JP5304323B2 - 高強度鋼線用線材、高強度鋼線及びこれらの製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、強度、靭性、延性等に優れた極細鋼線を、伸線中にパテンティング処理およびブルーイング処理を施すこと無しに製造する技術に関する。
高強度鋼線の代表例であるスチールコード用鋼線を製造するには、通常、炭素含有量が0.7〜0.8%程度の高炭素鋼[JISG 3502(SWRS72A,SWRS82A)相当]を用い、それを熱間圧延した後、冷却条件を制御することにより直径:5.0〜6.4mm程度の鋼線材とし、次いで一次伸線加工、パテンティング処理、二次伸線加工、再度のパテンティング処理、Cu−Zn二相めっき、拡散処理を施した後、最終的に湿式伸線加工(仕上げ伸線)を行うことによって所定の線径になるように製造されている。
この際、パテンティング処理は、伸線加工に適した均一微細なパーライト組織を得るために行われるが、高炭素鋼における伸線限界は、通常、真歪みで4以下と低いために、最終線径が細くなればなるほど最終パテンティング後の線径も細くなり、その為、パテンティング回数を増やす必要があるという問題があった。
そこで、伸線限界を向上させて線材の伸線加工性を高めることを目的として、種々の改良方法が提案されている。
例えば特許文献1には、パテンティング処理時における冷却速度を制御することによって伸線に悪影響を及ぼす初析セメンタイトの析出を抑制する方法が、また、特許文献2には、熱間圧延線材の断面組織中の粗パーライト率を制御する技術が開示されている。
特許文献3および特許文献4には、鋼線組織を加工硬化の少ないベイナイト組織にすることによって、伸線による強度上昇を低く抑えて伸線限界を向上させる技術が開示されている。
特許文献5には、炭素含有量が0.30〜0.60%の中炭素鋼線材を用いて、最終パテンティング後の引張強さ、パーライト組織および初析フェライトを制御することにより伸線限界の向上を図る技術が開示されている。
これらの方法によれば、パテンティング回数を従来より少なくしても伸線加工性を高めることはできるが、いずれの方法においても、少なくとも伸線中に1回のパテンティング処理を必ず行う必要がある。
一方、特許文献6には、線径0.15mm以下の極細線を工業的に製造し得る方法が開示されている。具体的には、低炭素鋼線(C:0.01〜0.30%)に熱処理を施して、フェライトと、針状マルテンサイトまたはベイナイトの混合組織に調整した後に、主として伸線加工により高強度を得る方法が開示されているが、熱処理強度が70kgf/mm2程度と低く、かつ加工硬化率もパーライト鋼と比較して低いために、0.2mm程度の極細線に適用する場合、熱処理線径をかなり太くして伸線加工ひずみを大きく取らなければ所定の強度が得られないこと、5.5mm以上の太径熱処理では鋼線表層から中心部間の組織が不均一になり易く、わずかな塊状マルテンサイトの生成で、早期の伸線破断や機械的性質の劣化につながるという問題があった。
特許文献7には、中高炭素鋼線(C:0.35〜0.9%)の熱間圧延後冷却し、20%以下の面積率で初析フェライトを含有した組織に調整した後に、パテンティングすること無しに伸線によって0.15〜0.4mmの線径の高強度鋼線を得る方法が開示されているが、通常、スチールコード用フィラメントを製造するためには、伸線時の潤滑性とゴムとの密着性を保障するために、伸線工程の途中でCu-Zn二相めっき・加熱拡散処理(拡散黄銅めっき)を施す必要がある。このめっきの加熱拡散処理時(以後、この処理をブルーイング処理と称する。)に、伸線されて形成された伸長ラメラ組織が分断されるため、0.3〜0.4%程度のC量の線材では伸線後に所定の強度を得にくく、延性も劣化するという問題があった。
