リチウムイオン二次電池などのバッテリー(二次電池)は、充電、または放電を繰り返すことによって劣化し、容量が徐々に低下してしまう。そして、最終的にはバッテリーの電圧がそのバッテリーが内蔵されている電子機器の使用可能領域外となり、バッテリーとして機能しなくなってしまうという問題がある。
そこで、バッテリーの劣化を防止、または劣化を回復させるとともに、バッテリーの充放電性能を最大限に引き出し、バッテリーの充放電性能を長時間維持することを課題の一つとする。
また、バッテリーは、事前に一つ一つの寿命を予想することが困難である電子化学デバイスである。バッテリーの製造時には問題なく充放電でき、良品として出荷しても、その後、何らかの原因により、急にバッテリーとして機能しなくなってしまう不良品がある。
このように、バッテリーが急に機能しなくなってしまうことを防止し、一つ一つのバッテリーの長期信頼性を確保し、且つ、長期信頼性の向上を実現することも課題の一つとする。また、この課題を解決することでメンテナンスフリーのバッテリーを実現することも課題の一つとする。特に定置型電源、または蓄電設備においてはメンテナンスに莫大な費用と手間がかかることが課題である。
また、バッテリーの製造時には問題なく充放電でき、良品として出荷しても、その後、何らかの原因により、発熱し、膨張、発火、または爆発する不良品もある。そこで、バッテリーの安全性を確保することも課題の一つとする。
また、バッテリーの急速充電及び急速放電を可能とすることも課題の一つとする。または、バッテリーの新規な充電方法または放電方法を提供することも課題の一つとする。なお、これらの課題の記載は、他の課題の存在を妨げるものではない。なお、本発明の一態様は、これらの課題の全てを解決する必要はないものとする。なお、これら以外の課題は、明細書、図面、請求項などの記載から、自ずと明らかとなるものであり、明細書、図面、請求項などの記載から、これら以外の課題を抽出することが可能である。
リチウムイオン二次電池を代表とするバッテリーにおいて、様々な異常の発生や、劣化の原因は、電極表面に生成される反応物(『アカ(垢)』とも呼ぶ。)である。発明者は、リチウムイオン二次電池を代表とする電気化学反応を利用する電気化学デバイスにおいて、電極に電気的な刺激を加えて、充電時、または放電時に生じた反応物を付着させない、または、生成されてしまった反応物を溶解するという画期的な技術思想を見出した。
<リチウムイオン二次電池の充電・放電>
ここで、リチウムイオン二次電池の動作原理及びリチウムの析出原理について、図3及び図4の模式図を参照して説明する。
図3(A)は、充電時のリチウムイオン二次電池の電気化学反応を説明する模式図である。図4(A)は、放電時のリチウムイオン二次電池の電気化学反応を説明する模式図である。なお、図3(A)において、501はリチウムイオン二次電池であり、502は充電器を示す。図4(A)において、503は負荷を示す。
図3(A)及び図4(A)に示すように、リチウムイオン二次電池を一つの閉回路と見なすと、リチウムイオンの動きと電流の流れは同じになる。また、リチウムイオン二次電池の充電と放電では、アノード(陽極)とカソード(陰極)が入れ替わり、酸化反応と還元反応とが入れ替わるため、本明細書では、反応電位が高い電極を正極または+極(プラス極)と呼び、反応電位が低い電極を負極または−極(マイナス極)と呼ぶ。したがって、本明細書においては、充電中であっても、放電中であっても、逆パルス電流を流す場合であっても、放電電流を流す場合であっても、充電電流を流す場合であっても、正極は『正極』または『+極(プラス極)』と呼び、負極は『負極』または『−極(マイナス極)』と呼ぶことにする。
酸化反応や還元反応に関連したアノード(陽極)やカソード(陰極)という用語を用いると、充電時と放電時とでは、逆になってしまい、混乱を招く可能性がある。したがって、バッテリーの電極として、アノード(陽極)やカソード(陰極)という用語は、本明細書では用いないこととする。なお、アノード(陽極)やカソード(陰極)という用語を用いる場合には、充電時か放電時かを明記し、正極(プラス極)と負極(マイナス極)のどちらに対応するかも併記することとする。
なお、図3(A)及び図4(A)で示すリチウムイオン二次電池501(以下、バッテリー501と呼ぶ。)は、正極が正極活物質としてリン酸鉄リチウム(LiFePO4)を有し、負極が負極活物質として黒鉛を有するバッテリーである。
図3(A)に示すように、充電状態のバッテリー501において、正極では、式(1)の反応が起こる。
LiFePO4 → FePO4 + Li+ + e− (1)
また、負極では、式(2)の反応が起こる。
C6 + Li+ e− → LiC6 (2)
よって、バッテリー501の充電の全反応式は、式(3)となる。
LiFePO4 + C6 → FePO4 + LiC6 (3)
本来、負極においては、Liイオンが黒鉛に挿入されることでバッテリー501の充電が行われるが、何らかの原因で充電中に負極でLi金属の析出が起きたときは、式(4)の反応が起こる。つまり、負極では黒鉛へのLi挿入反応とLiの析出反応が両方起こることになる。
Li+ + e− → Li (4)
また、正極及び負極それぞれの電極の平衡電位は、材料とその平衡状態によって決まる。そして、正極及び負極それぞれの電極の材料がどのような平衡状態であるかで、電極間の電位差(電圧)が変化する。
図3(B)は、バッテリー501の充電時の電圧の時間変化を模式的に表した図である。図3(B)に示すように、充電の場合、電流が流れて反応が進むほど正極と負極間の電圧は上昇し、やがて電圧が大きく変動しなくなる。
図4(A)に示すように、放電状態のバッテリー501において、正極では、式(5)の反応が起こる。
FePO4 + Li+ + e− → LiFePO4 (5)
また、負極では、式(6)の反応が起こる。
LiC6 → C6 + Li+ + e− (6)
よって、バッテリー501の放電の全反応式は、式(7)となる。
FePO4 + LiC6 → LiFePO4 + C6 (7)
また、Li金属の析出が起きた後の放電では、負極において、式(8)の反応が起こる。つまり、負極では、黒鉛からのLiの脱離反応とLiの溶解反応が両方起こる。
Li → Li+ + e− (8)
図4(B)は、バッテリー501の放電時の電圧の時間変化を模式的に表した図である。図4(B)に示すように、大きく電圧が変化しないで放電電流が流れる。やがて、急激に電極間の電圧は減少し、放電が終了する。
<正極電位と負極電位>
正極電位とは、正極活物質の電気化学平衡電位であり、負極電位とは、負極活物質の電気化学平衡電位である。例えば、Li金属が電解液中で電気化学平衡となる電位を0V(vs. Li/Li+)と標記する。他の物質についても同様である。
0V(vs. Li/Li+)よりも、Li金属の電位が高ければ、Li金属からLi+イオンが電解液中に溶出し、低ければ電解液中のLi+イオンがLiとなって析出する。
正極活物質に用いられるリチウム化合物の電気化学平衡電位は、Li金属の電位を基準として知ることができる。例えば、リン酸鉄リチウム(LiFePO4)の電気化学平衡電位は、約3.5V(vs. Li/Li+)である。また、負極活物質の黒鉛のLiについての電気化学平衡電位は、約0.2V(vs. Li/Li+)である。
よって、リン酸鉄リチウム(LiFePO4)を正極活物質に、黒鉛を負極活物質に用いたリチウムイオン二次電池の電圧(電気化学セルの起電力)は、両者の電気化学平衡電位の差の3.3Vとなる。負極電位がLi金属並に低いことが、リチウムイオン二次電池の特徴である高いセル電圧の要因になっている。
リチウムイオン二次電池の信頼性の低下、容量の減少の原因に、負極表面へのリチウムの析出が挙げられる。しかしながら、負極電位(黒鉛の電気化学平衡電位)は、約0.2V(vs. Li/Li+)であり、リチウムの析出電位=0V(vs. Li/Li+)に近いことにより、負極表面には容易にリチウム析出が起こりうる。リチウムイオン二次電池の特徴である高いセル電圧の要因は、Li析出の大きな原因となっている。
図5を用いて、このことを説明する。図5は、バッテリー501の正極の電位と負極の電位の関係を模式的に示した図である。バッテリー501は、正極にリン酸鉄リチウムを有し、負極に黒鉛を有する。なお、図5において、矢印505は充電電圧を表す。
上述したように、電気化学平衡状態でのリン酸鉄リチウムを有する正極と、黒鉛を有する負極間の電位差は、3.5V−0.2V=3.3Vである。よって、充電電圧が3.3Vであると、正極において式(1)の反応と式(5)の反応が釣り合い、負極において、式(2)の反応と式(6)の反応が釣り合うため、電流が流れない。
よって、充電電流を流すためには、3.3Vより大きな充電電圧を正極と負極間に与える必要がある。充電電流を流すためのこの電圧を過電圧と呼ぶ。例えば、バッテリー501内部の直列抵抗成分を無視し、余分な充電電圧が全て、式(1)と式(2)の電極反応に使われるとすると、矢印505のように、余分の充電電圧は正極と負極それぞれに、過電圧(V1、V2)として配分される。
電極の単位面積に対して、より大きな電流密度を得るには、より大きな過電圧が必要となる。例えば、バッテリーに対して、急速充電を行うと、活物質表面の単位面積あたりの電流密度を大きくする必要があるため、より大きな過電圧が必要となる。
しかしながら、活物質の単位面積あたりの電流密度を大きくするために、過電圧を大きくしていくと、負極に対する過電圧V2が大きくなるため、図5に示すように、矢印505で示す充電電圧の下端の電位V3が、リチウム金属電極の電極電位を下回ることになる。すると、負極では、式(4)に示す反応が起こる。つまり、負極表面にリチウムが析出することになる。
そこで、上記技術思想により、充電後において、負極表面にLiの析出物(Li金属)が実質的に存在していないリチウムイオン二次電池の実現を可能にする。
また、急速充電では、負極電位が低下するため、Li析出がより生じやすくなる。また、低温環境下では、負極の抵抗が上がるため負極電位がより低下し、Li析出がより生じやすくなるが、上記技術思想により、金属イオン二次電池の急速充電、金属イオン二次電池の低温環境での充電が可能になる。
つまり、本発明の一形態は、正極活物質を含む第1の層を有する正極と、負極活物質を含む第2の層を有する負極と、電解液と、を有し、正極活物質は金属元素を含み、金属元素は、充電時に正イオンとして離脱する元素であり、負極の表面には、金属元素が実質的に析出していない電気化学デバイスにある。
また、金属元素の析出の抑制、析出した金属元素の溶解などのために電極に与える『電気的な刺激』の一形態として、『逆パルス電流』が用いられる。
本発明の一形態は、正極活物質を含む第1の層を有する正極と、負極活物質を含む第2の層を有する負極と、電解液と、を有し、正極と負極間を第1の向きに流れる第1の電流と、第1の方向とは逆方向に正極と負極間を流れる逆パルス電流とを交互に繰り返し、正極又は負極に供給することにより、充電又は放電されており、逆パルス電流を1回流す時間は、第1の電流を1回流す時間よりも短いことを特徴とする電気化学デバイスである。
逆パルス電流を流す時間は、第1の電流を流す時間の1/100以上1/3以下とすればよい。具体的な時間としては、逆パルス電流を流す時間は、0.1秒以上3分以下とすることができ、代表的には、3秒以上30秒以下である。
『逆パルス電流』とは、バッテリーの充電または放電を行う際に、正極と負極間に流れる電流(バッテリー充電時であれば充電電流、バッテリー放電時であれば放電電流)とは、逆方向に正極と負極間に電流を流すための信号である。逆パルス電流を電極に供給する時間は、直前の逆パルス電流の供給後に充電電流又は放電電流が流れていた時間よりも短ければよく、十分に短くすることが望ましい。そこで、逆パルス電流におけるパルスという表現は、バッテリーの充電時または放電時において充電電流又は放電電流とは逆向きの電流が瞬間的に流れることだけでなく、直感的に瞬間的であるとはみなせないような時間(例えば、1秒以上)であっても、充電電流又は放電電流とは逆向きの電流が一時的に正極と負極間に流れていることを表している。
<アカの形成と溶解 メカニズム1>
まず、電極表面にアカが形成されるメカニズムと、そのアカを溶解するメカニズムを以下に図6(A)乃至図6(F)を用いて説明する。
なお、アカとは、電極表面に生成された反応生成物であり、劣化物、析出物を含み、例えば、ウィスカーなどを指している。アカとは、代表的には、金属イオンの析出物であり、リチウムイオン二次電池の場合、リチウムである。また、アカは化合物を含んでもよい。
なお、劣化物とは構成要素(電極または電解液など)の一部が変質し、劣化した物質を指している。また、析出物とは、液状の物質から結晶または固体状成分が分離してでてくる物質であり、形状としては膜状や、粒状や、髭状などになり得る。また、ウィスカーとは結晶表面からその外側に向けて髭状に成長した結晶である。
図6(A)乃至図6(F)は、正極、負極、及び電解液を少なくとも備えたバッテリーの一部の模式的な断面図である。また、正極は、正極活物質を含む層(以下、正極活物質層と呼ぶ。)を少なくとも有し、負極は、負極活物質を含む層(以下、負極活物質層と呼ぶ。)を少なくとも有する。
なお、図6(A)乃至図6(F)では、理解を容易にするため、一方の電極101と、電解液103の近傍のみを示しており、実際には電極101、電解液103は、それぞれ、図1(B)のバッテリー10の正極12又は負極14、電解液13に対応している。また、電極101は正極であっても負極であってもよいが、『負極101』として以下、説明を行う。
