JP2015124410A - 熱延鋼板 - Google Patents

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Abstract

【課題】高い強度を有するとともに優れた延性と伸びフランジ性とを有するので、自動車部材、機械構造部材、建築部材に用いられる素材として好適な熱延鋼板を提供する。
【解決手段】鋼板表面から板厚の1/4深さ位置における鋼組織が、ベイナイト50%以上、ポリゴナルフェライト2%以上30%未満、残留オーステナイト3%以上、残部が15.0%以下、残留オースナイトを除く鋼組織において15°以上の結晶方位差を有する粒界で囲まれる粒の平均粒径が15μm以下、Vαs>1.2Vαq,およびVγs>Vγqを満足する鋼組織を有し、板厚が1.2mm超6mm以下である熱延鋼板である。 Vαsは鋼板表面から100μm深さ位置でのフェライトの面積率(%)、Vγsは鋼板表面から100μm深さ位置での粒状の残留オーステナイトの面積率(%)、Vαqは鋼板表面から板厚の1/4深さ位置でのフェライトの面積率(%)、Vγqは鋼板表面から板厚の1/4深さ位置での粒状の残留オーステナイトの面積率(%)である。
【選択図】なし

Description

本発明は、熱延鋼板に関し、詳しくは、プレス加工等により様々な形状に成形して利用される熱延鋼板、特に、延性および伸びフランジ性に優れた高張力熱延鋼板に関する。
近年、地球環境保護の観点から、多くの分野において炭酸ガス排出量の削減に取り組んでいる。自動車メーカーにおいても低燃費化を目的とした車体軽量化の技術開発が盛んに行われている。しかし、乗員の安全確保のために耐衝突特性の向上にも重点が置かれるため、車体軽量化は容易ではない。
そこで、車体軽量化と耐衝突特性とを両立させるべく、高強度鋼板を用いて部材を薄肉化することが検討されている。このため、高い強度と優れた成形性とを兼備する鋼板が強く望まれており、これらの要求に応えるべく、幾つかの技術が従来から提案されている。なかでも、残留オーステナイトを含有する鋼板は、変態誘起塑性(TRIP)現象により優れた延性を示すことから、これまでにも多くの検討がなされている。
例えば、特許文献1には、平均結晶粒径が10μm以下であるフェライト中に平均結晶粒径が5μm以下である残留オーステナイトを分散させた、耐衝突安全性および成形性に優れた自動車用高強度鋼板が開示されている。金属組織に残留オーステナイトを含む鋼板では、加工中にオーステナイトがマルテンサイト化して変態誘起塑性により大きな伸びを示すものの、硬質なマルテンサイトの生成により穴拡げ性が損なわれる。特許文献1では、特許文献1により開示された熱延鋼板によればフェライトおよび残留オーステナイトを微細化することにより、良好な延性のみならず穴拡げ性も向上する、とされている。
特許文献2には、結晶粒内に残留オーステナイトおよび/またはマルテンサイトからなる第二相を微細に分散させた、伸びおよび伸びフランジ性に優れた引張り強度が980MPa以上の高強度鋼板が開示されている。
本発明者らは、特許文献3,4により、延性および伸びフランジ性に優れた高張力熱延鋼板とその製造方法を開示した。特許文献3には、熱間圧延完了後1秒間以内に720℃以下の温度域まで冷却し、500℃超720℃以下の温度域に1〜20秒間の滞在時間で滞在させた後、350〜500℃の温度域で巻き取ることにより、延性と伸びフランジ性が良好な高強度熱延鋼板の製造方法が開示されている。また、特許文献4には、ベイナイトを主体とし、適量のポリゴナルフェライトと残留オーステナイトとを有するとともに、残留オースナイトを除く鋼組織において15°以上の結晶方位差を有する粒界で囲まれる粒の平均粒径が15μm以下である、延性および伸びフランジ性が良好な高強度熱延鋼板が開示されている。
特開平11−61326号公報 特開2005−179703号公報 特開2012−251200号公報 特開2012−251201号公報
自動車部品には様々な加工様式があるため、要求される成形性は適用される部材により異なるが、その中でも延性と伸びフランジ性とは重要な成形性の指標と位置付けられており、延性と伸びフランジ性を高いレベルで兼備することが望まれている。さらに、近年では従来よりもさらに高い引張強度を有することも望まれているが、上述した従来の熱延鋼板およびその製造方法は以下に述べる難点を有するものであった。
特許文献1により開示された自動車用高強度鋼板は、フェライトおよび残留オーステナイトの微細化により延性および穴拡げ性が向上するとされているものの、得られる穴拡げ比は高々1.5であり十分なプレス成形性を備えるとは言い難い。また、加工硬化指数を高めて耐衝突安全性を改善するために、主相を軟質なフェライト相とする必要があり、高い引張強度を得ることは困難である。
特許文献2により開示された高強度鋼板は、第二相をナノサイズにまで微細化して結晶粒内に分散させるために、CuやNi等の高価な元素を多量に含有させたり、高温で長時間の溶体化処理を行う必要があり、製造コストの上昇や生産性の低下が著しい。
特許文献3により開示された高張力熱延鋼板の製造方法では、数100℃/s以上の急速冷却を700℃近傍の温度まで続けるため、量産工程では板温の制御が容易ではない。
さらに、特許文献4により開示された高張力熱延鋼板は、高強度であり、かつ延性と伸びフランジ性が良好であるものの、強度−伸びフランジ性バランス(TS×λ)が69000MPa・%に満たず、自動車の足回り部品といった高い伸びフランジ性を要求される部材へ適用することは困難である。
本発明は、従来の技術のこれらの課題に鑑みてなされたものであり、高い強度を有するとともに優れた延性と伸びフランジ性とを有する熱延鋼板を提供することを目的とするものであり、具体的には、引張り強度780MPa以上であり、強度−延性バランス(TS×EL)が20000MPa・%以上であるとともに、強度−伸びフランジ性バランス(TS×λ)が69000MPa・%以上である熱延鋼板を提供することを目的とする。
本発明者らは、上述の課題に鑑み、熱延鋼板の化学組成および鋼組織と機械特性との関係について鋭意研究を重ねた結果、以下に列記の知見a〜iを得て、本発明を完成した。