さらに、特許文献8においては、セメンタイトが不連続なパーライト線材を、熱処理無しに伸線することによって鋼線を得る方法が示されているが、セメンタイトが不連続であるのは、冷却速度が遅いステルモア相当のパテンティングをしているために必然的に得られた組織であり、セメンタイトが不連続であるが故に強度が低いという問題があった。
特開平5−98349号公報 特公平3−60900号公報 特開平5−105965号公報 特開平5−117764号公報 特開平6−2039号公報 特公平1−15563号公報 特許第3499341号公報 特許第3409055号公報
そこで、本発明は、上記のような事情に鑑み、中炭素鋼を素材として用い、伸線工程中にパテンティング処理およびブルーイング処理などの熱処理を全く施さなくとも極細鋼線に伸線加工でき、かつ、高強度で撚り線時のデラミネーション(縦割れ)の発生のない極細鋼線が得られる線材を提供できるようにするとともに、その線材を用いて高強度の極細鋼線を提供できるようにすることを課題とするものである。
本発明者らは、炭素濃度0.5%以下の中炭素領域の鋼材を用い、まず種々の条件で圧延・冷却・パテンティングして、種々の組織、強度レベルの線材を作成し、その線材を用いて伸線を実施し、直径0.2〜0.4mmであるような極細鋼線を作製した。そして、これら鋼線の引張強度、ねじり特性等の機械的特性を調査した。そして、鋼線の機械的特性を向上させる鋼材成分、圧延条件、パテンティング条件、伸線条件の影響等について検討を重ねた。
この結果、軟質相である初析フェライト+ベイナイト組織の面積率を低下させるとともに、引張強度を線材のC量に応じて適正に管理した圧延線材を用いれば、伸線中に中間パテンティング処理およびブルーイング処理などの熱処理を全く施さなくとも極細鋼線の製造が可能であること、さらに、そのような線材を、最終的な真ひずみ4以上の伸線加工を施すことによって、最終線径に応じたより高強度でデラミネーションが発生しない鋼線を得ることができるという結論に達し、本発明をなしたものである。
本発明は以上の知見に基づいてなされたものであって、その要旨とするところは、次の通りである。
(1)質量%で、C :0.30〜0.50%、Si:0.10〜0.40%、Mn:0.20〜1.0%、N:15〜35ppm、O:15〜35ppm、Al:0.01%以下(0%を含む)、Ti:0.01%以下(0%を含む)を含有し、残部鉄および不可避的不純物よりなり、最終パテンティング後の引張強さTS(MPa)が、下記式1の範囲にあり、
1000×(%C)+300≦TS≦1000×(%C)+450
・・・ (式1)
かつ、初析フェライトとベイナイトの面積率FA(%)が下記式2の範囲にあり、
FA≦−70×(%C)+41 ・・・ (式2)
残部の95%以上がパーライト組織であり、該パーライト組織の平均ブロック粒径が20μm以下であることを特徴とする線径3.6〜7mmの高強度極細鋼線用線材。
(2)更に、質量%で、Cr:0.5%以下、Ni:0.5%以下、Co:0.5%以下、V:0.5%以下、Cu:0.2%以下、Mo:0.2%以下、W:0.2%以下、Nb:0.1%以下よりなる群から選択される少なくとも1種以上を含有することを特徴とする上記(1)に記載の高強度極細鋼線用線材。
(3)上記(1)または(2)に記載の線材に、熱処理を施すことなしに伸線を行うことにより、直径D(mm)を0.2〜0.4mmとした鋼線であって、引張強度TS(MPa)が3000MPa以上で、かつ下記式3を満たすことを特徴とするデラミネーションの発生しない高強度極細鋼線。
3900−D×2600≦TS ・・・ (式3)
(4)上記(1)または(2)に記載の鋼成分の鋼片を熱間圧延し、仕上げ圧延温度を1000〜1200℃とし、次いで880〜960℃の温度にて巻き取った後、直ちに520〜580℃の温度の溶融ソルトに30s以上浸漬する工程を含むパテンティング処理を施すことを特徴とする上記(1)または(2)記載の高強度極細鋼線用線材の製造方法。
