JP2015086486A - ポリフェニレンサルファイド繊維の製造方法 - Google Patents

ポリフェニレンサルファイド繊維の製造方法 Download PDF

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裕平 前田
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Hirobumi Yamanaka
博文 山中
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Yutaka Ogoshi
豊 大越
敏文 伊香賀
Toshifumi Ikaga
敏文 伊香賀
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Keisuke Ide
圭亮 井出
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Abstract

【課題】ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂由来の優れた耐熱性や耐薬品性を備え、かつ力学特性が向上されたPPS繊維を高い生産安定性、かつ高品位で製造する方法を提供する。
【解決手段】ポリフェニレンサルファイド樹脂を290℃以上、310℃以下の温度条件下で溶融吐出してなる紡糸線に、口金面から100mm以内の位置でレーザー光線を照射するポリフェニレンサルファイド繊維の製造方法であって、紡糸口金の吐出孔径D[φcm]、吐出量Q[g/s]とレーザー強度E[W/cm]の関係が下記式(数1)を満足するポリフェニレンサルファイド繊維の製造方法。
【数1】
Figure 2015086486

【選択図】なし

Description

本発明は、耐熱性や耐薬品性を備え、かつ力学特性に優れたポリフェニレンサルファイド(以下「PPS」ともいう。)繊維を製造する方法に関するものであり、上記の優れた特性を有したPPS繊維を高い生産安定性で製造するに関するものである。
産業の高度化が進む一方で、世界的な温暖化が深刻化し、環境破壊に対する関心が一般にも広がりつつある。このような背景のもと、先進国だけではなく、後進国においても排ガスの規制値が設けられるなど、その処理装置にも高度な性能が要求されるようになってきている。このため、排ガス処理装置は、以前の電気集塵機から、高度な集塵能力を発揮するバグフィルターが主流となりつつある。バグフィルターとは、ろ材として繊布または不織布を用い、これを円筒状にして工業用集じんに活用するものである。このろ材には耐熱性および耐薬品性に優れる繊維が利用されており、同時にこれに利用する繊維の開発に対する要求が高まっている。
現状、このろ材に利用される繊維には、耐熱性、耐薬品性、難燃性に優れるPPS繊維が利用されることが主流である。PPS繊維からなる繊維製品は、その特性を活かしてバグフィルターだけでなく、モーター結束紐、モーターバインダーテープ、電気絶縁材、抄紙カンバス、電池セパレーターなどの用途への展開が進められており、他の新規用途開発が進むにつれて、PPS繊維の需要量も拡大傾向にある。
このPPS樹脂からなる繊維の主な製造方法としては、生産性に優れる溶融紡糸法を採用する場合が多い。このPPS樹脂に溶融紡糸法を適用した場合の現状課題は、その特異的な繊維構造形成に起因した糸切れ発生および品位の低下にあり、製糸技術の改善による生産安定性の向上や物性の改良に関する技術提案がなされている。
特許文献1は、PPS樹脂を直接紡糸延伸法に適用する場合の樹脂粘度(流動性:メルトフローレート)、吐出条件、冷却条件、油剤および多段延伸における延伸条件を規定した技術である。特許文献1の記載によれば、PPS樹脂由来の耐熱性や耐薬品性を維持しつつ、高強度・高タフネスといった力学特性を有したPPS繊維を製造することが可能になり、該製造方法により得られたPPS繊維によって、品位に優れた基布を高い生産効率、かつ高収率で製造することが可能になる。
確かに特許文献1の技術においては、力学特性のために比較的高い分子量のPPS樹脂を使用し、この高分子量樹脂を適用した場合に課題となる吐出安定性の低下を口金の吐出孔径等を規定することにより改善している。更に、このように吐出された溶融樹脂を冷却固化し、PPS繊維としたものを毛羽等の発生を抑制しつつ高倍率延伸を行う手法として、水系油剤を適用して単繊維間の摩擦抵抗を低下させるとともに、特異な条件設定をしたローラ間で、高倍率延伸することにより、強度4.3cN/dtex、伸度22%以上の優れた力学特性を有したPPS繊維を品位高く製造することを可能としている。
しかしながら、PPS樹脂を溶融紡糸する場合の大きな課題として、その融点に応じ、紡糸温度を高く設定する必要があることにある。これによりPPS樹脂が吐出前に熱劣化したり、吐出直後に発生する揮発成分による口金汚れ等により、経時的に物性が低下したり、糸切れの発生による品位の低下が起こる場合があり、特許文献1の技術では、その解消が不十分な場合があった。
この課題を解消するために、吐出安定性を確保しながら紡糸温度を可能な限り低温化させることが有効であると考えることができ、この技術の提案としては、特許文献2や特許文献3の他成分とのブレンドによりPPS樹脂の流動性を高める技術に関する提案がある。
特許文献2では、PPS樹脂に対しポリアルキレンテレフタレート樹脂を微量添加し、溶融混練することにより、融点以上における流動性が飛躍的に向上することを見出し、この現象を利用することでPPS樹脂の融点(280℃)+30℃以下という従来にはなかった低温度でのPPS樹脂の溶融紡糸を可能としている。
