以下、車両の制動制御装置を具体化した一実施形態について図面を参照して説明する。
図1には、本実施形態の車両の制動制御装置であるECU10を備える制動装置20が示されている。図1に示すように、制動装置20は、複数の車輪(左前輪、右前輪、左後輪、右後輪)を有する車両に搭載されている。この制動装置20は、運転者によるブレーキペダル21の操作態様に応じたブレーキ液圧を発生する液圧発生装置22と、2系統の液圧回路を有するブレーキアクチュエータ23とを備えている。ブレーキアクチュエータ23の第1の液圧回路31には、右前輪用のブレーキ機構のホイールシリンダ50bと、左後輪用のブレーキ機構のホイールシリンダ50cとが接続されている。また、第2の液圧回路には、左前輪用のブレーキ機構のホイールシリンダと、右後輪用のブレーキ機構のホイールシリンダとが接続されている。
液圧発生装置22には、運転者によるブレーキ操作力を倍力するブースタ221と、ブースタ221によって倍力されたブレーキ操作力に応じたブレーキ液圧(以下、「MC圧」ともいう。)を発生するマスタシリンダ222とが設けられている。そして、運転者によってブレーキ操作が行われている場合、マスタシリンダ222からは、その内部で発生したMC圧に応じたブレーキ液がブレーキアクチュエータ23を介して車輪FR,RLに個別対応するブレーキ機構のホイールシリンダ50b,50c内に供給される。こうしたブレーキ機構は、ホイールシリンダ50b,50c内に発生したブレーキ液圧(以下、「WC圧」ともいう。)に応じた制動トルクを車輪FR,RLに付与するようになっている。
ブレーキアクチュエータ23の第1の液圧回路31は、右前輪用のホイールシリンダ50bに接続される右前輪用経路31bと、左後輪用のホイールシリンダ50cに接続される左後輪用経路31cとを有している。そして、これら各経路31b,31cには、ホイールシリンダ50b,50c内のWC圧の増圧を規制する際に作動する常開型の電磁弁である増圧弁32b,32cと、ホイールシリンダ50b,50c内のWC圧を減圧させる際に作動する常閉型の電磁弁である減圧弁33b,33cとが設けられている。
また、第1の液圧回路31には、ホイールシリンダ50b,50c内から減圧弁33b,33cを介して流出したブレーキ液を一時貯留するためのリザーバ34と、モータ35の回転に基づき作動するポンプ36とが設けられている。このポンプ36は、リザーバ34内に一時貯留されているブレーキ液を吸引して第1の液圧回路31におけるマスタシリンダ222側に吐出するようになっている。
なお、第2の液圧回路については、左前輪用のホイールシリンダ及び右後輪用のホイールシリンダに接続されている点以外は第1の液圧回路31とほぼ同一構成となっている。そのため、ここでは、図1における第2の液圧回路の図示及び第2の液圧回路の具体的な構成の説明を省略するものとする。
また、制動装置20には、マスタシリンダ222内のMC圧を検出する圧力センサSE1と、運転者によるブレーキペダル21の操作状況(オンかオフか)に応じた検出信号を出力するブレーキスイッチSW1とが設けられている。また、制動装置20には、車輪FR,RLの車輪速度を検出する車輪速度センサSE2,SE3が設けられている。こうした各種センサSE1〜SE3及びブレーキスイッチSW1は、ECU10に電気的に接続されている。
ECU10は、CPU、ROM及びRAMなどで構築されているマイクロコンピュータと、各弁32b,32c,33b,33cを駆動させる駆動回路と、モータ35を駆動させる駆動回路とを有している。なお、ECUとは、「Electronic Control Unit(電子制御装置)」の略記であり、ECU10は、各種センサSE1〜SE3及びブレーキスイッチSW1によって検出された各種情報に基づいて各弁32b,32c,33b,33c及びモータ35を個別に制御する。例えば、アンチロックブレーキ制御を実施する場合、ECU10は、制御対象となる車輪に対応する増圧弁及び減圧弁とモータ35とを駆動させることにより、制御対象となる車輪用のホイールシリンダ内のWC圧を調整し、同車輪に対する制動トルクを制御するようになっている。
ここで、増圧弁32b,32c及び減圧弁33b,33cは、各弁のソレノイドに流れる電流値である駆動電流値を制御することで動作するようになっている。すなわち、常閉型の電磁弁である減圧弁33b,33cを閉じ状態から開き状態にする場合、ECU10は、減圧弁33b,33cに対する指示電流値を大きい値に変更する。すると、減圧弁33b,33cのソレノイドに流れる駆動電流値が大きくなり、減圧弁33b,33cが開き状態になる。一方、減圧弁33b,33cを開き状態から閉じ状態にする場合、ECU10は、減圧弁33b,33cに対する指示電流値を小さい値に変更する。すると、減圧弁33b,33cのソレノイドに流れる駆動電流値が小さくなり、減圧弁33b,33cが閉じ状態になる。
また、常開型の電磁弁である増圧弁32b,32cを開き状態から閉じ状態にする場合、ECU10は、増圧弁32b,32cに対する指示電流値を、開き状態用の目標値から閉じ状態用の目標値に変更する。閉じ状態用の目標値は、開き状態用の目標値よりも大きい。そのため、増圧弁32b,32cのソレノイドに流れる駆動電流値が大きくなり、増圧弁32b,32cが閉じ状態になる。一方、増圧弁32b,32cを閉じ状態から開き状態にする場合、ECU10は、増圧弁32b,32cに対する指示電流値を、閉じ状態用の目標値から開き状態用の目標値に変更する。すると、増圧弁32b,32cのソレノイドに流れる駆動電流値が小さくなり、増圧弁32b,32cが開き状態になる。
