JP6558255B2 - 高強度極細鋼線およびその製造方法 - Google Patents

高強度極細鋼線およびその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、タイヤ、ベルト、高圧ホース等、ゴム及び有機材料の補強用に使用されるスチールコードや、シリコンインゴットのスライス加工に使用されるソーワイヤなどの高強度極細鋼線およびその製造方法に関するものである。
近年、タイヤの軽量化、高性能化の要望に応えるために、スチールコードの高強度化が急速に進展し、引張強さで3000MPa以上の極細鋼線が主流になりつつある。また、タイヤ、ベルト、高圧ホース等の補強材に極細鋼線を使用する場合、通常、複数本の極細鋼線を高速で撚り合わせる撚り線加工が行われる。極細鋼線の引張強さが高くなると延性が低下し、伸線加工時だけでなく、撚り線加工時にも捻じりによる断線が発生しやすくなる。
極細鋼線は、熱間圧延ままの線材にパテンティングを施し、乾式伸線を行った後、パテンティングを施し、更に湿式伸線を行って製造される。パテンティングは、金属組織をパーライトに恒温変態させる熱処理である。パーライトは、フェライトとセメンタイトとが層状に交互に重なるラメラ組織であり、伸線加工に適している。なお、熱間圧延後、調整冷却を施して、金属組織をパーライトに恒温変態させることにより、パテンティングを省略することも可能である。
伸線加工の間に複数回のパテンティングを施す場合、製品の線径まで湿式伸線する直前に行うパテンティングは最終パテンティング、それ以前の乾式伸線後に施されるパテンティングは中間パテンティングと呼ばれる。最終パテンティングを行った後、湿式伸線に必要とされる潤滑性を確保するために、鋼線に銅めっきやブラス(黄銅)めっきが施される。ブラスめっき層は、鋼線に銅めっきと亜鉛めっきとを別々に施した後、拡散熱処理を施して形成されることが多い。
このように、極細鋼線の製造には、パテンティング及び拡散熱処理など、複数回の熱処理が行われている。しかし、これらの熱処理には、生産性の低下や、製造コストの上昇という問題がある。
そのため、熱間圧延後の線材の伸線加工性を向上させて、パテンティングの回数を減らしたり、熱処理を省略したりする技術が提案されている(例えば、特許文献1〜3、参照)。これらの技術は、初析フェライト、初析セメンタイト、ベイナイトなどの非パーライト組織の生成を制限し、パーライトブロックやパーライトコロニーを微細化し、伸線加工による断線や、撚り線加工時の縦割れの発生を防止するものである。
また、環境への配慮からシアン浴を用いたブラスめっきを避け、かつ、拡散熱処理を省略するため、湿式伸線前の鋼線に銅めっき及び亜鉛めっきを施した後、そのまま伸線加工する方法が提案されている(例えば、特許文献4、参照)。特許文献4の方法は、鋼線に、銅めっき及び亜鉛めっきを交互に2回以上繰り返して施し、伸線加工時の加工熱及び圧力によって銅と亜鉛とを拡散させるものである。
近年では、シアン化合物を含まない非シアン浴を用いて電気めっきを行う、ブラスめっき方法が開発されつつある。伸線加工及び拡散熱処理による表面への酸化皮膜の形成を避け、ゴムとの接着性を向上させるため、一次めっき後、伸線加工を行い、非シアン浴を用いて合金めっきを施す方法が提案されている(例えば、特許文献5、参照)。特許文献5の合金めっきを施す方法では、銅塩、亜鉛塩及びピロりん酸アルカリ金属塩からなる非シアン浴や、ピロりん酸銅、ピロりん酸亜鉛、ピロりん酸アルカリ金属塩からなる非シアン浴などを用いる。
特開2001−181789号公報 特開2010−202913号公報 特開2010−202920号公報 特開昭58−61297号公報 特開2012−36543号公報
極細鋼線の強度は、最終パテンティング後の湿式伸線の加工歪み(真歪)、即ち、湿式伸線の前後の線径によって調整される。特許文献4の方法では加工歪みが小さく、現在、要求される高強度には達しないと考えられる。また、特許文献5には、湿式伸線の前後の線径が記載されていないので、極細鋼線の強度は不明である。
このように、従来技術では、伸線加工後の線径が0.18〜0.45mmである極細鋼線の引張強さを3000MPa以上とし、かつ、十分な延性を確保することはできなかった。
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、線径が0.18〜0.45mm、引張強さが3000MPa以上で、かつ優れた延性を有し、更にはゴムとの接着性にも優れた高強度極細鋼線およびその製造方法を提供することを課題とするものである。
本発明者らは、極細鋼線を撚り線加工する際に、個々の極細鋼線の表面に作用する周方向の偏応力によって、断線が発生することを見出した。そして、母材の表面に、Cuめっき層とブラスめっき層とがこの順に配置され、ブラスめっき層の内部にCuめっき層が不均一に食い込んでいるめっき層であって、母材の内部に向かって不均一に食い込んだ陥入部を有するめっき層を備えた極細鋼線とすることで、撚り線加工時の断線を防止できるという知見を得た。
これは、ブラスめっき層の内部にCuめっき層が不均一に食い込んでいるめっき層であって、母材の内部に向かって不均一に食い込んだ陥入部を有するめっき層が、撚り線加工時に、極細鋼線の母材に作用する偏応力を緩和させる応力緩和性を発現することによるものと推定される。更に、このめっき層は、撚り線加工に対する抵抗(流動抵抗)が小さいため、撚り線加工時に、極細鋼線の母材に作用する応力の集中を抑制する。これらのことにより、断線の頻度を低減できることがわかった。
また、このようなめっき層を有する極細鋼線は、表面にCuめっき層とブラスめっき層とが形成された線材を伸線加工することにより製造できる。表面にCuめっき層とブラスめっき層とが形成された線材は、伸線加工におけるダイスとの摩擦抵抗が極めて低いものである。このため、伸線加工中の加工発熱が小さく、極細鋼線の母材の表層におけるセメンタイトの分解が抑制される。その結果、時効硬化が抑制され、延性劣化の少ない極細鋼線となる。
更に、めっき層がブラスめっき層とCuめっき層とを有しているため、例えば、極細鋼線の外面にゴム部材が配置される場合に、めっき層中のCuめっき層が、極細鋼線とゴム部材との密着性を高めるCuの供給源となる。しかも、ブラスめっき層の内部に向かってCuめっき層が不均一に食い込んでいるので、Cuめっき層およびブラスめっき層の厚みが均一である場合と比較して、Cuめっき層とブラスめっき層との接触面積が広い。このため、Cuめっき層からブラスめっき層へのCu元素の供給が生じやすく、極細鋼線の外面とタイヤなどのゴム部材との接着性の劣化を抑制できる。
更に、本発明者らは、鋭意研究を重ね、母材が特定の成分組成および組織を有するものである場合に、線径が0.18〜0.45mmであり、引張強さ3000MPa以上であって、しかも撚り線加工時の断線を防止できる高強度極細鋼線を実現できることを見出し、本発明を想到した。
本発明は、このような知見に基づいてなされたものであり、その要旨は以下のとおりである。
[1]母材と、前記母材の表面に形成されためっき層とを有し、線径が0.18〜0.45mmであり、引張強さが3000MPa以上である高強度極細鋼線であって、
前記母材は、質量%で、
C:0.60%〜0.80%、
Si:0.05〜0.35%、
Mn:0.20〜0.90%
を含有し、残部はFeおよび不純物からなり、
金属組織は、面積率で85.0%以上がパーライトであり、伸線方向に垂直な断面における前記母材表面から深さ方向に20μmまでの領域に存在するパーライトコロニー粒界の湾曲の曲率半径が5.0〜10.0μm、パーライトコロニーの幅が0.2〜1.5μmであり、
前記めっき層は、前記母材表面に形成されたCu含有量が90質量%以上であるCuめっき層と、前記Cuめっき層の外側に形成されたCuとZnとの比率(Cu含有量(質量%)/Zn含有量(質量%))が1.2〜2.3であるブラスめっき層とを有し、
