JP4630075B2 - 高炭素クロム軸受鋼およびその製造方法 - Google Patents

高炭素クロム軸受鋼およびその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、玉軸受、コロ軸受などの転がり軸受の要素部材に加工するための軸受用鋼の改良に関し、鋼中の微量な酸化物のサイズと個数およびその組成を制御することによって、切削加工時の工具寿命および軸受としての転動疲労寿命とを同時に大幅に改善する鋼とその製造方法に関する。
転がり軸受にはJIS G 4805に規定されている高炭素クロム軸受鋼が多用されているが、このいわゆる軸受鋼は、使用時の性能である転動疲労寿命を支配している材料側の最大の因子が、脱酸後にどうしても除去しきれないで残留してしまう極微量の硬質の酸化物系介在物であるとされ、そのために軸受鋼メーカーでは酸化物系介在物を徹底的に取り除く製造工程の改良を推し進め、近年では鋼中に含まれる酸化物系介在物の総量を表す指標と考えられる酸素(以下単にOと記す)含有量が0.0009質量%以下(この質量比をppmで表す時に1桁になるので以下シングルppmという、また以降の鋼中含有量またはスラグ成分を表す%はすべて質量%を意味する)という極めて清浄な軸受鋼が、わが国で生産される軸受鋼としては通常の品質になっている。
上記のわが国における高清浄軸受鋼の標準的製造方法は、非特許文献1に総括されているが、そこにある記述の中で、本発明が背景技術とは根本的に異なることを明確に示す内容は、以下のように記されている。
まずわが国の高清浄軸受鋼の低O化が何による脱酸で実現されているかについて、p160に「Alによる完全脱酸鋼である軸受鋼」と記され、そのための鋼中Al量の代表的成分値としてp164表5に、Al量0.010%を掲げている。即ち現在のわが国の高清浄軸受鋼は、強力な脱酸剤であるAlを0.010%程度添加することにより完全に脱酸していることによってその低O値が実現できていると理解される。
次に、還元精練工程におけるスラグ組成に関しては、スラグの塩基度(CaO)%/(SiO2)%が高いほどスラグ中の低級酸化物(FeOやMnO)濃度が低くなって鋼中Oが低下したという某社の報告がp165の図15と図16に、また国内各社の全体のデータとしては、同じく(CaO)%/(SiO2)%が3以上あれば、鋼中O濃度は同程度のシングルppmが得られるとp167の図19に示されている。これらの記述は、現在の高清浄軸受鋼の低O値は、強力なAlで脱酸した後で、還元精練工程においてスラグの塩基度を3以上の高い値に選んでスラグ中の再酸化性成分を減少させることにより実現していると理解される。
しかしながら上記の製造条件で製造した高清浄軸受鋼は、最終的に鋼中に残留する酸化物系介在物の量が含有O量でシングルppmという極めて少ない量であっても、溶鋼中のOを取り除くための脱酸剤として最も強力なAlを使っているために、以下のようにして極めて硬質な酸化物系介在物を生成する。
即ち酸化精錬後に脱酸のためにAlを添加すると鋼中Oは先ずアルミナ(Al23)を生成し、このアルミナは次の取鍋精錬において、取鍋のスラグラインなどに使用されているMgO−Cレンガから解離溶出したMgと反応して大部分がスピネル(Al23・MgO)となり、少量がアルミナのまま残る。
このようにしてできる大部分のスピネル(Al23・MgO)系(スピネル系とは、化学量論上のスピネル(Al23・MgO)から組成がずれていても同じ結晶構造で同様な物理的特性を示す成分範囲の酸化物を指す)およびアルミナ(Al23)系(アルミナ系とは、純粋なアルミナではなく少量の他の成分を含んでいてもアルミナと同様な物理的特性を示す成分範囲のものを指す)酸化物(以降特にことわらない限り、このアルミナ系も含めてスピネル系等と呼ぶ)はいずれも極めて硬質であるため、その残留量が極めて少ないにも係わらず、以下に挙げるような加工工程での問題および製品軸受としての性能上の問題があった。
