[1.発明に至った経緯]
本発明の実施の形態について説明する前に、本発明に至った経緯について説明する。
図26は、抵抗変化素子の構成の一例を模式的に示す断面図である。
図26の(a)は、製造後の初期状態にある抵抗変化素子900の構成を示している。初期状態の抵抗変化素子900は、第1電極103と、第2電極106と、第1電極103と第2電極106との間に介在し、金属酸化物で構成された抵抗変化層104とで構成される。初期状態の抵抗変化素子900の抵抗変化層104は、抵抗変化材料が堆積されたままの状態であり、抵抗値が通常の高抵抗状態よりも相当高い。そのため、初期状態の抵抗変化素子900の抵抗値は、通常の書き込み電圧が印加されても変化しない。
図26の(b)は、動作可能状態にある抵抗変化素子900の構成を示している。動作可能状態の抵抗変化素子900の抵抗値は、通常の書き込み電圧の印加に応じて、高抵抗状態と低抵抗状態との間で可逆的に変化する。
抵抗変化素子900は、例えば、製造後、通常の書き込み電圧よりも高い初期ブレイク電圧が印加されることによって、初期状態から動作可能状態へ移行する。初期ブレイク電圧の印加によって抵抗変化素子を動作可能状態へ移行させる操作は、初期ブレイク動作と呼ばれる。
動作可能状態の抵抗変化素子900の抵抗変化層104には、局所領域105が形成されている。
局所領域105とは、抵抗変化層104のうち、第1電極103と第2電極106との間に電圧を印加したときに、支配的に電流が流れる領域である。電流が、抵抗変化層104内に存在する欠陥の連なりであるフィラメントを介して流れると仮定すると、局所領域105は、抵抗変化層104の他の領域と比べて欠陥充填率が高く、フィラメントが形成されやすい領域であると言える。
背景技術の欄で述べたように、抵抗変化素子の抵抗変化は、フィラメントの発生及び消失によって生じるとする考え方がある。
そこで、本願発明者らは、フィラメントの発生及び消失が前述した局所領域内において生じると考え、局所領域の構造的な特性(一例として、寸法及び欠陥充填率)から、抵抗変化素子の抵抗変化特性が定量的に把握できる可能性に着目する。
例えば、複数の抵抗変化素子に対し、高抵抗化及び低抵抗化の書き込み動作を多くの回数繰り返すうちに、抵抗値の分布範囲が広がり、また抵抗状態のリテンション特性に劣る抵抗変化素子が顕在化することが、経験的に知られている。
ところが、潜在的な不良を持つそのような抵抗変化素子でも、初期の段階では、他の抵抗変化素子とほぼ同一の抵抗値や読み出し電流値を示すことが多いため、抵抗値や電流値を直接的に用いたのでは、不良が顕在化する前にそのような抵抗変化素子をスクリーニングすることは困難である。
これに対し、局所領域の構造的な特性には、このような潜在的な不良、言い換えれば、抵抗変化素子の抵抗変化動作に関する将来の信頼性、が反映されている可能性がある。
本願発明者らは、このような着目に基づいて鋭意検討を行った結果、抵抗変化特性を定量的に把握するために適した、新規な抵抗変化素子の評価方法に到達した。
なお、上記の説明は、以下で説明する実施の形態を理解する上で一助とするものであり、本発明は上記の説明によって限定されない。
[2.実施の形態の概要]
開示される1つの態様に係る評価方法は、第1電極と、第2電極と、前記第1電極と前記第2電極との間に介在し前記第1電極と前記第2電極との間に与えられる電気的パルスに応じて抵抗状態が可逆的に変化する局所領域が形成された抵抗変化層と、を有する抵抗変化素子の評価方法であって、前記局所領域の抵抗状態を複数回変化させたときの各変化の後の当該抵抗状態を表す測定値を取得する取得ステップと、取得された前記測定値の分布に基づいて、前記局所領域の構造的な特性に関する物理パラメータの評価量を、計算により決定する決定ステップと、を含む。
このような方法によれば、前記測定値は、前記局所領域の抵抗状態が複数回変化できる状態を保ったまま、つまり前記抵抗変化素子を破壊することなく、取得される。前記測定値は、例えば、電気的に測定することができる抵抗値又は電流値であってもよい。そのため、前記抵抗変化素子が不揮発性記憶装置などの製品に組み込まれてからでも、製品の状態のまま非破壊で、かつ、評価用の特別な抵抗変化素子のサンプルを用意することなく、前記評価量を決定することができる。
決定された前記評価量を用いて、前記抵抗変化素子が正常であるか不良であるかを判定し、不良であると判定された前記抵抗変化素子をスクリーニングすることにより、前記抵抗変化素子を用いて構成される製品の歩留まりや信頼性を向上させることができる。
また、例えば、前記決定ステップにおいて、前記物理パラメータが参照量である前記局所領域のモデルから理論的に導出される抵抗状態の分布である理論分布と、取得された前記複数の測定値で表される前記抵抗状態の分布である測定分布とを比較し、前記理論分布と前記測定分布とが所定の度合いで合致するときに、前記物理パラメータの前記評価量を、前記参照量に決定してもよい。
このような方法によれば、前記理論分布と前記測定分布との比較に基づいて、前記評価量が前記参照量であるか否かを決定することができる。
また、例えば、前記決定ステップにおいて、前記局所領域のモデルから、前記物理パラメータが互いに異なる複数の参照量のそれぞれについて理論的に導出される抵抗状態の理論分布と、前記測定分布とを比較し、前記物理パラメータの前記評価量を、前記測定分布と最もよく合致する前記理論分布が導出された前記参照量に決定してもよい。
このような方法によれば、複数の前記理論分布と前記測定分布との比較に基づいて、前記評価量を、複数の前記参照量の中で最も適切な参照量に決定することができる。
また、例えば、前記局所領域は、金属酸化物で構成され、前記参照量は、前記局所領域の前記物理パラメータである寸法及び酸素の欠損に関する欠陥充填率を表し、前記モデルは、前記参照量で表される寸法の3次元の領域を各々が酸素のサイトを表す複数の部分に分割してなるモデルであり、前記評価方法は、前記モデルの前記複数のサイトのうち、前記参照量で表される欠陥充填率に応じた個数の前記サイトに、酸素欠損によるホッピングサイトをランダムに割り当てるシミュレーションを複数回行い、当該シミュレーションごとに、前記局所領域内において前記第1電極に最も近い部分およびその周辺部分から前記第2電極と接する面までつながった前記ホッピングサイトで構成されるフィラメントの形成状態から、前記抵抗変化素子全体での理論的な抵抗値を算出し、前記算出された複数の抵抗値の分布を前記理論分布として導出する、導出ステップを、さらに含んでもよい。
このような方法によれば、前記測定分布と比較される前記理論分布を、シミュレーションにより導出することができる。
また、例えば、前記導出ステップにおいて、前記局所領域のモデルから、前記物理パラメータが互いに異なる複数の参照量のそれぞれについて前記理論分布を導出し、前記評価方法は、前記導出された前記理論分布を記憶する記憶ステップを、さらに含み、前記決定ステップにおいて、前記記憶ステップで記憶された前記理論分布と、前記測定分布とを比較することにより、前記物理パラメータの前記評価量を決定してもよい。
このような方法によれば、前記複数の理論分布をあらかじめ導出して記憶しておき、前記測定分布と比較することができる。
また、例えば、前記決定ステップにおいて、取得された前記複数の測定値の中間的な代表値とばらつき量とを求め、前記物理パラメータの前記評価量を、求めた前記代表値と前記ばらつき量とを評価式に代入して得られる量に決定してもよい。
このような方法によれば、前記測定分布から求めた前記代表値と前記ばらつき量とを前記評価式に代入することによって前記評価量を決定することができる。
また、例えば、前記物理パラメータは、前記局所領域の面積であり、前記評価式は、前記代表値と前記ばらつき量とを乗じる項、または前記ばらつき量の二乗を前記代表値で除する項を含み、前記決定ステップにおいて、前記評価式に従って、前記代表値と前記ばらつき量とを乗じるか、または前記ばらつき量の二乗を前記代表値で除することにより、前記局所領域の面積の前記評価量を決定してもよい。
このような方法によれば、前記評価式に従って前記局所領域の面積を決定することができる。
また、例えば、前記物理パラメータは、前記局所領域の欠陥充填率であり、前記評価式は、前記代表値を前記ばらつき量で除する項を含み、前記決定ステップにおいて、前記評価式に従って、前記代表値を前記ばらつき量で除することにより、前記局所領域の欠陥充填率の前記評価量を決定してもよい。
このような方法によれば、前記評価式に従って前記局所領域の欠陥充填率を決定することができる。
また、例えば、前記決定ステップにおいて、前記測定値の平均値又は中間値を、前記代表値として求めてもよい。
このような方法によれば、前記代表値として、前記測定値の平均値又は中間値を用いることができる。
また、例えば、前記評価方法は、前記局所領域の抵抗状態を複数回変化させる書き換えステップと、各変化の後の前記抵抗変化素子の前記抵抗状態を測定して測定値を得る測定ステップと、をさらに含み、前記取得ステップにおいて、前記測定ステップで得られた複数の測定値を取得してもよい。
このような方法によれば、前記抵抗変化素子の抵抗状態の書き換えと、前記抵抗状態の測定とを、前記評価方法の中で実行することができる。
また、例えば、前記評価方法は、前記決定ステップで決定された前記物理パラメータの前記評価量が所定の条件を満たすか否かに基づいて、前記抵抗変化素子が正常であるか不良であるかを判定する判定ステップを、さらに含んでもよい。
このような方法によれば、前記決定された評価量に基づいて、前記抵抗変化素子が正常であるか不良であるかを判定することができる。
また、例えば、前記評価方法は、前記抵抗変化素子が不良であると判定された場合に、前記抵抗変化素子を使用対象から除外する除外ステップを、さらに含んでもよい。
このような方法によれば、不良の抵抗変化素子が使用対象から除外されるので、前記抵抗変化素子を用いて構成される製品の歩留まりや信頼性を向上させることができる。
また、例えば、前記評価方法は、前記抵抗変化素子が不良であると判定された場合に、前記抵抗変化素子を修正する修正ステップを、さらに含んでもよい。
このような方法によれば、不良の抵抗変化素子が修正されるので、前記抵抗変化素子を用いて構成される製品の歩留まりや信頼性を向上させることができる。
開示される1つの態様に係る評価方法は、第1電極と、第2電極と、前記第1電極と前記第2電極との間に介在し前記第1電極と前記第2電極との間に与えられる電気的パルスに応じて抵抗状態が可逆的に変化する局所領域が形成された抵抗変化層と、を有する抵抗変化素子の評価方法であって、前記局所領域の構造的な特性に関する物理パラメータの評価量を取得する取得ステップと、取得された前記物理パラメータの前記評価量が所定の条件を満たすか否かに基づいて、前記抵抗変化素子が正常であるか不良であるかを判定する判定ステップと、を含む。
このような方法によれば、前記局所領域の構造的な特性に関する前記物理パラメータの前記評価量に基づいて、前記抵抗変化素子が正常であるか不良であるかを判定するので、前記抵抗変化素子の将来の信頼性を予測でき、その結果、不良が顕在化する前に、前記抵抗変化素子をスクリーニングすることが可能になる。
開示される1つの態様に係る評価装置は、第1電極と、第2電極と、前記第1電極と前記第2電極との間に介在し前記第1電極と前記第2電極との間に与えられる電気的パルスに応じて抵抗状態が可逆的に変化する局所領域が形成された抵抗変化層と、を有する抵抗変化素子を評価するための評価装置であって、前記局所領域の抵抗状態を複数回変化させたときの各変化の後の当該抵抗状態を表す複数の測定値を取得する取得部と、取得された前記複数の測定値の分布に基づいて、前記局所領域の構造的な特性に関する物理パラメータの評価量を、計算により決定する決定部と、を備える。
