JP2015034324A - 転がり疲労寿命に優れた鋼 - Google Patents
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Abstract
【課題】 鋼中の酸素、硫黄、Alの含有量と、MgO−Al2O3系酸化物の平均組成比とその全酸化物中の個数比率を規制し、L1寿命と転がり疲労寿命に優れた機械部品用鋼を提供する。
【解決手段】 酸素含有量8ppm以下、硫黄含有量0.008%以下、Al含有量0.005〜0.030%で、鋼材体積1000mm3当りに超音波探傷で検出される介在物径が20μm以上で100μm未満の非金属介在物の個数が12.0個以下で、かつ、超音波探傷で鋼材重量2.5kg当りに検出される介在物径100μm以上の非金属介在物数が2.0個以下で、鋼中に存在するMgO−Al2O3系酸化物のMgO/Al2O3の質量%比を0.25〜1.50とし、MgO−Al2O3系酸化物の全酸化物系介在物中の個数比率を70%以上とした転がり疲労寿命に優れた鋼。
【選択図】 なし
【解決手段】 酸素含有量8ppm以下、硫黄含有量0.008%以下、Al含有量0.005〜0.030%で、鋼材体積1000mm3当りに超音波探傷で検出される介在物径が20μm以上で100μm未満の非金属介在物の個数が12.0個以下で、かつ、超音波探傷で鋼材重量2.5kg当りに検出される介在物径100μm以上の非金属介在物数が2.0個以下で、鋼中に存在するMgO−Al2O3系酸化物のMgO/Al2O3の質量%比を0.25〜1.50とし、MgO−Al2O3系酸化物の全酸化物系介在物中の個数比率を70%以上とした転がり疲労寿命に優れた鋼。
【選択図】 なし
Description
本発明は、軸受、ギア、ハブユニット、トロイダル型CVT装置、等速ジョイント、クランクピンなどの優れた転がり疲労寿命が要求される、表面硬さを58HRC以上に硬化させて使用される機械部品や装置として適用される鋼に関するものである。
近年、各種機械装置の高性能化によって、転がり疲労寿命が求められる機械部品や装置の使用環境は過酷化している。それに伴い、これらの部品や装置の寿命向上ならびに信頼性向上に対する要求が高まっている。このような要求に対し、鋼材面の対策としては、鋼成分の適正化や転がり疲労寿命に有害な不純物元素の低減が行われており、寿命の向上ならびに信頼性の向上が図られている。
鋼組成に含有の不純物元素のうち、例えば、酸素はアルミナなどの破損の起点となりうる酸化物系介在物を構成する元素である。したがって、特に有害性が高い酸素に関しては、ppmオーダーへの低減が行われている。さらに高い品質が求められる場合には、VAR、ESRなどの特殊溶解によって、さらなる酸素量の低減が行われる場合もある。また、他の不純物元素に関しても、その含有量を0.01質量%オーダーまで低減することによって、それらの悪影響を防止する対策がとられている。
ところで、鋼中の酸素量が少ない高清浄度鋼は種々提案されている。これらの提案の中で、鋼中の酸化物個数に関して、{(MgO・Al2O3個数+MgO個数)/全酸化物系介在物個数}の値を0.80以上とする高炭素系高寿命軸受鋼が提案されている(例えば、特許文献1参照)。なお、特許文献1には、MgO、Al2O3の組成範囲は特に示されておらず、また表示も、MgO−Al2O3ではなく、化学量論組成であることを示すMgO・Al2O3と分子式で表記されていることから、質量%で28.3%のMgOと71.7%のAl2O3からなる化合物として示されている。さらに、アルミナ系とスピネル系との合計個数が全酸化物個数の60%未満である高炭素クロム軸受鋼およびその製造方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。この特許文献2内に限り、アルミナ系とは(MgO)も(SiO2)も3%未満で、かつ(CaO)も(CaO)/((CaO)+(Al2O3))の比で0.08以下であるものであり、スピネル系とは3%〜20%の範囲の(MgO)に残部が(Al2O3)である2元系に、15%以内の(CaO)および/または15%以内の(SiO2)が混入する場合があるスピネル型結晶構造のものであるとして定義されている。さらに、鋼中の酸素含有量が10ppm未満であり、かつ、電子ビーム溶融法により浮上させて凝集させた酸化物系介在物の表面露出面積が1グラム当たり20μm2以下である高清浄度軸受用鋼が提案されている(例えば、特許文献3参照。)。一方、本願発明の狙いとする転がり疲労寿命に優れた鋼、すなわち、スラスト型転がり疲労試験にて、L1寿命(同一ロットの試験片を同じ条件で試験した場合に、そのうちの99%の試験片がはく離することなく回転するcycle数)に優れた鋼を安定して提供する際に、L1寿命に影響を及ぼすような20μmを超える非金属介在物の発生は極めて偶発的、かつ、低い確率で発生するので、それらの発生の検出は非常に困難であり、かつ、特許文献3に記載の鋼では、介在物の融解および凝集が起こるため、正確な介在物径や個数を評価することができない。また、従来技術による非金属介在物の評価方法では、被検面積が小さいために鋼材の大体積を検査しようとすると多大な時間を要するため、鋼材の良否を判断することができない。
