発明の詳細な説明
本出願は米国仮出願第61/535,257号(出願日:2011年9月15日)に基づく優先権を主張する。この米国仮出願を参照することによって、その全開示内容を本願に援用する。
本発明はNIAID認可のNIH助成金第011671号および第013377号の下に政府支援を受けてなされた。政府は本発明について一定の権利を有する。
〔背景技術〕
本発明は、一般的には、患者の感染症を検出、治療、および予防するための組成物および方法に関し、より具体的には、ムコール菌症の原因となる真菌に特有の特定のタンパク質または核酸を標的とする組成物および方法に関する。
既知の250,000種類の真菌類のうち約180種類については、ヒトおよび動物に疾病(真菌症)を発生させることが認められている。一部の真菌類(たとえば、全身性病原菌であるHistoplasma capsulatumおよびCoccidioides immitis)は、これに暴露した全ての対象に感染を引き起こせる。Candida属、Asergillus種、および接合菌綱などの他の真菌類は、通常は易感染性宿主にのみ疾病を引き起こす日和見病原体である。接合菌綱ケカビ目の菌類は、死に至らしめる恐れのある真菌感染症であるムコール菌症をヒトに引き起こす。ケカビ目の菌類は少なくとも6つの科に分類され、これら全ての科はムコール菌症を引き起こせる(Ibrahim et al. Zygomycosis, p. 241-251, In W. E. Dismukes, P. G. Pappas, and J. D. Sobel (ed.), Clinical Mycology, Oxford University Press, New York (2003); Kwon-Chung, K. J., and J. E. Bennett, Mucormycosis, p. 524-559, Medical Mycology, Lea & Febiger, Philadelphia (1992), and Ribes et al. Zygomycetes in Human Disease, Clin Microbiol Rev 13:236-301 (2000))。しかし、ケカビ科(具体的にはRhizopus oryzae種(Rhizopus arrhizus))の菌類は感染を引き起こす最も一般的な原因である(前掲したRibes et al.)。また、Cunninghamellaceae科のCunninghamella spp.への感染によって発生するムコール菌症の事例も多く報告されている(Cohen-Abbo et al., Clinical Infectious Diseases 17:173-77 (1993); Kontoyianis et al., Clinical Infectious Diseases 18:925-28 (1994); Kwon-Chung et al., American Journal of Clinical Pathology 64:544-48 (1975), and Ventura et al., Cancer 58:1534-36 (1986))。一方、ケカビ目の残りの4つの科は、疾病の原因としてはあまり一般的ではない(Bearer et al., Journal of Clinical Microbiology 32:1823-24 (1994); Kamalam and Thambiah, Sabouraudia 18:19-20 (1980); Kemna et al., Journal of Clinical Microbiology 32:843-45 (1994); Lye et al., Pathology 28:364-65 (1996), and Ribes et al.(前掲))。
ムコール菌症の原因物質は免疫不全宿主に対してほぼ一様に影響を与える(Spellberg et al., Clin. Microbiol. Rev. 18:556-69 (2005))。ムコール菌症の主なリスク要因は、糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)として知られているコントロール不良のケトアシドーシス状態の糖尿病、代謝性アシドーシスの他の形態、コルチコステロイド治療、器官または骨髄の移植、好中球減少症、外傷性障害および火傷、悪性血液疾患、および血液透析を受けている患者のデフェロキサミンによるキレート治療を含む。
近年の報告によって、ムコール菌症の報告事例数が過去20年間において顕著に増大してきたことが立証されている(Gleissner et al., Leuk. Lymphoma 45(7):1351-60 (2004))。主要な移植センターにおけるムコール菌症の発生率に憂慮すべき上昇が見られている。たとえば、フレッドハッチンソン癌センターでは、1985〜1989年から1995〜1999年に掛けて発生件数が2倍を超えて増大したことがMarr et al.らによって記述されている(Marr et al., Clin. Infect. Dis. 34(7):909-17 (2002))。同様に、同様の期間に移植対象におけるムコール菌症の発生率が2倍を超えて増大したことがKontoyiannis et al.によって記述されている(Kontoyiannis et al, Clin. Infect. Dis. 30(6):851-6 (2000))。高齢化する米国人口において糖尿病および癌の流行および臓器移植の普及が高まりを見せているためことから判断すると、予見できる将来においてもムコール菌症の発生率の上昇が衰えずにいることが予想される。
したがって、ムコール菌症の病原体のリスクを低減し、かつ、副作用のない効果的な治療法を提供することができる組成物および方法が必要とされている。本発明はこうした必要性を満たすとともに、これに関連する利点をも提供する。
〔発明の概要〕
本発明によれば、ケカビ目CotHポリペプチドおよびコード核酸分子が提供される。真菌症状、特にムコール菌症、を診断、治療、および予防するためケカビ目CotHポリペプチドおよびコード核酸を有利に使用することができる。さらに、ケカビ目CotHポリペプチドおよびコード核酸は、ケカビ目CotHの活性または発現を改変する作用物質を作製またはスクリーニングすることに有用であり、真菌症状を治療または予防するためにさらに使用することもできる。
本発明は、ケカビ目CotH核酸を含むベクター、当該ベクターを含む宿主細胞、ケカビ目CotHアンチセンス核酸、および関連組成物をも提供する。本発明は、ケカビ目CotH核酸とハイブリダイズするか、またはケカビ目CotH核酸を増幅するために使用することができるケカビ目CotHオリゴヌクレオチドをさらに提供する。抗ケカビ目CotH特異抗体もまた提供する。さらに、ケカビ目CotH核酸またはケカビ目CotH特異抗体を備えるキットをも提供する。ケカビ目生物が引き起こす真菌感染を診断するために、このようなキットおよび試薬を使用することができる。医薬組成物およびワクチン組成物をもまた提供する。
〔図面の簡単な説明〕
図1は、細胞表面タンパク質であることが予測される4つのオープンリーディングフレーム(ORF)のFARウエスタンブロットを示す。
図2は、R. oryzae胞子以外の胞子発芽体に対するGRP78の結合を示す。
図3は、GRP78に対するリガンドとしての働きをすることが予測される4つの結合グリコシルホスファチジルイニソトール(GPI)の発現を示す。
図4のパネルAおよびBは、内皮細胞と一緒に培養させたR. oryzae胞子発芽体におけるCotH遺伝子の発現を示す。
図5は、CotH3における4つの推定GPI結合タンパク質の互いに対する相同性および予測N−およびO−糖鎖付加部位の数を示す。
図6のパネルAは、樹脂以外のヒト臍帯内皮細胞に対するR. oryzaeの付着能を示す。また、Saccharomyces Cerevisiaeは内皮細胞に付着しない。パネルBは、S. cerevisiaeがGRP78発現内皮細胞と結合できるR. oryzaeのCotH2およびCotH3を示す。
図7は、CotH3が多様なケカビ目(R. oryzae 99〜880、R. oryzae 99〜892、Mucor sp.、Lichtheimia corymbifera、Cunninghamella bertholetiae、およびR. microsporusを含む)において保存されている。
図8のパネルAおよびBは、CotH2またはCotH3発現S. cerevisiaeがCHO親細胞以外のCGRP78過剰発現内皮細胞またはCHO細胞に付着して侵入していることを示す。
図9は、R. oryzae由来のCotH1のアミノ酸配列(配列番号1)および核酸コード配列(配列番号2)を示す。
図10は、R. oryzae由来のCotH2のアミノ酸配列(配列番号3)および核酸コード配列(配列番号4)を示す。
図11は、R. oryzae由来のCotFBのアミノ酸配列(配列番号5)および核酸コード配列(配列番号6)を示す。
図12は、R. oryzae由来のRO3G_16295のアミノ酸配列(配列番号7)および核酸コード配列(配列番号8)を示す。
図13は、配列番号33および34に示す核酸配列を有するオリゴヌクレオチドプライマーを用いたPCR法による、R. oryzaeでスパイクしたヒツジ血液中のCotH3の検出を示す。
図14は、配列番号33および34に示す核酸配列を有するオリゴヌクレオチドプライマーを用いたPCR法による、Mucor sp.またはLichtheimia corymbiferaでスパイクしたヒツジ血液中のCotH3の検出を示す。
図15は、配列番号33および34に示す核酸配列を有するオリゴヌクレオチドプライマーを用いたPCR法による、Cunninghamella bertholetiaeまたはR. microsporusでスパイクしたヒツジ血液中のCotH3の検出を示す。
図16は、配列番号33および34に示す核酸配列を有するオリゴヌクレオチドプライマーを用いたPCR法による、Aspergillus fumigatesまたはCandida albicansによってスパイクされたヒツジ血液中のCotH3の非検出を示す。
図17は、Stigmatella aurantiaca由来のタンパク質(ZP_01460584)のアミノ酸配列(配列番号65)に対する任意のCotH予測タンパク質(この場合ではCotH3[R03G_11882]配列番号5)の最も高い相同性を示す。
図18は、R. oryzae由来のRO3G_16295タンパク質(配列番号66)とTalaromyces stipitatus ATCC10500(EED23986)タンパク質(配列番号67)との間のアミノ酸配列アラインメントを示す。
図19は、R. oryzae由来のRO3G_16295タンパク質(配列番号66)とPenicillium marneffei ATCC18224(XP_002144175)タンパク質(配列番号68)との間のアミノ酸配列アラインメントを示す。
図20は、R. oryzae由来のRO3G_16295タンパク質(配列番号66)とAspergillus niger(XP_001392236)タンパク質(配列番号69)との間のアミノ酸配列アラインメントを示す。
図21は、R. oryzae由来のRO3G_16295タンパク質(配列番号66)とAspergillus nidulans(XP_658934)タンパク質(配列番号70)との間のアミノ酸配列アラインメントを示す。
図22は、R. oryzae由来のRO3G_16295タンパク質(配列番号66)とUstilago maydis(XP_760027)タンパク質(配列番号71)との間のアミノ酸配列アラインメントを示す。
図23は、R. oryzae由来のRO3G_16295タンパク質(配列番号66)とCoccidioides immitis(XP_001243211)タンパク質(配列番号72)との間のアミノ酸配列アラインメントを示す。
図24は、R. oryzae由来のRO3G_16295タンパク質(配列番号66)とNeurospora crassa(XP_956792)タンパク質(配列番号73)との間のアミノ酸配列アラインメントを示す。
図25は、R. oryzae由来のRO3G_16295タンパク質(配列番号66)とCryptococcus neoformans(XP_775558)タンパク質(配列番号74)との間のアミノ酸配列アラインメントを示す。
図26は、R. oryzae由来のRO3G_16295タンパク質(配列番号66)とStreptomyces lividans(EFD65170)タンパク質(配列番号75)との間のアミノ酸配列アラインメントを示す。
図27は、Rhizopus oryzae 99〜880由来のCotH3(データベース内のイントロンを含む)の核酸配列(配列番号9)を示す。
図28は、Rhizopus oryzae 99〜880由来のCotH3(データベース内のエクソンのみ)の核酸配列(配列番号10)を示す。
図29は、Rhizopus oryzae 99〜880由来のCotH3(予測アミノ酸)のアミノ酸配列(配列番号11)を示す。
図30は、Rhizopus oryzae 99〜880由来のCotH3(配列データ)内のイントロンを含む)の核酸配列(配列番号12)を示す。
図31は、Rhizopus oryzae 99〜892由来のCotH3(配列データ内のエクソンのみを含む)の核酸配列(配列番号13)を示す。
図32は、Rhizopus oryzae 99〜892由来のCotH3(配列データ内のイントロンを含む)の核酸配列(配列番号14)を示す。
図33は、R. oryzae 99〜892由来のCotH3(イントロンを除く)の予測アミノ酸配列(配列番号15)を示す。
図34は、R. oryzae 99〜892由来のCotH3(イントロンを含む)の予測アミノ酸配列(配列番号16)を示す。
図35は、Mucor sp.99〜932由来のCotH3配列(配列データ内のエクソンのみ)の核酸配列(配列番号17)を示す。
図36は、Mucor99〜932由来のCotH3(AAエクソンのみ)の予測アミノ酸配列(配列番号18)を示す。
図37は、Mucor99〜932由来のCotH3(イントロンを含む)の核酸配列(配列番号19)を示す。
図38は、Mucor99〜932由来のCotH3(イントロンを含む)の予測アミノ酸配列(配列番号20)を示す。
図39は、Lichtheimia corymbifera由来のCotH3(配列データ内のエクソンのみ)の核酸配列(配列番号21)を示す。
図40は、Lichtheimia corymbifera由来のCotH3(配列データ内のエクソンのみ)の予測アミノ酸配列(配列番号22)を示す。
図41は、Lichtheimia corymbifera由来のCotH3(イントロンを含む)の核酸配列(配列番号23)を示す。
図42は、Lichtheimia corymbifera由来のCotH3(イントロンを含む)の予測アミノ酸配列(配列番号24)を示す。
図43は、Cunninghamella bertholetiae由来のCotH3配列(エクソンのみ)の核酸配列(配列番号25)を示す。
図44は、Cunninghamella bertholetiae由来のCotH3(配列データ内のエクソンのみ)の予測アミノ酸配列(配列番号26)を示す。
図45は、Cunninghamella bertholetiae由来のCotH3(イントロンを含む)の核酸配列(配列番号27)を示す。
図46は、Cunninghamella bertholetiae由来のCotH3(配列データ内のイントロンを含む)の予測アミノ酸配列(配列番号28)を示す。
図47は、R. microsporus由来のCotH3(配列データ内のエクソンのみ)の核酸配列(配列番号29)を示す。
図48は、R. microsporus由来のCotH3(配列データ内のエクソンのみ)の予測アミノ酸配列(配列番号30)を示す。
図49は、R. microsporus由来のCotH3(イントロンを含み、イントロンを1つのみ含む)の核酸配列(配列番号31)を示す。
図50は、R. microsporus由来のCotH3(イントロンを含む)の予測アミノ酸配列(配列番号32)を示す。
図51のパネルAおよびBは、GRP78と結合するR. oryzae表面タンパク質のFARウエスタンブロット(パネルA)、および、CotH2予測タンパク質およびCotH3予測タンパク質の近接な同一性と、真菌類に広く存在している、特定機能を有さない4番目の特定ORF(たとえば、R03G_16295)からのCotHタンパク質の分岐とを示す系統樹(パネルB)を示す。
図52のパネルA〜Cは、発芽および宿主細胞との相互作用に反応して起きるCotH遺伝子およびRO3G_16295の発現を示す。全てのCotH遺伝子が休眠胞子内で発現した一方で、CotH3のみが、YPD内に37℃で増殖させたR. oryzae胞子発芽体内で発現した(パネルA)。R. oryzae胞子発芽体を内皮細胞に暴露すると、RT−PCRによって測定したように、CotH2遺伝子およびCotH3遺伝子のみ発現が誘起された(パネルB)。内皮細胞上のR. oryzae胞子発芽体内のCotH遺伝子の遺伝子発現をqRT−PCR法によって定量化すると、CotH3およびCotH2の発現は、発現しなかったCotH1と比較してそれぞれ16倍および4倍に増大していたことが示された。RO3G_16295はいずれの試験条件下でも発現しなかった。ウイルコクソンの順位和検定の測定において、*P<0.001 vs. CotH1発現および**P<0.001 vs. CotH1およびCotH2発現(パネルC)。3つの独立した実験においてN=9。
図53は、GAGKKHNNAKQSWNW(配列番号39)のペプチドに対して産生させた抗体はCotH2タンパク質およびCotH3タンパク質を認識したが、S. cerevisiaeが異種発現したCotH1タンパク質は認識しなかったことを示す。ペプチドをKLHと結合し、ウサギ抗体を商業的に産生するようにこれを使用した。細胞を共焦点顕微鏡法で視覚化する前に、CotHタンパク質異種発現S. cerevisiaeを抗体で染色し、その後にFITC標識化抗ウサギヤギ抗体で対比染色した。
図54のパネルA〜Cは、内皮細胞表面GRP78が、CotH1を除くCotH2またはCotH3を異種発現しているS. cerevisiae細胞と結合し、CotH1または空プラスミド発現S. cerevisiaeを除くCotH2またはCotH3発現S. cerevisiaeが、GRP78過剰発現内皮細胞またはCHO細胞に付着して侵入していたことを示す。NHSビオチンを用いて内皮細胞表面タンパク質を標識し、その後に、Ca2+およびMg2+を含むPBS中のn−オクチル−β−d−グルコピラノシドおよびプロテアーゼ阻害剤を用いてこれを抽出した。標識タンパク質(250μg)を酵母細胞(2×108)と一緒に培養させ、その後に、Ca2+およびMg2+を含むPBSを用いた広範囲洗浄によって非結合タンパク質を回収した。有機体と結合した状態を保つ膜タンパク質を6Mの尿素で溶離させ、10%SDS−PAGE上で分離させ、抗GRP78 Abを用いた免疫ブロット法によって特定した(パネルA)。12mmガラスカバースリップ上にスプリットした内皮細胞(パネルB)またはCHO親細胞またはGRP78過剰発現細胞(パネルC)を用いて、付着およびエンドサイトーシス(微分蛍光分析法によって測定)分析を行った。ウイルコクソンの順位和検定の測定において、*:空プラスミドまたはCotH1発現S. cerevisiaeの場合と比較してP<0.001、**:CotH1およびCotH2発現の場合と比較してP<0.001。3つの独立に行われる実験においてN=9。データを中央値±四分位範囲で表す。
図55のパネルAおよびBは、抗CotH3 Abs(GAGKKHNNAKQSWNW(配列番号39)のペプチドに対して産生)によって、R. oryzaeが引き起こす内皮細胞のエンドサイトーシスおよび損傷が阻止されたことを示す。12mmガラスカバースリップ上にスプリットした内皮細胞を用いて付着およびエンドサイトーシス(微分蛍光分析法によって測定)分析する一方で、96ウェルプレート51Cr放出方法によって損傷を与えた。R. oryzae胞子発芽体の添加前に、ワクチン接種後のウサギから取得した50μg/mlの抗CotH3またはワクチン接種前の同一ウサギから作製した血清(コントロール)と一緒に内皮細胞を1時間培養させた。CotH2およびCotH3の阻害(抗体がCotH2タンパク質に反応することため)によって、内皮細胞によるR. oryzaeのエンドサイトーシスが抑制され(実験の各集団の内皮細胞(約200個)と相互作用している真菌細胞(>700個)から取得したデータ。コントロールでは平均して59%の細胞にエンドサイトーシスが生じた)(パネルA)、内皮細胞の損傷を引き起こす真菌の能が低下する(パネルB)。ウイルコクソンの順位和検定の測定において、*:ワクチン接種前の血清または場合と比較して<0.01。3つの独立したエンドサイトーシス実験内の各集団に用いたスライドはn=6。2つの独立した損傷分析実験内の各集団に用いたウェルはn=9。データを中央値±四分位範囲で表す。
図56のパネルA〜Cは、CotH2およびCotH3を標的とするRNA−iコンストラクトよって両遺伝子の発現が阻害され、細胞表面上のCotH2およびCotH3タンパク質の合成が低下され、R. oryzaeの増殖または発芽パターンに対しては何ら作用が生じなかったことを示す。CotH2およびCotH3発現を標的とするRNA−iコンストラクト(pRNAi)または空プラスミドを用いて、R. oryzaeを形質転換させた。2系統の形質転換体について、qRT−PCR法によってCotH2およびCotH3発現を測定したところ、空プラスミドを用いて形質転換させた細胞の場合と比較して>80%の比で低下していたことが示された(パネルA)。抗CotH抗体を用いたフローサイトメトリー試験によって、RNA−iコンストラクトを用いて形質転換させたR. oryzae細胞では、空プラスミド、野生型細胞、またはネガティブコントロール(すなわち、抗CotH抗体に代えて市販のIgGで染色した野生型R. oryzae)の場合と比較してCotHタンパク質の細胞表面発現が低下していたことが示された(パネルB)。CotH2およびCotH3発現が低下した2系統の形質転換体は、野生型細胞または空プラスミドを用いて形質転換させた細胞の場合と比較して類似の増殖速度を有していた(パネルC)。
図57のパネルA〜Cは、CotH2およびCotH3の発現を阻害することによって、GRP78過剰発現内皮細胞およびCHO細胞に侵入し損傷を与えるR. oryzaeの能が低下したことを示す。12mmガラスカバースリップ上にスプリットした内皮細胞を用いて付着およびエンドサイトーシス(微分蛍光分析法によって測定)分析する一方で、96ウェルプレート51Cr放出方法によって損傷を与えた。RNA−iコンストラクトによって形質転換したR. oryzae胞子発芽体が引き起こす内皮細胞への侵入(パネルA)および損傷(パネルB)は、空プラスミドで形質転換した細胞の場合と比較して低下していた。CotH2およびCotH3を標的とするRNA−iによって作製した形質転換体が引き個起こすGRP78過剰発現CHO細胞の損傷は、CHO親細胞の場合と比較して同等の損傷であった。これとは対照的に、空プラスミドまたは野生型R. oryzaeを用いて形質転換させたR. oryzae胞子発芽体が引き起こすGRP78過剰発現CHO細胞の損傷は、CHO親細胞の場合と比較して著しく増大していた(パネルC)。ウイルコクソンの順位和検定法による測定において、*:空プラスミドと比較してP< 0.005、**:野生型または空プラスミドと比較してP<0.01、‡:CHO親細胞と比較してP<0.01。3つの独立したエンドサイトーシス実験内の各集団に用いたスライドはn=6。3つの独立した損傷分析実験内の各集団に用いたウェルはn=9。データを中央値±四分位範囲で表す。
