以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。図1は、本発明の実施形態である回転電機のステータ10の上面図である。また、図2は、ステータ10の要部拡大図であり、図3は、図2のB−B断面図、図4は、図1のA方向視図、図5は、中性点用バスバー20W,20U,20Vのみを取り出した図である。
図1に示す通り、ステータ10は、積層電磁鋼板や圧粉磁芯等からなるステータコア12と、三相のコイル16W,16U,16V(以下、三相を区別しない場合は添字アルファベットを省略し「コイル16」と呼ぶ。他部材において同じ。)からなるステータコイル14と、を備えている。ステータコア12は、略筒状のバックコア12aと、当該バックコア12aの内周面に周方向に等間隔に並ぶ複数のティース(図面ではコイル16により見えず)と、を備えている。各ティースには、絶縁部材(図示せず)を介して巻線が巻回されている。この絶縁部材は、ステータコイル14とステータコア12とを絶縁する。
本実施形態のステータコイル14は、平角線からなる巻線を集中巻することで構成される。平角線の表面には、隣接する平角線間の絶縁を確保するためにエナメル加工が施されている。ステータコイル14は、三相のコイル16、すなわち、W相コイル16W、U相コイル16U、V相コイル16Vを有しており、各相コイル16は、1以上(図示例では五つ)の単コイルW1〜W5、U1〜U5、V1〜V5から構成される。単コイルW1〜W5、U1〜U5、V1〜V5は、平角線からなる巻線を一つのティースに巻回することで構成される。以下では、各単コイルW1〜W5、U1〜U5、V1〜V5を、その属する相に応じて、W相単コイルW1〜W5、U相単コイルU1〜U5、V相単コイルV1〜V5と呼ぶ。
複数の単コイルは、W相単コイルW1〜W5、U相単コイルU1〜U5、V相単コイルV1〜V5の順に周方向に繰り返し並ぶようにステータコア12にセットされている。また、同相の単コイルは、単コイルの端部を延長して形成される相間接続バスバー18を介して、他のティースに巻回された同相の単コイルに結線される。相間接続バスバー18は、各相単コイルの内周側端部を延長して形成されており、他の同相の単コイルの外周側端部に結線される。
複数の同相の単コイルW1〜W5、U1〜U5、V1〜V5を連結して構成される各相コイル16の始端は、最外周に位置しており、当該始端には、入力端子22が連結されている。また、各相コイル16の末端は、最内周に位置している。この各相コイル16の末端は、延長して中性点用バスバー20W,20U,20Vを構成する。三相の中性点用バスバー20W,20,20Vは、一カ所に集められ、互いに接合され、中性点を形成する。
ここで、三相の中性点用バスバー20は、いずれも、コイル16の最内周から、コイルエンドの上側に引き出され、一カ所に集まるように成形され、接合される。しかし、中性点用バスバー20を、単純に上方(軸方向外側)に引き出しただけの場合、その形状保持性が乏しい。この場合、コイルエンドをモールド固定するために流し込まれるモールド樹脂の圧力により、中性点用バスバー20が、内周側に倒れ、モールド成形型に接触する恐れがあった。また、モールド樹脂の圧力により、中性点用バスバー20が、周方向に倒れてしまい、相間隙26が十分に確保できない場合もあった。
これについて、図9、図10を参照して説明する。図9は、従来のステータコア12の要部拡大図であり、図10は、図9のC−C断面図である。図9に示す通り、従来は、V相コイル16V、U相コイル16U、W相コイル16Wの終端に位置する、V相単コイルV5、U相単コイルU5、W相コイルW5の末端を延長して、中性点用バスバー20を形成し、これら三相の中性点用バスバー20を一カ所に集めて接合して中性点を形成していた。各単コイルW5,U5,V5の末端は、コイル16の最内周に位置しているため、三相の中性点用バスバー20は、いずれも、コイル16の最内周から引き出されることになる。
三相の中性点用バスバー20を一カ所に集める際には、図10に示すように、周方向真ん中に位置するU相の中性点用バスバー20Uを、真っ直ぐ上方(軸方向外側)に延ばしていた。また、V相中性点用バスバー20Vは、その接合される部分、すなわち、接合部がU相中性点用バスバー20Uの接合部の内周側に、W相中性点用バスバー20Wは、その接合部が、U相中性点用バスバー20Uの接合部の外周側に到達するように、周方向に屈曲成形されていた。
しかし、従来技術のように、U相中性点用バスバー20Uを、真っ直ぐ上方に延ばした場合、U相中性点用バスバー20は、比較的小さい力でも撓むため、流し込まれるモールド樹脂の圧力により、U相中性点用バスバー20Uが、内周側に倒れ、モールド成形型に接触する恐れがあった。
