以降、諸図面を参照しながら、本発明の実施態様を詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る電子機器1の機能ブロックを示す図である。電子機器1は、例えば携帯電話(スマートフォン)であって、パネル10と、表示部20と、圧電素子30と、入力部40と、制御部50と、を備える。
パネル10は、接触を検出するタッチパネル、または表示部20を保護するカバーパネル等である。例えば、ガラス、アクリル等の合成樹脂、サファイア結晶等により形成される。ここで、サファイア結晶とは、酸化アルミニウム(AlO3)結晶からなり、工業的に製造されたものをいう。パネル10の形状は板状であるとよい。パネル10は、平板であってもよいし、一部に曲面形状を有する曲面パネルであってもよい。パネル10は、タッチパネルである場合、利用者の指、ペン、又はスタイラスペン等の接触を検出する。タッチパネルの検出方法は、静電容量方式、抵抗膜方式、表面弾性波方式(又は超音波方式)、赤外線方式、電磁誘導方式、および、荷重検出方式等の任意の方式を用いることができる。
表示部20は、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、または無機ELディスプレイ等の表示デバイスである。表示部20は、パネル10の背面に設けられる。表示部20は、接合部材(例えば接着剤)によりパネル10の背面に配設される。表示部20は、パネル10と離間して配設され、電子機器1の筐体により支持されてもよい。あるいは、好適な態様では、表示部20は、接合部材(例えば接着剤)によりパネル10の背面に接合されてもよい。接合部材は、たとえば、透過させる光の屈折率を制御した、光学弾性樹脂などの弾性樹脂である。表示部20は、接合部材とパネル10を透過して種々の情報を表示する。表示部20をパネル10の背面に接合することで、後述するように、パネル10の振動の減衰量を調節できる。
圧電素子30は、電気信号(電圧)を印加することで、構成材料の電気機械結合係数に従い伸縮または屈曲する素子である。これらの素子は、例えばセラミック製や水晶からなるものが用いられる。圧電素子30は、ユニモルフ、バイモルフまたは積層型圧電素子であってよい。積層型圧電素子には、バイモルフを積層した(例えば16層または24層積層した)積層型バイモルフ素子が含まれる。積層型の圧電素子は、例えばPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)からなる複数の誘電体層と、該複数の誘電体層間に配設された電極層との積層構造体から構成される。積層型圧電素子は、電気信号(電圧)が印加されると、各層の積層方向、すなわち厚み方向に撓みの変位を起こす。
入力部40は、利用者からの操作入力を受け付けるものであり、例えば、操作ボタン(操作キー)から構成される。なお、パネル10がタッチパネルである場合には、パネル10も利用者からの接触を検出することにより、利用者からの操作入力を受け付けることができる。
制御部50は、電子機器1を制御するプロセッサである。制御部50は、圧電素子30に所定の電気信号(音声信号に応じた電圧)を印加する。制御部50が圧電素子30に対して印加する電圧は、例えば、人体振動音ではなく気導音による音の伝導を目的とした所謂パネルスピーカの印加電圧である±5Vよりも高い、±15Vであってよい。これにより、使用者が例えば3N以上の力(5N〜10Nの力)で自身の体にパネル10を押し付けた場合であっても、パネル10に十分な振動を発生させ、使用者の体の一部を介する人体振動音を発生させることができる。尚、どの程度の印加電圧を用いるかは、パネル10の筐体または支持部材に対する固定強度もしくは圧電素子30の性能に応じて適宜調整可能である。制御部50が圧電素子30に電気信号を印加すると、圧電素子30は厚み方向に撓みの変位を起こす。このとき、圧電素子30が取付けられたパネル10は、圧電素子30の変位にあわせて変形し、パネル10が振動する。このため、パネル10は、気導音を発生させる。また、パネル10は、該パネル10に接触する対象物に人体振動音を伝える。対象物として、例えば、利用者の体の一部(外耳の軟骨等)がある。例えば、制御部50は、通話相手の音声に係る音声信号に応じた電気信号を圧電素子30に印加させ、その音声信号に対応する気導音及び人体振動音を発生させることができる。音声信号は、着信メロディ、または音楽を含む楽曲等に係るものであってもよい。なお、電気信号にかかる音声信号は、電子機器1の内部メモリに記憶された音楽データに基づくものでもよいし、外部サーバ等に記憶されている音楽データがネットワークを介して再生されるものであってもよい。