図58のパネルA〜Cは、糖尿病性ケトアシドーシス発症マウス体内においてCotH2およびCotH3の発現を阻害することによってR. oryzaeの毒性が弱まったことを示す。パネルAは、野生型R. oryzae、RNA−iによるR. oryzaeの形質転換体、および空プラスミドによるR. oryzaeの形質転換体の3つの株の1つに気管内感染させたマウス(野生型R. oryzaeに対しはn=10、またはRNA−iまたは空プラスミドによるR. oryzaeの形質転換体に対してはn=9)の生存時間を示す。空気感染による接種材料は、野生型、空プラスミド、またはRNA−i細胞について、それぞれ2.4×103、2.8×103、および2.5×103の胞子とした。*P<0.003 vs.野生型または空プラスミド感染マウス、ログランク検定。パネルBは、野生型(1.7×103)細胞、空プラスミド(3.0×103)細胞、またはRNA−i(3.1×103)細胞に気管内感染させた糖尿病性ケトアシドーシス発症マウス(各グループにつきn=9)の肺および脳内の真菌量を示す。感染から2日目にマウスから器官を採取し、これを組織内の真菌量のためにSYBR Green アッセイ法を用いて処理した。データを中央値±四分位範囲で示した。野生型または空プラスミド感染マウスと比較して*P<0.001、ウイルコクソン順位和検定。パネルCは、野生型、空プラスミド、またはRNA−iコンストラクトに感染させたマウスから採取した肺および脳について、各CotH遺伝子に対して特異的プライマー用いるqRT−PCR法によって測定したCotH遺伝子のin vivo発現を示す。データを平均±標準偏差で示した。*P<0.001 vs.野生型または空プラスミド。
図59は、野生型R. oryzaeまたは空プラスミドまたはRNA−iで形質転換したR. oryzaeに感染した糖尿病性ケトアシドーシス発症マウスから採取した肺の組織病理学検査を示す。過ヨウ素酸シッフ(PAS)染色部分は、野生型R. oryzaeまたはRNA−iコンストラクトによって形質転換したR. oryzae以外の空プラスミドで形質転換したR. oryzaeに感染したマウスから採取した器官の多大な菌糸要素(矢印)を示す。
図60は、GAGKKHNNAKQSWNW(配列番号39)のペプチド(A)またはMGQTNDGAYRDPTDNNK(配列番号40)のペプチド(B)に対して作製した抗CotH抗体を用いた受動免疫法によって、マウスをR. oryzae感染から予防したことを示す。糖尿病性ケトアシドーシス発症マウスに対して、R. oryzae 99-880(野生型)の胞子(2.4×103)に気管内感染させる2時間前に、1mgの抗CotH IgGまたはワクチン接種前の血清(コントロール)を与えた。感染から3日目にポリクローナル抗体またはワクチン接種前の血清を第2の投与量で与えた。*P<0.03 vs.ワクチン接種前の血清を与えたマウス。
図61は、異なる真菌種のCotH3分子指標検出の特異性を示す。StepOnePlus Real-Time PCR machine(Applied Biosystems)内で増幅プロットを作製した。x軸は増幅開始時からの経過時間を表し、y軸は蛍光の増大(ΔRn)を表す。閾値蛍光を水平方向の太線(これは、ネガティブコントロールの水サンプルについての平均に対して標準偏差×2を加算したものと等しい)として示す。Candida albicansまたはAspergillus fumigatus以外のR. oryzaeの105の胞子でスパイクした水サンプル(0.5ml)から信号を増幅させられる。
図62は、R. oryzae 99〜880の異なる接種材料でスパイクした水サンプル(0.5ml)のCotH3分子指標検出の特異性を示す。StepOnePlus Real-Time PCR machine(Applied Biosystems)内で増幅プロットを作製した。x軸は増幅開始時からの経過時間を表し、y軸は蛍光の増大(ΔRn)を表す。閾値蛍光を水平方向の太線(これは、ネガティブコントロールの水サンプルについての平均に対して標準偏差×2を加算したものと等しい)として示す。
図63は、血液中のRhizopus oryzae胞子の検出におけるCotH3分子指標検出の特異性を示す。StepOnePlus Real-Time PCR machine(Applied Biosystems)内で増幅プロットを作製した。x軸は増幅開始時からの経過時間を表し、y軸は蛍光の増大(ΔRn)を表す。閾値蛍光を水平方向の太線(これは、ネガティブコントロールの水サンプルについての平均に対して標準偏差×2を加算したものと等しい)として示す。血液はm予防接種されたコントロールである。R:異なる接種材料のR. oryzae 99-880(たとえば、R10=350μlの血液をスパイクするのに使用したR. oryzaeの10個の胞子)。A:A. fumigants。C:105細胞において350μlの血液をスパイクするのに各々使用したC. albicans。
図64は、クモノスケカビ属の検出におけるCotH3分子指標プローブの特異性を示す。StepOnePlus Real-Time PCR machine(Applied Biosystems)内で増幅プロットを作製した。x軸は増幅開始時からの経過時間を表し、y軸は蛍光の増大(ΔRn)を表す。閾値蛍光を水平方向の太線(これは、ネガティブコントロールの水サンプルについての平均に対して標準偏差×2を加算したものと等しい)として示す。血液:予防接種を行っていない血液サンプル。99〜892:R. oryzae 99-892。ATCC62417:R. microspores ATCC62417。R1000:R. oryzae 99-880。血液(350μl)を胞子(103)でスパイクするために全株を使用した。
〔発明の詳細な説明〕
本願開示の組成物および方法は、ケカビ目の真菌が独特に発現する細胞表面タンパク質の特定および特徴付けに少なくとも部分的に基づいており、真菌感染時の内皮細胞の結合を促進させられる。ムコール菌症は主にRhizopus oryzaeによって引き起こされる真菌症であり、血管侵入および血管内血栓によって特徴付けられる。内皮細胞およびケカビ目の相互作用は真菌症の発症に重要な要因である。近年特定されたグルコース調節タンパク質78(GRP78)は、R. oryzae胞子発芽体によるヒト臍静脈内皮細胞への侵入およびその後の損傷を媒介する新規の宿主レセプターであり、R. oryzaeおよび他のケカビ目種が感染時に結合し得る標的リガンドを提供する(Liu et al., J. Clin. Invest. 120:1914-24 (2010))。
本発明によれば、本願開示のケカビ目CotHポリペプチドおよび他のポリペプチドまたはこれらの機能性ポリペプチド断片をコードする核酸が提供される。
本明細書で使用するように、用語「ケカビ目CotH」はCotH族のタンパク質の亜族のCotHを指す。ケカビ目CotHタンパク質は、内皮細胞などの宿主細胞に付着して侵入する過程に関与するケカビ目の真菌によって発現される細胞表面タンパク質を含む。ケカビ目CotHタンパク質はケカビ目特有のタンパク質であるので、ケカビ目CotH核酸またはポリペプチドはその存在または不在によって、またはその発現の変化によって、ケカビ種感染(たとえばムコール菌症)を示すマーカーとしての機能を果たせる。したがって本発明は、真菌病の病状のスクリーニングおよび/またはその治療用の候補薬剤を開発するために使用できるケカビ目CotH核酸および/またはポリペプチドを含む。
本明細書においてケカビ目CotHポリペプチドまたはそのポリペプチド断片の修飾語句として使用する場合、用語「機能性」は、本願開示のCotH1、CotH2、およびCotH3の機能特性と類似の機能特性を示すポリペプチドを指す。たとえば、S. cerevisae内にCotH3またはCotH2を発現した場合、S. cerevisaeの細胞は、GRP78過剰発現内皮細胞またはCHO細胞に付着して侵入する。したがって、ケカビ目CotHの1つの機能は、向付着性および/または向侵入性である。他の態様では、機能性ケカビ目CotHポリペプチドまたはその断片は、GRP78タンパク質またはその変異体または断片に対するin vivoまたはin vitro結合を含むことができる。
核酸を当業者に公知の多様なタンパク質発現系に組み込む場合では、本願記載の核酸分子は発明タンパク質の作製に有用である。さらに、核酸分子またはその断片を容易に検出可能な置換基によって標識化し、所定サンプル内にある発明ケカビ目CotH遺伝子またはmRNA転写物の存在および/または量を分析するためのハイブリダイゼーションプローブとして使用できる。本願記載の核酸分子およびその断片はまた、本願記載の発明タンパク質をコードする遺伝子を増幅するためのPCR反応法におけるプライマーおよび/または鋳型としても有用である。
用語「核酸」はポリヌクレオチドとも称され、リボ核酸(RNA)またはデオキシリボ核酸(DNA)、プローブ、オリゴヌクレオチド、およびプライマーを含んでおり、一本鎖または二本鎖とすることができる。DNAは、相補DNA(cDNA)およびゲノムDNAのいずれかとすることができ、センス鎖またはアンチセンス鎖、またはその両方を表すことができる。核酸の例は、ケカビ目CotHポリペプチドをコードするRNA、cDNA、または単離ゲノムDNAである。このような核酸は、配列番号2、4、6、9、10、12〜14、17、19、21、23、25、27、29、または31に示すヌクレオチド配列と実質的に同一のヌクレオチド配列を含むが、これらに限定されない。通常、本発明のゲノム配列は、ケカビ目CotHをコードするエクソンの領域外に存在するプロモーター、エンハンサー、およびイントロンなどの調節領域を含む一方で、ケカビ目CotHをコードすることのない近位遺伝子を含まない。
DNA、RNA、ポリペプチド、またはタンパク質の修飾語句として用語「単離」および/または「精製」を本明細書および特許請求の範囲において使用しているが、当該用語の使用は、修飾対象のDNA、RNA、ポリペプチド、またはタンパク質が単離または精製形態となるよう人為的に作製され、したがって天然のin vivo細胞環境から分離されていることを意味する。
用語「実質的に同一のヌクレオチド配列」は、参照ポリヌクレオチドに対する十分な同一性を有しているため、中度にストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で当該参照ポリヌクレオチドとハイブリダイズするDNAを指す。一実施形態では、参照ヌクレオチド配列と実質的に同一のヌクレオチド配列を有するDNAは、配列番号2、4、6、9、10、12〜14、17、19、21、23、25、27、29、または31に示すものと実質的に同一のアミノ酸配列をコードする。他の実施形態では、参照ヌクレオチド配列と実質的に同一のヌクレオチド配列を有するDNAは、当該参照ヌクレオチド配列に対して少なくとも65%の同一性を有する。実質的に同一のヌクレオチド配列を有するDNAは、参照ヌクレオチド配列に対して少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、または少なくとも99%の同一性を有しうる。
本明細書に使用するように、核酸の「修飾」はまた、参照配列に対する1つ以上のヌクレオチド付加、欠失、または置換を含みうる。核酸修飾は、コード対象のアミノ酸配列が遺伝子コードの縮重を原因として変化することがない置換を含みうる。このような核酸修飾は、意図的に生じさせるか、または核酸複製時に突然変異として発生する変異に対応できる。
記載のケカビ目CotH配列の典型的な修飾は、ケカビ目種のA. corymbifera、A. elegans、A. rouxii、B. circina、B. multispora、C. brefeldii、C. angarensis、C. recurvatus、D. fulva、E. anomalus、H. elegans、H. assamensis、K. cordensis、M. amphibiorum、P. parasitica、P. agaricina、P. anomala、P. circinans、R. endophyticus、R. javensis、S. umbellata、S. megalocarpus、T. elegans、T. indicaeseudaticae、Z. californiensis、R. azygosporus、R. caespitosus、R. homothallicus、R. oryzae、R. microspores、R. microsporus var. rhizopodiformis、R. schipperae、またはこれら以外の本願開示のケカビ目種を含む他種の同族体に対応する配列を含む。PCR法などの当該技術分野に公知の方法、またはゲノム、cDNA、または発現ライブラリのスクリーニングによって、ケカビ目種の対応するケカビ目CotH配列を決定できる。
発明ケカビ目CotHの他の典型的な修飾は、ケカビ目CotH核酸配列のスプライス変異形態に対応できる。さらに、核酸配列の修飾は、たとえば塩基、糖、またはリン酸部分に対する修飾を含むか、または修飾ホスホジエステル結合を含む1つ以上の非天然ヌクレオチドを含みうる。さらに、核酸配列の修飾は、たとえば塩基、糖、またはリン酸部分に対する修飾または修飾ホスホジエステル結合を含む1つ以上の非天然ヌクレオチドを含みうる。このような修飾は、核酸分子の安定性を向上させるのに都合が良い。
本発明はまた、配列番号2、4、6、9、10、12〜14、17、19、21、23、25、27、29、または31に示す核酸と異なりはするが同一の表現型を有する核酸をも含む。表現型が類似の核酸はまた、機能的に同等の核酸とも称される。本明細書に使用するように、語句「機能的に同等の核酸」は、本願開示の核酸の生成物と同一の生成物を生成するように実質的に同一の方法で機能する、僅かかつ軽微の配列変異によって特徴付けられる核酸を含む。具体的には、機能的に同等の核酸は、本願開示の核酸がコードするポリペプチドと同一のポリペプチドまたは本願開示の核酸がコードするポリペプチドに対してアミノ酸の保存変異を有するポリペプチドをコードする。たとえば、保存変異は、非極性残基を他の非極性残基に置き換える置換、または荷電残基を同様の荷電残基に置き換える置換を含む。これら変異は、タンパク質の三次構造を実質的に改変することのないものとして当業者に認識されている変異を含む。
本発明はさらに、特定のハイブリダイゼーション条件下において遺伝子コードの縮重に起因して本発明の核酸と必ずしもハイブリダイズすることのない、ケカビ目CotHポリペプチドをコードする核酸を提供する。本明細書に使用されるように、用語「縮重」は、参照核酸と比較して少なくとも1つのヌクレオチドが異なるものの、当該参照核酸にコードされるアミノ酸と同一のアミノ酸をコードするコドンを指す。本発明のケカビ目CotHポリペプチドをコードする核酸は、配列番号1、3、5、11、15、16、18、20、22、24、26、28、30、または32に示すアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列をコードする核酸から構成されうる。
一実施形態では、本発明は、ケカビ目CotHポリペプチド、その免疫原性断片、またはその機能性断片を含む本願開示のポリペプチドをコードする単離核酸を提供する。本発明はまた、(a)配列番号1、3、5、11、15、16、18、20、22、24、26、28、30、または32に示すアミノ酸をコードする核酸、(b)低度、適度、または高度にストリンジェントな条件下で(a)の核酸とハイブリダイズし、生物活性を有するケカビ目CotHポリペプチドを隣接してコードする核酸、または(c)生物活性を有するケカビ目CotHポリペプチドをコードしかつ(a)または(b)のいずれかの核酸に対して縮重している核酸から選択される核酸を含む、ケカビ目CotHポリペプチド、その免疫原性断片、またはその機能性断片をコードする単離核酸を提供する。一態様では、本発明の核酸は、高度にストリンジェントな条件下においてハイブリダイズする。
ハイブリダイゼーションは、染色体DNAにおいて自然に形成される結合と類似の水素結合を介して形成される核酸の相補鎖間の結合(たとえばセンス鎖/アンチセンス鎖またはプローブ/標的核酸)を指す。当業者であれば、所定プローブを標的DNAに対してハイブリダイズさせるために用いるストリンジェントレベルを容易に変化させられる。
本明細書では、ポリ核酸のハイブリッド体が安定する条件を指すために語句「ストリンジェントなハイブリダイゼーション」を使用している。当業者に公知のように、ハイブリッド体の安定性は、当該ハイブリッド体の融解温度(Tm)に反映される。通常、ハイブリッド体の安定性は、ナトリウムイオン濃度および温度の関数となる。典型的には、ハイブリダイゼーション反応は低ストリンジェントの条件下で行われ、変動はするが高度なストリンジェントの条件下で洗浄が行われる。典型的には、ハイブリダイゼーション反応は低ストリンジェントの条件下で行われ、その後によって高ストリンジェントの条件に変化させて洗浄が行われる。ハイブリダイゼーション時の基準ストリンジェントレベルは、こうした洗浄の条件に関係する。
本明細書に使用するように、語句「中度にストリンジェントなハイブリダイゼーション」は、標的核酸が相補的核酸を結合できる条件を指す。ハイブリダイズした核酸は、通常、少なくとも60%、少なくとも75%、または少なくとも85%の同一性を有することになるか、または少なくとも90%の同一性を有することになる。中度にストリンジェントな条件は、42ECの50%ホルムアミド、5×Denhart溶液、5×SSPE、0.2%SDS中においてハイブリダイゼーションを行い、その後に42ECの2×SSPE、0.2%SDS中において洗浄することと同等の条件である。
語句「高度にストリンジェントなハイブリダイゼーション」は、65ECの0.018M NaCl中において安定したハイブリッド体を形成する核酸配列のみがハイブリダイズできる条件を指す。たとえば、ハイブリッド体が65ECの0.018M NaCl中において不安定となる場合、本明細書において意図するように高度にストリンジェントな条件下では不安定となる。たとえば、42ECの50%ホルムアミド、5×Denhart溶液、5×SSPE、0.2%SDS中においてハイブリダイゼーションを行い、その後に65ECの0.1×SSPE、0.1%SDS中において洗浄することによって、高度にストリンジェントな条件を提供できる。
語句「低度にストリンジェントなハイブリダイゼーション」は、22ECの10%ホルムアミド、5×Denhart溶液、6×SSPE、0.2%SDS中でハイブリダイゼーションを行い、その後に37ECの1×SSPE、0.2%SDS中で洗浄するのと同等の条件を指す。Denhart溶液は、1% Ficoll、1%ポリビニルピロリドン、および1%ウシ血清アルブミン(BSA)を含む。20×SSPE(塩化ナトリウム、リン酸ナトリウム、エチレンジアミド四酢酸(EDTA))は、3M塩化ナトリウム、0.2Mリン酸ナトリウム、および0.025 M(EDTA)を含む。中度および高度にストリンジェントなハイブリダイゼーション用の他の好適なバッファおよび条件は当業者に周知であり、たとえばSambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratories, Cold Spring Harbor, N.Y., 1989、およびAusubel et al., Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley and Sons, Baltimore, MD (1999)に記載されている。ポリペプチドをコードする核酸は、配列番号2、4、6、9、10、12〜14、17、19、21、23、25、27、29、または31に示す核酸配列の実質的に全体または大部分(たとえば、典型的には15〜30個のヌクレオチド)に対して、中度または高度にストリンジェントな条件下でハイブリダイズする。
本発明はまた、中度にストリンジェントな条件下でケカビ目CotH核酸分子(たとえば、配列番号2、4、6、9、10、12〜14、17、19、21、23、25、27、29、または31に示す核酸分子)とハイブリダイズするケカビ目CotHヌクレオチド配列の修飾をも提供する。また、ケカビ目CotHヌクレオチド配列に対して少なくとも65%の同一性を有する配列修飾も提供する。本発明はまた、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、または少なくとも99%の同一性を有するケカビ目CotHヌクレオチド配列の修飾も提供する。本発明はまた、修飾核酸にコードされるアミノ酸配列が配列番号1、3、5、11、15、16、18、20、22、24、26、28、30、または32に示すアミノ酸配列に対して少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、または少なくとも99%の同一性を有する、ケカビ目CotHヌクレオチド配列の修飾も提供する。
「相同性」または「同一性」または「類似性」は、2つのペプチド間または2つの核酸分子間の配列類似性を指す。相同性は、比較することを目的としてアラインメントが行われうる各配列内の位置を比較することによって決定できる。比較した配列内の位置が同一の塩基またはアミノ酸によって占められている場合、核酸分子は当該位置において互いに相同する。配列間の相同性の程度は、配列間に共通する適合または相同位置の個数の関数となる。「非関連性」または「非相同性」配列は、本発明の配列の1つに対する同一性が40%未満であるか、または25%未満である。
ポリヌクレオチドまたはポリヌクレオチド領域(または、ポリペプチドまたはポリペプチド領域)が他の配列に対して一定のパーセンテージ(たとえば、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、98%、または99%)の「配列同一性」を有しているということは、これら2つの配列をアラインメントして比較した場合、当該一定のパーセンテージの塩基(またはアミノ酸)が同一であることを意味している。当該技術分野に公知のソフトウェアプログラム(たとえば、前掲したAusubel et al.に記載のソフトウェアプログラム)を用いて、アラインメントおよびパーセント相同性または配列同一性を決定することができる。アラインメントには初期設定パラメータを使用することが好ましい。アラインメントプログラムの1つは、初期設定パラメータを用いるBLASTである。具体的には、プログラムは、次の初期設定パラメータを用いるBLASTNおよびBLASTPである:遺伝子コード=標準;フィルター=無し;ストランド=一本鎖および二本鎖;カットオフ値=60;期待値=10;マトリクス=BLOSUM62;記述=50配列;分類=高得点に応じる;データベース=非冗長GenBank+EMBL+DDBJ+PDB+GenBank CDS翻訳+SwissProtein+SPupdate+PIR。プログラムの詳細は国立生物工学情報センターに公開されている。生物学的に同等のポリヌクレオチドは、特定のパーセント相同性を有し、かつ同一または類似の生物活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドである。
ケカビ目CotHポリペプチドをコードする核酸を単離する1つの手段は、天然核酸プローブまたは当該技術分野に周知の方法によって人為的に設計した核酸プローブを用いてcDNAライブラリまたはゲノムライブラリを精査することである。この目的に関して、ケカビ目CotH遺伝子由来の核酸プローブは特に有用である。当該技術分野に周知の方法を用いて任意の数のケカビ目種源から相補的ゲノムDNA、cDNA、またはRNAを取得するため、またはcDNAまたはゲノムライブラリのスクリーニングを行って関連cDNAまたはゲノムクローンを単離するために、ケカビ目CotHポリペプチドをコードするDNAおよびcDNA分子を使用できる(たとえば、前掲したSambrook et al., 1989:前掲したAusubel et al., 1999参照)。
