(実施の形態1)
実施の形態1では、本発明の帯域選択偏光シールドの構造について、図1〜図4を用いて説明する。図1は、本発明の帯域選択偏光シールドの構造の一例を示す断面図である。図1において、110は帯域選択偏光シールド、120は透明基材であり、例えばTAC等の光学的樹脂材料であり、フィルム状態であっても良い。130は偏光部であり、ヨウ素等の偏光部材やPVA等の樹脂等からなるものであり、シート状あるいはフィルム状の部材が適宜サンドイッチされたものである。なお透明基材120や偏光部130はIPS液晶用に最適化されてなる積層品を用いても良い。140は透明電極部であり、透明電極部140は、金属ナノワイヤ150と、バインダ部160とを含む。180は保護フィルムであり、透明電極部140や、透明電極部140の表面に形成された接着層170、ハードコート部、耐擦傷層、低屈折率層、高屈折率層等(共に図示していない)を保護するために設けられたものであり、必要に応じて保護フィルム180を剥離することができる。
次に、図1で示した本発明の帯域選択偏光シールドの電磁シールド機能について、図2〜図4を用いて説明する。
図2〜図4は、本発明の帯域選択偏光シールドの電磁シールド機能について説明する断面図である。
図2は、液晶パネルから放射される電磁波を、帯域選択偏光シールドで減衰させる様子を説明するための断面図である。図2において、190はグランドであり、帯域選択偏光シールド110の透明電極部140をグランド190に落とすことで、液晶パネル等から放射される電磁ノイズの影響を抑制するものである。なおグランド190の接続部分は、機器のフレームグランド(図示していない)や、回路上でのシグナルグランド(図示していない)等、ノイズ除去に効果的なグランド部分に電気的に接続すれば良い。
図2において、200a、200bは矢印、210はIPSパネル、またはIPSパネルに類する液晶パネルである。IPSパネル210は、ガラスや透明フィルム等からなるIPS透明基材220と、このIPS透明基材の表面に形成されたIPS−ITO230と、IPS−ITOに印加された電圧によって駆動する液晶部材(図示していない)等からなる。IPS方式とは、In Plane witchingの意味であり、従来のTN方式(Twisted Nematic)やVA方式(Vertical Alignment)に比べて、視野角が広いという優れた特徴を有している。従来のTN方式やVA方式は、ガラス等の透明基板の間に充填した液晶の厚み方向に電界を加える構成であったが、IPS方式(なお一部のIPS方式は、更にe−IPS、AFFS、SFT、IPS−PRO、AH−IPS、PLS等として呼ばれることもある)は、基板の面方向に電界を加えて液晶分子を基板と平行な面内で回転させるため、図2に示すように、IPSパネル210において、ITO等で形成された透明電極は、IPSパネルを構成する一方のIPS透明基材220の内側にのみIPS−ITO230として存在し、もう一方のIPS透明基材220の内側には存在しない。
図2における矢印200aは、外部の駆動回路(図示していない)からIPS−ITO230に印加された液晶駆動用信号(図示していない)によって発生した電磁界を模式的に示すものである。図2の矢印200aに示すように、IPS液晶を駆動するための電界の一部は、IPS−ITO230が形成されていない側の、IPS透明基材220を突き抜けて、IPSパネル210の外部に漏れてしまい電磁ノイズとなる。
図2の矢印200bに示すように、帯域選択偏光シールド110を、IPSパネルに近づけることで、IPSパネル210から外部にもれた電磁ノイズ(例えば矢印200a)をシールドすることができる。
図3は、帯域選択偏光シールドをIPSパネルの表面に貼り付けることで、電磁ノイズがカットされる様子を示す断面図である。図3において、240は指先、250は容量成分であり、例えば指先240における容量成分である。260は静電式タッチパネルである。
静電式タッチパネル260は、少なくともガラスや透明フィルムからなるTTP透明基材270と、TTP−ITO280とを有している。そして静電式タッチパネル260は、静電式タッチパネル260の表面に設けられたTTP−ITO280に加えられた微弱な電流が、指先240等による容量成分250等によって変化することで位置検出するため、電磁ノイズ等の影響を受けやすい。これはIPSパネル210の一面にはIPS−ITO230が形成されていないため、この面を介して液晶の駆動電圧から発生した電磁化の一部が漏洩磁界となって漏洩するためである。
一方、IPSパネルには高品位化(ハイビジョン化、2K化、4K化等)が臨まれているため、IPSパネルの駆動周波数を高周波化するほど、こうした漏洩電磁界が様々な周波数帯域でIPSパネル210から外部に漏洩する。中でも静電式タッチパネル260の駆動周波数に関連する周波数帯域での漏洩磁界は、静電式タッチパネルの位置検出機能に大きな影響を与える。
図3における矢印290は、矢印200aで示した電磁界の一部が、帯域選択偏光シールド110に内蔵された透明電極部140で減衰される様子を示す。また必要に応じて透明電極部140をグランド190に接続することは有用である。
図3に示すように、静電式タッチパネル260の位置検出精度に影響を与えてしまう電磁界の一部を、金属ナノワイヤ150を含む透明電極部140によって矢印290に示すように効果的に減衰させることが有用である。
図4は、帯域選択偏光シールドによって、IPSパネルから漏洩する電磁界がシールドされ、静電式タッチパネルに伝わらない様子を示す断面図である。図4に示すように、IPSパネル210からの漏洩磁界を、帯域選択偏光シールド110によってシールドすることで、静電式タッチパネル260の指先240の容量成分250を高精度に検知することができ、タッチパネルの高精度化、高分解能化が可能となる。
なお帯域選択偏光シールド110において、透明電極部140の一端を必要に応じてグランド190やアース(図示していない)に電気的に接続することが有用である。この場合透明電極部140の接続先となるグランド190は、静電式タッチパネル260に対する漏洩電磁界をシールドするための電気的接続先であれば良く、使用する機器の構成に応じて適宜、最適な部分を選択すれば良い。
(実施の形態2)
実施の形態2では、本発明の帯域選択偏光シールドの特性について、図5を用いて説明する。図5は、本発明の帯域選択偏光シールドのシールド特性の一例を示す特性図である。図5において、X軸は周波数(Frequency/MHz)、Y軸は減衰率(Shield property/dB)である。300は、本発明の帯域選択偏光シールドのシールド特性を示す曲線(発明品のシールド特性300)である。310は、従来の偏光シールドのシールド特性を示す曲線であり、KEC法を用いて測定した曲線(従来品のシールド特性310)であり、例えば前述の図18(A)等である。図5に示すように、従来品のシールド特性310は、1MHz近くから1000MHz近くまで、約50dBで略一定の減衰率を保つという、周波数帯域に依存しないというシールド特性を有している。一方、図5に示すように、本発明の帯域選択偏光シールドは、1MHzから10MHzの間に、最大電磁減衰率(Smax、図1においては約53dBの減衰率)を有している。そして図5に示すように、帯域選択偏光シールドは、最大電磁減衰率(Smax)を示す周波数(Fsmax、図5においては約8MHz)の10倍高い周波数(F2、図5においては80MHz)における電磁減衰率S1は、最大電磁減衰率(Smax)より10dB以上25dB以下の範囲で小さい(図5においては、約15dB小さい)という特性(発明品のシールド特性300)を有している。
