以下に添付の図を参照しつつ、本発明を好ましい実施形態について詳細に説明する。
[第一の実施形態]
図1は本発明による車両用サスペンション装置の第一の実施形態を一つの車輪について示す概略構成図である。
図1において、符号10は車両100のサスペンション装置を全体的に示しており、サスペンション装置10はサスペンション機構12と演算制御装置14とを有している。サスペンション機構12はサスペンションスプリング16及びショックアブソーバ18を含んでいる。サスペンションスプリング16及びショックアブソーバ18は、ばね上部材HAとばね下部材LAとの間に互いに並列の関係をなすよう配設されている。ばね上部材HAは、車体のうちサスペンション装置10が懸架する部分や、サスペンションスプリング16及びショックアブソーバ18の上端を車体に連結する部材等を含んでいる。ばね下部材LAは、車輪20を回転可能に支持する車輪支持部材や、車体と車輪支持部材とを接続するサスペンションアーム等を含んでいる。
サスペンションスプリング16は、ばね上部材HA及びばね下部材LAの相対変位を許容することによって路面からの振動入力を吸収する。ショックアブソーバ18は、減衰係数を増減可能な減衰力可変式の減衰力発生装置として機能し、減衰力を発生することによってばね上部材HAの振動を減衰させる。演算制御装置14はショックアブソーバ18の減衰係数を制御することによってショックアブソーバが発生する減衰力を制御する。なお、車両100は左右前輪及び左右後輪の四つの車輪を有し、サスペンションスプリング16及びショックアブソーバ18は各車輪に対応して設けられている。
ショックアブソーバ18は、シリンダ24とピストン26とを有し、ピストン26はシリンダ24に対し相対的に往復動可能にシリンダに嵌合している。図示の実施形態においては、ショックアブソーバ18は、シリンダ24の下端にてばね下部材LAに連結され、ピストン26のロッド部の上端にてばね上部材HAに連結されている。なお、ショックアブソーバ18は、図1とは上下が逆転され、シリンダ24の一端にてばね上部材HAに連結され、ピストン26のロッド部の先端にてばね下部材LAに連結されていてもよい。
シリンダ24及びピストン26は、互いに共働してシリンダ上室24U及びシリンダ下室24Lを形成しており、シリンダ上室24U及びシリンダ下室24Lには作動液体としてのオイルが充填されている。ピストン26の本体には、シリンダ上室24Uよりシリンダ下室24Lへ向かうオイルの流れのみを許す連通路28と、シリンダ下室30よりシリンダ上室28へ向かうオイルの流れのみを許す連通路30とが設けられている。連通路28及び30には、それぞれ可変絞り装置32及び34が設けられており、可変絞り装置32及び34はそれぞれ伸び行程用の減衰力発生弁及び縮み行程用の減衰力発生弁として機能する。
可変絞り装置32及び34の実効通路断面積、すなわち、開度はアクチュエータ36により多段階に制御される。図2に示されている如く、伸び行程の減衰係数は制御段SE1(ソフト)〜SEn(ハード)(nは正の整数)の多段階に制御され、縮み行程の減衰係数は制御段SC1(ソフト)〜SCn(ハード)(nは正の整数)の多段階に制御される。可変絞り装置32及び34は、それぞれ連通路28及び30を流通するオイルに流通抵抗を与えることによって減数力を発生し、減衰力はシリンダ24に対するピストン26の相対変位を抑制する方向に作用する。なお、アクチュエータ36は例えばピストン26の内部に設けられていてもよい。
アクチュエータ36は演算制御装置14により制御される。演算制御装置14はマイクロコンピュータ38を含み、マイクロコンピュータ38は、CPU、ROM、RAM、入出力ポート装置等を含み、これらが双方向性のコモンバスにより互いに接続された周知の構成のものであってよい。なお、マイクロコンピュータ38は、例えば左前輪、右前輪、左後輪、右後輪の順に各車輪のアクチュエータ26を制御するようになっていてよい。
また、演算制御装置14は、ばね上加速度センサ40と、ばね下加速度センサ42と、ストロークセンサ44と、タイヤ変位量センサ46とを含んでいる。ばね上加速度センサ40は、ばね上部材HAに設けられており、絶対空間に対するばね上部材HAの上下方向の加速度であるばね上加速度xpb”を検出し、検出したばね上加速度xpb”を示す信号を出力する。ばね下加速度センサ42は、ばね下部材LAに設けられており、絶対空間に対するばね下部材LAの上下方向の加速度であるばね下加速度xpw”を検出し、検出したばね下加速度xpw”を示す信号を出力する。
ストロークセンサ44は、ばね上部材HAとばね下部材LAとの間に配設されており、ばね上部材HAの基準位置からの上下方向の変位量であるばね上変位量xpbとばね下部材LAの基準位置からの上下方向の変位量であるばね下変位量xpwとの差を検出する。この差は、ばね上−ばね下相対変位量xpw−xpbであるので、ストロークセンサ44は、検出したばね上−ばね下相対変位量xpw−xpbを示す信号を出力する。タイヤ変位量センサ46は、路面の基準位置からの上下方向の変位量である路面変位量xprとばね下変位量xpwとの差であるばね下相対変位量xpr−xpwを検出し、検出したばね下相対変位量xpr−xpwを示す信号を出力する。
