JP2015052463A - ラマン分光装置、ラマン分光法、および電子機器 - Google Patents

ラマン分光装置、ラマン分光法、および電子機器 Download PDF

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Abstract

【課題】高感度で標的物質からのラマン散乱光を検出することができるラマン分光装置を提供する。【解決手段】本発明に係るラマン分光装置100は、標的物質を分析するラマン分光装置であって、第1波長の光を射出する光源と、標的物質が吸着され、第1波長の光が照射される光学素子10と、光学素子10から放射される光を受光する光検出器と、を含み、光学素子10は、第1波長の光により電荷移動共鳴を生じる第1構造体14と、第1構造体14と5nm以下の間隔Dで配置され、第1波長の光により表面プラズモン共鳴を生じる第2構造体16と、を有し、第1構造体14の材質は、金属または半導体であり、第2構造体16の材質は、前記第1構造体の材質と異なる金属である。【選択図】図2

Description

本発明は、ラマン分光装置、ラマン分光法、および電子機器に関する。
近年、医療診断や飲食物の検査等に用いられるセンサーチップ(光学素子)の需要が増大しており、高感度かつ小型のセンサーチップの開発が求められている。このような要求に応えるために、電気化学的な手法をはじめ様々なタイプのセンサーチップが検討されている。これらの中で、集積化が可能であること、低コスト、測定環境を選ばないこと等の理由から、表面プラズモン共鳴(SPR:Surface Plasmon Resonance)を利用した分光分析、特に表面増強ラマン散乱分光(SERS:Surface Enhanced Raman Scattering)を用いたセンサーチップに対する関心が高まっている。
ここで、表面プラズモンとは、表面固有の境界条件により光とカップリングを起こす電子波の振動モードである。表面プラズモンを励起する方法としては、金属表面に回折格子を刻み、光とプラズモンを結合させる方法やエバネッセント波を利用する方法がある。例えば、SPRを利用したセンサーチップとしては、全反射型プリズムと、当該プリズムの表面に形成された標的物質に接触する金属膜と、を具備して構成されるものがある。このような構成により、抗原抗体反応における抗原の吸着の有無など、標的物質の吸着の有無を検出している。
ところで、金属表面に伝搬型の表面プラズモンが存在する一方、金属微粒子には局在型の表面プラズモンが存在する。局在型の表面プラズモン、つまり、表面の金属微細構造上に局在する表面プラズモンが励起された際には、著しく増強された電場が誘起されることが知られている。
さらに、金属ナノ粒子を用いた局在表面プラズモン共鳴(LSPR:Localized Surface Plasmon Resonance)によって形成される増強電場にラマン散乱光が照射されると表面増強ラマン散乱現象によってラマン散乱光が増強されることが知られており、高感度のセンサー(検出装置)が提案されている。この原理を用いることで、各種の微量な物質を検出することが可能になる。
例えば特許文献1には、AgやAuからなる金属粒子を周期的に配列されたセンサーチップを備えたラマン分光装置が記載されている。
特開2013−96939号公報
しかしながら、特許文献1に記載されたラマン分光装置は、捕捉膜があってもあらゆる標的物質を高感度で検出できるわけではない。また、例えば、Agからなる金属粒子を周期的に配列されたセンサーチップ(光学素子)を備えたラマン分光装置では、例えばピリジンやアデニンなどの不対電子を持つN原子を有する分子は、Agに化学吸着しやすく高感度で検出することができるが、アセトンやエタノールなどN原子を有さない分子は、Agに化学吸着し難く高感度で検出することができなった。
本発明のいくつかの態様に係る目的の1つは、高感度で標的物質からのラマン散乱光を検出することができるラマン分光装置を提供することにある。また、本発明のいくつかの態様に係る目的の1つは、高感度で標的物質からのラマン散乱光を検出することができるラマン分光法を提供することにある。また、本発明のいくつかの態様に係る目的の1つは、上記ラマン分光装置を含む電子機器を提供することにある。
本発明に係るラマン分光装置は、
標的物質を分析するラマン分光装置であって、
第1波長の光を射出する光源と、
前記標的物質が吸着され、前記第1波長の光が照射される光学素子と、
前記光学素子から放射される光を受光する光検出器と、
を含み、
前記光学素子は、
前記第1波長の光により電荷移動共鳴を生じる第1構造体と、
前記第1構造体と5nm以下の間隔で配置され、前記第1波長の光により表面プラズモン共鳴を生じる第2構造体と、
を有し、
前記第1構造体の材質は、金属または半導体であり、
前記第2構造体の材質は、前記第1構造体の材質と異なる金属である。
このようなラマン分光装置では、例えばAgからなる金属粒子を周期的に配列された光学素子を備えたラマン分光装置では高感度に検出することができないアセトンやエタノールを標的物質とした場合においても、化学増強効果を生じさせることができ、電場増強効果と化学増強効果との相乗効果によって、SERS効果を発現させることができる。その結果、このようなラマン分光装置では、ラマン散乱光の強度を大きくすることができ、高感度で標的物質からのラマン散乱光を検出することができる。
本発明に係るラマン分光装置において、
前記第1構造体は、前記第2構造体を被覆して設けられていてもよい。
このようなラマン分光装置では、簡単な製造工程で光学素子を形成することができる。
本発明に係るラマン分光装置において、
前記第1構造体は、複数設けられ、
前記第2構造体は、複数設けられ、
複数の前記第2構造体は、互いに離間していてもよい。
このようなラマン分光装置では、簡単な製造工程で光学素子を形成することができ、かつ、電場増強効果を高めることができる。
本発明に係るラマン分光装置において、
複数の前記第1構造体は、互いに離間していてもよい。
このようなラマン分光装置では、高感度で標的物質からのラマン散乱光を検出することができる。
本発明に係るラマン分光装置において、
前記第1構造体の厚さは、1nm以下であってもよい。
このようなラマン分光装置では、電場増強効果を高めることができる。
本発明に係るラマン分光装置において、
前記第2構造体の材質は、Ag、Au、またはAlであってもよい。
このようなラマン分光装置では、Ag、Au、およびAlは、可視波長域において誘電率の虚部が小さい金属であるため、電場増強効果を高めることができる。
本発明に係るラマン分光装置において、
前記標的物質は、アセトンまたはエタノールであってもよい。
このようなラマン分光装置では、アセトンやエタノールなどのN原子を有さない分子でも、高感度で検出することができる。