図6(A)の紙面の右から左の方向がバッテリー充電時の電流Ia(充電電流)の流れる向きである。その向きの逆方向(紙面の左から右の方向)が逆パルス電流Iinvの流れる方向になる。よって、仮に、逆パルス電流Iinvの流れる向きを電流の正の向きであると定義すると、逆パルス電流の電流値は正の値(Iinv)となり、充電電流の電流値は負の値(−Ia)となる。
図6(A)、図6(B)、及び図6(C)は、バッテリーの電極101、代表的には、充電時に、負極101の表面に異常成長した反応生成物102a、102b、102cの様子を順次示した断面模式図である。
図6(A)は、負極101と正極(ここでは図示しない)の間に期間T1の間、電流を流して、負極101上に点在するように反応生成物102aが付着した段階の様子を示している。
図6(B)は、バッテリーの内部における負極と正極の間に、期間T2(T2はT1より長い)の間、電流を流した段階の様子を示している。反応生成物102bは付着した箇所から異常成長するとともに、負極101表面全面に付着している。
図6(C)は、期間T2よりも長い期間T3の間、電流を流した段階の様子を示している。図6(C)の反応生成物102cの突起部は、図6(B)に示した反応生成物102bの突起部よりも垂直方向に長く成長している。また、図6(C)の反応生成物102cの突起部の太さd2は、図6(B)に示した反応生成物102bの突起部の太さd1と同じ、または、より太くなっている。
電流を流す時間が経過するに従って、アカが電極表面全体に均一についていくのではない。まず、アカがつき始めると、そのアカがつき始めたところが他の場所よりアカがつきやすくなり、より多くのアカが付着し、大きな塊状に成長する。アカが多く付着した領域は、他の領域よりも導電性が高い。よって、アカが多く付着した領域に電流が集中しやすくなり、その付近の成長が他の領域より進行する。従って、アカが多く付着した領域と、アカが少なく付着した領域とで凹凸が形成され、図6(C)に示すように、時間が経過すればするほどその凹凸が大きくなる。最終的には、この大きな凹凸がバッテリーにとって大きな劣化の発生の原因となる。
図6(C)の状態の後、反応生成物が形成される電流方向とは逆方向に電流が流れるような信号、ここでは逆パルス電流を加えることで反応生成物を溶解する。図6(D)は、逆パルス電流を流した直後の様子を示しており、図6(D)中の矢印で表すように、反応生成物102dは、その成長点から溶け出す。これは、逆パルス電流を流すことで成長点付近の電位勾配が急となり、成長点が優先的に溶けやすくなるためである。なお成長点とは、反応生成物102dの表面の少なくとも一部であり、例えば先端部分の表面である。
アカが不均一に付着して凹凸が形成された状態で、逆パルス電流を流すと、突起部に電流が集中し、アカが溶け去る。アカが溶け去るとは、電極表面においてアカが多く付着した領域のアカを溶かしてアカの大きな部分を小さくし、好ましくは電極表面にアカがつく前の状態に戻すことである。なお、電極表面にアカがつく前の状態に戻らなくとも、アカを縮小することでも十分な効果を得ることができる。
図6(E)には、溶け去る途中の段階を示しており、反応生成物102dの成長点から溶け出して小さくなった反応生成物102eを図示している。
そして、反応生成物が形成される電流方向とは逆方向に電流が流れるように、逆パルス電流を正極又は負極の少なくとも一方から供給する。
逆パルス電流の供給を1回または複数回行うことで、理想的には、図6(F)に示すように負極101表面に反応生成物が付く前の初期状態にすることができる。
また、完全に初期状態に戻らなくとも、反応生成物が凝固する(密度が高くなる)ことを、逆パルス電流を流すことにより抑制することができる。従って、バッテリーの劣化の速度を遅くすることができる。
また、反応生成物が形成されるような向きに正極−負極間に電流を流している間に、この方向とは逆方向に正極−負極間に電流が流れるような逆パルス電流の供給を複数回行うことも本発明の技術思想の一つである。反応生成物に対して逆パルス電流を流すことで、反応生成物の成長点から反応生成物を電解液中に溶かす。複数回の逆パルス電流の供給により、反応生成物を成長させないようにすることが可能である。
また、バッテリー充電時に、逆パルス電流を供給する場合、その供給時間は、充電電流が流れている時間、すなわち反応生成物の形成時間よりも短いことも本発明の一つである。また、バッテリー放電時の場合も、放電電流が流れている時間よりも、逆パルス電流を供給する時間の方が短い。
また、反応生成物が電解液に溶ける速度が速ければ、或いは反応生成物の付着が少なければ、逆パルス電流を流す時間を非常に短時間としても、図6(D)の状態から図6(F)の状態にすることができる。
なお、逆パルス電流を流す条件(パルス幅、タイミングなど)によっては、1回のみの逆パルス電流の供給であっても、短時間で図6(D)の状態から図6(F)の状態にすることができる。
また、図6では負極を例に説明したが、特に限定されず、正極であっても同様の効果が得られる。例えば、充電時に、正極に電解液の分解物などの反応生成物が付着する場合に、逆パルス電流により、この反応生成物を溶解することができる。
また、図6では充電を例に説明したが、放電においても、負極、及び正極に付着した反応生成物を逆パルス電流により溶解することができる。
また、バッテリーにおいて、充電中に反応生成物が形成される電流方向とは逆方向に電流が流れるように、正極又は負極の少なくとも一方に逆パルス電流を複数回供給する。または放電中も同様に、反応生成物が形成される電流方向とは逆方向に電流が流れるように、正極又は負極の少なくとも一方に逆パルス電流を複数回供給する。このように逆パルス電流を供給することで、バッテリー劣化を防止、または劣化を回復させることが実現できる。
また、本実施の形態は、図6に示すメカニズムに限定されない。以下に、アカの形成と溶解についてメカニズムの別の例を説明する。
<アカの形成と溶解 メカニズム2>
図7(A)乃至図7(F)は、図6とは反応生成物の発生過程が一部異なるメカニズムを示しており、反応生成物が電極表面全体に付着し、且つ、部分的に異常成長する様子を示している。
図7(A)乃至図7(C)は、図6(A)乃至図6(C)と同様、充電時において、電極201、代表的には負極の表面に異常成長して形成された反応生成物202a、202b、202cの様子を順次示した断面模式図である。
図7(A)は、バッテリーの内部における負極と正極(ここでは図示しない)の間に、期間T1の間、電流を流して、負極である電極201表面全体に反応生成物202aが付着し、且つ、反応生成物202aが部分的に異常成長している段階の様子を示している。このような反応生成物202aが付着する電極201としては、例えば黒鉛(グラファイト)、黒鉛と酸化グラフェンの組み合わせ、酸化チタンなどが挙げられる。
また、図7(B)は負極と正極の間に期間T2(T2はT1より長い)の間、電流を流して成長した反応生成物202bの様子を示している。また、図7(C)は、期間T2よりも長い期間T3の間、電流を流して成長した反応生成物202cの様子を示している。この例でも、反応生成物202cの突起部の太さd12は、反応生成物202bの突起部の太さd11以上となる。
図7(C)の状態の後、反応生成物が形成される電流方向とは逆方向に電流が流れるような信号(逆パルス電流)を加えることで反応生成物を溶解する。図7(D)は、逆パルス電流を加えた直後の様子を示しており、図7(D)中の矢印で表すように、反応生成物202dは、その成長点から溶け出す。
図7(E)には、反応生成物が溶け去る途中の段階を示しており、反応生成物202dの成長点から溶け出して小さくなった反応生成物202eを図示している。
このように、形成される反応生成物の発生過程及びそのメカニズムに関係なく、本発明を適用することができ、反応生成物が形成される電流方向とは逆方向に電流が流れるような信号を印加することを1回または複数回行うことで、理想的には、図7(F)に示すように電極201表面に反応生成物がつく前の初期状態にすることができる。
<アカの形成と溶解 メカニズム3>
また、図8は、図6と異なり、電極表面に保護膜が形成されている例であり、保護膜で覆われていない領域に反応生成物が付着し、異常成長する様子を示している。
図8(A)、図8(B)、及び図8(C)は、電極301、代表的には負極の表面において、保護膜304に覆われていない領域に異常成長して形成された反応生成物302a、302b、302cの様子を順次示した断面模式図である。保護膜304としては酸化シリコン膜、酸化ニオブ膜、酸化アルミニウム膜から選ばれる1層または積層を用いる。
図8(A)は、バッテリーの内部における負極と正極(ここでは図示しない)の間に、期間T1の間、電流を流して、負極である電極301の露出部分に異常成長している反応生成物302aが付着した段階の様子を示している。
また、図8(B)は負極と正極の間に期間T2(T2はT1より長い)の間、電流を流して成長した反応生成物302bの様子を示している。また、図8(C)は、期間T2よりも長い期間T3の間、電流を流して成長した反応生成物302cの様子を示している。
図8(C)の状態の後、反応生成物が形成される電流方向とは逆方向に電流が流れるような信号(逆パルス電流)を加えることで反応生成物を溶解する。図8(D)は、逆パルス電流を加えた直後の様子を示しており、図8(D)中の矢印で表すように反応生成物302dは、その成長点から溶け出す。
図8(E)には、溶け去る途中の段階を示しており、反応生成物302dの成長点から溶け出して小さくなった反応生成物302eを図示している。なお、図8に示すメカニズムを利用することで、極めて新規な原理に基づく新規な電気化学デバイスを実現できる。
また、本明細書に開示されている技術思想は、一例であり、その改良及びバリエーションは、本発明の範囲内であると見なすことができる。
本発明の一形態により、反応生成物の形成時とは逆方向に正極と負極間に電流が流れるような信号である、逆パルス電流を正極と負極間に流すことで、電極表面に形成されてしまった反応生成物(アカ)を溶け去ることが可能になる。よって、本一形態により、電極の表面状態が変化しても変化前の初期状態に戻すことができる、或いは、電極表面の状態を変化させないようにすることができるため、原理的には劣化のないバッテリーを実現できる。つまりメンテナンスフリーのバッテリーが可能になるため、そのバッテリーを搭載した装置の長時間の使用が可能となる。
また、反応生成物の形成するメカニズムと、その反応生成物を溶け去るメカニズムを利用する本発明の技術思想を用いれば、電気化学デバイスに部分的に劣化する箇所があっても、劣化した箇所から劣化を修復し、理想的には初期状態に戻すことができる。
以下に、図面を用いて、本発明の実施の形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の説明に限定されず、本発明の趣旨及びその範囲から逸脱することなくその形態及び詳細を様々に変更し得ることは、当業者であれば容易に理解される。したがって、本発明は、以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
また、発明の実施の形態の説明に用いられる図面において、同一部分または同様な機能を有する部分には同一の符号を付することがある。また、同一の符号を付した構成要素については、その繰り返しの説明は省略することがある。
(実施の形態1)
本実施の形態では、逆パルス電流の供給方法について説明する。
<逆パルス電流の供給方法例>
図1を用いて、逆パルス電流について説明する。図1(A)は、バッテリー10(図1(B))の充電又は放電時に、バッテリー10の正極又は負極に供給する電流の時間変化を模式的に表した図である。Iaは、バッテリー10の充電時であれば充電電流であり、バッテリー10の放電時であれば放電電流に相当する電流である。ここでは、本実施の形態の理解を容易にするために、Iaは定電流としているが、バッテリー10の状態によって、その大きさを変えてもよい。同様に、逆パルス電流Iinvは定電流としているが、バッテリー10の状態によって、その大きさを変えてもよい。また、ここでは、逆パルス電流Iinvが流れる向きを、電流の正の向きであると定義する場合がある。その場合、逆パルス電流Iinvは、充電時と放電時とで逆向きに流れるため、充電時と放電時とでは、基準となる電流の向きは逆になる。そのため、充電時と放電時の両方において、逆パルス電流の電流値は正の値(Iinv)となり、充電電流の電流値、または、放電電流の電流値は、負の値(−Ia)となる。
本実施の形態の理解を容易にするために、まず、充電について説明する。図1(B)は、充電時のバッテリー10に供給される充電電流Ia、逆パルス電流Iinvを説明している。仮に、充電電流Iaと逆パルス電流Iinvの電流の向きを逆に定義すると、逆パルス電流の電流値は正の値(Iinv)となり、充電電流の電流値も、正の値(Ia)となる。
バッテリー10において、12は正極であり、13は電解液であり、14は負極であり、15はセパレータである。
図1(B)に示すように、バッテリー10の充電時には、充電電流Iaは、バッテリー10の外部において、負極14から正極12の方向に流れ、バッテリー10の内部においては、正極12から負極14の方向に流れるため、バッテリー10の外部において、正極12から負極14の方向に流れるように、バッテリー10の内部においては、負極14から正極12の方向に流れるように、逆パルス電流Iinvが、負極14または正極12に供給される。図1(B)の場合は、充電時にバッテリー10の外部から正極12の方に電流Iaを供給し、正極12からバッテリー10の外部の方に逆パルス電流Iinvを供給している。