ここでF1(単位はMHz)の10倍高い周波数をF2(単位はMHz)、すなわち「F1*10=F2」とした場合、周波数F1における減衰率(S1)と、F2における減衰率(S2)との差、すなわちS1−S2の値を、10dB以上25dB以下とすることが、発明品のシールド特性300として有用である。
さらにF1(単位はMHz)の100倍高い周波数をF3(単位はMHz)、すなわち「F2*10=F3」とした場合、周波数F3における減衰率(S3)と、F2における減衰率(S2)との差、すなわちS2−S3の値を、10dB以上25dB以下とすることが、発明品のシールド特性300として有用である。
以上のように、発明品のシールド特性300としては、最大電磁減衰率(Smax)に対して、10倍、更には100倍の高周波域において、減衰率を10〜25dB、更には20〜50dBの範囲内で小さくすることで、静電式のタッチパネルに対する液晶パネル等からの電磁ノイズを積極的にカットする。加えて100MHz以上あるいは1GHz以上の高周波域における偏光シールドの減衰率を小さくすることで、100MHz以上あるいは1GHz以上の高周波域における外部と、表示機器内部との高周波通信特性を高めることができる。F1の10倍での周波数での減衰率をF1に対して10dB未満、あるいは100倍での周波数での減衰率が20dB未満の場合は、高周波域における通信特性に影響を与える場合がある。またはF1の10倍での周波数での減衰率を25dB以上、あるいはF1の100倍での周波数での減衰率を50dB以上とするためには、帯域選択偏光シールドに特殊加工を行う必要があり、コストアップしたり、光学的透過率に影響を与えたりする場合がある。
以上のように、F1*10=F2、F1*100=F3、あるいはF2*10=F3とした場合、S1−S2=10dB以上25dB以下、S2−S3=10dB以上25dB以下、あるいはS1−S3=20dB以上50dB以下とすることが望ましい。こうすることで高周波になるほど減衰率が低下する(あるいは、図1に示すように高周波域で減衰率が低下するという右下がりのグラフ)とすることができる。
なお図5の特性を有する帯域選択偏光シールドの構造については、後述する実施の形態4や3、図6〜図8等で説明する。
なお図5に示すように、帯域選択偏光シールドのKEC法で測定した最大電磁減衰率(Smax)は、20dB以上、70dB以下の範囲内とする。最大電磁減衰率(Smax)が20dB未満の場合、シールド性に影響を与える場合がある。また70dBより高くした場合、偏光シールド側に特殊な加工を行う必要があり、コストアップしたり、透過率に影響を与えたりする場合がある。またKEC法で測定した前記最大電磁減衰率(Smax)を示す周波数(Fsmax)は、0.1MHz以上30MHz以下、更には1MHz以上20MHz以下、2MHz以上10MHz以下とすることが望ましい。0.1MHz未満、あるいは30MHzより高い場合は、静電式のタッチパネルに対する電磁ノイズの減衰効果に影響を与える場合がある。
(実施の形態3)
実施の形態3では、本発明の帯域選択偏光シールドが、機器の性能を高める様子について、図6を用いて説明する。
図6は、機器に組み込まれた帯域選択偏光シールドの機能について説明する断面図である。図6において、帯域選択偏光シールド110は、実施の形態1で説明したものである。帯域選択偏光シールド110は、少なくとも、ガラスやTAC等の樹脂フィルム等よりなる透明基材120と、透明電極部140と、偏光部130とを有している。透明電極部140は、少なくとも金属ナノワイヤ150と、金属ナノワイヤ150を保持するバインダとなる透明樹脂(番号は付与していない)とから形成されている。偏光部130は、ヨウ素がPVA等からなる偏光材料である。また必要に応じて、偏光部130を、波長板(あるいは波長フィルム)や、位相差板(あるいは位相差フィルム)を加えてなるサンドイッチ構造とすることは有用である。210は液晶パネルであり、例えばIPSであるが、IPSパネル210は、EL等の表示パネルであっても良い。110はタッチパネルであり、タッチパネルは、マルチタッチ性等に優れた透明なものであれば良く、静電式のタッチパネル等である。
図6における矢印200aは、IPSパネル210から放射される電磁ノイズの一例を示す。液晶やEL等からなる表示部分を高品位化(ハイレゾリューション化、あるいはハイビジョン化、2K4K化、更には表示諧調の高ビット化)することで、数百KHz〜数MHzにおいて、矢印200aに示すような電磁ノイズが発生する。矢印200aで示す電磁ノイズの一部は、矢印200bに示すように帯域選択偏光シールド110によって大幅に減衰するが、これは図1に示すように帯域選択偏光シールド110が、静電式タッチパネルの誤動作原因となる数百KHz〜数十MHzの周波数域において、高い減衰率を有するためである。その結果、静電式タッチパネル260に届く電磁ノイズは大幅に低減し、静電式タッチパネル260の誤動作を減らす。
図6における矢印200c〜矢印200fは、共に帯域選択偏光シールド110を介して、数百MHz〜数GHzの電磁波が通過する様子を示す。機器の外部に設置されたアンテナ等(図示していない)から発射された電磁波は矢印200bに示すように、帯域選択偏光シールド110を介して、機器の内部に設置されたアンテナ等(図示していない)に到達するが、この際、帯域選択偏光シールド110を通過しても、その減衰は少ないが、これは図1に示すように帯域選択偏光シールド110が、数百MHz〜数GHzの周波数域において、減衰率が小さいためである。
矢印200fは、機器の内部に設置されたアンテナ等(図示していない)から発射された電磁波が、帯域選択偏光シールド110を介して、機器の外部に設置されたアンテナ等(図示していない)に到達する様子を示す。矢印200fに示すように、帯域選択偏光シールド110を通過しても、その減衰は少ないが、これは図1に示すように帯域選択偏光シールド110が、数百MHz〜数GHzの周波数域において、減衰率が小さいためである。
(実施の形態4)
実施の形態4では、帯域選択偏光シールド110を構成する透明電極部140に含まれる金属ナノワイヤによる光の乱反射を低減する様子について、図7、図8を用いて説明する。
図7(A)(B)は、共に金属ナノワイヤによる光の乱反射について説明する断面図である。
図7(A)は、金属ナノワイヤの表面で、外部光が乱反射する様子を示す断面図である。図7(A)に示すように、帯域選択偏光シールド110の表面に、光吸収層となる偏光部130を設けていない場合、矢印200aで示す外部光が金属ナノワイヤ150の表面で、矢印200cに示すように乱反射し、ヘイズ等の光学特性を低下させる。