特許文献2の技術においては、確かに特に揮発成分が多いフラッシュ法PPSにおいて、ポリマーの融点等の熱的特性は変化させずに、流動性のみを飛躍的に向上させることで、低温での溶融吐出を可能とし、従来の課題であった口金汚れ等を大幅に抑制できる可能性がある。しかしながら、PPS分子間にポリアルキレンテレフタレートが入り込み樹脂組成物を可塑化する効果をその流動性向上のメカニズムとしていることから、結晶性は変化しないとされるものの、その繊維構造は比較的ルーズなものとなり、力学特性の向上には限界があることに加えて、そもそもPPS繊維を使用するバグフィルターなどの用途で必要となる長時間の耐熱性および耐久性に関しては、PPS分子間に入り込んだ他成分が劣化することにより、低下する場合があった。
特許文献3の技術においては、PPS樹脂に樹状構造を有した芳香族ハイパーブランチポリマーを微量添加することにより、この樹状ポリマーによる液晶性を利用して樹脂組成物の流動性を向上し、高分子量PPS樹脂を通常紡糸温度程度(融点+40℃)で紡糸することを可能とした。
特許文献3に記載される芳香族ハイパーブランチポリマーは、そのポリマーが持つ液晶性と樹状構造による超微分散効果により、ポリマーの基本特性を損なうことなく、流動性を向上させ、低温での溶融紡糸を可能とすることができる。しかしながら、このような他成分をブレンドする技術においては、特許文献2の場合と類似し、PPS繊維構造中に他成分が混入されていることで、通常環境下での繊維特性には一切影響を与えないものの、PPS繊維が展開される非常に過酷な使用条件下においては、時間をかけて耐熱性や耐薬品性が低下していく場合があり、特に化学的な劣化を起こしやすい一般的な分子量のPPS樹脂(分子量55000以下 メルトフローレート100g/10min以上)からなる繊維には適用できない場合がある。
以上の観点から、PPS繊維として優れた特性を発揮させるためには、溶融吐出前のPPS樹脂の熱劣化を抑制しつつ溶融吐出し、更に紡糸線上の挙動を制御することにより、PPS繊維の構造を高度に形成させることが好適であると考えられる。このような観点では、溶融吐出後の樹脂に紡糸線上でレーザー光線などの非接触加熱源で加熱し、冷却固化後に巻き取るといった、いわゆるレーザー照射紡糸の適用が考えられる(特許文献4)。
特許文献4には、ポリエステル樹脂からなる繊維について、その力学特性を向上させるために、高温時の細化挙動を促進し、これによってポリエステルの構造形成に影響を与え、従来にはない優れた力学特性を有したポリエステル繊維が得られることが記載されている。
この技術においては、固有粘度0.8dl/g以上といった高分子量ポリエステルを適用し、この高温時の細化を促進させるべく、非常に強力なレーザー光線を照射させることをその技術思想としている。ここで特許文献4の技術においては、樹脂により強力なレーザー光を照射する工夫として、レーザー光を多数に分岐して1方向あたりのレーザー強度を低下させて照射することで、より均質に強力なレーザー強度で処理することを採用している。
特許文献4の技術においては、確かに高分子量樹脂を採用した効果と強力なレーザー光線で処理することによる紡糸線制御技術により、従来にはない優れた力学特性を有したポリエステル繊維を得ることに成功している。
しかしながら、ポリエステル樹脂とPPS樹脂では熱劣化や冷却挙動といった熱特性が大きく異なるものであり、同じ技術思想を用いて特許文献4の技術を単純に適用したとしても、繊維特性の高度化の達成は困難である。すなわち、そもそもポリエステル樹脂とPPS繊維では分子組成が違い、異なる吸光度を有していることから、レーザー光線の照射に伴う昇温挙動が全く異なることに加えて、PPS樹脂はポリエステル樹脂対比熱容量が50%以上高く、レーザー照射位置より下流でも樹脂が高温を維持するため、ポリエステルで期待するメカニズムをそのまま適用することにはならない。
更に、ポリエステル樹脂とPPS樹脂では、上記した冷却挙動の違いとそれに伴う熱劣化の挙動が決定的に違う。すなわち、ポリエステル樹脂では、特許文献4のようにレーザー光線により過剰に加熱した場合でも、レーザースポット直後の室温雰囲気により、速やかに樹脂は冷却され、仮に熱分解が起こったとしても、微少な分子量低下が起こるのみで良好な繊維構造が形成されることとなる。一方、PPS樹脂においては、過剰に加熱すると、比較的長い時間その温度を維持したままの状態となるため、熱劣化反応が進行し、特に雰囲気の酸素との反応による架橋構造形成により、これが糸切れや毛羽立ちといった紡糸性の悪化や耐薬品性や力学特性といった繊維特性に悪影響を与える場合があった。
以上の点から、PPS樹脂に由来する耐熱性や耐薬品性を有し、かつ力学特性に優れたPPS繊維を高い生産性で高品位に得ることが可能なPPS繊維の製造が望まれていた。
特開2001−262436号公報 特開2010−144267号公報 特開2010−196187号公報 特許第4912956号公報
本発明の課題は、PPS樹脂由来の優れた耐熱性や耐薬品性を備え、かつ力学特性が向上されたPPS繊維を高い生産安定性、かつ高品位で製造する方法を提供することにある。
上記課題は、以下の手段により達成される。
(1)ポリフェニレンサルファイド樹脂を290℃以上、310℃以下の温度条件下で溶融吐出してなる紡糸線に、口金面から100mm以内の位置でレーザー光線を照射するポリフェニレンサルファイド繊維の製造方法であって、紡糸口金の吐出孔径D[φcm]、吐出量Q[g/s]とレーザー強度E[W/cm]の関係が下記式(数1)を満足することを特徴とするポリフェニレンサルファイド繊維の製造方法。