ここで、図2を参照して、増圧弁32b(32c)を制御するための電気的構成について説明する。
図2に示すように、増圧弁32bを駆動させるための駆動回路12には、マイクロコンピュータのCPU11から増圧弁32bに対する指示電流値Iiが入力される。そして、駆動回路12は、増圧弁32bのソレノイドに流す駆動電流値Idが、入力された指示電流値Iiに近づくようにフィードバック制御を行う。したがって、本実施形態では、駆動回路12が、増圧弁32b,32cに流す駆動電流値Idを、決定された指示電流値Iiに近づけるフィードバック制御を行う「駆動部」として機能する。また、CPU11が、指示電流値Iiを決定する「決定部」として機能する。
なお、フィードバック制御としては、PID制御やPD制御などが挙げられる。ここでいうP制御とは比例制御のことであり、I制御とは積分制御のことであり、D制御とは微分制御のことである。
こうしたフィードバック制御を行う際には、ゲイン(すなわち、P制御における比例ゲイン、I制御における積分ゲイン、D制御における微分ゲイン)が予め設定されている。例えば、アンチロックブレーキ制御などのような制動制御時にあっては、WC圧を目標とする圧力まで速やかに増圧又は減圧させる必要があるため、こうしたフィードバック制御で用いるゲインは大きい値に設定されている。
次に、図3を参照して、右前輪FRに対してアンチロックブレーキ制御を実施する場合におけるブレーキアクチュエータ23の動作の一例について説明する。なお、図3に示すタイミングチャートでは、既に運転者によるブレーキ操作が開始されているものとする。また、ここでいう「車輪速度VW」とは、右前輪FRの回転速度を車両の前方への移動速度に変換した速度である。
図3(a)に示すように、第1のタイミングt1では、車両の車体速度VSから右前輪FRの車輪速度VWを減じた差である右前輪FRのスリップ量Slpが第1のスリップ判定値Slp1を下回るなどしてアンチロックブレーキ制御の開始条件が成立する。すると、右前輪FRに対してアンチロックブレーキ制御が開始される。すなわち、右前輪用のホイールシリンダ50b内のWC圧Pwcを減圧させる減圧モード、WC圧Pwcを保持させる保持モード、及びWC圧Pwcを増圧させる増圧モードを含む制御サイクルが繰り返される。
図3(b)に示すように、アンチロックブレーキ制御が開始される第1のタイミングt1からは、減圧モードが開始される。この場合、モータ35、すなわちポンプ36が作動し始め、減圧弁33bが開き状態にされ、さらに、増圧弁32bが閉じ状態にされる。すると、ホイールシリンダ50b内からはブレーキ液が減圧弁33bを通じて流出され、WC圧Pwcが減圧される。これにより、右前輪FRに対する制動トルクが減少される。こうした減圧モードでは、増圧弁32bに対する指示電流値Iiは、上記の閉じ状態用の目標値に決定される。すなわち、この閉じ状態用の目標値が、「減圧モード用の目標電流値」に相当する。
そして、図3(a),(b)に示すように、減圧モードによるWC圧Pwcの減圧によって、右前輪FRのスリップ量Slpの増加傾向が解消し始める第2のタイミングt2で、モードが減圧モードから保持モードに移行される。この場合、増圧弁32bの閉じ状態が維持される一方、減圧弁33bが閉じ状態にされる。これにより、WC圧Pwcが保持され、右前輪FRに対する制動トルクが保持される。このように減圧モードから保持モードに移行されるときには増圧弁32bの閉じ状態が維持されるため、増圧弁32bに対する指示電流値Iiは、上記の閉じ状態用の目標値のままとなる。すなわち、この閉じ状態用の目標値が、「保持モード用の目標電流値」に相当する。
保持モードでは、WC圧Pwcが低圧で保持されており、右前輪FRに対する制動トルクが小さい。そのため、右前輪FRの回転速度が速くなり、右前輪FRの車輪速度VWが加速し始め、右前輪FRのスリップ量Slpが次第に小さくなる。そして、第3のタイミングt3で、右前輪FRのスリップ量Slpが第2のスリップ判定値Slp2以下になると、右前輪FRのロック傾向が解消されたと判断できるため、モードが保持モードから増圧モードに移行される。
こうした保持モードから増圧モードへの移行に際しては、減圧弁33bの閉じ状態が維持される一方で、増圧弁32bが開き状態にされる。アンチロックブレーキ制御の実施中にあっては、ポンプ36の作動が継続されているため、リザーバ34内のブレーキ液は、ポンプ36によって汲み上げられて第1の液圧回路31におけるマスタシリンダ222側に吐出される。また、運転者がブレーキ操作を行っているため、マスタシリンダ222内のMC圧は高くなっている。そのため、右前輪用のホイールシリンダ50b内には増圧弁32bを介してブレーキ液が流入する。すると、WC圧Pwcが増圧され、結果として、右前輪FRに対する制動トルクが大きくなる。なお、こうした増圧モードでは、増圧弁32bに対する指示電流値Iiは、上記の開き状態用の目標値になる。