また、図1(C)に示すように、バッテリー10の放電時には、放電電流Iaは、バッテリー10の外部において、正極12から負極14へ流れ、バッテリー10の内部においては、負極14から正極12の方向に流れるため、バッテリー10の外部において、負極14から正極12の方向に流れるように、バッテリー10の内部においては、正極12から負極14の方向に流れるように、逆パルス電流Iinvが負極14または正極12に供給される。図1(C)の場合は、放電時にバッテリー10の外部から負極14の方に電流Iaを供給し、負極14からバッテリー10の外部の方に逆パルス電流Iinvを供給している。
なお、電流を供給する、と記載しているが、バッテリー10の外部に、電流や電圧などの電力を供給する供給源が存在して、その供給源からバッテリー10に電流が供給されることも可能であるし、抵抗素子や容量素子などの受動素子や、トランジスタやダイオードなどの能動素子などで構成された負荷に対して、バッテリー10が供給源となって、バッテリー10から負荷に電流が供給されることも可能である。バッテリー10が電力の供給源となって、バッテリー10から負荷に電流が供給されるという場合は、バッテリー10を放電している場合に相当する。よって、バッテリー10の充電時における逆パルス電流Iinvは、バッテリー10を放電している場合の電流に相当し、バッテリー10の放電時における逆パルス電流Iinvは、バッテリー10を充電している場合の電流に相当する。
図1(A)に示すように、充電(放電)時には充電(放電)電流Iaを正極12又は負極14に供給している間に、複数回繰り返し逆パルス電流Iinvを正極12又は負極14に供給する。また、逆パルス電流の1回の供給時間Tinvは、電流Iaを流す時間Taよりも短くする。時間Tinvは、充電レート又は放電レート等を考慮し、設定される。
逆パルス電流の1回の供給時間Tinvは、例えば、電流Iaの1回の供給時間Taの1/100以上1/3以下とすればよい。またTinv<Taの条件下で、時間Tinvの具体的な時間としては、0.1秒以上3分以下であることが好ましく、代表的には、3秒以上30秒以下とする。
なお、図1(A)では、逆パルス電流Iinvの大きさ(値の絶対値)が、電流Iaの大きさ(値の絶対値)よりも大きい例を示している。また、逆パルス電流Iinvの大きさを電流Iaの大きさと等しくする、あるいはそれよりも小さくしてもよい。本実施の形態では、電流Iaを供給している期間に、逆パルス電流が複数回の正極と負極間に流れればよい。
図2を用いて、逆パルス電流によるバッテリーの劣化防止、抑制効果について説明する。図2は、充電動作時の正極12から供給される電流(充電電流Ia、逆パルス電流Iinv)の波形と、負極14表面での反応生成物の付着と、溶解の過程を模式的に表した図である。なお、図2において、反応生成物の生成、溶解のメカニズムは、図6(A)乃至図6(F)を適用している。
充電方式は、定電流としている。まず、充電開始時では、負極14表面には反応生成物の付着がなく、バッテリー10の出荷直後の初期状態である。充電電流Iaをバッテリー10に供給し続けると、やがて、負極14の表面に反応生成物22aが付着する。反応生成物22aは、例えば、リチウムなどの金属の析出物である。時間が経過することで、反応生成物22aは成長し、反応生成物22bとなる。そこで、逆パルス電流Iinvを流すことで、負極14表面に反応生成物22bが存在しない状態とする。反応生成物22bは、例えば、電解液13中にイオンとなって溶解する。
そして、逆パルス電流Iinvの供給を停止し、充電電流Iaを供給する。充電電流Iaを供給することで、負極14表面には、反応生成物22bが再度付着するが、逆パルス電流Iinvを流す度に、反応生成物22bを溶解させることができる。
よって、充電終了時も、負極14は、充電開始時(出荷時)と同様に、反応生成物22bが存在しない状態とすることができる。つまり、逆パルス電流Iinvを1回流すことで、負極14表面に反応生成物22bが存在しない状態とすることが好ましい。このような充電の実現は、逆パルス電流Iinvの大きさ、逆パルス電流Iinvの供給時間Tinv、逆パルス電流を流す間隔(充電電流Iaを供給している時間Taに当たる)を調節することで可能になる。
例えば、充電電流Iaを流す時間Taが長くなると、反応生成物が大きくなることで、反応生成物が溶解させることが難しくなるだけでなく、反応生成物が変質する、反応生成物が凝固する(密度が高くなる)ことで、反応生成物が溶解しにくくなる。そのため、負極14及び正極12の表面を良好な状態に維持するためには、上述したように、逆パルス電流Iinvの大きさ、時間Tinv、及び時間Taを設定すればよい。
なお、図2の例では、充電状態の監視のため、充電電流Iaの供給で充電終了としている。最後の充電電流Iaの供給は、負極14表面に反応生成物が成長しないように、短時間とすることが好ましい。また、充電の最後に供給する電流が、逆パルス電流Iinvになるように、制御を行ってもよい。また、図2の例では、時間Tinv、Taをそれぞれ等しくしているが、これに限定されない。
<バッテリーの構成例>
以下、図9(A)乃至図9(C)を用いて、バッテリーの構成の一例を説明する。
図9(A)は、バッテリー400の断面図である。正極402は、正極集電体と、これに接するように設けられた正極活物質層を少なくとも有する。負極404は、負極集電体と、これに接するように設けられた負極活物質層を少なくとも有する。また、正極活物質層及び負極活物質層は対向しており、正極活物質層及び負極活物質層の間には、電解液406及びセパレータ408が設けられている。負極404は、図6の電極101、図7の電極201、図8の電極301に対応している。
バッテリー400としては、例えばリチウムイオン二次電池、鉛蓄電池、リチウムイオンポリマー二次電池、ニッケル水素蓄電池、ニッケルカドミウム蓄電池、ニッケル鉄蓄電池、ニッケル・亜鉛蓄電池、酸化銀・亜鉛蓄電池等の二次電池、レドックス・フロー電池、亜鉛・塩素電池、亜鉛臭素電池等の液循環型の二次電池、アルミニウム・空気電池、空気亜鉛電池、空気・鉄電池等のメカニカルチャージ型の二次電池、ナトリウム・硫黄電池、リチウム・硫化鉄電池等の高温動作型の二次電池などを用いることができる。
なお、本実施の形態は、バッテリーに限定されず、電気化学反応を利用するデバイス(電気化学デバイス)に適用可能である、例えばリチウムイオンキャパシタなどの金属イオンキャパシタにも本実施の形態は適用が可能である。
図9(B)はバッテリー用電極410(図9(A)の正極402、及び負極404に対応する。)の縦断面図である。図9(B)に示すように、電極410は、集電体412上に活物質層414を有する。図9(B)には、活物質層414は集電体412の一方の面にのみ形成されているが、活物質層414は集電体412の両面に有してもよい。また、活物質層414は集電体412の表面全域に形成する必要はなく、外部端子と接続するための領域等、非塗布領域を適宜設ける。
<集電体>
集電体412には、バッテリー400内で化学的変化を引き起こさずに高い導電性を示す限り、特別な制限はない。例えば、金、白金、亜鉛、鉄、ニッケル、銅、アルミニウム、チタン、タンタル等の金属、これらの合金、ステンレス、及び焼結した炭素などを用いることができる。また、シリコンと反応してシリサイドを形成する金属を用いてもよい。シリコンと反応してシリサイドを形成する金属元素としては、ジルコニウム、チタン、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、コバルト、ニッケル等がある。集電体412は、箔状、板状(シート状)、網状、円柱状、コイル状、パンチングメタル状、エキスパンドメタル状等の様々な形状で形成することができる。集電体412は、厚みが10μm以上30μm以下のものを用いるとよい。
<活物質層>
活物質層414は、少なくとも活物質を有する。また、活物質層414は、活物質の他、活物質の密着性を高めるための結着剤(バインダ)、活物質層414の導電性を高めるための導電助剤等を有してもよい。
<正極活物質>
バッテリー用電極410を正極402として用いる場合には、活物質層414に含まれる活物質(以下、正極活物質という。)として、リチウムイオンの挿入及び脱離が可能な材料を用いることができる。このような正極活物質としては、例えば、オリビン型の結晶構造、層状岩塩型の結晶構造、またはスピネル型の結晶構造を有する化合物等がある。正極活物質として、より具体的には、例えばLiFeO2、LiCoO2、LiNiO2、LiMn2O4、V2O5、Cr2O5、MnO2等の化合物を用いることができる。
オリビン型構造の化合物としては、リチウム含有複合リン酸塩(一般式LiMPO4(Mは、Fe(II)、Mn(II)、Co(II)、Ni(II)の一以上))があり、この代表例としては、LiFePO4、LiNiPO4、LiCoPO4、LiMnPO4、LiFeaNibPO4、LiFeaCobPO4、LiFeaMnbPO4、LiNiaCobPO4、LiNiaMnbPO4(a+bは1以下、0<a<1、0<b<1)、LiFecNidCoePO4、LiFecNidMnePO4、LiNicCodMnePO4(c+d+eは1以下、0<c<1、0<d<1、0<e<1)、LiFefNigCohMniPO4(f+g+h+iは1以下、0<f<1、0<g<1、0<h<1、0<i<1)等がある。
特に、LiFePO4は、安全性、安定性、高容量密度、高発生電位、及び、初期酸化(充電)時に引き抜けるリチウムの存在など、正極活物質に求められる特性をバランスよく備えているため、好ましい。
層状岩塩型の結晶構造を有するリチウム含有化合物としては、例えば、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、LiNiO2、LiMnO2、Li2MnO3、LiNi0.8Co0.2O2等のNiCo系(一般式は、LiNixCo1−xO2(0<x<1))、LiNi0.5Mn0.5O2等のNiMn系(一般式は、LiNixMn1−xO2(0<x<1))、LiNi1/3Mn1/3Co1/3O2等のNiMnCo系(NMCともいう。一般式は、LiNixMnyCo1−x−yO2(x>0、y>0、x+y<1))がある。さらに、Li(Ni0.8Co0.15Al0.05)O2、Li2MnO3−LiMO2(M=Co、Ni、Mn)等がある。
スピネル型の結晶構造を有するリチウム含有化合物としては、例えば、LiMn2O4、Li1+xMn2−xO4、Li(MnAl)2O4、LiMn1.5Ni0.5O4等がある。
LiMn2O4等のリチウム及びマンガンを含むスピネル型の結晶構造を有する化合物を正極活物質に用いる場合、この化合物に少量のニッケル酸リチウム(LiNiO2やLiNi1−xMO2(M=Co、Al等))を混合すると、マンガンの溶出を抑制する、電解液の分解を抑制する等の利点があり好ましい。
また、正極活物質として、一般式Li(2−j)MSiO4(Mは、Fe(II)、Mn(II)、Co(II)、Ni(II)の一以上、0≦j≦2)等のリチウム含有化合物を用いることができる。一般式Li(2−j)MSiO4の代表例としては、Li(2−j)FeSiO4、Li(2−j)NiSiO4、Li(2−j)CoSiO4、Li(2−j)MnSiO4、Li(2−j)FekNilSiO4、Li(2−j)FekColSiO4、Li(2−j)FekMnlSiO4、Li(2−j)NikColSiO4、Li(2−j)NikMnlSiO4(k+lは1以下、0<k<1、0<l<1)、Li(2−j)FemNinCoqSiO4、Li(2−j)FemNinMnqSiO4、Li(2−j)NimConMnqSiO4(m+n+qは1以下、0<m<1、0<n<1、0<q<1)、Li(2−j)FerNisCotMnuSiO4(r+s+t+uは1以下、0<r<1、0<s<1、0<t<1、0<u<1)等のリチウム化合物を材料として用いることができる。
また、正極活物質として、AxM2(XO4)3(A=Li、Na、Mg、M=Fe、Mn、Ti、V、Nb、Al、X=S、P、Mo、W、As、Si)の一般式で表されるナシコン型化合物を用いることができる。ナシコン型化合物としては、Fe2(MnO4)3、Fe2(SO4)3、Li3Fe2(PO4)3等がある。また、正極活物質として、Li2MPO4F、Li2MP2O7、Li5MO4(M=Fe、Mn)の一般式で表される化合物、NaF3、FeF3等のペロブスカイト型フッ化物、TiS2、MoS2等の金属カルコゲナイド(硫化物、セレン化物、テルル化物)、LiMVO4等の逆スピネル型の結晶構造を有するリチウム含有化合物、バナジウム酸化物系(V2O5、V6O13、LiV3O8等)、マンガン酸化物系、有機硫黄系等の材料を用いることができる。
なお、キャリアイオンが、リチウムイオン以外のアルカリ金属イオン、またはアルカリ土類金属イオンの場合、正極活物質として、上記リチウム含有化合物において、リチウムの代わりに、アルカリ金属(例えば、ナトリウムやカリウム等)、アルカリ土類金属(例えば、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ベリリウム、マグネシウム等)を用いてもよい。
<負極活物質>
バッテリー用電極410をバッテリー400の負極404として用いる場合には、活物質層414に含まれる活物質は、負極活物質であり、例えば、リチウムの溶解・析出、又はリチウムイオンの挿入・脱離が可能な材料を用いることができ、リチウム金属、炭素系材料、合金系材料等を用いることができる。