(5)上記(1)または(2)に記載の鋼成分の鋼片を熱間圧延し、仕上げ圧延温度を1000〜1200℃とし、次いで880〜960℃の温度にて巻き取った後に、800℃から600℃までの冷却速度を50〜200℃/sとして冷却し、その後、520〜580℃の温度域にて30s以上保持する工程を含むパテンティング処理を施すことを特徴とする上記(1)または(2)記載の高強度極細鋼線用線材の製造方法。
(6)上記()または()に記載のパテンティング処理に引き続いて、熱処理を施すことなしに、真ひずみ4%以上の条件で直径D(mm)が0.2〜0.4mmの範囲になるまで伸線を行うことを特徴とする高強度極細鋼線の製造方法。
伸線工程中にパテンティング処理およびブルーイング処理などの熱処理を全く施さなくとも極細鋼線に伸線加工できる線材を得ることができ、かつ、その線材を用いて、高強度で撚り線時のデラミネーション(縦割れ)の発生のない極細鋼線を得ることができる。
圧線線材の初析フェライト+ベイナイト組織の面積率(分率)と伸線後の引張強度TSの関係を示す図である。 伸線後の鋼線の線径とTSの関係を示す図である。 用いた鋼のC含有量と圧延線材の引張強度との関係を示す図である。 用いた鋼のC含有量とフェライト+ベイナイト組織の面積率との関係を示す図である。 本発明に係る鋼線の代表的なパーライト組織を示すSEM観察写真を用いた図である。
通常、スチールコード用鋼線を得るためには共析鋼に近い炭素濃度を有し、かつ0.2%程度のSiが含有する線材をオーステナイト化した後、450〜600℃で数〜数十秒保持するパテンティング処理を施し、ほぼ完全なパーライト組織にした後、伸線を実施する。しかしこの方法では、伸線前の線材強度が高く、伸線時の加工硬化係数も大きいため、3〜4程度の真ひずみで伸線時の破断あるいは伸線後のデラミネーションが発生する。
そこで、本発明者らは、炭素濃度0.5%以下の中炭素領域の鋼材を用い、まず種々の条件で圧延・冷却・パテンティング・一次伸線・ボンデ皮膜処理・仕上げ伸線を実施し、直径0.2〜0.4mmであるような種々の強度レベルの鋼線を作製し、これら鋼線の引張強度や鋼組織などを調査した。その結果、次のような知見を得た。
(a)鋼中炭素量を0.3〜0.5%程度まで低減させた鋼素材を用いて、通常の圧延・ステルモア処理によるパテンティング処理を施しても、初析フェライトを抑制することは困難であり、線材の引張強度(TS)は低くなる。このような線材をパテンティング無しに伸線しても、真ひずみ4以上の伸線で所定のTSの高強度ワイヤを得ることは困難である。
(b)鋼中炭素量を0.3〜0.5%程度まで低減させた鋼素材に通常の圧延を施し、ステルモアの風速を高める等して、500℃近傍までの線材の冷却速度を高めることによって、初析フェライトを抑制することが可能であるが、520℃未満まで急冷することによって過冷組織であるベイナイトが生成し、強度と延性が劣化する。このような線材を伸線しても、真ひずみ4以上の伸線で所定のTSの高強度ワイヤを得ることは困難である。
(c)鋼中炭素量を0.3〜0.5%程度まで低減させた鋼素材を用いて線材に圧延するに際して、仕上げ圧延温度を1000〜1200℃とし、次いで880℃以上960℃以下の温度にて巻き取った後に、520〜580℃の溶融ソルトに浸漬することにより、圧延γ粒径を粗大化させ、初析フェライトとベイナイトを共に抑制し、かつ残部の95%以上をパーライト組織とし、なおかつ、通常は20μmを超えるパーライトブロック粒径を20μm以下とすることが可能である。このような線材に真ひずみが4以上の伸線を施すことにより、高強度でかつデラミネーションの発生のない鋼線を得ることが可能になる。
そこで、鋼中炭素量:0.3〜0.5%の鋼を用い、圧延条件及び巻き取り後の冷却条件を変更して初析フェライトとベイナイトの量を種々に調節した圧延線材を作成し、さらに、その線材にパテンティング処理なしに真ひずみが4以上の伸線を施すことにより、0.2〜0.4mmの線径の鋼線を作成した。
得られた圧延線材について、線材組織や引張強度を調べた。また、伸線後の鋼線について引張強度を調べるとともに、捻回試験を行ってデラミネーション発生の有無を調べた。