このような構成によれば、前記測定値は、前記局所領域の抵抗状態が複数回変化できる状態を保ったまま、つまり前記抵抗変化素子を破壊することなく、取得される。前記測定値は、例えば、電気的に測定することができる抵抗値又は電流値であってもよい。そのため、前記抵抗変化素子が不揮発性記憶装置などの製品に組み込まれてからでも、製品の状態のまま非破壊で、かつ、評価用の特別な抵抗変化素子のサンプルを用意することなく、前記評価量を決定することができる。
また、例えば、前記決定部は、前記物理パラメータが参照量である前記局所領域のモデルから理論的に導出される抵抗状態の分布である理論分布と、取得された前記複数の測定値で表される前記抵抗状態の分布である測定分布とを比較し、前記理論分布と前記分布とが所定の度合いで合致するときに、前記物理パラメータの前記評価量を前記参照量に決定してもよい。
また、例えば、前記局所領域のモデルから、前記物理パラメータが互いに異なる参照量のそれぞれについて理論的に導出される抵抗状態の理論分布を記憶している記憶部を、さらに備え、前記決定部は、前記記憶部に記憶されている前記理論分布と、前記測定分布とを比較することにより、前記物理パラメータの前記評価量を決定してもよい。
また、例えば、前記決定部は、取得された前記複数の測定値の中間的な代表値とばらつき量とを求め、前記物理パラメータの前記評価量を、求めた前記代表値と前記ばらつき量とを評価式に代入して得られる値に決定してもよい。
また、例えば、前記評価装置は、前記決定部で決定された前記物理パラメータの前記評価量が所定の条件を満たすか否かに基づいて、前記抵抗変化素子が正常であるか不良であるかを判定する判定部を、さらに備えてもよい。
これらの構成によれば、前記評価方法について述べた効果と同様の効果を有する評価装置が得られる。
開示される1つの態様に係る検査装置は、第1電極と、第2電極と、前記第1電極と前記第2電極との間に介在し前記第1電極と前記第2電極との間に与えられる電気的パルスに応じて抵抗状態が可逆的に変化する局所領域が形成された抵抗変化層と、を有する抵抗変化素子を検査するための検査装置であって、前述した評価装置を備え、前記抵抗変化素子が正常であるか不良であるかを、前記評価装置を用いて判定し、不良であると判定された場合に、前記抵抗変化素子を使用対象から除外する。
開示される1つの態様に係る検査装置は、第1電極と、第2電極と、前記第1電極と前記第2電極との間に介在し前記第1電極と前記第2電極との間に与えられる電気的パルスに応じて抵抗状態が可逆的に変化する局所領域が形成された抵抗変化層と、を有する抵抗変化素子を検査するための検査装置であって、前述した評価装置を備え、前記抵抗変化素子が正常であるか不良であるかを、前記評価装置を用いて判定し、不良であると判定された場合に、前記抵抗変化素子を修正する。
これらの構成によれば、前記評価方法について述べた効果と同様の効果を有する検査装置が得られる。
開示される1つの態様に係る不揮発性記憶装置は、第1電極と、第2電極と、前記第1電極と前記第2電極との間に介在し前記第1電極と前記第2電極との間に与えられる電気的パルスに応じて抵抗状態が可逆的に変化する局所領域が形成された抵抗変化層と、を有する抵抗変化素子と、前記抵抗変化素子に対し、前記局所領域の抵抗状態を変化させるための電気的パルスを印加する書き込み回路と、前記抵抗変化素子の抵抗状態を表す測定値を取得する読み出し回路と、前記書き込み回路を用いて前記局所領域の抵抗状態を複数回変化させ、前記読み出し回路を用いて各変化の後の当該抵抗状態を表す測定値を取得し、取得された前記複数の測定値の分布に基づいて、前記局所領域の構造的な特性に関する物理パラメータの評価量を、計算により決定する検査回路と、を備える。
また、例えば、前記不揮発性記憶装置は、前記抵抗変化素子と同じ構成を有する冗長抵抗変化素子を、さらに備え、前記検査回路は、決定された前記物理パラメータの前記評価量が所定の条件を満たすか否かに基づいて、前記抵抗変化素子が正常であるか不良であるかを判定し、前記抵抗変化素子が不良であると判定された場合に、前記抵抗変化素子を前記冗長抵抗変化素子で置き換えてもよい。
また、例えば、前記検査回路は、決定された前記物理パラメータの前記評価量が所定の条件を満たすか否かに基づいて、前記抵抗変化素子が正常であるか不良であるかを判定し、前記抵抗変化素子が不良であると判定された場合に、前記書き込み回路を用いて前記抵抗変化素子を初期ブレイクしてもよい。
これらの構成によれば、前記評価方法について述べた効果と同様の効果を有する不揮発性記憶装置が得られる。
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図は、説明のための模式図であり、厚さおよび各部の大きさの比などは、必ずしも厳密に表したものではない。
また、各図において、実質的に同一の構成、動作、および効果を表す要素については、同一の符号を付す。
さらに、以下で説明する実施の形態は、いずれも本発明の一具体例を示すものである。以下の実施の形態で示される構成要素、構成要素の配置位置および接続形態、処理、処理の順序、数値、材料などは、一例であり、本発明を限定する趣旨ではない。また、以下の実施の形態における構成要素のうち、本発明の最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、形態を構成する任意の構成要素として説明される。
[3.評価対象としての抵抗変化素子]
準備として、後述する各実施の形態に係る評価方法に従って評価される抵抗変化素子について説明する。
図1は、評価対象としての抵抗変化素子の構成の一例を示す断面図である。
抵抗変化素子100は、印加される電気的パルスに応じて抵抗状態が高抵抗状態と低抵抗状態との間で可逆的に変化し、その抵抗状態を保持しつづける素子である。抵抗変化素子100は、図1に示すように、基板101と、基板101上に形成された層間絶縁膜102と、層間絶縁膜102上に形成された第1電極103と、第1電極103上に形成された抵抗変化層104と、第2電極106とを備えている。抵抗変化層104の内部には、局所領域105が形成されている。
基板101は、例えば、シリコン単結晶基板または半導体基板を用いることができる。なお、基板101は、シリコン単結晶基板または半導体基板に限定されるものではない。抵抗変化層104は比較的低い基板温度で形成することが可能であるため、基板101の材料として、例えば、樹脂材料を用いることもできる。
第1電極103は、例えば、タングステン(W)、ニッケル(Ni)、タンタル(Ta)、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)、窒化タンタル(TaN)、窒化チタン(TiN)など、抵抗変化層104を構成する金属と比べて、標準電極電位がより低い材料で構成されてもよい。また、第2電極106は、例えば、白金(Pt)、イリジウム(Ir)、パラジウム(Pd)など、抵抗変化層104を構成する金属及び第1電極103を構成する材料と比べて、標準電極電位がより高い材料で構成されてもよい。標準電極電位は、その値が高いほど酸化しにくい特性を表す。
抵抗変化層104は、第1電極103と第2電極106との間に与えられる電圧極性に基づいて、抵抗状態が可逆的に高抵抗状態と低抵抗状態との間を遷移する層である。抵抗変化層104は、酸素不足型の金属酸化物から構成される。酸素不足型の金属酸化物とは、化学量論的組成を有する金属酸化物(通常は絶縁体)の組成よりも酸素含有量(原子比:総原子数に占める酸素原子数の割合)が少ない金属酸化物のことを言う。当該金属酸化物の母体金属は、例えば、タンタル(Ta)、ハフニウム(Hf)、チタニウム(Ti)、タングステン(W)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)等の遷移金属、あるいは、アルミニウム(Al)から少なくとも1つ選択される。
局所領域105は、抵抗変化層104のうち、第1電極103と第2電極106との間に電圧を印加したときに、支配的に電流が流れる領域であり、局所領域105には任意の数及び形状のフィラメントが形成され得る。
なお、局所領域105は、第1電極103に接さず、第2電極106に接していてもよい。そのような構成によれば、第1電極103は抵抗変化に影響しないので、第1電極103の材料選択の自由度が高まる。第1電極103と第2電極106とを、同じ材料で構成してもよい。第1電極103と第2電極106とを同じプロセス条件で生成すれば、プロセスを簡素化することが可能になる。
そのような構成は、例えば、抵抗変化層104が積層構造を有する抵抗変化素子において適用され得る。
図2は、局所領域105が、第1電極103に接さず、第2電極106に接している抵抗変化素子の構成の一例を示す断面図である。図2に示される抵抗変化素子100では、抵抗変化層104は、第1電極103に接続する第1抵抗変化層1041と、第2電極106に接続する第2抵抗変化層1042の少なくとも2層を積層して構成される。局所領域105は、第2抵抗変化層1042の内部に形成される。
第1抵抗変化層1041は、酸素不足型の第1の金属酸化物で構成され、第2抵抗変化層1042は、第1の金属酸化物よりも酸素不足度が小さい第2の金属酸化物で構成されている。抵抗変化素子の第2抵抗変化層1042中には、電気的パルスの印加に応じて酸素不足度が可逆的に変化する微小な局所領域105が形成されている。局所領域105は、酸素欠陥サイトから構成されるフィラメントを含むと考えられる。
酸素不足度とは、金属酸化物において、その化学量論的組成(複数の化学量論的組成が存在する場合は、そのなかで最も抵抗値が高い化学量論的組成)の酸化物を構成する酸素の量に対し、不足している酸素の割合をいう。化学量論的組成の金属酸化物は、他の組成の金属酸化物と比べて、より安定でありかつより高い抵抗値を有している。
例えば、金属がタンタル(Ta)の場合、上述の定義による化学量論的組成の酸化物はTa2O5であるので、TaO2.5と表現できる。TaO2.5の酸素不足度は0%であり、TaO1.5の酸素不足度は、酸素不足度=(2.5−1.5)/2.5=40%となる。また、酸素過剰の金属酸化物は、酸素不足度が負の値となる。なお、本明細書中では、特に断りのない限り、酸素不足度は正の値、0、負の値も含むものとして説明されている。
酸素不足度の小さい酸化物は化学量論的組成の酸化物により近いため抵抗値が高く、酸素不足度の大きい酸化物は酸化物を構成する金属により近いため抵抗値が低い。
酸素含有率とは、総原子数に占める酸素原子の比率である。例えば、Ta2O5の酸素含有率は、総原子数に占める酸素原子の比率(O/(Ta+O))であり、71.4atm%となる。したがって、酸素不足型のタンタル酸化物は、酸素含有率は0より大きく、71.4atm%より小さいことになる。例えば、第1金属酸化物を構成する金属と、第2金属酸化物を構成する金属とが同種である場合、酸素含有率は酸素不足度と対応関係にある。すなわち、前記第2金属酸化物の酸素含有率が前記第1金属酸化物の酸素含有率よりも大きいとき、前記第2金属酸化物の酸素不足度は前記第1金属酸化物の酸素不足度より小さい。
抵抗変化層104を構成する金属としては、遷移金属、またはアルミニウム(Al)を用いることができる。遷移金属としては、タンタル(Ta)、チタン(Ti)、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、タングステン(W)、ニッケル(Ni)等を用いることができる。遷移金属は複数の酸化状態をとることができるため、異なる抵抗状態を酸化還元反応により実現することが可能である。