パネル10は、圧電素子30が取り付けられた取付領域だけでなく、取付領域から離れた領域も振動する。パネル10は、振動する領域において、当該パネル10の主面と交差する方向に振動する箇所を複数有し、当該複数の箇所の各々において、振動の振幅の値が、時間とともにプラスからマイナスに、あるいはその逆に変化する。パネル10は、ある瞬間において、振動の振幅が相対的に大きい部分と振動の振幅が相対的に小さい部分とが一見パネル10の略全体にランダムにあるいは周期的に分布した振動をする。即ちパネル10全域にわたって、複数の波の振動が検出される。利用者が例えば5N〜10Nの力で自身の体にパネル10を押し付けた場合であっても、パネル10の上述したような振動が減衰しないためには、制御部50が圧電素子30に対して印加する電圧は、±15Vであってよい。そのため、利用者は、上述したパネル10の取付領域から離れた領域に耳を接触させて音を聞くことができる。
ここで、パネル10は、利用者の耳とほぼ同じ大きさであってよい。また、パネル10は、図2に示すように、利用者の耳よりも大きいものであってもよい。この場合、利用者が音を聞く際、電子機器1のパネル10により耳全体が覆われやすいことから、周囲音(ノイズ)を外耳道に入りにくくできる。パネル10は、対耳輪下脚(下対輪脚)から対耳珠までの間の距離に相当する長さと、耳珠から対耳輪までの間の距離に相当する幅とを有する領域よりも広い領域が振動すればよい。パネル10は、好ましくは、耳輪における対耳輪上脚(上対輪脚)近傍の部位から耳垂までの間の距離に相当する長さと、耳珠から耳輪における対耳輪近傍の部位までの間の距離に相当する幅を有する領域が振動すればよい。長さ方向は、この例ではパネル10が延在する長手方向2aであり、その中心から一方の端部寄りに圧電素子30が配設される。また、幅方向は、長手方向と直交する方向2bである。かかる長さおよび幅を有する領域は、長方形状の領域であってもよいし、上記の長さを長径、上記の幅を短径とする楕円形状であってもよい。日本人の耳の平均的な大きさは、社団法人 人間生活工学研究センター(HQL)作成の日本人の人体寸法データベース(1992−1994)等を参照すれば知ることができる。尚、パネル10が日本人の耳の平均的な大きさ以上の大きさであれば、パネル10は概ね外国人の耳全体を覆うことができる大きさであると考えられる。
上記のような寸法や形状を有することで、パネル10は、ユーザーの耳を覆うことができ、耳に当てたときの位置ずれに対して寛容になる。
上記の電子機器1は、パネル10の振動により、気導音と、利用者の体の一部(例えば外耳の軟骨)を介する振動音とを利用者に伝えることができる。そのため、従来のダイナミックレシーバと同等の音量の音を出力する場合、パネル10が振動することで空気の振動により電子機器1の周囲へ伝わる音は、ダイナミックレシーバと比較して少ない。したがって、例えば録音されたメッセージを電車内等で聞く場合等に適している。
また、上記の電子機器1は、パネル10の振動によって振動音を伝えるため、例えば利用者がイヤホンまたはヘッドホンを身につけていても、それらに電子機器1を接触させることで、利用者はイヤホンまたはヘッドホンおよび体の一部を介して音を聞くことができる。
上記の電子機器1は、パネル10の振動により利用者に音を伝える。そのため、電子機器1が別途ダイナミックレシーバを備えない場合、音声伝達のための開口部(放音口)を筐体に形成する必要がなく、電子機器1の防水構造が簡略化できる。尚、電子機器1がダイナミックレシーバを備える場合、放音口は、気体は通すが液体は通さない部材によって閉塞されるとよい。気体は通すが液体は通さない部材は、例えばゴアテックス(登録商標)である。
