JP2015071700A - 水性顔料分散液及びそれを含有する水性インク組成物 - Google Patents

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Abstract

【課題】優れた金属光沢性を有すると共に、水分散性がとりわけ良好な水性顔料分散液及びそれを含有する水性インク組成物を提供する。【解決手段】本発明に係る水性顔料分散液は、水と卑金属顔料とを含む水性顔料分散液であって、前記卑金属顔料は、フッ素系化合物によって表面処理されたものであり、前記卑金属顔料表面のXPS(X−ray Photoelectoron Spectroscopy)分析を行った際に、フッ素元素の濃度が21〜35atm%であることを特徴とする。【選択図】なし

Description

本発明は、水性顔料分散液及びそれを含有する水性インク組成物に関する。
従来、印刷物上に金属光沢を有する塗膜を形成する手法として、真鍮、アルミニウム微粒子等から作製された金粉、銀粉を顔料に用いた印刷インキや金属箔を用いた箔押し印刷、金属箔を用いた熱転写方式等が用いられてきた。しかしながら、これらの方法では、微細なパターンを形成することや、曲面部への適用が困難であるといった問題があった。また、箔押し印刷では、オンデマンド性が低く、多品種生産への対応が困難であり、グラデーションのある金属調の印刷ができないという問題があった。
一方、金属顔料を含有する粉体塗料は、有機溶剤を使用しない低公害型塗料であるため、様々な産業において需要が増加しつつある。しかしながら、金属顔料を含有する粉体塗料の場合には、金属顔料を塗膜の基材に対して平行に配列させることができないと、塗膜の色調が暗くなり、十分なメタリック感が得られないという欠点があった。このような欠点を克服するため、例えば特許文献1及び特許文献2には、アルミニウム粒子の表面をフッ素(メタ)アクリル酸エステルを必須モノマーとするフッ素系(共)重合体で被覆してなる塗料用粉体が開示されている。また、特許文献3には、アルミニウム粒子の表面をフッ素系重合性モノマーとリン酸基を有する重合性モノマーとを必須モノマーとするフッ素系共重合体で被覆してなる塗料用粉体が開示されている。
近年、印刷におけるインクジェットへの応用例が数多く見受けられ、その中の一つの応用例としてメタリック印刷があり、金属光沢を有するインクの開発が進められている。インクジェット法では、微細なパターンの形成や曲面部への記録にも好適に適用できるという点で優れている。例えば、特許文献4及び特許文献5には、金属粒子及び重合性化合物を含む紫外線硬化型インクジェット用組成物が開示されている。
その一方で、地球環境面及び人体への安全面等の観点から、有機溶媒や重合性化合物を含有しない、金属光沢画像を形成し得る水性インク組成物の開発が望まれているという実態があった。
特開2003−213157号公報 特開2006−169393号公報 特開2009−215411号公報 特開2012−251070号公報 特開2013−122008号公報
しかしながら、卑金属顔料、特にアルミニウム顔料は、水中に分散させると、水との反応により水素ガスを発生すると共にアルミナを形成して白色化する。これにより、アルミニウム顔料は、金属光沢性が損なわれてしまう。例えば特許文献1〜3に開示されているようなフッ素系(共)重合体で被覆してなるアルミニウム顔料は、耐水性向上を目的としたものではないが、これを水性インク組成物に配合した場合には、耐水性及びアルミニウム顔料同士の凝集を抑制するという観点では未だ不十分であった。また、特許文献4〜5
に開示されている金属粒子についても、耐水性向上を目的としたものではなく、耐水性及び金属粒子同士の凝集を抑制するという観点では未だ不十分であった。このような観点から、水性塗料や水性インク組成物に配合されたときの金属光沢性が良好であるだけでなく、水性塗料や水性インク組成物中での分散安定性(以下「水分散性」という。)にも優れた水性顔料分散液が要求されている。
本発明に係る幾つかの態様は、上記課題を解決することで、優れた金属光沢性を有すると共に、水分散性がとりわけ良好な水性顔料分散液及びそれを含有する水性インク組成物を提供するものである。
本発明は上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の態様又は適用例として実現することができる。
[適用例1]
本発明に係る水性顔料分散液の一態様は、
水と卑金属顔料とを含む顔料分散液であって、
前記卑金属顔料は、フッ素系化合物によって表面処理されたものであり、
前記卑金属顔料表面のXPS(X−ray Photoelectoron Spectroscopy)分析を行った際に、フッ素元素の濃度が21〜35atm%であることを特徴とする。
適用例1の水性顔料分散液によれば、卑金属顔料の表面に高濃度のフッ素元素を有する層が形成されているため、耐水性が格段に向上して、卑金属顔料と水との反応を抑制することができる。これにより、金属光沢性及び水分散性に非常に優れた水性顔料分散液とすることができる。
[適用例2]
適用例1の水性顔料分散液において、
前記卑金属顔料表面のXPS分析を行った際に、リン、硫黄または窒素、若しくはこれらの元素の総和の濃度が、0.8atm%以上であることができる。
[適用例3]
適用例1または適用例2の水性顔料分散液において、
前記フッ素系化合物が、パーフルオロアルキル基を有することができる。
[適用例4]
適用例3の水性顔料分散液において、
前記パーフルオロアルキル基の炭素数が1〜6であることができる。
[適用例5]
適用例1ないし適用例4のいずれか一例の水性顔料分散液において、
前記卑金属顔料表面のXPS分析を行った際に、フッ素元素の濃度([F];atm%)と酸素元素の濃度([O];atm%)との比([F]/[O])が、0.7〜1.2であることができる。
[適用例6]
適用例1ないし適用例5のいずれか一例の水性顔料分散液において、
前記卑金属顔料に含まれる卑金属が、アルミニウムまたはアルミニウム合金であることができる。
[適用例7]
適用例6の水性顔料分散液において、
前記卑金属顔料表面のXPS分析を行った際に、フッ素元素の濃度([F];atm%)とアルミニウム元素の濃度([Al];atm%)との比([F]/[Al])が、0.7〜1.2であることができる。
[適用例8]
適用例1ないし適用例7のいずれか一例の水性顔料分散液において、
前記フッ素系化合物の分子量が1000以下であることができる。
[適用例9]
本発明に係る水性インク組成物の一態様は、
適用例1ないし適用例8のいずれか一例の水性顔料分散液を含有することを特徴とする。
[適用例10]
適用例9の水性インク組成物において、
重合性化合物を実質的に含有しないことができる。
