JP2015058437A - 鋼板の矯正方法 - Google Patents

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健志 山根
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【課題】上下千鳥状にロールが配置されたローラレベラに鋼板を1パス以上通板して矯正する鋼板の矯正方法を提供する。
【解決手段】鋼板の矯正後の長手方向の残留応力目標値を設定し、矯正前後での残留応力変化量と矯正前残留応力を用いて演算される、矯正後の残留応力が前記残留応力目標値となるように矯正条件を設定する際、前記残留応力変化量として矯正時の鋼板の曲げ歪を用いて求まる値を、鋼板に作用する張力を用いて補正した値とする。
【選択図】図3

Description

本発明は、上下千鳥状にロールが配置されたローラレベラに鋼板を1パス以上通板して矯正する鋼板の矯正方法に関する。
近年、鋼の変態組織制御による機械的性質の向上を目的として、鋼板の熱間圧延工程において加速冷却が行われる場合がある。しかし冷却時において、冷却ムラに起因して、鋼板の幅方向温度分布が不均一となる場合、その後の空冷過程において熱収縮量が不均一となり、温度偏差に応じて残留応力が発生する。
大きな残留応力を持つ鋼板を加工して使用する場合、鋼板に残留応力に起因した形状不良が生じることがあるため、残留応力の低減を目的とした鋼板の矯正が行われている。
鋼板の矯正法の一つに、ローラレベラによる方法があり、上下千鳥状に配置された複数本のロール間に鋼板を通して幅方向均一に繰返し曲げを加えることによって、鋼板の残留応力を低減する。
ローラレベラは本来、鋼板の反りの矯正を目的として操業を行っているが、不均一な残留応力を持つ鋼板に対して、大きな曲げひずみを付与することで、降伏させ、除荷することで面内の残留応力差を解消することが可能である。
矯正条件の設定手法として、特許文献1に記載されている方法がある。この方法は、厚鋼板の切断後に鋼板残留応力に起因する形状不良が発生することを防止するために、ある矯正パスにおけるロール変形量と、予め設定されたロール変形量の許容値とを比較し、許容値を外れていた場合、再度許容値以下のロール変形量に制御して矯正を行うものである。
特許文献2には残留モーメントを計算により予測し、次パスの圧下設定を決定する方法が記載されている。n−1パス目矯正後の矯正材内部の残留モーメント分布M(n−1)を予め計算により予測し、さらにnパス目矯正後の残留モーメント分布M(n)を矯正前残留モーメント分布M(n−1)とnパス目の入側・出側の圧下量やロールたわみ量で構成される圧下設定目標値C(n)から繰返し計算により予測する方法である。
特許文献3は、ローラレベラによる矯正効果の把握を目的に、被矯正材の材料定数および矯正状態を精度良く推定し、矯正する方法を提案している。ローラ矯正中の矯正荷重および矯正動力を実測し、これら実測値に基づいて被矯正材の材料定数およびローラ矯正中の被矯正材に付与されている曲げ変形量を推定することが記載されている。
特許第3281537号公報 特開2005−288510号公報 特開2010−172925号公報
ローラレベラの実際の操業では、入側から出側にかけて漸減的にロール圧下量を変化させて複数パスで鋼板残留応力を低減させ、矯正するケースが多い。矯正前の残留応力には製造履歴によって大小のバラツキがあるため、残留応力に応じて矯正条件の設定がなされるべきである。
特許文献1は、鋼板の強度と寸法から、予め設定されたロール変形量の許容値以下のロール変形量に制御して矯正を行うものであるが、矯正条件は当該パス矯正前の残留応力を考慮していないため、矯正後の鋼板の残留応力にバラツキがあり、最適な矯正条件とはならない。
特許文献2は、計算によってnパス矯正後の残留モーメント、残留応力を得ることができるが、レベラ矯正後の鋼板残留応力を算出する繰返し曲げ計算モデルを用いて計算する必要があり、複数パス連続して矯正を行う実操業に適用する上では、計算に時間を要する本方法は実用的と言えない。
