JP2012251201A - 熱延鋼板 - Google Patents

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Abstract

【課題】高強度と良好な延性及び伸びフランジ性とを併せ持つ熱延鋼板の提供。
【解決手段】質量%で、C:0.08%超0.30%未満、Mn:1.0〜4.0%、Si:0.10%以上3.0%未満、sol.Al:0.01〜3.0%、但し、Siおよびsol.Alの合計量=0.8〜3.0%、P:0.05%以下、S:0.01%以下およびN:0.01%以下を含有し、残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有し、鋼板表面から板厚の1/4深さ位置における鋼組織が、面積%で、ベイナイト:40%以上、ポリゴナルフェライト:2.0%以上50%未満および残留オーステナイト:3%以上を含有し、残部が15.0%以下であって、かつ残留オースナイトを除く鋼組織において15°以上の結晶方位差を有する粒界で囲まれる粒の平均粒径が15μm以下であり、板厚が1.2mm超6mm以下である。
【選択図】 なし

Description

本発明は、熱延鋼板に関する。より詳しくは、高い強度を有するとともに優れた延性と伸びフランジ性とを有する熱延鋼板に関する。
近年、地球環境保護の観点から、多くの分野において炭酸ガス排出量削減に取り組んでいる。自動車メーカーにおいても低燃費化を目的とした車体軽量化の技術開発が盛んに行われている。しかし、乗員安全確保のために耐衝突特性の向上にも重点が置かれるため、車体軽量化は容易ではない。
そこで、車体軽量化と耐衝突特性とを両立させるべく、高強度鋼板を用いて部材を薄肉化することが検討されている。このため、高い強度と優れた成形性とを兼備する鋼板が強く望まれており、これらの要求に応えるべく、幾つかの技術が従来から提案されている。
なかでも、残留オーステナイトを含有する鋼板は、変態誘起塑性(TRIP)現象により優れた延性を示すことから多くの検討がなされている。
例えば、特許文献1(特開平11−323494号公報)には、フェライトを主相とし、残部が概ねベイナイトと残留オーステナイトであり、ベイナイトの平均硬さが240〜400Hvである、成形性に優れるとされる高強度熱延鋼板が開示されている。
特許文献2(特開2008−285748号公報)には、C:0.10〜0.25%、Si:0.5〜3.0%、Mn:0.2〜1.0%、Cr:1.0〜2.5%、Ni:0.02〜0.50%を含み、残部は鉄および不可避的不純物の組成からなり、残留オーステナイト粒の大きさが1μm以下であり、残留オーステナイト組織の比率が5%以上20%以下、マルテンサイト組織の比率が5%以下で、残部がフェライト組織とベイナイト組織からなる高強度熱延鋼板が開示されている。
特開平11−323494号公報 特開2008−285748号公報
自動車部品には様々な加工様式があるため、要求される成形性は適用される部材により異なるが、延性と伸びフランジ性とは、なかでも重要な成形性の指標と位置付けられており、これらを高いレベルで兼備することが望まれている。さらに、近年では従来よりもさらに高い強度を有することが望まれている。また、耐食性を具備させるために化成処理等の表面処理が施されることがあるため、これらの表面処理の施工性が良好であることが望まれる。
上述したように残留オーステナイトを含有する鋼板は優れた延性を有するものの、変態誘起塑性(TRIP)により残留オーステナイトが硬質なマルテンサイトに変態してしまい、この硬質なマルテンサイトが伸びフランジ性を低下させてしまうため、優れた伸びフランジ性を確保することは通常困難である。
特許文献1に記載された発明では、フェライトを主体とした鋼組織としているため、近年のさらなる高強度化の要望に応えることが困難である。
特許文献2に記載された発明は、Cr含有量を1.0%以上とすることを必須としているため、化成処理性に問題がある。さらに、重要な成形性の指標の一つである伸びフランジ性について考慮されていない。
本発明は、上述した従来技術に鑑みてなされたものであり、高い強度を有するとともに優れた延性と伸びフランジ性とを有する熱延鋼板を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記の現状に鑑み、熱延鋼板の化学組成および鋼組織と機械特性との関係について鋭意研究を重ねた結果、以下の知見を得て本発明を完成させた。
(a)高い強度を得るには鋼組織は硬質であることが好ましく、優れた伸びフランジ性を得るには鋼組織は均質であることが好ましい。したがって、高い強度と優れた伸びフランジ性とを兼備させるには、硬質かつ均質な組織であるベイナイトが最も適しており、ベイナイトを主体とする鋼組織とすることが重要である。
(b)しかし、ベイナイトは延性に乏しい組織である。このため、単にベイナイトを主体とする鋼組織としたのでは優れた延性を確保することが困難である。
(c)そこで、適量のポリゴナルフェライトと残留オーステナイトとを含有させることにより、優れた延性をも兼備させる。
(d)すなわち、適量のポリゴナルフェライトを含有させることにより、変形初期の加工硬化指数を高めることができるとともに、反射的効果として残留オーステナイトへの炭素濃化が促進されるため、変形後期の加工硬化指数をも高めることができる。その結果、延性および伸びフランジ性が高められる。