本発明に係るラマン分光装置において、
前記標的物質は、アセトンであり、
前記第1波長は、500nm以上700nm以下であり、
前記第2構造体の大きさは、40nm以上75nm以下であってもよい。
このようなラマン分光装置では、電場増強効果を高めることができる波長帯と、化学増強効果を高めることができる波長帯と、を同じにすることできる。その結果、より確実に電場増強効果と化学増強効果との相乗効果を得ることができる。
本発明に係るラマン分光装置において、
前記標的物質の基底状態と最低励起状態とのエネルギー差に相当するエネルギーを有する第2波長の光を、前記標的物質に照射する光源を含んでもよい。
このようなラマン分光装置では、標的物質の第1構造体への吸着反応を促進させ、化学増強効果を高めることができる。
本発明に係るラマン分光法は、
第1波長の光を、標的物質が吸着される光学素子に照射し、前記光学素子から放射される光を受光して前記標的物質を分析するラマン分光法であって、
前記光学素子は、
前記第1波長の光により電荷移動共鳴を生じる第1構造体と、
前記第1構造体と5nm以下の間隔で配置され、前記第1波長の光により表面プラズモン共鳴を生じる第2構造体と、
を含み、
前記第1構造体の材質は、金属または半導体であり、
前記第2構造体の材質は、前記第1構造体の材質と異なる金属である。
このようなラマン分光法では、高感度で標的物質からのラマン散乱光を検出することができる。
本発明に係る電子機器は、
本発明に係るラマン分光装置と、
前記光検出器からの検出情報に基づいて健康医療情報を演算する演算部と、
前記健康医療情報を記憶する記憶部と、
前記健康医療情報を表示する表示部と、
を含む。
このような電子機器では、本発明に係るラマン分光装置を含むため、微量物質の検出を容易に行うことができ、高精度な健康医療情報を提供することができる。
本発明に係る電子機器において、
前記健康医療情報は、細菌、ウィルス、タンパク質、核酸、および抗原・抗体からなる群より選択される少なくとも1種の生体関連物質、または、無機分子および有機分子から選択される少なくとも1種の化合物の有無若しくは量に関する情報を含んでもよい。
このような電子機器では、微量物質の検出を容易に行うことができ、高精度な健康医療情報を提供することができる。
本発明に係るラマン分光装置は、
標的物質を分析するラマン分光装置であって、
第1波長の光を射出する光源と、
前記標的物質が吸着され、前記第1波長の光が照射される光学素子と、
前記光学素子から放射される光を受光する光検出器と、
を含み、
前記光学素子は、
基板と、
前記基板上に形成され、前記第1波長の光により電荷移動共鳴を生じる第1構造体と、
前記基板上に形成され、前記第1構造体と5nm以下の間隔で配置され、前記第1波長の光により表面プラズモン共鳴を生じる第2構造体と、
を有し、
前記第1構造体の材質は、金属または半導体であり、
前記第2構造体の材質は、前記第1構造体の材質と異なる金属である。
このようなラマン分光装置では、例えばAgからなる金属粒子を周期的に配列された光学素子を備えたラマン分光装置では高感度に検出することができないアセトンやエタノールを標的物質とした場合においても、化学増強効果を生じさせることができ、電場増強効果と化学増強効果との相乗効果によって、SERS効果を発現させることができる。その結果、このようなラマン分光装置では、ラマン散乱光の強度を大きくすることができ、高感度で標的物質からのラマン散乱光を検出することができる。
本実施形態に係るラマン分光装置を模式的に示す図。 本実施形態に係るラマン分光装置の光学素子を模式的に示す断面図。 電荷移動共鳴を説明するための図。 本実施形態に係るラマン分光装置の具体的な構成を模式的に示す図。 SDRS測定系を模式的に示す図。 Ag表面にピリジン蒸気を暴露させる前後のSDRSスペクトル。 Ag表面に酢酸蒸気を暴露させる前後のSDRSスペクトル。 Ag表面にアセトン蒸気を暴露させる前後のSDRSスペクトル。 Ag表面にエタノール蒸気を暴露させる露前後のSDRSスペクトル。 励起波長を632nmとしたときの、ピリジン、酢酸、アセトン、エタノールのガス雰囲気下でのSERSスペクトル。 酢酸のガス雰囲気下における、励起波長とSERS強度と関係を示すグラフ。 Al表面にアセトン蒸気を暴露させる前後のSDRSスペクトル。 励起波長を632nmとしたときの、アセトンのガス雰囲気下でのSERSスペクトル。 実験に用いた試料のSEM写真。 励起波長と吸光度との関係を示すグラフ。 本実施形態の第1変形例に係るラマン分光装置の光学素子を模式的に示す断面図。 島状構造を形成したAgのSEM写真。 Alの厚さと相対SERS強度との関係を示すグラフ。 本実施形態の第2変形例に係るラマン分光装置の光学素子を模式的に示す断面図。 本実施形態の第2変形例に係るラマン分光装置の製造工程を模式的に示す斜視図およびSEM写真。 本実施形態の第2変形例に係るラマン分光装置の製造工程を模式的に示す斜視図およびSEM写真。 本実施形態の第2変形例に係るラマン分光装置の製造工程を模式的に示す斜視図およびSEM写真。 Alの厚さと相対SERS強度との関係を示すグラフ。 Si表面にアセトン蒸気を暴露させる前後のSDRSスペクトル。 アセトンのSiに対する吸着を説明するための図。 本実施形態の第4変形例に係るラマン分光装置を模式的に示す図。 アセトンの分子の構造を説明するための図。 アセトン気体単体における可視―紫外領域の吸収スペクトル。 Cu表面にアセトン蒸気を暴露させる前後のSDRSスペクトル。 本実施形態に係る電子機器を模式的に示す図。
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また、以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
1. ラマン分光装置
まず、本実施形態に係るラマン分光装置について、図面を参照しながら説明する。図1は、本実施形態に係るラマン分光装置100を模式的に示す図である。
ラマン分光装置100は、図1に示すように、光学素子(センサーチップ)10と、光源20と、光検出器30と、を含む。ラマン分光装置100は、標的物質からのラマン散乱光を検出して分析(定性分析、定量分析)する。以下、光学素子10、光源20、および光検出器30について、順に説明する。
1.1. 光学素子
図2は、本実施形態に係るラマン分光装置100の光学素子10を模式的に示す断面図である。光学素子10は、図2に示すように、基板12と、第1構造体14と、第2構造体16と、を有している。光学素子10は、標的物質が吸着され、光源20から射出される第1波長の光L1が照射される。
