JP2014198911A - アルミニウム合金板、これを用いた接合体および自動車用部材 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】アルミニウム合金板10は、アルミニウム合金基板1と、アルミニウム合金基板1の表面に形成された表面酸化皮膜2とを備え、表面酸化皮膜2は、ジルコニウム量が0.01〜10原子%、マグネシウム量が0.1原子%以上10原子%未満、窒素量が17原子%未満であることを特徴とする。
【選択図】図1
Description
このような構成によれば、アルミニウム合金板が接着剤層をあらかじめ備えるため、アルミニウム合金板を用いて接合体または自動車用部材を作製する際、アルミニウム合金板の表面での接着部材の形成作業を省略できる。
このような構成によれば、前記のような接合体から製造されるため、自動車用部材が高温湿潤環境にさらされても、自動車用部材を構成する接合体において、接着部材または接着剤層と、表面酸化皮膜との界面における水和が抑制できると共に、アルミニウム合金基板の溶出を抑制できる。その結果、界面剥離が抑制でき、接着強度の低下が抑制できる。
以下、本発明に係るアルミニウム合金板について、図1(a)を参照して具体的に説明する。図1(a)に示すように、アルミニウム合金板10は、アルミニウム合金基板1(以下、基板と称す)と、この基板1の表面に形成された表面酸化皮膜2とを備えている。なお、表面酸化皮膜2は、後記するように、製造方法においては、初めに酸化皮膜を形成し、その後、形成した酸化皮膜をジルコニウム塩水溶液で表面処理することにより、酸化皮膜に二酸化ジルコニウムが付着あるいは入り込み、かつ、酸化皮膜のマグネシウム量が制御された皮膜として形成するようにしている。
なお、ここで、基板1の表面とは、基板1の表面の少なくとも一面を意味し、いわゆる片面、両面が含まれる。
以下、アルミニウム合金板10の各構成について説明する。
基板1は、アルミニウム合金からなり、アルミニウム合金板10の用途に応じて、JISに規定される、またはJISに近似する種々の非熱処理型アルミニウム合金または熱処理型アルミニウム合金から適宜選択される。なお、非熱処理型アルミニウム合金は、純アルミニウム(1000系)、Al−Mn系合金(3000系)、Al−Si系合金(4000系)およびAl−Mg系合金(5000系)であり、熱処理型アルミニウム合金は、Al−Cu−Mg系合金(2000系)、Al−Mg−Si系合金(6000系)およびAl−Zn−Mg系合金(7000系)である。
表面酸化皮膜2は、高温湿潤環境にさらされた場合でも接着耐久性の向上を図るために、基板1の表面に、所定量のジルコニウム、マグネシウムおよび窒素を含有する皮膜として形成されるものである。なお、表面酸化皮膜2の形成は、ここでは、後記する表面酸化皮膜形成工程S2(図2参照)において、加熱処理により基板1の表面に酸化皮膜を形成した後に、酸化皮膜の表面をジルコニウム塩水溶液で表面処理を行った酸化皮膜の全体で表面酸化皮膜2を形成している。
表面酸化皮膜2は、ジルコニウム量が0.01〜10原子%の範囲として有している。表面酸化皮膜2のジルコニウム量が0.01〜10原子%となるようにジルコニウムを含有させることで、表面酸化皮膜2の水、酸素、塩化物イオンなどの劣化因子に対する安定性が増し、接着剤と表面酸化皮膜2の界面における水和が抑制されると共に、基板1の溶出が抑制される。その結果、アルミニウム合金板10の接着耐久性が向上する。表面酸化皮膜2のジルコニウム量が0.01原子%未満であると、効果がなく、10原子%を超えると効果が飽和する。ジルコニウム量は、0.02〜8原子%が好ましく、0.04〜6原子%がより好ましい。ジルコニウムを表面酸化皮膜2へ含有させる方法としては、例えば、硝酸ジルコニウム、硫酸ジルコニウム、酢酸ジルコニウムのようなジルコニウム塩の水溶液で表面酸化皮膜2を表面処理することが挙げられる。また、表面酸化皮膜2のジルコニウム量を調整するためには、表面処理の処理時間、温度、表面処理液の濃度、pHを調整することで所望のジルコニウム量にすることができる。
表面酸化皮膜2は、マグネシウム量が0.1原子%以上10原子%未満の範囲として有している。
