以下、添付図面に基づいて本発明の第一の実施形態の磁気式エンコーダ(以下、単にエンコーダという)を詳細に説明する。図1は、本実施形態のエンコーダ51の斜視図を示し、図2は、本実施形態のエンコーダ51の分解斜視図を示す。
エンコーダ51は、非磁性体のカラー53と、カラー53を挟む軟質磁性材料の第一及び第二のヨーク54,55と、第一及び第二のヨーク54,55の外側に配置される第一及び第二の磁石56,57と、第一及び第二の磁石56,57の外側に配置される第一及び第二のバックヨーク58,59と、を備える。
第一のヨーク54は、第一の磁石56によって例えばN極に磁化される。第二のヨーク55は、第二の磁石57によって例えばS極に磁化される。第一のヨーク54の第一の歯部54bと第二のヨーク55の第二の歯部55bとは周方向に交互に配置され、エンコーダ51の周囲には交互にN極及びS極が形成される。図1中N極を「N」でS極を「S」で示す。
図1中符号52は、エンコーダ51から半径方向に離れて配置されるセンサの読取平面を示す。センサ読取平面52は、エンコーダ51の軸線方向(回転軸C1)をY方向としたとき、XZ平面内に配置される。センサは、第一の歯部54bから出て第二の歯部55bに入る磁束ベクトルのXZ平面に投影された成分を読み取る。
エンコーダ51は、例えば電動モータの出力軸等の回転構成部材に取り付けられ、回転構成部材の動作時には回転軸C1を中心にして回転する。エンコーダ51が回転すると、センサが読み取る磁束ベクトルの方向又は大きさは、正弦波状に周期的に変化する。この実施形態のセンサは、磁界(磁界は磁束と同義である)の方向を検出するAMR(Anisotropic-Magneto-Resistance)センサである。センサには、AMRセンサ以外に磁界の強度を検出するMR(Magneto-Resistance)センサを用いることもできる。センサは、エンコーダ51の回転に伴って、90°の位相差を持つA相信号及びB相信号を出力するように構成される。
図2のエンコーダ51の分解斜視図を参照して、エンコーダ51を構成する第一及び第二の磁石56,57、第一及び第二のヨーク54,55、カラー53、第一及び第二のバックヨーク58,59の構成を順番に説明する。
リング状の第一の磁石56は、軸線方向に着磁され、軸線方向の一方の端面56aがS極に他方の端面56bがN極に形成される。第一の磁石56には例えばネオジム磁石等の希土類磁石が用いられる。
リング状の第二の磁石57は、第一の磁石56から軸線方向に離れて配置される。第二の磁石57は、第一の磁石56と同様に、軸線方向に着磁され、軸線方向の一方の端面57aがS極に他方の端面57bがN極に形成される。第二の磁石57の形状は、第一の磁石56と同一である。第二の磁石57にも例えばネオジム磁石等の希土類磁石が用いられる。
第一及び第二の磁石56,57の軸線方向の内側には、第一及び第二のヨーク54,55が配置される。第一及び第二のヨーク54,55は、鉄、鋼、ケイ素鋼、パーマロイ等の軟質磁性材料からなる。第一のヨーク54は、第一の磁石56の内側の端面56bに接触し、例えばN極に磁化される。第二のヨーク55は、第二の磁石57の内側の端面57aに接触し、例えばS極に磁化される。
第一のヨーク54は、リング状の第一の基体54aと、第一の基体54aに対して90°曲げられた複数の第一の歯部54bと、を備える。第一の基体54aは、第一の磁石56と同一のリング状に形成されており、第一の磁石56の内側の端面56bに接触する。第一の歯部54bは、第一の基体54aから軸線方向に第二のヨーク55に向かって伸びる。第一の歯部54bは、第一の基体54aの外周に均等間隔を空けて配置される。第一の歯部54bの断面形状は、四角形、半円、半楕円等である。第一のヨーク54は、切削、打ち抜き後の曲げ加工等により製造される。