Figure 2015086486
(2)前記レーザー光線が、20W/cm以上、1000W/cm以下のレーザー強度を有する炭酸ガスレーザー光線である、(1)のポリフェニレンサルファイド繊維の製造方法。
(3)前記紡糸線に、前記レーザー光線を2以上の方向から照射する、(1)または(2)のポリフェニレンサルファイド繊維の製造方法。
(4)100g/10min以上、300g/10min以下のメルトフローレートを示すポリフェニレンサルファイド樹脂を溶融吐出し、1000m/min以下の紡糸速度で紡糸する、(1)〜(3)のポリフェニレンサルファイド繊維の製造方法。
(5)(1)〜(4)の製造方法により得られたポリフェニレンサルファイド繊維を、一旦巻き取って、あるいは巻き取ることなくレーザー光線を照射し、延伸することを特徴とするポリフェニレンサルファイド延伸繊維の製造方法。
である。
本発明のポリフェニレンサルファイド繊維の製造方法によれば、PPS樹脂由来の優れた耐熱性や耐薬品性を備え、かつ力学特性が向上されたPPS繊維を高い生産安定性、かつ高品位で製造することが可能である。
この製造方法で得られるPPS繊維は、PPS樹脂の熱劣化に起因した架橋構造物の生成が大幅に抑制されることで、繊維構造形成時における阻害要因がなく、製糸工程中の伸長変形によってPPS分子鎖に応力が均質に付与されることにより、PPS由来の耐薬品性などの特性に加えて、高度化が困難とされていた力学特性に優れたPPS繊維となる。更に、この架橋構造物の生成が抑制された効果は、上記した力学特性の向上との相乗効果により、外乱による急激な変形等への耐性が高まり、製糸工程中の糸切れおよび毛羽の発生が抑制された高品位なPPS繊維の提供を可能とする。
また、本発明のポリフェニレンサルファイド繊維の製造方法においては、紡糸線でレーザー光線を照射することによる非接触加熱により、紡糸温度を融点+30℃以下の低温に設定できることから、PPS樹脂を溶融紡糸する際の吐出後の揮発成分の発生を大幅に抑制することができ、従来にはないPPS繊維を生産性高く製造することが可能となる。
以下、本発明の製造方法について、望ましい実施形態とともに詳述する。
本実施態様に係るPPS繊維の製造方法においては、PPS樹脂を加熱溶融して紡糸口金から吐出し、この糸条に実質的なレーザー照射時の繊維径を制御する口金吐出孔径、レーザー照射時間を制御する吐出量および昇温挙動を制御するレーザー強度の関係をPPSの特異な熱特性を考慮した範囲内に設定することが重要である。
本明細書で言うPPS樹脂とは、繰り返し単位としてp−フェニレンスルフィド単位やm−フェニレンスルフィド単位などのフェニレンスルフィド単位を有するポリマーを意味する。ここでPPSとは、p−フェニレンスルフィド単位かm−フェニレンスルフィド単位のいずれか一方からなるホモポリマーであっても良いし、両者を有する共重合体であってもよい。また、PPS樹脂には、本発明の目的を満足する限度で他の芳香族スルフィドが共重合されていても良い。但し、本発明の目的は、PPS由来の優れた耐熱性および耐薬品性を有したPPS繊維を製造することであり、組成が異なる他の樹脂等がブレンドされていないことが好適であり、実質的にPPS樹脂のみから製造することにより、長時間に渡る過酷な条件雰囲気下でも耐久性が低下しない優れた特性を発現する。
PPS樹脂は、樹脂の溶融流動性の指標であるメルトフローレート(MFR)が100g/10minから300g/10minの範囲にあることが好ましい。ここで言うMFRとは、ASTM D1238−82に準じ、測定温度316℃、荷重5kgfの条件で測定する値である。かかる範囲であれば、下記する本実施態様の溶融温度においても、溶融紡糸時の樹脂の流動性が確保されるため、高粘度樹脂を使用した際に見られる吐出変動を発生させることなく安定的な溶融吐出が可能となる。更に、このMFRは樹脂の分子量と相関があることが知られており、かかる範囲においては、繊維化した際に好適な分子量を有したPPS繊維になるため、良好な繊維特性を発現させることができる。MFRは、その用途に応じて変更すれば良いが、優れた力学特性を有したPPS繊維を製造するためには、200g/10min以下とすることがより好ましい。
上記したPPS樹脂をエクストルーダ等の溶融押出機に投入して加熱溶融した後、ギアポンプ等により規定量に計量しつつ紡糸口金が組み込まれた紡糸パックに導入し、紡糸口金に穿設した細孔から溶融吐出する。ここで、溶融(紡糸)温度を290℃から310℃に設定する必要がある。
PPS樹脂はその融点が280℃と高いため、一般には紡糸温度を320℃以上(融点+40℃)の高温として溶融紡糸する。しかしながら、この様な高温で溶融してしまうと、PPS樹脂は酸化反応により末端が架橋点となり、これが連鎖反応として進むことで不溶不融の架橋構造体が形成されることが知られている。通常の溶融紡糸機においては、窒素などにより、酸素の混入を予防するような設備になっているものの、微量な酸素の混入まで完全に防ぐことは事実上不可能なことである。また、この様な熱劣化に伴う反応は樹脂の融点と加熱温度の差が大きい程、指数関数的に進行しやすくなることが知られており、加熱温度と融点との差を10℃から30℃の範囲に設定することが重要である。かかる範囲においては、少なくとも溶融吐出前にPPS樹脂に架橋構造体が混入することが大幅に抑制される。このため、繊維構造形成の阻害要因を形成することなく、優れた力学特性を有したPPS繊維となることに加えて、製糸工程における糸切れ発生も抑制される。以上のような観点では、紡糸温度はより低温であることが好適であり、紡糸温度が290℃から300℃とすることが好ましい。かかる範囲においては、上記した架橋構造体の生成自体を抑制できることは言うまでもなく、仮に生成したとしても、そのサイズが非常に小さいものとなるため、繊維構造形成や糸切れ等に影響を与えないものとなる。更に、PPS樹脂が溶融吐出された際に発生させる揮発ガスの発生も大幅に抑制されるため、口金面等を汚すことなく、吐出安定性が確保されると共に、連続生産、作業負担の低減および生産環境の改善効果等、多くの工業的利点がある。