基板1を構成するアルミニウム合金は、通常、合金成分としてマグネシウムを含有している。そして、基板1の表面に形成された表面酸化皮膜2においては、その表面にマグネシウムが濃化した状態で存在し、そのマグネシウムが接着界面の弱境界層となり初期の接着耐久性が低下する。また、水分、酸素、塩化物イオンなどが浸透してくる高温湿潤環境においては、接着剤との界面の水和、基板1の溶解の原因となり、アルミニウム合金板10の接着耐久性を低下させる。したがって、表面酸化皮膜2の表面処理により、マグネシウム量を10原子%未満に調整して接着耐久性を向上させる。マグネシウム量は、8原子%未満が好ましく、6原子%未満がより好ましい。マグネシウム量の下限値は、経済性の観点から0.1原子%以上である。表面酸化皮膜2のマグネシウム量を調整する調整方法としては、例えば、硝酸、硫酸などの酸や、ジルコニウム塩など水溶液で表面酸化皮膜2を表面処理し、表面処理の処理時間、温度、表面処理液の濃度やpHを調整することで所望のマグネシウム量にすることができる。すなわち、表面酸化皮膜2のマグネシウムが酸やジルコニウム塩水溶液に溶解することによって、表面酸化皮膜2のマグネシウム量が調整される。
表面酸化皮膜2は、ジルコニウム量、マグネシウム量と合わせて、窒素量が17原子%未満の範囲である。表面酸化皮膜2の窒素量が17原子%未満であることによって、アルミニウム合金板10の接着耐久性が安定的にさらに向上する。表面酸化皮膜2の窒素量が17原子%以上であっても、ある程度の接着耐久性は得られるが、17原子%未満のものに比べ安定的な接着耐久性を得ることができない。表面酸化皮膜2中の窒素は、表面処理液中のコンタミ成分(例えばアミノ酸のような窒素含有化合物やアンモニウム塩)、表面処理液としてのジルコニウム硝酸塩、表面処理液のpH調整のために添加した硝酸に由来する成分である。表面酸化皮膜2の窒素量が17原子%以上である場合、具体的には、表面処理液中のコンタミ成分や硝酸イオンが多い場合には、表面酸化皮膜2中の窒素と接着剤に含まれている成分とが反応し、硬化時に接着剤が変質し、アルミニウム合金板10の接着耐久性が低下しやすくなる。表面酸化皮膜2の窒素量は、16原子%未満が好ましく、15原子%未満がさらに好ましい。
この表面酸化皮膜2は、その膜厚が1〜30nmであることが好ましい。膜厚が1nm未満では、基板1を作製する際に使用される防錆油、および、アルミニウム合金板10から接合体(図3(a)〜(d)参照)および自動車用部材(図示せず)を作製する際に使用されるプレス油中のエステル成分の吸着が抑制される。そのため、表面酸化皮膜2が無くても、アルミニウム合金板10の脱脂性、化成処理性、接着耐久性が確保されるが、表面酸化皮膜2の膜厚を1nm未満に制御するには過度の酸洗浄等が必要となり、生産性に劣り、実用性が低下し易い。一方、表面酸化皮膜2の膜厚が30nmを超える場合には、皮膜量が過剰のために表面に凹凸ができ易く、結果的に化成ムラが生じ易く、化成性が低下し易い。なお、膜厚のさらに好ましい範囲は10〜20nmである。
基板1の表面に形成された表面酸化皮膜2中の元素量(ジルコニウム量、マグネシウム量、窒素量、ハロゲン量、リン量等)は、GD−OES(グロー放電発光分析装置(Glow Discharge Optical Emission Spectroscopy))によって測定され、表面酸化皮膜2の深さ方向プロファイルにおいて酸素量の測定値が15原子%以下となる深さまで測定した際の所定元素の測定最大値を元素量とした。また、GD−OESは、表面酸化皮膜2の膜厚についても測定することが可能である。すなわち、GD−OESにより測定した、深さ方向プロファイルにおいて酸素量の測定値が15原子%以下となる深さを表面酸化皮膜2の膜厚とすることができる。なお、元素量および膜厚は、表面酸化皮膜2の表面における数箇所の測定結果の平均値とすることができるのはいうまでもない。なお、ジルコニウム量は、表面酸化皮膜2の二酸化ジルコニウム量から求めることもできる。つまり、二酸化ジルコニウム量を求め、その求めた二酸化ジルコニウム量から所定の演算によりジルコニウム量を算出する。
<接着剤層>
この接着剤層3を構成する接着剤としては、特に限定されるものではなく、従来からアルミニウム合金板を接合する際に用いられてきた接着剤を用いることができる。例えば、熱硬化型のエポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂等が挙げられる。接着剤層3の厚さは、特に限定されるものではないが、10〜500μmが好ましく、50〜200μmがより好ましい。接着剤層3の厚さが10μm未満の場合には、アルミニウム合金板10Aと、他の接着剤層を備えていないアルミニウム合金板10(図1(a)参照)とを接着剤層3を介して高い接着耐久性で接合できない場合がある。すなわち、後記する図3(c)の接合体20Bの接着耐久性が低下する場合がある。接着剤層3の厚さが500μmを超える場合には、凝集破壊強度が小さくなる場合がある。