以下に本発明の好適な実施の形態について説明する。以下に説明する実施の形態は、本発明の一例を説明するものである。また、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形例も含む。
以下、水性顔料分散液、水性インク組成物の順に説明する。
1.水性顔料分散液
本実施の形態に係る水性顔料分散液は、水と卑金属顔料とを含む水性顔料分散液であって、前記卑金属顔料は、フッ素系化合物によって表面処理されたものであり、前記卑金属顔料表面のXPS(X−ray Photoelectoron Spectroscopy)分析を行った際に、フッ素元素の濃度が21〜35atm%であることを特徴とする。
本発明における「卑金属」とは、イオン化傾向が水素よりも大きい金属であればよく、例えばアルカリ金属、アルカリ土類金属、アルミニウム、鉄、亜鉛、鉛、銅、ニッケル、コバルト、クロム等の金属の単体の他、これらの合金も含まれる概念である。
本実施の形態に係る水性顔料分散液に含まれる卑金属顔料は、卑金属を含む材料で構成された顔料粒子(以下、表面処理される前の卑金属を含む材料で構成された顔料粒子を「母粒子」ともいう。)がフッ素系化合物によって表面処理されたものである。すなわち、本実施の形態に係る水性顔料分散液に含まれる卑金属顔料は、卑金属を含む材料で構成された顔料粒子(母粒子)の表面が、フッ素系化合物を含有する単層もしくは複数層で被覆された構造を有している。
1.1.母粒子
まず、卑金属を含む材料で構成された顔料粒子(母粒子)について説明する。母粒子は、少なくとも表面付近を含む領域が卑金属で構成されたものであればよく、全体が卑金属で構成されたものであってもよい。また、母粒子は、非金属材料で構成された基部と、該基部を被覆する卑金属で構成された被膜と、を有するものであってもよい。
母粒子を構成する卑金属としては、上述の卑金属の定義に当て嵌まるものであれば特に制限されないが、金属光沢性を確保する観点及びコストの観点から、アルミニウム又はアルミニウム合金であることが好ましい。アルミニウム又はアルミニウム合金は、水中に分散させると、水との反応により水素ガスを発生すると共に、水酸化アルミニウムもしくはアルミナを形成して白色化する。この反応により、アルミニウム又はアルミニウム合金は、金属光沢性が損なわれてしまうという問題があった。これに対して、本発明では、フッ素系化合物を含有する単層もしくは複数層で被覆された卑金属顔料を用いることで、卑金属顔料の耐水性が格段に向上するため、上記のような問題の発生を防止することができる。
また、母粒子は、いかなる方法で製造されたものであってもよいが、例えばシート状基材の一方の面に蒸着法を用いて卑金属で形成された膜を形成し、その後シート状基材から卑金属で形成された膜を剥離及び粉砕することにより得られたものであることが好ましい。前記蒸着法に代えて、イオンプレーティング又はスパッタリング法を用いてもよい。この方法によれば、膜厚のバラツキが少なく、且つ表面の平坦性が高い鱗片状の母粒子が得られるため、母粒子が本来有する金属光沢性等をより効果的に発現させることができる。
シート状基材としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート等のプラスチックフィルムを用いることができる。また、シート状基材の成膜面には、あらかじめ剥離性を良くするためにシリコーンオイル等の離型剤を塗布しておいてもよく、剥離用樹脂層を形成しておいてもよい。剥離用樹脂層に用いられる樹脂としては、例えばポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリエチレングリコール、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、セルロースアセテートブチレート等のセルロース誘導体、変性ナイロン樹脂等が挙げられる。前記剥離及び粉砕は、例えば、非水系媒体中において前記膜に超音波を照射したり、ホモジナイザー等で撹拌して外力を加えることにより行われる。
上記のような方法で、剥離及び粉砕を行う場合の非水系媒体としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類;n−ヘプタン、n−オクタン、デカン、ドデカン、テトラデカン、トルエン、キシレン、シメン、デュレン、インデン、ジペンテン、テトラヒドロナフタレン、デカヒドロナフタレン、シクロヘキシルベンゼン等の炭化水素系化合物;エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールn−ブチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、1,2−ジメトキシエタン、ビス(2−メトキシエチル)エーテル、p−ジオキサン等のエーテル系化合物;プロピレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、シクロヘキサノン、アセトニトリル等の極性有機溶媒を好適に用いることができる。このような非水系媒体を用いることにより、母粒子の不本意な酸化等を防止しつつ、各粒子間での大きさ、形状、特性のばらつきを小さくすることができる。
なお、母粒子の好ましい平均粒子径及び平均厚みは、後述する卑金属顔料の平均粒子径及び平均厚みとほぼ同様であるため、ここでの説明は省略する。
1.2.フッ素系化合物
次に、母粒子の表面処理に用いられるフッ素系化合物について説明する。上述したように、本実施の形態に係る水性顔料分散液に含まれる卑金属顔料は、上記母粒子がフッ素系
化合物によって表面処理されたものである。このようなフッ素系化合物としては、フッ素系ホスホン酸、フッ素系カルボン酸、フッ素系スルホン酸、及びこれらの塩等を好ましく用いることができる。これらのフッ素系化合物であれば、リン酸基、カルボキシ基、スルホン酸基等が、母粒子の表面に結合することにより被膜を形成することができるので、耐水性を向上させた卑金属顔料が得られる。これにより、卑金属顔料が水系媒体中における水と反応することを効果的に抑制でき、また水分散性にも優れた水性顔料分散液が得られる。これらの中でも、リン酸基が母粒子表面への結合能力に特に優れていることから、フッ素系ホスホン酸及びその塩がより好ましい。
フッ素系ホスホン酸及びその塩としては、下記一般式(1)で表される構造を有するものであることが好ましい。
Figure 2015071700
上記式(1)中、Rはそれぞれ独立に下記構造式の中から選択される1種の基であり、Mはそれぞれ独立に水素原子、1価の金属イオン、アンモニウムイオン又は−NRである。R、R、Rは、それぞれ水素原子又はCOH基であるが、R、R、Rがともに水素原子である場合は除く。nは1以上3以下の整数であり、mは1以上12以下の整数であり、lは1以上12以下の整数である。
Figure 2015071700
