JP2014173145A - 電子・電気機器用銅合金塑性加工材、電子・電気機器用部品、及び、端子 - Google Patents

電子・電気機器用銅合金塑性加工材、電子・電気機器用部品、及び、端子 Download PDF

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優樹 伊藤
Kazumasa Maki
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Hiroyuki Mori
広行 森
Yosuke Nakazato
洋介 中里
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【課題】Tiの含有量が少なくても十分な強度を有し、高い導電率と強度とを確保でき、コネクタ及びその他の端子、リレー等の電子電気部品に適したCu−Ti合金からなる電子・電気機器用銅合金塑性加工材を提供する。
【解決手段】Tiを0.5mass%以上3.5mass%以下の範囲内で含有し、残部がCuおよび不可避的不純物からなる組成を有し、冷間または温間で圧延率90%超えの仕上げ圧延を実施する仕上げ圧延工程と、この仕上げ圧延工程の後に実施される時効熱処理工程と、によって製造されるとともに、時効熱処理工程後において、ラメラー状組織を有することを特徴とする。
【選択図】なし

Description

本発明は、各種コネクタ及びその他の端子、あるいは電磁リレーの可動導電片などの電子・電気機器用部品として使用される電子・電気機器用銅合金塑性加工材、それを用いた電子・電気機器用部品及び端子に関するものである。
従来、電子機器や電気機器等の小型化にともない、これら電子機器や電気機器等に使用されるコネクタ及びその他の端子、リレー、リードフレーム等の電子・電気機器用部品の小型化及び薄肉化が図られている。このため、電子・電気機器用部品を構成する材料として、ばね性、強度に優れた銅合金が要求されている。特に、非特許文献1に記載されているように、コネクタ及びその他の端子、リレー等の電子・電気部品として使用される銅合金としては、強度が高く、かつ、導電率が高いものが望ましい。
ここで、上述の電子機器用部品を構成する材料として、例えば特許文献1に示すように、Cu−Ti合金が提案されている。このCu−Ti合金は、例えば非特許文献2,3に示すように、時効熱処理によってスピノーダル分解によるTi濃度の周期的変動である変調構造が発達すること、もしくはCuとTiの金属間化合物(CuTi)を析出させることにより、比較的高い導電率と強度を有するものである。
特開2002−356726号公報
野村幸矢、「コネクタ用高性能銅合金条の技術動向と当社の開発戦略」、神戸製鋼技報Vol.54No.1(2004)p.2−8 掘茂徳、他2名、「高力チタン銅の開発に関する基礎的研究」、伸銅技術研究会誌Vol.18(1979)p.74−87 佐治重興、他1名、「Cu−Ti合金の加工熱処理と組織制御」、伸銅技術研究会誌Vol.23(1984)p.138−146
ところで、最近では、電子機器や電気機器等のさらなる小型化が進んでおり、電子機器用部品を構成する材料には、導電率を確保しつつ、さらなる強度向上が求められている。
ここで、上述のCu−Ti合金においては、Tiの含有量によって強度及び導電率が大きく影響を受けることが知られている。例えば、非特許文献3のFig.2に示されるように、Tiの含有量が低い場合には、時効熱処理を実施しても強度が十分に向上しない。一方、Tiの含有量が3.5mass%を超えるような場合には、電気抵抗が高くなって導電率が不十分となる。このように、従来のCu−Ti合金においては、導電率と強度とを高いレベルで両立することは困難であった。
本発明は、以上のような事情を背景としてなされたものであって、Tiの含有量が少なくても十分な強度を有し、高い導電率と強度とを確保でき、コネクタ及びその他の端子、リレー等の電子電気部品に適したCu−Ti合金からなる電子・電気機器用銅合金塑性加工材を提供することを課題としている。
この課題を解決するために、本発明者らは鋭意研究を行った結果、Tiの含有量が少ないCu−Ti合金であっても、冷間または温間で強加工を実施した後に短時間の時効熱処理を行うことで複数のパンケーキ状に積層されたラメラー状組織を形成することにより、強度を大幅に向上させることが可能であるとの知見を得た。