また、図1から明らかな通り、入力端を有するW相単コイルW1と、中性点用バスバー20Vを有するV相単コイルV5は、周方向に隣接している。この入力端を有するW相単コイルW1と、中性点用バスバー20Vを有するV相単コイルV5は、電位差が大きいため、両端コイルW1,V5間の間隙、すなわち、相間隙26(図4参照)は、十分に確保する必要がある。しかし、従来技術では、三相の中性点用バスバー20に、形状保持のための力が、特にかかっていないため、周方向に倒れることがあった。そして、結果として、相間隙26が十分に確保できないことがあった。
また、図9から明らかな通り、従来技術では、コイル16の最内周から真っ直ぐ上方に引き出したU相中性点用バスバー20Uの接合部の内周側にV相中性点用バスバー20Vの接合部を位置させている。この場合、V相中性点用バスバー20Vは、コイル16の最内周よりも内周側に飛び出すことになるため、中性点が、モールド成形型に接触するという問題もあった。
そこで、本実施形態では、中性点用バスバー20の形状保持性をより向上できる構成としている。これについて、図面を参照して詳説する。図2、図4、図5に示すように、本実施形態では、従来技術と同様に、三相の中性点用バスバー20は、径方向において、V相、W相中性点用バスバー20V,20Wの接合部が、U相中性点用バスバー20Uの接合部を挟んだ状態で接合されている。また、U相中性点用バスバー20Uは、上方に延びている。また、U相単コイルU5の周方向両側に位置するV相単コイルV5およびW相単コイルW5の末端に繋がるV相、W相中性点用バスバー20V,20Wは、その接合部がU相単コイルU5の末端に繋がるU相中性点用バスバー20Uの接合部に向かうように周方向に延びている。ただし、本実施形態において、U相中性点用バスバー20Uは、真っ直ぐ上方に延びておらず、途中で、径方向外側にシフトされている。すなわち、本実施形態では、U相単コイルU5の末端を延長したU相中性点用バスバー20Uを、その根元で径方向外側に屈曲し、少なくとも巻線一本分、径方向外側にシフトさせた後、上方(軸方向外側)に屈曲させている。その結果、U相中性点用バスバー20Uの接合部は、コイル16の最内周から、少なくとも巻線一本分は径方向外側にシフトすることになる。
V相中性点用バスバー20Vの接合部は、U相中性点用バスバー20Uの接合部の径方向内側に接合されるが、本実施形態では、U相中性点用バスバー20Uの接合部が、巻線一本分は径方向外側にシフトしているため、V相中性点用バスバー20Vの接合部は、コイル16の最内周より内側に飛び出さない。結果として、中性点が、モールド成形型に接触することが効果的に防止される。
また、U相中性点用バスバー20Uを、その根元で径方向外側に屈曲させることにより、U相中性点用バスバー20Uのうち、上方に真っ直ぐ延びる直線部分の距離が、U相中性点用バスバー20Uを屈曲させない従来技術に比べて短くなる。その結果、同じ圧力を受けても、直線部分の短い本実施形態のほうが、中性点用バスバー20Uが撓みにくく、結果として、中性点の径方向内側への倒れが効果的に防止される。
なお、U相中性点用バスバー20Uの径方向外側へのシフト量は、特に限定されないが、シフト量が過大だと、コイルエンドとの干渉を避けるために、中性点用バスバー20の接合部の高さが高くなったり、中性点用バスバー20の長さが長くなり、線間抵抗が大きくなったりするため、シフト量は、コイルエンド高さや線間抵抗を考慮して決定することが望ましい。
さらに、本実施形態では、V相、W相の中性点用バスバー20V,20Wを、その接合部が、U相中性点用バスバー20Uの接合部より、V相、W相の中性点用バスバー20V,20Wの引き出し元である基端側に位置するように成形したうえで、V相、W相中性点用バスバー20V,20Wの接合部が、U相中性点用バスバー20Uの接合部に到達するように弾性変形させた状態で三つの接合部を接合している。これについて、図5、図6を参照して説明する。図5は、三相の中性点用バスバー20を取り出した図である。この図5において、破線は、中性点用バスバー20を、曲げ成形した後、互いに接合する前の段階におけるV相、W相中性点用バスバー20V,Wの形状を示している。また、図6は、曲げ成形後、かつ、接合前の段階におけるV相、U相、W相中性点用バスバー20の接合部の位置関係を示している。
中性点用バスバー20は、接合前の段階で、曲げ成形により所望の形状に成形される。本実施形態では、図5、図6に示すように、この曲げ成形後、かつ、接合前の段階において、V相中性点用バスバー20Vを、その接合部が、U相中性点用バスバー20Uの接合部に対して、周方向V相側(V相中性点用バスバー20Vの基端側)および径方向内側に離れた位置になるように成形している。同様に、W相中性点用バスバー20Wについても、曲げ成形後、かつ、接合前の段階において、その接合部が、U相中性点用バスバー20Uの接合部に対して、周方向W相側(W相中性点用バスバー20Wの基端側)および径方向外側に離れた位置になるように成形している。換言すれば、本実施形態では、V相、W相中性点用バスバー20V,20Wを、いずれも、接合前の段階では、その接合部が、U相中性点用バスバー20Uの接合部に到達しないような形状に成形している。
