JP2014196565A - ソーワイヤーの芯材用金属細線及びその製造方法 - Google Patents

ソーワイヤーの芯材用金属細線及びその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】細線でありながらも高強度化と剛性を高めると共に、疲労破断の抑制並びに耐食性向上による長寿命化を図り得るソーワイヤーの芯材用金属細線と、その製造方法を提供する。【解決手段】表面に粒子状の切断砥粒を固着してなる砥粒固定型ソーワイヤーの芯材に用いられる金属細線であって、該金属細線は、質量%で、C:0.05〜0.15、Si:≰2.0、Mn:≰3.0、Ni:6.0〜9.5、Cr:16.0〜19.0及びN:0.005〜0.25%を含み、2C+Nを0.17〜0.40%に調整され、残部Fe及び不可避不純物でなるオーステナイト系ステンレス鋼線で構成され、引張強さ(σ):2500〜3500MPaを備え、かつその引張試験における応力−歪線図の弾性比例域の歪量(E1)と、その破断までの全歪量(E0)との弾性比率α=(E1/E0)?100が45%以上の特性を有する砥粒固定型ソーワイヤー芯材用金属細線である。【選択図】図3

Description

本発明は半導体用シリコンやセラミック、サファイアなどの無機性材料、高磁性用材料として用いられるネオジム合金などの希土類金属のように、硬質かつ高脆性の種々材料の切断加工に使用され、切断効率に優れ高寿命化を図ったソーワイヤーの芯材用金属細線とその製造方法に関する。
ワイヤーソー(ワイヤー工具とも言う)による切断作業は、従来から、例えば半導体用のシリコンウエハーやLED用途におけるサファイアなどの他、セラミックや石材のように、硬質で脆性特性の大きい難加工材の切断加工に用いられている。その機構は、例えば図6に示すように、ピアノ線等の金属製芯線Wの表面に硬質なダイヤモンド等の微細砥粒Pを固着したソーワイヤーTWを、ワークロールR間に所定幅のピッチ間隔で掛け渡し、高速走行させることで被切断物Gを物理的に切断するもので、その切断効率や耐久性、切断面の平滑性向上等の観点から種々の工夫や開発がなされてきた。
このような切断用研削を表面に固着した砥粒固定型のソーワイヤーは、その切断性や作業性、操作性に優れ、従来の遊離砥粒型のワイヤー工具に代わるものとして主流になりつつある。また、この作業は前記シリコンやサファイアなど比較的高価な被切断物Gが対象で、しかもその形状も大型であることから、該ソーワイヤーには、その切断作業中の断線がなく、かつその切断幅が極力狭くなるように、その芯線には、例えば線径0.1〜0.5mm程度でかつ高強度な金属線材が用いられている。
すなわち、切断作業中にソーワイヤーが断線すると、機械を停止して再度複雑な掛け渡しを要するばかりでなく、被切断物Gの断線前後の切断面に段差等の状態変化が発生して平滑性が阻害され、その修復研磨に多大な手間を要したり、修復困難な場合は被切断物自体が廃棄されることとなる。したがって、該ソーワイヤーには、切断効率とともに長寿命という要求特性が求められている。
また、これらソーワイヤーの新たな用途例として、例えば強力磁石用の金属材料であるネオジム合金などの希土類合金、例えばR−Fe−B系希土類焼結磁石(合金)の切断用として取り組みがされている。一例として、ネオジム(Nd)、鉄(Fe)およびホウ素(B)を主成分とするNd2Fe14B金属間化合物からなる硬い主相(鉄リッチ相)と、Ndリッチな粘りのある粒界相とを有する希土類焼結合金で、強力磁石用として通称ネオジム磁石で知られている。
このネオジム磁石は、例えば所定組成の合金粉末をブロック状に熱間押出成形して加圧焼結で製造されるもので、その硬度はHRc75以上の極めて硬質かつ高脆性特性を有することから、通常の機械加工が困難であり、前記ソーワイヤーによる切断加工が多用されつつある。
特開平7−96454号公報 特開平10−138114号公報 特開2007−203393号公報
しかしながら、前記特許文献1によるワイヤー工具は、その芯材として高Cのピアノ線など硬鋼線で構成されるもので、強度特性には優れるものの疲労寿命に劣り、また耐食性も低いことから、長寿命化は得られ難い。すなわち、前記ピアノ線は、冷間伸線前のパテンティグ処理で発生したパーライト組織を加工硬化することによって高強度化するもので、ばねなどのような用途には静的強度に優れるものの、本件ソーワイヤーのように常に大きな張力を負荷しながらロール間を連続走行し、かつ過酷な高速走行するソーワイヤーの芯材としては、疲労寿命が十分とはいえない。
又ピアノ線は前記金属組織によって外界の影響を受ける感受性が比較的強いことから、例えばその後に行われるニッケルメッキ処理で発生する水素ガスの吸蔵による水素脆性、切断時に供給される液状クーラントによる耐食性への影響も懸念され、その改善とともに、砥粒を固着する金属メッキ層との密着性やメッキ剥離、亀裂発生において十分なものとは言い難い。
他方、特許文献2が開示するアモルファス合金線や特許文献3のCo基合金線を芯材とするものでは、細径化の加工性や表面Niメッキとの密着性や、材料価格の影響もあって十分な普及には至っていない。特に前記アモルファス合金線の強度特性は前記ピアノ線以上に低靭性であることから、本発明が対象とするような高強度・高寿命化を満足するソーワイヤーには供し難いものである。