本発明は、かかる知見に基いてなされたものであって、本発明の電子・電気機器用銅合金塑性加工材は、Tiを0.5mass%以上3.5mass%以下の範囲内で含有し、残部がCuおよび不可避的不純物からなる組成を有し、冷間または温間で圧延率90%超えの仕上げ圧延を実施する仕上げ圧延工程と、この仕上げ圧延工程の後に実施される時効熱処理工程と、によって製造されるとともに、前記時効熱処理工程後において、ラメラー状組織を有することを特徴としている。
上述の構成の電子・電気機器用銅合金塑性加工材によれば、Tiの含有量が3.5mass%以下とされているので、電気抵抗の上昇が抑制され、比較的高い導電率を確保することができる。一方、Tiの含有量が0.5mass%以上とされているので、時効熱処理によってスピノーダル分解が起き、Ti濃度の周期的変動である変調構造を発達させること、もしくはCuとTiの金属間化合物(CuTi)からなる析出物を十分に分散させることにより、強度の向上を図ることができる。
なお、Tiは活性元素であり、鋳造時に、酸素と反応して生成したTi酸化物が介在物として巻き込まれるおそれがあることから、Tiの含有量は、0.5mass%以上2.2mass%以下の範囲内とすることが好ましい。
そして、本発明では、冷間または温間で圧延率90%超えの仕上げ圧延を実施する仕上げ圧延工程と、この仕上げ圧延工程の後に実施される時効熱処理工程と、によって製造されるとともに、前記時効熱処理工程後においてラメラー状組織を有する構成とされているので、Tiの含有量が3.5mass以下と比較的少なくても、強度を向上させることができる。
詳述すると、仕上げ圧延工程において、冷間または温間で圧延率90%超えの強加工を行うことにより、圧延方向に伸長した微細なラメラー状組織が生成し、その後の時効熱処理工程後においても、このラメラー状組織を維持させることで、強度を大幅に向上させることが可能となるのである。
なお、仕上げ圧延工程においては、上述のラメラー状組織を十分に発達させるために、圧延温度を−200℃以上300℃以下の範囲内とすることが好ましい。
ここで、本発明における仕上げ圧延工程とは、製造工程上の最終の圧延のことである。なお、本発明においては、圧延率10%以下の矯正を目的とする圧延は、圧延加工とみなさない。すなわち、仕上げ圧延工程及び時効熱処理工程の後に、圧延率10%以下の矯正を目的とする圧延を実施することを許容するものである。
また、ラメラー状組織を微細化することによって強度のさらなる向上を図れることから、仕上げ圧延工程における圧延率は95%以上とすることが好ましい。なお、ラメラー状組織のラメラー間隔を仕上げ圧延工程における圧下方向で測定した場合において、ラメラー間隔は、50nm以上500nm以下であることが好ましく、50nm以上250nm以下であることが更に好ましい。
ここで、本発明の電子・電気機器用銅合金塑性加工材において、さらに、Cr,Co,Fe,Ni,Si,Mn,Zn,Al,Zr,Ag,Mg,Sn,P,Bのうち1種又は2種以上を合計で0.01mass%以上0.5mass%以下の範囲で含むこととしてもよい。
これらの元素は、銅合金の各種特性を向上させる作用効果を有する元素であるため、要求される特性に応じて、これらの元素を適宜添加することが好ましい。
ここで、これらの元素の含有量の合計が0.5mass%を超えた場合には、導電率が低下してしまうおそれがある。また、これらの元素の含有量の合計が0.01mass%未満の場合には、これらの元素を添加しても十分な効果を得ることができない。以上のことから、本発明では、上述の元素を添加する場合には、これらの元素の含有量を合計で0.01mass%以上0.5mass%以下の範囲内に設定している。
また、本発明の電子・電気機器用銅合金塑性加工材において、前記仕上げ圧延工程の前に、溶体化処理工程を実施することが好ましい。
この場合、仕上げ圧延工程の前に溶体化処理工程を実施することで、Cuの母相中にTiを十分に固溶させることができ、仕上げ圧延工程後の時効熱処理工程によって、スピノーダル分解を起こし、Ti濃度の周期的変動である変調構造を発達させること、もしくはCuとTiの金属間化合物(CuTi)からなる析出物を均一に分散させることにより、強度の向上を図ることができる。
さらに、本発明の電子・電気機器用銅合金塑性加工材において、引張強度が700MPa以上とされていることが好ましい。