図3は本発明の実施形態に係る電子機器1の実装構造を示す図である。図3(a)は正面図、図3(b)は図3(a)におけるb−b線に沿った断面図である。図3に示す電子機器1はパネル10としてガラス板であるタッチパネルが筐体60(例えば金属や樹脂のケース)の前面に配されたスマートフォンである。パネル10は、後述するように接合部材により筐体60に接着され、筐体60に支持される。接合部材は、例えば接着剤や両面テープである。また、入力部40も筐体60に支持される。表示部20および圧電素子30は、それぞれ不図示の接合部材によりパネル10に接着されている。接合部材は、熱硬化性あるいは紫外線硬化性等を有する接着剤や両面テープ等であり、例えば無色透明のアクリル系紫外線硬化型接着剤である光学弾性樹脂でもよい。パネル10、表示部20および圧電素子30は、それぞれ略長方形状である。
表示部20は、パネル10の短手方向におけるほぼ中央に配設される。圧電素子30は、パネル10の長手方向の端部から所定の距離だけ離間して、当該端部の近傍に、圧電素子30の長手方向がパネル10の短辺に沿うように配設される。表示部20と圧電素子30とは、パネル10の内部側の面に平行な方向において並んで配設される。
図4は、本発明の実施形態に係る電子機器1のパネル10の振動の一例を示す図である。第1の実施形態に係る電子機器1では、表示部20がパネル10に取り付けられている。このため、パネル10の下部は、圧電素子30が取り付けられたパネル10の上部に比して振動しにくくなる。すなわち、パネル10の長手方向2aにおいて、圧電素子30により生じた振動を減衰させることができる。そのため、パネル10の下部において、パネル10の下部が振動することによる音漏れが低減できる。
このように、本実施形態に係る電子機器1によれば、パネル10の背面に取り付けられた圧電素子30の変形に起因してパネル10が変形し、当該変形するパネル10に接触する対象物に対して気導音と振動音とを伝える。また、パネル10ではなく筐体60を変形させる場合には、振動を発生させる際に、利用者が端末を落としてしまいやすいのに対して、パネル10を振動させた場合には、このようなことが起きにくい。
また、圧電素子30は、接合部材により、パネル10に接合されている。これにより、圧電素子30の変形の自由度を阻害しにくい状態で圧電素子30をパネル10に取り付けることができる。また、接合部材は、非加熱型硬化性の接着剤とすることができる。これにより、硬化時に、圧電素子30とパネル10との間に熱応力収縮が発生しにくいという利点がある。また、接合部材は、両面テープとすることができる。これにより、圧電素子30とパネル10との間に接着剤使用時のような収縮応力がかかりにくいという利点がある。
ここで、図5を用いて、パネル10と筐体60との接着構造について説明する。図5は、パネル10と筐体60の接着の概略的な態様を示す図である。図5には、パネル10が筐体60から分離された状態が示される。図5の筐体60側には、筐体60とパネル10とが取り付けられた状態において圧電素子30が配設される位置31も併せて示されている。筐体60側に示されるように、パネル10と筐体60は、接着剤11および接合部材12により接着される。接着剤11は、一時的に流動性を有する、たとえば、非加熱型硬化性の接着剤であり、パネル10と筐体60との間隙に充填されことにより配設される。接着剤11は、例えば、空気中の水分(湿気)と反応して硬化する湿気硬化型弾性接着剤であってもよい。このような湿気硬化型弾性接着剤は、例えばシリル基を含む特殊ポリマーが主成分である。接合部材12は、たとえば、発泡材入りの両面テープである。発泡材入りの両面テープは、例えば、微小独立気泡構造を持つポリエチレンの基材の両面に、アクリル系粘着剤を積層して成る両面テープである。
接着剤11および接合部材12は、上に挙げたものに限られない。接着剤11は、固化したときに、接合部材12より変形しにくいものであることが好ましい。変形のしやすさは、例えば、JIS規格に準拠したスプリング式硬さ試験機又は針入度計で測定されるものである。接着剤11は、固化したときに、接合部材12より粘着力が強いものであることが好ましい。ここでいう粘着力は、例えば、JISZ0237(新旧双方を含む)に規定される方法で測定されるものである。接着剤11は、固化したときに、接合部材12より接着強度が強いものであることが好ましい。ここでいう接着強度は、例えば、JISK6849に規定される方法で測定される引張り接着強さである。