本発明はさらに、配列番号2、4、6、9、10、12〜14、17、19、21、23、25、27、29、または31に示す連続する15〜300個のヌクレオチドまたはそのアンチセンス鎖を含むケカビ目CotHオリゴヌクレオチドを提供する。本明細書に使用するように、用語「オリゴヌクレオチド」は、参照ヌクレオチド配列内の連続する少なくとも15個のヌクレオチドを含む核酸分子を指す。オリゴヌクレオチドが指す核酸分子は、参照ヌクレオチド配列内の連続する少なくとも16個、17個、18個、19個、20個または少なくとも25個のヌクレオチドを含むことができ、多くの場合では参照ヌクレオチド配列内の連続する少なくとも30個、40個、50個、60個、70個、80個、90個、100個、125個、150個、175個、200個、225個、250個、275個、300個、325個、最大で350個のヌクレオチドを含む。参照ヌクレオチド配列は、センス鎖またはアンチセンス鎖とすることができる。したがって、本発明の一態様では、CotHオリゴヌクレオチドは、核酸配列ATGAAATTATCTATTATATCCGCTGCC(配列番号33)、GCTGGGAATATAATTGTCATCGA(配列番号34)、GATGACAATTATATTCCCAGC(配列番号35)、GAGTAGACGTAATTAGATCCAA(配列番号36)、AAACGTACCTGCTGACCGAATC(配列番号37)、または本願開示のオリゴヌクレオチドの核酸配列を含みうる。
参照ケカビ目CotHヌクレオチド配列内の連続する少なくとも15個のヌクレオチドを含む本発明のケカビ目CotHオリゴヌクレオチドは、中度にストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下においてケカビ目CotHとハイブリダイズできる。したがって、たとえば、サンプル内のケカビ目CotHのDNAまたはRNAを検出するためのプローブ、およびこれらDNAまたはRNAのスプライス変異を検出するためのプローブとしての使用;配列決定プライマーまたはPCR用プライマーとしての使用;ケカビ目CotHのRNAの細胞内転写を阻害するアンチセンス試薬としての使用;または、ケカビ目CotH核酸分子とのハイブリダイゼーションが所望される当業者に公知の他の用途に都合良く用いることができる。
本発明のケカビ目CotHの単離核酸分子は、多様な診断および治療用途に使用できる。たとえば、本発明のケカビ目CotHの単離核酸分子は、上述のようにプローブとして使用でき;ケカビ目CotHポリペプチドの組み換え発現用の鋳型として使用可能でき;または、ケカビ目CotHを結合する細胞分子を特定するためのスクリーニング分析に使用できる。
本発明のケカビ目CotH核酸分子を作製する他の有用な方法は、PCR法およびケカビ目CotHオリゴヌクレオチドを用いた当該核酸分子の増幅工程を含み、適宜、ゲル電気泳動法による増幅結果物の精製工程を含む。任意の所望ヌクレオチド境界を有するケカビ目CotH核酸分子を作製するために、PCR法またはRT−PCR法のいずれかを使用できる。また、1つ以上の付加、欠失、または置換を含む適当なオリゴヌクレオチドプライマーを選択することによって、核酸配列に対する所望の修飾を導入できる。このような核酸分子は、対象の遺伝子またはmRNAの単一コピーといった程度の少量の開始材料、または対象の細胞、組織、または種から指数関数的に増幅できる。
したがって本発明は、サンプル内のケカビ目CotH核酸を検出する方法を提供する。サンプル内のケカビ目CotH核酸を検出する方法は、要求に応じて定性または定量量法のいずれにすることもできる。たとえば、要求に応じて、ハイブリダイゼーションに使用する分析フォーマットおよびプローブまたは用途に選択されるプライマー組に基づいてケカビ目CotHの存在、不在、完全性、または構造を決定できる。
ケカビ目CotHの単離核酸分子に対する特定のハイブリダイゼーションに基づいてケカビ目CotH核酸を検出する有用な分析法は当該技術分野に周知であり、たとえば、使用する分析フォーマットに応じて、核酸分子内の改変染色体の位置、改変遺伝子コピーの数、およびRNAの存在量を検出するために使用できるin situハイブリダイゼーションを含む。他のハイブリダイゼーション分析法は、たとえば、異なるRNAのスプライス変異体の存在量および完全性を決定するのに使用できるノーザンブロット法およびリボヌクレアーゼ保護分析法と、DNAのコピー数および完全性を決定するのに使用できるサザンブロット法とを含む。放射性同位体、蛍光色素、化学発光マーカー、ビオチン、または分析方法によって検出できる当該技術分野に公知の検出可能部分などの任意の好適な検出可能部分を用いて、ケカビ目CotHのハイブリダイゼーション用プローブを標識化することができる。
2つ以上のケカビ目CotHオリゴヌクレオチドを含むケカビ目CotH核酸の増幅に基づいてケカビ目CotH核酸を検出する有用な分析法も当該技術分野に周知であり、たとえば、定性型また定量型のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法;逆転写PCR(RT−PCR)法;非変性ゲル電気泳動における電気泳動移動度の変化をもたらす一本鎖DNAの二次構造上の差異に基づいて、DNA内の単一点突然変異を容易に特定できる一本鎖高次構造多型(SSCP)分析法;および、DNA内の突然変異が電気泳動ゲル上の変性タンパク質生成物によって決定される、タンパク質トランケーション試験などの共役PCR法、転写分析法、および翻訳分析法を含む。さらに、増幅したケカビ目CotHの核酸は、突然変異およびその突然変異多発領域を検出するようにアラインメントが行われることができる。また、これら突然変異を特定する大規模のサンプルスクリーニング用の特定分析法を開発することができる。
本発明は、本発明のケカビ目CotH核酸にコードされるケカビ目CotHの単離ポリペプチド、その免疫原性断片、または機能性断片をさらに提供する。たとえば、本発明は、配列番号1、3、5、11、15、16、18、20、22、24、26、28、30、または32に示すアミノ酸配列と同一または実質的に同一のアミノ酸配列を有するポリペプチドを提供する。また、配列番号2、4、6、9、10、12〜14、17、19、21、23、25、27、29、または31に示すヌクレオチド配列と同一または実質的に同一のヌクレオチド配列を有するヌクレオチド配列にコードされるケカビ目CotHポリペプチドも提供する。
本明細書に使用するように、用語「実質的に同一のアミノ酸配列」は、参照アミノ酸配列に対して少なくとも65%の配列同一性を有し、当該参照アミノ酸配列によって定義されるタンパク質に特有の機能活性および生物活性を同等に保持するアミノ酸配列を指す。一態様では、実質的に同一のアミノ酸配列を有するタンパク質は、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、または少なくとも99%の同一性を有する。一方で、レベル未満の配列同一性を有し、スプライス変異体として現れるポリペプチドまたはコード核酸、または、アミノ酸の同類置換または縮重コドンの置換によって修飾されるポリペプチドについても本発明の範囲に含まれるものと理解される。
また、用語「ケカビ目CotH」には、ケカビ目CotHの機能性断片またはポリペプチド類似体も含まれている。用語「機能性断片」は、ケカビ目CotH全長タンパク質の一部が、本明細書に定義するように対応全長タンパク質に特有の生物活性を有していることを条件として、当該ケカビ目CotH全長タンパク質の一部であるペプチド断片を指す。たとえば、本発明の態様では、本発明の機能性断片は、GRP78タンパク質と結合することができる。または、より具体的には、本発明の機能性断片は、上皮細胞が発現するGRP78タンパク質と結合することができる。したがって、本発明はまた、本明細書に記載の生物学的検定法などの結合および通常の方法を用いて特定できる発明ケカビ目CotHタンパク質の機能性断片も提供する。
本明細書で使用するように、用語「ポリペプチド」は、ケカビ目CotHに関連して使用する場合、2つ以上のアミノ酸からなるペプチドまたはポリペプチドを指すように意図している。用語「ポリペプチド類似体」は、本明細書に明確に記載されている、1つ以上の残基が機能的に類似する残基によって同類置換され、本願開示のケカビ目CotHの機能を模倣する能を示す配列と実質的に同一のアミノ酸残基配列を有する任意のポリペプチドを含む。ケカビ目CotHポリペプチドの「修飾」はまた、ケカビ目CotHポリペプチドのアミノ酸配列の同類置換を含む。コードされるアミノ酸の同類置換は、たとえば、次のグループに属するアミノ酸を含む:(1)非極性アミノ酸(Gly、Ala、Val、Leu、およびIle);(2)中性アミノ酸(Cys、Met、Ser、Thr、Asn、およびGln);(3)酸性アミノ酸(AspおよびGlu);(4)塩基性アミノ酸(Lys、Arg、およびHis);および(5)芳香族アミノ酸(Phe、Trp、Tyr、およびHis)。他の軽微な修飾は、本願開示のケカビ目CotHポリペプチドの一部または全部の機能が保持されているかぎり、ケカビ目CotHポリペプチドに含まれる。
本発明の機能性断片またはポリペプチド類似体のアミノ酸長は、本発明のケカビ目CotHタンパク質配列の約5つのアミノ酸から全長配列の範囲とすることができる。特定の実施形態では、アミノ酸長は、たとえば、アミノ酸長にして少なくとも約10個、少なくとも約15個、少なくとも約20個、少なくとも約25個、少なくとも約30個、少なくとも約35個、少なくとも約40個、少なくとも約45個、少なくとも約50個、少なくとも約75個、少なくとも約100個、少なくとも約150個、少なくとも約200個、少なくとも約250個以上のアミノ酸から最大でケカビ目CotHタンパク質配列の全長までを含む。機能性断片は、配列番号1、3、5、11、15、16、18、20、22、24、26、28、30、または32に示す連続するアミノ酸配列を含む、ケカビ目CotHポリペプチドの連続するアミノ酸配列とすることができる。
他の実施形態では、本発明は、本願開示のケカビ目CotHポリペプチドの免疫原性断片を提供する。本発明の免疫原性断片は、当該技術分野に周知の実験的方法を用いて特定できる免疫原性エピトープを含むことができる。さらに、免疫原性エピトープを特定するために、計算モデルを使用することもできる。たとえば、Tong et al. (Brief Bioinform. 8(2):96-108 (2006)) and Ponomarenko et al. (2008) “B-cell epitope prediction,” in Structural Bioinformatics, Bourne PE and Gu J (eds) Wiley-Liss; 2 edition, pgs. 849-879参照。無傷タンパク質に対して発生する抗体に対する反応性を有するエピトープを特定後、各位置のアミノ酸置換および/またはC末端および/またはN末端伸長のアミノ酸置換によって、ポリペプチドを特異性について試験できる。ポリペプチドを有するこのようなエピトープは少なくとも6個〜14個のアミノ酸残基を含み、たとえば、当該技術分野に周知の方法を用いたポリペプチド合成または既存のタンパク質を断片化することによって作製できる。したがって、本発明の一部の実施形態では、本願開示のケカビ目CotHポリペプチドの免疫原性断片は、アミノ酸配列GAGKKHNNAKQSWNW(配列番号39)またはMGQTNDGAYRDPTDNNK(配列番号40)を含みうる。
本発明に従って免疫原として使用する分子に関しては、免疫原性ワクチンとしての特質を失うことなくタンパク質のトランケーションまたは断片化できることを当業者は理解するであろう。たとえば、分子の免疫原性としての機能性を保存しつつC末端側からトランケーションすることによって、N末端断片を作製するようタンパク質のトランケーションすることができる。同様に、分子の免疫原性としての機能性を保存しつつN末端側からトランケーションすることによって、C末端断片を作製できる。本願の教示およびガイダンスに従う他の修飾は、天然タンパク質に関して本願に記載する治療上有用な特性を実現する上記以外のポリペプチドの機能性断片、免疫原性断片、変異体、これらの類似体または誘導体を作製するように、本発明に従って作成できる。
したがって、用語「免疫原性断片」は、本明細書において使用するように、T細胞および/またはB細胞の抗原レセプターに認識されるタンパク質の一部を指す。通常、免疫原性部分は、本願に開示のCotHポリペプチドの少なくとも5個、少なくとも6個、少なくとも6個、少なくとも7個、少なくとも8個、少なくとも9個、少なくとも10個、少なくとも11個、少なくとも12個、少なくとも13個、少なくとも14個、少なくとも15個、少なくとも16個、少なくとも17個、少なくとも18個、少なくとも18個、少なくとも19個、少なくとも20個、少なくとも25個、少なくとも30個、少なくとも50個、または少なくとも100個のアミノ酸残基を含む。または、免疫原性部分は、本願開示のCotHポリペプチドの最大で5個、最大で6個、最大で7個、最大で8個、最大で9個、最大で10個、最大で11個、最大で12個、最大で13個、最大で14個、最大で15個、最大で16個、最大で17個、最大で18個、最大で18個、最大で19個、最大で20個、最大で25個、最大で30個、最大で50個、または最大で100個のアミノ酸残基を含むことができる。一部の態様では、免疫原性タンパク質は、Nおよび/C末端の小さい断片(たとえば、5個〜30個のアミノ酸、好ましくは10個〜25個のアミノ酸)を含むことができる。
ポリペプチドの修飾はまた、修飾ポリペプチドがケカビ目CotHの生物活性を示すことを条件として、誘導体、類似体、およびこれらの機能模倣体を含むこともできる。たとえば、誘導体は、アルキル化、アシル化、カルバミル化、ヨウ素化、またはポリペプチドの誘導体化を伴う任意の修飾などのポリペプチドの化学修飾を含むことができる。このような誘導体化分子は、たとえば、遊離アミノ基が誘導体化されてアミン塩酸塩、p−トルエンスルホニル基、カルボベンゾキシ基、t−ブチルオキシカルボニル基、クロロアセチル基、またはホルミル基を形成する分子を含む。遊離カルボキシル基は、塩、メチルおよびエチルエーテル、または他の種類のエーテルまたはヒドラジドを形成するように誘導体化されることができる。遊離ヒドロキシル基は、O−アシルまたはO−アルキル誘導体を形成するように誘導体化されることができる。ヒスチジンのイミダゾール窒素は、N−im−ベンジルヒスチジンを形成するように誘導体化されることができる。また、20個の標準アミノ酸(たとえば、4−ヒドロキシプロリン、5−ヒドロキシリジン、3−メチルヒスチジン、ホモセリン、オルニチン、またはカルボキシグルタミン酸塩)の天然アミノ酸誘導体を1つ以上含むペプチドも誘導体または類似体として含まれる。ペプチドは、ペプチド結合によって結合されていないアミノ酸を含むことができる。本発明のポリペプチドはまた、ケカビ目CotHの活性が保持されることを条件として、本願に示すポリペプチドの配列に対して1つ以上の残基の付加および/または欠失を有する任意のポリペプチドを含む。
本発明は、ケカビ目CotHの単離ポリペプチド、その免疫原生断片、またはその機能性断片を提供する。本発明のケカビ目CotHポリペプチドは、当該技術分野に周知の多様な方法(たとえば、組み換え発現系、沈殿クロマトグラフィー法、ゲル濾過クロマトグラフィー法、イオン交換クロマトグラフィー法、逆相クロマトグラフィー法、および親和性クロマトグラフィー法など)によって単離できる。他の周知の方法は、Deutscher et al., Guide to Protein Purification: Methods in Enzymology, Vol. 182, (Academic Press, (1990))に記載されている。また代替的に、本発明の単離ポリペプチドは周知の組み換え方法(たとえば、前掲したSambrook et al.、前掲したAusubel et al.を1999参照)を用いても取得できる。本発明のポリペプチドの生化学的精製の方法および条件は当業者によって選択でき、さらには免疫分析または機能分析によって観察される精製を行うことによって選択できる。
本発明のポリペプチドの調整手段の例は、本願記載のように、ケカビ目CotHをコードする核酸を当該技術分野に周知の方法を用いて好適な宿主細胞内(細菌細胞、酵母細胞、卵母細胞などの両生類細胞、または哺乳類細胞など)に発現させ、周知の精製方法を再度用いて発現ポリペプチドを回収することである。本発明のポリペプチドは、本願記載の発現ベクターを用いて形質転換を行った細胞から直接的に単離できる。また、組み換え発現ポリペプチドは、適当な親和性標識(グルタチオン S-トランスフェラーゼ(GST)またはポリHisなど)を含む融合タンパク質として発現でき、かつアフィニティー精製可能でもある。また、本発明のポリペプチド、その生物学的機能を有する断片、およびその機能性同等物は、化学合成法によって作製できる。たとえば、合成ポリペプチドは、Applied Biosystems社(Foster City, CA)のModel 430aまたは431a自動ペプチド合成器を製造者提供の化学反応を採用して用いることによって作製できる。
本発明はまた、許容可能な担体と、ケカビ目CotHの成熟タンパク質またはその機能性ポリペプチドの断片を単離して精製した任意のものとを単独または組み合わせて含む組成物を提供する。これらのポリペプチドまたはタンパク質は、天然の原料から組み換え誘導化、化学合成化、または化学精製化できる。本明細書に使用するように、用語「許容可能な担体」は、リン酸緩衝生理食塩溶液、水、油および水エマルジョンなどのエマルジョン、および多様な種類の湿潤剤などの標準薬物担体のうち任意のものを含む。
したがって本発明は、薬学上許容可能な担体、本願開示のケカビ目CotHポリペプチド、その免疫原性断片、またはその機能性断片からなる一群から選択される化合物、本願開示のアンチセンス核酸、または本願開示の抗ケカビ目CotH抗体を含む医薬組成物を提供する。本発明はさらに、ムコール菌症に罹患し、その治療または予防を必要としている対象に対して、薬学上許容可能な担体と本願開示のケカビ目CotHポリペプチド、その免疫原性断片、またはその機能性断片、本願開示のアンチセンス核酸、または本願開示の抗ケカビ目CotH抗体からなる一群から選択される化合物とを含む医薬組成物を治療上有効な量投与して、ムコール菌症を治療または予防する方法を提供する。本発明はさらに、ムコール菌症に罹患し、その治療または予防を必要としている対象に対して本願開示のワクチン組成物を治療上有効な量投与することによってムコール菌症を治療または予防する方法を提供する。
また、ケカビ目CotHポリペプチドをコードするmRNAの全長または任意の一部と特異的に結合して、当該mRNAの翻訳を防止できる配列を有するアンチセンス核酸も提供する。アンチセンス核酸は、ケカビ目CotHポリペプチドをコードするcDNAの配列の任意の一部分と特異的に結合できる配列を有することができる。本明細書に使用するように、語句「特異的に結合」は、相補的アミノ酸配列を認識し、相補的塩基対との間に水素結合を形成して当該相補的アミノ酸配列と二重螺旋セグメントを形成することを可能にする核酸配列の能力を含む。アンチセンス核酸の例は、ヌクレオチドの化学類似体を含むアンチセンス核酸である。
本発明は、ケカビ目CotHのアンチセンス核酸を組み換え発現するか、またはケカビ目CotHポリペプチドをコードするmRNAの翻訳を抑制するアンチセンス核酸組成物(以後SANCと称す)を利用して、ケカビ目CotHポリペプチドの発現レベルを調節する手段を提供する。合成オリゴヌクレオチド、または、mRNAを認識して特異的に結合するよう設計された他のアンチセンス核酸試薬構造は、配列番号2、4、6、9、10、12〜14、17、19、21、23、25、27、29、または31に示す核酸配列を含むケカビ目CotHのコード鎖の全長または一部を相補するように構築される。
SANCは、注射による対象への投与のために血流中で安定するか、または実験室の細胞培養条件で安定するように設計される。SANCは、その物理的および化学的特性によって細胞質に侵入するために細胞膜を通過できるように設計される。これにより、たとえば、SANCの疎水性を有する小さな化学構造を設計するか、またはSANCを認識して細胞内へ輸送する細胞の特異的輸送系を利用することによって、SANCが細胞膜を通過することを可能にする。さらに、選択する細胞集団内のみのSANCと結合してこれを吸収する特異的な細胞取り込み機構によって認識されるようにSANCを標的化することによって、SANCを特定の選択細胞集団にのみ投与されるよう設計できる。具体的な実施形態では、SANCはアンチセンスオリゴヌクレオチドである。
たとえば、SANCは、上述のように、特定の種類の細胞のみに見られるレセプターと結合するよう設計されてもよい。またSANCは、配列番号2、4、6、9、10、12〜14、17、19、21、23、25、27、29、または31に示す配列内に含まれる配列に対応できる標的mRNA配列を認識し、これと特異的に結合するよう設計される。SANCは、標的mRNA配列と結合して、たとえばリボヌクレアーゼIによる消化によって当該標的mRNAの分解を誘発するか、または翻訳調節因子またはリボソームの結合に対する干渉または他の化学構造(当該標的mRNAを分解するか、または化学的に修飾するリボソーム配列または反応性化学基)の含有を介してmRNAの標的配列の翻訳を阻害することによって、当該標的mRNA配列を不活性化するよう設計される。SANCは、mRNAの標的に対して向けられた場合、このような特性を有することができることが示されている(Cohen et al., TIPS, 10:435 (1989) and Weintraub, Sci. American, January (1990), pp.40参照)。
また本願では、細胞内に侵入し、ケカビ目CotHポリペプチドをコードするmRNAの翻訳を抑制するように当該mRNAと特異的に結合することによって当該ケカビ目CotHポリペプチドの発現を低下させるのに効果的な量の本発明のアンチセンス核酸と、細胞膜を通過することのできる許容可能な疎水性担体とを含む組成物も提供する。好適な疎水性担体は、たとえば、米国特許第5,334,761号、第4,889,953号、および第4,897,355号などに記載されている。細胞膜を通過することのできる許容可能な疎水性担体は、選択される種類の細胞に特有のレセプターと結合することによって、当該細胞内に取り込まれる構造を含んでいてもよい。
アンチセンス核酸組成物は、本発明のポリペプチドをコードするmRNAの翻訳を阻害するのに有用である。合成オリゴヌクレオチドまたはそれ以外のアンチセンス化学構造は、ケカビ目CotHポリペプチドをコードするmRNAと結合し、当該mRNAの翻訳を阻害するよう設計されるとともに、ケカビ目CotH関連の遺伝子が組織サンプルまたは対象内で発現することを阻害する組成物として有用である。
また本発明は、ケカビ目CotH核酸を含む細胞をケカビ目CotHの発現に好適な条件下で培養させることによって、ケカビ目CotHポリペプチドを発現させる方法を提供する。したがって、ケカビ目CotHをコードする核酸配列を好適な細胞内で発現させることによって、本発明のケカビ目CotHを組み換え発現する方法が提供される。本願に記載のケカビ目CotHを作製するのに好適な組み換えDNA発現系は当該技術分野に周知である(たとえば、前掲したAusubel et al., 1999参照)。たとえば、上述の核酸配列をさらなる操作のためにベクター内に組み入れることができる。本明細書に使用するように、ベクターは、異種DNAの発現または複製を実現するための細胞内への導入に使用する個別要素を含む組み換えDNAまたはRNAプラスミドまたはウイルスを指す。
また本発明は、本発明のケカビ目CotHの核酸を含むベクターを提供する。好適な発現ベクターは当該技術分野に周知であり、調節配列または要素(調節配列または要素と動作可能に結合している核酸の発現を調節可能なプロモーター領域またはエンハンサー領域)と作動可能に結合している核酸を発現可能なベクターを含む。適当な発現ベクターは、真核細胞および/または原核細胞内で複製可能なベクター、およびエピソーム性を保持するベクターまたは宿主細胞のゲノム内に組み込み可能なベクターを含む。
用語「ベクター」、「クローニングベクター」、および「発現ベクター」は、核酸を宿主細胞内に導入できる媒体を指す。核酸を増殖させるため、核酸を含ませるため、またはコード配列をポリペプチド発現するためにベクターを使用できる。多種多様のベクターが当該技術分野に公知であり、たとえば、プラスミド、ファージ、およびウイルスが含まれる。典型的なベクターは、たとえば、前掲したSambrook et al.;前掲したAusubel et al.に記載されている。
プロモーターまたはエンハンサーは、調節の性質に応じて構成型または調節型とすることとができる。調節配列または調節要素を本発明の核酸と作動可能に結合させて、本発明の核酸と調節配列との物理的および機能的関係によって本発明の核酸の転写を可能としている。
