JP2015151535A - 単結晶、放射線検出器及び放射線検出器の使用方法 - Google Patents

単結晶、放射線検出器及び放射線検出器の使用方法 Download PDF

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【課題】従来のものに比べて発光量が高く、放射線検出用途としての実用上必要な寸法を有する単結晶を提供すること。【解決手段】下記一般式(1)で表され、厚みが10mmのときの、波長400nmの光に対する厚み方向の透過率が50%以上である、単結晶。(A1−xBx)2Si2O7(1)[式(1)中、AはY、La及びGdからなる群より選択される少なくとも1種であり、BはY、La及びGdを除く希土類元素からなる群より選択される少なくとも1種であり、xは0.005<x<0.30を満たす。]【選択図】図7

Description

本発明は、X線、γ線等の放射線を検出するための単結晶、当該単結晶を備える放射線検出器、及び放射線検出器の使用方法に関する。
放射線を検出するための単結晶として、NaI(Tl)系の単結晶、GdSiO系の単結晶(以下、「GSO単結晶」と称する場合がある。)等に代わる、発光量のより高い単結晶の開発が進められている。例えば、特許文献1には、GdSi系の単結晶(以下、「GPS単結晶」と称する場合がある。)が開示されている。GPS単結晶は、発光量が高く優れたシンチレータとして活用できる可能性を有している。
特開2009−74039号公報
しかしながら、上記特許文献1に記載の単結晶を含め、放射線検出用の新たな単結晶としてこれまでに報告がなされているのは、結晶中に多くのクラック及び気泡を内包した、白濁した状態の単結晶のみである。すなわち、放射線検出用途としての実用上必要な寸法を有する無色透明な単結晶が得られたという報告はなされていない。
そこで本発明は、従来のものに比べて発光量が高く、放射線検出用途としての実用上必要な寸法を有する単結晶を提供することを目的とする。本発明はまた、そのような単結晶を備える放射線検出器及び放射線検出器の使用方法を提供する。
本発明は、下記一般式(1)で表され、厚みが10mmのときの、波長400nmの光に対する厚み方向の透過率が50%以上である、単結晶である。
(A1−xSi (1)
式(1)中、AはY、La及びGdからなる群より選択される少なくとも1種であり、BはY、La及びGdを除く希土類元素からなる群より選択される少なくとも1種であり、xは0.005<x<0.30を満たす。
上記本発明によれば、従来のものに比べて発光量が高く、放射線検出用途としての実用上必要な寸法を有する単結晶を提供することができる。
本発明において、上記式(1)中、BがCeであることが好ましい。また、本発明において、上記式(1)中、AがGdであることが好ましい。これにより、発光量をより高めることができる。
本発明は、放射線検出用に好適に用いることができる。
本発明の単結晶において、662keVのγ線に対し、150℃における発光量が室温における発光量より高いことが好ましい。また、同単結晶は、662keVのγ線に対し、200℃における発光量が室温における発光量より高いことが好ましい。これにより、室温から高温にかけての幅広い温度範囲において好適に用いることができる。
なお、本発明の単結晶は、厚みが5mmのときの、662keVのγ線に対するエネルギー分解能が7%以下であることが好ましい。これにより、より高精度の放射線検出を行うことができる。
本発明は、上述の単結晶と、当該単結晶からの発光を検出する光検出装置とを備える、放射線検出器を提供する。このような検出器は、本発明の単結晶を備えていることにより、放射線検出能に優れている。
本発明はまた、上述の放射線検出器を150℃以上で使用する、放射線検出器の使用方法を提供する。さらに、本発明は、上述の放射線検出器を200℃以上で使用する、放射線検出器の使用方法を提供する。上述の放射線検出器は、このような高温領域においても好適に用いることが可能である。
