JP2014173122A - ErドープZnO膜形成方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】非晶質の層上などの非エピタキシャルな状態でも、Erを添加したZnOの薄膜を発光可能な状態で形成できるようにする。
【解決手段】ZnOがエピタキシャル成長しない層101の上に、ErがドープされたZnOからなる薄膜102をスパッタ法で形成する(薄膜形成工程)。下層101は、例えば、シリコン基板であり、また、シリコン基板の上に形成された酸化シリコン層である。いずれの場合も、非エピタキシャルな状態となる。ここで、薄膜102のスパッタ法による形成では、薄膜102におけるErとZnの原子数の総和に対するEr原子数の割合(Er濃度)が、0.6at.%以上3at.%以下となる条件とする。また、薄膜102に加わる温度は最大でも200℃の範囲とする。例えば、薄膜102の形成時に、基板加熱を行わず、また、薄膜102を形成した後、加熱処理を行わなければよい。
【選択図】 図1

Description

本発明は、ErをドープしたZnOの薄膜を、酸化シリコンなどの非晶質材料から構成された下層の上に形成するなど非エピタキシャルな状態におけるErドープZnO膜形成方法に関する。
Er3+イオンの4f準位間電子遷移に伴う発光は、中心波長が1540nm付近に存在する。これは、光ファイバー内の光損失が最も低くなる波長に該当し、光通信で使用される波長帯に重なる。このため、Er3+イオンを少量ドープした光ファイバーは、いわゆる光ファイバーアンプとして広く用いられており、Er3+イオンドープのSiO2は、光エレクトロニクス分野において重要な材料となっている。
光ファイバーアンプは、光ファイバー中に微量のEr3+イオンがドープされたものであって、束ねられたファイバー中をある程度の距離だけ光が導波することによって、光信号が増幅されるしくみになっている。光ファイバーアンプは、独立した光部品のひとつであり、従来、光通信システムは、このような光部品単体どうしを光ファイバーで結合することで、全体を構築するという思想に基づいて構成されている。
ところで、基板の上に微小光部品を集積することで実現する光回路が、システム全体の小型化に有効であることは、古くから認識されてきた。このような光回路においては、光ファイバーアンプの機能に相当する部分は、光増幅の機能を有する光導波路の区間である。光ファイバーアンプよりもはるかに短い光導波路において光増幅を行うには、必然的にEr濃度を高くする必要がある。しかし一方で、濃度消光により、自ずと発光強度が制限されるという限界があった。また、このような光デバイスは、低温では十分な発光強度が得られても、実際に用いられる室温(20〜25℃)においては、温度消光しやすいという問題もあった。
上述した温度消光の問題は、ワイドバンドギャップ材料をホスト結晶とすることで、緩和することができる。例えば、バンドギャップが3.37eVと広いZnOは、Er3+イオンを受け入れるホストに向いていると言える。
Y. Ishikawa, M. Okamoto, S. Tanaka, D. Nezaki, and N. Shibata,"Influence of annealing on the 1.5 μm light emission of Er-doped ZnO thin films and its crystal quality", J. Mater. Res. vol.20, no. 9, pp.2578-2582, 2005. A. K. Pradhan, L. Douglas, H. Mustafa, R. Mundle, D. Hunter, and C. E. Bonner, "Pulsed-laser deposited Er:ZnO films for 1.54 m emission", Appl. Phys. Lett. , vol.90, 072108, 2007. Y. Terai, K. Yamaoka, T. Yamaguchi, and Y. Fujiwara, "Structural and luminescent properties of Er-doped ZnO films grown by metalorganic chemical vapor deposition", J. Vac. Sci. Technol. B, vol.27, no.5, pp.2248-2251, 2009.