増圧モードによるWC圧Pwcの増圧によって右前輪FRの車輪速度VWが減速されると、右前輪FRのスリップ量Slpが次第に大きくなる。そして、第4のタイミングt4で右前輪FRのスリップ量Slpが第1のスリップ判定値Slp1以上になると、モードが増圧モードから減圧モードに移行される。また、減圧モードによって右前輪FRのスリップ量Slpの増加傾向が解消し始めると、第5のタイミングt5で、モードが減圧モードから保持モードに移行される。その後、保持モードによって右前輪FRのスリップ量Slpが第2のスリップ判定値Slp2以下になると、第6のタイミングt6で、モードが保持モードから増圧モードに移行される。
上述したように、アンチロックブレーキ制御の実施中においてモードが減圧モード又は保持モードである場合、増圧弁32b,32cが閉じ状態であるため、WC圧Pwcは増圧されない。この点で、減圧モード及び保持モードが、WC圧Pwcの増圧を規制する「非増圧モード」に相当する。そして、減圧モードや保持モードであるときにおける増圧弁32bに対する指示電流値Iiが、すなわち上記の閉じ状態用の目標値が、「非増圧時目標電流値」に相当する。これに対し、増圧モードであるときにおける増圧弁32bに対する指示電流値Iiが、すなわち上記の開き状態用の目標値が、「増圧時目標電流値」に相当する。
なお、増圧時目標電流値は、増圧モードであるときにWC圧Pwcが増圧時目標WC圧Ptbとなるように設定されている。そして、本実施形態では、この増圧時目標WC圧Ptbは、車輪の接地する路面のμ値によって設定される。すなわち、路面のμ値が高く、車輪がロック傾向を示しにくい場合、増圧時目標WC圧Ptbは大きい値に設定される。その一方で、路面のμ値が低く、車輪がロック傾向を示しやすい場合、増圧時目標WC圧Ptbは小さい値に設定される。そのため、増圧時目標WC圧Ptbに対応する増圧時目標電流値は、路面のμ値が低いときほど大きい値に設定される。ただし、増圧時目標電流値は、非増圧時目標電流値以上の値に設定されることはない。
ところで、上述したように、増圧弁32b,32cのフィードバック制御を行うためのゲインは大きい値に設定されている。そのため、増圧モードから減圧モードに移行した際には、増圧弁32b,32cが速やかに閉じ状態にされ、WC圧Pwcが減圧される。
また、保持モードから増圧モードに移行した際には、増圧弁32b,32cが速やかに開き状態にされ、WC圧Pwcが増圧される。しかし、ゲインが大きいために、増圧弁32b,32cに流れる駆動電流値が増圧時目標電流値未満となるアンダーシュートが発生し、駆動電流値が増圧時目標電流値を大きく下回ることがある。このように駆動電流値が増圧時目標電流値を大きく下回っている間では、増圧弁32b,32cの開度が必要以上に大きくなり、ホイールシリンダ50b,50c内に必要以上に多量のブレーキ液が流入することになる。その結果、WC圧Pwcが増圧時目標WC圧Ptbよりも高くなる。こうしたWC圧Pwcと増圧時目標WC圧Ptbとのずれは、フィードバック制御によって駆動電流値が増圧時目標電流値に収束するようになっても解消されない。
そこで、本実施形態では、保持モードから増圧モードに移行した場合、WC圧Pwcと増圧時目標WC圧Ptbとのずれを抑制するために、指示電流値Iiを2段階に変更するようにした。すなわち、ECU10は、非増圧時目標電流値と増圧時目標電流値との間の中間電流値を算出しておき、指示電流値Iiを非増圧時目標電流値から中間電流値に変更し、その後、増圧弁32b,32cに流れる駆動電流値が増圧時目標電流値未満になった状態で指示電流値Iiを中間電流値から増圧時目標電流値に変更するようにした。
次に、図4を参照して、中間電流値の算出方法について説明する。
まず始めに、増圧弁32b,32cの特性について説明する。
モードが保持モードから増圧モードに移行する場合に、図4にて実線で示すように指示電流値Iiを非増圧時目標電流値Itnから増圧時目標電流値Itbに一気に変更したとすると、増圧弁32b,32cに流れる駆動電流値Idは、図4にて一点鎖線で示すように推移する。すなわち、駆動電流値Idは、指示電流値Iiの変更に伴って、増圧時目標電流値Itbに接近すべく急激に減少する。このとき、駆動電流値Idを増圧時目標電流値Itbに近づけるフィードバック制御で用いられるゲインは大きいため、駆動電流値Idが指示電流値Ii(この場合、増圧時目標電流値Itb)を下回るアンダーシュートが発生しやすい。そして、駆動電流値Idが最小値に達すると、駆動電流値Idが大きくなって増圧時目標電流値Itbに近づく。こうして駆動電流値Idが増圧時目標電流値Itb近傍である程度変動してから、駆動電流値Idが増圧時目標電流値Itbに収束する。
なお、保持モードから増圧モードへの移行に伴って指示電流値Iiを小さい値に変更した場合、以下に示す傾向を見出すことができる。すなわち、変更前の指示電流値である非増圧時目標電流値Itnと変更後の指示電流値である増圧時目標電流値Itbとの差を変化量ΔIt1とする。また、増圧時目標電流値Itbに駆動電流値Idを近づけるフィードバック制御によって駆動電流値Idが最小となったときにおける同駆動電流値Idと増圧時目標電流値Itbとの差をアンダーシュート量US1とする。この場合、変化量ΔIt1に対するアンダーシュート量US1の割合URを以下の関係式(式1)で表すことができる。
そして、増圧弁32b,32cのソレノイドの抵抗値及び増圧弁32b,32cに対する電源電圧の大きさが同等であるという条件下においては、変化量ΔIt1の大きさに拘わらず、割合URは一定になると推定することができる。すなわち、変更後の指示電流値である増圧時目標電流値Itbが小さいなどして変化量ΔIt1が大きくなっても、その分、アンダーシュート量US1が大きくなる。反対に、変更後の指示電流値である増圧時目標電流値Itbが大きいなどして変化量ΔIt1が小さくなっても、その分、アンダーシュート量US1が小さくなる。