図7(B)は、帯域選択偏光シールド110の一面に設けた、光吸収性を有する偏光部130を設けることで、金属ナノワイヤ150の表面における散乱光を低減する様子を説明する断面図である。図7(B)に示すように、金属ナノワイヤ150を含む透明電極部140の表面に、偏光部130を設けることで、外部光による散乱光を減らすことができる。これは外部光が矢印200aに示すように偏光部130を斜めに横断する際に光が吸収され、更に金属ナノワイヤ150の表面で散乱し、この散乱した光は矢印200cに示すように光吸収層となる偏光部130を斜めに横断する際に吸収されるためである。なお散乱光の強度については、市販のヘイズメータ等を用いて、ヘイズ値として測定することができる。
帯域選択偏光シールド110において、偏光部130側から測定したヘイズ値を、偏光部130が設けられていない面側から測定したヘイズ値より小さくすることが有用である。このように偏光部130側から測定したヘイズ値を、偏光部130が設けられていない側から測定したヘイズ値より小さくすることで、効果的に散乱光を低減できる。
図8は、帯域選択偏光シールドの、偏光部130が設けられていない側における外部光による、金属ナノワイヤ表面における散乱光について説明する断面図である。図8に示すように、外部光は矢印200aに示すように、透明基材120を斜めに横断し、金属ナノワイヤ表面で散乱し、この散乱した光は矢印200cに示すように透明な接着層170を介して斜めに入射するが、この入射の際に殆ど吸収されることはない。なお必要に応じて、接着層170を顔料等で着色することで、矢印200cに示す散乱光を低減することは可能であるが、この場合でも、偏光部130側から測定したヘイズ値を、偏光部130が形成されていない側から測定したヘイズ値より小さくすることが有用である。これは乱反射あるいはヘイズは、表示機器の外部側、すなわちタッチパネル等が設置される側からの測定値が重要なためである。
(実施の形態5)
実施の形態5を用いて、発明者らが作製した帯域選択偏光シールド110の電磁波に対するシールド特性について更に詳しく説明する。図9は、発明者らが作製した帯域選択偏光シールドのシールド特性の一例を示す特性図である。
図9において、発明品のシールド特性300aは、発明者らが作製した帯域選択偏光シールド(SampleA、シート抵抗は150Ω/□)のシールド特性である。発明品のシールド特性300bは、発明者らが作製した帯域選択偏光シールド(SampleB、シート抵抗は40Ω/□)のシールド特性である。なおシールド特性は共にKEC法を用いて測定したものである。
図9に示すように、シート抵抗を150Ω/□から40Ω/□と低くすることで、最大電磁減衰率を約46dBから約55dBへと大きくすることができる。またシート抵抗を150Ω/□から40Ω/□と低くすることで、最大電磁減衰率を示す周波数をF1(A)からF1(B)へと移動させられる。
図9に示すように、帯域選択偏光シールドにおいては、シート抵抗の変化(150Ω/□〜40Ω/□の範囲)に関係なく、周波数が10MHz以上、更には20MHz以上において、周波数が高くなるほど減衰率が低下するという、高周波域での減衰率の右下がりという傾向は変わらない。発明者らの実験によると、少なくとも5Ω/□以上200Ω/□の範囲においては、周波数が高くなるほど減衰率が低下するというシールド特性を発現することが可能であった。
なお発明者らが色々実験したところでは、金属ナノワイヤを用いてシート抵抗を10Ω/□以下、更には5Ω/□以下、2.5Ω/□以下と低抵抗化させた場合には、10MHz以上において減衰率が右下がりになるという、帯域選択性が発生しにくくなる場合や、前述の図18(A)(B)に示したようなシールド特性に近づく場合があった。
これはシート抵抗を5Ω/□以下と低くすることで、図18で示した従来の透明電磁シールド1のシールド特性に近づくためと考えられる。
なお発明者らは、帯域選択偏光シールド110に用いる金属ナノワイヤ150として平均長さが、2μm以上、更には3μm以上、5μm以上、10μm以上と長いものを用いたが、これは一定以上の長さを有する金属ナノワイヤ150を用いる方が、発明者らが求める帯域選択性を有するシート抵抗領域(例えば、5Ω/□以上200Ω/□以下)の形成が容易となるためである。
例えば金属ナノワイヤ150の平均長さが5μm未満、あるいは2μm未満のように短い場合、10Ω/□以下、5Ω/□以下のような低シート抵抗の実現が容易となる一方、発明者らが求める帯域選択性を有するシート抵抗領域(例えば、5Ω/□以上200Ω/□以下)の形成が難しくなる場合がある。これは、金属ナノワイヤ150の長さが2μm未満のように短い場合、金属ナノワイヤ同士の接触確率が低下してしまい5Ω/□以上200Ω/□以下の抵抗領域を安定して実現することが難しくなる場合がある。例えば、平均長さが2μm未満の金属ナノワイヤを用いた透明導電膜において、金属ナノワイヤ150同士の接触による導通を得るためには、金属ナノワイヤの坪量(坪量は、JIS P8124 紙および板紙−坪量の測定方法等で定義されたもの)を増やす必要がある。
ここで平均長さが2μm未満と短い金属ナノワイヤ150を用いて作製した透明導電膜は、例えて言えば「洋紙」に相当するものであり、厚みを厚くすることで紙としての強度は高められるが、厚みを薄くした場合には和紙のような高強度や高耐力は得られない。一方、本発明のように平均長さが5μm以上、10μm以上と長い金属ナノワイヤ150を用いて作製した透明電極部140は、例えて言えば「和紙」に相当するものであり、優れたカール耐性(カール耐性については、後述する表等で説明する)等が得られる。
このように本発明の帯域選択偏光シールド110に使う金属ナノワイヤ150を含む透明電極部140は、「和紙」に相当するものとすることが有用であり、そのためには繊維長が長く、低い坪量で繊維同士の絡み合いによる導通が得られ易くすることが有用である。そしてこうして得られた帯域選択偏光シールド110は、折り曲げても、シート抵抗が変化しないというカール耐性を有した丈夫なものである。そして本発明の帯域選択偏光シールド110に使う、金属ナノワイヤ150を含む透明電極部140は、少ない坪量において繊維同士の接触確率を増加させることで、5Ω/□以上200Ω/□以下というシート抵抗域をバラツキ無く安定して実現できる。
このように静電式タッチパネル260のノイズ低減に有用な、5Ω/□以上200Ω/□以下のシート抵抗域を得ようとした場合、平均繊維長さが2μm以下のような短い金属ナノワイヤ150を用いる場合に比べ、平均繊維長さが5μm以上の長い金属ナノワイヤ150を用いることで、坪量を小さくでき、コスト的にメリットがある。また出来上った透明電極部140の柔軟性(例えば、長尺のフィルム上に連続塗工した場合のハンドリング性や巻取り性)やカール耐性は、繊維長が長いほど有利である。