例えば、抵抗変化層104にタンタル酸化物を用いる場合、第1抵抗変化層1041を構成する第1金属酸化物の組成をTaOxと表した場合にxが0.8以上1.9以下であり、かつ、第2抵抗変化層1042を構成する第2金属酸化物の組成をTaOyと表した場合にyがxの値よりも大である場合に、抵抗変化層104の抵抗値を安定して高速に変化させることができる。この場合、第2抵抗変化層1042の膜厚は、1nm以上8nm以下としてもよい。
また、抵抗変化層104にハフニウム酸化物を用いる場合、第1抵抗変化層1041を構成する第1金属酸化物の組成をHfOxと表した場合にxが0.9以上1.6以下であり、かつ、第2抵抗変化層1042を構成する第2金属酸化物の組成をHfOyと表した場合にyがxの値よりも大である場合に、抵抗変化層104の抵抗値を安定して高速に変化させることができる。この場合、第2抵抗変化層1042の膜厚は、3nm以上4nm以下としてもよい。
また、抵抗変化層104にジルコニウム酸化物を用いる場合、第1抵抗変化層1041を構成する第1金属酸化物の組成をZrOxと表した場合にxが0.9以上1.4以下であり、かつ、第2抵抗変化層1042を構成する第2金属酸化物の組成をZrOyと表した場合にyがxの値よりも大である場合に、抵抗変化層の抵抗値を安定して高速に変化させることができる。この場合、第2抵抗変化層1042の膜厚は、1nm以上5nm以下としてもよい。
第1抵抗変化層1041となる第1金属酸化物を構成する第1金属と、第2抵抗変化層1042となる第2金属酸化物を構成する第2金属とは、異なる金属を用いてもよい。この場合、前記第2金属酸化物は、前記第1金属酸化物よりも酸素不足度が小さい、つまり抵抗が高くてもよい。このような構成とすることにより、抵抗変化時に第1電極103と第2電極106との間に印加された電圧は、第2抵抗変化層1042に、より多く分配され、前記第2金属酸化物中で発生する酸化還元反応をより起こしやすくすることができる。
また、前記第1金属酸化物を構成する第1金属と、前記第2金属酸化物を構成する第2金属とを、互いに異なる材料を用いる場合、前記第2金属の標準電極電位は、前記第1金属の標準電極電位より低くてもよい。標準電極電位は、その値が高いほど酸化しにくい特性を表す。これにより、標準電極電位が相対的に低い前記第2金属酸化物で構成された第2抵抗変化層1042において、酸化還元反応が起こりやすくなる。なお、抵抗変化現象は、抵抗が高い第2金属酸化物中に形成された微小な局所領域中で酸化還元反応が起こってフィラメント(導電パス)が変化することにより、その抵抗値(酸素不足度)が変化すると考えられる。
例えば、前記第1金属酸化物に酸素不足型のタンタル酸化物(TaOx)を用い、前記第2金属酸化物にチタン酸化物(TiO2)を用いることにより、安定した抵抗変化動作が得られる。チタン(標準電極電位=−1.63eV)はタンタル(標準電極電位=−0.6eV)より標準電極電位が低い材料である。このように、前記第2金属酸化物に前記第1金属酸化物より標準電極電位が低い金属の酸化物を用いることにより、前記第2金属酸化物中でより酸化還元反応が発生しやすくなる。
その他の組み合わせとして、前記第2金属酸化物にアルミニウム酸化物(Al2O3)を用いることができる。例えば、前記第1金属酸化物に酸素不足型のタンタル酸化物(TaOx)を用い、前記第2金属酸化物にアルミニウム酸化物(Al2O3)を用いてもよい。
積層構造の抵抗変化層104における抵抗変化現象は、高抵抗化及び低抵抗化のいずれも、抵抗が高い第2金属酸化物で構成された第2抵抗変化層1042中に形成された微小な局所領域105中で酸化還元反応が起こって、局所領域105中のフィラメント(導電パス)が変化することにより、その抵抗値が変化すると考えられる。
つまり、第2抵抗変化層1042に接続する第2電極106に、第1電極103を基準にして正の電圧を印加したとき、抵抗変化層104中の酸素イオンが第2抵抗変化層1042側に引き寄せられる。これによって、第2抵抗変化層1042中に形成された微小な局所領域105中で酸化反応が発生し、酸素不足度が減少する。その結果、局所領域105中のフィラメントが形成されにくくなり、抵抗値が増大すると考えられる。
逆に、第2抵抗変化層1042に接続する第2電極106に、第1電極103を基準にして負の電圧を印加したとき、第2抵抗変化層1042中の酸素イオンが第1抵抗変化層1041側に押しやられる。これによって、第2抵抗変化層1042中に形成された微小な局所領域105中で還元反応が発生し、酸素不足度が増加する。その結果、局所領域105中のフィラメントが形成されやすくなり、抵抗値が減少すると考えられる。
酸素不足度がより小さい第2金属酸化物で構成される第2抵抗変化層1042に接続されている第2電極106は、例えば、白金(Pt)、イリジウム(Ir)、パラジウム(Pd)など、前記第2金属酸化物を構成する金属及び第1電極103を構成する材料と比べて、標準電極電位がより高い材料で構成する。また、酸素不足度がより高い第1金属酸化物で構成される第1抵抗変化層1041に接続されている第1電極103は、例えば、タングステン(W)、ニッケル(Ni)、タンタル(Ta)、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)、窒化タンタル(TaN)、窒化チタン(TiN)など、前記第1金属酸化物を構成する金属と比べて、標準電極電位がより低い材料で構成してもよい。標準電極電位は、その値が高いほど酸化しにくい特性を表す。
すなわち、第2電極106の標準電極電位V2、前記第2金属酸化物を構成する金属の標準電極電位Vr2、前記第1金属酸化物を構成する金属の標準電極電位Vr1、及び第1電極103の標準電極電位V1は、Vr2<V2、かつV1<V2なる関係を満足してもよい。さらには、V2>Vr2で、Vr1≧V1の関係を満足してもよい。
上記の構成とすることにより、第2電極106と第2抵抗変化層1042との界面近傍の第2金属酸化物中において、選択的に酸化還元反応が発生し、安定した抵抗変化現象が得られる。
また、複数の局所領域105が、抵抗変化素子100の抵抗変化層104に、形成されていてもよい。複数の局所領域105を1つと見なした場合と、実際に局所領域105が1つのみ形成されている場合とで、抵抗変化素子100の抵抗変化特性の差が小さい場合には、局所領域105が複数形成されていても、精度よく評価することができる。ただし、1つの抵抗変化層104内に、1つの局所領域105が形成されている場合は、抵抗変化素子100の抵抗値のばらつき量を低減できるため、抵抗変化素子100を精度よく評価することが可能である。
なお、抵抗変化層104に形成されている局所領域105の数は、例えば、EBAC解析によって確認することができる。
なお、抵抗変化素子100と、例えば、固定抵抗、トランジスタ、またはダイオードなどとを組み合わせることによってメモリセルを構成してもよい。
次に、上述のように構成される抵抗変化素子の動作について簡単に説明する。抵抗変化素子の動作としては、初期ブレイク動作、書き込み動作、及び読み出し動作がある。
図3は、これらの動作における抵抗変化素子100の抵抗値の変化の一例を示している。
初期ブレイク動作では、製造後、局所領域105が形成されていない抵抗変化素子100に対し、初期ブレイク電圧を印加する。局所領域105が形成されていない抵抗変化素子100の抵抗値は、図3の初期抵抗値Riで示されるように、高抵抗状態における抵抗値RHよりも高い値、例えば、107〜108Ωとなっている。
図3では、抵抗変化素子100に、負極性の初期ブレイク電圧を印加した場合の抵抗変化を示している。負極性の電圧とは、第1電極103の電位よりも第2電極106の電位が低い電圧である。負極性の初期ブレイク電圧を印加すると、抵抗変化素子は、抵抗状態が初期抵抗値Riから低抵抗状態における抵抗値RLまで変化する。
なお、初期ブレイク動作において、初期抵抗値Riから高抵抗状態における抵抗値RHに向けて抵抗値が変化するように、正極性の初期ブレイク電圧を印加してもよい。正極性の電圧とは、第1電極103の電位よりも第2電極106の電位が高い電圧である。初期ブレイク動作は、例えば、製造直後に実行され、その後、通常の書き込み動作または読み出し動作が実行される。
書き込み動作では、抵抗変化素子100の第1電極103と第2電極106との間に、所定の閾値電圧よりも振幅の大きい電気的パルス(以下、適宜「書き込み用電圧」と称する)を印加する。書き込み用電圧の極性により、高抵抗状態または低抵抗状態に変化する。具体的には、書き込み用電圧として、例えば、パルス幅が100nsの電気的パルスを印加する。
図3では、初期ブレイク電圧の印加後、正極性の書き込み用電圧(図3の正電圧パルス)を印加している。これにより、抵抗変化素子100の抵抗状態は、低抵抗状態から高抵抗状態に変化している。
さらに、図3では、正電圧パルスの印加後、負極性の書き込み用電圧(図3の負電圧パルス)を印加している。これにより、抵抗変化素子100の抵抗状態は、高抵抗状態から低抵抗状態に変化している。
読み出し動作では、抵抗変化素子に対し上記閾値電圧よりも振幅が小さい電気的パルス(読み出し用電圧)を印加する。読み出し用電圧を印加しても、抵抗変化素子100の抵抗値は変化しない。読み出し動作において、抵抗変化素子に流れる電流をセンスすることにより、抵抗変化素子100の抵抗状態が低抵抗状態であるか高抵抗状態であるかを求め、抵抗変化素子に記憶された値を読み出すことが可能になる。
[4.局所領域のモデルと理論的な抵抗値の算出]
次に、本願発明者らが考案した、上述の局所領域の抵抗状態を表すためのモデルについて説明する。後述する各実施の形態に係る評価方法は、当該モデルに基づいている。
図4は、局所領域の構造的な特性の一例を示す模式図である。
図4では、局所領域105の構造的な特性に関する物理パラメータの一例として、局所領域105の寸法及び欠陥充填率pが示されている。局所領域105の寸法は、局所領域105の径φ又は面積Sと長さlとで表され、局所領域105の欠陥充填率pは、酸素イオンの欠損の密度で表される。
上記のような構造的な特性を持つ局所領域105の抵抗状態を、パーコレーションモデルによって、次のように表現する。
前記パーコレーションモデルは、図4に示される径φ又は面積S、及び長さlの3次元の領域によって局所領域105を表し、当該3次元の領域を格子状に分割して得られる複数の部分領域(3次元のメッシュ)によって局所領域105内のサイトを表す。各々の部分領域は、一辺がサイト間距離dの立方体形状の領域である。局所領域105の径φ、長さl、及びサイト間距離dから、局所領域105に含まれるサイトの数および配置が決定される。各サイトは、局所領域105内での酸素イオンの位置を模式的に表している。
局所領域105内のサイトのうち、図4に示される欠陥充填率pに応じた数のサイトに、欠陥サイトをランダムに割り当てるシミュレーションを行う。欠陥充填率pが大きい程、多くの欠陥サイトが配置される。ここで、欠陥サイトとは、局所領域105を構成している金属酸化物において、当該金属酸化物が化学量論的組成を有する場合に存在しているべき酸素イオンかが欠損しているサイトを意味する。なお、欠陥サイトの密度は、酸素不足度とも対応している。つまり、酸素不足度が大きくなると、欠陥サイトの密度も大きくなる。
前記パーコレーションモデルでは、隣接する欠陥サイト間で電流が流れることを利用して、導電パスである局所領域105内のフィラメントは、局所領域105中の酸素欠陥サイトがつながることにより形成されると仮定する。欠陥サイトの密度が小さい場合は、欠陥サイトはつながらず、フィラメントは形成されない。欠陥サイトの密度がある閾値を越えると、第1電極103に最も近い部分およびその周辺部分から、第2電極106と接する面まで欠陥サイトがつながる。すなわち、フィラメントが形成される。
このように、局所領域105の構造的な特性に関する物理パラメータの量及びサイト間距離に応じたパーコレーションモデルにおけるフィラメントの形成状態によって、局所領域105の抵抗状態が表現される。