この場合、引張強度が確保されていることから、コネクタ及びその他の端子、リレー、リードフレーム等の薄肉化、小型化を図ることが可能となる。
また、本発明の電子・電気機器用部品は、上述の電子・電気機器用銅合金塑性加工材からなることを特徴としている。なお、本発明における電子・電気機器用部品とは、コネクタ及びその他の端子、リレー、リードフレーム等を含むものである。
さらに、本発明の端子は、上述の電子・電気機器用銅合金塑性加工材からなることを特徴としている。
この構成の電子・電気機器用部品及び端子は、導電率及び強度に優れた電子・電気機器用銅合金塑性加工材を用いて製造されているので、小型化及び薄肉化しても優れた特性を発揮することができる。
本発明によれば、Tiの含有量が少なくても十分な強度を有し、高い導電率と強度とを確保でき、コネクタ及びその他の端子、リレー等の電子電気部品に適したCu−Ti合金からなる電子・電気機器用銅合金塑性加工材を提供することができる。
本発明の一実施形態である電子・電気機器用銅合金塑性加工材の工程例を示すフローチャートである。 実施例における本発明例18の塑性加工材についてTEM(透過型電子顕微鏡)観察を行った結果を示す組織写真である。 実施例における比較例5の塑性加工材についてTEM(透過型電子顕微鏡)観察を行った結果を示す組織写真である。
以下に、本発明の一実施形態である電子・電気機器用銅合金塑性加工材について説明する。
本実施形態である電子・電気機器用銅合金塑性加工材は、Tiを0.5mass%以上3.5mass%以下の範囲内で含有し、残部がCuおよび不可避的不純物からなる組成を有している。なお、本実施形態では、Cr,Co,Fe,Ni,Si,Mn,Zn,Al,Zr,Ag,Mg,Sn,P,Bのうち1種又は2種以上を合計で0.01mass%以上0.5mass%以下の範囲で含んでいてもよい。
そして、本実施形態である電子・電気機器用銅合金塑性加工材は、後述するように、冷間または温間で圧延率90%超えの仕上げ圧延を実施する仕上げ圧延工程S07と、この仕上げ圧延工程S07の後に実施される時効熱処理工程S08と、によって製造されるものであり、時効熱処理工程S08後において、複数のパンケーキ状に積層されたラメラー状組織を有している。
以下に、これらの元素の含有量及び結晶組織を前述のように規定した理由について説明する。
(Ti:0.5mass%以上3.5mass%以下)
Tiは、Cu中においてスピノーダル分解を起こし、Ti濃度の周期的変動である変調構造が発達させること、もしくはCuと結合して金属間化合物(CuTi)を形成してCu母相中に析出させることにより、強度を向上させる作用効果を有する元素である。
ここで、Tiの含有量が0.5mass%未満では、その作用効果を十分に奏功せしめることができない。一方、Tiの含有量が3.5mass%を超えると、導電率が大幅に低下してしまうおそれがある。
このような理由から、Tiの含有量を0.5mass%以上3.5mass%以下に設定している。なお、Tiは活性元素であることから、鋳造時にTi酸化物を生成し、このTi酸化物を介在物として巻き込むことで、圧延時に表面割れ等の欠陥が発生するおそれがある。このような欠陥を防止する観点から、Tiの含有量は、Tiを0.5mass%以上2.2mass%以下の範囲内とすることが好ましい。
(Cr,Co,Fe,Ni,Si,Mn,Zn,Al,Zr,Ag,Mg,Sn,P,B:合計で0.01mass%以上0.5mass%以下)
Cr,Co,Fe,Ni,Si,Mn,Zn,Al,Zr,Ag,Mg,Sn,P,Bといった元素は、銅合金の各種特性を向上させる作用効果を有する元素である。よって、上記の元素を用途にあわせて選択的に含有させることにより、銅合金の特性を向上させることが可能となる。
ここで、Cr,Co,Fe,Ni,Si,Mn,Zn,Al,Zr,Ag,Mg,Sn,P,Bといった元素の含有量が0.01mass%未満では、その作用効果を十分に奏功せしめることはできない。一方、Cr,Co,Fe,Ni,Si,Mn,Zn,Al,Zr,Ag,Mg,Sn,P,Bといった元素の含有量が0.5mass%を超えると、導電率が大きく低下することになる。
このような理由から、Cr,Co,Fe,Ni,Si,Mn,Zn,Al,Zr,Ag,Mg,Sn,P,Bといった元素の含有量を添加する場合、その含有量が合計で0.01mass%以上0.5mass%以下の範囲内とすることが好ましい。