しかしながら、ErがドープされたZnO(ZnO:Er)の薄膜に関する報告例はこれまで少なく、これらの成膜には、主にサファイア基板が用いられてきた(非特許文献1〜3参照)。しかし、ZnO:Er膜を光導波路として用いるには、SiO2のような非晶質材料をクラッド層とし、このクラッド層の上に成膜する必要がある。このため、SiやSiO2などの基板上へ成膜するなど、ZnOがエピタキシャル成長しない非エピタキシャルな状態でも、発光するZnO:Er膜を形成するプロセスが望まれていた。
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、非晶質の層上などの非エピタキシャルな状態でも、Erを添加したZnOの薄膜を発光可能な状態で形成できるようにすることを目的とする。
本発明に係るErドープZnO膜形成方法は、ZnOがエピタキシャル成長しない層の上に、ErがドープされたZnOからなる薄膜をスパッタ法で形成する薄膜形成工程を備え、薄膜形成工程では、薄膜におけるErとZnの原子数の総和に対するEr原子数の割合が、0.6at.%以上3at.%以下となる条件とし、薄膜に加わる温度は最大でも200℃の範囲とする。
上記ErドープZnO膜形成方法において、薄膜形成工程では、Erを含有するZnOからなるターゲットを用いた電子サイクロトロン共鳴スパッタ法により、薄膜を形成すればよい。
上記ErドープZnO膜形成方法において、薄膜形成工程では、ZnOからなるターゲットを用いた電子サイクロトロン共鳴スパッタ法、およびEr23からなるターゲットを用いたマグネトロンスパッタ法により、薄膜を形成すればよい。
以上説明したことにより、本発明によれば、非晶質の層上などの非エピタキシャルな状態でも、Erを添加したZnOの薄膜が発光可能な状態で形成できるようになるという優れた効果が得られる。
図1は、本発明の実施の形態におけるErドープZnO膜形成方法を説明するための説明図である。 図2は、ECRスパッタ装置の構成例を示す構成図である。 図3は、2つのスパッタ法による膜の形成を実現する成膜装置の構成例を示す構成図である。 図4は、実施例におけるEr濃度0.3at.%のZnO:Er膜について、成膜中および成膜後のいずれにおいても加熱処理をしていない無処理の状態におけるEr3+イオンからの発光(a)、および成膜後に酸素ガス中で500℃の条件で成膜後に加熱した状態におけるEr3+イオンからの発光(b)を示す特性図である。 図5は、Er23ターゲットを用いたRFスパッタにおけるスパッタパワーを変化させてEr濃度を変えた一連の試料について、Siウエハ上の固定した場所における発光スペクトルの変化を示す特性図である。 図6は、Er23ターゲットを用いたRFスパッタにおけるスパッタパワーを変化させてEr濃度を変えた一連の試料について、Siウエハ上の固定した場所における発光スペクトルの変化を示す特性図である。 図7は、加熱処理をしないZnO:Er薄膜の試料について、Er濃度の変化に対する発光強度の変化を示す特性図である。 図8は、Er濃度4at.%のZnO:Er膜を酸素ガス中で、500℃,600℃,700℃,800℃,900℃に加熱した後の各試料の発光スペクトルを示す特性図である。 図9は、Er濃度5.1at.%のZnO:Er膜を酸素ガス中で、500℃,600℃,700℃,800℃,900℃に加熱した後の各試料の発光スペクトルを示す特性図である。
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。図1は、本発明の実施の形態におけるErドープZnO膜形成方法を説明するための説明図である。この形成方法は、第1工程S101で、ZnOがエピタキシャル成長しない層101の上に、ErがドープされたZnOからなる薄膜102をスパッタ法で形成する(薄膜形成工程)。層101は、例えば、シリコン基板であり、また、シリコン基板の上に形成された酸化シリコン層である。シリコンおよび酸化シリコンのいずれも、この上にはZnOがエピタキシャル成長することはなく、いずれの場合も、ZnOがエピタキシャル成長しない非エピタキシャルな状態である。
ここで、薄膜102のスパッタ法による形成では、薄膜102におけるErとZnの原子数の総和に対するEr原子数の割合(Er濃度)が、0.6at.%以上3at.%以下となる条件とする。また、薄膜102に加わる温度は最大でも200℃の範囲とする。例えば、薄膜102の形成時に、基板加熱を行わず、また、薄膜102を形成した後、加熱処理を行わなければよい。