なお、ばね上加速度センサ40及びばね下加速度センサ42は、上方向に向かう加速度を正の加速度として検出し、下方向に向かう加速度を負の加速度として検出する。また、ストロークセンサ44は、ばね上部材HA及びばね下部材LAが相対的に離れる方向の変位量を正の相対変位量として検出し、逆方向の相対変位量を負の相対変位量として検出する。また、タイヤ変位量センサ46は、ばね下部材LA及び車輪20が基準の位置関係よりも相対的に近づく方向の変位量を正のタイヤ変位量として検出し、逆方向の変位量を負のタイヤ変位量として検出する。
上述の如く構成された実施形態において、図には示されていないイグニッションスイッチが乗員によりオンに切替えられると、マイクロコンピュータ38は、図3に示されたフローチャートに従って減衰力制御プログラムを所定の時間毎に繰り返し実行する。この場合、減衰力制御プログラムは、例えば左前輪、右前輪、左後輪、右後輪の順に全ての車輪について実行される。
図3に示されたフローチャートによる減衰力制御プログラムは、ステップ100にて開始され、ステップ110においては、ばね上加速度センサ40等の各センサより検出値を示す信号が入力される。
ステップ120においては、ばね上加速度xpb”及びばね下加速度xpw”がそれぞれ時間積分されることにより、ばね上部材HAの上下方向の速度であるばね上速度xpb’及びばね下部材LAの上下方向の速度であるばね下速度xpw’が演算される。また、ばね上−ばね下相対変位量xpw−xpbが時間微分されることにより、ばね上速度xpb’とばね下速度xpw’との差であるばね上−ばね下相対速度Vre(=xpw’−xpb’)が演算される。
この場合、ばね上速度xpb’及びばね下速度xpw’は、上方向への速度である場合には正の速度として演算され、下方向への速度である場合には負の速度として演算される。また、ばね上−ばね下相対速度Vreは、ばね上部材HA及びばね下部材LAが相対的に離れる方向の速度である場合には正の速度として演算され、上記とは逆の方向の速度である場合には負の速度として演算される。
ステップ130においては、ショックアブソーバ18の目標減衰係数Ctが演算される。この場合、目標減衰係数Ctは、減衰係数の可変分(非線形部分)である可変減衰係数Cvと、減衰係数の固定分(線形部分)である固定減衰係数Csとの和により表される。固定減衰係数Csは、ショックアブソーバ18の仕様に応じて予め定められている。固定減衰係数Csは、例えばショックアブソーバ18及び可変絞り装置32、34により実現可能な減衰係数の最大値Cmaxと最小値Cminの中間の値((Cmax+Cmin)/2)付近の減衰係数であってよい。
可変減衰係数Cvは非線形H∞制御理論を使用して演算される。この演算においては、図4に示されている如き車両の単輪モデルが想定される。図4において、Mbはばね上部材HAの質量であり、Mwはばね下部材LAの質量である。また、Ksはサスペンションスプリング16のばね定数であり、Ktは車輪20のタイヤのばね定数である。さらに、Csはショックアブソーバ18の減衰係数のうちの固定分(固定減衰係数)であり、Cvはショックアブソーバ18の減衰係数のうちの可変分(可変減衰係数)である。
図4に示された車両モデルの運動方程式は、下記の式(1)および式(2)により表される。
上記式において、xpb,xpb’,xpb”,xpw,xpw’,xpw”,xprは、それぞればね上変位量、ばね上速度、ばね上加速度、ばね下変位量、ばね下速度、ばね下加速度、タイヤ変位量であり、正負の符号は上述の通りである。
また、制御入力uを可変減衰係数C
vとし、外乱w
1を路面の上下変位速度x
pr’として、この車両モデルを状態空間表現すると、下記の式(3)のようになる。
ここで、x
p、A
p、B
p1、B
p2(x
p)は、下記の式(4)の通りである。
サスペンション装置10の性能を向上させるためには、それぞればね上部材HAの振動、車両の乗り心地性、及びばね下部材LAの振動に大きく影響するばね上速度x
pb’、ばね上加速度x
pb”、及びばね上−ばね下相対速度Vreを同時に抑制する必要がある。従って、評価出力z
pとして、ばね上速度x
pb’、ばね上加速度x
pb”及びばね上−ばね下相対速度Vre(=x
pw’−x
pb’)が使用される。また、サスペンション装置10においては、ばね上加速度x
pb”及びばね上−ばね下相対変位量x
pw−x
pbを比較的検出し易いので、ばね上加速度x
pb”及びばね上−ばね下相対変位量x
pw−x
pbが観測出力y
pとされる。また、観測出力y
pには観測ノイズw
2が含まれているとする。評価出力z
p及び観測出力y
pを状態空間表現すると、下記の式(5)および式(6)のようになる。
上記式(5)及び(6)におけるz
p,y
p,C
p1,D
p12(x
p),C
p2,D
p21,D
p22(x
p)は、それぞれ下記の式(7)の通りである。
ここで、モデルの状態空間表現を表す上記式(3)の右辺の第三項においては、係数Bp2(xp)に状態量xpが含まれ、このBp2(xp)に制御入力uが掛け合わせられている。よって、このシステムは双線形システムであり、状態量xpの原点近傍では制御入力uが作用せずに不可制御となる。この問題を解決するため、非線形な重み関数を用いた非線形H∞状態フィードバック制御系が設計される。
図5は、評価出力z