リチウム金属は、酸化還元電位が低く(標準水素電極に対して−3.045V)、重量及び体積当たりの比容量が大きい(それぞれ3860mAh/g、2062mAh/cm3)ため、好ましい。
炭素系材料としては、黒鉛、易黒鉛化性炭素(ソフトカーボン)、難黒鉛化性炭素(ハードカーボン)、カーボンナノチューブ、グラフェン、カーボンブラック等がある。
黒鉛としては、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、コークス系人造黒鉛、ピッチ系人造黒鉛等の人造黒鉛や、球状化天然黒鉛等の天然黒鉛がある。
リチウムイオンが黒鉛に挿入されている状態(リチウム−黒鉛層間化合物の生成状態)で、黒鉛の電位はリチウム金属と同程度に卑な電位(0.1〜0.3V vs.Li/Li+)となる。これにより、リチウムイオン二次電池は高い作動電圧を示すことができる。さらに、黒鉛は、単位体積当たりの容量が比較的高い、体積膨張が小さい、安価である、リチウム金属に比べて安全性が高い等の利点を有するため、好ましい。
負極活物質として、リチウムとの合金化反応・脱合金化反応により充放電反応を行うことが可能な合金系材料も用いることができる。キャリアイオンがリチウムイオンである場合、例えば、Al、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Ag、Au、Zn、Cd、In、Ga等のうち少なくとも一つを含む材料を用いることができる。このような元素は炭素に対して容量が大きく、特にシリコンは理論容量が4200mAh/gと飛躍的に高い。このため、負極活物質にシリコンを用いることが好ましい。このような元素を用いた合金系材料としては、例えば、SiO、Mg2Si、Mg2Ge、SnO、SnO2、Mg2Sn、SnS2、V2Sn3、FeSn2、CoSn2、Ni3Sn2、Cu6Sn5、Ag3Sn、Ag3Sb、Ni2MnSb、CeSb3、LaSn3、La3Co2Sn7、CoSb3、InSb、SbSn等がある。
また、負極活物質として、二酸化チタン(TiO2)、リチウムチタン酸化物(Li4Ti5O12)、リチウム−黒鉛層間化合物、(LixC6)、五酸化ニオブ(Nb2O5)、酸化タングステン(WO2)、酸化モリブデン(MoO2)等の酸化物を用いることができる。
また、負極活物質として、リチウムと遷移金属の複窒化物である、Li3N型構造をもつLi3−xMxN(M=Co、Ni、Cu)を用いることができる。例えば、Li2.6Co0.4N3は大きな充放電容量(900mAh/g、1890mAh/cm3)を示し好ましい。
リチウムと遷移金属の複窒化物を用いると、負極活物質中にリチウムイオンを含むため、正極活物質としてリチウムイオンを含まないV2O5、Cr3O8等の材料と組み合わせることができ好ましい。なお、正極活物質にリチウムイオンを含む材料を用いる場合でも、あらかじめ正極活物質に含まれるリチウムイオンを脱離させておくことで, 負極活物質としてリチウムと遷移金属の窒化物を用いることができる。
また、コンバージョン反応が生じる材料を負極活物質として用いることもできる。例えば、酸化コバルト(CoO)、酸化ニッケル(NiO)、酸化鉄(FeO)等の、リチウムと合金化反応を行わない遷移金属酸化物を負極活物質に用いてもよい。コンバージョン反応が生じる材料としては、さらに、Fe2O3、CuO、Cu2O、RuO2、Cr2O3等の酸化物、CoS0.89、NiS、CuS等の硫化物、Zn3N2、Cu3N、Ge3N4等の窒化物、NiP2、FeP2、CoP3等のリン化物、FeF3、BiF3等のフッ化物でも起こる。なお、上記フッ化物の電位は高いため、正極活物質として用いてもよい。
<結着剤>
結着剤(バインダ)として、代表的なポリフッ化ビニリデン(PVDF)の他、ポリイミド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニルクロライド、エチレンプロピレンジエンポリマー、スチレン−ブタジエンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、フッ素ゴム、ポリ酢酸ビニル、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレン、ニトロセルロース等を用いることができる。
<導電助剤>
導電助剤としては、導電助剤としては比表面積が大きい材料が望ましく、アセチレンブラック(AB)等を用いることができる。また、カーボンナノチューブ、グラフェン、フラーレンといった炭素材料を用いることもできる。
グラフェンは薄片状であり、高い導電性を有するという優れた電気特性、及び柔軟性並びに機械的強度という優れた物理特性を有する。そのため、グラフェンを、導電助剤として用いることにより、活物質同士の接触点や、接触面積を増大させることができる。
なお、本明細書において、グラフェンは、単層のグラフェン、又は2層以上100層以下の多層グラフェンを含む。単層グラフェンとは、π結合を有する1原子層の炭素分子のシートのことをいう。また、酸化グラフェンとは、上記グラフェンが酸化された化合物のことをいう。なお、酸化グラフェンを還元してグラフェンを形成する場合、酸化グラフェンに含まれる酸素は全て脱離されずに、一部の酸素はグラフェンに残存する。グラフェンに酸素が含まれる場合、酸素の割合は、XPS(X線光電子分光法)で測定した場合にグラフェン全体の2atomic%以上20atomic%以下、好ましくは3atomic%以上15atomic%以下である。
ここで、酸化グラフェンを還元した得られたグラフェンが多層グラフェンである場合、グラフェンの層間距離は0.34nmより大きく0.5nm以下、好ましくは0.38nm以上0.42nm以下、さらに好ましくは0.39nm以上0.41nm以下である。通常のグラファイトは、単層グラフェンの層間距離が0.34nmであり、酸化グラフェンを還元したグラフェンの方が、その層間距離が長いため、多層グラフェンの層間におけるキャリアイオンの移動が容易となる。
また、導電助剤としては、上述した炭素材料の代わりに、例えば、銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金などの金属粉末や金属繊維、導電性セラミックス材料等を用いることができる。
ここで、導電助剤として、グラフェンを用いた場合の活物質層について、図9(C)を用いて説明する。
図9(C)は、活物質層414の拡大縦断面図である。活物質層414は、粒状の活物質422と、導電助剤としてのグラフェン424と、結着剤(バインダともいう。図示せず)と、を含む。
活物質層414の縦断面においては、活物質層414の内部において概略均一にシート状のグラフェン424が分散する。図9(C)においてはグラフェン424を模式的に太線で表しているが、実際には炭素分子の単層又は多層の厚みを有する薄膜である。複数のグラフェン424は、複数の粒状の活物質422を包むように、覆うように、あるいは複数の粒状の活物質422の表面上に張り付くように形成されているため、互いに面接触している。また、グラフェン424同士も互いに面接触することで、複数のグラフェン424により三次元的な電子伝導のネットワークを形成している。
これは、グラフェン424の原料として、極性溶媒中での分散性が極めて高い酸化グラフェンを用いるためである。均一に分散した酸化グラフェンを含有する分散媒から溶媒を揮発除去し、酸化グラフェンを還元してグラフェンとするため、活物質層414に残留するグラフェン424は部分的に重なり合い、互いに面接触する程度に分散していることで電子伝導の経路を形成している。
従って、活物質422と点接触するアセチレンブラック等の従来の粒状の導電助剤と異なり、グラフェン424は接触抵抗の低い面接触を可能とするものであるから、導電助剤の量を増加させることなく、粒状の活物質422とグラフェン424との電子伝導性を向上させるができる。よって、活物質層414における活物質422の比率を増加させることができる。これにより、蓄電池の放電容量を増加させることができる。
<電解液>
電解液406の電解質としては、キャリアイオンを有する材料を用いる。電解質の代表例としては、LiPF6、LiClO4、Li(FSO2)2N、LiAsF6、LiBF4、LiCF3SO3、Li(CF3SO2)2N、Li(C2F5SO2)2N等のリチウム塩がある。これらの電解質は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で用いてもよい。また、分解反応生成物層をより安定にするため、電解液にビニレンカーボネート(VC)を少量(1wt%)添加して電解液の分解をより少なくしてもよい。
なお、キャリアイオンが、リチウムイオン以外のアルカリ金属イオンや、アルカリ土類金属イオン、の場合、電解質として、上記リチウム塩において、リチウムの代わりに、アルカリ金属(例えば、ナトリウムやカリウム等)、アルカリ土類金属(例えば、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ベリリウム、またはマグネシウム等)を用いてもよい。
また、電解液406の溶媒としては、キャリアイオンの移送が可能な材料を用いる。電解液406の溶媒としては、非プロトン性有機溶媒が好ましい。非プロトン性有機溶媒の代表例としては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート(DEC)、γーブチロラクトン、アセトニトリル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン等があり、これらの一つまたは複数を用いることができる。また、電解液406の溶媒としてゲル化される高分子材料を用いることで、漏液性等に対する安全性が高まる。また、蓄電池の薄型化及び軽量化が可能である。ゲル化される高分子材料の代表例としては、シリコーンゲル、アクリルゲル、アクリロニトリルゲル、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、フッ素系ポリマー等がある。また、電解液406の溶媒として、難燃性及び難揮発性であるイオン液体(常温溶融塩)を一つまたは複数用いることで、蓄電池の内部短絡や、過充電等によって内部温度が上昇しても、蓄電池の破裂や発火などを防ぐことができる。
また、電解液406の代わりに、硫化物系や酸化物系等の無機物材料を有する固体電解質や、PEO(ポリエチレンオキシド)系等の高分子材料を有する固体電解質を用いることができる。固体電解質を用いる場合には、セパレータやスペーサの設置が不要となる。また、電池全体を固体化できるため、漏液のおそれがなくなり安全性が飛躍的に向上する。
<セパレータ>
セパレータ408は、セルロース(紙)、または空孔が設けられたポリプロピレン、ポリエチレン等の絶縁体を用いることができる。
また、アカは、電極材料または電極と接する液状物質の材料によっては、導電物や絶縁物になりうる。アカは、電流経路を変化させる導電物となり短絡を引き起こす恐れ、或いは絶縁物となり電流経路を妨害する恐れがある。
このようなアカが生成されうる構成を有するバッテリーであれば、本実施の形態を適用することができる。
また、バッテリーに限定されず、このようなアカが生成され、劣化しうる構成を有する電気化学デバイスであれば、本実施の形態により、劣化を防止、または劣化を回復させることが実現でき、その電気化学デバイスの長期信頼性の向上を実現できる。
(実施の形態2)
本実施の形態では、非水系二次電池の構造について、図10(A)乃至図12(C)を用いて説明する。
図10(A)は、コイン型(単層偏平型)のバッテリーの外観図であり、部分的にその断面構造を併せて示した図である。
コイン型のバッテリー950は、正極端子を兼ねた正極缶951と負極端子を兼ねた負極缶952とが、ポリプロピレン等で形成されたガスケット953で絶縁シールされている。正極954は、正極集電体955と、これと接するように設けられた正極活物質層956により形成される。また、負極957は、負極集電体958と、これに接するように設けられた負極活物質層959により形成される。正極活物質層956と負極活物質層959との間には、セパレータ960と、電解液(図示せず)とを有する。
負極957は負極集電体958上に負極活物質層959を有し、正極954は正極集電体955上に正極活物質層956を有する。
正極954、負極957、セパレータ960、電解液には、それぞれ上述した部材を用いることができる。
正極缶951、負極缶952には、電解液に対して耐腐食性のあるニッケル、アルミニウム、チタン等の金属、又はこれらの合金やこれらと他の金属との合金(例えば、ステンレス鋼等)を用いることができる。また、電解液による腐食を防ぐため、ニッケルやアルミニウム等を被覆することが好ましい。正極缶951は正極954と、負極缶952は負極957とそれぞれ電気的に接続する。
これら負極957、正極954及びセパレータ960を電解液に含浸させ、図10(A)に示すように、正極缶951を下にして正極954、セパレータ960、負極957、負極缶952をこの順で積層し、正極缶951と負極缶952とをガスケット953を介して圧着してコイン型のバッテリー950を製造する。
次に、ラミネート型のバッテリーの一例について、図10(B)を参照して説明する。図10(B)では、説明の便宜上、部分的にその内部構造を露出して記載している。