上記式(1)中、mは1以上12以下の整数であるが、1以上8以下の整数であることがより好ましく、1以上5以下の整数であることが好ましい。また、lは1以上12以下の整数であるが、1以上10以下の整数であることが好ましく、1以上6以下の整数であることがより好ましい。m及びlが上記好ましい範囲にあると、上述したような効果がより顕著に発揮される。
上記フッ素系ホスホン酸としては、母粒子表面への吸着能と耐水性向上とのバランスに優れている観点から、下記一般式(2)で表される化合物であることが特に好ましい。
Figure 2015071700
上記式(2)中、mは1以上12以下の整数であるが、1以上8以下の整数であることがより好ましく、1以上5以下の整数であることが好ましい。また、lは1以上12以下の整数であるが、1以上10以下の整数であることが好ましく、1以上6以下の整数であ
ることがより好ましい。m及びlが上記好ましい範囲にあると、上述したような効果がより顕著に発揮される。
フッ素系カルボン酸及びその塩としては、下記一般式(3)で表される構造を有するものであることが好ましい。
Figure 2015071700
上記式(3)中、Rは下記構造式の中から選択される1種の基であり、Mは水素原子、1価の金属イオン又はアンモニウムイオンである。mは1以上12以下の整数であるが、1以上8以下の整数であることがより好ましく、1以上5以下の整数であることが好ましい。また、lは1以上12以下の整数であるが、1以上10以下の整数であることが好ましく、1以上6以下の整数であることがより好ましい。
Figure 2015071700
フッ素系スルホン酸及びその塩としては、下記一般式(4)で表される構造を有するものであることが好ましい。
Figure 2015071700
上記式(4)中、Rは下記構造式の中から選択される1種の基であり、Mは水素原子、1価の金属イオン又はアンモニウムイオンである。mは5以上17以下の整数であり、lは1以上12以下の整数である。
Figure 2015071700
また、フッ素系化合物は、その構造の少なくとも一部にパーフルオロアルキル基(C2n+1−)を有するものであることが好ましく、該パーフルオロアルキル基の炭素数が1〜6であることがより好ましい。フッ素系化合物がこのような構造を有することによ
り、耐水性が向上し、金属光沢性及び水分散性に優れた卑金属顔料が得られやすい。
なお、フッ素系化合物の分子量は、1000以下であることが好ましい。母粒子の表面に吸着させるフッ素系化合物が、例えば特開2003−213157号公報、特開2006−169393号公報、特開2009−215411号公報等に記載されているフッ素系重合体である場合、被膜が厚くなりすぎて金属光沢性が損なわれるだけでなく、被膜が形成された卑金属顔料同士のインタラクションが強くなるため、水分散性が著しく低下する場合がある。そのため、母粒子の表面に形成される膜は、分子量1000以下のフッ素系化合物により形成された単分子膜とすることが好ましい。
1.1.3.水性顔料分散液の製造方法
本実施の形態に係る水性顔料分散液は、例えば以下のようにして製造することができる。
まず、上述した母粒子を非水系媒体中に分散させた分散液を準備する。この分散液を必要に応じて同種又は異種の非水系媒体で希釈した後、母粒子の平均粒子径が3μm以下となるようにホモジナイザー等の攪拌機で撹拌して母粒子を粉砕処理する。粉砕処理の時間は、特に制限されないが、通常3〜24時間である。また、希釈に用いられる非水系媒体としては、上記で例示した剥離及び粉砕を行う場合の非水系媒体と同様の非水系媒体が挙げられる。
次いで、粉砕処理済みの母粒子が非水系媒体中に分散された分散液にフッ素系化合物を添加して、超音波を照射することにより母粒子の表面にフッ素系化合物の被膜を形成させる。このようにして、母粒子の表面がフッ素系化合物により処理された卑金属顔料が得られる。フッ素系化合物の添加量は、母粒子100質量部に対して1〜70質量部、好ましくは5〜40質量部、より好ましくは15〜30質量部である。また、超音波照射して表面処理する際には加熱してもよい。加熱温度としては、40℃以上であることが好ましい。加熱処理することで、母粒子の表面とフッ素系化合物とが共有結合を形成し、結合力が強化されると考えられる。
母粒子のフッ素系化合物による表面処理は、母粒子の表面に直接処理するものであってもよいが、あらかじめ酸又は塩基を処理させた母粒子に対してフッ素系化合物による処理を行ってもよい。これにより、母粒子表面に、フッ素系化合物による化学的な修飾をより確実に行うことができ、上述したような本発明による効果をより効果的に発揮させることができる。また、フッ素系化合物による表面処理を行う前に母粒子となるべき粒子の表面に酸化被膜が形成されている場合であっても、該酸化被膜を除去することができ、酸化被膜が除去された状態でフッ素系化合物による表面処理を行うことができるため、製造される卑金属顔料の金属光沢性を優れたものとすることができる。このような酸としては、例えば、塩酸、硫酸、リン酸、硝酸、ホウ酸、酢酸、炭酸、蟻酸、安息香酸、亜塩素酸、次亜塩素酸、亜硫酸、次亜硫酸、亜硝酸、次亜硝酸、亜リン酸、次亜リン酸等のプロトン酸を用いることができる。一方、塩基としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等を用いることができる。
次いで、溶媒置換を行う。具体的には、卑金属顔料が非水系媒体中に分散された分散液を遠心分離して上澄み液を除去し、そこに水系媒体を適量加えて、超音波照射することにより水系媒体中に卑金属顔料を分散させる。このようにして、卑金属顔料が分散された水性顔料分散液が得られる。また、このようにして得られた水性顔料分散液をさらに加熱処理することも好ましい。母粒子の表面にイオン結合していたフッ素系化合物は、加熱することにより脱水して共有結合を形成するものと推定され、母粒子とフッ素系化合物とがより強固に結合することができ、上述したような本発明による効果をより効果的に発揮させ
ることができる。加熱温度としては、好ましくは50℃以上、より好ましくは60℃以上である。加熱処理時間は、1日〜10日であることが好ましい。
上記水系媒体は、水を主成分とする媒体であればよく、有機溶媒、界面活性剤、第三級アミン、pH調整剤等をさらに添加してもよい。水系媒体中の水の含有割合は、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上、特に好ましくは45質量%以上である。