本明細書におけるレーザー光線とは、単色光であり、平行光線であり、コヒーレントである光線を示す。レーザー光線の種類としては、固体レーザー、半導体レーザー、ガスレーザー、液体レーザー、自由電子レーザー等から選択するものである。これ等のレーザー種の中でも、連続発振することや長時間の使用が可能なこと、大出力が得られること、比較的安価なことから、炭酸ガスレーザー(波長10.6μm)を用いることがより好ましい。レーザー光線の照射は、鏡による反射、種々のレンズ(例えばシリドリカルレンズ)を組み合わせることによる集光、光ファイバ等によりレーザー発振器を糸条から離れた場所に設置し、照射することも可能である。
本実施態様においては、この溶融吐出されたPPS樹脂からなる糸条に口金面から100mmまでの間で紡糸口金の吐出孔径D(φcm)、吐出量Q(g/s)とレーザー強度E(W/cm)の関係が下記式(数2)を満足するように吐出条件およびレーザー照射条件を設定することが重要である。
Figure 2015086486
式(数2)に記載されるパラメータは、この糸条に実質的なレーザー照射時の繊維径を制御する紡糸口金の吐出孔径D、レーザー照射時間を制御する吐出量Qおよび昇温挙動を制御するレーザー強度Eの関係から構成される。この比較的シンプルな関係を制御することは、特異な熱特性を有するPPS樹脂へのレーザー照射を考える場合には非常に重要である。
走行糸条はレーザーエネルギーで満たされた領域(レーザー領域)を通過し、そのレーザーエネルギー(レーザー強度E)とレーザー領域に存在する樹脂の質量(吐出量Q)に応じたエネルギーが供給される。このため、簡易にはQ×Eの関係が糸条全体の加熱挙動を制御することとなる。本実施態様では、装置設計等の簡便さから基本的に繊維軸方向に対して、垂直方向から走行糸条に対して、レーザー光線を照射する。したがって、実際にレーザー光線に暴露されるのは、2次元的に単繊維を繊維軸の垂直方向から見た面積に相関があり、すなわち単繊維径に相関があるため、レーザー照射位置における単繊維径を実質的に制御する吐出孔径Dもこの加熱挙動を制御するのに重要なパラメータとなる。
本発明の発明者等は、糸ゆれ等の外乱および加熱による架橋構造体を発生させることなく、特異な熱特性を有したPPS樹脂にレーザー光線を照射することについて、鋭意検討した結果、上記した総エネルギー量(Q×E)を繊維径(D)に規格化した値(式(1))が重要であることを突き止め、さらに、本発明の目的を達成するためには、式(1)が10以上500以下になる必要があることを見出すのに成功した。かかる範囲であれば、本発明の目的とするPPS由来の耐熱性や耐薬品性を有しつつも、力学特性に優れるPPS繊維を製造することが可能となる。
この条件範囲では、PPS樹脂からなる走行糸条が、レーザー領域を通過する非常に短い時間(0.01秒〜1.00秒オーダー)であっても、本発明の目的を達成するのに必要となる温度上昇を可能とし、且つ過剰な加熱による架橋構造体を生成させない(熱劣化を起こさない)という相反する現象を両立させることが可能となる。この技術思想は、ポリエステル樹脂を主体とした従来技術(特許文献4等)では取り入れられていないものであり、PPS樹脂を活用するための全く新しい思想である。このため、従来技術を適宜調整した程度では到底到達できないものであることは言うまでもない。
レーザー光線が照射された走行糸条は、レーザー光線による加熱によりレーザー照射直前と比較して概ね10℃から100℃程度昇温され、徐々に冷却されながら細化されていく。ここで、PPSの特徴的な挙動としては、ポリエステル等の他の樹脂と比較してその熱容量が高いことから、融点以上の高温を維持したまま紡糸線下流まで走行することとなる。これは、紡糸応力などの外力等による急激な変形を起こさず高速まで昇速されることを意味しており、繊維構造の均質性という観点では非常に好適なことである。また、塑性変形に対しては比較的脆い特性を持つPPSにおいて、この現象は紡糸応力の低下等の外力の影響を低下させるためにも好適なことである。以上の観点から式(1)はその値が高いほど好適ではあるが、一方で、糸ゆれや架橋構造体の形成を抑制するという観点から、式(1)が10以上200以下であることが好ましい。
ここで言うレーザー強度Eとは、溶融した樹脂が照射される位置において測定されるレーザー出力をスポット面積によって徐することによって算出されるものである。単位はW/cmであり、小数点第1位までを表すものである。本実施態様では、レーザー光線の照射は1方向(片面)から照射であっても所定の条件を満足するのであれば良いが、マルチフィラメントや繊維径が大きいモノフィラメントなどの場合には、多方面からレーザー光を照射すると、加熱挙動の均一性という観点から好ましい。このため、本実施態様におけるレーザー照射は2方向以上からの多方向からの照射が好ましく、この場合のレーザー強度Eは、レーザー光線1本当たりのレーザー強度にレーザー光線の数を掛け合わせた値で算出するものである。ちなみに、レーザー照射は、鏡による反射等によりレーザー光線を分岐し、多方向から照射することを可能とするが、装置設計の簡易性を考慮すると、最大でも10分岐程度であり、この内1本のレーザー光線をレーザーパワーメーター等でモニターすると、レーザー強度の制御という観点から好適である。