また、最大介在物径が略100μm以下の介在物については極値統計法を適用し、略100μm以上の介在物については探傷周波数を5〜25MHzとした超音波探傷法を適用するなどの両手法を併用した評価方法が提案されている(例えば、特許文献4参照。)。この記載の方法では、最大介在物径が100μm未満である非金属介在物については極値統計法を適用し、100μm以上である非金属介在物については探傷周波数を5〜25MHzとした超音波探傷法を適用するなどの併用による評価方法を提案している。しかしながら、極値統計法は上述と同様に被検面積が小さく、20μm以上、かつ、100μm未満である非金属介在物について見た場合の鋼材の良否を十分に判断できる手法とは言い難い。一方で、探傷周波数を5〜25MHzとした超音波探傷法で検出している介在物径が100μm以上であるため、やはり20μm以上で100μm未満の介在物についての十分な評価が出来ていないことから、L1寿命に優れた鋼を安定して提供できる評価方法とはいい難い。また、さらに100μm以下の介在物について探傷周波数を20〜125MHzとした超音波探傷法により評価することにより、転がり疲労寿命に優れた鋼としての介在物の個数と大きさを規定した鋼が提案されている(例えば、特許文献5参照)。ところで、この特許文献5に記載の方法では、硫黄含有量が0.008質量%以下で、かつ、超音波探傷法により鋼材体積300mm3当たりに検出される介在物径が20μm以上である非金属介在物の個数を300mm3当たりに12個以下であるように規定した、転がり疲労寿命に優れた鋼(スラスト型転がり疲労試験にて、最大ヘルツ応力Pmax=5.3GPaでL10寿命>1.0×107cycleが得られる鋼)およびその評価方法を提案している。ただし、使用中の軸受が計算寿命より極めて早期に破損することに対する信頼性は評価されていないため、早期破損に対する信頼性の目安となるL1寿命(同一ロットの試験片を同じ条件で試験した場合に、そのうちの99%の試験片がはく離することなく回転するcycle数)に優れた鋼を安定して提供できる鋼ではない。
本発明は、転がり疲労寿命が求められる機械部品における、計算寿命に対して極めて早期の破損を抑制することを目的としている。そこで、発明者らは、その信頼性の目安としてL1寿命(すなわち、同一ロットの試験片を同じ条件で試験した場合に、そのうちの99%の試験片がはく離することなく回転するcycle数)に注目した。このL1寿命については、従来技術では全く評価されていなかった。
そこで、発明者らは、転がり疲労寿命を向上させるための非金属介在物の制御に関し、とりわけ転がり疲労寿命に対して有害度の高い酸化物系非金属介在物の影響を軽減する手段に関して鋭意検討した。その結果、従来技術において、むしろ避ける必要があるとされてきた、鋼中の硬質の酸化物系介在物において、Al2O3やMgOを含有するものについて、それらの組成比率や個数比率を適切に改質すること、さらに加えて超音波探傷法により一定量あたりの鋼中の非金属介在物個数が規制されたものとすることにより、L1寿命が向上することを見出した。
すなわち、転がり疲労寿命が求められる部品に対し、特に計算寿命に対する極く早期のはく離を抑制可能なL1寿命に優れた鋼とするために、鋼中の酸素含有量を質量割合で8ppm以下、硫黄含有量を0.008質量%以下、Al含有量を0.005〜0.030質量%とし、非金属介在物に関して、超音波探傷法により、鋼材の体積1000mm3当りに検出される、介在物の径(以下「介在物径」という。)が20μm以上で100μm未満である、非金属介在物の個数が12.0個以下であり、さらに、超音波探傷法により、鋼材の重量の2.5kg当りに検出される、介在物径が100μm以上である、非金属介在物の個数が2.0個以下であり、かつ、鋼中に存在するMgO−Al2O3系酸化物の平均組成における(MgO)/(Al2O3)の質量%比を、0.25〜1.50、より好ましくは0.30〜1.30の範囲に規制し、かつMgO−Al2O3系酸化物の全酸化物系介在物に占める個数比率を70%以上、好ましくは80%以上に規制すれば良いことが分かった。なお、ここで定義するMgO−Al2O3系非金属介在物には、質量%で15%以下のCaO、および/または質量%で15%以下のSiO2を含有したものを含めて良い。酸素含有量を質量割合で8ppm以下、硫黄含有量を0.008質量%以下とする理由は、酸化物系介在物、ならびに比較的軟質で延伸しやすい硫化物系介在物の大きさと存在の頻度を低減するためである。より好ましくは酸素含有量は質量割合で6ppm以下、硫黄含有量は0.003質量%以下とする。さらに、軟質の介在物に改質させないため、かつ硬質であるものの鋼中で凝集してクラスター状となりやすい純アルミナ(Al2O3)の生成を抑制するため、Al含有量は0.005〜0.030質量%、より好ましくは0.008〜0.030質量%、さらに好ましくは0.011〜0.030質量%とする必要がある。
酸化物系介在物の平均組成を規制し、かつ、酸化物系介在物の全酸化物系介在物に占める個数比率を上記の70%以上、好ましくは80%以上に規制した鋼においては、酸化物が高融点を有する組成であるために、鋼の鋳塊を製造する過程において溶鋼中から小径の酸化物が球状に近い形で晶出する。このように球状に近い形で晶出しても、その後に溶鋼中で凝集したクラスター状となり易い純アルミナ(Al2O3)を抑制しているため、溶鋼が凝固した後の鋳塊内において酸化物系介在物は小径でかつ球状に近い形で分散することになる。
さらに、熱間加工で鋳塊を圧延して棒鋼とし、その後、該棒鋼を素材として、さらなる熱間加工や冷間加工により部品素材となる棒鋼や鋼管にあるいは鍛造品にした場合には、酸化物系介在物は熱間あるいは冷間の加工温度域において母相の鋼より著しく硬質な介在物であるので、加工中に母相に追従して変形しにくいため、加工後も比較的球状に近い形状を維持することができる。