本発明によれば、従来のものに比べて発光量が高く、放射線検出用途としての実用上必要な寸法(例えば、いずれか一辺の長さが5mm以上、より好ましくは10mm以上の直方体)を有する単結晶を提供することができる。これは、本発明の単結晶が、多結晶部分、小さな粒界、クラック等の見られない、ほぼ無色透明な良質な単結晶であることによるところが大きい。さらに本発明によれば、そのような単結晶を備える放射線検出器及び放射線検出器の使用方法を提供することができる。
なお、本発明の単結晶は、室温から高温にかけての幅広い温度で優れた検出特性を有している。したがって、本発明によれば、従来の放射線検出器では不可能であった、室温から高温環境にかけて、高精度の放射線検出が可能となる。
単結晶製造装置の基本構成の一例を示す模式断面図である。 実施例1にて得られた単結晶の外観写真である。 実施例1〜3にて得られた単結晶のXRD回折パターンを示す図である。 実施例1にて得られた単結晶試料のアニール後の外観写真である。 アニール前後の試料GPS:Ce2.5%のパルス波高スペクトルを示す図である。 単結晶シンチレータの発光量の温度依存性を測定するための装置の模式図である。 実施例及び比較例にて得られた単結晶シンチレータと、比較試料であるGSO単結晶シンチレータの発光量の温度依存性を示す図である。 実施例1にて得られた単結晶試料の透過率を示す図である。 比較例1にて得られた単結晶の外観写真である。 比較例1にて得られた単結晶試料の透過率を示す図である。
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。更に、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
[単結晶]
本発明の好適な実施形態に係る単結晶は、下記一般式(1)で表される組成を有する。
(A1−xSi (1)
式(1)中、AはY、La及びGdからなる群より選択される少なくとも1種であり、BはY、La及びGdを除く希土類元素からなる群より選択される少なくとも1種であり、xは0.005<x<0.30を満たす。
ここで、上記式中、高い発光量を得易いという観点から、Aは結晶中で着色しない元素であることが好ましく、Gdであることがより好ましい。同様の観点から、Bは発光効率の高い元素であることが好ましく、Ceであることがより好ましい。なお、無色透明で欠陥の少ない良質な単結晶を得易いという観点から、xは、0.01<x<0.20であることが好ましく、0.02<x<0.10であることがより好ましい。
このような単結晶は、放射線の入射により蛍光を発するため、放射線検出用途、すなわちシンチレータ用途に活用することができる。本実施形態の単結晶では、蛍光の強度スペクトルにおいて、最大ピーク波長が340〜460nmの範囲に観察される。
ここで、「放射線」とは、原子あるいは分子をイオン化させるのに十分なエネルギーをもった粒子線(α線、β線、γ線、X線等)を示す。
本実施形態の単結晶は、室温(25℃)〜高温(400℃)において好適な発光特性を有している。より好ましくは、25〜300℃において好適な発光特性を有している。特に高温領域における発光特性に優れており、例えば、本実施形態の単結晶に対して662keVのγ線を照射したときの、150℃における発光量を室温における発光量より高くすることができる。同様に、662keVのγ線を照射したときの、200℃における発光量を室温における発光量より高くすることができる。高温領域の発光特性は、単結晶の組成を適宜変更することにより調整することができる。単結晶の発光特性の温度依存性については、ヒーター、真空チャンバー、光電子増倍管等と測定系とを備えた、図6に示すような装置を用いて評価することができる。