まず、高強度の鋼線を得るための条件について検討した。
図1に、圧線線材の初析フェライト+ベイナイト組織の面積率(分率)と伸線後のTSの関係を、図2に、伸線後の鋼線の線径とTSの関係を示す。これらの図中、比較例におけるオープンマークはデラミネーションが発生していることを示す。
図1より、圧延線材の初析フェライト+ベイナイト組織の面積率を、20%以下に低下させることで、引張強度が3000MPa以上の高強度でデラミネーションが発生しない鋼線の製造が可能であることがわかる。
また、図2より、鋼線の引張強度TS(MPa)と線径Dの関係が、次式を満たす範囲になるようにすれば、高強度でデラミネーションの発生のない鋼線を得ることが可能になることがわかる。
3900−D×2600≦TS
ここで、初析フェライトおよびベイナイトの面積率は、線材を湿式研磨した後、飽和ピクリン酸によって数秒腐食させ、光学顕微鏡にて×500の倍率で、表層、1/4D、1/2Dを各々5枚撮影し、初析フェライト+ベイナイト組織(白く見える)の面積分率を画像解析し、これらの平均値によって求めた。
次に、高強度で撚り線時にデラミネーションの発生しない鋼線を得るための圧延線材の引張強度及び初析フェライト+ベイナイト組織の面積率の条件について検討した。
図1に示されたTSが2900MPa以上でデラミネーションが発生しない鋼線が得られた圧延線材について、図3に鋼のC含有量と引張強度との関係を示し、図4に鋼のC含有量と初析フェライト+ベイナイト組織の面積率との関係を示す。
図3より、圧延線材の引張強度TS(MPa)を、C含有量%C(質量%)に応じて次式の関係を満たすようにすれば、高強度でデラミネーションの発生のない鋼線を得られることがわかる。
1000×(%C)+300≦TS≦1000×(%C)+450
また、図4より、初析フェライト+ベイナイト組織の面積率FA(%)を、C含有量%C(質量%)に応じて次式の関係を満たすようにすれば、同様の鋼線を得られることがわかる。
FA≦−70×(%C)+41
本発明は、上記の検討結果に基づき、さらに、鋼の化学成分を最適なものにすることによりなされたものであり、以下、本発明についてさらに説明する。
なお、以下の説明で、成分の含有量の%、ppmは、それぞれ質量%、質量ppmを意味する。
まず、本発明に用いられる鋼線材の成分限定理由について説明する。
C:0.30〜0.50%
Cは強度の上昇に有効で、且つ経済的な元素であり、C含有量の増加に伴って伸線時の加工硬化量、伸線後の強度が増大する。更に、C量が少ないと圧延線材の初析フェライト量を低減させることが困難となる。従って、本発明ではその下限を0.30%とすることが必要である。一方、C量が多くなり過ぎると線材の強度が高くなりすぎ、伸線中あるいは伸線後における鋼線の靭性・延性を劣化させるため、C量の上限を0.50%とする。好ましい上限は0.45%、より好ましくは0.40%、さらに好ましくは、0.35%である。
Si:0.10〜0.40%
Siは脱酸剤として有用な元素である。0.10%未満ではその効果が不十分となるため、0.10%以上とした。一方、Siはフェライト生成元素でありスケール剥離性を劣化させる働きがあるため、上限を0.40%とした。
Mn:0.20〜1.0%
MnもSiと同様、脱酸剤として有用な元素であり、その効果を十分なものとするためには0.20%以上が必要である。一方、Mnは鋼の焼入性を高めて圧延材の初析フェライト量を低減させる効果がある。また偏析し易い元素でもあるため、過剰に添加するとMnの偏析部にマルテンサイト、ベイナイトなどの過冷組織が生成して伸線加工性が劣化する恐れがある。従って、Mn量の上限を1.0%とする。好ましい上限値は0.8%である。
N:15〜35ppm
