JP2015114219A - 電場増強素子、分析装置、及び電子機器 - Google Patents
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Abstract
【課題】増強度の大きい波長領域が広く多種類の標的物質に適用することができ、標的物質を高感度にSARS測定することのできる電場増強素子を提供すること。【解決手段】本発明に係る電場増強素子は、金属層と、前記金属層上に形成された誘電体層と、前記誘電体層に形成された凹部と、前記凹部内に形成された第1金属粒子と、前記凹部内に前記第1金属粒子と離間して形成され、前記第1金属粒子の材質とは異なる材質の第2金属粒子と、を含み、前記凹部の底面と前記金属層との距離は、20nm以上100nm未満である。【選択図】図1
Description
本発明は、電場増強素子、分析装置、及び電子機器に関する。
近年、医療診断や食物の検査等における需要がますます増大し、小型で高速なセンシング技術の開発が求められている。電気化学的な手法をはじめさまざまなタイプのセンサーが検討されているが、集積化が可能、低コスト、そして、測定環境を選ばないといった理由から、表面プラズモン共鳴(SPR:Surface Plasmon Resonance)を用いたセンサーに対する関心が高まっている。例えば、全反射型プリズム表面に設けた金属薄膜に発生させた表面プラズモンを用いて、抗原抗体反応における抗原の吸着の有無など、物質の吸着の有無を検出するものが知られている。
また、表面増強ラマン散乱(SERS:Surface Enhanced Raman Scattering)を用いセンサー部位に付着した物質のラマン散乱を検出し付着物質の同定を行うなどの方法も検討されている。SERSとは、ナノメートルスケールの金属の表面でラマン散乱光が102〜1014倍に増強される現象である。この表面に標的となる物質が吸着した状態で、レーザーなどの励起光を照射すると、物質(分子)の振動エネルギーの分だけ、励起光の波長から僅かにずれた波長の光(ラマン散乱光)が散乱される。この散乱光を分光処理すると、物質の種類(分子種)に固有のスペクトル(指紋スペクトル)が得られる。この指紋スペクトルの位置や形状を分析することで、極めて高感度に物質を同定することが可能となる。
このようなセンサーは、光照射により励起される表面プラズモンに基づく光の増強度が大きいことが望ましい。例えば、非特許文献1には、金ナノ粒子と銀ナノ粒子を基板上に狭い間隔で配置した構造(金−銀2量体)が開示され、SERSに用いることができる旨記載されている。同文献には、ギャップの間に強い局在型プラズモンによる電場の増強(ホットスポット)が生じるとの記載がある。
表面技術2011年 62巻 第6号p301-305
ラマン分光測定におけるラマンシフトは、標的物質の種類によって異なる。そのため、標的物質の種類に対応するように励起光(励起光)やラマン散乱光を増強できれば、高感度のラマン分光測定が可能になると考えられる。しかし、標的物質は多岐にわたるため、標的物質の種類ごとに、対応するセンサーチップを作成することは困難である。また、SPRの波長は、周囲の誘電率に依存する。そのため、標的物質や他の物質の吸着によって、SERSの共鳴波長がシフトしてしまう場合があり、特定の標的物質に最適化したとしても、励起光とラマン散乱光を十分に増強できなくなる場合がある。
このようなことから、センサーチップが、広い波長領域の光を増強できるようにすれば、1つのセンサーチップで多種類の標的物質の測定に対応させることができると考えられる。具体的にはセンサーチップの電場増強プロファイルに対応する反射率スペクトルにおいて、広い波長領域で小さい反射率を示すようにセンサーチップを作成すれば、多種類の標的物質の測定に用いることができると考えられる。
ここで、例えば金などの1種類の金属粒子が基板上に複数配置された構造では、増強度は、比較的狭い波長領域で比較的大きくなる。換言すると、係る構造では、狭い波長領域で小さい反射率を有する形状(極小値を有するピーク形状)となる。したがって、広い波長領域で小さい反射率を示すようにするためには、ピークの数を増やすことや、ピークの幅を広げることが有効である。
一般に、金属のLSPRの波長は、誘電率の実部Re[ε]=−2の波長で表すことができ、例えば、銀の場合にはおよそ350nm、金の場合にはおよそ500nmである。したがって、金属の材質によって強いLSPRを持つ波長領域が異なるので、材質の異なる金属粒子を1つの素子に用いれば、反射率スペクトルにおける小さい反射率を示す波長領域を増やす(適用可能な波長領域を広げる)ことが可能であると予測できる。
この観点からは、上記非特許文献2に開示された技術のように、金−銀2量体構造を採用すれば、増強度の大きい波長領域は広くなると考えられる。しかし、同文献の開示によると、金−金2量体構造、銀−銀2量体構造に比べ、金−銀2量体構造を採用しても、増強度の大きい波長領域は広がっていない。
本発明の幾つかの態様に係る目的の1つは、増強度の大きい波長領域が広く多種類の標的物質に適用することができ、標的物質を高感度にSERS測定することのできる電場増強素子を提供することにある。
本発明は上述の課題の少なくとも一部を解決するために為されたものであり、以下の態様又は適用例として実現することができる。
本発明に係る電場増強素子の一態様は、金属層と、前記金属層上に形成された誘電体層と、前記誘電体層に形成された凹部と、前記凹部に形成された第1金属粒子と、前記凹部に前記第1金属粒子と離間して形成され、前記第1金属粒子の材質とは異なる材質の第2金属粒子と、を含み、前記凹部の底面と前記金属層との距離は、20nm以上80nm以下である。
このような電場増強素子は、互いに異なる材質の金属粒子が凹部内に配置されることにより、各金属粒子のLSPRの波長と、それらの間の波長において大きい増強度の電場を得ることができ、かつ、凹部の下に誘電体層及び金属層が配置されることにより、金属粒子−金属(ミラー)層間のLSPギャップモードを利用することができるため、電場の増強度をさらに高めることができる。これにより係る電場増強素子は、電場の増強度の大きい波長領域が広く、多種類の標的物質のラマン散乱光及び励起光の両者を増強することができ、標的物質を高感度に測定することができる。
本発明に係る電場増強素子において、前記第1金属粒子と前記第2金属粒子との距離は、10nm以上60nm以下であってもよい。
このような電場増強素子によれば、LSPギャップモードをさらに強く利用することができるため、電場の増強度をさらに高めることができる。
本発明に係る電場増強素子において、前記第1金属粒子及び前記第2金属粒子の少なくとも一方は、前記凹部の側面に接触していてもよい。
このような電場増強素子によれば、第1金属粒子及び第2金属粒子と、凹部の側面との間に電場の増強度が高い領域が形成されにくく、第1金属粒子と第2金属粒子とが対向する位置に電場の増強度の高い領域(ホットスポット)を効率的に形成することができる。これにより電場を増強するためのエネルギーをホットスポットにさらに集中させることができるとともに、第1金属粒子と第2金属粒子とが対向する位置に標的物質が入り込みやすくなり、より効率よく励起光及び標的物質によるラマン散乱光の両者を増強することができる。
本発明に係る電場増強素子において、前記誘電体層の前記凹部以外の領域の上に形成された第3金属粒子を有してもよい。
このような電場増強素子によれば、金属層と第3金属粒子との間の誘電体層において、光の多重反射による定在波を形成することができる。これにより第1金属粒子、第2金属粒子及び第3金属粒子に生じるLSPRの少なくとも1つを、干渉効果によってさらに強めることができる。
本発明に係る電場増強素子において、前記凹部の深さは、100nm以上であってもよい。
このような電場増強素子によれば、凹部内に形成される第1金属粒子及び第2金属粒子の間の間隔のばらつきをさらに抑制することができる。
本発明に係る電場増強素子において、前記凹部は、前記誘電体層の厚さ方向から見た平面視において、前記誘電体層に周期的に配列されてもよい。
このような電場増強素子によれば、第1金属粒子及び第2金属粒子を、容易に周期的に配列させることができる。これにより、電場の増強度をさらに高めることができる。
本発明に係るラマン分光装置の一態様は、上述の電場増強素子と、前記電場増強素子に励起光を照射する光源と、前記電場増強素子から放射される光を検出する検出器と、を備える。
このようなラマン分光装置は、上述の電場増強素子を含むため、増強度の大きい波長領域が広く多種類の標的物質に適用することができ、標的物質をSERS測定を高感度に行うことができる。