次に、第2工程S102で、層101の上に、ErがドープされたZnOからなるパターン103を形成する。例えば、薄膜102を公知のリソグラフィー技術およびエッチング技術によりパターニングすることでパターン103が形成できる。パターン103は、例えば、光導波路を構成するコアである。例えば、層101が酸化シリコンからなるクラッド層であれば、この上にコアを形成することで、光導波路構造となる。なお、このパターニングにおいても、薄膜102およびパターン103に加わる温度は最大でも200℃の範囲とすることが重要となる。
上述したように、形成したZnO:Erからなる薄膜やパターンに、200℃を超える温度が加わらないようにすることで、非晶質材料の層の上に成膜するなどの非エピタキシャルな状態であっても、十分な発光が可能な状態とすることができる。
ここで、ZnO:Erからなる薄膜102は、例えば、Erを含有するZnOからなるターゲットを用いた電子サイクロトロン共鳴(ECR)スパッタ法により、形成すればよい。これは、よく知られたECRスパッタ装置を用いればよい。
ECRスパッタ装置は、図2に示すように、成膜室201と、成膜室201に連通するプラズマ生成室203とを備える。プラズマ生成室203には、マイクロ波供給源204により例えば2.45GHzのマイクロ波が供給可能とされている。また、プラズマ生成室203の周囲には、例えば、0.0875T(テスラ)の磁場をプラズマ生成室203内に発生させる磁気コイル205が備えられている。
また、成膜室201には、プラズマ生成室203の出口近傍を取り巻くリング状のターゲット202が配置されている。ターゲット202は、所定のターゲットバイアス(高周波電力)が印加可能とされている。
上述したように構成されたECRスパッタ装置の成膜室201の内部に、ターゲット202と約20cm離間させて基板Wを載置した後、よく知られた排気機構(不図示)により、成膜室201の内部を所定の圧力にまで真空排気する。例えば、成膜室201の内部を、10-4〜10-5Pa台の高真空状態の圧力に減圧する。
次に、ECRスパッタ装置のプラズマ生成室203に、アルゴンなどの不活性ガスおよびO2ガスを導入して所定の真空度(圧力)とし、この状態で、磁気コイル205により2.45GHzのマイクロ波(500W程度)と0.0875Tの磁場とを供給して電子サイクロトロン共鳴条件とすることで、プラズマ生成室203内にECRプラズマを形成させる。
上述したことにより生成されたECRプラズマは、磁気コイル205の発散磁場により、プラズマ生成室203から、これに連通する成膜室201の側に放出される。この状態で、プラズマ生成室203の出口に配置されたターゲット202に、例えば、13.56MHz・500Wの高周波電力(ターゲットバイアス)を供給(印加)する。このことにより、生成されているECRプラズマにより発生した粒子が、ターゲット202に衝突してスパッタリング現象が起こり、ターゲット202を構成している粒子が飛び出す状態となる。
以上のようにしてECRプラズマを生成してスパッタ状態にすることで、ターゲット202よりスパッタされている粒子(Zn原子,O原子,Er原子)が、基板Wの上に堆積し、基板Wの上にZnO:Er(ErドープZnO)膜が形成される。また、O2ガスが添加されているので、形成されるZnO:Er膜中に取り込まれる酸素原子が補える。
また、例えば、ZnO:Erからなる薄膜は、ZnOからなるターゲットを用いたECRスパッタ法、およびEr23からなるターゲットを用いたマグネトロンスパッタ法により形成してもよい。
上述した2つのスパッタ法による膜の形成を実現する成膜装置について図3を用いて説明する。この成膜装置は、図示しないターボ分子ポンプなどの真空排気装置が連通した真空処理室301と、真空処理室301の内部に設けられたECRプラズマ源302と、ECRプラズマ源302より生成されたECRプラズマによるスパッタを行うためのZnOからなるターゲット303とを備える。ECRプラズマ源302とターゲット303とにより、ECRスパッタ法を実現するECRスパッタ源が構成されていることになる。ECRプラズマ源302を動作させ、アルゴンガスを用いてECRプラズマを生成し、円筒型のターゲット303にRFを印加することでZn原子およびO原子がスパッタされ、これらが下流に位置する基板Wの表面に付着する。基板Wは、基板台310の上に載置されている。
また、この成膜装置は、RFマグネトロンプラズマ発生部304と、RFマグネトロンプラズマ発生部304により生成されたプラズマによりスパッタを行うためのEr23からなるターゲット305とを備え、これらが、導入部306により真空処理室301に接続されている。RFマグネトロンプラズマ発生部304とターゲット305とにより、マグネトロンスパッタ法を実現するRFマグネトロンスパッタ源が構成されていることになる。