水系媒体に添加し得る有機溶媒としては、水との相溶性の観点から、極性有機溶媒であることが好ましい。このような極性有機溶媒としては、例えば、アルコール類(メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコール、イソプロピルアルコール、フッ化アルコール等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等)、カルボン酸エステル類(酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル等)、エーテル類(ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等)、多価アルコール類(エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、1,2,6−ヘキサントリオール、チオグリコール、ヘキシレングリコール、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン等)、グリコールエーテル系溶媒(トリエチレングリコールモノブチルエーテルなどのアルキレングリコールモノエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテルなどのアルキレングリコールジエーテル等)等が挙げられる。水系媒体中の有機溶剤の含有割合は、好ましくは60質量%以下、より好ましくは45〜55質量%以下である。有機溶媒の含有割合が上記範囲内であると、卑金属顔料の耐水性が向上するとともに、金属光沢性が良好となる場合がある。
水系媒体に添加し得る界面活性剤としては、フッ素系界面活性剤及び/又はシリコン系界面活性剤であることが好ましい。水系媒体中の界面活性剤の含有割合は、好ましくは3質量%以下、より好ましくは0.01〜2質量%以下、特に好ましくは0.1〜1質量%以下である。界面活性剤の含有割合が上記範囲内であると、卑金属顔料の耐水性がより向上する傾向がある。また、金属光沢画像を記録した際にスリップ剤としての機能が発現し、画像の耐擦性が向上する効果が得られる場合がある。
フッ素系界面活性剤としては、例えば、メガファックF−430、メガファックF−444、メガファックF−472SF、メガファックF−475、メガファックF−477、メガファックF−552、メガファックF−553、メガファックF−554、メガファックF−555、メガファックF−556、メガファックF−558、メガファックR−94、メガファックRS−75、メガファックRS−72−K(以上いずれも商品名、DIC株式会社製);EFTOP EF−351、EFTOP EF−352、EFTOP EF−601、EFTOP EF−801、EFTOP EF−802(以上いずれも商品名、三菱マテリアル株式会社製);フタージェント222F、フタージェント251、FTX−218(以上いずれも商品名、株式会社ネオス製);サーフロンSC−101、サーフロンKH−40(以上いずれも商品名、AGCセイミケミカル株式会社製)等が挙げられる。
シリコーン系界面活性剤としては、例えば、BYK−300、BYK−306、BYK−310、BYK−320、BYK−330、BYK−344、BYK−346、BYK−UV3500、BYK−UV3570(以上いずれも商品名、ビックケミー・ジャパン(株式会社製);KP−341、KP−358、KP−368、KF−96−50CS、KF−50−100CS(以上いずれも商品名、信越化学工業株式会社製)等が挙げられる。
水系媒体に添加し得る第三級アミンとしては、トリエタノールアミン、トリプロパノールアミン、トリブタノールアミン、N,N−ジメチル−2−アミノエタノール、N,N−ジエチル−2−アミノエタノール等のヒドロキシルアミンが挙げられる。水系媒体に第三級アミンを添加することで、立体障害効果及びpH調整作用により、卑金属顔料の水分散性が向上する場合がある。
水系媒体に添加し得るpH調整剤としては、pHを4〜10の範囲に調整できる緩衝作用を有するものであることが好ましい。pHが4〜10の範囲では、卑金属顔料(特にアルミニウム及びアルミニウム合金)のゼータ電位が負となり、卑金属顔料同士の静電反発力によって卑金属顔料の水分散性が向上する。このような緩衝作用を有するpH調整剤としては、例えば、4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)、モルホリノエタンスルホン酸(MES)、カルバモイルメチルイミノビス酢酸(ADA)、ピペラジン−1,4−ビス(2−エタンスルホン酸)(PIPES)、N−(2−アセトアミド)−2−アミノエタンスルホン酸(ACES)、コラミン塩酸、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−2−アミノエタンスルホン酸(BES)、N−トリス(ヒドロキシメチル)メチル−2−アミノエタンスルホン酸(TES)、アセトアミドグリシン、トリシン、グリシンアミド、ビシン等のグッドバッファー、リン酸緩衝液、トリス緩衝液などが挙げられる。
1.1.4.卑金属顔料の物性
1.1.4.1.XPS分析
XPS(X−ray Photoelectoron Spectroscopy)分析によれば、卑金属顔料の極表面(数nm程度)の情報を得ることができる。XPS分析は、超高真空中で試料にX線を照射し、放出される光電子を検出する分析法である。放出される光電子は、対象となる原子の内殻電子に起因するものであり、そのエネルギーは元素ごとに定まることから、エネルギー値を知ることで定性分析を行うことができる。
本実施の形態に係る水性顔料分散液に含まれる卑金属顔料は、XPS分析(試料表面への入射角が45°、検出角度が90°)を行った際に、フッ素元素の濃度が21〜35atm%であることを特徴とする。このことは、卑金属顔料の極表面(数nm程度)に、フッ素系化合物が密に存在していることを示している。卑金属顔料のフッ素元素の濃度が上記範囲にあると、耐水性が格段に向上するため、優れた金属光沢性を有すると共に、水分散性がとりわけ良好な水性顔料分散液となる。卑金属顔料のフッ素元素の濃度が上記範囲未満の場合には、耐水性が不十分となるため、卑金属顔料と水とが反応して金属光沢性が失われるとともに、水分散性も悪化する。一方、卑金属顔料のフッ素元素の濃度が上記範囲を超えるような卑金属顔料は、本発明者らの研究によっても得られるものではなく、技術的困難性を伴う。
本実施の形態に係る水性顔料分散液に含まれる卑金属顔料は、XPS分析(試料表面への入射角が45°、検出角度が90°)を行った際に、リン、硫黄または窒素、若しくはこれらの元素の総和の濃度が、0.8atm%以上であることが好ましい。このことは、卑金属顔料の極表面(数nm程度)に、フッ素系ホスホン酸、フッ素系スルホン酸、及びこれらの塩等のフッ素系化合物が吸着して密に存在していることを示している。リン、硫黄または窒素、若しくはこれらの元素の総和の濃度が0.8atm%以上である場合には、耐水性が格段に向上するため、優れた金属光沢性を有すると共に、水分散性がとりわけ良好な水性顔料分散液となる。