このように本発明の帯域選択偏光シールド110は、金属ナノワイヤ150の形状を工夫することで「和紙」のような柔軟性、あるいは耐力、更には耐クラック性やカール耐性を持たせているため、透明基材120としてガラスのような透明無機物を用いた場合でも、PETフィルム等のフレキシブルな透明有機シートを用いた場合であっても、熱膨張係数や柔軟性の大小に関係なく、クラックやカール等の課題が発生しない。
(実施の形態6)
実施の形態6では、帯域選択偏光シールド110を用いた表示機器の一例について、図10を用いて説明する。
図10は、実施の形態1等で説明した帯域選択偏光シールドを用いた、表示機器の一例を示す断面図である。図10において、320は表示機器であり、スマートフォン、電子タブレット、病院用の電子カルテ、電子ノート、電子ブック、電子黒板、ノートパソコン等の表示部を有する表示機器である。
表示機器320は、一方向に大きな開口部(番号は付与していない)を有する筐体330と、この筐体330の開口部を塞ぐように設けられたIPSパネル210、帯域選択偏光シールド110、静電式タッチパネル260等を有している。
図10の矢印200aで示される、IPSパネル210等から発生する数百KHz前後の電磁ノイズは、帯域選択偏光シールド110によって減衰されるため、静電式等の静電式タッチパネル260を誤動作させない。なお表示機器320に用いる静電式タッチパネル260は、静電式であっても、ホバー式(非接触式)等のタッチパネルであっても良い。これは図10に示すように、本発明の帯域選択偏光シールド110を用いることで、IPSパネル210から発生する電磁ノイズの影響を受けやすい静電式、あるいはホバー式の新型タッチパネルにおける電磁ノイズの影響を防止できるためである。
図10において、340は内部アンテナ部であり、内部アンテナ部340は、筐体330の内部に設置され、1GHz以上のような高周波を利用する無線LANやWiFi(登録商標)、NFC、ワイヤレス通信に使われる高周波用のアンテナである。350は外部アンテナ部であり、室内あるいは構内等の、筐体330の外部に設置された無線LANやWiFi(登録商標)、NFC、ワイヤレス通信用の外部アンテナ部である。図10の矢印200d、200eで示すように、外部アンテナ部350から発した電磁波は、帯域選択偏光シールド110で殆ど吸収されることなく、内部アンテナ部340に到達する。
図10において、360は、筐体330の内部に設置された内部送受信部であり、1GHz以上のような高周波を利用する無線LANやWiFi(登録商標)、NFC、ワイヤレス通信に使われる部品である。370は外部送受信部であり、室内あるいは構内等の、筐体330の外部に設置された無線LANやWiFi(登録商標)、NFC、ワイヤレス通信装置である。図10の矢印200f、200gで示すように、内部送受信部360から発した1GHz以上のような高周波は、帯域選択偏光シールド110で殆ど吸収されることなく、外部送受信部370に到達する。
図11は、帯域選択偏光シールドの代わりに、従来の薄膜金属メッシュ部を用いた表示機器における課題を説明する断面図である。図11に示すように、従来の薄膜金属メッシュ部4(例えば、前述の図17で説明したもの)を、IPSパネル210と、静電式タッチパネル260との間に設けた場合、従来の薄膜金属メッシュ部4が、IPSパネル210から発生する電磁ノイズを除去と同時に、矢印200aで示す内部アンテナ部340と外部アンテナ部350との間の通信や、矢印200bで示す内部送受信部360と外部送受信部370との間の通信を大きく阻害してしまう場合がある。これは前述の図18に示すように、従来の金属メッシュや、1Ω/□程度の低抵抗の特殊な金属ナノワイヤを用いた偏光シールドの場合、100MHz以上、更には1000MHz付近においても、高い電磁減衰率を有しているためである。
(実施の形態7)
実施の形態7を用いて、偏光板に従来のITOを用いた透明導電膜を設ける場合に発生する課題について説明する。
図12(A)(B)は、共に、偏光板(あるいは偏光フィルム)の表面にITOを形成した場合に発生する課題について説明する模式図である。380a、380bは共にITO付偏光フィルムである。390はクラック等である。
ロール状の偏光フィルムの表面にITOを形成し、偏光シールドを作製する場合、図12(A)に示すように、ITO付偏光フィルム380aがカールし、表面のITO皮膜にクラック390等が発生する場合があるが、これは有機物からなる偏光フィルム部分と、酸化物からなるITO皮膜との間で、熱膨張係数が大きく異なっているためである。こうしたカールや、クラック390等の課題は、ITO薄膜の抵抗値を300Ω/□以下の低抵抗を実現するため、ITO膜厚を増加したり、熱処理したりする際に発生しやすくなる。
図12(B)は、枚葉の偏光フィルムの上にITOを形成した場合に発生する課題の一例を説明する斜視図である。図12(B)のように、枚葉であっても、ITO付偏光フィルム380bからなる偏光シールドには、クラック390等が発生しやすくなるが、有機物からなるフィルムと、酸化物からなるITOとの間で、熱膨張係数が大きく異なることによって、こうしたカール(図示していない)や、クラック390等が発生する場合がある。こうした課題は、ITO薄膜の抵抗値を150Ω/□以下の低抵抗化を実現するため、ITO膜厚を増加したり、100℃以上で熱処理したりする際に発生しやすい。
なおITO膜厚を増加した場合、ITOを用いた偏光シールド自体が着色(例えば、黄色、あるいはメタリックの金属光沢等)してしまい、光透過率そのものを下げてしまう課題が発生する。そのためITOを用いた場合、150Ω/□以下、100Ω/□以下の低抵抗を実現することが難しいが、これは上述したクラック390が発生しやすくなる(またはカールし易くなる)という課題以外に、ITOによる着色課題等が発生するためである。
(実施の形態8)
実施の形態8を用いて、帯域選択偏光シールドを用いた表示デバイスの一例について、図13を用いて説明する。
図13(A)(B)は、共に帯域選択偏光シールドを用いた表示デバイスの一例を示す断面図であり、例えば液晶パネルの一面に、帯域選択偏光シールド110を設けてなる表示デバイスである。
図13(A)に示すように、表示デバイス400を製造することができる。例えば、図13(A)に示すように、少なくとも透明基材120と、透明電極部140、偏光部130、接着層170を有する帯域選択偏光シールド110を準備し、矢印200に示すように、IPSパネル210の一面に貼り付け、表示デバイス400とする。
図13(B)は、一面に帯域選択性を有する帯域選択偏光シールドを設けた表示デバイスの一例を示す断面図である。図13(B)のような表示デバイス400とすることで、他の電子機器への電磁ノイズ放射の少ない、表示機能を有する表示デバイス400を実現できる。
(実施の形態9)
実施の形態9では、比較例として液晶パネルとしてTN液晶を用いた場合や、IPS液晶に本発明の帯域選択偏光シールド110を用いていない場合に発生する課題について図14〜図16を用いて説明する。
