JP2015052562A - 表面増強ラマン散乱測定用基板、及びその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】複数の微小突起が密接して配置され、隣接する前記微小突起間の距離の平均が1000nm以下である微小突起構造体を有する微細凹凸層と、平均粒径が前記微小突起間の距離の平均よりも小さい金属ナノ粒子とを有し、前記金属ナノ粒子が前記微小突起構造体の表面に担持されている、表面増強ラマン散乱測定用基板。
【選択図】図1
Description
バイオの分野の検出法として、表面増強ラマン分光法(Surface Enhanced Raman Spectroscopy:以下、SERSと略することがある)が物質の同定などに用いる超高感度分析方法として注目されている。ラマン分光法は、ラマン効果により散乱した光と入射光のエネルギーの差が物質内の分子や結晶の振動準位や回転準位、もしくは電子準位のエネルギーに対応することから、単色光であるレーザを入射光として用い、その分子固有のエネルギー状態を反映した光に変調される現象を利用して、スペクトルから化学種を同定し、その散乱光強度から目的物質の定量を行う方法である。ラマン分光法の感度は本質的に低いため、微少量の試料分析には適していないという問題があった。一方、金属ナノ粒子においては金属表面に存在する自由電子が集合的に振動する現象であるプラズモンが金属表面に存在し、この表面プラズモンは可視〜近赤外領域の光電場とカップリングさせることによって、金属ナノ粒子表面において著しく電場を増強させる。この表面プラズモン共鳴を利用して、金属ナノ粒子表面に吸着させた分子にレーザ光を照射すると、吸着分子から発生するラマン散乱光を飛躍的に増強させることができるので、当該表面増強ラマン分光法が注目されるに至っている。
特許文献2には、金属微粒子を含有した高分子フィルムを製造する方法として、金属微粒子の水分散液と高分子を溶解した有機溶媒液を混合して水相と有機相に分離した分離溶液を形成し、次いで該分離溶液中の液液界面に金属微粒子を薄膜状に凝集させた後に有機相に含まれる高分子をフィルム化することによって液液界面に形成された金属微粒子凝集体を該フィルムに取り込ませ、該金属微粒子薄膜凝集体がフィルムの片側表層部分に含有された高分子フィルムを製造する方法が開示されている。
しかし、貴金属ナノワイヤの交点や貴金属ナノ粒子の結合により形成されたホットサイトによる増強効果は強い偏光依存性が存在するため、精密な偏光制御が必要となるという問題点がある(非特許文献1、2)。
蒸着法を用いて前記微小突起構造体表面に金属原子を付着することにより、金属ナノ粒子を形成し、担持する工程とを有することを特徴とする。
さらに、本件明細書において用いる、形状や幾何学的条件並びにそれらの程度を特定する、例えば、「平行」、「直交」、「同一」等の用語や長さや距離の値等については、厳密な意味に縛られることなく、同様の機能を期待し得る程度の範囲を含めて解釈することとする。
蒸着法を用いて前記微小突起構造体表面に金属原子を付着することにより、金属ナノ粒子を形成し、担持する工程とを有することを特徴とする。
また、本発明に係る表面増強ラマン散乱測定用基板は、前記特定の微小突起構造体の表面の表面積が平坦面に比べて大きいため、平坦面に比べて多くの金属ナノ粒子を担持することができる。その結果、本発明に係る表面増強ラマン散乱測定用基板は、金属ナノ粒子によるSERS活性をさらに増大することができ、測定感度に優れる。
また、従来の分散液を用いて得られる測定用基板においては、金属ナノ粒子が分散剤等に覆われてSERS活性が悪化する問題があり、分散剤を除去するためには焼成工程が必要となり、製造工程が増えてしまうという問題があった。これに対し、本発明に係る表面増強ラマン散乱測定用基板は、分散液を用いず、気相法により製造することができる。そのため、一工程で簡易に製造できる上に、金属ナノ粒子表面が分散剤等に覆われることがなく、金属ナノ粒子によるSERS活性が高く、測定感度に優れる。