(e)また、適量の残留オーステナイトを含有させることにより、変態誘起塑性(TRIP)により延性が高められる。
(f)ここで、残留オーステナイトは変態誘起塑性(TRIP)により延性を高める反面、変態誘起塑性(TRIP)により硬質なマルテンサイトに変態して伸びフランジ性を低下させる。このため、単に残留オーステナイトを含有させたのでは、ベイナイトを主体とする鋼組織とすることによる伸びフランジ性向上作用が減殺されてしまい、優れた伸びフランジ性を確保することが困難となる。
(g)そこで、マルテンサイトによる伸びフランジ性の低下が、マルテンサイトと周囲の組織との硬度差に起因してマルテンサイトの周囲に歪が集中することによって引き起こされることから、残留オーステナイトを微細に分散させることにより、残留オーステナイトから変態して生じるマルテンサイトを微細に分散するものとし、上記歪を分散させることで伸びフランジ性の低下を抑制する。
(h)このようにすることにより、残留オーステナイトによる伸びフランジ性低下というマイナス作用を抑制しつつ延性向上というプラス作用を享受することができるので、伸びフランジ性低下の制約をさほど受けることなく残留オーステナイト面積率を高めることが可能となり、残留オーステナイトによる延性向上作用を十分に発揮させることが可能となる。
(i)ここで、残留オーステナイトは、主に15°以上の結晶方位差を有する粒の間とベイナイトラス間とに形成されるが、前者の方が後者に比して粗大化する傾向にあるため、前者の残留オーステナイトを微細に分散させることが重要となる。このため、15°以上の結晶方位差を有する粒の平均粒径を小さくして、残留オーステナイトの生成サイトを増加させることが有効である。
(j)このように15°以上の結晶方位差を有する粒の平均粒径を小さくすることによって残留オーステナイトの生成サイトが増加するので、残留オーステナイト面積率も高まる。
(k)鋼板表層部における残留オーステナイト面積率を鋼板内部における残留オーステナイト面積率よりも高くすることによって、鋼板表層部の均一伸びが向上するので、鋼板内部に比して鋼板表層部の歪量が大きい伸びフランジ成形や曲げ成形等における成形性を向上させることができる。
上記知見に基づく本発明の要旨は以下のとおりである。
(1)質量%で、C:0.08%超0.30%未満、Mn:1.0%以上4.0%以下、Si:0.10%以上3.0%未満、sol.Al:0.01%以上3.0%以下、但し、Siおよびsol.Alの合計含有量が0.8%以上3.0%以下、P:0.05%以下、S:0.01%以下およびN:0.01%以下を含有し、残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有し、
鋼板表面から板厚の1/4深さ位置における鋼組織が、面積%で、ベイナイト(V):40%以上、ポリゴナルフェライト(Vα):2.0%以上50%未満および残留オーステナイト(Vγ):3%以上を含有し、残部が15.0%以下であって、かつ残留オースナイトを除く鋼組織において15°以上の結晶方位差を有する粒界で囲まれる粒の平均粒径(D)が15μm以下であり、
板厚が1.2mm超6mm以下である
ことを特徴とする熱延鋼板。
(2)前記化学組成が、前記Feの一部に代えて、質量%で、Ti:0.10%以下、Nb:0.10%以下およびV:0.50%以下からなる群から選択される1種または2種以上を含有する上記(1)に記載の熱延鋼板。
(3)前記化学組成が、前記Feの一部に代えて、質量%で、Cr:1.0%未満、Mo:0.5%以下、Ni:1.0%以下およびB:0.0050%以下からなる群から選択される1種または2種以上を含有する上記(1)または(2)に記載の熱延鋼板。
(4)前記化学組成が、前記Feの一部に代えて、質量%で、Ca:0.020%以下、Mg:0.020%以下およびREM:0.020%以下からなる群から選択される1種または2種以上を含有する上記(1)〜(3)のいずれかに記載の熱延鋼板。
(5)前記化学組成が、前記Feの一部に代えて、Cu:1.0質量%以下を含有する上記(1)〜(4)のいずれかに記載の熱延鋼板。
(6)前記化学組成が、前記Feの一部に代えて、Bi:0.020質量%以下を含有する上記(1)〜(5)のいずれかに記載の熱延鋼板。
(7)鋼板表面から100μm深さ位置における残留オーステナイト面積率(Vγs)と鋼板表面から板厚の1/4深さ位置における残留オーステナイト面積率(Vγ)とが下記式(1)を満たす上記(1)〜(6)のいずれかに記載の熱延鋼板。
γs>Vγ (1)
本発明に係る熱延鋼板は、高い強度を有するとともに優れた延性と伸びフランジ性とを有するので、自動車部材、機械構造部材、建築部材に用いられる素材として好適である。
本発明の熱延鋼板の化学組成および鋼組織について、以下により具体的に説明する。以下の説明において、鋼板の化学組成に関する%は、特に指定しない限りすべて質量%である。
<化学組成>
(C:0.08%超0.30%未満)