本実施態様においては、レーザー強度20W/cm以上1000W/cm以下であれば、走行糸条は連続して巻き取りが可能であり、未照射のものと比較してレーザー光線を照射した影響が現れる。但し、糸ゆれ等の外乱の影響を抑制することができる範囲としては、20W/cmから700W/cmであることが好ましい。ここで、このレーザー強度を制御するパラメータとしては、レーザー発振器により調整できるレーザー出力と光学系により制御するレーザースポットの2つがある。本実施態様では、このレーザースポットの径を0.01cmから2.00mmとするのが好ましい。レーザー光線は、一般にスポット内でガウス分布をとり、スポットの最外層と最内層でレーザー強度が大きく異なる。この観点では、スポット径は0.02cmから1.00cmとすると、内層のレーザーエネルギーが強力な部分から安定してレーザーエネルギーを走行糸条に供給できるため、より好ましい。
本実施態様においては、最終的に必要となる繊維の仕様から一義的に吐出量Qと吐出孔径Dが決定されるため、これらの値から式(1)の範囲を満足するようにレーザー強度Eを制御してレーザー光線を照射することが製造条件の決定には好適である。ここで、本実施態様においては、このレーザー光線を照射する位置を口金面から100mmまでの間に設定する必要がある。このレーザー照射の位置は、糸ゆれ等を抑制する観点から、口金面に近いことが好ましく、口金面から500mmまでの間に設置することが好ましい。なお、本明細書における口金面とは吐出された樹脂が自由表面を持って伸長変形可能となる位置を意味する。
本明細書で言う吐出量Qとは、単位時間当たりに紡糸口金の単孔から溶融吐出されるポリマーの質量を意味し、単位はg/sとして、小数点第1位までを表すものである。ここで採用される吐出量Qは、最終的な繊維の仕様に合わせて調整されるものであり、本実施態様では、5.0×10−3g/sから5.0×10−1g/sから選択されることが好ましい。かかる範囲であれば、紡糸機等から比較的短時間で吐出されることになるため、PPS樹脂が加熱状態で滞留する時間が短く、本発明の技術思想からすると好適である。さらに、レーザー照射を均質に行うという観点から、1.0×10−2g/sから1.0×10−1g/sの範囲がより好ましい。
本明細書で言う吐出孔径Dとは、ポリマーを計量性高く溶融吐出するための紡糸口金に穿設される孔の直径を意味し、単位はφcmとして、小数点第2位までを表す。紡糸口金においては、上流から下流にかけて様々は孔径を有した孔が穿設されていることが一般であるが、本明細書で言う吐出孔径とは、口金面における孔の直径のことを意味する。本実施態様においては、式(1)の関係から決定されるものであるが、吐出安定性、レーザー照射位置における加熱および糸ゆれ等の予防という観点では、吐出孔径はφ0.05cm以上φ0.50cm以下であることが好ましい。より好ましい範囲としては、φ0.10cm以上φ0.30cm以下であることが挙げることができる。かかる範囲であれば、吐出孔内におけるせん断速度が好適な範囲となるため、幅広い粘度範囲のPPS樹脂が採用することができる。また、この吐出孔における吐出孔長Lと吐出孔径Dの比(L/D)は計量性が保たれる圧力損失、吐出量およびポリマー粘度の関係から決定されるものであるが、吐出安定性を考慮すると、L/Dが0.5以上10.0以下であることが好ましい。より好ましい範囲としては、L/Dが1.0以上5.0以下であり、かかる範囲であれば、吐出孔内におけるせん断速度が好適な範囲となるため、幅広い粘度範囲のPPS樹脂を採用することができる。
紡糸口金から溶融吐出されたPPS樹脂は、式(1)の範囲を満たすようにレーザー光線を照射され、ユニフローなどの冷却装置により冷却固化した後、油剤を付与し、ローラによって引取られる。ここで引取ローラの周速により、所定の速度に規定し、未延伸繊維となる。このローラの周速、すなわち、紡糸速度は、100m/minから7000m/minに設定すると良い。かかる範囲であれば、未照射の場合と比較して、レーザー光線を照射した効果が顕著に見られる。続く延伸工程において高倍率延伸し、強度等を優れたものとするためには、紡糸速度が100m/minから1000m/minの範囲とすることが好ましい。繊維構造を高配向化し、実用に耐えうる力学特性を発現させるのは、実質的に延伸工程での伸長変形にある。このため、高倍率延伸をするためには、紡糸工程段階で繊維は低配向であり、非晶質であることが好適である。本発明者等の検討の範囲では、1000m/min未満で紡糸した未延伸繊維により、特に優れた力学特性を有した延伸繊維を採取することに成功している。よって、本実施態様では、紡糸速度が100m/minから700m/minの範囲に設定することが特に好ましい範囲として挙げることができる。