次に、前記したアルミニウム合金板の製造方法について、図2を参照して説明する。なお、アルミニウム合金板の構成については、図1(a)、(b)を参照する。
基板作製工程S1は、圧延によって基板1を作製する工程である。具体的には、以下のような手順で基板1を作製することが好ましい。
表面酸化皮膜形成工程S2は、前工程S1で作製された基板1の表面に表面酸化皮膜2を形成させる工程である。そして、例えば、基板1を加熱処理し、それに続いて表面処理を行うことによって、表面酸化皮膜2のジルコニウム量、マグネシウム量および窒素量を所定範囲に調整する工程である。
加熱処理は、基板1を400〜580℃に加熱して、基板1の表面に、表面酸化皮膜2を構成する酸化皮膜を形成するものである。また、加熱処理は、アルミニウム合金板10の強度を調整するものでもある。なお、加熱処理は、加熱速度100℃/分以上の急速加熱とすることが好ましい。
表面処理は、酸化皮膜が形成された基板1の表面に表面処理を行うもので、この表面処理によって、前記加熱処理で形成された酸化皮膜、すなわち、酸化皮膜が表面処理された表面酸化皮膜2のジルコニウム量、マグネシウム量および窒素量が所定範囲に調整される。
接着剤層形成工程S3は、前記工程S2で形成された表面酸化皮膜2の表面に、接着剤からなる接着剤層3を形成させる工程である。接着剤層3の形成方法については、特に限定されるものではないが、例えば、接着剤が固体である場合には、これを溶剤に溶解させて溶液とした後に、また、接着剤が液状である場合にはそのまま、表面酸化皮膜2の表面に噴霧したり塗布する方法が挙げられる。
その他、例えばアルミニウム合金板10、10Aの板表面の異物を除去する異物除去工程や、各工程で発生した不良品を除去する不良品除去工程等を含めてもよい。
次に、本発明に係るアルミニウム合金板10、10Aにプレス油を塗布する方法について説明する。
プレス油の塗布の方法としては、例えば、エステル成分としてオレイン酸エチルを含有するプレス油に、アルミニウム合金板10、10Aを浸漬させるだけでよい。エステル成分を含有するプレス油を塗布する方法や条件は、特に限定されるものではなく、通常のプレス油を塗布する方法や条件が広く適用できる。また、エステル成分もオレイン酸エチルに限定されるものではなく、ステアリン酸ブチルやソルビタンモノステアレート等、様々なものを利用することができる。
次に、本発明に係る接合体について説明する。なお、以下では、アルミニウム合金板10、10Aは、片面に表面酸化皮膜2を備えるもの(図1(a)、(b)参照)で説明する。
図3(a)に示すように、接合体20は、2つのアルミニウム合金板10、10と、接着部材11とを備える。具体的には、接合体20は、アルミニウム合金板同士10、10が、接着部材11を介して接合されている。そして、接着部材11は、その一面は一方のアルミニウム合金板10の表面酸化皮膜2側に接合され、その他面は他方のアルミニウム合金板10の表面酸化皮膜2側に接合されている。その結果、2つのアルミニウム合金板10、10の表面酸化皮膜2、2のそれぞれは、接着部材11を介して互いに対向するように配置されることとなる。
アルミニウム合金板10については、前記したとおりであるので説明を省略する。
<接着部材>
接着部材11は、接着剤からなるもので、前記した接着剤層3と同様なものである。具体的には、接着部材11は、熱硬化型のエポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂等の接着剤からなる。また、接着部材11の厚さは、特に限定されるものではないが、好ましくは10〜500μm、より好ましくは50〜200μmである。
第2アルミニウム合金板12は、前記した基板1と同様なもので、具体的には、JISに規定される、またはJISに近似する種々の非熱処理型アルミニウム合金または熱処理型アルミニウム合金からなる。
次に、本発明に係る自動車用部材について説明する。
図示しないが、自動車用部材は、前記した接合体20、20A〜20Cから製造されるものである。そして、自動車用部材は、例えば、自動車用パネル等である。また、自動車用部材の製造方法は、特に限定されるものではないが、従来公知の製造方法を用いる。例えば、前記した接合体20、20A〜20Cに切断加工、プレス加工等を施して所定形状の自動車用部材を製造する。
