインユニットで構成した場合、エネルギー分析スリット28より下流側に設けられている、偏向電磁石30は、下流のビーム輸送ラインユニット18に対して着脱したり連結したりできるように構成してもよい。
リナック、ビーム偏向ユニットは、それぞれ平面架台上に配置され、それぞれの機器を通過するイオンビーム軌道が実質的に1水平面に含まれる(最終エネルギーフィルターの偏向後の軌道は除く)ように構成されている。
(ビーム輸送ラインユニット)
図6(a)は、ビーム走査器からビーム平行化器以降のビームラインから基板処理供給ユニットまでの概略構成を示す平面図、図6(b)は、ビーム走査器からビーム平行化器以降のビームラインから基板処理供給ユニットまでの概略構成を示す側面図である。
ビーム偏向ユニット16によって必要なイオン種のみが分離され、必要なエネルギー値のイオンのみとなったビームは、ビーム整形器32により所望の断面形状に整形される。図5、図6に示すように、ビーム整形器32は、Q(四重極)レンズ等(電場式若しくは磁場式)の収束/発散レンズ群により構成される。整形された断面形状を持つビームは、ビーム走査器34により図1(a)の面に平行な方向にスキャンされる。例えば、横収束(縦発散)レンズQF/横発散(縦収束)レンズQD/横収束(縦発散)レンズQFからなるトリプレットQレンズ群として構成される。ビーム整形器32は、必要に応じて、横収束レンズQF、横発散レンズQDをそれぞれ単独で、あるいは複数組み合わせて構成することができる。
図5に示すようにスキャナーハウジング内の最前部のビーム整形器32の直前部とには、イオンビームの総ビーム電流値を計測するためのファラデーカップ80b(リゾルバーファラディカップと呼ぶ)が配置されている。
図14(a)は、リゾルバーファラデーカップ80bを正面から見た模式図、図14(b)は、リゾルバーファラデーカップ80bの動作を説明するための模式図である。
リゾルバーファラデーカップ80bは、駆動機構によりビームライン上に上下方向から出し入れ可能に構成され、また、水平方向に長い長方形の枡状形状で、開口部をビームライン上流側に向けて構成されており、リナック及びビーム偏向部の調整の際に、イオンビームの総ビーム電流を計測する目的の他、ビームライン下流に到達するイオンビームを必要に応じてビームライン上で完全に遮断するために用いられる。またリゾルバーファラデーカップ80b、ビーム走査器34及びサプレッション電極74、グランド電極76a、78a、78bは、スキャナーハウジング82に収容されている。
ビーム走査器34は、周期変動する電場により、イオンビームの進行方向と直交する水平方向にイオンビームを周期的に往復走査させる偏向走査装置(ビームスキャナーとも呼ばれる)である。
ビーム走査器34は、ビーム進行方向に関して、イオンビームの通過域を挟むようにして対向配置された一対(2枚)の対向走査電極(二極式偏向走査電極)を備え、0.5Hz〜4000Hzの範囲の一定の周波数で正負に変動する三角波に近似の走査電圧が、2枚の対向電極にそれぞれ逆符号で印加される。この走査電圧は、2枚の対向電極のギャップ内において、そこを通過するビームを偏向させる変動する電場を生成する。そして、走査電圧の周期変動により、ギャップを通過するビームが水平方向にスキャンされる。
高エネルギーイオン注入された際に、シリコンウェハ内部に生成される結晶ダメージの量は、スキャン周波数に反比例する。そして、結晶ダメージの量が、生産される半導体デバイスの品質に影響することがある。このような場合に、スキャン周波数を自由に設定できるようにすることにより、生産される半導体デバイスの品質を高めることができる。
さらに、走査電圧をかけない状態で、ウェハ直近で測定されたビーム位置ずれ量を補正するために、オフセット電圧(固定電圧)が走査電圧に重畳される。このオフセット電圧によって、スキャン範囲が左右に偏ることがなくなり、左右対称なイオン注入が実施できる。
ビーム走査器34の下流側には、イオンビームの通過域に開口を有するサプレッション電極74が2つのグランド電極78a、78bの間に配置されている。上流側には、走査電極の前方にグランド電極76aを配置しているが、必要に応じて下流側と同じ構成のサプレッション電極を配置することができる。サプレッション電極は、正電極への電子の侵入を抑制する。
また、偏向電極87a,87bの上方と下方には、グランド遮蔽板89が配置されている。グランド遮蔽板は、ビームに付随する二次電子が、外側から回り込んでビーム走査器34の正電極に流れ込むことを防いでいる。サプレッション電極とグランド遮蔽板により、走査器の電源が保護されるとともに、イオンビームの軌道が安定化される。
ビーム走査器34の後方側にビームパーク機能を持っている。ビームパークは、ビームスキャナーを通過したイオンビームを必要に応じて水平に大きく偏向させてビームダンプに導くように構成されている。
ビームパークは、電極の放電など、イオン注入中に予期せぬ障害が発生し、そのまま注入動作を続けると、ドーズの均一性不良などの注入不良が発生する場合に、瞬間的(10μs以内)にビーム輸送を中止するシステムである。実際には、ビーム電流の著しい低下を観測した瞬間に、ビームスキャナー電源の出力電圧を最大スキャン幅に対応する電圧の1.5倍に上げて、ビームをパラレルレンズ横のビームダンプに導いている。障害が発生した時点のウェハ上のビーム照射位置を記憶しておき、障害が解消した後、上下に走査運動しているウェハがその位置に来た瞬間にビームを元の軌道に戻すことによって、あたかも何もなかったかのように、イオン注入が継続される。
このように高速応答する電源は、主としてコストの問題から、余り電圧を高くできない。一方で、高度な注入ドーズの均一性を得るためには、走査範囲をウェハより広く取らなければならない。そのためには、ビーム走査器に高エネルギービームを十分偏向できる能力が必要である。これは、ビーム走査器の偏向電極の間隔と長さに制約を設けることで実現できる。本実施の形態におけるエネルギー領域では、電極長を間隔の5倍以上とすればよい。
スキャンハウジング内において、ビーム走査器34の下流側には、ビーム走査空間部が長い区間において設けられ、ビーム走査角度が狭い場合でも十分なスキャン幅を得られるように構成されている。ビーム走査空間部の下流にあるスキャンハウジングの後方には、偏向されたイオンビームを、ビーム走査偏向前のイオンビームの方向になるように調整する、つまり、ビームラインに平行となるように曲げ戻すビーム平行化器36が設けられている。
