以下、添付された図面を参照し、本発明を実施するための実施形態について詳述する。
図1は、冷媒を循環させてエンジンを冷却する冷却システムの一例を示す。
車両に搭載されたエンジン10のシリンダブロック、シリンダヘッドなどを冷却した冷媒としての冷却水は、第1の冷却水通路12を介して、電動式のラジエータファン14が併設されたラジエータ16に導かれる。ラジエータ16に導かれた冷却水は、フィンが取り付けられたラジエータコアを通過するときに外気と熱交換をし、その温度が低下する。そして、ラジエータ16を通過することで温度が低下した冷却水は、第2の冷却水通路18を介してエンジン10へと戻される。なお、エンジン10を冷却する冷媒として、冷却水以外にLLC(Long Life Coolant)を用いてもよい。
また、エンジン10から排出された冷却水がラジエータ16をバイパスするように、第1の冷却水通路12と第2の冷却水通路18とは、バイパス通路20を介して連通接続されている。バイパス通路20の下流端と第2の冷却水通路18との接合箇所には、バイパス通路20の通路面積を全開から全閉までの間で多段階又は連続的に開閉する電制サーモスタット22が配設されている。電制サーモスタット22は、例えば、駆動回路を介してPWM信号のデューティ比に応じて駆動される内蔵ヒータにより、同じく内蔵されたワックスが熱膨張することを利用して弁を開閉する開閉弁として構成することができる。従って、電制サーモスタット22をデューティ比により制御することで、ラジエータ16を通過する冷却水の割合を変化させることができる。
第2の冷却水通路18の下流端と電制サーモスタット22のとの間には、エンジン10とラジエータ16との間で冷却水を強制的に循環させる、機械式ウォータポンプ24及び電動ウォータポンプ26が夫々配設されている。機械式ウォータポンプ24は、エンジン10の冷却水入口を塞ぐように取り付けられており、例えば、エンジン10のカムシャフトによって駆動される。電動ウォータポンプ26は、アイドルストップ機能によりエンジン10が停止した場合にも冷却性能を発揮あるいは暖房機能を維持できるようにすべく、エンジン10とは異なる駆動源である、後述のブラシレスモータによって駆動される。
ラジエータファン14、電制サーモスタット22、及び電動ウォータポンプ26の駆動を制御する制御系として、エンジン10から排出される冷却水の温度(冷却水温度)を検出する冷却水温度検出手段としての水温センサ28、車速を検出する車速センサ30、外気温を検出する温度センサ32、エンジン回転速度を検出する回転速度センサ34、エンジン負荷を検出する負荷センサ36が取り付けられている。そして、水温センサ28、車速センサ30、温度センサ32、回転速度センサ34及び負荷センサ36の出力信号は、コンピュータを内蔵したエンジンコントロールユニット(以下、「ECU」という)38に入力され、そのROM(Read Only Memory)などに記憶された制御プログラムに従って、ラジエータファン14、電制サーモスタット22及び電動ウォータポンプ26が制御される。
ECU38は、電動ウォータポンプ26を駆動させるための駆動条件が成立しているか否かを、少なくともエンジン10の運転中、繰り返し判定する。ECU38は、この駆動条件が成立していると判定した場合には、電動ウォータポンプ26に対して駆動指令信号を出力する一方、駆動条件が成立していないと判定した場合には、電動ウォータポンプ26の駆動を停止あるいは禁止する停止指令信号を出力する。
電動ウォータポンプ26の駆動条件としては、例えば、エンジン10の冷却システムにおける冷却水温度などが所定温度以上であることが挙げられる。別の駆動条件としては、電動ウォータポンプ26の駆動回路あるいは信号回路などに関して、例えば、電圧が確保されていること、過電流診断・マイコン診断・リレー診断により正常と診断されていること、あるいは、リレーがONになっていることなどが挙げられる。
以上のようなエンジン10の冷却システムにおいて、エンジン10の始動時に、エンジン10及びその近傍における冷却水温度だけが上昇するホットスポットの発生を抑制してエンジン10の燃費を向上させるために、電動ウォータポンプ26により、エンジン10のフリクションに影響を与えない程度の比較的低い流量で冷却水を循環させる必要性が生じている。このため、電動ウォータポンプ26を駆動するブラシレスモータには、制御可能な回転速度範囲を低回転速度側へ拡大することが求められている。
なお、本実施形態では、ブラシレスモータは、エンジン10を冷却する冷却システムに組み込まれた電動ウォータポンプ26を駆動するが、この他、自動変速機用の油圧ポンプシステムに組み込まれた電動オイルポンプを駆動するブラシレスモータであってもよく、ブラシレスモータが駆動する対象機器を電動ウォータポンプ26に限定するものではない。
図2は、電動ウォータポンプ26を駆動するブラシレスモータ100、及びその制御装置200の一例を示す。
ブラシレスモータ100は、3相DC(Direct Current)ブラシレスモータ(3相同期電動機)であり、U相,V相及びW相の3相巻線110u,110v,110wを、図示省略した円筒状のステータ(固定子)に備え、該ステータの中央部に形成した空間にロータ(永久磁石回転子)120を回転可能に備えている。
なお、本明細書では、ロータ120の時計周りの回転方向にU相巻線110u、V相巻線110v及びW相巻線110wがこの順番で、かつ、電気角120degのコイル位相差で配置されているものとする。また、U相巻線110uの中心線を基準軸とし、基準軸に対してV相巻線110vの中心線が電気角で120deg、基準軸に対してW相巻線110wの中心線が電気角で240degに位置するものとする。
ブラシレスモータ100の制御装置(以下、「モータ制御装置」という)200は、駆動回路210と、マイクロコンピュータを備えた制御器220と、を備えている。モータ制御装置200は、ブラシレスモータ100の近傍に配置されるものに限られず、例えば、モータ制御装置200のうち少なくとも制御器220が、ECU38あるいは他のコントロールユニットと一体的に形成されてもよい。
駆動回路210は、逆並列のダイオード212a〜212fを含んでなるスイッチング素子214a〜214fを3相ブリッジ接続した回路と、電源回路230とを有しており、スイッチング素子214a〜214fは、例えば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)など、電力制御の用途に用いられる半導体素子で構成されている。スイッチング素子214a〜214fの制御端子(ゲート端子)は制御器220に接続され、スイッチング素子214a〜214fのオン/オフは、後述のように、制御器220によるPWM動作で制御される。