このように、本実施形態の単結晶が幅広い温度範囲において良好な発光特性を有する理由は必ずしも明らかではないが、発明者らは次のように推察する。一般的に、GPS単結晶においては、放射線の入射によって与えられたエネルギーが結晶中のCe3+を励起し、その後、Ce3+が5d→4f遷移することで発光が起こる。しかし、結晶中に欠陥等が存在すると、Ce3+の5d→4f遷移が阻害されて発光を伴わない熱遷移となる場合がある。このような熱遷移は高温になるほど顕著になる。上記一般式(1)で表される組成を有する単結晶においても、通常であればこのようなメカニズムに起因する熱遷移が問題となるであろうところ、本実施形態の単結晶は最適な育成条件により作製されたものであるため、遷移を阻害する欠陥が大幅に減少されており、幅広い温度範囲において良好な発光特性が得られたものと考えられる。本実施形態の単結晶の透過率が従来に比べて大幅に優れることからも、結晶中の欠陥が大幅に減少していることが理解される。
本実施形態の単結晶は、放射線検出用途としての実用上必要な寸法を有しているにもかかわらず、極めて優れた透過率を備えている。例えば、同単結晶を、厚みが10mmとなるように切り出したサンプルにおいて、波長400nmの光に対する厚み方向の透過率(25℃)が50%以上である。このような厚みにおいてこれ程までに透過率の高い単結晶はこれまで報告されていない。なお、同透過率(25℃)は、60%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましい。同透過率の理想的な上限値は単結晶の屈折率を考慮すると85%である。単結晶の透過率は、例えば分光システムKV−201型(分光計器株式会社製)を用いて測定することができる。
なお、本実施形態の単結晶を、厚みが5mmとなるように切り出したサンプルにおいては、波長400nmの光に対する厚み方向の透過率は65%以上であることが好ましく、72%以上であることがより好ましく、77%以上であることがさらに好ましく、同透過率の理想的な上限値は単結晶の屈折率を考慮すると85%である。
これらのサンプルの形状は特に限定されないが、例えば、いずれか一辺の長さが5mm以上、あるいは10mm以上の直方体が挙げられる。ただし、直方体の他、立方体、円柱等の形態を排除するものではない。なお、実用上必要な寸法を有する単結晶としては、例えば、5mm×5mm×10mm(厚み)である単結晶、5mm×5mm×5mm(厚み)である単結晶等が挙げられる。すなわち、十分な放射線捕捉能を確保するために、単結晶は少なくとも厚さが5mm以上であることが重要である。
透過率に優れた本実施形態の単結晶は、例えば5mm×5mm×5mm(厚み)である単結晶において662keVのγ線に対するエネルギー分解能を好ましくは8%以下とすることができる。すなわち、極めて高精度の放射線検出能を実現することが可能である。このような観点から、同分解能は、7%以下であることがより好ましい。エネルギー分解能は、例えばUniversal Computer Spectrometer UCS30(Spectrum Technique製)を用いて測定することができる。
次に、本実施形態の単結晶の好適な製造方法について説明する。
ここで説明する製造方法は溶融法に基づき単結晶の原料を溶融状態とした溶融液を得る溶融工程と、その溶融液に種結晶の少なくとも一部を浸漬し、種結晶を浸漬した溶融液を冷却固化させることにより、種結晶の所定の結晶面に沿って結晶を育成して単結晶インゴットを得る冷却固化工程と、単結晶インゴットを所望の形状及び大きさに切り出す切断工程とを有している。
結晶性のよい単結晶をより確実に得る観点から、溶融工程における溶融法はチョクラルスキー法、TSSG法(Top Seeded Solution Growth Method)等の回転式引き上げ法であることが好ましい。具体的には、図1に示されるような構成を有する引き上げ装置10を用いて溶融工程及び冷却固化工程における作業を行うことが好ましい。
図1は単結晶製造装置の基本構成の一例を示す模式断面図である。図1に示す引き上げ装置10は、耐火物14を備えている。この耐火物14は先に述べた溶融工程及び冷却固化工程における作業を連続的に行うためのものである。