図10(B)に示すラミネート型のバッテリー970は、正極集電体971及び正極活物質層972を有する正極973と、負極集電体974及び負極活物質層975を有する負極976と、セパレータ977と、電解液(図示せず)と、外装体978と、を有する。外装体978内に設けられた正極973と負極976との間にセパレータ977が設置されている。また、外装体978内は、電解液で満たされている。なお、図10(B)においては、正極973、負極976、セパレータ977をそれぞれ一枚ずつ用いているが、これらを交互に積層した積層型の二次電池としてもよい。
正極、負極、セパレータ、電解液(電解質及び溶媒)には、それぞれ上述した部材を用いることができる。
図10(B)に示すラミネート型のバッテリー970において、正極集電体971及び負極集電体974は、外部との電気的接触を得る端子(タブ)の役割も兼ねている。そのため、正極集電体971及び負極集電体974の一部は、外装体978から外側に露出するように配置される。
ラミネート型のバッテリー970において、外装体978には、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、アイオノマー、ポリアミド等の材料からなる膜上に、アルミニウム、ステンレス、銅、ニッケル等の可撓性に優れた金属薄膜を設け、さらに該金属薄膜上に外装体の外面としてポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂等の絶縁性合成樹脂膜を設けた三層構造のラミネートフィルムを用いることができる。このような三層構造とすることで、電解液や気体の透過を遮断するとともに、絶縁性を確保し、併せて耐電解液性を有する。
次に、円筒型のバッテリーの一例について、図11を参照して説明する。円筒型のバッテリー980は図11(A)に示すように、上面に正極キャップ(電池蓋)981を有し、側面及び底面に電池缶(外装缶)982を有している。これら正極キャップ981と電池缶982とは、ガスケット(絶縁パッキン)990によって絶縁されている。
図11(B)は、円筒型のバッテリー980の断面を模式的に示した図である。中空円柱状の電池缶982の内側には、帯状の正極984と負極986とがセパレータ985を間に挟んで捲回された電池素子が設けられている。図示しないが、電池素子はセンターピンを中心に捲回されている。電池缶982は、一端が閉じられ、他端が開いている。
正極984、負極986、セパレータ985には、上述した部材を用いることができる。
電池缶982には、電解液に対して耐腐食性のあるニッケル、アルミニウム、チタン等の金属、又はこれらの合金やこれらと他の金属との合金(例えば、ステンレス鋼等)を用いることができる。また、電解液による腐食を防ぐため、ニッケルやアルミニウム等を被覆することが好ましい。電池缶982の内側において、正極、負極及びセパレータが捲回された電池素子は、対向する一対の絶縁板988、989により挟まれている。
また、電池素子が設けられた電池缶982の内部は、電解液(図示せず)が封入されている。電解液には、上述した電解質及び溶媒を用いることができる。
円筒型のバッテリー980に用いる正極984及び負極986は捲回するため、集電体の両面に活物質層を形成する。正極984には正極端子(正極集電リード)983が接続され、負極986には負極端子(負極集電リード)987が接続される。正極端子983及び負極端子987は、ともにアルミニウムなどの金属材料を用いることができる。正極端子983は安全弁機構992に、負極端子987は電池缶982の底にそれぞれ抵抗溶接される。安全弁機構992は、PTC(Positive Temperature Coefficient)素子991を介して正極キャップ981と電気的に接続されている。安全弁機構992はバッテリー980の内圧が上昇して、所定の閾値を超えた場合に、正極キャップ981と正極984との電気的な接続を切断するものである。また、PTC素子991は温度が上昇した場合に抵抗が増大する熱感抵抗素子であり、抵抗の増大により電流量を制限して、バッテリー980の異常発熱を防止するものである。PTC素子991には、チタン酸バリウム(BaTiO3)系半導体セラミックス等を用いることができる。
次に、角型のバッテリーの一例について、図12(A)を参照して説明する。図12(A)に示す捲回体6601は、端子6602と、端子6603を有する。捲回体6601は、セパレータ6616を挟んで負極6614と、正極6615とが重なり合って積層されている積層シートを捲回したものである。図12(B)に示すように、この捲回体6601を角型の封止缶6604などで覆うことにより角型のバッテリー6600が形成される。なお、負極6614、正極6615及びセパレータ6616からなる積層の積層数は、バッテリー6660に必要な容量と封止缶6604の容積に応じて適宜設計すればよい。図12(C)は、封止缶6604を閉じた状態を示す。
次に、蓄電装置の一例であるリチウムイオンキャパシタについて説明する。
リチウムイオンキャパシタは、電気二重層キャパシタ(EDLC。Electric Double Layer Capacitor)の正極に、炭素材料を用いたリチウムイオン二次電池の負極を組み合わせたハイブリッドキャパシタであり、正極と負極の蓄電原理が異なる非対称キャパシタである。正極が電気二重層を形成し物理的作用により充放電を行うのに対して、負極はリチウムの化学的作用により充放電を行う。この負極活物質である炭素材料等に予めリチウムを吸蔵させた負極を用いることで、従来の負極に活性炭を用いた電気二重層キャパシタに比べ、エネルギー密度を飛躍的に向上させている。
リチウムイオンキャパシタは、リチウムイオン二次電池の正極活物質層に代えて、リチウムイオン及びアニオンの少なくとも一つを可逆的に担持することができる材料を用いればよい。このような材料として、例えば活性炭、導電性高分子、ポリアセン系有機半導体(PAS。PolyAcenic Semiconductor)等が挙げられる。
リチウムイオンキャパシタは、充放電の効率が高く、急速充放電が可能であり、繰り返し利用による寿命も長い。
このようなリチウムイオンキャパシタを、本発明の一態様に係る蓄電装置に用いることができる。これにより不可逆容量の発生を抑制し、サイクル特性を向上させた蓄電装置を作製することができる。
本実施の形態は、他の実施の形態と自由に組み合わせることができる。具体的には、本実施の形態で得られるバッテリーなどの電気化学デバイスに反応生成物が形成される電流方向とは逆方向に電流が流れるような信号(逆パルス電流)を加えて、反応生成物を溶解することで、電気化学デバイスの劣化を防止、または劣化を回復させるとともに、電気化学デバイスの充電特性・放電性能を最大限に引き出し、電気化学デバイスの充電性能及び放電性能を長時間維持する。また、本実施の形態で得られる電気化学デバイスに反応生成物が形成される電流方向とは逆方向に電流が流れるような信号(逆パルス電流)を加えることで、その出荷時には問題なく充放電でき、良品として出荷しても、その後、何らかの原因により、急にバッテリーとして機能しなくなってしまう不良品をなくすことができる。
(実施の形態3)
本発明の一態様に係る電気化学デバイスは、蓄電装置として、様々な電気機器の電源として用いることができる。また、本発明の一態様により、電気化学デバイスに反応生成物が形成される電流方向とは逆方向に電流が流れるような信号(逆パルス電流)を加えることでメンテナンスフリーのバッテリーを実現することもできる。
ここで電気機器とは、電気の力によって作用する部分を含む工業製品をいう。電気機器は、家電等の民生用に限られず、業務用、産業用、軍事用等、種々の用途のものを広くこの範疇とする。本発明の一態様に係る蓄電装置を用いた電気機器としては、例えば、テレビやモニタ等の表示装置、照明装置、デスクトップ型やノート型等のパーソナルコンピュータ、ワードプロセッサ、DVD(Digital Versatile Disc)などの記録媒体に記憶された静止画又は動画を再生する画像再生装置、CD(Compact Disc)プレーヤやデジタルオーディオプレーヤ等の携帯型又は据置型の音響再生機器、携帯型又は据置型のラジオ受信機、テープレコーダやICレコーダ(ボイスレコーダ)等の録音再生機器、ヘッドホンステレオ、ステレオ、リモートコントローラ、置き時計や壁掛け時計等の時計、コードレス電話子機、トランシーバ、携帯電話機、自動車電話、携帯型又は据置型のゲーム機、歩数計、電卓、携帯情報端末、電子手帳、電子書籍、電子翻訳機、マイクロフォン等の音声入力機器、スチルカメラやビデオカメラ等の写真機、玩具、電気シェーバ、電動歯ブラシ、電子レンジ等の高周波加熱装置、電気炊飯器、電気洗濯機、電気掃除機、温水器、扇風機、毛髪乾燥機、加湿器や除湿器やエアコンディショナ等の空気調和設備、食器洗い器、食器乾燥器、衣類乾燥器、布団乾燥器、電気冷蔵庫、電気冷凍庫、電気冷凍冷蔵庫、DNA保存用冷凍庫、懐中電灯、電動工具、煙感知器、補聴器、心臓ペースメーカ、携帯型X線撮影装置、放射線測定器、電気マッサージ器や透析装置等の健康機器や医療機器などが挙げられる。さらに、誘導灯、信号機、ガスメータや水道メータ等の計量器、ベルトコンベア、エレベータ、エスカレータ、自動販売機、自動券売機、現金自動支払機(CD。Cash Dispenser)や現金自動預金支払機(ATM。AutoMated Teller Machine)、デジタルサイネージ(電子看板)、産業用ロボット、無線用中継局、携帯電話の基地局、電力貯蔵システム、電力の平準化やスマートグリッドのための蓄電装置等の産業機器が挙げられる。
なお、上記電気機器は、消費電力のほぼ全てを賄うための主電源として、本発明の一態様に係る蓄電装置を用いることができる。また、上記電気機器は、主電源や商用電源からの電力の供給が停止した場合に、電気機器への電力の供給を行うことができる無停電電源として、本発明の一態様に係る蓄電装置を用いることができる。あるいは上記電気機器は、主電源や商用電源からの電気機器への電力の供給と並行して、電気機器への電力の供給を行うための補助電源として、本発明の一態様に係る蓄電装置を用いることができる。補助電源として、本発明の一態様に係る蓄電装置を用いる場合、本実施の形態で得られる蓄電装置に反応生成物が形成される電流方向とは逆方向に電流が流れるような信号(逆パルス電流)を加えることでメンテナンスフリーを実現することができ、定置型電源、または蓄電設備におけるメンテナンス費用や手間を省くことができる。定置型電源、または蓄電設備におけるメンテナンス費用は莫大であり、本実施の形態で得られる蓄電装置に反応生成物が形成される電流方向とは逆方向に電流が流れるような信号(逆パルス電流)を加えることで大幅に維持費用を抑えることができる顕著な効果が得られる。
電気機器の一例として携帯情報端末の例について、図13を用いて説明する。
図13(A)は、携帯情報端末8040の正面及び側面を示した斜視図である。携帯情報端末8040は、一例として、移動電話、電子メール、文章閲覧及び作成、音楽再生、インターネット通信、コンピュータゲーム等の種々のアプリケーションの実行が可能である。携帯情報端末8040は、筐体8041の正面に表示部8042、カメラ8045、マイクロフォン8046、スピーカ8047を有し、筐体8041の左側面には操作用のボタン8043、底面には接続端子8048を有する。
表示部8042には、表示モジュール又は表示パネルが用いられる。表示モジュール又は表示パネルとして、有機発光素子(OLED)に代表される発光素子を各画素に備えた発光装置、液晶表示装置、電気泳動方式や電子粉流体方式等により表示を行う電子ペーパ、DMD(Digital Micromirror Device)、PDP(Plasma Display Panel)、FED(Field Emission Display)、SED(Surface Conduction Electron−emitter Display)、LED(Light Emitting Diode)ディスプレイ、カーボンナノチューブディスプレイ、ナノ結晶ディスプレイ、量子ドットディスプレイ等が用いることができる。
図13(A)に示す携帯情報端末8040は、筐体8041に表示部8042を一つ設けた例であるが、これに限らず、表示部8042を携帯情報端末8040の背面に設けてもよいし、折り畳み型の携帯情報端末として、二以上の表示部を設けてもよい。
また、表示部8042には、指やスタイラス等の指示手段により情報の入力が可能なタッチパネルが入力手段として設けられている。これにより、表示部8042に表示されたアイコン8044を指示手段により簡単に操作することができる。また、タッチパネルの配置により携帯情報端末8040にキーボードを配置する領域が不要となるため、広い領域に表示部を配置することができる。また、指やスタイラスで情報の入力が可能となることから、ユーザフレンドリなインターフェースを実現することができる。タッチパネルとしては、抵抗膜方式、静電容量方式、赤外線方式、電磁誘導方式、表面弾性波方式等、種々の方式を採用することができるが、表示部8042は湾曲するものであるため、特に抵抗膜方式、静電容量方式を用いることが好ましい。また、このようなタッチパネルは、上述の表示モジュール又は表示パネルと一体として組み合わされた、いわゆるインセル方式のものであってもよい。
また、タッチパネルは、イメージセンサとして機能させることができるものであってもよい。この場合、例えば、表示部8042に掌や指で触れ、掌紋、指紋等を撮像することで、本人認証を行うことができる。また、表示部8042に近赤外光を発光するバックライト又は近赤外光を発光するセンシング用光源を用いれば、指静脈、掌静脈などを撮像することもできる。