原核細胞または真核細胞内での発現に好適なベクターは当業者に周知である(たとえば前掲したAusubel et al., 1999参照)。真核細胞内での発現に有用なベクターは、たとえば、SV40早期プロモーター、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、マウス乳癌ウイルス(MMTV)ステロイド誘発性プロモーター、およびモロニーマウス白血病ウイルス(MMLV)プロモーターなどを含む調節要素を含む。本発明のベクターは、ケカビ目CotH核酸分子のサブクローニングおよび増幅、およびケカビ目CotHポリペプチドを組み換え発現するのに有用である。本発明のベクターは、たとえば、バクテリオファージ、バキュロウイルス、またはレトロウイルスなどのウイルスベクターと、コスミドまたはプラスミドと、巨大な核酸分子をサブクローニングする場合には特に細菌人工染色体ベクター(BAC)および酵母人工染色体(YAC)ベクターとを含む。このようなベクターは市販化されており、その使用は当該技術分野に周知である。当業者は、特定の宿主細胞内の発現に適当なプロモーターを知るかまたは容易に決定できる。
本発明はさらに、本発明のケカビ目CotH核酸を含む組み換え細胞を提供する。組み換え細胞は、ケカビ目CotH核酸分子を含むベクターを宿主細胞内へ導入することによって作製できる。組み換え細胞は、トランスダクション、トランスフェクション、または、それ以外の遺伝子組み換えが行われている。カビ目CotHの組み換え分子を発現させるために使用できる典型的な宿主細胞は、哺乳類の一次細胞;COS細胞、CHO細胞、HeLa細胞、NIH3T3細胞、HEK 293細胞、およびPC12細胞などの哺乳類の株化細胞;アフリカツメガエル胚および卵母細胞などの両生類細胞;および、他の脊椎動物細胞を含む。典型的な宿主細胞はまた、ショウジョウバエなどの昆虫細胞、Saccharomyces cerevisiae、Saccharomyces pombe、またはPichia pastorisなどの酵母細胞、およびEscherichia coliなどの原核細胞を含む。
一実施形態では、本発明は、免疫原生量のケカビ目CotHポリペプチド、その免疫原性断片、または当該ケカビ目CotHポリペプチドの変異体を有するワクチン組成物を提供する。またワクチン組成物はアジュバントを含むことができる。本発明のワクチン組成物の製剤は、ケカビ目CotHポリペプチドに対する特異的な液性(中和抗体)およびエフェクター細胞性免疫反応の両方を刺激して対象内に感染防御免疫を誘起するのに効果的である。本発明のワクチン組成物はまた、たとえばムコール菌症などの真菌感染症の治療または予防にも使用される。
本発明のワクチンは、免疫防御量のケカビ目CotHポリペプチド抗原を含み、当該技術分野に周知の方法によって調整される。通常、ワクチンの調整は、たとえば、M. F. Powell and M. J. Newman, eds., "Vaccine Design (the subunit and adjuvant approach),” Plenum Press (1995);A. Robinson, M. Cranage, and M. Hudson, eds., “Vaccine Protocols (Methods in Molecular Medicine),” Humana Press (2003);および、D. Ohagan, ed., “Vaccine Ajuvants: Preparation Methods and Research Protocols (Methods in Molecular Medicine),” Humana Press (2000)に記載されている。
ケカビ目CotHポリペプチド、および、そのペプチド断片または変異体は、たとえばGeysen et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81: 3998 (1984)に記載される当該技術分野に公知の方法を用いて特定できる免疫原性エピトープを含む。簡潔には、重複している数百個の短ペプチド(たとえば、ヘキサペプチド)は、標的ポリペプチド(すなわち、ケカビ目CotH)のアミノ酸配列全体をカバーして合成できる。一方でペプチドはペプチド合成に用いられる固相支持体に付着された状態のままであり、それから多様な抗血清を用いたELISA方法によって抗原性のために試験される。ケカビ目CotHタンパク質に対する抗血清は、公知の手法(Kohler and Milstein, Nature 256: 495-499 (1975))によって取得できるとともに、抗原性を低減するようにヒト化されるか(たとえば、米国特許第5,693,762号参照)、または非再配列のヒト免疫グロブリン遺伝子を残して遺伝子導入マウス内で作製される(たとえば、米国特許第5,877,397号参照)ことができる。無傷タンパク質への抗体に対して反応性を示すヘキサペプチドを有するエピトープを一度特定すると、ペプチドに対して、各位のアミノ酸置換および/またはCおよび/またはN末端伸長による特異性をさらに試験できる。このようなポリペプチドを有するエピトープは、一般的に少なくとも6個〜14個のアミノ酸残基を含み、たとえば、当該技術分野に周知の方法を用いたポリペプチドの合成またはケカビ目CotHポリペプチドの断片化によって作製できる。本発明に従って免疫原として使用する分子に関しては、免疫原生ワクチンとしての特質を失うことなくケカビ目CotHポリペプチドにトランケーションまたは断片化できることが当業者に理解されるであろう。たとえば、ケカビ目CotHポリペプチドに対して、N末端断片を作製するように、分子の免疫原としての特質を保持しつつC末端側からトランケーションすることができる。同様に、分子の免疫原としての特質を保持しつつN末端側からトランケーションすることによって、C末端断片を作製できる。本願の教示およびガイダンスに応じて行われる他の修飾については、天然タンパク質に関して本願に記載の治療上有用な特性を実現するケカビ目CotHポリペプチドの他の機能性断片、免疫原生断片、その変異体、類似体、または誘導体を作製するように、本発明に準じて行える。
本発明のワクチン組成物は従来の医薬担体をさらに含む。好適な担体は当業者に周知である。ワクチン組成物は、単位用量の液体の状態で調整されうる。他の任意の成分(たとえば、医薬品等級の安定剤、緩衝剤、防腐剤、および賦形剤など)は、当業者によって容易に選択できる。しかし、組成物を凍結乾燥させ、使用前に元に戻すこともできる。またはその代わりに、選択する投与様式(たとえば、鼻内への注入、経口投与など)に適当な任意の方法でワクチン組成物を調整することもできる。薬学上許容可能なワクチンの調整は、pH、等張性、および安定性などを考慮すれば当該技術分野の技術水準内にある。
本発明のワクチン組成物がアジュバント物質をさらに含んでいる場合、その免疫原性をさらに向上させられる。ワクチンへのアジュバント効果を実現する多様な方法が公知となっている。一般的原理および方法の詳細は、"The Theory and Practical Application of Adjuvants", 1995, Duncan E.S. Stewart-Tull (ed.), John Wiley & Sons Ltd, ISBN 0-471-95170-6および"Vaccines: New Generationn Immunological Adjuvants", 1995, Gregoriadis G et al. (eds.), Plenum Press, New York, ISBN 0-306-45283-9に記載されている。本明細書において両方の文献を参照することによって、その開示内容を本願に援用する。
好ましいアジュバントは、樹枝状細胞などの抗原提示細胞(APC)によるワクチン分子の摂取を促進させ、当該抗原提示細胞を活性化させる。アジュバントの例は、免疫標的アジュバント;毒素、サイトカイン、およびマイコバクテリア誘導体などの免疫修飾アジュバント;油製剤;重合体;ミセル形成アジュバント;サポニン;免疫賦活複合マトリクス(ISCOM(登録商標)マトリクス);粒子;DDA(ジメチルジオクタデシル臭化アンモニウム);アルミニウムアジュバント;DNAアジュバント;および封入アジュバントからなる一群から選択されるが、これらに限定されない。リポソーム製剤もまたアジュバント効果を付与することが知られている。したがって、リポソームアジュバントは本発明に従い含まれる。
ムコール菌症などの真菌感染症に罹患し易い対象に対するワクチン接種に加えて、本発明のワクチン組成物は、多様な真菌感染症に罹患している対象に対して免疫療法的治療を施すために使用できる。したがって、本願に開示のケカビ目CotHのポリヌクレオチド、ポリペプチド、および/または抗体の組成物の1つ以上をアジュバントと組み合わせて含み、予防または治療上の用途の目的で機能するワクチンもまた、本発明の範囲に含まれる。実施形態では、本発明のワクチンは、ケカビ目CotHの分子を捜し出して阻害するよう対象の体内の免疫系を誘発する。
用語「ワクチン」は、本明細書に使用するように、個体を感染病から保護するために当該個体に投与できる組成物を指す。ワクチンは、感染病に対する動物の免疫反応を誘発または増大させることによって、疾病に対する保護を行う。本発明のワクチンを用いた治療が適している感染病の典型例はムコール菌症である。ワクチンによって介在される保護を、対象がたとえばケカビ目CotHまたはその免疫原性部分または断片に犯された場合に宿主内に誘発される液性および/または細胞性免疫とすることができる。
用語「アジュバント」は、一般的には抗原の位置またはその近傍に当該抗原と共に供給されることによって当該抗原に対する免疫反応を向上させる能力を有する組成物を意味するように意図される。免疫反応を増大させる能力は、免疫介在の予防の増大によって示される。液性免疫の向上は、たとえば、抗原に対する抗体の抗体力価の増大によって決定できる。細胞性免疫の向上は、たとえば、陽性皮膚試験、細胞傷害性T細胞アッセイ法、IFN−ガンマまたはIL−2に関するELISPOTアッセイ法によって測定できる。アジュバントは当該技術分野に周知である。アジュバントの典型例は、たとえば、Freud完全アジュバント、Freud不完全アジュバント、アルミニウムアジュバント、MF59、およびQS21を含む。
用語「治療する」または「治療」は、本明細書に使用するよう、真菌感染症状を示す臨床症状の改善を意味するように意図される。臨床症状の改善は、たとえば、治療を施した個体において少なくとも1つの真菌感染症状が、治療前のレベルまたは真菌感染症を呈する個体と比較して低下または減少することを含む。用語「治療する」はまた、真菌感染症状に関連する病状、慢性合併症、または日和見真 菌感染症の重症度の減少を含むように意図される。ムコール菌症を参照して、こうした病状、慢性合併症、または日和見感染症を以下に例示する。ムコール菌症、および、こうした他の病状、慢性合併症、および日和見感染症はまた、たとえば、Merck Manual, Sixteenth Edition, 1992およびSpellberg et al., Clin. Microbio. Rev. 18:556-69 (2005)に記載されている。
用語「予防する」または「予防」は、本明細書において使用するように、真菌感染病状を呈する臨床症状を未然に防ぐことを意味するように意図されている。こうした臨床症状の未然の防止は、たとえば、1つ以上の真菌による感染リスクを有する個体が明らかな病状症状を持ち始めるか、またはそうした病状の診断を受ける前に、当該個体内の正常な生理指標を維持することを含む。したがって、用語「予防する」は、真菌感染病状の発生を防ぐような個体の予防的治療を含む。個体の真菌感染病状の予防はまた、真菌感染病状の進行の阻害または抑止を含むように意図されている。真菌感染病状の進行の阻害または抑止は、たとえば、異常な生理指標の発生、または上述の臨床症状および当該技術分野に周知の臨床症状などの臨床症状の発生を阻害または抑止することを含む。したがって、真菌感染病状の効果的な予防は、真菌感染病に罹患し易い個体の正常な体温、体重、心理状態の維持、ならびに病変または他の疾病徴候の欠如を含むことになる。真菌感染病に罹患し易い個体は免疫障害を持つ個体を含み、これには、たとえばAIDS、高窒素血症、糖尿病、糖尿病性ケトアシドーシス、好中球減少症、気管支拡張症、肺気腫、TB、リンパ腫、白血病を発症している個体、火傷を負っている個体、化学療法、骨髄移植、幹細胞移植、および/または固形臓器移植を受けている個体、または、真菌感染病状に罹患し易い病歴を有する個体が含まれるが、これらに限定されるものではない。真菌感染病状の進行の阻害または抑止は、たとえば、1つ以上の病状の進行、慢性合併症、または真菌感染病状を伴う日和見感染症に対する高感受性の阻害または抑止をも含む。
本明細書において「対象」、「個体」、または「患者」は互換可能に使用しており、脊椎動物を指し、好ましくは哺乳類、より好ましくはヒトを指す。哺乳類は、マウス、ラット、ウサギ、サル、ウシ、ヒツジ、ブタ、イヌ、ネコ、家畜、競技用動物、愛玩動物、ウマ、および霊長類(特にヒト)を含むが、これらに限定されない。
用語「真菌症」は、本明細書において使用するように、表在性真菌症(すなわち、皮膚、毛髪、爪、および粘膜の真菌病;たとえば、白癬感染症またはイースト菌感染症)、皮下真菌症(すなわち、皮下組織、筋膜、および骨の真菌病;たとえば、足菌腫、黒色真菌感染症、またはスポロトリクム症)、および全身性真菌症(すなわち、病原菌が産生する浮遊胞子を吸入した結果発症する深在性の真菌感染症;たとえば、接合菌症、アスペルギルス症、クリプトコッカス症、カンジダ症、ヒストプラスマ症、コクシジオイデス症、パラコクシジオイデス症、フサリウム症(無色菌糸症)、ブラストミセス症、ペニシリウム症、またはスポロトリクム症)を含む真菌病、真菌感染症、または真菌コロニーの形成を指す。
本明細書に使用するように、用語「接合菌症」は、ケカビ目およびハエカビ目から構成される接合菌綱の真菌によって発生する真菌症を意味するように意図されている。ハエカビ目は、発展途上国の免疫正常宿主の間で猛威を振るっているエントモフトラ症として知られる皮下感染および粘膜皮膚感染の原因となる。また接合菌症はムコール菌症とも称され、2つの用語を互換可能に用いて同類種の真菌感染症を指している。
本明細書において使用するように、用語「ムコール菌症」は、ケカビ目の真菌によって引き起こされる真菌症を意味するように意図されている。ムコール菌症は、発展途上国または先進国の免疫不全宿主にほぼ一様に影響をおよぼすような生死に関わる真菌感染症である。ケカビ目に属する真菌は少なくとも6つの科に分布しており、これら全てが皮膚および皮下感染を引き起こせる。ケカビ科に属する種は、他の科と比較して、より頻繁にムコール菌症患者から単離される。ケカビ科のうち、Rhizopus oryzae(Rhizopus arrhizus)は最も一般的な感染原因である。同様の範囲の感染を引き起こすケカビ科の種の他の典型例は、たとえば、Rhizopus microspores var. rhizopodiformis、Absidia corymbifera、Apophysomyces elegans、Mucor species、Rhizomucor pusillus、およびCunninghamella spp(Cunninghamellaceae科)を含む。ムコール菌症は当該技術分野に周知であり、たとえば、鼻能ムコール菌症、肺ムコール菌症、消化管ムコール菌症、播種性ムコール菌症、骨ムコール菌症、隔膜ムコール菌症、気管ムコール菌症、腎臓ムコール菌症、腹膜ムコール菌症、上大静脈ムコール菌症、または外耳炎ムコール菌症を含む。
ケカビ目に属する真菌は、現在、Choanephoraceae科、Cunninghamellaceae科、Mucoraceae科、Mycotyphaceae科、Phycomycetaceae科、Pilobolaceae科、Saksenaeaceae科、Syncephalastraceae科、およびUmbelopsidaceae科に分布している。真菌の各科は、1つ以上の属から構成されている。たとえば、ケカビ目Mucoraceae科に属する真菌は、ユミケカビ属(たとえば、A. corymbifera)、Actinomucor属(たとえば、A. elegans)、Amylomyces属(たとえば、A. rouxii)、Apophysomyces属、Backusella属(たとえば、B. circina)、Benjaminiella属(たとえば、B. multispora)、Chaetocladium属(たとえば、C. brefeldii)、Circinella属(たとえば、C. angarensis)、Cokeromyces属(たとえば、C. recurvatus)、Dicranophora属(たとえば、D. fulva)、Ellisomyces属(たとえば、E. anomalus)、Helicostylum属(たとえば、H. elegans)、Hyphomucor属(たとえば、H. assamensis)、Kirkomyces属(たとえば、K. cordensis)、ケカビ属(たとえば、M. amphibiorum)、Parasitella科(たとえば、P. parasitica)、Philophora属(たとえば、P. agaricina)、Pilaira属(たとえば、P. anomala)、Pirella属(たとえば、P. circinans)、Rhizomucor属(たとえば、R. endophyticus)、Rhizopodopsis属(たとえば、R. javensis)、クモノスケカビ属、Sporodiniella属(たとえば、S. umbellata)、Syzygites属(たとえば、S. megalocarpus)、Thamnidium属(たとえば、T. elegans)、Thermomucor属(たとえば、T. indicae-seudaticae)、およびZygorhynchus属(たとえば、Z. californiensis)にさらに分類される。たとえばクモノスケカビ属は、R. azygosporus種、R. caespitosus種、R. homothallicus種、R. oryzae種、R. microsporus種、R. microspores var. rhizopodiformis種、およびR. schipperae種から構成されている。
用語「免疫原生量」は、本明細書において使用するように、本発明のポリペプチドまたは本発明のポリペプチドを発現している感染体に対する宿主の免疫反応を誘起できる、本発明のポリペプチドまたはその断片または変異体の特定のエピトープの効果的な量を指す。免疫原生量は、通常、ワクチンの投与量当たり20μg〜10mgの抗原の範囲内であり、治療を施す対象、抗体を合成する当該対象の免疫系の能力、および所望される防止の程度によって決まる。要求される免疫原生の正確な量は、たとえば抗体滴定法などの多様な方法によって測定できる。用語「効果的な量」は、所望の結果を得るのに十分な化合物または組成物の量を指す。したがって、ワクチンを説明するのに使用したように、効果的な量は、防御免疫反応を提供または引き出すのに十分な化合物または組成物(たとえば抗体)の量を指す。免疫学的組成物についての効果的な量は、免疫反応が防御的であるか否かに関わらず、免疫反応を引き出すのに十分な量である。
「治療に効果的な量」は、ポリペプチド、ポリヌクレオチド、抗体、抗体断片または組成物、疾病およびその重症度、および、治療対象の患者の年齢や体重などに応じて変化し、これら全ては主事臨床医学者の技術の範囲内である。本願に記載のポリヌクレオチド、ポリペプチド、抗体、抗体断片または組成物の1つ以上の治療上効果的な量は、治療が行われていない場合と比較して、患者の内皮細胞に対する菌類病原体の穿通侵入および損傷を改変させることが意図されている。したがって、真菌性の発病が減少する。治療上効果的な量は、生物学的効果を有する量(「生物学的に有効な量」)と区別できる。本発明のポリペプチド、ポリヌクレオチド、抗体、抗体断片、または組成物は、ケカビ目CotHポリペプチドの機能を低下させるなどの1つ以上の生物学的効果をin vitroで有するか、またはin vivoにおいてですら有していてもよい。しかし、生物学的効果は、主事臨床医学者の技術範囲の方法によって決定される本願に記載の臨床学的に測定可能な治療効果をもたらさないこともあり得る。
一実施形態では、本発明のケカビ目CotHポリペプチドをコードする核酸は、当該技術分野に周知の好適なベクターを用いてin vivoまたはin vitroで哺乳類細胞内に供給されうる。ケカビ目CotHポリペプチド、その免疫原性断片、またはその機能性断片を哺乳類細胞へ供給する好適なベクターは、レトロウイルスベクター、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レンチウイルス、ヘルペスウイルスなどのウイルスベクター、ならびにプラスミドベクターなどの非ウイルスベクターを含む。このようなベクターは、治療量または免疫原生量のケカビ目CotHポリペプチドを提供するのに有用である(たとえば、米国特許第5,399,346号(発行日:1995年3月21日)参照)。ケカビ目CotHポリペプチドまたは核酸の治療的な供給は、筋細胞、骨髄細胞、またはB細胞を標的に行われる場合に特に有用である。これにより、免疫反応の発展のためにコード化されたケカビ目CotHポリペプチドを示している。このような提示は、DNAワクチン接種として当該技術分野において一般に知られている。
ウイルス由来の系は、比較的高いレベルの異種核酸を多様な細胞内に導入できるという利点をもたらす。ケカビ目CotHタンパク質をコードする本発明の核酸を哺乳類細胞内に導入する好適なウイルスベクターは当該技術分野に周知である。ウイルスベクターは、たとえば、単純疱疹ウイルスベクター(Geller et al., Science, 241:1667-1669 (1988))、ワクシニアウイルスベクター(Piccini et al., Meth. Enzymology, 153:545-563 (1987))、サイトメガロウイルスベクター(Mocarski et al., in Viral Vectors, Y. Gluzman and S.H. Hughes, Eds., Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, N.Y., 1988, pp. 78-84)、モロニーマウス白血病ウイルスベクター(Danos et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 85:6460-6464 (1988); Blaese et al., Science, 270:475-479 (1995); Onodera et al., J. Virol., 72:1769-1774 (1998))、アデノウイルスベクター(Berkner, Biotechniques, 6:616-626 (1988); Cotten et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89:6094-6098 (1992); Graham et al., Meth. Mol. Biol., 7:109-127 (1991); Li et al., Human Gene Therapy, 4:403-409 (1993); Zabner et al., Nature Genetics, 6:75-83 (1994))、アデノ随伴ウイルスベクター(Goldman et al., Human Gene Therapy, 10:2261-2268 (1997); Greelish et al., Nature Med., 5:439-443 (1999); Wang et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 96:3906-3910 (1999); Snyder et al., Nature Med., 5:64-70 (1999); Herzog et al., Nature Med., 5:56-63 (1999))、レトロウイルスベクター(Donahue et al., Nature Med., 4:181-186 (1998); Shackleford et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 85:9655 9659 (1988);米国特許第4,405,712号、4,650,764号、および5,252,479号、および国際公開第WO92/07573号、WO90/06997号、WO89/05345号、WO92/05266号、およびWO92/14829号)、およびレンチウイルスベクター(Kafri et al., Nature Genetics, 17:314-317 (1997))を含む。
