JP2015092438A - スパークプラグ - Google Patents

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Abstract

【課題】 この発明は、中心電極及び接地電極の少なくとも一方にチップが設けられたスパークプラグにおいて、このチップが曝された環境における酸素濃度に影響されることなく酸化消耗を抑制することで、耐久性の良好なスパークプラグを提供することを課題とする。
【解決手段】 中心電極と前記中心電極との間に間隙を設けて配置された接地電極とを備え、前記中心電極と前記接地電極との少なくとも一方は前記間隙を形成するチップを有し、前記チップは、Irを主成分とし、Rhを7質量%以上31質量%以下、Ruを5質量%以上20質量%以下、及びPtをRuの含有量の20分の1以上2分の1以下含有することを特徴とするスパークプラグ。
【選択図】 図1

Description

この発明は、スパークプラグに関する。この発明は、特に、中心電極及び接地電極の少なくとも一方にチップが設けられたスパークプラグに関する。
スパークプラグは、自動車エンジン等の内燃機関の点火用に使用される。一般に、筒状の主体金具と、この主体金具の内孔に配置される筒状の絶縁体と、この絶縁体の先端側内孔に配置される中心電極と、一端が主体金具の先端側に接合され、他端が中心電極との間に火花放電間隙を有する接地電極とを備える。そして、スパークプラグは、内燃機関の燃焼室内で、中心電極の先端部と接地電極の先端部との間に形成される火花放電間隙に火花放電され、燃焼室内に充填された燃料を燃焼させる。
中心電極及び接地電極を形成する材料としては、Ni合金等が一般に使用される。Ni合金は、耐酸化性及び耐消耗性に関してPt及びIr等の貴金属を主成分とした貴金属合金に比べると多少劣る。しかし、貴金属に比べて安価であるため接地電極及び中心電極を形成する材料として好適に使用される。
近年、燃焼室内の温度が高温化する傾向にある。そのため、Ni合金等で形成された、接地電極の先端部と中心電極の先端部との間で火花放電が生じると、接地電極及び中心電極との対向するそれぞれの先端部が火花消耗を生じ易くなることがある。そこで、接地電極と中心電極との対向するそれぞれの先端部にチップを設け、このチップで火花放電が生じるようにすることで接地電極及び中心電極の耐消耗性を向上させる方法が開発されている。
このチップを形成する材料としては、耐酸化性及び耐火花消耗性に優れる貴金属を主成分とする材料が使用されることが多い。そのような材料として、Ir、Ir合金、Pt合金等がある。
例えば、特許文献1には、発火部の材料としてIR−Rh系合金を使用したスパークプラグが開示されている。具体的には、「Irを主体としてRhを0.1〜35重量%の範囲で含有し、さらにRu及びReの少なくともいずれかを合計で0.1〜17重量%の範囲で含有する合金により構成される」貴金属チップを備えたスパークプラグが開示されている。この発明の目的は、次の2つである。1つは、従来のIr−Rh系合金と比して、高温でのIr成分の酸化・揮発による発火部の消耗が格段に起こりにくく、ひいては市街地走行や高速走行においても優れた耐久性を確保することができるスパークプラグを提供することである。もう1つは、高価なRhの含有量を従来よりも抑さえることができ、より安価で耐久性を確保できるスパークプラグを提供することである(特許文献1の請求項1及び段落番号0006)。
特許文献2には、放電部の火花消耗や酸化消耗、異常消耗を抑制しつつ、放電部表面における貴金属の発汗、剥離を抑制することができるスパークプラグを提供することを目的として、「主成分をIrとし、Rhを0.5〜40質量%、Niを0.5〜1質量%含有し、さらにPt及びPdの少なくともいずれか一方を4〜8質量%含有する」貴金属チップを備えたスパークプラグが開示されている(特許文献2の請求項1及び段落番号0006)。
特許第3672718号公報 特許第4672551号公報
ところで、近年、多様な運転スタイルに対応できるスパークプラグが要求されている。すなわち、空気に対する燃料の混合比を大きくして低酸素濃度雰囲気で出力を重視した条件や、空気に対する燃料の混合比を小さくして高酸素濃度雰囲気で燃費を重視した条件等、どのような条件でも優れた耐久性を有するスパークプラグが要求されている。
このような視点で従来のチップを評価したところ、次の課題が判明した。発明者らが酸化消耗を抑制することのできるチップの組成について検討したところ、Irを主成分として、Rh及びRuを含有するIr−Rh−Ru合金からなるチップは、空燃比が12程度で燃焼室内が低酸素濃度雰囲気では酸化消耗を抑制することができるが、従来から重視されてきた空燃比が14程度で燃焼室内が高酸素濃度雰囲気では、酸化消耗が進み、十分な耐久性が得られないことが分った。
