JP2015096813A - ラマン分光装置、及び電子機器 - Google Patents

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達徳 宮澤
明子 山田
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明子 山田
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Abstract

【課題】広範な種類の標的物質を光学素子に吸着させることができ、標的物質からのラマン散乱光を高感度で検出することができるラマン分光装置を提供する。
【解決手段】本発明に係るラマン分光装置は、試料中の標的物質を分析するラマン分光装置であって、前記標的物質の基底状態と励起状態とのエネルギー差に相当する波長の光を含む第1励起光を前記試料に照射する第1光源と、前記試料に接触される光学素子と、前記光学素子を冷却する素子冷却部と、前記光学素子に第2励起光を照射する第2光源と、前記光学素子から放射される表面増強ラマン散乱光を検出する光検出器と、を有する。
【選択図】図1

Description

本発明は、ラマン分光装置、及び電子機器に関する。
近年、医療診断や食物の検査等の需要がますます増大し、小型で高速なセンシング技術の開発が求められている。電気化学的な手法をはじめさまざまなタイプのセンサーが検討されているが、集積化が可能、低コスト、そして、測定環境を選ばないといった理由から、表面プラズモン共鳴(SPR:Surface Plasmon Resonance)を用いたセンサーに対する関心が高まっている。
例えば、全反射型プリズム表面に設けた金属薄膜に発生させたSPRを用いて、抗原抗体反応における抗原の吸着の有無など、物質の吸着の有無を検出するものが知られている。この手法は、SPRによる消光波長が、検出対象分子の吸着前後でシフトすることを検出することにより、検出対象分子の存在をセンシングするものである。
また、低濃度の物質を検出する高感度分光技術の1つとして、SPRを利用した表面増強ラマン散乱(SERS:Surface Enhanced Raman Scattering)が注目されている。SERSとは、ナノメートルスケールの金属の表面でラマン散乱光が102〜1014倍に増強される現象である。この表面に標的となる物質が吸着した状態で、レーザーなどの励起光を照射すると、物質(分子)の振動エネルギーの分だけ、励起光の波長から僅かにずれた波長の光(ラマン散乱光)が散乱される。この散乱光を分光処理すると、物質の種類(分子種)に固有のスペクトル(指紋スペクトル)が得られる。この指紋スペクトルの位置や形状を分析することで、極めて高感度に物質を同定することが可能となる。
このようにSERSでは、ナノメートルスケールの金属表面を有するセンサーチップの表面に、標的物質が吸着することにより強い散乱光を観測することができる。例えば、特許文献1には、生理活性物質を結合するための官能基を自己組織化膜によって金属表面に配置したバイオセンサーが開示されている。
特開2007−147420号公報
センサーの金属表面への標的物質の吸着は、金属表面の性質や標的物質(分子)の性質に依存し、標的物質の金属表面への吸着が化学結合(配位結合や共有結合)による化学吸着と、ファンデルワールス力(分子間力)による物理吸着に分けられる。一般に、化学吸着は金属表面の吸着点が限定され、標的物質の種類も限定されるなど、金属表面と標的物質の組合せが限定されるが、強い吸着力が得られる。一方、物理吸着は金属表面と標的物質の組合せは特に限定されないが、吸着力は比較的弱い。標的物質の金属表面への吸着力が大きい場合には強いSERS光を得やすいが、吸着力が不十分であるとSERS光の強度が理論値よりも小さくなり分析の感度が不足することがある。
特許文献1に記載されたバイオセンサーでは、標的物質の金属表面への吸着力を高めるために、標的物質に対して特異的に結合する官能基を金属表面に配置することを試みてい
る。しかし、このような手法では、標的物質の種類ごとにその物質に適した官能基を配置しなければならなかった。また、この場合には、1つのチップで対応できる標的物質の範囲が狭く限られてしまうという問題がある。
さらに、金属表面への標的物質の吸着力は、標的物質の電子状態や吸着する表面の温度等にも依存するため、これらの条件を制御することにより、標的物質をより効率的に表面に吸着させ、又は吸着状態にある時間を延長することが可能と考えられる。
本発明の幾つかの態様に係る目的の1つは、広範な種類の標的物質を光学素子に吸着させることができ、標的物質からのラマン散乱光を高感度で検出することができるラマン分光装置を提供することにある。また、本発明のいくつかの態様に係る目的の1つは、上記ラマン分光装置を含む電子機器を提供することにある。
本発明は上述の課題の少なくとも一部を解決するために為されたものであり、以下の態様又は適用例として実現することができる。
本発明に係るラマン分光装置の一態様は、試料中の標的物質を分析するラマン分光装置であって、前記標的物質の基底状態と励起状態とのエネルギー差に相当する波長の光を含む第1励起光を前記試料に照射する第1光源と、前記試料に接触される光学素子と、前記光学素子を冷却する素子冷却部と、前記光学素子に第2励起光を照射する第2光源と、前記光学素子から放射される表面増強ラマン散乱光を検出する光検出器と、を有する。
このようなラマン分光装置によれば、光学素子が素子冷却部によって冷却されるため、吸着した標的物質の素子表面での平均滞在時間を長くすることができ、標的物質のラマン散乱光の強度を高めることができる。また、試料中の標的物質のエネルギー状態を励起状態とすることができ、これにより標的物質を光学素子に化学吸着し易くすることができる。これにより生じた化学増強効果からラマン散乱光の強度を大きくすることができ、標的物質を高感度で検出、分析することができる。
本発明に係るラマン分光装置において、前記第1励起光は、150nm以上400nm以下の波長の光を含んでもよい。
このようなラマン分光装置によれば、標的物質のエネルギー状態を第1励起光によって励起状態にすることができ、これにより標的物質を光学素子に化学吸着し易くすることができる。化学吸着により生じた化学増強効果によりラマン散乱光強度を大きくすることができ、標的物質をさらに高感度に検出、分析することができる。
本発明に係るラマン分光装置において、前記第2励起光は、350nm以上1000nm以下の波長の光を含んでもよい。
このようなラマン分光装置によれば、表面増強ラマン散乱光の測定において、標的物質を励起してラマン散乱光を生じさせることができる。これにより標的物質を高感度に検出、分析することができる。
本発明に係るラマン分光装置において、前記第1励起光は、前記試料が前記光学素子に接触する前に、前記試料に照射されてもよい。
このようなラマン分光装置によれば、試料中の標的物質のエネルギー状態を第1励起光によってより確実に励起状態とすることができ、これにより標的物質を光学素子に化学吸着し易くすることができる。
本発明に係るラマン分光装置において、前記光学素子は、基板と、前記基板に形成され
た第1金属層と、前記第1金属層と離間して形成された金属微細構造層と、前記金属微細構造層と離間して形成された第2金属層と、を有してもよく、前記ラマン分光装置は、前記第1金属層と前記第2金属層との間に電位差を発生させる電源部を有してもよい。
このようなラマン分光装置によれば、標的物質に対して電界を印可することができるため、光学素子の表面での平均滞在時間を長くすることができる。これにより標的物質をさらに高感度で検出、分析することができる。
本発明に係るラマン分光装置において、前記ラマン分光装置は、前記試料を冷却する試料冷却部を有してもよく、前記試料冷却部は、前記試料に前記第1励起光が照射される前に前記試料を冷却してもよい。
このようなラマン分光装置によれば、試料に含まれる水が、光学素子の表面に結露することを抑制することができる。これにより標的物質の検出における誤差因子を減じることができる。また、このようなラマン分光装置によれば、第1励起光が照射される前に試料が冷却される。そのため、試料に含まれる物質のうち、第1励起光のエネルギーに対応するエネルギー差を有する物質が、冷却された状態で基底状態から励起状態へと励起される。そのため物質が冷却された状態では、冷却されない状態で励起可能であった物質を励起されにくくすることができる。これにより物質の分子構造によって、励起状態にある物質と基底状態にある物質とを分別することが可能となる。そして標的物質が選択的に励起されるように冷却温度を設定すれば、光学素子への他の物質の吸着を抑制し、標的物質をより効率よく吸着させることができる。これにより標的物質をさらに高感度で検出、分析することができる。