また、前記ソーワイヤーによる切断作業では、ソーワイヤーSは、例えば図7に示すように被切断物Wを2つのワークロールR間に配置し、その太さも0.2mm程度の細線であることから、同図に見られるように撓みhが発生して被切断物Wの強固な押し付けができず、結果的に切断効率を低下されることとなっている。このように、前記芯材にはこのような過酷な使用状態に耐え得る高強度化とともに、適度に弾性、靭性に優れ疲労破断を抑制する特性が望まれている。
更にこれら特性は、例えば固着砥粒を含む表面全体を覆う前記Niメッキの金属被覆材を、切断作業の立上げの早期段階で摩滅させて、内部砥粒の露出を早めることにも寄与し、そうした観点からも芯線の特性改善によって、ドレッシング処理などの前処理を省略し得るソーワイヤーが求められている。
そこで本発明は、このような従来の課題を解決し、細線でありながらも高強度化と適度の弾性特性によって、疲労破断を抑制して長寿命化を図るとともに耐食性向上をもたらすソーワイヤーの芯材用金属細線とその製造方法の提供を目的とする。
すなわち、本願請求項1に係る発明は、表面に粒子状の切断砥粒を固着してなる砥粒固定型ソーワイヤーの芯材に用いる金属細線であって、
該金属細線は、質量%で、
C: 0.05〜0.15
Si:≦2.0
Mn:≦3.0
Ni:5.5〜9.5
Cr:15.0〜19.0、及び
N:0.005〜0.25%を含み、2C+Nを0.17〜0.40%に調整され、残部Fe及び不可避不純物でなるオーステナイト系ステンレス鋼線で構成される長尺細線でなり、
引張強さ(σ):2500〜3500MPaで、かつ
その引張試験における応力−歪線図の弾性比例域の歪量(E1)と、その破断までの全歪量(E0)との弾性比率αが45%以上の特性を有することを特徴とする砥粒固定型ソーワイヤーの芯材用金属細線である。
但し、αは{(E1/E0)×100}によるものとする。
また請求項2に関わる発明は、前記金属細線は、更に下記A,B,Cのいずれか1種以上の第三元素を含有するもの、請求項3に関わる発明は、更に前記金属細線は、次式M値が5〜28%に調整されてなる前記ソーワイヤーの芯材用金属細線である。
A: Al、Nb、Ti、Ta、Zrのいずれか1種以上を各々0.01〜0.3%
B: V:0.10〜0.5%
C: Mo:0.2〜2.0%又はCu:0.15〜0.8%のいずれか1種以上
M=16C+2Mn+9Ni−3Cr+8Mo+15N
更に、請求項4に関わる発明は、前記弾性比率αが、55〜80%であり、請求項5に関わる発明は、前記金属細線は、その表面をCu又はNiの金属メッキ被覆材で覆われたもの、請求項6に関わる発明は、前記金属細線は、その線径の200倍を標点距離として該金属細線に弛みが生じない張力を付加した状態で、その一方端を捻り回転する捻り試験において、50〜80回の捻回特性を有するもの、請求項7に係る発明は、前記金属細線は、50/500mm以下の真直性を備えるものである。
またその製造方法として、請求項8に関わる発明は、表面に、被覆材を介して粒子状の切断砥粒を固着した砥粒固定型ソーワイヤーの芯材に用いる金属細線の製造方法であって、
ア)質量%で、
C: 0.05〜0.15
Si:≦2.0
Mn:≦3.0
Ni:5.5〜10.0
Cr:15.0〜19.0、
N:0.005〜0.25%を含むとともに、2C+Nを0.17〜0.40%に調整され、残部Fe及び不可避不純物でなるオーステナイト系ステンレス鋼線を準備する準備段階と、
イ)該鋼線を加工率85%以上で冷間伸線加工して長尺ステンレス鋼細線にする加工段階と、
ウ)このステンレス鋼細線を、温度300〜600℃でかつ逆張力を付加しながら低温焼き鈍し処理して、引張強さ(σ):2500〜3500MPaで、かつその引張試験における応力−歪線図の弾性比例域の歪量(E1)と、その破断までの全歪量(E0)との弾性比率α{但し、(E1/E0)×100による}が45%以上の特性を持つ前記高強度の金属細線を得る熱処理段階を備えることを特徴とする、
エ)ソーワイヤーの芯材用金属細線の製造方法である。
そして、請求項9に関わる発明は、前記ステンレス鋼は、更に下記A,B,Cのいずれか1種以上の第三元素を含有すること、更に請求項10に関わる発明は、前記低温焼き鈍し処理は、該金属細線の0.2%耐力以下の前記逆張力を付加した状態で加熱処理するものであることを各々特徴とする前記ソーワイヤーの芯材用金属細線の製造方法である。
A: Al、Nb、Ti、Ta、Zrのいずれか1種以上を各々0.01〜0.3%
B: V:0.10〜0.5%
C: Mo:0.2〜2.0%又はCu:0.15〜0.8%のいずれか1種以上
このように本願請求項1に係る発明は、砥粒を固着するソーワイヤーの芯材が、高CかつNを含有するオーステナイト系ステンレス鋼線で構成するとともに、その特性として高い引張強さを備えながらも、前記適度の弾性比率αによって、細線状態でありながらも、前記使用状態における高い張力負荷に耐え得るソーワイヤーを可能とし、過酷な高速走行を伴う耐疲労特性の向上をもたらされる。
また、該金属細線は前記組成のオーステナイト系ステンレス鋼線で構成されることから、表面上に砥粒を固着する金属メッキ等の被覆材との密着性を低下することなく、かつその使用時や保管時などにおける腐食環境下でも十分に耐食性を有し、長寿命化が得られる。
また請求項2乃至7の発明では、該芯材の特性を向上してより安定したソーワイヤーが提供でき、切断効率の向上に寄与する。
他方、製造方法に関する請求項8〜10の発明によれば、より高強度でかつ加工歪を解除して組織的に安定化した芯材が提供でき、以後のメッキ処理やソーワイヤーとして使用する際の操作性、作業性を良好にして作業効率の向上を可能にする。