Nは、鋼中でAl、Bと窒化物を生成し、加熱時におけるオーステナイト粒度の粗大化を防止する作用があり、その効果は15ppm以上含有させることによって有効に発揮される。しかし、含有量が多くなり過ぎると、窒化物量が増大し過ぎて、オーステナイト中の固溶B量を低下させる。さらに固溶Nが伸線中の時効を促進する虞がある。従って、Nの含有量を、15〜35ppmの範囲内とした。
O(酸素):15〜35ppm
Oは、Siその他の元素と複合介在物を形成することで、伸線特性への悪影響を及ぼさない軟質介在物を形成させることが可能となる。このような軟質介在物は圧延後に微細分散させることが可能で、ピニング効果によりγ粒径の過度な粗大化を抑制し、パテンティング線材の延性を向上させる効果がある。そのため下限を15ppmより多い値とした。しかし、含有量が多くなり過ぎると、硬質な介在物を形成し、伸線特性が劣化するので、Oの上限を35ppmとした。
Al:0.01%以下
Alの含有量は、硬質非変形のアルミナ系非金属介在物が生成して鋼線の延性劣化と伸線性劣化を招かないように0%を含む0.01%以下と規定した。
Ti:0.01%以下
Tiの含有量は、硬質非変形の酸化物が生成して鋼線の延性劣化と伸線性劣化を招かないように0%を含む0.01%以下と規定した。
なお、不純物であるPとSは特に規定しないが、従来の極細鋼線と同様に延性を確保する観点から、各々0.02%以下とすることが望ましい。
本発明に用いられる鋼線材は上記元素を基本成分とするものであるが、更に強度、靭性、延性等の機械的特性の向上を目的として、以下の様な選択的許容添加元素を1種または2種以上、積極的に含有してもよい。
Cr:0.5%以下、Ni:0.5%以下、Co:0.5%以下、V:0.5%以下、Cu:0.2%以下、Mo:0.2%以下、W:0.2%以下、Nb:0.1%以下。
以下、各元素について説明する。
Cr:0.5%以下
Crはパーライトのラメラ間隔を微細化し、線材の強度や伸線加工性等を向上させるのに有効な元素である。この様な作用を有効に発揮させるには0.1%以上の添加が好ましい。 一方、Cr量が多過ぎると変態終了時間が長くなり、熱間圧延線材中にマルテンサイトやベイナイトなどの過冷組織が生じる恐れがあるほか、メカニカルでスケーリング性も悪くなるので、その上限を0.5%とした。
Ni:0.5%以下
Niは線材の強度上昇にはあまり寄与しないが、伸線材の靭性を高める元素である。この様な、作用を有効に発揮させるには0.1%以上の添加が好ましい。 一方、Niを過剰に添加すると変態終了時間が長くなるので、上限値を0.5%とした。
Co:0.5%以下
Coは、圧延材における初析セメンタイトの析出を抑制するのに有効な元素である。この様な作用を有効に発揮させるには0.1%以上の添加が好ましい。一方、Coを過剰に添加してもその効果は飽和して経済的に無駄であるので、その上限値を0.5%とした。
V:0.5%以下
Vはフェライト中に微細な炭窒化物を形成することにより、加熱時のオーステナイト粒の粗大化を防止するとともに、圧延後の強度上昇にも寄与する。このような作用を有効に発揮させるには、0.05%以上の添加が好ましい。しかし、過剰に添加すると、炭窒化物の形成量が多くなり過ぎると共に、炭窒化物の粒子径も大きくなるため、上限を0.5%とした。
Cu:0.2%以下
Cuは、極細鋼線の耐食性を高める効果がある。この様な作用を有効に発揮させるには0.1%以上の添加が好ましい。しかし過剰に添加すると、Sと反応して粒界中にCuSを偏析するため、線材製造過程で鋼塊や線材などに疵を発生させる。この様な悪影響を防止するために、その上限を0.2%とした。
Mo:0.2%以下
Moは、極細鋼線の耐食性を高める効果がある。この様な作用を有効に発揮させるには0.1%以上の添加が好ましい。一方、Moを過剰に添加すると変態終了時間が長くなるので、上限値を0.2%とした。
W:0.2%以下
Wは、極細鋼線の耐食性を高める効果がある。この様な作用を有効に発揮させるには0.1%以上の添加が好ましい。一方、Wを過剰に添加すると変態終了時間が長くなるので、上限値を0.2%とした。