(a)高い強度を得るためには鋼組織は硬質であることが好ましく、優れた伸びフランジ性を得るためには鋼組織は均質であることが好ましい。したがって、高い強度と優れた伸びフランジ性とを兼備させるためには、硬質かつ均質な組織であるベイナイトが最も適しており、ベイナイトを主体とする鋼組織とすることが重要である。
(b)しかし、ベイナイトは延性に乏しい組織であるため、単にベイナイトを主体とする鋼組織とするだけでは、優れた延性を確保することが困難である。
(c)優れた延性を兼備させるためには、適量のポリゴナルフェライトと残留オーステナイトとを含有させることが効果的であるが、板厚方向の全域にわたって均一な組織とするよりも、鋼板の表層近傍のフェライト量を増加することにより伸びフランジ性を維持でき、一層の延性向上を図ることができる。
(d)鋼板の表層近傍に軟質なフェライトを鋼板の内部に比べて多く生成させることによって鋼板の表層近傍の加工性が増加し、打ち抜き加工時の微小クラックの生成を抑制することが可能となる。さらに、鋼板内部をベイナイト主体の組織とすることにより、微小なクラックの伝播を抑制することが可能となる。これにより、延性および伸びフランジ性が高められる。
(e)また、適量の残留オーステナイトを含有させることにより変態誘起塑性(TRIP)により延性が高められる。
(f)ここで、残留オーステナイトは、変態誘起塑性(TRIP)により延性を高めることができる反面、変態誘起塑性(TRIP)により硬質なマルテンサイトに変態して伸びフランジ性を低下させる。このため、残留オーステナイトを単に有するのでは、ベイナイトを主体とする鋼組織とすることによる伸びフランジ性の向上作用が減殺されてしまい、優れた伸びフランジ性を確保することが困難となる。
(g)残留オーステナイトは、主として15°以上の結晶方位差を有する粒の間に生成する粒状のものと、ベイナイトラス間に生成するラス状のものに分類されるが、後者は残留オーステナイト中の炭素濃度がより高まる傾向にあり、変態誘起塑性(TRIP)により、粒状の残留オーステナイトよりも硬質なマルテンサイトを生じ易く、伸びフランジ性を低下させる。
(h)粒状の残留オーステナイトは、ラス状の残留オーステナイトに比べて、粗大化し易い傾向にあり、打ち抜き加工時に粗大なクラックを生じて伸びフランジ性を低下させる。このため、15°以上の結晶方位差を有する粒の平均粒径を小さくして、粒状の残留オーステナイトの生成サイトを増加させ、微細に生成させることが有効である。
(i)さらに、鋼板の表層部において粒状の残留オーステナイトの割合を高めることにより、鋼板の表層部の均一伸びが向上するとともに、鋼板の内部に比して鋼板の表層部の歪量が大きい伸びフランジ成形や曲げ成形等における成形性を向上させることができる。
上記知見に基づいてなされた本発明は、以下のとおりである。
(1)質量%で、C:0.08%超0.30%未満、Si:0.10%以上3.0%以下、Mn:1.0%以上4.0%以下、P:0.10%以下、S:0.010%以下、sol.Al:0.010%以上3.0%以下、N:0.010%以下を含有し、かつSiとsol.Alの合計含有量(Si+sol.Al)が0.8%以上3.0%以下であり、残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有し、鋼板表面から板厚の1/4深さ位置における鋼組織が、面積%で、ベイナイトを50%以上、ポリゴナルフェライトを2%以上30%未満、残留オーステナイトを3%以上有し、残部が15.0%以下であって、かつ残留オースナイトを除く鋼組織において15°以上の結晶方位差を有する粒界で囲まれる粒の平均粒径が15μm以下であるとともに、下記式(1)および式(2)を満足する鋼組織を有し、板厚が1.2mm超6mm以下であることを特徴とする熱延鋼板。
Figure 2015124410
Figure 2015124410
ここで、
Vαsは鋼板表面から100μm深さ位置でのフェライトの面積率(%)であり、
Vγsは鋼板表面から100μm深さ位置での粒状の残留オーステナイトの面積率(%)であり、
Vαqは鋼板表面から板厚の1/4深さ位置でのフェライトの面積率(%)であり、
Vγqは鋼板表面から板厚の1/4深さ位置での粒状の残留オーステナイトの面積率(%)である。
(2)前記化学組成が、前記Feの一部に代えて、質量%で、Ti:0.20%以下、Nb:0.10%以下およびV:0.50%以下からなる群から選択される1種または2種以上を有する(1)項に記載の熱延鋼板。
(3)前記化学組成が、前記Feの一部に代えて、質量%で、Cr:1.0%未満、Mo:0.5%以下、Ni:1.0%以下およびB:0.0050%以下からなる群から選択される1種または2種以上を有する(1)項または(2)項に記載の熱延鋼板。
(4)前記化学組成が、前記Feの一部に代えて、質量%で、Ca:0.020%以下、Mg:0.020%以下およびREM:0.020%以下からなる群から選択される1種または2種以上を有する(1)項から(3)項までのいずれか1項に記載の熱延鋼板。
(5)前記化学組成が、前記Feの一部に代えて、Cu:1.0質量%以下を有する(1)項から(4)項までのいずれか1項に記載の熱延鋼板。
(6)前記化学組成が、前記Feの一部に代えて、Bi:0.020質量%以下を含有する(1)項から(5)項までのいずれか1項に記載の熱延鋼板。
本発明に係る熱延鋼板は、高い強度を有するとともに優れた延性と伸びフランジ性とを有するので、自動車部材、機械構造部材さらには建築部材に用いられる素材として好適である。
本発明に係る熱延鋼板の化学組成および鋼組織について、以下により具体的に説明する。以下の説明において、鋼板の化学組成に関する%は特に指定しない限り質量%である。
1.化学組成
(1−1)C:0.08%超0.30%未満
Cは、ベイナイトの生成を促進する作用と残留オーステナイトを安定化する作用とを有する。C含有量が0.08%以下では、目的とするベイナイト面積率や残留オーステナイト面積率を確保することが困難となる。したがって、C含有量は0.08%超とする。好ましくは0.10%以上、さらに好ましくは0.12%以上である。一方、C含有量が0.30%以上では、パーライトが優先的に生成してベイナイトや残留オーステナイトの生成が不十分となり、目的とするベイナイト面積率や残留オーステナイト面積率を確保することが困難となる。したがって、C含有量は0.30%未満とする。C含有量は好ましくは0.25%以下である。