Cは、ベイナイトの生成を促進する作用と残留オーステナイトを安定化する作用とを有する。C含有量が0.08%以下では、目的とするベイナイト面積率や残留オーステナイト面積率を確保することが困難となる。したがって、C含有量は0.08%超とする。好ましくは0.10%以上である。一方、C含有量が0.30%以上では、パーライトが優先的に生成してしまう。その結果、ベイナイトや残留オーステナイトの生成が不十分となり、目的とするベイナイト面積率や残留オーステナイト面積率を確保することが困難となる。したがって、C含有量は0.30%未満とする。好ましくは0.25%以下、さらに好ましくは0.22%以下である。
(Mn:1.0%以上4.0%以下)
Mnは、フェライト変態を抑制してベイナイトの生成を促進する作用を有する。Mn含有量が1.0%未満では、目的とするベイナイト面積率を確保することが困難である。したがって、Mn含有量は1.0%以上とする。好ましくは1.5%以上、さらに好ましくは1.8%以上である。一方、Mn含有量が4.0%超では、フェライト変態が過度に抑制されてしまい、目的とするポリゴナルフェライト面積率を確保することが困難となる。また、ベイナイト変態の完了が遅延するためにオーステナイトへの炭素濃化が促進されず、残留オーステナイトの生成が不十分となり、目的とする残留オーステナイト面積率を確保することが困難となる。さらに、残留オーステナイト中の炭素濃度を高めることが困難となる。したがって、Mn含有量は4.0%以下とする。好ましくは3.6%以下、さらに好ましくは3.2%以下である。
(Si:0.10%以上3.0%未満)
Siは、鋼を脱酸して鋼板を健全化する作用を有するとともに、オーステナイトからのセメンタイトの析出を抑制することで残留オーステナイトの生成を促進する作用を有する。また、固溶強化により強度を高める作用を有する。Si含有量が0.10%未満では上記作用による効果を得ることが困難である。したがって、Si含有量は0.10%以上とする。好ましくは0.5%以上である。一方、Si含有量が3.0%以上では、A3点の著しい上昇を招き、安定した熱間圧延を困難にする場合がある。また、延性や溶接性の劣化を招く。したがって、Si含有量は3.0%未満とする。好ましくは2.5%未満である。
(sol.Al:0.01%以上3.0%以下)
Alは、Siと同様に、鋼を脱酸して鋼板を健全化する作用を有するとともに、オーステナイトからのセメンタイトの析出を抑制することで残留オーステナイトの生成を促進する作用を有する。sol.Al含有量が0.01%未満では上記作用による効果を得ることが困難である。したがって、sol.Al含有量は0.01%以上とする。好ましくは0.10%以上、さらに好ましくは0.20%以上である。一方、sol.Al含有量が3.0%超では、A3点の著しい上昇を招いて、安定した熱間圧延を困難にする場合がある。したがって、sol.Al含有量は3.0%以下とする。好ましくは2.5%以下、さらに好ましくは2.0%以下である。
(Siおよびsol.Alの合計含有量:0.8%以上3.0%以下)
上述したように、SiおよびAlはともに残留オーステナイトの生成を促進する作用を有するため、目的とする残留オーステナイト面積率を確保する観点から、Siおよびsol.Alの合計含有量を規定する。
Siおよびsol.Alの合計含有量が0.8%未満では、目的とする残留オーステナイト面積率を確保することが困難となる。また、残留オーステナイト中の炭素濃度を高めることが困難となる。したがって、Siおよびsol.Alの合計含有量は0.8%以上とする。好ましくは1.0%以上、さらに好ましくは1.2%以上、最も好ましくは1.5%以上である。一方、Siおよびsol.Alの合計含有量が3.0%超では、A3点の著しい上昇を招いて、安定した熱間圧延を困難にする場合がある。したがって、Siおよびsol.Alの合計含有量は3.0%以下とする。好ましくは2.5%以下、さらに好ましくは2.0%以下、最も好ましくは1.9%以下である。
(P:0.050%以下)
Pは、一般に不純物として含有される元素であるが、固溶強化により強度を高める作用を有する元素でもある。したがって、Pを積極的に含有させてもよい。しかし、Pは偏析し易い元素であり、その含有量が0.050%を超えると、粒界偏析に起因する成形性や靭性の低下が顕著となる。したがって、P含有量は0.050%以下とする。好ましくは0.030%以下、さらに好ましくは0.020%以下である。P含有量の下限は特に規定する必要はないが、精錬コストの観点からは0.001%以上とすることが好ましい。
(S:0.010%以下)
Sは、不純物として含有される元素であり、鋼中に硫化物系介在物を形成して成形性を低下させる。S含有量が0.010%を超えると、成形性の低下が著しくなる。したがって、S含有量は0.010%以下とする。好ましくは0.0050%以下、さらに好ましくは0.0030%以下、最も好ましくは0.0010%以下である。S含有量の下限は特に規定する必要はないが、精錬コストの観点からは0.0001%以上とすることが好ましい。
(N:0.010%以下)
Nは、不純物として含有される元素であり、鋼板の成形性を低下させる作用を有する。N含有量が0.010%超では成形性の低下が著しくなる。したがって、N含有量は0.010%以下とする。好ましくは0.0080%以下、さらに好ましくは0.0070%以下である。N含有量の下限は特に規定する必要はないが、後述するようにTi、NbおよびVの1種または2種以上を含有させて鋼組織の微細化を図る場合を考慮すると、炭窒化物の析出を促進させるために0.0010%以上とすることが好ましい。さらに好ましくは0.0020%以上である。