pと制御入力uに周波数重みを加えた非線形H∞状態フィードバック制御系の一般化プラントを示している。図5に示された一般化プラントにおいて、評価出力z
p及び制御入力uに周波数重みW
s(s)及びW
u(s)がそれぞれ乗算され、さらに、下記の式(8)の条件を満たす、状態量xについての非線形な重み関数a
1(x)及びa
2(x)がそれぞれ乗算されている。
周波数重みW
s(s)に対する状態空間表現は、周波数重みW
s(s)の状態量x
w、周波数重みW
s(s)の出力z
wおよび各定数行列A
w,B
w,C
w,D
wにより、下記の式(9)のように表される。また、周波数重みW
u(s)に対する状態空間表現は、周波数重みW
u(s)の状態量x
u、周波数重みW
u(s)の出力z
uおよび各定数行列A
u,B
u,C
u,D
uにより、下記式(10)のように表される。なお、下記の式(9)、(10)において、x
w’及びx
u’は、それぞれx
w及びx
uの微分値である。
上記式(3)にて示されたモデルの状態空間表現は、式(9)および式(10)を用いることにより下記の式(11)のように表される。なお、下記の式(11)において、x’はxの微分値である。また、状態量x、各係数行列A,B
1,B
2(x),C
11,D
121(x),C
12,D
122(x)は、下記の式(12)に示された値である。
上記式(11)により表される状態空間表現は、下記の式(13)に示す条件によって、下記の式(14)のように表される。
ここで、係数行列D
122 −1が存在し、所定の正定数γに対して下記の式(15)に示されたリカッチ方程式を満たす正定対称解Pが存在し、かつ、重み関数a
1(x),a
2(x)が下記の式(16)の制約条件を満たす場合に、閉ループシステムが内部安定となり、かつ、外乱に対するロバスト性を表すL2ゲインがγ以下となる制御入力u(=k(x))は下記の式(17)に示すように表される
上記式(16)を満たす重み関数a
1(x),a
2(x)が下記の式(18)のように表されると、上記式(17)により表される制御入力u=k(x)は、下記の式(19)のように表される。
ここで、上記式(18)、(19)におけるm1(x)は任意の正定関数である。
制御入力uは上記式(19)により演算可能であるので、制御入力uである可変減衰係数Cvは上記式(19)に従って演算される。なお、上述の非線形H∞制御理論に基づく減衰係数の演算手法は、既に公知であり、また上記特許文献1等に詳述されているので、より詳しくは、この文献等を参照されたい。
よって、ステップ130においては、ショックアブソーバ18の目標減衰係数Ctは、上述の如く演算された可変減衰係数Cvに予め設定された固定減衰係数Csが加算されることにより演算される。
ステップ140においては、上述の如く演算された目標減衰係数Ctとばね上−ばね下相対速度Vre(=xpw’−xpb’)との積が、目標減衰係数に基づく目標減衰力Fdtとして演算される。
ステップ150においては、目標減衰力Fdtが正の値、すなわち、縮み方向の減衰力であるか否かの判別が行われる。そして、肯定判別が行われたときには、制御はステップ160へ進み、否定判別が行われたときには、制御はステップ170へ進む。
ステップ160においては、ばね上速度xpb’が正の値、すなわち、ばね上部材HAが上方へ変位している状況であるか否かの判別が行われる。そして、肯定判別が行われたときには、制御はステップ200へ進み、否定判別が行われたときには、制御はステップ210へ進む。
ステップ170においては、ばね上速度xpb’が0又は負の値、すなわち、ばね上部材HAが変位していないか又は下方へ変位している状況であるか否かの判別が行われる。そして、肯定判別が行われたときには、制御はステップ200へ進み、否定判別が行われたときには、制御はステップ210へ進む。
すなわち、ステップ150〜170においては、目標減衰力Fdtの符号とばね上速度xpb’ の符号とが同一であるか否かの判別が行われる。そして、二つの符号が同一であると判定されたときには、制御はステップ200へ進み、二つの符号が同一ではないと判定されたときには、制御はステップ210へ進む。
ステップ200においては、ショックアブソーバ18の最終目標減衰力Ffdtが、ステップ140において演算された目標減衰力Fdtに設定される。換言すれば、目標減衰力は修正されない。
これに対し、ステップ210においては、ショックアブソーバ18の最終目標減衰力Ffdtが、ばね上速度xpb’及び目標減衰係数Ctの積と同一の大きさで符号が逆転された値−xpb’×Ctに設定される。
ステップ230においては、最終目標減衰力Ffdtが正の値、すなわち、縮み方向の減衰力であるか否かの判別が行われる。そして、肯定判別が行われたときには、ROMに記憶されている図2のグラフの第一象限に示された減衰力−制御段参照テーブルを参照して、伸び行程用の減衰力発生弁として機能する可変絞り装置32の目標制御段SEtが決定される。減衰力−制御段参照テーブルには、可変絞り装置32により設定可能な全ての減衰力制御段SE1〜SEnについて、ばね上−ばね下相対速度Vreとショックアブソーバ18の減衰力との関係が記憶されている。この場合、ばね上−ばね下相対速度Vreと最終目標減衰力Ffdtとに基づいて、制御段SE1〜SEnのうち最も近い制御段が目標制御段SEtに決定される。