図14は、TN液晶を用いた場合について説明する断面図である。TNパネル420は、ガラスや透明フィルムからなるTN透明基材430と、TN透明基材430の表面に形成されたTN−ITO440を有している。そして矢印200aに示すような液晶用の駆動電圧は、対面する二つのTN−ITOの間に印加されるため、TNパネル420の外部に、電磁ノイズとして漏洩することは無い。このように従来のTNパネル420を用いた場合は、微弱な電流を検出する静電式タッチパネル260において誤動作は発生しにくい。
図15は、IPS液晶の表面に帯域選択偏光シールドを設けていない場合において発生する課題について説明する断面図である。図15において、IPSパネル210と静電式タッチパネル260との間には、帯域選択偏光シールド110を設置していない。この結果、図15の矢印200cに示すように、IPSパネル210に印加された電磁信号は、矢印200cに示すように、IPSパネル210から静電式タッチパネル260側に漏洩し、静電式タッチパネル260の誤動作の発生源となる電磁ノイズとなる。
図16は、IPSパネルから漏洩する電磁波が、静電式タッチパネルに影響を与える様子を説明する断面図である。図16において、IPSパネル210と静電式タッチパネル260との間には、帯域選択偏光シールド110を設置していない。この結果、図16の矢印200cに示すように、IPSパネル210に印加された電磁信号は、矢印200cに示すように、IPSパネル210から静電式タッチパネル260側に漏洩し、静電式タッチパネル260の誤動作の発生源となる電磁ノイズとなる。図16に示すように、IPSパネル210に印加された電磁信号は、矢印200cに示すように指先240における容量成分250に影響を与え、その位置検出を困難とする。
(実施の形態10)
実施の形態10を用いて、本発明に用いる金属ナノワイヤについて説明する。本発明に用いる金属ナノワイヤ150としては、発明者らが特願2009−174594号で提案したものを用いることが可能である。
ここで金属ナノワイヤ150の製造手段には特に制限は無く、例えば、液相法や気相法などの公知の手段を用いることができる。具体的な製造方法にも特に制限は無く、公知の製造方法を用いることができる。例えば、Agナノワイヤの製造方法として、Adv.Mater.2002,14,P833〜837や、Chem.Mater.2002,14,P4736〜4745、前述の引用文献2等を、Auナノワイヤの製造方法として、特開2006−233252号公報等を、Cuナノワイヤの製造方法として、特開2002−266007号公報等を、Coナノワイヤの製造方法として、特開2004−149871号公報等を挙げることができる。特に、上記のAdv.Mater.及びChem.Mater.で報告されたAgナノワイヤの製造方法は、水系で簡便にかつ大量にAgナノワイヤを製造することができ、また銀の導電率は金属中で最大であることから、本発明で用いる金属ナノワイヤの製造方法として好ましく適用することができる。
本発明において金属ナノワイヤ150の平均直径は、透明性の観点から200nm以下であることが好ましく、導電性の観点から10nm以上であることが好ましい。平均直径が200nm以下であれば光透過率の低下を抑えることができるため好ましい。一方で、平均直径が10nm以上であれば導電体としての機能を有意に発現でき、平均直径がより大きい方が導電性が向上するため好ましい。従って平均直径は、より好ましくは20〜150nmであり、40〜150nmであることが更に好ましい。また金属ナノワイヤ150の平均長さは、導電性の観点から1μm以上であることが好ましく、凝集による透明性への影響から100μm以下であることが好ましい。より好ましくは1〜50μmであり、3〜50μmであることが更に好ましい。金属ナノワイヤ150の平均直径及び平均長さは、SEMやTEMを用いて十分な数のナノワイヤについて電子顕微鏡写真を撮影し、個々の金属ナノワイヤ像の計測値の算術平均から求めることができる。金属ナノワイヤの長さは、本来直線状に伸ばした状態で求めるべきであるが、現実には屈曲している場合が多いため、電子顕微鏡写真から画像解析装置を用いて金属ナノワイヤ150の投影径及び投影面積を算出し、円柱体を仮定して算出する(長さ=投影面積/投影径)ものとする。計測対象の金属ナノワイヤ数は、少なくとも100個以上が好ましく、300個以上の金属ナノワイヤを計測するのが更に好ましい。
上記の金属ナノワイヤ150は樹脂溶液に分散させて使用されるものであり、樹脂溶液の膜形成のための樹脂成分としては、モノマーやオリゴマーの重合反応によりポリマー化してマトリクスを形成するものが用いられる。
上記の樹脂成分として、光重合反応または熱重合反応する樹脂を使用する場合、可視光、または紫外線や電子線のような電離放射線の照射により直接または開始剤の作用を受けて重合反応を生じるモノマーあるいはオリゴマーを用いることができ、アクリル基あるいはメタクリル基を有するモノマーあるいはオリゴマーが好適である。中でも架橋させて耐擦傷性、硬度を上げるには多官能性バインダー成分であることが好ましい。
そして一分子中に一個の官能基をもつものとして、具体的には例えば、イソアミル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシ−ジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシ−トリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシ−ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシジプロピレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレートフェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシ−ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸、2−(メタ)アクリロイロキシエチル−コハク酸、2−(メタ)アクリロイロキシエチルフタル酸、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソミリスチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルモルホリン等が挙げられる。
また二個以上の官能基を持つものとして、具体的には例えば、ポリエチレングリコールジアクリレート、グリセリントリアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等が挙げられ、更にベンゼン環を有する化合物としては、エチレンオキサイド変性ビスフェノールAジアクリレート、変性ビスフェノールAジアクリレート、エチレングリコールジアクリレート、エチレンオキサイドプロピレンオキサイド変性ビスフェノールAジアクリレート、プロピレンオキサイドテトラメチレンオキサイド変性ビスフェノールAジアクリレート、ビスフェノールA−ジエポキシ−アクリル酸付加物、エチレンオキサイド変性ビスフェノールFジアクリレート、ポリエステルアクリレート等の多官能アクリレート類あるいはメタクリレート類が挙げられる。