また、不可避不純物としては、Li,Ca,Sr,Ba,Sc,Y,希土類元素,Hf,V,Nb,Ta,Mo,W,Re,Ru,Os,Se,Te,Rh,Ir,Pd,Pt,Au,Cd,Ga,In,Ge,As,Sb,Tl,Pb,Bi,Po,S,O,C,Be,N,H,Hg等が挙げられる。これらの不可避不純物は、総量で0.3mass%以下であることが望ましい。なお、上述のCr,Co,Fe,Ni,Si,Mn,Zn,Al,Zr,Ag,Mg,Sn,P,Bといった元素についても、不可避不純物として混入していてもよい。
(ラメラー状組織)
上述のように、本実施形態である電子・電気機器用銅合金塑性加工材は、後述する時効熱処理工程S08後において、複数のパンケーキ状に積層されたラメラー状組織を有している。
このラメラー状組織は、後述する仕上げ圧延工程S07において、冷間または温間で圧延率90%超えの強加工を行うことによって生成するものであり、時効熱処理工程S08後も、このラメラー状組織が維持されているのである。
なお、ラメラー状組織のラメラー間隔(仕上げ圧延工程S07における圧下方向の厚さ)は、50nm以上500nm以下であることが好ましく、50nm以上250nm以下であることがさらに好ましい。
次に、このような構成とされた本実施形態である電子機器用銅合金塑性加工材の製造方法について、図1に示すフロー図を参照して説明する。
(溶解・鋳造工程S01)
まず、銅原料を溶解して得られた銅溶湯に、前述の元素を添加して成分調整を行い、銅合金溶湯を製出する。なお、Tiの添加には、Ti単体やCu−Ti母合金等を用いることができる。また、Tiを含む原料を銅原料とともに溶解してもよい。また、本合金のリサイクル材およびスクラップ材を用いてもよい。
ここで、銅溶湯は、純度が99.99質量%以上とされたいわゆる4NCuとすることが好ましい。また、溶解工程では、活性元素であるTiの酸化等を抑制するために、真空炉、あるいは、不活性ガス雰囲気または還元性雰囲気とされた雰囲気炉を用いることが好ましい。
そして、成分調整された銅合金溶湯を鋳型に注入して鋳塊を製出する。なお、量産を考慮した場合には、連続鋳造法または半連続鋳造法を用いることが好ましい。
(加熱工程S02)
次に、得られた鋳塊の均質化および溶体化のために加熱処理を行う。鋳塊の内部には、凝固の過程においてTiが偏析で濃縮することにより発生したCuとTiを主成分とする金属間化合物等が存在することになる。そこで、これらの偏析および金属間化合物等を消失または低減させるために、鋳塊を400℃以上1000℃以下にまで加熱する加熱処理を行うことで、鋳塊内において、Tiを均質に拡散させたり、Tiを母相中に固溶させたりするのである。なお、この加熱工程S02は、非酸化性または還元性雰囲気中で実施することが好ましい。
ここで、加熱温度が400℃未満では、溶体化が不完全となり、母相中にCuとTiを主成分とする金属間化合物が多く残存するおそれがある。一方、加熱温度が1000℃を超えると、鋳塊の一部が液相となり、組織や表面状態が不均一となるおそれがある。よって、加熱温度を400℃以上1000℃以下の範囲に設定している。より好ましくは500℃以上900℃以下、更に好ましくは520℃以上850℃以下とする。
(熱間圧延工程S03)
そして、加熱工程S02において400℃以上1000℃以下にまで加熱された鋳塊を、粗加工の効率化と組織の均一化のために熱間圧延を実施する。この時の加工率は目的の形状により適宜選択することになるが、本実施形態では、組織の均一化のために30%以上に設定している。なお、熱間圧延工程S03における加工率は40%以上とすることが好ましく、50%以上とすることがさらに好ましい。
なお、熱間圧延後の冷却方法は、特に限定しないが、水焼入など冷却速度が200℃/min以上となる方法を採用することが好ましい。
(溶体化処理工程S04)
本実施形態では、熱間圧延工程S03の後に、Tiの溶体化を徹底するために、400℃以上1000℃未満の温度条件で熱処理を行う。熱処理後の冷却方法は、特に限定しないが、水焼入などの冷却速度が200℃/min以上となる方法を採用することが好ましい。
なお、この溶体化処理工程S04は、省略してもよい。
(中間圧延工程S05)
次に、加熱工程S02で均質化処理を施した鋳塊、熱間圧延工程S03で熱間圧延を施した熱間加工材、及び、溶体化処理工程S04を実施した銅素材を必要に応じて切断するとともに、表面に形成された酸化膜等を除去するために必要に応じて表面研削を行う。そして、所定の加工率で中間圧延を実施する。