核酸からなるケカビ目CotHポリペプチドを治療目的のために投与するのに有用なベクターは、調節可能に連結された核酸の組織特異発現または組織誘導発現をもたらす調節因子を含むことができる。当業者は、ケカビ目CotHポリペプチドまたは核酸が所望の組織または細胞内で発現することを可能にする適当な組織特異プロモーターまたはエンハンサーを容易に決定することができる。また多様な誘導プロモーターまたはエンハンサーのいずれも、ケカビ目CotHポリペプチドまたは核酸の調節発現のためのベクター内に含まれうる。このような誘導系は、たとえば、テトラサイクリン誘導系(Gossen & Bizard, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89:5547-5551 (1992); Gossen et al., Science, 268:1766-1769 (1995); Clontech, Palo Alto, CA)、重金属によって誘導されるメタロチオネインプロモーター、エクジソンまたはなどの関連ステロイドに対して反応を示す昆虫ステロイドホルモン(No et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 93:3346-3351 (1996); Yao et al., Nature, 366:476-479 (1993) Invitrogen, Carlsbad, CA))、グルココルチコイドおよびエストロゲンなどのステロイドに誘発されるマウス乳癌ウイルス(MMTV)(Lee et al., Nature, 294:228-232 (1981))、および温度変化によって誘導できる熱ショックプロモーターを含む。
治療投与を行うのに特に有用な誘導系では、個体に投与される所定濃度の薬剤に反応してある濃度の治療薬を送達し、薬剤の不在下では治療薬が僅かに発現されるか、または全く発現されないよう調節できる誘導プロモーターを利用する。このような誘導系の1つでは、修飾アデノウイルスベクター内のミフェプリストンなどの抗黄体ホルモンによって誘導可能なGal4融合を利用する(Burien et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 96:355-360 (1999))。こうした融合系の他の誘導系では、アデノ随伴ウイルスベクター内のFKBP12およびFRAPのラパマイシン結合領域を含む転写活性化因子の再構成を誘発するために薬剤ラパマイシンを利用する(Ye et al., Science, 283:88-91 (1999))。誘導系の任意の組み合わせは、本願に開示のベクターを含む任意の好適なベクター内で組み合わせ可能であることが理解される。治療薬の発現量は個体に投与される薬剤の量によって調整可能であるか、または、必要に応じて、治療薬の発現は薬剤の投与を停止することによって終了できるので、上述のような調整可能な誘導系は有利である。
本発明はさらに、ケカビ目CotHポリペプチド、その免疫原生断片、またはその機能性断片に対する特異反応性を有する抗ケカビ目CotH単離抗体を提供する。たとえば、本発明の抗ケカビ目CotH抗体は、アミノ酸配列GAGKKHNNAKQSWNW(配列番号39)またはMGQTNDGAYRDPTDNNK(配列番号40)を有するポリペプチドに対する特異反応性を有できる。抗ケカビ目CotH抗体は、モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体にできる。本発明は、ケカビ目CotHポリペプチド、その免疫原生断片、またはその機能性断片に対する特異反応性を有するモノクローナル抗体を産生する細胞株をさらに提供する。
したがって本発明は、ケカビ目CotHポリペプチドを特異的に結合する抗体を提供する。本明細書に使用するように、用語「抗体」は、ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体、ならびにこれら抗体の抗原結合断片を含むよう最も広い意味で使用される。本発明の抗ケカビ目CotH抗体に関しては、用語「抗原」は、天然または合成のケカビ目CotHポリペプチドまたはその断片を意味する。抗ケカビ目CotH抗またはこのような抗体の抗原結合断片は、ケカビ目CotHポリペプチドまたはその少なくとも約1×105M1のペプチド部分に対する特異的な結合活性を有することによって特徴付けられる。したがって、ケカビ目CotHポリペプチドに対する特異的な結合活性を保持する抗ケカビ目CotH抗体のFab、F(ab’)2、Fd、およびFv断片は、抗体の定義の内に含まれる。ケカビ目CotHポリペプチドの特異的な結合活性は、たとえば、ケカビ目CotHポリペプチドに対する抗ケカビ目CotH抗体の結合活性をケカビ目CotHポリペプチド以外のコントロールペプチドと比較することによって、当業者が容易に決定できる。ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体を調製する方法は当業者に周知である(たとえば、Harlow and Lane, Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press (1988)参照)。
さらに、本発明の抗体は、たとえば一本鎖抗体、キメラ抗体、二官能性抗体、ヒト化抗体、およびこれらの抗原結合断片を含む天然および非天然の抗体にできる。このような非天然の抗体は、固相ペプチド合成を用いて構築可能であるか、組み換え作製可能であるか、または、たとえば、Huse et al. (Huse et al., Science 246:1275-1281 (1989))に記載の多様な重鎖および軽鎖からなる組み合わせライブラリをスクリーニングすることによって取得可能である。たとえばキメラ抗体、ヒト化抗体、CDR移植抗体、一本鎖抗体、および二官能性抗体を作製するこれら方法および他の方法は当業者に周知である(Winter and Harris, Immunol. Today 14:243-246 (1993); Ward et al., Nature 341:544-546 (1989) ;前掲したHarlow and Lane, 1988); Hilyard et al., Protein Engineering: A practical approach (IRL Press 1992); Borrabeck, Antibody Engineering, 2d ed. (Oxford University Press 1995))。
抗ケカビ目CotH抗体は、配列番号1、3、5、11、15、16、18、20、22、24、26、28、30、または32に示すアミノ酸配列を有するケカビ目CotH単離ポリペプチド、天然原料から調製可能であるか、または組み換え作製可能である当該ケカビ目CotH単離ポリペプチドの免疫原生断片、または当該ケカビ目CotHポリペプチドのペプチド部分などのケカビ目CotH免疫原を用いて上昇させることが可能である。このようなケカビ目CotHポリペプチドのペプチド部分は、抗原ペプチドを用いてケカビ目CotH特異抗体を作製できる場合、機能性抗原断片である。非免疫原性または弱免疫原生のケカビ目CotHポリペプチドまたはその一部分は、ハプテンをウシ血清アルブミン(BSA)またはキーホールリンペットヘモシアニン(KLH)などの担体分子と連結させることによって、免疫原生のケカビ目CotHポリペプチとすることができる。したがって、本発明の一部態様では、本願に開示のCotHポリペプチドの免疫原生断片は、担体分子(KLHまたはBSAなどが挙げられるが、これらに限定されない)と接合できる。ハプテンを担体分子と連結させるための他の多様な担体分子および方法は当該技術分野に周知である(たとえば前掲したHarlow and Lane, 1988参照)。ケカビ目CotHポリペプチドの免疫原生断片はまた、ペプチド部分をたとえばグルタチオンSトランスフェラーゼ(GST)またはポリHisなどとの融合タンパク質として発現することによって作製できる。ペプチド融合を発現する方法は当業者に周知である(前掲したAusubel et al.)。
本発明は、サンプルをケカビ目CotH特異抗体と接触させ、当該サンプルに対する抗体の特異的結合の存在を検出し、これにより当該サンプル内のケカビ目CotHポリペプチドの存在を検出することによって、当該サンプル内のケカビ目有機体の存在を検出する方法をさらに提供する。ケカビ目CotH特異抗体は、サンプル内に存在するケカビ目CotHの濃度を検出する診断方法および診断系に使用することができる。本明細書に使用するように、用語「サンプル」は、ケカビ目CotH核酸またはポリペプチドを含んでいるか、または潜在的に含んでいる任意の生体液、生体細胞、生体組織、または生体器官、またはこれらの部分を意味するように意図される。上記用語は、個体内のサンプル、ならびに個体から取得または導出されるサンプルを含む。たとえば、サンプルは、生体組織検査法によって試料から取得される組織切片、または組織培養に留置または適合される細胞とすることができる。サンプルは、さらに細胞亜分画または抽出物、または未処理または実質的に純粋な核酸またはタンパク質の調合液とすることができる。
ケカビ目CotH特異抗体はまた、本発明のケカビ目CotHの免疫親和性または親和性クロマトグラフィー精製を行うために使用することができる。さらに、ケカビ目CotHポリペプチドに対して特異的に結合する抗体がケカビ目CotHポリペプチドと結合することを可能にする条件下で、当該抗体に細胞を接触させる工程と、当該ケカビ目CotHポリペプチドに結合されている当該抗体の存在を検出する工程と、細胞内にある本発明のポリペプチドの存在これによりを検出する工程とを含む、細胞内にある本発明のケカビ目CotHタンパク質の存在を検出する方法も本願において意図されるものである。このようなポリペプチドの検出に関して、抗体は、in vitro診断方法またはin vivo撮像方法に使用することができる。
サンプル内の標的ケカビ目CotHポリペプチドをin vitro検出するのに有用な免疫学的方法は、抗体を利用する免疫学的検定法を含む。このような免疫学的アッセイ法は、たとえば、当該技術分野の周知の免疫組織化学法、免疫蛍光測定法、ELISAアッセイ法、放射免疫アッセイ法、FACS分析法、免疫沈降法、イムノブロット解析法、Pandex顕微蛍光測定アッセイ法、凝集アッセイ法、フローサイトメトリー法、および血清診断アッセイ法を含む(前掲したHarlow and Lane, 1988;Harlow and Lane, Using Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Press (1999))。
抗体は、当該技術分野に周知の多様な手段によって検出可能に作製することができる。たとえば、検出可能なマーカーは、抗体に直接付着させるか、またはたとえばケカビ目CotH特異抗体を認識する二次標識を用いて間接的に付着させることができる。有用なマーカーは、たとえば、放射性ヌクレオチド、酵素、ビオチンなどの結合タンパク質、発蛍光団、色原体、および化学発光標識を含む。
本願に使用するように、用語「標識」およびその文法上の多様な形態が示す意味は、検出可能信号の形成に直接的または間接的に関与する単一原子および単一分子を指す。標識または示される意味のいずれもが、本発明の核酸プローブ、発現タンパク質、ポリペプチド断片、または抗体分子と連結できる。上記の単一原子または単一分子は、単独またはさらなる試薬と併せて使用されることができる。このような標識は、それ自体が、臨床診断化学において周知である。
標識手段としては、有用な免疫蛍光トレーサ(tracer)となる蛍光色素(色素)を形成するように、変性を伴うことなく抗体または抗原と化学的に結合する蛍光標識剤を使用することができる。免疫蛍光分析技術については、DeLuca, "Immunofluorescence Analysis", in Antibody As a Tool, Marchalonis et al., eds., John Wiley & Sons, Ltd., pp. 189 231 (1982)に説明が記載されている。なお、上記文献を参照することによって、その開示内容を本願に援用する。
一実施形態では、指示基は、セイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRP)およびブドウ糖酸化酵素などの酵素である。他の実施形態では、標識剤として放射性元素が用いられている。基質に対する標識の結合(すなわち、核酸プローブ、抗体、ポリペプチド、およびタンパク質の標識化)は当該技術分野に周知である。たとえば、本発明の抗体は、培地に供給される放射性標識抗体を代謝によって取り込むことによって標識化されることができる。たとえば、Galfre et al., Meth. Enzymol., 73:3 46 (1981)を参照。活性化した官能基によるタンパク質接合またはンパク質連結を行う従来の手段は、特に適用できる。たとえば、Aurameas et al., Scand. J. Immunol., Vol. 8, Suppl. 7:7 23 (1978), Rodwell et al., Biotech., 3:889 894 (1984)および米国特許第4,493,795号を参照。
本発明の核酸、アンチセンスを含むオリゴヌクレオチド、本発明の核酸を含むベクター、形質転換宿主細胞、ポリペプチド、およびこれらの組み合わせ、ならびに本発明の抗体は、複数の化合物をスクリーニングしていずれかの化合物が本発明のポリペプチドの潜在的なアゴニストまたはアンタゴニストとして機能するか否かを決定するよう使用できる。これらスクリーニングのアッセイ法は、本発明のポリペプチドの機能および活性に関する情報を提供する。こうして提供される情報によって、1種類以上のポリペプチド、ペプチド、またはタンパク質と特異的に相互作用可能な化合物を特定または設計できる。
したがって、本発明は、ケカビ目CotHポリペプチドと結合する化合物を特定する方法を提供する。本発明のタンパク質は、結合タンパク競合測定法に使用することができる。このようなアッセイ法は、仮に存在するとすればいずれの化合物がケカビ目CotHポリペプチドと結合できるかを決定できるように、多数の化合物の高速スクリーニングを適応させることができる。その後、ケカビ目CotHポリペプチドと結合することが判明した化合物が本発明のケカビ目CotHポリペプチドの調節因子、アゴニスト、またはアンタゴニストとして機能するか否かをさらに決定するためによって詳細なアッセイ法を当該化合物について行うことができる。本発明のケカビ目CotHポリペプチドと結合するおよび/または本発明のケカビ目CotHポリペプチドを調節する化合物は、本発明のケカビ目CotHポリペプチドに媒介される多様な病変を治療するために使用できる。
タンパク質結合領域と相互作用する細胞タンパク質を特定する多様な結合アッセイ法は当該技術分野に周知である。こうした結合アッセイ法としては、たとえば、酵母2−ハイブリッドスクリーニングアッセイ法(たとえば、米国特許第5,283,173号、5,468,614号、および5,667,973号;前掲したAusubel et al., 1999;Luban et al., Curr. Opin. Biotechnol. 6:59-64 (1995)を参照)、および細胞抽出物を用いた親和性カラムクロマトグラフィー法が含まれる。多様なケカビ目CotHポリペプチド配列または欠失を含むポリペプチド断片の合成または発現によって、ケカビ目CotHの結合界面を容易に特定することができる。
本発明の他の実施形態では、本発明のケカビ目CotHポリペプチドの活性を調節する化合物を特定するバイオアッセイ法を提供する。このバイオアッセイ法では、たとえばケカビ目CotHのシグナル経路に対応するレポーター遺伝子コンストラクトの存在下で本発明のケカビ目CotHポリペプチドを「未知」または試験用の基質と接触させ、この接触後に本発明のケカビ目CotHポリペプチドの活性をモニタリングし、当該レポーター遺伝子コンストラクトを発現させる物質を本発明のケカビ目CotHポリペプチドに対する機能的リガンドとして特定する。このようなレポーター遺伝子のアッセイ法およびアッセイ系は当業者に周知である(前掲したAusubel et al., 1999)。さらに、レポーター遺伝子コンストラクトは、ケカビ目CotHのプロモーター領域を用いて作製でき、かつケカビ目CotH遺伝子のプロモーター活性を増大または低減させる化合物についてスクリーニングできる。このような化合物は、ケカビ目CotHの発現を改変させるために使用することもできる。
本発明の他の実施形態によれば、本発明のケカビ目CotHポリペプチドを組み換え発現する形質転換宿主細胞を被検基質と接触させることができ、その後、ケカビ目CotH媒介反応(たとえば、試験用の化合物の存在下または不在下におけるレポーター遺伝子の発現を介した反応)を化合物の存在と比較するか、または被検細胞またはコントロール細胞の反応を化合物の存在と比較することによって、当該接触による調節効果を評価することができる。
本明細書に使用するように、本発明のポリペプチドの活性を調節する化合物または信号は、こうした化合物または信号の存在下における本発明のポリペプチドの活性がこれら化合物または信号の不在下における活性と異なるようケカビ目CotHポリペプチドの活性を改変させる化合物または信号を指す。特に、このような化合物または信号としては、アゴニストおよびアンタゴニストが含まれる。アゴニストとしては、ケカビ目CotHタンパク質の発現または生物活性を活性化させる化合物または信号が含まれる。またはこれに代わり、アンタゴニストとしては、ケカビ目CotHの発現または生物活性と相互作用する化合物または信号が含まれる。典型的には、アンタゴニストの効果は、アゴニスト誘導性のタンパク質活性化の遮断として観察される。アンタゴニストとしては、競合的アンタゴニストおよび非競合的アンタゴニストが含まれる。
ケカビ目CotHポリペプチドの発現を調節する化合物を特定するアッセイ法は、ケカビ目CotHの活性を調節する化合物に細胞を接触させた結果として生じたケカビ目CotHポリペプチドの存在量の変化を検出する工程を備える。ポリペプチドの発現の変化を検出するアッセイ法は、上述のように、たとえば、ケカビ目CotH特異ケカビ目CotH抗体を用いた免疫学的アッセイ法(免疫ブロット法、免疫蛍光法、免疫組織化学法、免疫沈降法など)を含む。
当業者に理解されるように、ケカビ目CotHの活性を調節する化合物を特定するアッセイ方法では、一般的に、コントロールとの比較が必要になる。「コントロール」の1つの種類は、化合物に暴露された被検細胞または被検培養物と実質的に同一の処理を施した、「コントロール」細胞または培養物は化合物に暴露されていない点が相違している細胞または培養物である。「コントロール」細胞または培養物の他の種類は、「コントロール」細胞または培養物がケカビ目CotHポリペプチドを発現しない点を除いて被検細胞と同一の細胞または培養物とすることができる。したがって、化合物に対するトランスフェクト細胞の反応を、同一の反応条件下における同一の化合物に対する「コントロール」細胞または培養物の反応またはその欠如と比較する。
本発明は、ケカビ目CotH活性を調節する有効な調節量の薬剤にケカビ目CotHポリペプチドを接触させることによって、ケカビ目CotHポリペプチドに媒介される活性を調節する方法をさらに提供する。ケカビ目CotH活性は、たとえば、GRP78と結合することができる。本発明は、細胞に対する付着のレベルを調節する方法をさらに提供する。
一部の実施形態では、本発明は、サンプル内のケカビ目CotH核酸分子を検出する方法を提供する。本発明のこのような方法は、サンプルを本願開示の2つ以上のオリゴヌクレオチドと接触させる工程、核酸分子を増幅させる工程、および当該増幅を検出する工程を含むことができる。核酸を増幅する方法は当業者に周知であり、容易に選択されて本発明の方法に対して適用できることが理解される。たとえば、一部の態様では、増幅は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を用いて行われる。本発明の一部の態様では、本発明の方法に用いられる2つ以上のオリゴヌクレオチドの少なくとも1つは、核酸配列ATGAAATTATCTATTATATCCGCTGCC(配列番号33)、GCTGGGAATATAATTGTCATCGA(配列番号34)、GATGACAATTATATTCCCAGC(配列番号35)、GAGTAGACGTAATTAGATCCAA(配列番号36)、またはAAACGTACCTGCTGACCGAATC(配列番号37)を有するオリゴヌクレオチド、または本願開示のいずれかのオリゴヌクレオチドを含む。
本発明は、患者由来のサンプル内のケカビ目有機体の存在を検出することによって対象のムコール菌症感染を診断する方法をさらに提供する。この方法は、(a)対象由来の被検サンプルを提供する工程、(b)本発明の核酸またはポリペプチドと結合できる薬剤がこれら核酸またはポリペプチドと結合することを可能にする好適な条件下において、被検サンプルを当該薬剤と接触させる工程、および(c)被検サンプル内の特異的結合量をコントロールサンプル内の特異的結合量と比較する工程を含むことができ、被検サンプル内の特異的結合量がコントロールサンプル内の特異的結合量と比較して増大または減少することがムコール菌症感染の診断であることを特徴とする。本発明の一部の態様では、薬剤は、本願記載の抗ケカビ目CotH抗体またはCotHオリゴヌクレオチドからなる一群から選択される。
本発明の他の実施形態によれば、少なくとも1つの本発明の核酸または抗体を好適な包装材内に含む診断系(好ましくは診断キットの形態)を提供する。核酸を備える診断キットは、本願に記載のケカビ目CotHコード核酸由来の診断キットである。一実施形態では、たとえば、診断用の核酸は、配列番号2、4、6、9、10、12〜14、17、19、21、23、25、27、29、または31のいずれかに由来し、かつ本発明のオリゴヌクレオチドとすることができる。本発明の一部の実施形態では、少なくとも1つのオリゴヌクレオチドは、ATGAAATTATCTATTATATCCGCTGCC(配列番号33)、GCTGGGAATATAATTGTCATCGA(配列番号34)、GATGACAATTATATTCCCAGC(配列番号35)、GAGTAGACGTAATTAGATCCAA(配列番号36)、AAACGTACCTGCTGACCGAATC(配列番号37)、または本願に開示の任意のオリゴヌクレオチドからから選択される核酸配列を含む。本発明の診断系は、DNAまたはmRNA内のケカビ目CotHをコードする核酸の存在または不在のアッセイを行うのに有用である。
好適な診断系は、少なくとも1つのアッセイを行うのに十分な量で分離して包装された化学試薬として、少なくとも1つの核酸または抗体を含む。本発明の核酸を含む診断キットに関しては、当該診断キットは通常、2つ以上の核酸を含む。診断キットをPCRに使用する場合、診断キットは、PCRのプライマーとしての役割を果たす少なくとも2つのオリゴヌクレオチドを備える。当業者であれば、本発明の核酸プローブおよび/またはプライマーまたは本発明の抗体を本願に開示の発明方法を実施するのに適当な緩衝剤および溶液と組み併せてキット形態内に容易に組み込むことができる。ケカビ目CotH抗体を備えるキットは、サンプル内のケカビ目CotHポリペプチドの発現量を決定するためのアッセイ(たとえば、ELISAまたは他の免疫学的アッセイ)を行うのを可能にする適当な条件を提供する反応カクテルを備えることができる。また、公知量のケカビ目CotHポリペプチドと、必要に応じて、ケカビ目CotH抗体に特異的な第2の抗体とを含むコントロールサンプルを備えることができる。