本明細書における延伸とは、一対以上延伸ローラ間で各ローラの周速比にて繊維を繊維軸方向に伸長変形させる行為を言う。この延伸工程では、可塑化を目的して未延伸繊維を加熱する必要があり、ガラス転移温度以上に加熱することが好ましい。ここで言う加熱は、PPS未延伸繊維のガラス転移温度以上に加熱されたローラ、熱板、熱ピン等の接触加熱によって行うこともできる。但し、均一延伸を行うという観点から、赤外線光束を照射というような非接触加熱を利用する方法が好ましい。なぜなら、接触式の場合には、ローラなどとの接触面と対比する面では、応力変化場合があるため、均一延伸を考えると非接触式が好適なのである。延伸ローラ間で赤外線光束を照射する場合には、輻射加熱であるために、単繊維および繊維束での加熱は極めて均質なものである。以上の観点から赤外線照射による非加熱源を利用した熱延伸が、本実施態様では好適である。ここで言う赤外線とは、波長が1〜100μmの領域にある可視光線の赤色より波長が長く、電波より波長の短い電磁波のことを意味する。この赤外線は、短時間で糸温度を上昇させることができ、局所急速加熱が可能であるため、特に変形速度の制御を行うには好適である。また、PPS繊維は赤外線等の透過率が高いという側面も持つため、単繊維および繊維束の断面で昇温が均質であり、このような点でも均一延伸に適している。
本実施態様で用いる赤外線光束照射は、具体的には、ハロゲンランプをその光源とするもの、レーザー光を光源とするものなどによって行われる。単色光であり、高エネルギーであるという点からレーザー光を利用することが好ましい。中でも、連続発振することや長時間の使用が可能なこと、大出力が得られること、比較的安価なことから、紡糸工程の場合と同様に炭酸ガスレーザー(波長10.6μm)を用いることがより好ましい。
本実施態様における延伸工程では、走行糸条にレーザー光が照射されて、変形のために必要なエネルギーが蓄積されると、延伸応力により、変形が開始される。本実施態様におけるレーザー光照射条件としては、未延伸繊維の繊度(単繊維の太さ、フィラメント数)および延伸速度等から決定することが好適であるが、一般にレーザー密度が2W/cm以上であれば、延伸を開始させることができる。一方、レーザー密度の上限は1000W/cm以下であれば、繊維構造が未発達の未延伸繊維が溶断等起こすことなく、連続生産が可能であり、好ましい。ちなみに、この延伸工程におけるレーザー照射についても、鏡による反射、種々のレンズ(例えばシリドリカルレンズ)を組み合わせることによる集光、光ファイバ等によりレーザー発振機を糸条から離れた場所に設置することも可能である。また、レーザー光は片面照射であっても良いが、マルチフィラメントや繊維径が大きいモノフィラメントなどの場合には、多方面からレーザー光を照射すると、延伸点の固定という観点で好ましいことである。以上のようにレーザー照射条件は前述した範囲から、未延伸繊維、延伸条件等を考慮して決定することが好適である。生産性向上の観点からより高速で延伸処理を行うには、予め未延伸繊維のガラス転移温度以下に予備加熱することも好ましい。
この延伸工程に引き続き、100℃以上に加熱した接触式等の加熱源にて追加して延伸熱処理を施すことにより、繊維構造内における結晶を十分成長させ、高度に配向した繊維構造を固定することが好ましい。レーザー延伸に引き続き、延伸熱処理を施した場合、光度に配向した繊維構造が固定されるため、巻き取った繊維を高温雰囲気に放置した場合でも、繊維構造の緩和が抑制される。このため、本実施態様で得られた繊維の優れた特性が、経時的に安定したものとなる。この結晶成長による繊維構造の固定を行う最適な温度条件は、PPS繊維の結晶化度、配向度により決定することが好適であるが、140℃以上とすることがより好ましい。
ちなみに、上記した延伸工程は、製造したPPS未延伸繊維を一旦巻き取り、別途延伸、熱処理工程により、最終的なPPS繊維とすることも良いし、一旦巻き取ることをせずに、紡糸工程に引き続いて延伸、熱処理工程を施すことも良い。
本実施態様の製造方法で得られたPPS繊維は、繊維巻き取りパッケージやトウ、カットファイバー、わた、ファイバーボール、コード、パイル、織編、不織布など多様な中間体として、最終用途に合わせて様々な繊維製品とすることが可能である。ここで言う繊維製品は、一般衣料から、スポーツ衣料、衣料資材、カーペット、ソファー、カーテンなどのインテリア製品、カーシートなどの車輌内装品、生活用途や研磨布、フィルター、有害物質除去製品、電池用セパレーターなどの環境・産業資材用途のことを意味する。
以下、本発明について実施例を用いて更に詳細を説明する。なお、実施例中の各物性値の測定方法は以下の通りである。
A.メルトフローレート(MFR)
ASTM D1238−82に準じ、測定温度316℃に加熱した樹脂を、荷重5kgfで加圧し、10min間で溶融吐出される樹脂の質量を測定する。このMFRをg単位で小数点第1位まで測定し、小数点以下を四捨五入した。
B.単繊維の繊度
25℃、55%RHに制御された雰囲気下で、繊維を検尺機によって100mの小かせとし、その重量を100倍することで、総繊度とした。総繊度をフィラメント数で除することにより単繊維の繊度(単位はdtex)を算出した。この単繊維の繊度を、n数を5として測定後、その単純平均の小数点第2位以下を四捨五入した。
C.繊維の力学特性(強度、伸度)
25℃ 55%RHに制御された雰囲気下で、初期試料長を200mmとし、引っ張り速度は100%mm/分とし、JIS L1013(1999年)に示される条件で荷重−伸長曲線を求めた。次に破断時の荷重値を初期の繊度で割り、それを強度とし、破断時の伸びを初期試料長で割り伸度として求めた。同様の評価をn数10として実施し、その単純平均を求めた。強度に関しては小数点第2位以下を四捨五入し、伸度に関しては小数点以下を四捨五入した。
D.繊維の沸水収縮率
沸水収縮率とは、検尺機を用いて繊維を小かせとし、かせ長を測る。引き続き、かせを98℃ 沸水で10分間処理し、風乾後、再びかせ長を測定する。処理前のかせ長と処理後のかせ長から沸水収縮率=(処理前かせ長−処理後かせ長)/処理前かせ長×100(%)として算出されるものである。沸水収縮率はn数を5として測定し、測定結果の単純平均(単位はパーセント)の小数点第2位以下を四捨五入する。