軸受鋼中の酸化物がスピネル系等の極めて硬質なものであるために発生している第1の問題は、その部品が軸受のレースの場合には切削加工によって最終製品に近い形状に加工されるが、その切削加工工程において工具の摩耗が速いことである。軸受の加工においても切削加工工程のコストは他の多くの機械部品の場合と同様に総コストの中で比較的大きい割合を占めており、軸受メーカーからは切削加工が容易な軸受鋼が望まれていた。
鋼中酸化物が極めて硬質であることによる第2の問題即ち製品軸受の性能の問題は、問題にしている酸化物の量が極めて微量である割には軸受の転動疲労寿命が短いことであり、ボールがレースの上を毎回通り過ぎる度に硬質なスピネル系等の介在物の周囲に強い応力集中が発生することによりき裂が発生しやすいことがその原因である。
上記のように微量に残留する酸化物系介在物が、極めて硬質なスピネル系等であるために、加工工程および製品軸受性能として難点があることを認識し、それを避けるために酸化物の組成を硬質でないものに変えることを狙った試みまたはそれに類似する試みは、これまでにいくつか報告されている。
例えば 非特許文献2には、酸化物組成を硬質なものにしないことを狙って酸化精錬後の脱酸にAlを使わない方法が報告されているが、その報告では最も強力な脱酸剤であるAlを使わない結果として鋼中O含有量は0.0008%〜0.0015%の範囲に止まっており、高い清浄度の軸受鋼を安定的に製造できてはいない。
また特許文献1には、製品軸受の転動疲労寿命を改善するために非金属介在物量を徹底的に低下させる方法として、高塩基度スラグの存在下で還元精練を行い、Alをできるだけ使わずに真空脱ガス精練法にてOを0.0006%以下とする高清浄度軸受鋼とその製造法が開示されているが、当該技術では酸化物組成を硬質でないものに変えることが不十分であるため製品軸受の転動疲労寿命は改善したものの被削性は従来鋼並みを維持したのみであり、その両方を改善できてはいない。
特公平4−5742号公報 西山記念技術講座テキスト「軸受鋼の清浄化」(社)日本鉄鋼協会平成16年10月22日開催 「Stahl und Eisen」117(1997) Nr.8,p79−89
本発明は、以上のような背景からなる軸受鋼の被削性と転動疲労寿命との両立課題に対して、鋼中OとAlを著しく低減した上で、なお且つ鋼中の硬質酸化物系介在物の構成比率を低減させた高炭素クロム軸受鋼と、その製造方法に関して、何らかの元素を添加するような有害な副作用を発生し易い方法ではなくて、酸化精錬後の脱酸によって生成しどうしても全部は除去できない酸化物系介在物を、転動疲労寿命や切削時の工具寿命に対して不利である硬質のものにならないように、脱酸剤として使用する元素を適正に選び、かつその後の取鍋精練においても、逐次溶鋼中から除去を図っていく酸化物系介在物が硬質のものに変化しないようにスラグ組成を適正に整えて清浄鋼を製造する方法を提供するものである。
本発明者らは、単に鋼中OとAlを低減しただけでは転動疲労寿命と被削性は大幅に改善されず、更に新たな手段による酸化物系介在物のサイズと個数およびその組成の軟質化制御が必要であることを知見し、本発明を完成するに至った。
即ち、発明の要旨は、
(1)鋼の化学成分が、JIS G 4805を満足すると共に、O:0.0009%以下、Al:0.005%以下およびS:0.005%以下にそれぞれ制限した鋼からなり、鋼中に存在する大きさ3μm以上の酸化物の個数が検鏡視野面積160mm2中100個以下で且つそのうち大きさ10μm以上のものが2個以下であり、更にその組成に関し、下記定義によるアルミナ系とスピネル系との合計個数が全酸化物個数の60%未満であることを特徴とする高炭素クロム軸受鋼。
アルミナ系:(MgO)も(SiO2)も3%未満で且つ(CaO)も(CaO)/((CaO)+(Al23))の比で0.08以下であるもの。
スピネル系:3%〜20%の範囲の(MgO)に残部が(Al23)である2元系に、15%以内の(CaO)および/または15%以内の(SiO2)が混入する場合があるスピネル型結晶構造のもの。
(2)前記(1)に記載の高炭素クロム軸受鋼を得る製造方法であって、転炉または電気炉による酸化精錬後の脱酸およびその後の成分調整に際し実質Alを含まない脱酸剤を使用する工程、次の取鍋精練におけるスラグの塩基度((CaO)%/(SiO2)%)が0.8以上且つ3.0未満となるように制御する工程、それに引き続く35分間以上の真空脱ガス処理工程を含むことを特徴とする高炭素クロム軸受鋼の製造方法。