特許文献3の、被矯正材の材料定数および曲げ変形量などの矯正状態を推定し、被矯正材の反りや波形状を平坦化するための最適な曲げ変形量を算出し、最適な曲げ変形量を付与するようにローラレベラの各ロール位置を修正してローラレベラを操業する方法は、反りや波形状の解消が目的で、残留応力変化量の予測までは言及されておらず、矯正後の残留応力は未知のままである。
このように、ローラレベラ矯正で、操業上実用的に、任意の矯正条件下における矯正前後での残留応力変化量を求める方法は確立されていない。特に、ローラレベラ矯正では曲げ変形を付与することのみが目的と考えられているため、付与した曲げひずみの大きさから矯正前後の残留応力変化を予測するのが一般的で、矯正前の鋼板の残留応力や矯正時のロール軸方向の張力が当該残留応力変化に及ぼす影響は考慮されてこなかった。
そこで本発明は、任意の矯正条件下における曲げひずみと、矯正前および/または矯正時の鋼板に作用する張力の影響を考慮して、矯正前後の残留応力変化量を予測し、目標とする残留応力となるように矯正条件を設定する、1パス以上の矯正に対応可能な鋼板の矯正方法を提供することを目的とする。
本発明の課題は以下の手段で達成可能である。
1.上下千鳥状にロールが配置されたローラレベラに鋼板を通板して矯正する鋼板の矯正方法であって、前記鋼板の矯正後の長手方向の残留応力目標値を設定し、矯正前後での残留応力変化量と矯正前残留応力を用いて演算される、矯正後の残留応力が前記残留応力目標値となるように矯正条件を設定する際、前記残留応力変化量として矯正時の鋼板の曲げ歪を用いて求まる値を、鋼板に作用する張力を用いて補正した値とすることを特徴とする鋼板の矯正方法。
2.前記鋼板に作用する張力が、矯正の際に前記鋼板のロール軸方向の圧下量差によって生じる張力であることを特徴とする1記載の鋼板の矯正方法。
3.前記鋼板に作用する張力が、矯正前の鋼板に作用しているロール軸方向の残留応力差によって生じる張力であることを特徴とする1記載の鋼板の矯正方法。
4.前記鋼板に作用する張力が、矯正の際に前記鋼板のロール軸方向の圧下量差によって生じる張力と矯正前の鋼板に作用している幅方向の残留応力差によって生じる張力の和であることを特徴とする1記載の鋼板の矯正方法。
5.上下千鳥状にロールが配置されたローラレベラに鋼板を通板して矯正する鋼板の矯正方法であって、前記鋼板の矯正後の長手方向の残留応力目標値を設定し、矯正前後での残留応力変化量と矯正前残留応力を用いて演算された、矯正後の残留応力が前記残留応力目標値となるように、矯正条件を設定する際、前記残留応力変化量を、残留応力変化量予測指標(式(1)のことを指す)を用いて演算することを特徴とする鋼板の矯正方法。
Figure 2015058437
・・・(1)
ここで、各変数は以下を表す
Δσ:残留応力変化量
K:曲率係数
:圧下量差によって生じる張力係数
:矯正前残留応力によって生じる張力係数
ε:弾性限ひずみ
E:ヤング率
6.2パス目以降は、前パスの矯正後残留応力を当該パスの矯正前残留応力とすることを特徴とする1乃至5のいずれか一つに記載の鋼板の矯正方法。
本発明では、ローラレベラ矯正過程に生じる張力の影響を考慮するので、矯正後残留応力を正確に予測し、被矯正材の寸法や強度と矯正前残留応力、目標残留応力から適正な矯正条件を定めることが可能で、残留応力が十分に低減された鋼板を能率的かつ安定的に製造することができ、産業上極めて有用である。
本発明を適用する、上下千鳥状にロールが配置されたローラレベラによる鋼板の矯正方法を説明する図で(a)は側面図、(b)は正面図。 レベリングロールのロール軸方向の圧下量の差によって生じる経路長の差を示す模式図。 実施例による本発明と従来技術による矯正後残留応力を比較して示す図。
図1は本発明を適用する、上下千鳥状にロールが配置されたローラレベラによる鋼板の矯正方法を説明する図で、(a)はローラレベラを鋼板の搬送方向(板長さ方向)から見る側面図、(b)はローラレベラを鋼板の搬送方向と直角方向(板幅方向)から見る正面図を示す。図において、1は油圧シリンダ、2はウェッジ、3は上バックアップロール、4は上レベリングロール、5は下レベリングロール、6は下バックアップロール、7は矯正される鋼板を示す。