この発明は、中心電極及び接地電極の少なくとも一方にチップが設けられたスパークプラグにおいて、このチップが曝された環境における酸素濃度に影響されることなく酸化消耗を抑制することで、耐久性の良好なスパークプラグを提供することを目的とする。
前記課題を解決するための手段は、
(1) 中心電極と、前記中心電極との間に間隙を設けて配置された接地電極と、を備えるスパークプラグであって、前記中心電極と前記接地電極との少なくとも一方は前記間隙を形成するチップを有し、前記チップは、Irを主成分とし、Rhを7質量%以上31質量%以下、Ruを5質量%以上20質量%以下、及びPtをRuの含有量の20分の1以上2分の1以下含有することを特徴とするスパークプラグである。
前記(1)の好ましい態様は、
(2)前記チップにおける、Rhの含有量は7質量%以上27質量%以下、Ruの含有量は5質量%以上17質量%以下であり、
(3)前記チップにおける、Rhの含有量は7質量%以上24質量%以下、Ruの含有量は6質量%以上15質量%以下であり、
(4)前記チップにおける、Rhの含有量は7質量%以上21質量%以下、Ruの含有量は6質量%以上13質量%以下である。
(5)前記(1)〜前記(4)のいずれか一つのスパークプラグにおいて、前記チップは、さらに、Niを0.1質量%以上4.5質量%以下含有し、
(6)前記(1)〜前記(5)のいずれか一つのスパークプラグにおいて、前記チップを、前記中心電極又は前記接地電極と前記チップとの接合面に平行な仮想平面に投影したときの面積Sが、0.07mm以上であり、
(7)前記面積Sが、0.10mm以上であり、
(8)前記面積Sが、0.15mm以上である。
この発明によると、中心電極と接地電極との少なくとも一方に設けられたチップが、Irを主成分とし、Rhを7質量%以上31質量%以下、Ruを5質量%以上20質量%以下、及びPtをRuの含有量の20分の1以上2分の1以下含有するので、チップが曝された環境における酸素濃度に影響されることなく酸化消耗を抑制することができ、耐久性の良好なスパークプラグを提供することができる。
図1は、この発明に係るスパークプラグの一実施例であるスパークプラグの一部断面全体説明図である。 図2は、この発明に係るスパークプラグにおけるチップと中心電極との接合部分の一例である要部説明図である。 図3は、この発明に係るスパークプラグにおけるチップと接地電極との接合部分の一例である要部説明図である。図3(a)は、チップと接地電極との接合部分にこれらの境界面が残っているときの要部説明図である。図3(b)は、チップと接地電極との接合部分全体に溶融部が形成されているときの要部説明図である。
この発明に係るスパークプラグの一実施例であるスパークプラグを図1に示す。図1はこの発明に係るスパークプラグの一実施例であるスパークプラグ1の一部断面全体説明図である。なお、図1では紙面下方すなわち後述する接地電極が配置されている側を軸線Oの先端方向、紙面上方を軸線Oの後端方向として説明する。
このスパークプラグ1は、図1に示されるように、軸線O方向に延びる軸孔2を有する略円筒形状の絶縁体3と、前記軸孔2内の先端側に配置された略棒状の中心電極4と、前記軸孔2内の後端側に配置された端子金具5と、前記中心電極4と前記端子金具5とを前記軸孔2内で電気的に接続する接続部6と、前記絶縁体3を保持する略円筒形状の主体金具7と、一端部が前記主体金具7の先端部に接合されると共に他端部が前記中心電極4と間隙Gを介して対向するように配置された接地電極8とを備え、前記中心電極4にはその先端面にチップ9が設けられている。
前記絶縁体3は、軸線O方向に延びる軸孔2を有し、略円筒形状を有している。また、絶縁体3は、後端側胴部11と、大径部12と、先端側胴部13と、脚長部14とを備えている。後端側胴部11は、端子金具5を収容し、端子金具5と主体金具7とを絶縁する。大径部12は、該後端側胴部よりも先端側において径方向外向きに突出する。先端側胴部13は、該大径部12の先端側において接続部6を収容し、大径部12よりも小さい外径を有する。脚長部14は、この先端側胴部13の先端側において中心電極4を収容し、先端側胴部13より小さい外径及び内径を有する。先端側胴部13と脚長部14との内周面は棚部15を介して接続されている。この棚部15に後述する中心電極4の鍔部16が当接するように配置され、中心電極4が軸孔2内に固定されている。先端側胴部13と脚長部14との外周面は段部17を介して接続されている。この段部17に後述する主体金具7のテーパ部18が板パッキン19を介して当接し、絶縁体3が主体金具7に対して固定されている。絶縁体3は、絶縁体3における先端方向の端部が主体金具7の先端面から突出した状態で、主体金具7に固定されている。絶縁体3は、機械的強度、熱的強度、電気的強度を有する材料で形成されることが望ましい。このような材料として、例えば、アルミナを主体とするセラミック焼結体が挙げられる。