制御器220は、ECU38と通信可能に接続され、ECU38からの駆動指令信号を入力する。また、制御器220は、ECU38からブラシレスモータ100の駆動指令信号を受けて、ブラシレスモータ100の操作量である印加電圧を演算し、該印加電圧に基づいてPWM信号(パルス幅変調信号)を生成する回路を有する。さらに、制御器220は、3相のうちでパルス状の電圧(以下、「パルス電圧」という)を印加する2相の選択パターン(以下、「通電モード」という)を所定の切り替えタイミングに従って順次切り替えていく回路を有する。そして、制御器220は、駆動回路210の各スイッチング素子214a〜214fがどのような動作でスイッチングするかを、PWM信号及び通電モードに基づいて決定し、該決定に従い、6つのゲート信号を駆動回路210に出力する。
制御器220は、前記所定の切り替えタイミングを以下のようにして検出する。
すなわち、2相に対してパルス電圧を印加することにより、ブラシレスモータ100の3相のうち通電されていない非通電相(開放相)に誘起される誘起電圧(以下、「パルス誘起電圧」という)の検出値と、通電モードごとに異なる所定の閾値と、を比較することで、通電モードの切り替えタイミングを検出する。ここで、パルス誘起電圧は、ロータ120の位置により磁気回路の飽和状態が変化することに起因して、ロータ120の回転位置に応じて非通電相に発生する電圧である。
なお、パルス誘起電圧は非通電相の端子電圧として検出される。この端子電圧は、厳密にはグランドGND−端子間の電圧であるが、本実施形態では、中性点の電圧を別途検出し、この中性点の電圧とGND−端子間電圧との差を求めて、端子電圧Vu,Vv,Vwとしている。
図3は、各通電モードにおける各相への電圧印加状態を示す。
通電モードは、電気角60degごとに順次切り替わる6通りの通電モード(1)〜(6)からなり、各通電モード(1)〜(6)において、3相から選択された2相に対してパルス電圧を印加する。
本実施形態では、U相のコイルの角度位置を、ロータ(磁極)120の基準位置(角度0deg)とし、通電モード(3)から通電モード(4)への切り替えを行うロータ120の角度位置(磁極位置)を30degに、通電モード(4)から通電モード(5)への切り替えを行うロータ120の角度位置を90degに、通電モード(5)から通電モード(6)への切り替えを行うロータ120の角度位置を150degに、通電モード(6)から通電モード(1)への切り替えを行うロータ120の角度位置を210degに、通電モード(1)から通電モード(2)への切り替えを行うロータ120の角度位置を270degに、通電モード(2)から通電モード(3)への切り替えを行うロータ120の角度位置を330degに設定している。
通電モード(1)は、スイッチング素子214a及びスイッチング素子217dをオン制御し、他を全てオフとすることで、U相に電圧Vを印加し、V相に電圧−Vを印加し、U相からV相に向けて電流を流す。
通電モード(2)は、スイッチング素子214a及びスイッチング素子214fをオン制御し、他を全てオフとすることで、U相に電圧Vを印加し、W相に電圧−Vを印加し、U相からW相に向けて電流を流す。
通電モード(3)は、スイッチング素子217c及びスイッチング素子214fをオン制御し、他を全てオフとすることで、V相に電圧Vを印加し、W相に電圧−Vを印加し、V相からW相に向けて電流を流す。
通電モード(4)は、スイッチング素子217b及びスイッチング素子217cをオン制御し、他を全てオフとすることで、V相に電圧Vを印加し、U相に電圧−Vを印加し、V相からU相に向けて電流を流す。
通電モード(5)は、スイッチング素子217b及びスイッチング素子217eをオン制御し、他を全てオフとすることで、W相に電圧Vを印加し、U相に電圧−Vを印加し、W相からU相に向けて電流を流す。
通電モード(6)は、スイッチング素子217e及びスイッチング素子217dをオン制御し、他を全てオフとすることで、W相に電圧Vを印加し、V相に電圧−Vを印加し、W相からV相に向けて電流を流す。
上記のように、6つの通電モード(1)〜(6)を、スイッチング素子214a〜214fのオン/オフにより電気角60deg毎に順次切り替えることで、180deg毎に120degの間通電することから、図3に示すような通電方式は120度通電方式と呼ばれる。
前記通電モードの切り替え制御は、ロータ120の位置を検出するセンサを用いていないため、いわゆる位置センサレスによる通電制御であるが、その中でも、非通電相に誘起されるパルス誘起電圧に基づいて行われることを特徴とする「低速センサレス制御」である。低速センサレス制御は、モータ回転速度を低速域と高速域とに2分した場合に、低速域において用いる通電制御である。
高速域で用いる高速センサレス制御は、ロータ120が回転することによって発生する誘起電圧(以下、「速度起電圧」という)を検出し、この速度起電圧に基づき通電モードを切り替える制御であり、速度起電圧のゼロクロス点を基準に通電モードの切り替えポイントを設定する。ところが、高速センサレス制御で用いる速度起電圧は、モータ回転速度が低くなるとノイズなどにより速度起電圧の感度が低下する。このため、高速センサレス制御は、速度起電圧に基づいて精度良く通電モードの切り替えポイントを検出できる所定のモータ回転速度以上の回転速度域、すなわち高速域で実施される。一方、低速センサレス制御は、ロータ120の回転速度に依存せずに、ロータ120の位置に応じたパルス誘起電圧を検出できるので、高速センサレス制御による通電制御が困難な前記所定のモータ回転速度未満の回転速度域、すなわち低速域で実施される。
図4は、モータ制御装置200において所定時間Δtごとに繰り返し行われるブラシレスモータ100の駆動制御処理の概略を示す。
ところで、低速センサレス制御において、切り替えタイミングの判定のために検出する非通電相のパルス誘起電圧は、ブラシレスモータ100の製造ばらつき、電圧検出回路の検出ばらつきなどによって変動するため、かかる誘起電圧のばらつきに対して、閾値として固定値を用いると、通電モードの切り替えタイミングを誤って判定することになってしまう。
このため、通電モードの切り替えタイミングに相当する磁極位置でのパルス誘起電圧を検出することで、閾値を実際の切り替えタイミングで発生する誘起電圧に近づける補正を行い、予め制御器220が記憶している閾値を補正結果に書き換える学習処理を行う。