Nb:0.1%以下
Nbは極細鋼線の耐食性を高める効果がある。このような作用を有効に発揮させるには0.05%以上の添加が好ましい。 一方、Nbを過剰に添加すると変態終了時間が長くなるので、上限値を0.1%とした。
次に、圧延線材の線材の組織、強度及び製造条件について説明する。
上記のような成分からなる鋼のビレット(鋼片)を加熱後、熱間圧延により、最終製品径に応じた線径の圧延線材とする。本発明では、0.2〜0.4mmの範囲の極細鋼線を得るため、圧延線材の線径を3.6〜7mmとする。
その際、熱間圧延条件や熱間圧延後の冷却条件を制御することによって、最終パテンティング後の圧延線材の引張強度TS(MPa)が、下記式1の範囲にあり、
1000×(%C)+300≦TS≦1000×(%C)+450 ・・・ (式1)
かつ、初析フェライトとベイナイトの合計の面積率FAが、下記式2の範囲にあり、
FA≦−70×(%C)+41 ・・・ (式2)
残部の95%以上がパーライト組織であり、該パーライト組織の平均ブロック粒径が5以上20μm以下となるようにする。
圧延線材の引張強度TSを、C含有量に応じて上記のように規定するのは、上記図3に示されるように、式1の関係を満たすようにすれば、高強度でデラミネーションの発生のない鋼線を得ることができるようにするためである。
また、圧延線材の初析フェライトとベイナイトの面積率を上記のように規定するのは、上記図4に示されるように、伸線加工時に再度パテンティング処理を行わなくても高強度でデラミネーションの発生のない鋼線を得ることができるようにするためである。なお、初析フェライトとベイナイトの合計面積率は、0%であってもよいが、通常の製造条件では、それらの生成を避けることは困難である。
パーライト組織の面積率を残部の組織の95%以上としたのは、95%未満であると、必要な線材の強度が確保できず、かつ伸線時の延性が低下するためである。残部が100%パーライト組織でもかまわない。
パーライト組織の平均ブロック粒径を20μm以下に制限するのは、線材の延性を確保するためである。通常、パーライトブロック粒径はγ粒径の粗大化に伴い大きくなるが、以下に説明するように、溶融ソルトに浸漬するか、急冷後保定することによって、パーライトブロック粒の核生成を促進させ、20μm以下とすることができる。
なお、パテンティング線材のパーライトブロック粒径は、線材のL断面を、樹脂に埋め込み後、切断研磨し、EBSP解析により倍率500倍で、方位差9°の界面で囲まれた領域を一つのブロック粒として解析し、その平均体積から求めた平均粒径とした。
この初析フェライトとベイナイトの面積率及びパーライト組織の平均ブロック粒径を以上のように制御するための手段としては、鋼片を、仕上圧延温度1000〜1200℃で熱間圧延し、次いで880℃以上960℃以下の温度にて巻き取った後に、520℃以上580℃以下の溶融ソルトに30s以上浸漬するパテンティング処理を行う方法、あるいは、上記条件で巻き取り後、800℃から600℃までの冷却速度が50℃/s以上200℃/s以下となるように冷却し、その後、520〜580℃の温度域にて30s以上保持するパテンティング処理を行う方法が採用される。
熱延及び巻取条件を上記の範囲とするのは、圧延γ粒径を粗大化させ、初析フェライトおよびベイナイトの析出を抑制するためである。
熱間圧延の仕上げ温度が1000℃未満であると圧延反力が大きくなり、またγ粒径が微細化するため焼入れ性が低下し、初析フェライトの面積率が高くなる。一方、1200℃を超えると巻き取り温度を規定の温度に制御しにくくなる。そのため、1000℃以上1200℃以下と規定した。
また、巻き取り温度が880℃未満であると、圧延γ粒径が微細化し、初析フェライトの析出を抑制するのが困難となり、960℃を超えるとγ粒径が過度に粗大化する。
溶融ソルトの温度あるいは冷却途中の保持温度を、520〜580℃の温度域に限定したのは、初析フェライトとベイナイトの面積率を上記式2で規定する範囲にするためであり、520℃未満では上部ベイナイト量が急増し、580℃より高ければ初析フェライト量が急増するためである。