前記絶縁体3の軸孔2内には、その先端側に中心電極4、後端側に端子金具5、中心電極4と端子金具5との間には中心電極4及び端子金具5を軸孔2内に固定すると共にこれらを電気的に接続する接続部6が設けられている。前記接続部6は、伝播雑音を低減するための抵抗体21と、該抵抗体21と中心電極4との間に設けられた第1シール体22と、該抵抗体21と端子金具5との間に設けられた第2シール体23とにより形成されている。抵抗体21は、ガラス粉末、非金属導電性粉末及び金属粉末等を含有する組成物を焼結して形成され、その抵抗値は通常100Ω以上である。第1シール体22及び第2シール体23は、ガラス粉末及び金属粉末等を含有する組成物を焼結して形成され、これらの抵抗値は通常100mΩ以下である。この実施態様における接続部6は、抵抗体21と第1シール体22と第2シール体23とにより形成されているが、抵抗体21と第1シール体22と第2シール体23の少なくとも1つにより形成されていてもよい。
前記主体金具7は、略円筒形状を有しており、絶縁体3を内装することにより絶縁体3を保持するように形成されている。主体金具7における先端方向の外周面にはネジ部24が形成されており、このネジ部24を利用して図示しない内燃機関のシリンダヘッドにスパークプラグ1が装着される。前記主体金具7は、ネジ部24の後端側にフランジ状のガスシール部25を有し、ガスシール部25の後端側にスパナやレンチ等の工具を係合させるための工具係合部26、工具係合部26の後端側に加締め部27を有する。加締め部27及び工具係合部26の内周面と絶縁体3の外周面との間に形成される環状の空間にはリング状のパッキン28,29及び滑石30が配置され、絶縁体3が主体金具7に対して固定されている。ネジ部24の内周面における先端側は、脚長部14に対して空間を有するように配置され、径方向内向きに突出する突起部32における後端側のテーパ状に拡径するテーパ部18と絶縁体3の段部17とが環状の板パッキン19を介して当接している。主体金具7は、導電性の鉄鋼材料、例えば、低炭素鋼により形成されることができる。
端子金具5は、中心電極4と接地電極8との間で火花放電を行うための電圧を外部から中心電極4に印加するための端子であり、絶縁体3の後端側からその一部が露出した状態で軸孔2内に挿入されて第2シール体23により固定されている。端子金具5は、低炭素鋼等の金属材料により形成されることができる。
前記中心電極4は、前記接続部6に接する後端部34と、前記後端部34から先端側に延びる棒状部35とを有する。後端部34は、径方向外向きに突出する鍔部16を有する。該鍔部16が絶縁体3の棚部15に当接するように配置され、軸孔2内周面と後端部34の外周面との間に第1シール体22が充填されていることで、中心電極4は、その先端が絶縁体3の先端面から突出した状態で絶縁体3の軸孔2内に固定され、主体金具7に対して絶縁保持されている。中心電極4における後端部34と棒状部35とは、Ni又はNiを主成分とするNi合金等の中心電極4に使用される公知の材料で形成されることができる。中心電極4は、Ni合金等により形成される外層と、Ni合金よりも熱伝導率の高い材料により形成され、該外層の内部の軸心部に同心に埋め込まれるように形成されてなる芯部とにより形成されてもよい。芯部を形成する材料としては、例えば、Cu、Cu合金、Ag、Ag合金、純Ni等を挙げることができる。
前記接地電極8は、例えば、略角柱形状に形成されてなり、一端部が主体金具7の先端部に接合され、途中で略L字状に屈曲され、他端部が中心電極4の先端部との間に間隙Gを介して対向するように形成されている。前記接地電極8は、Ni又はNi合金等の接地電極8に使用される公知の材料で形成されることができる。また、中心電極4と同様に接地電極の軸芯部にNi合金よりも熱伝導率の高い材料により形成される芯部が設けられていてもよい。
前記チップ9は、この実施形態においては円柱状であり、中心電極4のみに設けられている。前記チップ9は、その形状は特に限定されず、円柱状以外の形状として楕円柱状、角柱状、及び板状等の適宜の形状を採用することができる。また、前記チップ9は、接地電極8のみに設けられていてもよいし、接地電極8と中心電極4との両方に設けられていてもよい。また、接地電極8及び中心電極4に設けられたチップのうち少なくとも一方のチップが、後述する特性を有する材料により形成されたチップにより形成されていればよく、他方のチップはチップとして用いられる公知の材料で形成されてもよい。前記チップ9は、レーザ溶接及び抵抗溶接等の適宜の方法により中心電極4に接合されている。