また、ステップ230において、否定判別が行われたときには、ROMに記憶されている図2のグラフの第三象限に示された減衰力−制御段参照テーブルを参照して、縮み行程用の減衰力発生弁として機能する可変絞り装置34の目標制御段SCtが決定される。減衰力−制御段参照テーブルには、可変絞り装置34により設定可能な全ての減衰力制御段SC1〜SCnについて、ばね上−ばね下相対速度Vreとショックアブソーバ18の減衰力との関係が記憶されている。この場合、ばね上−ばね下相対速度Vreと最終目標減衰力Ffdtとに基づいて、制御段SC1〜SCnのうち最も近い制御段が目標制御段SCtに決定される。
ステップ240においては、目標制御段がSEtであるときには、目標制御段SEtに対応する制御信号が可変絞り装置32へ出力されることにより、可変絞り装置32により設定される制御段SEが目標制御段SEtに制御される。よって、ショックアブソーバ18の減衰力が最終目標減衰力Ffdtにできるだけ近い値に制御される。なお、縮み行程の減衰力は0でよいので、縮み行程用の減衰力発生弁として機能する可変絞り装置34の目標制御段SCtは、図2には示されていないフルソフトの制御段SC0(実質的に減衰力を発生しない制御段)に制御される。
これに対し、目標制御段がSCtであるときには、目標制御段SCtに対応する制御信号が可変絞り装置34へ出力されることにより、可変絞り装置34により設定される制御段SCが目標制御段SCtに制御される。よって、ショックアブソーバ18の減衰力が最終目標減衰力Ffdtにできるだけ近い値に制御される。なお、伸び行程の減衰力は0でよいので、伸び行程用の減衰力発生弁として機能する可変絞り装置32の目標制御段SEtは、図2には示されていないフルソフトの制御段SE0(実質的に減衰力を発生しない制御段)に制御される。
ステップ240が完了すると、ステップ250において図3に示されたフローチャートによる制御は一旦終了し、ステップ110以降が再度実行される。
<第一の実施形態の作動>
以上の説明より解る如く、ステップ110〜130において、非線形H∞制御理論を使用して、ショックアブソーバ18の目標減衰係数Ctが、可変減衰係数Cvと予め設定された固定減衰係数Csとの和に演算される。また、ステップ140において、目標減衰係数Ctとばね上−ばね下相対速度Vreとの積が目標減衰力Fdtとして演算される。そして、ステップ150において、目標減衰力Fdtの符号とばね上速度xpb’の符号との関係に応じて、減衰力の制御が行われる。
ショックアブソーバ18が減衰力を発生することができる方向は、目標減衰係数Ctの符号のみならず、ばね上−ばね下相対速度Vreの符号によっても決定される。ばね上速度xpb’、相対速度Vre、目標減衰係数Ctの符号の組合せは、下記の表1及び表2に示されている如く、ケースA〜Hの8通りあるので、各ケースについてサスペンション装置10の作動を説明する。これらのケースのうち、ケースA及びFが最も頻繁に生じると共に、継続時間が最も長い事象である。
なお、表1は上記公開公報に記載されている如き従来のサスペンション装置の場合を示しており、表2は第一の実施形態のサスペンション装置の場合を示している。また、表1及び表2において、可変絞り装置の「伸び」は縮み方向の減衰力を発生する伸び側の可変絞り装置32を示し、可変絞り装置の「縮み」は伸び方向の減衰力を発生する縮み側の可変絞り装置34を示している。また、表2において、「符号の異同」は、目標減衰係数Ctの符号と、ばね上速度xpb’の符号との異同である。また、表1及び表2において、「ばね上制振の効果」の○、△、×は、それぞれ「ばね上制振の効果あり」、「ばね上制振の効果なし」、「ばね上の振動悪化」を意味する。さらに、表2において、ハッチングが施された部分は、第一の実施形態のサスペンション装置の作動が従来のサスペンション装置の作動とは異なる部分を示している。これらのことは、後述の表3についても同様である。
[1]目標減衰力が縮み方向の減衰力である場合
目標減衰力が縮み方向の減衰力になるのは、目標減衰力が正の場合であるので、上記ケースA、D、E、Hの四つの場合である。
ステップ150において肯定判別が行われ、ステップ160において、ばね上速度xpb’が正の値であるか否かの判別、すなわち、目標減衰力Fdtの符号及びばね上速度xpb’の符号が共に正で同一であるか否かの判別が行われる。
[1−1]目標減衰力の符号及びばね上速度の符号が同一である場合
上記ケースA及びDの場合であり、これらの場合には、ステップ160において肯定判別が行われ、ステップ200において、ショックアブソーバ18の最終目標減衰力Ffdtが目標減衰力Fdtに設定される。
[ケースA]の場合には、相対速度Vreが正の値であるので、伸び側の可変絞り装置32により発生される縮み方向の減衰力は、ばね上速度xpb’の大きさを減少させる方向に作用する。よって、ばね上部材HAの制振が良好に行われる。
これに対し、[ケースD]の場合には、相対速度Vreが負の値であるので、伸び側の可変絞り装置32を制御しても縮み方向の減衰力を発生させることができない。よって、ばね上部材HAの制振は行われない。
なお、従来のサスペンション装置の作動は、第一の実施形態においてステップ150〜170が実行されない場合と等価である。よって、ケースA及びDの何れの場合も、従来及び第一の実施形態のサスペンション装置の作動は同一であり、従って、ばね上制振の効果も同一である。