なお、自動車用部材は、前記した接合体20、20A〜20Cから製造されるため、高温湿潤環境にさらされても、界面での接着耐久性が向上する。
なお、供試材(No.1〜13)の全てにおいてハロゲン、リンは検出されず、Mg、Zr、Nの含有量の合計が100原子%にならない場合には、OやAl、微量不純物を含んでいる。
<凝集破壊率(接着耐久性)>
図4(a)、(b)に示すように、構成が同じ2枚の供試材(25mm幅)の端部を、熱硬化型エポキシ樹脂系接着剤によりラップ長13mm(接着面積:25mm×13mm)となるように重ね合わせ貼り付けた。ここで用いた接着剤Aは熱硬化型エポキシ樹脂系接着剤(ビスフェノールA型エポキシ樹脂量30〜40%、バリウムフェライト添加あり)、接着剤Bは熱硬化型エポキシ樹脂系接着剤(ビスフェノールA型エポキシ樹脂量40〜50%、バリウムフェライト添加なし)である。そして、接着剤層の膜厚が150μmとなるように微量のガラスビーズ(粒径150μm)を接着剤に添加して調節した。重ね合わせてから30分間、室温で乾燥させて、その後、170℃で20分間加熱し、熱硬化処理を実施した。その後、室温で24時間静置して接着試験体を作製した。
凝集破壊率(%)=100−{(試験片Aの界面剥離面積/試験片Aの接着面積)×1
00}+{(試験片Bの界面剥離面積/試験片Bの接着面積)×100}・・・(1)
なお、各試験条件とも3本ずつ作製し、凝集破壊率は3本の平均値とした。また、評価基準は、凝集破壊率が60%未満を不良「×」、60%以上80%未満をやや不良「△」、80%以上90%未満を良好「○」、90%以上を優れている「◎」とした。
2 表面酸化皮膜
3 接着剤層
10、10A アルミニウム合金板
10a、10Aa 第1アルミニウム合金板
11 接着部材
12 第2アルミニウム合金板
20、20A、20B、20C 接合体
Claims (9)
- アルミニウム合金基板と、前記アルミニウム合金基板の表面に形成された表面酸化皮膜とを備え、前記表面酸化皮膜は、ジルコニウム量が0.01〜10原子%、マグネシウム量が0.1原子%以上10原子%未満、窒素量が17原子%未満であることを特徴とするアルミニウム合金板。
- 前記表面酸化皮膜の表面に、接着剤からなる接着剤層をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム合金板。
- 前記表面酸化皮膜は、ジルコニウム量(Zr量)とマグネシウム量(Mg量)との比率(Zr量/Mg量)が0.0025〜80であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のアルミニウム合金板。
- 前記アルミニウム合金基板が、Al−Mg系合金、Al−Cu−Mg系合金、Al−Mg−Si系合金またはAl−Zn−Mg系合金からなることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載のアルミニウム合金板。
- 請求項1に記載のアルミニウム合金板同士が、接着剤からなる接着部材を介して、接合された接合体であって、
前記接着部材は、2つの前記アルミニウム合金板の表面酸化皮膜側に接合され、2つの前記アルミニウム合金板の表面酸化皮膜のそれぞれは、前記接着部材を介して互いに対向するように配置されていることを特徴とする接合体。 - 請求項1に記載のアルミニウム合金板からなる第1アルミニウム合金板に、接着剤からなる接着部材を介して、アルミニウム合金からなる第2アルミニウム合金板が接合された接合体であって、
前記接着部材は、前記第1アルミニウム合金板の表面酸化皮膜側に接合されていることを特徴とする接合体。 - 請求項2に記載のアルミニウム合金板の接着剤層側に、請求項1に記載のアルミニウム合金板が接合された接合体であって、
2つの前記アルミニウム合金板の表面酸化皮膜のそれぞれは、前記接着剤層を介して互いに対向するように配置されていることを特徴とする接合体。 - 請求項2に記載のアルミニウム合金板からなる第1アルミニウム合金板に、アルミニウム合金からなる第2アルミニウム合金板が接合された接合体であって、
前記第2アルミニウム合金板は、前記第1アルミニウム合金板の接着剤層側に接合されていることを特徴とする接合体。 - 請求項5ないし請求項8のいずれか一項に記載の接合体から製造されることを特徴とする自動車用部材。
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