前記間隙Gは、この実施形態においては、中心電極4に設けられたチップ9の先端面とこの先端面に対向する接地電極8の側面との間の最短距離であり、この間隙Gは、通常、0.3〜1.5mmに設定される。中心電極に設けられたチップの側面と接地電極に設けられたチップとが対向するように設けられている横放電型のスパークプラグの場合には、中心電極に設けられたチップの側面と接地電極の先端部に設けられたチップとの対向するそれぞれの対向面の間の最短距離が間隙Gとなり、この間隙Gで火花放電が生じる。
この発明の特徴部分であるチップについて、以下に詳細に説明する。
前記チップ9は、Irを主成分とし、Rhを7質量%以上31質量%以下、Ruを5質量%以上20質量%以下、及びPtをRuの含有量の20分の1以上2分の1以下含有する。前記チップ9は、Irを主成分とし、Rhを7質量%以上27質量%以下、Ruを5質量%以上17質量%以下、及びPtをRuの含有量の20分の1以上2分の1以下含有するのが好ましい。前記チップ9は、Irを主成分とし、Rhを7質量%以上24質量%以下、Ruを6質量%以上15質量%以下、及びPtをRuの含有量の20分の1以上2分の1以下含有するのがより好ましい。前記チップ9は、Irを主成分とし、Rhを7質量%以上21質量%以下、Ruを6質量%以上13質量%以下、及びPtをRuの含有量の20分の1以上2分の1以下含有するのが特に好ましい。
前記チップ9が前記組成を有すると、チップの曝された環境における酸素濃度に影響されることなく酸化消耗を抑制することができ、耐久性の良好なスパークプラグを提供することができる。
前記チップ9は、Irを主成分として含むIr合金である。ここで、主成分とはチップ9に含有される成分の中で最も含有量の多い成分のことをいう。Irの含有量は、チップ全質量に対して39質量%以上87.75質量%以下であるのが好ましい。また、IrとRhとRuとPtと必要に応じて含有される成分との合計質量が100質量%となるように適宜設定される。Irは、融点が2454℃という高融点の材料であるので、前記チップ9の耐熱性を向上させる。
前記チップ9は、Rhを前記範囲の割合で含有する。前記チップ9がRhを前記範囲の割合で含有すると、チップ9の表面からIrが酸化揮発し難くなるので、酸素濃度によらず純Irにより形成されるチップよりも耐酸化性が向上する。Rhの含有量が前記範囲内にある場合に、低酸素濃度雰囲気では、Rhの含有量が高い方が粒界のRh濃度が高くなり、Irの酸化揮発を抑える傾向にある。一方、高酸素濃度雰囲気では、Rhの含有量が低い方がチップ9の表面に針状のRh酸化物を生成し難いので、耐酸化性が向上する。Rhの含有量が7質量%未満であると、Irの酸化揮発を抑制する効果が得られず酸化消耗を抑制することができない。Rhの含有量が31質量%を超えると、相対的にIrの含有量が減る。そのため、高融点であるIrの特性が生かされず、前記チップ9の耐熱性が低下する。
前記チップ9は、Ruを前記範囲の割合で含有する。前記チップ9がRuを前記範囲の割合で含有すると、Ir及びRhのみを含有するIr合金により形成されたチップよりもさらにチップ9の表面からIrが酸化揮発し難くなり、低酸素濃度雰囲気での耐酸化性が向上する。Ruの含有量が5質量%未満であると、Irの酸化揮発を抑制する効果が得られず酸化消耗を抑制することができない。Ruの含有量が20質量%を超えると、相対的にIrの含有量が減るので、高融点であるIrの特性が生かされず、前記チップ9の耐熱性が低下する。
前記チップ9は、PtをRuの含有量の20分の1以上2分の1以下含有する。前記チップ9がPtを前記範囲の割合で含有すると、低酸素濃度雰囲気におけるチップの酸化消耗の抑制効果を維持したまま、高酸素濃度雰囲気におけるチップ9の酸化消耗性を抑制することができる。Ptの含有量がRuの含有量の20分の1未満であると、Ptを含有することによる効果が発揮されず、高酸素濃度雰囲気におけるチップの酸化消耗を抑制することができない。Ptの含有量がRuの含有量の2分の1を超えると、Ruによる低酸素濃度雰囲気におけるチップの酸化消耗の抑制効果が低下する。
この発明に係るチップが酸化消耗を抑制することができるのは、次のような理由によると考えられる。発明者らの検討によると、IrとRhとRuとを含有するIr合金からなるチップは、混合気の空燃比が12程度で燃焼室内が低酸素濃度雰囲気のときはチップの酸化消耗を十分に抑えられるが、空燃比が14程度で燃焼室内が高酸素濃度雰囲気では、チップの酸化消耗を十分に抑制することができないことがある。
