JP2015135348A - 絶縁材料の余寿命推定装置、余寿命推定方法、及び余寿命推定プログラム - Google Patents
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Abstract
【課題】絶縁材料の劣化を診断する。
【解決手段】実施形態に係る劣化診断装置1は、推定手段4と診断手段7とを含む。推定手段4は、絶縁材料に対して予め設定されている評価項目の係数12と、評価項目の実測値14とに基づいて、多変量解析のT法により絶縁材料の絶縁抵抗値を推定する。診断手段7は、推定された絶縁抵抗値と、絶縁材料の使用期間とに基づいて、絶縁抵抗値の使用期間に対する変化を表す推定曲線を求め、推定曲線が予め設定されているしきい値11以下となる時点に基づいて絶縁材料の有効期間を求める。
【選択図】 図1
【解決手段】実施形態に係る劣化診断装置1は、推定手段4と診断手段7とを含む。推定手段4は、絶縁材料に対して予め設定されている評価項目の係数12と、評価項目の実測値14とに基づいて、多変量解析のT法により絶縁材料の絶縁抵抗値を推定する。診断手段7は、推定された絶縁抵抗値と、絶縁材料の使用期間とに基づいて、絶縁抵抗値の使用期間に対する変化を表す推定曲線を求め、推定曲線が予め設定されているしきい値11以下となる時点に基づいて絶縁材料の有効期間を求める。
【選択図】 図1
Description
本発明の実施形態は、使用されている絶縁材料の劣化状態を診断する余寿命推定装置、余寿命推定方法、及び余寿命推定プログラムに関する。
電力設備は、社会インフラストラクチャを支える重要な設備であり、長期の安定稼動が求められる。安定稼動のためには、電力設備の劣化状態を把握し、保全・更新を計画的に実施する必要がある。電力設備の導体支持又はバリヤなどに使用される絶縁材料は、材料自体の経年劣化、設置環境に浮遊する塵埃又はガスの付着などにより絶縁性が低下する場合がある。絶縁材料の絶縁性が低下すると放電又はトラッキングが発生するため、絶縁材料の絶縁性の低下は設備停止の原因となる。したがって、絶縁材料は、劣化診断の対象とされる傾向にある。
設置環境に基づく絶縁材料の劣化は、上記の塵埃又はガスの付着のよる汚損のみではなく、絶縁材料の成分と反応する環境因子からも影響を受ける。絶縁材料の成分と反応する環境因子が存在する環境では、通常の経年劣化を上回る速度で、絶縁材料が劣化する場合がある。例えば、無機充填材として炭酸カルシウムが使用される絶縁材料は、この炭酸カルシウムが塩素系ガス又は窒素酸化物ガスなどと反応すると、絶縁材料表面に塩化カルシウム又は硝酸カルシウムが形成される。これらの塩化カルシウム又は硝酸カルシウムなどの物質は、湿度40%RH以下の低湿度であっても水分を吸入して潮解する。したがって、絶縁材料表面に塩化カルシウム又は硝酸カルシウムが形成された場合、低湿度条件であっても、絶縁材料の表面が結露し、漏れ電流が流れ、絶縁が破壊され、設備停止となる場合があると考えられる。
標準化と品質管理 Vol.58 No.8 第68頁−第74頁
本発明の実施形態は、絶縁材料の劣化状態を診断するための余寿命推定装置、余寿命推定方法、及び余寿命推定プログラムを提供することを目的とする。
第1の実施形態によれば、余寿命推定装置は、推定手段を具備する。推定手段は、絶縁材料に対して予め設定される評価項目の係数と、評価項目の実測値とに基づいて、多変量解析のT法(タグチ法)により、絶縁材料に応じて予め複数用意される一次式を用いて絶縁材料の余寿命を推定する。
第2の実施形態によれば、余寿命推定方法は、処理装置が、絶縁材料に対して予め設定される評価項目の係数と、評価項目の実測値とに基づいて、多変量解析のT法により、絶縁材料に応じて予め複数用意される一次式を用いて絶縁材料の余寿命を推定すること、を具備する。