本実施の形態に係る水性顔料分散液に含まれる卑金属顔料は、XPS分析(試料表面への入射角が45°、検出角度が90°)を行った際に、フッ素元素の濃度([F];at
m%)と酸素元素の濃度([O];atm%)との比([F]/[O])が、0.7〜1.2であることが好ましい。酸素元素の濃度は、卑金属顔料に含まれる卑金属の水酸化物由来に依存する傾向があるため、このこともまた、卑金属顔料の極表面(数nm程度)に、フッ素系化合物が密に存在していることを示している。卑金属顔料の比([F]/[O])が上記範囲にあると、卑金属顔料表面におけるフッ素元素の濃度と酸素元素の濃度とのバランスが良好となり、耐水性が格段に向上するため、優れた金属光沢性を有すると共に、水分散性がとりわけ良好な水性顔料分散液となる。
分析にはX線光電子分光分析装置を用いることが可能で有り、市販の装置を用いることが出来る。市販の測定装置としては例えば、「複合電子分光装置」、サーモエレクトロン株式会社製が上げられる。
本実施の形態に係る水性顔料分散液に含まれる卑金属顔料は、母粒子としてアルミニウム又はアルミニウム合金を用いた場合には、XPS分析(試料表面への入射角が45°、検出角度が90°)を行った際に、フッ素元素の濃度([F];atm%)とアルミニウム元素の濃度([Al];atm%)との比([F]/[Al])が、0.7〜1.2であることが好ましい。このこともまた、卑金属顔料の極表面(数nm程度)に、フッ素系化合物が密に存在していることを示している。比([F]/[Al])が上記範囲にあると、卑金属顔料表面におけるアルミニウム元素の濃度とフッ素元素の濃度とのバランスが良好となり、耐水性が格段に向上するため、優れた金属光沢性を有すると共に、水分散性がとりわけ良好な水性顔料分散液となる。
さらに、原子の置かれている環境(化学状態)によって電子状態が変わることからピーク位置がわずかにシフトすることを利用して、化学構造解析を行うことができる。具体的には、各化学状態に相当する成分をフォークト関数(下記分離式)で近似し、ピーク分割を行うことによってそれぞれの成分の割合を算出することができる。
Figure 2015071700
(y=offset、x=中心、A=振幅、w=Gaussian width、w=Lorentzian width)
フッ素系ホスホン酸(塩)で表面処理した卑金属顔料の場合には、X線光電子分光スペクトルにおいて、フォークト関数で近似し、ピーク分割した際に、190eV以上192eV以下にピークを有する。母粒子の表面にフッ素系ホスホン酸(塩)が結合することで、P(リン)のピークが190eV以上192eV以下の間にケミカルシフトする。190eV以上192eV以下にピークが存在することで、フッ素系ホスホン酸(塩)が母粒子の表面に確実に結合していることになる。これにより、卑金属顔料に耐水性が付与されて、優れた金属光沢性を有すると共に、水分散性がとりわけ良好な水性顔料分散液となる。
また、フッ素系化合物で表面処理した卑金属顔料の場合、X線光電子分光スペクトルにおいて、291eV及び293eVにピークを有する。291eVのピークは−CF−に由来するピークであり、293eVのピークは−CFに由来するピークであることから、291eV及び293eVにピークが認められる場合には、フッ素系化合物が母粒子
の表面に結合していることがわかる。
1.1.4.2.形状
本実施の形態に係る水性顔料分散液に含まれる卑金属顔料の形状は、球状、紡錘形状、針状等、いかなる形状のものであってもよいが、鱗片状であることが好ましい。卑金属顔料の形状が鱗片状である場合、光反射性が良好となるため、金属光沢性に優れた画像を記録することができる。
本発明において、鱗片状とは、平板状、湾曲板状等のように、所定の角度から観察した際(平面視した際)の面積が、当該観察方向と直交する角度から観察した際の面積よりも大きい形状のことをいい、特に、投影面積が最大となる方向から観察した際(平面視した際)の面積S[μm]と、当該観察方向と直交する方向のうち観察した際の面積が最大となる方向から観察した際の面積S[μm]に対する比率(S/S)が、好ましくは2以上であり、より好ましくは5以上であり、特に好ましくは8以上である。この値としては、例えば、任意の10個の粒子について観察を行い、これらの粒子について算出される値の平均値を採用することができる。
1.1.4.3.平均粒子径及び平均厚み
本実施の形態に係る水性顔料分散液に含まれる卑金属顔料では、平均粒子径が0.25〜3μmであることが好ましく、0.5〜1.5μmであることがより好ましい。また、本実施の形態に係る顔料分散液に含まれる卑金属顔料では、平均厚みが1〜100nmであることが好ましく、10〜70nmであることがより好ましい。卑金属顔料の平均粒子径及び平均厚みが上記範囲にあることで、水性インク組成物に適用した場合において、塗膜の平滑性に優れ、金属光沢性に優れた画像を記録することができる。また、生産性良く顔料分散液を製造できると共に、水性インク組成物製造時における卑金属顔料の不本意な変形を防止することもできる。
この平均粒子径は、粒子像分析装置により得られる卑金属顔料の投影画像の面積から求めた円相当径の50%平均粒子径(R50)で表される。「円相当径」とは、粒子像分析装置を用いて得られる該卑金属顔料の投影画像の面積と同じ面積を持つ円と想定したときの当該円の直径である。例えば、卑金属顔料の投影画像が多角形である場合、その投影画像を円に変換して得られた当該円の直径を、その卑金属顔料の円相当径という。
卑金属顔料の投影画像の面積及び円相当径は、粒子像分析装置を用いて測定することができる。このような粒子像分析装置としては、例えば、フロー式粒子像分析装置FPIA−2100、FPIA−3000、FPIA−3000S(以上、シスメックス株式会社製)等が挙げられる。なお、円相当径の平均粒子径は、個数基準の粒子径である。また、FPIA−3000又は3000Sを用いる場合の測定方法としては、高倍率撮像ユニットを用い、HPF測定モードで測定する方法が一例として挙げられる。
なお、平均厚みとは、透過型電子顕微鏡(TEM)または走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて卑金属顔料の側面画像を撮影し、10個の卑金属顔料の厚みをそれぞれ求め、それらを平均したものである。透過型電子顕微鏡(TEM)としては、日本電子株式会社製の型式「JEM−2000EX」等が、走査型電子顕微鏡としては、株式会社日立ハイテクノロジーズ製の型式「S−4700」等がそれぞれ挙げられる。
2.水性インク組成物
本実施の形態に係る水性インク組成物は、上述の水性顔料分散液を含有することを特徴とする。本実施の形態に係る水性インク組成物は、水分散性に優れる上述の水性顔料分散液を含有するので、インクジェットプリンターに適用した場合においても卑金属顔料同士