高酸素濃度雰囲気に曝された、IrとRhとRuとを含有するIr合金からなるチップ9の表層には、Rhが酸化して針状のRh酸化物が形成されている。このような針状のRh酸化物は緻密な酸化物被膜と異なり、チップ9の表層の組織を粗くする。そのため、チップの内部に酸素が侵入し易くなる。その結果、Irが酸化して揮発し易くなり、チップ9の酸化消耗を抑制することができない。一方、IrとRhとRuにさらにPtを含有させたIr合金からなるチップでは、高酸素濃度雰囲気に曝されたチップ9の表層には、針状のRh酸化物が形成されず、かわりに耐酸化性に優れるRhが金属として表面に濃化する。このため、チップの内部に酸素が侵入し難くなる。その結果、Irが酸化揮発し難くなり、チップ9の酸化消耗を抑制することができる。針状のRh酸化物を形成させないようにするPtの含有量は、Ruの含有量と関係がある。すなわち、高酸素濃度雰囲気において、IrとRhとを含有するIr合金では針状のRh酸化物は形成されず、これにRuを含有させて、IrとRhとRuとを含有するIr合金にすると針状のRh酸化物が形成される。したがって、針状のRh酸化物の形成に影響を与えるRuの含有量の20分の1以上のPtを含有させることで、針状のRh酸化物の形成を抑制することができる。
低酸素濃度雰囲気では、高酸素濃度雰囲気のときと異なり、IrとRhとRuとを含有するIr合金からなるチップ9は、その表層に針状のRh酸化物が形成されておらず、チップの酸化消耗を抑制することができる。低酸素濃度雰囲気ではIrとRhとRuにPtを含有させることにより、逆にIrの拡散速度を増加させて、チップ9の酸化消耗が進み易くなる。したがって、Ptの含有量を、Irの拡散速度を低減させる作用のあるRuの含有量の2分の1以下とすることでチップの酸化消耗を抑制する効果を維持することができる。
前記チップ9は、Niを0.1質量%以上4.5質量%以下含有するのが好ましい。Irを主成分としてRhを含有するIr−Rh合金ではチップの側部が一方向から選択的に抉れるように消耗するおそれがある。前記チップ9がNiを0.1質量%以上含有すると、そのような側部消耗を抑制することができる。前記チップがNiを4.5質量%以下含有することにより、側部消耗を抑制しつつ、融点の比較的低いNiを含有することによるチップの消耗を抑制することができる。
この発明におけるチップ9は、IrとRhとRuとPtとを前述した範囲で含有していればよい。チップ9は、必要に応じてNiを含有し、5質量%より小さい含有量で、Co、Mo、Re、W、Al、Si等と不可避不純物とを含有していてもよい。これらの各成分は、前述した各成分の含有量の範囲内で各成分の合計が100質量%となるように含有される。不可避不純物としては、例えば、Cr、Si、Fe等を挙げることができる。これらの不可避不純物の含有量は少ない方が好ましいが、この発明の課題を達成することができる範囲内で含有していてもよい。不可避不純物は、前述した成分の合計質量を100質量部としたときに、前述した1種類の不可避不純物の割合は0.1質量部以下、含有される全種類の不可避不純物の合計割合は0.2質量部以下であるのがよい。
前記チップ9に含まれる各成分の含有量は、次のようにして測定することができる。すなわち、まずチップ9をその中心軸線を含む平面で切断して切断面を露出させる。このチップ9の切断面において任意の複数箇所を選択し、EPMAを利用して、WDS(Wavelength Dispersive X-ray Spectrometer)分析を行うことにより、各々の箇所の質量組成を測定する。次に、測定した複数箇所の測定値の算術平均値を算出して、この平均値をチップ9の組成とする。なお、測定箇所としては、チップ9と中心電極4とを溶接する際に形成される溶融部を除く。
前記チップ9は、チップ9を中心電極4とチップ9との接合面に平行な仮想平面に投影したときの面積Sが、0.07mm以上であるのが好ましい。前記面積Sが、0.10mm以上であるのがより好ましい。前記面積Sが、0.15mm以上であるのがさらに好ましい。前記面積Sが前記範囲内にあると、細いチップに比べて温度が上がり難くなり、チップ9の酸化消耗をより一層抑制することができる。前記面積Sは経済性等の観点から3.5mm以下であるのが好ましい。
前記面積Sは、次のように測定される。図2に示すように、チップ9が中心電極4に接合されている場合には、チップ9と中心電極4との接合面は軸線Oに直交すると推定して、軸線Oの先端方向から前記接合面に平行な断層画像を投影機で撮影し、チップ9の先端からチップ9と溶融部36との境界までの間で複数枚の断層画像を得る。得られたチップの断層画像のうちで最も面積の大きいチップ9の断層画像の面積を前記面積Sとする。