[1−2]目標減衰力の符号とばね上速度の符号とが異なる場合
上記ケースE及びHの場合であり、これらの場合には、ステップ160において否定判別が行われる。
[ケースE]の場合には、相対速度Vreが負の値であるので、伸び側の可変絞り装置32を制御すると、縮み方向の減衰力が発生し、ばね上速度xpb’の大きさを増大させる方向に作用する。よって、従来のサスペンション装置の場合には、減衰力の制御によってばね上部材HAの振動が悪化される。
これに対し、第一の実施形態においては、ステップ160において否定判別が行われると、ステップ210において、ショックアブソーバ18の最終目標減衰力Ffdtが、ばね上速度xpb’及び目標減衰係数Ctの積と同一の大きさで符号が逆転された値−xpb’×Ctに設定される。よって、最終目標減衰力Ffdtが負の値になって、縮み側の可変絞り装置34が制御されることにより、伸び方向の減衰力が発生し、ばね上速度xpb’の大きさを減少させる方向に作用する。従って、ばね上部材HAの制振が良好に行われる。
また、[ケースH]の場合には、目標減衰力Fdtが正の値であるが、相対速度Vreが負の値であるので、伸び側の可変絞り装置32を制御すると、縮み方向の減衰力が発生し、ばね上速度xpb’の大きさを増大させる方向に作用する。よって、従来のサスペンション装置の場合には、減衰力の制御によってばね上部材HAの振動が悪化される。
また、第一の実施形態においては、最終目標減衰力Ffdtが正の値になるので、従来のサスペンション装置の場合と同様に、伸び側の可変絞り装置32が制御される。よって、ケースHの場合には、第一の実施形態によっても、ばね上制振の効果を向上させることはできない。
[2]目標減衰力が伸び方向の減衰力である場合
目標減衰力が伸び方向の減衰力になるのは、目標減衰力が負の場合であるので、上記ケースB、C、F、Gの四つの場合である。
ステップ150において否定判別が行われ、ステップ170において、ばね上速度xpb’が0又は負の値であるか否かの判別、すなわち、目標減衰力Fdtの符号及びばね上速度xpb’の符号が共に負で同一(0の場合を含む)であるか否かの判別が行われる。
[2−1]目標減衰力の符号及びばね上速度の符号が同一である場合
上記ケースF及びGの場合であり、これらの場合には、ステップ170において肯定判別が行われ、ステップ200において、ショックアブソーバ18の最終目標減衰力Ffdtが目標減衰力Fdtに設定される。
[ケースF]の場合には、相対速度Vreが負の値であるので、縮み側の可変絞り装置34により発生される伸びみ方向の減衰力は、ばね上速度xpb’の大きさを減少させる方向に作用する。よって、ばね上部材HAの制振が良好に行われる。
これに対し、[ケースG]の場合には、相対速度Vreが正の値であるので、縮み側の可変絞り装置34を制御しても伸び方向の減衰力を発生させることができない。よって、ばね上部材HAの制振は行われない。
なお、ケースF及びGの何れの場合も、従来及び第一の実施形態のサスペンション装置の作動は同一であり、従って、ばね上制振の効果も同一である。
[2−2]目標減衰力の符号とばね上速度の符号とが異なる場合
上記ケースB及びCの場合であり、これらの場合には、ステップ170において否定判別が行われ、ステップ210において、ショックアブソーバ18の最終目標減衰力Ffdtが、ばね上速度xpb’及び目標減衰係数Ctの積と同一の大きさで符号が逆転された値−xpb’×Ctに設定される。
[ケースB]の場合には、相対速度Vreが正の値であるので、縮み側の可変絞り装置34を制御しても縮み方向の減衰力を発生させることができない。よって、従来のサスペンション装置の場合には、ばね上部材HAの制振は行われない。
これに対し、第一の実施形態においては、ステップ170において否定判別が行われると、ステップ210において、ショックアブソーバ18の最終目標減衰力Ffdtが、正の値−xpb’×Ctに設定される。よって、伸び側の可変絞り装置32が制御されることにより、縮み方向の減衰力が発生し、ばね上速度xpb’の大きさを減少させる方向に作用する。従って、ばね上部材HAの制振が良好に行われる。
[ケースC]の場合には、目標減衰力Fdtが負の値であり、相対速度Vreも負の値であるので、縮み側の可変絞り装置34を制御すると、伸び方向の減衰力が発生し、ばね上速度xpb’の大きさを増大させる方向に作用する。よって、従来のサスペンション装置の場合には、減衰力の制御によってばね上部材HAの振動が悪化される。
また、第一の実施形態においては、最終目標減衰力Ffdtが負の値になるので、従来のサスペンション装置の場合と同様に、縮み側の可変絞り装置34が制御される。よって、ケースCの場合には、第一の実施形態によっても、ばね上制振の効果を向上させることはできない。