前記めっき層と前記母材との界面である第1界面は、前記高強度極細鋼線の外面形状に沿って延在する第1平坦部と、前記第1平坦部から前記母材の内部に向かって陥入している第1陥入部とを有し、
前記Cuめっき層と前記ブラスめっき層との界面である第2界面は、前記第1界面の形状に沿って延在する第2平坦部と、前記第2平坦部から前記ブラスめっき層の内部に向かって陥入して形成されている第2陥入部とを有することを特徴とする高強度極細鋼線。
[2] 前記母材が、更に、質量%で、
Cr:0.01〜1.00%、
を含有することを特徴とする上記[1]に記載の高強度極細鋼線。
[3] 前記母材が、更に、質量%で、
Nb:0.010〜0.200%、
V :0.01〜0.50%、
Mo:0.01〜0.50%、
B :0.0004〜0.0030%
Al:0.002〜0.100%、
Ti:0.002〜0.100%
の1種又は2種以上を含有することを特徴とする上記[1]又は[2]に記載の高強度極細鋼線。
[4][1]〜[3]のいずれかに記載の成分組成からなり、面積率で85.0%以上がパーライトであり、パーライトブロックのサイズが10〜30μmであり、線径が2.5〜4.5mmである熱間圧延線材を製造する工程と、
前記熱間圧延線材上にCuめっき層を形成するCuめっき工程と、
前記Cuめっき工程後の前記熱間圧延線材上にブラスめっき層を形成するブラスめっき工程と、
前記ブラスめっき工程後の前記熱間圧延線材を、加工発熱を抑制しながら伸線加工することにより、線径0.18〜0.45mmとする伸線加工工程とを有することを特徴とする[1]〜[3]のいずれかに記載の高強度極細鋼線の製造方法。
本発明の高強度極細鋼線およびその製造方法によれば、線径が0.18〜0.45mmであり、引張強さが3000MPa以上である高強度極細鋼線を提供できる。しかも、本発明の高強度極細鋼線は、優れた延性を有するものであるため、撚り線加工を行う場合に断線を防止できる。また、本発明によれば、タイヤなどのゴムとの優れた接着性が長期にわたって得られる高強度極細鋼線を提供できる。
本発明の高強度極細鋼線の一例を示した斜視図である。 図2は、図1に示す高強度極細鋼線の伸線方向に垂直な断面におけるめっき層を拡大して示した模式図である。 図1に示す高強度極細鋼線の伸線方向に垂直な断面を示した模式図である。 図1に示す高強度極細鋼線の一部を拡大して示した模式図であり、伸線加工前の熱間圧延線材中のパーライトブロック1つ分に相当する部分の模式図である。 図5(a)は、伸線加工によって変形した複数のパーライトコロニー3、3の側面図である。また、図5(b)および図5(c)は、図4に示す複数のパーライトコロニー3のうちの一つを拡大して示した模式図である。図5(b)は、パーライトコロニー3の側面図である。図5(c)は、図5(b)に示すパーライトコロニー3の伸線方向に垂直な断面であり、図5(b)に示したA−A´線に対応する断面図である。 本発明の高強度極細鋼線の製造方法において用いる熱間圧延線材の一例に含まれるパーライトブロックを示した模式図である。
「高強度極細鋼線」
本発明者らは、まず、熱間圧延線材に、非シアン浴を用いた湿式電解プロセスによりブラスめっきを施し、拡散熱処理を行わずに、0.18〜0.45mmの最終線径まで伸線加工することが可能か否か、検討を行った。
その結果、熱間圧延線材にCuめっきを施した後、ブラスめっきを施すことにより、優れた延性が得られ、伸線加工が可能になることがわかった。さらに、熱間圧延線材として、特定の成分組成を有し、線径が2.5〜4.5mmであり、パーライトの面積率が85.0%以上、パーライトブロックのサイズが10〜30μmの熱間圧延線材を使用し、加工発熱を抑制しながら伸線加工を行うことにより、伸線加工により断線することなく、強度が3000MPa以上の極細鋼線を得ることが可能であるという知見を得た。
極細鋼線の製造時に行う伸線加工においては、母材となる熱間圧延線材上にCuめっき層とブラスめっき層とが形成されているので、熱間圧延線材とブラスめっき層との間に存在する軟質のCuめっき層による応力緩和性によって、優れた伸線加工性が得られる。また、本実施形態では、加工発熱を抑制しながら伸線加工を行うので、Cuめっき層とブラスめっき層との合金化が抑制される。したがって、伸線加工後に得られた極細鋼線においても、Cuめっき層とブラスめっき層とは分離された状態となっており、その界面は明確である。また、加工発熱を抑制しながら伸線加工を行うことにより、加工硬化していない軟質のめっき層が得られる。
本実施形態において伸線加工される熱間圧延線材上には、Cuめっき層、ブラスめっき層の順に、それぞれ略一定の厚みで形成されてなる2層構造のめっき層が形成されている。伸線加工を行う際には、2層構造のめっき層を有する熱間圧延線材の外面は、超硬工具製のダイスで完全な円錐形状に拘束されつつ摺動される。このことにより、2層構造のめっき層を形成していたCuめっき層は、ブラスめっき層の内部に向かって不均一に食い込みつつ長手方向に伸長する。また、めっき層(Cuめっき層およびブラスめっき層)は、母材となる熱間圧延線材の内部に向かって不均一に食い込みつつ長手方向に伸長する。また、伸線加工された極細鋼線の外面は、滑らかな円形形状とされる。
したがって、伸線加工後に得られた極細鋼線は、めっき層と母材との界面である第1界面が、高強度極細鋼線の外面形状に沿って延在する第1平坦部と、第1平坦部から前記母材の内部に向かって陥入している第1陥入部とを有し、Cuめっき層とブラスめっき層との界面である第2界面が、第1界面の形状に沿って延在する第2平坦部と、第2平坦部からブラスめっき層の内部に向かって陥入して形成されている第2陥入部とを有するものとなる。このような極細鋼線では、軟質なCuめっき層が、Cuめっき層よりも硬質なブラスめっき層に食い込んだ複雑な形状となっており、複雑な形状を有するCuめっき層とブラスめっき層とからなるめっき層も、めっき層よりも硬質な母材に食い込んだ複雑な形状となっている。したがって、極細鋼線の表面には、硬さの異なるCuめっき層と、ブラスめっき層と、母材とが、厚み方向および面方向に互いに複雑に入り込んだ構造が形成されている。
このような極細鋼線では、撚り線加工時に、硬さの異なる各層(Cuめっき層、ブラスめっき層、母材)が互いに複雑に入り込んでいる構造によって、極細鋼線の表面に作用する周方向の偏応力が効率よく吸収される。したがって、母材に作用する応力が抑制されるとともに応力集中が緩和される。その結果、優れた耐撚り線加工性が得られる。
これに対し、例えば、母材上に、均一な厚みを有するCuめっき層とブラスめっき層とを形成した場合、撚り線加工時に、Cuめっき層とブラスめっき層とが母材上で独立して応力を吸収するのみであり、撚り線加工に伴う周方向の偏応力を緩和する作用は十分に得られない。
なお、伸線加工に伴うCuめっき層、ブラスめっき層、母材の変形は、ダイス内部の十分に高い静水圧的な応力状態によって生じる。したがって、上記の各部材は、材質によって決定される各部材の硬さに関わらずに塑性変形する。このため、伸線加工を行うことにより、上述したように、Cuめっき層がCuよりも硬いブラスめっき層に食い込み、母材を形成している鋼よりもはるかに柔らかいめっき層(Cuめっき層およびブラスめっき層)が母材に食い込む。また、本実施形態では、伸線加工に伴うCuめっき層およびブラスめっき層の変形によって、母材とブラスめっき層とが直接接触する領域が形成されたり、母材上にCuめっき層とブラスめっき層のうち一方が存在しない部分が領域されたりする場合がある。