その後、部品素材となる棒鋼や鋼管は、必要に応じて、例えば、CRFのようなさらなる冷間加工を経た後に、切削加工され、さらに適正な熱処理により、転がり疲れを受ける部品に所望される表面硬さ58HRC以上に調整された後に、機械部品として使用されるが、転がり疲れを受ける部品の転送面下の最大応力作用方向は、部品の素材となった鋼材中の非金属介在物の最小断面となる方向、例えば、比較的に軟質で熱間加工により延伸するような酸化物系介在物や硫化物系介在物においては、圧延方向と垂直な方向とは、必ずしも一致しない場合がある。
そこで、発明者らは、高温で比較的軟質であり、熱間加工で延伸する酸化物系介在物を含有させた鋼を試験的に溶製し、該鋼の熱間圧延鋼材を素材として、酸化物系介在物の最大断面方向となる圧延方向と一致する面を転送面として、スラスト式の転がり疲労寿命試験を行い、極く短寿命でのはく離に対する信頼性指標としたL1寿命を評価したところ、圧延方向と垂直な方向を転送面とした場合に比べて、L1寿命が低下することを見出した。これは、高温で軟質な酸化物組成を有する介在物は、その融点が低いために、発生頻度は稀であるものの、大型化した介在物が鋼中に残存し、かつ、その介在物の熱間圧延後における最大断面(すなわち、欠陥の大きさとみなせる)となる方向が最大応力作用方向とほぼ一致したためと推測され、通常の部品寿命の指標として評価されるL10寿命(同一ロットの試験片を同じ条件で試験した場合に、そのうちの90%の試験片がはく離することなく回転するcycle数)には現れにくいが、これはL1寿命の評価により明確となったものである。硫化物についても熱間で軟質化しやすい組成の酸化物系介在物と同様に、加工にともなう介在物の延伸によって圧延方向とそれに対して垂直な方向では、介在物の最大断面の大きさに差が生じるため、前記の通り、部品の転送面の取り方によってはL1寿命に劣る場合が起こり得る。
それに対して、発明者らが提案する鋼中で酸化物を形成する酸素の含有量、ならびに硫化物を形成する硫黄の含有量をともに低減し、かつ鋼中の酸化物系介在物が小径でかつ球状に近い形状で分散させた鋼においては、前記の結果とは異なって、圧延方向と一致する面を転送面とするスラスト式の転がり疲労寿命試験におけるL1寿命が改善されていることを見出し、本発明に至ったものである。すなわち、部品の素材となる鋼中の酸化物や硫化物の大きさや存在頻度を十分に低減するとともに、とりわけ転がり疲労寿命に対して有害度の高い鋼中の酸化物系介在物を、小径でかつ球状に近い形状で分散させることにより、部品に加工した場合の転送面が元の素材の圧延方向あるいは延伸方向に対して、如何なる方向に配置されたとしても、常に転がり疲労における最大応力作用方向に対する介在物断面積を最小化することができるため、転がり疲れに対する有害性が軽減され、転がり疲労寿命が向上する。さらに加えて、本願発明は超音波探傷法により、一定量あたりの鋼に含まれる非金属介在物の個数を適切に規制したものとすることにより、極く短寿命でのはく離の指標となるL1寿命に優れた鋼が安定して得られる。
本発明が解決しようとする課題に対して、特許文献1〜5に記載の鋼はいずれもL1寿命が評価されておらず、部品の計算寿命に対して極く早期のはく離に対する信頼性が保証された鋼ではない。また、特許文献1に記載の鋼では、鋼中の酸化物個数に関して、{(MgO・Al2O3+MgO個数)/全酸化物系介在物個数}の値を0.80以上に規制しているが、酸化物組成をMgO・Al2O3ないしMgOの化学量論組成を有する酸化物主体に改質することが必須条件であり、そのためには精錬過程におけるMg添加、および鋼材中のMg含有が必須となるため、製造コストアップを招き、汎用性に劣っている。また、酸素含有量や硫黄含有量の規制についても十分とは言えず、鋼中の非金属介在物の含有頻度も評価していないため、L1寿命に優れた鋼を安定して提供できる技術ではない。
また、引用文献2に記載の鋼では、アルミナ系(Al2O3主体)とスピネル系(MgO−Al2O3系)との合計個数が全酸化物個数の60%未満であるように規制して介在物組成の軟質化制御を行うことによって、L10寿命を向上させているのに対し、本発明はMgO−Al2O3系酸化物の合計個数が全酸化物個数の70%以上であるように規制することで極く短寿命でのはく離に対する信頼性の指標としたL1寿命を向上させたものであり、技術的思想が全く異なっている。
また、特許文献3〜5はいずれも鋼中の硬質の酸化物系介在物における、その化学組成や個数比率の改質に関して何らの示唆もされていない。また、特許文献3に記載の鋼では、酸化物系介在物の表面露出面積を評価するための鋼試料が1〜5g程度と少なく、また、電子ビーム溶解法によって介在物の融解および凝集が起こるため、本願発明の目的である極く短寿命でのはく離に対する信頼性を向上させるのに必要な一定量あたりの鋼の清浄度を評価する指標としては十分なものとは言えない。
また、特許文献4に記載の鋼では、20μm以上、かつ、100μm未満である非金属介在物についての十分な評価が出来ていないことから、また、特許文献5に記載の鋼では、介在物径が20μm以上である非金属介在物の個数を300mm3当たりに12個以下であるように規定しているが、その規制は本願発明に照らして十分なものではないことから、いずれもL1寿命に優れた鋼を安定して提供できる方法とは言い難い。
本発明は、このような従来の問題を解決するためになされたもので、本発明が解決しようとする課題は、鋼中の酸素含有量、硫黄含有量、およびAl含有量を規制するとともに、MgO−Al2O3系酸化物の平均組成における(MgO)/(Al2O3)の質量%比、MgO−Al2O3系酸化物が全酸化物に占める個数比率、ならびに鋼中の一定量あたりの20μm以上、かつ、100μm未満である非金属介在物個数、および鋼中の一定量あたりの100μm以上の非金属介在物個数を規制することにより、極めて早期はく離の指標であるL1寿命の向上を図って、転がり疲労寿命に優れた機械部品用の鋼を提供することである。