本発明に係る電子機器の一態様は、上述のラマン分光装置と、前記光検出器からの検出情報に基づいて健康医療情報を演算する演算部と、前記健康医療情報を記憶する記憶部と、前記健康医療情報を表示する表示部と、を含む。
このような電子機器によれば、微量物質の検出を容易に行うことができ、高精度な健康医療情報を提供することができる。
本発明の電子機器において、前記健康医療情報は、細菌、ウィルス、タンパク質、核酸、及び抗原・抗体からなる群より選択される少なくとも1種の生体関連物質、又は、無機分子及び有機分子から選択される少なくとも1種の化合物の、有無若しくは量に関する情報を含んでもよい。
このような電子機器によれば、有用な健康医療情報を提供することができる。
実施形態に係るラマン分光装置の概略図。 標的分子の一例であるアセトンの分子構造を示す図。 アセトンの可視−紫外領域の吸収スペクトル及び発光スペクトル。 アセトンを励起させる第一励起光を説明する図。 脱離活性化エネルギーEdの説明図。 脱離活性化エネルギーEdと被覆率θとの相関を示す特性図。 QCMによるAg表面に対するアセトンの脱離特性を示す図。 指数関数曲線になり始めるときの周波数と、脱離し終えて平衡状態になったときの周波数を示す図。 アセトンの脱離特性を示す図。 QCM測定したアセトンの脱離特性へのUV照射の影響を示す図。 実施形態の光学素子を模式的に示す斜視図。 実施形態の光学素子を第1金属層の厚さ方向から平面的に見た模式図。 実施形態の光学素子の第1方向に垂直な断面の模式図。 実施形態の光学素子の第2方向に垂直な断面の模式図。 変形例に係る光学素子の第2方向に垂直な断面の模式図。 電荷移動共鳴を説明するための図。 実施形態に係るラマン分光装置の概略図。 冷却による物質のエネルギーバンドの変化を示す模式図。 実施形態に係るラマン分光装置を模式的に示す図。 実施形態に係る電子機器を模式的に示す図。
以下に本発明のいくつかの実施形態について説明する。以下に説明する実施形態は、本発明の一例を説明するものである。本発明は以下の実施形態になんら限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形形態も含む。なお以下で説明される構成の全てが本発明の必須の構成であるとは限らない。
1.ラマン分光装置
本実施形態に係るラマン分光装置について、図面を参照しながら説明する。図1は、本実施形態に係るラマン分光装置100を模式的に示す図である。本実施形態のラマン分光装置100は、図1に示すように、第1光源21と、光学素子(センサーチップ)10と、第2光源22と、素子冷却部30と、光検出器40とを含む。ラマン分光装置100は、標的物質からのラマン散乱光を検出して分析(定性分析、定量分析)する。以下、標的物質、第1光源21、光学素子10、第2光源22、素子冷却部30、及び光検出器40について順に説明する。
1.1.標的物質
本実施形態のラマン分光装置100によって分析される標的物質としては、各種の有機分子、無機分子が挙げられ、さらに、タンパク質、核酸、及び抗原・抗体等の高分子や、ウィルス、細菌等であってもよい。標的物質は試料に含まれる。試料の性状は、気体(ガス)及び/又は液体等の流体であることができる。試料は、例えば、混合気、ミスト、ゾル、溶液、懸濁液等の形態で標的物質を含有する。試料には、標的物質以外の物質が含まれてもよい。試料に含まれる標的物質の量は特に限定されない。
本実施形態のラマン分光装置100では、ラマン分光装置100に試料が導入された後、試料に第1励起光21Aが照射されて当該試料が光学素子10に接触される。その後必要に応じて試料は、ラマン分光装置100外へ排出される。ラマン分光装置100は、試料を適宜の態様で移送する構成を有することができる。そのような構成としては、ラマン分光装置100の外部から光学素子10へ通じる流路と、試料を流路内で流通させるポンプ及び/又はファンを例示することができる。また、本実施形態のラマン分光装置100においては、上記の試料の流れを実現できる流路に対して呼気(試料の一種)を吹込むように構成されてもよい。さらに、本実施形態のラマン分光装置100は、試料を収容する容器と、その内部の試料に光学素子10を接触させることができるような接続機構とを含んで構成されてもよい。本実施形態のラマン分光装置100がこのような容器を含んで構成される場合でも、試料に対して第1励起光21Aが、光学素子10に接触する前に照射される。なお図面においては、試料の流れを模式的に矢印で描くことにより流路を省略して表す場合がある。
1.1.第1光源
第1光源21は光学素子10に供給される試料に第1励起光21Aを照射する。第1励起光21Aは、試料中の標的物質に応じた波長に設定され、標的物質に照射されることで標的物質を、基底状態から励起状態へと励起する。なお、このとき達成される励起状態は、最低励起状態(LUMO:Lowest Unoccupied Molecular
Orbital)であってもその他の励起状態であってもよい。
図2に、標的物質の一例であるアセトンの分子構造を示す。アセトンのようなケトン類は、通常ケト体とエノール体の構造をとり得るが、ケト体のほうがより安定であるためケト体で存在する割合が大きく、反応性の高い、より不安定なエノール体の存在量は通常の場合、0.1%以下である。
図3に、アセトンの可視−紫外領域の吸収スペクトル、及び発光スペクトルを示す。気体状態のアセトンの分子の光の吸収波長のピークは、278nm付近であり、これは、基底状態と最低励起状態とのエネルギー差(ギャップ)に対応している。そして、図4に示すように、278nm付近の波長を含む光の照射により、酸素原子のn軌道からC−O結合のπ*軌道への電子遷移が起こり、さらに分子内で水素原子の移動が起こり、ケト体からエノール体へと構造の変化が生じる。
エノール体は水素原子が解離してイオン化が起こりやすく、光学素子10の表面に化学吸着しやすい構造である。一方、図3に示した発光スペクトルのピークは、450nm付近に存在しており、これは状態が最低励起状態から基底状態へ戻る際に放出される発光である。
標的物質がアセトンである場合には、ラマン測定では、入射光i(第2励起光22A)以外の波長の光は、ノイズとしてラマンスペクトルの質を低下させる場合がある。このため、ラマン測定では、基底状態に戻る際の発光が測定に影響しないように、第2励起光22Aは、波長が500nm以上の光で励起を行うことが好ましい。
アセトンの例ではケト−エノール転移によって化学構造の変化が生じてこれに起因して吸着力が増加する旨説明したが、その他の標的物質においても励起状態となることによって光学素子10の表面への吸着性は向上するため、必ずしも励起による分子構造の変化は必要ではない。一方、標的物質が高分子等である場合には、構造の一部が励起状態に励起されればよいし、また分子の複数箇所において励起状態が達成されてもよい。また、アセトンの場合と同様に、その他の標的物質においても、第2励起光22Aの波長を選ぶ際には、基底状態へ戻る際の発光の影響を受けにくいように選択することがより好ましい。
第1励起光21Aの波長は、標的物質を励起することができる限り、いわゆる単波長であっても波長に分布を有するものであってもよく特に限定されない。第1励起光21Aは、150nm以上400nm以下の波長の光を含んでもよい。
第1励起光21Aを発生する第1光源21としては、可視光、紫外(Ultra Violet)光、深紫外(Deep Ultra Violet)光等の所定の波長を含む光を発生することができるものであり、例えば、キセノンランプ、ハロゲンランプ、気体レーザー、レーザーダイオード、発光ダイオードなどが挙げられる。また、第1光源21は、フィルター等を備えてもよく、必要に応じて照射する第1励起光21Aの波長を選択できるようにしてもよい。なお、図1に示す例では、第1光源21は、流路の外側から窓(破線部分)を介して試料に照射される態様であるが、第1光源21は、流路内に設けられてもよい。
第1光源21の第1励起光21Aが試料に照射される結果、試料中の標的物質が励起状態となるため、当該試料が光学素子10に接触した際に、当該標的物質の光学素子10の表面への吸着性を高める、又は、光学素子10の表面での平均滞在時間を長くすることができる。
第1励起光21Aが照射された場合に標的物質が光学素子10の金属微細構造7(例え