第二のヨーク55も、リング状の第二の基体55aと、第二の基体55aに対して90°曲げられた複数の第二の歯部55bと、を備える。第二の基体55aは、第二の磁石57と同一のリング状に形成されており、第二の磁石57の内側の端面57aに接触する。第二の歯部55bは、第二の基体55aから軸線方向に第一のヨーク54に向かって伸びる。第二の歯部55bは、第二の基体55aの外周に均等間隔を空けて配置される。第二の歯部55bの断面形状は、四角形、半円、半楕円等である。第二のヨーク55は切削、打ち抜き後の曲げ加工等により製造される。
第一のヨーク54と第二のヨーク55との間には、アルミニウム、樹脂等の非磁性体のカラー53が配置される。カラー53は、第一の磁石56と第二の磁石57との間に軸線方向に間隔を開ける役割、第一の歯部54bと第二の歯部55bとの間に周方向に間隔を開ける役割を持つ。カラー53は筒状に形成されていて、両端の一対の小径部53bと、中央の大径部53aと、を備える。一方の小径部53bの外側には、第一の磁石56及び第一のヨーク54が嵌められる。他方の小径部53bの外側には、第二の磁石57及び第二のヨーク55が嵌められる。大径部53aには、第一の歯部54b及び第二の歯部55bが嵌まる複数の溝53cが周方向に均等間隔を空けて形成される。
第一及び第二の磁石56,57の軸線方向の外側には、第一及び第二のバックヨーク58,59が配置される。第一及び第二のバックヨーク58,59は、鉄、鋼、ケイ素鋼、パーマロイ等の軟質磁性材料からなる。第一のバックヨーク58は、第一の磁石56に接触する円盤体58aと、カラー53の内側に嵌められる筒体58bと、を備える。第二のバックヨーク59も、第一のバックヨーク58と同様に、第二の磁石57に接触する円盤体と、カラー53の内側に嵌められる筒体と、を備える(図示せず)。
上記のように、センサは、第一の歯部54bのN極から出て第二の歯部55bのS極に入る磁束ベクトルの、XZ平面内の成分V1を読み取る(図1参照)。Y方向の磁束ベクトルV2は、角度の検出に必要としない方向の磁束ベクトルであるが、磁束ベクトルV2をセンサが読み取らないようにすることはできない。本実施形態では、磁束ベクトルV2が少なくなる位置にセンサを配置し、センサの検出角度に影響が出ないようにしている。
図3(a)は、図1のX方向から見たセンサ読取平面52を示す。図3(a)に示すように、センサは、磁石外周の磁束ベクトルVのうち、XZ平面内の成分V1を読み取る。図3(b)は、センサ読取平面52が傾いた状態を示す。図3(b)に示すように、センサが傾くと、センサが読み取る磁束ベクトルがV1からV1´に変化する。磁束ベクトルのV1からV1´への変化は検出角度に誤差を生じさせる。従来例のエンコーダでは、磁石外周の軸線方向の磁束ベクトルV2は大きく、センサの傾きは検出角度に大きな影響を与える。本実施形態では、磁石外周の軸線方向の磁束ベクトルV2を低減又は無くし、VとV1を一致させるために、以下の工夫がなされている。
図4(a)は、従来例のエンコーダの単一のリング磁石61の軸線に沿った断面図を示す。従来例の磁石61には、N極から出てS極に入る磁界が形成される。センサ読取平面52は磁石61の軸線方向の中心Aに配置されるので、センサ読取平面52には軸線方向(Y方向)の大きな磁束ベクトルが作用する。
図4(b)は、本実施形態のエンコーダ51の第一及び第二の磁石56,57を示す。第一及び第二の磁石56,57を軸線方向に離れて配置すると、第一の磁石56と第二の磁石57の軸線方向の中心Bに配置されるセンサ読取平面52には、第一の磁石56の下方向を向く磁束ベクトルが作用し、第二の磁石57の上方向を向く磁束ベクトルが作用する。このため、センサ読取平面52には、軸線方向の磁束ベクトルは作用しにくくなる。
図5(a)は、エンコーダ51の軸線に沿った断面図を示す。図5(b)は、図5(a)の断面Pにおける磁束ベクトルの解析結果を示す。センサ読取平面52における磁束ベクトルVは、エンコーダ51に近づけば近づくほど、下方向を向く。第一及び第二の磁石56,57を軸線方向に離すことで、センサ読取平面52における軸線方向の磁束ベクトルV2を低減又は無くすことができることがわかる。