本発明の芯材用金属細線を用いたソーワイヤーの一形態を拡大して示す正面図である。 その拡大横断面図である。 本発明に係わる金属細線の応力−歪特性を示す線図の一例である。 切断性能を比較した切断結果の一例である。 該金属細線の低温焼き鈍し温度に伴う引張特性の変化を示す線図である。 ソーワイヤーによる切断状態を示す概要図である。 ワークロール間に掛け渡したソーワイヤーのたわみ状態を説明する状態図である。
以下、本発明の芯材用金属細線を用いたソーワイヤーの好ましい一形態をその製造方法とともに説明する。
図1は、前記ソーワイヤー1の一部を剥離して拡大した正面図であり、また図2はその横断面を示している。同図1,2において、ソーワイヤー1は、長尺の金属細線2Aでなる芯材2と、該芯材2の表面に一様に付着した研削用砥粒4を備え、該砥粒4は、本形態では前記芯材2の表面上に形成した金属メッキの被覆層3による電着処理によって間接的に固着している。
芯材用金属細線2A(以下、単に「芯材」ということがある。)は、本発明では前記所定組成を有するオーステナイト系ステンレス鋼線で構成され、2500〜3500MPaの引張強さ(σ)を有する高強度特性と、図3に示すように、その引張試験における応力−歪線図において、その弾性比例域の歪量(E1)と破断までの全歪量(E0)との比率、すなわち(E1/E0)×100による弾性比率αが45%以上であることを特徴としている。
なお該芯材2の寸法及び形状については、被切断物の種類、大きさ、切断条件などに応じて種々設定可能であるが、通常は例えば線径0.1〜0.8mm程度の断面円形の単一線が多用される。通常、必要以上に太径化したものでは高価な被切断物の切断幅を広げて歩留まりを低下させたり、柔軟性を損なって破断の危険性を高め、また細径のものでは付加張力に耐え得ず強度不足によって断線するなど効率的作業が得られ難いことから、好ましくは線径0.2〜0.35mm程度の細線が好適する。また、例えば複数の細線を撚り合わせた撚線や、断面形状が非円形形状の例えば平線を捻り加工した捻線として用いることもできる。
該金属細線2Aは、次の組成のステンレス鋼線で構成される。
質量%で、C: 0.05〜0.15、Si:≦2.0、Mn:≦3.0、Ni:6.0〜9.5、Cr:16.0〜19.0、及びN:0.005〜0.25%を含むとともに、2C+Nを0.17〜0.40%に調整され、残部Fe及び不可避不純物でなる、高CかつN添加型のオーステナイト系ステンレス鋼線で構成される。すなわち、前記C及びNの侵入型元素がもたらす機械的特性、特に引張強さとともに結晶の微細化、前記弾性比率を高めることで、使用時の張力付加や繰り返し疲労に耐え得る靭性によって高効率のソーワイヤーを可能にする。
ここで、前記金属細線2Aのステンレス鋼線における各組成とその含有量の設定理由を説明する。
[C:0.05〜0.15%]
Cは、Nとともにオーステナイトの形成元素で、加工に伴う強度及び弾性特性の向上をもたらす。その効果は、0.05%以上の添加で顕著となるが、0.15%を超える程多量の添加は、その結晶粒界に有害な炭化物を生成して耐食性低下をもたらす。したがって、より好ましくは0.06〜0.13%とする。
[Si: 2.0%以下]
Siは、脱酸剤として添加され、その含有によって強度、弾性限及び耐酸化性が向上する。しかし多量に添加すると、逆に靭性が低下するという問題がある為、その上限を2.0%としており、より好ましくは0.3%〜1.6%とする。
[Mn:3.0%以下]
Mnは、Siと同様に精錬時の脱酸剤として使用されるが、オーステナイト系ステンレス鋼では、オーステナイト相(γ)の相安定性にも寄与する。またMnは、高価なNiの使用を抑えるとともに、N元素の固溶限を高める効果があるが、多量の含有は芯材の剛性低下及び材料価格の上昇をもたらす為、その上限を3.0%としており、より好ましくは0.2〜1.8%が望まれる。
[Ni:6.0〜9.5%]
Niは、オーステナイト系ステンレス鋼の基本元素の1つで、オーステナイトの安定化を図るとともに、耐食性向上に不可欠な元素である。また、Niは、加工に伴うマルテンサイトの生成を抑え、多量のN固溶量を高めて非磁性をもたらす効果を有する。このような観点から、少なくとも6.0%以上とする。しかし、Niは非常に高価で、多量の添加は剛性を低下させるためその上限を9.5%とし、好ましくは6.3%〜8.5%とする。
[Cr:15.0〜19.0%]
Crも前記Niと同様にステンレス鋼の基本元素で、耐食性を向上をもたらす上で15.0%以上の含有を必要とし、他方多量のCrは、前記C,Nとの化合物を形成したり靭性が低下する為、その上限を19.0%としており、好ましくは17.0〜18.5%とする。
[N:0.005〜0.25%]
Nは、Cと同様にオーステナイトの形成元素で、また侵入型でもあることから固溶によって強度向上,特に結晶粒の微細化による降伏応力を高めて剛性率アップをもたらす。しかし、多量の添加は窒素化合物を生成させて特性低下や加工性を阻害し、加工歩留まり及びコストアップをもたらすこととなる。したがって、その分量は0.005〜0.25%とし、より好ましくは0.03〜0.20%以下とする。
また本発明では、次に説明するように、前記組成において種々の成分調整や第三元素の添加によってその特性向上を図ることもできる。その一つに、例えば前記CとNの関係として2C+Nを0.17〜0.40%にすることで、剛性と靭性を適度にバランスさせ、切断性を高めながらかつ長寿命化をもたらすものとなり好適する。その中で同分量が0.17%未満では、十分な強度アップが図り難く、高弾性化への期待が薄らぐこととなる。また逆に0.40%を超える程高めることは、化合物を生成させて捻回・靭性を低下させ過酷な高速走行するソーワイヤーとしての疲労低下を招き、寿命低下が懸念され、好ましくは0.18〜0.32%とする。