かくして、第一の実施形態によれば、目標減衰力及びばね上速度の符号が異なるときには、ショックアブソーバ18の最終目標減衰力Ffdtが、目標減衰力Fdtではなく、ばね上速度xpb’及び目標減衰係数Ctの積と同一の大きさで符号が逆転された値に設定される。そして、上記目標減衰力の修正により、減衰力がばね上を制振するに必要な方向とは逆の方向に作用する状況において、ばね上を制振するに必要な方向に減衰力を作用させることができる(ケースE)。換言すれば、「振動悪化」を「振動悪化なし」にすることができる。また、上記目標減衰力の修正により、減衰力がばね上を制振させる方向の減衰力が発生しない状況において、ばね上を制振するに必要な方向に減衰力を発生させることができる(ケースB)。換言すれば、「制振効果なし」を「制振効果あり」にすることができる。従って、ショックアブソーバ18の減衰力が常に目標減衰力Fdtになるよう制御される場合に比して、ばね上の制振効果を向上させることができる。
なお、第一の実施形態によれば、目標減衰力の符号とばね上速度の符号とが異ならないときには、ショックアブソーバ18の最終目標減衰力Ffdtは目標減衰力Fdtに設定される。よって、目標減衰力Fdtに基づくショックアブソーバ18の減衰力が、ばね上を制振するに必要な方向とは逆の方向に作用しない状況においては、非線形H∞制御理論に基づいて演算される目標減衰係数に基づいて減衰力を制御することができる。このことは、後述の第三の実施形態においても同様である。
[第二の実施形態]
図6は第二の実施形態に於ける減衰力制御プログラムを示すフローチャートである。なお、図6において、図3に示されたステップと同一のステップには図3において付されたステップ番号と同一のステップ番号が付されている。このことは、後述の図7及び図8についても同様である。
この第二の実施形態においては、それぞれ伸び行程用の減衰力発生弁及び縮み行程用の減衰力発生弁として機能する可変絞り装置32及び34の実効通路断面積、すなわち、開度はアクチュエータ36により無段階に、すなわち、連続的に制御可能である。換言すれば、ショックアブソーバ18の伸び行程及び縮み行程の減衰係数は連続的に制御可能である。
図6に示されている如く、この第二の実施形態においては、ステップ100〜170は、第一の実施形態と同様に実行される。よって、ステップ150〜170における判別の内容は第一の実施形態の場合と同一である。
ステップ160において、肯定判別、すなわち、ばね上速度xpb’が正の値である旨の判別が行われたときには、或いは、ステップ170において、肯定判別、すなわち、ばね上速度xpb’が0又は負の値である旨の判別が行われたときには、制御はステップ205へ進む。これに対し、ステップ160又は170において、否定判別が行われたときには、制御はステップ215へ進む。
ステップ205においては、ショックアブソーバ18の最終目標減衰係数Cftが、ステップ130において演算された目標減衰係数Ctに設定される。これに対し、ステップ215においては、最終目標減衰係数Cftが、ばね上速度xpb’及び目標減衰係数Ctの積と同一の大きさで符号が逆転された値を相対速度Vreにて除算した値−xpb’×Ct/Vreに設定される。
ステップ235においては、図には示されていない最終目標減衰係数−制御位置(開弁位置)参照テーブルを参照して、ショックアブソーバ18の減衰係数を最終目標減衰係数Cftにするための可変絞り装置32又は34の目標制御位置が決定される。この場合、最終目標減衰係数Cftが正の値であるときには、伸び側の可変絞り装置32の目標制御位置PEtが参照テーブルを参照して決定され、縮み側の可変絞り装置34の目標制御位置PCtはフルソフトに対応する制御位置に決定される。これに対し、最終目標減衰係数Cftが0又は負の値であるときには、縮み側の可変絞り装置34の目標制御位置PCtが参照テーブルを参照して決定され、伸び側の可変絞り装置32の目標制御位置PEtはフルソフトに対応する制御位置に決定される。
ステップ245においては、目標制御位置PEt及びPCtに対応する制御信号がそれぞれ可変絞り装置32及び34へ出力されることにより、可変絞り装置により制御位置が目標制御位置に制御される。よって、ショックアブソーバ18の減衰力が最終目標減衰係数Cftに対応する減衰力に制御される。
かくして、第二の実施形態によれば、目標減衰力の符号とばね上速度の符号とが異なるときには、最終目標減衰係数Cftが、ばね上速度xpb’及び目標減衰係数Ctとの積と同一の大きさで符号が逆転された値を相対速度Vreにて除算した値−xpb’×Ct/Vreに設定される。よって、最終目標減衰係数Cftと相対速度Vreとの積であるショックアブソーバ18の減衰力は、−xpb’×Ctとなり、上述の第一の実施形態の最終目標減衰力Ffdtと同一になる。
従って、第一の実施形態の場合と同様に、ショックアブソーバ18の減衰力が、ばね上を制振するに必要な方向とは逆の方向に作用する状況(ケースE)において、ばね上を制振するに必要な方向に減衰力を作用させることができる。また、ショックアブソーバ18の減衰力が、ばね上を制振させる方向の減衰力が発生しない状況(ケースB)において、ばね上を制振するに必要な方向に減衰力を発生させることができる。従って、目標減衰力の符号とばね上速度の符号とが異なるときにも減衰係数が修正されない場合に比して、ばね上の制振効果を向上させることができる。
なお、第二の実施形態によれば、目標減衰力の符号とばね上速度の符号とが異ならないときには、ショックアブソーバ18の最終目標減衰係数Cftは係数Ctに設定される。よって、目標減衰力Fdtに基づくショックアブソーバ18の減衰力が、ばね上を制振するに必要な方向とは逆の方向に作用しない状況においては、非線形H∞制御理論に基づいて演算される目標減衰係数に基づいて減衰力を制御することができる。このことは、後述の第四の実施形態においても同様である。