基板12は、例えば、ガラス基板である。図示はしないが、基板12の下面には、金属層が設けられていてもよい。
第1構造体14は、基板12上に設けられている。第1構造体14の形状は、特に限定
されないが、図示の例では、第1構造体14の断面形状は、半円である。第1構造体14の平面形状は、円であってもよい。第1構造体14の形状は、円柱状であってもよい。第1構造体14の厚さは、例えば、0.5nm以上30nm以下である。第1構造体14の大きさ(平面視における大きさであって、平面形状が円の場合は直径)は、例えば、0.5nm以上80nm以下である。第1構造体14は、第2構造体16に対応して、複数設けられている。隣り合う第1構造体14の間隔は、例えば、1nm以上100nm以下である。
第1構造体14の材質は、金属である。具体的には、第1構造体14の材質は、Al、Ag、Au、Cuなどである。
第1構造体14には、図示せぬ標的物質(標的分子)が吸着される。ここで、「吸着」とは、物体の界面において、濃度が周囲よりも増加する現象のことをいい、具体的には、共有結合・配位結合による化学吸着のことをいう。第1波長の光(入射光)L1を標的物質に照射すると、散乱光の中には、第1波長の光L1と異なる波長を有するラマン散乱光LRAMが発生する(図1参照)。ラマン散乱光LRAMの波長は、標的物質の構造に応じた特有の振動エネルギーに対応している。そのため、ラマン散乱光LRAMの波長を測定することにより、標的物質を特定することができる。標的物質は、例えば、アセトン、エタノールである。
第1構造体14は、標的物質が吸着されて、第1波長の光L1により電荷移動(CT:Charge Transfer)共鳴を生じる。ここで、図3は、電荷移動共鳴を説明するための図である。図3において、Evacは真空準位を示し、Φは第1構造体14の仕事関数を示している。
第1構造体14(例えばAl)の表面に標的物質(例えばアセトン)が吸着すると、アセトンのもつ分子軌道とAlの電子軌道とが相互作用し、Al−アセトン複合体が生成される。このとき、Alにはフェミル準位(EF)が存在し、Alのフェミル準位とアセトン分子のHOMO(Highest Occupied Molecular Orbital)準位またはLUMO(Lowest Unoccupied Molecular Orbital)準位との間で1eV〜4eVのエネルギー(hvCT)差が生じる。1eV〜4eVのエネルギー(hvCT)の光を照射すると、Al−アセトン複合体において電荷移動光吸収(CT吸収)が起こって、HOMO準位とフェルミ準位との間、またはフェルミ準位とLUMO準位との間で励起が起こる。このことを「電荷移動(CT)共鳴(電荷移動遷移)」という。CT共鳴が起こるエネルギー帯をCT準位と呼び、電子スペクトルを測定することによってCT準位を知ることができる。
CT共鳴を生じるAl−アセトン複合体は、共鳴ラマン効果を生じる。「共鳴ラマン効果」とは、電子遷移吸収帯に相当するエネルギーの波長を励起波長としたとき、ラマン散乱断面積が102倍から104倍大きくなる現象のことである。このように、分子が金属に化学吸着する際に形成される混成軌道準位がエネルギー的な幅を持つことで、励起状態に遷移する確率が高くなってラマン散乱光が増強されることを、「化学増強効果」という。化学増強効果は、第1構造体14の表面に吸着した標的物質のみに発生する。
第2構造体16は、図2に示すように、基板12上に設けられている。第2構造体16の形状は、特に限定されないが、第2構造体16の大きさ(平面視における大きさであって、平面形状が円の場合は直径)は、光源20から射出される第1波長の光L1の波長以下である。第2構造体16の形状は、円柱状であってもよい。第2構造体16の大きさは、40nm以上75nm以下であり、より好ましくは、50nmである。第2構造体16の厚さは、例えば、5nm以上100nm以下である。第2構造体16は、複数設けられ
ている。図示の例では、複数の第2構造体16は、周期的に設けられている。隣り合う第2構造体16の間隔は、例えば、1nm以上100nm以下である。
第2構造体16の材質は、第1構造体14の材質と異なる金属である。具体的には、第2構造体16の材質は、Ag、Au、Alなどである。例えば、第1構造体14の材質はAlであり、第2構造体16の材質はAgである。
第2構造体16は、光源20から射出される第1波長の光L1により表面プラズモン共鳴(SPR)を生じる。具体的には、第2構造体16は、第1波長の光L1により局在型プラズモン共鳴(LSPR)を生じる。「LSPR」とは、光の波長以下の金属微細構造(第2構造体16)に光を入射させると、金属内に存在する自由電子が光の電場成分により集団的に振動し、外部に局在電場を誘起する現象である。この局在電場により、ラマン散乱光を増強することができる。このように、SPRによる誘起される電場によって、ラマン散乱光が増強されることを「電場増強効果」という。
第2構造体16は、第1構造体14と5nm以下の間隔Dで配置されている。間隔Dは、ゼロ(D=0)であってもよい。すなわち、第2構造体16は、第1構造体14に接して設けられていてもよい。
なお、「第2構造体は、第1構造体と5nm以下の間隔で配置されている」とは、第2構造体16と、該第2構造体16と最近接の第1構造体14と、の間隔が5nm以下であることを意味する。すなわち、図2に示すように、第2構造体16aと第1構造体14aとの間隔は、5nm以下であるが、第2構造体16aと第1構造体14bとの間隔は、5nm以下でなくてもよい。
第2構造体16と第1構造体14との間隔Dを5nm以下とすることにより、光学素子10は、電場増強効果と化学増強効果との相乗効果によって、表面増強ラマン散乱分光(SERS)効果を発現させることができる。そのため、ラマン散乱光LRAMの強度を大きくすることができる。ここで、LSPRによって誘起される局在電場(hotsite)は、第2構造体16の表面が最も強く、第2構造体16の表面から離れるに従い、指数関数的に減衰する。第1構造体と第2構造体との間隔が5nmより大きくなると、電場増強効果と化学増強効果との相乗効果を発現させることができず、十分にラマン散乱光LRAMの強度を大きくすることができない。
1.2. 光源
光源20は、図1に示すように、第1波長の光Lを射出する。光源20は、例えば半導体レーザーであり、第1波長の光Lは、レーザー光である。第1波長の光Lの波長は、特に限定されないが、例えば500nm以上700nm以下であり、より具体的には632nmである。第1波長の光Lは、第1構造体14に標的物質が吸着されてなる第1構造体14と標的物質との複合体(例えばAl−アセトン複合体)において、CT共鳴を生じさせる。さらに、第1波長の光Lは、第2構造体16にLSPRを生じさせる。
1.3. 光検出器