ば金属粒子(後述する。))に吸着する場合の効果について、以下に一般的に説明する。
金属に分子が吸着すると、エネルギー的に安定な状態であれば吸着が維持される。その安定状態から脱離しやすいか否かで、吸着能力の大小が決まる。図5に示すように、吸着状態から脱離に至るまでの脱離活性化エネルギーEdが大きいと吸着能力が高く、脱離活性化エネルギーEdが低いと吸着能力は低い。脱離現象の速度論的考察によると、脱離速度は次のWigner−Polanyi型の速度式(1)で記述される。
ここで、θは被覆率、νnは反応次数nのときの前指数因子、Edは脱離活性化エネルギー、Tは絶対温度、Rは気体定数、tは時間である。反応次数について、吸着サイト1つを利用して吸着するものが1次、吸着サイト2つを利用して吸着するものが2次となる。ここで、吸着サイトとは、エネルギーが低く分子が安定的に吸着できる箇所を指す。有機分子であれば金属に対して1次吸着するものが多く、ここでは1次のみを考えることとする。式(1)をn=1で解き、脱離残量σ(t)を用いて表すと、式(2)になる。下記式(2)中のCは気体吸着量、θ0は初期被覆率、である。
気体定数Rは、アボガドロ数をNAとし、ボルツマン定数をkbとし、絶対温度Tの単位をK(ケルビン)とすると、R=NA×kb=8.314(J/mol・K)と一定値である。前指数因子ν1は吸着分子と吸着材によって変わるが、一般的には1013〜1014である。そこで、前指数因子ν1=1013、絶対温度T=300Kとして、上記式(2)から被覆率θ(t)(=脱離残量/初期吸着量)と脱離活性化エネルギー(kJ/mol)との関係を求めると、図6に示すようになる。脱離活性化エネルギーEdが大きいほど、被覆率θ(t)は大きくなることが分かる。つまり、脱離活性化エネルギーEdが大きいほど、分子が金属に吸着し続け、分子により金属表面が被覆される被覆率が高まることが分かる。
dを実測で求める方法としては、最も代表的なものでは水晶マイクロ天秤(QCM;Quartz Crystal Microbalance)によるものがある。QCMは圧電ウエハと計測部から構成される。圧電ウエハは、2つの表面に配置された金属電極を有する水晶振動子を基板として用いた。水晶振動子の発振は、逆圧電効果による交流電界によって機械的な共鳴に励起される。共鳴周波数は、表面電極へ吸着された分子の質量に応じて変化する。Sauerbreyの式によると、質量変化量をΔm、F0を基本周波数、Aを電極面積、μqを水晶のせん断応力、ρqを水晶の密度とすると、周波数変化量ΔFは、次の式(3)で表される。
共鳴周波数は、質量増加時は小さくなり、質量減少時は大きくなる。水晶AT板27M
Hzの基準振動数で1Hzの振動変動を検知した場合、17.7ng/cm2の質量変動を検知できることになる。
1つの例として、Ag電極を有したQCMチップに例えばアセトン蒸気を5分以上の十分な時間で曝露させ、アセトン蒸気曝露をすばやく停止させる。すると図7のような曲線が得られる。図7の曲線には、Ag電極に吸着した第1層のアセトンとその上に多層吸着したアセトンが含まれている。知りたいのはAgに直接吸着している第1層のアセトンのEdであるので、図7から多層吸着分の寄与を除く必要がある。多層吸着の脱離特性は上述の式(1)の反応次数n=0に相当する。式(1)にn=0を代入して解くと、式(4)となる。
つまり多層吸着分子の脱離特性は1次関数で与えられ、第1層吸着の式(2)の指数関数とは区別できることがわかる。よって図7の脱離特性から1次関数挙動部分を除き、指数関数部分のみを抽出することで第1層吸着の脱離特性を知ることができる。式(3)を用いて周波数変化量ΔFから被覆率θに下記の式(5)を用いて変換する。
図8に示すように、Fminは破線で示す一次関数から指数関数曲線になり始めるときの周波数を、FMaxは脱離し終えて平衡状態になったときの周波数を表す。式(5)で変換したアセトンのAg表面からの脱離特性は、図9の実線曲線のようになる。図9の縦軸は脱離率で1−被覆率θ(t)を表す。この曲線に式(2)を、Edを変数としてフィッティングさせることでEdを求めることができる。ν1=1013、温度T=293KとしてフィッティングさせるとEd=68.2kJ/molとなる。フィッティングさせた曲線を図9の点線で示した。
この例では、Agを表面に蒸着したQCMチップを用いて、Ag表面に対するアセトン気体(UVなし)のEd値と、278nm付近のUVを照射した際のアセトン気体のEd値を上記のようにして求める。まず、QCMによって測定したアセトン(UVなし)とアセトン(UV照射)のAgに対する脱離特性を図10に示す。UV光源(第1光源21)は重水素ランプを用い、干渉フィルターを用いて278nm付近の光のみを取り出したものである。図10に示す特性から、ν1=1013としたときのアセトン(UVなし)のEd値は68.2kJ/molであったのが、UVを照射したアセトンのEd値が80.8kJ/molと大幅に大きくなる。このことから、UV照射によりアセトンの吸着力が向上していることが確認できる。
1.2.光学素子
本実施形態のラマン分光装置100が有する光学素子10は、標的物質が吸着して第2励起光22Aが照射される表面に表面プラズモン共鳴(SPR:Surface Plasmon Resonance)を発生することができる限り特に限定されない。このような表面の例としては、金属のナノ粒子が、ランダムに又は規則的に配置された表面であり、当該表面に標的物質が吸着した状態で、第2励起光22Aを照射すると、標的物質の
振動エネルギーの分だけ、第2励起光22Aの波長からずれた波長の光(ラマン散乱光)が散乱される態様が挙げられる。係る散乱は、表面増強ラマン散乱(SERS:Surface Enhanced Raman Scattering)であり、ラマン散乱光が102〜1014倍に増強されている。そしてこのSERS光を分光処理することにより、標的物質の種類(分子種)に固有のスペクトル(指紋スペクトル)を高感度で得ることができる。
以下、光学素子の一実施形態として、表面に金属微細構造7の一例としての金属粒子が配置された光学素子10について説明する。図11は、光学素子の一例である本実施形態の光学素子10を模式的に示す斜視図である。図12は、光学素子10を平面的に見た(第1金属層2の厚さ方向から見た)図である。図13及び図14は、光学素子10の断面の模式図である。本実施形態の光学素子10は、第1金属層2と、誘電体層4と、金属微細構造層6と、を含む。
1.2.1.金属層
本実施形態の光学素子10は、第1金属層2を有する。第1金属層2は、光を透過しない金属の表面を提供するものであれば、特に限定されず、例えばフィルム、板、層又は膜の形状とすることができる。第1金属層2は、例えば基板1の上に設けられてもよい。この場合の基板1としては、特に限定されないが、第1金属層2に励起される伝搬型表面プラズモンに影響を与えにくいものが好ましい。基板1としては、例えば、ガラス基板、シリコン基板、樹脂基板などが挙げられる。基板1の第1金属層2が設けられる面の形状も特に限定されない。第1金属層2の表面に所定の構造を形成する場合にはその構造に対応する表面を有してもよいし、第1金属層2の表面を平面とする場合には、対応する部分の表面を平面としてもよい。図11〜図14の例では、基板1の表面(平面)の上に層状の第1金属層2が設けられている。
本明細書では、光学素子10において、第1金属層2の厚さ方向を、厚み方向、高さ方向等と称する場合がある。本実施形態では、第1金属層2の厚さ方向とは、後述の誘電体層4及び金属微細構造層6の厚さ方向と一致している。また、第1金属層2が基板1の表面に設けられる場合には、基板1の表面の法線方向を厚さ方向、厚み方向又は高さ方向と称する場合がある。さらに、基板1からみて、第1金属層2側の方向を上、又は上方と表現し、その逆方向を下、又は下方と表現する場合がある。
また、本明細書において、例えば、「部材Aの上に部材Bが設けられる」との表現は、部材Aの上に接して部材Bが設けられる場合と、部材Aの上に他の部材又は空間を介して部材Bが配置される場合と、を含む意味である。
第1金属層2は、例えば、蒸着、スパッタ、鋳造、機械加工等の手法により形成することができる。第1金属層2が薄膜状に基板1の上に設けられる場合には、基板1の上面全体に設けられてもよいし基板1の一部に設けられてもよい。第1金属層2の厚さは、第1金属層2に伝搬型表面プラズモンが励起され得るかぎり特に限定されず、例えば、10nm以上1mm以下、好ましくは20nm以上100μm以下、より好ましくは30nm以上1μm以下とすることができる。