ステップ1001(図中では「S1001」と略記する。以下同様。)では、通電モードの切り替えタイミングの判定に用いる閾値の学習条件が成立しているか否かを判断する。
具体的には、電源投入直後、又は、電動ウォータポンプ26の停止直後など、ブラシレスモータ100の駆動要求が発生していないことを、閾値の学習条件とする。
学習条件が成立していれば、ステップ1002(閾値学習手段)へ進んで、閾値の学習を実施する。
以下に、閾値の学習処理の一例を示す。
例えば、通電モード(4)から通電モード(5)への切り替え判定に用いる閾値E4-5を学習する場合には、まず、ロータ120を通電モード(3)に対応する角度に位置決めする。
通電モード(3)に対応する印加電圧、即ち、Vu=0、Vv=Vin、Vw=−Vinを各相に加えると、U相,V相及びW相の合成磁束にロータ120が引かれることでトルクが発生し、ロータ120のN極が、角度90degまで回転することになる。
そして、通電モード(3)に対応する電圧印加を行ってから、ロータ120が角度90degまで回転するのに要する時間の経過を待って、角度90degへの位置決めが完了したものと推定する。
なお、通電モード(3)に対応する相通電を行った場合にロータ120が引き付けられる角度90degは、通電モード(4)から通電モード(5)への切り替えを行う角度位置である。
角度90degへのロータ120の位置決めが完了すると、次いで、通電モード(3)に対応する電圧印加パターンから、通電モード(4)に対応する電圧印加パターン、即ち、Vu=−Vin、Vv=Vin、Vw=0に切り替える。
そして、通電モード(3)に対応する印加電圧から通電モード(4)に対応する印加電圧に切り替えた直後における、通電モード(4)での非通電相であるW相の端子電圧Vwを検出し、該端子電圧Vwに基づき、通電モード(4)から通電モード(5)への切り替え判定に用いる閾値E4-5を更新して記憶する。
即ち、通電モード(4)から通電モード(5)への切り替えは、前述のように、角度90degで行わせるように設定されていて、角度90degになったか否か、換言すれば、通電モード(4)から通電モード(5)への切り替えタイミングになったか否かは、通電モード(4)における非通電相であるW相の端子電圧Vwに基づいて判断する。
ここで、通電モード(3)に対応する印加電圧を継続させることで、通電モード(4)から通電モード(5)への切り替えを行う角度位置(90deg)に位置決めすることができ、係る状態で通電モード(3)から通電モード(4)に切り替えれば、通電モード(4)に切り替えた直後のW相の端子電圧Vwは、角度位置90degにおける非通電相の端子電圧Vを示すことになる。
そこで、通電モード(3)に対応する印加電圧を継続させている状態から通電モード(4)に切り替えた直後におけるW相の端子電圧Vwに基づき、通電モード(4)から通電モード(5)への切り替え判定に用いる閾値E4-5を更新して記憶する。そして、通電モード(4)の非通電相であるW相の端子電圧Vwが、閾値E4-5を横切ったときに(W相の端子電圧Vw=閾値E4-5になったとき)、通電モード(4)から通電モード(5)への切り替えを実行させるようにする。
他の通電モードの切り替えに用いる閾値も同様にして、更新学習を行える。
なお、閾値の更新処理においては、通電モードの切り替えを行う角度位置での非通電相の端子電圧Vを、そのまま閾値として記憶させても良いし、また、前回までの閾値と、今回求めた非通電相の端子電圧Vとの加重平均値を新たな閾値として記憶させても良いし、更に、過去複数回にわたって求めた非通電相の端子電圧Vの移動平均値を、新たな閾値として記憶させても良い。
また、今回求めた非通電相の端子電圧Vが、予め記憶している正常範囲内の値であれば、今回求めた非通電相の端子電圧Vに基づく閾値の更新を行い、前記正常範囲から外れている場合には、今回求めた非通電相の端子電圧Vに基づく閾値の更新を禁止し、閾値を前回値のまま保持させるとよい。
また、閾値の初期値として設計値を記憶させておき、閾値の学習を1度も経験していない未学習状態では、閾値として初期値(設計値)を用いて通電モードの切り替えタイミングを判断させるようにする。
また、非通電相の電圧が基準電圧に対してマイナス側に振れる(1)→(2)、(3)→(4)、(5)→(6)のモード切替において共通の閾値を設定し、非通電相の電圧が基準電圧に対してプラス側に振れる、(2)→(3)、(4)→(5)、(6)→(1)のモード切替において共通の閾値を設定することができる。
更に、例えば、前述のようにして学習した閾値E4-5を、(2)→(3)、(4)→(5)、(6)→(1)のモード切替において共通の閾値とし、(1)→(2)、(3)→(4)、(5)→(6)のモード切替においては、閾値E4-5と絶対値が同じ閾値を共通の閾値として用いることができる。
但し、閾値の学習手段を上記のものに限定するものではなく、公知の種々の学習処理を適宜採用できる。
上記のようにして、ステップ1002で、モード切り替えタイミングの判定に用いる閾値を学習した場合、及び、ステップ1001で学習条件が成立していないと判断した場合には、ステップ1003へ進む。
ステップ1003では、電動ウォータポンプ26(ブラシレスモータ100)の駆動要求が発生しているか否かを判断する。本実施形態の場合、アイドルストップ要求の発生が、電動ウォータポンプ26の駆動要求の発生を示すことになる。
ここで、電動ウォータポンプ26の駆動要求が発生すれば、ステップ1004へ進み、そのときの通電モードでの非通電相の電圧を閾値と比較することで、次の通電モードへの切り替えタイミングを判定し、通電モードを順次切り替えることで、ブラシレスモータ100を駆動させるセンサレスのモータ駆動処理を実施する。
なお、ブラシレスモータ100の起動は、例えば、通電モード(3)に応じた電圧印加によって90degの位置に位置決めした後、通電モード(5)に切り替えて、ブラシレスモータ100を回転させ始め、通電モード(5)から通電モード(6)への切り替えを行う角度位置である150degになったことを、通電モード(5)における非通電相であるV相の電圧が、通電モード(5)から通電モード(6)への切り替え判定に用いる閾値を横切ったときに判定し、通電モード(6)への切り替えを行う。その後、非通電相の電圧と閾値とを比較して、通電モードを順次切り替えるようにする。
一方、電動ウォータポンプ26の駆動要求が発生していない場合は、ステップ1004を迂回して本処理を終了させる。
次に、ステップ1004におけるモータ駆動処理の詳細を、図5のフローチャートに基づいて説明する。
ステップ2001では、ブラシレスモータ100に印加するデューティ比の設定を行う。なお、デューティ比設定の具体的な処理内容については後述する。