上記の課題を解決するための手段は、第1の手段では、表面硬さを58HRC以上とする機械部品に用いる鋼に係るものである。すなわち、この鋼の鋼中の酸素含有量が質量割合で8ppm以下、硫黄含有量が0.008質量%以下、Al含有量が0.005〜0.030質量%であって、超音波探傷法により、鋼材の体積1000mm3当りに検出される、介在物の径(以下「介在物径」という。)が20μm以上で100μm未満である、非金属介在物の個数が12.0個以下である。さらに、超音波探傷法により、鋼材の重量の2.5kg当りに検出される、介在物径が100μm以上である、非金属介在物の個数が2.0個以下であり、かつ、鋼中に存在するMgO−Al2O3系酸化物の平均組成における(MgO)/(Al2O3)の質量%比を0.25〜1.50の範囲に規制し、かつ、MgO−Al2O3系酸化物の全酸化物系介在物に占める個数比率を70%以上としたことからなる、転がり疲労寿命に優れた鋼である。
第2の手段では、表面硬さを58HRC以上とする機械部品に用いる鋼に係るものである。すなわち、この鋼の鋼中の酸素含有量が質量割合で6ppm以下、硫黄含有量が0.003質量%以下、Al含有量が0.005〜0.030質量%であって、超音波探傷法により、鋼材の体積1000mm3当りに検出される、介在物径が20μm以上で100μm未満である、非金属介在物の個数が9.0個以下である。さらに、超音波探傷法により、鋼材の重量の2.5kg当りに検出される、介在物径が100μm以上である、非金属介在物の個数が1.5個以下であり、かつ、鋼中に存在するMgO−Al2O3系酸化物の平均組成における(MgO)/(Al2O3)の質量%比を0.25〜1.50の範囲に規制し、かつ、MgO−Al2O3系酸化物の全酸化物系介在物に占める個数比率を70%以上としたことからなる、転がり疲労寿命に優れた鋼である。
第3の手段では、介在物径が20μm以上で100μm未満である非金属介在物の個数は、超音波探傷法により総体積1500mm3以上を探傷することにより評価されたものであり、かつ、介在物径が100μm以上である非金属介在物の個数は、超音波探傷法により総重量3.0kg以上を探傷することにより評価されたものである、第1の手段または第2の手段の転がり疲労寿命に優れた鋼である。
第4の手段では、転がり疲労寿命に優れた鋼は、JIS規格において規定される高炭素クロム軸受鋼鋼材(SUJ)、SAE規格またはASTM規格A295において規定される52100、DIN規格において規定される100Cr6、ならびにJIS規格において規定される機械構造用炭素鋼鋼材(SC)、もしくは機械構造用合金鋼鋼材のうちの中のいずれか1種の鋼材が挙げられる。このJIS規格において規定される機械構造用合金鋼材としては、その中のクロム鋼(SCr)、クロムモリブデン鋼(SCM)、またはニッケルクロムモリブデン鋼(SNCM)から選択したいずれか1種の鋼である、第1の手段〜第3の手段のいずれか1手段の転がり疲労寿命に優れた鋼である。
また、例えばSAE規格の4320、5120、4140、1053、1055などのようにJIS規格に対応した外国規格鋼についても本発明の適用が可能である。
また、例えばSAE規格の4320、5120、4140、1053、1055などのようにJIS規格に対応した外国規格鋼についても本発明の適用が可能である。
本発明の転がり疲労寿命に優れた鋼では、鋼中の酸素含有量、硫黄含有量、Al含有量を規制するとともに、鋼中のMgO−Al2O3系酸化物の平均組成における(MgO)/(Al2O3)の質量%比、およびMgO−Al2O3系酸化物が全酸化物に占める個数比率を規制し、さらに、超音波探傷法により鋼中の非金属介在物を大体積で検出して非金属介在物の個数の制限された鋼とすることにより、転がり疲労寿命に優れた機械用部品に使用される鋼を得ることができる。
本発明の実施の形態である転がり疲労寿命に優れた鋼について、表を参照して以下に詳細に説明をする。
本発明の実施の形態である転がり疲労寿命に優れた鋼は、請求項1の発明の実施の形態では、表面硬さを58HRC以上とする機械部品に用いる鋼であって、この鋼の鋼中の酸素含有量が質量割合で8ppm以下、硫黄含有量が0.008質量%以下、Al含有量が0.005〜0.030質量%である。さらに、25〜125MHzの超音波探傷法により、鋼材体積1000mm3当たりに検出される、介在物径が20μm以上で100μm未満である、非金属介在物の個数が12.0個以下である。さらに、5〜25MHzの超音波探傷法により、鋼材重量2.5kg当りに検出される、介在物径が100μm以上である、非金属介在物の個数が2.0個以下である。さらに、この鋼中に存在するMgO−Al2O3系酸化物の平均組成における(MgO)/(Al2O3)の質量%比を0.25〜1.50の範囲に規制し、かつ、MgO−Al2O3系酸化物の全酸化物系介在物に占める個数比率を70%以上とした転がり疲労寿命に優れた鋼である。