光検出器30は、光学素子10から放射される光を受光する。具体的には、光検出器30は、光学素子10から放射される(光学素子10によって増強された)ラマン散乱光(SERS光)LRAMを受光する。光検出器30は、CCD(Charge Coupled Device)、光電子増倍管、フォトダイオード、イメージングプレートなどを含んで構成されていてもよい。
1.4. ラマン分光装置の具体的な構成
ラマン分光装置100の具体的な構成について説明する。図4は、本実施形態に係るラマン分光装置100の具体的な構成を模式的に示す図である。
ラマン分光装置100は、図4に示すように、気体試料保持部110と、検出部120と、制御部130と、検出部120および制御部130を収容している筐体140と、
気体試料保持部110は、光学素子10と、光学素子10を覆うカバー112と、吸引流路114と、排出流路116と、を有している。検出部120は、光源20と、レンズ122a,122b,122c,122dと、ハーフミラー124と、光検出器30と、を有している。制御部130は、光検出器30において検出された信号を処理して検出部120の制御をする検出制御部132と、光源20などの電力を制御する(供給する)電力制御部134と、を有している。制御部130は、図4に示すように、外部との接続を行うための接続部136と、電気的に接続されていてもよい。
ラマン分光装置100では、排出流路116に設けられている吸引機構117を作動させると、吸引流路114および排出流路116内が負圧になり、吸引口113から検出すべき標的物質を含んだ気体試料が吸引される。吸引口113には除塵フィルター115が設けられており、比較的大きな粉塵や一部の水蒸気などを除去することができる。気体試料は、吸引流路114、光学素子10の表面付近、および排出流路116を通り、排出口118から排出される。気体試料が光学素子10の表面付近を通る際に、標的物質は、光学素子10の表面に吸着して検出される。
吸引流路114および排出流路116の形状は、外部からの光が光学素子10に入射しないような形状である。これにより、ラマン散乱光以外の雑音となる光が入射しないため、信号のS/N比を向上させることができる。流路114,116を構成する材料は、例えば、光を反射し難いような材料や色である。
さらに、吸引流路114および排出流路116の形状は、気体試料に対する流体抵抗が小さくなるような形状である。これにより、高感度な検出が可能になる。例えば、流路114,116の形状を、できるだけ角部をなくし滑らかな形状にすることで、角部における気体試料の滞留をなくすことができる。吸引機構117としては、例えば、流路抵抗に応じた静圧、風量のファンモーターやポンプを用いる。
ラマン分光装置100では、光学素子10に、単一波長の光源(レーザー光源)20から光が照射される。光源20から射出された光は、レンズ122aで集光された後、ハーフミラー124およびレンズ122bを介して、光学素子10に入射する。光学素子10からは、SERS光が放射され、該光は、レンズ122b、ハーフミラー124、およびレンズ122c,122dを介して、光検出器30に至る。SERS光には、光源20からの入射波長と同じ波長のレイリー光が含まれているので、光検出器30のフィルター126によってレイリー光を除去する。レイリー光が除去された光は、光検出器30の分光器127を介して受光素子128にて受光される。
光検出器30の分光器127は、例えば、ファブリペロー共振を利用したエタロン等で形成されており、通過波長帯域を可変とすることができる。光検出器30の受光素子128によって、標的物質に特有のラマンスペクトルが得られ、得られたラマンスペクトルと予め保持するデータとを照合することで、標的物質の信号強度を検出することができる。
なお、ラマン分光装置100としては、光学素子10、光源20、および光検出器30を含む装置であって、光学素子10に標的物質を吸着させ、そのラマン散乱光を取得できる装置であれば、上記の例に限定されない。
ラマン分光装置100は、例えば、以下の特徴を有する。
ラマン分光装置100では、光学素子10は、標的物質が吸着されて、第1波長の光L1により電荷移動共鳴を生じる第1構造体14と、第1構造体14と5nm以下の間隔Dで設けられ、第1波長の光L1により表面プラズモン共鳴を生じる第2構造体16と、を有し、第1構造体14の材質は、金属であり、第2構造体16の材質は、第1構造体14の材質と異なる金属である。そのため、ラマン分光装置100では、標的物質に応じて第1構造体14および第2構造体16の材質を選択することにより、第1波長の光L1に対して、CT共鳴による化学増強効果およびLSPRによる電場増強効果を生じさせることができる。より具体的には、ラマン分光装置100では、例えばAgからなる金属粒子を周期的に配列された光学素子を備えたラマン分光装置では高感度に検出することができない(化学増強効果を発現させることができない)アセトンやエタノールを標的物質とした場合においても、化学増強効果を生じさせることができ、電場増強効果と化学増強効果との相乗効果によって、SERS効果を発現させることができる(詳細は後述の実験例参照)。その結果、ラマン分光装置100では、ラマン散乱光LRAMの強度を大きくすることができ、高感度で標的物質からのラマン散乱光を検出することができる。具体的には、ラマン分光装置100では、ppb(parts per billion)単位のアセトンやエタノールを検出することができる。
ラマン分光装置100では、第2構造体16の材質は、Ag、Au、またはAlである。Ag、Au、およびAlは、可視波長域において誘電率の虚部が小さい金属であり、電場増強効果を高めることができる。
ラマン分光装置100では、標的物質は、アセトンまたはエタノールである。ラマン分光装置100では、アセトンやエタノールなどのN原子を有さない分子でも、高感度で検出することができる。
ラマン分光装置100では、標的物質は、アセトンであり、第1波長は、500nm以上700nm以下であり、第2構造体の大きさは、40nm以上75nm以下である。これにより、ラマン分光装置100では、電場増強効果を高めることができる波長帯と、化学増強効果を高めることができる波長帯と、を同じにすることできる。その結果、より確実に電場増強効果と化学増強効果との相乗効果を得ることができる(詳細は後述する実験例参照)。
このように、ラマン分光装置100では、電場増強効果を高めることができる波長帯と、化学増強効果を高めることができる波長帯と、を同じにするために、標的物質のCT準位の波長帯に応じて、第2構造体16の材質を選択することができる。例えば、CT準位の波長帯が300nm〜400nmのときはAlを、400nm〜700nmのときはAgを、700nm以上のときはAuを用いる。
2. ラマン分光装置の製造方法