図6は、エンコーダ51の磁石外周からの距離と軸線方向の磁束密度との関係を示すグラフである。この実施形態のセンサの使用目安域は磁石外周から1.5mmから2mmである。従来例では、軸線方向の磁束密度は35〜45mTであるが、本実施形態では、軸線方向の磁束密度は0〜1mTまで大きく低減する。
図7は、センサ62のX軸回りのロール角度φ、Z軸回りのヨー角度ψの傾きを示す。図8は、センサ62をロール角度φだけ傾けたときの角度誤差(角度誤差は解析により算出)を示すグラフである。従来例の場合、ロール角度φが大きくなればなるほど、角度誤差が大きくなる。しかし、本実施形態の場合、ロール角度φを大きくしても、角度誤差は±0.1度未満であり、角度誤差が殆ど発生しない。角度の検出に必要としない軸線方向の磁束密度V2が低減しているからである。なお、センサをZ軸回りにヨー角度ψだけ傾けた場合も、センサをX軸回りにロール角度φだけ傾けた場合と同じ位の角度誤差になる。すなわち、横軸をヨー角度ψの傾き、縦軸を角度誤差としてグラフを書くと、図8と略同一になる。
本発明の第一の実施形態のエンコーダ51によれば、以下の効果を奏する。
第一の磁石56と第二の磁石57に生じる磁界を利用して、センサ62の読取位置における軸線方向の磁束ベクトルV2を低減又は無くすので、センサ62の傾きによる角度誤差が低減する。もちろん、センサ62が傾いていない場合はより角度誤差が低減する。センサ62の傾きを許容できるので、センサ62の取付け性が向上する。
第一のヨーク54と第二のヨーク55との間に非磁性体のカラー53を配置するので、第一の磁石56と第二の磁石57とを軸線方向に離すことができる。
カラー53に第一及び第二の歯部54b,55bが嵌まる溝53cを形成するので、第一の歯部54b及び第二の歯部55bを周方向に位置決めすることができ、エンコーダ51の組立て性が向上する。
第一及び第二の磁石56,57を第一及び第二のヨーク54,55の外側に配置するので、第一及び第二の歯部54b,55bの軸線方向の長さを短くすることができ、第一及び第二のヨーク54,55の加工が容易になる。
第一及び第二のヨーク54,55の外側に第一及び第二のバックヨーク58,59を配置するので、第一及び第二の磁石56,57の磁界がエンコーダ51の外に漏れるのを防止できる。
以下、添付図面に基づいて本発明の第二の実施形態の磁気式エンコーダを詳細に説明する。図9は、本発明の第二の実施形態のエンコーダ1の斜視図を示す。リング状のエンコーダ1の周囲は周方向にN極及びS極に交互に磁化されている。図9中N極を「N」でS極を「S」で示す。エンコーダ1は例えば電動モータの出力軸等の回転構成部材に取り付けられ、回転構成部材の動作時には回転軸C1を中心にして回転する。エンコーダ1の周囲の磁界の方向はエンコーダ1から半径方向に離れて配置されるセンサ2によって検出される(図15参照)。エンコーダ1の回転に伴ってセンサ2は90°の位相差を持つA相信号及びB相信号を出力する。このA相信号及びB相信号の大きさと位相差からエンコーダ1の回転角度と回転方向を算出する。センサ2が出力するA相信号及びB相信号が理想的な正弦波及び理想的な余弦波に近ければ近いほど、検出精度が向上する。センサ装置はエンコーダ1及びセンサ2によって構成される。
図10はエンコーダ1の分解斜視図を示す。エンコーダ1は、軸線方向の一方の端面がN極に他方の端面がS極に形成されるように磁化されるリング状の磁石4を備える。磁石4には例えばネオジム磁石等の希土類磁石が用いられる。なお、磁石4は単一の磁石から構成されてもよいし、周方向に分割された複数の円弧状のセグメント磁石から構成されてもよいし、軸線と直交する断面で分割された複数のリング状の磁石から構成されてもよいし、第一及び第二のヨークの外側に配置される第一及び第二の磁石から構成されてもよい(図1、図2参照)。
この実施形態の磁石4は同一の形状の第一及び第二のヨーク5,6によって挟まれる。第一及び第二のヨーク5,6は鉄、鋼、ケイ素鋼、パーマロイ等の軟質磁性材料からなり、磁石4の一方の端面の磁束を磁石4の外周面に導く機能を持つ。