また、表示部8042にタッチパネルを設けずにキーボードを設けてもよく、さらにタッチパネルとキーボードの双方を設けてもよい。
操作用のボタン8043には、用途に応じて様々な機能を持たせることができる。例えば、ボタン8043をホームボタンとし、ボタン8043を押すことで表示部8042にホーム画面を表示する構成としてもよい。また、ボタン8043を所定の時間押し続けることで、携帯情報端末8040の主電源をオフするようにしてもよい。また、スリープモードの状態に移行している場合、ボタン8043を押すことで、スリープモード状態から復帰させるようにしてもよい。その他、押し続ける期間や、他のボタンと同時に押す等により、種々の機能を起動させるスイッチとして用いることができる。
また、ボタン8043を音量調整ボタンやミュートボタンとし、音出力のためのスピーカ8047の音量の調整等を行う機能を持たせてもよい。スピーカ8047からは、オペレーティングシステム(OS)の起動音等特定の処理時に設定した音、音楽再生アプリケーションソフトからの音楽等各種アプリケーションにおいて実行される音ファイルによる音、電子メールの着信音等様々な音を出力する。なお、図示しないが、スピーカ8047とともに、あるいはスピーカ8047に替えてヘッドフォン、イヤフォン、ヘッドセット等の装置に音を出力するためのコネクタを設けてもよい。
このようにボタン8043には、種々の機能を与えることができる。図13(A)では、左側面にボタン8043を2つ設けた携帯情報端末8040を図示しているが、勿論、ボタン8043の数や配置位置等はこれに限定されず、適宜設計することができる。
マイクロフォン8046は、音声入力や録音に用いることができる。また、カメラ8045により取得した画像を表示部8042に表示させることができる。
携帯情報端末8040の操作には、上述した表示部8042に設けられたタッチパネルやボタン8043の他、カメラ8045や携帯情報端末8040に内蔵されたセンサ等を用いて使用者の動作(ジェスチャー)を認識させて操作を行うこともできる(ジェスチャー入力という)。あるいは、マイクロフォン8046を用いて、使用者の音声を認識させて操作を行うこともできる(音声入力という)。このように、人間の自然な振る舞いにより電気機器に入力を行うNUI(Natural User Interface)技術を実装することで、携帯情報端末8040の操作性をさらに向上させることができる。
接続端子8048は、外部機器との通信のための信号や電力供給のための電力の入力端子である。例えば、携帯情報端末8040に外部メモリドライブするために、接続端子8048を用いることができる。外部メモリドライブとして、例えば外付けHDD(ハードディスクドライブ)やフラッシュメモリドライブ、DVD(Digital Versatile Disk)ドライブやDVD−R(DVD−Recordable)ドライブ、DVD−RW(DVD−ReWritable)ドライブ、CD(Compact Disc)ドライブ、CD−R(Compact Disc Recordable)ドライブ、CD−RW(Compact Disc ReWritable)ドライブ、MO(Magneto−Optical Disc)ドライブ、FDD(Floppy Disk Drive)、又は他の不揮発性のソリッドステートドライブ(Solid State Drive:SSD)デバイスなどの記録メディアドライブが挙げられる。また、携帯情報端末8040は表示部8042上にタッチパネルを有しているが、これに替えて筐体8041上にキーボードを設けてもよく、またキーボードを外付けしてもよい。
図13(A)では、底面に接続端子8048を1つ設けた携帯情報端末8040を図示しているが、接続端子8048の数や配置位置等はこれに限定されず、適宜設計することができる。
図13(B)は、携帯情報端末8040の背面及び側面を示した斜視図である。携帯情報端末8040は、筐体8041の表面に太陽電池8049とカメラ8050を有し、また、充放電制御回路8051、蓄電装置8052、DCDCコンバータ8053等を有する。なお、図13(B)では充放電制御回路8051の一例として蓄電装置8052、DCDCコンバータ8053を有する構成について示しており、蓄電装置8052には、上記実施の形態で説明した本発明の一態様に係る電気化学デバイスを用いる。
携帯情報端末8040の背面に装着された太陽電池8049によって、電力を表示部、タッチパネル、又は映像信号処理部等に供給することができる。なお、太陽電池8049は、筐体8041の片面又は両面に設けることができる。携帯情報端末8040に太陽電池8049を搭載させることで、屋外などの電力の供給手段がない場所においても、携帯情報端末8040の蓄電装置8052の充電を行うことができる。
また、太陽電池8049としては、単結晶シリコン、多結晶シリコン、微結晶シリコン、非晶質シリコン又はこれらの積層からなるシリコン系の太陽電池や、InGaAs系、GaAs系、CIS系、Cu2ZnSnS4、CdTe−CdS系の太陽電池、有機色素を用いた色素増感太陽電池、導電性ポリマーやフラーレン等を用いた有機薄膜太陽電池、pin構造におけるi層中にシリコン等による量子ドット構造を形成した量子ドット型太陽電池等を用いることができる。
ここで、図13(B)に示す充放電制御回路8051の構成、及び動作についての一例を、図13(C)に示すブロック図を用いて説明する。
図13(C)には、太陽電池8049、蓄電装置8052、DCDCコンバータ8053、コンバータ8057、スイッチ8054、スイッチ8055、スイッチ8056、表示部8042について示しており、蓄電装置8052、DCDCコンバータ8053、コンバータ8057、スイッチ8054、スイッチ8055、スイッチ8056が、図13(B)に示す充放電制御回路8051に対応する箇所となる。
外光により太陽電池8049で発電した電力は、蓄電装置8052を充電するために必要な電圧とするために、DCDCコンバータ8053で昇圧又は降圧される。そして、表示部8042の動作に太陽電池8049からの電力が用いられる際には、スイッチ8054をオンにし、コンバータ8057で表示部8042に必要な電圧に昇圧又は降圧する。また、表示部8042での表示を行わない際には、スイッチ8054をオフにし、スイッチ8055をオンにして蓄電装置8052の充電を行う。
なお、発電手段の一例として太陽電池8049を示したが、これに限定されず、圧電素子(ピエゾ素子)や熱電変換素子(ペルティエ素子)などの他の発電手段を用いて蓄電装置8052の充電を行ってもよい。また、携帯情報端末8040の蓄電装置8052への充電方法はこれに限られず、例えば上述した接続端子8048と電源とを接続して充電を行ってもよい。また、無線で電力を送受信して充電する非接触電力伝送モジュールを用いてもよく、以上の充電方法を組み合わせてもよい。
ここで、蓄電装置8052の充電状態(SOC。State Of Charge)が、表示部8042の左上(破線枠内)に表示される。これにより、使用者は、蓄電装置8052の充電状態を把握することができ、これに応じて携帯情報端末8040の動作モードを省電力モードに切り替えることもできる。使用者が省電力モードを選択する場合には、例えば上述したボタン8043やアイコン8044を操作し、携帯情報端末8040に搭載される表示モジュール又は表示パネルや、CPU等の演算装置、メモリ等の構成部品を省電力モードに切り換えることができる。具体的には、これらの構成部品のそれぞれにおいて、任意の機能の使用頻度を低減し、停止させる。また、充電状態に応じて設定によって自動的に省電力モードに切り替わる構成とすることもできる。また、携帯情報端末8040に光センサ等の検出手段を設け、携帯情報端末8040の使用時における外光の光量を検出して表示輝度を最適化することで、蓄電装置8052の電力の消費を抑えることができる。
また、太陽電池8049等による充電時には、図13(A)に示すように、表示部8042の左上(破線枠内)にそれを示す画像等の表示を行ってもよい。
また、本発明の一態様に係る蓄電装置を具備していれば、図13に示した電気機器に限定されないことは言うまでもない。
さらに、電気機器の一例として蓄電システムの例について、図14を用いて説明する。ここで説明する蓄電装置8100は、上述した蓄電装置8000として家庭で用いることができる。また、ここでは一例として家庭用の蓄電システムについて説明するが、これに限られず、業務用として又はその他の用途で用いることができる。
図14(A)に示すように、蓄電装置8100は、系統電源8103と電気的に接続するためのプラグ8101を有する。また、蓄電装置8100は、住宅内に設けられた分電盤8104と電気的に接続する。
また、蓄電装置8100は、動作状態等を示すための表示パネル8102等を有していてもよい。表示パネルはタッチスクリーンを有していてもよい。また、表示パネルの他、主電源のオンオフを行うためのスイッチや蓄電システムの操作を行うためのスイッチ等を有していてもよい。
なお、図示しないが、蓄電装置8100を操作するために、蓄電装置8100とは別に、例えば室内の壁に操作スイッチを設けてもよい。あるいは、蓄電装置8100と家庭内に設けられたパーソナルコンピュータ、サーバ等と接続し、間接的に蓄電装置8100を操作してもよい。さらに、スマートフォン等の情報端末機やインターネット等を用いて蓄電装置8100を遠隔操作してもよい。これらの場合、蓄電装置8100とその他の機器とは有線により又は無線により通信を行う機構を、蓄電装置8100に設ければよい。
図14(B)は、蓄電装置8100の内部を模式的に示した図である。蓄電装置8100は、複数のバッテリー群8106とBMU(Battery Management Unit)8107とPCS(Power Conditioning System)8108とを有する。
バッテリー群8106は、バッテリー8105を複数並べて接続したものである。系統電源8103からの電力を、バッテリー群8106に蓄電することができる。複数のバッテリー群8106のそれぞれは、BMU8107と電気的に接続されている。
BMU8107は、バッテリー群8106が有する複数のバッテリー8105の状態を監視及び制御し、またバッテリー8105を保護することができる機能を有する。具体的には、BMU8107は、バッテリー群8106が有する複数のバッテリー8105のセル電圧、セル温度データ収集、過充電及び過放電の監視、過電流の監視、セルバランサ制御、電池劣化状態の管理、電池残量((充電率)State Of Charge:SOC)の算出演算、駆動用蓄電装置の冷却ファンの制御、又は故障検出の制御等を行う。なお、これらの機能の一部又は全部は上述のように、バッテリー8105内に含めてもよく、あるいはバッテリー群8106ごとに当該機能を付与してもよい。また、BMU8107はPCS8108と電気的に接続する。
過充電とは、満充電の状態から更に充電を行うことをいい、過放電とは、動作保証できる容量を超えて放電を更に行うことをいう。例えば、過充電の監視は、規定値(許容値)を超えた電圧にならないように、充電時のバッテリーの電圧を監視することで行うことができる。また、過放電の監視は、規定値(許容値)未満の電圧にならないように、放電時のバッテリーの電圧を監視することで行うことができる。
過電流とは、規定値(許容値)を超えた電流のことである。バッテリーの過電流の原因は、バッテリー内での正極と負極のショート、バッテリーへの負荷が大きすぎる場合等がある。過電流の監視は、バッテリーを流れる電流を監視することで行うことができる。
PCS8108は、交流(AC)電源である系統電源8103と電気的に接続され、直流−交流変換を行う。例えば、PCS8108は、インバータや、系統電源8103の異常を検出して動作を停止する系統連系保護装置などを有する。蓄電装置8100の充電時には、例えば系統電源8103の交流の電力を直流に変換してBMU8107へ送電し、蓄電装置8100の放電時には、バッテリー群8106に蓄えられた電力を屋内などの負荷に交流に変換して供給する。なお、蓄電装置8100から負荷への電力の供給は、図14(A)に示すように分電盤8104を介してもよく、あるいは蓄電装置8100と負荷との接続を有線又は無線により直接行ってもよい。
上述した電気機器は、個々に蓄電装置を搭載する場合に限らず、複数の電気機器と蓄電装置とこれらの電力系を制御する制御装置とを有線又は無線で接続することにより、電力供給を制御するためのネットワークシステム(電力ネットワークシステム)を構築することができる。電力系のネットワークを制御装置により制御することによって、ネットワーク全体における電力の使用効率を向上させることができる。
図15(A)に、複数の家電機器、制御装置、及びバッテリー等を住宅内で接続したHEMS(家庭内エネルギー管理システム。Home Energy Management System)の例を示す。このようなシステムによって、家全体の電力消費量を容易に把握することが可能になる。また、複数の家電機器の運転を遠隔操作することができる。また、センサや制御装置を用いて家電機器を自動制御する場合には、電力の節約にも貢献することができる。
蓄電装置8000は、管理装置8004、及びバッテリー8005を備える。
住宅に設置された分電盤8003は、引込み線8002を介して電力系統8001に接続される。分電盤8003は、引込み線8002から供給される商用電力である交流電力を、複数の家電機器それぞれに供給するものである。管理装置8004は分電盤8003と接続されるとともに、複数の家電機器や蓄電装置8000、太陽光発電システム8006等と接続される。