チップが接地電極4に接合されている場合であって、図3(a)に示すように、溶接前のチップと接地電極8の表面との境界面37が残っている場合には、この境界面37が前記接合面であるので、この境界面37に直交する方向すなわちチップ9における間隙Gの位置する方向から境界面37に平行なチップ9の断層画像を投影機で撮影し、前述したように前記面積Sを測定する。図3(b)に示すように、チップ9と接地電極8との溶接により形成された溶融部36が径方向に連続的に形成され、溶接前のチップと接地電極8の表面との境界面が残っていない場合には、次のように前記接合面を推定する。チップ9が接地電極8に接合されている場合には、チップ9の接合された接地電極8の表面38がチップ9の周りに残っているので、この表面38と前記接合面とは平行であると推定して、この表面38に直交する方向から表面38に平行なチップ9の断層画像を投影機で撮影し、前述したように前記面積Sを測定する。
前記スパークプラグ1は、例えば次のようにして製造される。まず、中心電極4に接合されるチップ9は、各成分の含有量が前述した範囲となる金属成分を配合し、原料粉末を用意する。これをアーク溶解してインゴットを形成し、このインゴットを熱間鍛造して、棒材とする。次に、この棒材を複数回溝ロール圧延して、必要に応じてスエージングを行い、ダイス引きにて伸線加工を施すことによって、断面円形状の棒材とする。この棒材を所定の長さに切断することによって、円柱状のチップ9を形成する。なお、チップ9の形状は円柱状に限定されず、例えば前記インゴットを四角形ダイスを用いて伸線加工を行い、角材に加工し、その角材を所定の長さに切断することによって例えば角柱状に形成することもできる。
接地電極8にチップが接合される場合には、中心電極4に接合されるチップ9と同様の方法によりチップを製造してもよいし、従来公知の方法によりチップを製造してもよい。
中心電極4及び接地電極8は、例えば、真空溶解炉を用いて、所望の組成を有する合金の溶湯を調製し、線引き加工等して、所定の形状及び所定の寸法に適宜調整される。中心電極4が、外層とこの外層の軸心部に埋め込まれるように設けられた芯部とにより形成されている場合には、中心電極4はカップ状に形成したNi合金等からなる外材に、外材より熱伝導率の高いCu合金等からなる内材を挿入し、押し出し加工等の塑性加工にて、外層の内部に芯部を有する中心電極4を形成する。接地電極8もまた中心電極4と同様に外層と芯部とにより形成されてもよい。この場合には中心電極4と同様にしてカップ状に形成した外材に内材を挿入し、押し出し加工等の塑性加工した後、略角柱状に塑性加工したものを、接地電極8にすることができる。
次いで、所定の形状に塑性加工等によって形成した主体金具7の端面に、接地電極8の一端部を電気抵抗溶接又はレーザ溶接等によって接合する。次いで、接地電極8が接合された主体金具7にZnめっき又はNiめっきを施す。Znめっき又はNiめっきの後に3価クロメート処理を行ってもよい。また、接地電極に施されためっきは剥離してもよい。
次いで、上述のように作製したチップ9を中心電極4に抵抗溶接及び/又はレーザ溶接等により溶融固着する。抵抗溶接でチップ9を中心電極4に接合する場合には、例えば、チップ9を中心電極4の所定位置に設置して押し当てながら抵抗溶接を施す。レーザ溶接でチップ9を中心電極4に接合する場合には、例えば、チップ9を中心電極4の所定位置に設置し、チップ9と中心電極4との接触面に平行な方向からチップ9と中心電極4との接触部分を部分的に又は全周に渡ってレーザビームを照射する。また、抵抗溶接をした後にレーザ溶接を施してもよい。接地電極8にチップを接合する場合には、中心電極4にチップ9を接合する方法と同様にして接合することができる。
一方、絶縁体3は、セラミック等を所定の形状に焼成することによって作製される。この絶縁体3の軸孔2内に中心電極4を挿設し、第1シール体22を形成する組成物、抵抗体21を形成する組成物、第2シール体23を形成する組成物をこの順に前記軸孔2内に予備圧縮しつつ充填する。次いで前記軸孔2内の端部から端子金具5を圧入しつつ前記組成物を圧縮加熱する。こうして前記組成物が焼結して抵抗体21、第1シール体22及び第2シール体23が形成される。次いで接地電極8が接合された主体金具7にこの中心電極4等が固定された絶縁体3を組み付ける。最後に接地電極8の先端部を中心電極4側に折り曲げて、接地電極8の一端が中心電極4の先端部と対向するようにして、スパークプラグ1が製造される。