ビーム平行化器36で発生する収差(ビーム平行化器の中心部と左右端部の焦点距離の差)は、ビーム走査器34の偏向角の2乗に比例するので、ビーム走査空間部を長くして偏向角を小さくすることは、ビーム平行化器の収差を抑えることに大きく寄与する。収差が大きいと、半導体ウェハにイオンビームを注入する際に、ウェハの中心部と左右端部とでビームサイズとビーム発散角が異なるため、製品の品質にバラツキが生じることがある。
また、このビーム走査空間部の長さを調整することによって、ビーム輸送ラインユニットの長さを、高エネルギー多段直線加速ユニット14の長さに合わせることができる。
図7は、ビーム走査器の一例の主要部を上方から見た模式図である。図8は、ビーム走査器の一例の主要部を側方から見た模式図である。図9は、ビーム走査器の一例をイオンビームラインの途中経路に着脱自在に装着した構造を下流側から見た正面模式図である。
ビーム走査器134は、図7、図8に示すように、一対の偏向電極128、130とこれらの上流側近傍、下流側近傍に組み付けられたグランド電極132、133とが箱体150内に収容、設置されている。箱体150の上流側側面及び下流側側面であって、グランド電極132、133の開口部に対応する箇所には、それぞれ、上流側開口部(図示省略)、グランド電極133の開口部より大きめの開口部152A(図8参照)が設けられている。
偏向電極と電源との接続は、フィードスルー構造にて実現されている。一方、箱体150の上面には偏向電極128、130と電源とを接続するためのターミナルとグランド用のターミナルが設けられている。また、箱体150には、ビーム軸に平行な2つの側面に、着脱や持ち運びに都合のよい取っ手が設けられている。なお、箱体150には、ビーム走査器134内の圧力を下げるための真空排気用の開口部が形成されており、図示しない真空排気装置に接続されている。
図9に示すように、箱体150は、架台160上に固定設置されたビームガイドボックス170内にスライド自在に設置されている。ビームガイドボックス170は箱体150より十分に大きく、底部には箱体150をスライド可能にするための2本のガイドレールが敷設されている。ガイドレールは、ビーム軸に直交する方向に延びており、その一端側のビームガイドボックス170の側面は扉172により開閉自在にされている。これにより、ビーム走査器134の保守・点検時には、箱体150をビームガイドボックス170から簡単に取り出すことができる。なお、ビームガイドボックス170内に押し込まれた箱体150をロックするために、ガイドレールの他端には係止機構(不図示)が設けられている。
これらのスキャナー周辺のユニット部材は、ビームラインのメンテナンス時の作業対象であり、メンテナンス作業は作業スペースR1から容易に実施することができる。高エネルギー多段直線加速ユニット14のメンテナンス作業時にも、同様に、作業スペースR1から容易に実施することができる。
ビーム平行化器36には、電場式平行化レンズ84が配置されている。図6に示すように、電場式平行化レンズ84は、略双曲線形状の複数の加速電極対と減速電極対で構成されている。各電極対は、放電が起きない程度の広さの加速・減速ギャップを介して向き合っており、加速減速ギャップには、イオンビームの加減速を引き起こす軸方向の成分と、基準軸からの距離に比例して強くなって、イオンビームに横方向の収束作用を及ぼす横成分とを併せ持つ電界が形成される。
加速ギャップを挟む電極対のうち下流側の電極と、減速ギャップの上流側の電極、及び、減速ギャップの下流側の電極と次の加速ギャップの上流側の電極とは、同一電位になるように、それぞれ一体の構造体を形成している。図6(b)に示すように、さらにこれらの構造体は、上部ユニットと下部ユニットの上下対の組体で構成され、上部ユニットと下部ユニットの間には、イオンビームが通過する空間部が設けられている。
電場式平行化レンズ84の上流側から最初の電極(入射電極)と最後の電極(出射電極)は、接地電位に保たれている。これによって、平行化レンズ84通過前後で、ビームのエネルギーは変化しない。
中間の電極構造体には、加速ギャップの出口側電極と減速ギャップの入り口側電極には、可変式定電圧の負電源90が、減速ギャップの出口側電極と加速ギャップの入り口側電極には、可変式定電圧の正電源が接続されている(n段の時は負正負正負・・・))。これによって、イオンビームは加速・減速を繰り返しながら、ビームラインの中心軌道と平行な方向に段階的に向いていく。そして、最終的に偏向走査前のイオンビーム進行方向(ビームライン軌道方向)に平行な軌道に乗る。
このように、ビーム走査器34によりスキャンされたビームは、電場式平行化レンズ等を含むビーム平行化器36により、スキャン前のイオンビーム進行方向(ビームライン軌道方向)に平行な偏向角0度の軸(基準軸)に対して平行になる。このとき、スキャン領域は、基準軸に関して左右対称になる。
電場式平行化レンズ84から出たイオンビームは、電場式最終エネルギーフィルター38(AEF(94):Angular Energy Filter)に送られる。最終エネルギーフィルター94では、ウェハに注入する直前のイオンビームのエネルギーに関する最終的な分析が行われ、必要なエネルギー値のイオン種のみが選択されるとともに、合わせて、中性化した価数のない中性粒子や、イオン価数の異なるイオンの除去が行われる。この電界偏向による最終エネルギーフィルター94は、ビームライン軌道方向の上下方向に対向する一対の平面若しくは曲面からなる板状の偏向電極により構成され、ビームライン軌道方向の上下方向において最終エネルギーフィルター94自身の偏向作用により下方に曲がっていくイオンビーム軌道に合わせて屈曲している。
図6(a)、図6(b)に示すように、電界偏向用電極は、一対のAEF電極104から構成され、イオンビームを上下方向より挟み込むように配置されている。一対のAEF電極104のうち、上側のAEF電極104には正電圧を、下側のAEF電極104には負電圧をそれぞれ印加している。電界による偏向時には、一対のAEF電極104間で発生する電界の作用によって、イオンビームを下方に約10〜20度偏向させ、目的エネルギーのイオンビームのみが選択されることとなる。図6(b)に示されるように、最終エネルギーフィルター94においては選択された価数のイオンビームのみが設定した軌道角度で下方に偏向される。このようにして選択されたイオン種のみからなるビームが正確な角度で一様に被照射物であるウェハ200に照射される。