第一のヨーク5は、リング状の第一の基体5aと、第一の基体5aに対して90°曲げられた複数の第一の歯部5bと、を備える。第一の基体5aは磁石4と同一のリング状に形成されており、磁石4の一方の端面(N極の端面)に接触している。第一の歯部5bは第一の基体5aから磁石4の外周面にて軸線方向に第二のヨーク6に向かって伸びている。第一の歯部5bは第一の基体5aの外周に均等間隔を空けて配置される。第一の歯部5bの断面形状は四角形に形成される。第一のヨーク5は切削、打ち抜き後の曲げ加工等により製造される。
第二のヨーク6も、リング状の第二の基体6aと、第二の基体6aに対して90°曲げられた複数の第二の歯部6bと、を備える。第二の基体6aは磁石4と同一のリング状に形成されており、磁石4の他方の端面(S極の端面)に接触している。第二の歯部6bは第二の基体6aから磁石4の外周面にて軸線方向に第一のヨーク5に向かって伸びている。第二の歯部6bは第二の基体6aの外周に均等間隔を空けて配置される。第二の歯部6bの断面形状は四角形に形成される。第二のヨーク6は切削、打ち抜き後の曲げ加工等により製造される。なお、第一及び第二の歯部5b,6bは磁石4の外周に接していてもよいし、これらの間にすきまがあってもよい。
第一のヨーク5の第一の基体5aが磁石4のN極に面しているので、第一のヨーク5の複数の第一の歯部5bの外周はN極に磁化される。第二のヨーク6の第二の基体6aが磁石4のS極に面しているので、第二のヨーク6の複数の第二の歯部6bの外周はS極に磁化される。N極に磁化された複数の第一の歯部5bは均等に磁界を発する。第一の歯部5bが発する磁界は隣の第二の歯部6bに入る。センサ2は第一の歯部5bから出て第二の歯部6bに入る磁界の方向を検出する(図13(c)参照)。
隣り合う第一の歯部5b同士の間隔は隣り合う第二の歯部6b同士の間隔に等しく、第一の歯部5bと第二の歯部6bとはすきまを持った状態で噛み合う。図11に示すように、隣り合う第一の歯部5bと第二の歯部6bとの間には周方向にすきまg1がある。また、第一の歯部5bと第二のヨーク6の第二の基体6aとの間には半径方向にすきまg2がある。第二の歯部6bと第一のヨーク5の第一の基体5aとの間にも半径方向にすきまg2がある。
図11に示すように、第一の歯部5bの幅Wと第二の歯部6bの幅Wは等しい。隣接する第一の歯部5bの幅方向の中心と第二の歯部6bの幅方向の中心との距離が極ピッチPである。幅Wと極ピッチPとの比は1:2.0以上2.4以下に設定される。なお正確にいえば、幅W及び極ピッチPはいずれも図12におけるピッチ円上の円弧の長さである。すなわち、幅Wは第一の歯部5b及び第二の歯部6bによって区画されるピッチ円上の円弧の長さであり、極ピッチPは第一の歯部5bの幅方向の中心と第二の歯部6bの幅方向の中心によって区画されるピッチ円上の円弧の長さである。ピッチ円の直径=(第一及び第二の歯部5b,6bの外径+第一及び第二の歯部5b,6bの内径)×1/2である。
図13の左欄はエンコーダ1の平面図を示す。図13(b)の左欄の矢印(I)に示すように、第一のヨーク5の第一の歯部5bの先端は、第二のヨーク6の第二の基体6aの第一のヨーク5との対向面6cを超えて軸線方向に伸びている。第二のヨーク6の第二の歯部6bの先端は、第一のヨーク5の第一の基体5aの第二のヨーク6の対向面5cを超えて軸線方向に伸びている。好ましくは、図13(c)の左欄に示すように、第一のヨーク5の第一の歯部5bの先端は、第二のヨーク6の第二の基体6aの対向面6cとは反対側の表面6dまで伸びている。第二のヨーク6の第二の歯部6bの先端は、第一のヨーク5の第一の基体5aの対向面5cとは反対側の表面5dまで伸びている。図13(a)の左欄は、第一のヨーク5の第一の歯部5bの先端が第二のヨーク6の第二の基体6aの第一のヨーク5との対向面6cまで伸びておらず、第二のヨーク6の第二の歯部6bの先端が第一のヨーク5の第一の基体5aの第二のヨーク6の対向面5cまで伸びていない比較例を示す。