そこで、本実施形態では、上記割合URと、変更前の指示電流値と、変更後の指示電流値とに基づいて、中間電流値Imを算出するようにした。すなわち、以下の関係式(式2)を満たす仮中間電流値Imaを算出する。関係式(式2)における変化量ΔIt2は、非増圧時目標電流値Itnと仮中間電流値Imaとの差である。また、アンダーシュート量US2は、指示電流値Iiが非増圧時目標電流値Itnから仮中間電流値Imaに変更された場合、仮中間電流値Imaに駆動電流値Idを近づけるフィードバック制御によって駆動電流値Idが最小となったときにおける同駆動電流値Idと仮中間電流値Imaとの差である。
なお、変化量ΔIt2は、以下に示す関係式(式3)のように表すことができる。また、指示電流値Iiを非増圧時目標電流値Itnから仮中間電流値Imaに変更し、仮中間電流値Imaに駆動電流値Idを近づけるフィードバック制御による駆動電流値Idの最小値を増圧時目標電流値Itbに一致させる場合、アンダーシュート量US2は、以下に示す関係式(式4)のように表すことができる。
そして、関係式(式3),(式4)を関係式(式2)に代入することにより、仮中間電流値Imaを以下に示す関係式(式5)のように表すことができる。
仮中間電流値Imaをこのように算出し、指示電流値Iiを非増圧時目標電流値Itnから仮中間電流値Imaに変更し、仮中間電流値Imaに駆動電流値Idを近づけるフィードバック制御を実施したとする。この場合、駆動電流値Idの最小値は、増圧時目標電流値Itbとほぼ一致するようになる。
本実施形態では、指示電流値Iiを非増圧時目標電流値Itnから中間電流値Imに変更し、中間電流値Imに駆動電流値Idを近づけるフィードバック制御を実施した場合に、駆動電流値Idの最小値が増圧時目標電流値Itbよりも僅かに小さくなるように、中間電流値Imを設定している。すなわち、中間電流値Imは、関係式(式5)を用いて算出した仮中間電流値Imaよりも僅かに小さい値に設定される。例えば、仮中間電流値Imaから所定値を減じた差を中間電流値Imとしてもよいし、仮中間電流値Imaに「1」よりも僅かに小さいゲイン値(例えば、0.9)を乗じ、その演算結果を中間電流値Imとしてもよい。このように算出した中間電流値Imと非増圧時目標電流値Itnとの差は、上記変化量ΔIt2よりも僅かに大きい。
次に、図5を参照して、保持モードから増圧モードに移行した場合において指示電流値Iiを中間電流値Imから増圧時目標電流値Itbに変更するタイミングについて説明する。
図5に示すように、駆動電流値Idを中間電流値Imに近づけるフィードバック制御を実施している状態で、駆動電流値Idが増圧時目標電流値Itbを下回っている間に、指示電流値Iiが増圧時目標電流値Itbに変更される。より詳しくは、駆動電流値Idを中間電流値Imに近づけるフィードバック制御を実施している場合に駆動電流値Idが最小となるタイミングで、指示電流値Iiが増圧時目標電流値Itbに変更される。
本実施形態では、こうしたタイミングで指示電流値Iiを中間電流値Imから増圧時目標電流値Itbに変更するための変更時間判定値ETを予め算出している。すなわち、非増圧時目標電流値Itnと中間電流値Imとの差である変化量ΔItと、駆動電流値Idを中間電流値Imに近づけるフィードバック制御の開始時点から同フィードバック制御によって駆動電流値Idが最小となる時点までの時間との間には、一次の比例関係がある。そのため、こうした比例関係を示す傾きを「α」としたとき、変更時間判定値ETを以下に示す関係式(式6)のように表すことができる。
このように変更時間判定値ETを算出し、保持モードから増圧モードに移行した時点からの経過時間が変更時間判定値ETになったタイミングで、指示電流値Iiが中間電流値Imから増圧時目標電流値Itbに変更される。これにより、駆動電流値Idを中間電流値Imに近づけるフィードバック制御によって駆動電流値Idが最小となるタイミング又はその前後で、指示電流値Iiを増圧時目標電流値Itbに変更することができる。
次に、図6に示すフローチャートを参照して、アンチロックブレーキ制御の実施中における増圧モード時に、ECU10が実行する処理ルーチンについて説明する。なお、この処理ルーチンは、アンチロックブレーキ制御の実施中において、増圧モードが開始される際に実行される処理ルーチンである。
図6に示すように、本処理ルーチンにおいて、ECU10は、路面のμ値が低いときほど小さくなるように増圧時目標WC圧Ptbを演算する(ステップS11)。なお、路面のμ値は、圧力センサSE1によって検出されるMC圧に対する車輪の減速度の関係に基づき算出することができる。すなわち、MC圧がそれほど高くない状態で車輪の減速度が比較的大きい場合には路面のμ値が低いと推定することができる。
続いて、ECU10は、演算した増圧時目標WC圧Ptbが大きいときほど増圧時目標電流値Itbを小さい値にする(ステップS12)。そして、ECU10は、今回の増圧モードに移行する直前の保持モード時における非増圧時目標電流値Itnと、割合URと、演算した増圧時目標電流値Itb(すなわち、今回の増圧モード時における増圧時目標電流値Itb)とに基づいて中間電流値Imを演算する(ステップS13)。