本発明の軸受鋼は、近年の超硬工具によるクーラントを使わない高速切削において工具寿命が大幅に向上し、また製品軸受としては長期の安定稼動に適するので、産業上の利用価値が非常に大きい。
また本発明で得られる効果は、Si,Mn,Cr,Moの含有量の多少の変動には影響を受けないので、実施例で示した高炭素クロム軸受鋼第2種SUJ2ばかりでなく、他の第1種〜第5種まで含めて全く同様な効果が得られるものである。
また、被削性および転動疲労寿命を改善することができた原因が、鋼中の非常に硬質な酸化物を改質してその硬度を焼入れ硬化処理をした軸受鋼の生地の硬度に近付けたためであるので、軸受鋼の生地の中にある酸化物の生地に対する異質性が弱まったといえる。その結果、レースとボールが軸受の回転の都度互いに擦れ合う時に発生する擦過音も大幅に小さくなることが期待されるので、音響機器や病院など静粛な環境で連続運転される空調機器などに使われる軸受用に適していると考えられる。
先ず、本発明の軸受鋼における化学組成およびそれに含まれる酸化物のサイズと個数およびその組成とその比率の限定理由について述べる。
本発明の高炭素クロム軸受鋼は第1に、鋼の化学成分がJIS G 4805を満足する。JIS G 4805を満足する化学成分とは、Sを除いて、「JISハンドブック(1)鉄鋼I」(財団法人日本規格協会、2004年1月31日第1版第1刷発行)の第1111頁の「高炭素クロム軸受鋼鋼材」に掲載されている「表2 化学成分」および該表下の備考欄に記載された成分を満足するものである。表2にはSUJ1〜5の5種類が規定されており、例えばSUJ2(単位%)においては、C:0.95〜1.10、Si:0.15〜0.35、Mn:0.50以下、P:0.025以下、S:0.025以下、Cr:1.30〜1.60と記載されている。
O:9ppm以下
Oは鋼中に残存して基本的に有害な酸化物を形成するのでできるだけ少ないことが望ましく、できれば6ppm以下が望ましい。しかし通常の酸化精錬→取鍋精練→真空脱ガス工程で容易に得られる9ppm以下であれば、本発明の効果は得られるので9ppm以下とする。
Al:0.005%以下
Alは、鋼中の酸化物を硬質にするのでできるだけ少ない方が望ましく、できれば0.002%以下が望ましい。しかし脱酸剤としてAlを使わなければ容易に達せられる0.005%以下であれば本発明の効果は得られるので、0.005%以下とする。
S:0.005%以下
Sは、近年の軸受鋼のようにOがシングルppmとなっている場合には、酸化物に代わって硫化物が疲労破壊の起点となり易く、従って転動疲労寿命からはできるだけ低い方が良い。また本発明が狙いとする超硬工具による高速ドライ切削の場合には、Sの含有量は工具寿命には影響が小さいので、その点からもSを低くすることは差し支えない。しかしながら、本発明による低塩基度スラグによる取鍋精練では、背景技術である高塩基度スラグの場合よりも溶鋼からSを除去しにくいので、転動疲労寿命の点からも十分で且つ本発明による製造方法で容易に達成できる成分範囲としてSを0.005%以下とする。しかし0.002%以下とすればなお良い。
酸化物のサイズと個数
圧延方向に平行な断面の160mm2中に観察される酸化物のサイズと個数が、円相当直径3μm以上のものが100個以下で、且つそのうち10μm以上のものが2個以下であること。ここで円相当直径とは、「√(長径×短径)」で算定するものとする。またここで言う酸化物は、単独で存在するものはもちろんのこと、硫化物等と複合している場合でも、その複合状態での酸化物の輪郭で算定計数する。このように酸化物のサイズ別観察個数の上限を規定するのは、転動疲労寿命に対して最も有害な硬質酸化物を軟質化することによってその有害性を改善しても、やはり大きい酸化物は有害であるからである。転動疲労寿命に対して本当に有害なのは、軸受になった時に大きい接触応力が発生する部位に存在する最も大きい酸化物であるので、上記の10μm以上のものがほぼ直接的に対応するが、3μm以上のものの個数は検出数が多くて10μm以上の個数のように当たりはずれがないので、極めて大きいものの検出頻度のレベル感を査定する意味の規定である。