更に、本発明に係る表面増強ラマン散乱測定用基板は、前記金属ナノ粒子が前記微小突起構造体の表面に担持されていることから、前記微小突起の大きさや配列により前記微小突起構造体の凹凸表面形状を適宜調整することによって、前記金属ナノ粒子の配置を所望の配置とすることができる。例えば、微小突起の大きさや配列の偏差が小さい均一な凹凸表面形状を有する微小突起構造体の表面に金属ナノ粒子を担持した場合には、金属ナノ粒子は均等に配置され易いことから、ナノギャップによるホットサイトも均等に配置され易く、実質的に偏光依存性が存在せず、精密な偏光制御が不要となるというメリットがある。
また、本発明に係る表面増強ラマン散乱測定用基板の製造方法によれば、蒸着法を用いて前記微小突起構造体表面に金属原子を付着することにより、金属ナノ粒子を形成し担持することから、金属ナノ粒子の大きさ、形状、配置は、前記微小突起構造体表面の形状を調整することにより、ある程度適宜調整可能である。そのため、金属ナノ粒子のコンフォメーションを精密に制御することができる。
図1は、本発明に係る表面増強ラマン散乱測定用基板の一例を模式的に示す断面図であり、図1に示す表面増強ラマン散乱測定用基板10は、複数の微小突起22が密接して配置され、隣接する前記微小突起22間の距離dの平均が1000nm以下である微小突起構造体21を有する微細凹凸層20を有し、平均粒径が前記微小突起22間の距離dの平均よりも小さい金属ナノ粒子30が前記微小突起構造体21の表面に担持されている。また、図1に示すように、表面増強ラマン散乱測定用基板10は、支持体として透明基材11を含んでいてもよい。
図2は、本発明に係る表面増強ラマン散乱測定用基板の別の一例を模式的に示す断面図であり、図2に示す表面増強ラマン散乱測定用基板10’は、微細凹凸層20の微小突起構造体21側の表面が無機酸化物層25からなり、透明基材11を含まない。
本発明に係る表面増強ラマン散乱測定用基板10は、複数の微小突起22が密接して配置され、隣接する前記微小突起22間の距離の平均が1000nm以下である微小突起構造体21を有する微細凹凸層20を有する。ここで、微小突起の「微小」とは、1000nm以下の平均間隔dAVGで配列される程度に微小であることを意味している。
前記微小突起構造体21を構成する各微小突起22は、微細凹凸層20に植立するように形成され、その形状は、特に限定されないが、所望の大きさの金属ナノ粒子30を担持させることができ、さらに、金属ナノ粒子30を均一に且つ安定して配置し易い点から、例えば、当該微小突起22の深さ方向と直交する水平面で切断したと仮定したときの水平断面内における当該微小突起22を形成する材料部分の断面積占有率が、当該微小突起22の頂部から最深部方向に近づくに従い連続的に漸次増加する構造、すなわち各微小突起が先細りとなる構造を有するものが好ましい。このような微小突起22の形状の具体例としては、半円状、半楕円状、三角形状、放物線状、釣鐘状等の垂直断面形状を有するものが挙げられる。複数ある微小突起22は、同一の形状を有していても異なる形状を有していてもよい。また、微小突起の頂上は、曲面を有することが金属ナノ粒子の形成性の点から好ましい。
また、各微小突起の深さ方向と直交する水平面で切断したと仮定したときの水平断面の長径と短径の比(長径/短径)は、表面積を広くする点から、1以上1.5以下であることが好ましく、更に1以上1.2以下であることが好ましい。
また、前記微小突起22間の距離の平均dAVGは、前記金属ナノ粒子の平均粒径よりも大きければ特に限定されないが、通常50nm以上である。
この隣接突起間距離dに係る隣接する微小突起は、いわゆる隣り合う微小突起であり、付け根部分である微小突起の裾の部分が接している突起である。本発明に用いられる微細凹凸層は、微小突起が密接して配置されることにより、微小突起間の谷の部位を順次辿るようにして線分を作成すると、平面視において各微小突起を囲む多角形状領域を多数連結してなる網目状の模様が作製されることになる。隣接突起間距離dに係る隣接する微小突起は、この網目状の模様を構成する一部の線分を共有する突起である。
多峰性の微小突起は、単峰性の微小突起に比して、頂点近傍の寸法に対する裾の部分の太さが相対的に太く、さらに、外力をより多くの頂点で分散して受ける為、各頂点に加わる外力を低減し、微小突起を損傷し難いようにすることができると考えられる。よって、本発明の表面増強ラマン散乱測定用基板10は、微小突起構造体21を構成する微小突起22として、多峰性の微小突起を有することにより、機械的強度及び耐擦傷性も向上する。