第3の実施形態によれば、余寿命推定プログラムは、コンピュータに、絶縁材料に対して予め設定される評価項目の係数と、記憶装置に記憶される評価項目の実測値とに基づいて、多変量解析のT法により、絶縁材料に応じて予め複数用意される一次式を用いて前記絶縁材料の余寿命を推定し、推定結果を記憶装置に記憶することを実行させる。
以下、図面を参照しながら本発明の各実施の形態について説明する。なお、以下の説明において、略または実質的に同一の機能および構成要素については、同一符号を付し、必要に応じて説明を行う。
(第1の実施形態)
本実施形態においては、例えば受電設備、変電設備、スイッチギヤなどのような各種の電力機器又は電力設備に使用される絶縁材料の劣化状態を推定・診断する劣化診断装置について説明する。本実施形態では、診断の一例として、絶縁材料の余寿命を求める。
本実施形態においては、例えば受電設備、変電設備、スイッチギヤなどのような各種の電力機器又は電力設備に使用される絶縁材料の劣化状態を推定・診断する劣化診断装置について説明する。本実施形態では、診断の一例として、絶縁材料の余寿命を求める。
本実施形態においては、経年的な絶縁材料の劣化に加えて、絶縁材料の設置環境から影響を受ける絶縁材料の劣化を含めて劣化診断が行われる。
図1は、本実施形態に係る劣化診断装置の構成の一例を示すブロック図である。
劣化診断装置1は、入力部2、記憶装置3、推定部4,5、診断部5、推定部6〜8、出力部9を具備する。
本実施形態においては、例えば、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂などの絶縁材料が診断対象となる。本実施形態においては、絶縁材料の絶縁抵抗値としては、例えば、絶縁材料の表面絶縁抵抗値、log絶縁抵抗値が、劣化診断に用いられる。
図2は、絶縁材料の絶縁抵抗値と測定時の温度・湿度条件との関係の一例を示すグラフである。この図2の例では、それぞれ、20℃、40℃、60℃の新品の絶縁材料と、20℃、40℃、60℃の劣化品の絶縁材料とに関し、50%RH、60%RH、70%RH、80%RH、95%RHの湿度における絶縁抵抗の値(Ω)を示している。
この図2に図示されるように、新しい絶縁材料の場合には、温度・湿度に関係なく、絶縁抵抗値はほぼ一定の値を示す。劣化した絶縁材料の場合には、測定時の温度が高いほど絶縁抵抗値は低下しやすい。また、絶縁材料の絶縁抵抗値は、測定時の湿度が高いほど絶縁抵抗値は低下しやすく、同じ絶縁材料であっても湿度が異なれば数桁の測定誤差が生じる。
このように、絶縁材料の絶縁抵抗値は、温度及び湿度などのような外部環境のノイズから影響を受ける。
そこで、本実施形態に係る劣化診断装置1は、外部環境のノイズの影響を受けても高精度に絶縁抵抗値を推定するために、絶縁抵抗値と高い相関又は逆相関を持つ評価項目(材料特性など)の値を用いる。
上述したように、梅雨時などのような高温・高湿の環境において長く使用される絶縁抵抗の絶縁抵抗値は、急激に低下する可能性がある。
そこで、本実施形態に係る劣化診断装置1は、上記の実際の環境における絶縁抵抗値に加えて、想定される悪環境での絶縁抵抗値を推定する。
これにより、本実施形態に係る劣化診断装置1は、絶縁抵抗値の維持に悪影響を与える環境でどの程度絶縁抵抗値が低下するかを推定し、悪環境での絶縁材料の余寿命を予測することができる。例えば保守者などのユーザ1Uは、絶縁抵抗値の低下に基づいて機器又は設備が停止される前に、部品又は機器を交換することができる。
以下で、図1に示す劣化診断装置1の各構成要素について説明する。
本実施形態に係る劣化診断装置1は、第1の動作において、実測値である絶縁抵抗値と、実測の評価項目値に基づいて推定された絶縁抵抗値とを比較し、推定方法の精度を診断する。
また、劣化診断装置1は、第2の動作において、実測の評価項目値に基づいて推定された絶縁抵抗値に基づいて絶縁材料の余寿命を診断する。