図5A〜図5Cは、シミュレーションによりいくつかのサイトに欠陥サイトが割り当てられたパーコレーションモデルの一例を示す図である。図5A〜図5Cでは、説明のため、局所領域105の基板101と垂直な断面内に位置するサイトを示している。
シミュレーションでは欠陥サイトをランダムに割り当てるので、局所領域の構造的な特性に関する物理パラメータの量が同一であっても、シミュレーションごとに異なる抵抗状態を示す結果が得られる。
図5A〜図5Cにおいて、数字が記載されているサイトは、欠陥サイトを表している。数字が記載されているサイトのうち、“0”と記載されたサイトは、フィラメントを形成しないサイトである。“0”以外の数字が記載されたサイトは、フィラメントを形成するサイトである。数字が記載されていないサイトは、酸素イオンが存在しているサイトである。
なお、図5A〜図5Cに示すように、局所領域105に形成されるフィラメントは、1つに限られるものではなく、複数のフィラメントが形成される場合もある。パーコレーションモデルでは、フィラメントは、確率的な本数と形状で形成される。フィラメントの本数と形状とに応じて表される局所領域105の抵抗状態の分布は、局所領域105の抵抗値の分布に対応する。
1つの抵抗状態が決まった前記パーコレーションモデルは、各欠陥サイトに対応するノードを有し、かつ各隣接するノード間がサイト間抵抗rで接続されている等価回路で表される。
局所領域105の抵抗値は、当該等価回路における第1電極103に接続するノードと第2電極106に接続するノードとの間の抵抗値として、周知の回路網解析の考え方を用いて、次のようにして計算される。
局所領域105には、第1電極103及び第2電極106を介して直流電圧が印加されているとする。すなわち、第1電極103に接続するノードと、第2電極106に接続するノードとの間に、前記直流電圧が印加されているとする。
各ノードの電位Vは、キルヒホッフの法則にしたがって、隣接するノードの電位とサイト間抵抗rとを含む式で表される。全てのノードの電位についてそのような式を立て、境界条件を与えたのち、各ノードについて反復計算を行なうことで、各ノードの電位が決定される。
決定された各ノードの電位を用いて、各隣接するノード間を流れる直流電流が計算される。第2電極106に接続するノードに流れる電流の合計値と前記等価回路に印加されている前記直流電圧の値とから、前記等価回路全体の抵抗値、すなわち局所領域105の抵抗値が理論的に算出される。
抵抗変化素子100の抵抗値Rは、例えば、算出された局所領域105の抵抗値に、第1電極103及び第2電極106の抵抗成分に対応する固定的な抵抗値を加えることにより、算出してもよい。
このように、シミュレーションによって1つの抵抗状態が定められたパーコレーションモデルについて、抵抗変化素子100の抵抗値Rが算出される。抵抗値Rは、以下の式(1)に示すように、局所領域105の径φ、長さl、欠陥充填率p、サイト間抵抗r、及びサイト間距離dの関数で表される。
ここで、局所領域105の径φ、長さl、欠陥充填率pは、抵抗変化素子100の抵抗変化特性の評価に用いられる変量であり、サイト間抵抗rおよびサイト間距離dは、抵抗変化層104を構成する材料に対応する値があらかじめ特定されている定数である。
サイト間抵抗rおよびサイト間距離dの値を特定する方法について、抵抗変化層104が、タンタル酸化物(TaOx)で構成されている場合の例で説明する。
抵抗変化層104がTa2O5の結晶構造を持つと仮定し、当該結晶構造の単位格子の形状を立方体で近似する。このとき、隣接する当該立方体間の距離を、Ta2O5の結晶構造において隣接する単位格子の中心間距離を、隣接する方向が異なる全ての単位格子の対について平均した値とする。隣接する当該立方体間の距離が、サイト間距離dに対応する。
サイト間抵抗rおよびサイト間距離dの値は、タンタル酸化物の薄膜の抵抗率に関する測定値と理論値との比較によって、次のようにして特定される。
酸素含有率が特定の値になるように制御してタンタル酸化物の薄膜を形成し、形成された薄膜の抵抗率を実際に測定して、抵抗率(測定値)を得る。
酸素含有率の前記特定の値に対応する欠陥充填率pでのタンタル酸化物の抵抗率(理論値)を、サイト間抵抗r及びサイト間距離dの異なる複数の組み合わせの各々について、前述したパーコレーションモデル及び回路網解析の考え方を用いて、算出する。前記抵抗率(理論値)として、例えば、複数回のシミュレーションにおける抵抗率の中央値を算出してもよい。
欠陥充填率pと酸素含有率とは、例えば、次のように対応付けられる。酸素が欠損していないタンタル酸化物(Ta2O5)の欠陥充填率pを0とし、酸素の欠損率が最大となるタンタル酸化物(Ta2O3.25)の欠陥充填率pを1とする。このとき、酸素の欠損数をnとすると、p=n/1.75で表される。
タンタル酸化物に対応するサイト間抵抗rおよびサイト間距離dの値を、前記抵抗率(測定値)との差分がを最も小さい抵抗率(理論値)が算出されたシミュレーションで用いたサイト間抵抗rおよびサイト間距離dの値に特定する。
図6は、タンタル酸化物の薄膜における酸素含有率に応じた抵抗率の測定値及び理論値の一例を示すグラフである。図6中の円は、酸素含有率が異なる4つのタンタル酸化物の薄膜での抵抗率の測定値を示している。図6中の実線は、サイト間抵抗r及びサイト間距離dの値の異なる組み合わせで算出された抵抗率の理論値のなかで、前記抵抗率の各々の測定値との差分が対応する酸素含有率において最小となる理論値を示している。図6中の実線で示される抵抗率(理論値)が算出されたシミュレーションでのサイト間抵抗rおよびサイト間距離dの値が、タンタル酸化物のサイト間抵抗rおよびサイト間距離dの値として特定される。
以上説明したように、径φ、長さl、欠陥充填率pの各量に対応するパーコレーションモデルから、局所領域105の1つの抵抗状態に対応する抵抗変化素子100の抵抗値Rが、シミュレーションによって算出される。そして、複数回のシミュレーションによって、複数の抵抗値Rの分布である理論分布が導出される。
本願発明者らは、実験により、抵抗値Rの分布が対数正規分布に従うという知見を得た。当該実験では、タンタル酸化物の薄膜の電気伝導度が温度依存性を有すること、つまり、当該電気伝導度の対数が、低温領域ではT−1/4に比例し、室温付近では1/Tに比例することを確認した。これは、タンタル酸化物の薄膜における電気伝導がホッピング伝導によって生じることを示している。ホッピング伝導を生じる導電材料の抵抗値の分布が、対数正規分布に従うことは、周知である(例えば、非特許文献2:Yakov M.Strelniker et.al.,Phys. Rev. E 72, 016121(2005))。
式(2)に、ホッピング伝導を生じる局所領域105の抵抗値Rの期待値P(R)の一例を示す。
3次元の領域について、b=0.18、v=0.88である。また、pは欠陥充填率、Lは局所領域105の寸法に関するパラメータ(例えば、径φ、長さl)である。Rは抵抗値を示す変数、〈R〉は抵抗値の平均値、αは係数である。
このような知見から、抵抗変化素子100の抵抗値の分布は、測定値及び理論値の何れについても、抵抗値の集合そのもので記述してもよく、また、抵抗値の分布を近似する対数正規分布を規定する分布パラメータ(例えば、抵抗値の平均値〈R〉及び係数σ)で記述してもよい。
本願発明者らが考案した抵抗変化素子の評価方法では、抵抗変化素子の抵抗変化特性を、前記局所領域の構造的な特性に関する物理パラメータを通して、定量的に評価する。
前記評価方法の1つの態様は、大まかには、前記局所領域の抵抗状態を複数回変化させたときの各変化の後の当該抵抗状態を表す測定値を取得する取得ステップと、取得された前記測定値の分布に基づいて、前記局所領域の構造的な特性に関する物理パラメータの評価量を、計算により決定する決定ステップとを含む。上述したパーコレーションモデルは、当該評価量を決定するための計算に用いられる。
また、前記評価方法の他の態様は、前記局所領域の構造的な特性に関する物理パラメータの評価量を取得する取得ステップと、取得された前記物理パラメータの前記評価量が所定の条件を満たすか否かに基づいて、前記抵抗変化素子が正常であるか不良であるかを判定する判定ステップと、を含む。
以下では、そのような評価方法、評価装置、検査装置、及び不揮発性記憶装置の実施の形態について、詳細に説明する。
(実施の形態1)
[5.抵抗状態の理論分布と測定分布との比較に基づく評価方法]
実施の形態1に係る抵抗変化素子の評価方法、及び当該評価方法を実行するための評価装置について説明する。
実施の形態1に係る評価方法は、前記物理パラメータが参照量である前記局所領域のモデルから理論的に導出される抵抗状態の分布である理論分布と、局所領域の抵抗状態を複数回変化させたときの各変化の後の前記抵抗状態の分布(以下、理論分布との対照のために測定分布と言う)とを比較し、前記理論分布と前記測定分布とが所定の度合いで合致するときに、前記物理パラメータの前記評価量を前記参照量に決定する方法である。
図7は、実施の形態1に係る抵抗変化素子の評価方法を実行するための評価装置のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
図7に示すように、評価装置200は、記憶部201と、プロセッサ202と、入力装置203と、出力装置204と、を備えて構成されている。
記憶部201は、例えば、ハードディスクドライブ、RAM(Random Access Memory)、又はそれらの組み合わせで構成される。プロセッサ202は、MPU(Micro−Processing Unit)で構成されている。入力装置203は、例えば、キーボード、マウス、又はそれらの組み合わせで構成される。出力装置204は、例えば、ディスプレイで構成される。
記憶部201には、評価プログラム220、1つ以上の理論分布データ230、及び測定分布データ240が格納されている。
評価プログラム220は、実施の形態1に係る抵抗変化素子の評価方法をプロセッサ202に実行させるためのプログラムである。
理論分布データ230は、抵抗変化素子100の抵抗状態の理論的な分布を表すデータである。当該理論的な分布は、局所領域105の構造的な特性に関する物理パラメータが参照量であるパーコレーションモデルから導出される。物理パラメータの異なる複数の参照量のそれぞれに対応する理論分布データ230によって、データベースが構成されていてもよい。理論分布データ230は、例えば、抵抗値(理論値)の集合であってもよく、当該抵抗値(理論値)の分布を近似する対数正規分布の分布パラメータであってもよい。
測定分布データ240は、抵抗変化素子100の局所領域105の抵抗状態を複数回変化させたときの各変化の後の当該抵抗状態を表す測定値の分布を表すデータである。測定分布データ240は、高抵抗状態の抵抗変化素子100での測定値の分布データと、低抵抗状態の抵抗変化素子100での測定値の分布データとを含む。測定分布データ240は、例えば、高抵抗状態及び低抵抗状態のそれぞれの抵抗値(測定値)の集合であってもよく、当該抵抗値(測定値)の分布を近似する対数正規分布の分布パラメータであってもよい。
図8は、評価装置200の機能的な構成の一例を示すブロック図である。
評価装置200は、理論分布導出部221と、データベース作成部222と、測定分布取得部223と、評価量決定部224と、良否判定部225と、を備えている。図8に示される各部は、プロセッサ202が評価プログラム220を実行することにより実現されるソフトウェア機能であってもよい。
理論分布導出部221は、局所領域105の構造的な特性に関する物理パラメータの量が参照量であるパーコレーションモデルから、抵抗変化素子100の理論的な抵抗状態を表す理論値を複数算出し、算出された当該複数の理論値の分布を表す理論分布データ230を導出する。