(1−2)Si:0.10%以上3.0%以下
Siは、Alと同様に、セメンタイトの析出を遅延させる作用を有し、これにより、オーステナイトが未変態で残留する量、すなわち残留オーステナイトの面積率を高めることを可能とするとともに、固溶強化により鋼板の強度を高めることを可能とする。また、Siは脱酸により鋼を健全化する作用を有する。Si含有量が0.10%未満では上記作用による効果を得ることが困難である。したがって、Si含有量は0.10%以上とする。しかし、Si含有量が3.0%超では、鋼板の表面性状や化成処理性の劣化、さらには延性や溶接性の劣化が著しくなるとともに、A変態点の著しい上昇を招き、安定した熱間圧延を困難にする場合がある。したがって、Si含有量は3.0%以下とする。好ましくは2.5%以下である。後述するように、本発明ではSiおよびsol.Alの合計含有量(Si+sol.Al)が重要であるが、Siはsol.Alよりも固溶強化能が高いことから、より高い強度を求める場合には、Si含有量は、0.5%以上であることが好ましく、さらに好ましくは0.8%以上であり、特に好ましくは1.0%以上である。
(1−3)Mn:1.0%以上4.0%以下
Mnは、フェライト変態を抑制してベイナイトの生成を促進する作用を有する。Mn含有量が1.0%未満では、目的とするベイナイト面積率を確保することが困難である。したがって、Mn含有量は1.0%以上とする。Mn含有量は、好ましくは1.5%以上であり、さらに好ましくは1.8%以上である。一方、Mn含有量が4.0%超では、フェライト変態が過度に抑制され、目的とするポリゴナルフェライト面積率を確保することが困難となる。また、Mn含有量が4.0%超では、ベイナイト変態の完了が遅延するためにオーステナイトへの炭素濃化が促進されず、残留オーステナイトの生成が不十分となり、目的とする残留オーステナイト面積率を確保することが困難となるとともに、残留オーステナイト中の炭素濃度を高めることが困難となる。したがって、Mn含有量は、4.0%以下であり、好ましくは3.6%以下であり、さらに好ましくは3.2%以下である。
(1−4)P:0.10%以下
Pは、一般に不純物として含有される元素であるが、固溶強化により強度を高める作用を有する元素でもある。したがって、Pを積極的に含有させてもよい。しかし、Pは、偏析し易い元素であり、その含有量が0.10%を超えると、粒界偏析に起因する成形性や靭性の低下が顕著となる。したがって、P含有量は、0.10%以下であり。好ましくは0.030%以下であり、さらに好ましくは0.020%以下である。P含有量の下限は、特に規定する必要はないが精錬コストの観点から、0.001%以上とすることが好ましい。
(1−5)S:0.010%以下
Sは、不純物として含有される元素であり、鋼中に硫化物系介在物を形成して熱延鋼板の成形性を低下させる。S含有量が0.010%を超えると、成形性の低下が著しくなる。したがって、S含有量は、0.010%以下であり、好ましくは0.0050%以下であり、さらに好ましくは0.0030%以下であり、最も好ましくは0.0010%以下である。S含有量の下限は特に規定する必要はないが、精錬コストの観点からはS含有量は0.0001%以上とすることが好ましい。
(1−6)sol.Al:0.010%以上3.0%以下
Alは、Siと同様に、鋼を脱酸して鋼板を健全化する作用を有するとともに、オーステナイトからのセメンタイトの析出を抑制することで残留オーステナイトの生成を促進する作用を有する。sol.Al含有量が0.010%未満では上記作用による効果を得ることが困難である。したがって、sol.Al含有量は、0.010%以上であり、好ましくは0.20%以上である。一方、sol.Al含有量が3.0%超では、A変態点の著しい上昇を招いて、安定した熱間圧延を困難にする場合がある。したがって、sol.Al含有量は3.0%以下とする。好ましくは2.5%以下、さらに好ましくは2.0%以下である。
(1−7)N:0.010%以下
Nは、不純物として含有される元素であり、鋼板の成形性を低下させる作用を有する。N含有量が0.010%超では成形性の低下が著しくなる。したがって、N含有量は、0.010%以下であり、好ましくは0.0080%以下であり、さらに好ましくは0.0070%以下である。N含有量の下限は特に規定する必要はないが、後述するようにTi、NbおよびVの1種または2種以上を含有させて鋼組織の微細化を図る場合を考慮すると、炭窒化物の析出を促進させるためにN含有量は0.0010%以上とすることが好ましく、さらに好ましくは0.0020%以上である。
(1−8)Siとsol.Alの合計含有量(Si+sol.Al):0.8%以上3.0%以下
上述したように、SiおよびAlは、ともに、残留オーステナイトの生成を促進する作用を有するため、目的とする残留オーステナイト面積率を確保する観点から、Siおよびsol.Alの合計含有量(Si+sol.Al)を規定する。
合計含有量(Si+sol.Al)が0.8%未満では、目的とする残留オーステナイト面積率を確保することが困難となるとともに、残留オーステナイト中の炭素濃度を高めることが困難となる。したがって、合計含有量(Si+sol.Al)は0.8%以上であり、好ましくは1.0%以上であり、さらに好ましくは1.2%以上であり、最も好ましくは1.5%以上である。一方、合計含有量(Si+sol.Al)が3.0%超では、A変態点の著しい上昇を招いて、安定した熱間圧延を困難にする場合がある。したがって、合計含有量(Si+sol.Al)は、3.0%以下であり、好ましくは2.5%以下であり、さらに好ましくは2.2%以下である。
本発明に係る熱延鋼板は、以下に列記する元素を任意元素として含有してもよい。以下、任意元素を説明する。
(1−9)Ti:0.20%以下、Nb:0.10%以下およびV:0.50%以下からなる群から選択される1種または2種以上