この様な組成のより好ましい形態として、例えば次のように調整されたステンレス鋼が推奨される。
質量%で、C: 0.08〜0.13、Si:0.50〜1.00、Mn:0.20〜0.80、Ni:7.5〜8.5、Cr:17.0〜19.0、及びN:0.01〜0.20%を含み、かつ前記2C+Nを0.20〜0.40%に調整し、残部Fe及び不可避不純物でなるオーステナイト系ステンレス鋼線が推奨される。また本発明は、前記基本組成に加えて、更に次のA,B,Cのいずれか1種以上の第三元素を含有したステンレス鋼線で構成することも好ましい。
[A:Nb、Al,Ti,Ta,Zrのいずれか1種以上を各々0.01〜0.30%]
Nb、Al,Ti,Ta,Zrは、鋼線の熱処理後のオーステナイト相を安定的に微細化させて、靭性向上を可能にする。その効果は、前記各いずれか1種又は2種以上を各々0.01%以上の含有で発揮され、逆に0.30%を超える程含有しても、その効果は飽和して、かえってコストアップとなり普及拡大の妨げになる。この場合、それら添加元素の合計量は0.6%以下が好ましく、特に、Nb及びAlは、更に熱間加工性を向上するとともに、その内部に微細な化合物粒子を析出硬化させることで高強度化でき、そのいずれか一方又は双方の有用性は大きいものである。
[B:V:0.10〜0.5%]
Vは、前記AlやNbなどと同様に微細な炭・窒化物を形成し、オーステナイト結晶粒を安定的な微細化させ靭性の向上をもたらもので、0.1%以上の添加が好ましい。しかし、0.5%を超えてもその効果は飽和することから、その上限を0.5%とする。
[C:Mo:0.2〜2.0%又はCu:0.15〜0.8%のいずれか1種以上]
Moは耐食性を向上し、0.2%以上の添加を許容する。しかし、2.0%を超えるものでは弾性率が減少することから、上限を2.0%とする。より好ましくは0.25〜.70%とする。 また、Cuはその添加によって加工硬化を抑え、かつ弾性特性の改善に寄与することから、その分量を0.15〜0.8%とする。
更に、前記各基本元素の組成調整として、次式M値を5〜28%に調整することで、剛性率向上をもたらすことも好ましい。
M=16C+2Mn+9Ni−3Cr+8Mo+15N
該M値は、その製造過程おいて剛性率に及ぼす各元素の影響を調査した結果に基づくもので、前記組成のステンレス鋼では少なくとも5%以上を有するものの、この特性Mが28%を超えるものでは前記ソーワイヤーの芯材2としての剛性率が十分とは言い難く、より好ましくは10〜26%に設定される。
金属細線2Aは、このように調整された組成のステンレス鋼で構成され、その残部はFe及び若干のP,S,O,H等の不可避不純物の含有を許容し、その不純物の合計分量は例えば0.8%以下程度に設定される。
また金属細線2Aは、その好ましい特性として、引張強さ:2500〜3500MPaの高強度特性で、かつその引張試験における前記弾性比率αが45%以上を有するものとしている。
引張強さは、例えばJIS−Z2241「金属材料引張試験方法」で測定される。その特性が2500MPa未満のものでは、ソーワイヤーとして高速走行させながら、かつ被切断物の切断効率を高める為の張力付加によって断線する危険性が増し、逆に3500MPaを超える程の高強度化したものでは疲労破断を生じやすく、こうした断線は、切断作業の歩留まり低下や高価な被切断物自体の製品ロスになることから、前記強度特性は必要である。より好ましくは2800MPaを超え、かつ3300MPa未満に設定される。
前記金属細線2Aにこのような高強度特性を持たせるには、例えば前記所定組成に調整されたステンレス鋼線を加工率85%以上で冷間伸線加工して所定の仕上げ線径にした後、さらにこれを温度300〜600℃程度、好ましくは350〜550℃、更に好ましくは380〜500℃の温度条件で低温焼き鈍し(テンパー処理)をすることで達成される。この低温焼き鈍し処理は、前記伸線加工で生じた加工歪を解消して内部応力を抑制しながら、引張強さや耐力、捻回特性を高めるとともにキンクの発生を抑え、またマルテンサイト量を高める効果を有し、砥粒の着磁効果を促進する。
すなわち、出願人が検証した試験の結果によれば、前記組成のステンレス鋼細線を前記条件で低温焼き鈍し処理したものでは、伸線加工状態のものに比して、引張強さ及び耐力等の強度特性については約10%程度、捻回特性は2倍以上、またマルテンサイト量も数%程度の特性向上が見られ、またそのキンク試験でも折損を生じないなど、有用な作用・効果をもたらす。
ここで、前記捻回特性は、例えばJIS−G4314に規定されるステンレス鋼線のねじり試験方法で求められるように、その標点間距離はその測定用芯材の線径×200倍とし、かつ弛みが生じない程度の張力、例えば0.2%耐力以下の荷重を付加した状態で、その一方端を捻り回転したときの、捻り破断するまでの回数で求められるもので、より好ましくは50〜80回程度の特性を有するものが好適する。