図15に示すように、センサ2はエンコーダ1から半径方向に離間して配置される。センサ2は磁界の方向で抵抗値が変化する異方性磁気抵抗素子2a,2bを有する。このセンサ2は磁界の方向で抵抗値が変化するAMR(Anisotropic-Magneto-Resistance)センサである。センサ2を抵抗変化量が飽和する磁界強度以上の磁界に配置すれば、抵抗値は磁界強度には影響されなくなり、磁界の方向のみに影響されるようになる。このため、センサ2によって磁界の方向を検知することができる。
A相用の異方性磁気抵抗素子2aはA相信号を出力し、B相用の異方性磁気抵抗素子2bはB相信号を出力する。A相信号とB相信号は90°の位相差を持つ。B相用の異方性磁気抵抗素子2bはA相用の異方性磁気抵抗素子2aに対して45°傾けられている。磁束を読むホール素子と異なり、異方性磁気抵抗素子2a,2bは磁界の方向を読めるので、これらをほぼ同位置に配置することができる。このため、配置位置のずれによる外乱の影響を少なくすることができ、外乱に強いセンサ2が得られる。また、ホール素子ではN−N間で1周期の電圧信号が得られるのに対し、異方性磁気抵抗素子2a,2bではN−N間で2周期の電圧信号が得られるので、分解能を二倍にすることができる。
図16はセンサ2の測定距離Lとエンコーダ1の幅W、極ピッチP,ピッチ円との関係を示した図である。上記のようにピッチ円は円形であるが、ここでは分かり易くするために直線で示している。上記のように、幅Wは第一及び第二の歯部5b,6bの幅である。極ピッチPは隣接する第一の歯部5bの幅方向の中心と第二の歯部6bの幅方向の中心との距離である。センサ2の測定距離Lは、異方性磁気抵抗素子2a,2bから第一及び第二の歯部5b,6b(正確にいえばピッチ円)までの距離である。センサ2は測定距離LがW=K(L−α)の位置に配置される。ここで、Kはエンコーダの外径及び曲率による影響であり、αはツース形状及び材質による影響である。K≒1であり、α≒0なので、LとWを等しくすることもできる。
図17はセンサ2が読み取る磁界の方向とリサージュ図形との関係を模式的に示した図である。磁束はN極から出てS極に入るので、第一及び第二の歯部5b,6b間には、図17の左欄の矢印(1)〜(5)で示す磁界の方向が形成される。そして、センサ2はS極の上に位置するとき、矢印(1)で示す下側を向く磁界の方向を検出する。エンコーダ1の回転に伴って第一及び第二の歯部5b,6bが図中右方向に移動すると、センサ2は矢印(2)〜(4)で示す磁界の方向を順番に検出する。センサ2はN極の上に位置するとき、矢印(5)で示す上側を向く磁界の方向を検出する。
図17の右欄はセンサ2が出力する磁界の方向をリサージュ図形で示したものである。リサージュ図形が真円に近ければ近いほど、センサ2の検出精度が向上する。リサージュ図形を真円に近づけるために、本実施形態ではエンコーダ1に主に以下の二つの工夫がなされている。一つ目は、図13(b)の左欄の黒塗りの矢印(I)に示すように、第一及び第二の歯部5b,6bの先端を第二及び第一の基体6a,5aの表面6c,5cよりも軸線方向に伸ばすことである。二つ目は、第一及び第二の歯部5b,6bの幅Wと極ピッチPを最適化することである。いずれか一方の工夫だけでも、リサージュ図形を真円に近づけることができる。本実施形態のように二つの工夫を併用することで、よりリサージュ図形を真円に近づけることができる。
まず、図13及び図14を参照して一つ目の工夫を説明する。図13において、解析により求めた磁束ベクトルが白抜きの矢印(II)で示される。矢印(II)で示される磁束ベクトルは、エンコーダ1の周囲(図16のセンサ2の測定位置)の磁束ベクトルである。図13の左欄はエンコーダ1の平面図で見た磁束ベクトルを示し、図13の右欄はエンコーダ1の軸線方向から見た磁束ベクトルを示す。