(Ti:0.10%以下、Nb:0.10%以下およびV:0.50%以下からなる群から選択される1種または2種以上)
Ti、NbおよびVは、熱間圧延工程において微細炭窒化物を生成し、そのピン止め効果によって熱間圧延完了後かつ冷却による変態前におけるオーステナイトを微細化し、最終製品である熱延鋼板の鋼組織をも微細化する作用を有する。したがって、これらの元素の1種または2種以上を含有させてもよい。しかし、上記上限を超えて含有させても上記作用は飽和してしまいコスト的に不利になるので、各元素の含有量は上記のとおりとする。TiおよびNbの含有量はそれぞれ0.05%以下とすることが好ましく、0.03%以下とすることがさらに好ましい。V含有量は0.30%以下とすることが好ましく、0.20%以下とすることがさらに好ましい。なお、上記作用による効果をより確実に得るには、いずれかの元素の含有量を0.005%以上とすることが好ましい。
(Cr:1.0%未満、Mo:0.5%以下、Ni:1.0%以下およびB:0.0050%以下からなる群から選択される1種または2種以上)
Cr、Mo、NiおよびBは、焼入性を高める作用を有する。また、CrおよびNiは残留オーステナイトを安定化させる作用を有し、Moは鋼中に炭化物を析出して強度を高める作用を有する。また、Niは、後述するようにCuを含有させる場合においては、Cuに起因するスラブの粒界割れを効果的に抑制する作用を有する。したがって、これらの元素の1種または2種以上を含有させてもよい。
しかし、Cr含有量が1.0%以上では、化成処理性の低下が著しくなる。したがって、Cr含有量は1.0%未満とする。上記作用による効果をより確実に得るには、Cr含有量を0.05%以上とすることが好ましい。
Mo含有量を0.5%超としても上記作用による効果は飽和してコスト的に不利となる。したがって、Mo含有量は0.5%以下とする。好ましくは0.2%以下である。上記作用による効果をより確実に得るにはMo含有量を0.02%以上とすることが好ましい。
Niは高価な元素であるため、多量の含有はコスト的に不利となる。したがって、Ni含有量は1.0%以下とする。上記作用による効果をより確実に得るには、Ni含有量を0.05%以上とすることが好ましい。
B含有量が0.0050%超では成形性の低下が著しくなる。したがって、B含有量は0.0050%以下とする。上記作用による効果をより確実に得るには、B含有量を0.0002%以上とすることが好ましい。
(Ca:0.020%以下、Mg:0.020%以下およびREM:0.020%以下からなる群から選択される1種または2種以上)
Ca、MgおよびREMは、介在物の形状を調整することにより、成形性を高める作用を有する。したがって、これらの元素の1種または2種以上を含有させてもよい。しかし、これらの元素含有量が上記上限値を超えると、鋼中の介在物が過剰となり、却って成形性を低下させる場合がある。したがって、各々の元素の含有量は上記のとおりとする。それぞれの元素は、好ましくは0.010%以下、さらに好ましくは0.005%以下である。上記作用による効果をより確実に得るには上記元素のいずれかを0.0005%以上含有させることが好ましい。
(Cu:1.0%以下)
Cuは、低温で析出して強度を高める作用を有するので、鋼中に含有させてもよい。しかし、Cu含有量が1.0%超では、スラブの粒界割れが生じる場合がある。したがって、Cu含有量は1.0%以下とする。好ましくは0.5%未満、さらに好ましくは0.3%未満である。上記作用による効果をより確実に得るにはCu含有量は0.05%以上とすることが好ましい。
(Bi:0.020%以下)
Biは、凝固組織を微細化することにより成形性を高める作用を有するので、鋼中に含有させてもよい。しかし、Bi含有量を0.020%超としても、上記作用による効果は飽和してしまい、コスト的に不利となる。したがって、Bi含有量は0.020%以下とする。好ましくは0.010%以下である。上記作用による効果をより確実に得るには、Bi含有量を0.0005%以上とすることが好ましい。
<鋼組織>
本発明に係る熱延鋼板の組織については、鋼板表面から板厚の1/4深さ位置における鋼組織を以下のように規定する。当該位置は鋼板の表面と板厚中心との中間点であり、熱延鋼板の平均的鋼組織を示している。
(ベイナイト面積率V:40%以上)
上述したように、ベイナイトは硬質かつ均質な組織であり、高い強度と優れた伸びフランジ性とを兼備させるのに最も適した組織である。ベイナイト面積率が40%未満では高い強度と優れた伸びフランジ性とを鋼板に兼備させることが困難である。したがって、ベイナイト面積率は40%以上とする。好ましくは50%以上、さらに好ましくは60%以上である。ベイナイト面積率の上限は特に規定する必要はない。しかし、後述する他の相や組織の面積率の下限値より、ベイナイト面積率は95%以下となる。なお、本発明のベイナイトには上部ベイナイトおよび下部ベイナイトの双方が含まれる。
(ポリゴナルフェライト面積率Vα:2.0%以上50%未満)