が凝集することによるノズルの目詰まりが抑制される。これにより、インクの吐出安定性が良好となる。また、卑金属顔料の表面に結合しているフッ素系化合物中のフッ素の効果により、表面自由エネルギーを低くすることができるので、インク乾燥時に卑金属顔料がリーフィングしやすく、金属光沢性に優れた画像を記録することができる。
本発明において「水性インク組成物」とは、液状媒体として水を50質量%以上、好ましくは70質量%以上含有するインク組成物のことをいう。水は、イオン交換水、限外ろ過水、逆浸透水、蒸留水などの純水または超純水を用いることが好ましい。特に、これらの水を紫外線照射または過酸化水素添加などにより滅菌処理した水は、長期間に亘りカビやバクテリアの発生を抑制することができるので好ましい。
本実施の形態に係る水性インク組成物中の卑金属顔料の濃度は、水性インク組成物の全質量に対して、好ましくは0.1〜5.0質量%、より好ましくは0.25〜3.0質量%、特に好ましくは0.5〜2.5質量%である。
本実施の形態に係る水性インク組成物には、樹脂類、界面活性剤、アルカンジオール、多価アルコール、pH調整剤等を必要に応じて添加することができる。
樹脂類は、卑金属顔料を記録媒体上に強固に定着させる機能を有する。樹脂類としては、例えば、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、アクリロニトリル、シアノアクリレート、アクリルアミド、オレフィン、スチレン、酢酸ビニル、塩化ビニル、ビニルアルコール、ビニルエーテル、ビニルピロリドン、ビニルピリジン、ビニルカルバゾール、ビニルイミダゾール、塩化ビニリデンの単独重合体もしくは共重合体、ウレタン樹脂、フッ素樹脂、天然樹脂等が挙げられる。なお、上記の共重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体、交互共重合体、グラフト共重合体のいずれの形態でも用いることができる。
界面活性剤としては、アセチレングリコール系界面活性剤又はポリシロキサン系界面活性剤を含有することが好ましい。アセチレングリコール系界面活性剤及びポリシロキサン系界面活性剤は、記録媒体等の被記録面への濡れ性を高めてインクの浸透性を高めることができる。アセチレングリコール系界面活性剤としては、例えば、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール、2,4−ジメチル−5−ヘキシン−3−オールなどが挙げられる。また、アセチレングリコール系界面活性剤は、市販品を利用することもでき、例えば、オルフィンE1010、STG、Y(以上、日信化学工業株式会社製)、サーフィノール104、82、465、485、TG(以上、Air
Products and Chemicals Inc.製)が挙げられる。ポリシロキサン系界面活性剤としては、市販品を利用することができ、例えば、BYK−347、BYK−348(以上、ビックケミー・ジャパン株式会社製)等が挙げられる。さらに、水性インク組成物には、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、両性界面活性剤などのその他の界面活性剤を添加することもできる。
アルカンジオールは、記録媒体等の被記録面への濡れ性を高めてインクの浸透性を高めることができる。アルカンジオールとしては、1,2−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−ヘプタンジオール、1,2−オクタンジオール等の炭素数が4以上8以下の1,2−アルカンジオールであることが好ましい。これらの中でも炭素数が6以上8以下の1,2−ヘキサンジオール、1,2−ヘプタンジオール、1,2−オクタンジオールは、記録媒体への浸透性が特に高いためより好ましい。
多価アルコールは、例えば水性インク組成物をインクジェット記録装置に適用した場合に、水性インク組成物の乾燥を抑制し、インクジェット記録ヘッド部分における水性インク組成物の目詰まりを防止することができる。多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、1,2,6−ヘキサントリオール、チオグリコール、ヘキシレングリコール、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン等が挙げられる。
pH調整剤としては、例えば、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム、アンモニア、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等が挙げられる。
また、本実施の形態に係る水性インク組成物には、水溶性ロジン等の定着剤、安息香酸ナトリウム等の防黴剤・防腐剤、アロハネート類等の酸化防止剤・紫外線吸収剤、キレート剤、酸素吸収剤等の添加剤を添加することができる。これらの添加剤は、1種単独で用いることもできるし、2種以上組み合わせて用いることもできる。
なお、本実施の形態に係る水性インク組成物は、重合性化合物を実質的に含有しないことが好ましい。重合性化合物を「実質的に含有しない」とは、水性インク組成物に重合性化合物を意図的に添加しない程度の意味であり、水性インク組成物を調整する際に添加する添加剤にあらかじめ含まれているような重合性化合物は含んでも構わない。これにより、記録される画像の金属光沢性が良好になる場合がある。なお、水性インク組成物が重合性化合物を含有する場合には、組成物の安定性(保存安定性)に劣り、ゲル化による粘度上昇による吐出安定性の低下等の問題を引き起こす場合がある。
このような重合性化合物としては、ラジカル重合性化合物とカチオン重合性化合物が挙げられる。ラジカル重合性化合物としては、例えば、アリル化合物、更に好ましくはアリルエーテル化合物、エチレングリコールモノアリルエーテル、トリメチロールプロパンジアリルエーテル、トリメチロールプロパンモノアリルエーテル、グリセリンモノアリルエーテル、アリルグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールトリアリルエーテル、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸化合物、ビニル化合物が挙げられる。カチオン重合性化合物としては、例えば、特開平6−9714号、特開2001−310937号、特開2001−220526号などの各公報に記載されているエポキシ化合物、ビニルエーテル化合物、オキセタン化合物などが挙げられる。
本実施形態に係る水性インク組成物は、その用途は特に限定されず、例えば、筆記具、スタンプ、記録計、ペンプロッター、インクジェット記録装置等に適用することができる。