本発明に係る電子機器の一態様は、上述のラマン分光装置と、前記検出器からの検出情報に基づいて健康医療情報を演算する演算部と、前記健康医療情報を記憶する記憶部と、前記健康医療情報を表示する表示部と、を備える。
このような電子機器によれば、増強度の大きい波長領域が広く多種類の標的物質に適用することができ、かつ、標的物質を高感度にSERS測定することができ、高精度な健康医療情報を提供することができる。
以下に本発明のいくつかの実施形態について説明する。以下に説明する実施形態は、本発明の一例を説明するものである。本発明は以下の実施形態になんら限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形形態も含む。なお以下で説明される構成の全てが本発明の必須の構成であるとは限らない。
1.電場増強素子
図1は、本実施形態の電場増強素子100の要部を平面的に見た模式図である。図2は、本実施形態の電場増強素子100の要部の断面の模式図である。図2は、図1のI−I線の断面に相当する。本実施形態の電場増強素子100は、金属層10と、誘電体層20と、凹部22と、第1金属粒子31と、第2金属粒子32と、を含む。以下、図面を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態の電場増強素子100の要部を平面的に見た模式図である。図2は、本実施形態の電場増強素子100の要部の断面の模式図である。図2は、図1のI−I線の断面に相当する。本実施形態の電場増強素子100は、金属層10と、誘電体層20と、凹部22と、第1金属粒子31と、第2金属粒子32と、を含む。以下、図面を参照しながら説明する。
1.1.金属層
本実施形態の電場増強素子100は、金属層10を有する。金属層10は、光を透過しない金属の表面を提供するものであれば、特に限定されず、例えばフィルム、板、層又は膜の形状とすることができる。金属層10は、例えば基板1の上に設けられてもよい。この場合の基板1は、特に限定されない。基板1としては、例えば、ガラス基板、シリコン基板、樹脂基板、金属板などが挙げられる。基板1を金属板とする場合には、当該金属板を金属層10としてもよい。また、基板1は、複数の層が積層された構造を有してもよい。基板1又は金属層10は、電場増強素子100の基体としての機能を有してもよい。
本実施形態の電場増強素子100は、金属層10を有する。金属層10は、光を透過しない金属の表面を提供するものであれば、特に限定されず、例えばフィルム、板、層又は膜の形状とすることができる。金属層10は、例えば基板1の上に設けられてもよい。この場合の基板1は、特に限定されない。基板1としては、例えば、ガラス基板、シリコン基板、樹脂基板、金属板などが挙げられる。基板1を金属板とする場合には、当該金属板を金属層10としてもよい。また、基板1は、複数の層が積層された構造を有してもよい。基板1又は金属層10は、電場増強素子100の基体としての機能を有してもよい。
基板1の金属層10が設けられる面の形状は特に限定されない。金属層10の表面に所定の構造を形成する場合にはその構造に対応する表面を有してもよいし、金属層10の表面を平面とする場合には、対応する部分の表面を平面としてもよい。図1、2の例では、基板1の表面(平面)の上に層状の金属層10が設けられている。
本明細書において、平面との表現を用いているが、係る表現は、表面がわずかの凹凸もなく平坦(スムース)な数学的に厳密な平面を指すものではない。例えば、表面には、構成する原子に起因する凹凸や、構成する物質の二次的な構造(結晶、粒塊、粒界等)に起因する凹凸などが存在する場合が有り、微視的にみれば厳密な平面ではない場合がある。しかし、そのような場合でも、より巨視的な視点でみれば、これらの凹凸は目立たなくなり、表面を平面と称しても差し支えない程度に観測される。したがって、本明細書では、このようなより巨視的な視点でみた場合に平面と認識できれば、これを平面と称することとする。
また本明細書では、電場増強素子100において、金属層10の厚さ方向を、厚み方向、高さ方向等と称する場合がある。本実施形態では、金属層10の厚さ方向とは、後述の誘電体層20の厚さ方向と一致している。さらに、基板1からみて、金属層10側又は誘電体層20側の方向を、上又は上方と表現し、その逆方向を下又は下方と表現する場合がある。また、本明細書では、平面的に見る(平面視する)とは、金属層10の厚さ方向、あるいは高さ方向に沿う方向から見ることを指す。
また、本明細書において、例えば、「部材Aの上に部材Bが設けられる」との表現は、部材Aの上に接して部材Bが設けられる場合と、部材Aの上に他の部材又は空間を介して部材Bが配置される場合と、を含む意味である。
金属層10は、例えば、蒸着、スパッタ、鋳造、機械加工等の手法により形成することができる。金属層10が薄膜状に基板1の上に設けられる場合には、基板1の上面全体に設けられてもよいし基板1の一部に設けられてもよい。金属層10は、例えば、銀、金、アルミニウム、銅、白金、及びそれらの合金等により形成されることができる。金属層10の厚さは任意であるが、伝搬型プラズモン共鳴(PSPR)や、干渉効果を考慮して設計することができる。金属層10の厚さは、特に限定されず、例えば、10nm以上1mm以下、好ましくは20nm以上100μm以下、より好ましくは30nm以上1μm以下とすることができる。
金属層10は、誘電体層20側から入射する光を反射するミラーの機能を有する。係る機能により、金属層10は、誘電体層20の厚さ(後述)、励起光の波長、第3金属粒子33の態様などを適切に設定すれば、光の多重反射を生じさせることができ、これにより誘電体層20に定在波を形成することができる。
また、金属層10は、電場増強素子100において伝搬型表面プラズモン(PSP)を発生させる機能を有してもよい。特定の条件下では、金属層10に光が入射することにより、金属層10の表面(厚さ方向の端面)近傍に伝搬型表面プラズモンが発生する。本明細書では、金属層10の表面付近の電荷の振動と電磁波とが結合した振動の量子を、表面プラズモン・ポラリトン(SPP:Surface Plasmon Plariton)と称することがある。金属層10に伝搬型表面プラズモンを発生させる場合には、後述の第1金属粒子31、第2金属粒子32又は第3金属粒子33の近傍に発生する局在型表面プラズモン(LSP)と相互作用させてもよい。
金属層10をこのように機能させる場合には、金属層10は、励起光により与えられる電場と、その電場によって誘起される分極とが逆位相で振動するような電場が存在しうる金属、すなわち、特定の電場が与えられた場合に、誘電関数の実数部が負の値を有し(負の誘電率を有し)、虚数部の誘電率が実数部の誘電率の絶対値よりも小さい誘電率を有することのできる金属によって構成する。
1.2.誘電体層
本実施形態の電場増強素子100は、誘電体層20を含む。誘電体層20は、図1、2に示すように、金属層10の上に設けられる。誘電体層20は、金属層10と、後述の第1金属粒子31、第2金属粒子32及び第3金属粒子33と、を電気的に隔てる機能を有する。これにより、金属層10と金属粒子とを隔てることができる。誘電体層20は、フィルム、層又は膜の形状を有し、上面側に凹部22を有している。
本実施形態の電場増強素子100は、誘電体層20を含む。誘電体層20は、図1、2に示すように、金属層10の上に設けられる。誘電体層20は、金属層10と、後述の第1金属粒子31、第2金属粒子32及び第3金属粒子33と、を電気的に隔てる機能を有する。これにより、金属層10と金属粒子とを隔てることができる。誘電体層20は、フィルム、層又は膜の形状を有し、上面側に凹部22を有している。
誘電体層20の材質は、正の誘電率を有すればよく、例えば、SiO2、Al2O3、TiO2、高分子(例えばポリメチルメタアクリレート:PMMA)、ITO(Indium Tin Oxide)などで形成することができる。また誘電体層20は、材質の互いに異なる複数の層から構成されてもよい。これらのうち、誘電体層20の材質としては、SiO2であることがより好ましい。
本明細書では、誘電体層20の厚さは、図1に示すように、金属層10の上面(誘電体層20の下面)から、誘電体層20の凹部22が形成されていない領域の上面までの厚さ(D1+D2)と定義する。誘電体層20の厚さ(D1+D2)は、電場増強素子100に照射される励起光(入射光)の波長λi、波長λiの光を入射した際のラマン散乱光の波長λs等を考慮して設計される。