軟質なポリゴナルフェライトを含有させることにより、鋼板の変形初期の加工硬化指数が向上する。さらに、反射的効果として残留オーステナイトへの炭素濃化が促進されるため、変形後期の加工硬化指数も向上する。その結果、鋼板の延性および伸びフランジ性が向上する。ポリゴナルフェライト面積率が2.0%未満では上記作用による効果を得ることが困難である。したがって、ポリゴナルフェライト面積率は2.0%以上とする。好ましくは4.0%以上、さらに好ましくは6.0%以上である。
一方、ポリゴナルフェライト面積率が50%以上になると、ボイドの発生起点となりやすいポリゴナルフェライトとマルテンサイトとの界面やポリゴナルフェライトとパーライトとの界面が増加することに起因して、鋼板の成形性が低下する場合がある。また、鋼組織に占める軟質なポリゴナルフェライトの比率が増加するため、高い強度を確保することが困難となる。したがって、ポリゴナルフェライト面積率は50%未満とする。好ましくは45%以下、さらに好ましくは40%以下である。
(残留オーステナイト面積率Vγ:3%以上)
残留オーステナイトは、変態誘起塑性(TRIP)により延性を高める作用を有する。残留オーステナイト面積率が3%未満では、上記作用による効果を得ることが困難である。したがって、残留オーステナイト面積率は3%以上とする。好ましくは4%以上、さらに好ましくは6%以上である。残留オーステナイト面積率の上限は特に規定する必要はないが、上記化学組成において確保し得る残留オーステナイト面積率は概ね40%未満である。
なお、残留オーステナイト中の炭素濃度(Cγ)を0.4質量%以上とすることにより、残留オーステナイトは適度に安定化し、変形後期の高歪域において変態誘起塑性(TRIP)を多く生じるようになるため、延性および伸びフランジ性が一層向上する。したがって、Cγは0.4質量%以上とすることが好ましい。さらに好ましくは0.6質量%以上、特に好ましくは0.8質量%以上である。また、Cγを2.0質量%以下とすることにより、残留オーステナイトの過度な安定化を抑制し、変態誘起塑性(TRIP)をより確実に発現させることができる。したがって、Cγは2.0質量%以下とすることが好ましい。さらに好ましくは1.8質量%以下である。
なお、残留オーステナイトの定量方法には、X線回折、EBSP(電子後方散乱回折像、Electron Back Scattering Pattern)解析、磁気測定による方法などがあり、方法によって定量値が異なる場合がある。本発明で規定する残留オーステナイトの面積率はX線回折による測定値である。
(ベイナイト、ポリゴナルフェライトおよび残留オーステナイトを除く残部の面積率:15%以下)
本発明の熱延鋼板の組織は、上述したベイナイト、ポリゴナルフェライトおよび残留オーステナイトから構成されることが成形性の観点から好ましいが、マルテンサイト、パーライト、セメンタイトなど上記以外の組織が混在したとしても、その面積率が15%以下であれば許容できる。上記残部の面積率は好ましくは10%以下である。
(残留オースナイトを除く鋼組織において15°以上の結晶方位差を有する粒界で囲まれる粒の平均粒径(D):15μm以下)
上述したように、残留オーステナイトは、主に15°以上の結晶方位差を有する粒の間とベイナイトラス間とに形成される。そして前者の方が後者に比して粗大化する傾向にあるため、前者の残留オーステナイトを微細に分散させることが重要である。そのためには、15°以上の結晶方位差を有する粒の平均粒径(D)を小さくして、残留オーステナイトの生成サイトを増加させることが有効である。
Dが15μm超では、残留オーステナイトを微細に分散させることが不十分となり、残留オーステナイトによる伸びフランジ性低下作用を効果的に抑制することが困難である。したがって、Dは15μm以下とする。好ましくは12μm未満、さらに好ましくは10μm未満、特に好ましくは8μm未満である。Dは小さいほど好ましいのでDの下限は特に規定する必要はない。
平均粒径(D)は、下記[数1]に示す式で算出される値とする。式中、Nは平均粒径の評価領域に含まれる粒の数、Aiはi番目(i=1、2、・・、N)の粒の面積、diはi番目の結晶粒の円相当直径を示す。これらのデータはEBSP解析により容易に求められる。具体的には、鉄の面心立方格子(FCC)と体心立方格子(BCC)の結晶構造定義を用いて相を区別し、その内、体心立方格子(BCC)として認識された相だけを解析することにより求められる。
Figure 2012251201
なお、15°以上の結晶方位差を有する粒は主にフェライト粒やベイナイトブロックである。JIS G0552に準じたフェライト粒径の測定方法では、結晶方位差が15°未満である粒についても粒径が算定されてしまい、さらに、ベイナイトブロックは算定されないため、残留オーステナイトの分散形態を適切に規定することができない。したがって、本発明ではEBSP解析により求めた値を採用する。
(Vγs>Vγ
本発明に係る熱延鋼板の組織は、鋼板表面から板厚の1/4深さ位置における鋼組織を以上のように規定するほかに、さらに以下のような鋼組織とすることが好ましい。
伸びフランジ成形や曲げ成形等のように、鋼板内部に比して鋼板表層部における歪量が大きい成形法では、鋼板表層部における均一伸びが高い方が好ましい。したがって、鋼板内部に比して鋼板表層部により多くの残留オーステナイトを含有させた傾斜組織とすることが好ましい。すなわち、下記式(1)を満足させることが好ましい。
γs>Vγ (1)