また、溶融ソルトに浸漬しない場合、800℃から600℃までの冷却速度が50℃/s以上200℃/s以下となるように冷却するのは、溶融ソルトに浸漬した場合の冷却速度と同様の冷却速度にするためである。
以上によって、初析フェライトとベイナイトを共に抑制し、かつ残部の95%以上をパーライト組織とし、かつ、巻き取り後の急冷による核生成の促進に起因して、通常は20μmを超えるパーライトブロック粒径を20μm以下と微細化することが可能となる。
なお、図5に本発明による圧延線材の代表的なパーライト組織のSEM観察写真を示す。
パーライトのラメラ間隔は、変態時の温度に依存し、温度変動が大きいと、ラメラが連続したパーライトを得にくくなる。0.3〜0.5%Cの中炭素鋼においては特にこの傾向が顕著である。通常のステルモアでは、衝風するのみであり、パーライト変態が進行する際の変態潜熱による復熱を抑制できないため、変態中の温度を一定に保つことは難しい。
これに対して、溶融塩に浸漬した場合では、抜熱能が高いため、変態時の線材温度をソルト温度に近い温度で一定温度に保つことが可能であり、図5に示したように、ラメラ組織がほぼ連続したパーライト組織を得ることができる。また、強制的に冷却した後、一定温度に保定する場合でも同様である。
さらに、線材の伸線条件及び、伸線後の鋼線の条件について説明する。
上記のような製造条件で製造され、上記のような成分組成、組織及び強度の条件を満足する圧延線材を、途中にパテンティング処理およびブルーイング処理などの熱処理を全く施さないで、直径Dが0.2mm以上0.4mm以下になるように、真ひずみが4以上の冷間伸線を施すことにより、引張り強さTS(MPa)が3000MPa以上で、かつ下記式3を満たす極細鋼線にする。
3900−D×2600≦TS ・・・ (式3)
なお、昨今の燃費向上のための高強度材への要求を考慮すると、望ましいTSは、下記式4を満たすレベルである。
4100−D×2600≦TS ・・・ (式4)
このようにすることにより、図2に示されるように、高強度でデラミネーションの発生のない鋼線を得ることが可能になる。
ここで、真ひずみを4以上としたのは、本発明の圧延線材径から目的とする0.2〜0.4mmの線径の鋼線を得るためには、4以上の真ひずみが必要なためである。
なお、真ひずみ4以上の伸線を実施するためには一度もしくは複数回の潤滑処理が必要となる。このため、シアン浴による電気黄銅めっきや黄銅の粉体塗装、ボンデ処理などのブルーイングを必要としない潤滑皮膜処理の実施を行うとよい。
表1に示す化学組成を有する供試材を熱間圧延した後、種々の巻き取り温度で巻き取り、直ちに種々の温度の溶融ソルトに浸漬するパテンティング、あるいは、800℃から600℃までの冷却速度が50℃/s以上200℃/s以下となるように強制的に冷却し、種々の温度で保定するパテンティングを行い、直径3.8〜6.7mmの線材を得た。なお、一部の供試材では、巻き取り後徐冷した。その後、これらの線材を再パテンティングおよびブルーイング処理をすることなしに直径0.2〜0.4mmまで伸線して鋼線を得た。
得られた線材及び鋼線について引張試験によって引張強さを、鋼線について捻回試験によってデラミネーション特性を調べた。その結果を表2に示す。
表1、2の供試鋼No.1〜15が本発明例で、その他は比較例である。同表に見られるように本発明例はいずれも圧延線材のTSが次の式1
1000×(%C)+300≦TS(MPa)≦1000×(%C)+450
・・・ (式1)
の範囲にあり、かつ初析フェライトとベイナイトの面積率FA(%)が次の式2
0≦FA≦−70×(%C)+41 ・・・ (式2)
の範囲にあり、4以上の真ひずみにて直径0.2〜0.4mmまで伸線した場合に、引張り強さが次の式3
3950−D×2600≦TS(MPa) ・・・ (式3)