データベース作成部222は、前記物理パラメータの各異なる複数の参照量を理論分布導出部221に通知し、理論分布導出部221にて前記複数の参照量の各々に対応して導出される理論分布データ230によるデータベースを作成する。
測定分布取得部223は、局所領域105の抵抗状態を複数回変化させたときの各変化の後の前記抵抗状態を表す電気的な測定値を取得し、取得された測定値の分布を表す測定分布データ240を導出する。
評価量決定部224は、抵抗変化素子100の前記物理パラメータの評価量を、測定分布データ240で表される分布と所定の度合いで合致する分布を表す理論分布データ230に対応する参照量に決定する。
良否判定部225は、決定された前記評価量が所定の条件を満たすか否かに基づいて、抵抗変化素子100が正常であるか不良であるかを判定する。
次に、上述のように構成された評価装置200によって実行される抵抗変化素子の評価方法について説明する。
図9は、実施の形態1に係る抵抗変化素子の評価方法の一例を示すフローチャートである。
図9に示される評価方法では、複数の理論分布データ230によるデータベースを作成するステップ(S210)と、抵抗変化素子100の抵抗値を実際に測定して測定分布データ240を記憶するステップ(S220)と、測定分布データ240とデータベース中の理論分布データ230とを比較して局所領域105の物理パラメータの評価量を決定するステップ(S230)とが実行される。なお、データベースを作成するステップS210は、抵抗変化素子100の評価時に実行してもよいし、あらかじめ実行しておいてもよい。
理論分布導出部221は、サイト間抵抗rおよびサイト間距離dを取得する(S211)。上述したように、サイト間抵抗rおよびサイト間距離dは、抵抗変化層104を構成する材料によって決まる定数である。サイト間抵抗rおよびサイト間距離dは、キーボード等の入力装置203から入力するように構成してもよいし、抵抗変化層104の材料を入力し、理論分布導出部221で算出するように構成してもよい。
データベース作成部222は、局所領域の径φ、長さl、欠陥充填率pの各参照値の異なる複数の組み合わせを、理論分布導出部221に通知する。
理論分布導出部221は、ステップS211で取得されたサイト間抵抗r、サイト間距離dを用いて、データベース作成部222から通知された局所領域の径φ、長さl、欠陥充填率pの各参照値の各組み合わせに対応する理論分布データ230を導出する(S212)。
データベース作成部222は、理論分布導出部221で導出された各理論分布データ230と、局所領域の径φ、長さl、欠陥充填率pの各参照値とを対応付けて表すデータベースを作成し、記憶部201に格納する。
測定分布取得部223は、抵抗変化素子100の、低抵抗状態における抵抗値および高抵抗状態における抵抗値を表す複数の測定値を取得する(S221)。取得される測定値は、抵抗変化素子100に、実際に、書き込み用の負電圧パルスおよび正電圧パルスを交互に加えて局所領域105の抵抗状態を複数回変化させたときの、各変化の後に測定された値である。
測定分布取得部223は、ステップS221で取得された測定値で表される抵抗値の分布を表す測定分布データ240を記憶部201に格納する(S222)。
評価量決定部224は、ステップS212において作成されたデータベースから、ステップS222において記憶された測定分布データ240で表される分布と最もよく合致する分布を表す理論分布データ230を検索する。
測定分布データ240で表される分布と理論分布データ230で表される分布との合致の度合いは、例えば、次のように定義される。
測定分布データ240及び理論分布データ230が、それぞれ対数正規分布の分布パラメータである場合、前記分布パラメータの差分が小さいほど、測定分布データ240で表される分布と理論分布データ230で表される分布との合致の度合いが大きいと定義する。
また、測定分布データ240及び理論分布データ230が、それぞれ抵抗値(測定値)の集合及び抵抗値(理論値)の集合である場合、測定値の正規確率プロットに当てはめた直線の傾きと、理論値の正規確率プロットに当てはめた直線の傾きとの差分が小さいほど、測定分布データ240で表される分布と理論分布データ230で表される分布との合致の度合いが大きいと定義する。なお、所定のしきい値との比較により、値が極端に大きいデータ及び値が極端に小さいデータを、前記直線の当てはめから除外してもよい。
評価量決定部224は、上述した定義に従って、測定分布データ240で表される分布と最もよく合致する分布を表す理論分布データ230を検索し、抵抗変化素子100の前記物理パラメータの評価量を、検索された理論分布データ230に対応する参照量に決定する。
局所領域105の抵抗状態が変化する前後で、局所領域105の径φ及び長さlは変化せず、欠陥充填率pのみが変化するとき、検索範囲は、局所領域105の径φ及び長さlの参照値の組み合わせがどれも同じ複数の理論分布データ230に絞られる。
評価量決定部224は、そのような検索範囲のなかから、高抵抗状態の抵抗値(測定値)の分布と最もよく合致する1つの理論分布データ230と、低抵抗状態の抵抗値(測定値)の分布と最もよく合致する1つの理論分布データ230と、を検索する。
評価量決定部224は、検索された理論分布データ230に対応する径φ、長さl、高抵抗状態の欠陥充填率pHR、低抵抗状態の欠陥充填率pLRの参照量を、局所領域105の径φ、長さl、高抵抗状態での欠陥充填率pHR、低抵抗状態での欠陥充填率pLRの評価量として、それぞれ決定する。
本願発明者らは、実際に作成した抵抗変化素子100のサンプルを前記評価方法に従って評価する実験を行った。以下、当該実験について説明する。
まず、図2に示される抵抗変化素子100のサンプルを作製し、前記評価方法に従って、前記サンプルの局所領域105の評価量を決定した。
図10は、前記サンプルで実際に測定された抵抗値の測定分布の一例、及び局所領域105のモデルから理論的に算出された抵抗値の理論分布の一例を示す正規確率プロットである。図10には、局所領域105のモデルから理論的に算出された抵抗値の理論分布の中で前記測定分布と最もよく合致する理論分布が示されている。
図10において、横軸は抵抗値の対数を示し、縦軸は標準偏差を示している。円は高抵抗状態の抵抗値(測定値)を示し、菱形は、低抵抗状態の抵抗値(測定値)を示している。星形は、高抵抗状態の抵抗値(理論値)を示し、五角形は、低抵抗状態の抵抗値(理論値)を示している。
分布の合致から、前記サンプルの局所領域105の評価量を、図10の抵抗値(理論値)の分布が得られたシミュレーションでの参照量である、径φ=27.2nm、長さl=2.74nm、高抵抗状態における欠陥充填率pHR=0.17、低抵抗状態における欠陥充填率pLR=0.44に決定した。
次に、前記サンプルの局所領域105を、実際に観察した。
図11は、前記サンプルの局所領域105を、EBAC解析装置により解析した結果を示す図である。図11は、前記サンプルの第2電極106の膜厚を極薄く(抵抗変化層104の表面が解析可能な程度に)形成した上で、抵抗変化層104の第2電極106との界面をEBACにより撮影した写真である。
図11に示すEBAC写真には、1か所のみ明るい領域が確認できる。なお、図11において、明るい領域と暗い領域は、低抵抗の領域と高抵抗の領域にそれぞれ対応している。つまり、明るい領域は、局所領域105に対応する。図11に示すEBAC写真より、前記サンプルの局所領域105の直径は約30nmであることが分かる。これは、前記評価方法で決定した局所領域105の径φ27.2nmとほぼ同じである。
図12は、図11に示す局所領域105の断面を、TEMにより観察した結果を示す図である。図12に示すTEM写真により、白く表されている抵抗が高い領域(第2抵抗変化層1042に対応)の厚さは約3nmであることが分かる。これは、前記評価方法で決定した局所領域105の長さl=2.74nmとほぼ同じである。
上述の実験結果から、実施の形態1に係る評価方法によって、局所領域の構造的な特性に関する物理パラメータの妥当な評価量が決定されることが確かめられた。
以上説明したように、実施の形態1の抵抗変化素子の評価方法および評価装置によれば、抵抗変化素子100の抵抗状態を複数回変化させたときの各変化の後の抵抗状態を表す測定値の分布から、抵抗変化素子100の局所領域105の構造的な特性に関する物理パラメータの評価量を決定できる。
前記測定値は、局所領域105の抵抗状態が複数回変化できる状態を保ったまま、つまり抵抗変化素子100を破壊することなく、測定される。そのため、前記評価量の決定は、抵抗変化素子100が不揮発性記憶装置などの製品に組み込まれてからでも、製品の状態のまま非破壊で、かつ、評価用の特別な抵抗変化素子のサンプルを用いることなく、行うことができる。
決定された前記評価量は、例えば、抵抗変化素子100の良否判定及びスクリーニングに用いることができる。
例えば、良否判定部225にて、物理パラメータの評価量が所定の条件を満たさない抵抗変化素子100を不良であると判定することができる。そして、不良であると判定された抵抗変化素子100をスクリーニングすることにより、抵抗変化素子100を用いて構成される製品の歩留まりや信頼性を向上させることができる。抵抗変化素子100の良否判定及びスクリーニングについては後ほど詳しく説明する。
(実施の形態2)
[6.抵抗状態の測定分布と評価式とに基づく評価方法]
実施の形態2に係る抵抗変化素子の評価方法、及び当該評価方法を実行するための評価装置について説明する。
実施の形態1では、前記局所領域のモデルから理論的に導出される抵抗状態の分布である理論分布と、前記局所領域の抵抗状態を複数回変化させたときの各変化の後の前記抵抗状態の分布である測定分布との比較に基づいて、当該抵抗変化素子の局所領域の物理パラメータの評価量を決定した。
本願発明者らは、さらに検討を進めた結果、前記評価量を表す新規な評価式を見出した。当該評価式は、前記測定分布に含まれる前記抵抗状態を表す測定値の中間的な代表値とばらつき量との関数で表される。そこで、実施の形態2では、当該評価式を用いた評価方法を提案する。
実施の形態2に係る評価方法は、局所領域の抵抗状態を複数回変化させたときの各変化の後の前記抵抗状態を表す測定値の中間的な代表値とばらつき量とを求め、前記物理パラメータの前記評価量を、求めた前記代表値と前記ばらつき量とを前記評価式に代入して得られる量に決定する方法である。
図13は実施の形態2に係る抵抗変化素子の評価方法を実行するための評価装置のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
図13に示すように、評価装置300は、記憶部201と、プロセッサ202と、入力装置203と、出力装置204と、を備えて構成されている。
記憶部201には、評価プログラム320、評価式350、及び測定分布データ340が格納される。
評価プログラム320は、実施の形態2に係る抵抗変化素子の評価方法をプロセッサ202に実行させるためのプログラムである。
測定分布データ340は、抵抗変化素子100の局所領域105の抵抗状態を複数回変化させたときの各変化の後の当該抵抗状態を表す測定値の分布を表すデータである。測定分布データ340は、高抵抗状態の抵抗変化素子100での測定値の分布データと、低抵抗状態の抵抗変化素子100での測定値の分布データとを含む。測定分布データ340は、例えば、高抵抗状態及び低抵抗状態のそれぞれの電流値(既知の印加電圧に対応する測定値)の集合であってもよい。
評価式350は、抵抗変化素子100の局所領域105の構造的な特性に関する物理パラメータの評価量を表す、前記測定値の中間的な代表値とばらつき量との関数である。評価式350は、評価プログラム320に含まれていてもよい。
図14は、評価装置300の機能的な構成の一例を示すブロック図である。