ここで、Vγsは鋼板表面から100μm深さ位置における残留オーステナイト面積率、Vγは鋼板表面から板厚の1/4深さ位置における残留オーステナイト面積率である。
<板厚:1.2mm超6mm以下>
熱延鋼板の板厚が1.2mm以下では、圧延完了温度の確保が困難になるとともに圧延荷重が過大となって、熱間圧延が困難となる場合がある。したがって、本発明の熱延鋼板の板厚は1.2mm超とする。好ましくは1.4mm以上である。一方、板厚が6mm超では、鋼組織の微細化が困難となり、上述した鋼組織を確保することが困難となる。また、上述した傾斜組織を得ることも困難となる。したがって、板厚は6mm以下とする。好ましくは5mm以下である。
<その他>
(めっき層)
上述した化学組成及び鋼組織を有する本発明に係る熱延鋼板の表面には、耐食性の向上等を目的としてめっき層を備えさせて表面処理鋼板としてもよい。めっき層は電気めっき層であってもよく溶融めっき層であってもよい。電気めっき層としては、電気亜鉛めっき、電気Zn−Ni合金めっき等が例示される。溶融めっき層としては、溶融亜鉛めっき、合金化溶融亜鉛めっき、溶融アルミニウムめっき、溶融Zn−Al合金めっき、溶融Zn−Al−Mg合金めっき、溶融Zn−Al−Mg−Si合金めっき等が例示される。めっき付着量は特に制限されず、従来と同様でよい。また、めっき後に適当な化成処理(例えば、シリケート系のクロムフリー化成処理液の塗布と乾燥)を施して、耐食性をさらに高めることも可能である。
<製造条件>
本発明の熱延鋼板は上述した化学組成、鋼組織および板厚を有するものであればよく、その製造方法は特に限定されないが、本発明の熱延鋼板を得るのに好適な製造方法を以下に説明する。なお、以下の説明における鋼組織および機械的性質は、特に断りのない限り、製造途上の鋼組織ではなく、最終製品段階である熱延鋼板の鋼組織および機械的性質である。また、鋼組織は板厚の1/4深さ位置における平均的な鋼組織のことである。
本発明の熱延鋼板を得るには、熱間圧延により適度な歪を導入するとともに、上記歪による駆動力を効率的に利用して変態を促進させることが好ましい。
具体的には、熱間圧延を多パス圧延とし、最終圧延パスにおける圧下率を5%以上50%以下として860℃以上1050℃以下の温度域で圧延を完了し、圧延完了後1秒間以内に720℃以下の温度域まで冷却し、500℃超720℃以下の温度域に1秒間以上15秒間以下の時間だけ滞在させたのちに、350℃以上500℃以下の温度域で巻き取ることが好ましい。最終圧延パスの1つ前の圧延パスの圧下率を20%以上50%以下とすることがさらに好ましい。
(スラブ、熱間圧延に供する際のスラブ温度、熱間圧延態様)
熱間圧延に供するスラブは、連続鋳造により得られたスラブや鋳造・分塊により得られたスラブなどを用いることができ、必要によってはそれらに熱間加工または冷間加工を加えたものを用いることができる。
熱間圧延に供するスラブの温度は、熱間圧延をオーステナイト域で行うためにオーステナイト単相域となる温度に加熱すればよく、特に限定する必要はないが、後述する好適な圧延完了温度を確保する観点からは1050℃以上とすることが好ましく、スケールロスを抑制する観点からは1350℃以下とすることが好ましい。なお、熱間圧延に供するスラブが連続鋳造により得られたスラブや分塊圧延により得られたスラブであって高温状態にある場合には、加熱することなしに熱間圧延に供してもよい。
熱間圧延は、多パス圧延としてレバースミルまたはタンデムミルを用いるのが好ましい。特に工業的生産性の観点から、少なくとも最終の数段はタンデムミルを用いた圧延とすることがより好ましい。
(最終圧延パスの圧下率:5%以上50%以下)
最終圧延パスの圧下率は5%以上50%以下とすることが好ましい。
最終圧延パスの圧下率を5%以上とすることにより、適度な歪が導入され、後続する冷却処理を適切に施すことにより、上記歪による駆動力を効率的に利用したフェライト変態およびベイナイト変態が実現され、最終製品である熱延鋼板について目的とする鋼組織を容易に得ることができる。したがって、最終圧延パスの圧下率は5%以上とすることが好ましい。さらに好ましくは10%以上である。
また、最終圧延パスの圧下率を50%以下とすることにより、最終圧延パスにおいて導入する歪の量が適度に抑制され、フェライトやパーライトが過剰に生成されることが抑制され、目的とする鋼組織を得ることが容易になる。したがって、最終圧延パスの圧下率は50%以下とすることが好ましい。さらに好ましくは45%以下である。
(圧延完了温度:860℃以上1050℃以下)
圧延完了温度は860℃以上1050℃以下とすることが好ましい。
圧延完了温度を860℃以上とすることにより、圧延時の変形抵抗が低減され、圧延が容易になる。したがって、圧延完了温度は860℃以上とすることが好ましい。さらに好ましくは880℃以上、特に好ましくは900℃以上、最も好ましくは910℃以上である。
また、圧延完了温度を1050℃以下とすることにより、圧延により導入した歪の解放が抑制され、後続する冷却処理を適切に施すことにより、上記歪による駆動力を効率的に利用したフェライト変態およびベイナイト変態が実現され、最終製品である熱延鋼板について目的とする鋼組織を容易に得ることができる。したがって、圧延完了温度は1050℃以下とすることが好ましい。さらに好ましくは1030℃以下、特に好ましくは1000℃以下、最も好ましくは980℃以下である。