RFマグネトロンプラズマ発生部304によりアルゴンガスのプラズマを生成し、円板状のターゲット305にRFを印加することで、ターゲット305のEr原子およびO原子がスパッタされ(RFマグネトロンスパッタ)、これらが下流に位置する基板Wの表面に付着する。
これらの構成により、ターゲット303よりスパッタされて飛び出た粒子と、ターゲット305よりスパッタされて飛び出た粒子とが、真空処理室301の内部に配置された処理対象の基板Wの膜形成面に堆積することが可能となる。また、真空処理室301には、O2ガスを導入するガス導入口307を備えている。なお、図3では、アルゴンなどのスパッタガスの導入については省略している。Er23からなるターゲット305を用いることで、ZnO:Er膜が形成可能である。
上述した成膜装置では、ターゲット305の表面(スパッタされる面)の法線と基板Wの表面(成膜される面)の法線とのなす角度が、60°以上90°未満にされている。図3において、角度θが、60°以上90°未満にされている。ECRプラズマ源302からのプラズマが流れる方向を基板Wの法線方向としており、ターゲット305の表面の法線と、ECRプラズマ源302からのプラズマが流れる方向とのなす角度がθであり、これが60°以上90°未満にされている。なお、この例では、円筒形状のターゲット303を用いており、ターゲット303の中空部の中心を通る線が、ECRプラズマ源302からのプラズマが流れる方向となっている。
上述した角度の範囲であれば、Erの堆積速度をあまり大きくしすぎることがなく、Erの導入量を所望の範囲に制御することができる。一方、上記角度が90°を超えると、ターゲット305が基板Wの膜形成面から見込めなくなり、ターゲット305からの粒子がほとんど到達しなくなる。このため、上記角度は90°未満とする。実際には、上記角度が80°を越えると、ターゲット305から見込める基板Wの表面の領域(幅)が狭くなりすぎる。従って、ターゲット305の表面の法線と基板Wの表面の法線とのなす角度は、60°〜80°の範囲とするとよりよい。
なお、基板Wの表面に平行な平面方向において、基板Wは、ターゲット305からのスパッタ粒子が到達する領域(範囲)内に入る位置に配置する。また、基板台310に、基板Wをこの中心部を通る法線を軸として回転させる基板回転機能を備え、この機能により基板Wを回転させることで、基板Wの面内における膜厚と各組成の均一性を確保することができる。
また、ECRプラズマ源302からのプラズマが流れる方向を基板Wの法線方向としており、この状態が、ECRスパッタ源によるZnO膜の堆積速度を最大とする。ECRプラズマ源302からのプラズマが流れる方向に対し、基板Wの法線方向をずらすほど、ECRプラズマ流(スパッタ粒子)の単位面積あたりの密度が低下し、堆積速度(成膜速度)が低下する。ECRプラズマ源302からのプラズマが流れる方向に対し、基板Wの法線方向をあまりずらすと、ZnO膜の堆積速度が低下しすぎ、相対的にErのドープ量が多くなり、所望とするErドープ量が得られない場合がある。従って、ECRプラズマ源302からのプラズマが流れる方向に対する基板Wの法線方向の角度は、あまり大きくしない方がよい。
上述した成膜装置を用いることで、基板Wの上にZnO:Er膜が形成できる。また、O2ガスを導入してスパッタ成膜すれば、形成されるZnO:Er膜中に取り込まれる酸素原子を補うことができる。なお、上述したスパッタ成膜において、基板加熱は行っていないが、成膜の過程で、基板温度は70℃程度まで上昇する。
以下、加わる温度が200℃以下の条件でスパッタ法で形成するZnO:Er膜について、実施例を用いてより詳細に説明する。本発明においては、上述したように、例えば、加熱処理を行わないなど、加わる温度が200℃以下とした範囲で、ZnO:Er膜を形成することで、酸化シリコンなどの非晶質の層の上など非エピタキシャルな状態で形成しても、ドープしたErイオンの光学的活性化を図るところに特徴がある。
[実施例]
まず、上述したZnOからなるターゲットを用いたECRスパッタ法、およびEr23からなるターゲットを用いたマグネトロンスパッタ法により、ZnO:Er薄膜を形成する。ECRスパッタ部では、ZnOターゲットを用い、プラズマガスとして酸素ガスを添加したアルゴンガスを用いる。酸素ガスの添加は、膜中に取り込まれる酸素原子を補うために行う。酸素流量は、成膜室内の圧力が8×10-3Paから2.4×10-2Paの間になるように設定した。