ステップ2002では、そのときの通電モードにおける非通電相の電圧(以下、「非通電相電圧」という)Vmを検出する。ここで、値mは、繰り返し実行されるブラシレスモータ100の駆動制御処理(図4参照)の実行回数を意味する1以上の自然数(m=1,2,…,k,…)である。したがって、非通電相電圧Vmは、第m回目に検出された非通電相電圧を意味する。以下、ブラシレスモータ100の駆動制御処理の実行回数mが、現在実行中の今回で第k回目であるものとして、本ステップでは、非通電相電圧Vkを検出するものとする。
非通電相電圧Vkの具体的な検出方法としては、通電モード(1)の場合はW相の電圧を検出し、通電モード(2)の場合はV相の電圧を検出し、通電モード(3)の場合はU相の電圧を検出し、通電モード(4)の場合はW相の電圧を検出し、通電モード(5)の場合はV相の電圧を検出し、通電モード(6)の場合はU相の電圧を検出する。
ここで、非通電相電圧Vkの検出期間を、通電モード(3)を例に図6を参照して説明する。通電モード(3)では、V相にパルス幅変調動作によって印加電圧に相当する電圧Vを印加し、W相に電圧−Vを印加し、V相からW相に向けて電流を流すから、電圧検出相はU相であり、このU相の端子電圧を、非通電相電圧Vkとして、V相上段のスイッチング素子217fのオン期間で検出する。
また、通電モードの切り替え直後は、転流電流が発生し、かかる転流電流の発生区間で検出した電圧を用いると、通電モードの切り替えタイミングを誤判断することになってしまう。そこで、通電モード切替直後の電圧検出値については、初回から設定回にわたって切り替えタイミングの判断には用いないようにする。前記設定回は、モータ回転速度及びモータ電流(モータ負荷)に応じて可変に設定することができ、モータ回転速度が高く、モータ電流が高いほど、前記設定回を大きな値に設定する。
ステップ2003では、ステップ2002で検出された非通電相電圧VkをRAM(Random Access Memory)などに記憶する。
ステップ2004では、低速センサレス制御の実施条件であるか否かを判断する。非通電相に発生する誘起電圧(速度起電圧)の信号をトリガに通電モードの切り替えを行う高速センサレス制御では、前述のように、モータ回転速度が低い領域では、誘起電圧(速度起電圧)が低くなって切り替えタイミングを精度良く検出することが難しくなるので、モータの低回転速度域では、パルス誘起電圧と閾値との比較に基づき、切り替えタイミングの判断を行う低速センサレス制御を行う。
従って、ステップ2004では、高速センサレス制御を行える速度域であるか否かを、モータ回転速度が、設定速度よりも高いか否かに基づき判断する。即ち、前記設定速度は、速度起電圧をトリガとする切り替え判断を行えるモータ回転速度の最小値であり、予め実験やシミュレーションによって決定して記憶しておく。
なお、モータ回転速度は、通電モードの切り替え周期に基づき算出される。また、前記設定速度として、例えば、低速センサレス制御への移行を判断する第1設定速度と、低速センサレス制御の停止、すなわち高速センサレス制御への移行を判断する第2設定速度(>第1設定速度)とを設定し、センサレス制御の切り替えが短時間で繰り返されることを抑制してもよい。
ステップ2004で、低速センサレス制御の実施条件であると判定された場合、換言すれば、モータ回転速度が設定速度以下である場合には、低速センサレス制御を実施すべくステップ2005へ進む(Yes)。一方、低速センサレス制御の実施条件でないと判定された場合、換言すれば、モータ回転速度が設定速度よりも高い場合には、高速センサレス制御を実施すべくステップ2009へ進む(No)。
ステップ2005では、前回(すなわち、第(k−1)回目)のステップ2002で検出され同じくステップ2003で記憶された非通電相電圧Vk-1(以下、「前回の非通電相電圧Vk-1」という)について補正が必要であるか否かを判断し、補正が必要であれば前回の非通電相電圧Vk-1を補正する。前回の非通電相電圧Vk-1に対する補正の具体的な処理内容については後述する。
ステップ2006では、ブラシレスモータ100の駆動制御処理(図4参照)の実行回数で第k回目における通電モード切り替えのための閾値Ek(以下、「今回の閾値Ek」という)が、前回の非通電相電圧Vk-1以上であり、かつ、今回の非通電相電圧Vk以下であるか否か、あるいは、今回の閾値Ekが、前回の非通電相電圧Vk-1以下であり、かつ、今回の非通電相電圧Vk以上であるか否か、を判定する。要するに、本ステップでは、前回の非通電相電圧Vk-1から今回の非通電相電圧Vkへ変化する過程において、非通電相電圧が今回の閾値Ekを横切ったか否かを判定する。
具体的には、第k回目が通電モード(1)である場合には、非通電相であるW相の電圧が閾値E1-2以下になったときに、通電モード(2)への切り替えタイミングであると判断し、第k回目が通電モード(2)である場合には、非通電相であるV相の電圧が閾値E2-3以上になったときに、通電モード(3)への切り替えタイミングであると判断し、第k回目が通電モード(3)である場合には、非通電相であるU相の電圧が閾値E3-4以下になったときに、通電モード(4)への切り替えタイミングであると判断し、第k回目が通電モード(4)である場合には、非通電相であるW相の電圧が閾値E4-5以上になったときに、通電モード(5)への切り替えタイミングであると判断し、第k回目が通電モード(5)である場合には、非通電相であるV相の電圧が閾値E5-6以下になったときに、通電モード(6)への切り替えタイミングであると判断し、第k回目が通電モード(6)である場合には、非通電相であるU相の電圧が閾値E6-1以上になったときに、通電モード(1)への切り替えタイミングであると判断する。
ステップ2006で、前回の非通電相電圧Vk-1から今回の非通電相電圧Vkへ変化する過程において、非通電相電圧が今回の閾値Ekを横切ったと判定された場合には、ステップ2007へ進む(Yes)。一方、前回の非通電相電圧Vk-1から、今回の非通電相電圧Vkへ変化する過程において、非通電相電圧が今回の閾値Ekを横切っていないと判定された場合には、ステップ1004におけるモータ駆動処理を終了する。
ステップ2007では、次の通電モードへの切り替えを実施する。
ステップ2008では、通電モードの切り替え周期に基づき、モータ回転速度を演算する。