実際に高エネルギービームを偏向する上では、上下方向に対向する一対の板状の偏向電極204は、図10に示すように、イオンビーム軌道に合わせて屈曲させるときに、偏向角と曲率半径に合わせて、前後にn分割し、それぞれの上部電極および下部電極が各々同電位に保たれた板状の電極とした方が、製作精度や経済性の点で優れている。また、前後にn分割された板状の偏向電極は、上部電極および下部電極を各々同電位に保つ構成のほか、n分割の上下一対の板状電極として、それぞれ別の電位設定とすることも可能である。
このような構造を取ることによって、電場式のエネルギーフィルターを高エネルギーのスキャンビーム輸送ラインに搭載することが可能になっている。電場によって、ビームスキャン面と直交する方向にビームを偏向するため、ビームスキャン方向の注入イオン密度分布(均一性)に影響を与えず、エネルギー分析を行うことができるようになっている。
さらに、最終エネルギーフィルターの搭載によって、本ビームラインには、高エネルギー多段直線加速ユニット14の高周波線形加速装置、U字状偏向部の磁場式のEFM(エネルギー分析電磁石24)とBM(偏向電磁石30)と合わせて、3種類のビームフィルターが搭載されることになった。前述のように、高周波線形加速装置は速度(v)フィルターであり、EFMとBMは運動量(mv)フィルターであり、この最終エネルギーフィルターはその名の通りエネルギー(mv2/2)フィルターである。このように、方式の異なる三重のフィルターをかけることにより、従来と比べてエネルギー純度が高いだけでなく、パーティクルやメタルコンタミネーションも少ない非常に純粋なイオンビームをウェハに供給できるようになっている。
なお、機能的には、EFMは高分解能で、高周波線形加速装置をすり抜けたエネルギーコンタミネーションの除去やエネルギー幅の制限を行い、AEFは比較的低分解能で、EFMによるエネルギー分析後のビーム輸送ラインユニットで、主にレジストアウトガスによって価数が変化したイオンを除去する役割を担っている。
最終エネルギーフィルター94は、最終エネルギーフィルター94の上流側にグランド電極108、および下流側の2つのグランド電極の間にAEFサプレッション電極110を設けた電極セットを備えている。このAEFサプレッション電極110は、正電極へ電子の侵入を抑制する。
最終エネルギーフィルター94の最下流側のグランド電極の左右端に配置されたドーズカップ122により、ドーズ量の目安とする注入注のビーム電流量を測定する。
(基板処理供給ユニット)
図6(a)においてウェハ200に隣接して示した矢印はビームがこれらの矢印の方向にスキャンされることを示し、図6(b)においてウェハ200に隣接して示した矢印はウェハ200がこれらの矢印の方向に往復移動、すなわち機械走査されることを示している。つまり、ビームが、例えば一軸方向に往復スキャンされるものとすると、ウェハ200は、図示しない駆動機構により上記一軸方向に直角な方向に往復移動するように駆動される。
ウェハ200を所定の位置に搬送供給し、イオン注入による処理を行う基板処理供給ユニット20は、プロセスチャンバ(注入処理室)116に収納されている。プロセスチャンバ116は、AEFチャンバ102と連通している。プロセスチャンバ116内には、エネルギー制限スリット(EDS: Energy Defining Slit)118が配置されている。エネルギー制限スリット118は、所用以外のエネルギー値と価数を持つイオンビームの通過を制限することにより、AEFを通過した所用のエネルギー値と価数を持つイオンビームだけを分離するために、スキャン方向に横長のスリットで構成されている。また、エネルギー制限スリット118は、スリットの分離の間隔を調整するために上下方向から可動式の部材でスリット体を構成し、エネルギー分析や、注入角度の測定など、複数の測定目的に対応できるようにしても良い。さらに、可動式の上下の切替えスリット部材は、複数のスリット面を備えて、これらのスリット面を切り替えた後、さらに上下スリットの軸を上下方向に調整させたり、回転させたりすることによって、所望のスリット幅に変更するよう構成しても良い。これら複数のスリット面をイオン種に応じて順次切り替えることにより、クロスコンタミネーションを低減する構成とすることも可能である。
プラズマシャワー120は、低エネルギー電子をイオンビームのビーム電流量に応じて軌道上のイオンビームとウェハ200の前面に供給し、イオン注入で生じる正電荷のチャージアップを抑制する。なお、最終エネルギーフィルター94の最下流側のグランド電極の左右端に配置されたドーズカップ122の代わりに、プラズマシャワー120の左右端にドーズ量を測定するドーズカップ(不図示)を配置しても良い。
ビームプロファイラ124は、イオン注入位置でのビーム電流の測定を行うためのビームプロファイラカップ(図示省略)を備えている。ビームプロファイラ124は、イオン注入前に水平方向へ移動させながら、イオン注入位置のイオンビーム密度を、ビームスキャン範囲において測定する。ビームプロファイル測定の結果、イオンビームの予想不均一性(PNU:Predicted Non Uniformity)がプロセスの要求に満たない場合には、ビーム走査器34の印加電圧の制御関数を補正して、プロセス条件を満たすように自動的に調整する。また、ビームプロファイラ124に、バーティカルプロファイルカップ(図示省略)を併設して、ビーム形状・ビームX−Y位置を測定して、注入位置でのビーム形状を確認し、ビーム幅やビーム中心位置、ダイバージェンスマスクと組み合わせて注入角度やビーム発散角を確認できるよう構成することも可能である。
ビームラインの最下流には、スキャン範囲のイオンビームをウェハ領域において全て計測できるビーム電流計測機能を有する横長ファラデーカップ126が配置されており、最終セットアップビームを計測するよう構成されている。図15は、横長ファラデーカップを正面から見た模式図である。なお、クロスコンタミネーションを低減するために、横長ファラデーカップ126は、イオン種に応じて三角柱の3面を切り替えることができるトリプルサーフェス構造のファラデーカップの切り換え式底面を持つ構成とすることも可能である。また、横長ファラデーカップ126に、バーティカルプロファイルカップ(図示省略)を併設して、ビーム形状やビーム上下位置を測定して、注入位置での上下方向の注入角度やビーム発散角をモニターできるよう構成することも可能である。