この耐火物14は耐火性を有する、側壁が筒状の有底容器である。有底容器の形状自体は公知の回転式引き上げ法に基づく単結晶製造に使用されるものと同様である。この耐火物14の底部の外側面には高周波誘導コイル15が巻回されている。そして、耐火物14の内部の底面上には、るつぼ17(例えば、Ir(イリジウム)製のるつぼ)が配置されている。このるつぼ17は、高周波誘導加熱ヒーターを兼ねている。そして、るつぼ17中に、単結晶の原料を投入し、高周波誘導コイル15に高周波誘導をかけると、るつぼ17が加熱され、単結晶の構成材料からなる溶融液18(融液)が得られる。
耐火物14の底部中央には、耐火物14の内部から外部へ貫通する開口部(図示せず)が設けられている。そして、この開口部を通じて、高周波誘導加熱炉の外部からるつぼ支持棒16が挿入されている。るつぼ支持棒16の先端はるつぼ17の底部に接続されている。このるつぼ支持棒16を回転させることにより、耐火物14中において、るつぼ17を回転させることができる。開口部とるつぼ支持棒16との間は、パッキン等によりシールされている。
次に、引き上げ装置10を用いたより具体的な製造方法について説明する。なお、後述する工程において、単結晶育成時の引き上げ棒の回転速度、引き上げ速さ、育成雰囲気、耐火物の構造等を変更することで、得られる単結晶の透過率等の特性を調整することが可能である。
溶融工程では、るつぼ17中に、単結晶の各原料を所望の単結晶組成が得られるように投入し、高周波誘導コイル15に高周波誘導をかけることにより、単結晶の構成材料からなる溶融液18(融液)を得る。単結晶の各原料としては特に限定されず、例えば、単結晶を構成する希土類元素、Siの単独酸化物等を用いることができる。
次に、冷却固化工程において溶融液を冷却固化させることにより、円柱状の単結晶インゴット1を得る。冷却固化工程は、後述する育成工程と、冷却工程の2つの工程に分けて作業が進行する。
育成工程では、耐火物14の上部から、種結晶2を下部先端に固定した引き上げ棒12を溶融液18中に浸漬する。次いで、引き上げ棒12を引き上げながら、単結晶インゴット1を形成する。このとき、育成工程では、高周波誘導コイル15の高周波出力を調節し、溶融液18から引き上げられる単結晶インゴット1を、その断面が所定の直径となるまで育成する。なお、所望の単結晶をより確実に得る観点から、単結晶インゴット1の核となる種結晶2は、上記一般式(1)で示されるような単結晶(例えばGPS単結晶等)であることが好ましい。
次に、冷却工程では高周波誘導コイル15の高周波出力を調節し、育成工程後に得られる育成後の単結晶インゴット(図示せず)を冷却する。冷却工程が完了した後、単結晶インゴット(図示せず)を取り出す。
次に、切断工程において、単結晶インゴット(図示せず)を、所望の形状及び大きさに切り出し、放射線検出用途に優れた単結晶を得る。
[放射線検出器]
本実施形態の放射線検出器は、このように切り出された単結晶と、当該単結晶からの発光を検出する光検出装置とを備えている。光検出装置としては、例えばフォトマルH7195(浜松ホトニクス株式会社製)が挙げられる。このような検出器は、本発明の単結晶を備えていることにより、放射線検出能に優れている。
[放射線検出器の使用方法]
本実施形態の単結晶が室温〜高温にかけて幅広い温度範囲で優れた発光特性を有する。したがって、例えば従来十分な検出精度を得ることができなかった温度領域(好ましくは150℃以上、より好ましくは200℃以上、さらに好ましくは300℃以上の環境)において、本実施形態の単結晶を備えた放射線検出器を好適に使用することが可能である。
以上、本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1]:GPS:Ce2.5%の作製と評価
下記一般式(1)において、A=Gd、B=Ce、及びx=0.025の組成、すなわち(Gd0.975Ce0.025Siの組成の単結晶を得ることを目標に、以下の方法により単結晶を作製した。
(A1−xSi (1)