請求項2の発明の実施の形態では、表面硬さを58HRC以上とする機械部品に用いる鋼であって、この鋼の鋼中の酸素含有量が質量割合で6ppm以下、硫黄含有量が0.003質量%以下、Al含有量が0.005〜0.030質量%である。さらに、25〜125MHzの超音波探傷法により、鋼材の体積1000mm3当りに検出される、介在物径が20μm以上で100μm未満である、非金属介在物の個数が9.0個以下である。さらに、5〜25MHzの超音波探傷法により、鋼材重量2.5kg当りに検出される、介在物径が100μm以上である、非金属介在物の個数が1.5個以下である。さらに、この鋼中に存在するMgO−Al2O3系酸化物の平均組成における(MgO)/(Al2O3)の質量%比を0.25〜1.50の範囲に規制し、かつ、MgO−Al2O3系酸化物の全酸化物系介在物に占める個数比率を70%以上とした転がり疲労寿命に優れた鋼である。
請求項3の発明の実施の形態では、介在物径が20μm以上で100μm未満である非金属介在物の個数は、25〜125MHzの超音波探傷法により総体積1500mm3以上を探傷することにより評価されたものである。さらに、介在物径が100μm以上である非金属介在物の個数は、5〜25MHzの超音波探傷法により総重量3.0kg以上の探傷により評価されたものである請求項1または2における転がり疲労寿命に優れた鋼である。
請求項4の発明の実施の形態では、転がり疲労寿命に優れた鋼としては、軸受をはじめとする転動疲労寿命が要求される用途に用いられる鋼種であることが望ましい。具体的には、JIS規格において規定される高炭素クロム軸受鋼鋼材(SUJ)、SAE規格またはASTM規格A295において規定される52100、DIN規格において規定される100Cr6、JIS規格において規定される機械構造用炭素鋼鋼材、もしくは機械構造用合金鋼鋼材の中のいずれか1種の鋼材の鋼材が挙げられる。このJIS規格において規定される機械構造用合金鋼材としては、その中のクロム鋼(SCr)、クロムモリブデン鋼(SCM)、またはニッケルクロムモリブデン鋼(SNCM)から選択したいずれかいずれか1種の鋼からなる鋼材で、また、例えばSAE規格の4320、5120、4140、1053、1055などのようにJIS規格に対応した外国規格鋼についても本発明の適用が可能であり、請求項1〜3のいずれか1項における転がり疲労寿命に優れた鋼である。
上記の超音波探傷法においては、既に様々な種類の超音波探傷装置や探触子が市販されており、これらのものを利用することができる。好ましい探触子として、焦点型高周波探触子などが挙げられる。フラット型探触子の検出能は1/2波長といわれているが、焦点型探触子では1/4波長であり、精度の良い評価に対しては焦点型探触子が好適である。なお、本実施の形態の介在物径が20μm以上で100μm未満の介在物については、探触子の周波数は25〜125MHz程度が好ましく、特に好ましくは30〜100MHz程度である。また、本実施の形態の介在物径が100μm以上の介在物については、探触子の周波数は5〜25MHz程度が好ましく、これらは既に上記の請求項3の実施の形態のとおりである。
超音波探傷において、介在物径が20μm以上で100μm未満の介在物について介在物個数を確認するための総体積を1500mm3以上とし、介在物径が100μm以上の介在物について介在物個数を確認するための総重量を3.0kg以上とした理由は、安定した転がり疲労寿命が得られる鋼を提供する上で、評価精度の点から満足できる評価結果を得るために必要なためである。なお、かつ、本実施の形態の超音波探傷法における評価体積および評価重量は、従来の顕微鏡観察を主体とする評価方法では、処理時間が膨大となるので、現実的には評価不可能なものである。超音波探傷を行なうにあたっては、試験片の表面から探触子の周波数に応じた深さまでの不感帯領域を評価体積から除外し、必要に応じて熱処理等による組織異常や超音波探傷における測定ノイズの影響を受けやすい試験片の端部を焦点位置での超音波ビームの探傷範囲から除外した上で、探触子の周波数、性能に応じた水中焦点距離範囲に基づいて超音波探傷における評価体積を1500mm3以上(介在物径が20μm以上で100μm未満の介在物の個数を確認する場合)、ならびに超音波探傷における評価重量を3.0kg以上(介在物径が100μm以上の介在物の個数を確認する場合)を確保する必要がある。
本発明の鋼の母溶鋼の溶製は電気炉法または高炉−転炉法のいずれで行っても良い。続いて、鋼中のMgO−Al2O3系酸化物の平均組成における(MgO)/(Al2O3)の質量%比、およびMgO−Al2O3系酸化物の個数比率を評価する方法については以下に説明する。
本実施の形態の転がり疲労寿命に優れた鋼においては、MgO−Al2O3系酸化物の平均組成における(MgO)/(Al2O3)の質量%比、およびMgO−Al2O3系酸化物の個数比率を精度良く評価するため、鋼材断面の任意の箇所から選んだ少なくとも40mm2以上の被検面積における介在物径が1μm以上の酸化物介在物について、エネルギー分散型X線分析により酸化物組成の成分分析と酸化物数のカウントを行うものとする。その組成分析結果と酸化物カウント数に基づき、鋼中のMgO−Al2O3系酸化物の平均組成、およびMgO−Al2O3系酸化物の個数比率を算出すれば良い。なお、硫化物や窒化物と複合した酸化物については硫化物や窒化物を構成する元素については、その元素については除外してMgO−Al2O3系酸化物の平均組成を求めるものとした。
以上、説明したように本実施の形態の転がり疲労寿命に優れた鋼によれば、鋼中の酸素含有量、硫黄含有量、およびAl含有量を規制するとともに、超音波探傷法により鋼中の非金属介在物を大体積で検出し、さらに、鋼中のMgO−Al2O3系酸化物の平均組成、およびMgO−Al2O3系酸化物が全酸化物に占める個数比率を規制することにより、転がり疲労寿命に優れた機械用部品に使用される鋼を提供することが可能となる。