前述のように、高エネルギーイオン注入装置100は、図1に示すように、作業スペースR1を囲むように、各ユニットがU字状に配置されている。そのため、作業スペースR1にいる作業者は、最小限の移動により、多くのユニットに対して部品の交換やメンテナンス、調整を行うことができる。以下では、ビーム走査器を例に、ユニット内部へのアクセスを可能とする開閉機構について説明する。
(全体レイアウト、メンテナンス性、製造性、地球環境配慮)
以上、本実施の形態に係る高エネルギーイオン注入装置100は、イオンビーム生成ユニット12にて生成したイオンビームを、高エネルギー多段直線加速ユニット14にて加速するとともに、ビーム偏向ユニット16により方向転換し、ビーム輸送ラインユニット18の終端に設けられている基板処理供給ユニット20にある基板に照射する。
また、高エネルギーイオン注入装置100は、複数のユニットとして、高エネルギー多段直線加速ユニット14と、ビーム輸送ラインユニット18と、を含んでいる。そして、高エネルギー多段直線加速ユニット14およびビーム輸送ラインユニット18は、図1に示す作業スペースR1を挟んで対向するように配置されている。これにより、従来装置ではほぼ直線状に配置されてきた高エネルギー多段直線加速ユニット14と、ビーム輸送ラインユニット18とが折り返して配置されるため、高エネルギーイオン注入装置100の全長を抑えることができる。また、ビーム偏向ユニット16を構成する複数の偏向電磁石の曲率半径は、装置幅を最小にするように最適化されている。これらによって、装置の設置面積を最小化するとともに、高エネルギー多段直線加速ユニット14とビーム輸送ラインユニット18との間に挟まれた作業スペースR1において、高エネルギー多段直線加速ユニット14やビーム輸送ラインユニット18の各装置に対する作業が可能となる。
また、高エネルギーイオン注入装置100を構成する複数のユニットは、ビームラインの上流側に設けられている、イオンビームを発生させるイオンビーム生成ユニット12と、ビームラインの下流側に設けられている、イオンが注入される基板を供給し処理する基板処理供給ユニット20と、イオンビーム生成ユニット12から基板処理供給ユニット20へ向かうビームラインの途中に設けられている、イオンビームの軌道を偏向するビーム偏向ユニット16とを含んでいる。そして、イオンビーム生成ユニット12および基板処理供給ユニット20をビームライン全体の一方の側に配置し、ビーム偏向ユニット16をビームライン全体の他方の側に配置している。これにより、比較的短時間でメンテナンスの必要なイオン源10や、基板の供給、取り出しが必要な基板処理供給ユニット20が隣接して配置されるため、作業者の移動が少なくてすむ。
また、高エネルギー多段直線加速ユニット14は、イオンの加速を行う複数の一連の線形加速装置を備えており、複数の一連の線形加速装置のそれぞれは、共通の連結部を有していてもよい。これにより、基板へ注入するイオンに必要とされるエネルギーに応じて、線形加速装置の数や種類を容易に変更できる。
また、スキャナー装置であるビーム走査器34および平行化レンズ装置であるビーム平行化器36は、隣接するユニットとの連結部として標準化された形状を有していてもよい。これにより、線形加速装置の数や種類を容易に変更できる。そして、ビーム走査器34やビーム平行化器36は、高エネルギー多段直線加速ユニット14が備える線形加速装置の構成および数に応じて選択されてもよい。
また、高エネルギーイオン注入装置100において、各装置のフレームと真空チャンバとを一体化し、装置フレームまたは真空チャンバの基準位置に合わせて組付けを行うことにより、ビームの芯出し(位置調整)が可能となるように構成してもよい。これにより、煩雑な芯出し作業が最小限となり、装置立ち上げ時間が短縮でき、作業間違いによる軸ずれの発生が抑制できる。また、連続する真空チャンバ同士の芯出しを、モジュール単位で実施してもよい。これにより、作業負荷を低減できる。また、モジュール化された装置の大きさを、装置の移動がし易い大きさ以下にしてもよい。これにより、モジュールや高エネルギーイオン注入装置100の移設負荷を低減できる。
また、高エネルギーイオン注入装置100は、高エネルギー多段直線加速ユニット14、ビーム輸送ラインユニット18、排気装置等を含む構成機器を一体の架台に組み込んでもよい。また、高エネルギーイオン注入装置100は、高エネルギー多段直線加速ユニット14やビーム偏向ユニット16、ビーム輸送ラインユニット18を平面基盤上にほぼ一水平面に含まれるようにしている。これにより、高エネルギーイオン注入装置100を一水平面の平面基盤上に固定された状態で調整しブロック毎にそのまま運搬することもできるので、輸送中に調整ずれを生ずることが少なく、現地で再調整する手間が大いに省ける。そのため、現場に多数の熟練者を送り込んで長期間滞在させる不経済を避けることができる。
また、上記の平面基盤を架台の床でなく中間に形成すると、平面基盤上に、イオンビーム軌道に直接的に関係する上述の機器のみを搭載するようにできる。そして、これらに対する補助的な機器である高周波立体回路等の部材を、全て平面基盤の下に形成される空間中に組み込むことで、空間利用率を向上させ、よりコンパクトなイオン注入装置を実現することも可能になる。
したがって、上述の高エネルギーイオン注入装置100は、設置場所に余裕がない場所でも設置でき、製作工場内で組み付け調整したままの状態で需要箇所に輸送して、現地に据え付け、最終調整により使用ができる。また、高エネルギーイオン注入装置100は、半導体製造工場の半導体製造装置ラインの標準的な水準における利用に耐えられる以上の高エネルギーのイオン注入を実現できる。
このように、高エネルギーイオン注入装置100は、各ユニットや各装置のレイアウトを工夫することで、従来と比較して大いに小型化され、従来の半分程度の設置長さに納めることができる。また、本実施の形態に係るイオン注入装置は、製造工場内で各構成要素を基盤上に組み込み、基盤上で位置調整してイオンビーム軌道を確立したまま輸送車に搭載して現地に輸送し、架台ごと据え付けた上で輸送中に生じた狂いを微調整して除去することにより稼働させることができる。そのため、熟練者でなくとも現場調整が格段に容易かつ確実に実施でき、また立ち上げ期間を短縮できる。