次に、本実施形態に係るラマン分光装置100の製造方法について説明する。
光学素子10を、例えば、ナノ粒子リソグラィー(NSL:Nanosphere Lithography)技術によって形成する。具体的には、直径350nm程度のポリスチレン(PS)ビーズをエタノールに混ぜ、純水が入ったビーカーの上に静かに滴下する。すると、エタノールは、純水層に混和するが、PSビーズは気液界面上に広がる。この気液界面に静かに基板12を入れ、PSビーズをすくい上げる。これにより、PSビーズが単層で最蜜配列したPS充填基板が得られる。
次に、PS充填基板に対して、AR−NSL(Angle Resolved Nanosphere Lithography)法を利用する。「AR−NSL法」とは、PS充填基板のPSビーズをマスクとして、金属を異なる角度で2回以上に分けて蒸着を行う方法である。例えば、基板12の上面の法線に対して、一方側に20°傾いた方向からの斜方蒸着によって、第1構造体14を形成する。次に、基板12の上面の法線に対して、他方側に20°傾いた方向からの斜方蒸着によって、第2構造体16を形成する。
次に、PSビーズを除去する。PSビーズは、例えば、水中で超音波処理することによって除去される。
以上の工程により、光学素子10を形成することができる。
次に、光学素子10、光源20、および光検出器30を所定の位置に配置し、ラマン分光装置100を製造することができる。
3. ラマン分光法
次に、本実施形態に係るラマン分光法について、説明する。本実施形態に係るラマン分光法は、第1波長の光を、標的物質が吸着される光学素子に照射し、光学素子から放射される光を受光して標的物質を分析する。具体的には、本実施形態に係るラマン分光法は、ラマン分光装置100を用いて行われる。そのため、本実施形態に係るラマン分光法の説明は、上述したラマン分光装置100の説明を適用することができる。したがって、その詳細な説明を省略する。
4. 実験例
以下に実験例を示し、本発明をより具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実験例によって何ら限定されるものではない。
4.1. 第1の実験
4.1.1. CT準位測定
(1)測定系
表面差分反射分光(SDRS:Surface Differencial Reflection Spectroscopy)によって、大気環境下における標的物質の金属(第1構造体)への吸着によるCT準位を測定した。
図5は、SDRS測定系1000を模式的に示す図である。図5に示すように、白色光源1002から射出された光は、レンズ1004において平行光となり、偏光子1006を通過してP偏光となる。ビームスプリッター1008にて白色光源1002からの光を2つに分割し、片方は、参照光として分光器1010において光源強度のゆらぎを測定するために使用する。もう片方は、試料基板Sの測定に用いる。透明ガラス製の密閉セル1012の中に試料基板Sをセットし、試料基板Sの表面反射光をピンホール1014およびレンズ1016を経由して、分光器1018において分光検出する。密閉セル1012には、標的物質蒸気発生部1020から、標的物質の蒸気を搬送する開閉コック1022付きのチューブ1024が接続されている。
SDRSでは、入射光をP偏光とし、入射光をBrewster角付近にて試料基板S表面に入射させることで、原子層レベルの感度で金属表面の電子スペクトルを測定することができる。
(2)測定結果
上記のような測定系において、試料基板SとしてAg基板を用い、ガス状態の標的物質
をAg表面に暴露させて、暴露前後にて電子スペクトル(SDRSスペクトル)の変化を測定した。図6は、Ag表面にピリジン蒸気を暴露させる前後のSDRSスペクトルである。図6において、横軸は、Ag表面に入射する入射光の波長であり、縦軸は、下記式(1)に基づいて演算を行ったΔR/Rである。
ΔR/R=(R−R0)/R0 ・・・ (1)
ただし、(1)式において、R0は、標的物質暴露前の反射率であり、Rは、標的物質暴露後の反射率である。
すなわち、ΔR/Rの値が負であれば、試料基板Sによる標的物質の吸収を意味する。入射光をBrewster角とすることにより、R0を小さくすることができ、感度を上げることができる。
図6に示すように、ピリジンの暴露前に対して暴露後のSDRSスペクトルには、2つの吸収帯が存在することがわかる。1つは400nm〜550nmであり、もう1つは600nm〜1000nmである。これらの吸収帯は、ピリジンがAgに吸着してなるAg−ピリジン複合体のCT準位に相当する光吸収である。
図7に、Ag表面に酢酸蒸気を暴露させる前後のSDRSスペクトルを示す。図7に示すように、酢酸の暴露後のSDRSスペクトルには、440nm〜1000nmに、CT準位に相当する吸収帯が存在することがわかる。
図8に、Ag表面にアセトン蒸気を暴露させる前後のSDRSスペクトルを示す。また、図9に、Ag表面にエタノール蒸気を暴露させる露前後のSDRSスペクトルを示す。
図8および図9に示すように、アセトンおよびエタノールでは、ピリジンおよび酢酸と異なり、暴露前後でSDRSスペクトルにほとんど変化がなく、CT準位が形成されていないことがわかる。
4.1.2. SERS強度測定
次に、Ag基板を標的物質のガス雰囲気下に配置し、SERS強度を測定した。具体的には、図1に示すような測定系を用い、光源20から射出される第1波長の光L1の波長(励起波長)を、632nmとし、光検出器30においてLRAMを受光することにより、SERS強度(SERSスペクトル)を測定した。
図10に、ピリジン、酢酸、アセトン、エタノールのガス雰囲気下でのSERSスペクトルを示す。図10に示すように、632nmにおいてCT準位が存在するピリジン(図6参照)および酢酸(図7参照)においては、非常に強い信号が得られた。一方、図10に示すように、632nmにおいてCT準位が存在しないアセトン(図8参照)およびエタノール(図9参照)においては、ほとんど信号が得られなかった。
なお、図10の縦軸は、SERSの相対強度を示しており、絶対強度を示していない。すなわち、図10に示す例では、Ag−ピリジン複合体は、Ag−酢酸複合体よりも高いピークを有しているが、そのことから、Ag−ピリジン複合体のSERS強度は、Ag−酢酸複合体のSERS強度よりも大きいとはいえない。このことは、後述する図13においても同様である。
図11は、酢酸のガス雰囲気下における、励起波長とSERS強度と関係を示すグラフである。図11と図7とを比較すると、ΔR/RとSERS強度との挙動は、ほぼ一致していることがわかる。すなわち、図7においてΔR/Rの絶対値が大きい波長帯では、図11においてSERS強度が大きくなっている。つまり、CT準位の有無(化学増強効果
の有無)で、SERS強度に明確な差が生じることがわかった。