ステップ2009では、零レベルが、前回の非通電相電圧Vk-1以上であり、かつ、今回の非通電相電圧Vk以下であるか否か、あるいは、零レベルが、前回の非通電相電圧Vk-1以下であり、かつ、今回の非通電相電圧Vk以上であるか否か、を判定する。要するに、本ステップでは、前回の非通電相電圧Vk-1から今回の非通電相電圧Vkへ変化する過程において、非通電相電圧が零レベルを横切ったか否かを判定する。
前回の非通電相電圧Vk-1から今回の非通電相電圧Vkへ変化する過程において、非通電相電圧が零レベルを横切ったと判定された場合には、ステップ2007へ進む(Yes)。一方、前回の非通電相電圧Vk-1から今回の非通電相電圧Vkへ変化する過程において、非通電相電圧が零レベルを横切っていないと判定された場合には、ステップ1004におけるモータ駆動処理を終了する。
次に、図5のステップ2001におけるデューティ比設定処理の詳細を、図7のフローチャートに基づいて説明する。
ステップ3001では、ブラシレスモータ100の目標回転速度を演算する。
本実施形態の電動ウォータポンプ26を回転駆動するブラシレスモータ100では、例えば、図8に示すように、冷却水温度が高いほど目標回転速度をより高い回転速度に設定することができる。ブラシレスモータ100が、エンジン10にオイルを循環させる電動オイルポンプを駆動する場合には、オイル温度(ATF(Automatic Transmission Fluid)油温)が高いほど目標回転速度をより高い回転速度に設定してもよい。
ステップ3002では、ステップ3001で演算した目標回転速度と実際のモータ回転速度とに基づいて印加電圧(入力電圧)の指令値を演算する。
例えば、目標回転速度と実際の回転速度との偏差に基づく比例積分制御(PI制御)によって、下式に従って印加電圧(入力電圧)の指令値を演算する。
印加電圧=回転速度偏差*比例ゲイン+回転速度偏差積分値*積分ゲイン
回転速度偏差=目標回転速度−実際の回転速度
但し、印加電圧の指令値の演算方法を、目標回転速度に基づくものに限定するものではなく、例えば、電動ウォータポンプ26の目標吐出圧と実吐出圧との偏差に基づき、印加電圧の指令値を演算する方法や、要求トルクに基づき印加電圧の指令値を演算する方法など、公知の演算方法を適宜採用できる。また、目標値に実際値を近づけるための印加電圧の演算処理を、比例積分制御に限定するものではなく、比例積分微分制御(PID制御)など公知の演算処理方法を適宜採用できる。
ステップ3003では、ステップ3002で演算された印加電圧(入力電圧)に基づいて、ブラシレスモータ100の駆動制御処理(図4参照)の実行回数で第k回目におけるモータ印加デューティ比の目標値である目標デューティ比Dtkを演算する。具体的に、目標デューティ比Dtkは、目標デューティ比Dtk(%)=印加電圧/電源電圧*100なる式から演算される。
ステップ3004では、ステップ3003で演算された目標デューティ比DtkをRAMなどに記憶する。
ステップ3005では、相通電をPWM制御するときにおいて非通電相の電圧を検出可能なモータ印加デューティ比の下限である検出限界値Dlimを決定する。検出限界値Dlimの決定方法については後で詳細に説明する。
ステップ3006では、ステップ3003で演算された目標デューティ比Dtkとステップ3005で決定した検出限界値Dlimとの大小比較を行う。目標デューティ比Dtkが検出限界値Dlim以上であると判定された場合にはステップ3007へ進み、目標デューティ比Dtkをそのまま最終的なモータ印加デューティ比として設定し、デューティ比の設定処理を終了する。
一方、ステップ3006において、目標デューティ比Dtkが検出限界値Dlim未満であると判定された場合には、ステップ3008へ進む。
ステップ3008では、今回の非通電相電圧VkをPWM信号の周期に応じて検出する検出タイミングを設定する。例えば、図9に示すように、PWMキャリアN周期につき1回検出するとした場合のNの値(1以上の整数)を、実際のモータ回転速度、目標回転速度、PWMキャリア周波数などの種々のパラメータに基づいて設定する。また、Nの値は、少なくとも、ブラシレスモータ100の駆動制御処理(図4参照)を1回実行する間に非通電相電圧Vmを検出できる値である。なお、前述の所定時間Δtは、PWM信号のN周期よりも長い時間、例えば、PWM信号のN周期に対して正の整数倍など、に設定される。
そして、ステップ3009では、ステップ3008で設定したNに基づいて、PWMキャリアN周期のうち非通電相の端子電圧を検出するときのPWM信号のデューティ比である検出時デューティ比D1を検出限界値Dlimとして決定する。換言すれば、検出時デューティ比D1の下限値を検出限界値Dlimに制限している。
さらに、ステップ3010では、検出タイミング間において、非通電相の端子電圧を検出しないときの(N−1)回分についてのPWM信号のデューティ比である非検出時デューティ比D2〜DN(≧0)を下式に従って設定する。
D2〜DN=(今回の目標デューティDtk*N−検出限界値Dlim)/(N−1)
要するに、検出限界値Dlimに制限された検出時デューティ比D1をPWMキャリアN周期につき1回確保できるようにした上で、PWMキャリアのN周期分の平均デューティ比Dav、すなわちDav=(D1+D2+…+DN)/Nなる式で算出される値が今回の目標デューティ比Dtkとなるように、非検出時デューティ比D2〜DNを設定する。なお、N=1の場合、非検出時デューティ比D2〜DNの設定は行わない。また、Nの値が大きく、N/(N−1)≒1と近似できる場合には、制御器220の演算負荷を軽減すべくD2〜DNの値を、夫々、今回の目標デューティ比Dtkとしてもよい。
このように検出時デューティ比D1及び非検出時デューティ比D2〜DNを設定することで、以下のような利点がある。
すなわち、前述のように、ブラシレスモータ100には、制御可能な回転速度範囲を低回転速度側へ拡大することが求められているが、低速センサレス制御において、2相に対してパルス電圧の印加を開始した直後の非通電相にパルス誘起電圧が振れるリンギングが発生するため、パルス電圧のデューティ比を小さく(電圧印加時間を短く)してブラシレスモータ100の回転速度を低くしていくと、リンギングが発生している期間内でパルス誘起電圧をサンプリングしてしまう。このため、通電モード切り替えタイミングを誤判定して脱調するおそれがある。
しかしながら、検出時デューティ比D1を検出限界値Dlimに制限して、検出時デューティ比D1のときのPWM信号がONとなっている期間において、非通電相にリンギングが発生している期間を回避しつつパルス誘起電圧を検出するとともに、検出時デューティ比D1以外の非検出時デューティ比D2〜DNを減少させることで平均デューティ比Davを低減して、目標デューティ比Dtkを実質的に低減可能としているので、ブラシレスモータの回転速度を低回転速度側に拡大しても、通電モード切り替えタイミングを誤判定する可能性が低下し、脱調の発生を抑制することができる。