また、長いU字状の折り返し型ビームラインのようなレイアウトを取ることによって、最高5〜8MeVの高エネルギーイオンを高精度で注入できるイオン注入装置を実現することができる。また、このイオン注入装置は、中央通路(中央領域)を持つこのレイアウトによって、小さな設置面積で十分なメンテナンスエリアを持つ。また、イオン注入装置の運転時においては、電場式パラレルレンズや電場式スキャナー、電場式AEF等の使用による低消費電力運転によって、消費電力を少なくできる。換言すると、本実施の形態に係るイオン注入装置は、電場式偏向式の平行化レンズ装置の使用によるスキャンビームの平行化機構を有することで、低消費電力運転が可能となる。
前述の高エネルギーイオン注入装置は、少なくともビーム輸送ラインユニットに含まれる各装置が電場式のため、装置構成の簡略化や電源の低出力化が可能となる。
図16(a)は、本実施の形態に係るビーム整形器32からビーム走査器34までの概略構成を示す上面図、図16(b)は、本実施の形態に係るビーム整形器32からビーム走査器34までの概略構成を示す側面図である。
図16(a)、図16(b)に示すように、電場式のビーム走査器34は、一対の偏向電極87a,87bを有している。また、偏向電極87a,87bの上方と下方には、グランド遮蔽板89が配置されている。グランド遮蔽板89は、ビームに付随する二次電子が、外側から回り込んでビーム走査器34の電極に流れ込むことを防いでいる。外側から一対の偏向電極87a,87bの平行部の間隔をW1、偏向電極87a,87bのビーム進行方向の長さをL1とすると、L1≧5W1を満たすように構成されてもよい。また、電源(増幅器)は、0.5kHz〜4kHzの範囲の任意の走査周波数で動作が可能なように構成されてもよい。また、平行部のない一対の偏向電極87a,87bの間隔をD1とすると、L1≧5D1を満たすように構成されていてもよい。
一般に高エネルギービームを十分に偏向するためには,ビームを、高い電界の中を長い距離通過させる必要がある。高い電界を作るためには高い電圧を利用するか電極間隔を狭める必要がある。また、ビーム走査器では、電圧を1kHz程度の周波数で変化させることのできる高圧電源を使用する必要があるが,この種の電源で高い電圧を出力できるものを一般に入手することは困難である。したがって、ビーム走査器における偏向電極の間隔を狭める必要がある。
偏向電極87a,87bの間隔は、通過させるビームの幅より大きくなければならない。これによって、電極の最低間隔が決定される。また、電極の長さは、ビームエネルギー、電界および偏向する角度によって決まる。また、ビームエネルギーは装置仕様で決められている。電界は上の条件により決まる。よって、偏向する角度を決めることで電極の長さが決まる。
例えば、本実施の形態に係るビーム走査器における左右スキャナー電極の間隔は60mm程度(ビームサイズ最大40mmを想定、電極間の耐圧については問題がない程度。)
、スキャナー電極のビーム進行方向幅は460mm程度と長くした。また、スキャン電圧±30kV、走査周波数は0.5〜4kHz程度である。
電場式のビーム走査器34を有する一対の偏向電極87a,87bの平行部の間隔をW1、偏向電極の高さをH1とすると、H1≧1.5W1を満たすように構成されていてもよい。ビームの全体にわたって均一な走査を行うためには,スキャナー中の電界は上下方向に一様になっている必要がある。そこで、電極高さが十分に高い偏向電極を用いることで、電界を一様にすることができる。
偏向電極87a(87b)は、長方形のロングプレート形状であり、他の偏向電極87b(87a)との対向面が平面または曲面で構成されており、対向面と反対側の外側面は段差形状となるように構成されていてもよい。
また、偏向電極87a(87b)は、他の偏向電極87b(87a)との対向面が二段平面で構成されており、対向面と反対側の外側面は段差形状となるように構成されていてもよい。これにより、加工性(製作性)が向上する。このように、外側面を簡易な平面構造とすることで加工費用を低減することができる。また、段差を付けてより多く外側を削ることにより部品重量が軽なり、取付け作業時の作業者負担を軽減することができる。
また、偏向電極87b(87a)は、他の偏向電極87b(87a)との対向面がノコギリ刃状に加工された段差で構成されていてもよい。これにより、メタルコンタミネーションの発生を抑えることができる。
なお、上述のように、ビーム走査器の偏向電極の間隔は狭い方が望ましい。しかしながら、スキャンされたビームは幅を持っているため、電極間隔が狭すぎると電極にビームが当たってしまう。そこで、一対の偏向電極は、スキャン幅がまだ広がっていない上流側の間隔が狭くなるように上流側の形状は互いに平行な直線構造とし、スキャン幅の広がる下流に向かって約±5度で広がっていく形状とした。広がる部分を曲線や段差にすることもできるが、直線構造は加工がより簡易であり低コストで作ることができる。
高エネルギーイオン注入装置100は、電場式のビーム走査器34のビームライン下流側に配置され、イオンビームの通過域に開口を有する上流側のグランド電極78aおよび下流側のグランド電極78bと、上流側のグランド電極78aと下流側のグランド電極78bとの間に配置されているサプレッション電極74と、を更に備えている。
図17は、下流側グランド電極の開口幅とサプレッション電極の開口幅と上流側グランド電極の開口幅との大きさの関係を説明するための模式図である。上流側のグランド電極78aの開口78a1の幅をW1、サプレッション電極74の開口74a1の幅をW2、下流側のグランド電極78bの開口78b1の幅をW3、とすると、各電極は、W1≦W2≦W3を満たすように構成されていてもよい。スキャンされたビームは、下流に向かうにつれて横方向に広がるため、サプレッション電極74、グランド電極78a,78bのそれぞれの開口幅を上述の関係を満たすように構成することで、スキャンされたビームが各部材に当たらないようにできる。