[第三の実施形態]
図7は第一の実施形態の修正例として構成された第三の実施形態に於ける減衰力制御プログラムの要部を示すフローチャートである。
この第三の実施形態においては、図7に示されている如く、ステップ100〜170、200、210、230〜250は、第一の実施形態の場合と同様に実行される。よって、ステップ150〜170における判別の内容も第一及び第二の実施形態の場合と同一である。
ステップ160又は170において、肯定判別が行われたときには、換言すれば、ばね上速度xpb’の符号が目標減衰力Fdtの符号と同一である旨の判別が行われたときには、制御はステップ200へ進む。しかし、ステップ160において、否定判別が行われたときには、制御はステップ180へ進み、ステップ170において、否定判別が行われたときには、制御はステップ190へ進む。
ステップ180及び190においては、ばね上−ばね下相対速度Vreが負の値、すなわち、ばね上及びばね下が互いに近づいている状況であるか否かの判別が行われる。そして、肯定判別が行われたときには、制御はステップ210へ進み、否定判別が行われたときには、制御はステップ220へ進む。
ステップ220においては、ショックアブソーバ18の最終目標減衰力Ffdtが、ばね上速度xpb’と目標減衰係数Ctとの積xpb’×Ctに設定される。
<第三の実施形態の作動>
表3は第一の実施形態のサスペンション装置の作動を示している。なお、表3において、ハッチングが施された部分は、第三の実施形態のサスペンション装置の作動が従来のサスペンション装置の作動とは異なる部分を示している。
表3と表2との比較より解る如く、ケースC及びH以外のケースの作動は第一の実施形態のサスペンション装置の場合と同一である。ケースC及びHは、第一の実施形態においては、従来のサスペンション装置の場合と同様に、減衰力がばね上速度xpb’を増大させる方向に作用し、よって、減衰力の制御によってばね上部材HAの振動が悪化されることを防止できないケースである。
この第三の実施形態においては、[ケースC]の場合には、目標減衰力Fdt及び相対速度Vreは負の値であり、ばね上速度xpb’は正の値である。よって、ステップ150及び170において否定判別が行われ、ステップ190において肯定判別が行われ、これによりステップ220が実行される。
ステップ220においては、最終目標減衰力Ffdtが正の値に演算されるので、ステップ240において伸び側の可変絞り装置32が制御される。しかし、相対速度Vreは負の値であるので、伸び側の可変絞り装置32を制御しても縮み方向の減衰力を発生させることができない。よって、ばね上部材HAの制振は行われないが、減衰力の制御に起因してばね上部材HAの振動が悪化されることを防止できる。
また、[ケースH]の場合には、目標減衰力Fdt及び相対速度Vreは正の値であり、ばね上速度xpb’は負の値である。よって、ステップ150において肯定判別が行われ、ステップ160及び180において否定判別が行われ、これによりステップ220が実行される。
ステップ220においては、最終目標減衰力Ffdtが負の値に演算されるので、ステップ240において縮み側の可変絞り装置34が制御される。しかし、相対速度Vreは正の値であるので、縮み側の可変絞り装置34を制御しても伸び方向の減衰力を発生させることができない。よって、ばね上部材HAの制振は行われないが、減衰力の制御に起因してばね上部材HAの振動が悪化されることを防止できる。
従って、ケースC及びHの何れについても、減衰力の制御に起因してばね上部材HAの振動が悪化されることを防止することができる。換言すれば、ケースB及びEについて、第一の実施形態の場合と同様に、「制振効果なし」を「制振効果あり」にすると共に、ケースC及びHについて、「振動悪化」を「振動悪化なし」にすることができる。よって、この第三の実施形態によれば、第一の実施形態の場合よりもばね上の制振効果を向上させることができる。
[第四の実施形態]
図8は第二の実施形態の修正例として構成された第四の実施形態に於ける減衰力制御プログラムの要部を示すフローチャートである。
この第四の実施形態においては、図8に示されている如く、ステップ100〜170、205、215、235〜250は、第二の実施形態の場合と同様に実行される。よって、ステップ150〜170における判別の内容は第一乃至第三の実施形態の場合と同一である。また、ステップ180及び190は、第三の実施形態の場合と同様に実行される。よって、ステップ180及び190における判別の内容は第三の実施形態の場合と同一である。
ステップ160又は170において、肯定判別が行われたときには、換言すれば、ばね上速度xpb’の符号が目標減衰力Fdtの符号と同一である旨の判別が行われたときには、制御はステップ205へ進む。また、ステップ180及び190において、肯定判別が行われたときには、換言すれば、ばね上−ばね下相対速度Vreが負の値である旨の判別が行われたときには、制御はステップ215へ進み、否定判別が行われたときには、制御はステップ225へ進む。
ステップ225においては、ショックアブソーバ18の最終目標減衰係数Cftが、ばね上速度xpb’と目標減衰係数Ctとの積を相対速度Vreにて除算した値xpb’×Ct/Vreに設定される。