接着剤11は、圧電素子30の近傍に配設される。具体的には、圧電素子30の左右両側、すなわち、圧電素子30の長手方向であり、かつ伸縮方向である方向2b(これは、パネル10の短手方向である)側の端部の近傍に配設される。ただし、圧電素子30の左右のいずれか一方に配設される場合も、本実施形態に含まれる。一方、接合部材12は、パネル10の外周に沿って配設される。また、接合部材12は、接着剤11を囲い込むように配設される。このように配設される接着剤11および接合部材12により、パネル10は、筐体60に取り付けられる。ここで、接着剤11および接合部材12は、互いに重なる部分を一部に有していてもよい。この場合、接着剤11および接合部材12は互いに強固に接着し、ひいては、パネル10と筐体60とを強固に接着することができる。また、接着剤11および接合部材12は防水性を有し、パネル10と筐体60との隙間からの水の浸入を低減させる。
図6は、接着剤11が上記の湿気硬化型弾性接着剤である場合の、本実施形態における接着剤11の第1の充填方法を説明するための図である。
図6(a)は、パネル10を接着する前における筐体60の正面上部の拡大図を示す。図6(b)は、筐体60のX−X断面図を示す。図6(c)は、接着剤11が充填された後の筐体60のX−X断面図を示す。図6(b)、(c)では、パネル10が配された状態が示されている。
図6(a)より、筐体60には、接着剤11を充填するための凹部100が設けられる。凹部100の底部は、筐体60から成り、凹部100の側面は、接合部材12から成る。パネル10の接着に際し、まず、パネル10は接合部材12を介して筐体60に取付けられる。このとき、図6(b)に示すように、凹部100(即ち、接合部材12および/または筐体60)とパネル10とにより空間110が形成される。空間110には、該空間110から空間外へと連通する第1の孔101が形成されている。具体的には、空間110を形成する凹部100の底部には、背面側に連通する第1の孔101が形成されている。次に、筐体60の背面側から、孔101を介して空間110に接着剤11が充填される(矢印103)。その際、接着剤11を吐出するノズルには、例えば、先細のノズルを用いることで、ノズルの外壁と孔101の開口の外周が当接して孔101とノズルとの間に隙間を生じることなく、接着剤11を空間110に充填できる。このようにして、接着剤11によりパネル10を筐体60に接着することができる。
接着剤11は、ノズルから空間110へ充填された後、空間110と連通する孔101の少なくとも一部にも吐出される。即ち、接着剤11は、図6(c)に示すように、空間110に充填されていると共に、孔101における一部または全部にも充填される(接着剤11の部分を小ドット柄で示している)。このような接着構造をとることにより、空間110に充填される接着剤11が、一体となって孔101にも入り込むので、孔101に接着剤が充填されない場合と比較して、凹部100の底部と固化した接着剤11との接着強度を向上させる、所謂アンカー効果を奏する。また、筐体60の背面側に連通する方向に孔101が形成されているため、該方向とは垂直な方向に対する引張、衝撃等への耐性は、より一層向上する。
上記の第1の充填方法において、孔101は、筐体60の背面側に連通する方向に形成されていたが、これに限定されない。例えば、孔101は、パネル10あるいは接合部材12に形成されていてもよい。
図7は、本実施形態における接着剤11の第2の充填方法を説明するための図である。図7(a)は、パネル10を接着する前における筐体60の正面上部の拡大図を示す。図7(b)は、筐体60のX−X断面図を示す。図7(c)は、接着剤11が充填された後の筐体60のX−X断面図を示す。図7(b)、(c)では、パネル10が配された状態が示されている。