本実施の形態に係る水性インク組成物の20℃における粘度は、好ましくは2mPa・s以上10mPa・s以下であり、より好ましくは3mPa・s以上5mPa・s以下である。水性インク組成物の20℃における粘度が前記範囲内にあると、ノズルから水性インク組成物が適量吐出され、水性インク組成物の飛行曲がりや飛散を一層低減することができるため、インクジェット記録装置に好適に使用することができる。
3.実施例
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例、比較例中の「部」および「%」は、特に断らない限り質量基準である。
3.1.水性顔料分散液の製造
3.1.1.実施例1
まず、表面が平滑なポリエチレンテレフタレート製のフィルム(表面粗さRaが0.02μm以下)を用意した。
次に、このフィルムの一方の面の全体にシリコーンオイルを塗布した。このシリコーンオイルを塗布した面側に、蒸着法を用いてアルミニウムで構成された膜(以下、単に「アルミニウム膜」ともいう。)を形成した。
次に、アルミニウム膜が形成されたフィルムを、ジエチレングリコールジエチルエーテル中に入れ、超音波を照射することにより、フィルムからアルミニウム膜を剥離・粉砕した。次に、これをホモジナイザーに投入し約8時間粉砕処理することにより、鱗片状のアルミニウム粒子(母粒子)の分散液を得た。この分散液中におけるアルミニウム粒子の濃度は10質量%であった。
次に、上記のようにして得られたアルミニウム粒子を含む分散液100質量部に対して、ジエチレングリコールジエチルエーテルを100質量部添加し、アルミニウム粒子の濃度を5質量%に調整後、アルミニウム粒子100質量部に対して2−(パーフルオロヘキシル)エチルホスホン酸を50質量部加え、液温55℃で、3時間超音波を照射しながら、アルミニウム粒子の表面処理を行った。その後、遠心分離機(10000rpm×30分)にて表面処理されたアルミニウム粒子を遠心沈降させ、その上澄み部分を廃棄し、水系媒体(オレフィンE1010(日信化学工業(株)製)1質量部、水47.65質量部、プロピレングリコール50質量部、を混合したもの)を加えて、さらに超音波を照射することにより表面処理されたアルミニウム粒子を再分散させて、アルミニウム粒子を5質量部含有する水性顔料分散液を得た。
この水性顔料分散液中におけるアルミニウム粒子の平均粒子径は0.8μmであり、平均厚みは10nmであった。
3.1.2.実施例2〜3、比較例1〜2
2−(パーフルオロヘキシル)エチルホスホン酸の添加量を表1に記載の量とした以外は、上記実施例1と同様にして表面処理されたアルミニウム粒子の水性顔料分散液を製造した。
3.1.3.実施例4〜5
表面処理に用いたフッ素系化合物を表1に記載のものに変更し、添加量を表1に記載の量とした以外は、上記実施例1と同様にして表面処理されたアルミニウム粒子の水性顔料分散液を製造した。
Figure 2015071700
なお、表1に示す表面処理剤の略称は、それぞれ以下の通りである。
・FHP:2−(パーフルオロヘキシル)エチルホスホン酸
・FHPA:2−(パーフルオロヘキシル)エチルホスホン酸アミン塩
・FBS:パーフルオロブタンスルホン酸塩
3.2.XPS分析
上記で得られた水性顔料分散液をポリテトラフルオロエチレン製メンブランフィルターに滴下してろ過することにより、表面処理されたアルミニウム粒子を分離した。この表面処理されたアルミニウム粒子を十分に乾燥させたものをXPS分析用サンプルとした。
次に、XPS分析用サンプルを下記に示すX線光電子分光分析装置の試料台に固定して
、下記の条件でアルミニウム粒子表面の各元素の存在比を測定した。その結果を表2に併せて示す。
・X線光電子分光分析装置:型式「複合電子分光装置」、サーモエレクトロン株式会社製・X線光源 :単色化Al−Kα線
・X線照射角度 :90°
・エネルギー :1486.6eV
・スポット径 :500μφ
・ステップサイズ :0.1eV
・dwell time(各測定点での溜め込み時間):100μs
・pass Energy :20eV
また、実施例1で得られた水性顔料分散液に含まれるアルミニウム粒子では、上記X線光電子分光分析装置で測定したX線光電子分光スペクトルにおいて、フォークト関数により波形分離した際に、190eV以上192eV以下にピークがあることが確認された。このことから、アルミニウム粒子の表面に2−(パーフルオロヘキシル)エチルホスホン酸が結合していることが明らかとなった。なお、実施例2〜4及び比較例1〜2で得られた水性顔料分散液に含まれるアルミニウム粒子でも同様のピークが確認された。
また、実施例1で得られた水性顔料分散液に含まれるアルミニウム製の粒子では、上記X線光電子分光分析装置で測定したX線光電子分光スペクトルにおいて、291eV及び293eVにピークが認められた。291eVのピークは−CF−に由来するピークであり、293eVのピークは−CFに由来するピークであることから、アルミニウム製の粒子の表面に2−(パーフルオロヘキシル)エチルホスホン酸が存在していることが明らかとなった。なお、実施例2〜5及び比較例1〜2で得られた水性顔料分散液に含まれるアルミニウム製の粒子でも同様のピークが認められた。
3.3.評価試験
3.3.1.水分散性評価試験
10μmのフィルター(MILIPORE社製、MITEX MEMBRANE FILTERS(型番:LCWPO4700))に対して、上記で得られた水性顔料分散液がどれだけ通過するかにより、水分散性を評価した。水分散性の評価基準は、以下の通りである。水分散性評価試験の結果を表2に併せて示す。
「A」・・・・フィルター通過量が50mL以上
「B」・・・・フィルター通過量が10mL以上50mL未満
「C」・・・・フィルター通過量が10mL未満
3.3.2.貯蔵安定性評価試験
サンプル瓶に上記で得られた水性顔料分散液を10mL加え、密栓して70℃恒温下にて6日間貯蔵した。貯蔵後の水性顔料分散液を目視で観察することにより、貯蔵安定性を評価した。貯蔵安定性の評価基準は、以下の通りである。貯蔵安定性評価試験の結果を表2に併せて示す。
「A」・・・アルミニウム粒子の白色化が認められない。
「B」・・・アルミニウム粒子の一部に白色化が認められる。
「C」・・・アルミニウム粒子の全部に白色化が認められる。
3.3.3.光沢性の評価
上記で得られた水性顔料分散液のいずれか1種を印画紙(「PM写真用紙(光沢)型番:KA450PSK」、セイコーエプソン株式会社製)に滴下・塗布して、室温で1日間乾燥させた。得られたサンプルを目視及び走査型電子顕微鏡(S−4700、株式会社日立ハイテクノロジーズ製、以下「SEM」ともいう。)により観察することで、アルミニ
ウム粒子の光沢性を評価した。アルミニウム粒子の光沢性の評価基準は、以下の通りである。光沢性評価試験の結果を表2に併せて示す。