具体的には、酸化ガドリニウム(Gd、純度4N)、酸化ケイ素(SiO、純度5N)、及び酸化セリウム(CeO、純度4N)の原料粉末を湿式混合し、乾燥機中で乾燥させ、約350gの混合粉末を得た。アパタイト相の晶出を防ぐため、SiOは上記量論組成より1.3mol%過剰とした。混合粉末をラバーチューブ内に封入し、静水圧プレス(1000kg/cm)を用いてφ50×50mmのIr製るつぼに収まる形に成形した。成形した混合粉末を大気雰囲気中1650℃で6時間焼結した後、Ir製るつぼ内にいれ、高周波加熱型のチョクラルスキー炉TA−0261(株式会社テクノサーチ製、製品名)内に設置した。種結晶には、別途引き上げ法で作製したGPS:Ceの単結晶部分を用いた。原料を約1750℃に加熱して融液とし、種結晶を融液につけ、回転しながら引き上げた。
引き上げ速度と種結晶回転速度はそれぞれ0.3〜0.5mm/h、20〜50rpmの条件とし、概ね窒素雰囲気中で単結晶作製を行った。その他の諸条件に関しては、数多くの単結晶育成実験を繰り返す中で最適化を図った。
図2は、実施例1にて得られた単結晶の外観写真である。得られた単結晶の大部分は、従来課題であったクラック及び白濁のない無色透明な良質な単結晶であり、その良質部分の寸法は約φ23.5mm×50mmであった。
[結晶構造の同定]
得られた単結晶の一部を粉砕し、粉末X線回折法を用いて結晶構造を同定した。X線回折装置としてはJDX−3500(日本電子株式会社製、製品名)を用い、回折パターンを結晶構造データベース(Joint Committee on Powder Diffraction Standards,JCPDS)と比較することで構造同定を行った。図3は、実施例1〜3にて得られた単結晶のXRD回折パターンを示す図である。なお、同図中、実施例1は「x=0.025」と付記されたパターン、実施例2は「x=0.010」と付記されたパターン、実施例3は「x=0.10」と付記されたパターンを示した。同定の結果、実施例1にて得られた単結晶は斜方晶(空間群Pna21)構造であることが分かった。
[発光特性評価]
シンチレータとしての発光特性評価のため、得られた単結晶から5mm×5mm×5mm程度の単結晶試料を切り出し、全面に機械研磨を施した。単結晶に黄色い着色が見られたため管状炉を用いて窒素雰囲気中1200℃で12時間のアニールを行った。図4は、実施例1にて得られた単結晶試料のアニール後の外観写真である。図4から、本試料は多結晶部分、小さな粒界、クラック等の見られない、ほぼ無色透明な良質な単結晶であることがわかる。以下、得られた本試料を「試料GPS:Ce2.5%」と呼ぶ。
試料GPS:Ce2.5%のシンチレータ特性の評価を目的に、137Csからの662keVのγ線に対するパルス波高スペクトル測定を行った。光検出器にはフォトマルH7195(浜松ホトニクス株式会社製、製品名)を用い、印加電圧は−1800Vとした。図5は、アニール前後の試料GPS:Ce2.5%のパルス波高スペクトルを示す図である。図5には、比較のために同時に測定したNaI:Tl単結晶(応用光研工業株式会社製、寸法φ1インチ×1インチ、パイレックス窓(パイレックスは登録商標))の結果も示されている。なお、光電子増倍管からの信号を直接オシロスコープで記録し、積分することにより発光量を求めると、アニール前の発光量は435ch、エネルギー分解能は7.9%であり、アニール後の発光量は633ch、エネルギー分解能は6.3%であり、いずれも優れた結果が得られた。また、アニール後の試料GPS:Ce2.5%はNaI:Tl単結晶に対して1.6倍の発光量を示した。
図5の波高スペクトルからわかるように、試料GPS:Ce2.5%は光電ピークの高さがコンプトンピークの高さより十分低く、また光電ピークとコンプトンピークとの間の谷がゼロチャンネルに近い。この結果は、本試料GPS:Ce2.5%が放射線吸収能に優れる実用的なシンチレータであることを示している。本試料の寸法が5×5×5mm程度という実用的な寸法であることも、実用的なシンチレータとなり得る理由のひとつである。