前記微小突起22の高さHの平均HAVGは、1μm以下であることが好ましく、更に500nm以下であることが好ましく、より更に50〜350nmであることが好ましく、100〜250nmであることが特に好ましい。
ここで各微小突起22の高さHとは、その頂部に存在する最高高さを有する峰(最高峰)の高さを言う。単峰性の微小突起の場合は、頂部における唯一の峰の高さが該微小突起の突起高さとなる。多峰性の微小突起の場合は、頂部に在る麓部を共有する複数の峰のうちの最高峰の高さをもって該微小突起の高さとする。
(1)先ず、原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope:AFM)又は走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)を用いて突起の面内配列(突起配列の平面視形状)を検出する。
一方、前記微小突起構造体中の各微小突起が一定周期で規則正しく配置されている場合には、隣接突起間距離dの標準偏差σdが0となり、微小突起配列の周期pと一致するため、dAVG=pとなる。
前記微小突起構造体の表面を形成する各微小突起が一定周期で規則正しく配置されている場合の当該各微小突起としては、例えば、六方格子状、準六方格子状、四方格子状、又は準四方格子状に周期的に配列されてなるもの等を挙げることができる。
ここで、六方格子とは、正六角形状の格子のことをいい、準六方格子とは、正六角形状の格子とは異なり、歪んだ正六角形状の格子のことをいう。また、四方格子とは、正四角形状の格子のことをいい、準四方格子とは、正四角形状の格子とは異なり、歪んだ正四角形状の格子のことをいう。
六方格子状に周期的に配列されてなるとは、正六角形状の格子パターンにより周期的に配列されてなることをいい、準六方格子状に周期的に配列されてなるとは、例えば微小突起の配列方向に引き伸ばされ歪んだ六方格子パターンにより周期的に配列されてなるものが挙げられる。なお、微小突起の配列は、直線状のみならず、蛇行していてもよい。
前記微小突起構造体の表面を形成する各微小突起が不規則に配置されている場合の当該微小突起としては、前記微小突起構造体の表面を形成する全ての微小突起が不規則に配置されているものが好ましいが、一定周期で規則正しく配置されてなる微小突起を一部に含んでいてもよい。
本発明において、微小突起構造体の表面を形成する各微小突起は、特に限定されるものではないが、中でも不規則に配置されていることが好ましい。前記各微小突起が規則的に配置されている場合、その規則的な構造が回折格子として働いてラマン励起光が不要な回折をされる恐れがあるが、前記各微小突起が不規則に配置されていることにより、ラマン励起光の不要な回折を防ぐことができるからである。
微細凹凸層20の微小突起構造体21側表面が無機酸化物層25からなることにより、前記微細凹凸層20が樹脂を含む場合においても、金属ナノ粒子30による樹脂のスペクトル増強が防止される。これにより、本発明に係る表面増強ラマン散乱測定用基板の測定性能がより向上する。
前記無機酸化物層25の材料としては、特に限定されないが、ラマン活性がないもしくは弱い材料であることが好ましく、例えば、酸化チタン(TiO2)、アルミナ(Al2O3)、ジルコニア(ZrO2)、酸化スズ、酸化亜鉛、二酸化ケイ素、及びこれらのアモルファス型物質等が挙げられる。
なお、前記無機酸化物層は、単一の層からなる構成に限られず、複数の層が積層された構成を有してもよい。
本発明に用いられる微小突起構造体21を表面に有する微細凹凸層20としては、所望の微小突起構造体21が形成された市販品を用いてもよい。一方、当該微細凹凸層20を形成する場合は、上述の微小突起構造体21を形成できる方法であれば特に限定されない。
例えば、透明基材11の一方の面に微細凹凸層用樹脂組成物の硬化物からなる複数の微小突起22が密接して配置されてなる微小突起構造体21を有する微細凹凸層20の形成方法の具体例としては、まず透明基材11上に微細凹凸層用樹脂組成物を塗布して塗膜を形成し、所望の凹凸形状を有する微小突起構造体形成用原版の該凹凸形状を、前記樹脂組成物の塗膜に賦形した後、前記樹脂組成物を硬化させることにより微小突起構造体21を形成し、前記微小突起構造体形成用原版を剥離する方法等が挙げられる。
なお、微小突起構造体形成用原版の凹凸形状とは、多数の微小孔が密に形成されたものであり、微小突起構造体21の形状に対応する形状である。