また、本実施形態の極細鋼線の有するCuめっき層は、極細鋼線の表面に存在するブラスめっき層へのCuの供給源となる。本実施形態の極細鋼線では、伸線加工時の変形によって、Cuめっき層とブラスめっき層との界面である第2界面が、第1界面の形状に沿って延在する第2平坦部と、第2平坦部からブラスめっき層の内部に向かって陥入して形成されている第2陥入部とを有している。このため、Cuめっき層およびブラスめっき層の厚みが均一である場合と比較して、Cuめっき層とブラスめっき層との接触面積が広いものであり、Cuめっき層からブラスめっき層へのCu元素の供給が生じやすいものとなっている。したがって、例えば、本実施形態の極細鋼線をタイヤの補強用に使用した場合、Cuめっき層からブラスめっき層に供給されたCu元素が、極細鋼線の表面でのCu元素とタイヤを形成しているゴム中のS元素との反応に寄与すると考えられる。
また、伸線加工に伴うCuめっき層およびブラスめっき層の変形によって、極細鋼線の外面上にCuめっき層が露出している場合には、Cuめっき層中のCu元素が、極細鋼線の表面でのCu元素とタイヤを形成しているゴム中のS元素との反応に寄与すると考えられる。その結果、本実施形態の極細鋼線では、長期にわたって優れたゴム接着性が得られるものと考えられる。
また、極細鋼線の母材の表層近傍は、極細鋼線を製造するための伸線加工によって導入される歪の影響を受け易い部位である。このため、本発明者らは、極細鋼線の強度および延性と、母材の結晶方位との関係の明確化を試みた。
その結果、極細鋼線において優れた強度および延性を得るには、極細鋼線の母材を、伸線方向に垂直な断面における母材表面から深さ方向に20μmまでの領域に存在するパーライトコロニー粒界の湾曲の曲率半径が5.0〜10.0μm、パーライトコロニーの幅が0.2〜1.5μmであるものとする必要があることが分かった。
図1は、本発明の高強度極細鋼線の一例を示した斜視図である。図1に示す高強度極細鋼線10は、母材1と、母材1の表面1aに形成されためっき層2とを有している。
図2は、図1に示す高強度極細鋼線10の伸線方向に垂直な断面11におけるめっき層2を拡大して示した模式図である。図2に示すように、めっき層2は、ブラスめっき層2aとCuめっき層2bとを有している。
本実施形態の極細鋼線10の有するめっき層2においては、Zn含有量が20%以上の領域をブラスめっき層2aと定義し、Cu含有量が90%以上の領域をCuめっき層2bと定義する。この場合、ブラスめっき層2aはCuとZnとの比率(Cu含有量(質量%)/Zn含有量(質量%)、以下「Cu/Zn」と略記する場合がある)が1.2〜2.3であるものとなる。
図2に示すように、Cuめっき層2bおよびブラスめっき層2aの厚みは不均一となっており、Cuめっき層2bとブラスめっき層2aとの界面は、曲線となっている。また、Cuめっき層2bとブラスめっき層2aとは分離された状態となっており、その境界は明確である。
図2に示すように、めっき層2と母材1との界面(母材1の表面1a)である第1界面は、第1平坦部1bと第1陥入部1cとを有している。第1平坦部1bは、極細鋼線10の外面6の形状に沿って延在している。また、第1陥入部1cは、第1平坦部1bから母材1の内部に向かって陥入している(図2においては2箇所)。
また、図2に示すように、Cuめっき層2bとブラスめっき層2aとの界面である第2界面21aは、第2平坦部21bと第2陥入部21cとを有している。第2平坦部21bは、第1界面の形状に沿って延在している。第2陥入部21cは、第2平坦部21bからブラスめっき層2aの内部に向かって陥入して形成されている。
Cuめっき層2bの厚みは、相対的にブラスめっき層2aよりも薄いものとなっている。本実施形態においては、母材1上に、伸線加工時のCuめっき層の変形によって、部分的にCuめっき層2bの存在しない領域が存在していても許容される。母材1上におけるCuめっき層2bの形成されている領域の面積率は、20%以上であることが好ましい。上記の面積率は、耐撚り線断線性を向上させるためには高いほど好ましい。
図2に示すように、Cuめっき層2bは、ブラスめっき層2aと極細鋼線10の母材1の表面1aとの間に存在している。ブラスめっき層2aと極細鋼線10の母材1の表面1aとの間に、全くCuめっき層2bが存在していない場合には、極細鋼線10の耐撚り線断線性が不十分となり、デラミネーションが発生する。
なお、本実施形態では、極細鋼線10の母材1の表面1a上にCuめっき層2bが存在していて、Cuめっき層2b上にブラスめっき層2aが存在していない領域(めっき層2の表面にCuめっき層2bが露出している領域)は、ブラスめっき層2aと母材1の表面1aとの間にCuめっき層2bが存在している領域と見なす。
ブラスめっき層2aと母材1の表面1aとの間に、Cuめっき層が形成されていたとしても、Cuめっき層2bのCu含有量が90%未満である場合には、Cuめっき層2bを有することによる応力緩和性が不足する。このため、十分に高い耐撚り線断線性を得ることができず、極細鋼線10におけるデラミネーションの発生を十分に防止できない。
Cuめっき層2bのCu含有量は、90%以上であり、Cuめっき層2bによる応力緩和性をより向上させるために、92%以上であることが好ましい。Cuめっき層2bのCu含有量は、経済性の観点から95%以下であることがより好ましい。
また、Cuめっき層2bは、ブラスめっき層2aへのCuの供給源となる。タイヤでは、タイヤに埋め込まれた極細鋼線(スチールコード)のブラスめっき層に含まれるCuと、タイヤのゴムに含まれるSとが反応して、接着性が得られる。しかし、タイヤの使用中にCu元素がゴム中に拡散するため、接着性が次第に劣化する。本実施形態においては、Cuめっき層2bがブラスめっき層2aへのCuの供給源となるため、めっき層2を有する極細鋼線10では、長期にわたって優れたゴム接着性が維持される。
Cuめっき層2bのCu含有率が100%でない場合、Cuめっき層2bはCuの他に、Zn、Feを含むものとすることができ、CuとZnと不可避的不純物からなるものであることが好ましい。Cuめっき層2bがZnを含むものである場合、Cuめっき層2b中のZnは、極細鋼線10を製造するための伸線加工時に、ブラスめっき層から供給されたものであってもよい。
母材1の表面1a上におけるCuめっき層2bの面積割合は、特に限定されるものではないが、20%以上が望ましい。より好ましくは30%以上である。
Cuめっき層2bの面積率は、伸線加工前に行われるCuめっき工程におけるCuめっきの電流密度、処理時間などで制御可能である。
図2に示すように、めっき層2は、ブラスめっき層2aを有している。本実施形態においては、母材1上に、伸線加工時のブラスめっき層の変形によって、部分的にブラスめっき層2aの存在しない領域が存在していてもよい。
母材1上におけるブラスめっき層2aの形成されている領域の面積率は、80%以上であることが好ましい。上記の面積率は、伸線加工時の潤滑性と、極細鋼線10のゴム接着性とを向上させるために高いほど好ましく、母材1上の全面にブラスめっき層2aが形成されていることが最も好ましい。
ブラスめっき層2aはZnとCuの他に、Feを含むものとすることができ、CuとZnと不可避的不純物からなるものであることが好ましい。
本実施形態において、ブラスめっき層2aのCuとZnとの比率(Cu/Zn)は1.2〜2.3の範囲である。上記比率(Cu/Zn)は、1.5以上であることが好ましい。また、上記比率(Cu/Zn)は、2.0以下であることが好ましい。
ブラスめっき層2aのCuとZnとの比率(Cu/Zn)が1.2未満であると、相対的にブラスめっき層2a中のCu含有量が少ないものとなり、ブラスめっき層2aが硬くなる。このため、伸線加工中にめっき層が母材1の表面1aから剥離しやすくなり、ブラスめっき層2aによるゴム接着性を向上させる効果が十分に得られない。また、母材1の表面1aからめっき層が剥離すると、撚り線加工時に断線が発生し易くなる。