第1金属層2は、入射光i(第2励起光22A)により与えられる電場と、その電場によって誘起される分極とが逆位相で振動するような電場が存在しうる金属、すなわち、特定の電場が与えられた場合に、誘電関数の実数部が負の値を有し(負の誘電率を有し)、虚数部の誘電率が実数部の誘電率の絶対値よりも小さい誘電率を有することのできる金属によって構成されることが好ましい。可視光領域におけるこのような誘電率を有しうる金属の例としては、銀、金、アルミニウム、銅、白金、及びそれらの合金等を挙げることが
できる。また、第1金属層2の表面(厚さ方向の端面)は、特定の結晶面であってもなくてもよい。また、第1金属層2は、平面視において、誘電体層4の外側まで形成されてもよい。
第1金属層2は、光学素子10において伝搬型表面プラズモン(PSP)を発生させる機能を有してもよい。特定の条件下では、第1金属層2に光が入射することにより、第1金属層2の表面(厚さ方向の端面)近傍に伝搬型表面プラズモンが発生する。本明細書では、第1金属層2の表面付近の電荷の振動と電磁波とが結合した振動の量子を、表面プラズモン・ポラリトン(SPP:Surface Plasmon Plariton)と称することがある。係る第1金属層2に伝搬型表面プラズモンを発生させる場合には、後述の金属微細構造層6に発生する局在型表面プラズモンと相互作用させてもよい。
1.2.2.誘電体層
本実施形態の光学素子10は、第1金属層2と金属微細構造層6(金属微細構造7)とを電気的に隔てる誘電体層4を有する。誘電体層4は、図11、13、14に示すように、第1金属層2の上に設けられる。これにより、第1金属層2と金属微細構造層6内に含まれる金属微細構造7とを隔てることができる。誘電体層4は、フィルム、層又は膜の形状を有することができる。
誘電体層4は、正の誘電率を有すればよく、例えば、SiO2、Al23、TiO2、高分子、ITO(Indium Tin Oxide)などで形成することができる。また誘電体層4は、材質の互いに異なる複数の層から構成されてもよい。これらのうち、誘電体層4の材質としては、SiO2であることがより好ましい。このようにすれば、400nm以上の波長λiの入射光(第2励起光22A)を用いて、試料を測定する際に、入射光i(第2励起光22A)及びラマン散乱光の両者を容易に増強することができる。
誘電体層4の厚さは、光学素子10に照射される入射光i(第2励起光22A)の波長λi、波長λiの光を入射した際のラマン散乱光の波長λs等を考慮して設計される。入射光i(第2励起光22A)については後述する。
誘電体層4は、例えば、蒸着、スパッタ、CVD、各種コーティング等の手法により形成することができる。誘電体層4は、第1金属層2の表面の全面に設けられてもよいし第1金属層2の表面の一部に設けられてもよい。誘電体層4は、少なくとも金属微細構造層6の下に設けられ、さらに、金属微細構造層6の存在しない位置にも設けられてもよい。
誘電体層4の厚さは、特に限定されず、例えば、10nm以上2000nm以下、好ましくは20nm以上500nm以下、より好ましくは20nm以上300nm以下とすることができる。
誘電体層4内(平面方向:誘電体層4と平行な方向)には光を伝搬させることができる。また、誘電体層4は、誘電体層4と第1金属層2との界面近傍に発生する伝搬型表面プラズモン(PSP)を、誘電体層4内(平面方向)に伝搬させることができる。また、金属微細構造層6を1つの層とみなす場合には、第1金属層2及び金属微細構造層6によって、両端で光が反射される構造の共振器とみなすことができ、誘電体層4は、その共振器の光路に相当する。このような共振器では、入射光i(第2励起光22A)と反射光との重ね合わせを起すことができる。誘電体層4の厚さは、入射光i(第2励起光22A)と反射光との重ね合わせにより生じる定在波の腹が、金属微細構造層6の厚さ方向の中央付近となるように設定されることにより、金属微細構造層6に生じるLSPの強度をさらに高めることができる。このような点を考慮して誘電体層4の厚さを設定することもでき、この場合には、例えば、入射光i(第2励起光22A)の波長が633nmのときに誘電
体層4の厚さを230nmとすることが挙げられるが、誘電体層4の厚さはこれに限定されない。
1.2.3.金属微細構造層
金属微細構造層6は、誘電体層4の上に設けられる。平面視において、金属微細構造層6は、誘電体層4が形成された領域内の一部又は全部に形成される。金属微細構造層6は、金属微細構造7を含む。図示の例では、金属微細構造7は、粒子状の構造(金属粒子)となっているが、金属微細構造7は、このような態様に限定されない。金属微細構造層6に含まれる金属微細構造7の数、大きさ(寸法)、形状、配列等については、特に限定されない。また、金属微細構造層6は、金属微細構造7以外に気体(空間)、誘電体等を含んでもよい。
金属微細構造層6は、誘電体層4の上面から、金属微細構造7の誘電体層4から離れた側の上端に接する面との間の部分と定義する(図13、14参照)。例えば、金属微細構造層6の上面及び下面は、金属微細構造層6に金属微細構造7と気体(空間)が含まれている場合には、仮想的な面となり、金属微細構造層6には、金属微細構造7の側方に配置された気体も含まれるものとする。
金属微細構造層6の平面的な形状は、特に限定されず、矩形、多角形、円形、楕円形等、任意の形状とすることができる。また、金属微細構造層6の平面的な形状は、入射光i(第2励起光22A)の照射領域の形状と相似的な形状とすると、入射光i(第2励起光22A)のエネルギーをより効率的に電場増強に充てることができる場合がある。
金属微細構造層6に含まれる金属微細構造7は、入射光i(第2励起光22A)の照射により、局在型表面プラズモンを発生することができれば、その数、大きさ(寸法)、形状、配列等について、特に限定されない。図11〜図14は、金属微細構造層6に含まれる金属微細構造7の一例を粒子状の微細構造(金属粒子)として示している。この例では金属微細構造層6は、金属微細構造7が、第1方向にピッチP1で複数並んだ金属微細構造列71を有し、かつ、金属微細構造列71が、第1方向と交差する第2方向に、ピッチP2で複数並んだ構造を有している。
以下この例を用いて金属微細構造層6、金属微細構造7について説明する。図13、14に示すように、金属微細構造層6は、金属微細構造7を含む層であるが、金属微細構造7以外の部分には、誘電体等の他の物質が配置されてもよく、好ましくは気体(空間)が配置される。
金属微細構造7は、誘電体層4の存在により、第1金属層2から厚さ方向に離間して設けられる。金属微細構造7は、第1金属層2の上に誘電体層4を介して配置される。図11〜図14の例では、第1金属層2の上に誘電体層4が設けられ、その上に金属微細構造7が形成されているが、誘電体層4は層状でなくても、第1金属層2と金属微細構造7とが厚さ方向で離間して配置されていればよい。
金属微細構造7の形状は、特に限定されず、例えば、粒子状の構造でる場合には、第1金属層2又は誘電体層4の厚さ方向に投影した場合に(厚さ方向からの平面視において)円形、楕円形、多角形、不定形又はそれらを組合わせた形であることができ、厚さ方向に直交する方向に投影した場合にも円形、楕円形、多角形、不定形又はそれらを組合わせた形状であることができる。図11〜図14の例では金属微細構造7は、いずれも誘電体層4の厚さ方向に中心軸を有する円柱状の形状で描かれているが、金属微細構造7の形状はこれに限定されず、例えば、角柱状、楕円柱状、半球状、球状、錐状、錐台状等であってもよい。
金属微細構造7の高さ方向(誘電体層4の厚さ方向)の大きさTは、高さ方向に垂直な平面によって金属微細構造7を切ることができる区間の長さを指し、1nm以上300nm以下とすることができる。また、金属微細構造7の高さ方向に直交する第1方向の大きさは、第1方向に垂直な平面によって金属微細構造7を切ることができる区間の長さを指し、5nm以上300nm以下とすることができる。例えば、金属微細構造7の形状が高さ方向を中心軸とする円柱である場合には、金属微細構造7の高さ方向の大きさ(円柱の高さ)は、1nm以上300nm以下、好ましくは2nm以上100nm以下、より好ましくは3nm以上50nm以下、さらに好ましくは4nm以上40nm以下とすることができる。また金属微細構造7の形状が高さ方向を中心軸とする円柱である場合には、金属微細構造7の第1方向の大きさ(円柱底面の直径)は、10nm以上300nm以下、好ましくは20nm以上200nm以下、より好ましくは25nm以上180nm以下としてもよい。