微小突起構造体形成用原版の凹凸形状を微細凹凸層用樹脂組成物に賦形し、該樹脂組成物を硬化させる方法は、樹脂組成物の種類等に応じて適宜選択することができる。
また、微細凹凸層20は、図1に示すように、透明基材11の一方の面に形成してもよい。この場合、透明基材11は微細凹凸層20の支持体となる。或いは、前記樹脂組成物を硬化させることにより微小突起構造体21を形成した後、製造に使用した透明基材は必要に応じて剥離して、図2に示すように微細凹凸層20のみとしてもよい。
前記透明基材11としては、公知の透明基材を適宜選択して用いることができ、特に限定されない。透明基材11に用いられる材料としては、例えば、透明樹脂が挙げられる。透明樹脂としては、例えば、トリアセチルセルロース等のアセチルセルロース系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリエチレンやポリメチルペンテン等のオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエーテルサルホンやポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテル、ポリエーテルケトン、アクロニトリル、メタクリロニトリル、シクロオレフィンポリマー、シクロオレフィンコポリマ一等を挙げることができる。また、透明基材11に用いられる材料としては、例えばソーダ硝子、カリ硝子、無アルカリガラス、鉛ガラス等の硝子、ジルコン酸チタン酸鉛ランタン(PLZT)等のセラミックス、石英、蛍石等の各種透明無機材料等も挙げられる。
本発明において、前記微細凹凸層20は、特に限定されないが、例えば、樹脂を含有してなる層とすることができ、更に、樹脂組成物を硬化させてなるものとすることができる。
微細凹凸層用樹脂組成物は、少なくとも樹脂を含み、必要に応じて重合開始剤等その他の成分を含有する。当該樹脂組成物に用いられる樹脂としては、特に限定されないが、例えば、アクリレート系、エポキシ系、ポリエステル系等の電離放射線硬化性樹脂、アクリレート系、ウレタン系、エポキシ系、ポリシロキサン系等の熱硬化性樹脂、アクリレート系、ポリエステル系、ポリカーボネート系、ポリエチレン系、ポリプロピレン系等の熱可塑性樹脂等の各種材料及び各種硬化形態の賦型用樹脂を使用することができる。また、非反応性重合体を含有してもよい。なお、電離放射線とは、分子を重合させて硬化させ得るエネルギーを有する電磁波または荷電粒子を意味し、例えば、すべての紫外線(UV、UV−B、UV−C)、可視光線、ガンマー線、X線、電子線等が挙げられる。
中でも、微細凹凸層用樹脂組成物は、アクリレート系、エポキシ系、ポリエステル系の電離放射線硬化性樹脂よりなる群から選ばれる少なくとも一種を含むことが好ましく、更に、アクリロイル基及び/又はメタクリロイル基を有するアクリレート系の電離放射線硬化性樹脂から選ばれる少なくとも一種を含むことが好ましい。
前記微小突起構造体形成用原版としては、繰り返し使用した際に変形および摩耗するものでなければ、特に限定されるものではなく、金属製であっても良く、樹脂製であっても良いが、通常、耐変形性および耐摩耗性に優れている点から、金属製が好適に用いられる。
前記微小突起構造体形成用原版の凹凸形状を有する面は、特に限定されないが、酸化されやすく、陽極酸化による加工が容易である点から、アルミニウムからなることが好ましい。
前記微小突起構造体形成用原版は、具体的には、例えば、ステンレス、銅、アルミニウム等の金属製の母材の表面に、直接に又は各種の中間層を介して、スパッタリング等により純度の高いアルミニウム層が設けられ、当該アルミニウム層に凹凸形状を形成したものが挙げられる。前記母材は、前記アルミニウム層を設ける前に、電解溶出作用と、砥粒による擦過作用の複合による電解複合研磨法によって母材の表面を超鏡面化しても良い。
前記微小突起構造体形成用原版に凹凸形状を形成する方法としては、例えば、陽極酸化法によって前記アルミニウム層の表面に複数の微小孔を形成する陽極酸化工程と、前記アルミニウム層をエッチングすることにより前記微小孔の開口部にテーパー形状を形成する第1エッチング工程と、前記アルミニウム層を前記第1エッチング工程のエッチングレートよりも高いエッチングレートでエッチングすることにより前記微小孔の孔径を拡大する第2エッチング工程とを順次繰り返し実施することによって形成することができる。