次に、実施例である供試材1〜28および比較例である供試材29〜34を挙げて、本発明の転がり疲労寿命に優れた鋼をより具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
表1に供試材の成分組成を示す。表1の供試材1〜10および供試材29〜32については高炭素クロム軸受鋼であるJISのSUJ2鋼を、供試材11および供試材12についてはSAE規格において規定される52100を、供試材13および供試材14についてはASTM規格A295において規定される52100を、供試材15および供試材16についてはDIN規格において規定される100Cr6を、供試材17についてはJISのSUJ3鋼を、供試材18についてはJISのSUJ5鋼を、供試材19および供試材33についてはJISのSCr420鋼を、供試材20についてはSAEの5120鋼を、供試材21および供試材34についてはJISのSCM420鋼を、供試材22についてはJISのSNCM420鋼を、供試材23についてはSAEの4320鋼を、供試材24についてはJISのSCM435鋼を、供試材25についてはSAEの4140鋼を、供試材26についてはJISのS53C鋼を、供試材の27についてはJISのS55C鋼を、供試材28についてはSAEの1053鋼を用いた。供試材1〜34は、アーク溶解炉で溶製し、続いて取鍋精錬し、さらに真空脱ガス装置で脱ガスを行い連続鋳造により鋳塊を製造した。
その際、実施例の供試材1〜28については、事前に溶鋼の精錬過程において適宜試料を採取して介在物組成を確認しながら、スラグ組成を適切に調整して目的とする酸化物組成範囲と個数比率を満足するように検討した上で、母溶鋼の溶製を行った。一方、比較例の供試材29および供試材30については、母溶鋼の精錬過程において溶鋼中へのAlの添加を抑制し、Si脱酸を主に実施することにより軟質介在物への改質を行った。また、比較例の供試材31〜34は母溶鋼の精錬過程で溶鋼中にAlを積極添加して脱酸を行うことによりMgO−Al2O3系酸化物が少なく、Al2O3を主体とする酸化物となるように改質を行った。
(スラスト型転がり疲労試験)
供試材1〜18と供試材29〜32の鋼材は800℃にて球状化焼鈍を施し、鋼材の長手方向に対し平行な方向から外径52mmで、内径20mmで、厚さ5.8mmの円盤からなる試験片を作製した。この試験片を835℃で20分保持した後、油冷により焼入れし、次いで170℃で90分の焼戻し処理を行い、所望の58HRC以上の硬さを得て、その後に表面研磨を行ってスラスト型転がり疲労試験を行った。供試材19〜23、供試材33、供試材34の鋼材は、925℃にて焼ならしを施した後、また、供試材24、供試材25の鋼材は、870℃で焼ならしを施した後、鋼材の長手方向に対し平行な方向から外径52mmで、内径20mmで、厚さ8.3mmの円盤からなる試験片を作製した。この試験片を930℃で浸炭処理した後、油冷により焼入れし、次いで180℃で90分の焼戻し処理を行い、所望の58HRC以上の硬さを得て、その後に表面研磨を行ってスラスト型転がり疲労試験を行った。供試材26〜28の鋼材は870℃で焼ならしを施し、鋼材の長手方向に対し平行な方向から外径52mmで、内径20mmで、厚さ8.3mmの円盤からなる試験片を作製した。この試験片を高周波焼入れした後、次いで180℃で90分の焼戻し処理を行い、所望の58HRC以上の硬さを得て、その後に表面研磨を行ってスラスト型転がり疲労試験を行った。スラスト型転がり疲労試験は最大ヘルツ応力Pmax:5.3GPaで行った。なお、L1寿命を求めるうえでは、1.5×107cycle程度での打ち切り試験とし、試験評価時間の短縮を図った。
供試材1〜18と供試材29〜32の鋼材は800℃にて球状化焼鈍を施し、鋼材の長手方向に対し平行な方向から外径52mmで、内径20mmで、厚さ5.8mmの円盤からなる試験片を作製した。この試験片を835℃で20分保持した後、油冷により焼入れし、次いで170℃で90分の焼戻し処理を行い、所望の58HRC以上の硬さを得て、その後に表面研磨を行ってスラスト型転がり疲労試験を行った。供試材19〜23、供試材33、供試材34の鋼材は、925℃にて焼ならしを施した後、また、供試材24、供試材25の鋼材は、870℃で焼ならしを施した後、鋼材の長手方向に対し平行な方向から外径52mmで、内径20mmで、厚さ8.3mmの円盤からなる試験片を作製した。この試験片を930℃で浸炭処理した後、油冷により焼入れし、次いで180℃で90分の焼戻し処理を行い、所望の58HRC以上の硬さを得て、その後に表面研磨を行ってスラスト型転がり疲労試験を行った。供試材26〜28の鋼材は870℃で焼ならしを施し、鋼材の長手方向に対し平行な方向から外径52mmで、内径20mmで、厚さ8.3mmの円盤からなる試験片を作製した。この試験片を高周波焼入れした後、次いで180℃で90分の焼戻し処理を行い、所望の58HRC以上の硬さを得て、その後に表面研磨を行ってスラスト型転がり疲労試験を行った。スラスト型転がり疲労試験は最大ヘルツ応力Pmax:5.3GPaで行った。なお、L1寿命を求めるうえでは、1.5×107cycle程度での打ち切り試験とし、試験評価時間の短縮を図った。
(酸化物組成および個数比率の評価)