なお、この中間圧延工程S05における温度条件は特に限定はないが、冷間又は温間加工となる−200℃から300℃の範囲内とすることが好ましい。また、加工率は、最終形状に近似するように適宜選択されることになるが、後述する中間熱処理工程S06の回数を低減するために、20%以上とすることが好ましく、30%以上とすることがより好ましい。なお、溶体化の徹底のために、S02〜S05を繰り返してもよい。このとき、溶体化処理工程S04を省略してもよい。
(中間熱処理工程S06)
中間加工工程S05後に、溶体化の徹底、再結晶組織化または加工性向上のための軟化を目的として中間熱処理を実施する。
ここで、熱処理の方法は特に限定はないが、好ましくは400℃以上1000℃以下の条件で、非酸化雰囲気又は還元性雰囲気中で熱処理を行う。より好ましくは500℃以上900℃以下、さらに好ましくは520℃以上850℃以下とする。
ここで、中間熱処理工程S06においては、400℃以上1000℃以下にまで加熱された銅素材を、200℃以下の温度にまで、水焼入れ等によって200℃/min以上の冷却速度で冷却する。このように急冷することによって、母相中に固溶した元素がスピノーダル分解や析出が抑制されることになり、後の加工性が向上するためである。なお、上述の中間圧延工程S05と中間熱処理工程S06とを繰り返し実施してもよい。
(仕上げ圧延工程S07)
中間熱処理工程S06後の銅素材に対して、圧延率90%超えの条件で仕上げ圧延を実施する。なお、この仕上げ圧延工程S07における温度条件は、冷間または温間加工となる−200℃から300℃の範囲内とすることが好ましい。また、加工率は、ラメラー状組織の形成のために、92.5%以上とすることが好ましく、95%以上とすることがさらに好ましい。
(時効熱処理工程S08)
次に、仕上げ圧延工程S07によって得られた圧延材に対して、強度、導電率の上昇のために、時効熱処理を実施する。
バッチ熱処理の場合、熱処理温度は、300℃超え500℃以下、1秒以上24時間以下で実質的にラメラー状組織が残存するように条件を設定する。例えば300℃では5時間以上20時間以下、400℃では1時間以上4時間以下、500℃では5秒以上1時間以下の条件で実施することが好ましい。また熱処理時の雰囲気においては、非酸化雰囲気又は還元性雰囲気中で行うことが好ましい。
なお、熱処理後の冷却方法は、特に限定しないが、水焼入など冷却速度が200℃/min以上となる方法を採用することが好ましい。
以上のようにして、本実施形態である電気・電子機器用銅合金塑性加工材が製出されることになる。ここで、時効熱処理工程S08の後に、圧延率10%以下で形状矯正を目的とする圧延を実施してもよい。
また、本実施形態である電気・電子機器用銅合金塑性加工材においては、引張強度が700MPa以上とされている。
そして、本実施形態である電気・電子機器用銅合金塑性加工材を素材としてさらに加工を施すことにより、例えばコネクタ及びその他の端子、リレー、リードフレームといった電子・電気機器用部品が成形される。
以上のような構成とされた本実施形態である電気・電子機器用銅合金塑性加工材によれば、Tiの含有量が0.5mass%以上とされているので、時効熱処理工程S08によってスピノーダル分解が起き、Ti濃度の周期的変動である変調構造が発達させること、もしくはCuとTiの金属間化合物(CuTi)からなる析出物をCuの母相中に均一に分散させることにより、強度の向上を図ることができる。
また、Tiの含有量が3.5mass%以下とされているので、電気抵抗の上昇が抑制され、比較的高い導電率を確保することができる。
そして、本実施形態においては、時効熱処理工程後S08において複数のパンケーキ状に積層されたラメラー状組織を有しているので、Tiの含有量が3.5mass以下と比較的少なくても強度を向上させることが可能となる。このラメラー状組織は、仕上げ圧延工程S07において、冷間または温間で圧延率90%超えの強加工を行うことによって生成した加工組織であり、このラメラー状組織を、時効熱処理工程S08後も維持することによって、強度の向上が図れるのである。