酸化物の組成
前項のようにして観察した粒径3μm以上の酸化物の組成として、アルミナ系とスピネル系との合計個数が全酸化物個数の60%未満であること。このように酸化物の組成別構成比率を規定するのは、転動疲労寿命と切削加工時の工具寿命の両方にとって極めて有害な硬質酸化物の軟質化改質を達成した比率を規定するためである。清浄度が高い軸受鋼を製造する背景技術では、もともと脱酸剤としてAlを使うために最終的に鋼中に残留する酸化物は極めて硬質なスピネル(Al23・MgO)系等が主体となる。本発明による方法では、脱酸剤としてAlを使わなくても、添加合金中にいくらか含まれるAlや、溶鋼が接する耐火物から入ってくるAlにより酸化物組成はスピネル系等となる傾向を示すため、更に取鍋精練時のスラグ組成を適正に選んで、酸化物組成をスピネル系等でないものに誘導した。本発明による方法では、極めて硬質なスピネル系等の酸化物の個数比率を60%未満に減少させることができ、その時切削加工時の工具寿命と転動疲労寿命との両方が、背景技術に対して大幅に向上することを見出したので、上記の通り酸化物組成の構成比率を規定する。
次に、本発明の高炭素クロム軸受鋼を得る製造方法について、下記(1)〜(6)にて順次説明を行う。
(1)本発明の第1の要点は、転炉または電気炉による軸受鋼の酸化精錬後の脱酸およびその後の成分調整のための合金添加において、脱酸生成物として極めて硬質のスピネル系等ができてしまうことを避けるために脱酸力が強いAlを使わないで、実質的にAlを含まないFe−Siまたは金属Siで脱酸および成分調整することである。ここで実質Alを含まない脱酸剤とは、金属Siおよび、Fe−Siの場合にはSiの含有量に対するAlの含有量の比率が0.03以下のものを指す。
(2)脱酸力がAlに比べて非常に弱いSiで脱酸しても、軸受鋼の場合にはその鋼中Oは、シングルppmまで下げることができる。その理由は、軸受鋼の場合にはC含有量が約1%と極めて高いことにより、還元精練工程の次に引き続いてかまたは同時に行われる「真空脱ガス処理工程」において、Cによって良く真空脱酸できるので、AlやSiなどの脱酸剤にだけ依存しなくてもよいという特徴があるためである。即ち、この「真空脱ガス処理工程」においては、溶鋼中のOとCとの間で C+O→CO↑ の反応が起こるが、この反応は左辺のCが高ければ反応平衡は右へ進み、即ち脱酸反応はより進むこととなり、また対象溶鋼を真空に引いて脱ガス処理するために溶鋼は高い真空度の雰囲気に晒されるから、上記反応の平衡はガス発生側の右辺へ進むので、やはり脱酸反応は良く進むからである。
(3)即ち脱酸力の弱いSiで脱酸してもシングルppmの十分に清浄な低O鋼が得られるのであるが、従来の清浄な軸受鋼の製造技術では、Siで脱酸しても硬質なスピネル系等の酸化物の比率を十分には低くできなかった。その理由は前記背景技術に記載の通り、低O鋼を得るために、還元精練工程におけるスラグの塩基度を3.0以上に高くしたからである。
(4)還元精練工程において従来と同様な高塩基度スラグを用いる場合には、その多元系スラグ組成としての平衡酸素濃度が極めて低くなるために、強力な脱酸元素の脱酸生成物であるアルミナまでAl23→2Al+3Oの分解反応を起こす傾向が強まり、脱酸剤としてAlを使わないにもかかわらず、真空脱ガス処理工程において、溶鋼鍋の内張りレンガなどの成分であるAl23から、更にはスラグ中のAl23からAlが少々溶鋼に戻ることとなる。その結果鋼中に戻ったAlは、次の鋳造工程に進んで、溶鋼温度が凝固温度に向けて低下するに伴って更に脱酸反応が進むため、また鋳造工程でタンディッシュ廻りや鋳型廻りで溶鋼が何らかの再酸化源に触れたりする場合に、極めて硬質なスピネル系等の酸化物を形成することとなるので、初めからAlで脱酸する場合よりはかなり改善されるものの、Si脱酸で狙った「硬質な酸化物を作らない」ことが十分には達成されない。