4.2. 第2の実験
4.2.1. CT準位測定
次に、標的物質としてアセトンを用いた場合に、化学増強効果を発現させるための実験を行った。
第1の実験で用いたAg基板の代わりにAl基板(Ag基板上にAlを1nm程度成膜したもの)を用いて、SDRSによりCT準位を測定した。図12に、Al表面にアセトン蒸気を暴露させる前後のSDRSスペクトルを示す。
図12に示すように、暴露後のSDRSスペクトルには、可視域全体に(特に500nm〜700nmに)、CT準位に相当する吸収帯が存在することがわかる。すなわち、アセトンは、Alに対してCT共鳴を生じるといえる。
4.2.2. SERS強度測定
次に、Al基板をアセトンのガス雰囲気下に配置し、SERS強度を測定した。図13に、励起波長を632nmとしたときの、アセトンのガス雰囲気下でのSERSスペクトルを示す。また、図13に、比較として、Ag基板をアセトンのガス雰囲気下に配置したときのSERSスペクトルを示す。
図13に示すように、Al基板は、Ag基板と比較して、明確にスペクトルが検出されている。すなわち、標的物質がアセトンの場合でも、第1構造体としてAlを用いることにより、CT共鳴による化学増強効果によってSERS強度を大きくできることがわかった。
4.3. 第3の実験
Ag粒子(第2構造体16)の最適な大きさ(例えば直径)を調査する実験を行った。本実験に用いた試料(光学素子)として、上述したNSL技術およびAR−NSL法により、ガラス基板(基板12)上にAl粒子(第1構造体14)およびAg粒子(第2構造体16)を形成したものを用いた。図14に、本実験に用いた試料のSEM写真を示す。Al粒子の大きさ(平面視における大きさ)は、20nmとした。Ag粒子の大きさ(平面視における大きさ)は、50nm、75nm、100nmと、3水準に振った。
図15は、上記のようにして作製した試料の、励起波長と吸光度との関係を示すグラフである。図15の縦軸の吸光度は、LSPRに基づく値であり、吸光度が大きいほど、Ag粒子のLSPRによる電場増強効果が大きい。図15に示すように、励起波長に応じて、吸収度は変化することがわかる。
ここで、図12より、Al−アセトン複合体にCT共鳴を生じさせるためには、励起波長を500nm以上700nm以下とすることが好ましいことがわかっている。したがって、図15に示すように、Ag粒子の直径を、40nm以上75nm以下、より好ましくは、50nmとすることにより、ISPRによって電場増強効果を高めることができる波長帯と、CT共鳴によって化学増強効果を高めることができる波長帯と、を同じにすることできる。その結果、より確実に電場増強効果と化学増強効果との相乗効果を得ることができる。具体的には、632nmの励起波長で、電場増強効果と化学増強効果との相乗効果によって、高感度にアセトンを検出することができる。
5. ラマン分光装置の変形例
5.1. 第1変形例
次に、本実施形態の第1変形例に係るラマン分光装置について、図面を参照しながら説明する。図16は、本実施形態の第1変形例に係るラマン分光装置200の光学素子10を模式的に示す断面図である。
以下、本実施形態の第1変形例に係るラマン分光装置200において、本実施形態に係るラマン分光装置100の例と異なる点について説明し、同様の点については説明を省略する。このことは、以下に示す第2,第3,第4変形例に係るラマン分光装置についても同様である。
ラマン分光装置100では、図2に示すように、第2構造体16は、第1構造体14と5nm以下の間隔で配置されていた。これに対し、ラマン分光装置200では、図16に示すように、第1構造体14は、第2構造体16を被覆して設けられている。すなわち、第1構造体14は、第2構造体16に接して設けられている。図示の例では、第1構造体14は、基板12上にも(基板12の上面にも)設けられている。
なお、図示の例では、第1構造体14は、第2構造体16の表面を完全に覆っているが、第1構造体14によって化学増強効果を発現させることできれば、第2構造体16の表面の一部は、露出していてもよい。
ラマン分光装置200の光学素子10の製造方法について説明する。まず、基板12上に第2構造体16を形成する。第2構造体16は、例えば、0.1Å/秒〜1Å/秒の成膜速度で、Agを真空蒸着法により成膜することで形成される。このような条件で成膜することにより、図17に示すSEM写真のように、Agは自己組織的に島状構造を形成する。次に、第2構造体16および基板12上に、第1構造体14を形成する。第1構造体14は、例えば、Alを真空蒸着法により成膜することで形成される。以上の工程により、光学素子10を製造することができる。
ラマン分光装置200では、図16に示すように、第1構造体14の厚さ(具体的には、第1構造体14の、基板12上の部分の膜厚)Tは、1nm以下であることが好ましい。これにより、LSPRによる電場増強効果を高めることができる。ここで、図18は、第1構造体14(Al)の厚さと、相対SERS強度(Al厚さ=0のときを1としたSERS強度)と、の関係を示したグラフである。図18では、FDTD(Finite−Difference Time−Domain)計算シミュレーションによって計算したプロットと、上記のような製造方法によって形成した光学素子における実測値と、を示している。
図18に示すように、相対SERS強度は、Alの厚さに依存して小さくなり、Alの厚さが1nmより大きくなると、極端に小さくなることがわかる。これは、Alの厚さが大きいと、Ag粒子間(第2構造体16間)で導通してしまい、LSPRによる自由電子の局在化が妨げられるためであると推測される。
ラマン分光装置200では、ラマン分光装置100に比べて、簡単な製造工程で光学素子10を形成することができる。さらに、ラマン分光装置200では、第1構造体14の厚さを1nm以下とすることにより、電場増強効果を高めることができる。
5.2. 第2変形例
次に、本実施形態の第2変形例に係るラマン分光装置について、図面を参照しながら説明する。図19は、本実施形態の第2変形例に係るラマン分光装置300の光学素子10を模式的に示す断面図である。
ラマン分光装置100では、図2に示すように、第2構造体16は、第1構造体14と5nm以下の間隔で配置されていた。これに対し、ラマン分光装置300では、図16に示すように、第1構造体14は、第2構造体16を被覆して設けられ、複数の第1構造体14は、互いに離間している。すなわち、第1構造体14は、第2構造体16に接して設けられている。図示の例では、基板12の上面の一部は、露出している。第1構造体14は、基板12と離間して(接触せずに)設けられていてもよい。
なお、図示の例では、第1構造体14は、第2構造体16の表面を完全に覆っているが、第1構造体14によって化学増強効果を発現させることできれば、第2構造体16の表面の一部は、露出していてもよい。