Ti、NbおよびVは、いずれも、鋼中に炭化物または窒化物として析出し、そのピン止め効果によって鋼組織を微細化する作用を有する。したがって、これらの元素の1種または2種以上を含有させてもよい。しかし、過剰に含有させても、上記作用による効果が飽和して不経済となる。したがって、Ti含有量は0.20%以下、Nb含有量は0.10%以下、V含有量は0.50%以下とする。これらの元素の上記作用による効果をより確実に得るには、Ti:0.005%以上、Nb:0.002%以上、およびV:0.005%以上のいずれかを満足させることが好ましい。
(1−10)Cr:1.0%未満、Mo:0.5%以下、Ni:1.0%以下およびB:0.0050%以下からなる群から選択される1種または2種以上
Cr、Mo、NiおよびBは、いずれも、焼入性を高める作用を有する。また、CrおよびNiは残留オーステナイトを安定化させる作用を有し、Moは鋼中に炭化物を析出して強度を高める作用を有する。さらに、Niは、後述するように、Cuを含有させる場合においては、Cuに起因するスラブの粒界割れを効果的に抑制する作用を有する。したがって、これらの元素の1種または2種以上を含有させてもよい。
しかし、Cr含有量が1.0%以上では、化成処理性の低下が著しくなる。したがって、Cr含有量は1.0%未満とする。上記作用による効果をより確実に得るには、Cr含有量を0.05%以上とすることが好ましい。
Mo含有量を0.5%超としても上記作用による効果は飽和してコスト的に不利となる。したがって、Mo含有量は0.5%以下とする。好ましくは0.2%以下である。上記作用による効果をより確実に得るにはMo含有量を0.02%以上とすることが好ましい。
Niは、高価な元素であるため、多量の含有はコスト的に不利となる。したがって、Ni含有量は1.0%以下とする。上記作用による効果をより確実に得るには、Ni含有量を0.05%以上とすることが好ましい。
B含有量が0.0050%超では成形性の低下が著しくなる。したがって、B含有量は0.0050%以下とする。上記作用による効果をより確実に得るには、B含有量を0.0002%以上とすることが好ましい。
(1−11)Ca:0.020%以下、Mg:0.020%以下およびREM:0.020%以下からなる群から選択される1種または2種以上
Ca、MgおよびREMは、いずれも、介在物の形状を調整することにより、成形性を高める作用を有する。したがって、これらの元素の1種または2種以上を含有させてもよい。しかし、これらの元素の含有量が上記上限値を超えると、鋼中の介在物が過剰となり、却って成形性を低下させる場合がある。したがって、各々の元素の含有量は上記のとおりとする。それぞれの元素は、好ましくは0.010%以下、さらに好ましくは0.005%以下である。上記作用による効果をより確実に得るには上記元素のいずれかを0.0005%以上含有させることが好ましい。
ここで、REMは、Sc、Yおよびランタノイドの合計17元素を指し、上記REMの含有量は、これらの元素の合計含有量を指す。ランタノイドの場合、工業的にはミッシュメタルの形で添加される。
(1−12)Cu:1.0%以下
Cuは、低温で析出して強度を高める作用を有するので、鋼中に含有させてもよい。しかし、Cu含有量が1.0%超では、スラブの粒界割れが生じる場合がある。したがって、Cu含有量は1.0%以下とする。好ましくは0.5%未満、さらに好ましくは0.3%未満である。上記作用による効果をより確実に得るにはCu含有量は0.05%以上とすることが好ましい。
(1−13)Bi:0.020%以下
(Bi:0.020%以下)
Biは、凝固組織を微細化することにより成形性を高める作用を有するので、鋼中に含有させてもよい。しかし、Bi含有量を0.020%超としても、上記作用による効果は飽和してしまい、コスト的に不利となる。したがって、Bi含有量は0.020%以下とする。好ましくは0.010%以下である。上記作用による効果をより確実に得るには、Bi含有量を0.0005%以上とすることが好ましい。
化学成分における上記以外の残部は、Feおよび不純物である。
2.鋼組織
本発明に係る熱延鋼板の組織は、鋼板表面から板厚の1/4深さ位置および鋼板表面から100μm深さ位置での鋼組織に特徴を有する。ここで、鋼板表面から板厚の1/4深さ位置は、鋼板表面と鋼板の板厚中心との中間点であるので、この位置での鋼組織は鋼板の平均的な組織を示している。一方、鋼板表面から100μm(=0.1mm)深さの位置での鋼組織は、鋼板の表面近傍における組織を示す。表面から数十μm深さまでの表層は、酸化スケールや冷却の影響によって組織が乱れる可能性があるので、そのような乱れを避けるために、表面から100μm深さ位置での組織によって鋼板表面近傍の組織を規定する。
(2−1)鋼板表面から板厚の1/4深さ位置でのベイナイト面積率:50%以上
上述したように、ベイナイトは、硬質かつ均質な組織であり、高い強度と優れた伸びフランジ性とを兼備させるのに最も適した組織である。ベイナイト面積率が50%未満では高い強度と優れた伸びフランジ性とを鋼板に兼備させることが困難である。したがって、ベイナイト面積率は50%以上とする。好ましくは60%以上である。ベイナイト面積率の上限は特に規定する必要はない。しかし、後述する他の相や組織の面積率の下限値より、ベイナイト面積率は95%以下となる。なお、本発明におけるベイナイトには上部ベイナイトおよび下部ベイナイトの双方が含まれる。
(2−2)鋼板表面から板厚の1/4深さ位置でのポリゴナルフェライト面積率:2%以上30%未満
軟質なポリゴナルフェライトを含有させることにより、鋼板の変形初期の加工硬化指数が向上する。さらに、反射的効果として残留オーステナイトへの炭素濃化が促進されるため、変形後期の加工硬化指数も向上する。その結果、鋼板の延性および伸びフランジ性が向上する。ポリゴナルフェライト面積率が2.0%未満では上記作用による効果を得ることが困難である。したがって、ポリゴナルフェライト面積率は2.0%以上とする。
一方、ポリゴナルフェライト面積率が30%以上になると、ボイドの発生起点となり易いポリゴナルフェライトとマルテンサイトとの界面や、ポリゴナルフェライトとパーライトとの界面が増加することに起因して、特に伸びフランジ性が低下する場合がある。したがって、ポリゴナルフェライト面積率は30%未満とする。好ましくは25%以下、さらに好ましくは20%以下である。