U相中性点用バスバー20Uの接合部とV相中性点用バスバー20Vの接合部との距離L1,H1および位相角度θは、巻線間や、コイル16と絶縁部材との間の間隙量、接合(溶接)部の残留応力等を考慮したうえで、接合時の矯正によって、中性点用バスバー20Vが塑性変形しないレベルで決定される。
本実施形態では、かかるV相中性点用バスバー20Vを、U相中性点用バスバー20Uの方向に引っ張って矯正し、弾性変形させた状態で、V相中性点用バスバー20Vの接合部とU相中性点用バスバー20Uの接合部を、互いに接合する。この場合、U相中性点用バスバー20Uの接合部(ひいてはU相中性点用バスバー20U全体)には、弾性復元力に起因する反作用力が生じる。この反作用力は、矯正前のV相中性点用バスバー20Vの接合部の方向、すなわち、周方向V相側、かつ、径方向内側の方向に作用する。その結果、U相中性点用バスバー20Uの接合部とV相中性点用バスバー20Vの接合部だけを接合した状態では、U相中性点用バスバー20Uは、反作用力により、V相コイル16側および径方向内側に倒れやすくなる。
しかし、本実施形態では、このU相中性点用バスバー20Uの接合部に、さらに、W相中性点用バスバー20Wの接合部を接合している。U相中性点用バスバー20Uの接合部とW相中性点用バスバー20Wの接合部との距離L2,H2および位相角度θは、巻線間や、コイル16と絶縁部材との間の間隙量、接合(溶接)部の残留応力等を考慮したうえで、接合時の矯正によって、中性点用バスバー20Wが塑性変形しないレベルで決定される。また、塑性変形しないことに加えて、さらに、U相中性点用バスバー20Uの接合部とW相中性点用バスバー20Wの接合部との距離L2,H2および位相角度θは、W相中性点用バスバー20Wの接合部との接合によりU相中性点用バスバー20Uの接合部に生じる反作用力が、V相中性点用バスバー20Vの接合部との接合によりU相中性点用バスバー20Uの接合部に生じる反作用力と拮抗するように設定されている。
そして、W相中性点用バスバー20Wを矯正して、このW相中性点用バスバー20Wの接合部を、U相中性点用バスバー20Uの接合部に接合すると、U相中性点用バスバー20Uの接合部には、周方向V相側かつ径方向内側方向の反作用力と、周方向W相側かつ径方向外側方向の反作用力の両方が作用することになる。このようにU相中性点用バスバー20Uの接合部に、互いに逆向きでほぼ同じ大きさの力が作用することで、U相中性点用バスバー20Uの接合部の位置が安定し、U相中性点用バスバー20Uが、径方向や周方向に倒れることが効果的に防止できる。その結果、中性点のモールド成形型への接触が効果的に防止され、また、十分な相間隙26がより確実に確保できる。
以上説明した通り、本実施形態によれば、U相中性点用バスバー20Uを径方向外側にシフトさせることにより、中性点用バスバー20の形状保持性が向上し、中性点がコイル16最内周より内周側に突出することが効果的に防止される。また、本実施形態では、V相、W相中性点用バスバー20V,20Wを、その接合部がU相中性点用バスバー20Uの接合部よりV相、W相の中性点用バスバー20V,20Wの基端側に位置するように成形し、V相、W相中性点用バスバー20V,20Wの接合部がU相中性点用バスバー20Uの接合部に到達するように、V相、W相中性点用バスバー20V,20Wを矯正して弾性変形させた状態で、三相の接合部を接合している。これにより、中性点用バスバー20の形状保持性がより向上し、中性点用バスバー20の、径方向内側および周方向への倒れがより効果的に防止される。
なお、これまで説明した構成は、いずれも一例であり、互いに接合される三相の中性点用バスバー20のうち、少なくとも一相の中性点用バスバー20を径方向外側にシフトさせるのであれば、他の構成であってもよい。例えば、本実施形態では、周方向真ん中に位置する単コイルに繋がる中性点用バスバー20に向かうように残りの中性点用バスバー20を径方向に延出している。しかし、図7に示すように、相コイル16の末端となる三相の単コイルW5,U5,V5のうち、周方向端に位置する単コイルV5に繋がる中性点用バスバー20Vを径方向外側にシフトさせ、残りの二相の単コイルU5,W5に繋がる中性点用バスバー20U,20Wを周方向に屈曲させてもよい。この場合であっても、上方に延びる中性点用バスバー20Vの直線部分の距離が短くなるため、中性点用バスバー20の径方向内側への倒れを効果的に防止できる。
また、上述の説明では、三相の中性点用バスバー20を一か所に集めて接合しているが、最終的に三相の中性点用バスバー20が結線されるのであれば、必ずしも一か所で接合されなくてもよい。例えば、図8に示すように、径方向外側にシフトさせた後に上方に延ばした二つの相の中性点用バスバー20U,20Vを、周方向に延ばした残りの中性点用バスバー20Wの中間および先端にそれぞれ接合するようにしてもよい。この場合であっても、上方に延ばす中性点用バスバー20U,20Vを途中で径方向外側にシフトさせることで、中性点用バスバー20の径方向内側への倒れを効果的に防止できる。