本発明の診断キットの内容物(たとえば、ケカビ目CotH核酸または抗体)は包装材内に含まれており、これにより不純物のない無菌環境を提供することが好ましい。さらに、包装材は、特定のケカビ目CotH配列またはケカビ目CotHポリペプチドの存在または不在を検出するか、またはムコール菌症関連の病状の存在または疾病素因を診断するために診断キットの両材料を使用する方法を示す説明を備える。使用用の説明は、典型的には、試薬濃度または少なくとも1つのアッセイ方法パラメータ(混合対象の試薬およびサンプルの相対量など)を記載する有形発現、試薬/サンプルの混合の保守期間、温度、および緩衝条件などを含む。
本発明の多様な実施形態の活性に対して実質的に影響をおよぼさない改変もまた、本願に提供する発明の定義内に提供されることが理解される。したがって、以下の実施例は、本発明を説明するように意図されるものであり、本発明を限定するものではない。
〔実施例I〕
内皮細胞内への菌侵入時に宿主GRP78に対する結合を促進する細胞表面CotH3タンパク質
R. oryzaeの胞子発芽体の原形質体の培養上清から細胞壁物質を回収した。抗Grp78 Abを用いたFARウエスタンブロットアッセイ法によって、rGrp78と結合しているR. oryzaeのリガンドを単離し、これをMALDI−TOF−MS/MS分析法によって特定した(図1)。簡潔には、Eksigent(Dublin, CA)NanoLiquid chromatography-1D plus系およびEksigent自動サンプル採集器を設けたThermo LTQ-Orbitrap XL質量分析計(San Jose, CA)上で特定するために、対象のタンパク質スポットを切除し、これをUCLA W. M. Keck Proteomic Centerへと送った。スポット内のタンパク質は、Shevchenko et al.(Shevchenko et al.(1996). Proc Natl Acad Sci U S A 93: 14440-14445.; Shevchenko et al., Anal. Chem., 68(5):850-8 (1996))に記載のように、ゲル内トリプシン消化された。溶出ペプチドをCVC Microtech(Fontana, CA)の35mm長の100 μM ID C18 pre−Trapカラム上に充填し、流速5μl/minの100%バッファA(0.1%ギ酸を含む2%アセトニトリル)を用いて10分間洗浄した。300nl/minの流速を利用して、15cmのNew Objective ProteoPep IntegraFritカラム(Woburn, MA)上にペプチドを分離した。次の溶離勾配を用いた:0〜30%バッファB(0.1%ギ酸を含む98%アセトニトリル)を0〜15分、30〜80%バッファBを15〜20分、および80%バッファBを20〜22分。その後、カラムに対してバッファAを用いた再平衡化を13分間行った。200Vのエレクトロスプレーイオン化電圧、45Vのキャピラリー電圧、130Vのチューブレンズ、および200℃のキャピラリー温度を用いて、溶離検体を正極モードでLTQ-Orbitrap MS内に溶射した。情報依存取得を行った。情報依存取得では、60K解像FTMSスキャンを用いて6つの最も強力なイオンを300〜1600m/zの範囲で選択し、これらに対して35の正規化衝突エネルギーの広帯域衝突誘起分離およびLTQ検出を用いたMS−MSを行った。ピークは、60秒間のさらなるMS−MSから除外した。
その結果得られたMS/MSスペクトルは、Matrix Science MASCOT Daemon検索エンジン(Boston, MA)を用いて、Rhizopus oryzae 99〜880のデータベース(http://www.broadinstitute.org/annotation/genome/rhizopus_oryzae/MultiHome.html)に対して検索を行った。次の検索パラメータを使用した:ペプチド耐性:±10ppm、MS/MS耐性±0.3DA、最大ミス劈開:2、固定修飾:カルボキシメチル(C)および可変修飾:脱アミド化(ND)および酸化(M)。特に特定されるタンパク質としては、1番にランク付けされる特異的ペプチドを最小で2つ有し、イオンのスコアがp<0.05であるタンパク質が含まれた。
内皮細胞と一緒に培養させたR. oryzae内の推定リガンドの発現をRT−PCR法によって検出した(図4)。リガンドとGRP78との相互作用は、リガンドをSaccharomyces cerevisiae(図6)内で異種発現させ、GRP78を過剰発現している内皮細胞およびCHO細胞内への侵入への付着を空のプラスミド(コントロール)(図8)を用いて形質転換させたS. cerevisiaeと比較することによって確認した。
ORFのうち3つは、幾つかの細菌由来の胞子殻形成に関与しているCotH族のタンパク質に対する相同性を有していた:
・RO3G_05018、CotH1
・RO3G_08029、CotH2
・RO3G_11882、CotH3
4番目のORF(RO3G_16295)は、他の病原性真菌に広く存在していたが、ORFのいずれもが、識別した機能を有するタンパク質をコードしていないように思われた。特定したCotHポリペプチドと他の細菌性CotHタンパク質との配列間の比較は、極めて僅かな配列同一性を示した(図17および表1)。
表1:クモノスケカビ属CotHと細菌性CotHとの間の配列相同性(異なるサイズ)
RO3G_16295は共通のタンパク質のように思われ、そのホモログ(通常、アミノ酸において〜25%の同一性)は、多くの異なる細菌ならびに少数の細菌に見られた(図18〜26)。これら全てのタンパク質は特性決定を行わなかった。幾つかを挙げると:
- Talaromyces stipitatus ATCC 10500 (EED23986);
- Penicillium marneffei ATCC 18224 (XP_002144175);
- Aspergillus niger (XP_001392236);
- Aspergillus nidulans (XP_658934);
- Ustilago maydis (XP_760027);
- Coccidioides immitis (XP_001243211);
- Neurospora crassa (XP_956792);
- Cryptococcus neoformans (XP_775558);および
- Streptomyces lividans (EFD65170)。
CotH3およびより低度のCotH2をヒト臍静脈内皮細胞と相互作用しているR. oryzaeの胞子発芽体内に発現させた(図4)。内皮細胞と相互作用している胞子発芽体内に代えてR. oryzaeの胞子によって、CotH1を発現させた(図3)。FARウエスタンブロット分析法によって4番目のORF(RO3G_16295)を特定したが、この遺伝子は、内皮細胞と相互作用しているR. oryzaeの胞子発芽体に発現されていなかった。CotH3およびより低度にはCotH2を発現しているS. cerevisiaeは、内皮細胞GRP78と特定的に結合した(図6)。非接着性S. cerevisiae内でCotH3を異種発現させることによって、GRP78発現内皮細胞およびCHO細胞への付着およびその後行われる細胞内侵入が促進した(図58)。多様なケカビ目種由来のCotH3ポリペプチド間の配列アラインメントによって、多様なケカビ目種間において90%を超える配列同一性が示された(図7および表2)。
これらの結果によって、R. oryzaeによる内皮細胞内への侵入はCotH3またはGRP78と結合しているCotH2によって促進されることが示された。
表2:ヌクレオチド(CotH3および他の属のエクソンのみ)のアラインメント
〔実施例II〕
CotH3およびCotH2は、内皮細胞GRP78と結合する特異なケカビ目インバシンである
R. oryzaeおよび培養条件
本願に開示の実験では、幾つかのケカビ目の臨床単離株を用いた。たとえば、R. oryzae 99〜880およびMucor sp.99〜932を脳サンプルから単離し、R. oryzae 99〜892およびRhizopus sp99〜1150を感染患者の肺サンプルから単離した(サンプルはthe Fungus Testing Laboratory, University of Texas Health Science Center at San Antonioから取得した)。Cunninghamella bertholletiae 182もまた臨床単離株であり、Dr. Tomas Walsh (NIH)からの贈り物である。また、Lichtheimia corymbiferaも、ケカビのDEFEAT臨床研究から取得された臨床単離株である(Spellberg et al. (2102), J Antimicorbiol Chemother 67(3):715-22)。
ケカビ目をポテトデキストロース寒天培地(PDA、BD Diagnostic)プレート上で37℃で3〜5日間培養させる一方、A. fumigatusおよびC. albicansをサブローデキストロース寒天培地(SDA)プレート上で37℃でそれぞれ2週間および48時間培養させた。0.01% Tween 80を含む、エンドトキシン非含有のDulbeccoリン酸緩衝生理食塩水(PBS)内に胞子嚢胞子を回収し、これをPBSで洗浄し、血球計算板を用いてカウントして、最終接種材料の調製を行った。C. albicansに関しては、有機体を30℃で一晩の間YPD培地[1%酵母エキス(Difco Laboratories)、2%バクトペプトン(Difco)、および2%グルコース(Sigma)]内で培養させた後、出芽胞子をPBS中に回収した。研究中、胞子発芽体を形成するために、アッセイに基づいて、振動させながら胞子を液状YPD培地内で37℃で1〜3時間培養させた。胞子発芽体の洗浄をPBS(Ca2+およびMg2+添加)を用いて2回行った内皮細胞レセプターの単離実験を除く全てのアッセイに関しては、グルタミン無添加のRPMI 1640(Irvine Scientific)を用いて胞子発芽体を2回洗浄した。
S. cerevisiae内でのCotH遺伝子の異種発現
Phusion高性能PCRキット(New England Biolabs)および表3に記載のプライマーを使用してPDAプレート上で培養させたR. oryzae胞子から抽出したcDNAから、CotH1、CotH2、およびCotH3の全ORFをPCR増幅させた。Gal1プロモーターの下でこれら遺伝子のクローン化および発現するために、pESC−LEU酵母二重発現ベクター(Stratagene)を使用した。ベクターをBamHIおよびSalIによって消化させた。In-Fusion 2.0 Dry-DownPCRクローニングキット(Clontech Laboratories)を製造者の指示に従って使用することによって、PCR増幅後の各CotH遺伝子の挿入物をクローン化させてpESC−LEUとした。ポリエチレングリコールLiOAc方法によって、作製後の酵母発現ベクターを独立して形質転換させて酵母株LL−20とし、ロイシン無添加の固相合成デキストロース最少培地上でこれら形質転換体のスクリーニングを行った。空のプラスミドを用いて形質転換を行ったS. cerevisiaeがコントロールとなる。
表3:本研究に使用されるプライマー
抗CotH抗体産生および細胞表面局在化
抗原性であることが予測される2つのペプチドに対して、ウサギポリクローナル抗体を発生させた。ペプチドGAGKKHNNAKQSWNW(配列番号39)およびペプチドMGQTNDGAYRDPTDNNK(配列番号40)をKLHと連結し、商業的にウサギにワクチン接種するために使用した(ProMab Biotechnologies Inc., Richmond, CA)。ワクチン接種したウサギから得られる精製IgGを用いて、内皮細胞と相互作用しているS. cerevisiaeおよびR. oryzae上のCotHタンパク質の細胞表面局在を検出した(Liu et al., J. Clin. Invest., 120:1914-1924 (2010))。
S. cerevisiaeの細胞表面に対してCotHタンパク質を局在化するために、個々のCotH遺伝子を発現している出芽胞子をまず抗CotH IgGと1:50の比で一緒に培養し、その後にフルオレセインイソチオシアネート(FITC)標識ヤギ抗ウサギIgGと1:100の比で一緒に培養した。染色した細胞をLeica共焦点顕微鏡を用いて撮像し、全酵母細胞を微分干渉コントラスト法(DIC)によって可視化した。
R. oryzae上のCotHタンパク質の発現を検出するために、胞子をYPD内にて37℃で3時間発芽させた。胞子発芽体を抗CotH IgG(比率、1:50)で染色し、その後にFITC標識ヤギ抗ウサギIgG(比率、1:100)で染色した。488nmで発光するアルゴンレーザーを設けたFACSCaliber(Becton Dickinson)器具をフローサイトメトリー分析に使用した。蛍光発光を515/40帯域通過フィルターで読み取った。蛍光データを対数増幅器によって回収した。104個のイベントの蛍光強度の平均値をCELLQUESTソフトウェアを用いて計算した。
内皮細胞およびチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞
Jaffe et al.の方法(Jaffe et al., J. Clin. Invest. 52:2745-2756 (1973))によって、臍静脈の内皮細胞から内皮細胞を回収した。コラゲナーゼを用いることによって内皮細胞を回収し、10%ウシ胎仔血清、10%規定ウシ胎仔血清、L−グルタミン、ペニシリン、およびストレプトマイシン(全てGemini Bio-Products, CA)で増強したM−199(Gibco BRL)内で回収後の細胞を増殖させた。第2の通過細胞を96ウェル組織培養プレート(Costar, Van Nuys, CA)内においてフィブロネクチン(BD Biosciences)上でコンフルエント状態になるまで増殖させた。全培養を5%CO2および37℃の環境で行った。カブトガニ血球抽出物の発色分析法(BioWhittaker, Inc., Walkersville, MD)を用いて試薬のエンドトキシンについて試験を行った。エンドトキシンの濃度は0.01IU/ml未満であった。内皮細胞の回収については、Institutional Review Board at Los Angeles Biomedical Research Institute at Harbor-UCLA Medical Centerによる承認を受けた。また、Dr. Randall Kaufmanから、GRP78を過剰発現するよう遺伝子組み換えを行ったDHFR欠乏親CHO細胞由来のCHO細胞株C.1(Morris et al., J. Biol. Chem., 272:4327-4334 (1997); Reddy et al., J. Biol. Chem., 278:20915-20924 (2003))を譲り受けた。
内皮細胞膜タンパク質の抽出
Isberg and Leongの方法(Isberg and Leong, Cell 60:861-871 (1990))に従って内皮細胞膜タンパク質を抽出した。簡潔に説明すれば、Ca2+およびMg2+を含む温DPBS(PBS−CM)を用いて直径100mmの組織培養皿内の融合性内皮細胞を2回洗浄し、その後、PBS−CM中のEz−Link Sulfo−NHS−LS Biotin)(0.5mg/ml、Pierce)と一緒に5%CO2の条件の下37℃で12分間培養した。その後、冷PBS−CMを用いて融合性内皮細胞を大規模に洗浄し、これを組織培養皿からこすり取った。内皮細胞を500×gの遠心分離に4℃で5分間掛けて回収し、その後、冷蔵庫に入れて5.8%n−オクチル−β−D−グルコピラノシド(w/v)およびプロテアーゼ阻害剤(1mMフェニルメチルスルホニルフッ化物、1μg/mlペプスタチンA、1μg/mlロイペプチン、および1μg/mlアプロチニン)(Sigma)を含むPBS−CM(Cal BioChem)中で20分間培養して溶解させた。5000×gの遠心分離に4℃で5分間掛けて細胞残屑を除去した。上清を回収し、これを100,000×gの遠心分離によって4℃で1時間分離した。その結果得られた上清内の内皮細胞タンパク質濃度をブラッドフォード法(Bio−rad)を用いて測定した。
CotH2/CotH3のRNA干渉
上述のRNA干渉(RNAi)技術(Ibrahim et al., Mol. Microbiol., 77:587-604 (2010))を用いて、R. oryzae内のCotH2およびCotH3発現を阻害した。CotH2およびCotH3に共通する450bp断片をPCR増幅し、Rhizopus発現ベクターpPdcA−Exの制御下で逆方向反復としてクローニング化させた(Mertens et al., Archives of microbiology 186:41-50 (2006))。さらに、Rhizopus pdcA遺伝子(Skory, Curr. Microbiol., 47: 59-64 (2003))のイントロンを反復間に含めて、対象とするdsRNA構造の安定化を図るリンカーとして機能させた(Nakayashiki et al., Fungal Genet. Biol., 42:275-283 (2005); Wesley et al., Plant J., 27:581-590 (2001))。遺伝子銃式送達システム(Skory, Mol. Genet. Genomics 268: 397-406 (2002))(BioRad)を用いて、生成プラスミドを形質転換させてR. oryzae pyrF突然変異体とし、この形質転換体をウラシル無添加の最少培地上で選択した。
CotH発現S. cerevisiaeによるGRP78の結合
CotH1、CotH2、CotH3、または空のプラスミドを発現しているS. cerevisiae細胞(8×108)を冷蔵庫内に入れ、1.5%n−オクチル−β−D−グルコピラノシドおよびプロテアーゼ阻害剤を添加したPBS−CM中において250μgのビオチン標識内皮細胞表面タンパク質と一緒に1時間培養させた。このバッファを用いて3回洗浄することによって、非結合内皮細胞タンパク質を洗い流した。真菌細胞との結合状態を維持している内皮細胞タンパク質を6M尿素(Fluka)を用いて2回溶離させ、その上清を組み合わせ、適当な体積となるようMicrocon遠心濾過器(10,000MWCO、Millipore)を用いて濃縮させた。その後、内皮細胞タンパク質を10%SDS−PAGE上で分離し、PVDF−plus膜(GE Water& Process Technologies)へと移した。膜をそれからWestern Blocking Reagent(Roche)によって処理し、そして、ウサギ抗GRP78抗体(Abcam)を用い、その後にHRP共役ヤギ抗ウサギIgG(Pierce)の第2抗体を用いることによってプローブした。SuperSignal West Dura Extended Duration Substrate(Pierce)と一緒の培養後、CCDカメラを用いて信号を検出した。
真菌と内皮細胞またはCHO細胞との相互作用
上述の微分蛍光アッセイ法(Ibrahim et al., Infect. Immun., 63:4368-4374 (1995))を変更したものを用いて、内皮細胞またはCHO細胞に取り込まれる有機体の数を決定した。簡潔に説明すれば、24ウェル細胞培養プレート内の12mmガラスカバースリップをフィブロネクチンで少なくとも4時間コーティングし、内皮細胞またはCHO細胞をコンフルエントとなるまで播種した。これを予め温めておいたHBSSによって2回洗浄した。その後、1時間発芽させておいたRPMI 1640培地内において、CotHまた:はR. oryzaeを発現しているS. cerevisiaeの細胞105個を上記細胞に感染させた。3時間の培養後、細胞を3%パラホルムアルデヒド中に固定させ、真菌細胞壁のキチンと特異的に結合する1%Uvitex(Jay Isharani, Ciba-Geigy, Greensboro, N.C.から提供)を用いて1時間染色を行った。PBSを用いて3回洗浄を行った後、少量のProLong Gold退色防止試薬(Molecular Probes)を滴下したスライドガラス上にカバースリップを載置し、マニキュア液で封止した。細胞結合有機体(すなわち、単層に付着している胞子発芽体)の総量を位相コントラスト技法によって決定した。同一の領域を落射蛍光顕微鏡によって検査し、非吸収胞子発芽体(これらは明るく蛍光発光している)の数を決定した。可視有機体の総数から蛍光有機体の数を引いて、取り込まれた有機体の数を算出した。各スライド上の20〜40個の異なる領域内において少なくとも400個の有機体が数えられた。各アームにつき2つのスライドを各試験に使用し、各試験を異なる日に3通り行った。
クロム(51Cr)遊離試験(Ibrahim et al., J. Infect. Dis., 198:1083-1090 (2008))によって、R. oryzaeが引き起こす内皮細胞またはCHO細胞の細胞傷害を定量化した。簡潔に説明すれば、着脱可能な壁を含む96ウェル組織培養プレート内で増殖させた内皮細胞またはCHO細胞を各壁につき1μCiのNa2 51CrO4(ICN, Irvine, CA)と一緒にM−199培地またはAlpha最小Eagle培地(CHO細胞用)内で16時間培養させた。試験当日、取り込まれずにいる51Crを吸引し、96ウェルを温Hanks平衡塩類溶液(Irvine Scientific, Irvine, CA)で2回洗浄した。細胞に対して、グルタミンを添加した150μlのRPMI 1640培地(Irvine Scientific)内で懸濁させた真菌胞子発芽体(1時間発芽させた1.5×105)を感染させた。R. oryzae不在下で内皮細胞またはCHO細胞をグルタミン添加RPMI 1640培地内で培養させることによって、51Crの自然放出を決定した。5%CO2培養器内で37℃で3時間の培養後、各ウェルから培地の50%を吸引してガラス管へと移し、細胞を手作業で分離させ、他のガラス管組内に載置した。吸引物および分離壁中の51Crの量をガンマカウンティング法によって決定した。各ウェル内の内皮細胞に取り込まれた51Crの総量は、吸引した培地の毎分の放射性カウント数と対応する分離壁の毎分の放射性カウント数との合計に等しかった。各ウェル内に取り込まれたトレーサ量の変化についてデータ補正を行った後、内皮細胞の特異的な51Cr放出を次の式によって算出した:[(実験的放出×2)−(自然放出×2)]/[総取り込み−(自然放出×2)]。各実験条件を少なくとも3通り試験し、実験を少なくとも1回繰り返した。
R. oryzaeが引き起こす付着、エンドサイトーシス、または傷害の抗体遮断に関しては、R. oryzae胞子発芽体の添加前に内皮細胞を50μgの抗CotH抗体(精製IgG)と、または抗原性であることが予測されるCotH3ペプチドのワクチン接種前の同一のウサギから取得した血清と一緒に1時間培養する点を除いて、上述の方法でアッセイを行った。
in vivo病原性研究
in vivo研究に関しては、ICR雄マウス(>20g)(Taconic Farms)は、真菌感染させる10日前に190mg/kgのストレプトゾトシンを0.2mlのクエン酸塩緩衝剤中に単一i.p.注入したDKAにした(Ibrahim et al., Antimicrob. Agents Chemother., 47:3343-3344 (2003))。ストレプトゾトシン処理から7日経過後、全てのマウスにおいて糖尿およびケトン尿が確認された。糖尿病性ケトアシドーシスマウスは、ケタミン(66mg/kg)およびキシラジン(4.8mg/kg)と2.5×105の標的接種材料とを用いた鎮静後、気管内経路で真菌胞子に感染していた。接種材料を確認するために、植菌直後の3系統のマウスから摘出した肺をPBS内で均質化し、0.1%トリトンを含むPDAプレート上で定量的に培養し、37℃で24時間の培養期間後にコロニーの数をカウントした。有効性の主要評価項目は瀕死状態に至るまでの時間とした。一部の実験では、副次的評価項目として、感染から2日経過後に肺および脳(主要標的器官)内の真菌負担を上述のqPCRアッセイ法(Ibrahim et al., Antimicrob. Agents Chemother., 49:721-727 (2005))で決定した。値を組織のlog10胞子相当/gとして示す。10%亜鉛ホルマリン内に固定後、採取器官の切片に対して組織病理学検査を行った。固定後の採取器官をパラフィン内に埋め込み、R. oryzae hyphaeを検出するように5mmの切片をヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)またはパス染色(Ibrahim et al., J. Clin. Invest., 117:2649-2657 (2007))で染色した。