ZnOターゲットを備えたECRスパッタによりZnOホスト結晶を成膜しながら、Er23ターゲットを備えたRFマグネトロンスパッタガンからのスパッタを併用し、ZnO中にErを取り込んだ。また、ECRスパッタによるZnO成膜のためのマイクロ波パワーは500W、ZnOターゲットに印加するRFのパワーは500Wとした。なお、基板には直径が4インチのSi(001)ウエハを用いた。このシリコンウエハの上には、上述した条件のスパッタ法では、ZnOがエピタキシャル成長しない。
ここで、成膜したZnO:Er薄膜におけるEr含有量は、Er23ターゲットを用いたRFマグネトロンスパッタパワーにより変化させる、あるいは、場所に応じてZnOターゲットからとEr23ターゲットからの堆積速度が異なるために生じる基板上のEr濃度分布を利用し、発光強度のEr濃度依存性を得た。また、Er3+イオンからの発光は、532nmの固体レーザーで励起し、413/2415/2の遷移に基づく1.54μm波長帯のスペクトルを測定した。
図4は、上述したことにより成膜したEr濃度0.3at.%のZnO:Er膜について、成膜中および成膜後のいずれにおいても加熱処理をしていない無処理の状態におけるEr3+イオンからの発光(a)、および成膜後に酸素ガス中で500℃の条件で成膜後に加熱した状態におけるEr3+イオンからの発光(b)を示す特性図である。
図4の(a)に示すように、無処理の場合には、Er3+イオンが10000カウント程度発光しているのに対し、図4の(b)に示すように、加熱すると急激に発光しなくなっている。
上述した結果について考察すると、次のように考えることができる。まず、加熱処理をしない場合、膜中にランダムに存在するEr3+イオンのうちの一定量がZn2+サイトを置換することができ、光学的に活性なサイトを占有し得る。一方、加熱処理をした場合、上述したようなEr3+イオンは拡散し、本来、価数2+のイオンが安定に存在できるZn2+サイトから出て行ってしまう。この結果、上述した現象となる。また、加熱温度が200℃までは、図4の(a)と同じ結果となり、加熱温度が300℃の場合、発光のピーク高さが減少した。この結果より、薄膜に加わる温度は、最大でも200℃の範囲とすればよいことが分かる。
図5は、Er23ターゲットを用いたRFスパッタにおけるスパッタパワーを変化させてEr濃度を変えた一連の試料について、Siウエハ上の固定した場所における発光スペクトルの変化を示す特性図である。まず、Er濃度が0.3at.%から1.1at.%へ増えると、発光強度が増大している。また、2.8at.%で僅かに減少し、5.1at.%では急に強度が弱まっている。この発光強度の変化は、濃度消光によるものである。中心波長1538nmのメインピーク以外に、1553nmに肩のピークが見られるが、これは413/2の準位がエネルギー的に分裂しているためである。しかし、1553nmのピークは低いため、1538nmのピークだけからなるような、スペクトル幅の狭い発光が得られている。
図6は、図5と同様に、Siウエハ上の別の場所を固定し、Er23ターゲットを用いたRFスパッタにおけるスパッタパワーを変化させたときの発光スペクトルの変化を示す特性図である。Er濃度2.0at.%、2.8at.%の場合の発光強度は、ほぼ同等であるが、3.9at.%になると低下し、7.6at.%では、さらに弱くなっている。
図7は、加熱処理をしないZnO:Er薄膜の試料について、Er濃度の変化に対する発光強度の変化を示す特性図である。図7において、白丸と白四角と黒四角とは、各々、Er23ターゲットを用いたRFスパッタにおけるスパッタパワーが異なる。
Er濃度を0.2at.%から増やしていくと、発光強度は0.6at.%で飽和し、3at.%までは13000カウントから15000カウントで推移している。Er濃度が3at.%を超えると、濃度消光の影響により急速に発光強度が減少している。この結果より、Er濃度は0.6at.%以上、3at.%以下の範囲に設定することが望ましいことが分かる。
発光強度が、このEr濃度範囲において定常的な値を示すのは、光学的に活性な置換サイトの数が限られているためと考えられる。Er濃度が低いと、加熱により光学活性なErが失われてしまうが、ある程度高濃度のErを含む場合には、Er3+イオンが熱拡散して再配置する結果として、光学活性なErが生き残る。
図8は、Er濃度4at.%のZnO:Er膜を酸素ガス中で、500℃,600℃,700℃,800℃,900℃に加熱した後の各試料の発光スペクトルを示す特性図である。図5、図6のスペクトル形状と比べると、明らかに発光ピークの幅は広い。これは、Er3+イオンが様々なサイトに収まり、この化学的環境の違いを反映して発光エネルギーが異なるためである。特に700℃の加熱後は、1545nmのピークが高くなり、全体のスペクトル線幅増大に寄与している。ピーク強度は、15000カウント程度あるので図5および図6に示した結果と同等な特性である。しかし、Er3+イオンの発光現象を光信号増幅器に応用する場合には、スペクトル線幅の狭い方が有利なため、図5、図6を用いて説明した加熱処理をしていない場合の方が応用上優れている。