試料GPS:Ce2.5%の発光量の温度依存性を測定した。図6は、単結晶シンチレータの発光量の温度依存性を測定するための装置の模式図である。図6に示すように、同装置は、シンチレータ(単結晶試料)20を載置するためのアルミブロック21、アルミブロック21の温度を測定するための熱電対22、ヒーター(室温〜300℃まで可変)23を備える銅ブロック24、137Cs線源25及びこれらを覆う真空チャンバー50と、測定系(アンプ:Ortec460、ストレッチャー:Ortec542、MCA:WE7562(Yokogawa))に接続された光電子増倍管60(H7195)と、これらを接続する石英ライトガイド55とを備えている。
測定に当たっては、まず、試料GPS:Ce2.5%(単結晶試料)を、図6に示すようにアルミブロック上に載置した後、ロータリーポンプ及びターボ分子ポンプで真空チャンバーを真空排気した。シンチレータは、銅ブロック及びアルミニウムブロックを通じてヒーターと熱的に接合されており、真空チャンバー及び石英ライトガイドとは真空断熱されている。PID制御されたヒーターにより25℃刻みで昇温を行い、室温(25℃)〜300℃の範囲で、137Cs線源からの662keVのγ線に対する発光量の測定を行った。
図7は、実施例及び比較例にて得られた単結晶シンチレータと、比較試料であるGSO単結晶シンチレータ(日立化成株式会社製、試料GSO:Ce1.0%)の発光量の温度依存性を示す図である。縦軸は、試料GPS:Ce1.0%の25℃における発光量を100としたときの相対値である。なお、各シンチレータの減衰時間は50〜100ns程度であり、ディレイラインアンプの積分時定数を250nsとしたことから、全吸収ピークのチャンネルに相当する。
図7からわかるように、試料GPS:Ce2.5%の発光量は、室温から300℃の温度範囲全般においてGSO単結晶シンチレータよりも高く、優れたシンチレータ特性を示した。比較試料のGSO単結晶シンチレータは、温度が上がるに従って発光量が減少し、例えば室温と比べて150℃で25%以上発光量が減少した。これに対して、試料GPS:Ce2.5%の発光量は、150℃でも室温に対して減少することなく、200℃までは発光量が増加した。結果として、50℃〜250℃の温度範囲で室温より高い発光量を示した。また、試料GPS:Ce2.5%は、300℃においても室温比74%の発光量を達成した。
[透過率測定]
得られた単結晶から、厚みが10mmとなるように評価サンプル(単結晶試料)を切り出し、両面を鏡面研磨して透過率を測定した。透過率の測定には、真空紫外分光測定システムである極紫外分光システム KV−201(分光計器株式会社製、製品名)を用いた。
図8は、実施例1にて得られた単結晶試料の透過率を示す図である。図8からわかるように、得られたGPS:Ce単結晶(厚み10mm)の透過率は、波長350nm付近に吸収端があり、波長400nmの光に対して約56%の透過率を示した。
[実施例2]:GPS:Ce1.0%の作製と評価
上記一般式(1)において、A=Gd、B=Ce、及びx=0.01の組成、すなわち(Gd0.99Ce0.01Siの組成の単結晶を得ることを目標に、実施例1と同様の方法により単結晶を作製した。単結晶作製条件の詳細に関しては、実施例1の最適化された条件を基本とし、本組成に適した若干の変更を加えた。その結果、良質な単結晶が得られた。
得られた単結晶の一部を粉砕し、粉末X線回折法を用いて結晶構造を同定したところ、単結晶は斜方晶(空間群Pna21)構造であることが分かった(図2参照)。
実施例1と同様に、得られた単結晶から単結晶試料を切り出し、アニールを行った。得られた単結晶試料は、実施例1と同様に多結晶部分、小さな粒界、クラック等の見られない、ほぼ無色透明な良質な単結晶であった。以下得られた本試料を「試料GPS:Ce1.0%」と呼ぶ。
試料GPS:Ce1.0%の発光量の温度依存性を、実施例1と同様の方法で測定した。図7からわかるように、試料GPS:Ce1.0%の発光量は、室温から300℃の温度範囲全般においてGSO単結晶シンチレータよりも高く、優れたシンチレータ特性を示した。また、試料GPS:Ce1.0%の発光量は、150℃でも室温に対して減少することなく、200℃までは発光量が増加した。結果として、50℃〜250℃の温度範囲で室温より高い発光量を示した。