(2−3)鋼板表面から板厚の1/4深さ位置での残留オーステナイト面積率:3%以上
残留オーステナイトは、変態誘起塑性(TRIP)により延性を高める作用を有する。残留オーステナイト面積率が3%未満では、上記作用による効果を得ることが困難である。したがって、残留オーステナイト面積率は3%以上とする。好ましくは4%以上、さらに好ましくは6%以上である。残留オーステナイト面積率の上限は特に規定する必要はないが、上記化学組成において確保し得る残留オーステナイト面積率は概ね40%未満である。
なお、残留オーステナイト中の炭素濃度Cγを0.4質量%以上とすることにより、残留オーステナイトは適度に安定化し、変形後期の高歪域において変態誘起塑性(TRIP)を多く生じるようになるため、延性および伸びフランジ性が一層向上する。したがって、残留オーステナイト中の炭素濃度Cγは0.4質量%以上とすることが好ましい。さらに好ましくは0.6質量%以上、特に好ましくは0.8質量%以上である。また、残留オーステナイト中の炭素濃度Cγを2.0質量%以下とすることにより、残留オーステナイトの過度な安定化を抑制し、変態誘起塑性(TRIP)をより確実に発現させることができる。したがって、残留オーステナイト中の炭素濃度Cγは2.0質量%以下とすることが好ましく、さらに好ましくは1.8質量%以下である。
なお、残留オーステナイトの定量方法には、X線回折、EBSP(電子後方散乱回折像、Electron Back Scattering Pattern)解析、磁気測定による方法などがあり、方法によって定量値が異なる場合がある。本発明で規定する残留オーステナイトの面積率はX線回折による測定値である。
X線回折による残留オーステナイト面積率の測定では、Co−Kα線を用いてα(110)、α(200)、α(211)、γ(111)、γ(200)、γ(220)の計6ピークの積分強度を求め、強度平均法を用いて算出した。
(2−4)鋼板表面から板厚の1/4深さ位置でのベイナイト、ポリゴナルフェライトおよび残留オーステナイトを除く残部の面積率:15%以下
本発明に係る熱延鋼板の組織は、上述したベイナイト、ポリゴナルフェライトおよび残留オーステナイトから構成されることが成形性の観点から好ましいが、マルテンサイト、パーライト、セメンタイトなど上記以外の組織が混在したとしても、その面積率が15%以下であれば許容できる。上記残部の面積率は好ましくは10%以下である。
(2−5)鋼板表面から板厚の1/4深さ位置での残留オースナイトを除く鋼組織において15°以上の結晶方位差を有する粒界で囲まれる粒の平均粒径:15μm以下
上述したように、残留オーステナイトは、主に15°以上の結晶方位差を有する粒の間とベイナイトラス間とに形成される。そして、前者の方が後者に比して粗大化する傾向にあるため、前者の残留オーステナイトを微細に分散させることが重要である。そのためには、15°以上の結晶方位差を有する粒の平均粒径を小さくして、残留オーステナイトの生成サイトを増加させることが有効である。
上記平均粒径が15μm超では、残留オーステナイトを微細に分散させることが不十分となり、残留オーステナイトによる伸びフランジ性の低下作用を効果的に抑制することが困難である。したがって、上記平均粒径は、15μm以下であり、好ましくは12μm未満であり、さらに好ましくは10μm未満であり、特に好ましくは8μm未満である。平均粒径は小さいほど好ましいので平均粒径の下限は特に規定する必要はない。
平均粒径(D)は、下記(3)式で算出される値とする。(3)式中、Nは平均粒径の評価領域に含まれる粒の数を示し、Aiはi番目(i=1、2、・・、N)の粒の面積を示し、diはi番目の結晶粒の円相当直径を示す。これらのデータはEBSP解析により容易に求められる。具体的には、鉄の面心立方格子(FCC)と体心立方格子(BCC)の結晶構造定義を用いて相を区別し、その内、体心立方格子(BCC)として認識された相だけを解析することにより求められる。
Figure 2015124410
なお、15°以上の結晶方位差を有する粒は、主に、フェライト粒やベイナイトブロックである。JIS G0552に準じたフェライト粒径の測定方法では、結晶方位差が15°未満である粒についても粒径が算定されてしまい、さらに、ベイナイトブロックは算定されないため、残留オーステナイトの分散形態を適切に規定することができない。したがって、本発明ではEBSP解析により求めた値を採用する。
具体的には、EBSP測定装置にTSL製OIMTM5を使用し、圧延方向に平行な縦断面を電解研磨した後、板厚方向に50μm、圧延方向に100μmの大きさの領域において0.1μmピッチで電子ビームを照射し、得られた測定データの内、信頼性指数が0.1以上のものを有効なデータとしてbcc粒の判定を行う。bcc粒として観察された、方位差15゜以上の粒界で囲まれた領域を一つのbcc粒として、個々のbcc粒の円相当直径および面積を求め、前述した(3)式にしたがって平均粒径を算出する。なお、EBSPによる金属組織評価では格子定数を考慮しないため、マルテンサイトのようなbct(体心正方格子)構造の粒も一緒に測定される。従って、bcc粒とは、bcc構造の粒とbct構造の粒の両者を包含するものである。
(2−6)鋼板表面から100μm深さ位置と鋼板表面から板厚の1/4深さ位置とにおけるフェライトの面積率および粒状の残留オーステナイトの面積率の関係
伸びフランジ成形や曲げ成形等のように、鋼板内部に比して鋼板表層部における歪量が大きい成形法では、鋼板表層部における変形能を高めるとともに、打ち抜き加工時の微小クラックの生成を抑制することが重要である。そのため、本発明に係る熱延鋼板の組織は、鋼板表面から板厚の1/4深さ位置における鋼組織を以上のように規定するほかに、鋼板表面から100μm深さ位置での鋼組織と板厚の1/4深さ位置での鋼組織との関係を以下のように規定する。