誘電体層20は、例えば、蒸着、スパッタ、CVD、各種コーティング等の手法により形成することができる。誘電体層20は、平面視において、金属層10の表面の全面に設けられてもよいし金属層10の表面の一部に設けられてもよい。誘電体層20は、第1金属粒子31、第2金属粒子32又は第3金属粒子33の存在しない位置にも設けられてもよい。
誘電体層20の厚さ(D1+D2)は、特に限定されず、例えば、5nm以上3000nm以下、好ましくは10nm以上2000nm以下、より好ましくは50nm以上1000nm以下、さらに好ましくは、100nm以上500nm以下とすることができる。
誘電体層20内(平面方向:金属層10の上面と平行な方向)には光を伝搬させることができる。誘電体層20は、金属層10及び各金属粒子によって挟まれる配置となるため、両端で光が反射される構造の共振器を形成することができる。誘電体層20は、当該共振器の光路(導波路)に相当する。このような共振器では、励起光(入射光)と反射光との重ね合わせを起すことができる。誘電体層20の厚さは、励起光と反射光との重ね合わせにより生じる定在波の腹が、各金属粒子の厚さ方向の中央付近となるように設定されることにより、各金属粒子に生じるLSPの強度をさらに高めることができる。また、誘電体層20は、誘電体層20と金属層10との界面近傍に発生する伝搬型表面プラズモン(PSP)を、誘電体層20内(平面方向)に伝搬させることができる。
誘電体層20は、金属層10の上面から厚み方向に同一の材質で一体的に形成されてもよいし、異なる材質又は同一の材質の層を積層して形成されてもよい。図1、2の例では、誘電体層20は、一の材質で一体的に形成されている。
1.2.1.凹部
誘電体層20には、凹部22が形成される。図1、2に示すように、凹部22は、誘電体層20を貫通せず有底である。換言すると、凹部22は、誘電体層20の上面側に形成された窪みである。凹部22の形状や平面視における大きさは、その内部に、後述する第1金属粒子31及び第2金属粒子32を、それぞれ少なくとも1つずつ、互いに離間して配置することができれば限定されない。凹部22の平面的な形状は、例えば、多角形、円形、楕円形及びそれらを組合わせた形状とすることができる。また、凹部22の断面形状も特に限定されず、例えば、多角形、円形、楕円形及びそれらを組合わせた形状とすることができる。図1、2の例では、誘電体層20が、四角柱状に除去された領域が凹部22となっている。
誘電体層20には、凹部22が形成される。図1、2に示すように、凹部22は、誘電体層20を貫通せず有底である。換言すると、凹部22は、誘電体層20の上面側に形成された窪みである。凹部22の形状や平面視における大きさは、その内部に、後述する第1金属粒子31及び第2金属粒子32を、それぞれ少なくとも1つずつ、互いに離間して配置することができれば限定されない。凹部22の平面的な形状は、例えば、多角形、円形、楕円形及びそれらを組合わせた形状とすることができる。また、凹部22の断面形状も特に限定されず、例えば、多角形、円形、楕円形及びそれらを組合わせた形状とすることができる。図1、2の例では、誘電体層20が、四角柱状に除去された領域が凹部22となっている。
図2に示すように、誘電体層20の上面から、凹部22の底面までの長さを、凹部22の深さD2と定義する。凹部22の底面は、凹部22の最下点を含む面であり、図2の例では、四角柱状の凹部22の下面が底面となっている。凹部22の底面が平面的でない場合には、凹部22の下であって誘電体層20が最も薄くなる位置において、凹部22の深さD2を定義するものとする。
凹部22の深さD2は、特に限定されないが、凹部22が誘電体層20を貫通しない範囲で、例えば、2nm以上2500nm以下、好ましくは5nm以上1500nm以下、より好ましくは25nm以上800nm以下、さらに好ましくは、50nm以上250nm以下とすることができる。また、凹部22の形状を、第1金属粒子31及び第2金属粒子32の製造時に利用する場合には、凹部22の深さD2は、50nm以上、より好ましくは100nm以上とすることにより、第1金属粒子31及び第2金属粒子32をいわゆる斜め蒸着の手法により、さらに容易に形成することができる。
図示のように、凹部22内には、後述する第1金属粒子31及び第2金属粒子32が配置され、凹部22の下に誘電体層20及び金属層10が配置される。これによりLSPギャップモードを利用することができるため、第1金属粒子31及び第2金属粒子32に発生するLSPによる電場の増強度をさらに高めることができる。
このような観点からは、凹部22の下部に存在する誘電体層20の厚さD1は、例えば、2nm以上500nm以下、好ましくは5nm以上400nm以下、より好ましくは10nm以上300nm以下、さらに好ましくは15nm以上100nm以下、特に好ましくは20nm以上80nm以下とすることができる。
凹部22は、誘電体層20に複数形成されることができる。凹部22が形成される数は特に限定されない。複数の凹部22が形成される場合には、それぞれの凹部22は、互いに同じ形状であっても異なる形状であってもよい。複数の凹部22が形成される場合には、凹部22は、平面視において、不規則(ランダム)に配置されてもよい。また、複数の凹部22が形成される場合には、凹部22は、平面視において、周期的に配置されてもよい。
複数の凹部22が周期的に配置される例としては、例えば、図1に示すような、正方格子のマトリックス状、あるいは図示しないが、三角格子、六方格子等のマトリックス状に配置されることが挙げられる。なお、複数の凹部22が、周期的に配置される場合の周期は、適宜設計され得るが、例えば、正方格子状であれば、単位格子の1辺の長さ(周期構造の周期)は、20nm以上5000nm以下、好ましくは50nm以上3000nm以下、より好ましくは100nm以上2000nm以下、さらに好ましくは、200nm以上1000nm以下とすることができる。なお、周期構造の周期は、小さくするほどホットスポット密度を高めることができるのでより好ましい。
凹部22は、誘電体層20を金属層10上に全面的に形成した後、凹部22となる位置に存在する誘電体層20を、例えば、パターニング、エッチング等の技術を用いて除去して形成されてもよいし、凹部22の底面に対応する高さまで誘電体を金属層10上に全面的に堆積した後、マスキング、リフトオフ等の技術を用いて、凹部22となる位置以外の位置に同一又は異なる材質の誘電体を堆積させて形成されてもよい。
凹部22は、凹部22に形成される(凹部22内に形成される)第1金属粒子31及び第2金属粒子32の間の間隔を制御する機能を有する。また、複数の凹部22が形成される場合には、各凹部22内に形成される第1金属粒子31及び第2金属粒子32の間の間隔のばらつきを抑制する機能を有する。さらに、凹部22は、深さD2や側面の形状を選ぶことにより、第1金属粒子31及び第2金属粒子32の原料を、それぞれ異なる傾斜方向から蒸着(いわゆる斜め蒸着)することで、第1金属粒子31及び第2金属粒子32を所定の形状及び所定の配置に形成することを容易化することができる。
1.2.2.凹部の変形例
凹部22は、平面視において、溝状に形成されてもよい。図3は、変形例に係る電場増強素子101の要部を平面的に見た模式図である。図4は、変形例に係る電場増強素子101の要部の断面の模式図である。図4は、図3のII−II線の断面に相当する。
凹部22は、平面視において、溝状に形成されてもよい。図3は、変形例に係る電場増強素子101の要部を平面的に見た模式図である。図4は、変形例に係る電場増強素子101の要部の断面の模式図である。図4は、図3のII−II線の断面に相当する。
図3、4に示す変形例においても、凹部22は、誘電体層20を貫通せず底面を有している。変形例に係る凹部22は、誘電体層20の上面側に、溝状に形成されている。変形例においも凹部22の形状は、その内部に各金属粒子を少なくとも1つずつ、互いに離間して配置することができれば限定されない。図示の例では、凹部22の平面的な形状は、直線的な帯状(ストライプ状)の溝となっているが、曲線状、波線状あるいはそれらを組合わせた形状の溝となってもよい。また、凹部22の断面形状も特に限定されず、例えば、多角形、円形、楕円形及びそれらを組合わせた形状とすることができる。図3、4の例では、凹部22の溝の長手方向に交差する方向の断面において、誘電体層20が、四角形状に除去された形状となっている。