他方、前記マルテンサイト量は、その生成によって芯材の特性強化を図り、高強度かつ高弾性特性が可能で、前記加工条件によって例えば30〜90%、好ましくは50〜80%に設定される。また、このようなマルテンサイト量を持つ芯材は、例えばその表面に後述する金属被覆した砥粒を電着処理で固着する場合に、芯材を励磁させてより多くの砥粒を着磁させる効果をもたらすことができ、その測定は、例えばX線回析によるピーク強度から求める方法、直流磁化測定装置による飽和磁束密度による方法の他、フェライトメータによることもできる。
こうした特性は、例えば該芯材2となる金属細線2Aの引張試験における応力と歪量との関係を示す例えば図4のように、その弾性比例域の歪量(E1)がその全歪量(E0)の45%以上の弾性比率αをもたらすことができ、前記E1は直線状の前記弾性域の比例線から離間し始める点、他方E0はこれが引張破断した時の全歪量を各々意味し、該α値は前記計算式(E1/E0)×100によるものとしている。
通常、オーステナイト系ステンレス鋼線は、その伸線加工によって加工硬化され、その強度を飛躍的に高める反面、破断伸び率を減じることが知られており、その特性は例えば図3の破線(比較例a)に見られるように、応力と歪が比例的に変化する弾性域のE1‘点を過ぎると、応力の増加率はやや減少してやがて破断点E0’に至るものの、E0‘に占めるE1‘までの比率は比較的小さく、45%程度を超えるものは得られ難い。
このように、冷間伸線加工で高強度化したオーステナイト系ステンレス鋼線の前記弾性比率αが45%を下回るものでは、その全歪量が占める弾性領域が少なく高速走行や逆転走行を伴う前記ソーワイヤーの芯材には適さず、破断や塑性変形を生じさせるなど寿命低下の原因となり易い。そこで、本願発明では前記成分組成の調整とともに、これを更に前記条件での低温焼き鈍し処理することでより高めたものであって、弾性領域αの拡大によって前記過酷な使用に耐え得る特性のソーワイヤーとしている。しかし、その比率を100%まで完全に高めるには高度の調整技術を伴うことから、好ましくは前記αは50〜85%、更に好ましくは55〜70%に設定される。
また、このように増大した引張強さと前記弾性比率αを持つ芯材で構成したソーワイヤーは、その使用時の前記瞬間的な荷重付加を伴う場合にも、より広い領域内での弾性回復を可能とし、その適用範囲を拡大して用途展開に繋げるものとなる。
こうした特性は、前記成分組成に調整されたオーステナイト系ステンレス鋼線を原材料として、これを前記条件での冷間伸線加工と低温焼き鈍し処理によって達成されるが、更に好ましくは、伸線加工の加工率は93〜97%とし、また低温焼き鈍し処理では、例えばArガスなど無酸化雰囲気中で1〜30sec程度の短時間処理が可能な、ストランド方式の加熱処理によるものが採用される。またその場合、例えば該線の0.2%耐力以下の逆張力(バックテンション)を付加した状態にして加熱処理することで、伸線加工時に生じた線癖や加工歪を解消し、例えば50/500mm以下程度にまで高めた真直性を備えた芯材とすることも好ましい。こうした特性の金属細線を用いたソーワイヤーによれば、ワイヤーソー装置への複雑な掛け渡し作業を容易にする他、被切断面の平滑性を高める等の効果をもたらし得る。
前記金属細線2Aでなる芯材2は、その表面に研削用砥粒4を所定の分布密度で固着しソーワイヤー1を形成する。該砥粒4は、例えば10〜50μm程度の微細な平均粒子径を有する粒子状のダイヤモンド、サファイヤ、ルビー、炭化ケイ素、cBN(ボロンナイトライド)など硬質無機材料製の微細粒子が用いられる。これら砥粒は、通常断面非円形な不定形角状乃至柱状をなす為、その平均粒子径は、例えば所定目開きを段階的に変化させた複数の積層ふるい網機で、分級される上下網体の網目を平均化した値の他、例えばマイクロトラック製(US HRA−2)レーザー回折散乱光による測定法によるもの、更には、任意に選定した複数の粒子を各々透過して、各粒子の最大径と最小径との平均値を更にその測定点数で除した母集団の平均値で示す方法で求めることもできる。
また、前記ダイヤモンド粒子は、非常に硬質でその形状も鋭利な凸部を有する不定形形状であることから、例えばシリコンウエハー、LED用のサファイアなどの切断用として幅広い被切断材料に利用され、他方、前記cBN砥粒は、特に熱的安定性に優れることから、例えばネオジムなど希土類合金のような硬質かつ高脆性の金属材料を切断するソーワイヤーに好適する。これら砥粒の分布量や分布状態については特に限定するものではなく、切断材料の種類、切断作業条件に応じて任意に設定される。
この固着方法には、例えば前記芯材2の表面上に被覆結合材3を介した間接固着法が好適する。結合材3は、例えば樹脂系の接着剤の他、例えばニッケルメッキ、亜鉛メッキ、銅メッキなどの金属被覆による電着メッキ処理が推奨される。特に前記金属メッキによるものでは、前記砥粒4を確実かつ強固に固着するとともに、芯材2との強固な密着が得られ好適する。
またこれら金属被覆材による場合、その成膜厚さは例えば5〜30μmで均一になるように調整され、例えばストランド方式での連続電着メッキ方法が採用される。この場合、1回のメッキ処理で所定厚さにすることは非効率で、またメッキ状態もバラツキが大きくなって均一かつ良好なメッキ状態が得られ難く、通常は複数回に分けた積層メッキ法が好ましい。
図1の形態は、このような積層メッキ法によるものとして、前記芯材2の伸線加工時の潤滑を兼ねた下地メッキ層3aに、更に複数の第二金属メッキ層3b,3b・・を施こすことができる。その場合、前記砥粒4は、該第二金属メッキ層3bの製膜と同時に固着されるように、各メッキ浴中に各々所定濃度の前記砥粒を懸濁させて電着することで実施される。