また、ブラスめっき層2aのCuとZnとの比率(Cu/Zn)が2.3を超えると、ブラスめっき層2a中のCu含有量が過剰となり、ブラスめっき層2aが軟らかくなる。このため、ブラスめっき層2aと母材1との硬さの差が大きくなり、伸線加工中にめっき層が母材1の表面1aから剥離しやすくなる。また、CuとZnとの比率(Cu/Zn)が2.3を超えると、ブラスめっき層2a中のCu含有量が過剰になるため、ブラスめっき層2aに接したゴムの表面が脆くなって、極細鋼線10のゴム接着性が劣化する。
また、ブラスめっき層2aの平均厚さは、特に限定されるものではないが、伸線加工時の鋼線の潤滑性と、極細鋼線10のゴム接着性とをより向上させるために、0.2μm以上であることが好ましく、0.5μm以上であることがより好ましい。また、ブラスめっき層2aの平均厚さは、母材1の表面1aからの剥離を防止するために、4μm以下とすることが好ましく、より好ましくは1μm以下である。
ブラスめっき層2aの厚さ及び組成は、伸線加工前に行われるブラスめっき工程において使用されるめっき浴のCuの含有量及びZnの含有量、電流密度、処理時間などによって制御可能である。
図1に示す母材1の金属組織は、面積率で85.0%以上がパーライトであり、複数のパーライトコロニーが存在している。図1に示す母材1の伸線方向に垂直な断面11における母材1の表面1aから深さ方向に20μmまでの領域21(図3参照)には、複数のパーライトコロニーが存在している。
図4は、図1に示す極細鋼線10における母材1の表面1aから深さ方向に20μmまでの領域21(図3参照)の一部を拡大して示した模式図であり、伸線加工前の熱間圧延線材中のパーライトブロック1つ分に相当する部分31の模式図である。図4に示す部分31には、伸線加工によって変形した複数のパーライトコロニー3、3が存在している。図5(a)は、伸線加工によって変形した複数のパーライトコロニー3、3の側面図である。また、図5(b)および図5(c)は、図4に示す複数のパーライトコロニー3のうちの一つを拡大して示した模式図である。図5(b)は、パーライトコロニー3の側面図である。図5(c)は、図5(b)に示すパーライトコロニー3の伸線方向に垂直な断面であり、図5(b)に示したA−A´線に対応する断面図である。図5(c)に示すように、母材1の伸線方向に垂直な断面11の領域21に存在するパーライトコロニー3は湾曲している。
図4および図5(a)〜(c)に示す湾曲しているパーライトコロニー3の粒界3aの湾曲の曲率半径及びパーライトコロニー3の幅3bは、極細鋼線10を製造する際の伸線加工度に対応して変化する。すなわち、伸線加工の真歪が大きくなるほど、パーライトコロニー3の粒界3aの湾曲の曲率半径は小さくなり、パーライトコロニー3の幅3bは細くなる。パーライトコロニー3、3は、伸線加工によって、互いに幾何学的に拘束しつつ塑性変形し、図5(a)および図5(b)に示すように、長さ方向中心部が太く、両端部が尖っている略紡錘型の形状を有し、図5(b)および図5(c)に示すように、断面視外側に向かって厚みが薄くなる形状となっている。
パーライトコロニー3の粒界3aの湾曲の曲率半径とは、図5(c)に示すように、パーライトコロニー3の伸線方向に垂直な断面において、厚み中心線3cの全長Lを5分割したとき、外側に存在する2箇所の分割位置における曲率半径の平均値を意味する。
パーライトコロニー3の幅3bは、パーライトコロニー3の長さ方向略中心部の伸線方向に垂直な断面において、図5(c)に示す厚み中心線3cの全長Lを5分割したとき、外側に存在する2箇所の分割位置における厚み平均を意味する。パーライトコロニー3の粒界3aの幅3bを、パーライトコロニー3の長さ方向略中心部で測定する理由は、紡錘型のパーライトコロニー3の幅3bがパーライトコロニー3の長さ方向の位置で変動するためである。
図1に示す極細鋼線10は、図4および図5(a)〜(c)に示すパーライトコロニー3の粒界3aの湾曲の曲率半径が5.0〜10.0μmであり、パーライトコロニー3の幅3bが0.2〜1.5μmであるものである。
極細鋼線10の延性をより一層向上させるためには、上記の曲率半径は6.0μm以上であることが好ましく、パーライトコロニー3の幅3bは0.4μm以上であることが好ましい。極細鋼線10を製造する際の伸線加工の真歪が過剰に大きくなると、上記の曲率半径が5.0μm未満になる、及び/又は、パーライトコロニー3の幅3bが0.2μm未満になる。その結果、極細鋼線10の延性が低下して、極細鋼線10を撚り線加工する際にデラミネーションが発生し易くなる。
線径が0.18〜0.45mmであり、強度が3000MPa以上である本実施形態の極細鋼線10では、パーライトコロニー3の粒界3aの湾曲の曲率半径が10.0μm以下で、かつパーライトコロニー3の幅3bが1.5μm以下になっている。引張強度が3500MPa以上の極細鋼線を得るためには、極細鋼線10を製造する際の伸線加工の真歪を大きくして、上記の曲率半径を7.5μm以下とし、かつ、パーライトコロニー3の幅3bを1.0μm以下としてもよい。極細鋼線10を製造する際の伸線加工の真歪が不十分であると、上記の曲率半径が10.0μm超える、及び/又は、パーライトコロニー3の幅3bが1.5μm超えになり、極細鋼線10の強度が低下する。
本実施形態の極細鋼線10の母材1における金属組織は、面積率で85.0%以上がパーライトである。母材1のパーライト面積率は、伸線加工前の素材である熱間圧延線材のパーライト面積率と同等である。即ち、熱間圧延線材に存在する非パーライト組織の割合は、伸線加工によって変化しない。非パーライト組織とパーライトとでは、伸線加工による塑性加工挙動が異なる。そのため、伸線加工時に非パーライト組織とパーライトとの界面に歪が集中し、破壊の起点となるボイドが形成される場合がある。極細鋼線10の母材1の非パーライト組織が多い場合は、伸線加工前の素材である熱間圧延線材の非パーライト組織も多いので、伸線加工時に欠陥が発生し易くなる。
本実施形態の極細鋼線10では、母材1のパーライトの面積率が85.0%以上であり、素材である熱間圧延線材の伸線加工性が優れている。したがって、極細鋼線10は、製造する際の伸線加工時における欠陥の発生が抑制されたものとなり、耐撚り線断線性が良好となる。母材1のパーライトの面積率は、より一層極細鋼線10の耐撚り線断線性を向上させるために、95.0%以上であることが好ましく、100%であることがより好ましい。
「母材の成分組成」
次に、極細鋼線の母材の成分組成について説明する。なお、成分組成の含有量の「%」は「質量%」を意味する。なお、残部はFeおよび不純物である。
C:0.60〜0.80%
Cは、鋼線のパーライトの面積率を高め、優れた伸線加工性及び高強度を得るために必要な元素である。極細鋼線では、主に、伸線加工によってラメラ間隔(フェライトの幅)を微細にし、強度を高める。しかし、C含有量が0.60%未満であると、非パーライト組織が増加したり、強度を高めるために伸線加工における加工度を高めたりする必要が生じる。このため、伸線加工によって、延性を損なわずに安定して十分な引張強さを得ることが難しくなる。したがって、極細鋼線の強度と延性を確保するために、C含有量の下限は0.60%以上とし、0.62%以上であることが好ましい。一方、C含有量が0.80%を超えると、強度が高くなり過ぎて、延性を確保することが難しくなる。このため、C含有量の上限を0.80%以下とし、0.75%以下とすることが好ましい。
Si:0.05〜0.35%
Siは、脱酸元素であり、パーライト中のフェライトの強化にも寄与する。この効果を得るには、0.05%以上のSiを添加することが必要であり、0.15%以上含有することが好ましい。一方、0.35%を超えるSiを添加しても上記効果が飽和するため、Si量の上限を0.35%以下とし、0.30%以下とすることが好ましい。
Mn:0.20〜0.90%