さらに、劣化診断装置1は、第3の動作において、劣化が進行すると想定される悪環境の評価項目値に基づいて絶縁抵抗値を推定し、悪環境での絶縁材料の余寿命を診断する。
入力部2は、ユーザ1U、又は、各種の外部装置(例えば、センサ、端末、他のシステムなど)1Aから、劣化診断装置1内で使用される推定方法の推定精度が許容される範囲か否かを診断するための許容範囲10、絶縁材料が正常でないと判断する絶縁抵抗値を示すしきい値11、絶縁抵抗値の推定式の係数及び定数などを含むパラメータ12、絶縁材料の実測の絶縁抵抗値とその時間情報とを含む実測の絶縁抵抗データ13、実測の評価項目値とその測定時間情報とを含む実測の評価項目データ14、悪環境の評価項目値と該当する時間情報とを含む悪環境の評価項目データ15、などの各種情報を入力し、入力された情報を記憶装置3に記憶する。この入力部2は、ネットワーク経由で、各種情報を受信するとしてもよい。なお、許容範囲10、しきい値11は、実験などで求めることができる。
以下において、時間情報は、使用期間を用いる場合を説明するが、単に日時などのような他の時間情報が用いられてもよい。
記憶装置3は、入力部2によって受け付けられた各種情報、及び推定部4、診断部5、推定部6、診断部7によって求められた各種情報を記憶する。
推定部4は、記憶装置3に記憶されているパラメータ12、実測の評価項目データ14に基づいて、多変量解析(例えば、T法)を用いて実測環境での絶縁抵抗値を推定する。
なお、以下においては、推定方法としてT法を用いる場合を例として説明するが、他の推定方法を用いるとしてもよい。
推定部4は、実測の評価項目値に基づいて推定された絶縁抵抗値と対応する使用期間とを含む推定結果16を記憶装置3に記憶する。例えば、パラメータ12は、T法で用いる多項式の係数及び定数を含む。評価項目値は、絶縁材料の絶縁抵抗値と高い相関又は逆相関を持つ。
診断部6は、記憶装置3に記憶されている許容範囲10、実測の絶縁抵抗データ13、推定結果16に基づいて、この劣化診断装置1に用いられているT法が適切か否かを診断する。例えば、診断部6は、実測の絶縁抵抗値と、実測の評価項目値に基づいて推定された絶縁抵抗値とを比較し、差が許容範囲10を越える場合には、パラメータ12とT法とのうちの少なくとも一方が適切でないと診断する。
そして、診断部6は、推定方法が適切か否かを示す診断結果17を記憶装置3に記憶する。
診断部7は、実測の評価項目値に基づいて推定された絶縁抵抗値と該当する使用期間とに基づいて、使用期間に対応する絶縁抵抗値の変化を示す推定曲線を求める。例えば、この診断部7は、未使用時の絶縁抵抗値と、実測の評価項目値に基づいて推定された絶縁抵抗値とその使用期間とに基づいて、絶縁抵抗値の変化量を求める。なお、診断部7は、未使用時の絶縁抵抗値を用いることなく、互いに異なる使用期間における実測の評価項目値に基づいて推定された複数の絶縁抵抗値とそれぞれの使用期間とに基づいて、推定曲線を求めるとしてもよい。
さらに、診断部7は、推定曲線としきい値11とに基づいて、推定曲線がしきい値11以下となる時点を求め、絶縁材料の実測環境での余寿命(残りの有効期間)を求める。
そして、診断部7は、絶縁材料の実測環境での余寿命を含む診断結果18を記憶装置3に記憶する。
推定部5は、記憶装置3に記憶されているパラメータ12、悪環境の評価項目値15に基づいて、推定部4と同様の多変量解析を用いて悪環境での絶縁抵抗値を推定する。そして、推定部5は、悪環境の評価項目値に基づいて推定された絶縁抵抗値と対抗する使用期間とを含む推定結果19を記憶装置3に記憶する。
診断部8は、悪環境の評価項目値に基づいて推定された絶縁抵抗値と該当する使用期間とに基づいて、悪環境での使用期間に対応する絶縁抵抗値の変化を示す悪環境の推定曲線を求める。