評価装置300は、測定分布取得部323と、評価量決定部324と、良否判定部325と、を備えている。図14に示される各部は、プロセッサ202が評価プログラム320を実行することにより実現されるソフトウェア機能であってもよい。
測定分布取得部323は、局所領域105の抵抗状態を複数回変化させたときの各変化の後の前記抵抗状態を表す複数の測定値を取得し、測定分布データ340として記憶部201に格納する。
評価量決定部324は、測定分布データ340で表される測定値の中間的な代表値とばらつき量とを求め、抵抗変化素子100の前記物理パラメータの評価量を、求めた前記代表値と前記ばらつき量とを評価式350に代入して得られる量に決定する。
良否判定部325は、決定された前記評価量が所定の条件を満たすか否かに基づいて、抵抗変化素子100が正常であるか不良であるかを判定する。
次に、上述のように構成された評価装置300によって実行される抵抗変化素子の評価方法について説明する。
図15は、実施の形態2に係る抵抗変化素子の評価方法の一例を示すフローチャートである。
図15に示される評価方法では、局所領域105の欠陥充填率pの評価量を決定するステップ(S310)と、局所領域105の面積Sの評価量を決定するステップ(S320)とが実行される。なお、ステップS310の一部分とステップS320の一部分とは共用される。
測定分布取得部323は、低抵抗状態の抵抗変化素子100での前記複数の測定値、及び高抵抗状態の抵抗変化素子100での前記複数の測定値を取得する。取得される測定値は、抵抗変化素子100に極性の異なるパルス電圧を印加して低抵抗状態への書き込み動作及び高抵抗状態への書き込み動作を交互に複数回実施して抵抗変化素子を複数回低抵抗状態及び高抵抗状態に変化させたときの、抵抗変化素子100の各回の低抵抗状態における測定値及び各回の高抵抗状態における測定値である(S301)。取得された測定値は、測定分布データ340として、記憶部201に格納される。
評価量決定部324は、ステップS301で取得された、低抵抗状態及び高抵抗状態それぞれの複数の測定値の、中間的な代表値とばらつき量とを算出する(S302、S303)。評価量決定部324は、前記中間的な代表値として、前記測定値の平均値又は中間値を算出してもよく、前記ばらつき量として、前記測定値の標準偏差又は分布範囲(最大値と最小値との差分)を算出してもよい。
評価量決定部324は、低抵抗状態及び高抵抗状態それぞれについて算出された前記代表値及び前記ばらつき量を所定の評価式に代入することにより、局所領域105の低抵抗状態の欠陥充填率pLR及び高抵抗状態の欠陥充填率pHRを算出する(S304)。
評価量決定部324は、局所領域の長さlを抵抗変化層の厚さに決定する(ステップS305)。ここで、局所領域の長さlは、評価対象の抵抗変化素子100の抵抗変化層104が、単層構造(図1を参照)である場合には、抵抗変化層104の厚さに決定され、積層構造(図2を参照)である場合には、第2抵抗変化層1042の厚さに決定される。局所領域の長さlとして決定される抵抗変化層の厚さは、抵抗変化素子100における設計値であってもよい。
評価量決定部324は、決定された局所領域の長さl、並びに、低抵抗状態及び高抵抗状態のそれぞれについて算出された前記代表値及びばらつき量を所定の評価式に代入することにより、局所領域105の面積Sを算出する(ステップS306)。
以上のステップを実行することにより、局所領域の構造的な特性に関する物理パラメータである局所領域の長さl、面積S、低抵抗状態での欠陥充填率pLR、高抵抗状態での欠陥充填率pHRが決定される。
ステップS304、S306で用いられる評価式の具体例について説明を続ける。
高抵抗状態及び低抵抗状態における抵抗変化素子100での前記測定値は、一例として、それぞれの抵抗状態における抵抗変化素子100に読み出し用電圧を印加したときに流れる電流値(以下、読み出し電流値と言う)である。当該電流値には、抵抗変化素子100内の局所領域105と直列に接続されている領域の抵抗成分の影響が含まれていてもよい。
局所領域105の面積S及び低抵抗状態での欠陥充填率pLRは、低抵抗状態における抵抗変化素子100で測定された読み出し電流値から、式(3)、(4)に示される評価式によって求められる。
ここで、Sは局所領域105の面積、lは局所領域105の長さ、pLRは低抵抗状態の局所領域105の欠陥充填率、Vreadは読み出し用電圧、Ireadは低抵抗状態の抵抗変化素子100での読み出し電流の平均値または中間値、σreadは低抵抗状態の抵抗変化素子100での読み出し電流の標準偏差、Rextは局所領域105と直列に接続される抵抗成分を示す。
局所領域105の面積S及び高抵抗状態での欠陥充填率pHRは、高抵抗状態における抵抗変化素子100で測定された読み出し電流値から、式(5)、(6)に示される評価式によって算出される。
ここで、Sは局所領域105の面積、lは局所領域105の長さ、pHRは高抵抗状態の局所領域105の欠陥充填率、Vreadは読み出し用電圧、Ireadは高抵抗状態の抵抗変化素子100での読み出し電流の平均値または中間値、σreadは高抵抗状態の抵抗変化素子100での読み出し電流の標準偏差、Rextは局所領域105と直列に接続されている領域の抵抗成分を示す。
なお、局所領域105の面積Sと長さlとは、低抵抗状態でも高抵抗状態でも同じであることから、局所領域105の面積Sは、式(3)及び式(5)の何れか一方によって決定すればよい。
また、式(3)〜(6)で、読み出し電流の標準偏差σの代わりに、読み出し電流の最大値と最小値との差分である分布範囲を用いてもよい。
図16は、抵抗変化素子100で測定された複数の読み出し電流の標準偏差と、当該複数の読み出し電流の分布範囲との関係を示すグラフである。読み出し電流の標準偏差と分布範囲との間には、非常に強い相関が見られる。そのため、式(3)〜(6)で、読み出し電流の標準偏差σの代わりに分布範囲を用いても、標準偏差σを用いた場合と略同一の評価量を得ることができる。
本願発明者らは、実際に作製した抵抗変化素子100のサンプルを前記評価方法に従って評価する実験を行った。以下、当該実験について説明する。
当該実験では、抵抗変化素子100のサンプルを2種類の駆動条件で抵抗変化させ、前記評価方法に従って、それぞれの駆動条件の下で、当該サンプルにおける局所領域105の物理パラメータの評価量を決定した。当該サンプルの局所領域105の長さlは、抵抗変化層の厚さと等しい、6.5nmである。
まず、前記サンプルに極性の異なるパルス電圧(−2.4V、+2.4V:第1の駆動条件)を印加することにより、低抵抗状態への書き込み動作及び高抵抗状態への書き込み動作を交互に100回実施して抵抗変化素子を100回低抵抗状態及び高抵抗状態にした。その過程で、前記サンプルでの各回の低抵抗状態における読み出し電流値及び各回の高抵抗状態における読み出し電流値を測定した。
図17Aに、前記サンプルで実際に測定された電流値の測定分布の一例を示す正規確率プロットと、当該電流値の測定分布から式(3)及び式(4)、式(6)に従って算出された、局所領域105の面積S、低抵抗状態の欠陥充填率pLR、及び高抵抗状態の欠陥充填率pHRを示す。電流値は任意単位で表される。
また、前記サンプルに極性の異なるパルス電圧(−2.8V、+2.2V:第2の駆動条件)を印加することにより、低抵抗状態への書き込み動作及び高抵抗状態への書き込み動作を交互に100回実施して抵抗変化素子を100回低抵抗状態及び高抵抗状態にした。その過程で、前記サンプルでの各回の低抵抗状態における読み出し電流値及び各回の高抵抗状態における読み出し電流値を測定した。
図17Bに、前記サンプルで実際に測定された電流値の測定分布の一例を示す正規確率プロットと、当該電流値の測定分布から式(3)及び式(4)、式(6)に従って算出された、局所領域105の面積S、低抵抗状態の欠陥充填率pLR、及び高抵抗状態の欠陥充填率pHRを示す。電流値は任意単位で表される。
図17A及び図17Bから、同一のサンプルに異なる駆動条件で書き込みを行うことにより、局所領域105の面積S、及び欠陥充填率pLR、pHRの異なる評価量が得られた。これにより、前記評価方法によれば、駆動条件の違いが、物理パラメータの異なる評価量に反映されることが分かった。
以上説明したように、実施の形態2の抵抗変化素子の評価方法および評価装置によれば、抵抗変化素子100の抵抗状態を複数回変化させたときの各変化の後の抵抗状態の測定値の分布から、抵抗変化素子100の局所領域105の構造的な特性に関する物理パラメータの評価量を決定できる。
前記測定値は、局所領域105の抵抗状態が複数回変化できる状態を保ったまま、つまり抵抗変化素子100を破壊することなく、取得される。そのため、前記評価量の決定は、抵抗変化素子100が不揮発性記憶装置などの製品に組み込まれてからでも、製品の状態のまま非破壊で、かつ、評価用の特別な抵抗変化素子を用意することなく、行うことができる。
決定された前記評価量は、例えば、抵抗変化素子100の良否判定やスクリーニングに用いることができる。
例えば、良否判定部325にて、物理パラメータの評価量が所定の条件を満たさない抵抗変化素子100を不良であると判定することができる。そして、不良であると判定された抵抗変化素子100をスクリーニングすることにより、抵抗変化素子100を用いて構成される製品の歩留まりや信頼性を向上させることができる。抵抗変化素子100の良否判定及びスクリーニングについては後ほど詳しく説明する。
(実施の形態3)
[7.物理パラメータの評価量に基づく抵抗変化素子の信頼性評価]
実施の形態3に係る抵抗変化素子の評価方法について説明する。実施の形態3に係る評価方法は、局所領域105の物理パラメータの評価量を用いて、抵抗変化素子100の抵抗変化動作に関する信頼性を評価する方法である。
以下では、抵抗変化素子100の信頼性を評価する方法の一例として、局所領域105の物理パラメータの評価量が所定の条件を満たすか否かに基づいて、抵抗変化素子100が正常であるか不良であるかを判定する方法について説明する。
まず、抵抗変化素子100が正常であるか不良であるかを判定するための判定条件について説明する。以下で説明する判定条件は、本願発明者らが行ったいくつかの実験の結果から見出された一例である。
1つの実験では、抵抗変化素子100の多数のサンプルを様々な駆動条件で複数回低抵抗状態及び高抵抗状態に変化させ、上述の評価方法に従って、各サンプルの低抵抗状態の欠陥充填率pLRの評価量と高抵抗状態の欠陥充填率pHRの評価量とを決定した。そして、全てのサンブルを低抵抗状態に変化させ、175℃の高温下に50時間放置した後、放置前後の読み出し電流値から、リテンション劣化率=(放置前読み出し電流値−放置後読み出し電流値)/放置前読み出し電流値を算出した。当該リテンション劣化率は、各サンプルの低抵抗状態のリテンション特性を表す。
図18Aは、各サンプルの低抵抗状態のリテンション劣化率の、低抵抗状態の欠陥充填率pLR及び高抵抗状態の欠陥充填率pHRへの依存性の一例を示す散布図である。リテンション劣化率が所定のしきい値(例えば、30パーセント)以上のサンプルを×で示し、リテンション劣化率が前記しきい値未満のサンプルを○で示している。
この結果は、低抵抗状態の欠陥充填率pLRの評価量と高抵抗状態の欠陥充填率pHRの評価量とが特定の条件を満たす(図18Aでは、斜線の左下側の領域にある)抵抗変化素子100は、リテンション劣化率が前記しきい値以上になる確率が増え、データ保持の信頼性が低下することを示している。
また、別の実験では、抵抗変化素子100の多数のサンプルを様々な駆動条件で複数回低抵抗状態及び高抵抗状態に変化させ、上述の評価方法に従って、各サンプルの低抵抗状態の欠陥充填率pLRの評価量と高抵抗状態の欠陥充填率pHRの評価量とを決定した。そして、全ての抵抗変化素子100を高抵抗抗状態に変化させ、複数回連続して読み出しを行い、各回の読み出し電流値を測定し、読み出し電流の分布範囲(最大値と最小値との差分)を算出した。