続いて、ECU10は、カウンタ判定値Cnt_thを演算する(ステップS14)。すなわち、ECU10は、今回の増圧モードに移行する直前の保持モード時における非増圧時目標電流値Itnと、ステップS13で演算した中間電流値Imとの差である変化量ΔItを演算し、この変化量ΔItを上記関係式(式6)に代入することにより変更時間判定値ETを演算する。そして、ECU10は、カウンタ判定値Cnt_thを、演算した変更時間判定値ETが大きいときほど大きい値に設定する。続いて、ECU10は、カウンタ値Cntを「0(零)」にリセットする(ステップS15)。このカウンタ値Cntは、今回の増圧モードの開始時点からの経過時間に相当する値である。
そして、ECU10は、カウンタ値Cntが、ステップS14で演算したカウンタ判定値Cnt_th未満であるか否かを判定する(ステップS16)。カウンタ値Cntがカウンタ判定値Cnt_th未満である場合、今回の増圧モードの開始時点からの経過時間が変更時間判定値ET未満であるため、増圧弁に流れる駆動電流値Idを中間電流値Imに近づけるフィードバック制御をまだ継続させてもよいと判断することができる。その一方で、カウンタ値Cntがカウンタ判定値Cnt_th以上である場合、今回の増圧モードの開始時点からの経過時間が変更時間判定値ET以上になったため、駆動電流値Idを増圧時目標電流値Itbに近づけるフィードバック制御を開始させるべきと判断することができる。
そのため、カウンタ値Cntがカウンタ判定値Cnt_th未満である場合(ステップS16:YES)、ECU10は、指示電流値Iiに中間電流値Imをセットし(ステップS17)、その処理を後述するステップS19に移行する。一方、カウンタ値Cntがカウンタ判定値Cnt_th以上である場合(ステップS16:NO)、ECU10は、指示電流値Iiに増圧時目標電流値Itbをセットし(ステップS18)、その処理を次のステップS19に移行する。すなわち、本実施形態では、このステップS16で、指示電流値Iiを中間電流値Imから増圧時目標電流値Itbに変更するタイミングを決定している。
ステップS19において、ECU10は、CPU11から指示電流値Iiを駆動回路12に出力させる。続いて、ECU10は、カウンタ値Cntを「1」だけインクリメントする(ステップS20)。そして、ECU10は、増圧モードを終了させ、減圧モードを開始させるモード変更指示があるか否かを判定する(ステップS21)。モード変更指示がない場合(ステップS21:NO)、ECU10は、その処理を前述したステップS16に移行する。すなわち、ECU10は、増圧モードを継続させる。一方、モード変更指示がある場合(ステップS21:YES)、ECU10は、本処理ルーチンを終了する。なお、アンチロックブレーキ制御の終了条件が成立した場合であっても、ECU10は、本処理ルーチンを終了する。
次に、図7及び図8に示すタイミングチャートを参照して、アンチロックブレーキ制御の実施中において、保持モードから増圧モードに移行したときの動作について説明する。なお、前提として、アンチロックブレーキ制御の対象となる車輪は右前輪FRであるとする。また、図7には、保持モードから増圧モードに移行するときに指示電流値Iiを非増圧時目標電流値Itnから増圧時目標電流値Itbに一気に変更する比較例の場合が示されている。一方、図8には、保持モードから増圧モードに移行するときに指示電流値Iiを非増圧時目標電流値Itnから中間電流値Imに変更した後に増圧時目標電流値Itbに変更する本実施形態の場合が示されている。
図7(a),(b)に示すように、比較例では、アンチロックブレーキ制御のモードが保持モードから増圧モードに移行される第1のタイミングt11で、指示電流値Iiが非増圧時目標電流値Itnから増圧時目標電流値Itbに変更される。すなわち、第1のタイミングt11からは、増圧弁32bに流れる駆動電流値Idを増圧時目標電流値Itbに近づけるフィードバック制御が開始される。すると、駆動電流値Idは、非増圧時目標電流値Itnから増圧時目標電流値Itbに向かって急激に減少される。その結果、右前輪用のホイールシリンダ50b内にはブレーキ液が流入し、WC圧Pwcが増圧される。
そして、第2のタイミングt12で、駆動電流値Idが増圧時目標電流値Itbに達し、WC圧Pwcが、増圧時目標電流値Itbに対応する増圧時目標WC圧Ptbに達するものの、駆動電流値Idはさらに減少される。すなわち、駆動電流値Idが増圧時目標電流値Itbを下回るアンダーシュートが発生する。その結果、第2のタイミングt12以降も、増圧弁32bの開度が大きくなるため、WC圧Pwcが増圧される。
なお、アンチロックブレーキ制御では増圧弁32bの高い応答性が求められるため、駆動電流値Idを調整するためのフィードバック制御のゲインは大きい値に設定されている。そのため、駆動電流値Idは増圧時目標電流値Itbを大幅に下回るようになる。その結果、WC圧Pwcは、増圧時目標WC圧Ptbよりも大幅に高くなる。そして、WC圧Pwcが増圧時目標電流値Itbから大幅にずれている第3のタイミングt13から、駆動電流値Idが増大傾向を示すようになる。その後、駆動電流値Idは増圧時目標電流値Itbに収束することとなる。しかし、このように駆動電流値Idが増圧時目標電流値Itbに収束しても、WC圧Pwcは、第3のタイミングt13における大きさよりも低くならない。