金属微細構造7の形状、材質は、入射光i(第2励起光22A)の照射によって、局在型表面プラズモン(LSP)を生じうる限り任意である。可視光付近の光によって局在型表面プラズモンを生じうる材質としては、金、銀、アルミニウム、銅、白金、及びそれらの合金等を挙げることができる。これらの中でも、金属微細構造7の材質としては、Au又はAgであることがより好ましい。このようにすれば、より強いLSPが得られ、素子全体の電場増強度を強めることができる。
金属微細構造7は、例えば、スパッタ、蒸着等によって薄膜を形成した後にパターニングを行う方法、マイクロコンタクトプリント法、ナノインプリント法などによって形成することができる。また、金属微細構造7は、基板上に塗布したレジストを電子線描画等により感光させ、スパッタ、蒸着等によって金属薄膜を成膜した後にレジストを除去してパターニングを行うリソグラフィー法などによって形成することができる。また、金属微細構造7は、コロイド化学的手法によって形成することができ、これを適宜の手法によって誘電体層4上に配置してもよい。
金属微細構造7は、本実施形態の光学素子10において局在型表面プラズモン(LSP)を発生させる機能を有している。金属微細構造7に、特定の条件で入射光i(第2励起光22A)を照射することにより、金属微細構造7の周辺に局在型表面プラズモンを発生させることができる。金属微細構造7に発生した局在型表面プラズモンが、第1金属層2と誘電体層4との界面近傍に発生する伝搬型表面プラズモンと相互作用できるように入射光i(第2励起光22A)の波長λi、誘電体層4の厚さ、金属微細構造7の配列等を設定してもよい。
光学素子10には、金属微細構造層6側から入射光i(第2励起光22A)が照射される。そして、入射光i(第2励起光22A)は、金属微細構造層6、誘電体層4、及び第1金属層2と、回折、屈折、反射等の各種の相互作用をして入射光i(第2励起光22A)の照射された領域及びその近傍にて、プラズモン共鳴を生じ、高い電場増強効果を示すことができる。
図11〜図14に示す例では、金属微細構造7は、複数が並んで金属微細構造列71を構成している。金属微細構造7は、金属微細構造列71において、第1金属層2の厚さ方向と直交する第1方向に並んで配置される。言換えると金属微細構造列71は、金属微細構造7が高さ方向と直交する第1方向に複数並んだ構造を有する。1つの金属微細構造列71に並ぶ金属微細構造7の数は、複数であればよく、好ましくは10個以上である。
ここで金属微細構造列71内における第1方向の金属微細構造7の重心間の距離をピッ
チP1と定義する(図12〜図14参照)。金属微細構造列71内における2つの金属微細構造7の粒子間距離は、金属微細構造7が第1金属層2の厚さ方向を中心軸とする円柱である場合には、ピッチP1から円柱の直径を差引いた長さに等しい。この粒子間距離が小さいと、粒子間に働く局在型表面プラズモンの強度が増大する傾向がある。粒子間距離は、1nm以上530nm以下であり、好ましくは5nm以上200nm以下、より好ましくは5nm以上150nm以下とすることができる。
金属微細構造列71内における第1方向の金属微細構造7のピッチP1は、例えば、6nm以上535nm以下であり、好ましくは10nm以上400nm以下、より好ましくは20nm以上350nm以下とすることができる。
金属微細構造列71は、第1方向にピッチP1で並ぶ複数の金属微細構造7によって構成されるが、金属微細構造7に発生される局在型表面プラズモンの分布・強度等は、この金属微細構造7の配列にも依存する。したがって、第1金属層2に発生する伝搬型表面プラズモンと相互作用する局在型表面プラズモンは、単一の金属微細構造7に発生する局在型表面プラズモンだけでなく、金属微細構造列71における金属微細構造7の配列を考慮した局在型表面プラズモンである。
図11〜図14に示す例では、金属微細構造列71は、第1金属層2の厚さ方向及び第1方向と交差する第2方向にピッチP2で並んで配置されている。金属微細構造列71が並ぶ数は、複数であればよく、好ましくは5列以上である。ここで、隣合う金属微細構造列71の第2方向における重心間の距離をピッチP2と定義する。ピッチP2は、金属微細構造列71が、複数の列から構成される場合には、複数の列の第2方向における重心の位置と、隣の金属微細構造列71の複数の列の第2方向における重心の位置と、の間の距離を指す。
金属微細構造列71間のピッチP2は、例えば、10nm以上10μm以下であり、好ましくは100nm以上2μm以下、より好ましくは300nm以上1900nm以下、さらに好ましくは400nm以上1850nm以下、特に好ましくは480nm以上1840nm以下とすることができる。
図11〜図14の例では、金属微細構造層6の金属微細構造7(この例では、金属粒子)が規則的な配列となっている例であるが、本実施形態の光学素子10では、金属微細構造7の配列は、規則性を有する必要はなく、ランダムな配置であってもよく、また部分的に規則性を有する配置であってもよい。
またなお、金属微細構造層6を図11〜図14のような配置とした場合、ピッチP1及びピッチP2を、
P1<P2≦Q+P1
[ここで、P1は第1のピッチ、P2は第2のピッチ、Qは、第2金属層の列に励起される局在型表面プラズモンの角振動数をω、金属層を構成する金属の誘電率をε(ω)、金属層の周辺の誘電率をε、真空中の光速をc、入射光i(第2励起光22A)の照射角であって金属層の厚さ方向からの傾斜角をθ、として、下記式で与えられる回析格子のピッチを表す。](ω/c)・{ε・ε(ω)/(ε+ε(ω))}1/2=ε1/2・(ω/c)・sinθ+2mπ/Q (m=±1,±2,,)
なる関係を満たすように設定すれば局在型表面プラズモンと伝搬型表面プラズモンとの良好な相互作用を生じさせることができ、さらに高い電場増強効果を得ることができる。
以上例示した光学素子10では、入射光i(第2励起光22A)の照射により、金属微細構造層6の金属微細構造7の近傍に、非常に大きい増強電場が形成される。したがって
、光学素子10の金属微細構造層6の金属微細構造7に標的物質を吸着(付着、接触)させた状態で、入射光i(第2励起光22A)を照射することにより、入射光i(第2励起光22A)及び標的物質によるラマン散乱光の両者を大幅に増幅することができる。なお、光学素子10及び試料の流路等は、標的物質が光学素子10の金属微細構造層6の金属微細構造7に吸着(付着、接触)できるように配置される。
金属微細構造7の近傍に発生する増強電場は、金属微細構造7の表面に近いほど大きくなるため、標的物質が金属微細構造7に接近するほど光の増強効果をより効率的に得ることができる。本実施形態のラマン分光装置100では、標的物質が含まれる試料に、上述の第1励起光21Aが、光学素子10に接触される前に照射されるため、当該標的物質は、光学素子10の表面への吸着性が高く、又は、表面における平均滞在時間が長くなっている。
したがって、標的物質が光学素子10の表面の金属微細構造7に接近した状態で、第2励起光22Aが照射されることにより、標的物質に固有の表面増強ラマン散乱光が光学素子10から放射され、これを光検出器40(後述する)により検出することで、標的物質を高感度で検出、分析することができる。
1.2.4.光学素子の変形
光学素子には、第2金属層8が設けられてもよい。図15は、変形例に係る光学素子11の断面の模式図である。第2金属層8は、図15に示すように、第1金属層2と対になって、少なくとも金属微細構造層6に対して電界を印可する機能を有する。第2金属層8は、第1金属層2と平行な平面状に形成されることが好ましい。第2金属層8の平面的な大きさは特に限定されないが、第1金属層2と同じであることが好ましい。
第2金属層8と金属微細構造層6とは、試料を導入できる程度の間隔を有して配置される。そして試料は、当該間隔内に導入され、金属微細構造層6の金属微細構造7に接触される。第2金属層8は、図示しない適宜の構造体(他の基板等)によって保持されることができる。第2金属層8の厚さは、特に限定されない。第2金属層8は、例えば、蒸着、スパッタ、鋳造、機械加工等の手法により形成することができる。
なお、第2金属層8と金属微細構造層6との間の間隔が広く、第2励起光22Aが金属微細構造層6に十分に到達できる場合には、第2金属層8は光学的に不透明な材質(例えば、金等)によって形成することができる。第2金属層8と金属微細構造層6との間の間隔が狭く、第2励起光22Aが金属微細構造層6に到達しにくい場合には、第2金属層8は光学的に透明な材質(例えば、ITO等)によって形成することにより、第2励起光22Aを金属微細構造層6に照射することができる。