さらに、診断部8は、悪環境の推定曲線としきい値11とに基づいて、悪環境の推定曲線がしきい値11以下となる時点を求め、絶縁材料の悪環境での余寿命(残りの有効期間)を求める。
そして、診断部8は、絶縁材料の悪環境での余寿命を含む診断結果20を記憶装置3に記憶する。
出力部9は、ユーザ1U、又は、各種の外部装置1Aに、記憶装置3に記憶されている診断結果17,18,20などの各種情報を出力する。例えば、出力部9は、診断結果17,18,20を表示するとしてもよく、送信するとしてもよい。
図3は、本実施形態に係る劣化診断装置1の診断内容の一例を示すグラフである。
この図3において、横軸は、診断対象である絶縁材料の使用期間である。縦軸は、絶縁材料のlog絶縁抵抗値である。
例えば、T法によって実測の評価項目値に基づいて推定された絶縁抵抗値と、実測の絶縁抵抗値との差が、許容範囲10を越える場合には、T法による推定方法の精度が低いと診断される。
絶縁材料は、使用期間が長くなるほど、絶縁抵抗値が下がる。例えば、新品の絶縁材料の絶縁抵抗値(推定された他の実測環境での絶縁抵抗値でもよい)、実測の評価項目値に基づいて推定された実測環境での絶縁抵抗値、使用期間に基づいて得られる推定曲線から、絶縁抵抗値がしきい値11以下となる時点が推定される。そして、絶縁抵抗値がしきい値11以下となる時点と現時点との差より、絶縁材料の実測環境での余寿命が求められる。
また、新品の絶縁材料の絶縁抵抗値(推定された他の悪環境での絶縁抵抗値でもよい)、悪環境の評価項目値に基づいて推定された悪環境での絶縁抵抗値、使用期間に基づいて得られる推定曲線から、悪環境での絶縁抵抗値がしきい値11以下となる時点が推定される。そして、悪環境での絶縁抵抗値がしきい値11以下となる時点と現時点との差より、絶縁材料の悪環境での余寿命が求められる。
図4は、本実施形態に係る劣化診断装置1の動作の第1の例を示すフローチャートである。
ステップS1において、劣化診断装置1の推定部4は、例えばT法で用いられるパラメータ12、実測の評価項目値と使用期間とを含む評価項目データ14に基づいて、T法による解析を行い、実測の評価項目値に基づいて推定された絶縁抵抗値と試用期間とを含む推定結果16を求める。
ステップS2において、劣化診断装置1の診断部6は、実測の絶縁抵抗値と使用期間とを含む実測の絶縁抵抗データ13と、実測の評価項目値に基づいて推定された絶縁抵抗値と使用期間とを含む推定結果16とに基づいて、実測の絶縁抵抗値と実測の評価項目値に基づいて推定された絶縁抵抗値との差を求める。
ステップS3において、診断部6は、この差が許容範囲10より大きいか否か判断する。
差が許容範囲10より大きい場合、ステップS4Aにおいて、診断部6は、推定方法とパラメータ11とのうちの少なくとも一方の精度に関する警告を含む診断結果17を生成し、記憶装置3に記憶する。
差が許容範囲10以下の場合、ステップS4Bにおいて、診断部6は、推定方法とパラメータ11が正常である(推定精度が十分である)ことを示す情報を含む診断結果17を生成し、記憶装置3に記憶する。
ステップS5において、出力部9は、記憶装置3に記憶されている診断結果17を出力する。
図5は、本実施形態に係る劣化診断装置1の動作の第2の例を示すフローチャートである。
ステップT1は、上記ステップS1と同様であり、劣化診断装置1の推定部4は、パラメータ12、実測の評価項目データ14に基づいて解析を行い、実測の評価項目値に基づいて推定された絶縁抵抗値と使用期間とを含む推定結果16を生成する。