これに対し、図8(a),(b)に示すように、本実施形態では、アンチロックブレーキ制御のモードが保持モードから増圧モードに移行される第1のタイミングt21で、指示電流値Iiが、非増圧時目標電流値Itnから増圧時目標電流値Itbよりも非増圧時目標電流値Itnに近い中間電流値Imに変更される。すなわち、第1のタイミングt21からは、増圧弁32bに流れる駆動電流値Idを中間電流値Imに近づけるフィードバック制御が開始される。すると、駆動電流値Idは、非増圧時目標電流値Itnから中間電流値Imに向かって急激に減少される。その結果、右前輪用のホイールシリンダ50b内にはブレーキ液が流入し、WC圧Pwcが増圧される。
そして、第2のタイミングt22で、駆動電流値Idが中間電流値Imに達するものの、駆動電流値Idはさらに低下される。すなわち、駆動電流値Idが中間電流値Imを下回るアンダーシュートが発生する。そのため、第2のタイミングt22以降でも、増圧弁32bの開度が大きくなるため、WC圧Pwcの増圧が継続される。
その後、駆動電流値Idが増圧時目標電流値Itbに達する第3のタイミングt23よりも少し後の第4のタイミングt24で、今回の増圧モードの開始時点である第1のタイミングt21からの経過時間が変更時間判定値ETになる。そのため、指示電流値Iiが中間電流値Imから増圧時目標電流値Itbに変更され、駆動電流値Idを増圧時目標電流値Itbに近づけるフィードバック制御が開始される。
なお、この第4のタイミングt24では、駆動電流値Idを中間電流値Imに近づけるフィードバック制御によって、駆動電流値Idが増圧時目標電流値Itbよりも僅かに小さい値になっている。そのため、第4のタイミングt24では、WC圧Pwcは、増圧時目標WC圧Ptbと同等又は増圧時目標WC圧Ptbよりも僅かに高い圧力になる。すなわち、本実施形態では、指示電流値Iiを中間電流値Imにすることで、駆動電流値Idを増圧時目標電流値Itbに近づけるようにしている。そのため、比較例の場合のように指示電流値Iiを増圧時目標電流値Itbにすることで駆動電流値Idを増圧時目標電流値Itbに近づける場合と比較して、駆動電流値Idが増圧時目標電流値Itbよりも大幅に下回ることはない。すなわち、WC圧Pwcが増圧時目標WC圧Ptbよりも大幅に高い圧力になることはない。したがって、増圧モードでは、WC圧Pwcを増圧時目標WC圧Ptb近傍の値で保持することができる。
以上、上記実施形態によれば、以下に示す効果を得ることができる。
(1)アンチロックブレーキ制御の実施中において保持モードから増圧モードに移行するとき、指示電流値Iiを、非増圧時目標電流値Itnから中間電流値Imに変更し、その後、中間電流値Imから増圧時目標電流値Itbに変更するようにした。そのため、駆動電流値Idを増圧時目標電流値Itbに近づけるフィードバック制御を開始する時点における駆動電流値Idと増圧時目標電流値Itbとの差が、指示電流値Iiを増圧時目標電流値Itbに一気に変更する比較例の場合と比較して小さくなる分、駆動電流値Idが小さくなりにくくなる。その結果、増圧弁32b,32cの開度が増圧時目標電流値Itbに応じた目標の開度よりも大幅に大きくなる事象が生じにくくなる分、WC圧Pwcと増圧時目標電流値Itbに応じた増圧時目標WC圧Ptbとの乖離が生じにくくなる。すなわち、増圧モードであるときには、WC圧Pwcを減圧させるため減圧弁33b,33cを開き状態にさせることなく、WC圧Pwcを増圧時目標WC圧Ptbに近づけることができる。したがって、アンチロックブレーキ制御の増圧モードにおいて、WC圧Pwcの制御性を容易に向上させることができる。
(2)中間電流値Imを、非増圧時目標電流値Itn、増圧時目標電流値Itb及び上記割合URに基づいて演算している。そのため、指示電流値Iiを駆動電流値Idにすることにより、駆動電流値Idを増圧時目標電流値Itbに近づけることができる。そして、駆動電流値Idが増圧時目標電流値Itb近傍に達した状態で指示電流値Iiを中間電流値Imから増圧時目標電流値Itbに変更することにより、駆動電流値Idが増圧時目標電流値Itbを大幅に下回る事象の発生を抑制することができる。そのため、増圧弁32b,32cの開度が増圧時目標電流値Itbに応じた目標の開度よりも大幅に大きくなる事象が生じにくくなり、WC圧Pwcと増圧時目標WC圧Ptbとの乖離が生じにくくなる。したがって、増圧モードにおけるWC圧Pwcの制御性を向上させることができる。
(3)指示電流値Iiが中間電流値Imである状態で、駆動電流値Idが増圧時目標電流値Itb未満であって且つ駆動電流値Idが最小となるタイミングで、指示電流値Iiを中間電流値Imから増圧時目標電流値Itbに変更するようにしている。すなわち、指示電流値Iiを中間電流値Imとすることで駆動電流値Idを増圧時目標電流値Itbまで低下させ、その後、指示電流値Iiを増圧時目標電流値Itbにすることで、駆動電流値Idを増圧時目標電流値Itbに収束させるようにしている。そのため、WC圧の制御性を低下させることなく、駆動電流値Idを増圧時目標電流値Itbに速やかに収束させることができる。