本実施形態のラマン分光装置100は、光学素子10に第2金属層8が設けられる場合には第1金属層2及び第2金属層8の間に電位差を生じさせる電源部9を含んで構成される。電源部9は第1金属層2及び第2金属層8の間に電位差を生じさせることができれば任意の構成とすることができる。第1金属層2及び第2金属層8に印可される電圧や極性は特に限定されず、吸着させる標的物質の種類に応じて適宜設定される。また、第1金属層2及び第2金属層8には、交流電圧が印可されてもよい。なお、第1金属層2及び第2金属層8の間に電位差が大きいほど、印加電圧によって与えられる静電エネルギー(Ev:後述する。)を大きくすることができるため、標的物質が金属微細構造層6の表面に滞在する平均滞在時間(τ:後述する。式(6)、(7)を合わせて参照。)を大きくすることができるため、標的物質の検出感度を向上することができる。
1.3.第2光源
第2光源22は、図1に示すように、光学素子10に対して第2励起光22Aを照射する。第2励起光22Aに含まれる光の波長は、特に限定されないが、例えば350nm以上1000nm以下であり、より具体的には532nm、633nm、785nmである。また、第2励起光22Aに含まれる光の波長の分布は、広くても狭くても(例えば、単波長でも)よい。第2励起光22Aは、少なくとも、光学素子10の金属微細構造7近傍に局在型表面プラズモン(LSP)を生じさせる。また、第2励起光22Aは、コヒーレントであってもなくてもよい。さらに、第2励起光22Aは、偏光光であってもよく、その場合には第2光源22は偏光フィルター等を備えてもよい。なお、図1に示す例では、第2光源22は、流路の外側から窓(破線部分)を介して光学素子10に照射される態様であるが、第2光源22は、流路内に設けられてもよい。
既に述べたが、ラマン測定では第2励起光22A以外の波長の光は、ノイズとしてラマンスペクトルの質を低下させる場合がある。このため、第2励起光22Aは、標的物質が例えば、アセトンである場合には、第1励起光21Aで励起状態に励起された標的物質が基底状態に戻る際の発光が、測定に影響しないように、500nm以上の波長とすることが好ましい。アセトンを一例として説明したが、その他の標的物質においても、第2励起光22Aの波長を選ぶ際には、基底状態へ戻る際の発光の影響を受けにくいように選択することがより好ましい。このような観点からは、第2励起光22Aは、350nm以上1000nm以下の波長の光を含むようにすることがより好ましい。
第2光源22は、標的物質が吸着された金属微細構造7を含む光学素子10に、光(例えば波長633nmのレーザー光)を照射する。第2光源22から射出された光は、必要に応じてレンズ等で集光された後、光学素子10に入射する。光学素子10からは、SERS光が放射され、該SERS光は、任意にレンズ等を介して、光検出器40に至る。
なお、光学素子10の金属微細構造7に標的物質が化学吸着している場合、SERS化学増強機構として、吸着した状態の複合体の共鳴ラマン効果が現れる(図16)。共鳴ラマンとは、分子の電子遷移吸収帯に相当する波長を励起波長として選定すると、分子のラマン散乱断面積が102〜104倍大きくなる現象である。
図16は、電荷移動共鳴を説明するための図である。図16において、Evacは真空準位を示し、Φは第1構造体14の仕事関数を示している。金属微細構造7(例えばAl)の表面に標的物質(例えばアセトン)が吸着すると、アセトンのもつ分子軌道とAlの電子軌道とが相互作用し、Al−アセトン複合体が生成される。このとき、Alにはフェルミ準位(EF)(Fermi level)が存在し、Alのフェルミ準位とアセトン分子のHOMO(Highest Occupied Molecular Orbital)準位又はLUMO(Lowest Unoccupied Molecular Orbital)準位との間で1eV〜4eVのエネルギー(hνCT)差が生じる。1eV〜4eVのエネルギー(hνCT)の光を照射すると、Al−アセトン複合体において電荷移動光吸収(CT吸収)が起こって、HOMO準位とフェルミ準位との間、又はフェルミ準位とLUMO準位との間で励起が起こる。このことを「電荷移動(CT)共鳴(電荷移動遷移)」という。CT共鳴が起こるエネルギー帯をCT準位と呼び、電子スペクトルを測定することによってCT準位を知ることができる。
CT共鳴を生じるAl−アセトン複合体は、共鳴ラマン効果を生じる。「共鳴ラマン効果」とは、電子遷移吸収帯に相当するエネルギーの波長を励起波長としたとき、ラマン散乱断面積が102倍から104倍大きくなる現象のことである。このように、分子が金属に化学吸着する際に形成される混成軌道準位がエネルギー的な幅を持つことで、励起状態に遷移する確率が高くなってラマン散乱光が増強されることを、「化学増強効果」という。化学増強効果は、金属微細構造7の表面に吸着した標的物質のみに発生する。
また、ピリジン分子を一例として説明すると、電子遷移吸収帯は深紫外(DUV)領域の4.3eV(285nm付近)に位置し、可視域の励起波長では共鳴ラマン現象を利用することはできない。しかし、ピリジン分子が例えばAgの表面に吸着する際、ピリジンのもつ分子軌道と吸着材であるAgの電子軌道が相互作用し、Ag−ピリジンという複合体が生成される。Agにはフェルミ準位と呼ばれる準位が存在し(Ag以外でも金属ならば有する)、フェルミ準位とピリジン分子のHOMO準位あるいはLUMO準位との間で1eV〜4eVのエネルギー差が生じる。そのため1〜4eVの光を当該複合体に照射することで、これらの準位間で励起が起こる。この現象を電荷移動(Charge Transfer)共鳴と呼ぶ。CT共鳴が起こるエネルギー帯をCT準位と呼び、電子スペクトルを計測することによってCT準位を知ることができる。この共鳴によって吸着によって生まれた複合分子が共鳴ラマン散乱を発し、結果的に102〜104倍に増強される。これが化学増強効果である。化学増強効果の特徴として、吸着材の表面の第1層に吸着した分子のみが非常に大きく増強される。ここではピリジンについて説明したが、その他の物質であっても化学増強効果を呈する複合体を形成しうるため、そのような複合体が形成されるように、適宜に標的物質及び金属微細構造7を組合わせることにより、標的物質をさらに高感度で検出、分析することができる。
第2光源22の第2励起光22Aが光学素子10の金属微細構造層6に照射される結果、光学素子10に吸着された標的物質の、非常に強い表面増強ラマン散乱光を光学素子10から散乱させることができる。
1.4.素子冷却部
本実施形態のラマン分光装置100は、素子冷却部30を有する。素子冷却部30は、光学素子10を冷却する機能を有する。素子冷却部30は、光学素子10の金属微細構造層6を冷却することができればどのように構成されてもよい。図示の例では、光学素子10の下方に素子冷却部30が配置されているが、このような態様に限定されず、金属微細構造層6を冷却することができればどの位置に配置されてもよい。素子冷却部30には、例えば、ペルチェ素子を適用することができる。また、素子冷却部30は、水冷、空冷等の熱交換機構を含んでもよい。
標的物質(例えば気体分子)の光学素子10への吸着は、まずファンデルワールス力により弱く光学素子10の表面(金属微細構造層6)に引き付けられる物理吸着が起き、次いで物理吸着状態で素子の表面を拡散する分子が、素子上の酸素欠陥などのエネルギーが低い状態の場所(以下、化学吸着サイトということがある。)に到達して共有結合することにより強く素子に引き付けられる化学吸着が起きる。ここで、素子に衝突する標的物質(分子)はすべて物理吸着するわけではなく、ある割合で物理吸着する。また、物理吸着した標的物質は、素子表面を拡散する間に熱エネルギーを与えられるなどして、化学吸着サイトに到達する前に脱離するものも存在する。このため、標的物質の検出感度を向上するには、標的物質を光学素子10に強く引き付けて脱離活性化エネルギーを高め、標的物質が光学素子10の金属微細構造層6の表面に滞在する時間を長くする必要がある。
特定の分子が特定の基板の表面に滞在する平均滞在時間τは、物質の脱離速度を考慮して、下記式(6)、(7)で表される。
ここで、σは吸着した分子の密度、τ0は絶対零度における平均滞在時間、Edは脱離活性化エネルギー、Evは印加電圧によって与えられる静電エネルギー、Rは気体定数、Tは温度、nは脱離の次数である。