本変形例においても、凹部22は、誘電体層20に複数形成されることができる。凹部22が形成される数は特に限定されない。複数の凹部22が形成される場合には、それぞれの凹部22は、互いに同じ形状であっても異なる形状であってもよい。また、複数の凹部22が形成される場合には、凹部22は、平面視において、周期的に配置されてもよい。複数の凹部22が周期的に配置される例としては、例えば、図3に示すように、グレーティング状に配置されることが挙げられる。なお、複数の凹部22が、周期的に配置される場合の周期は、適宜設計されるが、例えば、グレーティング状であれば、隣り合う凹部22の距離は、20nm以上5000nm以下、好ましくは50nm以上3000nm以下、より好ましくは100nm以上2000nm以下、さらに好ましくは、200nm以上1000nm以下とすることができる。
周期構造の周期は、励起光の波長程度の大きさ程度にすると、回折格子として機能させたり、金属層と誘電体層との間の界面に伝搬型表面プラズモン(PSP)を発生させるという効果を得ることができる場合があり好ましい。一方、周期構造の周期を、小さくするほど、ホットスポット密度を高めることができるので好ましい。
変形例に係る凹部22は、上述したと同様の、凹部22内に形成される第1金属粒子31及び第2金属粒子32の間の間隔を制御する機能、各凹部22内に形成される第1金属粒子31及び第2金属粒子32の間の間隔のばらつきを抑制する機能等の機能を有し、さらにグレーティング状に配置されることにより、回折格子として機能させたり、金属層と誘電体層との間の界面に伝搬型表面プラズモン(PSP)を発生させるという、さらなる効果を奏することができる場合がある。
1.4.第1金属粒子
第1金属粒子31は、誘電体層20の凹部22内に形成される。第1金属粒子31は、凹部22の底面を構成する誘電体層20の存在により、金属層10から厚さ方向に離間して設けられる。また第1金属粒子31は、凹部22内に複数配置されてもよい。第1金属粒子31は、励起光(励起光)の照射により、局在型表面プラズモンを発生することができれば、凹部22内に配置される数、大きさ(寸法)、形状、配列等について特に限定されない。
第1金属粒子31は、誘電体層20の凹部22内に形成される。第1金属粒子31は、凹部22の底面を構成する誘電体層20の存在により、金属層10から厚さ方向に離間して設けられる。また第1金属粒子31は、凹部22内に複数配置されてもよい。第1金属粒子31は、励起光(励起光)の照射により、局在型表面プラズモンを発生することができれば、凹部22内に配置される数、大きさ(寸法)、形状、配列等について特に限定されない。
第1金属粒子31の形状は、例えば、厚さ方向に投影した場合に(厚さ方向からの平面視において)円形、楕円形、半円形、多角形、不定形又はそれらを組合わせた形であることができ、厚さ方向に直交する方向に投影した場合にも円形、楕円形、半円形、多角形、不定形又はそれらを組合わせた形状であることができる。第1金属粒子31の形状は、例えば、角柱状、楕円柱状、半球状、球状、錐状、錐台状、及びこれらの形状の一部を切り欠いた形状、並びにこれらの形状を組合わせた形状等とすることができる。
第1金属粒子31の高さ方向(誘電体層20の厚さ方向)の大きさTは、高さ方向に垂直な平面によって第1金属粒子31を切ることができる区間の長さを指し、1nm以上300nm以下とすることができる。また、第1金属粒子31の平面方向の大きさ(例えば、高さ方向に垂直な平面に投影した場合の円相当径)は、5nm以上300nm以下とすることができる。
第1金属粒子31の形状、材質は、励起光の照射によって、局在型表面プラズモン(LSP)を生じうる限り任意である。可視光付近の光によって局在型表面プラズモンを生じうる材質としては、金、銀、アルミニウム、銅、白金、及びそれらの合金等を挙げることができる。これらの中でも、第1金属粒子31の材質としては、金(Au)又は銀(Ag)であることがより好ましい。このようにすれば、より強いLSPが得られ、素子全体の増強度を高めることができる。
第1金属粒子31は、例えば、誘電体層20に凹部22を形成した後、第1金属粒子31の原料を、凹部22の内部に影が生じるように、蒸着方向を選び(図1の例では厚さ方向から傾斜する方向から蒸着する。)、いわゆる斜め蒸着することにより、第1金属粒子31を所定の形状及び所定の位置に形成することが容易である。また、第1金属粒子31は、スパッタ、蒸着等によって薄膜を形成した後にパターニングを行う方法、マイクロコンタクトプリント法、ナノインプリント法などによって形成されてもよい。なお、第1金属粒子31は、蒸着等により形成された後、熱処理等をする工程を含んで形成されてもよい。
第1金属粒子31は、本実施形態の電場増強素子100において局在型表面プラズモン(LSP)を発生させる機能を有している。第1金属粒子31に、特定の条件で励起光を照射することにより、第1金属粒子31の周辺に局在型表面プラズモンを発生させることができる。
1.5.第2金属粒子
第2金属粒子32は、誘電体層20の凹部22内に形成される。第2金属粒子32は、第1金属粒子31と離間して形成される。また、第2金属粒子32は、第1金属粒子31とは異なる材質で形成される。
第2金属粒子32は、誘電体層20の凹部22内に形成される。第2金属粒子32は、第1金属粒子31と離間して形成される。また、第2金属粒子32は、第1金属粒子31とは異なる材質で形成される。
第2金属粒子32は、第1金属粒子31と離間して形成され、第1金属粒子31とは異なる材質で形成される以外は、上述の第1金属粒子31と同様であるため、詳細な説明を省略する。
第2金属粒子32は、凹部22内において、第1金属粒子31と離間して形成されるが、例えば、1つの凹部22内に複数の第1金属粒子31及び第2金属粒子32が配置される場合、第1金属粒子31と第2金属粒子32とが最近接する方向は、揃っていなくてもよい(例えば、図3の変形例の電場増強素子101を参照。)。また、図1では、凹部22内の第1金属粒子31及び第2金属粒子32は、いずれも矩形の凹部22の辺に相当する位置に配置されているが角に配置されてもよい。さらに、この場合、凹部22内の第1金属粒子31及び第2金属粒子32は、各凹部22ごとに互いに異なる配置となっていてもよい。
離間して配置される第2金属粒子32と第1金属粒子31との間の距離(ギャップG)は、例えば、1nm以上200nm以下、好ましくは5nm以上150nm以下、より好ましくは8nm以上120nm以下、さらに好ましくは、10nm以上100nm以下とすることができる。凹部22の下部の誘電体層20の厚さD1が、20nm以上100nm未満である場合には、広い波長範囲でより高い増強度を得る観点から、第2金属粒子32と第1金属粒子31との間の距離は、10nm以上60nm以下が特に好ましい。
また、第2金属粒子32と第1金属粒子31との間の距離が10nm未満と狭い場合には、凹部22の下の誘電体層20及び金属層10に入射光が侵入しにくく、ギャップモードを有効に利用できなくなることがあり、増強効果が弱くなる場合がある。
第2金属粒子32は、第1金属粒子31とは異なる材質で形成される。例えば、第1金属粒子31が銀で形成される場合には、第2金属粒子32は金で形成されることができる。また、例えば、第1金属粒子31が2種の金属の合金で形成される場合には、第2金属粒子32は当該2種の金属の合金であっても組成が異なっていれば差支えない。
第2金属粒子32は、本実施形態の電場増強素子100において局在型表面プラズモン(LSP)を発生させる機能を有している。第2金属粒子32に、特定の条件で励起光を照射することにより、第2金属粒子32の周辺に局在型表面プラズモンを発生させることができる。
第1金属粒子31及び第2金属粒子32がそれぞれ金及び銀である場合には、各粒子単独で発生するLSPがそれぞれ350nm及び500nmであるため、可視光領域の広い範囲にわたって電場増強度を高めることができる。
さらに、第1金属粒子31及び第2金属粒子32の少なくとも一方は、凹部22の側面に接触していてもよい。このように配置すると、第1金属粒子31及び第2金属粒子32と、凹部22の側面との間に電場の増強度が高い領域が形成されにくく、第1金属粒子31と第2金属粒子32とが対向する位置に電場の増強度の高い領域(ホットスポット)を効率的に形成することができる。これにより電場を増強するためのエネルギーをホットスポットにさらに集中させることができるとともに、第1金属粒子31と第2金属粒子32とが対向する位置に標的物質がより入り込みやすくなり、より効率よく励起光及び標的物質によるラマン散乱光の両者を増強することができる。
1.6.第3金属粒子
本発明に係る電場増強素子は、第3金属粒子33をさらに有してもよい。図5は変形例に係る電場増強素子102の要部を平面的に見た模式図である。図6は変形例に係る電場増強素子102の要部の断面の模式図である。図6は図5のIII−III線の断面に相当する。