矯正する際は、ローラレベラ入側と出側の上レベリングロール4と下レベリングロール5の圧下量、上レベリングロール4と下レベリングロール5のロールクラウニング量、及び幅方向のロールたわみ量を設定する。
ローラレベラ入側、出側の圧下量は油圧シリンダ1で設定し、上レベリングロール4と下レベリングロール5のロールクラウニングはウェッジ2の設定量を変化させることで、上バックアップロール3、下バックアップロール6を介して任意のロールクラウニングに設定する。
矯正条件を設定する際は、矯正される鋼板の寸法および降伏強度、矯正前残留応力、矯正パス数、各パス後の目標残留応力を入力データとして与え、鋼板の矯正後の長手方向の残留応力目標値を設定し、矯正前後での残留応力変化量と矯正前残留応力を用いて演算される、矯正後の残留応力が前記残留応力目標値となるように、上述したロール圧下量、ロールクラウニング量、及び幅方向のロールたわみ量を設定する。2パス目以降は、前パスの矯正後残留応力を当該パスの矯正前残留応力として与える。
本発明では、鋼板の矯正条件の設定で必要となる、矯正前後での残留応力変化量を、残留応力変化量予測指標(式(1)のことを指す)を用いて求める。残留応力変化量予測指標(式(1)のことを指す)は、矯正時の鋼板の曲げ歪を用いて求めた値を、鋼板に作用する張力を用いて補正した値とすることを特徴とする。なお、矯正前後での残留応力変化量を、矯正時の鋼板の曲げ歪を用いて求めることは、従来より行われている。
Figure 2015058437
・・・(1)
ここで、各変数は以下を表す
Δσ:残留応力変化量
K:曲率係数
:圧下量差によって生じる張力係数
:矯正前残留応力によって生じる張力係数
ε:弾性限ひずみ
E:ヤング率
ローラレベラによる矯正の場合、矯正中のロールが鋼板から受ける荷重によるたわみや、ロール磨耗、もしくは任意のロールクラウニングに制御した場合に、ロール軸方向の圧下量差によって鋼板に張力が発生する。
図2はその発生原理を説明する模式図で、(a)は上レベリングロール4と下レベリングロール5のロール軸方向の中央において圧下量h1にて鋼板7を圧下している状態、(b)は上レベリングロール4と下レベリングロール5のロール軸方向の端部において圧下量h2にて鋼板7を圧下している状態を示す。ここでは、上レベリングロール4のロールクラウニングを調整することにより、圧下量h1とh2の差を発生させている。2つの下レベリングロール5間の鋼板7の形状を(a)と(b)とで比較すると、圧下量h1が圧下量h2よりも大きいので、(a)の方が(b)に比べて、鋼板7が2つの下レベリングロール5の中間付近で大きく下方にたわんでいる。このことは、2つの下レベリングロール5間の鋼板7の長さを比較すると、(a)の方が(b)に比べて長くなっていることにほかならない。これが、ロール軸方向の鋼板経路長の差であり、実際の矯正においては、この鋼板経路長の違いに対応した応力が鋼板に作用する。
また、ローラレベラによる矯正前に鋼板に作用している幅方向の残留応力差または伸び差によってもその差に対応した張力が鋼板に生じる。
式(1)によって、残留応力変化量(Δσ)を求める場合、圧下量差によって生じる張力係数(T)は、ロール軸方向の鋼板経路長差による張力を、矯正する鋼板の降伏応力で除して求め、矯正前残留応力によって生じる張力係数(T)は、矯正前に鋼板に作用している幅方向の残留応力差または伸び差による張力を、矯正する鋼板の降伏応力で除して求める。
本発明により矯正前後での残留応力変化量を求めて、矯正後の残留応力が目標値となるように矯正条件を設定する際、矯正におけるロール軸方向の鋼板経路長差による張力が無視できる場合は、式(1)における圧下量差によって生じる張力係数(T)を0として残留応力変化量を求める。また、同様に、矯正前残留応力差または伸び差による張力が無視できる場合は、式(1)における矯正前残留応力によって生じる張力係数(T)を0として残留応力変化量を求める。
板厚13mm、板幅4800mm、降伏強度400MPaの鋼板を4枚準備し、ローラレベラを用いて、矯正した後の鋼板の残留応力をコンタクトゲージ法で測定した。