ステップT2において、劣化診断装置1の診断部7は、新品の絶縁材料の絶縁抵抗値(他の絶縁抵抗値とその使用期間でもよい)、実測の評価項目値に基づいて推定された絶縁抵抗値とその使用期間、しきい値11に基づいて、絶縁材料の実測環境での余寿命を含む診断結果17を生成し、診断結果18を記憶装置3に記憶する。実測環境での余寿命は、例えば、新品の絶縁抵抗値、現時点までの使用期間、T法で推定された絶縁抵抗値から推定曲線を生成し、この推定曲線がしきい値11と交わる時点を求め、この求められた時点から現時点までの使用期間を引くことで算出される。
ステップT3において、出力部9は、記憶装置3に記憶されている診断結果18を出力する。
図6は、本実施形態に係る劣化診断装置1の動作の第3の例を示すフローチャートである。
ステップU1において、劣化診断装置1の推定部5は、パラメータ12、悪環境の評価項目データ15に基づいて解析を行い、悪環境の評価項目値に基づいて推定された絶縁抵抗値と使用期間とを含む推定結果19を生成する。悪環境の評価項目データ15は、例えば、絶縁材料を含む設備・機器が設置されている場所ごとに任意の期間(例えば年間)を通じて温度及び湿度を測定し、この測定された温度及び湿度のうち、最も高い温度及び湿度を含むとしてもよい。
ステップU2において、劣化診断装置1の診断部8は、新品の絶縁材料の絶縁抵抗値(他の悪環境での絶縁抵抗値とその使用期間でもよい)、悪環境の評価項目値に基づいて推定された絶縁抵抗値とその使用期間、しきい値11に基づいて、絶縁材料の悪環境での余寿命を含む診断結果20を生成し、診断結果20を記憶装置3に記憶する。悪環境での余寿命は、例えば、新品の絶縁抵抗値、現時点までの使用期間、T法で推定された悪環境での絶縁抵抗値から悪環境での推定曲線を生成し、この悪環境での推定曲線がしきい値11と交わる時点を求め、この求められた時点から現時点までの使用期間を引くことで算出される。
ステップU3において、出力部9は、記憶装置3に記憶されている診断結果20を出力する。
通常の環境下では絶縁性が良好と診断される絶縁材料であっても、梅雨時など絶縁材料にとって悪い環境下では、絶縁抵抗値が急激に低下する場合がある。しかしながら、本実施形態のように悪環境での余寿命を推定することにより、ユーザは悪環境下で絶縁性が低下する傾向を把握することができる。
図7は、T法の推定式を生成するための特性要因の一例を示す要因効果図である。
この図7において、縦軸(Y)は、log絶縁抵抗値を示し、横軸(X)は、各評価項目を示す。図7では、各評価項目において、Xの値が変わると、Yの値がどのように変化するかが表現されている。図7のXに対するYの変化率が大きいほど(傾きが大きいほど)、Yへの影響は大きいことを意味する。
本実施形態に係るT法は、項目選択の信頼性向上を図るために正逆直交表を使用している。
図8は、実測の絶縁抵抗値(真値)と、T法によって推定された絶縁抵抗値(推定値)との相関関係の一例を示すグラフである。
この図8において、横軸は実測の絶縁抵抗値であり、縦軸は推定された絶縁抵抗値(推定値)である。この実測の絶縁抵抗値と推定された絶縁抵抗値とが近いほど、推定精度は高い。
図9は、絶縁材料の実測のlog絶縁抵抗値、実測環境で(実際に測定された評価項目値を用いて)推定されたlog絶縁抵抗値、悪環境で推定されたlog絶縁抵抗値の比較の一例を示すテーブルである。
この図9において、各行について、実測のlog絶縁抵抗値と、実測環境で推定されたlog絶縁抵抗値との差は、許容範囲10内となることが望まれる。
使用期間が長いほど、悪環境でのlog絶縁抵抗値は、実測のlog絶縁抵抗値及び実測環境で推定されたlog絶縁抵抗値よりも小さくなる。
本実施形態において、評価項目は、測定者などのユーザ1Uが設備設置場所で測定可能又はサンプルを持ち帰って評価できる項目であるとする。さらに、評価項目は、設備及び絶縁材料を破壊することなく、かつ、傷付けることなく測定可能な項目であるとする。評価項目は、設備運転中に測定可能な項目であることが好ましい。評価項目は、定期点検など設備を停止する機会に同時に測定できる項目であってもよい。