(4)駆動電流値Idを中間電流値Imに近づけるフィードバック制御によって駆動電流値Idが最小となるタイミングは、非増圧時目標電流値Itnと中間電流値Imとの差である変化量ΔItと一次の比例関係があると推定することができる。そこで、本実施形態では、上記関係式(式6)を用いて変更時間判定値ETを演算し、保持モードから増圧モードに移行した時点からの経過時間が変更時間判定値ETに達したタイミングで、指示電流値Iiを中間電流値Imから増圧時目標電流値Itbに変更するようにした。こうして、変更時間判定値ETを設定し、上記の経過時間を計測することで、指示電流値Iiが中間電流値Imである状態で駆動電流値Idが増圧時目標電流値Itb未満であって且つ駆動電流値Idが最小となるタイミングで、指示電流値Iiを中間電流値Imから増圧時目標電流値Itbに変更する制御を実現させることができる。
(5)また、増圧モードであるときにおけるフィードバック制御のゲインを、減圧モードであるときにおけるフィードバック制御のゲインと等しくした。減圧モードでは増圧弁32b,32cを速やかに閉じ状態にする必要があるため、減圧モードであるときのゲインは大きい値に設定されている。そして、増圧モードにおけるゲインを、こうした減圧モードであるときと等しくすることにより、増圧モードにおける増圧弁32b,32cの応答速度を、減圧モードにおける増圧弁32b,32cの応答速度と同様に速くすることができる。したがって、保持モードから増圧モードに移行するときには、増圧弁32b,32cの高応答性を確保しつつ、WC圧Pwcの制御性を向上させることができる。
なお、上記実施形態は、以下に示す別の実施形態に変更してもよい。
・保持モードから増圧モードに移行したときに指示電流値Iiを中間電流値Imから増圧時目標電流値Itbに変更するタイミングは、駆動電流値Idが増圧時目標電流値Itb未満であれば、駆動電流値Idが最小となるタイミング以外の他の任意のタイミングであってもよい。例えば、指示電流値Iiが中間電流値Imである状態で駆動電流値Idが増圧時目標電流値Itbを下回ったタイミングで、指示電流値Iiを中間電流値Imから増圧時目標電流値Itbに変更するようにしてもよい。この場合、WC圧Pwcが増圧時目標WC圧Ptbに達した以降で、指示電流値Iiが増圧時目標電流値Itbに変更され、駆動電流値Idが増圧時目標電流値Itbに収束されることとなる。そのため、図7に示す比較例の場合に比べ、指示電流値Iiが増圧時目標電流値Itbになっても、増圧時目標電流値Itbから駆動電流値Idを減じた差が大きくなりにくい。したがって、増圧モードであるときには、WC圧Pwcと増圧時目標WC圧Ptbとのずれ量を小さくすることができ、WC圧Pwcの制御性を向上させることができる。
・中間電流値Imは、上記関係式(式5)で演算される仮中間電流値Imaに基づいて決定することができるのであれば任意の値であってもよい。例えば、仮中間電流値Imaを中間電流値Imと同一値としてもよい。この場合、指示電流値Iiが中間電流値Imである状態で駆動電流値Idが増圧時目標電流値Itbに達するタイミングに基づいて、変更時間判定値ETを演算することが好ましい。この場合であっても、WC圧Pwcが増圧時目標WC圧Ptbに達した以降では、指示電流値Iiを増圧時目標電流値Itbとすることで駆動電流値Idを増圧時目標電流値Itbに速やかに収束させることができる。
また、中間電流値Imは、仮中間電流値Imaよりも僅かに大きい値であってもよい。この場合、仮中間電流値Imaに所定値を加算した和を中間電流値Imとしてもよいし、仮中間電流値Imaに「1」よりも僅かに大きいゲイン値(例えば、1.1)を乗じ、その演算結果を中間電流値Imとしてもよい。この場合、指示電流値Iiが中間電流値Imである状態では駆動電流値Idが増圧時目標電流値Itbに達することはない。
すなわち、図9(a),(b)に示すように、第1のタイミングt31で保持モードから増圧モードに移行される場合、その後の第2のタイミングt32では、駆動電流値Idは、指示電流値Iiが中間電流値Imである状態での最小値となる。そして、この第2のタイミングt32で指示電流値Iiを中間電流値Imから増圧時目標電流値Itbに変更させることにより、第2のタイミングt32以降でも駆動電流値Idが低下され、その後の第3のタイミングt33で駆動電流値Idが増圧時目標電流値Itbに達する。その後、駆動電流値Idは、増圧時目標電流値Itb近傍で多少変動した後、増圧時目標電流値Itbに収束することとなる。
こうした場合であっても、指示電流値Iiが増圧時目標電流値Itbになった時点における駆動電流値Idと増圧時目標電流値Itbとの差は、指示電流値Iiが非増圧時目標電流値Itnから増圧時目標電流値Itbに一気に変更される場合よりも小さい。そのため、駆動電流値Idが増圧時目標電流値Itbを大幅に下回りにくくなり、WC圧Pwcと増圧時目標WC圧Ptbとの乖離が生じにくくなる。したがって、増圧モードにおけるWC圧Pwcの制御性を向上させることができる。
・上記実施形態では、指示電流値Iiを中間電流値Imから増圧時目標電流値Itbに変更するタイミングは、保持モードから増圧モードに移行した時点からの経過時間に基づいて決定していたが、これに限らず、他の任意の方法で上記タイミングを決定するようにしてもよい。例えば、CPU11で増圧弁32b,32cに流す駆動電流値Idを監視することができるのであれば、例えば図10に示すように、駆動電流値Idの大きさに基づいて、指示電流値Iiを中間電流値Imから増圧時目標電流値Itbに変更するタイミングを決定するようにしてもよい。