微小突起構造体形成用原版に凹凸形状を形成する際には、アルミニウム層の純度(不純物量)や結晶粒径、陽極酸化処理及び/又はエッチング処理の諸条件を適宜調整することによって、所望の形状とすることができる。前記陽極酸化処理において、より具体的には、液温、印加する電圧、陽極酸化に供する時間等の管理により、微小孔をそれぞれ目的とする深さ及び形状に作製することができる。
前記ロール金型としては、例えば、母材として、円筒形状の金属材料を用い、当該母材の周側面に、直接に又は各種の中間層を介して設けられたアルミニウム層に、上述したように、陽極酸化処理、エッチング処理の繰り返しにより、凹凸形状が作製されたものが挙げられる。
また、個々の微小突起の高さのばらつきは、微小突起構造体形成用原版に形成される微小孔の深さのばらつきによるものであり、このような微小孔の深さのばらつきは、陽極酸化処理におけるばらつきに起因するものと言える。個々の微小突起に高さのばらつきをもたせるには、陽極酸化処理におけるばらつきを大きくすることにより実現することができる。
本発明に係る表面増強ラマン散乱測定用基板10は、金属ナノ粒子30が前記微小突起構造体21の表面に担持されている。ここで、本発明において担持とは、担体に粒子を付着している状態で持っていることをいい、具体的には、微細凹凸層20の微小突起構造体21側表面に金属ナノ粒子30を付着している状態で持っていることをいう。本発明に係る表面増強ラマン散乱測定用基板10において得られる様々な特性は、通常、金属ナノ粒子30自体に基づいて発揮されるものである。
隣接する金属ナノ粒子30間の距離の標準偏差は、ラマン散乱強度のばらつきを抑える点から、10nm以下であることが好ましく、5nm以下であることがより好ましい。
また、同様の観点から、前記金属ナノ粒子30は、堆積されておらず、単層の状態で配置されていることがより好ましい。
これらの点を考慮すると、金属ナノ粒子30は、金、銀、銅、白金、パラジウム、ニッケル、及び、これらの合金よりなる群から選択される1種以上の金属ナノ粒子であることが好ましい。
金属ナノ粒子30の平均粒径は、金属ナノ粒子30が微細凹凸層20の微小突起構造体21によって安定に担持される限りにおいて特に限定されないが、例えば20〜30nmの範囲内となっている。
真空蒸着法の場合、通常、真空排気系と、蒸発源と、基板ホルダーを備えた真空蒸着装置が用いられる。
真空排気系は、従来公知の高真空排気系を用いればよい。例えば、荒引きポンプとして油回転ポンプ、ドライポンプ等を用い、必要に応じてルーツポンプ等をブースターポンプとして併用することができる。高真空ポンプとしては、拡散ポンプ、クライオポンプ等を用いることができる。拡散ポンプを用いる場合には、−120〜−150℃程度のコールドトラップを更に備えていてもよい。
蒸発源は、金属を加熱蒸発するための加熱源を有する。加熱源としては、抵抗加熱、電子ビーム加熱等が挙げられる。
上述した本発明の実施の形態に対しては、様々な変更を加えることが可能である。以下、変形の一例について説明する。なお、以下の説明では、上述した実施の形態と同様に構成され得る部分について、上述の実施の形態における対応する部分に対して用いた符号と同一の符号を用いることとし、重複する説明を省略する。
例えば、上述した実施の形態において、表面増強ラマン散乱測定用基板10が、一方の面側のみに、微細凹凸層20の微小突起構造体21を有し且つ当該当該微小突起構造体21上に金属ナノ粒子30が配置されている例を示したが、これに限られない。表面増強ラマン散乱測定用基板10が、一方の面側および他方の面側の両側に微細凹凸層20の微小突起構造体21を有し、且つ、両方の微小突起構造体21上に金属ナノ粒子30が配置されていてもよい。或いは、表面増強ラマン散乱測定用基板10が、一方の面側および他方の面側の両側に微細凹凸層20の微小突起構造体21を有し、且つ、片方の微小突起構造体21上のみに金属ナノ粒子30が配置されていてもよい。