例えば、評価項目としては、温度、湿度、色相(明度L*、色度a*、色度b*)、光沢度(入射角20°、60°、85°)、反射率(赤色光反射率、青色光反射率、緑色光反射率)、接触角、表面粗さ、汚損度、イオン含有量(フッ素イオン、塩素イオン、亜硝酸イオン、硝酸イオン、硫酸イオン、リン酸イオン、ナトリウムイオン、アンモニウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン)などが用いられる。この中でも、特に、温度、湿度、色相、光沢度、汚損度、イオン含有率は、絶縁材料の絶縁抵抗値と相関性が高く、評価項目として使用されることが好ましい。この理由として、絶縁材料は、経年劣化によって、表面が粗くなり、光沢(つや)がなくなり、変色するためである。なお、絶縁材料の絶縁抵抗値は、設置環境にもよるが、空気中に浮遊している塵埃、イオン性物質が付着、堆積し、表面に導電性物質が溜まることで低下する場合もあるため、空気中に浮遊している塵埃の量、イオン性物質の量を評価項目に用いるとしてもよい。
本実施形態において、log絶縁抵抗値は、下記の(1)式のように、定数、評価項目値、係数の一次式で表される。
Y=C+n1X1+n2X2+n3X3+…+niXi …(1)
ここで、Yはlog絶縁抵抗値、Cは定数、X1〜Xiは各評価項目値(評価項目の測定値)、n1〜niは評価項目の係数である。
ここで、Yはlog絶縁抵抗値、Cは定数、X1〜Xiは各評価項目値(評価項目の測定値)、n1〜niは評価項目の係数である。
絶縁材料の絶縁抵抗値を実測すると、外部環境ノイズを含む値が測定される可能性がある。これに対して、(1)式によってYを算出すると、ノイズに影響されない絶縁抵抗値を得ることができる。
設備稼働中においては絶縁抵抗値を測定することが困難であるが、(1)式を用いることによって、設備稼働中であっても絶縁材料の絶縁抵抗値を求め、寿命診断を行うことができる。
実際に絶縁材料が使用された環境における絶縁抵抗値を得ることが困難な場合であっても、(1)式に温度、湿度などの外部環境条件を入力することによって、実際の使用環境に対応する絶縁抵抗値を推定し、絶縁材料の寿命を把握し、メンテナンスを効果的に行うことができる。
そして、本実施形態では、絶縁材料にとって悪環境となる高温度、高湿度の条件下で、絶縁材料が使用された場合の絶縁抵抗値を推定することができる。
図10は、推定式の定数及び係数の切り替えの一例を示すテーブルである。
この図10において、条件R1の定数及び係数は、高湿度域で使用される定数及び係数である。条件R2の定数及び係数は、低湿度域で使用される定数及び係数である。絶縁材料を含む設備の設置領域における湿度がある値以上の場合には、条件R1の定数及び係数を用いてlog絶縁抵抗値が推定される。湿度がある値未満の場合には、条件R2の定数及び係数を用いてlog絶縁抵抗値が推定される。
絶縁材料の種類によっては、高湿度の環境と低湿度の環境とで、log絶縁抵抗値の変化が大きく異なる場合がある。このような場合に、図10のように、(1)式の定数及び係数を湿度に応じて切り替えることにより、log絶縁抵抗値の推定精度を向上させることができる。
なお、この図10では、高湿度域と低湿度域とで(1)式の定数及び係数を切り替える場合を例として説明しているが、他の基準により(1)式の定数及び係数を切り替えるとしてもよい。
例えば、汚損度に基づいて、高汚損域と低汚損域とに分けて(1)式の定数及び係数が設定されるとしてもよい。例えば、高汚損域は、汚損区分が超重汚損から軽汚損の場所、あるいは汚損度が0.01(mg/cm2)より大きい場所とする。例えば、低汚損域は、汚損区分が清浄の場所、あるいは汚損度が0.01(mg/cm2)以下の場所とする。絶縁材料の表面が汚損されて導電性物質が溜まると、絶縁材料の絶縁性が失われ、急激に絶縁抵抗値が低下する傾向がある。したがって、絶縁材料の表面が清浄な状態と、汚損された状態とで区分けを行い、高汚損域と低汚損域とで(1)式の定数及び係数を切り替えることにより、推定精度を向上させることができる。