〔実施例1〕
乾燥したPPSチップ(メルトフローレート:120g/10min)がチップ水分率300ppm以下となるように真空乾燥機にて乾燥し、窒素雰囲気としてホッパーに仕込んだ。ホッパー下に設置された二軸溶融押出機(30mmφ、L/D=42)に、チップ量を計量しつつ、チップを溶融した。二軸押出混練機のスクリュー回転数は100rpmとし、二軸押出混練機の吐出側でベントを行って脱気することにより、泡を消すとともに、押出混練中に発生した水分等を排出させた。
紡糸温度(混練機および紡糸ヘッド)は295℃とし、絶対濾過径10μmの金属不織布で濾過した後、0.05g/sの吐出量Qで口金(吐出孔径D:φ0.10cm、吐出孔長/吐出孔径(L/D)=5、1hole)から溶融吐出し、炭酸ガスレーザー発振器が具備されたレーザー照射装置を用いて、紡糸口金面から10mmの位置で3方向からレーザー光線(レーザー強度E:179W/cm、レーザースポット径:0.45cm、(Q×E)/D:89.5)を照射した。レーザー光線が照射された走行糸条は、ユニフローの冷却風帯域を通過させて冷却固化し、油剤を付着して紡糸速度500m/minとしてPPS未延伸繊維を得た。
実施例1においては、口金面を観察すると、紡糸温度を低下させたために溶融吐出されたポリマーからの揮発ガスの発生はほとんどなく、口金面の汚れが起こらず安定して連続した製造が可能であった。また、サンプリング中に糸切れはなく、巻き取ったPPS未延伸繊維のドラムに毛羽は確認されなかった。得られた未延伸繊維の力学特性は強度および伸度は優れたものであり、収縮率も低く、高倍率延伸に適した優れた特性を有していた。結果を表1に示す。
Figure 2015086486
〔実施例2、3〕
1本当たりのレーザーのレーザー出力を2W(実施例2)、20W(実施例3)に変更した以外は全て実施例1に従い実施した。
実施例2では、レーザー出力を変更したことにより、レーザー強度が38W/cmとなり、(Q×E)/Dは19となる。実施例2においても、レーザー照射の効果が見られ、高倍率延伸に適した優れた力学特性を有していた。
実施例3では、レーザー強度が377W/cmとなり、(Q×E)/Dは188.5となる。実施例3においては、レーザー出力を高めたことにより、収縮率が低下し、低配向となったため、実施例1と比較して伸度が増加する結果となった。結果を表1に示す。
〔実施例4、5〕
レーザー照射を1方向とし、レーザー出力およびスポット径を表1に記載の通り変更することで、レーザー強度を段階的に変更したこと以外は、全て実施例1に従い実施した。
実施例4では、レーザー強度が180W/cmのレーザー光線を1方向からにしたにも関わらず、(Q×E)/Dは90と実施例1と同等であったため、得られた未延伸繊維の力学特性は、実施例1と同等の優れたものであった。
実施例5では、レーザー強度が849W/cmに増加させ、かつ1方向であったため、レーザー照射位置では、微量な揮発ガスの発生が確認されたものの、糸切れ等はなく、良好にサンプリングすることができた。実施例1と比較して、強度、伸度共に若干減少したものの、依然優れたものであり、高倍率延伸に適した力学特性を有したものであった。
結果を表1に示す。
〔実施例6、7〕
紡糸温度を変更し、レーザー出力を表2に記載の通り変更したこと以外は全て実施例1に従い実施した。
Figure 2015086486
実施例6では、紡糸温度を低温化させたため、吐出後の揮発性ガスの発生はほとんど確認することができず、経時的に見てもほとんど口金面が汚れることはなく、低吐出量等の紡糸水準には有効な条件であることがわかった。
実施例7では、紡糸温度を高温化させることで、微量の揮発性ガスの発生が確認されたものの、従来技術に対比して大幅に口金汚れは抑制されるため、連続した製造でも問題ないものであった。また、PPS繊維に力学特性については、高倍率延伸に適した優れたものになることがわかった。結果を表2に示す。
〔実施例8、9〕
レーザー照射位置を口金面から50mm(実施例8)、100mm(実施例9)に変更したこと以外は全て実施例1に従い、実施した。
実施例8および実施例9では、レーザー照射位置が口金面から離れることにより、力学特性が若干低下する傾向が見られるものの、依然従来技術と比較して優れた特性を有しており、問題のないレベルの高倍率延伸に適したPPS未延伸繊維が得られることがわかった。結果を表2に示す。
〔実施例10、11〕
紡糸速度を250m/min(実施例10)、1000m/min(実施例11)と変更したこと以外は全て実施例1に従い、実施した。
実施例10および実施例11では、実施例1対比紡糸速度の変更に伴う、収縮率の変化が見られ、繊維構造の配向が変化していることが示唆された。また、強度および伸度においては、紡糸速度を減少した場合には、強度が減少し、伸度が増加、紡糸速度を増加させた場合には強度が増加、伸度が低下することがわかった。結果を表2に示す。
〔比較例1〕
レーザー照射を行わず、紡糸温度を320℃としたこと以外は全て実施例1に従い実施した。
比較例1においては、紡糸温度が高いため、溶融樹脂が吐出直後に揮発性ガスを発生させ、経時的に口金面が汚れるものであった。このため、定期的に口金面を清掃しないと連続した紡糸は困難であった。また、この口金汚れによるものとは別に不定期な糸切れが発生するものであり、これは高温で樹脂を溶融滞留しことに起因した熱劣化物による影響と考えられた。力学特性においても、強度および伸度共に低下したものであった。