図7(a)より、筐体60には、接着剤11を充填するための凹部100が設けられる。凹部100の底部は、筐体60から成り、凹部100の側面は、接合部材12から成る。パネル10の接着に際し、まず、パネル10は接合部材12を介して筐体60に取付けられる。このとき、図7(b)に示すように、凹部100とパネル10とにより空間110が形成される。空間110には、該空間110から空間外へと連通する第1の孔101および第2の孔102が形成されている。具体的には、空間110を形成する凹部100の底部には、背面側に連通する第1の孔101および第2の孔102が形成されている。次に、筐体60の背面側から、孔101を介して空間110に接着剤11が充填され、接着剤11を介してパネル10が筐体60に取り付けられる。このとき、ノズルから第1の孔101へ接着剤11が吐出され、該第1の孔と連通する空間110に接着剤11が充填されると共に、空間110に存在する気体は第2の孔102から排気される。このような充填方法をとることにより、ノズルを孔101に当接させ、隙間を生じることなく接着剤11を空間110に充填する場合においても空間110内の気体の排気が行える。
接着剤11は、ノズルより空間110に充填された後、空間110と連通する孔101もしくは孔102の少なくとも一部にも吐出される。即ち、接着剤11は、図7(c)に示すように、空間110に充填されていると共に、孔101もしくは孔102の少なくとも一部または全部にも充填される。このような接着構造をとることにより、空間110に充填される接着剤11が、一体となって孔101もしくは孔102にも入り込むので、孔101および孔102に接着剤が充填されない場合と比較して、凹部100の底部と固化した接着剤11との接着強度を向上させる。ひいては、パネル10と凹部100の底部(筐体60)との接着強度が向上する。また、筐体60の背面側に連通する方向に孔101が形成されているため、該方向とは垂直な方向に対する引張、衝撃等への耐性は、より一層向上する。
上記の第2の充填方法において、孔101は、筐体60の背面側に連通する方向に形成されていたが、これに限定されない。
図8は、本実施形態における接着剤11の第3の充填方法を説明するための図である。図8(a)は、パネル10を接着する前における筐体60の正面上部の拡大図を示す。図8(b)は、筐体60のX−X断面図を示す。図8(c)は、接着剤11が充填された後の筐体60のX−X断面図を示す。図8(b)、(c)では、パネル10が配された状態が示されている。
図8(a)より、筐体60には、接着剤11を充填するための凹部100が設けられる。凹部100の底部は、筐体60から成り、凹部100の側面は、接合部材12から成る。パネル10の接着に際し、まず、パネル10は接合部材12を介して筐体60に取付けられる。このとき、図8(b)に示すように、凹部100とパネル10とにより空間110が形成される。空間110には、該空間110から空間外へと連通する第1の孔101および第2の孔102が形成されている。第1の孔101の開口面と第2の孔102の開口面とは、互いに平行でない。つまり、後述するように、電子機器1の縁に第2の孔102のための接合部材12が配置されないように当該第2の孔102が形成されていればよい。具体的には、第1の孔101は、空間110を形成する凹部100の底部にて、背面側に連通する方向に形成されているのに対し、第2の孔102は、空間110の側面、即ち凹部100の側面にて、隣の空間(圧電素子30が位置する周囲の空間)に連通する方向に形成されている。また、例えば、凹部100の側面には、接合部材12として両面テープが配され、該両面テープにスリットを設けることにより第2の孔102が形成される。次に、筐体60の背面側から、孔101を介して空間110に接着剤11が充填され、接着剤11を介してパネル10が筐体60に取り付けられる。このとき、ノズルから第1の孔101へ接着剤11が吐出され、該第1の孔と連通する空間110に接着剤11が充填されると共に、空間110に存在する気体は第2の孔102から排気される。
接着剤11は、ノズルより空間110に充填された後、空間110と連通する孔101もしくは孔102の少なくとも一部にも吐出される。