鋼板表面から100μm深さ位置でのフェライトの面積率が鋼板表面から板厚の1/4深さ位置でのフェライトの面積率の1.2倍以下であったり、鋼板表面から100μm深さ位置での粒状の残留オーステナイトの面積率が鋼板表面から板厚の1/4深さ位置での粒状の残留オーステナイトの面積率以下であったりすると、鋼板内部に比べて鋼板表面近傍の変形能を高めることができず、打ち抜き加工時の微小クラックの生成を抑制することが困難となる。また、フェライトと第二相との硬度差を低減することや残留オーステナイトの均一微細分散を促進することも不可能となって、微小クラックの伝播を抑制することが困難となり、結果として穴拡げ性を飛躍的に向上させることができない。したがって、下記式(1)および(2)を満足するものとする。
Figure 2015124410
Figure 2015124410
ここで、Vαsは鋼板表面から100μm深さ位置でのフェライトの面積率(%)を表し、Vγsは鋼板表面から100μm深さ位置での粒状の残留オーステナイトの面積率(%)を表し、Vαqは鋼板表面から板厚の1/4深さ位置でのフェライトの面積率(%)を表し、さらに、Vγqは鋼板表面から板厚の1/4深さ位置での粒状の残留オーステナイトの面積率(%)を表す。
3.板厚
熱延鋼板の板厚は1.2mm超6mm以下である。熱延鋼板の板厚が1.2mm以下では、圧延完了温度の確保が困難になるとともに圧延荷重が過大となって、熱間圧延が困難となる場合がある。したがって、本発明に係る熱延鋼板の板厚は1.2mm超とする。好ましくは1.4mm以上である。一方、板厚が6mm超では、鋼組織の微細化が困難となり、上述した鋼組織を確保することが困難となる。また、上述した傾斜組織を得ることも困難となる。したがって、板厚は6mm以下とする。好ましくは5mm以下である。
4.その他
(4−1)めっき層
上述した化学組成および鋼組織を有する本発明に係る熱延鋼板の表面には、耐食性の向上等を目的としてめっき層を備えさせて表面処理鋼板としてもよい。めっき層は電気めっき層であってもよく溶融めっき層であってもよい。電気めっき層としては、電気亜鉛めっき、電気Zn−Ni合金めっき等が例示される。溶融めっき層としては、溶融亜鉛めっき、合金化溶融亜鉛めっき、溶融アルミニウムめっき、溶融Zn−Al合金めっき、溶融Zn−Al−Mg合金めっき、溶融Zn−Al−Mg−Si合金めっき等が例示される。めっき付着量は特に制限されず、従来と同様でよい。また、めっき後に適当な化成処理(例えば、シリケート系のクロムフリー化成処理液の塗布と乾燥)を施して、耐食性をさらに高めることも可能である。
5.製造条件
本発明に係る熱延鋼板は、上述した化学組成と板厚方向の傾斜組織を含む鋼組織および板厚を有するものであればよく、その製造方法は特に限定されないが、本発明に係る熱延鋼板を得るのに好適な製造方法を以下に説明する。
本発明に係る熱延鋼板を得るには、熱間圧延により導入されるせん断歪みを利用して鋼板表面近傍と鋼板内部とで蓄積歪みに差を生じさせ、上記歪みの差による駆動力の差を効率的に利用して鋼板表面から100μm深さ位置でのフェライト変態を鋼板内部よりも促進させることが好ましい。
具体的には、熱間圧延において、最終圧延パスと最終圧延パスの1つ前の圧延パスおよび2つ前の圧延パスにおける圧下率を30%以上50%以下とし、860℃以上1050℃以下の温度域で下記式(4)を満足する多パス熱間圧延を施し、圧延完了後0.3秒間以内に冷却を開始して、200℃/秒以上の冷却速度で850℃未満Ar点以上の温度域まで冷却し、この温度域で1秒間以上3秒間未満の時間滞留させた後に、20℃/秒以上の冷却速度で600℃以上750℃未満の温度域まで冷却し、この温度域で1秒間以上15秒間以内滞留させ、350℃以上500℃以下の温度域で巻き取ることが好ましい。
Figure 2015124410
ここで、各記号の意味は次の通りである。
t:最終圧延パスの1つ前の圧延パスの圧延完了から最終圧延パスの圧延開始までのパス間時間(秒)
T:最終圧延パスの1つ前の圧延パスの圧延完了温度(℃)
この製造方法を採用することにより、上記化学組成、板厚方向の傾斜組織を含む鋼組織および板厚を有する熱延鋼板を製造することが容易になる。以下に製造方法についてより詳しく説明する。
(5−1)スラブ、熱間圧延に供する際のスラブ温度、熱間圧延態様
熱間圧延に供するスラブは、連続鋳造により得られたスラブや鋳造・分塊により得られたスラブなどを用いることができ、必要によってはそれらに熱間加工または冷間加工を加えたものを用いることができる。
熱間圧延に供するスラブの温度は、熱間圧延をオーステナイト域で行うためにオーステナイト単相域となる温度に加熱すればよく、特に限定する必要はないが、後述する好適な圧延完了温度を確保する観点からは1050℃以上とすることが好ましく、スケールロスを抑制する観点からは1350℃以下とすることが好ましい。なお、熱間圧延に供するスラブが連続鋳造により得られたスラブや分塊圧延により得られたスラブであって高温状態にある場合には、加熱することなしに熱間圧延に供してもよい。
熱間圧延は、多パス圧延としてレバースミルまたはタンデムミルを用いるのが好ましい。特に工業的生産性の観点から、少なくとも最終の数段はタンデムミルを用いた圧延とすることがより好ましい。
(5−2)最終圧延パスと1つ前の圧延パスおよび2つ前の圧延パスにおける圧下率:30%以上50%以下
最終圧延パスと1つ前の圧延パスおよび2つ前の圧延パスにおける圧下率は30%以上50%以下とすることが好ましい。
最終圧延パスと1つ前の圧延パスおよび2つ前の圧延パスにおける圧下率をそれぞれ30%以上とすることにより、主に再結晶オーステナイト粒の微細化が図られるとともに、鋼板の表層近傍に導入されるせん断歪みの効果によって鋼板の表層近傍の再結晶オーステナイト粒が鋼板の内部に比べて一層微細化される。さらに、最終圧延パスの圧下率を30%以上とすることにより、後述する熱間圧延後の冷却条件と相俟って、導入される歪みを変態駆動力および変態核生成サイトとして、鋼板の内部に比べて鋼板の表層近傍のフェライト変態を促進することが可能となる。各圧延パスでの圧下率が30%未満では、鋼板表層近傍に導入されるせん断歪み量が不十分となり、延性と伸びフランジ性とを兼備する熱延鋼板が得られない。したがって、最終圧延パスと1つ前の圧延パスおよび2つ前の圧延パスにおける圧下率は、30%以上が好ましく、40%以上とすることがより好ましい。
一方、鋼板の平坦性や導入した歪みの加工発熱による解放を抑制する観点から、各圧延パスでの圧下率は好ましくは50%以下である。