Mnは、Siと同様に脱酸に用いられる元素であり、また、焼入性を向上させて、非パーライト組織である初析フェライトの生成の抑制にも寄与する。この効果を得るには、0.25%以上のMnを添加することが必要であり、0.30%以上含有することが好ましい。一方、Mn含有量が0.9%を超えると、Mn偏析が生じ、非パーライト組織であるベイナイトなど硬質な相が過剰に生成する。そのため、過剰なMnの含有は、伸線加工中の破断の発生や、極細鋼線の延性の劣化の原因にもなる。したがって、Mn含有量の上限を0.90%以下とし、0.85%以下とすることが好ましい。
不純物であるPとSは特に規定しないが、延性を確保する観点から、各々0.02%以下とすることが望ましい。
更に、伸線加工性、強度、延性等を向上させるために、Crを含有させてもよい。
Cr:0.01〜1.00%
Crは、パーライトのラメラ間隔を微細化し、引張強さや伸線加工性の向上に寄与する元素である。この効果を得るためには、0.01%以上のCrを添加することが好ましく、0.02%以上含有することがより好ましい。一方、Crを過剰に添加すると、パーライト変態が遅延することがあるため、Cr含有量の上限を1.00%以下とすることが好ましく、0.50%以下とすることがより好ましい。
更に、伸線加工性、強度、延性等の向上を目的として、以下の元素を選択的に1種又は2種以上含有させてもよい。
Nb:0.010〜0.200%
Nbは、鋼中のCと結合して炭化物を形成し、結晶粒径を細粒化させる元素である。伸線加工性を高めるには、0.010%以上のNbを添加することが好ましく、0.02%以上含有することがより好ましい。一方、Nbを過剰に添加すると、粗大なNbCなどの炭化物が生成して、伸線加工性を損なう場合があるため、Nb含有量の上限を0.200%以下にすることが好ましく、0.18%以下とすることがより好ましい。
V:0.01〜0.50%
Vは、Nbと同様、結晶粒径の細粒化に寄与する元素である。伸線加工性を高めるには、0.01%以上のVを添加することが好ましく、0.02%以上含有することがより好ましい。一方、Vを過剰に添加すると、粗大なVなどの炭化物が生成して、伸線加工性を損なう場合がある。したがって、V含有量の上限を0.50%以下にすることが好ましく、0.45%以下とすることがより好ましい。
Mo:0.01〜0.50%
Moは、焼入性を高めて、非パーライト組織である初析フェライトの生成の抑制に寄与する元素である。この効果を得るには、0.01%以上のMoを添加することが好ましく、0.02%以上含有することがより好ましい。一方、Moを過剰に添加すると、非パーライト組織であるベイナイトが生成し、伸線加工性を損なう場合がある。したがって、Mo含有量の上限を0.50%以下とすることが好ましく、0.45%以下とすることがより好ましい。
B:0.0004〜0.0030%
Bは、微量の添加で焼入れ性の向上に寄与する元素である。非パーライト組織である初析フェライトの生成を抑制するには、0.0004%以上のBを添加することが好ましく、0.0005%以上含有することがより好ましい。一方、Bを過剰に添加すると、粗大なFe(CB)などの炭化物を生成し、延性を損なう場合がある。したがって、B量の上限を0.0030%以下にすることが好ましく、0.0025%以下とすることがより好ましい。
Al:0.002〜0.100%
Ti:0.002〜0.100%
Al、Tiは、結晶粒径を微細化させるために、一方又は両方を、0.002%以上添加することが好ましく、0.003%以上含有することがより好ましい。一方、これらを過剰に添加すると、粗大な酸化物や窒化物を生成し、延性を損なう場合がある。したがって、Al、Tiの一方又は両方の含有量の上限は、0.100%以下が好ましく、より好ましくは0.05%以下とする。
本発明の高強度極細鋼線の線径は0.18〜0.45mmであり、上記範囲内で用途に応じて適宜決定できる。極細鋼線の線径は、0.18mm未満になると、伸線加工の減面率が大きくなりすぎ、延性が損なわれる場合がある。このため、極細鋼線の線径は、0.18mm以上とし、好ましくは0.20mm以上とする。一方、極細鋼線の線径が0.45mmを超えると、伸線加工の減面率が不足し、強度が低下する。このため、極細鋼線の線径は0.45mm以下とし、好ましくは0.38mm以下とする。
「製造方法」
本発明の高強度極細鋼線は、例えば、以下に示す製造方法を用いて製造できる。
まず、上記のいずれかの母材の成分組成からなり、面積率で85.0%以上がパーライトであり、図6に示すパーライトブロック4のサイズが10〜30μmであり、線径が2.5〜4.5mmである熱間圧延線材を製造する。熱間圧延線材は、高強度極細鋼線10の素材として用いるものである。
素材となる熱間圧延線材は、例えば、鋼片を1000〜1100℃に加熱し、最終の線径が2.5〜4.5mm、好ましくは3.0〜3.6mmになるように熱間圧延を行って製造することが好ましい。熱間圧延の仕上温度は900℃〜1100℃が、最終の圧延速度は60〜100m/sが、それぞれ好ましい範囲である。
熱間圧延後は、パテンティングを行ってもよいし、調整冷却を施すことにより、パテンティングを省略してもよい。パテンティングを省略することで、生産性が向上する。パテンティングまたは調整冷却を行うことにより、金属組織をパーライトに恒温変態させることができる。調整冷却としては、例えば、塩を約550℃近傍で加熱して液体化し、その中に熱間圧延線材を通すソルト浴冷却、ミストを含有した空気または泡などが挙げられる。
このような条件で製造された熱間圧延線材は、パーライトの面積率が85.0%以上、パーライトブロック4のサイズが10〜30μmとなる。
素材となる熱間圧延線材の線径は、4.5mmを超えると、0.18〜0.45mmの極細鋼線を得るための伸線加工の減面率が大きくなりすぎ、伸線後の極細鋼線の延性が損なわれる場合がある。したがって、熱間圧延線材の線径は4.5mm以下が好ましく、より好ましくは4.0mm以下とする。一方、熱間圧延線材の線径が2.5mm未満であると、伸線加工の減面率が不足し、極細鋼線の強度が低下する場合がある。したがって、熱間圧延線材の線径は2.5mm以上が好ましく、より好ましくは3.0mm以上とする。
素材となる熱間圧延線材のパーライトブロック4のサイズが小さくなると、伸線加工性に有害な非パーライト組織が増加する場合がある。このため、パーライトブロック4のサイズは10μm以上とし、好ましくは15μm以上とする。また、熱間圧延線材のパーライトブロック4のサイズが大きくなると、伸線加工の初期にクラックが発生し、極細鋼線の延性を損なう場合がある。このため、パーライトブロック4のサイズは30μm以下とし、好ましくは25μm以下とする。
次に、必要に応じて、熱間圧延線材の表面の酸化スケールを酸洗により除去する。
その後、熱間圧延線材上に、例えば、湿式電解プロセスにより、電気Cuめっきを施すことによりCuめっき層を形成する(Cuめっき工程)。
Cuめっき工程において形成されたCuめっき層2bのCu含有率は、90%以上である。Cuめっき層のCu含有率は、後述する伸線加工後に、Cu含有率が90%以上のCuめっき層2bを有するめっき層2を形成できればよく、100%であってもよい。
更に、Cuめっき工程後の熱間圧延線材上に、電気ブラスめっきを施すことによりブラスめっき層を形成する(ブラスめっき工程)。ブラスめっき工においては、めっき浴としてCuとZnとを含むものを用いることができ、特に限定されないが、シアン化合物を含まない非シアン浴を用いることが好ましい。ブラスめっき工程において形成されたブラスめっき層2aのCuとZnとの比率は、後述する伸線加工後のブラスめっき層2aにおけるCuとZnとの比率が1.2〜2.3となる範囲であればよい。
本実施形態においては、ブラスめっき工程後、拡散熱処理を行わず、加工発熱を抑制しながら、熱間圧延線材を伸線加工することにより、線径0.18〜0.45mmの最終線径まで伸線加工する(伸線加工工程)。