また、1,2−ビス(メタ)アクリロイルチオエタン、1,3−ビス(メタ)アクリロイルチオプロパン、1,4−ビス(メタ)アクリロイルチオブタン、1,2−ビス(メタ)アクリロイルメチルチオベンゼン、1,3−ビス(メタ)アクリロイルメチルチオベンゼンなどの硫黄含有(メタ)アクリレート類を用いることも高屈折率化に有効である。
さらに、紫外線や熱による硬化を促進させるため、光または熱重合開始剤を配合してもよい。
光重合開始剤としては、一般に市販されているもので構わないが、特に例示すると、ベンゾフェノン、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン(チバスペシャリティーケミカルズ(株)製「イルガキュアー651」)、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン(チバスペシャリティーケミカルズ(株)製「イルガキュアー184」)、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン(チバスペシャリティーケミカルズ(株)製「ダロキュアー3803」、ランベルティー社製「エサキュアーKL200」)、オリゴ(2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン)(ランベルティー社製「エサキュアーKIP150」)、2−ヒドロキシエチル−フェニル−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン(チバスペシャリティーケミカルズ(株)製「イルガキュアー2959」)、2−メチル−1(4−(メチルチオ)フェニル)−2−モルフォリノプロパン−1−オン(チバスペシャリティーケミカルズ(株)製「イルガキュアー907」)、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1(チバスペシャリティーケミカルズ(株)製「イルガキュアー369」)、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド(チバスペシャリティーケミカルズ(株)製「イルガキュアー819」)、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチル−ペンチルフォスフィンオキサイド(チバスペシャリティーケミカルズ(株)製「CGI403」)、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド(=TMDPO)(BASF社製「ルシリンTPO」、チバスペシャリティーケミカルズ(株)製「ダロキュアーTPO」)、チオキサントンまたはその誘導体などが挙げられ、これらのうち1種、あるいは2種以上混合して用いることができる。
また、光増感作用の目的により第三アミン、例えばトリエタノールアミン、エチル−4−ジメチルアミノベンゾエート、イソペンチルメチルアミノベンゾエートなどを添加しても良い。
熱による重合開始剤としては、主として過酸化ベンゾイル(=BPO)などの過酸化物、アゾビスイソブチルニトリル(=AIBN)などのアゾ化合物が用いられる。
上記の光重合開始剤や熱重合開始剤の配合量は、通常、組成物(樹脂成分+金属ナノワイヤ)100質量部に対し、0.1〜10質量部程度が好ましい。
また、エポキシ基、チオエポキシ基、オキセタニル基等のカチオン重合性官能基を有するモノマーあるいはオリゴマーを用いてもよい。さらに必要に応じて光カチオン開始剤等を組み合わせて用いることもできる。これらは同様に多官能であることが好ましい。
また、熱重合する樹脂については一般的にゾル−ゲル系材料が挙げられ、アルコキシシラン、アルコキシチタン等のゾル−ゲル系材料が好ましい。これらのなかでもアルコキシシランが好ましい。ゾル−ゲル系材料は、ポリシロキサン構造を形成する。アルコキシシランの具体的は、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシラン等のテトラアルコキシシラン類、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、メチルトリブトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、イソプロピルトリメトキシシラン、イソプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、3,4−エポキシシクロヘキシルエチルトリメトキシシラン、3,4−エポキシシクロヘキシルエチルトリエトキシシラン等のトリアルコキシシラン類、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン等が挙げられる。これらアルコキシシランはその部分縮合物等として用いることができる。これらのなかでもテトラアルコキシシラン類またはこれらの部分縮合物等が好ましい。特に、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシランまたはこれらの部分縮合物が好ましい。
さらに、樹脂溶液のマトリクスを形成する樹脂成分として導電性高分子を用いることもできる。導電性高分子としては、例えば、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリトリフェニルアミン等を例示することができる。
また樹脂溶液のマトリクスを形成する樹脂成分としては、上記した光重合性の樹脂、熱重合性の樹脂、導電性高分子から選ばれる2種類以上のものを併用してもよい。
樹脂溶液への金属ナノワイヤ150の配合量は、後述のように透明導電膜を形成した際に、透明導電膜中に金属ナノワイヤ150が0.01〜90質量%含有されるように、マトリクス形成用樹脂成分に対する配合量を調整して設定するのが好ましい。金属ナノワイヤの含有量は0.1〜30質量部がより好ましく、さらに好ましくは0.5〜10質量%である。
ここで、樹脂溶液には、樹脂固形分、金属ナノワイヤ150など固形成分を溶解乃至分散するための溶剤が含有されることが必須であるが、溶剤の種類は特に限定されるものではない。例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類;ハロゲン化炭化水素類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、あるいはこれらの混合物を用いることができる。これらの中でも、ケトン系の有機溶剤を用いるのが好ましく、ケトン系溶剤を用いて樹脂溶液を調製すると、透明基材の表面に容易に均一に塗布することができ、かつ、塗工後において溶剤の蒸発速度が適度で乾燥むらを起こし難いので、均一な厚さの大面積の透明導電膜を容易に得ることができるものである。また、溶剤としては上記の有機溶剤の他に、水を用いる場合もあり、有機溶剤と水を組み合わせて用いる場合もある。溶剤の量は、上記の各固形成分を均一に溶解、分散することができ、樹脂溶液を調製した後の保存時に凝集を来たさず、かつ、塗工時に希薄すぎない濃度となるように適宜調節するものである。この条件が満たされる範囲内で溶剤の使用量を少なくして高濃度の樹脂溶液を調製し、容量をとらない状態で保存し、使用時に必要分を取り出して塗工作業に適した濃度に溶剤で希釈するのが好ましい。固形分と溶剤の合計量を100質量部とした時に、全固形分0.1〜50質量部に対して、溶剤の量を50〜99.9質量部に設定するのが好ましく、さらに好ましくは、全固形分0.5〜30重量部に対して、溶剤を70〜99.5質量部の割合で用いることにより、特に分散安定性に優れ、長期保存に適した樹脂溶液を得ることができる。用いる樹脂と溶剤の組み合わせについては、特に規定されるものではないが、配合する樹脂が溶解しやすい溶剤を用いるほうが好ましい。また塗工する透明基材によっては、用いる溶剤によって溶解が発生する場合もあるので、予め透明基材への溶解性を確認したうえで適切な溶剤組成を設計することが望ましい。