表1に本実施例で用いたローラレベラのロール本数、ロール径、ロール胴長、ロールピッチ、最大荷重を示し、表2にそれぞれの鋼板の矯正条件を示す。ここで、矯正前残留応力は幅端部で35.7MPa、目標残留応力は10±2.5MPa以内とした。矯正後残留応力は実測した。
矯正における入側および出側の圧下量調整は油圧シリンダで行い、ロールクラウニングは図1のウェッジ2により設定し、正転および逆転の2パス矯正を行っている。
入側および出側の圧下量は、それぞれ、入側から2番目のロール、および、入側から8番目のロール、におけるチョック位置基準の鋼板表層からの押込み量と定義し、ロールクラウニングを鋼板幅中央部と端部の圧下量の偏差と定義した。
表2の実施例1は、従来と同様に曲げ曲率を考慮した上で、さらに、圧下量差および矯正前残留応力によって生じる張力の両方を考慮した場合の矯正条件である。実施例2は、従来と同様に曲げ曲率を考慮した上で、矯正前残留応力によって生じる張力は考慮せずに圧下量差によって生じる張力のみを考慮した場合の矯正条件である。実施例3は、従来と同様に曲げ曲率を考慮した上で、圧下量差によって生じる張力は考慮せずに残留応力によって生じる張力のみを考慮した場合の矯正条件である。比較例は、従来条件による矯正で、張力を考慮せず、曲げ曲率のみを考慮した場合である。
図3に上記の各実施例による矯正後残留応力(実測値)と目標残留応力との比を示す。比較例は目標範囲を満足しないが、張力を考慮した実施例2、3の場合に目標範囲内の残留応力を達成している。圧下量差および矯正前残留応力によって生じる張力の両方を考慮した実施例1の場合、目標残留応力との誤差が最小となっている。
Figure 2015058437
Figure 2015058437
1:油圧シリンダ
2:ウェッジ
3:上バックアップロール
4:上レベリングロール
5:下レベリングロール
6:下バックアップロール
7:鋼板

Claims (6)

  1. 上下千鳥状にロールが配置されたローラレベラに鋼板を通板して矯正する鋼板の矯正方法であって、前記鋼板の矯正後の長手方向の残留応力目標値を設定し、矯正前後での残留応力変化量と矯正前残留応力を用いて演算される、矯正後の残留応力が前記残留応力目標値となるように矯正条件を設定する際、前記残留応力変化量として矯正時の鋼板の曲げ歪を用いて求まる値を、鋼板に作用する張力を用いて補正した値とすることを特徴とする鋼板の矯正方法。
  2. 前記鋼板に作用する張力が、矯正の際に前記鋼板のロール軸方向の圧下量差によって生じる張力であることを特徴とする請求項1記載の鋼板の矯正方法。
  3. 前記鋼板に作用する張力が、矯正前の鋼板に作用している幅方向の残留応力差によって生じる張力であることを特徴とする請求項1記載の鋼板の矯正方法。
  4. 前記鋼板に作用する張力が、矯正の際に前記鋼板のロール軸方向の圧下量差によって生じる張力と矯正前の鋼板に作用している幅方向の残留応力差によって生じる張力の和であることを特徴とする請求項1記載の鋼板の矯正方法。
  5. 上下千鳥状にロールが配置されたローラレベラに鋼板を通板して矯正する鋼板の矯正方法であって、前記鋼板の矯正後の長手方向の残留応力目標値を設定し、矯正前後での残留応力変化量と矯正前残留応力を用いて演算される、矯正後の残留応力が前記残留応力目標値となるように矯正条件を設定する際、前記残留応力変化量を、残留応力変化量予測指標(式(1)のことを指す)を用いて演算することを特徴とする鋼板の矯正方法。
    Figure 2015058437
    ・・・(1)
    ここで、
    Δσ:残留応力変化量
    K:曲率係数
    :圧下量差によって生じる張力係数
    :矯正前残留応力によって生じる張力係数
    ε:弾性限ひずみ
    E:ヤング率
  6. 2パス目以降は、前パスの矯正後残留応力を当該パスの矯正前残留応力とすることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一つに記載の鋼板の矯正方法。
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