このような積層メッキ法によれば、各メッキ層を比較的薄く形成して良好なメッキ状態をもたらし、また下地メッキ層3aはその後の前記伸線加工時のダイスによる強圧作用や、加工熱に伴う拡散現象によって芯材2との一体化が図れ、剥離等の問題を防ぐことができる。また、該下地メッキ3aと前期第二金属メッキ3bを各々強化結合できる相性の良い金属(例えば同種金属)を選択することが好ましく、厚メッキでありながらも層剥離やクラック、ピンホールなどの生じ難い良好メッキ状態が可能となる。
そのより好ましい積層メッキ構造として、例えば厚さ5μm以下程度の銅メッキを下地メッキ層3aとし、その上に前記砥粒4を混在させたニッケルメッキでなる第二メッキ層3b1、3b2…とし、更にこれら砥粒4を含む全面を同種ニッケルメッキで被包する第三メッキ層(図示せず)で形成することができる。また特に、前記下地層の銅メッキによるものでは、前記芯材2である前記ステンレス鋼線との親和性に優れ、また柔軟でもあることからメッキ層の剥離が防止でき好適する。
そうして砥粒4は、前記冷間伸線及び低温焼き鈍し処理によって細径化され、特性向上した前記芯材2の全面にほぼ一様に分布し、その分布密度は、例えばソーワイヤーの長さ1m当たり5,000〜100,000個程度に設定される。また必要ならば、前記砥粒4は予めその表面を微薄厚さのNi膜やTiC膜で被包した被覆砥粒として用い得る他、例えば特開平09−254008号公報が示すように芯材2の長手方向に沿って部分的に密度変化させたり、スパイラル状に分布させることで、例えば切断作業時の切断用クーラント液の排出性能を高めることも好ましい。
以上、本発明の好ましい実施形態の一例を説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、各請求項の記載の範囲内で種々調整できるものであり、その具体的な実例を次の試験例に示す。
試験例1
《芯材用金属細線の作成》
本発明の比較試験として、表1に記載した11種のステンレス鋼軟質線(線径0.8mm)を準備し、この軟質線に各々厚さ2μmの下地Cuメッキを被覆して、この下地メッキ層を潤滑剤とする冷間伸線加工を行い、線径0.18mmの硬質細線を得た。この伸線加工はダイヤモンドダイスによる連続湿式伸線機によるもので、その加工率は95%に相当し、表面状態は、表面粗さ(Ra)0.05〜0.10μm程度の非常に光輝平滑なものであった。また各試料はいずれも下地メッキ層の剥離などは見られず良好であった。
Figure 2014196565
次に、前記伸線加工された実施例材の各細線を、各々Ar雰囲気に調整された温度400℃での低温焼き鈍し処理をストランド方式で行ない金属細線を得た。得られた各金属細線の各特性を表2に示す。なお、本試験の比較材としては、前記実施例材Aで低温焼き鈍し処理前のもの(比較材a)、及び伸線加工後に低温処理したSUS304(比較材b)と同SUS316(比較材c)、更に市販のソーワイヤーである、0.8%のCを含むピアノ線(比較材d)を用いた。
Figure 2014196565
表2には、得られた金属細線の引張強さ、伸び及びその引張試験における弾性比率αとともに、加工誘起マルテンサイト量、並びに捻回値の各特性を示している。前記引張強さと伸び特性はJIS−Z2241による引張試験で行い、また前記弾性比率αについては、その引張試験における応力−歪線図から、比例基準線yから乖離する実質的な比例域(E1)とその破断までの全歪量(E0)との関係による前記計算式で算出しており、この比率が大きいもの程、より広い弾性範囲を有することから、高い張力負荷が可能となり、剛性アップによって効率的な切断作業に寄与する。
また、加工誘起マルテンサイト量は、前記直流磁化特性の測定装置による飽和磁束密度から求め、更に捻回値は、各細線を各々ねじり試験機に36mmを標点間距離としてセットして、その一端側を回転させてねじり破断するまでのねじれ回数で評価しており、このねじり回数が大きいもの程、靭性に優れることを意味する。
表2結果に見られるように、本発明に係わる実施例の各金属細線は、いずれも前記引張強さが2900〜3200MPa程度の高強度で磁性を有するとともに、捻回値50〜65回/mと優れた靭性を備え、また前記歪特性αについても45%以上の特性を有するものであった。こうした特性は、比較例a〜cのステンレス鋼線の特性を大きくしのぎ、従来材のピアノ線による比較例dに近い特性を有するものであった。
この中で、特に実施例材Aと比較材aは、同一材料について低温焼き鈍し処理の有無による特性比較をしたもので、この関係を図3に示すとともに、更に第三元素を添加した効果を見る為に、Al,Nbを添加した実施例材Fの細線材における引張試験の応力と歪との関係である応力−歪線図を示している。
これら結果に見られるように、本発明に係わる前記低温焼き鈍し処理したものでは、全体の伸び特性は若干減少するものの、それ以上に引張強度が向上し、かつその弾性比率αも約20%程度向上し、第三元素を添加した実施例材Fはその特性がより優れていることが分かる。なお、図中の細破線は比較材aである伸線加工したものの特性、そして太実線はこれを更に低温焼き鈍し処理した実施例材A、更に一点鎖線は、第三元素を付加した実施例材Fであり、比較材に比して向上した特性が認められる。
したがって、このように弾性比率を向上した芯材を用いたソーワイヤーでは、より広い弾性領域内でより高い張力負荷で掛け渡した使用ができる為、被切断物に対して弛み等を生じさせない高負荷の切断作業が可能であり、切断効率を高めることができる。特に、前記第三元素を添加した実施例材Fでの優位性が認められる。