管理装置8004は、分電盤8003と複数の家電機器とを繋ぎネットワークを構成するものであり、ネットワークに接続された複数の家電機器を制御、管理する装置である。
また、管理装置8004は、インターネット8011に接続され、インターネット8011を経由して、管理サーバ8013と接続することができる。管理サーバ8013は、使用者の電力の使用状況を受信してデータベースを構築することができ、当該データベースに基づき、種々のサービスを使用者に提供することができる。また、管理サーバ8013は、例えば時間帯に応じた電力の料金情報を使用者に随時提供することができ、当該情報に基づいて、管理装置8004は住宅内における最適な使用形態を設定することもできる。
複数の家電機器は、例えば、図15(A)に示す表示装置8007、照明装置8008、空気調和設備8009、電気冷蔵庫8010であるが、勿論これに限られず、上述した電気機器等住宅内に設置可能なあらゆる電気機器を指す。
例えば、表示装置8007は、表示部に液晶表示装置、有機EL(Electro Luminescence)素子等の発光素子を各画素に備えた発光装置、電気泳動表示装置、DMD(Digital Micromirror Device)、PDP(Plasma Display Panel)、FED(Field Emission Display)等の半導体表示装置が組み込まれ、TV放送受信用の他、パーソナルコンピュータ用、広告表示用等、情報表示用表示装置として機能するものが含まれる。
また、照明装置8008は、電力を利用して人工的に光を得る人工光源を含むものであり、人工光源としては、白熱電球、蛍光灯等の放電ランプ、LED(Light Emitting Diode)や有機EL素子等の発光素子を用いることができる。図15(A)に示す照明装置8008は天井に設置されたものであるが、この他、壁面、床、窓等に設けられた据付け型であってもよく、卓上型であってもよい。
また、空気調和設備8009は、温度、湿度、空気清浄度等の室内環境の調整を行う機能を有する。図15(A)では、一例としてエアコンディショナを示す。エアコンディショナは、圧縮機や蒸発器を一体とした室内機と、凝縮器を内蔵した室外機(図示せず)を備えるものや、これらを一体としたもの等で構成される。
また、電気冷蔵庫8010は、食料品等を低温で保管するための電気機器であり、0℃以下で凍らせる目的の冷凍庫を含む。圧縮器により圧縮したパイプ内の冷媒が気化する際に熱を奪うことにより、庫内を冷却するものである。
これら複数の家電機器は、それぞれにバッテリーを有していてもよく、またバッテリーを有さずに、バッテリー8005の電力や商用電源からの電力を利用してもよい。家電機器が蓄電装置を内部に有する場合には、停電等により商用電源から電力の供給が受けられない場合であっても、蓄電装置8000を無停電電源として用いることで、当該家電機器の利用が可能となる。
以上のような家電機器のそれぞれの電源供給端子の近傍に、電流センサ等の電力検出手段を設けることができる。電力検出手段により検出した情報を管理装置8004に送信することによって、使用者が家全体の電力使用量を把握することができる他、該情報に基づいて、管理装置8004が複数の家電機器への電力の配分を設定することで、住宅内において、効率的に、あるいは経済的に電力を使用することができる。
また、商用電源の供給元が供給可能な総電力量のうち電力使用率が低い時間帯において、商用電源からバッテリー8005に充電することが好ましい。また、電気使用料の安い時間帯である夜間に、商用電源からバッテリー8005に充電することが好ましい。また、太陽光発電システム8006によって、バッテリー8005に充電することができる。なお、充電する対象は、蓄電装置8000のバッテリー8005に限られず、家電機器など他の装置に内蔵されているバッテリーであってもよい。
このようにして、バッテリー8005など種々の電源から得た電力を管理装置8004が効率的に配分して使用することで、住宅内において効率的に、あるいは経済的に電力を使用することができる。
また、図15(B)に示すように、蓄電装置8000を住宅の居室以外の空間に収納することで、住居スペースを損なうことがない。なお、蓄電装置8000の高い安全性を確保するため、蓄電装置8000自体、または設置場所に、防火及び防水対策を施す。
住宅などの建物は、図15(B)に示すように、基礎部8202と床8203によって、床下空間部8206が仕切られている。また、屋内は、内壁8207によって仕切られている。蓄電装置8000は、床下空間部8206内に収納されている。床下空間部8206が複数ある場合には、それぞれの床下空間部8206に、蓄電装置8000を収納することができる。蓄電装置8000の管理装置8004は、配線8211によって、分電盤8003に接続されている。
充電時、または放電時に、蓄電装置8000内のバッテリー8005に逆パルス電流を流すようにしているため、バッテリー8005のショートによる発熱、発火の防止対策を施すことにより、床下空間部8206のような空間に、蓄電装置8000を設定することが可能である。
本実施の形態は、他の実施の形態と適宜組み合わせて実施することが可能である。
本実施例では、充電時に逆パルス電流が供給された電気化学デバイスについて、具体的に説明する。本実施例では、コイン型のリチウムイオン二次電池を作製し、充電試験を行った。ここでは、充電試験を行ったバッテリーを『評価用セル1』と呼ぶことにする。
<評価用セル1の作製>
(正極の作製)
まず、炭素層を表面に設けたリン酸鉄リチウム(LiFePO4)と、極性溶媒としてNMP(N−メチル−2−ピロリドン)とを混合した。これらを混練機により2000rpmで5分間攪拌・混合し、3分間超音波振動を加えた。さらに、混練機により2000rpmでの攪拌・混合を1分間行った。同じ工程を5回繰り返した。
この混合物に酸化グラフェンを加え、混練機により2000rpmでの3分間の攪拌・混合を8回行った。8回の混合の間に、容器内の内容物をスパチュラで攪拌した。その後、結着剤としてPVDFを総使用量の半分加え混練機により2000rpmで3分間の攪拌及び混合を行った。その後、残りの半分のPVDFを加え、混練機により2000rpmで3分間の攪拌及び混合を行った。さらに粘度調整のためNMPを添加して、混練機により2000rpmでの1分間の攪拌及び混合を行った。その後さらに、NMPを添加し混練機により2000rpmでの1分間の撹拌及び混合を行った。極性溶媒を除いた配合比が、炭素層を設けたリン酸鉄リチウム:酸化グラフェン:PVDF=91.4:0.6:8(単位:wt%)となるように秤量して調整した。
このようにして形成した混合物を、下地処理を施したアルミニウム箔上に塗工装置(アプリケータ)を用いて10mm/secの速度で塗工した。これを80℃の温度で40分間熱風乾燥して極性溶媒を揮発させた後、プレスにより電極膜厚が約20%低減するように活物質層を圧縮した。
次に、減圧雰囲気下で170℃の温度で10時間加熱して、電極を乾燥させるとともに、酸化グラフェンを還元して導電助剤として機能するグラフェンを形成した。
その後、上記プレスと同一のギャップとなるように再度プレスを行って活物質層を圧縮し、これを打ち抜いて蓄電装置用の正極を作製した。
以上の工程で作製した正極は、厚さ58μm、電極密度1.82g/cm3、正極活物質担持量9.7mg/cm2であり、単極での理論容量は1.6mAh/cm2であった。
(負極の作製)
次に評価用セル1の負極を作製した。当該負極には、被膜として酸化シリコン膜を有する負極活物質を用いた。負極活物質には、平均粒径の9μm黒鉛(MCMB:メソカーボンマイクロビーズ)を用いた。まず、Si(OEt)4と触媒として機能する塩酸に、水とエタノールを加え、撹拌してSi(OEt)4溶液を作製した。この溶液の配合比は、Si(OEt)4を1.8×10―2mol、塩酸を4.44×10―4mol、水1.9ml、エタノール6.3mlとした。次に、ドライルーム環境において、Si(OEt)4溶液に負極活物質である粒状の黒鉛を添加して撹拌した。この後、湿気環境において、70℃で20時間溶液を保持することで、黒鉛を加えたSi(OEt)4水エタノールの混合溶液中のSi(OEt)4を加水分解反応及び縮合反応させた。すなわち、該溶液中のSi(OEt)4を大気中の水分と徐々に加水分解反応させ、引き続いて起こる脱水反応により縮合させた。このようにして、粒状の黒鉛の表面にゲル状の酸化シリコンを付着させた。その後、大気下において500℃、3時間の乾燥を行い、酸化シリコンからなる被膜に覆われた粒状の黒鉛を作製した。
このようにして作製した酸化シリコン膜を有する負極活物質と、結着剤としてPVDF極性溶媒としてNMP(N−メチル−ピロリドン)を用意した。これらを混練機により2000rpmで10分間攪拌・混合を3回行って混合物を作製した。形成した混合物は、極性溶媒を除いた配合比が、負極活物質:PVDF=90:10(単位:wt%)となるように秤量して調整した。
このようにして形成した混合物を、集電体となる銅箔上に塗工装置(アプリケータ)を用いて10mm/secの速度で塗工した。これを70℃の温度で40分間熱風乾燥して極性溶媒を揮発させた後、減圧雰囲気下で170℃の温度で10時間加熱して、電極を乾燥させた。
その後、プレスにより電極膜厚が約15%低減するように活物質層を圧縮した。これを打ち抜いて、評価用セル1の負極を作製した。
以上により作製した負極は、厚さ90μm、電極密度1.3g/cm3、負極活物質担持量11.0mg/cm2であり、単極での理論容量は4.0mAh/cm2であった。
(評価用セル1の作製)
作製した正極及び負極で、評価用セル1を作製した。評価用セル1はコインセルCR2032(直径20mm、高さ3.2mm)の形態とした。電解液には、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)とを体積比で3:7の割合で混合した混合溶液中へ六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)を1モル/リットルの濃度で溶解したものを用いた。セパレータには、ポリプロピレン(PP)を用いた。
<実験;充電中の逆パルス電流の供給>
作製した評価用セル1を用いて、初回の充電を行った。この際、初回の充電を行う間に、正極−負極間に、充電電流とは逆方向に電流を流すための信号(逆パルス電流)を正極に複数回供給した。
ここでは、逆パルス電流とは、黒鉛(負極活物質)へのLi挿入反応が起きる電流とは逆方向に流れる電流であり、かつ反応生成物が形成される電流とは逆方向に流れる電流である(図3(A)参照)。
充電の方式は、定電流充電とした。環境温度を25℃、充電レートを0.2C(34mA/g)、充電終止電圧を4.0Vに設定した。また、逆パルス電流については、レートを1C(170mA/g)とし、供給間隔を0.294時間とし、逆パルス電流を流す時間(パルス幅)を0秒、1秒、5秒、10秒とした。
つまり、一定の充電電流を正極と負極間に流している間に、約18分間隔で逆パルス電流を正極に供給し、逆パルス電流の供給時間を0秒、1秒、5秒、10秒と変化させた。
なお、単位[C]は充電レートや放電レートを示す単位である。1Cとは、1時間でバッテリー、ここでは評価用セル1をフル充電させるための単位重量あたりの電流量の単位である。本実施例では、バッテリーの正極にLiFePO4を用いる場合、LiFePO4の理論容量が、170mAh/gであるならば、1gのLiFePO4を正極と仮定した場合、170mAの充電電流を1C(170mA/g)としている。この場合、理想的なバッテリーにおいて1時間でフル充電(満充電)の状態となる。また、1gのLiFePO4を正極と仮定した場合、充電レート2Cで充電するとは、340mAの充電電流を0.5時間流して充電することと等価である。
図16(A)は、逆パルス電流の供給時間が10秒の場合の、バッテリーの外部から正極の方に供給した電流信号の波形を示す。バッテリーの外部から正極の方に流れ、負極からバッテリーの外部の方に流れる電流の向きを正の向きとしている。つまり、充電時における逆パルス電流の流れる向きを正の向きとしている。また、図16(A)には、電流信号を供給している間の評価用セル1の電圧の変化も合わせて示されている。横軸は時間(単位:hour(時間))であり、縦軸(左)は評価用セル1の電圧(単位:V)であり、縦軸(右)は電流(単位:mA)である。ここでは、評価用セル1の電圧(セル電圧ともいう。)とは、負極の電位を基準にした正極の電位(正極と負極の電位差)である。
図16(B)は、図16(A)のうち1.1〜1.6時間の部分を拡大したグラフである。0.294時間の時間間隔で短時間の放電を行っている。バッテリー充電時における逆パルス電流は放電電流であるため、充電期間中で逆パルス電流が流れている期間はセル電圧が下降する。
逆パルス電流を流す時間が0秒、1秒、5秒、10秒の場合の充電結果を、図17(A)乃至図18(B)のグラフに示す。それぞれ、横軸に評価用セル1の充電容量(mAh/g)、縦軸に評価用セル1の電圧(単位:V)を示す。また、それぞれ3回の測定を行い、特性のばらつきもあわせて評価した。ここで、図16(A)及び図16(B)の横軸は時間を示している。よって、図16(A)及び図16(B)において、経過時間に対して、電圧値と電流値は1つの値をとり、時間が経過するに従って、グラフのプロットは右の方へ移動していく。しかし、図17(A)乃至図18(B)の横軸は、評価用セル1の充電容量(mAh/g)である。時間が経過しても、逆パルス電流が流れると、一時的に評価用セル1の充電容量が小さくなる。よって、図17(A)乃至図18(B)では、時間が経過するに従って、充電容量が大きくなるので、グラフのプロットも右の方へ移動していくが、逆パルス電流が流れると、一時的に評価用セル1の充電容量が小さくなって、グラフのプロットが左の方へ戻ることになる(ただし、図17(A)乃至図18(B)では、逆パルス電流が流れている期間での充電容量の低下量が小さすぎるため、視認できない)。そして、再び充電電流が流れると、時間が経過するに従って、評価用セル1の充電容量が大きくなって、グラフのプロットが右の方へ移動していくことになる。