ラマン分光装置300の光学素子10の製造方法について、図面を参照しながら説明する。図20〜図22は、本実施形態の第2変形例に係るラマン分光装置300の光学素子10の製造工程を説明するための図であり、(A)は模式的に示す斜視図であり、(B)はSEM写真(平面視におけるSEM写真)である。
図20に示すように、基板12(ガラス基板)上にレジスト302を塗布する。次に、電子線描画法によるリソグラフィーによって、例えば、周期140nmおよび直径100nm程度の2次元ナノドットアレイ304を、レジスト302に形成する。
図21に示すように、例えば、第2構造体16となるAg膜306を30nm程度の厚さで成膜し、続けて第1構造体14となるAl膜308を成膜する。Ag膜306およびAl膜308は、例えば、真空蒸着法により成膜される。
図22に示すように、レジスト302を剥離液によってリフトオフする。これにより、基板12上に、構造体14,16となるAg膜306およびAl膜を形成することができる。
以上の工程により、ラマン分光装置300の光学素子10を製造することができる。
ここで、図23は、上記のような製造方法によって形成した光学素子における、第1構造体14(Al)の厚さと、相対SERS強度(Al厚さ=0のときを1としたSERS強度)と、の関係を示したグラフである。図23では、FDTD計算シミュレーションによって計算したプロットを示している。なお、図23では、比較として図18のFDTD結果もプロットしている。すなわち、図23では、ラマン分光装置200の光学素子10に相当するプロットと、ラマン分光装置300の光学素子10に相当するプロットと、を示している。
図23に示すように、ラマン分光装置300では、ラマン分光装置200に比べて、Alの厚さを大きくしても相対SERS強度は小さくならないことがわかる。これは、ラマン分光装置300では、Al粒子(第1構造体14)が連続していないので、Ag粒子間(第2構造体16間)の導通を防ぐことができるためである。
ラマン分光装置300では、ラマン分光装置100に比べて、簡単な製造工程で光学素子10を形成することができ、かつ、ラマン分光装置200に比べて、第1構造体14の厚さによらずに電場増強効果を高めることができる。
5.3. 第3変形例
次に、本実施形態の第3変形例に係るラマン分光装置について説明する。
第1変形例に係るラマン分光装置100(図2参照)では、第1構造体14の材質は、金属であった。これに対し、第3変形例に係るラマン分光装置では、第1構造体14の材質は、半導体である。具体的には、第1構造体14の材質は、シリコンである。
第3変形例に係るラマン分光装置では、シリコンを、スパッタ法によって成膜した後、フォトリソグラフィーおよびエッチングによってパターニングすることにより、第1構造体14を形成することができる。
ここで、図24は、Si表面にアセトン蒸気を暴露させる前後のSDESスペクトルである。図24に示すように、アセトンの暴露後では、可視域全体に渡ってCT準位が存在することがわかる。アセトンは、図25に示すようにSiに化学吸着することができ、Si−アセトン複合体では、Siの電子軌道とアセトンの分子軌道との混成軌道が存在していると考えられる。これにより、図24に示すような結果が得られたと考えられる。
第3変形例に係るラマン分光装置では、ラマン分光装置100に比べて、空気中の酸素、硫黄などによって腐食し難い。すなわち、空気中の酸素、硫黄などの影響が小さく、劣化し難い。
5.4. 第4変形例
次に、本実施形態の第4変形例に係るラマン分光装置について説明する。図26は、本実施形態の第4変形例に係るラマン分光装置400を模式的に示す図である。
ラマン分光装置400では、図26に示すように、光源420を含む。光源420は、標的物質の基底状態と最低励起状態とのエネルギー差に相当するエネルギーを有する第2波長の光L2を、標的物質に照射する。すなわち、光源420は、HOMO準位とLUMO準位とのエネルギー差に相当するエネルギーを有する第2波長の光L2を、標的物質に照射する。第2波長の光L2の波長は、第1波長の光L1の波長と異なる波長である。
ここで、図27は、標的物質であるアセトンの分子の構造を説明するための図である。アセトンのようなケトン類は、図27に示すように、ケト体の構造とエノール体の構造とをとり得るが、通常では安定なケト体で存在し、反応性の高いエノール体は、0.1%以下である。
図28は、アセトン気体単体における可視―紫外領域の吸収スペクトルである。図28に示すように、アセトンの吸収波長は、275nm付近に存在する。この波長は、アセトンのHOMO準位とLUMO準位とのエネルギー差に対応している。
ラマン分光装置400では、光源420から275nmの波長の光L2をアセトンに照射することにより、アセトンを、図27に示すケト体からエノール体に変化させることができる。すなわち、ラマン分光装置400では、第2の波長の光L2によって、アセトンを基底状態から最低励起状態に励起させることができ、アセトンを反応させ易くすることができる。
図29に、Cu表面にアセトン蒸気を暴露させる前後のSDRSスペクトルを示す。図29に示すように、アセトンを暴露するだけでは、CT準位は発生しない。しかしながら、275nmのDUV(遠紫外)光をアセトン雰囲気中に照射すると、波長400nm〜500nmにおいて、CT準位が生じることがわかる。これは、DUV光の照射によって、アセトンが最低励起状態に励起し、Cu表面への吸着反応が促進したためである。
ラマン分光装置400では、HOMO準位とLUMO準位とのエネルギー差に相当する
エネルギーを有する第2波長の光L2を、標的物質に照射することにより、標的物質の第1構造体14への吸着反応を促進させ、化学増強効果を高めることがでる。
6. 電子機器
次に、本実施形態に係る電子機器500について、図面を参照しながら説明する。図30は、本実施形態に係る電子機器500を模式的に示す図である。電子機器500は、本発明に係るラマン分光装置を含むことができる。以下では、本発明に係るラマン分光装置としてラマン分光装置100を含む電子機器500について説明する。
電子機器500は、図30に示すように、ラマン分光装置100と、光検出器30からの検出情報に基づいて健康医療情報を演算する演算部510と、健康医療情報を記憶する記憶部520と、健康医療情報を表示する表示部530と、を含む。
演算部510は、例えば、パーソナルコンピューター、携帯情報端末(PDA:Personal Digital Assistance)であり、光検出器30から送出される検出情報(信号等)を受け取る。演算部510は、光検出器30からの検出情報に基づいて健康医療情報を演算する。演算された健康医療情報は、記憶部520に記憶される。