また、本試験によれば前記弾性比率αの増大とともに、加工誘起マルテンサイト量が30〜58%程度を有し、伸線加工における加工歪を解消して組織的な安定化が図れたことから捻回特性が50〜66回を有する靭性特性が得られ、繰り返し疲労に対する寿命向上に寄与する結果であった。更に、その細線材の直線性は例えば5〜50mm/L=500mm程度にまで改善され、取扱い性、操作性に優れるものとなった。
試験例2
《耐食性試験》
つぎに、前記各実施例材及び比較例材の耐食性を評価する為に、一旦その表面皮膜を除去した芯材について、各々JIS−G0573による腐食試験を次の条件で行った。その測定結果を前記表2に併記している。
試験方法 試験溶液中での腐食減量の比較
試験溶液 65%硝酸溶液
試験条件 沸騰させた試験溶液中に48時間浸漬
評価方法 ○良好 (腐食減量 1μg/m2・H未満)
△やや良(腐食減量 10μg/m2・H未満)
×不可 (腐食減量 10μg/m2・H以上)
この腐食試験によれば、各実施例材は比較的良好な耐食性を有し、比較例材dのピアノ線とは格段の優位性を有するものであった。したがって、仮に表面電着メッキ層を介して外界雰囲気が伝達されても、芯材自体の耐食性によってメッキ層剥離や発銹出現が防止できる。
試験例3
《ソーワイヤーの製造》
そこで、前記実施例材A,F,J、及び比較例a,bの各金属細線、比較材dのピアノ線を各々ソーワイヤーの芯材として、その表面に、平均粒径30μmのダイヤモンド砥粒を懸濁したNiメッキ槽によって電着処理を行った。なお、前記ステンレス鋼製の各金属細線には表面に前記Cu金属の下地メッキ層を、またピアノ線にはブラスメッキを有するもので、予め有機酸溶剤で予備洗浄して清浄化し、さらにスルファミン酸ニッケルによる電解メッキ法で第2層目のニッケルメッキによって、該メッキ液中のダイヤモンド砥粒を所定密度の分布状態で固着しており、その分布密度は何れもほぼ一様な28,000〜32,000個/mになるように調整され、また前記ニッケルメッキ層の皮膜厚さは15〜25μmであった。
こうしてメッキ処理したソーワイヤーについて、メッキ層の密着性についてキンク試験による剥離試験を行い、メッキ状態を確認した。キンク試験は、該ソーワイヤーをその線径の線材に巻きつけた時のメッキ表面の状態を拡大顕微鏡で観察もので、特に懸念されるような層剥離や亀裂等は見られず、良好なメッキ状態で、固着砥粒の脱落等はほとんど見られず、前記ニッケルメッキ層によって強固に固着していることが確認された。
試験例4
《切断試験》
次に、こうして得られた各ソーワイヤーについて、その切断性能を評価するために、図6のように市販ワイヤーソ切断装置に切断ピッチ(T)3mm間隔で掛け渡し、被切断物のサファイア製インゴット(直径6インチ×長さ100mmの棒)に対して、水溶性クーラントを供給しながら次の条件で切断試験を行った。
負荷張力 20〜40N(目標35N),
ソーワイヤーの走行速度 800m/min.
被切断物の送り速度 10mm/H.
この試験では、芯材の特性比較の観点から、負荷張力20〜50Nの条件設定で、被切断物の切断所要時間と断線有無で評価した。本発明に関わる前記実施例材のソーワイヤーは、前記被切断物を12〜24時間程度で切断完了し、断線などもなく寿命的にも十分な特性を有することが確認された。これは、従来型のピアノ線によるソーワイヤーに並ぶものであった。一方、比較材のa,bではステンレス鋼線を用いているものの、前者比較材aでは繰り返し疲労による断線、また後者比較材bでは強度不足による切断時間の増大を伴い、いずれも前記実施材を超える特性は得られなかった。
また、これら切断作業後のソーワイヤについて、湿度30%の保管室内に1週間保管した後の表面観察をしたところ、本実施例材ソーワイヤーには特に腐食等の欠陥は認められなかったのに対し、特にピアノ線型ソーワイヤーでは面積率で10%程度の発銹が認められ、この点において本発明の有意性が確認された。
試験例5
《ネオジム合金用ソーワイヤー》
前記試験例1に用いた実施例材B,H及びKの各ステンレス鋼軟質線0.6mmについて、下地メッキとして厚さ2μmのNiメッキを施し、これらを冷間湿式伸線加工によって0.16mmに細径化し硬質細線を得た。その加工率は93%で平均表面粗さ0.08〜0.13μmを有するものであった。
この伸線加工状態の各硬質細線に対して、温度350〜550℃での低温焼き鈍し処理を、Ar雰囲気のストランド加熱装置によって加熱処理し、得られた各金属細線の引張強さの変化と、前記M値が比較的低い実施例材Hの前記弾性比率αの変化を図5に示す。
そして次に、この金属細線について、平均粒子径30μmのCBN砥粒を前記試験例3と同様にNiの電着メッキ液中に懸濁した電着処理によって、平均分布密度27,000〜29,000個/mで一様に固着したソーワイヤーを得た。
こうして得られたソーワイヤーの切断性能を評価する為、被切断物としてネオジム粉末合金の押出し焼結ブロック(成形寸法 10W×18T×60L:単位mm)を準備し、その10本(合計切断幅:100mm)を並列配置して市販のワイヤーソー装置にセットする一方、図6のようにソーワイヤーを切断ピッチ4mmに配線して切断試験を行った。その試験条件は次の通りである。なおこの切断試験での比較材としては、前記試験例4で用いた比較材a,bによるソーワイヤーを用いた。
負荷張力 35N設定
走行速度 800m/min.で20sec.毎に逆転往復走行
(但し、新線の繰出し量は10m/min.)