[実施例3]:GPS:Ce10%の作製と評価
上記一般式(1)において、A=Gd、B=Ce、及びx=0.1の組成、すなわち(Gd0.9Ce0.1Siの組成の単結晶を得ることを目標に、実施例1と同様の方法により単結晶を作製した。単結晶作製条件の詳細に関しては、実施例1の最適化された条件を基本とし、本組成に適した若干の変更を加えた。その結果、良質な単結晶が得られた。
得られた単結晶の一部を粉砕し、粉末X線回折法を用いて結晶構造を同定したところ、単結晶は三斜晶(空間群P1)構造であることが分かった(図2参照)。
実施例1と同様に、得られた単結晶から単結晶試料を切り出し、アニールを行った。得られた単結晶試料は、実施例1と同様に多結晶部分、小さな粒界、クラック等の見られない、ほぼ無色透明な良質な単結晶であった。以下得られた本試料を「試料GPS:Ce10%」と呼ぶ。
試料GPS:Ce10%の発光量の温度依存性を実施例1と同様の方法で測定した。図7からわかるように、試料GPS:Ce10%の発光量は、室温から300℃の温度範囲全般においてGSO単結晶シンチレータよりも高く、優れたシンチレータ特性を示した。また、試料GPS:Ce10%の発光量は、150℃でも室温に対して減少することなく増加した。結果として、50℃〜200℃の温度範囲で室温より高い発光量を示した。
[実施例4]:YPS:Ce2.0%の作製と評価
上記一般式(1)において、A=Y、B=Ce、及びx=0.02の組成、すなわち(Y0.98Ce0.02Siの組成の単結晶を得ることを目標に、実施例1と同様の方法により単結晶を作製した。単結晶作製条件の詳細に関しては、実施例1の最適化された条件を基本とし、本組成に適した若干の変更を加えた。その結果、良質な単結晶が得られた。
実施例1と同様に、得られた単結晶から単結晶試料を切り出し、アニールを行った。得られた単結晶試料は、実施例1と同様に多結晶部分、小さな粒界、クラック等の見られない、ほぼ無色透明な良質な単結晶であった。以下得られた本試料を「試料YPS:Ce2.0%」と呼ぶ。
試料YPS:Ce2.0%の発光量の温度依存性を、実施例1と同様の方法で測定した。図7からわかるように、試料YPS:Ce2.0%の発光量は、室温から300℃の温度範囲全般においてGSO単結晶シンチレータよりも高く、優れたシンチレータ特性を示した。また、試料YPS:Ce2.0%の発光量は、150℃でも室温に対して減少することなく、250℃までは発光量が増加した。結果として、50℃〜300℃の温度範囲で室温より高い発光量を示した。
[実施例5]:GPS−La10%:Ce2.0%の作製と評価
上記一般式(1)において、A=Gd0.88La0.1、B=Ce、及びx=0.02の組成、すなわち(Gd0.88La0.1Ce0.02Siの組成の単結晶を得ることを目標に、実施例1と同様の方法により単結晶を作製した。単結晶作製条件の詳細に関しては、実施例1の最適化された条件を基本とし、本組成に適した若干の変更を加えた。
実施例1と同様に、得られた単結晶から単結晶試料を切り出し、アニールを行った。得られた単結晶試料は、実施例1と同様に多結晶部分、小さな粒界、クラック等の見られない、ほぼ無色透明な良質な単結晶であった。以下得られた本試料を「試料GPS−La10%:Ce2.0%」と呼ぶ。
試料GPS−La10%:Ce2.0%の発光量の温度依存性を実施例1と同様の方法で測定した。図7からわかるように、試料GPS−La10%:Ce2.0%の発光量は、室温から300℃の温度範囲全般においてGSO単結晶シンチレータよりも高く、優れたシンチレータ特性を示した。また、試料GPS−La10%:Ce2.0%の発光量は、150℃までは室温とほぼ同等であった。
上記実施例1〜5は、いずれも一般式(1)で表される組成においてBとしてCeを選んだ場合の実施例であるが、BとしてCe以外の希土類元素を選んだ場合(ただし、Y、La及びGdを除く)も、室温から高温環境にかけて高精度の放射検出が期待できる。