図18Bは、各サンプルの高抵抗状態の読み出し電流の分布範囲の、低抵抗状態の欠陥充填率pLR及び高抵抗状態の欠陥充填率pHRへの依存性の一例を示す散布図である。読み出し電流の分布範囲が所定のしきい値(例えば、5μA)以上のサンプルを×で示し、読み出し電流の分布範囲が前記しきい値未満のサンプルを○で示している。
この結果は、高抵抗状態の欠陥充填率pHRの評価量が特定の条件を満たす(図18Bでは、横線の上側の領域にある)抵抗変化素子は、高抵抗状態の読み出し電流の分布範囲が前記しきい値以上になる確率が増え、高抵抗状態における読み出しの信頼性が低下することを示している。
これらの実験によって、局所領域105の構造的な特性に関する物理パラメータの評価量から、抵抗変化素子100の抵抗変化動作に関する信頼性が予測でき、それによって、抵抗変化素子100が正常であるか不良(潜在的な不良も含めて)であるかを判定できることが確かめられた。
そこで、図8、14に示される評価装置200、300の良否判定部225、325において、局所領域105の前記物理パラメータの評価量が所定の条件を満たすか否かに基づいて、抵抗変化素子100が正常であるか不良であるかを判定する。上述した、リテンション劣化率が所定のしきい値(例えば、30パーセント)以上になる欠陥充填率pLR、pHRの条件(図18A)、及び読み出し電流の分布範囲が所定のしきい値(例えば、5μA)以上になる欠陥充填率pLR、pHRの条件(図18B)は、何れも前記所定の条件の一例である。
このような良否判定を、抵抗変化素子100の使用前や使用中に行うことにより、将来誤動作を起こし得る抵抗変化素子100を事前に発見することができる。
なお、上記では、低抵抗状態でのリテンション劣化率及び高抵抗状態での読み出し電流の分布範囲のそれぞれを単一のしきい値と比較することにより、抵抗変化素子100が正常であるか不良であるかの何れかを判定したが、本発明はこの例には限定されない。
例えば、複数のしきい値を用いることによって、抵抗変化素子100を、抵抗変化動作に関する信頼性で等級分けすることもできる。つまり、上述した評価方法によれば、抵抗変化素子100の良否判定だけでなく、抵抗変化素子100の信頼性をより細かく定量的に評価することができる。
また、上述した低抵抗状態でのリテンション劣化率及び高抵抗状態での読み出し電流の分布範囲は一例である。上述した評価方法によれば、抵抗変化素子100の抵抗変化動作に関する信頼性を表す変量であって、かつ局所領域105の物理パラメータの評価量に依存するあらゆる変量に基づいて、抵抗変化素子100の信頼性を定量的に評価することができる。
また、上述した評価方法において、局所領域105の物理パラメータの評価量の出所は限定されない。すなわち、前記評価量は、抵抗変化素子100の抵抗状態の測定値の分布に基づいて計算により決定された評価量には限られず、例えば、別途設けられる装置から取得される評価量であってもよい。従って、前記局所領域の構造的な特性に関する物理パラメータの評価量を取得する取得ステップと、取得された前記物理パラメータの前記評価量が所定の条件を満たすか否かに基づいて、前記抵抗変化素子が正常であるか不良であるかを判定する判定ステップと、を含む評価方法は、本発明に含まれる。
[8.抵抗変化素子のスクリーニング]
(実施の形態4)
実施の形態4に係る抵抗変化素子のスクリーニング方法について説明する。実施の形態4に係るスクリーニング方法は、実施の形態3に係る評価方法に従って不良であると判定された抵抗変化素子を、修正し又は使用対象から除外する方法である。
当該スクリーニング方法は、例えば、前記抵抗変化素子を検査するための検査装置や、複数の前記抵抗変化素子を有し、かつBIST機能を持つ不揮発性記憶装置において実行される。当該検査装置や当該不揮発性記憶装置は、評価装置200又は300を内蔵していてもよく、また、別体で設けられる評価装置200、300から抵抗変化素子が正常であるか不良であるかの判定結果を取得して、スクリーニング処理を行ってもよい。
図19は、実施の形態4に係る抵抗変化素子のスクリーニング方法の一例を示すフローチャートである。図19に示されるスクリーニング方法は、例えば、検査装置、又はBIST機能を持つ不揮発性記憶装置によって、抵抗変化素子の検査時及び使用時の何れにおいても行うことができる。
まず、図9又は図15に示したフローチャートに従って、評価量が決定される(S410)。
次に、ステップS410で決定された評価量が所定の条件を満たすか否かに基づいて、抵抗変化素子100が正常であるか不良であるかが判定される(S420)。ステップS420の判定は、例えば、図18A、図18Bで説明した条件に従って行われてもよい。
不良であると判定された場合(S420でNG)、抵抗変化素子100は、使用対象から除外される(S430)。抵抗変化素子100を使用対象から除外する処理は、例えば、あらかじめ設けられている冗長用の抵抗変化素子と置き換える、いわゆる救済処理によって行ってもよい。
図20は、実施の形態4に係る抵抗変化素子のスクリーニング方法の他の一例を示すフローチャートである。図20に示されるスクリーニング方法は、例えば、検査装置、又はBIST機能を持つ不揮発性記憶装置によって、抵抗変化素子の検査時及び使用時の何れにおいても行うことができる。
まず、図19と同様にして評価量が決定され(S410)、決定された評価量から抵抗変化素子100が正常であるか不良であるかが判定される(S420)。
不良であると判定された場合(S420でNG)、抵抗変化素子100に通常の高抵抗化用の書き込み電圧よりも高い電圧の書き込み電圧を印加することによって、抵抗変化素子100の抵抗状態を通常の高抵抗状態より抵抗値がさらに高い初期状態に近い抵抗状態に変化させる(S440)。その後、初期ブレイク電圧と同じ電圧を印加する初期ブレイク動作が行われ、局所領域105の構造が修正される(S450)。
初期ブレイク動作の後、再び評価量が決定され、抵抗変化素子100が正常であると判定されるまで(S420でOK)、高抵抗化と初期ブレイク動作とが繰り返される。初期ブレイク動作を所定の回数繰り返してもなお、抵抗変化素子100が不良であると判定される場合は、図19のステップS430に従って、抵抗変化素子100を使用対象から除外してもよい。
以上説明したように、実施の形態4の抵抗変化素子のスクリーニング方法によれば、不良であると判定された抵抗変化素子を、修正し又は使用対象から除外するので、抵抗変化素子を用いて構成される製品の歩留まりや信頼性を向上させることができる。
[9.不揮発性記憶装置]
(実施の形態5)
実施の形態5に係る抵抗変化素子の評価方法および評価装置について、図21〜図25を基に説明する。
実施の形態5では、実施の形態1又は2の抵抗変化素子の評価方法および評価装置を用いて実現されるBIST機能を備えた不揮発性記憶装置(以下、単に記憶装置と言う)について説明する。
実施の形態5におけるBIST機能は、前記記憶装置のセルフテスト機能であり、抵抗変化素子が正常であるか不良であるかを判定する判定動作と、不良と判定された抵抗変化素子を冗長用の抵抗変化素子で置き換える救済動作とを実行する。
まず、実施の形態5の記憶装置の構成について、図21を基に説明する。図21は、実施の形態5の記憶装置の構成を示すブロック図である。
図21に示すように、実施の形態5に係る記憶装置500は、メモリ本体部510と、書き込み回路520と、読み出し回路530と、データ入出力回路540と、アドレス入力回路550と、制御回路561と、割り込み回路562と、プロセッサ563と、コードデータベース564と、レジスタ565と、アドレス変換テーブルメモリ566と、ステータスフラグ567と、比較回路568とを備えている。
メモリ本体部510は、3つのメモリ部として、履歴メモリ部511と、冗長メモリ部512と、データメモリ部400とを備えている。
図22は、データメモリ部400の構成を示している。データメモリ部400は、図22に示すように、行選択回路401と、ドライバ回路402と、列選択回路403と、複数のメモリセルMij(i、jは整数)を行列状に配置してなるメモリセルアレイ404と、を備えている。
メモリセルMijは、抵抗変化素子Rijと、ドレイン端子が抵抗変化素子Rijの一端に接続されたN型MOSトランジスタで構成されるスイッチ素子Nijとを備えている。
さらに、データメモリ部400は、行毎に、同一行のメモリセルMijのトランジスタNijのゲート端子に接続されるワード線WL(j−1)を備えている。データメモリ部400は、2行毎に、当該2行のメモリセルMijおよびMi(j+1)(ここでは、jは偶数)のトランジスタNijおよびNi(j+1)(ここでは、jは偶数)のソース端子に接続されるソース線SL(j−1)を備えている。
さらに、データメモリ部400は、列毎に、同一列のメモリセルMijの抵抗変化素子Rijの一端に接続されるビット線BL(i−1)を備えている。すなわち、ワード線WL(j−1)とビット線BL(i−1)との交点に、メモリセルMijが設けられている。
ドライバ回路402は、ワード線WLに印加する電圧を生成するワード線ドライバ回路WLDと、ソース線SLに印加する電圧を生成するソース線ドライバ回路SLDとを備えている。
行選択回路401は、比較回路568から出力された行アドレス信号を受け取り、この行アドレス信号に対応するワード線WLk(kは整数)に対し、ワード線ドライバ回路WLDを介して、所定の電圧を印加する。同様に、行選択回路401は、比較回路568から出力された行アドレス信号に対応するソース線SLh(hは整数)に対し、ソース線ドライバ回路SLDを介して、所定の電圧を印加する。
列選択回路403は、比較回路568から出力された行アドレス信号を受け取り、この行アドレス信号に対応するビット線BLl(lは整数)に対し、所定の電圧を印加する。
なお、履歴メモリ部511および冗長メモリ部512の構成は、メモリセルの数は異なる場合があるが、データメモリ部400の構成と基本的に同じである。
制御回路561は、記憶装置500を構成する各機能を制御する。制御回路561は、実施の形態5では、外部から入力されるBISTイネーブル信号ENおよびコントロール信号CTL等に応じて、プロセッサ563に対し、各種動作を行わせる。具体的には、制御回路561は、コードデータベース564内の、各種動作の処理手順を示すプログラムを格納したアドレス(開始アドレス)を、プロセッサ563に指示する。ここでのBIST動作は、データメモリ部400の抵抗変化素子のスクリーニング、および、不良素子であると判定された抵抗変化素子を含むメモリセルを、冗長セルアレイのメモリセルに置き換える動作を含む。
プロセッサ563は、制御回路561により指示されたコードデータベース564のアドレス(テスト開始アドレス)から順次コードを読み出すことにより、各種動作を実行する。例えば、BIST動作を規定したプログラムのアドレスが指定された場合、プロセッサ563は、BIST動作を行う。各種動作には、初期ブレイク動作、書き込み動作および読み出し動作が含まれる。
書き込み動作では、プロセッサ563は、レジスタ565に対し書き込み動作におけるアドレスおよびデータを書き込む。このとき、書き込み回路520は、レジスタ565に書き込まれたアドレスおよびデータに基づいて、書き込み動作を行う。
また、読み出し動作では、プロセッサ563は、レジスタ565に対し書き込み動作におけるアドレスを書き込む。このとき、読み出し回路530は、レジスタ565に書き込まれたアドレスに基づいてデータメモリ部400からデータを読み出し、レジスタ565に書き込む。初期ブレイク動作では、プロセッサ563は、レジスタ565に対し初期ブレイク動作におけるアドレスを書き込む。このとき、書き込み回路520は、レジスタ565に書き込まれたアドレスに基づいて、初期ブレイク動作を行う。