第一及び第二の歯部5b,6bの先端が第二及び第一の基体6a,5aまで伸びていない比較例では、図13(a)の右欄の矢印(II)に示すように、法線方向の磁束密度11が接線方向の磁束密度12に比べて大きくなる。そして、図14(a)の右欄に示すように、第一の歯部5bのN極から第二の歯部6bのS極に至る間の磁束ベクトルの方向の変化も理想的な正弦波から離れたものとなる。
これに対して、図13(b)及び(c)の左欄に示すように、第一及び第二の歯部5b,6bの先端を第二及び第一の基体6a,5aの表面6c,5cよりも軸線方向に伸ばすことで、第一の歯部5bの先端から第二の基体6aに磁束が流れ易くなり、かつ第二の歯部6bの先端から第一の基体5aに磁束が流れ易くなる。このため、図13(b)及び(c)の右欄に示すように、法線方向の磁束密度11が比較例に比べて小さくなり、接線方向の磁束密度12の大きさに近づく。また、図14(c)の右欄に示すように、磁束ベクトルの方向も反対の極に向かって接線方向に曲げられる。例えばN極の磁束ベクトル11−1,11−2がS極に向かって接線方向に曲げられる。
この結果、図14(c)の右欄に示すように、法線方向の磁束密度11と接線方向の磁束密度12の大きさが揃い、N極からS極に至る間の磁束ベクトルの方向の変化も理想的な正弦波に近づく。特に、図13(c)に示すように、第一及び第二の歯部5b,6bの先端を第二及び第一の基体6a,5aの対向面6c、5cとは反対側の表面6d,5dまで伸ばすことで、より理想的な正弦波に近づく。理想的な正弦波に近づけた磁界の方向をセンサ2で検出することで、エンコーダの検出精度を高くすることができる。
次に、第一及び第二の歯部5b,6bの幅Wと極ピッチPの最適化を説明する。図18は、幅Wと極ピッチPを最適化した場合とそうでない場合とで、法線方向の磁束密度及び接線方向の磁束密度を比較した図である。法線方向の磁束密度と接線方向の磁束密度から磁束ベクトルを求めることができる。法線方向の磁束密度が理想的な正弦波であり、接線方向の磁束密度が理想的な余弦波であれば、リサージュ図形は真円になる。
図18(b)が本発明例を示し、図18(a)及び(c)が比較例を示す。図18(b)に示すように、幅Wと極ピッチPとの関係を最適化することで、法線方向の磁束密度が理想的な正弦波に近づき、接線方向の磁束密度が理想的な余弦波に近づく。この結果、リサージュ図形は真円に近づく。
しかし、図18(a)の左欄に示すように、極ピッチPに対して幅Wが占める割合が大きい場合、図18(a)の右欄に示すように、法線方向の磁束密度は大きいまま急激に上方向から下方向に向きが変わり、接線方向の磁束密度は三角形に近くなる。また、図18(c)の左欄に示すように、極ピッチPに対して幅Wが占める割合が小さい場合、図18(c)の右欄に示すように、法線方向の磁束密度は直線的に小さくなり、接線方向の磁束密度は台形に近くなる。この結果、図18(a)の場合でも図18(c)の場合でもリサージュ図形は真円から遠ざかる。
幅Wと極ピッチPとの比を1:2.0以上2.4以下に設定した理由は以下のとおりである。まず発明者は、図19に示すように、センサ2のA相信号及びB相信号を解析により算出し、理想との誤差を求めた。理想のA相信号及びB相信号は90°位相がずれた理想的な正弦波及び余弦波である。解析により算出したセンサ2のA相信号及びB相信号出力信号が理想の正弦波及び余弦波に近ければ近いほど、リサージュ図形が真円に近づく。
次に発明者は、図20に示すように、幅Wと極ピッチPとの比P/Wを1.5〜2.7の範囲内で変化させたときのセンサ出力誤差を求めた。図20(a)〜図20(c)に示すように、P/Wが1.5から大きくなるにしたがって、センサ出力誤差は小さくなる。P/Wが2.0以上2.4以下のとき、センサ出力誤差は1%以下になる。P/Wが2.4を超えるとき、センサ出力誤差が再び大きくなる。P/Wが2.1以上2.3以下のとき、センサ出力誤差が最小になる。このように、P/Wを最適化することで、エンコーダの検出精度を向上させることができる。