伸線加工における加工発熱の抑制は、各ダイスの減面率の抑制、ダイスのアプローチ角度、伸線速度の制限、高性能潤滑剤の使用、ダイヤモンドダイスの使用、などによって達成できる。
伸線加工の真歪を大きくすることによって、極細鋼線の強度を向上させることができる。本実施形態においては、線径が2.5〜4.5mmの熱間圧延線材を、0.18〜0.45mmまで湿式伸線加工することにより、強度が3000MPa以上の極細鋼線を得ることができる。
以上の工程により、本発明の極細鋼線が得られる。
本実施形態において、伸線加工工程を行う前の熱間圧延線材の表面には、Cuめっき層2bおよびブラスめっき層2aが略均一な厚みで積層されている。Cuめっき層2bおよびブラスめっき層2aは、伸線加工工程を行うことにより変形する。本実施形態の伸線加工工程では、加工発熱を抑制しながら、熱間圧延線材を伸線加工するので、伸線加工工程におけるCuめっき層2bおよびブラスめっき層2aの合金化が抑制され、Cuめっき層2bとブラスめっき層2aとが分離された状態を維持したまま変形する。
その結果、伸線加工工程後に、図2に示すように、Cuめっき層2bとブラスめっき層2aとが分離された状態で混在しており、Cuめっき層2bとブラスめっき層2aとの境界が明確であるめっき層2が形成される。また、伸線加工後に得られた極細鋼線10のめっき層2では、Cuめっき層2bおよびブラスめっき層2aが伸線加工時の応力によって変形したため、Cuめっき層2bおよびブラスめっき層2aの厚みが不均一になっている。
そして、図2に示すように、めっき層2と母材1との界面(母材1の表面1a)である第1界面は、極細鋼線10の外面6の形状に沿って延在する第1平坦部1bと、第1平坦部1bから母材1の内部に向かって陥入している第1陥入部1cとを有するものとなる。また、Cuめっき層2bとブラスめっき層2aとの界面である第2界面21aは、第1界面の形状に沿って延在する第2平坦部21bと、第2平坦部21bからブラスめっき層2aの内部に向かって陥入して形成されている第2陥入部21cとを有するものとなる。したがって、極細鋼線10の表面には、硬さの異なるCuめっき層2bと、ブラスめっき層2aと、母材1とが、厚み方向および面方向に互いに複雑に入り込んだ構造が形成されている。
このような極細鋼線10では、撚り線加工時に、硬さの異なる各層(Cuめっき層2bと、ブラスめっき層2aと、母材1)が互いに複雑に入り込んでいる構造によって、極細鋼線10の表面に作用する周方向の偏応力が効率よく吸収される。したがって、母材1に作用する応力が抑制されるとともに応力集中が緩和される。その結果、優れた耐撚り線加工性が得られる。
本実施形態において用いる熱間圧延線材の組織は、方向性がなく等方的である。このため、伸線加工工程を行う前の熱間圧延線材は、どの方向で切断した切断面においても、同様の組織が観察される。したがって、伸線加工工程を行う前は、図6に示すパーライトブロック4中に存在するパーライトコロニー4aの形状も、どの方向で熱間圧延線材を切断した切断面においても同じである。
熱間圧延線材中のパーライトコロニー4aは、熱間圧延線材に伸線加工工程を行うことにより変形する。その結果、伸線加工工程後に得られた極細鋼線10では、図4および図5(a)〜(c)に示すように、母材1の伸線方向に垂直な断面11の領域21に存在するパーライトコロニー3が湾曲しているものとなる。
本実施形態の高強度極細鋼線の製造方法では、所定の成分組成、組織、線径の熱間圧延線材を製造し、これに対してブラスめっき工程とブラスめっき工程とを順に施した後、加工発熱を抑制しながら伸線加工することにより、線径0.18〜0.45mmとする。その結果、引張強さが3000MPa以上で、かつ優れた延性を有し、更にはゴムとの接着性にも優れた本実施形態の高強度極細鋼線が得られる。
また、本実施形態の製造方法では、ブラスめっき工程を行うことによりブラスめっき層を形成している。このため、本実施形態の製造方法は、銅めっきと亜鉛めっきとを別々に施した後、銅と亜鉛とを合金化するための拡散熱処理を施してブラスめっき層を形成する場合と比較して、生産性に優れている。また、本実施形態の製造方法では、中間パテンティングおよび最終パテンティングを省略できるので、生産性に優れている。よって、本実施形態の製造方法は、省エネルギー化が可能であり、産業上の貢献が極めて顕著である。
本実施形態の極細鋼線10の製造方法では、ブラスめっき工程とブラスめっき工程とを順に施した後に伸線加工工程を行うので、軟質のCuめっき層2bによる応力緩和性によって優れた伸線加工性が得られる。
また、本実施形態の極細鋼線10では、伸線加工時の変形によって、断面視でのCuめっき層2bとブラスめっき層2aとの界面が曲線となっている。このため、Cuめっき層2bおよびブラスめっき層2aの厚みが均一である場合と比較して、Cuめっき層2bとブラスめっき層2aとの接触面積が広くなっており、Cuめっき層2bからブラスめっき層2aへのCu元素の供給が生じやすい。このため、本実施形態の極細鋼線10では、長期にわたって優れたゴム接着性が維持される。
以下に実施例を示す。なお、この実施例は具体的な例に沿って説明を行うものであり、本発明の内容を限定するものではない。
素材となる熱間圧延線材は、122mm角断面で18m長さのビレットを約1100℃に約1時間保持してオーステナイト組織とし、最終の圧延速度が80m/sとなるようにして圧延し、製造した。圧延後の組織が粗大化しないように中間で水冷を行い、仕上げ圧延中の最高温度が960℃程度となるように調整した。熱間圧延線材のパーライトブロックサイズを、以下に示す測定方法により、EBSDによって測定した。
熱間圧延線材の表面の酸化スケールを、酸洗によって除去し、ピロリン酸Cu水溶液を用いてCuめっき層を形成する電気めっき(Cuめっき工程)を行った。その後、酒石酸Na・Kをキレ−ト剤として含有する硫酸Cu、Zn水溶液を用いて、ブラスめっき層を形成する電気ブラスめっき(ブラスめっき工程)を施した。なお、比較のため、一部の熱間圧延線材は、酸洗後、電気ブラスめっきのみを施した。
Cuめっき工程において形成されたCuめっき層の組成は、Cuを94%含むものであった。また、ブラスめっき工程において形成されたブラスめっき層の組成は、Cuを63%含み、Znを37%含むものであった。
その後、これらの電気ブラスめっきを施した線材に、拡散熱処理を行うことなく、湿式伸線加工を行い、極細鋼線を製造した。
湿式伸線加工では、加工発熱を抑制するため、ダイスのアプローチ角度を全角で10〜12°とし、湿式伸線加工の後半(線径0.9mm以下の伸線加工)については、ダイヤモンドダイスを使用した。
比較のため、一部の熱間圧延線材には、酸洗を施した後、ボラックス被膜を形成して乾式伸線を行い、引き続き、最終パティングを行った。そして、最終パティング後の鋼線に、銅めっきと亜鉛めっきとを別々に施して拡散熱処理を施す拡散ブラスめっき処理を行った。拡散ブラスめっき処理後の鋼線に、湿式伸線加工を行って比較例の極細鋼線を製造した。
次に、このようにして得られた実施例および比較例の極細鋼線について、以下の項目の評価を行った。
まず、以下に示す測定方法により、伸線方向に垂直な断面における母材表面から深さ方向に20μmまでの領域に存在するパーライトコロニーを観察し、パーライトコロニー粒界の湾曲の曲率半径と、パーライトコロニーの幅を測定した。
更に、以下に示す測定方法により、母材のパーライトの面積率を求めた。
また、以下に示す測定方法により、熱間圧延線材のパーライトブロックのサイズを測定した。
また、走査型電子顕微鏡(SEM)及びエネルギー分散形X線分光装置(EDS)を用いて、以下に示す測定方法により、母材の表面に形成されているCuめっき層のCu含有率を求めた。また、以下に示す測定方法により、ブラスめっき層のCu含有率およびZn含有率を求め、ブラスめっき層のCuとZnとの比率(Cu/Zn)を算出した。