「A」・・・光沢性が良好(金属光沢性に優れており、鏡面光沢を有する。)
「B」・・・光沢性がやや良好(金属光沢性に優れているが、ややマット調である。)
「C」・・・光沢性が不良(金属光沢性がなく、黒ずんだ灰色を呈している。)
3.3.4.評価結果
表2に、実施例1〜5及び比較例1〜2で得られた水性顔料分散液の水分散性、貯蔵安定性、光沢性の評価試験の結果を示す。
Figure 2015071700
表2の評価結果によれば、XPS分析によるフッ素元素の濃度が21〜35atm%で
あるアルミニウム粒子を含有する水性顔料分散液では、水分散性及び貯蔵安定性が良好となり、記録物の光沢性にも優れていることが判明した。一方、XPS分析によるフッ素元素の濃度が21atm%未満であるアルミニウム粒子を含有する水性顔料分散液では、水分散性及び貯蔵安定性が不良となり、記録物の光沢性にも劣ることが判明した。以上のことから、XPS分析による卑金属顔料表面のフッ素元素濃度が少なくとも21atm%以上であれば、十分な耐水性が付与されて、水分散性、貯蔵安定性、光沢性が良好となることが判明した。
3.4.水性インク組成物の評価
3.4.1.水性インク組成物の調製
以下の組成となるように、水性顔料分散液、プロピレングリコール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、トリエタノールアミン、F−553を混合し、さらに100質量部となるようにイオン交換水を加えて、混合撹拌した。
<水性インク組成物の組成>
水性顔料分散液(固形分) 1.2質量部
プロピレングリコール 35質量部
2−メチル−2,4−ペンタンジオール50 15質量部
オルフィンE1010 0.24質量部
メガファックF−553 0.36質量部
トリエタノールアミン 0.15質量部
イオン交換水 残部
合計 100質量部
なお、水性顔料分散液としては、上記で得られた実施例1、実施例3、比較例1の水性顔料分散液のいずれか1種を使用した。
3.4.2.評価サンプルの作製
インクジェットプリンターPX−G930(セイコーエプソン株式会社製)の専用カートリッジに、上記の水性インク組成物を充填したインクカートリッジを作製した。次に、得られたインクカートリッジをインクジェットプリンターPX−G930のブラック列に装着し、これ以外のノズル列には市販のインクカートリッジを装着した。なお、ブラック列以外に装着した市販のインクカートリッジは、ダミーとして用いるものであり、本実施例の評価では使用しないので、本発明の効果に関与するものではない。
次に、上記のプリンターを用いて、ブラック列に装着された上記の水性インク組成物を写真用紙<光沢>(セイコーエプソン株式会社製)上に吐出することにより、ベタパターン画像の印刷された記録物を得た。なお、印刷条件は、1ドット当たりの吐出インク重量を20ngとし、解像度を縦720dpi、横720dpiとした。
3.4.3.画像の評価方法
得られた画像について、光沢度計MULTI Gloss 268(コニカミノルタ社製)を用いて、60°の光沢度を測定した。得られた画像の光沢度の評価基準は、以下のとおりである。光沢度評価試験の結果を表3に示す。
「A」:光沢度300以上(クリアな金属光沢)
「B」:光沢度250以上300未満(つや消しの金属光沢)
「C」:光沢度200以上250未満(金属光沢なし)
「D」:測定不能(水性インク組成物を吐出できなかった)
Figure 2015071700
表3に示すように、実施例1の水性顔料分散液を用いて作製された水性インク組成物では、光沢度が300以上の、クリアな金属光沢を有する画像を印刷することができた。実施例3の水性顔料分散液を用いて作製された水性インク組成物では、光沢度が250以上300未満となり、実施例1の水性顔料分散液を用いて作製された水性インク組成物で印刷された画像よりもやや光沢性が損なわれた。
一方、比較例1の水性顔料分散液を用いて作製された水性インク組成物では、インクジェット記録装置のヘッドからインクを吐出することができず、画像を記録することができなかった。これは、水性インク組成物中でアルミニウム粒子が凝集し、粒径が増大することによりヘッド部分の目詰まりが起きたことによるものと考えられる。
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。例えば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的および効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成または同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。

Claims (10)

  1. 水と卑金属顔料とを含む水性顔料分散液であって、
    前記卑金属顔料は、フッ素系化合物によって表面処理されたものであり、
    前記卑金属顔料表面のXPS(X−ray Photoelectoron Spectroscopy)分析を行った際に、フッ素元素の濃度が21〜35atm%である、水性顔料分散液。
  2. 前記卑金属顔料表面のXPS分析を行った際に、リン、硫黄または窒素、若しくはこれらの元素の総和の濃度が、0.8atm%以上である、請求項1に記載の水性顔料分散液。
  3. 前記フッ素系化合物が、パーフルオロアルキル基を有する、請求項1または請求項2に記載の水性顔料分散液。
  4. 前記パーフルオロアルキル基の炭素数が1〜6である、請求項3に記載の水性顔料分散液。
  5. 前記卑金属顔料表面のXPS分析を行った際に、フッ素元素の濃度([F];atm%)と酸素元素の濃度([O];atm%)との比([F]/[O])が、0.7〜1.2である、請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の水性顔料分散液。
  6. 前記卑金属顔料に含まれる卑金属が、アルミニウムまたはアルミニウム合金である、請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の水性顔料分散液。
  7. 前記卑金属顔料表面のXPS分析を行った際に、フッ素元素の濃度([F];atm%)とアルミニウム元素の濃度([Al];atm%)との比([F]/[Al])が、0.7〜1.2である、請求項6に記載の水性顔料分散液。
  8. 前記フッ素系化合物の分子量が1000以下である、請求項1ないし請求項7のいずれか一項に記載の水性顔料分散液。
  9. 請求項1ないし請求項8のいずれか一項に記載の水性顔料分散液を含有する、水性インク組成物。
  10. 重合性化合物を実質的に含有しない、請求項9に記載の水性インク組成物。
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