加熱温度を800℃まで上げると、強度は急激に減少し、900℃では完全に消光している。これは、Er3+イオンが熱拡散してEr23の形で凝縮したか、あるいは蒸発したことを示唆している。
図9は、Er濃度5.1at.%のZnO:Er膜を酸素ガス中で、500℃,600℃,700℃,800℃,900℃に加熱した後の各試料の発光スペクトルを示す特性図である。図8に示した結果と同様に、スペクトル線幅は、図5、図6に示す結果に比較して広くなっている。ピーク強度は加熱温度600−700℃において最大であるが、加熱温度800−900℃では、やはり消光している。
図7を参照すると、図8および図9を用いて説明した試料におけるEr濃度は、既に濃度消光の領域に入っている。図4を用いて説明したように、加熱によって、発光するサイトからEr3+イオンが抜けることが推測されるので、図8および図9に示す結果のように、最適Er濃度を超えている場合には、過剰な量のEr3+イオンが熱拡散により他の箇所へ移動した後に、適当量のEr3+イオンが活性サイトに残り、加熱しない試料の最適Er濃度の発光と同程度の強さの発光が観測されるものと解釈できる。
これらの結果から、最適量のEr3+イオンがドープされる条件(Er濃度;0.6at.%〜3at.%以下)であれば、室温状態で加熱せずに成膜し、また、成膜後に加熱処理をしない状態であっても、ある程度の発光強度が得られることが分かる。これは、室温成膜中に結晶化が可能なZnOホスト結晶に特有な現象であると考えられる。また、ECRスパッタ法による成膜では、ZnOの結晶化促進効果が顕著であり、エピタキシャル成長しない層の上への室温成膜においても良好なZnO結晶格子が形成されることが、上述した結果が得られたことの背景にあるものと考えられる。
以上に説明したように、本発明によれば、ZnOがエピタキシャル成長しない層の上に、ZnO:Er薄膜をスパッタ法により形成する薄膜形成において、薄膜におけるErとZnの原子数の総和に対するEr原子数の割合が、0.6at.%以上3at.%以下となる条件で成膜し、かつ、薄膜に加わる温度は最大でも200℃の範囲としたので、非晶質の層上などの非エピタキシャルな状態でも、ZnO:Er薄膜を発光可能な状態で形成できるようになる。
ZnO結晶に入るEr3+イオンのサイトは限られているので、発光スペクトル線幅は比較的狭く、光デバイスに用いるには理想的である。従来は、サファイアのようなエピタキシャル基板を用いて検討が行われてきたが、Siのような非エピタキシャル基板を用いても、Er3+イオンが発光するZnO:Er膜が得られることが本発明により示された。光増幅器に応用するには、SiO2のような低屈折率材料の上にZnO:Erを用いた導波路を形成する必要があるが、非エピタキシャル基板上においてもZnO:Er膜が発光することから、様々な光デバイスへの応用が可能である。
なお、本発明は以上に説明した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で、当分野において通常の知識を有する者により、多くの変形および組み合わせが実施可能であることは明白である。
101…層、102…薄膜、103…パターン。

Claims (3)

  1. ZnOがエピタキシャル成長しない層の上に、ErがドープされたZnOからなる薄膜をスパッタ法で形成する薄膜形成工程を備え、
    前記薄膜形成工程では、
    前記薄膜におけるErとZnの原子数の総和に対するEr原子数の割合が、0.6at.%以上3at.%以下となる条件とし、
    前記薄膜に加わる温度は最大でも200℃の範囲とすることを特徴とするErドープZnO膜形成方法。
  2. 請求項1記載のErドープZnO膜形成方法において、
    前記薄膜形成工程では、ZnOからなるターゲットを用いた電子サイクロトロン共鳴スパッタ法、およびEr23からなるターゲットを用いたマグネトロンスパッタ法により、前記薄膜を形成することを特徴とするErドープZnO膜形成方法。
  3. 請求項1記載のErドープZnO膜形成方法において、
    前記薄膜形成工程では、Erを含有するZnOからなるターゲットを用いた電子サイクロトロン共鳴スパッタ法により、前記薄膜を形成することを特徴とするErドープZnO膜形成方法。
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