なお、図20(a)は、ピッチ円を20mm、極数を24(12極対)、極ピッチを2.62mmに設定した場合を示し、図20(b)は、ピッチ円を30mm、極数を36(18極対)、極ピッチを2.62mmに設定した場合を示し、図20(c)は、ピッチ円を40mm、極数を48(24極対)、極ピッチを2.62mmに設定した場合を示す。ピッチ円、極数、極ピッチは実際に製造されるエンコーダ1を想定して決定されている。
図21は第一及び第二の歯部5b,6bの形状の他の例を示す。図10に示す第一及び第二の歯部5b,6bの断面形状は四角形に形成されているのに対し、この例の第一及び第二の歯部5b,6bの断面形状は半円形に形成される。第一及び第二の歯部5b,6bの角を丸めることで、よりリサージュ図形を真円に近づけることができる。
本発明の第二の実施形態のエンコーダ1によれば、以下の効果を奏する。第一のヨーク5の第一の歯部5bの先端が第二のヨーク6の第二の基体6aの第一のヨーク5との対向面6cを超えて軸線方向に伸び、第二のヨーク6の第二の歯部6bの先端が第一のヨーク5の第一の基体5aの第二のヨーク6との対向面5cを超えて軸線方向に伸びるので、エンコーダ1の周囲のN極からS極に至る間の磁束ベクトルの大きさを略一定にできると共に、磁束ベクトルの方向の変化を理想的な正弦波に近づけることができる。理想的な正弦波に近づけた磁界の方向をセンサ2で検出することで、エンコーダの検出精度を高くすることができる。
第一のヨーク5の第一の歯部5bの先端が第二のヨーク6の第二の基体6aの対向面6cとは反対側の表面6dまで伸び、第二のヨーク6の第二の歯部6bの先端が第一のヨーク5の第一の基体5aの対向面5cとは反対側の表面5dまで伸びれば、エンコーダ1の周囲のN極からS極に至る間の磁束密度の方向の変化を理想的な正弦波により近づけることができる。また、エンコーダ1を作り易くなるし、エンコーダ1を相手部品に取り付けるのも容易になる。
第一及び第二の歯部5b,6bの幅Wと極ピッチPとの比を1:2.0以上2.4以下に設定することで、N極からS極に至る間の磁束ベクトルの方向の変化を示すリサージュ図形を真円に近づけることができ、したがって磁束ベクトルの方向の変化を理想的な正弦波に近づけることができる。理想的な正弦波に近づけた磁界の方向をセンサ2で検出することで、エンコーダ1の検出精度を高くすることができる。
センサ2から90°位相差を持つA相信号及びB相信号を出力することで、回転部材の回転方向を検出することができる。
なお、本発明は上記実施形態に限られることなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々変更できる。
上記第一の実施形態のエンコーダの第一及び第二の磁石、第一及び第二のヨーク、カラー、第一及び第二のバックヨークの形状は一例であり、本発明の要旨を変更しない範囲で他の形状を採用し得る。
上記第一の実施形態では、第一及び第二のヨークの外側に第一及び第二の磁石を配置しているが、第一及び第二のヨークの内側に第一及び第二の磁石を配置することもできるし、第一のヨークの外側に第一の磁石を配置し、第二のヨークの内側に第二の磁石を配置することもできる。
上記第一の実施形態では、第一の磁石と第二の磁石とを軸線方向に離すためにカラーを設けているが、カラーの替わりに空隙によって第一の磁石と第二の磁石とを軸線方向に離すこともできる。
上記第一の実施形態では、センサに傾きが生じた場合を説明したが、もちろん、センサが傾いていない場合も本発明の範囲に含まれる。
上記第二の実施形態のエンコーダの磁石、第一及び第二のヨークの形状は一例であり、本発明の要旨を変更しない範囲で他の形状を採用し得る。
上記第二の実施形態のエンコーダのピッチ円、極数、極ピッチは一例であり、本発明の要旨を変更しない範囲で他のピッチ円、極数、極ピッチを採用し得る。
上記第一及び上記第二の実施形態では、センサからA相信号及びB相信号を出力しているが、どちらか一方のみの信号を出力してもよい。