以上の結果から、本実施例で得られた単結晶は、従来(例えばGSO単結晶)に比べて発光量が高く、放射線検出用途として実用的な寸法の単結晶であった。これを備える放射線検出器によれば、従来の放射線検出器では不可能であった、室温から高温環境にかけて高精度の放射検出が可能となる。
[比較例1]
上記一般式(1)において、A=Gd、B=Ce、及びx=0.025の組成、すなわち(Gd0.975Ce0.025Siの組成の単結晶を得ることを目標に、以下の従来技術で単結晶を作製した。
具体的には、酸化ガドリニウム(Gd、純度4N)、酸化ケイ素(SiO、純度5N)、及び酸化セリウム(CeO、純度4N)の原料粉末を湿式混合し、乾燥機中で乾燥させ、約350gの混合粉末を得た。アパタイト相の晶出を防ぐため、SiOは上記量論組成より1.3mol%過剰とした。混合粉末をラバーチューブ内に封入し、静水圧プレス(1000kg/cm)を用いてφ50×50mmのIr製るつぼに収まる形に成形した。成形した混合粉末を大気雰囲気中1650℃で6時間焼結した後、Ir製るつぼ内にいれ、高周波加熱型のチョクラルスキー炉TA−0261内に設置した。種結晶には、別途引き上げ法で作製したGPS:Ceの単結晶部分を用いた。原料を約1750℃に加熱して融液とし、種結晶を融液につけ、回転しながら引き上げた。
引き上げ速度と種結晶回転速度はそれぞれ0.3〜0.5mm/h、15〜20rpmの条件とし、概ね窒素雰囲気中で単結晶作製を行った。その他の諸条件に関しては、数多くの単結晶作製実験を繰り返す中で最適化を図った。
図9は、比較例1にて得られた単結晶の外観写真である。得られた単結晶の大部分は白濁しており、かつクラックが多かった。この単結晶から厚み10mmのサンプルを切り出し、両面を鏡面研磨して実施例1と同様にして透過率を測定した。図10は、比較例1にて得られた単結晶試料の透過率を示す図である。図10からわかるように、従来技術に相当するGPS:Ce単結晶(厚み10mm)の透過率は、波長365nm付近に吸収端があり、波長400nmの光に対してはわずか約4%の透過率しか示さなかった。
1…単結晶インゴット、2…種結晶、10…引き上げ装置、12…引き上げ棒、14…耐火物、15…高周波誘導コイル、16…るつぼ支持棒、17…るつぼ、18…溶融液(融液)、20…シンチレータ(単結晶試料)、21…アルミブロック、22…熱電対、23…ヒーター、24…銅ブロック、25…137Cs線源、50…真空チャンバー、55…石英ライトガイド、60…光電子増倍管。

Claims (10)

  1. 下記一般式(1)で表され、厚みが10mmのときの、波長400nmの光に対する厚み方向の透過率が50%以上である、単結晶。
    (A1−xSi (1)
    [式(1)中、AはY、La及びGdからなる群より選択される少なくとも1種であり、BはY、La及びGdを除く希土類元素からなる群より選択される少なくとも1種であり、xは0.005<x<0.30を満たす。]
  2. 前記式(1)中、BがCeである、請求項1記載の単結晶。
  3. 前記式(1)中、AがGdである、請求項1又は2記載の単結晶。
  4. 放射線検出用である、請求項1〜3のいずれか一項記載の単結晶。
  5. 662keVのγ線に対し、150℃における発光量が室温における発光量より高い、請求項1〜4のいずれか一項記載の単結晶。
  6. 662keVのγ線に対し、200℃における発光量が室温における発光量より高い、請求項1〜5のいずれか一項記載の単結晶。
  7. 厚みが5mmのときの、662keVのγ線に対するエネルギー分解能が8%以下である、請求項1〜6のいずれか一項記載の単結晶。
  8. 請求項1〜7のいずれか一項記載の単結晶と、該単結晶からの発光を検出する光検出装置とを備える、放射線検出器。
  9. 請求項8記載の放射線検出器を150℃以上で使用する、放射線検出器の使用方法。
  10. 請求項8記載の放射線検出器を200℃以上で使用する、放射線検出器の使用方法。



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