式(7)から、平均滞在時間τを長くするためには、Ed及び/又はEvを大きくするか、Tを小さくすればよいことがわかる。基板に吸着する分子数が、当該分子が含まれる気体中の濃度に影響を与えない程度であれば、単位時間あたりの吸着分子数に変化はないため、τを長くすれば吸着分子が基板上に長く滞在することとなり、化学吸着サイトに到達する可能性を高くすることができる。
素子冷却部30によって冷却される光学素子10の温度は、上述の式(7)ではTに相当し、低温とするほど標的物質の平均滞在時間τを長くすることができる。素子冷却部30によって冷却される光学素子10の温度は、例えば、試料が気体である場合には、−100℃以上20℃以下、好ましくは−80℃以上15℃以下、より好ましくは−50℃以上10℃以下である。また、試料が液体である場合には、当該試料の媒体が、凝固等により流動性を損わない範囲の温度とすることが好ましい。さらに、試料が気体である場合であって、水蒸気を含む場合には、光学素子10の表面に水が結露しない程度の温度に冷却することがより好ましい。
なお、素子冷却部30にペルチェ素子を採用する場合には、熱の移動方向を反転させることが容易であり、光学素子10を加熱することも容易である。このような構成であれば、ラマン測定の終了後等に、光学素子10のリフレッシュを行う際の加熱を容易に行うことができるため、光学素子10上に吸着した標的物質を脱離し易くすることができる。
1.5.光検出器
本実施形態のラマン分光装置100は、光検出器40を有する。光検出器40は、第2光源22によって第2励起光22Aが照射された際に光学素子10から放射される光(SERS光)を検出する。SERS光には、第2光源22からの入射波長と同じ波長のレイリー散乱光が含まれているので、光検出器40には、フィルターが設けられてもよく、これによりレイリー散乱光を除去してもよい。レイリー散乱光が除去された光は、ラマン散乱光として、光検出器40にて受光される。また、光検出器40は、分光器や受光素子を含んで構成されてもよい。なお、図1に示す例では、光検出器40は、流路の外側から窓(破線部分)を介して光学素子10から放射される光を受光する態様であるが、光検出器40は、流路内に設けられてもよい。
光検出器40は、具体的には、光学素子10から放射される(光学素子10によって増強された)ラマン散乱光(SERS光)を受光する。光検出器40は、CCD(Charge Coupled Device)、光電子増倍管、フォトダイオード、イメージングプレートなどを含んで構成されていてもよい。
1.6.その他の構成
本実施形態のラマン分光装置100は、試料冷却部50を備えてもよい。図17は、試料冷却部50を備えたラマン分光装置100の概略図である。試料冷却部50は、ラマン分光装置100に試料が導入された後、光学素子10に試料が接触する前までの位置に設けられる。試料冷却部50は、試料を冷却する機能を有する。試料冷却部50は、試料を
冷却することができればどのように構成されてもよい。試料冷却部50には、例えば、ペルチェ素子を適用することができる。また、試料冷却部50は、水冷、空冷等の熱交換機構を含んでもよい。さらに、試料冷却部50は、フィン等を備えてもよく、このようにすれば試料との接触面積を大きくすることができ、試料をより効率よく冷却することができる。
試料冷却部50の温度は、例えば、試料が気体である場合には、−100℃以上20℃以下、好ましくは−80℃以上15℃以下、より好ましくは−50℃以上10℃以下である。また、試料が液体である場合には、当該試料の媒体が、凝固等により流動性を損わない範囲の温度とすることが好ましい。
また、試料冷却部50の温度は、試料が気体である場合であって、水蒸気を含む場合には、素子冷却部30によって冷却される光学素子10の表面の温度よりも低い温度とすることがより好ましい。試料冷却部50によって冷却される試料の温度は、例えば、素子冷却部30によって冷却される光学素子10の表面の温度よりも1℃以上低いことが好ましく、5℃以上低いことがより好ましく、10℃以上低いことがさらに好ましい。これにより、光学素子10への水の結露を抑制することができる。
さらに試料冷却部50が設けられる位置は、ラマン分光装置100に試料が導入された後、試料に第1励起光21Aが照射されるまでの位置とすることができる。図17の例では、ラマン分光装置100に試料が導入された後、試料に第1励起光21Aが照射されるまでの位置に試料冷却部50が設けられている。このようにすれば、試料中の物質が試料冷却部50によって冷却された後で、第1励起光21Aが照射される。
図18は、物質のエネルギーバンドを模式的に示す図である。図18(a)は、物質A及びBが冷却されていない状態(相対的に温度の高い状態)のバンド構造を示す。図18(b)は、物質A及びBが冷却された状態(相対的に温度の低い状態)のバンド構造を示す。相対的に温度の低い状態では、相対的に温度の高い状態よりも、物質の基底状態及び励起状態のエネルギーバンドの両者が狭くなる。
ここで、冷却時の物質Aの基底状態から励起状態のエネルギー差に相当するエネルギーを有する第1励起光21Aを仮定する。高温(冷却前)であれば、基底状態及び励起状態のエネルギーバンドが(冷却後に比較して)広くなるため、冷却時に第1励起光21Aでは励起出来ない物質Bも励起可能となる。裏を返せば、試料を冷却することにより、励起したい物質以外の励起を抑制することができる。
したがって、試料を冷却することにより、第1励起光21Aによって励起される物質を選別することができる。例えば、第1励起光21Aが照射される前に、試料を試料冷却部50によって低温化することで、熱励起により偶然、第1励起光21Aを吸収できる準位にある物質の数を減らし、特定の物質(標的物質)がより効率的に励起されるようにすることができる。
このようなラマン分光装置100によれば、第1励起光21Aが照射される前に試料が冷却される。そのため、試料に含まれる物質のうち、第1励起光21Aのエネルギーに対応するエネルギー差を有する物質が、冷却された状態で基底状態から励起状態へと励起される。そのため物質が冷却された状態では、冷却されない状態で励起可能であった物質を励起されにくくすることができる。これにより物質の分子構造によって、励起状態にある物質と基底状態にある物質とを分別することが可能となる。そして標的物質が選択的に励起されるように冷却温度を設定すれば、光学素子10への他の物質の吸着を抑制し、標的物質をより効率よく吸着させることができる。これにより標的物質をさらに高感度で検出
、分析することができる。
5.ラマン分光装置
次に、本実施形態に係るラマン分光装置のより具体的な態様について、図面を参照しながら説明する。図19は、本実施形態に係るラマン分光装置200を模式的に示す図である。ラマン分光装置200は、標的物質からのラマン散乱光を検出して分析(定性分析、定量分析)するものであって、図19に示すように、第1光源21と、光学素子10と、第2光源22と、素子冷却部30と、光検出器40とを含む。第1光源21、光学素子10、第2光源22、素子冷却部30、光検出器40は、上述したと同様であるので、詳細な説明を省略する。
ラマン分光装置200は、試料保持部110と、検出部120と、制御部130と、検出部120及び制御部130を収容している筐体140と、を含む。試料保持部110は上述の光学素子10及び素子冷却部30を含む。
試料保持部110は、光学素子10と、光学素子10及び素子冷却部30を覆うカバー112と、吸引流路114と、排出流路116と、を有している。検出部120は、第2光源22と、レンズ122a,122b,122c,122dと、ハーフミラー124と、光検出器40と、を有している。制御部130は、光検出器40において検出された信号を処理して光検出器40の制御をする検出制御部132と、第2光源22などの電力を制御する電力制御部134と、を有している。図示はしないが、ラマン分光装置200は、必要に応じて設けられる第2金属層8に印加するための電源部9を有していてもよい。制御部130は、図19に示すように、外部との接続を行うための接続部136と電気的に接続されていてもよい。
ラマン分光装置200では、排出流路116に設けられている吸引機構117を作動させると、吸引流路114及び排出流路116内が負圧になり、吸引口113から検出対象となる標的物質を含んだ試料が吸引される。吸引口113には除塵フィルター115が設けられており、比較的大きな粉塵などを除去することができる。吸引流路114及び排出流路116は、光学素子10の金属微細構造層6と連通している。試料は、吸引流路114及び排出流路116を通り、排出口118から排出される。試料が係る経路を通る際に、標的物質は光学素子10の金属微細構造7に吸着する。