本実施形態において、上記(1)式の一部(例えば少なくとも一つの評価項目に対応する係数と評価項目値のうちの少なくとも一方)は関数化されているとしてもよい。
上記(1)の推定式のうちの少なくとも一つの評価項目値が関数で表される場合を、(2)式に示す。
Y=C+n1X1+n2X2+n3X3+…+ni-1Li-1(Xi-1)+niLi(Xi) …(2)
この(2)式においては、L(Xi-1)及びL(Xi)が評価項目値に基づいて得られる関数の値である。
この(2)式においては、L(Xi-1)及びL(Xi)が評価項目値に基づいて得られる関数の値である。
例えば、上記図10において、評価項目値X6´〜X9´は実測値に基づいて算出される演算値としてもよい。
図11は、推定式の一部に含まれる関数Li(Xi)の一例を示すグラフである。
例えば、評価項目がイオン含有率又は汚損度の場合、この評価項目に対応する係数と評価項目値とのうちの少なくとも一方は関数を用いて算出されるとする。
このように、特定の評価項目について、評価項目値と係数とのうちの少なくとも一方を関数化し、関数から得られる値を用いて、推定式によって絶縁抵抗値を推定することにより、評価項目の実測値をそのまま(1)式に代入する場合よりも、推定精度を向上させることができる。
ただし、係数又は評価項目値の関数化は、絶縁抵抗値が評価項目の関数で説明できると確認された場合に用いられるとする。
本実施形態において、電力機器に使用されている絶縁材料としては、例えば、各種のマトリックス樹脂、充填剤が用いられる。例えば色又は光沢などについては、絶縁材料ごとの特性がある。絶縁材料は、機器の構成部材として長期間使用されると、それぞれ材料特有の劣化状態を示す。絶縁材料ごとに評価項目値(特性値)も異なる。そこで、本実施形態において、上記推定式(1)、推定式(2)、係数、定数は、絶縁材料の種類ごとに設定されているとしてもよい。
図12は、絶縁材料を備える機器の型式を考慮した劣化診断装置の構成の一例を示すブロック図である。
この図12において、機器の型式A,Bごとの単位空間情報21A,21Bは、機器の設置されている場所に関する情報である。
データ22は、測定ごとの1セットの測定データ及び分析データである。
記憶装置3は、劣化診断に必要な各種情報が記憶されているが、この図12では省略している。
入力ツール22は、入力部2に対応する。帳票出力ツール23は、推定部4,5、診断部6〜8、出力部9に対応する。帳票24は、診断結果17,18,20に対応する。
ユーザ1Uは、診断を行う機器の型式を選択し、データ(各種の測定データ、分析データ)22を入力する。
記憶装置3は、入力されたデータ22を記憶する。
帳票出力ツール23は、選択された型式の単位空間情報と、記憶装置3に記憶されているデータ22、その他の各種情報に基づいて余寿命などを含む診断結果を生成し、帳票24として出力する。
以上説明した本実施形態においては、絶縁材料の余寿命を予知することによって、電力機器を安全に運転し、適切にメンテナンスを行うことができる。
本実施形態においては、高い精度で絶縁材料の絶縁抵抗値を推定することができる。
なお、本実施形態において、劣化診断装置1はコンピュータであり、推定部4,5及び診断部6〜8は、コンピュータのプロセッサがプログラムを実行することによって実現されるとしてもよい。例えば、入力部2は、タッチパネル、キーボード、ポインティングデバイスでもよく、出力部はディスプレイでもよい。
(第2の実施形態)
本実施の形態においては、上記図7を参照し、第1の実施形態で説明されたT法についてさらに説明を行う。