(5−3)圧延完了温度:860℃以上1050℃以下
圧延完了温度は860℃以上1050℃以下とすることが好ましい。圧延完了温度を860℃以上とすることにより、圧延時の変形抵抗が低減され、圧延が容易になる。したがって、圧延完了温度は860℃以上とすることが好ましい。さらに好ましくは880℃以上、特に好ましくは900℃以上である。
また、圧延完了温度を1050℃以下とすることにより、圧延により導入した歪の解放が抑制され、後続する冷却処理を適切に施すことにより、上記歪による駆動力を効率的に利用したフェライト変態およびベイナイト変態が実現され、最終製品である熱延鋼板について目的とする鋼組織を容易に得ることができる。したがって、圧延完了温度は1050℃以下とすることが好ましい。さらに好ましくは1030℃以下、特に好ましくは1000℃以下、最も好ましくは980℃以下である。なお、これらの温度は鋼材の表面温度であり、放射温度計等により測定することができる。
(5−4)最終圧延パスの1つ前の圧延パスの圧延完了から最終圧延パスの圧延開始までのパス間時間:式(4)を満足
上記式(4)を満足することにより、最終圧延パスの1つ前の圧延パスの圧延完了から最終圧延パスの圧延開始までのパス間において、オーステナイトの再結晶が促進されるとともにオーステナイトの粒成長が抑制されるため、圧延中の再結晶オーステナイト粒の微細化が図られ、これにより延性および穴拡げ性に好適な鋼組織となる。
(5−5)圧延完了の一次冷却:0.3秒間以内に冷却を開始して、200℃/秒以上の冷却速度で850℃未満Ar点以上の温度域まで冷却
圧延により導入した歪による駆動力を効率的に活用して変態させるため、圧延完了の一次冷却は0.3秒間以内に冷却を開始して、200℃/秒以上の冷却速度で850℃未満Ar点以上の温度域まで冷却することが好ましい。
圧延完了後0.3秒間以内に冷却を開始して、200℃/秒以上の冷却速度で850℃未満Ar点以上の温度域まで冷却することで、後述する滞留時間と相俟って、鋼板の表層近傍でのフェライト変態駆動力を残したまま、鋼板の内部の蓄積歪みを解放させることが可能となる。これにより、鋼板の表層近傍でのフェライト量が内部に比べて多いという延性および伸びフランジ性に好適な鋼組織を得ることができる。圧延完了後、冷却開始までの時間が0.3秒間を超える場合や冷却速度が200℃/秒未満では鋼板の表面に導入された歪みが解放してしまい、このような鋼組織が得られない。また、一次冷却の停止温度が850℃以上では、鋼板の表層近傍の蓄積歪みの解放が顕著となり所望の鋼組織が得られない。一方、一次冷却の停止温度がAr点を下回ると鋼板の内部でのフェライト変態が顕著となり、ベイナイト主体の組織とならない。したがって、圧延完了の一次冷却は0.3秒間以内に冷却を開始して、200℃/秒以上の冷却速度で850℃未満Ar点以上の温度域まで冷却することが好ましい。
圧延完了から冷却開始までの時間はより好ましくは0.2秒間以内、さらに好ましくは0.15秒間以内である。また、冷却速度はより好ましくは250℃/秒以上、さらに好ましくは300℃/秒以上である。冷却速度の上限値は特に規定しないが、冷却速度を速くすると冷却設備が大掛かりとなり、設備コストが高くなる。このため、設備コストを考えると、600℃/秒以下が好ましい。
(5−6)850℃未満Ar点以上の温度域での滞留時間:1秒間以上3秒間未満
850℃未満Ar点以上の温度域での滞留時間は1秒間以上3秒間未満とすることが好ましい。これによって、鋼板の表層近傍でのフェライト変態駆動力を残したまま、鋼板の内部の蓄積歪みを解放されることが可能となる。これにより、鋼板の表層近傍でのフェライト量が内部に比べて多いという延性および伸びフランジ性に好適な鋼組織を得ることができる。1秒間未満では、鋼板の内部の歪み解放が不十分なためフェライト生成量が増し、伸びフランジ性が低下する。一方、3秒間以上では鋼板の表面に導入された歪みが解放してしまい、延性が低下する。したがって、850℃未満Ar点以上の温度域での滞留時間は1秒間以上3秒間未満とすることが好ましい。
(5−7)600℃以上750℃未満の温度域への冷却速度と該温度域での滞在時間:20℃/秒以上で冷却し、1秒間以上15秒間以内滞在
上述した鋼板の表層近傍におけるフェライト面積率を確保するには、フェライト変態が活発となる600℃以上750℃未満の温度域まで20℃/秒以上の冷却速度で冷却し、この温度域にて1秒間以上15秒間以内滞在させることが好ましい。冷却速度が20℃/秒未満の場合、鋼板の内部で冷却中にフェライト変態が生じベイナイト主体の組織と成り難い。したがって、この温度域への冷却速度は20℃/秒以上とすることが好ましく、より好ましくは40℃/秒、さらに好ましくは60℃/秒、特に好ましくは80℃/秒である。
上記温度域に滞在させる時間が1秒間未満では、鋼板の表層近傍のフェライト変態が十分に進行せず、延性が低下する。一方、上記の温度域に滞在させる時間が15秒間超の場合、鋼板の内部のフェライト変態が進行して伸びフランジ性が低下する場合がある。さらに、セメンタイトやパーライトの生成が顕著となり、延性が低下してしまう場合がある。したがって、上記温度域に滞在させる時間は1秒間以上15秒間以内とすることが好ましい。
(5−8)巻取温度:350℃以上500℃以下
巻取温度は350℃以上500℃以下とすることが好ましい。巻取温度を350℃以上とすることにより、マルテンサイトの生成を抑制しつつ、圧延により導入した歪による駆動力を効率的に利用したベイナイト変態が実現され、50面積%以上のベイナイト面積率を確保するとともにベイナイトを微細なものとし、さらに、3面積%以上の残留オーステナイト面積率を確保することが容易になる。また、残留オーステナイト中の炭素濃度を高めることが容易になる。したがって、巻取温度は350℃以上とすることが好ましい。
また、巻取温度を500℃以下とすることにより、パーライトの生成を抑制しつつ、圧延により導入した歪による駆動力を効率的に利用したベイナイト変態が実現され、50面積%以上のベイナイト面積率を確保するとともにベイナイトを微細なものとし、さらに、3面積%以上の残留オーステナイト面積率を確保することが容易になる。したがって、巻取温度は500℃以下とすることが好ましい。