〔比較例2、3〕
レーザー出力およびスポット径を表3に記載の通りに変更したこと以外は全て実施例1に従い実施した。
Figure 2015086486
比較例2では、レーザー強度を減少させたため、(Q×E)/Dが10〜500の範囲を下回り、レーザー照射の効果がほぼ見られないものであった。このため、得られたPPS繊維の力学特性は実施例1と比較してが低いものとなった。
一方、比較例3では、レーザー強度が過剰に高いため、(Q×E)/Dが10〜500の範囲を上回り、レーザー照射位置では、揮発性ガスの発生が多く見られるものであった。また、レーザー照射により走行糸条が過剰に加熱されたことによって、紡糸線が変動しているものであった。このため、糸切れも多く、短時間ではあればサンプリングが可能であるものの、連続してPPS繊維の製造が可能なものではなかった。上記糸ゆれ等の外乱の影響に加え、レーザー照射により熱劣化が進行し、力学特性は実施例1と比較して大幅に低下したものであった。結果を表3に示す。
〔実施例12〜14〕
実施例1で採取したPPS未延伸繊維を利用して、表4に記載される条件で延伸を行ったところ、実施例1の未延伸繊維では、総延伸倍率が5.0倍であれば連続延伸が可能であることがわかった。この結果を踏まえ、延伸倍率4.6倍(実施例12)、4.8倍(実施例13)、5.0倍(実施例14)と延伸倍率を段階的に変更してサンプリングを行った。
得られたPPS延伸繊維の力学特性は従来にない非常に優れたものであり、本実施態様の製造方法で得られたPPS繊維が非常に優れた特性を有することがわかった。また、これらの延伸繊維は、高倍率延伸を施したにも関わらず、白化等はなく、断面を観察したところ、ボイド等の発生は確認できなかった。結果を表4に示す。
Figure 2015086486
〔実施例15、16〕
実施例3および実施例4で得られたPPS未延伸繊維を表4に記載される条件で延伸を行ったところ、実施例3の未延伸繊維では、延伸倍率5.0倍、実施例4の未延伸繊維では、延伸倍率4.8倍で安定した延伸が可能であることがわかった。
いずれの未延伸繊維を出発原料とした場合でも、PPS延伸繊維の力学特性は優れた特性を有していることがわかった。また、これらの延伸繊維は、高倍率延伸を施したにも関わらず、白化等はなく、ボイド等の発生は確認できなかった。結果を表4に示す。
〔比較例4〜6〕
比較例1で採取したPPS未延伸繊維を用い、実施例12と同じ条件で安定的に延伸が可能な最大延伸倍率を調べたところ、比較例1のPPS未延伸繊維については、この最大延伸倍率が4.4倍であり、実施例1の未延伸繊維と比較して低下した。
上記した安定して延伸が可能な最大延伸倍率から延伸倍率を段階的に低下させ、延伸倍率4.0倍(比較例4)、4.2倍(比較例5)、4.4倍(比較例6)として延伸繊維をサンプリングした。この延伸繊維の力学特性を調べたところ、実施例14と比較して大幅に低下した。また、比較例6においては、繊維が白化しており、断面を観察したところ、繊維内層にボイドが発生した。結果を表5に示す。
Figure 2015086486
〔比較例7、8〕
比較例2および比較例3の未延伸繊維を用いて、安定して延伸が可能な最大延伸倍率を調べたところ、比較例2の未延伸繊維では4.0倍、比較例3の未延伸繊維では2.6倍と実施例1の未延伸繊維と比較して、最大延伸倍率が低下した。
この結果を踏まえて、比較例2の未延伸繊維を延伸倍率4.0倍(比較例7)、比較例3の未延伸繊維を延伸倍率2.6倍(比較例8)でサンプリングした。
比較例7および比較例8の延伸繊維は、いずれも白化したものであり、繊維断面にボイドが確認された。このため、実施例14と比較して力学特性が低下していた。結果を表5に示す。
本発明に係るポリフェニレンサルファイド繊維の製造方法は、集じん用バグフィルターのほか、モーター結束紐、モーターバインダーテープ、電気絶縁材、抄紙カンバス、電池セパレーター等に用いられるPPS繊維の製造方法として好適に利用可能である。

Claims (5)

  1. ポリフェニレンサルファイド樹脂を290℃以上、310℃以下の温度条件下で溶融吐出してなる紡糸線に、口金面から100mm以内の位置でレーザー光線を照射するポリフェニレンサルファイド繊維の製造方法であって、紡糸口金の吐出孔径D[φcm]、吐出量Q[g/s]とレーザー強度E[W/cm]の関係が下記式(数1)を満足することを特徴とするポリフェニレンサルファイド繊維の製造方法。
    Figure 2015086486
  2. 前記レーザー光線が、20W/cm以上、1000W/cm以下のレーザー強度を有する炭酸ガスレーザー光線である、請求項1に記載のポリフェニレンサルファイド繊維の製造方法。
  3. 前記紡糸線に、前記レーザー光線を2以上の方向から照射する、請求項1または2に記載のポリフェニレンサルファイド繊維の製造方法。
  4. 100g/10min以上、300g/10min以下のメルトフローレートを示すポリフェニレンサルファイド樹脂を溶融吐出し、1000m/min以下の紡糸速度で紡糸する、請求項1〜3のいずれかに記載のポリフェニレンサルファイド繊維の製造方法。
  5. 請求項1〜4に記載の製造方法により得られたポリフェニレンサルファイド繊維を、一旦巻き取って、あるいは巻き取ることなくレーザー光線を照射し、延伸することを特徴とするポリフェニレンサルファイド延伸繊維の製造方法。
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