本実施の形態においては、上記図7を参照し、第1の実施形態で説明されたT法についてさらに説明を行う。
T法にはいくつかの種類があるが、第1の実施形態に係るT法は、単位空間が中央にある場合のT法である。
また、第1の実施形態に係るT法では、項目選択の信頼性を向上させるために、正逆直交表が使用される。
上記の図7は、このような計算に基づいて生成されたT法要因効果図の一例である。この図7の横軸の数字は各項目の番号である。この図7では、各項目について、水準1を小、水準2を中、水準3を大に設定した場合に、縦軸の推定値がどうなるかを示している。項目2,3,9,11,14,16,20は値が大きくなると推定値が小さくなることを示す。項目4〜8は値が大きくなるほど推定値が大きくなることを示す。項目12,15,19は推定値にほぼ影響を与えないことが把握される。
なお、本実施形態において、推定式には、単なる特徴値ではなく、特徴値を変換した特性が入力されるとしてもよい。
以上説明したように、項目選択において正逆直交表が使用されることにより、項目選択の信頼性が向上し、精度のよい推定式を求めることができる。
本実施形態においては、例えば、小、中、大の3レベルの要因効果図に基づいて、あるレベルを超えて推定値に影響を与える項目のみを選択して推定式を生成することにより、精度の低下を抑制しつつ、測定が必要な項目数を減らすことができる。
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
1…劣化診断装置、2…入力部、3…記憶装置、4,5…推定部、6〜8…診断部、9…出力部、10…許容範囲、11…しきい値、12…パラメータ、13…実測の絶縁抵抗データ、14…実測の評価項目データ、15…悪環境の評価項目データ、16,19…推定結果、17,18,20…診断結果
Claims (7)
- 絶縁材料に対して予め設定される評価項目の係数と、前記評価項目の実測値とに基づいて、多変量解析のT法(タグチ法)により、前記絶縁材料に応じて予め複数用意される一次式を用いて前記絶縁材料の余寿命を推定する診断手段と
を具備する余寿命推定装置。 - 請求項1に記載の余寿命推定装置において、
前記診断手段は、前記一次式を用いて前記絶縁材料の絶縁抵抗値を推定し、推定される前記絶縁抵抗値に基づいて前記絶縁材料の余寿命を推定することを特徴とする余寿命推定装置。 - 請求項2に記載の余寿命推定装置において、
前記診断手段は、推定される前記絶縁抵抗値と、前記絶縁材料の使用期間とに基づいて前記絶縁材料の余寿命を推定することを特徴とする余寿命推定装置。 - 請求項3に記載の余寿命推定装置において、
前記診断手段は、推定される前記絶縁抵抗値と、前記絶縁材料の使用期間とに基づいて、前記絶縁抵抗値の前記使用期間に対する変化を表す推定曲線を求め、前記推定曲線に基づいて前記絶縁材料の余寿命を推定することを特徴とする余寿命推定装置。 - 請求項4に記載の余寿命推定装置において、
前記診断手段は、前記推定曲線と予め設定されているしきい値とに基づいて前記絶縁材料の余寿命を推定することを特徴とする余寿命推定装置。 - 処理装置が、絶縁材料に対して予め設定される評価項目の係数と、前記評価項目の実測値とに基づいて、多変量解析のT法(タグチ法)により、前記絶縁材料に応じて予め複数用意される一次式を用いて前記絶縁材料の余寿命を推定すること、を具備する余寿命推定方法。
- コンピュータに、絶縁材料に対して予め設定される評価項目の係数と、記憶装置に記憶される前記評価項目の実測値とに基づいて、多変量解析のT法(タグチ法)により、前記絶縁材料に応じて予め複数用意される一次式を用いて前記絶縁材料の余寿命を推定し、推定結果を前記記憶装置に記憶することを実行させるための余寿命推定プログラム。
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