一方、本発明で用いる透明基材120において、その形状、構造、大きさ等については、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。透明基材の形状としては、例えば平板状、シート状、フィルム状などが挙げられ、また構造としては、例えば単層構造であってもよいし、積層構造であってもよく、適宜選択することができる。透明基材の材料についても特に制限はなく、無機材料及び有機材料のいずれであっても好適に用いることができる。透明基材を形成する無機材料としては、例えば、ガラス、石英、シリコンなどが挙げられる。また有機材料としては、例えば、トリアセチルセルロース(TAC)等のアセテート系樹脂;ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル系樹脂;ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリノルボルネン系樹脂、セルロース系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、ポリアクリル系樹脂などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
また本発明において透明基材120としては、上記のような基材単体のものであってもよいが、基材の表面に一層ないし複数層のハードコート層が形成されたものであってもよい。このように透明基材がハードコート層を備える場合、透明導電膜はハードコート層の上に形成されるものである。
このハードコート層はモノマーを重合した樹脂で形成されていてもよく、この樹脂中に粒子等を含んでいてもよい。樹脂としては、特に限定されるものではないが、上記の透明導電膜を形成するマトリクス形成樹脂と同じものを用いることが可能であり、また粒子としては樹脂より低い屈折率あるいは高い屈折率を有するもの、樹脂より高い硬度を有するもの、耐熱性が高いものなど、種々の機能を有するものを用いることができる。
そしてこの透明基材120の表面に、上記の金属ナノワイヤを配合した樹脂溶液を塗布して乾燥・硬化させることによって、図8等のような透明電極部140を形成することができるものである。このように形成される透明電極部140中には金属ナノワイヤ150が均一に分散した状態で含有されている。樹脂溶液の塗布方法としては、例えば、スピンコート法、キャスト法、ロールコート法、フローコート法、プリント法、ディップコート法、流延成膜法、バーコート法、グラビア印刷法などが挙げられる。また透明電極部140の厚みは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.01〜100μm程度の範囲が好ましく、0.05〜10μmの範囲がより好ましく、さらに好ましくは0.1〜3μmの範囲である。
このように透明基材120の表面に透明電極部140を形成した後、この透明電極部140の表面に偏光部130を積層して形成する。
偏光部130は、樹脂溶液に、ヨウ素等からなる偏光材料を溶解乃至分散させ、この偏光材料を含有する樹脂溶液を透明電極部140の表面に塗布して乾燥・硬化、あるいは配向させることによって形成することができる。また市販の偏光板(あるいは偏光フィルム)を用いることが有用である。
樹脂溶液を構成するマトリクス樹脂や溶剤としては、透明電極部140を形成する既述の樹脂溶液と同様なものを用いることができる。
次に、本発明に使用する銀ナノワイヤについて実施例によって具体的に説明する。
(実施例1)
まず、IPS液晶用に使われる市販の偏光フィルムを準備した。IPS液晶用の偏光板フィルムとしては、TAC等からなる透明基材120と、所定の偏光部130(例えば、直線偏光板や位相差板等)とのサンドイッチ構造からなる長尺のフレキシブル性を有するフィルム部材とすることが有用である。
次にこの偏光フィルム(あるいは偏光板)の上に、バインダ部160となる樹脂溶液に、金属ナノワイヤ150を分散してなる透明電極形成用のコーティング部材を用意し、塗布した。
具体的には、光硬化性アクリル樹脂(新中村化学社製「A−DPH」)18.1質量部と、メチルエチルケトン8.1質量部およびメチルイソブチルケトン21.8質量部を混合し、アクリル樹脂を溶解させた混合物Aを調製した。また金属ナノワイヤとして銀ナノワイヤを用いた。この銀ナノワイヤは、公知論文「Materials Chemistry and Physics vol.350 p333-338 "Preparation of Ag nanorods with high yield by polyol process"」に準じて作製したものであり、平均直径150nm、平均長さ5μmである。この金属ナノワイヤ12.0質量部をメチルエチルケトン40.0質量部に分散させた混合物Bを調製した。そして混合物Aと混合物Bをよく混合した後、これに光重合開始剤(チバガイギー社製「イルガキュア184」)0.1質量部を加えてよく混合し、さらに25℃の恒温雰囲気下で1時間撹拌混合することによって、金属ナノワイヤを含む樹脂溶液からなるコーティング材組成物を得た。
そしてこのコーティング材組成物を、IPS液晶用の偏光フィルムの上に、ワイヤーバーコーター#10を用いて塗布し、120℃で2分間乾燥した後、UV積算量400mJ/cm2でUVを照射することによって、膜厚0.2μmの透明電極部140を形成した、これを帯域選択偏光シールド110とした。なおこの帯域選択偏光シールド110の表面に、図1に示したように、接着層170や保護フィルム180を形成することは有用である。また必要に応じて、更に高屈折率層や低屈折率層、更にはハードコート層、耐擦傷層等を設けることは有用である。なお乾燥時間を2分以上と長くすることで、乾燥温度を100℃以下と低温化することが可能である。
以上のようにして、発明品1、2を作製した。なお発明品1とは、図9のサンプルA(シート抵抗150Ω/□)、発明品2とは、図9のサンプルB(シート抵抗40Ω/□)に相当する。