また、上述した実施の形態において、表面増強ラマン散乱測定用基板10が、透明基材11と、微細凹凸層20と、金属ナノ粒子30と、からなる例(図1)、及び微細凹凸層20の表面が無機酸化物層25からなる例(図2)を示したが、これらに限られない。表面増強ラマン散乱測定用基板10から透明基材11が省かれてもよいし、表面増強ラマン散乱測定用基板10、10’に、他の層が追加されてもよい。
本発明に係る表面増強ラマン散乱測定用基板は、ラマン分光法、赤外分光法等の分光分析方法に幅広く適用することができ、例えば、臨床検査、環境モニタリング、品質管理、残留農薬や着香の分析などの食品検査、危険物の検出などのセキュリティ検査等の分野に適用することができる。
[実施例1]
(微細凹凸層の準備)
<微小突起構造体形成用原版の製造>
純度99.50%の圧延されたアルミニウム板を、その表面が、十点平均粗さRz30nm、且つ周期1μmの凹凸形状となるように研磨後、0.02Mシュウ酸水溶液の電解液中で、化成電圧40V、20℃の条件にて120秒間、陽極酸化を実施した。次に、第一エッチング処理として、陽極酸化後の電解液で60秒間エッチング処理を行った。続いて、第二エッチング処理として、1.0Mリン酸水溶液で150秒間孔径処理を行った。さらに、上記処理を繰り返し、これらを合計5回追加実施した。これにより、アルミニウム基板上に微細な凹凸形状が形成された陽極酸化アルミニウム層が形成された。最後に、フッ素系離型剤を塗布し、余分な離型剤を洗浄することで、微小突起構造体形成用原版を得た。
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA)20質量部、アロニックスM−260(東亜合成社製)70質量部、ヒドロキシエチルアクリレート10質量部、ルシリンTPO 3質量部を酢酸エチル300質量部に溶解させ、樹脂組成物を調製した。
前記微細凹凸層形成用樹脂組成物を、前記微小突起構造体形成用原版の微細凹凸面が覆われ、硬化後の微細凹凸層の厚さが20μmとなるように塗布、充填し、その上に透明基材として厚さ80μmのトリアセチルセルロース(TAC)フィルム(富士フィルム社製)を斜めから貼り合わせた後、貼り合わせられた貼合体をゴムローラーで10N/cm2の加重で圧着した。原版全体に均一な組成物が塗布されたことを確認し、透明基材側から2000mJ/cm2のエネルギーで紫外線を照射して微細凹凸層形成用樹脂組成物を硬化させた。その後、原版より剥離し透明基材と無機酸化物層形成前の微細凹凸層との積層体を得た。
得られた積層体の微細凹凸面上に、スパッタ装置(アルバック社製、SMD−750)を用い、35℃で酸化ジルコニウムをスパッタリングし、各微小突起の頂部から谷部までの領域における厚さが10〜20nmの範囲内の酸化ジルコニウムの連続層からなる無機酸化物層を形成した。引き続いて、スパッタ装置(アルバック社製、SMD-750)を用い、35℃で酸化チタンをスパッタリングし、各微小突起の頂部から谷部までの領域における厚さが10〜20nmの範囲内の酸化チタンの連続層からなる無機酸化物層を形成した。なお、前記無機酸化物層の厚さは、前記無機酸化物層形成後の積層体を厚み方向に切断した垂直断面のSTEMの電子顕微鏡写真を観察することにより測定した。
無機酸化物層形成後の微細凹凸層に設けられた微小突起構造体は、平均隣接微細突起間距離が100nm、平均微小突起高さが200nmで、各微小突起が先細りとなる構造を有するものであった。
無機酸化物層を形成した凹凸構造物品の凹凸面上に、真空蒸着装置(アルバック社製、VPC−410)を用い、真空度8×10−6Torr(1×10−3Pa)で、凹凸面上の領域と平面視において同面積となる平版材の表面に成膜した場合に5nmとなるような平面での換算膜厚5nmで金を蒸着した。これを粘着剤(パナック製、製品名パナクリーンPDR5)を介してスライドガラス(松浪硝子社製、S1221)に貼り付けることで実施例1の表面増強ラマン散乱測定用基板を得た。実施例1で得られた表面増強ラマン散乱測定用基板のSTEM像を確認したところ、平均粒径17.3nmの金属ナノ粒子が形成されており、金属ナノ粒子間平均距離は3.5nmであり、金属ナノ粒子間の距離の標準偏差は2.5nmであり、ホットサイトの個数密度は4900個/μm2であった。