電場式のビーム走査器34は、図16(a)に示すように、偏向角度が±5°以下であってもよい。これにより、下流にある電場式のビーム平行化器36(図6参照)への入射角が小さくなり、収差の発生を抑えられる。収差(ビーム平行化器中心と端部との焦点距離の差)はこの入射角の2乗に比例して大きくなる。
電場式のビーム走査器34と電場式のビーム平行化器36との間に、電場式のビーム走査器34の偏向角度を小さくするためのビーム走査空間96が設けられている。これにより、電場式のビーム走査器34と電場式のビーム平行化器36との間隔を広げることができる。そのため、電場式のビーム走査器34における偏向角度が小さくても、スキャンされたビームが電場式のビーム平行化器36に到達するまでに十分に広がる。そのため、電場式のビーム平行化器36でのビームの収差を抑えつつ十分な広さのスキャン範囲を確保できる。
電場式のビーム走査器34が収納され、ビーム走査空間96が設けられている真空容器91と、真空容器91に接続され、真空容器の内部の気体を排出するための真空ポンプ(不図示)と、を備えてもよい。例えば、電場式ビーム走査器の位置に真空度確保のためのターボ分子ポンプを設け、電場式ビーム走査器の直下にターボポンプを配置してもよい。
これにより、電場式のビーム走査器34のビームライン真空度を確保することができる。また、電場式のビーム走査器34近傍のアパチャーや電極等にイオンが衝突することで発生するアウトガスを効率よく排気できる。このように、発生したガスを発生源付近でできるだけ多く取り除くことができれば周囲に拡散するガスが少なくなる。また、不要なガスがなければそのガスに邪魔されずビームが通過できるため、ビームの輸送効率が向上する。
電場式のビーム平行化器36(図6参照)は、ビーム走査空間96を挟んで上流側に配置されている電場式のビーム走査器34が有する一対の偏向電極87a,87bの間の領域に焦点Fが位置するように構成される。走査範囲が一定のとき、ビーム平行化器の収差はその焦点距離の2乗に反比例するため、焦点距離の長いビーム平行化器36を設置することで、収差を抑えることができる。
図18は、ビーム平行化器の他の例を模式的に示す図である。図18に示す電場式のビーム平行化器136は、多段の平行化レンズ84a,84b,84cを有している。これにより、スキャンされたビームを徐々に平行化することができるため、電場式のビーム走査器34と電場式のビーム平行化器136との間隔、例えば上述のビーム走査空間96の長さ、を短くできる。そのため、ビームライン全長を短縮できる。
本実施の形態に係る高エネルギーイオン注入装置100は、図1に示すように、イオン源10を有するイオンビーム生成ユニット12および高エネルギー多段直線加速ユニット14を含む、長い軌道を有する第1セクションと、ビーム偏向ユニット16を含む偏向部による方向変換のための第2セクションと、ビーム輸送ラインユニット18を含む、長い軌道を有する第3セクションと、により高エネルギーイオン注入ビームラインを構成し、第1セクションと第3セクションとを対向させて配置して、対向する長直線部を有するU字状の装置レイアウトを構成した。
また、高エネルギーイオン注入装置100は、図5に示すように、イオンビーム生成ユニット12と高エネルギー多段直線加速ユニット14との間に、イオンビームの総ビーム電流量を測定するインジェクターファラデーカップ80aを、ビームラインへの挿入退避が可能なように設けた。
同様に、ビーム偏向ユニット16とビーム輸送ラインユニット18との間に、イオンビームの総ビーム電流量を測定するリゾルバーファラデーカップ80bを、ビームラインへの挿入退避が可能なように設けた。
また、高エネルギーイオン注入装置100は、図1に示すように、ビーム輸送ラインユニット18の下流側に配置され、イオン注入による処理を行う基板処理供給ユニット20を更に備えている。基板処理供給ユニット20は、図6に示すように、イオン注入位置の後方に、イオンビームの総ビーム電流量を測定する固定式の横長ファラデーカップ126を設けた。
また、高エネルギーイオン注入装置100は、図1等に示すように、イオンビーム生成ユニット12に設けたビーム方向調整部を含む引き出し電極装置(引き出し電極40:図2参照)と、高エネルギー多段直線加速ユニット14の終端内部に設けた、ビーム方向性並びに収束発散の調整を行う調整部(横収束レンズ64a、縦収束レンズ64b:図5参照)と、エネルギー分析ユニット(ビーム偏向ユニット16:図1参照)に設けた電場式の高エネルギービーム調整部(軌道調整四重極レンズ26:図5参照)と、ビーム輸送ラインユニット18が有する電場式のビーム整形器32および電場式のビーム平行化器36と、を調整することにより、ビーム収束発散量が均質で軌道ずれの少ない方向性が均一なビームを生成し、そのビームを電場式のビーム走査器34に供給するよう構成した。
電場式のビーム走査器34は、図16に示すように、イオンビームを通常のスキャン範囲の更に外側に偏向させて、電場式のビーム平行化器36の手前部に配設された左右いずれか一方のビームダンプ部95a,95bに導くことで、ビームを一時的にダンプできるように構成されていてもよい。
また、電場式のビーム走査器34は、走査範囲の左右の偏りを補正するためのオフセット電圧(電界がゼロになる位置を左右の中心からずらすための一定電圧)が印加できるように構成されている。また、ビーム走査器34は、オフセット電圧を、電場式のビーム走査器34の中心付近を通るように調整されたビームがウェハに到達したときの位置ずれから逆算して決められるようにし、注入角度・注入位置微調整システムの一部を構成するようにした。
上述の実施の形態では、電場式のビーム平行化器を例に説明したが、場合によっては磁場式のビーム平行化器を採用してもよい。
図19(a)は、本実施の形態のある態様のビーム平行化器の概略構成を示す上面図、図19(b)は、本実施の形態のある態様のビーム平行化器の概略構成を示す側面図である。なお、図6に示すビーム平行化器36と同じ構成については、同じ符号を付して説明を適宜省略する。
図19(a)、図19(b)に示されるビーム平行化器142は、複数対の加速用電極143,144と、複数対の減速用電極145,146と、を有する加速減速電極レンズ群から構成されており、スキャンされたイオンビームを段階的に平行化するように構成されている。これにより、一つの加速用電極または一つの減速用電極に印加される電圧を小さくできるため、電源の簡素化、小型化が可能となり、また、放電の発生も抑制できる。