そして、ステップ3010まで実行した後、デューティ比設定処理を終了する。
ここで、ステップ3005における検出限界値Dlimの決定方法を詳細に説明する。
例えば、図10に示すように、PWM制御においてキャリア周期毎に増減を繰り返すPWMカウンタの谷(カウンタ値が減少から増大に転じる点)、換言すれば、パルス印加電圧のパルス幅PWの中央付近を、非通電相の電圧のA/D変換タイミング(サンプリングタイミング)とする場合、パルス電圧の印加直後(立ち上がり直後)の非通電相のパルス誘起電圧が振れる期間(電圧振れ時間)が前記パルス幅PWの1/2よりも長いと、パルス誘起電圧が振れている間に、非通電相のパルス誘起電圧のA/D変換(サンプリング)が行われることになってしまい、非通電相のパルス誘起電圧を精度良く検出することができない。
また、非通電相のパルス誘起電圧のA/D変換処理に要する時間(A/D変換開始から完了までのA/D変換時間)が、前記パルス幅PWの1/2よりも長いと、A/D変換処理中に通電相に対する電圧の印加が停止してしまい、この場合も、非通電相のパルス誘起電圧を精度良く検出することができず、ブラシレスモータ100が脱調してしまう可能性がある。
そこで、検出限界値Dlim(%)を式(A)に従って演算する。
式(A)…Dlim=max(電圧振れ時間、A/D変換時間)*2/キャリア周期*100
上記の式(A)によると、電圧振れ時間とA/D変換時間との長い方の2倍を最小パルス幅PWminとすることになり、パルス誘起電圧が振れている間に非通電相のパルス誘起電圧のA/D変換(サンプリング)が行われることを抑制でき、かつ、A/D変換処理中に通電相に対する電圧の印加が停止してしまうことを抑制できる。
なお、PWM制御においてキャリア周期毎に増減を繰り返すPWMカウンタの山(カウンタ値が増大から減少に転じる点)を非通電相の電圧のA/D変換タイミング(サンプリングタイミング)とする場合や、PWM切替りタイミングを非通電相の電圧のA/D変換タイミング(サンプリングタイミング)とする場合にも、上記のようにして検出限界値Dlimを算出する。
また、電圧振れ時間及びA/D変換時間は、予め実験やシミュレーションで求めた値を用いることができる他、電圧振れ時間をステップ3005において計測し、計測結果に基づき、検出限界値Dlimを決定することができる。
また、非通電相の電圧のA/D変換タイミング(サンプリングタイミング)を任意のタイミングに設定できる場合には、図11に示すように、電圧振れ時間が経過した直後からA/D変換処理を開始させるようにすれば、非通電相のパルス誘起電圧のA/D変換(サンプリング)を可及的に短いパルス内で行わせることができると共に、パルス誘起電圧が振れている間に非通電相のパルス誘起電圧のA/D変換(サンプリング)が行われることを抑制でき、かつ、A/D変換処理中に通電相に対する電圧の印加が停止してしまうことを抑制できる。
具体的には、式(B)に従って検出限界値Dlim(%)を演算する。
式(B)…Dlim=(電圧振れ時間+A/D変換時間)/キャリア周期*100
即ち、電圧振れ時間とA/D変換時間との総和よりも長いパルス幅PWとし、電圧振れ時間の経過直後からA/Dを開始させるようにすれば、パルス誘起電圧が振れている間に非通電相のパルス誘起電圧のA/D変換(サンプリング)が行われることを抑制でき、かつ、A/D変換処理中に通電相に対する電圧の印加が停止してしまうことを抑制できる。
このようにして検出限界値Dlimを設定すれば、パルス誘起電圧が振れている間に非通電相のパルス誘起電圧のA/D変換(サンプリング)が行われることを抑制でき、かつ、A/D変換処理中に通電相に対する電圧の印加が停止してしまうことを抑制でき、更に、パルス誘起電圧として検出可能な電圧を発生させて通電モードの切り替えタイミングの判定を行えることになり、ブラシレスモータ100における脱調の発生を抑制できる。
従って、上記冷却システムであれば、アイドルストップ中に、電動ウォータポンプ26からの冷却水供給を安定的に行わせて、エンジン10の過熱を効果的に抑制でき、また、ブラシレスモータ100で油圧システムにおける電動オイルポンプを駆動する場合には、オイルの循環を安定的に行わせて油圧低下を効果的に抑制できる。
次に、図5のステップ2005における、前回検出された非通電相電圧Vk-1の補正処理について、図12のフローチャートに基づいて説明する。
ステップ4001では、図13に示すように、前回、すなわち第(k−1)回目の目標デューティ比Dtk-1と、今回、すなわち第k回目の目標デューティ比Dtkとの大小比較を行う。
前回のステップ2003で演算され同じくステップ2004で記憶された目標デューティ比Dtk-1(以下、「前回の目標デューティ比Dtk-1」という)が、今回のステップ2003で演算され同じくステップ2004で記憶された目標デューティ比Dtk(以下、「今回の目標デューティ比Dtk」という)よりも大きいと判定された場合には、ステップ4002へ進み(Dtk-1>Dtk)、前回の目標デューティ比Dtk-1が今回の目標デューティ比Dtkと同じであると判定された場合には、前回の非通電相電圧Vk-1を補正することなく、本補正処理を終了し(Dtk-1=Dtk)、前回の目標デューティ比Dtk-1が今回の目標デューティ比Dtk未満であると判定された場合には、ステップ4006へ進む(Dtk-1<Dtk)。
ステップ4002では、今回の閾値Ek(別の閾値)を演算するために、ブラシレスモータ100の駆動制御処理(図4参照)の実行回数で第(k−1)回目における通電モード切り替えのための閾値Ek-1(以下、「前回の閾値Ek」という)を補正する補正量ΔVを演算し、また、ステップ4003では、ステップ4002で演算された補正量ΔVに基づいて、前回の閾値Ek-1を補正することにより、今回の閾値Ekを演算する。具体的には、前回の閾値Ek-1から補正量ΔVを減算して今回の閾値Ekを演算する。
前回の目標デューティ比Dtk-1が今回の目標デューティ比Dtkよりも大きいと判定された場合に、前回の閾値Ek-1を補正して今回の閾値Ekを演算するのは、非通電相電圧Vkがブラシレスモータ100に印加するPWM信号のデューティ比に依存して変化することから、トルク効率が最もよい状態でブラシレスモータ100を制御するためである。