を満たし、かつデラミネーションが発生していない。
これに対し、比較例では、次のような問題があった。
供試鋼No.16は、圧延後のインライン熱処理をステルモアによる衝風冷却により実施したことで初析フェライト+ベイナイト分率を抑制できなかったため、圧延線材のTSが低く、伸線後に狙いのTSを確保できなかった例である。
供試鋼No.17と22はC量が低いため、圧延線材のTSが低く、伸線後に狙いのTSを確保できなかった例である。
供試鋼No.18、20は各々、巻き取り温度と最終圧延温度が低かったために、圧延γ粒径が微細化し、初析フェライト+ベイナイト分率を抑制できなかった例である。
供試鋼No.19と21はC量が高すぎたために圧延線材のTSが高く、伸線中に延性が劣化して断線した例である。
供試鋼No.23は溶融ソルト処理時のソルト温度が低すぎたためベイナイトが多量に発生した例である。
伸線工程中にパテンティングおよびブルーイング処理を施さなくとも製造可能な、強度・引張強さ等の機械的特性に優れた鋼線および同鋼線を製造するための線材、およびこれらの製造方法を提供するものであり、産業上の効果は極めて顕著なものがある。

Claims (6)

  1. 質量%、質量ppmで、C :0.30〜0.50%、Si:0.10〜0.40%、Mn:0.20〜1.0%、N:15〜35ppm、O:15〜35ppm、Al:0.01%以下(0%を含む)、Ti:0.01%以下(0%を含む)を含有し、残部鉄および不可避的不純物よりなり、最終パテンティング後の引張強さTS(MPa)が、下記式1の範囲にあり、
    1000×(%C)+300≦TS≦1000×(%C)+450
    ・・・ (式1)
    かつ、初析フェライトとベイナイトの面積率FA(%)が下記式2の範囲にあり、
    FA≦−70×(%C)+41 ・・・ (式2)
    残部の95%以上がパーライト組織であり、該パーライト組織の平均ブロック粒径が20μm以下であることを特徴とする線径3.6〜7mmの高強度極細鋼線用線材。
  2. 更に、質量%で、Cr:0.5%以下、Ni:0.5%以下、Co:0.5%以下、V:0.5%以下、Cu:0.2%以下、Mo:0.2%以下、W:0.2%以下、Nb:0.1%以下よりなる群から選択される少なくとも1種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の高強度鋼線用線材。
  3. 請求項1または2に記載の線材に、熱処理を施すことなしに伸線を行うことにより、直径D(mm)を0.2〜0.4mmとした鋼線であって、引張強度TS(MPa)が3000MPa以上で、かつ下記式3を満たすことを特徴とするデラミネーションの発生しない高強度極細鋼線。
    3900−D×2600≦TS ・・・ (式3)
  4. 請求項1または2に記載の鋼成分の鋼片を熱間圧延し、仕上げ圧延温度を1000〜1200℃とし、次いで880〜960℃の温度にて巻き取った後に、520〜580℃の温度の溶融ソルトに30s以上浸漬する工程を含むパテンティング処理を施すことを特徴とする請求項1または2記載の高強度鋼線用線材の製造方法。
  5. 請求項1または2に記載の鋼成分の鋼片を熱間圧延し、仕上げ圧延温度を1000〜1200℃とし、次いで880〜960℃の温度にて巻き取った後に、800℃から600℃までの冷却速度を50〜200℃/sとして冷却し、その後、520〜580℃の温度域にて30s以上保持する工程を含むパテンティング処理を施すことを特徴とする請求項1または2記載の高強度鋼線用線材の製造方法。
  6. 請求項またはに記載のパテンティング処理に引き続いて、熱処理を施すことなしに、真ひずみ4%以上の条件で直径D(mm)が0.2〜0.4mmの範囲になるまで伸線を行うことを特徴とする高強度極細鋼線の製造方法。
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