ワークの送り速度 25mm/h
この切断試験の結果を図4に示す。同図において、横軸は、所定の切断時間(分)であり、縦軸には単位時間当たりの切断量(深さmm)を示している。本発明に関わる各実施例材は、切断試験の立ち上がりの早期段階からほぼ安定し、かつ比較的優れた切断性能を有することが確認された。これに対して、比較材a,bのソーワイヤーでは、前記試験例4と同様に十分な切断性能は得られなかった。
また、本実施例材はいずれも前記低温焼き鈍し処理したもので、このソーワイヤーを自然状態で垂下した時の直線性は 20〜40mm/1mに優れたものであることから、その切断面の表面状態も例えば表面粗さ0.4μm程度で平滑かつ良好であった。
産業上の利用分野
本発明に係わるソーワイヤーの芯材用金属細線並びにその製造方法は、前記高C及びN添加したオーステナイト系ステンレス鋼線で、強度に優れ、かつマルテンサイト量を抑えるとともに、応力−歪特性を改良した高強度細線とするもので、これをソーワイヤーの芯材とすることで、被切断物に対して剛性を付与した切断が図れ、長寿命の特性をもたらすことができる。またその応用範囲も、ダイヤモンドやCBNの砥粒を採用できる他、被切断物として例えば、前記シリコンやサファイア、更には同様に硬質かつ高脆性材料である、ネオジウム合金等の希土類合金に対しても有効である。
1 ソーワイヤー
2 芯材
2A 芯材用金属細線
3 被覆材
4 砥粒
E1 弾性歪量
E0 破断全歪量

Claims (10)

  1. 表面に粒子状の切断砥粒を固着してなる砥粒固定型ソーワイヤーの芯材に用いる金属細線であって、
    該金属細線は、質量%で、
    C: 0.05〜0.15
    Si:≦2.0
    Mn:≦3.0
    Ni:6.0〜9.5
    Cr:16.0〜19.0、及び
    N:0.005〜0.25%を含み、2C+Nを0.17〜0.40%に調整され、残部Fe及び不可避不純物でなるオーステナイト系ステンレス鋼線で構成される長尺細線でなり、
    引張強さ(σ):2500〜3500MPaを備え、かつ
    その引張試験における応力−歪線図の弾性比例域の歪量(E1)と、その破断までの全歪量(E0)との弾性比率αが45%以上の特性を有することを特徴とする砥粒固定型ソーワイヤーの芯材用金属細線。
    但し、αは{(E1/E0)×100}によるものとする。
  2. 前記金属細線は、更に下記A,B,Cのいずれか1種以上の第三元素を含有するものであることを特徴とする請求項1に記載の前記ソーワイヤーの芯材用金属細線。
    A: Al、Nb、Ti、Ta、Zrのいずれか1種以上を各々0.01〜0.30%
    B: V:0.10〜0.5%
    C: Mo:0.2〜2.0%又はCu:0.15〜0.8%のいずれか1種以上
  3. 更に前記金属細線は、次式M値が5〜28%に調整されてなる請求項1又は2に記載の前記ソーワイヤーの芯材用金属細線。
    M=16C+2Mn+9Ni−3Cr+8Mo+15N
  4. 前記弾性比率αが、55〜80%である請求項1〜3のいずれかに記載の前記ソーワイヤーの芯材用金属細線。
  5. 前記金属細線は、その表面をCu又はNiの金属メッキ被覆材で覆われたものである請求項1〜4のいずれかに記載の前記ソーワイヤーの芯材用金属細線。
  6. 前記金属細線は、その線径の200倍を標点距離として該金属細線に弛みが生じない張力を付加した状態で、その一方端を捻り回転する捻り試験において、50〜80回の捻回特性を有するものである請求項4又は5に記載の前記ソーワイヤーの芯材用金属細線。
  7. 前記金属細線は、50/500mm以下の真直性を備えるものである、請求項1〜6のいずれかに記載の前記ソーワイヤーの芯材用金属細線。
  8. 表面に被覆材を介して粒子状の切断砥粒を固着した砥粒固定型ソーワイヤーの芯材に用いる金属細線の製造方法であって、
    ア) 質量%で、
    C: 0.05〜0.15
    Si:≦2.0
    Mn:≦3.0
    Ni:6.0〜10.0
    Cr:16.0〜19.0、
    N:0.005〜0.25%を含むとともに、2C+Nを0.17〜0.40%に調整され、残部Fe及び不可避不純物でなるオーステナイト系ステンレス鋼線を準備する準備段階と、
    イ)該鋼線を加工率85%以上で冷間伸線加工して長尺ステンレス鋼細線にする加工段階と、
    ウ)このステンレス鋼細線を、温度300〜600℃でかつ逆張力を付加しながら低温焼き鈍し処理して、引張強さ(σ):2500〜3500MPaで、かつその引張試験における応力−歪線図の弾性比例域の歪量(E1)と、その破断までの全歪量(E0)との弾性比率α{但し、(E1/E0)×100による}が45%以上の特性を持つ前記高強度の金属細線を得る熱処理段階を備えることを特徴とする、
    エ)ソーワイヤーの芯材用金属細線の製造方法。
  9. 前記ステンレス鋼は、更に下記A,B,Cのいずれか1種以上の第三元素を含有するものであることを特徴とする請求項8に記載の前記ソーワイヤーの芯材用金属細線の製造方法。
    A: Al、Nb、Ti、Ta、Zrのいずれか1種以上を各々0.01〜0.30%
    B: V:0.10〜0.5%
    C: Mo:0.2〜2.0%又はCu:0.15〜0.8%のいずれか1種以上
  10. 前記低温焼き鈍し処理は、該金属細線の0.2%耐力以下の前記逆張力を付加した状態で加熱処理するものである請求項8又は9に記載の前記ソーワイヤーの芯材用金属細線の製造方法。
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