また、加速用電極143の下流側の電極143bと減速用電極145の上流側の電極145aは同電位となるように導通されており、第1の平行化電源147が接続されている。また、減速用電極145の下流側の電極145bと加速用電極144の上流側の電極144aは同電位となるように導通されており、第2の平行化電源148が接続されている。また、加速用電極144の下流側の電極144bと減速用電極146の上流側の電極146aは同電位となるように導通されており、第1の平行化電源147が接続されている。なお、加速用電極143の上流側の電極143aと減速用電極146の下流側の電極146bは、それぞれ接地電位となっている。このように一部の電極に印加される電圧を同じにすることで、用いられる電源を少なくできる。
なお、複数対の加速用電極143,144および複数対の減速用電極145,146のうち、ビームラインの最上流側に配置されている入り口接地電極である電極143aと電極143aに隣接する電極143bとにより電子の流入を抑制する第1サプレッション電極を構成し、ビームラインの最下流側に配置されている出口接地電極である電極146bと電極146bに隣接する電極146aとにより電子の流入を抑制する第2サプレッション電極を構成してもよい。これにより、サプレッション電極を別に設ける必要がなくなる。
また、第1の平行化電源147により加速用電極143の下流側の電極143bに印加する電圧を−V1[V](V1>0)、第2の平行化電源148により減速用電極145の下流側の電極145bに印加する電圧をV2[V](V2>0)、加速用電極143の2つの電極143a,143bの間隔をG1、減速用電極145の2つの電極145a,145bの間隔をG2とすると、以下の関係を満たすとよい。
|V1|/G1=|V1+V2|/G2
このように、加速用電極と減速用電極における各電極間での電界強度が一様になるようにすることで、イオンビームをバランスよく加減速しながら平行化できる。
また、ビーム平行化器142は、ビーム平行化器への入射直前のイオンビームのエネルギーとビーム平行化器から出射直後のイオンビームのエネルギーとが同じとなるよう構成されている。より詳述すると、ビーム平行化器142は、ビーム走査器によりスキャンされたイオンビームのエネルギーと加速用電極対(143,144)および減速用電極対(145,146)により平行化されたイオンビームのエネルギーとが同じとなるように、ビーム平行化器142の入射電極(143a)および出射電極(146b)が共に接地され、加速ギャップ出口側の電極(143b,144b)と減速ギャップ入り口側の電極(145a,146a)、及び、減速ギャップ出口側の電極145bと加速ギャップ入り口側の電極144aとが正または負の同電位に構成されている。
また、ビーム平行化器142は、ビームライン上においてビーム走査器により基準軌道の両側にスキャンされたイオンビームを、スキャン平面上において、電極対が作る電界により段階的に基準軌道側に近づく方向に偏向させることにより、基準軌道と平行な軌道に方向を一致させるように各電極電位が設定されている。
図20は、本実施の形態の変形例に係るビーム平行化器の概略構成を示す上面図である。図20に示すビーム平行化器161は、加速用電極および減速用電極からなる3つの平行化レンズ162,163,164が設けられている。ビーム走査器により偏向走査されたイオンビームは、ビームラインL1の下流に向かって広がる。そこで、3つの平行化レンズ162,163,164は、ビームラインL1の上流側から下流側に向かって幅が徐々に大きくなるようにそれぞれが構成されている。これにより、上流側の平行化レンズを小型化することができる。
なお、ビーム平行化器161は、平行化された後のイオンビームのスキャン方向の幅W1が、ビーム走査器によりスキャンされたイオンビームがビーム平行化器161に入射する際の幅W2の2倍以上になるように構成されていてもよい。これにより、ビーム走査器からビーム平行化器までの距離を小さくできる。
本実施の形態に係るビーム平行化器においては、図6、図19、図20に示す加速用電極や減速用電極のように、対の弓形ギャップ電極で構成されている。また、加速用電極対のビームライン下流側の電極および減速用電極対のビームライン上流側の電極は、それぞれの両端で連結され、一体的に連続した電極ユニットとして構成されている。また、上述の各ビーム平行化器は、入射電極および出射電極が接地電位であるが、入射電極および出射電極の一方を接地電位、他方を特定電位とする、若しくは、それぞれ別々の特定電位とすることで、ビーム平行化器に入射したビームを平行化することにより出射したイオンビームのエネルギーを変化させることができる。
このように、本実施の形態に係る高エネルギーイオン注入装置は、高エネルギーイオンビームをビーム電流密度の均一性を保持しながら、低い電圧で動作できるとともに、ビーム平行化器の通過前後のビームエネルギーを変化させない電場を得ることができる。
また、本実施の形態に係る高エネルギーイオン注入装置は、高エネルギーのイオンビームを長い区間の電場を通過させることでビーム平行化するよう構成したものである。そして、さらにイオンビームの加減速が可能な複数の電極レンズ群でビーム平行化するよう構成するとともに、加減速の電極レンズ群を弓形ギャップ電極対レンズで構成し、通過前後でビームエネルギーを変化させないように構成した。
これにより、平行化電源の制御および平行化電場自体の調整が容易であり、平行度の精度と平行化されたビームの進行方向の角度精度を良くすることができる。しかも、左右(スキャン)方向のビーム行路差が対称で、左右均一とすることができるため、高エネルギーイオンビームにおいて、ビームの収束発散の一様性を保つことができる。その結果、平行度の精度と平行化されたビームの進行方向の角度精度を高くすることができる。さらに、ビームスキャンの範囲における高エネルギーイオンビームの密度分布(プロファイル)とビームサイズの変化をほとんどなくすることができ、ビーム電流密度の均一性を保持することができる。
また、ビームスキャン偏向角度を小さくし、ビームスキャン幅をできるだけ小さくするよう構成したビーム走査器の下流にある本実施の形態に係るビーム平行化器は、ビームスキャン幅が狭い入射ビームについても、ウェハをスキャンできる幅まで緩やかに高精度で平行化できる。その結果、ビームの質の変化を小さくして、ビーム電流密度の均一性を保持することができる。