また比較品1として、発明品と同様に、前述のIPS液晶用に使われる市販の偏光フィルムの上に、ITOからなる透明電極を、スパッタ装置を用いて試作した。しかし前述の図12(A)(B)等で説明したように、ITOのシート抵抗を低減するように、熱処理(例えば150℃1時間)しようとした所、TAC等からなる透明基材120が熱変形してしまい、ITOにクラック390等が発生してしまい、希望するサンプルが得られなかった。
(実施の形態11)
実施の形態11では、実施の形態8で説明した発明者らが作製したサンプル等(発明品1、2、比較品1、比較品2)の評価結果について説明する。
[表1]の発明品1、2は共に発明者らが作製したサンプルであり、比較品1は市販のスパッタ装置を用いてITOからなる透明電極を作製したものである。
[表1]において、発明品1、2は、図9に示した発明者らが作製したサンプルA(AgNW−No1、シート抵抗は150Ω/□、発明品1)、サンプルB(AgNW−No2、シート抵抗は40Ω/□、発明品2)について、ヘイズ、全光線透過率等を測定した結果である。
[表1]より、発明品1、発明品2は、図1や図9に示した帯域選択性を有するという優れたシールド効果を有していた。発明品1、発明品2は、共に液晶パネル等から発せられる周波数帯域では優れたシールド効果を有していたため、優れたTTP誤動作防止機能(TTPは透明タッチパネルの意味)を発揮することができた。また発明品1、発明品2は、共に無線LAN等で代表される高周波域ではシールド効果(あるいは減衰率)が低減するため、優れた無線LAN誤動作防止機能が得られた。
このように発明品1、2を用いることで、それぞれの周波数帯域において高いシールド効果や、低いシールド効果が得られるため、TTP誤動作総合評価と、無線LAN誤動作防止の両方を、共に○(Good、良)と両立することができた。
以上のように、発明品1、2を用いることでA7サイズ〜A4サイズ、更にはB4サイズ、新聞紙大等のタッチ機能付き表示機器においても、たとえ表示部分が高品位化(例えば、ハイビジョン化、2K化、4K化)した場合であっても、タッチパネルの誤動作が低減できる。
一方、比較品1に示すように、透明電極にITOを使った場合、偏光フィルム部分が熱処理に対応できず、シート抵抗やヘイズ、全光線透過率、電磁シールド性等を評価することができないことがある。
[表1]において、比較品2とは、偏光フィルムの上に前述の図17に示すように、薄膜の金属メッシュを形成したものである。[表1]に示すように、金属メッシュを用いた比較品2の場合、TTP動作安定性は○(Good)であり、IPSパネル210から放射される電磁ノイズを吸収することができることが判った。しかし、金属メッシュを用いた比較品2の場合、無線LAN通信安定性は×(遮蔽)であったが、これは、金属メッシュを用いた比較品2の場合、図18(A)(B)に示すように、1000MHzのような高周波域においても、高い電磁界減衰率を有しているため、無線LANの信号を大きく減衰してしまったためと考えられる。
なお、比較例1となる、ITOからなる透明導電膜を設けたITO付変更フィルムについては、熱処理を省略したサンプルも用意した。しかしながらこうしたサンプルは、ITO皮膜が着色(例えば、黄色やメタリック光沢)しているという課題が有った。またこうしたITO皮膜は、カールしやすく、カール耐性に課題が残った。なおカール耐性とは、カールに対する耐性であり、各サンプルの取り扱い性等も考慮した結果である。ここで取り扱い性とは、カール耐性に加えて、サンプルの製造途中、あるいは製造後のハンドリング時の折り曲げ等の影響も加味したものである。
このように透明電極にITOを用いたもの(比較品1等)は、熱処理に課題が残ると共に、カール耐性においても、大きな課題が残った。すなわち、ITOを用いた偏光フィルムの場合、カールが発生し易かった。またカールが発生したサンプルについて、物理的なカール修正を行ったり、またカールが発生していないサンプルを繰り返し丸めたり、まっすぐ広げたりした際に、ITO膜に微細なクラックが発生し、シート抵抗が変化する場合があった。一方、発明品1、2においてはカールが発生せず、カールが発生していないサンプルを繰り返し丸めたり、まっすぐ広げたりしても、クラック等は発生せず、シート抵抗も変化しなかった。
発明品1、2においては、TTP動作安定性や無線LAN通信安定性の両方において、○(Good)という優れた評価結果が得られたが、これは発明品1、2において優れた帯域選択シールド特性を有していたためと考えられる。また発明品1、2は共に優れたカール耐性を有していた。こうした背景より、発明品1、2を用いた帯域選択偏光シールドにおいては、その優れた帯域選択シールド特性が、生産時や加工時の取り扱い状態によって影響を受けないことが判る。このように発明品1、2を用いた帯域選択偏光シールドは、表示デバイスとなるIPS液晶の表面にロールラミネータ等を用いて貼り付ける場合、あるいは各種表示機器に組み込むために部分的に折り曲げたりする場合においても、その優れたシールド特性が影響を受けないことが判る。
このように、本発明の帯域選択偏光シールドの一形態である発明品1、2の場合、表示デバイスとなる液晶やEL等のディスプレイ、あるいは静電式の透明タッチパネル等の表面にロールラミネータ等を用いて貼り付ける場合、あるいは各種表示機器に組み込む際に帯域選択偏光シールドの一部を部分的に折り曲げたりした場合であっても、優れたTTP動作安定性や、優れた無線LAN通信安定性が得られる。このように本発明の帯域選択偏光シールドを用いることで、折り曲げ可能な表示デバイスや、フレキシブルな表示機器においても、優れたTTP動作安定性や、優れた無線LAN通信安定性が得られる。またフレキシブル性が要求されない、一般の表示デバイスや、表示機器に、本発明の帯域選択偏光シールドを用いることで優れたTTP動作安定性と、優れた無線LAN通信安定性の両方を同時に満足することができることは言うまでもない。
また比較品1のようにITOを用いて偏光シールドを作製したとしても、表示デバイスの表面にロールラミネータ等を用いて貼り付ける場合、あるいは各種表示機器に組み込む際に部分的に折り曲げたりすると、ITO皮膜にクラック等が発生してしまい、TTP動作安定性や無線LAN通信安定性が低下してしまう可能性がある。
なお発明者らの実験によると、少なくとも、サンプル形状がスマートフォンサイズ〜A4サイズ程度のタブレットサイズにおいてシート抵抗は5Ω/□以上200Ω/□が適切であった。そのため、より大型のパネル(例えば、畳1畳分〜2畳分)の場合は、スマートフォンやタブレット端末ほどの高性能が必要でない場合は、2Ω/□以上、400Ω/□以下とシート抵抗域を広げても良い。
また液晶やEL等の表示色調に合わせて、偏光部130の色調を調整することは有用である。すなわち、IPSパネル210(あるいはELパネル)の色調が(あるいはホワイトバランス)が、赤色側にずれている場合、偏光部130の色調をシアン(あるいは補色、あるいは色相環で正反対に位置する色、余色、対照色、反対色と色相となる色調等)とすることで、ホワイトバランスを調整することができる。
また必要に応じて、低屈層、高屈層等を、帯域選択偏光シールド110に追加することで、帯域選択偏光シールド110の光学的特性を、更に高められることは言うまでも無い。