吸引流路114及び排出流路116の形状は、外部からの光が光学素子10に入射しないような形状である。また、吸引流路114には適宜の透明部材等によって第1光源21が設けられ、光学素子10に試料が到達する前に第1励起光21Aを試料に照射できるようになっている。これにより、ラマン散乱光以外の雑音となる光が入射しないため、信号のS/N比を向上させることができる。吸引流路114、排出流路116を構成する材料は、例えば、光を反射し難いような材料や色であることが好ましい。
吸引流路114及び排出流路116の形状は、試料に対する流体抵抗が小さくなるような形状である。これにより、高感度な検出が可能になる。例えば、吸引流路114、排出流路116の形状を、できるだけ角部をなくし滑らかな形状にすることで、角部における試料の滞留をなくすことができる。吸引機構117としては、例えば、流路抵抗に応じた静圧、風量のファンモーターやポンプを用いる。
ラマン分光装置200では、第2光源22は、標的物質が吸着した金属微細構造7を含む光学素子10に、光(例えば波長633nmのレーザー光)を照射する。第2光源22としては、例えば、半導体レーザー、気体レーザーを用いる。第2光源22から射出された光は、レンズ122aで集光された後、ハーフミラー124及びレンズ122bを介し
て、光学素子10に入射する。光学素子10からは、SERS光が放射され、該光は、レンズ122b、ハーフミラー124、及びレンズ122c,122dを介して、光検出器40に至る。すなわち、光検出器40は、光学素子10から反射される光を検出する。SERS光には、第2光源22からの入射波長と同じ波長のレイリー散乱光が含まれているので、光検出器40はフィルター126を備えており、これによってレイリー散乱光が除去される。図示の例では、レイリー散乱光が除去された光は、ラマン散乱光として、光検出器40の分光器127を介して受光素子128にて受光される。図示の例では、受光素子128として、フォトダイオードを用いている。
光検出器40の分光器127は、例えば、ファブリペロー共振を利用したエタロン等で形成されており、通過波長帯域を可変とすることができる。光検出器40の受光素子128によって、標的物質に特有のラマンスペクトルが得られ、例えば、得られたラマンスペクトルと予め保持するデータとを照合することで、標的物質の信号強度を検出することができる。
6.電子機器
次に、本実施形態に係る電子機器300について、図面を参照しながら説明する。図20は、本実施形態に係る電子機器300を模式的に示す図である。電子機器300は、上述のラマン分光装置を含むことができる。以下ではラマン分光装置としてラマン分光装置100を含む例について説明する。
電子機器300は、図20に示すように、ラマン分光装置100と、光検出器40からの検出情報に基づいて健康医療情報を演算する演算部310と、健康医療情報を記憶する記憶部320と、健康医療情報を表示する表示部330と、を含む。
演算部310は、例えば、パーソナルコンピューター、携帯情報端末(PDA:Personal Digital Assistance)であり、光検出器40から送出される検出情報(信号等)を受け取る。演算部310は、光検出器40からの検出情報に基づいて健康医療情報を演算する。演算された健康医療情報は、記憶部320に記憶される。
記憶部320は、例えば、半導体メモリー、ハードディスクドライブ等であり、演算部310と一体的に構成されてもよい。記憶部320に記憶された健康医療情報は、表示部330に送出される。
表示部330は、例えば、表示板(液晶モニター等)、プリンター、発光体、スピーカー等により構成されている。表示部330は、演算部310によって演算された健康医療情報等に基づいて、ユーザーがその内容を認識できるように、表示又は発報する。
健康医療情報としては、細菌、ウィルス、タンパク質、核酸、及び抗原・抗体から選択される少なくとも1種の生体関連物質、又は、無機分子及び有機分子から選択される少なくとも1種の化合物の有無若しくは量に関する情報を含むことができる。
電子機器300は、ラマン分光装置100を含む。そのため、電子機器300では、微量物質の検出を容易に行うことができ、高精度な健康医療情報を提供することができる。
上述した実施形態及び変形例は一例であって、これらに限定されるわけではない。例えば、各実施形態及び各変形例を適宜組み合わせることも可能である。例えば、本発明に係るラマン分光装置は、抗原抗体反応における抗原の吸着の有無などのように、物質の吸着の有無を検出するアフィニティー・センサーなどとして用いることもできる。アフィニテ
ィー・センサーは、該センサーに白色光を入射し、波長スペクトルを分光器で測定し、吸着による表面プラズモン共鳴波長のシフト量を検出することで、検出物質のセンサーチップへの吸収を高感度に検出することができる。
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、さらに種々の変形が可能である。例えば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
1…基板、2…第1金属層、4…誘電体層、6…金属微細構造層、7…金属微細構造、8…第2金属層、9…電源部、10,11…光学素子、21…第1光源、21A…第1励起光、22…第2光源、22A…第2励起光、30…素子冷却部、40…光検出器、50…試料冷却部、71…金属微細構造列、100,200…ラマン分光装置、110…試料保持部、112…カバー、113…吸引口、114…吸引流路、115…除塵フィルター、116…排出流路、117…吸引機構、118…排出口、120…検出部、122a,122b,122c,122d…レンズ、124…ハーフミラー、126…フィルター、127…分光器、128…受光素子、130…制御部、132…検出制御部、134…電力制御部、136…接続部、140…筐体、300…電子機器、310…演算部、320…記憶部、330…表示部

Claims (8)

  1. 試料中の標的物質を分析するラマン分光装置であって、
    前記標的物質の基底状態と励起状態とのエネルギー差に相当する波長の光を含む第1励起光を前記試料に照射する第1光源と、
    前記試料に接触される光学素子と、
    前記光学素子を冷却する素子冷却部と、
    前記光学素子に第2励起光を照射する第2光源と、
    前記光学素子から放射される表面増強ラマン散乱光を検出する光検出器と、
    を有する、ラマン分光装置。
  2. 請求項1において、
    前記第1励起光は、150nm以上400nm以下の波長の光を含む、ラマン分光装置。
  3. 請求項1又は請求項2において、
    前記第2励起光は、350nm以上1000nm以下の波長の光を含む、ラマン分光装置。
  4. 請求項1ないし請求項3のいずれか1項において、
    前記第1励起光は、前記試料が前記光学素子に接触する前に、前記試料に照射される、ラマン分光装置。
  5. 請求項1ないし請求項4のいずれか1項において、
    前記光学素子は、
    基板と、
    前記基板に形成された第1金属層と、
    前記第1金属層と離間して形成された金属微細構造層と、
    前記金属微細構造層と離間して形成された第2金属層と、
    を有し、
    前記ラマン分光装置は、前記第1金属層と前記第2金属層との間に電位差を発生させる電源部を有する、ラマン分光装置。
  6. 請求項1ないし請求項5のいずれか1項において、
    前記ラマン分光装置は、前記試料を冷却する試料冷却部を有し、
    前記試料冷却部は、前記試料に前記第1励起光が照射される前に前記試料を冷却する、ラマン分光装置。
  7. 請求項1ないし6のいずれか1項に記載のラマン分光装置と、
    前記光検出器からの検出情報に基づいて健康医療情報を演算する演算部と、
    前記健康医療情報を記憶する記憶部と、
    前記健康医療情報を表示する表示部と、
    を含む、電子機器。
  8. 請求項7において、
    前記健康医療情報は、細菌、ウィルス、タンパク質、核酸、及び抗原・抗体からなる群より選択される少なくとも1種の生体関連物質、又は、無機分子及び有機分子から選択される少なくとも1種の化合物の有無若しくは量に関する情報を含む、電子機器。
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