鋼中に存在するMgO−Al2O3系酸化物の平均組成における(MgO)/(Al2O3)の質量%比が0.25〜1.50であり、かつMgO−Al2O3系酸化物の全酸化物系介在物に占める個数比率が70%以上であることを評価するにあたり、供試材1〜18と供試材29〜32の鋼材は800℃にて球状化焼鈍を施した後、供試材19〜23、供試材33、供試材34の鋼材は、925℃にて焼ならしを施した後、また、供試材24〜28の鋼材は870℃で焼ならしを施した後、いずれも鋼材の長手方向に対し平行な方向から長手方向に10mm、径方向に10mmの被検査面積100mm2で厚さ7mmの試験片を切り出し、研磨時の非金属介在物の脱落を防止する目的でいずれも焼入焼戻しを行った後、被検査面に鏡面研磨を施し、エネルギー分散型X線分析により酸化物組成の成分分析と酸化物数のカウントを行った。その組成分析結果と酸化物カウント数に基づき、鋼中のMgO−Al2O3系酸化物の平均組成における(MgO)/(Al2O3)の質量%比、およびMgO−Al2O3系酸化物の個数比率を算出した。
鋼中に存在するMgO−Al2O3系酸化物の平均組成における(MgO)/(Al2O3)の質量%比が0.25〜1.50であり、かつMgO−Al2O3系酸化物の全酸化物系介在物に占める個数比率が70%以上であることを評価するにあたり、供試材1〜18と供試材29〜32の鋼材は800℃にて球状化焼鈍を施した後、供試材19〜23、供試材33、供試材34の鋼材は、925℃にて焼ならしを施した後、また、供試材24〜28の鋼材は870℃で焼ならしを施した後、いずれも鋼材の長手方向に対し平行な方向から長手方向に10mm、径方向に10mmの被検査面積100mm2で厚さ7mmの試験片を切り出し、研磨時の非金属介在物の脱落を防止する目的でいずれも焼入焼戻しを行った後、被検査面に鏡面研磨を施し、エネルギー分散型X線分析により酸化物組成の成分分析と酸化物数のカウントを行った。その組成分析結果と酸化物カウント数に基づき、鋼中のMgO−Al2O3系酸化物の平均組成における(MgO)/(Al2O3)の質量%比、およびMgO−Al2O3系酸化物の個数比率を算出した。
これらの供試材の各試験片について、表面硬さ、鋼中のMgO−Al2O3系酸化物の平均組成における(MgO)/(Al2O3)の質量%比、およびMgO−Al2O3系酸化物の個数比率を表2に示す。
表2において、比較例の供試材29〜34は、鋼中のMgO−Al2O3系酸化物の平均組成における(MgO)/(Al2O3)の質量%比、および/または鋼中のMgO−Al2O3系酸化物個数の個数比率が、本発明の請求範囲外のものである。これら比較材の供試材29〜34に対し、鋼中のMgO−Al2O3系酸化物の平均組成における(MgO)/(Al2O3)の質量%比、および鋼中のMgO−Al2O3系酸化物の個数比率のいずれもが、本発明の請求範囲を満足する実施例の供試材1〜28は比較例に比して、後述するように、L1寿命に優れている。
(超音波試験)
介在物径が20μm以上で100μm未満である非金属介在物を評価するに当たり、供試材1〜18、供試材29〜32の鋼材については800℃にて球状化焼鈍を施し、L断面試験片を切り出し、焼入焼戻し処理を行った後、供試材19〜23、供試材33、供試材34の鋼材については925℃にて焼ならしを施し、L断面試験片を切り出し、焼入焼戻し処理を行なった後、供試材24〜28の鋼材については870℃にて焼ならしを施し、L断面試験片を切り出し、焼入焼戻し処理を行なった後、超音波の伝達損失を軽減する目的でいずれも平面研磨を行った。平面研磨により、いずれも厚さ10mmに仕上げて、超音波探傷試験を行った。超音波探傷には、焦点型高周波探触子(50MHz)を備えた超音波探傷装置を用いた。また、超音波探傷体積は3000mm3とした。得られた介在物による反射波のデータから、鋼材の体積1000mm3当たりの20μm以上で100μm未満の介在物の検出個数を求めた。
介在物径が20μm以上で100μm未満である非金属介在物を評価するに当たり、供試材1〜18、供試材29〜32の鋼材については800℃にて球状化焼鈍を施し、L断面試験片を切り出し、焼入焼戻し処理を行った後、供試材19〜23、供試材33、供試材34の鋼材については925℃にて焼ならしを施し、L断面試験片を切り出し、焼入焼戻し処理を行なった後、供試材24〜28の鋼材については870℃にて焼ならしを施し、L断面試験片を切り出し、焼入焼戻し処理を行なった後、超音波の伝達損失を軽減する目的でいずれも平面研磨を行った。平面研磨により、いずれも厚さ10mmに仕上げて、超音波探傷試験を行った。超音波探傷には、焦点型高周波探触子(50MHz)を備えた超音波探傷装置を用いた。また、超音波探傷体積は3000mm3とした。得られた介在物による反射波のデータから、鋼材の体積1000mm3当たりの20μm以上で100μm未満の介在物の検出個数を求めた。
また、介在物径が100μm以上である非金属介在物を評価するに当たり、供試材1〜18、供試材29〜32の鋼材については、800℃にて球状化焼鈍を施し、L断面試験片を切り出した後、供試材19〜23、供試材33、供試材34の鋼材については925℃にて焼ならしを施し、L断面試験片を切り出した後、供試材24〜28の鋼材については870℃にて焼ならしを施し、L断面試験片を切り出した後、いずれも平面研磨を行って厚さ45mmに仕上げて、超音波探傷試験を行った。超音波探傷には、焦点型高周波探触子(10MHz)を備えた超音波探傷装置を用いた。また、超音波探傷重量は10.0kgとした。得られた介在物による反射波のデータから、鋼材の重量2.5kg当たりの100μm以上の介在物検出個数を求めた。
これらの供試材の各試験片について、表面硬さ、50MHzの焦点型高周波探触子で評価した超音波探傷による鋼材の体積1000mm3当たりの介在物検出個数、10MHzの焦点型高周波探触子で評価した超音波探傷による鋼材の重量2.5kg当たりの介在物検出数およびスラスト型転がり疲労試験によるL1 寿命を表3に示す。