目標デューティ比Dtk-1から目標デューティ比Dtkへ減少すると、モータ電流も減少して非通電相電圧Vkが低くなるので、今回の閾値Ekは前回の閾値Ek-1よりも低くする必要がある。なお、目標デューティ比Dtk-1から目標デューティ比Dtkへの変化が増大である場合には、モータ電流が増大して非通電相電圧Vkが高くなるので、今回の閾値Ekは前回の閾値Ek-1よりも高くする必要がある。
補正量ΔVは、デューティ比の変化量の絶対値|Dtk−Dtk-1|に応じて、毎回、すなわちΔtごとに演算する。
補正量ΔVは、モータ制御装置200の処理負担を軽減すべく、Δtよりも長い所定時間ごとに1回、所定時間中の各目標デューティ比Dtmを平均した平均目標デューティ値の変化量に応じて演算されてもよい。
今回の閾値Ekを演算する方法をさらに具体的に説明すると、例えば、第k回目が通電モード(4)である場合、通電モード(5)への切り替えタイミングは、非通電相であるW相の電圧が、閾値E4-5以上になったか否かにより判断されるが、第(k−1)回目と第k回目との間でデューティ比がDtk-1からDtkへ変化した場合(Dtk-1>Dtk)には、閾値E4-5に代えて閾値(E4-5−ΔV)を用いる。
ステップ4004では、前回の非通電相電圧Vk-1と、今回の非通電相電圧Vkと、のいずれもが、ステップ4003で演算された今回の閾値Ekに対して、大きいか否かを判定する。
本ステップにおいて、前回の非通電相電圧Vk-1が今回の閾値Ekより大きく、かつ、今回の非通電相電圧Vkが今回の閾値Ekより大きいと判定された場合には、ステップ4005へ進む(Yes)。一方、前回の非通電相電圧Vk-1が今回の閾値Ek以下であると判定された場合、あるいは、今回の非通電相電圧Vkが今回の閾値Ek以下であると判定された場合、前回の非通電相電圧Vk-1を補正することなく、本補正処理を終了する(No)。
ステップ4005では、前回の非通電相電圧Vk-1を補正する。具体的には、前回の非通電相電圧Vk-1から補正量ΔVを減算して補正後の非通電相電圧Vk-1を演算する。
このように、前回の非通電相電圧Vk-1を補正するのは、以下の理由による。
すなわち、前述のように、デューティ比設定処理(図7参照)のステップ3008〜ステップ3010における検出時デューティ比D1及び非検出時デューティ比D2〜DNの設定により、目標デューティ比Dtkが検出限界値Dlimを下回った場合でも、脱調の発生を抑制しつつ、ブラシレスモータ100の回転速度域を低回転速度側に拡大することが可能となった。これにより、目標デューティ比[%]と非通電相電圧[V]との関係を表した図14に示すように、目標デューティ比の使用領域が従来のDi〜Diiの範囲からDi〜Diiiの範囲まで増大したため、非通電相電圧の変化幅も従来のVi〜Viiの範囲からVi〜Viiiの範囲まで拡大することになる。したがって、非通電相電圧の変化幅の拡大に伴い、閾値の変化幅も拡大する。
ここで、Δtごとに検出される非通電相電圧と閾値との関係が目標デューティ比に応じてどのように変化するかを示した図15を参照すると、前回の非通電相電圧Vk-1が前回の閾値Ek-1を上回る前に目標デューティ比Dtk-1が目標ディーティ比Dtkに低下した場合、デューティ比の低下量などに応じて閾値はEk-1からEkにΔV低下するが、前述のように、閾値の変化幅が拡大すると、今回の閾値Ekが前回の非通電相電圧Vk-1及び今回の非通電相電圧Vkよりも低くなってしまう可能性が高くなる。そうすると、今回の非通電相電圧Vkは今回の閾値Ekをすでに超えているが、前回の非通電相電圧Vk-1も今回の閾値Ekを超えてしまったことになり、非通電相電圧が閾値を横切ったことを判断するためのエッジが検出されず、通電モードが切り替わらない現象が発生しやすくなってしまう。
そこで、図13に示すように、前回の非通電相電圧Vk-1が前回の閾値Ek-1を上回る前に目標デューティ比Dtk-1が目標ディーティ比Dtkに減少した場合、既に検出され記憶されている前回の非通電相電圧Vk-1を補正して、今回の閾値Ekよりも低い値であったものとすれば、前述のエッジの検出が可能となって、通電モード切り替えの確実性が高まる。
以上のステップ4002〜ステップ4005は、非通電相電圧が閾値に向けて上昇しているときに(具体的には、通電モード(2)の場合に非通電相であるV相の電圧が閾値2-3以上となる前、通電モード(4)の場合に非通電相であるW相の電圧が閾値4-5以上となる前、又は通電モード(6)の場合に非通電相であるU相の電圧が閾値6-1以上となる前)、目標デューティ比が小さくなった場合についての補正処理を示しているが、ステップ4006〜ステップ4009は、これとは逆の場合についての補正処理を示している。すなわち、ステップ4006〜ステップ4009は、非通電相電圧が閾値に向けて低下しているときに(具体的には、通電モード(3)の場合に非通電相であるV相の電圧が閾値3-4以上となる前、通電モード(4)の場合に非通電相であるW相の電圧が閾値4-5以上となる前、又は通電モード(6)の場合に非通電相であるU相の電圧が閾値6-1以上となる前)、目標デューティ比が小さくなった場合についての補正処理を示し、ステップ4002〜ステップ4005における前回の非通電相電圧Vk-1の補正処理と同様の処理を行う。
以下、ステップ4006〜ステップ4009について簡単に説明する。
ステップ4006では、今回の閾値Ekを演算するために、前回の閾値Ek-1を補正する補正量ΔVを演算し、また、ステップ4007では、ステップ4006で演算された補正量ΔVに基づいて、前回の閾値Ek-1を補正することにより、今回の閾値Ekを演算する。具体的には、前回の閾値Ek-1に補正量ΔVを加算して今回の閾値Ekを演算する。
ステップ4008では、前回の非通電相電圧Vk-1と、今回の非通電相電圧Vkと、のいずれもが、ステップ4007で演算された今回の閾値Ekに対して、小さいか否かを判定する。
本ステップにおいて、前回の非通電相電圧Vk-1が今回の閾値Ek未満であり、かつ、今回の非通電相電圧Vkが今回の閾値Ek未満であると判定された場合には、ステップ4009へ進む(Yes)。一方、前回の非通電相電圧Vk-1が今回の閾値Ek以上であると判定された場合、あるいは、今回の非通電相電圧Vkが今回の閾値Ek以上であると判定された場合、前回の非通電相電圧Vk-1を補正することなく、本補正処理を終了する(No)。
ステップ4009では、前回の非通電相電圧Vk-1を補正する。具体的には、前回の非通電相電圧Vk-1に補正量ΔVを加算して補正後の非通電相電圧Vk-1を演算する。