本発明に係るスパークプラグ1は、自動車用の内燃機関例えばガソリンエンジン等の点火栓として使用される。スパークプラグ1は、内燃機関の燃焼室を区画形成するヘッド(図示せず)に設けられたネジ穴に前記ネジ部24が螺合されて、所定の位置に固定される。この発明に係るスパークプラグ1は、如何なる内燃機関にも使用することができるが、チップが曝された環境における酸素濃度に影響されることなく、優れた耐酸化性を有するので、例えば、リーンバーンエンジン等の内燃機関に特に好適である。
この発明に係るスパークプラグ1は、前述した実施例に限定されることはなく、本発明の目的を達成することができる範囲において、種々の変更が可能である。例えば、前記スパークプラグ1は、中心電極4に設けられたチップ9の先端面と接地電極8の側面とが、軸線O方向で、間隙Gを介して対向するように配置されているが、この発明において、中心電極に設けられたチップの側面と接地電極に設けられたチップの先端面とが、中心電極の半径方向で、間隙を介して対向するように配置されていてもよい。この場合に、中心電極に設けられたチップの側面に対向する接地電極は、単数が設けられても、複数が設けられてもよい。
<スパークプラグ試験体の作製>
中心電極に接合されるチップは、所定の組成を有する原料粉末を配合し、アーク溶解してインゴットを形成し、このインゴットを熱間鍛造、熱間圧延及び熱間スエージングし、さらに、伸線加工を施すことによって、断面円形状の棒材とし、この棒材を所定の長さに切断することによって、直径0.5mm、高さ0.7mmの円柱状のチップを得た。
接地電極に接合されるチップは、Ptを主成分とし、Niが第二成分となる組成を有する原料粉末を配合し、中心電極に接合されるチップと同様にして製造し、直径0.9、高さ0.4mmの円柱状のチップを得た。
得られたチップを中心電極及び接地電極にそれぞれレーザ溶接により接合し、図1に示す構造を有するスパークプラグ試験体を製造した。
<チップの組成の測定方法>
表1〜3に示される中心電極に接合されるチップの組成は、EPMA(日本電子株式会社製JXA-8500F)のWDS分析を行うことにより、質量組成を測定した。まず、チップをその中心軸線を含む平面で切断し、この切断面において前述したように複数の測定点を選択し、質量組成を測定した。次に、測定した複数の測定値の算術平均値を算出して、この平均値を中心電極用のチップの組成とした。なお、スポット径を考慮した測定領域がチップと中心電極との溶融により形成されて成る溶融部上にある場合は、その測定点の結果を除いた。
<チップの面積Sの測定方法>
表3に示されるチップの面積Sは、前述したように、チップと中心電極との接合面に直交する方向すなわちチップにおける間隙の位置する方向から前記接合面に平行なチップの断層画像を投影機で撮影し、チップの先端からチップと溶融部との境界までの間で複数枚の断層画像を得て、得られたチップの断層画像のうちで最も面積の大きいチップの断層画像の面積を前記面積Sとした。
<耐久試験方法>
製造したスパークプラグ試験体を、試験用の過給器付エンジンに取付け、混合気の空燃比(空気/燃料)は14又は12、スロットル全開で、エンジン回転数6000rpmの状態を維持し、200時間運転を行う耐久試験を行った。なお、空燃比が14のときの点火タイミングは、BTDC35°で、吸気圧は−30KPa、空燃比が12のときの点火タイミングは、BTDC30°で、吸気圧は−20KPaである。
<耐酸化性の評価>
前記耐久試験を行い、耐久試験前後の中心電極に接合されたチップの体積をCTスキャン(東芝株式会社製TOSCANER-32250μhd)で測定し、耐久試験前のチップの体積Vに対する耐久試験後のチップの体積Vの減少量[{(V−V)/V}×100]を算出し、これを消耗体積として、以下の基準にしたがって耐酸化性の評価を行った。結果を表1及び表2に示す。

空燃比が14のとき
×:消耗体積が20%以上 (0ポイント)
△:消耗体積が18%以上20%未満(1ポイント)
○:消耗体積が16%以上18%未満(3ポイント)
◎:消耗体積が14%以上16%未満(5ポイント)
☆:消耗体積が12%以上14%未満(7ポイント)
★:消耗体積が10%以上12%未満(8ポイント)
★★:消耗体積が10%未満 (9ポイント)

空燃比が12のとき
×:消耗体積が30%以上 (0ポイント)
△:消耗体積が26%以上30%未満(1ポイント)
○:消耗体積が22%以上26%未満(2ポイント)
◎:消耗体積が18%以上22%未満(3ポイント)
☆:消耗体積が15%以上18%未満(4ポイント)
★:消耗体積が12%以上15%未満(5ポイント)
★★:消耗体積が12%未満 (6ポイント)

総合判定