記憶部520は、例えば、半導体メモリー、ハードディスクドライブ等であり、演算部510と一体的に構成されてもよい。記憶部520に記憶された健康医療情報は、表示部530に送出される。
表示部530は、例えば、表示板(液晶モニター等)、プリンター、発光体、スピーカー等により構成されている。表示部530は、演算部510によって演算された健康医療情報等に基づいて、ユーザーがその内容を認識できるように、表示または発報する。
健康医療情報としては、細菌、ウィルス、タンパク質、核酸、および抗原・抗体からなる群より選択される少なくとも1種の生体関連物質、または、無機分子および有機分子から選択される少なくとも1種の化合物の有無若しくは量に関する情報を含むことができる。
なお、演算部510および記憶部520は、図4に示した制御部130と一体的に構成されていてもよい。
電子機器500では、高感度で標的物質からのラマン散乱光を検出することができるラマン分光装置100を含む。そのため、電子機器500では、微量物質の検出を容易に行うことができ、高精度な健康医療情報を提供することができる。
上述した実施形態および変形例は一例であって、これらに限定されるわけではない。例えば、各実施形態および各変形例を適宜組み合わせることも可能である。
本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
10…光学素子、12…基板、14…第1構造体、16…第2構造体、20…光源、30…光検出器、100…ラマン分光装置、110…気体試料保持部、112…カバー、113…吸引口、114…吸引流路、115…除塵フィルター、116…排出流路、117…吸引機構、118…排出口、120…検出部、122a,122b,122c,122d…レンズ、124…ハーフミラー、126…フィルター、127…分光器、128…受光素子、130…制御部、132…検出制御部、134…電力制御部、136…接続部、140…筐体、200,300…ラマン分光装置、302…レジスト、304…ナノドットアレイ、306…Ag膜、308…Al膜、400…ラマン分光装置、420…光源、500…電子機器、510…演算部、520…記憶部、530…表示部、1000…SDRS測定系、1002…白色光源、1004…レンズ、1006…偏光子、1008…ビームスプリッター、1010…分光器、1012…密閉セル、1014…ピンホール、1016…レンズ、1018…分光器、1020…標的物質蒸気発生部、1022…開閉コック、1024…チューブ

Claims (13)

  1. 標的物質を分析するラマン分光装置であって、
    第1波長の光を射出する光源と、
    前記標的物質が吸着され、前記第1波長の光が照射される光学素子と、
    前記光学素子から放射される光を受光する光検出器と、
    を含み、
    前記光学素子は、
    前記第1波長の光により電荷移動共鳴を生じる第1構造体と、
    前記第1構造体と5nm以下の間隔で配置され、前記第1波長の光により表面プラズモン共鳴を生じる第2構造体と、
    を有し、
    前記第1構造体の材質は、金属または半導体であり、
    前記第2構造体の材質は、前記第1構造体の材質と異なる金属である、ラマン分光装置。
  2. 請求項1において、
    前記第1構造体は、前記第2構造体を被覆して設けられている、ラマン分光装置。
  3. 請求項2において、
    前記第1構造体は、複数設けられ、
    前記第2構造体は、複数設けられ、
    複数の前記第2構造体は、互いに離間している、ラマン分光装置。
  4. 請求項3において、
    複数の前記第1構造体は、互いに離間している、ラマン分光装置。
  5. 請求項1ないし4のいずれか1項において、
    前記第1構造体の厚さは、1nm以下である、ラマン分光装置。
  6. 請求項1ないし5のいずれか1項において、
    前記第2構造体の材質は、Ag、Au、またはAlである、ラマン分光装置。
  7. 請求項1ないし6のいずれか1項において、
    前記標的物質は、アセトンまたはエタノールである、ラマン分光装置。
  8. 請求項1ないし7のいずれか1項において、
    前記標的物質は、アセトンであり、
    前記第1波長は、500nm以上700nm以下であり、
    前記第2構造体の大きさは、40nm以上75nm以下である、ラマン分光装置。
  9. 請求項1ないし8のいずれか1項において、
    前記標的物質の基底状態と最低励起状態とのエネルギー差に相当するエネルギーを有する第2波長の光を、前記標的物質に照射する光源を含む、ラマン分光装置。
  10. 第1波長の光を、標的物質が吸着される光学素子に照射し、前記光学素子から放射される光を受光して前記標的物質を分析するラマン分光法であって、
    前記光学素子は、
    前記第1波長の光により電荷移動共鳴を生じる第1構造体と、
    前記第1構造体と5nm以下の間隔で配置され、前記第1波長の光により表面プラズモ
    ン共鳴を生じる第2構造体と、
    を含み、
    前記第1構造体の材質は、金属または半導体であり、
    前記第2構造体の材質は、前記第1構造体の材質と異なる金属である、ラマン分光法。
  11. 請求項1ないし9のいずれか1項に記載のラマン分光装置と、
    前記光検出器からの検出情報に基づいて健康医療情報を演算する演算部と、
    前記健康医療情報を記憶する記憶部と、
    前記健康医療情報を表示する表示部と、
    を含む、電子機器。
  12. 請求項11において、
    前記健康医療情報は、細菌、ウィルス、タンパク質、核酸、および抗原・抗体からなる群より選択される少なくとも1種の生体関連物質、または、無機分子および有機分子から選択される少なくとも1種の化合物の有無若しくは量に関する情報を含む、電子機器。
  13. 標的物質を分析するラマン分光装置であって、
    第1波長の光を射出する光源と、
    前記標的物質が吸着され、前記第1波長の光が照射される光学素子と、
    前記光学素子から放射される光を受光する光検出器と、
    を含み、
    前記光学素子は、
    基板と、
    前記基板上に形成され、前記第1波長の光により電荷移動共鳴を生じる第1構造体と、
    前記基板上に形成され、前記第1構造体と5nm以下の間隔で配置され、前記第1波長の光により表面プラズモン共鳴を生じる第2構造体と、
    を有し、
    前記第1構造体の材質は、金属または半導体であり、
    前記第2構造体の材質は、前記第1構造体の材質と異なる金属である、ラマン分光装置。
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