CotH遺伝子のin vivo発現に関しては、野生型R. oryzaeまたは空のプラスミドまたはRNA−iコンストラクトによって変異させた変異体に気管内経路感染してから48時間経過後のマウスから摘出した肺および脳を液体窒素およびTri Reagent溶液(Ambion)を用いたRNA抽出処理で急速冷凍させた。表3に列挙するプライマーを使用し、RETROscript(Ambion)による逆転写を行った。定量RT−PCRに関しては、SYBRグリーンアッセイを行った。構成的に発現したACT1を全反応のコントロールとして使用した。ABI PRISM 7000 Sequence Detection System User Bulletin 2(Applied Biosystems)を用いて算出および統計分析を行った。
受動免疫法
CotHタンパク質に対する抗体によってマウスがムコール菌症から保護されるか否かを検出するために、糖尿病ケトアシドーシス性マウスを上述の方法で気管内経路感染させる2時間前に、GAGKKHNNAKQSWNW(配列番号19)またはMGQTNDGAYRDPTDNNK(配列番号40)に対して産生したウサギ精製抗CotH IgG1mgを腹腔内投与して、当該マウスに免疫性を与えた。コントロールマウスを同様に感染させたが、CotH3ペプチドによるワクチン接種前に同一のウサギ由来の同様の投与量を与えた。感染から3日経過後、抗体またはコントロール血清の反復投与(ワクチン接種前)を導入した。有効性の主要評価項目は瀕死状態に至るまでの時間とした。
統計分析
ノンパラメトリックWilcoxon順位和検定によって、CotH発現上の差異および真菌−内皮細胞間の相互作用上の差異を比較した。生存時間の差異を決定するよう、ノンパラメトリックログランク検定を使用した。<0.05のP値との比較は有意であると考慮した。
結果
内皮細胞GRP78と結合する推定R. oryzaeリガンドの単離
内皮細胞GRP78と結合するR. oryzaeリガンドを特定するために、R. oryzae胞子発芽体のプロトプラストの上清由来の細胞壁材料を回収した(Michielse et al., Mol. Genet. Genomics, 271:499-510 (2004))。浸透安定剤(たとえば、ソルビトール)の存在下でプロトプラストを培養することによって細胞壁の再生が可能になり、再生時に細胞壁の構成要素が上清中に放出される(Pitarch et al., Mol. Cell. Proteomics, 5:79-96 (2006); Pitarch et al., Electrophoresis, 20:1001-1010 (1999))。2時間の培養期間(Michielse et al., Mol. Genet. Genomics, 271:499-510 (2004))経過後、プロトプラストをペレットし、上清をプロテアーゼ阻害剤の存在下で殺菌した。上清を濃縮し、タンパク質濃度を測定した。プロトプラストの不在以外は同様の方法によって負のコントロールサンプルの処理を行った。組み換えヒトGrp78および抗Grp78Abを用いたFARウエスタンブロット分析法(Wu et al., Nat. Protoc., 2:3278-3284 (2007))によって、Grp78と結合したR. oryzaeのプロトプラストの回収上清には4つの帯域が存在していることが判明した(図51A)。MALDI−TOF−MS/MS分析によるタンパク質特定のためにバンドを摘出した。細胞表面タンパク質であると予測された4つのORFのみが、c末端のGPIアンカー配列と、N末端の信号配列と、複数の予測N−およびO−糖鎖付加部位とによって識別された。ORFの3つ(すなわち、RO3G_05018、RO3G_08029、およびRO3G_11882)は、幾つかの種類の細菌由来の胞子殻形成に関与しているタンパク質のCotH族に対して、アミノ酸レベルにおいて17%という限られた同一性を有している(Giorno et al., J. Bacteriol., 189:691-705 (2007); Naclerio et al., J. Bacteriol., 178:6407 (1996))。これらをCotH1(RO3G_05018)、CotH2(RO3G_08029)、およびCotH3(RO3G_11882)と命名した。4つ目のORF RO3G_16295は、特定され機能を持たずに多くの真菌および一部の細菌に広く存在している。CotH2およびCotH3は、アミノ酸レベルの同一性が77%であり、互いに近縁関係にある一方、CotH1はより遠縁関係にある(図51b)。4つ目のORFの他の3つのCotHタンパク質に対するアミノ酸レベルの全体的な同一性は10%である。R. oryzae(delemar)99880ゲノムデータベースの検索後、2つのより関連性の高いORF(アミノ酸レベルで66%の同一性)を見出した。2つのORFはGPI結合タンパク質をコードすると予測された。2つのORF(RO3G_09276およびRO3G_01139)は、CotH1、CotH2、およびCotH3タンパク質に対する同一性が低かった(アミノ酸レベルで20%〜24%)。ORFをそれぞれCotH4およびCotH5と命名した。
ヒトムコール菌症を引き起こすことが知られている他のケカビ目に上記遺伝子族が存在している可能性についても検査した。CotH3 ORF全体(1.9kb)に亘るプライマーを使用し、臨床分離株(R. oryzae 99〜892、Mucor sp. 99〜932、Lichtheimia corymbifera、Cunninghamella bertholletiae、およびRhizomucorを含む)からバンドを増幅させた。PCR増幅させた帯域の配列分析によって、R. oryzae 99〜880 CotH3に対するヌクレオチドおよびアミノ酸レベルの同一性が90%を超えることが明らかになった。これらの研究は集合的に、ムコール菌症の病因に対するCotH遺伝子族の独自性を示すものである。
CotH2およびCotH3はR. oryzaeおよび内皮細胞の相互作用時に発現する
本願開示の結果に基づき、いずれかの単離タンパク質がGRP78に対する真菌リガンドを示す場合、当該単離タンパク質はR. oryzaeおよび内皮細胞の相互作用時に発現する筈である仮定した。R. oryzaeは胞子発芽体内にあるうちに内皮細胞GRP78を結合するため、胞子または胞子発芽体内における4系統のORFの発現を研究した。CotH遺伝子は全て胞子状態で発現したが、CotH3のみはR. oryzaeの胞子発芽体内で発現した。重要なことに、R. oryzaeの胞子発芽体を内皮細胞と一緒に培養させた場合、CotH2およびCotH3の両方が発現し(図52B)、CotH3はCotH1およびCotH2と比較してそれぞれ16倍および4倍に増大していた(図52C)。最終的に、4系統目のORF_R03Gは、R. oryzaeの胞子または胞子発芽体(図52A)または内皮細胞と相互作用しているR. oryzaeの胞子発芽体(図52B)では発現しなかった。これらの結果によって、CotH3および、より低度ではあるがCotH2は、ヒト細胞内への侵入時にGRP78と相互作用する推定候補であることが示された。
GRP78と結合し、かつGRP78過剰発現内皮細胞およびCHO細胞に付着して侵入している、CotH2またはCotH3発現S. cerevisiae細胞
GRP78レセプターとの相互作用においてCotH1、CotH2、およびCotH3が担う役割を研究するために、CotH2またはCotFBを非付着性かつ非侵入性のS. cerevisiae内で異種発現させた。内皮細胞GRP78を特異的に結合することを可能にする能力について形質転換酵母細胞を試験した。抗原性を有し、かつ表面発現していることが予測される2系統のCotFBペプチド(GAGKKHNNAKQSWNW(配列番号39およびMGQTNDGAYRDPTDNNK(配列番号40))に対して生成した抗体は、CotFB発現S. cerevisiaeを認識し、より低度ではあるがCotH2発現S. cerevisiaeについても認識したが、CotHl発現S. cerevisiaeは認識しなかった(図53)。CotFB発現S. cerevisiaeは、主に内皮細胞膜タンパク質の抽出物由来のGRP78を結合した。CotH2発現酵母細胞はまた、同一の抽出物由来のGRP78をも結合したが、CotHl発現S. cerevisiaeは結合しなかった(図54)。これらの結果は、CotH3および(より低度において)CotH2はR. oryzaeによる内種皮への侵入時に内皮細胞GRP78と相互作用していたことを示した。この仮定を裏付けるために、in vitroの内皮細胞に付着して侵入する形質転換酵母細胞の能力を検査した。
空プラスミドと比較して、CotHl発現S. cerevisiaeにおける内皮細胞への付着またはエンドサイトーシス(侵入)は向上していなかった。対照的にCotH2またはCotH3発現酵母細胞は、CotHl発現S. cerevisiaeまたは空プラスミドによる形質転換S. cerevisiaeと比較して、内皮細胞への付着および侵入が複数倍に増大していた(図54B)。重要なことに、CotH2発現酵母細胞と比較して、CotH3発現細胞は、内皮細胞に付着して侵入することを可能にする能力が著しく高くなっていた。こうした内皮細胞に対する付着および侵入の向上はGRP78との相互作用に起因するものか否かを検査するために、親CHO細胞に対して付着して侵入することを可能にするCotH1、CotH2、CotH3、または空プラスミド発現S. cerevisiaeの能力をGRP78過剰発現CHO細胞と比較した(Morris et al, J. Biol. Chem., 272:4327-4334 (1997); Reddy et al, J. Biol. Chem., 278:20915-20924 (2003))。
CotH2またはCotH3発現酵母細胞のみが、GRP78過剰発現CHO細胞に対する付着および侵入が著しく増大していた(図54C)。CotH1、CotH2、またはCotH3発現酵母細胞については、親CHO細胞に結合して侵入することを可能にする能力が示されなかった。これらのデータは全体として、CotH3および(より低度であるが)CotH2は内皮細胞GRP78との相互作用時のR. oryzaeのアドヘシン/インバシンを表していることを示していた。
CotH3タンパク質はR. oryzaeのインバシンである
R. oryzaeが内皮細胞の細胞障害を引き起こすために真菌のエンドサイトーシスが必須条件であることが既に示されてきている(Ibrahim et al., Infect. Immun. 73:778-783 (2005); Liu et al, J. Clin. Invest, 120: 1914-1924 (2010))ため、R. oryzae誘起エンドサイトーシスおよびその後の細胞障害から内皮細胞を保護するためのCotH3機能または発現の阻止を検査する。ウサギ抗CotH3ポリクローナル抗体(同一動物から回収される免疫前血清ではない)を添加することによってR. oryzae胞子発芽体のエンドサイトーシス(付着ではない)を無効化した(図55A)。抗CotH3抗体を用いて、R. oryzae胞子発芽体が引き起こす内皮細胞の損傷を低減(>40%)させた(図55B)。
抗体阻止の研究を補足するために、付着、エンドサイトーシス、および内皮細胞損傷への影響を決定するようにCotH3およびCotH2発現を抑制した。上述のRNA−i方法(Ibrahim et al., Mol. Microbiol, 77:587-604 (2010))を用いて、1つのコンストラクト内の両遺伝子を抑制するように〜400bp断片を使用した。空プラスミドで形質転換したR. oryzae pyrf突然変異体と比較して、PyrFを選択マーカーとして含むRNA−iコンストラクトによって形質転換したR. oryzae pyrf突然変異体(すなわち、Trans 2およびTrans 3)の2つのコロニー内に存在するCotH2およびCotFB(Skory and Ibrahim, Curr. Genet. 52:23-33 (2007))の発現をほぼ全体的に無効化した(図56A)。
次に、本願記載の抗CotH3ポリクローナル抗体を用いたフローサイトメトリー法によって、構築した突然変異体上のCotH2およびCotFBの細胞表面発現を分析した。RNA−iコンストラクトによって形質転換させたR. oryzaeは、野性型R. oryzaeまたは空プラスミドによって形質転換させたR. oryzaeと比較して、より少量の細胞表面CotH2およびCotFBタンパク質を発現した(図56B)。これらRNA−i形質転換体は、野性型の細胞または空プラスミドによる形質転換細胞と比較した場合において増殖速度、細胞サイズ、または発芽に差異がなかった(図56C)。しかし、R. oryzaeのCotH2およびCotH3の細胞表面発現を減少させた結果、R. oryzae胞子発芽体の内皮細胞エンドサイトーシスおよびその後の内皮細胞損傷が著しく低減した(図57Aおよび57B)。これらの結果は、R. oryzaeが内皮細胞へ最大限侵入するためにCotH3およびCotH2が必要であることを示していた。
CotH3およびCotH2がGRP78との結合を介してインバシンとして機能することをさらに証明するために、GRP78過剰発現CHO細胞または(GRP78過剰発現型以外の)親CHO細胞に対して細胞損傷を引き起こすことを可能にする、CotH3およびCotH2のRNA−iコンストラクトを有するR. oryzaeの胞子発芽体の能力を、空プラスミドで形質転換したR. oryzaeまたは野生型R. oryzae細胞(Morris et al, J. Biol. Chem., 272:4327-4334 (1997); Reddy et al, J. Biol. Chem., 278:20915-20924 (2003))と比較した。上述のように(Liu et al, J. Clin. Invest., 120: 1914-1924 (2010))、野生型R. oryzaeは、CHO親細胞と比較して、GRP78過剰発現CHOに対して相当大きな細胞損傷を引き起こした。空プラスミドで形質転換したR. oryzae胞子発芽体が引き起こした細胞損傷の同様のパターンによって、これらの結果をさらに確認した。対照的に、GRP78過剰発現CHO細胞およびCHO親細胞は、CotH3およびCotH2の細胞表面発現が低減したR. oryzae胞子発芽体が引き起こす損傷の影響を同等に受け易かった(図57C)。結果は全体として、CotH3およびCotH2は、GRP78との結合を介して内皮細胞への侵入(エンドサイトーシス)を媒介する細胞表面タンパク質であることを示す。
CotH2およびCotH3は、in vivoのR. oryzaeの全病原性に必要である
CotH3およびCotH2が内皮細胞のインバシンとして機能するので、これらの二系統の遺伝子が病原性の主要な決定因子であると仮定した。この仮説を検証するために、器官内感染した糖尿病性ケトアシドーシスマウスモデルを用いて、CotH2およびCotH3の細胞表面発現を低減したR. oryzaeの病原性を野生型R. oryzaeまたは空プラスミドで形質転換したR. oryzaeと比較した。初期感染がモデルの肺に植菌することによって開始するにも関わらず、当該感染は脳などの他の標的器官に血行性転移する。空プラスミドを有する細胞は、野性型R. oryzae細胞と同程度に悪性である(野性型および空プラスミドによる感染マウスの生存時間の中央値はそれぞれ3日および4日であり、P=0.33)。対照的に、RNAi形質転換体に感染したマウスは病原性が弱毒化しており、これは生存時間の中央値が10日であったこと、および1/3のマウスが致命的感染を生き延びたこと(P=0.33)によって示された(図58A)。さらに、RNA−i形質転換体に感染したマウスでは、野性型細胞に感染したマウスまたは空プラスミドによる形質転換体に感染したマウスから摘出した同一器官と比較した場合、肺および脳(一次標的器官および二次標的器官)内の真菌量が著しく減少していた(図58B)。
RNA−iコンストラクトによって形質転換させたR. oryzaeに感染したマウスに観察される弱毒性はCotH2およびCotH3が実際に阻害されていることに起因することをさらに証明するために、マウスの標的器官から採取した菌糸体内においてこれら遺伝子のin vivo発現を評価した。野生型R. oryzae、または空プラスミドまたはRNA−iコンストラクトによって形質転換させたR. oryzaeに感染しているマウスでは、CotH1は発現していなかった。これと対照的にCotH2では、野生型R. oryzaeまたは空プラスミドで形質転換させたR. oryzaeに感染しているマウスの肺および脳内の発現量において、CotH1と比較してそれぞれ4倍および2倍の増大を示した(図58C)。さらに、CotH3はCotH2と比較して、野性型R. oryzaeまたは空プラスミドで形質転換させたR. oryzaeに感染しているマウスの肺内での発現が著しく増大していた。なお、このようなCotH3の発現の増大はマウスの脳内では確認されなかった。最後に、RNA−iコンストラクトによって形質転換させたR. oryzaeに感染しているマウスから採取した真菌細胞では、いずれのCotH遺伝子も発現していなかった(図58C)。これらの結果は、CotH2およびCotH3はin vivoで発現しており、RNA−iコンストラクトによって形質転換させたR. oryzaeに感染しているマウス内の病原性の低減はいずれのCotH遺伝子も発現が欠如していることに起因していることを示す。
感染の重症度を比較するために、3つの異なる株に感染したマウスの器官について組織病理学検査を行った。RNA−iコンストラクトによって形質転換したR. oryzaeに感染したマウスから採取した肺では、野生型R. oryzaeまたは空プラスミドによって形質転換したR. oryzaeに感染したマウスから採取した肺と比較して、正常な組織像が示された。なお、野生型R. oryzaeまたは空プラスミドによって形質転換したR. oryzaeに感染したマウスから採取した肺では、食細胞浸潤および実質的な浮腫によって特徴付けられる真菌腫瘍が多く存在していた(図59)。
抗CotH3p抗体はR. oryzae感染から糖尿病性ケトアシドーシス罹患マウスを保護する
上述のデータから、CotH2タンパク質およびCotH3タンパク質が哺乳類細胞に対するインバシンとしてin vitroで機能することが示され、かつ、CotH2およびCotH3は、気管内接種が起こすマウスモデルの血行性播種感染のR. oryzaeの完全毒性に対して必要であったので、GAGKKHNNAKQSWNW(配列番号39)またはMGQTNDGAYRDPTDNNK(配列番号40)のペプチドに対して発生する抗CotH3抗体および抗CotH2抗体の使用を、疾病に対する保護作用(これら2つのペプチドに対して発生する抗体は、CotH2タンパク質発現S. cerevisiaeまたはCotH3タンパク質発現S. cerevisiaeを認識した)について調査した。糖尿病性ケトアシドーシス罹患マウスをR. oryzae胞子に気管内感染させる2時間前および感染から3日経過後に、当該マウスに対して1mgのポリクローナル抗体を投与した。抗CotH2ウサギIgGおよび抗CotH2ウサギIgGを投与されたマウスの生存時間は、同じウサギから作製したワクチン接種前の血清を投与されたウサギと比較して著しく向上した。感染から21日目の生存率に関しては、GAGKKHNNAKQSWNW(配列番号39)のペプチドに対して産生された抗体の投与を受けたマウスでは44%であったが、ワクチン接種前のコントロールIgGの投与を受けたマウスでは0%であった(図60A)。さらに、感染から14日目の生存率に関しては、MGQTNDGAYRDPTDNNK(配列番号40)のペプチドに対して産生された抗体の投与を受けたマウスでは75%であったが、ワクチン接種前のコントロールIgGの投与を受けたマウスでは0%であった(図60B)。これらの結果は、ムコール菌症を治療するために、CotHタンパク質を標的とする抗体を使用できることを示す。
〔実施例III〕
ムコール菌症検出の診断方法
核酸配列系増幅(NASBA)法の検出能力を決定するように一連の実験を行った。Rhizopus oryzaeの総NAを鋳型として用いて127bpのCotH3を増幅するようにNASBAプライマー組を設計した。
CotH3順方向プライマー:5’−GATGACAATTATATTCCCAGC−3’(配列番号35)
CotH3逆方向プライマー:5’−GAGTAGACGTAATTAGATCCAA−3’(配列番号36)
分子指標プローブ:5’−CGCGATCAAACGTACCTGCTGACCGAATCGATCGCG−3’(配列番号38)
RNeasy(登録商標) Plant Mini Kit (Qiagen)を製造者の指示に従って使用し、Aspergillus fumigatus、Candida albicans、およびRhizopus oryzae由来のRNAの単離を行った。NASBA反応に対して、4つのR. oryzae胞子(それぞれ10、100、1000、10000胞子)から単離した総RNAを添加した。
Rhizopus spp.に対する分子指標の特異性を試験するために、C. albicansおよびA. fumigatusから単離したRNAをコントロールとして使用した。各反応に300ngの総RNAを添加した。NucliSENS EasyQ Basic kit v2(bioMerieux bv, Boxtel, NL)を製造者の指示に従って使用してNASBA反応を行った。簡潔に説明すれば、NASBA反応体積はMicroAmp(登録商標) 96-Well Reaction Plate(Applied Biosystems)内において20μl(反応毎)であり、5.4μlの滅菌水、0.4μlの各プライマー、0.2μlのプローブ、4μlの5×NASBAバッファを含んでいた。予め混ぜておいた混合体に5μlの精製RNA(300ng)または水(鋳型コントロールを調製しない場合)を添加した。その後に反応混合物を65℃で5分間培養し、5分間掛けて41℃まで冷まし、その後、NucliSENS EasyQ Basic kit v2由来の5μlの酵素混合を添加した。この混合は、T7 RNAポリメラーゼ、AMV−RT(トリ骨髄芽球症ウイルス逆転写酵素)、RNase H、およびBSA(ウシ血清アルブミン)を含んで構成されている。反応物を41℃で90分間培養した。StepOnePlus Real-Time PCR machine(Applied Biosystems)を用いて蛍光シグナルを測定した。
上述のNASBA増幅分析法を用いたところ、CotH3の分子指標プライマー/プローブが示す真菌の検出(すなわち、R. oryzaeに対する特異性)は異なるものであった。R. oryzaeを添加したサンプルから得られたアプリケーション生成物は直ちに増幅を示し、A. fumigantsまたはC. albicansを添加したサンプルから得られた増幅生成物は検出されなかった(図61)。
CotH3の分子指標プライマー/プローブはR. oryzaeの高感度検出を示した。真菌胞子を、撹拌しながらYPD培養液中において37℃で3時間発芽させた。10〜105個の胞子発芽体を含む10μlのサンプルを250μlのヒツジ血液中に加えた。RNeasy Plant Mini Kit(Qiagen)を用いて添加後の血液サンプルから総RNAを単離し、これを30μlの溶出バッファ中に溶出させた。5マイクロリットルの総RNAを各NASBA反応物に添加した。僅か10の胞子発芽体と一緒に培養したサンプルを含む全サンプル内においてアプリフィケーション結果物を検出した(図62)。