図10には、駆動電流値Idが増圧時目標電流値Itb未満になったタイミングで指示電流値Iiを中間電流値Imから増圧時目標電流値Itbする処理ルーチンを説明するフローチャートの一部が図示されている。
すなわち、ECU10は、ステップS13で中間電流値Imを演算した後、増圧弁32b,32cに流れる駆動電流値Idが増圧時目標電流値Itb以上であるか否かを判定する(ステップS161)。駆動電流値Idが増圧時目標電流値Itb以上である場合(ステップS161:YES)、ECU10は、指示電流値Iiを中間電流値Imとし(ステップS17)、同指示電流値IiをCPU11から駆動回路12に出力させ(ステップS19)、その後、その処理をステップS21に移行する。一方、駆動電流値Idが増圧時目標電流値Itb未満である場合(ステップS161:NO)、ECU10は、指示電流値Iiを増圧時目標電流値Itbとし(ステップS18)、同指示電流値IiをCPU11から駆動回路12に出力させ(ステップS19)、その後、その処理をステップS21に移行する。そして、ステップS21において、ECU10は、モード変更指示無しの場合(ステップS21:NO)にはその処理をステップS161に移行し、モード変更指示有りの場合(ステップS21:YES)には本処理ルーチンを終了する。
このように駆動電流値Idの監視結果に基づいて、指示電流値Iiを中間電流値Imから増圧時目標電流値Itbに変更するタイミングを決定するようにしても、上記(1)〜(3)と同等の効果を得ることができる。
また、CPU11で駆動電流値Idを監視できる場合、指示電流値Iiが中間電流値Imであるときには、駆動電流値Idの時間微分を行い、その微分値に基づいて指示電流値Iiを中間電流値Imから増圧時目標電流値Itbに変更するタイミングを決定するようにしてもよい。例えば、駆動電流値Idの微分値が「0(零)」以上になったときに、駆動電流値Idがそのときの指示電流値Ii(すなわち、中間電流値Im)を大きく下回り、同駆動電流値Idが増加傾向を示し始めると判断することができるため、指示電流値Iiを中間電流値Imから増圧時目標電流値Itbに変更するようにしてもよい。この場合、指示電流値Iiを中間電流値Imにしたフィードバック制御によって駆動電流値Idが最小になったタイミング又は同タイミングの近傍で、指示電流値Iiを中間電流値Imから増圧時目標電流値Itbに変更することができる。
また、駆動電流値Idの微分値の絶対値が所定の値未満になったときに、指示電流値Iiを中間電流値Imから増圧時目標電流値Itbに変更するようにしてもよい。この場合であっても、指示電流値Iiを中間電流値Imにしたフィードバック制御によって駆動電流値Idが最小になったタイミング又は同タイミングの近傍で、指示電流値Iiを中間電流値Imから増圧時目標電流値Itbに変更することができる。
・指示電流値Iiを中間電流値Imから増圧時目標電流値Itbに変更するタイミングは、駆動電流値Idが中間電流値Imよりも小さくなった以降であれば任意のタイミングであってもよい。例えば、駆動電流値Idが中間電流値Imを下回ったタイミングで、指示電流値Iiを中間電流値Imから増圧時目標電流値Itbに変更するようにしてもよい。
・増圧弁32b,32cのソレノイドの抵抗値は、ソレノイド自身の温度、経年変化などによって変化しうる。そして、ソレノイドの抵抗値が変わると、増圧弁としての特性も変わってしまう。そこで、例えば、ソレノイドの温度上昇や経年変化などによってソレノイドの抵抗値が高くなったと推定できる場合には、駆動電流値Idの変化速度が遅くなったり、駆動電流値Idが小さくなりやすくなったりするため、上記割合URを大きくなるように補正してもよい。これにより、その時点の増圧弁の特性に合わせた適切な値に中間電流値Imを設定することができる。
また、上記割合URを変更することなく、増圧弁のソレノイドの抵抗値の変化に合わせ、上記関係式(式5)の傾きαを変更するようにしてもよい。
・増圧時目標WC圧Ptbは、路面のμ値などに拘わらず一定値とするようにしてもよい。この場合、増圧時目標WC圧Ptbと相関を有する増圧時目標電流値Itbもまた一定値となる。このように増圧時目標電流値Itbが一定値で固定される場合には、中間電流値Imも一定値で固定するようにしてもよい。
・中間電流値Imは、非増圧時目標電流値Itnと増圧時目標電流値Itbとの間の値となるのであれば、上記関係式(式5)に従って演算しなくてもよい。例えば、中間電流値Imを、非増圧時目標電流値Itnと増圧時目標電流値Itbとの中間値としてもよい。
・アンチロックブレーキ制御では、保持モードを介することなく減圧モードから増圧モードに移行することがある。こうした減圧モードから増圧モードに移行するときでも、指示電流値Iiを非増圧時目標電流値Itnから中間電流値Imに変更した後、中間電流値Imから増圧時目標電流値Itbに変更するようにしてもよい。この場合であっても、上記(1)〜(5)と同等の効果を得ることができる。
・上記実施形態では、上記割合URは予め演算したものを使用していたが、これに限らず、任意のタイミングで割合URを演算するための処理を実施するようにしてもよい。例えば、イグニッションスイッチがオンになった直後において、ブレーキアクチュエータ23の動作をチェックするいわゆるイニシャルチェック中に、図4に示すように指示電流値Iiを小さい値に変更させ、そのときの駆動電流値Idの変化態様を観察し、同観察結果に基づいて割合URを演算するようにしてもよい。