このようなステップ4006〜ステップ4009の補正処理によっても、図16に示すように、前回の非通電相電圧Vk-1が前回の閾値Ek-1を下回る前に目標デューティ比Dtk-1が目標ディーティ比Dtkに上昇した場合、既に検出され記憶されている前回の非通電相電圧Vk-1を補正して、今回の閾値Ekよりも高い値であったものとすれば、前述のエッジの検出が可能となって、通電モード切り替えの確実性が高まる。
なお、前述の実施形態において、図12における前回の非通電相電圧Vk-1の補正処理を実施しても、何らかの理由により、非通電相電圧が閾値を横切ったことを判断するためのエッジが検出されない場合には、以下のようにして脱調の発生を抑制してもよい。
前回の非通電相電圧Vk-1が前回の閾値Ek-1を上回る前に目標デューティ比Dtk-1が目標ディーティ比Dtkに減少する状態を示す図13を参照して説明すると、第k回目のモータ駆動制御処理において通電モードの切り替えができない場合には、非通電相電圧は検出毎にVk+1、Vk+2と一定限度まで上昇していくので、第k回目の非通電相電圧Vkよりも高くなる電圧、例えば、前回の閾値Ek-1よりも+α(α>0)高い電圧を予備の閾値(Ek-1+α)として設定することにより、非通電相電圧が予備の閾値(Ek-1+α)に到達したら強制的に通電モードを切り替えるようにしてもよい。図16の場合には、予備の閾値は、例えば、(Ek-1−α)となる。要するに、モータ制御装置200において、目標デューティ比Dtk-1から目標デューティ比Dtkへ変化した後に、非通電相電圧が、今回の非通電相電圧Vkに対して今回の閾値Ekから離れる方向に設定された予備の閾値を横切った場合に、強制的に通電モードを切り替えるようにしてもよい。値αは、マッチングなどにより、通電モードやデューティ比毎に予め設定されてもよい。
また、前述の実施形態において、図7のステップ3008〜ステップ3010の実行によりブラシレスモータ100の回転速度域を低回転速度側に拡大することが可能であるが、これとは別に、パルス電圧を印加する相の切り替えタイミングを進角させることによっても、ブラシレスモータ100の低回転速度化を図ることもできる。しかし、図12の前回の非通電相電圧Vk-1の補正処理を実施しても、何らかの理由により、エッジが検出されない場合には、ブラシレスモータ100の低回転速度化の処理を停止してもよい。
具体的には、非通電相電圧が前述の予備の閾値(Ek-1+α)あるいは予備の閾値(Ek-1−α)に到達した場合、図7のステップ3006において、目標デューティ比Dtkが検出限界値Dlim未満であると判定された場合には、ステップ3008〜ステップ3010を実行せず、ステップ3007へ進むようにしてもよい。
前述の実施形態のうち、ステップ4001において、前回の目標デューティ比Dtk-1と今回の目標デューティ比Dtkとの間で大小比較を行い、その判定結果を、Dtk-1>Dtkの場合、Dtk-1=Dtkの場合、及び、Dtk-1<Dtkの場合と3つに区分したが、これに代えて、Dtk-1−β>Dtkの場合、Dtk-1−β≦Dtk≦Dtk-1+βの場合、及び、Dtk-1+β<Dtkの場合というように、誤差βを考慮して区分してもよい。これはDtk-1−β≦Dtk≦Dtk-1+βを満たす目標デューティ比であれば、前回の閾値から今回の閾値への変化幅も通電モードの切り替えに影響を与えるほど大きくないと推定されるからである。
前述の実施形態のうち、図12のステップ4003又はステップ4007において、閾値Ekは目標デューティ比の変化に応じた補正量ΔVにより補正されているが、これに限られず、ブラシレスモータ100の電流、温度、電圧を考慮して補正してもよい。
前述の実施形態のうち、図12のステップ4004において、前回の非通電相電圧Vk-1が今回の閾値Ekより大きく、かつ、今回の非通電相電圧Vkが今回の閾値Ekより大きいと判定された場合には、ステップ4005の実行、及び図5のステップ2006の実行を省略して、ステップ2007において強制的に通電モードの切り替えを実行してもよい。また、図12のステップ4005において、前回の非通電相電圧を補正する代わりに、今回の閾値Ekを、その後実行されるステップ2006における処理に1回だけ用いるために、例えば、前回の閾値Ek-1とするなど、一時的に今回の非通電相電圧Vkよりも大きくしてもよい。要するに、ステップ4005では、目標デューティ比Dtk-1から目標デューティ比Dtkへの変化後に非通電相電圧が今回の閾値Ekを横切ることができなくても横切ったものとして、通電モードの切り替えが可能となるような処理をしていればよい。
ここで、前記実施形態から把握し得る請求項以外の技術的思想について、以下に効果と共に記載する。
(イ)前記パルス幅変調信号のデューティ比の変化後に、非通電相に誘起される誘起電圧が、前記デューティ比の変化後最初に検出された誘起電圧に対して変化後の別の閾値から離れる方向に設定された予備の閾値を横切った場合に、強制的に通電モードを切り替えるように構成されたことを特徴とする請求項3に記載のブラシレスモータの制御装置。
このようにすれば、何らかの理由により、デューティ比の変化前に最後に検出された誘起電圧が補正されないか、あるいは補正できないためにエッジが検出不可能である場合、トルク効率が最もよい状態で通電モードを切り替え難くなっても、脱調が起こる可能性は低減することができる。
(ロ)ブラシレスモータの温度が変化した場合、変化前の閾値に前記温度の変化量に応じた補正量を加えて前記変化前の閾値を別の閾値に変更するように構成されたことを特徴とする請求項1〜請求項3、又は(イ)のいずれか1つに記載のブラシレスモータの制御装置。
このようにすれば、ブラシレスモータの温度の変化も考慮して閾値を変更するので、通電モードの切り替えの確実性をさらに向上させて、脱調の可能性を低減することができる。
(ハ)ブラシレスモータに流れる電流が変化した場合、変化前の閾値に前記電流の変化量に応じた補正量を加えて前記変化前の閾値を別の閾値に変更するように構成されたことを特徴とする請求項1〜請求項3、又は、(イ)若しくは(ロ)に記載のブラシレスモータの制御装置。
このようにすれば、ブラシレスモータに流れる電流の変化も考慮して閾値を変更するので、通電モードの切り替えの確実性をさらに向上させて、脱調の可能性を低減することができる。
(ニ)ブラシレスモータに印加される電圧が変化した場合、変化前の閾値に前記電圧の変化に応じた補正量を加えて前記変化前の閾値を別の閾値に変更するように構成されたことを特徴とする請求項1〜請求項3、又は(イ)〜(ハ)のいずれか1つに記載のブラシレスモータの制御装置。
このようにすれば、ブラシレスモータに印加される電圧の変化も考慮して閾値を変更するので、通電モードの切り替えの確実性をさらに向上させて、脱調の可能性を低減することができる。