本発明に係る電場増強素子は、第3金属粒子33をさらに有してもよい。図5は変形例に係る電場増強素子102の要部を平面的に見た模式図である。図6は変形例に係る電場増強素子102の要部の断面の模式図である。図6は図5のIII−III線の断面に相当する。
本変形例に係る電場増強素子102は、誘電体層20の凹部22以外の領域に、第3金属粒子33が配置されること、以外は上述の電場増強素子100、電場増強素子101と同様である。したがって、誘電体層20の凹部22以外の領域に、第3金属粒子33が配置されること以外の事項については、詳細な説明を省略する。
第3金属粒子33は、誘電体層20の凹部22が形成された以外の領域に形成される。第3金属粒子33は、誘電体層20の存在により、金属層10から厚さ方向に離間して設けられる。また第3金属粒子33は複数配置されてもよい。第3金属粒子33は、励起光(入射光)の照射により、局在型表面プラズモンを発生することもできる。第3金属粒子33が配置される数、大きさ(寸法)、形状、配列等について特に限定されない。
第3金属粒子33の形状は、例えば、厚さ方向に投影した場合に(厚さ方向からの平面視において)円形、楕円形、多角形、不定形又はそれらを組合わせた形であることができ、厚さ方向に直交する方向に投影した場合にも円形、楕円形、多角形、不定形又はそれらを組合わせた形状であることができる。第3金属粒子33の形状は、例えば、角柱状、楕円柱状、半球状、球状、錐状、錐台状、及びこれらの形状の一部を切り欠いた形状、並びにこれらの形状を組合わせた形状等とすることができる。
第3金属粒子33の高さ方向(誘電体層20の厚さ方向)の大きさTは、高さ方向に垂直な平面によって第3金属粒子33を切ることができる区間の長さを指し、1nm以上300nm以下とすることができる。また、第3金属粒子33の平面方向の大きさ(例えば、高さ方向に垂直な平面に投影した場合の円相当径)は、5nm以上300nm以下とすることができる。
第3金属粒子33の材質は、励起光の照射によって、局在型表面プラズモン(LSP)を生じうる限り任意である。可視光付近の光によって局在型表面プラズモンを生じうる材質としては、金、銀、アルミニウム、銅、白金、及びそれらの合金等を挙げることができる。これらの中でも、第3金属粒子33の材質としては、金(Au)、銀(Ag)又はそれらの合金、若しくは、それらの複合体であることがより好ましい。このようにすれば、より強いLSPが得られ、素子全体の増強度を強めることができる。
第3金属粒子33は、図6に示すように、第1金属粒子31の材質と第2金属粒子32の材質とが複合された構造であってもよい。ここで複合された構造とは、例えば、一方の材質の粒子に他方の材質の粒子が接触している構造や、一方の材質の粒子をコアとして他方の材質がシェルとして包含するような構造、あるいは両者の材質がランダムに入り組むような構造などが挙げられる。また、第3金属粒子33は、第1金属粒子31及び第2金属粒子32のいずれか一方の材質のみで形成されてもよく、さらに、複数の第3金属粒子33が存在する場合には、互いに材質が異なってもよい。第3金属粒子33は、第1金属粒子31及び第2金属粒子32をそれぞれ形成する工程によって容易に形成することができる。
第3金属粒子33は、誘電体層20の凹部22が形成された以外の領域に、アイランド状(粒子状)に形成されることが好ましい。すなわち、第3金属粒子33は、誘電体層20の凹部22が形成された以外の領域に、全面的に形成されないことが好ましい。これにより、凹部22が形成された以外の領域の誘電体層20に、励起光(入射光)が進入しやすくなるため、光の干渉効果による電場の増強をより生じさせやすくすることができる。このような観点からすると、第3金属粒子33が、誘電体層20の凹部22が形成された以外の領域を被覆する被覆率(平面視における、誘電体層20の凹部22が形成された以外の領域に対する第3金属粒子33の面積比)は、10%以上90%以下、好ましくは20%以上80%以下、より好ましくは、30%以上70%以下である。
第3金属粒子33は、例えば、第1金属粒子31及び第2金属粒子32を例えば斜め蒸着により形成する場合には、これらの工程とともに形成されることができる。また、第3金属粒子33は、スパッタ、蒸着等によって薄膜を形成した後にパターニングを行う方法、マイクロコンタクトプリント法、ナノインプリント法などによって形成されてもよい。なお、第3金属粒子33は、蒸着等により形成された後、熱処理等をする工程を含んで形成されてもよい。
第3金属粒子33は、局在型表面プラズモン(LSP)を発生させる機能を有している。第3金属粒子33に、特定の条件で励起光を照射することにより、第3金属粒子33の周辺に局在型表面プラズモンを発生させることができる。これにより、第3金属粒子33を有さない場合に比べて、電場増強素子102のホットスポット密度(HSD)を高くすることができる。
また、第3金属粒子33は、金属層10と第3金属粒子33との間の誘電体層20において、光の多重反射による定在波を形成することができる。これにより第1金属粒子31、第2金属粒子32及び第3金属粒子33に生じるLSPRの少なくとも1つを、干渉効果によってさらに強めることができる。
1.7.励起光及び標的物質のSERS測定
電場増強素子100、101は、第1金属粒子31及び第2金属粒子32が形成された側の表面に対して励起光が照射されることにより、第1金属粒子31及び第2金属粒子32の近傍にLSPRを発生させることができる。また、第3金属粒子33が形成された電場増強素子102は、第1金属粒子31、第2金属粒子32及び第3金属粒子33が形成された側の表面に対して励起光が照射されることにより、第1金属粒子31及び第2金属粒子32のみならず第3金属粒子33の近傍にもLSPRを発生させることができる。
電場増強素子100、101は、第1金属粒子31及び第2金属粒子32が形成された側の表面に対して励起光が照射されることにより、第1金属粒子31及び第2金属粒子32の近傍にLSPRを発生させることができる。また、第3金属粒子33が形成された電場増強素子102は、第1金属粒子31、第2金属粒子32及び第3金属粒子33が形成された側の表面に対して励起光が照射されることにより、第1金属粒子31及び第2金属粒子32のみならず第3金属粒子33の近傍にもLSPRを発生させることができる。
本発明に係る電場増強素子に照射される励起光は、特に限定されないが、例えば350nm以上1000nm以下であり、より具体的には532nm、633nm、785nmである。また、励起光に含まれる光の波長の分布は、広くても狭くても(例えば、単波長でも)よい。
第1金属粒子31、第2金属粒子32、第3金属粒子33又はそれらの近傍に標的物質が吸着した状態で励起光を照射すると、標的物質の振動エネルギーの分だけ、励起光の波長からずれた波長の光(ラマン散乱光)が散乱される。係る散乱は、表面増強ラマン散乱(SERS:Surface Enhanced Raman Scattering)であり、ラマン散乱光が102〜1014倍に増強される。そしてこのSERS光を分光処理することにより、標的物質の種類(分子種)に固有のスペクトル(指紋スペクトル)を高感度で得ることができる。
標的物質としては、細菌、ウィルス、タンパク質、核酸、各種抗原・抗体などの生体関連物質や、無機分子、有機分子、高分子を含む各種の化合物が挙げられる。例えば電場増強素子の各金属粒子に抗体を結合してこのときの増強度を求めておき、該抗体に抗原が結合した場合の増強度の変化に基づいて抗原の有無や存在量を調べることができる。また電場増強素子の光の増強度を利用して、無機分子、有機分子、高分子を含む各種の微量物質のラマン散乱光の増強に用いることができる。
本発明に係る電場増強素子は、高い増強度を有するため、例えば、医療・健康、環境、食品、公安等の分野において、標的物質を高感度、高精度、迅速かつ簡便に検知するためのセンサーに用いることができる。本発明に係る電場増強素子は、増強度の大きい波長領域が広く、多種類の標的物質に対して、励起光及びラマン散乱光の両者を増強することができ、標的物質を高感度にSERS測定することができる。
2.ラマン分光装置
図7は、本実施形態に係るラマン分光装置200を模式的に示す図である。ラマン分光装置200は、標的物質からのラマン散乱光を検出して分析(定性分析、定量分析)するものであって、図7に示すように、気体試料保持部110と、検出部120と、制御部130と、検出部120および制御部130を収容している筐体140と、を含む。気体試料保持部110は、本発明に係る電場増強素子を含む。以下では、上述の電場増強素子100を含む例について説明する。