図17(A)は、逆パルス電流を流す時間が0秒の場合、すなわち充電中に逆パルス電流を供給しなかった場合の結果である。この場合、充電容量が60mAh/g程度で充電が終了し、3回の測定においていずれも低い充電容量であった。従って、通常の充電方法において、バッテリーの劣化を防ぐことができないことが示された。
これに対し、図17(B)に示すように、逆パルス電流を1秒間流した場合には、充電容量が140mAh/g程度となり、正常な充電を行うことができた。しかし、充電容量60mAh/g付近で電圧が終止電圧4.0Vに近接する傾向があらわれ、3回の測定のうち1測定は充電が終了する結果となった。
また、図18(A)に示すように、逆パルス電流を流す時間を5秒とした場合は、充電を正常に行うことが可能であった。2測定については、逆パルス電流を流した時間が1秒の場合と同様に充電容量が低い結果であった。
また、図18(B)に示すように、逆パルス電流の供給時間(パルス幅)を10秒とした場合には、3測定のいずれの場合においても、充電容量が正常な値となる結果であった。また、充電終了時のセル電圧は、容量60mAh/g付近においても終止電圧4.0Vにあまり近接せずに、充電が進むことが分かった。
以上のことから、充電中に、逆パルス電流を複数回流した場合には、通常の充電に比べて、充電終了時の容量が低下することを抑制することができることが分かった。また、上記の充電条件下では、逆パルス電流を流す時間を10秒以上とすることで、安定した充電を行えることがわかった。このような結果を得られた要因としては、充電中に評価用セル1に逆パルス電流を複数回流したことで、充電途中で増加した抵抗を抑えることができたためと考えられる。つまり、逆パルス電流の供給によって、負極に析出したリチウムを電解液中に溶解させることで、負極の抵抗増加が抑制されたと考えることができる。
なお、本実施例では、充電時の例を示したが、放電時も同様にバッテリーに逆パルス電流を流すようにすればよい。
本実施例では、逆パルス電流により反応生成物の生成を抑制することが可能であることを説明する。
具体的には、リチウムイオン二次電池の充電時に、逆パルス電流を流すことにより、負極の表面にウィスカー状の反応生成物が生成されることを抑制することができたことを、図19乃至図24(B)を用いて説明する。また、図22(A)乃至図23(C)、及び図24(B)は比較例の結果を説明する図である。
<評価用セル2の作製>
本実施例では、実施例1と同様に、コイン型のリチウムイオン二次電池を作製した。このリチウムイオン二次電池を『評価用セル2』と呼ぶこととにする。図19に示すように、評価用セル2は、正極、負極及び正極と負極の間にセパレータを有する。また、正極と負極の間は電解液で満たされている。
(負極)
負極活物質には、粒度分布D50(粒度分布測定結果の積算粒子量曲線において、その積算量が50%を占めるときの粒子径)が9μmの球晶黒鉛に対し、ゾル−ゲル法により酸化シリコン膜を表面に形成した物質を用いた。酸化シリコン膜が表面に形成された黒鉛の作製は、以下のようにして行った。
シリコンエトキシド(3.14×10―4mol)とアセト酢酸エチル(6.28×10―4mol)をトルエン(2ml)に溶解させた溶液を作製した。この溶液に、酸化シリコンの重量が黒鉛の重量に対して1wt%となるように黒鉛を加え、湿気環境において70℃、3時間保持し、シリコンエトキシドを加水分解させた。その後、窒素雰囲気において500℃、3時間焼成することで、酸化シリコン膜が表面に形成された黒鉛を作製した。
この黒鉛と、ポリフッ化ビニリデン(略称:PVDF)と、N−メチル−2−ピロリドン(略称:NMP)を混練してスラリーを作製した。このとき重量比は、黒鉛:PVDF=90:10とした。このスラリーを、集電体(膜厚18μmの銅箔)上に塗布し乾燥させて電極を作製した。この電極を16.16mmφの円形に打ち抜き、評価用セル2の負極とした。
負極の厚さは、45μmであり、負極活物質重量は10.350mgであった。なお、黒鉛の理論容量を372mAh/gとした。
(正極)
正極活物質には、粒度分布D90(粒度分布測定結果の積算粒子量曲線において、その積算量が90%を占めるときの粒子径)が1.7μmのリン酸鉄リチウム(LiFePO4)を用いた。LiFePO4と、酸化グラフェン(GO)と、PVDFと、NMPを混練してスラリーを作製した。GOには、平均粒径40μmの鱗片状黒鉛を原料としてHummers法により合成したものを用いた。重量比は、LiFePO4:GO:PVDF=91.4:0.6:8とした。このスラリーを、集電体(膜厚20μmのアルミニウム箔)上に塗布し乾燥させた。これを、減圧下で170℃、10時間熱処理し、GOを還元して電極を作製した。この電極を15.96mmφの円形に打ち抜き、評価用セル2の正極とした。
正極の厚さは52μmであり、正極活物質重量は17.613mgであった。また、正極の容量は負極の容量に対し77.8%であった。
(電解液)
電解液は、6フッ化リン酸リチウム(LiPF6)を、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の混合溶媒に溶解して用いた。ECとDECの混合比は、体積比で3:7(=EC:DEC)とし、1mol/Lの濃度でLiPF6を溶解した。
(セパレータ)
厚さ260μmのガラス繊維フィルタをセパレータに用いた。
<実験;評価用セル2の充電と放電>
本実施例では、まず、初回の充電として、逆パルス電流を流さずに充電を行った。その後、逆パルス電流を流さずに放電を行った。その後、2回目の充電を行った。2回目の充電では、逆パルス電流を複数回供給しながら充電を行った。これらの充電、放電は、図19に示すように、評価用セル2を充放電装置に接続して行われた。なお、環境温度は25℃とした。
また、評価用セル2の総容量を1時間で放電させる電流量である1Cは、正極活物質重量(17.613mg)とLiFePO4の理論容量170mAh/gから算出した。この1Cを基準に、評価用セル2の充電レート及び放電レート(単位[C])を設定した。
図20(A)に、評価用セル2に供給された電流の時間変化を示す。ここでは、充電時において、逆パルス電流の流れる向き、つまり、正極からバッテリーの外部の方へ流れる電流の向きを正の向きとした。よって、評価用セル2を充電する電流の電流値を負の値で、評価用セル2が放電する電流(放電電流)の電流値を正の値で示した。電流値の表し方は、他のグラフでも同様である。
図20(A)において、期間T1は初回の充電期間を表し、期間T2は初回の放電期間を表し、期間T3は、2回目の充電期間を表す。期間T3では、充電電流と逆パルス電流を交互に複数回流すことで充電を行った。図20(B)は、図20(A)の期間T3の部分を拡大したグラフである。
また、図21(A)に、図20(A)の電流が供給されている間の評価用セル2の電圧の時間変化を示す。図21(B)は、図21(A)の期間T3の部分を拡大したグラフである。評価用セル2の電圧とは、具体的には、正極と負極の間に観測される電圧(セル電圧)であり、ここでは、負極の電位を基準にした正極の電位である。
(期間T1:初回の充電)
初回の充電は、0.2C(0.605mA)のレートで行った(図20(A))。セル電圧が4.0Vに到達した時点で充電を停止した(図21(A))。
(期間T2:初回の放電)
また、初回の放電は、0.2Cのレートで行った(図20(A))。セル電圧が2.0Vに低下した時点で、放電を停止した(図21(A))。
(期間T3:2回目の充電)
2回目の充電は、評価用セル2に充電電流と逆パルス電流を交互に供給して行った。充電は、いわゆる高速充電と呼ばれるような高いレートで行った。具体的には、5C(15.1mA)のレートで、評価用セル2に充電電流を流して容量10mAh/g(0.176mAh)を充電した後、0.1C(0.299mA)のレートで20秒間逆パルス電流を評価用セル2に供給した(図20(B))。そして、セル電圧が4.3Vに到達した時点で充電を停止した(図21(B))。
期間T3の逆パルス電流とは、黒鉛(負極活物質)へのLi挿入反応が起きる電流とは逆方向に流れる電流であり、かつ反応生成物が形成される電流とは逆方向に流れる電流である(図3(A)参照)。
図21(C)に、期間T3における、正極の単位活物質重量あたりに充電された容量に対する、評価用セル2の電圧(セル電圧)の変化を示す。
<負極の観察>
2回目の充電を終えた後、評価用セル2をアルゴン雰囲気下のグローブボックス内で解体し、取り出した負極をジメチルカーボネートで洗浄した。そして、雰囲気遮断ホルダを用いて走査型電子顕微鏡(SEM)に搬入して、その表面を観察した。
SEMによる評価用セル2の負極表面の二次電子像を図24(A)に示す。図24(A)にある球形の物質は、負極活物質に用いた黒鉛である。ウィスカー状の反応生成物は、黒鉛の表面に確認されなかった。
比較例として、2回目の充電時に逆パルス電流を流すことなく、5Cのレートで充電したコイン型リチウムイオン二次電池について後述する。比較例では、ウィスカー状の反応生成物が負極活物質に用いた黒鉛の表面に確認された。
本実施例の結果は、反応生成物に電気的な刺激、具体的には、反応生成物が形成される電流とは逆方向の電流が流れるような信号(逆パルス電流)を電極に加えることにより、ウィスカー状の反応生成物が溶解されるという、画期的な効果を示している。
《比較例》
以下に、比較例を説明する。
<比較用セルの構成>
比較例でも、実施例2と同じ構造のコイン型リチウムイオン二次電池を評価した。比較例で用いたリチウムイオン二次電池を、『比較用セル』と呼ぶこととにする。比較用セルは、評価用セル2と同様に作製した。ただし、比較用セルは、正極の容量が評価用セル2と異なる。
比較用セルの負極の厚さは45μmであり、負極活物質重量は10.530mgであった。また、正極の厚さは54μmであり、正極活物質重量は18.070mgであった。正極の容量は、負極の容量に対し78.4%であった。
<実験;比較用セルの充電と放電>
比較用セルに供給した電流を図22(A)及び図22(B)に示す。
図22(A)において、期間T1は初回の充電期間を表し、期間T2は初回の放電期間を表し、期間T3は、2回目の充電期間を表す。期間T3では、比較用セルには充電電流のみを供給し、逆パルス電流は流さずに充電を行った。図22(B)は、図22(A)の期間T3の部分を拡大したグラフである。
また、図23(A)に、図22(A)の電流が供給されているときの比較用セルの電圧の時間変化を示す。図23(B)は、図23(A)の期間T3の部分を拡大したグラフである。また、図23(C)に、期間T3における、正極の単位活物質重量あたりに充電された容量に対する、比較用セルの電圧の変化を示す。
(期間T1;初回の充電)
初回の充電は、評価用セル2と同様に行った。0.2Cのレートで充電を行い、セル電圧が4.0Vに到達した時点で充電を停止した(図22(A)、図23(A))。
(期間T2;初回の放電)
また、初回の放電も、評価用セル2と同様に行った。0.2Cのレートで放電を行い、セル電圧が2.0Vに低下した時点で放電を停止した(図22(A)、図23(A))。
(期間T3;2回目の充電)
逆パルス電流を供給しないという条件の他は、評価用セル2と同様の条件で、比較用セルの充電を行った。具体的には、5Cのレートで充電し、セル電圧が4.3Vに到達した時点で充電を停止した(図22(B)、図23(B))。
図20(B)の評価用セル2の結果、及び図22(B)の比較例2の結果からは、比較用セルの方が、評価用セル2よりも2回目の充電が短時間で終了したことがわかる。また、図21(C)の評価用セル2の結果、及び図23(C)の比較例2の結果からは、比較用セルの方が、評価用セル2よりも充電終了時点で充電された容量が少ないことがわかる。
<負極の観察>
2回目の充電を終えた後、比較用セルを評価用セル2と同様に解体し、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、その負極の表面を観察した。
図24(B)に、SEMによる負極表面の二次電子像を示す。図24(B)にある球形の物質は、負極活物質に用いた黒鉛である。黒鉛の表面を覆うように、ウィスカー状の反応生成物が存在していることが確認された。この反応生成物が、比較用セルの充電容量の低下をもたらした原因の1つと考えられる。
また、本実施例においては、評価用セル2及び比較用セルの負極活物質として球晶黒鉛を用いた例を示したが、黒鉛の形状は、特に限定されない。例えば、図25(A)のSEMによる二次電子像に示す球状化された天然黒鉛を用いてもよいし、図25(B)の二次電子像で示す鱗片状の黒鉛を用いてもよい。黒鉛の形状によっては、ウィスカー形状のリチウムの析出位置や大きさが異なる場合もある。負極に用いる黒鉛の形状にかかわらず、リチウムが析出するバッテリーであれば本発明を適用することができ、充電時または放電時に逆パルス電流を1回または複数回正極と負極間に流すことで、理想的には、電極表面に反応生成物がつく前の初期状態にすることができる。