表3において、実施例の供試材1〜5、供試材11、供試材13、供試材15、供試材18〜20、供試材25〜27は本発明を満足するものであり、L1寿命(比較例32を基準とする相対値)が最低のものでも、供試材1の3.3である。
この場合の鋼中の酸素含有量は質量割合で8ppm以下、硫黄含有量は0.008質量%以下であり、超音波探傷法により鋼材体積1000mm3当たりに検出される介在物径が20μm以上で100μm未満である非金属介在物の個数は12.0個以下であり、かつ、鋼材重量2.5kg当たりに検出される介在物径が100μm以上である非金属介在物の個数は2.0個以下であり、かつ、鋼中に存在するMgO−Al2O3系酸化物の平均組成における(MgO)/(Al2O3)の質量%比が0.25〜1.50の範囲にあり、かつ、MgO−Al2O3系酸化物の全酸化物系介在物に占める個数比率が70%以上である、本発明の請求項1および請求項3の発明を満足するものである。
また、鋼中の酸素含有量が質量割合で6ppm以下、硫黄含有量が0.003質量%以下であり、超音波探傷法により鋼材の体積1000mm3当たりに検出される介在物径が20μm以上で100μm未満である非金属介在物の個数が9.0個以下であり、かつ、鋼材重量2.5kg当たりに検出される介在物径が100μm以上である非金属介在物の個数が1.5個以下であり、かつ、鋼中に存在するMgO−Al2O3系酸化物の平均組成における(MgO)/(Al2O3)の質量%比が0.25〜1.50の範囲にあり、かつ、MgO−Al2O3系酸化物の全酸化物系介在物に占める個数比率が70%以上である、実施例の供試材6〜10、供試材12、供試材14、供試材16、供試材17、供試材21〜24、供試材28は、本発明の請求項2および請求項3の発明を満足するものであり、L1寿命(比較例32を基準とする相対値)が最低のものでも供試材12の4.3であり、転がり疲労寿命にいっそう優れた鋼となっている。
これに対し、比較例の供試材29〜34は鋼材体積1000mm3当たりに検出される20μm以上で100μm未満である非金属介在物の個数が12.0個を超え、かつ、鋼材重量2.5kg当たりに検出される100μm以上である非金属介在物の個数が2.0個を超えているもので、かつ、鋼中に存在するMgO−Al2O3系酸化物の平均組成における(MgO)/(Al2O3)の質量%比が0.25〜1.50の範囲を外れ、かつ、MgO−Al2O3系酸化物の全酸化物系介在物に占める個数比率が70%を下回るなど、本発明の範囲外のものである。これら比較例の供試材29〜34は、L1寿命(比較例32を基準とする相対値)が最大のものでも供試材31の2.2と本実施例のものに比して劣っている。
Claims (4)
- 表面硬さを58HRC以上とする機械部品に用いる鋼であって、鋼中の酸素含有量が質量割合で8ppm以下、硫黄含有量が0.008質量%以下、Al含有量が0.005〜0.030質量%であり、超音波探傷法により鋼材の体積1000mm3当りに検出される介在物径が20μm以上で100μm未満である非金属介在物の個数が12.0個以下であり、かつ、超音波探傷法により鋼材重量2.5kg当りに検出される介在物径が100μm以上である非金属介在物の個数が2.0個以下であり、かつ、鋼中に存在するMgO−Al2O3系酸化物の平均組成における(MgO)/(Al2O3)の質量%比を0.25〜1.50の範囲に規制し、かつ、MgO−Al2O3系酸化物の全酸化物系介在物に占める個数比率を70%以上としたことを特徴とする転がり疲労寿命に優れた鋼。
- 表面硬さを58HRC以上とする機械部品に用いる鋼であって、鋼中の酸素含有量が質量割合で6ppm以下、硫黄含有量が0.003質量%以下、Al含有量が0.005〜0.030質量%であり、超音波探傷法により鋼材の体積1000mm3当りに検出される介在物径が20μm以上で100μm未満である非金属介在物の個数が9.0個以下であり、かつ、超音波探傷法により鋼材重量2.5kg当りに検出される介在物径が100μm以上である非金属介在物の個数が1.5個以下であり、かつ、鋼中に存在するMgO−Al2O3系酸化物の平均組成における(MgO)/(Al2O3)の質量%比を0.25〜1.50の範囲に規制し、かつ、MgO−Al2O3系酸化物の全酸化物系介在物に占める個数比率を70%以上としたことを特徴とする転がり疲労寿命に優れた鋼。
- 介在物径が20μm以上で100μm未満である非金属介在物の個数は、超音波探傷法により総体積1500mm3以上を探傷することにより評価されたものであり、かつ、介在物径が100μm以上である非金属介在物の個数は、超音波探傷法により総重量3.0kg以上を探傷することにより評価されたものであることを特徴とする請求項1または2に記載の転がり疲労寿命に優れた鋼。
- 転がり疲労寿命に優れた鋼は、JIS規格において規定される高炭素クロム軸受鋼鋼材、ならびにSAE規格またはASTM規格A295において規定される52100、ならびにDIN規格において規定される100Cr6、ならびにJIS規格において規定される機械構造用炭素鋼鋼材、もしくは機械構造用合金鋼鋼材の中のクロム鋼、クロムモリブデン鋼およびニッケルクロムモリブデン鋼から選択したいずれか1種の鋼であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の転がり疲労寿命に優れた鋼。
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