図7は、本実施形態に係るラマン分光装置200を模式的に示す図である。ラマン分光装置200は、標的物質からのラマン散乱光を検出して分析(定性分析、定量分析)するものであって、図7に示すように、気体試料保持部110と、検出部120と、制御部130と、検出部120および制御部130を収容している筐体140と、を含む。気体試料保持部110は、本発明に係る電場増強素子を含む。以下では、上述の電場増強素子100を含む例について説明する。
気体試料保持部110は、電場増強素子100と、電場増強素子100を覆うカバー112と、吸引流路114と、排出流路116と、を有している。検出部120は、光源210と、レンズ122a,122b,122c,122dと、ハーフミラー124と、光検出器220と、を有している。制御部130は、光検出器220において検出された信号を処理して光検出器220の制御をする検出制御部132と、光源210などの電力や電圧を制御する電力制御部134と、を有している。制御部130は、図7に示すように、外部との接続を行うための接続部136と電気的に接続されていてもよい。
ラマン分光装置200では、排出流路116に設けられている吸引機構117を作動させると、吸引流路114および排出流路116内が負圧になり、吸引口113から検出対象となる標的物質を含んだ気体試料が吸引される。吸引口113には除塵フィルター115が設けられており、比較的大きな粉塵や一部の水蒸気などを除去することができる。気体試料は、吸引流路114および排出流路116を通り、排出口118から排出される。気体試料は、係る経路を通る際に、電場増強素子100の第1金属粒子31、第2金属粒子32及び第3金属粒子33の少なくとも1つと接触する。
吸引流路114および排出流路116の形状は、外部からの光が電場増強素子100に入射しないような形状である。これにより、ラマン散乱光以外の雑音となる光が入射しないため、信号のS/N比を向上させることができる。流路114,116を構成する材料は、例えば、光を反射し難いような材料や色である。
吸引流路114および排出流路116の形状は、気体試料に対する流体抵抗が小さくなるような形状である。これにより、高感度な検出が可能になる。例えば、流路114,116の形状を、できるだけ角部をなくし滑らかな形状にすることで、角部における気体試料の滞留をなくすことができる。吸引機構117としては、例えば、流路抵抗に応じた静圧、風量のファンモーターやポンプを用いる。
ラマン分光装置200では、光源210は、電場増強素子100に光(例えば波長633nmのレーザー光、励起光)を照射する。光源210としては、例えば、半導体レーザー、気体レーザーを用いることができる。光源210から射出された光は、レンズ122aで集光された後、ハーフミラー124およびレンズ122bを介して、電場増強素子100に入射する。電場増強素子100からは、SERS光が放射され、該光は、レンズ122b、ハーフミラー124、およびレンズ122c,122dを介して、光検出器220に至る。すなわち、光検出器220は、電場増強素子100から放射される光を検出する。SERS光には、光源210からの入射波長と同じ波長のレイリー散乱光が含まれているので、光検出器220のフィルター126によってレイリー散乱光を除去してもよい。レイリー散乱光が除去された光は、ラマン散乱光として、光検出器220の分光器127を介して受光素子128にて受光される。受光素子128としては、例えば、フォトダイオードを用いる。
光検出器220の分光器127は、例えば、ファブリペロー共振を利用したエタロン等で形成されており、通過波長帯域を可変とすることができる。光検出器220の受光素子128によって、標的物質に特有のラマンスペクトルが得られ、例えば、得られたラマンスペクトルと予め保持するデータとを照合することで、標的物質の信号強度を検出することができる。
なお、ラマン分光装置200は、電場増強素子100、光源210、および光検出器220を含み、電場増強素子100に標的物質を吸着させ、そのラマン散乱光を取得することができれば、上記の例に限定されない。
また、上述した本実施形態に係るラマン分光法のように、レイリー散乱光を検出する場合は、ラマン分光装置200は、フィルター126を有さず、分光器によって、レイリー散乱光とラマン散乱光とを分光してもよい。
ラマン分光装置200では、上述の電場増強素子100を含む。そのため、増強度の大きい波長領域が広く、多種類の標的物質に適用することができ、標的物質をSERS測定を高感度に行うことができる。したがって、ラマン分光装置200は、広い波長領域のラマン散乱光の強度を大きくすることができ、高い検出感度を有することができる。
3.電子機器
次に、本実施形態に係る電子機器300について、図面を参照しながら説明する。図8は、本実施形態に係る電子機器300を模式的に示す図である。電子機器300は、本発明に係るラマン分光装置を含むことができる。以下では、本発明に係るラマン分光装置としてラマン分光装置200を含む例について説明する。
次に、本実施形態に係る電子機器300について、図面を参照しながら説明する。図8は、本実施形態に係る電子機器300を模式的に示す図である。電子機器300は、本発明に係るラマン分光装置を含むことができる。以下では、本発明に係るラマン分光装置としてラマン分光装置200を含む例について説明する。
電子機器300は、図8に示すように、ラマン分光装置200と、光検出器220からの検出情報に基づいて健康医療情報を演算する演算部310と、健康医療情報を記憶する記憶部320と、健康医療情報を表示する表示部330と、を含む。
演算部310は、例えば、パーソナルコンピューター、携帯情報端末(PDA:Personal Digital Assistance)であり、光検出器220から送出される検出情報(信号等)を受け取る。演算部310は、光検出器220からの検出情報に基づいて健康医療情報を演算する。演算された健康医療情報は、記憶部320に記憶される。
記憶部320は、例えば、半導体メモリー、ハードディスクドライブ等であり、演算部310と一体的に構成されてもよい。記憶部320に記憶された健康医療情報は、表示部330に送出される。
表示部330は、例えば、表示板(液晶モニター等)、プリンター、発光体、スピーカー等により構成されている。表示部330は、演算部310によって演算された健康医療情報等に基づいて、ユーザーがその内容を認識できるように、表示または発報する。
健康医療情報としては、細菌、ウィルス、タンパク質、核酸、および抗原・抗体からなる群より選択される少なくとも1種の生体関連物質、または、無機分子および有機分子から選択される少なくとも1種の化合物の有無若しくは量に関する情報を含むことができる。
電子機器300では、容易に、プラズモン共鳴波長の変化に対応することができるラマン分光装置200を含む。そのため、電子機器300では、微量物質の検出を容易に行うことができ、高精度な健康医療情報を提供することができる。
例えば、本発明に係る電場増強素子は、抗原抗体反応における抗原の吸着の有無などのように、物質の吸着の有無を検出するアフィニティー・センサーなどとして用いることもできる。アフィニティー・センサーは、該センサーに白色光を入射し、波長スペクトルを分光器で測定し、吸着による表面プラズモン共鳴波長のシフト量を検出することで、検出物質のセンサーチップへの吸収を高感度に検出することができる。
4.実験例
以下に実験例を示し、本発明をさらに説明するが、本発明は以下の例によってなんら限定されるものではない。以下の例は、計算機によるシミュレーションである。
以下に実験例を示し、本発明をさらに説明するが、本発明は以下の例によってなんら限定されるものではない。以下の例は、計算機によるシミュレーションである。
実験例では、FDTD計算で遠方解(反射率スペクトル)と近接場解(増強電場の分布)を求めた。計算はRsoft社(現サイバネットシステム株式会社)のFDTD soft FullWAVEを用いた。励起光は、X方向の直線偏光光とし、金属層10の厚さ方向に平行な垂直入射とした。また、用いたメッシュの条件は、1nm最小メッシュとし、計算時間cTは10μmとした。
励起光の照射によって表面プラズモン共鳴(SPR)が発生すると、共鳴による吸収が起き反射率が低下する。そのため、SPR増強電場の強度は、反射率Rを用いて(1−R)で表すことができる。反射率Rの値がゼロに近いほど、増強電場の強度が強いという関係があるため、各実験例では反射率をSPR増強電場の強度の指標として用いる。
4.1.実験例1
4.1.1.計算モデル