(圧延完了から720℃以下の温度域までの冷却時間:1秒間以内)
圧延完了から720℃以下の温度域までの冷却時間は、1秒間以内とすることが好ましい。
上述したように、最終圧延パスにより導入する歪の量はある程度制限することが好ましい。このため、圧延により導入した歪による駆動力を効率的に活用することが好ましい。
圧延完了から1秒間以内に720℃以下の温度域まで冷却することにより、圧延により導入した歪の解放が効果的に抑制され、上記歪による駆動力を効率的に利用したフェライト変態およびベイナイト変態が実現され、最終製品である熱延鋼板について目的とする鋼組織を容易に得ることができる。
したがって、圧延完了から720℃以下の温度域に冷却するのに要する時間は1秒間以内とすることが好ましい。この時間はさらに好ましくは0.6秒以内、特に好ましくは0.4秒以内である。この際の冷却は水冷却として、冷却速度は400℃/秒以上とすることが好ましい。
(500℃超720℃以下の温度域における滞在時間:1秒間以上15秒間以内)
500℃超720℃以下の温度域における滞在時間は1秒間以上15秒間以内とすることが好ましい。
上述したフェライト面積率を確保するには、フェライト変態が活発となる温度域において冷却を一時停止するか、又は冷却速度を低下させることにより、上記温度域に適度な時間滞在させることが好ましい。上記化学組成を有し、上記圧延および冷却処理が施された熱延鋼板において、フェライト変態が活発となる温度域は500℃超720℃以下の温度域であるから、上記温度域における滞在時間を規定することが好ましい。
上記温度域に滞在させる時間を1秒間以上とすることにより、圧延により導入した歪による駆動力を効率的に利用したフェライト変態が適度に進行し、2.0面積%以上のフェライト面積率を確保するとともにポリゴナルフェライトを微細なものとすることが容易になる。したがって、上記温度域に滞在させる時間は1秒間以上とすることが好ましい。
また、上記温度域に滞在させる時間を15秒間以下とすることにより、フェライト変態の過度な進行が抑制され、フェライト面積率を50%以下とすることが容易になる。また、セメンタイトやパーライトの過度な生成が抑制され、ベイナイト、ポリゴナルフェライトおよび残留オーステナイト以外の鋼組織を15%以下とすることが容易になる。したがって、上記温度域に滞在させる時間は15秒間以内とすることが好ましい。
(巻取温度:350℃以上500℃以下)
巻取温度は350℃以上500℃以下とすることが好ましい。
巻取温度を350℃以上とすることにより、マルテンサイトの生成を抑制しつつ、圧延により導入した歪による駆動力を効率的に利用したベイナイト変態が実現され、40面積%以上のベイナイト面積率を確保するとともにベイナイトを微細なものとし、さらに、3面積%以上の残留オーステナイト面積率を確保することが容易になる。また、残留オーステナイト中の炭素濃度を高めることが容易になる。したがって、巻取温度は350℃以上とすることが好ましい。
また、巻取温度を500℃以下とすることにより、パーライトの生成を抑制しつつ、圧延により導入した歪による駆動力を効率的に利用したベイナイト変態が実現され、40面積%以上のベイナイト面積率を確保するとともにベイナイトを微細なものとし、さらに、3面積%以上の残留オーステナイト面積率を確保することが容易になる。したがって、巻取温度は500℃以下とすることが好ましい。
(最終圧延パスの1つ前の圧延パスでの圧下率:20%以上50%以下)
最終圧延パスの1つ前の圧延パスでの圧下率は20%以上50%以下とすることが好ましい。
上述したように最終圧延パスにより導入する歪はある程度制限することが好ましい。このため、最終圧延パスにより導入する歪以外の手段を併用することによって鋼組織の微細化を図ることが好ましい。
最終圧延パスの1つ前の圧延パスでの圧下率を20%以上とすることにより、最終圧延パスに供する段階におけるオーステナイト粒が微細化され、最終圧延パスにより導入する歪による鋼組織の微細化作用と相俟って、鋼組織のさらなる微細化が図られる。
さらに、圧下率の増加に伴って圧延ロールと鋼板間の摩擦によるせん断歪が大きくなることから、最終圧延パスの1つ前の圧延パスの圧下率を20%以上とすることにより、最終圧延パスに供する段階において、鋼板表面に近いほどオーステナイト粒が細粒である傾斜組織が形成される。その結果、最終製品である熱延鋼板の鋼組織も鋼板表面に近いほど細粒となり、鋼組織が細粒になるほど残留オーステナイトの生成サイトが増加して残留オーステナイト面積率が高くなることから、鋼板表面に近いほど残留オーステナイト面積率が高い傾斜組織となる。
したがって、最終圧延パスの1つ前の圧延パスの圧下率は20%以上とすることが好ましい。さらに好ましくは25%以上、特に好ましくは30%以上である。
また、最終圧延パスの1つ前の圧延パスの圧下率は50%以下とすることにより、圧延荷重の増加を抑制することができ、圧延が容易になる。したがって、最終圧延パスの1つ前の圧延パスの圧下率は50%以下とすることが好ましい。