CotH3の分子指標プライマーは、R. oryzaeの高感度検出だけでなく、ロバスト(robust)な特異性も示した。新鮮なR. oryzae、A. fumigatus、およびC. albicans胞子を回収し、その数をカウントし、10μlのYPD培養液中にそれぞれアリコートした。350μlのヒツジ血液を各管内に添加し、37℃の攪拌機で24時間培養させた。RNeasy Plant Mini Kit(Qiagen)を用いて総RNAを単離し、これを30μlの溶出バッファ中に溶出させた。5マイクロリットルのRNAを各NASBA反応物に添加した。A. fumigatusまたはC. albicansの106の胞子と一緒に培養したサンプル内では増幅結果物を検出されなかったが、R. oryzaeの10〜104の胞子と一緒に培養した各サンプルは検出できた(図63)。
CotH3の分子指標プライマー/プローブは、複数のクモノスケカビ属種の検出を示した。新鮮なR. oryzae(99〜880および99〜892単離体)およびR. microsporus胞子(各々1000胞子)を10μlのYPD培養液中にアリコートした。350μlのヒツジ血液を各管内に添加し、37℃の攪拌機で24時間培養させた。RNeasy Plant Mini Kit(Qiagen)を使用して総RNAを単離し、これを30μlの溶出バッファ中に溶出させた。5マイクロリットルのRNAを各NASBA反応物に添加した。R. oryzae99〜892の胞子を含むサンプルが検出できたのみならず、R. oryzae99〜880(R1000)およびR. microspores(ATCC62417)を含むサンプルが増幅を示した(図64)。これらの結果は、R. oryzaeのCotH遺伝子から設計したプライマーは、Mucorales間に見られるCotH遺伝子の保存特性を確認することによってR. oryzaeの他の株およびクモノスケカビ属の他の種を検出できたことを示す。
本願全体を通して多様な刊行物を参考文献として載せた。本発明が属する技術分野の最先端技術をより完全に記載することを目的として、これら刊行物を参照することによってその開示内容全体を本願に援用する。また、上述の例に準拠して本発明を説明したとはいえ、本発明の精神から逸脱することなく多様な変更を加えることもできることを理解すべきである。
細胞表面タンパク質であることが予測される4つのオープンリーディングフレーム(ORF)のFARウエスタンブロットを示す。
R. oryzae胞子以外の胞子発芽体に対するGRP78の結合を示す。
GRP78に対するリガンドとしての働きをすることが予測される4つの結合グリコシルホスファチジルイニソトール(GPI)の発現を示す。
パネルAおよびBは、内皮細胞と一緒に培養させたR. oryzae胞子発芽体におけるCotH遺伝子の発現を示す。
CotH3における4つの推定GPI結合タンパク質の互いに対する相同性および予測N−およびO−糖鎖付加部位の数を示す。
のパネルAは、樹脂以外のヒト臍帯内皮細胞に対するR. oryzaeの付着能を示す。また、Saccharomyces Cerevisiaeは内皮細胞に付着しない。パネルBは、S. cerevisiaeがGRP78発現内皮細胞と結合できるR. oryzaeのCotH2およびCotH3を示す。
CotH3が多様なケカビ目(R. oryzae 99〜880、R. oryzae 99〜892、Mucor sp.、Lichtheimia corymbifera、Cunninghamella bertholetiae、およびR. microsporusを含む)において保存されている。
パネルAおよびBは、CotH2またはCotH3発現S. cerevisiaeがCHO親細胞以外のCGRP78過剰発現内皮細胞またはCHO細胞に付着して侵入していることを示す。
R. oryzae由来のCotH1のアミノ酸配列(配列番号1)および核酸コード配列(配列番号2)を示す。
R. oryzae由来のCotH2のアミノ酸配列(配列番号3)および核酸コード配列(配列番号4)を示す。
R. oryzae由来のCotFBのアミノ酸配列(配列番号5)および核酸コード配列(配列番号6)を示す。
R. oryzae由来のRO3G_16295のアミノ酸配列(配列番号7)および核酸コード配列(配列番号8)を示す。
配列番号33および34に示す核酸配列を有するオリゴヌクレオチドプライマーを用いたPCR法による、R. oryzaeでスパイクしたヒツジ血液中のCotH3の検出を示す。
配列番号33および34に示す核酸配列を有するオリゴヌクレオチドプライマーを用いたPCR法による、Mucor sp.またはLichtheimia corymbiferaでスパイクしたヒツジ血液中のCotH3の検出を示す。
配列番号33および34に示す核酸配列を有するオリゴヌクレオチドプライマーを用いたPCR法による、Cunninghamella bertholetiaeまたはR. microsporusでスパイクしたヒツジ血液中のCotH3の検出を示す。
配列番号33および34に示す核酸配列を有するオリゴヌクレオチドプライマーを用いたPCR法による、Aspergillus fumigatesまたはCandida albicansを添加したヒツジ血液中のCotH3の非検出を示す。
Stigmatella aurantiaca由来のタンパク質(ZP_01460584)のアミノ酸配列(配列番号65)に対する任意のCotH予測タンパク質(この場合ではCotH3[R03G_11882]配列番号5)の最も高い相同性を示す。
R. oryzae由来のRO3G_16295タンパク質(配列番号66)とTalaromyces stipitatus ATCC10500(EED23986)タンパク質(配列番号67)との間のアミノ酸配列アラインメントを示す。
R. oryzae由来のRO3G_16295タンパク質(配列番号66)とPenicillium marneffei ATCC18224(XP_002144175)タンパク質(配列番号68)との間のアミノ酸配列アラインメントを示す。
R. oryzae由来のRO3G_16295タンパク質(配列番号66)とAspergillus niger(XP_001392236)タンパク質(配列番号69)との間のアミノ酸配列アラインメントを示す。
R. oryzae由来のRO3G_16295タンパク質(配列番号66)とAspergillus nidulans(XP_658934)タンパク質(配列番号70)との間のアミノ酸配列アラインメントを示す。
R. oryzae由来のRO3G_16295タンパク質(配列番号66)とUstilago maydis(XP_760027)タンパク質(配列番号71)との間のアミノ酸配列アラインメントを示す。
R. oryzae由来のRO3G_16295タンパク質(配列番号66)とCoccidioides immitis(XP_001243211)タンパク質(配列番号72)との間のアミノ酸配列アラインメントを示す。
R. oryzae由来のRO3G_16295タンパク質(配列番号66)とNeurospora crassa(XP_956792)タンパク質(配列番号73)との間のアミノ酸配列アラインメントを示す。
R. oryzae由来のRO3G_16295タンパク質(配列番号66)とCryptococcus neoformans(XP_775558)タンパク質(配列番号74)との間のアミノ酸配列アラインメントを示す。
R. oryzae由来のRO3G_16295タンパク質(配列番号66)とStreptomyces lividans(EFD65170)タンパク質(配列番号75)との間のアミノ酸配列アラインメントを示す。
Rhizopus oryzae 99〜880由来のCotH3(データベース内のイントロンを含む)の核酸配列(配列番号9)を示す。
Rhizopus oryzae 99〜880由来のCotH3(データベース内のエクソンのみ)の核酸配列(配列番号10)を示す。
Rhizopus oryzae 99〜880由来のCotH3(予測アミノ酸)のアミノ酸配列(配列番号11)を示す。
Rhizopus oryzae 99〜880由来のCotH3(配列データ内のイントロンを含む)の核酸配列(配列番号12)を示す。
Rhizopus oryzae 99〜892由来のCotH3(配列データ内のエクソンのみを含む)の核酸配列(配列番号13)を示す。
Rhizopus oryzae 99〜892由来のCotH3(配列データ内のイントロンを含む)の核酸配列(配列番号14)を示す。
R. oryzae 99〜892由来のCotH3(イントロンを除く)の予測アミノ酸配列(配列番号15)を示す。
R. oryzae 99〜892由来のCotH3(イントロンを含む)の予測アミノ酸配列(配列番号16)を示す。
Mucor sp.99〜932由来のCotH3配列(配列データ内のエクソンのみ)の核酸配列(配列番号17)を示す。
Mucor99〜932由来のCotH3(AAエクソンのみ)の予測アミノ酸配列(配列番号18)を示す。
Mucor99〜932由来のCotH3(イントロンを含む)の核酸配列(配列番号19)を示す。
Mucor99〜932由来のCotH3(イントロンを含む)の予測アミノ酸配列(配列番号20)を示す。
Lichtheimia corymbifera由来のCotH3(配列データ内のエクソンのみ)の核酸配列(配列番号21)を示す。
Lichtheimia corymbifera由来のCotH3(配列データ内のエクソンのみ)の予測アミノ酸配列(配列番号22)を示す。
Lichtheimia corymbifera由来のCotH3(イントロンを含む)の核酸配列(配列番号23)を示す。
Lichtheimia corymbifera由来のCotH3(イントロンを含む)の予測アミノ酸配列(配列番号24)を示す。
Cunninghamella bertholetiae由来のCotH3配列(エクソンのみ)の核酸配列(配列番号25)を示す。
Cunninghamella bertholetiae由来のCotH3(配列データ内のエクソンのみ)の予測アミノ酸配列(配列番号26)を示す。
Cunninghamella bertholetiae由来のCotH3(イントロンを含む)の核酸配列(配列番号27)を示す。
Cunninghamella bertholetiae由来のCotH3(配列データ内のイントロンを含む)の予測アミノ酸配列(配列番号28)を示す。
R. microsporus由来のCotH3(配列データ内のエクソンのみ)の核酸配列(配列番号29)を示す。
R. microsporus由来のCotH3(配列データ内のエクソンのみ)の予測アミノ酸配列(配列番号30)を示す。
R. microsporus由来のCotH3(イントロンを含み、イントロンを1つのみ含む)の核酸配列(配列番号31)を示す。
R. microsporus由来のCotH3(イントロンを含む)の予測アミノ酸配列(配列番号32)を示す。
パネルAおよびBは、GRP78と結合するR. oryzae表面タンパク質のFARウエスタンブロット(パネルA)、および、CotH2予測タンパク質およびCotH3予測タンパク質の近接な同一性と、真菌類に広く存在している、特定機能を有さない4番目の特定ORF(たとえば、R03G_16295)からのCotHタンパク質の分岐とを示す系統樹(パネルB)を示す。
パネルA〜Cは、発芽および宿主細胞との相互作用に反応して起きるCotH遺伝子およびRO3G_16295の発現を示す。全てのCotH遺伝子が休眠胞子内で発現した一方で、CotH3のみが、YPD内に37℃で増殖させたR. oryzae胞子発芽体内で発現した(パネルA)。R. oryzae胞子発芽体を内皮細胞に暴露すると、RT−PCRによって測定したように、CotH2遺伝子およびCotH3遺伝子のみ発現が誘起された(パネルB)。内皮細胞上のR. oryzae胞子発芽体内のCotH遺伝子の遺伝子発現をqRT−PCR法によって定量化すると、CotH3およびCotH2の発現は、発現しなかったCotH1と比較してそれぞれ16倍および4倍に増大していたことが示された。RO3G_16295はいずれの試験条件下でも発現しなかった。ウイルコクソンの順位和検定の測定において、*P<0.001 vs. CotH1発現および**P<0.001 vs. CotH1およびCotH2発現(パネルC)。3つの独立した実験においてN=9。
GAGKKHNNAKQSWNW(配列番号39)のペプチドに対して産生させた抗体はCotH2タンパク質およびCotH3タンパク質を認識したが、S. cerevisiaeが異種発現したCotH1タンパク質は認識しなかったことを示す。ペプチドをKLHと結合し、ウサギ抗体を商業的に産生するようにこれを使用した。細胞を共焦点顕微鏡法で視覚化する前に、CotHタンパク質異種発現S. cerevisiaeを抗体で染色し、その後にFITC標識化抗ウサギヤギ抗体で対比染色した。
パネルA〜Cは、内皮細胞表面GRP78が、CotH1を除くCotH2またはCotH3を異種発現しているS. cerevisiae細胞と結合し、CotH1または空プラスミド発現S. cerevisiaeを除くCotH2またはCotH3発現S. cerevisiaeが、GRP78過剰発現内皮細胞またはCHO細胞に付着して侵入していたことをを示す。NHSビオチンを用いて内皮細胞表面タンパク質を標識し、その後に、Ca2+およびMg2+を含むPBS中のn−オクチル−β−d−グルコピラノシドおよびプロテアーゼ阻害剤を用いてこれを抽出した。標識タンパク質(250μg)を酵母細胞(2×108)と一緒に培養させ、その後に、Ca2+およびMg2+を含むPBSを用いた広範囲洗浄によって非結合タンパク質を回収した。有機体と結合した状態を保つ膜タンパク質を6Mの尿素で溶離させ、10%SDS−PAGE上で分離させ、抗GRP78 Abを用いた免疫ブロット法によって特定した(パネルA)。12mmガラスカバースリップ上にスプリットした内皮細胞(パネルB)またはCHO親細胞またはGRP78過剰発現細胞(パネルC)を用いて、付着およびエンドサイトーシス(微分蛍光分析法によって測定)分析を行った。ウイルコクソンの順位和検定の測定において、*:空プラスミドまたはCotH1発現S. cerevisiaeの場合と比較してP<0.001、**:CotH1およびCotH2発現の場合と比較してP<0.001。3つの独立して行われる実験においてN=9。データを中央値±四分位範囲で表す。
パネルAおよびBは、抗CotH3 Abs(GAGKKHNNAKQSWNW(配列番号39)のペプチドに対して産生)によって、R. oryzaeが引き起こす内皮細胞のエンドサイトーシスおよび損傷が阻止されたことを示す。12mmガラスカバースリップ上にスプリットした内皮細胞を用いて付着およびエンドサイトーシス(微分蛍光分析法によって測定)分析する一方で、96ウェルプレート51Cr放出方法によって損傷を与えた。R. oryzae胞子発芽体の添加前に、ワクチン接種後のウサギから取得した50μg/mlの抗CotH3またはワクチン接種前の同一ウサギから作製した血清(コントロール)と一緒に内皮細胞を1時間培養させた。CotH2およびCotH3の阻害(抗体がCotH2タンパク質に反応することため)によって、内皮細胞によるR. oryzaeのエンドサイトーシスが抑制され(実験の各集団の内皮細胞(約200個)と相互作用している真菌細胞(>700個)から取得したデータ。コントロールでは平均して59%の細胞にエンドサイトーシスが生じた)(パネルA)、内皮細胞の損傷を引き起こす真菌の能が低下する(パネルB)。ウイルコクソンの順位和検定の測定において、*:ワクチン接種前の血清または場合と比較して<0.01。3つの独立したエンドサイトーシス実験内の各集団に用いたスライドはn=6。2つの独立した損傷分析実験内の各集団に用いたウェルはn=9。データを中央値±四分位範囲で表す。
パネルA〜Cは、CotH2およびCotH3を標的とするRNA−iコンストラクトによって両遺伝子の発現が阻害され、細胞表面上のCotH2およびCotH3タンパク質の合成が低下され、R. oryzaeの増殖または発芽パターンに対しては何ら作用が生じなかったことを示す。CotH2およびCotH3発現を標的とするRNA−iコンストラクト(pRNAi)または空プラスミドを用いて、R. oryzaeを形質転換させた。2系統の形質転換体について、qRT−PCR法によってCotH2およびCotH3発現を測定したところ、空プラスミドを用いて形質転換させた細胞の場合と比較して>80%の比で低下していたことが示された(パネルA)。抗CotH抗体を用いたフローサイトメトリー試験によって、RNA−iコンストラクトを用いて形質転換させたR. oryzae細胞では、空プラスミド、野生型細胞、またはネガティブコントロール(すなわち、抗CotH抗体に代えて市販のIgGで染色した野生型R. oryzae)の場合と比較してCotHタンパク質の細胞表面発現が低下していたことが示された(パネルB)。CotH2およびCotH3発現が低下した2系統の形質転換体は、野生型細胞または空プラスミドを用いて形質転換させた細胞の場合と比較して類似の増殖速度を有していた(パネルC)。
パネルA〜Cは、CotH2およびCotH3の発現を阻害することによって、GRP78過剰発現内皮細胞およびCHO細胞に侵入し損傷を与えるR. oryzaeの能が低下したことを示す。12mmガラスカバースリップ上にスプリットした内皮細胞を用いて付着およびエンドサイトーシス(微分蛍光分析法によって測定)分析する一方で、96ウェルプレート51Cr放出方法によって損傷を与えた。RNA−iコンストラクトによって形質転換したR. oryzae胞子発芽体が引き起こす内皮細胞への侵入(パネルA)および損傷(パネルB)は、空プラスミドで形質転換した細胞の場合と比較して低下していた。CotH2およびCotH3を標的とするRNA−iによって作製した形質転換体が引き個起こすGRP78過剰発現CHO細胞の損傷は、CHO親細胞の場合と比較して同等の損傷であった。これとは対照的に、空プラスミドまたは野生型R. oryzaeを用いて形質転換させたR. oryzae胞子発芽体が引き起こすGRP78過剰発現CHO細胞の損傷は、CHO親細胞の場合と比較して著しく増大していた(パネルC)。ウイルコクソンの順位和検定法による測定において、*:空プラスミドと比較してP< 0.005、**:野生型または空プラスミドと比較してP<0.01、‡:CHO親細胞と比較してP<0.01。3つの独立したエンドサイトーシス実験内の各集団に用いたスライドはn=6。3つの独立した損傷分析実験内の各集団に用いたウェルはn=9。データを中央値±四分位範囲で表す。
パネルA〜Cは、糖尿病性ケトアシドーシス発症マウス体内においてCotH2およびCotH3の発現を阻害することによってR. oryzaeの毒性が弱まったことを示す。パネルAは、野生型R. oryzae、RNA−iによるR. oryzaeの形質転換体、および空プラスミドによるR. oryzaeの形質転換体の3つの株の1つに気管内感染させたマウス(野生型R. oryzaeに対しはn=10、またはRNA−iまたは空プラスミドによるR. oryzaeの形質転換体に対してはn=9)の生存時間を示す。空気感染による接種材料は、野生型、空プラスミド、またはRNA−i細胞について、それぞれ2.4×103、2.8×103、および2.5×103の胞子とした。*P<0.003 vs.野生型または空プラスミド感染マウス、ログランク検定。パネルBは、野生型(1.7×103)細胞、空プラスミド(3.0×103)細胞、またはRNA−i(3.1×103)細胞に気管内感染させた糖尿病性ケトアシドーシス発症マウス(各グループにつきn=9)の肺および脳内の真菌量を示す。感染から2日目にマウスから器官を採取し、これを組織内の真菌量のためにSYBR Green アッセイ法を用いて処理した。データを中央値±四分位範囲で示した。野生型または空プラスミド感染マウスと比較して*P<0.001、ウイルコクソン順位和検定。パネルCは、野生型、空プラスミド、またはRNA−iコンストラクトに感染させたマウスから採取した肺および脳について、各CotH遺伝子に対して特異的プライマー用いるqRT−PCR法によって測定したCotH遺伝子のin vivo発現を示す。データを平均±標準偏差で示した。*P<0.001 vs.野生型または空プラスミド。
野生型R. oryzaeまたは空プラスミドまたはRNA−iで形質転換したR. oryzaeに感染した糖尿病性ケトアシドーシス発症マウスから採取した肺の組織病理学検査を示す。過ヨウ素酸シッフ(PAS)染色部分は、野生型R. oryzaeまたはRNA−iコンストラクトによって形質転換したR. oryzae以外の空プラスミドで形質転換したR. oryzaeに感染したマウスから採取した器官の多大な菌糸要素(矢印)を示す。
GAGKKHNNAKQSWNW(配列番号39)のペプチド(A)またはMGQTNDGAYRDPTDNNK(配列番号40)のペプチド(B)に対して作製した抗CotH抗体を用いた受動免疫法によって、マウスをR. oryzae感染から予防したことを示す。糖尿病性ケトアシドーシス発症マウスに対して、R. oryzae 99-880(野生型)の胞子(2.4×103)に気管内感染させる2時間前に、1mgの抗CotH IgGまたはワクチン接種前の血清(コントロール)を与えた。感染から3日目にポリクローナル抗体またはワクチン接種前の血清を第2の投与量で与えた。*P<0.03 vs.ワクチン接種前の血清を与えたマウス。
異なる真菌種のCotH3分子指標検出の特異性を示す。StepOnePlus Real-Time PCR machine(Applied Biosystems)内で増幅プロットを作製した。x軸は増幅開始時からの経過時間を表し、y軸は蛍光の増大(ΔRn)を表す。閾値蛍光を水平方向の太線(これは、ネガティブコントロールの水サンプルについての平均に対して標準偏差×2を加算したものと等しい)として示す。Candida albicansまたはAspergillus fumigatus以外のR. oryzaeの105の胞子でスパイクした水サンプル(0.5ml)から信号を増幅させられる。
R. oryzae 99〜880の異なる接種材料でスパイクした水サンプル(0.5ml)のCotH3分子指標検出の特異性を示す。StepOnePlus Real-Time PCR machine(Applied Biosystems)内で増幅プロットを作製した。x軸は増幅開始時からの経過時間を表し、y軸は蛍光の増大(ΔRn)を表す。閾値蛍光を水平方向の太線(これは、ネガティブコントロールの水サンプルについての平均に対して標準偏差×2を加算したものと等しい)として示す。
血液中のRhizopus oryzae胞子の検出におけるCotH3分子指標検出の特異性を示す。StepOnePlus Real-Time PCR machine(Applied Biosystems)内で増幅プロットを作製した。x軸は増幅開始時からの経過時間を表し、y軸は蛍光の増大(ΔRn)を表す。閾値蛍光を水平方向の太線(これは、ネガティブコントロールの水サンプルについての平均に対して標準偏差×2を加算したものと等しい)として示す。血液はm予防接種されたコントロールである。R:異なる接種材料のR. oryzae 99-880(たとえば、R10=350μlの血液をスパイクするのに使用したR. oryzaeの10個の胞子)。A:A. fumigants。C:105細胞において350μlの血液をスパイクするのに各々使用したC. albicans。
クモノスケカビ属の検出におけるCotH3分子指標プローブの特異性を示す。StepOnePlus Real-Time PCR machine(Applied Biosystems)内で増幅プロットを作製した。x軸は増幅開始時からの経過時間を表し、y軸は蛍光の増大(ΔRn)を表す。閾値蛍光を水平方向の太線(これは、ネガティブコントロールの水サンプルについての平均に対して標準偏差×2を加算したものと等しい)として示す。血液:予防接種を行っていない血液サンプル。99〜892:R. oryzae 99-892。ATCC62417:R. microspores ATCC62417。R1000:R. oryzae 99-880。血液(350μl)を胞子(103)でスパイクするために全株を使用した。