(5)そこで本発明の第2の要点である「還元精練におけるスラグ組成を、従来よりも低塩基度側に適度に調整する」ことにより、低O値を維持しつつ溶鋼へAlが戻らないようにし、鋳造工程以降で新たに生成する脱酸生成物が硬質のスピネル系等にならないようにして、切削加工時の工具寿命と製品軸受としての転動疲労寿命の両方を同時に大幅に改善したものである。スラグ塩基度を低下させるためには原料の中の生石灰を減じて軽焼ドロマイトまたはケイ石を増量すれば良い。スラグ塩基度を低下させると溶鋼中に残るAlを減ずることができるが、溶鋼中のOおよびSを除去しない傾向が強まるので、塩基度を低下させ過ぎることも好ましくない。そこで、スラグの脱酸能および脱硫能の面から塩基度の下限を0.8以上とし、酸化物の軟質化効果が得られる塩基度の上限として3.0未満とした。
(6)最後に本発明の第3の要点は、真空脱ガス処理時間を35分以上とする真空脱ガス処理工程によって溶鋼を十分に環流し、鋼中に懸濁浮遊する酸化物をできるだけ浮上分離してトップスラグ中に吸収除去することである。真空脱ガス処理工程としては、RH真空脱ガス処理を用いると好ましい。RHによらない他の真空脱ガス処理工程においてもその性能に応じて処理時間を十分に確保することによりこれと同様な効果が得られる。
以下に、本発明の実施条件とそこで得られた効果について、具体的に説明する。なお、下記表1、2、4に付されたアンダーラインは、本発明範囲から外れることを示す。
本発明が対象とする軸受鋼は、JIS G 4805に規定されている高炭素クロム軸受鋼であり、その実施例としては、転炉〜LF〜RH〜CC(連続鋳造)工程にて、本発明による方法と本発明の一部分だけを適用した方法および背景技術による方法とで、表1に示す化学成分の高清浄軸受鋼を製造し、所定の均熱拡散処理の後、熱間圧延で162mm角のビレットとした。
Figure 0004630075
被削性試験および転動疲労試験用には、このビレットを更に熱間圧延で65mmΦの棒鋼とし、次に炭化物の球状化のための焼鈍処理を行って供試鋼とした。
被削性試験については、上記の供試鋼をそのまま使用し、切削試験条件は、切削速度200m/分、切り込み量2mm、送り量0.25mm/revで、JIS−P20相当超硬合金にTiN等のコーティングをした工具を用い、クーラントなしで外周旋削して5分毎に工具の摩耗を測定し、逃げ面摩耗幅が0.2mmに達する時間をもって工具寿命と判定した。
また転動疲労寿命の評価試験には、上記供試鋼の素材を輪切りにして粗加工し、通常の焼入れおよび低温焼き戻しの熱処理の後表面を機械仕上げ加工した複数の円盤型試験片を用いて、森式スラスト型転動疲労試験機に供してフレーキングが発生するまでの各試験片の負荷回数を測定し、供試試験片数の10%が疲労破壊する10%破損寿命をワイブル確率紙によって求めた。
表2は、本発明と背景技術との差異を特徴づける酸化精錬後の脱酸剤とLFでの還元精練工程の最後でサンプリングしたスラグ組成およびRHでの真空脱ガス処理時間を示している。使用した脱酸剤の成分組成を表3に示す。
Figure 0004630075
Figure 0004630075
さて本発明では、上述の製造法で清浄な軸受鋼を製造した場合に、被削性と転動疲労寿命が大幅に改善される原因を鋼材内質の様々な要素から調査した結果、特に酸化物のサイズと個数およびその組成に特定の条件が整っている場合に、上記2特性が同時に大幅に改善することを見出した。
まず酸化物サイズと個数に関しては、65mmφ棒鋼の1/2半径部で圧延方向に平行な断面から検鏡サンプルを作製し、測定視野160mm2中に認められる円相当直径3μm以上の酸化物を全数カウントし、その個数が100個以下であること、且つそのうち粒径10μm以上のものが2個以下であることである。上の円相当直径とは、√(長径×短径)にて算定する。
ここで光学顕微鏡による酸化物の判定方法は、酸化物は硫化物よりも色合いが濃く黒味を帯びており、またしばしば観察されるTiの炭窒化物は独特のピンク色なので、容易に判定できる。また酸化物に硫化物やTiの炭窒化物が隣接したり周囲を覆うなど単純に複合している場合には、酸化物だけの輪郭で大きさを算定しカウントする。もしも酸化物と他の組成のものが複雑に複合している場合には、一旦全体を酸化物の大きさとして算定しておき、次の工程でのエネルギー分散型X線分光法による組成の測定結果により、主として酸化物として算入するかまたは主として他の組成の介在物であるとして除外するかの判定を行う。