書き込み回路520は、高抵抗状態への書き込み動作で用いる電圧を生成する高抵抗化ドライバ521と、低抵抗状態への書き込み動作で用いる電圧を生成する低抵抗化ドライバ522と、初期ブレイク動作で用いる電圧を生成する初期化ドライバ523とを備えている。
読み出し回路530は、メモリセルに流れる電流値から、メモリセルに書き込まれた値を判定する。なお、実施の形態5の読み出し回路530は、通常の読み出し動作では、低抵抗状態であるか高抵抗状態であるかを判別すればよいため、読み出した電流値と1つの閾値とを比較する(または電圧換算値同士を比較する)。読み出し回路530は、BIST動作時には、複数の閾値との比較を行うように構成する等、詳細な抵抗値を求めることが可能となるように構成している。
データ入出力回路540は、端子DQを介して入力データおよび出力データの入出力処理を行う。
アドレス入力回路550は、外部から入力されるアドレス信号を受け取る。
次に、実施の形態5におけるBIST動作(初期化後の不良判定)について、図23〜図25を基に説明する。図23は、記憶装置500におけるBIST動作の処理手順を示すフローチャートである。
図23に示すように、記憶装置500の制御回路561は、記憶装置500の製造後、外部からBISTイネーブル信号ENが入力されると、割り込み回路562を介して、プロセッサ563に対し、BIST動作を規定したプログラムの開始アドレスを含む割込要求を出力する(S510)。
プロセッサ563は、コードデータベース564に格納された命令を、割込要求で指定されたアドレスから順次読み出す(S520)。
プロセッサ563は、まず、冗長セルに対して、局所領域の物理パラメータの評価量を求めて不良であるか否かを判定し、利用可能な冗長セル数を求める(S530)。
プロセッサ563は、次に、データメモリ部400のメモリセルに対して、局所領域の物理パラメータの評価量を求めて不良であるか否かを判定する。さらに、プロセッサ563は、不良と判定された不良セル数が利用可能な冗長セル数より少ない場合は、正常チップであると判定し、不良と判定された不良セル数が利用可能な冗長セル数より多い場合は、不良チップであると判定し、判定結果をBIST結果として外部に出力する(S540)。
ステップS530の冗長セルの検証について、図24を基に説明する。図24は、冗長セルの検証の処理手順を示すフローチャートである。
プロセッサ563は、カウンタの計数値Nrを0に設定する。計数値Nrは、利用可能な冗長セル数に対応する(S531)。
プロセッサ563は、書き込み回路520を用いて、冗長セルに対する初期ブレイク動作を行う。これにより、冗長セルの抵抗変化素子に局所領域が形成され、抵抗状態が高抵抗状態と低抵抗状態との間で変化可能な状態となる。その後、冗長セルに対し、書き込み用の負電圧パルスおよび正電圧パルスを交互に加え、それぞれの書き込み動作後の抵抗変化素子の抵抗値を、抵抗状態別(高抵抗状態および低抵抗状態別)にレジスタ565に記憶する(S532)。
プロセッサ563は、実際に測定した冗長セルの高抵抗状態における抵抗値の測定分布と低抵抗状態における抵抗値の測定分布とをそれぞれ表す対数正規分布のパラメータを計算し、レジスタ565に保存する(S533)。
プロセッサ563は、ステップS533で得た高抵抗状態における測定分布及び低抵抗状態における測定分布のそれぞれを、予め作成しておいたデータベースの理論分布(図7の理論分布データ230)と比較し、局所領域の物理パラメータの評価量を決定する(S534)。当該ステップの処理は、図9におけるステップS230と同じである。
プロセッサ563は、ステップS534で求めた局所領域の物理パラメータの評価量が、所定の基準範囲内であるか否かを判定する(S535)。プロセッサ563は、局所領域の物理パラメータの評価量が、基準範囲内である場合、利用可能な冗長セルであると判定し(S535で「正常」)、カウンタの計数値Nrに1を足す(S536)。プロセッサ563は、ステップS535で不良と判定された冗長セルのアドレスを、アドレス変換テーブルメモリ566に記憶する。
プロセッサ563は、検査した冗長セル数が、冗長メモリ部512の冗長セル数より少ないか否かを判定し(S537)、少ない場合は、次の冗長セルに対し、ステップS532〜ステップS536の処理を行う。
プロセッサ563は、全ての冗長セルに対する検査の終了後、カウンタの計数値Nrを利用可能な冗長セル数として記憶する。
ステップS540のデータメモリ部の検証について、図25を基に説明する。図25は、データメモリ部400のメモリセルセルの検証の処理手順を示すフローチャートである。
プロセッサ563は、カウンタの計数値Nを0に設定する(S541)。この計数値Nは、不良と判定されたメモリセル(以下、適宜「不良セル」と称する)の数に対応する。
プロセッサ563は、書き込み回路520を用いて、初期ブレイク動作を行う。これにより、メモリセルMijの抵抗変化素子Rijに局所領域が形成され、抵抗状態が高抵抗状態と低抵抗状態との間で変化可能な状態となる。その後、メモリセルMijに対し、書き込み用の負電圧パルスおよび正電圧パルスを交互に加え、それぞれの書き込み動作後の抵抗変化素子Rijの抵抗値を、抵抗状態別(高抵抗状態および低抵抗状態別)にレジスタ565に記憶する(S542)。
プロセッサ563は、実際に測定した高抵抗状態における抵抗値の測定分布と低抵抗状態における抵抗値の測定分布とをそれぞれ表す対数正規分布のパラメータを計算し、レジスタ565に保存する(S543)。
プロセッサ563は、ステップS543で得た高抵抗状態における測定分布及び低抵抗状態における測定分布のそれぞれを、予め作成しておいたデータベースの理論分布と比較し、局所領域の物理パラメータの評価量を決定する(S544)。当該ステップの処理は、図9におけるステップS230と同じである。
プロセッサ563は、ステップS544で求めた局所領域の物理パラメータの評価量が、所定の基準範囲内であるか否かを判定する(S545)。プロセッサ563は、局所領域の物理パラメータの評価量が、基準範囲外である場合、不良と判定し(S545で「不良」)、カウンタの計数値Nに1を足す(S546)。プロセッサ563は、ステップS545で不良と判定されたメモリセルのアドレスを、アドレス変換テーブルメモリ566に記憶する。
プロセッサ563は、ステップS545でメモリセルMijが正常であると判定された場合またはステップS546で計数値を更新した場合、不良と判定された不良セルの数(=N)が利用可能な冗長セル数(=Nr)より少ないか否かを判定する(S547)。
プロセッサ563は、ステップS547において、不良セルの数Nが冗長セルの数Nrより多い場合は(ステップS547で「N」)、救済不可能なメモリセルが存在することになるため、不良チップと判定する(S548)。このとき、プロセッサ563は、BISTの結果として、ステータスフラグ567に、フェイル情報(Status=Fail)を書き込む。
プロセッサ563は、ステップS547において、不良セルの数Nが利用可能な冗長セル数Nrより少ないと判定した場合は(S547で「YES」)、検査したメモリセル数が、データメモリ部400のメモリセル数より少ないか否かを判定する(S549)。
プロセッサ563は、ステップS549において、検査したメモリセル数が、データメモリ部400のメモリセル数より少ないと判定した場合は(S549でYES)、未検査のメモリセルに対し、ステップS542〜ステップS547の処理を行う。
プロセッサ563は、ステップS549において、検査したメモリセル数が、データメモリ部400のメモリセル数以上であると判定した場合は(ステップS549でNO)、つまり、データメモリ部400内のすべてのメモリセルを検査したと判定した場合、正常チップであると判定する(S550)。このとき、プロセッサ563は、BISTの結果として、ステータスフラグ567に、パス情報(Status=Pass)を書き込む。
プロセッサ563は、ステップS550で正常チップであると判定された場合、不良セルの救済のため、データメモリ部400の不良セルのアドレスと、利用可能な冗長セルのアドレスとを対応させる変換テーブルを作成し、アドレス変換テーブルメモリ566に記憶する(S551)。
プロセッサ563は、ステータスフラグ567に書き込んだBISTのパス/フェイル結果、および、冗長メモリ部512の冗長セルそれぞれの使用/未使用の情報を、履歴メモリ部511に書き込む(S552)。
なお、これらのテスト結果情報およびフェイルアドレス情報は、テストの実行後に、データ入出力回路540を介して出力され、外部のIC(Integrated Circuit)テスタ等でモニタされる。履歴メモリ部511に記憶されたデータを読み出すことにより、フェイルカテゴリの作成および歩留まり解析を容易に実施できる。
また、不良セルは、製造直後(初期ブレイク動作実施直後)だけでなく、製品出荷後も発生すると考えられる。このため、適宜BIST(例えば、メモリ診断)を実行するように構成してもよい。このメモリ診断は、上述したスクリーニング時の動作のうち、初期ブレイク動作を除く動作となる。
以上説明したように、実施の形態5では、実施の形態3の抵抗変化素子の評価方法および評価装置を利用して、記憶装置のBISTを構成している。上述したように、実施の形態3の抵抗変化素子の評価方法および評価装置を用いることで、製品の状態で、記憶装置に含まれる全ての抵抗変化素子100の局所領域105の物理パラメータを定量化できる。
実施の形態5では、実施の形態3の抵抗変化素子の評価方法および評価装置を、BISTおよびスクリーニングに用いるので、BIST等の機能を容易に実現することができる。
[10.変形例]
以上、本発明に係る抵抗変化素子の評価方法および抵抗変化素子の評価装置について、実施形態および実施例に基づいて説明したが、本発明はこれらの実施形態および実施例に限定されるものではない。各実施形態および実施例に対して当業者が思いつく各種変形を施して得られる形態や、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で各実施形態および実施例における構成要素および機能を任意に組み合わせることで実現される形態も本発明に含まれる。
例えば、前記物理パラメータが所望の参照量である前記局所領域のモデルから理論的に導出される単一の理論分布と、実際の抵抗変化素子での測定分布とを比較し、前記理論分布と前記測定分布とが所定の度合いで合致するときに、前記物理パラメータの前記評価量を前記参照量に決定してもよい。
このような決定は、多数の理論分布を用意しなくても行うことができるので、例えば、前記抵抗変化素子の前記物理パラメータの評価量が当該所望の参照量であるか否かだけを判定したい場合などに、有効である。
また、例えば、理論分布は、前記評価装置内にあらかじめ記憶されている必要は必ずしもなく、評価方法を実行する都度、前記評価装置で算出してもよく、又は別途設けられる装置から供給されてもよい。
また、例えば、前記抵抗変化素子の前記局所領域の抵抗状態を複数回変化させたときの各変化の後の当該抵抗状態を表す測定値を取得するために、前記評価装置が、前記抵抗変化素子の抵抗状態を変化させかつ測定を行ってもよく、また、前記評価装置と接続されている検査装置や、不揮発性記憶装置内の書き込み回路及び読み出し回路を駆動することによって、前記抵抗変化素子の抵抗状態を変化させかつ測定を行ってもよい。また、前記評価装置は、前記抵抗変化素子の抵抗状態を変化させかつ測定する動作には関与せず、別途設けられる装置によって前記抵抗変化素子をあらかじめ測定して得られた測定値を取得して、前記評価方法を実行してもよい。