また、極細鋼線の引張強さの測定を行った。
また、以下に示す評価方法により、極細鋼線の耐撚り線断線性およびゴム接着性の評価を行った。
「パーライトコロニー粒界の湾曲の極率半径及び幅の測定」
極細鋼線の伸線方向に垂直な断面で、母材表面から深さ方向に20μmまでの領域で、電子線後方散乱回折法(EBSD)による測定を行った。EBSDによる測定は、極細鋼線の伸線方向に垂直な断面にArイオンミリングを施し、観察する全断面で行い、20×20μmの領域で、0.05μmステップでフェライト結晶方位データマップを採取した。
パーライト鋼を伸線加工して得られた高強度極細鋼線は、高密度の転位が導入されているため、従来、伸線ままでは明確な方位データを得ることが困難であった。そこで、本発明では、250〜400℃で12〜24時間の焼鈍を施した後、EBSDによる測定を行った。焼鈍によって、セメンタイトは分解又は球状化して形状が変化するものの、フェライトは伸線加工ままの結晶方位を保ったまま回復し、転位密度が顕著に減少する。したがって、250〜400℃で12〜24時間の焼鈍を施してEBSDによる測定を行えば、湿式伸線加工の直後と同等のフェライト結晶方位のデータマップが得られる。
フェライトは体心立方晶であり、伸線加工によって、多くの結晶粒の立方晶(110)面が長手方向に配向するが、伸線方向に垂直な断面への方位は、伸線加工前のパーライトコロニーに相当する単位で異なる。したがって、極細鋼線の伸線方向に垂直な断面の結晶方位マップ上では、パーライトコロニーが伸線後も湾曲した1区画として存在し、明確にその境界を識別することが可能である。パーライトコロニーは結晶方位が揃った領域であり、次のようにして測定することができる。
一般に、EBSDでは、観察領域を六角要素(ピクセル)に区切り、結晶方位情報を取得するため、隣接ピクセル間の方位差を求めることができる。隣接するピクセル間の結晶方位差が15°以上である場合は、異なるコロニーに属すると判断し、ピクセル間の結晶方位差が15°未満である場合は同一のコロニーに属すると判断した。このような判断をすべてのピクセル間で行い、フェライト結晶方位マップ上で、パーライトコロニー界面を得た。
得られたパーライトコロニー界面を用いて、図5(c)に示すように、パーライトコロニーの伸線方向に垂直な断面において、厚み中心線3cの全長Lを5分割したとき、外側に存在する2箇所の分割位置における曲率半径を測定し、その平均値を算出し、パーライトコロニー粒界の湾曲の曲率半径とした。
また、パーライトコロニーの長さ方向略中心部の伸線方向に垂直な断面において、図5(c)に示す厚み中心線3cの全長Lを5分割したとき、外側に存在する2箇所の分割位置における厚みを測定し、その平均値を算出し、パーライトコロニーの幅とした。
「母材のパーライト面積率の測定」
本発明者らは、極細鋼線の母材におけるパーライトの面積率を測定するため、伸線方向に垂直な断面を電解腐食して、以下に説明するように、SEMにより組織観察を行った。非パーライト組織は、ベイナイト、初析フェライトなど、パーライト(板状のフェライトとセメンタイトの層状構造)以外の組織である。非パーライト組織は、層状構造であるパーライトと比較して、幅の広い領域のフェライトを有し、SEM写真上では黒いコントラストとして観察される。極細鋼線の略円形の伸線方向に垂直な断面の中心近傍と、極細鋼線の最表層から10μm程度の部分と、極細鋼線の線径をDとしたときD/4に対応する位置とにおいて、略円形の伸線方向に垂直な断面の周方向に0°、90°、180°、270°の合計12カ所で、2000倍で写真撮影を行った。そして、直径0.4μmに相当する円内の領域に、干渉するセメンタイトが存在しない場合、その円内は非パーライト組織であると判定し、非パーライト組織を除外してパーライトの面積率を求めた。
「パーライトブロックサイズの測定」
熱間圧延線材のパーライトブロックのサイズを測定する場合、EBSDによって結晶方位差が9°以上の境界をパーライトブロック粒界と定義する。境界の結晶方位差が9°以上の条件が途中で途切れる場合は、パーライトブロック粒界とは見なさず、無視する。このようにして、フェライト結晶方位のマップを作成した領域で、9°以上の結晶方位差を持つ境界を定義し、パーライトブロック粒界がひとつの閉じた領域を包囲する場合、この領域の円相当径をパーライトブロックとして求める。
「ブラスめっき層及びCuめっき層のCu含有量及びZn含有量の測定」
めっき層の観察は、走査型電子顕微鏡(SEM)と、これに付属するエネルギー分散型X線分光装置(EDS)を用いて行った。そして、EDSにより極細鋼線の伸線方向に垂直な断面のめっき層の組成マップを作成した。EDSのデータを基に、めっき層にCu、Zn、Feの3元素のみが存在するものと仮定して、ZAF法により、ブラスめっき層及びCuめっき層のCu含有量及びZn含有量を算出した。また、得られた組成マップを任意の視野で観察し、面積が5μm以上のCuめっき層を目視で判断できる場合は、Cuめっき層が存在すると判断した。
「耐撚り線断線性の評価」
本発明において、耐撚り線断線性は、極細鋼線の一端を把持して固定し、他端を回転させることにより破断するまで捻じりを加え、極細鋼線の破断部近傍の形態及びトルクの降下で延性を判定することによって、評価した。破断部近傍の形態観察では、鋼線長手方向に対して破断面が垂直で平坦な形状、かつ、捻じり変形中の鋼線のトルクの急激な降下が認められない場合、十分な耐撚り線断線性がある(デラミ無)と判定した。一方、耐撚り線断線性が劣る極細鋼線の場合、捻じり変形によって、いわゆるデラミネーションが発生する(デラミ有)。この場合、捻じり変形中にトルクが急激に降下したり、破断後の鋼線の破断形態が縦割れとなる。
「ゴム接着性の評価」
本発明において、ゴム接着性は、極細鋼線をタイヤゴムに埋め込んだ後、湿熱劣化処理を施して評価した。湿熱劣化処理は、経時変化を促進させる処理である。
本発明においては、ゴム接着性は、下記の式で示される湿熱劣化処理前後の引き抜き力の比で評価した。
ゴム接着性(耐湿熱劣化性)=(湿熱劣化強度B/初期接着強度A)×100(%)
初期接着強度Aは、以下に示す方法を用いて測定した。
極細鋼線の片端部を、引張試験器の把持に必要な部分を適宜突き出した状態で、粘土状のタイヤゴムコンパウンド中に所定の長さで埋め込み、約1mmの厚みで覆われるように形成し、評価用試験体とした。次いで、評価用試験体に対して150℃の環境下で30分間加熱する加硫熱処理を行って極細鋼線とゴムとを接着した。その後、評価用試験体の極細鋼線の片端部の突き出した部分と、他端のゴム部とをそれぞれ引張試験装置にチャッキングして引き抜くことにより、初期の接着強度(初期接着強度A)を測定した。
次に、湿熱劣化強度Bを、以下に示す方法を用いて測定した。
初期接着強度Aの測定と同様の条件で加硫熱処理を行った評価用試験体に対し、さらに温度85℃、湿度95%の環境で150時間保持する湿熱劣化処理を行い、初期接着強度Aの測定と同様の方法で引き抜くことにより、湿熱劣化処理後の接着強度(湿熱劣化強度B)を測定した。
また、実施例および比較例の極細鋼線の伸線方向に垂直な断面を、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて観察し、めっき層と母材との界面である第1界面が、高強度極細鋼線の外面形状に沿って延在する第1平坦部と、前記第1平坦部から前記母材の内部に向かって陥入している第1陥入部とを有し、Cuめっき層とブラスめっき層との界面である第2界面が、第1界面の形状に沿って延在する第2平坦部と、第2平坦部からブラスめっき層の内部に向かって陥入して形成されている第2陥入部とを有するものであるか否かを調べた。