次にその酸化物組成の調査方法は、前項のようにして観察した大きさ3μm以上の酸化物全数について、その組成をエネルギー分散型X線分光法で測定し、それらの組成を(Al23)−(CaO)−(MgO)−(SiO2)の4元系に換算した時に、ほぼすべての酸化物が以下の4種類の成分系に分類できることがわかった。
第1分類:(MgO)も(SiO2)も3%未満で且つ(CaO)も(CaO)/((CaO)+(Al23))の比で0.08以下であって、結局殆どが(Al23)であるもの。したがってこれをアルミナ系と呼ぶ。
第2分類:3%〜20%の範囲の(MgO)に残部が(Al23)である2元系の場合が多いが、15%程度以内の(CaO)およびまたは15%程度以内の(SiO2)が混入する場合もしばしばある。結晶構造としてはスピネルと呼ばれるのでこの組成のものをスピネル系と呼ぶ。
第3分類:(MgO)も(SiO2)も3%未満であり、且つ(CaO)が(CaO)/((CaO)+(Al23))の比で0.08を超えるもので、この比は0.50に及ぶ場合がある。(CaO)−(Al23)の2元系に近いのでカルシウムアルミネート系と呼ぶ。
第4分類:(MgO)は殆ど含まないで、(CaO)−(Al23)の2元系に3%以上最大で50%程度までの様々な量の(SiO2)を含むもの。ここでは各成分の頭文字をとってC−A−S3元系と呼ぶ。
表4は、本発明による軸受鋼と比較材の酸化物のサイズと個数およびそれらを上記4分類に従って分類した時の構成比を整理し、それに前記試験条件で実施した外周旋削試験における工具寿命および転動疲労寿命を示したものである。ここで1個の酸化物が2相以上から構成され、各相が上記4分類の異なる分類である場合があるが、そのような場合は面積率の最も大きい分類に割り付けた。
Figure 0004630075
表3の結果から、酸化精錬後の脱酸およびその後の成分調整に対して、実質Alを含まないFe−Siまたは金属Siを使用し、LFでの還元精練におけるスラグ組成として(CaO)%/(SiO2)%を0.8以上3.0未満に選び、且つRHでの真空脱ガス処理時間を35分以上とした場合だけ、大きさ3μm以上の酸化物個数を抑制することができ、且つその組成がスピネル系等の硬質なものばかりになることを避けることができて、切削加工における工具寿命と転動疲労寿命とを同時に大幅に改善できることが明白である。

Claims (2)

  1. 鋼の化学成分が、JIS G 4805を満足すると共に、O:0.0009質量%以下、Al:0.005質量%以下およびS:0.005質量%以下にそれぞれ制限した鋼からなり、圧延方向に平行な検鏡断面積160mm2中に存在する大きさ3μm以上の酸化物個数が100個以下、そのうち大きさ10μm以上のものが2個以下であり、更にそれらの組成別構成比率として、下記定義によるアルミナ系とスピネル系との合計個数が全酸化物個数の60%未満であることを特徴とする高炭素クロム軸受鋼。
    アルミナ系:(MgO)も(SiO2)も3%未満で且つ(CaO)も(CaO)/((CaO)+(Al23))の比で0.08以下であるもの。
    スピネル系:3%〜20%の範囲の(MgO)に残部が(Al23)である2元系に、15%以内の(CaO)および/または15%以内の(SiO2)が混入する場合があるスピネル型結晶構造のもの。
  2. 請求項1に記載の高炭素クロム軸受鋼を得る製造方法であって、転炉または電気炉による酸化精錬後の脱酸およびその後の成分調整に際し実質Alを含まない脱酸剤を使用する工程、次の取鍋精練におけるスラグの塩基度((CaO)%/(SiO2)%)が0.8以上3.0未満となるように制御する工程、それに引き続く35分以上の真空脱ガス処理工程を含むことを特徴とする高炭素クロム軸受鋼の製造方法。
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