なお、本実施形態において、ラメラー状組織のラメラー間隔(仕上げ圧延工程S07における圧下方向の厚さ)を、50nm以上500nm以下とし、さらには、50nm以上250nm以下とした場合には、微細なラメラー状組織が生成されることになり、さらに強度の向上を図ることが可能となる。
また、本実施形態である電気・電子機器用銅合金塑性加工材において、さらに、Cr,Co,Fe,Ni,Si,Mn,Zn,Al,Zr,Ag,Mg,Sn,P,Bのうち1種又は2種以上を合計で0.01mass%以上0.5mass%以下の範囲で含む組成とした場合には、導電率を大幅に低下させることなく、添加する元素に応じて各種特性を向上させることができる。
さらに、本実施形態である電気・電子機器用銅合金塑性加工材においては、引張強度が700MPa以上とされているので、コネクタ及びその他の端子、リレー、リードフレーム等の電気・電子機器用部品の薄肉化、小型化を図ることが可能となる。
また、本実施形態では、仕上げ圧延工程S07における圧延率が90%超えとされているので、仕上げ圧延工程S07によってラメラー状組織を生成することができる。なお、圧延率を92.5%以上、さらには95%以上とした場合には、ラメラー間隔が小さなラメラー状組織を生成することができ、さらなる強度向上を図ることができる。
さらに、仕上げ圧延工程S07では、圧延温度を−200℃以上300℃以下の範囲内としているので、ラメラー状組織を十分に発達させることができる。
また、本実施形態では、仕上げ圧延工程S07の前に、溶体化処理工程S04を実施する構成とされているので、Cuの母相中にTiを十分に固溶させることができ、仕上げ圧延工程S07後の時効熱処理工程S08によって、スピノーダル分解が起き、Ti濃度の周期的変動である変調構造が発達させること、もしくはCuとTiの金属間化合物(CuTi)からなる析出物を均一に分散させることにより、強度の向上を図ることができる。さらに、本実施形態では、加熱工程S02、熱間圧延工程S03、中間熱処理工程S05を備えているので、Tiの溶体化を徹底させることができる。
以上、本発明の実施形態である電気・電子機器用銅合金塑性加工材について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、上述の実施形態では、電気・電子機器用銅合金塑性加工材の製造方法の一例について説明したが、製造方法は本実施形態に限定されることはなく、既存の製造方法を適宜選択して製造してもよい。
以下に、本発明の効果を確認すべく行った確認実験の結果について説明する。
純度99.99質量%以上の無酸素銅(ASTM B152 C10100)からなる銅原料を準備し、これを高純度グラファイト坩堝内に装入して、Arガス雰囲気とされた雰囲気炉内において高周波溶解した。得られた銅溶湯内に、各種添加元素を添加して表1に示す成分組成に調製し、カーボン鋳型に注湯して鋳塊を製出した。なお、鋳塊の大きさは、厚さ約100mm×幅約100mm×長さ約100〜120mmとした。
この鋳塊をAr雰囲気で950℃×4時間保持した後に熱間圧延を行い、水焼入れを実施して、厚さ約50mm×幅約100mmの熱間圧延材を製出した。
次に、熱間圧延材に対して、表2に示す条件で熱処理(溶体化処理)を実施した。なお、表2において条件が記載されていないものは、この熱処理(溶体化処理)を省略したものである。
次に、熱間圧延材及び熱処理材を切断するとともに、酸化被膜を除去するために表面研削を実施した。その後、常温で、表2に記載された圧延率で中間圧延を実施した。
得られた条材に対して、表2に記載された温度の条件でソルトバスを用いて中間熱処理を実施し、その後、水焼入れを実施した。
次に、得られた圧延材に対して、常温で、表2に記載された圧延率で仕上げ圧延を実施して厚み0.1mmの薄板を作製した。
そして、仕上げ圧延後に、表2に示す条件でソルトバスを用いて時効熱処理を実施し、その後、水焼入れを実施し、特性評価用条材を作成した。
(組織観察)
各試料に対して圧延方向が横、厚み方向が縦となるように試料をイオンミーリング法により作製し、透過型電子顕微鏡のサンプルを作成した。観察方向は圧延方向が横、厚み方向が縦となるようにして10万倍で観察を行った。
ラメラー幅の測定には圧延方向に対して垂直方向に線分を5本ずつ引き、完全に切られるパンケーキ状のラメラー状組織の領域数を数え、その切断長さの平均値を平均ラメラー間隔として数えた。
(機械的特性)