その結果、No.1〜5、No.8〜12、No.15〜19は、上記の第1界面および第2界面を有するものであった。これに対し、No.6、7、13、14、20〜22では、上記の第1界面および第2界面が形成されていなかった。
表1に、熱間圧延線材の線径(素材径)、熱間圧延線材の組成、熱間圧延線材のパーライトブロックサイズ(PBS)、Cuめっき処理の有無、ブラスめっき処理の有無、伸線加工の真歪、湿式伸線加工における各段の減面率を示す。
表1に示す伸線加工の真歪は、湿式伸線加工によって導入された加工歪みであり、素材径(熱間圧延線材の直径)と鋼線径(極細鋼線の直径)から、2ln(素材径/鋼線径)によって求めた。「ln」は自然対数である。
表2に、極細鋼線の線径(鋼線径)、ブラスめっき層のCuとZnとの比率(Cu/Zn)、Cuめっき層のCu含有量、パーライトコロニー粒界の曲率半径及び幅、母材のパーライトの面積率(P面積率)、耐撚り線断線性(「デラミ」の有無)、引張強さ、ゴム接着性(耐湿熱劣化性)を示す。
Figure 0006558255
Figure 0006558255
表1および表2に示すように、No.1〜5、No.15〜19は、本発明例であり、3000MPa以上の引張強さであって、上記の第1界面および第2界面を有し、優れた耐撚り線断線性およびゴム接着性(耐湿熱劣化性)を有する極細鋼線が得られている。
一方、No.6〜14、No.20、21は比較例であり、引張強さ、耐撚り線断線性、ゴム接着性の何れか一つ以上が低下している。
No.6は、前述の拡散ブラスめっき処理を行った後に、湿式伸線加工を行った例である。表1に示すように、No.6では、めっき層にブラスめっき層は存在するが、Cuめっき層が存在せず、上記の第1界面および第2界面が形成されておらず、耐撚り線断線性およびゴム接着性が低下している。
No.7は、伸線加工中に低応力で破断したため、引張強さが低下した例である。原因は、素材である熱間圧延線材のパーライトブロックサイズ(PBS)が粗大であり、伸線の初期に伸線方向に垂直な断面の中心部近傍にシェブロンクラックが発生したことであると推定される。そのため、No.7は、上記の第1界面および第2界面が形成されておらず、耐撚り線断線性も低下している。
No.8は、母材のパーライトの面積率が低く、耐撚り線断線性が低下した例である。パーライトの面積率は、伸線加工によって変化しないので、No.8は熱間圧延線材のパーライト面積率も低い。そのため、伸線加工中に鋼線に欠陥が生じ、結果として極細鋼線の耐撚り線断線性が低下したと推定される。
No.9及び10は、パーライトコロニーの曲率半径が小さく、幅が狭い例であり、耐撚り線断線性が低下している。この原因は、伸線加工の真歪が大きく、伸線加工中に鋼線の材質が劣化したことであると推定される。
No.11は鋼線のC含有量が過剰であり、極細鋼線の耐撚り線断線性が低下した例である。また、No.12は鋼線のC含有量が少ないために、熱間圧延線材の強度が低いものであるにもかかわらず、伸線加工の真歪が不十分だったため、極細鋼線の引張強さが不十分となった例である。
No.13は、ブラスめっき層のCu/Zn比が小さい例である。No.13は、上記の第1界面および第2界面が形成されておらず、ブラスめっき層が硬いため、十分な応力緩和性が得られず、耐撚り線断線線性が不足しているとともに、ゴム接着性が不足している。
No.14は、Cuめっきを施さずに、ブラスめっきのみを行った例であり、Cuめっき層が存在しない例である。No.14は、上記の第1界面および第2界面が形成されておらず、十分な応力緩和性が得られないため耐撚り線断線線性が不足している。また、No.14は、Cuの供給源であるCuめっき層がないためゴム接着性も不足している。
No.20、21は、ブラスめっき層のCu/Zn比が大きい例である。No.20、21は、上記の第1界面および第2界面が形成されておらず、ブラスめっき層が軟らかいため、ブラスめっき層と母材との硬さの差が大きくなり、耐撚り線断線線性が不足している。また、No.20、21では、ブラスめっき層に接したゴムの表面が脆くなったため、極細鋼線のゴム接着性が不足している。
No.22は、各段の減面率が高いため伸線加工において加工発熱が抑制されなかった例である。No.22では、伸線加工時の加工発熱によって、Cuめっき層とブラスめっき層との間で相互拡散が生じ、上記の第1界面および第2界面が形成されなかった。このため、軟質なCu相の作用による応力緩和作用が得られない極細鋼線となり、デラミネーションが発生した。
1 母材、1a 表面、2 めっき層、2a ブラスめっき層、2b Cuめっき層、3 、4aパーライトコロニー、4 パーライトブロック、10 高強度極細鋼線、11 断面

Claims (4)

  1. 母材と、前記母材の表面に形成されためっき層とを有し、線径が0.18〜0.45mmであり、引張強さが3000MPa以上である高強度極細鋼線であって、
    前記母材は、質量%で、
    C:0.60%〜0.80%、
    Si:0.05〜0.35%、
    Mn:0.20〜0.90%
    を含有し、残部はFeおよび不純物からなり、
    金属組織は、面積率で85.0%以上がパーライトであり、伸線方向に垂直な断面における前記母材表面から深さ方向に20μmまでの領域に存在するパーライトコロニー粒界の湾曲の曲率半径が5.0〜10.0μm、パーライトコロニーの幅が0.2〜1.5μmであり、
    前記めっき層は、前記母材表面に形成されたCu含有量が90質量%以上であるCuめっき層と、前記Cuめっき層の外側に形成されたCuとZnとの比率(Cu含有量(質量%)/Zn含有量(質量%))が1.2〜2.3であるブラスめっき層とを有し、
    前記めっき層と前記母材との界面である第1界面は、前記高強度極細鋼線の外面形状に沿って延在する第1平坦部と、前記第1平坦部から前記母材の内部に向かって陥入している第1陥入部とを有し、
    前記Cuめっき層と前記ブラスめっき層との界面である第2界面は、前記第1界面の形状に沿って延在する第2平坦部と、前記第2平坦部から前記ブラスめっき層の内部に向かって陥入して形成されている第2陥入部とを有することを特徴とする高強度極細鋼線。
  2. 前記母材が、更に、質量%で、
    Cr:0.01〜1.00%、
    を含有することを特徴とする請求項1に記載の高強度極細鋼線。
  3. 前記母材が、更に、質量%で、
    Nb:0.010〜0.200%、
    V :0.01〜0.50%、
    Mo:0.01〜0.50%、
    B :0.0004〜0.0030%
    Al:0.002〜0.100%、
    Ti:0.002〜0.100%
    の1種又は2種以上を含有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の高強度極細鋼線。
  4. 請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の成分組成からなり、面積率で85.0%以上がパーライトであり、パーライトブロックのサイズが10〜30μmであり、線径が2.5〜4.5mmである熱間圧延線材を製造する工程と、
    前記熱間圧延線材上にCuめっき層を形成するCuめっき工程と、
    前記Cuめっき工程後の前記熱間圧延線材上にブラスめっき層を形成するブラスめっき工程と、
    前記ブラスめっき工程後の前記熱間圧延線材を、加工発熱を抑制しながら伸線加工することにより、線径0.18〜0.45mmとする伸線加工工程とを有することを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の高強度極細鋼線の製造方法。
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