なお、加速減速電極レンズ群が、n個の加速用電極対およびn個の減速用電極対で構成されており、ビームラインに沿って第1の加速用電極対、第1の減速用電極対、第2の加速用電極対、第2の減速用電極対、・・・、前記第n(nは1以上の奇数)の加速用電極対、前記第nの減速用電極対、が順に配置されていた場合、以下のように電位設定するとよい。具体的には、加速減速電極レンズ群において、第1の加速用電極対の入り口側電極の第1電位を接地電位とし、第1の加速用電極対の出口側電極および第1の減速用電極対の入り口側電極の第2電位を−V1[V](V1>0)とし、第1の減速用電極対の出口側電極および前記第2の加速用電極対の入り口側電極の第3電位をV2[V](V2>0)とし、第2の加速用電極対の出口側電極および第2の減速用電極対の入り口側電極の第4電位を−V1[V](V1>0)とし、第2の減速用電極対の出口側電極および第3の加速用電極対の入り口側電極の第5電位をV2[V](V2>0)とし、第nの加速用電極対の出口側電極の第(2n+1)電位を接地電位とする。ここで、第2電位と前記第3電位とは、V1=V2を満たすように設定してもよいし、V1≠V2を満たすように設定してもよい。
図21(a)は、本実施の形態の他の変形例に係る最終エネルギーフィルターから基板処理供給ユニットまでの概略構成を示す上面図、図21(b)は、本実施の形態の変形例に係る最終エネルギーフィルターから基板処理供給ユニットまでの概略構成を示す側面図である。
図21(a)、図21(b)に示される最終エネルギーフィルター149は、スキャンされたイオンビームをスキャン方向Y1と直交する方向Zへ偏向するための3対の偏向電極151a,151b,152a,152b,153a,153bを有する。偏向電極151a,151b,152a,152b,153a,153bは、真空容器であるAEFチャンバ102の内部に配置されている。各偏向電極には、ビームラインL1の上方または下方の空間と連通する複数の孔154が形成されている。複数の孔154は、電場を均一に保つように規則的な若しくは不規則的な配列に形成されている。
電気的な観点からは、偏向電極に孔を開けずに一体で作った方が電界の弱まりがなく望ましい。しかしながら、孔のない偏向電極の場合、対向する偏向電極の間の空間が密閉状態に近くなり、真空度が悪化する。特に、最終エネルギーフィルターの偏向電極間は、下流側の基板処理供給ユニット20におけるレジストウェハ注入時に発生するガスが流入し、排気が困難になる領域である。その結果、放電の可能性が高くなったり、ビームのロスが増加すると考えられる。そこで電極に孔を開け、コンダクタンスを改善することで良好な真空を保つことができるようになる。なお、孔による電界の弱まりは、電圧を余分にかけることで補うこともできる。
最終エネルギーフィルター149においては、複数の孔154を、ビーム進行方向X1と交差する方向(スキャン方向Y1)に分散することで、イオンビームの偏向がスキャン方向Y1において不均一になることを抑制できる。
以上、本発明を上述の実施の形態を参照して説明したが、本発明は上述の実施の形態に限定されるものではなく、実施の形態の構成を適宜組み合わせたものや置換したものについても本発明に含まれるものである。また、当業者の知識に基づいて各実施の形態における組合せや処理の順番を適宜組み替えることや各種の設計変更等の変形を各実施の形態に対して加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれうる。
以下、本願発明の各態様を実施の形態に沿って列挙する。
高エネルギーイオン注入装置100は、イオン源で生成したイオンを静電場で引き出し、イオンビームを生成するビーム引き出し系(イオンビーム生成ユニット12)と、引き出されたイオンビームをさらに加速する高周波加速器(高エネルギー多段直線加速ユニット14)と、加速されたビームのビームサイズ(空間分布)を調整するための少なくとも1台の収束要素と、エネルギー分析電磁石24として使用する少なくとも一台の偏向電磁石とを有し、そのエネルギー分析電磁石24の下流側にエネルギー幅制限スリット27とエネルギー分析スリット28とを設置する。
ビームサイズ(イオンの空間分布)を調整するための収束要素(収束発散レンズ64および四重極レンズ26)は、高周波加速器(第1直線加速器15aおよび第2直線加速器15b)とエネルギー分析電磁石24との間、及びエネルギー分析電磁石24とエネルギー分析スリット28との間に設置され、エネルギー幅のないビーム(高周波加速器に高周波電場を印加せず、引き出されたままのエネルギーで輸送されたビーム)が、エネルギー分析スリット28の位置に焦点を結ぶように調整される。
エネルギー幅のあるイオンビームを構成する個々のイオンの軌道は、それぞれのエネルギーに応じて、エネルギー分析電磁石24によって、偏向面内で空間的に広がる(エネルギー分散)。エネルギー幅制限スリット27は、エネルギー分析スリット28の上流であって、そのエネルギー分散がエネルギー幅のないビームのビームサイズと同程度になる位置に設ける。この位置は、エネルギー分析電磁石24の出口付近になる。
また、エネルギー幅制限スリット27とエネルギー分析スリット28との間に、横収束四重極レンズ26を挿入し、エネルギー幅のないビームの幅が極小になる位置をビームラインの上流側に移すことにより、エネルギー幅制限スリット27とエネルギー分析スリット28との間隔が縮小される。
また、エネルギー分析電磁石24および角度偏向電磁石30は、同じ形状の電磁石であり、同一の動作条件で動作するように構成されている。
エネルギー分析電磁石24は、磁場を注入エネルギーに対応する値に固定し、ビーム電流を増減させるための磁場の調整を行わないように構成してもよい。あるいは、エネルギー分析電磁石24は、磁場を注入エネルギーに対応する値に固定し、高周波加速ユニットの加速電圧と位相とを調整することによって、ビーム電流値を調整するようにしてもよい。複数の偏向電磁石のうち少なくとも1台は、ビーム断面形状調整用の面角調整装置を備えていてもよい。
なお、以上の構成要素の任意の組合せや本発明の構成要素や表現を、方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。