空燃比が14及び12のときの評価結果を上記のようにポイントで示し、これらの合計ポイントで判定した。
×:空燃比14及び空燃比12の評価結果の少なくとも一方のポイントが0ポイントのとき、又は合計ポイントが6ポイント以下のとき
△:空燃比14及び空燃比12の評価結果の合計ポイントが7ポイント以上9ポイント以下のとき
○:空燃比14及び空燃比12の評価結果の合計ポイントが10ポイント以上11ポイント以下のとき
◎:空燃比14及び空燃比12の評価結果の合計ポイントが12ポイント以上13ポイント以下のとき
☆:空燃比14及び空燃比12の評価結果の合計ポイントが14ポイント以上のとき
<側部消耗の評価>
前記耐久試験を行い、耐久試験前後の中心電極に接合されたチップの体積をCTスキャン(東芝株式会社製TOSCANER-32250μhd)で測定し、耐久試験前のチップの直径の最大値Rに対する耐久試験後のチップの直径の最小値Rの減少量[{(R−R)/R}×100]を算出し、これをチップの側部消耗量として、以下の基準にしたがって側部消耗の評価を行った。結果を表1及び表2に示す。

0:側部消耗量が10%以上
1:側部消耗量が10%未満
Figure 2015092438
Figure 2015092438
<チップの太さの違いによる耐酸化性の評価>
円柱状のチップの太さを変化させ、空燃比を12にしたこと以外は試験番号1〜54と同様にして耐酸化性の評価を行った。なお、チップを中心電極とチップとの接合面に平行な仮想平面に投影したときの面積Sを前述したように測定し、これをチップの太さの目安として表3に示した。
Figure 2015092438
表1及び表2に示されるように、この発明の範囲に含まれる組成を有するチップは、混合気の空燃比によらず、すなわちチップの曝された環境における酸素濃度に影響されることなく、酸化消耗を抑制することができた。一方、この発明の範囲外にある組成を有するチップは、少なくとも空燃比が14のときの酸化消耗体積が多く、耐酸化性に劣っていた。
表2に示されるように、Niを所定量含有するチップは、Niを含有しないチップに比べてチップの側部の消耗量が小さかった。
表3に示されるように、チップが太いほど、酸化消耗体積が小さく、耐酸化性が良好だった。
1 スパークプラグ
2 軸孔
3 絶縁体
4 中心電極
5 端子金具
6 接続部
7 主体金具
8 接地電極
9 チップ
11 後端側胴部
12 大径部
13 先端側胴部
14 脚長部
15 棚部
16 鍔部
17 段部
18 テーパ部
19 板パッキン
21 抵抗体
22 第1シール体
23 第2シール体
24 ネジ部
25 ガスシール部
26 工具係合部
27 加締め部
28,29 パッキン
30 滑石
32 突起部
34 後端部
35 棒状部
36 溶融部
37 境界面
38 表面
G 間隙

Claims (8)

  1. 中心電極と、前記中心電極との間に間隙を設けて配置された接地電極と、を備えるスパークプラグであって、
    前記中心電極と前記接地電極との少なくとも一方は前記間隙を形成するチップを有し、
    前記チップは、Irを主成分とし、Rhを7質量%以上31質量%以下、Ruを5質量%以上20質量%以下、及びPtをRuの含有量の20分の1以上2分の1以下含有することを特徴とするスパークプラグ。
  2. 前記チップにおける、Rhの含有量は7質量%以上27質量%以下、Ruの含有量は5質量%以上17質量%以下であることを特徴とする請求項1に記載のスパークプラグ。
  3. 前記チップにおける、Rhの含有量は7質量%以上24質量%以下、Ruの含有量は6質量%以上15質量%以下であることを特徴とする請求項1に記載のスパークプラグ。
  4. 前記チップにおける、Rhの含有量は7質量%以上21質量%以下、Ruの含有量は6質量%以上13質量%以下であることを特徴とする請求項1に記載のスパークプラグ。
  5. 前記チップは、さらに、Niを0.1質量%以上4.5質量%以下含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のスパークプラグ。
  6. 前記チップを、前記中心電極又は前記接地電極と前記チップとの接合面に平行な仮想平面に投影したときの面積Sが、0.07mm以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のスパークプラグ。
  7. 前記面積Sが、0.10mm以上であることを特徴とする請求項6に記載のスパークプラグ。
  8. 前記面積Sが、0.15mm以上であることを特徴とする請求項6に記載のスパークプラグ。
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