即ち、接着剤11は、図8(c)に示すように、空間110に充填されていると共に孔101もしくは孔102の少なくとも一部または全部にも充填される。このような接着構造をとることにより、空間110に充填される接着剤11が、一体となって孔101もしくは孔102にも入り込むので、孔101および孔102に接着剤が充填されない場合と比較して、凹部100と固化した接着剤11との接着強度を向上させる。ひいては、パネル10と凹部100との接着強度が向上する。また、孔101および孔102の開口面は互いに平行でない、即ち、孔101および孔102の連通する方向が互いに平行でないため、其々の方向と垂直な2方向に対する引張、衝撃等への耐性が、より一層向上する。
本発明の実施形態のように、筐体60の凹部100の底部に孔101もしくは孔102を形成した場合には、凹部100の背面側に他のケース部材等を設け、防水構造を付与する必要がある。即ち、電子機器1の筐体60は、少なくとも2つ以上のケース部材から構成される必要がある。ここで、筐体60は、孔101、102が形成されたケース部材60aと該ケース部材60aの背面側に設けられるケース部材60bとを組み合わせることにより構成されるものと改めて定義する。ケース部材60aとケース部材60bとは、防水性を有した両面テープ等の接合部材12を介して取り付けられ、また該接合部材12は、孔101もしくは孔102に対する水の侵入を防止する役割を有する。
第2の充填方法では、図7(c)に示すように、ケース部材60aの底部に、所定の距離だけ離間した2つの孔101、102が形成されている。そして、孔101、102について、其々、電子機器1の縁に近い位置(孔101については、左側、孔102については、右側)に接合部材12を設けることでケース部材60aの防水構造の付与が可能となる。一方、第3の充填方法では、図8(c)に示すように、ケース部材60aの底部に1つの孔101が形成されているため、該孔101の左右に接合部材12を設けることでケース部材60aの防水構造の付与が可能となる。なお、第3の充填方法において、接合部材12は、孔101の近辺に設けても防水構造の付与が可能となる。
従って、第3の充填方法の方が、第2の充填方法に比べ、一方の接合部材12を電子機器1の縁に近い位置に配置しないレイアウトをとることができる。
ところで、電子機器1に接合部材12として両面テープを設ける場合には、両面テープの厚さ(例えば、0.4mm程度)の分だけ、電子機器1の厚さは大きくなる。従って、両面テープが電子機器1の縁に位置する場合、当該位置において、ケース部材60bをより大きく湾曲(より大きい曲率にて湾曲)、あるいは屈曲させて、底部および側部を構成しなければならない。
しかしながら、第3の充填方法では、接合部材12を電子機器1の縁の近い位置に配置しないレイアウトをとることができるので、第2の充填方法と比較して、電子機器1の縁において厚みを薄くすることができる。即ち、第3の充填方法における電子機器1の上部の厚み幅d’(図8(c))は、第2の充填方法における電子機器1の上部の厚み幅d(図7(c))よりも小さくすることができる。
このように、電子機器1の縁の厚みを薄くすることで、ケース部材60bを大きく湾曲させる必要がなく、緩やかなラウンド形状に形成することが可能である。このようなケース部材の形状(即ち筐体の形状)は、例えば、使用者の手に取りやすい形状である。従って、第3の充填方法によれば、デザイン性に優れた電子機器が製造可能である。
本発明の実施形態では、上述のように、接着剤11および接合部材12によりパネル10を筐体60に接着することで、たとえば、図9に示すようにパネル10を接合部材12のみ、すなわち両面テープのみにより接着する場合と比べて、パネル10の周波数特性を改善することができる。
図10は、接着方法が異なる場合ごとにパネル10の振動の例を示す図である。図10(a)、(b)は、接合部材12、つまり両面テープのみでパネル10を接着した場合に、ある周波数の駆動信号を圧電素子30に印加したときのパネル10の振動を示す。一方、図10(c)、(d)は、接着剤11及び接合部材12、つまり接着剤と両面テープでパネル10を接着した場合に、同じ周波数の駆動信号を圧電素子30に印加したときのパネル10の振動を示す。なお、図10(a)と図10(c)、及び図10(b)と図10(d)は、それぞれの場合における逆位相の振動を示している。