表1に示す化学組成を有する180kgの鋼塊を高周波真空溶解炉にて溶製し、熱間鍛造により30mm厚さの鋼片にした。この鋼片を次いで1250℃の温度に加熱し、試験用小型タンデムミルにて表2に示す条件で熱間圧延を実施して板厚2mmの鋼板に仕上げた。圧延完了後、500℃超720℃以下の温度域まで水冷却により1次冷却し、500℃超720℃以下の温度域に所定の時間滞在させたのち、所定の巻取温度まで冷却して該巻取温度に設定した炉に装入し、30分間保持した後に炉冷して、熱延鋼板を得た。これらの条件を表2に併せて示す。
Figure 2012251201
Figure 2012251201
得られた熱延鋼板について、鋼板の圧延方向と直交する板厚断面を鏡面研磨し、ナイタール腐食液またはレペラ腐食液で腐食したのち、光学顕微鏡または走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて組織観察を行った。さらに、鏡面研磨後に電解研磨で調製した試料を用いて、EBSP法による結晶方位の測定および解析を行なった。
光学顕微鏡やSEMによる観察像では、ベイナイト、残留オーステナイトおよびマルテンサイトの区別が困難な場合があるため、以下の方法で各々の相および組織の面積率を定量した。
まず、ベイナイト、マルテンサイトおよび残留オーステナイトの合計面積率をSEM観察像およびEBSP解析結果を用いて画像解析により測定した。次に、レペラ腐食した組織から残留オーステナイトおよびマルテンサイトの合計面積率を測定し、この合計面積率を先に測定したベイナイト、マルテンサイトおよび残留オーステナイトの合計面積率から差し引いた値をベイナイト面積率とした。ポリゴナルフェライト面積率はSEM観察像およびEBSP解析結果を用いた画像解析により測定した。残留オーステナイト面積率はX線回折により測定し、同時に、残留オーステナイト中の炭素濃度も算出した。そして、上記で測定したベイナイト、ポリゴナルフェライトおよび残留オーステナイトの面積率の合計を、100%から差し引いた値を残部組織の面積率とした。
残留オースナイトを除く鋼組織において15°以上の結晶方位差を有する粒界で囲まれる粒の平均粒径(D)は、EBSP解析により求めた。
機械特性として、引張特性および伸びフランジ性を評価した。引張特性は、JIS Z 2201およびJIS Z 2241に準拠して引張試験を行ない、引張強度(TS)と全伸び(El)を測定した。伸びフランジ性は、日本鉄鋼連盟規格JFS T 1001に準拠して穴拡げ試験を行ない、穴拡げ率(λ)を求めた。
得られた鋼板の鋼組織および機械特性を表3にまとめて示す。発明例である試験番号2〜10、12、13、15〜19、21〜23は、高い引張強度(TS)を有するとともに、優れた強度−延性バランス(TS×El)と優れた強度−伸びフランジバランス(TS×λ)とを有している。一方、本発明で定める範囲を外れる比較例は、TS×ElあるいはTS×λ、または双方の特性が劣っている。
Figure 2012251201

Claims (7)

  1. 質量%で、C:0.08%超0.30%未満、Mn:1.0%以上4.0%以下、Si:0.10%以上3.0%未満、sol.Al:0.01%以上3.0%以下、但し、Siおよびsol.Alの合計含有量が0.8%以上3.0%以下、P:0.05%以下、S:0.01%以下およびN:0.01%以下を含有し、残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有し、
    鋼板表面から板厚の1/4深さ位置における鋼組織が、面積%で、ベイナイト(V):40%以上、ポリゴナルフェライト(Vα):2.0%以上50%未満および残留オーステナイト(Vγ):3%以上を含有し、残部が15.0%以下であって、かつ残留オースナイトを除く鋼組織において15°以上の結晶方位差を有する粒界で囲まれる粒の平均粒径(D)が15μm以下であり、
    板厚が1.2mm超6mm以下である
    ことを特徴とする熱延鋼板。
  2. 前記化学組成が、前記Feの一部に代えて、質量%で、Ti:0.10%以下、Nb:0.10%以下およびV:0.50%以下からなる群から選択される1種または2種以上を含有する請求項1に記載の熱延鋼板。
  3. 前記化学組成が、前記Feの一部に代えて、質量%で、Cr:1.0%未満、Mo:0.5%以下、Ni:1.0%以下およびB:0.0050%以下からなる群から選択される1種または2種以上を含有する請求項1または請求項2に記載の熱延鋼板。
  4. 前記化学組成が、前記Feの一部に代えて、質量%で、Ca:0.020%以下、Mg:0.020%以下およびREM:0.020%以下からなる群から選択される1種または2種以上を含有する請求項1〜請求項3のいずれかに記載の熱延鋼板。
  5. 前記化学組成が、前記Feの一部に代えて、Cu:1.0質量%以下を含有する請求項1〜請求項4のいずれかに記載の熱延鋼板。
  6. 前記化学組成が、前記Feの一部に代えて、Bi:0.020質量%以下を含有する請求項1〜請求項5のいずれかに記載の熱延鋼板。
  7. 鋼板表面から100μm深さ位置における残留オーステナイト面積率(Vγs)と鋼板表面から板厚の1/4深さ位置における残留オーステナイト面積率(Vγ)とが、下記式(1)を満たす請求項1〜請求項6のいずれかに記載の熱延鋼板。
    γs>Vγ (1)
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