表1に示す化学組成を有する180kgの鋼塊を高周波真空溶解炉にて溶製し、熱間鍛造により30mm厚さの鋼片にした。この鋼片を次いで1250℃の温度に加熱し、試験用小型タンデムミルにて表2に示す条件で熱間圧延を実施して板厚2mmの鋼板に仕上げた。
Figure 2015124410
Figure 2015124410
圧延完了後、Ar点以上850℃未満の温度域まで水冷却した後、所定の時間滞留し、その後、600℃以上750℃未満の温度域まで水冷却し、所定の時間滞留した後、所定の巻取温度まで冷却してこの巻取温度に設定した炉に装入し、30分間保持した後に炉冷して、熱延鋼板を得た。これらの条件を表2に併せて示す。
得られた熱延鋼板について、鋼板の圧延方向と直交する板厚断面を鏡面研磨し、ナイタール腐食液またはレペラ腐食液で腐食した後、光学顕微鏡または走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて組織観察を行った。さらに、鏡面研磨後に電解研磨で調製した試料を用いて、EBSP法による結晶方位の測定および解析を行なった
光学顕微鏡やSEMによる観察像では、ベイナイト、残留オーステナイトおよびマルテンサイトの区別が困難な場合があるため、以下の方法で各々の相および組織の面積率を定量した。
まず、ベイナイト、マルテンサイトおよび残留オーステナイトの合計面積率をSEM観察像およびEBSP解析結果を用いて画像解析により測定した。次に、レペラ腐食した組織から残留オーステナイトおよびマルテンサイトの合計面積率を測定し、この合計面積率を先に測定したベイナイト、マルテンサイトおよび残留オーステナイトの合計面積率から差し引いた値をベイナイト面積率とした。
ポリゴナルフェライト面積率は、SEM観察像およびEBSP解析結果を用いた画像解析により測定した。残留オーステナイト面積率は、X線回折により測定し、同時に、残留オーステナイト中の炭素濃度も算出した。そして、上記で測定したベイナイト、ポリゴナルフェライトおよび残留オーステナイトの面積率の合計を、100%から差し引いた値を残部組織の面積率とした。
残留オースナイトを除く鋼組織において15°以上の結晶方位差を有する粒界で囲まれる粒の平均粒径は、EBSP解析により求めた。
機械特性として、引張特性および伸びフランジ性を評価した。引張特性は、JIS Z2201およびJIS Z 2241に準拠して引張試験を行ない、引張強度(TS)と全伸び(El)を測定し、伸びフランジ性は、日本鉄鋼連盟規格JFS T 1001に準拠して穴拡げ試験を行ない、穴拡げ率(λ)を求めた。
得られた鋼板の鋼組織および機械特性を表3にまとめて示す。
Figure 2015124410
発明例である試験番号1〜5,8,11,14,16,18,20は、高い引張強度(TS)を有するとともに、優れた強度−延性バランス(TS×El)と優れた強度−伸びフランジバランス(TS×λ)とを有している。
一方、本発明で定める範囲を外れる比較例6,7,9,10,12,13,15,17,19,21〜23は、強度−延性バランス(TS×El)あるいは強度−伸びフランジバランス(TS×λ)の、または双方の特性が劣っている。

Claims (6)

  1. 質量%で、C:0.08%超0.30%未満、Si:0.10%以上3.0%以下、Mn:1.0%以上4.0%以下、P:0.10%以下、S:0.010%以下、sol.Al:0.010%以上3.0%以下、N:0.010%以下を含有し、かつSiとsol.Alの合計含有量(Si+sol.Al)が0.8%以上3.0%以下であり、残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有し、鋼板表面から板厚の1/4深さ位置における鋼組織が、面積%で、ベイナイトを50%以上、ポリゴナルフェライトを2%以上30%未満、残留オーステナイトを3%以上有し、残部が15.0%以下であって、かつ残留オースナイトを除く鋼組織において15°以上の結晶方位差を有する粒界で囲まれる粒の平均粒径が15μm以下であるとともに、下記式(1)および式(2)を満足する鋼組織を有し、板厚が1.2mm超6mm以下であることを特徴とする熱延鋼板。
    Figure 2015124410
    Figure 2015124410
    ここで、
    Vαsは鋼板表面から100μm深さ位置でのフェライトの面積率(%)であり、
    Vγsは鋼板表面から100μm深さ位置での粒状の残留オーステナイトの面積率(%)であり、
    Vαqは鋼板表面から板厚の1/4深さ位置でのフェライトの面積率(%)であり、
    Vγqは鋼板表面から板厚の1/4深さ位置での粒状の残留オーステナイトの面積率(%)である。
  2. 前記化学組成が、前記Feの一部に代えて、質量%で、Ti:0.20%以下、Nb:0.10%以下およびV:0.50%以下からなる群から選択される1種または2種以上を有する請求項1に記載の熱延鋼板。
  3. 前記化学組成が、前記Feの一部に代えて、質量%で、Cr:1.0%未満、Mo:0.5%以下、Ni:1.0%以下およびB:0.0050%以下からなる群から選択される1種または2種以上を有する請求項1または請求項2に記載の熱延鋼板。
  4. 前記化学組成が、前記Feの一部に代えて、質量%で、Ca:0.020%以下、Mg:0.020%以下およびREM:0.020%以下からなる群から選択される1種または2種以上を有する請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の熱延鋼板。
  5. 前記化学組成が、前記Feの一部に代えて、Cu:1.0質量%以下を有する請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の熱延鋼板。
  6. 前記化学組成が、前記Feの一部に代えて、Bi:0.020質量%以下を含有する請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の熱延鋼板。
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