図示されるように、両面テープのみでパネル10を接着した場合より、接着剤と両面テープでパネル10を接着した場合の方が、振幅が大きい振動が得られる。また、ここで、振動していないときのパネル10の平面(主面)を基準として、パネル10の振幅の方向を見てみる。振幅の方向は、主面上方を正、下方を負とする。すると、たとえば、パネル10の短手方向2bにおいて、圧電素子30が搭載された領域の中心と左右端部に着目したときに、両面テープのみでパネル10を接着した場合には、図10(a)、(b)に示すように、パネル10において圧電素子30が搭載された領域の中心部と、圧電素子30が搭載された領域の左右端部とは振幅が逆方向となる。すなわち、中心部が正方向に振動しているときに左右端部は負方向に振動する。中心部が負方向に振動しているときに左右端部は正方向に振動する。これに対し、接着剤と両面テープでパネル10を接着した場合には、図10(c)、(d)に示すように、パネル10において圧電素子30が搭載された領域の中心部と、圧電素子30が搭載された領域の左右端部とは振幅方向が一致している。
このことは、接合部材12(発泡材入り両面テープ)の方が接着剤11より変形しやすく、また、接着力が弱いので、パネル10を接合部材12だけで接着すると、駆動信号の周波数によっては、パネル10の左右端部が大きく振動し、その結果として中心部の振動が抑制されることによる。これに対し、圧電素子30の長手方向、つまり伸縮方向2b側に接着剤11を配設したことにより、パネル10の左右端部の固定を強固にすることができ、その結果として圧電素子30付近の振動を抑制することを回避できる。そうすることで、良好な音圧を確保できる。
図11は、本発明の実施形態におけるパネル10の周波数特性を示す図である。図11では、パネル10を接合部材12のみで接着した場合(圧電素子30の長手方向両端近傍に接着剤11が配設されない場合)の周波数特性91と、接着剤11及び接合部材12で接着した場合(圧電素子30の長手方向両端近傍に接着剤11が配設される場合)の周波数特性92とがそれぞれ示される。横軸は出力音声の周波数を、縦軸は音圧を示す。
周波数特性91が示すように、パネル10を接合部材12のみで接着した場合には、4kHz付近で音圧が落ち込む「ディップ」が生じる。一方、周波数特性92が示すように、パネル10を接着剤11及び接合部材12で接着した場合には、ディップの発生を6kHz以上の帯域に移動させることができる。すなわち、ディップが携帯電話機の音声通話で用いられる周波数帯は400Hz〜3.4kHzで発生することをより確実に回避できる。それとともに、3kHz以上での音圧を増加させることができる。このように、圧電素子30の長手方向、つまり伸縮方向2b側を接着剤11で接着し、パネル10の外周を接合部材12で接着することで、パネル10の周波数特性を改善できる。
なお、図9に示す接着態様は、接合部材12の一部が、パネル10の外周部から、圧電素子30の長手方向の両端近傍まで延設されている。そのため、接合部材12がパネル10の外周部のみに配設されている態様と比較すると、パネル10の音響特性が向上する。図9に示す接着態様は、パネル10の外周部に配設される接合部材12と、圧電素子30の長手方向の両端近傍に配設される接合部材12とが連続している(連結されている)と言うことができる。
本発明を諸図面や実施形態に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形や修正を行うことが容易であることに注意されたい。従って、これらの変形や修正は本発明の範囲に含まれることに留意されたい。例えば、接着剤の第3の充填方法において、圧電素子30の周囲の空間に連通する第2の孔102が形成されている構成を示したが、これに限定されず、表示部20の周囲等の空間に連通するように第2の孔102が形成されてもよい。また、例えば、接着剤の第3の充填方法において、凹部100の側面を構成する接合部材12である両面テープにスリットを設けることによって第2の孔102が形成されている構成を示したが、これに限定されず、凹部100の側面の少なくとも一部が筐体60から構成され、該筐体60に溝を形成することにより第2の孔102が形成されてもよい。また、本発明の実施例は、スマートフォンを例にとって説明してきたが、折り畳み式の携帯電話であっても本発明は実現可能である。