かくして、第四の実施形態によれば、目標減衰力Fdt及びばね上速度xpb’の符号が異なり、相対速度Vre及びばね上速度の符号が同一であるとき(ケースB及びE)には、ステップ215において最終目標減衰係数Cftが、−xpb’×Ct/Vreに設定される。よって、最終目標減衰係数Cftと相対速度Vreとの積であるショックアブソーバ18の減衰力は、−xpb’×Ctとなり、上述の第一の実施形態の最終目標減衰力Ffdtと同一になる。
従って、[ケースB]及び[ケースE]の何れについても、第一ないし第三の実施形態の場合と同様に、目標減衰力の符号とばね上速度の符号とが異なるときにも減衰係数が修正されない場合に比して、ばね上の制振効果を向上させることができる。
また、目標減衰力Fdt及びばね上速度xpb’の符号が異なり、かつ、相対速度Vre及びばね上速度の符号が異なるとき(ケースC及びH)には、ステップ225において最終目標減衰係数Cftが、xpb’×Ct/Vreに設定される。
特に、[ケースC]の場合には、目標減衰力Ffdtは負の値になるが、上記最終目標減衰係数Cftの修正により、最終目標減衰力Ffdtは正の値になる。よって、ステップ245において伸び側の可変絞り装置32が制御される。しかし、相対速度Vreは負の値であるので、伸び側の可変絞り装置32を制御しても縮み方向の減衰力を発生させることができない。従って、ばね上部材HAの制振は行われないが、減衰力の制御に起因してばね上部材HAの振動が悪化されることを防止できる。
また、[ケースH]の場合には、目標減衰力Ffdtは正の値になるが、上記最終目標減衰係数Cftの修正により、最終目標減衰力Ffdtは負の値になる。よって、ステップ245において縮み側の可変絞り装置34が制御される。しかし、相対速度Vreは正の値であるので、縮み側の可変絞り装置34を制御しても伸び方向の減衰力を発生させることができない。従って、ばね上部材HAの制振は行われないが、減衰力の制御に起因してばね上部材HAの振動が悪化されることを防止できる。
従って、よって、ケースC及びHの何れについても、「振動悪化」を「振動悪化なし」にすることができ、減衰力の制御に起因してばね上部材HAの振動が悪化されることを防止することができる。従って、この第四の実施形態によれば、第三の実施形態の場合と同様に、第一及び第二の実施形態の場合よりもばね上の制振効果を向上させることができる。
なお、表1と表2及び表3との比較より解る如く、ケースD及びGについては、第一ないし第四の何れの実施形態によっても、「制振効果なし」を「制振効果あり」にすることはできない。これらの場合には、ばね上の制振に必要な減衰力の作用方向がショックアブソーバにより発生可能な減衰力の作用方向とは逆になる。よって、これらのケースについては、減衰力の作用方向がばね上−ばね下の相対速度の方向により決定され、パッシブな減衰力しか発生できないショックアブソーバを如何に制御しても、制振効果を向上させることはできない。
以上においては、本発明を特定の実施形態について詳細に説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内にて他の種々の実施形態が可能であることは当業者にとって明らかであろう。
例えば、上述の第一及び第三の実施形態においては、ステップ170において、ばね上速度xpb’が0又は負の値であるか否かの判別が行われるようになっている。しかし、ステップ150に先立ってばね上速度xpb’が0であるか否かの判別が行われ、否定別が行われたときに制御がステップ150へ進み、肯定判別が行われたときには可変絞り装置32及び34の目標制御段SEt及びSCtがフルソフトの値に設定されよう修正されてもよい。
同様に、上述の第二及び第四の実施形態においては、ステップ150に先立ってばね上速度xpb’が0であるか否かの判別が行われ、否定別が行われたときに制御がステップ150へ進み、肯定判別が行われたときには可変絞り装置32及び34による制御位置がフルソフトの制御位置に設定されよう修正されてもよい。
また、上述の各実施形態においては、ばね上速度xpb’が0でなければ、可変絞り装置32及び34の制御段又は制御位置がそれぞれ最終目標減衰力又は最終目標減衰係数に応じて制御される。しかし、ステップ150に先立ってばね上速度xpb’の大きさが基準値以下であるか否かの判別が行われ、否定別が行われたときに制御がステップ150へ進み、肯定判別が行われたときには目標制御段又は制御位置が前回値に維持定されるよう修正されてもよい。
また、上述の各実施形態においては、目標減衰係数に基づく目標減衰力の符号は相対速度及び目標減衰係数の積、すなわち、目標減衰力の符号である。しかし、相対速度及び目標減衰係数の符号が同一であるときには、目標減衰係数に基づく目標減衰力の符号が正と判定され、相対速度及び目標減衰係数の符号が異なるときには、目標減衰係数に基づく目標減衰力の符号が負と判定されてもよい。
また、上述の各実施形態においては、目標減衰係数は非線形H∞制御理論に基づいて可演算される可変減衰係数と予め設定された固定減衰係数との和として演算され、状況によって目標減衰係数の大きさや符号が変化する。しかし、目標減衰係数の大きさや符号がばね上の制振や車両の姿勢制御の目的で変化される限り、目標減衰係数は任意の制御側に従って演算されてよい。