実験例1のモデルの構造を図9に示す。図9に示すように、第1金属粒子31と第2金属粒子32との間の最近接距離(ギャップ)をG(nm)、凹部22の下部の誘電体層20の厚さをD1(nm)、誘電体層20の厚さ(凹部の深さ)をD2(nm)、凹部22のX方向の繰り返し周期をP1(nm)、凹部22のY方向の繰り返し周期をP2(nm)とした。なお、モデルにおけるX方向及びY方向は、図示の通りであり、金属層10の法線方向をZ方向とした。また、図9のモデルは、平面視において正方形の凹部22が正方格子状に配列(二次元格子)されている。
4.1.1.計算モデル
実験例1のモデルの構造を図9に示す。図9に示すように、第1金属粒子31と第2金属粒子32との間の最近接距離(ギャップ)をG(nm)、凹部22の下部の誘電体層20の厚さをD1(nm)、誘電体層20の厚さ(凹部の深さ)をD2(nm)、凹部22のX方向の繰り返し周期をP1(nm)、凹部22のY方向の繰り返し周期をP2(nm)とした。なお、モデルにおけるX方向及びY方向は、図示の通りであり、金属層10の法線方向をZ方向とした。また、図9のモデルは、平面視において正方形の凹部22が正方格子状に配列(二次元格子)されている。
また、当該モデルにおいて、第1金属粒子31と第2金属粒子32の形状は、球の1/4の形状(原点を中心とする球をXY平面及びYZ平面で分割した形状)とし、各金属粒子の半径(1/4とする前の球の半径)を50nmとした。また、計算モデルの図では、いずれも誘電体層20は、凹部22の下面の高さで上下に分割された別部材として描かれているが、別部材であっても連続体であっても計算結果には影響はほとんどない。
本実験例では、金属層10を金(Au)、誘電体層20を酸化シリコン(SiO2)、第1金属粒子31を銀(Ag)、第2金属粒子を金(Au)又は銀(Ag)とした。第1金属粒子31が銀(Ag)、第2金属粒子32が金(Au)の場合を「Ag−Au」、第1金属粒子31が銀(Ag)、第2金属粒子32が銀(Ag)の場合を「Ag−Ag」と表すこととする。なお、Ag−Agは、第1金属粒子31及び第2金属粒子32の材質が互いに同じであるため参考として例示する。
4.1.2.結果
図9に示すモデルにおいて、G=10、30、60(nm)に対して、D1=10、20、40、60、80、100(nm)と変化させた場合の、反射率スペクトルを図10〜図12に示す。なおいずれの場合も、金属層10(金(Au))の厚さは150nm、凹部22の深さD2は100nmとした。また、周期P1及びP2は、いずれも300nmとし、平面視における正方形の凹部22の1辺の長さは160nmとした。第1金属粒子31及び第2金属粒子32の半径(球の1/4の形状であり、当該球の半径)を50nmとした。
図9に示すモデルにおいて、G=10、30、60(nm)に対して、D1=10、20、40、60、80、100(nm)と変化させた場合の、反射率スペクトルを図10〜図12に示す。なおいずれの場合も、金属層10(金(Au))の厚さは150nm、凹部22の深さD2は100nmとした。また、周期P1及びP2は、いずれも300nmとし、平面視における正方形の凹部22の1辺の長さは160nmとした。第1金属粒子31及び第2金属粒子32の半径(球の1/4の形状であり、当該球の半径)を50nmとした。
図10〜図12をみると、いずれの大きさのGに対しても、D1が、20、40、60、80(nm)のとき、Ag−Auは、Ag−Agに比較して、長波長領域側の反射率が低下し、反射率スペクトルの形状がブロードになっている。すなわち、Ag−Auの組合わせにより、増強度の高い波長領域はAg−Agの場合に比較して広くなることが判明した。
これに対して、図10〜図12をみると、いずれの大きさのGに対しても、D1=10nm、100nmのとき、Ag−AuとAg−Agの反射率スペクトルにおけるピーク(下に凸)の波長はほぼ同じであり、長波長側(波長600nm以上)の反射率がほぼ等しい。つまり、D1=10nm、100nmでは、Ag−Auの組み合わせにしても、増強度の高い波長領域はAg−Agの場合に比較して広げることができないことが判明した。
これらの結果から、第1金属粒子31と第2金属粒子32との間の距離は、10nm以上60nm以下である場合には、凹部22の下部の誘電体層20の厚さD1が、20nm以上80nm以下である場合には、広い波長範囲でより高い増強度を得ることができることが判明した。したがって、凹部22の下部の誘電体層20の厚さD1を20nm以上80nm以下とした場合には、第1金属粒子31と第2金属粒子32との間の距離(G)に10nm以上60nm以下の範囲でばらつきを生じたとしても、広い波長範囲で非常に高い電場増強度を得られることが分った。また、このことから、素子を製造する際のギャップ(G)の制御が容易化されることが分った。
4.2.実験例2
4.2.1.計算モデル
実験例2では、上述の実験例1のモデルに対して、図13に示すように、誘電体層20の凹部22以外の領域上に、第3金属粒子33が配置されている。第3金属粒子33は、第1金属粒子31及び第2金属粒子32の複合体(コアに第2金属粒子32の材料(金)、シェルに第1金属粒子31の材料(銀)となった半球状の構造)とした。
4.2.1.計算モデル
実験例2では、上述の実験例1のモデルに対して、図13に示すように、誘電体層20の凹部22以外の領域上に、第3金属粒子33が配置されている。第3金属粒子33は、第1金属粒子31及び第2金属粒子32の複合体(コアに第2金属粒子32の材料(金)、シェルに第1金属粒子31の材料(銀)となった半球状の構造)とした。
第3金属粒子33のコアの金の半球の半径を25nm、コア及びシェルを含めた全体の半球の半径を50nmとした。また、第3金属粒子33は、図13に示すように周期的に配置した。本実験例では、誘電体層20の凹部22以外の領域では、平面視において誘電体層20は露出しており、この領域における被覆率(誘電体層20の凹部22が形成された以外の領域に対する第3金属粒子33の面積比)は約36%である。
また、第1金属粒子31及び第2金属粒子32がいずれも銀(Ag)である場合には、第3金属粒子33は、銀(Ag)の半球状の構造とし、その半径を50nmとして計算した。
図13に示すモデルにおいて、G=60(nm)、D1=50(nm)、金属層10(金(Au))の厚さを150nmとした。そして、凹部22の深さD2を、140、170、200、230nmとし、その他は実験例1と同様にして計算した反射率スペクトルを図14に示す。
4.2.2.結果
図14をみると、D2が厚い場合(200nm、230nm)、金属層10と第3金属粒子33との間の多重反射によって、凹部22に形成された第1金属粒子31及び第2金属粒子32のLSPが強められることが分った。
図14をみると、D2が厚い場合(200nm、230nm)、金属層10と第3金属粒子33との間の多重反射によって、凹部22に形成された第1金属粒子31及び第2金属粒子32のLSPが強められることが分った。
このような強めあう誘電体層20の厚さ(D1+D2)の条件は干渉の式、(D1+D2)=mλ/2n(mは正の整数、λはLSPの波長、nは誘電体層20の屈折率である。)で表すことができる。
ここで、励起光の波長を600nm、SiO2の屈折率を1.46とした場合、(D1+D2)=205nmとなる。(D1+D2)を200nm以上にすると、600nm以上の波長の励起光で強い増強電場を得ることができる。
本実験例では、図14から分るように、D1=50nmであるため、D1+D2=220nmとなるD2=170nmのときに、最も低い反射率(高い増強度)が得られた。また、本実験例の構造においても、D2=170nmのとき、Ag−Auの反射スペクトルの形状がAg−Agの反射スペクトルより広いことが判明した。
そして、本実験例のモデルでは、第3金属粒子33の近傍にもLSPが発生することが確認された。そのため、本実験例の構造は、凹部22内の第1金属粒子31及び第2金属粒子32に発生するLSPと、凹部22以外の領域にある第3金属粒子33に発生するLSPを利用できることが分った。これにより、本実験例の構造を有する電場増強素子ではホットスポット密度が高くなることが判明した。
4.2.3.電場の分布
一方、実験例2においては、Ag−Au D2=170nm(D1+D2=220nm)の場合の増強電場の波長特性を近接場解で求めた。最小メッシュサイズは2nmである。励起光はX方向に偏光しているため、増強電場強度はEx成分とEz成分を用いて、SQRT(Ex 2+Ez 2)で表す。SQRT(Ex 2+Ez 2)の電場分布を、図15〜図117に示す。