特性評価用条材からJIS Z 2201に規定される13B号試験片を採取し、JIS Z 2241のオフセット法により、0.2%耐力σ0.2を測定した。
なお、試験片は、引張試験の引張方向が特性評価用条材の圧延方向に対して平行になるように採取した。
(導電率)
特性評価用条材から幅10mm×長さ150mmの試験片を採取し、4端子法によって電気抵抗を求めた。また、マイクロメータを用いて試験片の寸法測定を行い、試験片の体積を算出した。そして、測定した電気抵抗値と体積とから、導電率を算出した。なお、試験片は、その長手方向が特性評価用条材の圧延方向に対して平行になるように採取した。
条件、評価結果について表1〜3に示す。
また、本発明例18の塑性加工材についてTEM(透過型電子顕微鏡)観察を行った結果を図2に示す。さらに、比較例5の塑性加工材についてTEM(透過型電子顕微鏡)観察を行った結果を図3に示す。
本発明例1−20においては、例えば図2に示すように、組織観察によってラメラー状組織が観察された。これらのラメラー間隔を測定した結果、50nm以上500nm以下の範囲内であった。なお、比較例1,2においてもラメラー状組織は観察されたが、これら比較例1,2は、Tiの含有量が本発明の範囲から外れたものである。
一方、比較例3−5においては、例えば図3に示すように、組織観察によってラメラー状組織は観察されなかった。比較例3,4においては、仕上げ圧延の圧延率が低く、ラメラー状組織が生成されなかったものと推測される。また、比較例5においては、仕上げ圧延後の時効熱処理の保持時間が5時間と長かったため、仕上げ圧延で生成したラメラー状組織が維持できなかったものと推測される。
Tiの含有量が本発明の範囲よりも少なかった比較例1においては、ラメラー状組織は観察されたが、強度が450MPaと低かった。スピノーダル分解の発生もしくはCuとTiの金属間化合物からなる析出物の分散が不十分であったためと推測される。
Tiの含有量が本発明の範囲よりも多かった比較例2においては、導電率が8%IACSと低くなった。
ラメラー状組織が観察されなかった比較例3−5においては、強度が612MPa,672MPa,633MPaと低くなった。
これに対して、本発明例1−20においては、いずれも強度が700MPa以上とされており、導電率も15%IACSと比較的高くなっていることが確認される。
以上のことから、本発明例によれば、高強度、高導電性を有し、コネクタ及びその他の端子、リレー等の電子・電気機器用部品に適した電子・電気機器用銅合金塑性加工材を提供できることが確認された。

Claims (6)

  1. Tiを0.5mass%以上3.5mass%以下の範囲内で含有し、残部がCuおよび不可避的不純物からなる組成を有し、
    冷間または温間で圧延率90%超えの仕上げ圧延を実施する仕上げ圧延工程と、この仕上げ圧延工程の後に実施される時効熱処理工程と、によって製造されるとともに、
    時効熱処理工程後において、ラメラー状組織を有することを特徴とする電子・電気機器用銅合金塑性加工材。
  2. 請求項1に記載の電子・電気機器用銅合金塑性加工材において、
    さらに、Cr,Co,Fe,Ni,Si,Mn,Zn,Al,Zr,Ag,Mg,Sn,P,Bのうち1種又は2種以上を合計で0.01mass%以上0.5mass%以下の範囲で含むことを特徴とする電子・電気機器用銅合金塑性加工材。
  3. 請求項1または請求項2に記載の電子・電気機器用銅合金塑性加工材において、
    前記仕上げ圧延工程の前に、溶体化処理工程を実施することを特徴とする電子・電気機器用銅合金塑性加工材。
  4. 請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の電子・電気機器用銅合金塑性加工材において、
    引張強度が700MPa以上とされていることを特徴とする電子・電気機器用銅合金塑性加工材。
  5. 請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の電子・電気機器用銅合金塑性加工材からなることを特徴とする電子・電気機器用部品。
  6. 請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の電子・電気機器用銅合金塑性加工材からなることを特徴とする端子。
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