蒸着法による金属原子の付着において、金の代わりに銀を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2の表面増強ラマン散乱測定用基板を得た。実施例2で得られた表面増強ラマン散乱測定用基板のSTEM像を確認したところ、平均粒径5.3nmの金属ナノ粒子が形成されており、金属ナノ粒子間平均距離は9.4nmであり、金属ナノ粒子間の距離の標準偏差は8.0nmであり、ホットサイトの個数密度は3700個/μm2であった。
スライドガラス(松浪硝子社製、S1221)をそのまま用いて、比較例1の物品とした。
スライドガラス(松浪硝子社製、S1221)上に、真空蒸着装置(アルバック社製、VPC−410)を用い真空度8×10−6Torr(1×10−3Pa)で金を膜厚15nmで蒸着することで比較例2の物品を得た。表面には均一に金の薄膜が形成されていた。
金の代わりに銀を膜厚15nmで蒸着したこと以外は、比較例2と同様にして比較例3の物品を得た。表面には均一に銀の薄膜が形成されていた。
ローダミン6G(Lambda Physik社製)0.0076gをエタノール100mlに溶解することで濃度158μMのローダミン6Gエタノール溶液を調製した。この溶液に実施例1、実施例2で得られた表面増強ラマン散乱測定用基板、及び比較例1、比較例2、比較例3の物品をそれぞれディップし、引き上げて風乾した。顕微レーザーラマン分光測定装置(堀場製作所製、HR800)にて風乾後の各物品でのローダミン6Gのラマンスペクトルを測定した。測定時の励起レーザー波長は633nmで行った。測定結果として、実施例1、比較例1、比較例2をプロットしたものを図6に示し、実施例2、比較例1、比較例3をプロットしたものを図7に示す。
ローダミン6Gに由来するピークは、ラマンシフト612cm−1、776cm−1、1193cm−1、1349cm−1、1511cm−1、1600cm−1に現れる。実施例1、実施例2では、ローダミン6Gに由来するピークの増大が確認できた。
実施例1〜2で得られた表面増強ラマン散乱測定用基板は、複数の微小突起が密接して配置され、隣接する前記微小突起間の距離の平均が1000nm以下である微小突起構造体を有する微細凹凸層と、平均粒径が前記微小突起間の距離の平均よりも小さい金属ナノ粒子とを有し、前記金属ナノ粒子が前記微小突起構造体の表面に担持されている、本発明に係る表面増強ラマン散乱測定用基板であり、一工程による簡易な方法で製造することができた。実施例1〜2では、各比較例に比べて、ラマン散乱強度の増大が確認され、測定感度の高いものであった。
一方、比較例1〜3は、基板表面に金属ナノ粒子が担持されておらず、測定感度に劣っていた。
10’表面増強ラマン散乱測定用基板
11 透明基材
20 微細凹凸層
20’受容層
21 微小突起構造体
22 微小突起
23 頂部
24 谷部
25 無機酸化物層
30 金属ナノ粒子
31 ダイ
32 ロール金型
33 押圧ローラ
34 剥離ローラ
Claims (6)
- 複数の微小突起が密接して配置され、隣接する前記微小突起間の距離の平均が1000nm以下である微小突起構造体を有する微細凹凸層と、平均粒径が前記微小突起間の距離の平均よりも小さい金属ナノ粒子とを有し、前記金属ナノ粒子が前記微小突起構造体の表面に担持されている、表面増強ラマン散乱測定用基板。
- 前記微細凹凸層の表面が無機酸化物層からなる、請求項1に記載の表面増強ラマン散乱測定用基板。
- 前記金属ナノ粒子が、金、銀、銅、白金、パラジウム、ニッケル、及び、これらの合金よりなる群から選択される1種以上の金属ナノ粒子である、請求項1又は2に記載の表面増強ラマン散乱測定用基板。
- 複数の微小突起が密接して配置され、隣接する前記微小突起間の距離の平均が1000nm以下である微小突起構造体を有する微細凹凸層を準備する工程と、
蒸着法を用いて前記微小突起構造体表面に金属原子を付着することにより、金属ナノ粒子を形成し、担持する工程とを有する、表面増強ラマン散乱測定用基板の製造方法。 - 前記蒸着法が、平坦面上に付着する金属原子によって形成される蒸着膜の厚みが40nm以下となるように調整されている、請求項4に記載の表面増強ラマン散乱測定用基板の製造方法。
- 前記金属ナノ粒子が、金、銀、銅、白金、パラジウム、ニッケル、及び、これらの合金よりなる群から選択される1種以上の金属ナノ粒子である、請求項4又は5に記載の表面増強ラマン散乱測定用基板の製造方法。
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