一方、実験例2においては、Ag−Au D2=170nm(D1+D2=220nm)の場合の増強電場の波長特性を近接場解で求めた。最小メッシュサイズは2nmである。励起光はX方向に偏光しているため、増強電場強度はEx成分とEz成分を用いて、SQRT(Ex 2+Ez 2)で表す。SQRT(Ex 2+Ez 2)の電場分布を、図15〜図117に示す。
図15は、図13の符号Aで示すZ方向の位置のXY平面をモニターしている。図16は、図13の符号Bで示すZ方向の位置のXY平面をモニターしている。図17は、図13の符号Cで示すY方向の位置のXZ平面をモニターしている。
図15は、XY平面上で、誘電体層20の凹部22の底面上の第1金属粒子31と第2金属粒子32の増強電場を表している。図15をみると、増強電場は、第1金属粒子31及び第2金属粒子32の表面であって両者が近接している表面付近と、第1金属粒子31及び第2金属粒子32の表面であって誘電体層20の凹部22の側面と接続する表面付近で大きい値を示すことが分かる。これらの増強度の大きい領域のうち、第1金属粒子31及び第2金属粒子32の間に位置する増強電場の波長特性を図18にプロットした。
図16は、XY平面上で、誘電体層20の凹部22以外の領域の上面の第3金属粒子33(複合体)の増強電場を表している。図16をみると、増強電場は、第3金属粒子33が誘電体層20と接する領域の表面で大きい値を示すことが分かった。
図17は、XZ面の増強電場を表している。強い増強電場は第2金属粒子32(金:Au)に局在し、第1金属粒子31(銀:Ag)と、第3金属粒子33(複合体)にもLSPが発生していることがわかる。図17のみを参照すると、第3金属粒子33の増強電場が弱いように見える。しかし、図16に見られるように、第3金属粒子33の増強電場は、凹部22の存在しないY方向の位置(図16において上段、下段の位置)に存在する第3金属粒子33に局在しており、第3金属粒子33の周囲にも強い電場強度が得られていることが分かる。
図18は励起波長を400nmから700nmまで20nm刻みで変化させた際の、第1金属粒子31(銀)及び第2金属粒子32(金)の電場増強度SQRT(Ex 2+Ez 2)のプロットである。また、図18には、第1金属粒子31(銀)及び第2金属粒子32(金)の電場増強度の平均値もプロットした。図18をみると、図14の波長特性とよく相関していることが分かる。このことから、反射率スペクトルの短波長側のピークは銀のLSP、長波長側のピークは金のLSPに由来することが確認できた。
以上の実験例から、2種の金属粒子の間のLSPと、LSPギャップモードを利用することで、電場を増強することができ、共鳴スペクトルのピーク幅を広げることができることが判明した。したがって、このような構造を有する電場増強素子では、物質が吸着して共鳴波長のシフトが生じたとしても、物質の種類又は吸着量を容易に検出できることが判明した。
また、誘電体層20の凹部22以外の領域の上面に、第3金属粒子33を配置した場合には、第3金属粒子33のLSPも多重反射によって増強することができ、ホットスポット密度を高め、物質の検出感度を高め得ることが判明した。
4.3.実験例3
実験例3では、図19に示すように、実験例2の第3金属粒子33のかわりに、第1金属粒子31及び第2金属粒子32のそれぞれの材料で形成された膜状の積層体を、凹部22以外の領域に配置した。
実験例3では、図19に示すように、実験例2の第3金属粒子33のかわりに、第1金属粒子31及び第2金属粒子32のそれぞれの材料で形成された膜状の積層体を、凹部22以外の領域に配置した。
本実験例では、誘電体層20の凹部22以外の領域は、膜状の積層体で覆われており、この領域では、平面視において誘電体層20は露出していない。すなわち、この領域における被覆率(誘電体層20の凹部22が形成された以外の領域に対する積層体の面積比)は、100%である。また、積層体は、金(Au)の上に銀(Ag)が積層された構造とした。
本実験例では、図19に示す構造とし、D2を170nmとした以外は、実験例2と同様にしてFDTD計算を行った。得られた反射率スペクトルを図20に示す。
図20をみると、本実験例のモデルの構造では、波長450nm付近のピーク(銀に由来すると考えられる。)、570nm付近のピーク(金に由来すると考えられる。)、820nm付近のピーク(干渉に起因すると考えられる。)が現れることが判明した。このことから、実験例2のように粒子状の第3金属粒子33でなく、全面を覆う積層体である場合には、干渉に起因するピークが、LSPのピークから離れた波長に現れるので、ピーク幅を広げる効果は小さいことが判明した。
したがって、誘電体層20の凹部22以外の領域の全体を覆わない、実験例2のような第3金属粒子33であれば、第1金属粒子31及び第2金属粒子32と金属層10との間のLSPギャップモードにより電場を増強できるとともに、誘電体層20の凹部22以外の領域に形成された第3金属粒子33のLSPを、第3金属粒子33と金属層10の間の多重反射で強めることができる。その結果、反射率スペクトルにおけるピーク幅を広げ、各金属粒子のサイズ、第1金属粒子31及び第2金属粒子32の間のギャップG、それらの配置を厳密に制御する必要なしに共鳴スペクトルのピーク幅を広くし、高感度なSERS測定が可能になることが分かった。
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、さらに種々の変形が可能である。例えば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
1…基板、10…金属層、20…誘電体層、22…凹部、31…第1金属粒子、32…第2金属粒子、33…第3金属粒子、100,101,102…電場増強素子、110…気体試料保持部、112…カバー、113…吸引口、114…吸引流路、115…除塵フィルター、116…排出流路、117…吸引機構、118…排出口、120…検出部、122a,122b,122c,122d…レンズ、124…ハーフミラー、126…フィルター、127…分光器、128…受光素子、130…制御部、132…検出制御部、134…電力制御部、136…接続部、140…筐体、200…ラマン分光装置、210…光源、220…光検出器、300…電子機器、310…演算部、320…記憶部、330…表示部
Claims (8)
- 金属層と、
前記金属層上に形成された誘電体層と、
前記誘電体層に形成された凹部と、
前記凹部に形成された第1金属粒子と、
前記凹部に前記第1金属粒子と離間して形成され、前記第1金属粒子の材質とは異なる材質の第2金属粒子と、
を含み、
前記凹部の底面と前記金属層との距離は、20nm以上80nm以下である、電場増強素子。 - 請求項1において、
前記第1金属粒子と前記第2金属粒子との距離は、10nm以上60nm以下である、電場増強素子。 - 請求項1又は請求項2において、
前記第1金属粒子及び前記第2金属粒子の少なくとも一方は、前記凹部の側面に接触している、電場増強素子。 - 請求項1ないし請求項3のいずれか1項において、
前記誘電体層の前記凹部以外の領域の上に形成された第3金属粒子を有する、電場増強素子。 - 請求項1ないし請求項4のいずれか1項において、
前記凹部の深さは、100nm以上である、電場増強素子。 - 請求項1ないし請求項5のいずれか1項において、
前記凹部は、前記誘電体層の厚さ方向から見た平面視において、前記誘電体層に周期的に配列された、電場増強素子。 - 請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の電場増強素子と、
前記電場増強素子に励起光を照射する光源と、
前記電場増強素子から放射される光を検出する検出器と、
を備えた、ラマン分光装置。 - 請求項7に記載のラマン分光装置と、前記検出器からの検出情報に基づいて健康医療情報を演算する演算部と、前記健康医療情報を記憶する記憶部と、前記健康医療情報を表示する表示部と、を備えた電子機器。
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JP2017053702A (ja) * | 2015-09-09 | 2017-03-16 | 学校法人 東洋大学 | 微細流路デバイス及び測定方法 |
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WO2021215541A1 (ja) * | 2020-04-20 | 2021-10-28 | 公立大学法人大阪 | センサー |
-
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