本発明は、金型のキャビティ(成形空間)内に射出される溶融樹脂について、少なくとも2つのフローフロント(流動先端部)が合流する樹脂合流部が生じる射出成形において、キャビティを形成する金型要素の表面のうち樹脂合流部が接触する部分を、キャビティの形状を維持したまま部分的に回転させることで、樹脂合流部で合流する樹脂に速度差を生じさせ、成形品の表面に生じるウエルドの発生を抑制しようとするものである。
本発明の実施の形態の説明に際し、樹脂成形品におけるウエルドの発生メカニズムについて説明する。射出成形においては、例えば、自動車部品であるバンパーやインストルメントパネル等の比較的大型で複雑な形状の部品を成形品とする場合、成形品の補強や剛性の向上等を目的として、樹脂材料にフィラーの一種であるタルクを混合することが行われている。タルクは、例えば、水和したケイ酸マグネシウムからなる粉状物であって、数マイクロメートルから100マイクロメートル程度の大きさの矩形板状の構造を有する。なお、タルクが混合される樹脂材料としては、ポリオレフィン系樹脂であるポリプロピレン樹脂が広く用いられている。
このようにタルクが混合された樹脂材料が用いられる射出成形においては、金型のキャビティ内で流動する樹脂材料の2つ以上のフローフロントが合流する樹脂合流部においてウエルドが発生するという問題がある。樹脂合流部は、キャビティに対して複数のゲートから溶融樹脂が流入することや、成形品に孔等の開口部を形成するためにキャビティ内に存在する筒状または柱状の型部分を樹脂材料が回り込むこと等によって生じる。
ここで、図1を用いて、キャビティ内における樹脂材料の回り込みによる合流樹脂部においてウエルドが発生する場合について具体的に説明する。なお、図1(a)、(b)は、キャビティとしての板状の成形空間内の樹脂材料の様子を平面断面視で模式的に示した図である。
図1(a)に示すように、金型のキャビティ1内においては、成形品の形状によって、成形品に開口部を形成するための柱状の型部分である開口形成用型部2が存在する場合がある。このようにキャビティ1内に開口形成用型部2が存在する構成においては、図1(a)に示すように、キャビティ1内に射出され流動する樹脂材料3について、樹脂材料3がキャビティ1内に充填されるまでの過程で、開口形成用型部2を通過した後の部分に、2つのフローフロント3A、3Bが合流する樹脂合流部3Cが生じる。つまり、開口形成用型部2に対する樹脂材料3の流れにおいて、開口形成用型部2によって分岐した樹脂材料3が、開口形成用型部2の下流側の部分において2方向から合流し(矢印A1、A2参照)、樹脂合流部3Cが生じる。このようにキャビティ1内において生じる樹脂合流部3Cにおいては、図1(b)に示すように、キャビティ1内に充填された樹脂材料3が冷却・固化されることで、樹脂材料3による成形品において線状痕となるウエルド4が発生する。
このように樹脂材料3による成形品にウエルド4が生じることは、上述したように樹脂材料3に混合されるタルクの配向に起因する。ウエルドの発生メカニズムについて、図2、図3、および図4を用いて詳細に説明する。図2(a)、(b)は、キャビティ1内の樹脂合流部3Cにおける樹脂材料3の流動状態を示す図である。図3は、図2(b)のB部分拡大図である。図4は、タルクの配向と樹脂材料3の収縮との関係を示す図である。
図2(a)に示すように、板状の成形空間としてのキャビティ1においては、キャビティ1を形成する金型要素の表面(以下「金型表面」という。)として、板厚方向に互いに対向する一方の金型要素5の金型表面5aと、他方の金型要素6の金型表面6aとが存在する。図2(a)には、樹脂合流部3Cに対して互いに異なる2方向(矢印C1、C2参照)から流れてくる溶融樹脂のフローフロントが示されている。
このようにキャビティ1内を流動する樹脂材料3は、フローフロントにおいてファウンテンフロー(噴出し流れ)を生じさせながらキャビティ1内を流動する。すなわち、キャビティ1内を流動する樹脂材料3においては、金型表面5a、6aに接触する表層部分3Dについては温度低下による固化の影響で徐々に流動性が低くなるのに対して、内層部分3Eおよびフローフロントの部分については高温状態によって流動性が維持されるため、フローフロント部分において、内側から外側に向かうような噴水状の流れが形成される(矢印C3参照)。
このような態様で流動する樹脂材料3においては、材料内のタルクが樹脂材料3の流動によって生じる剪断応力の方向に応じた配向を示す傾向がある。具体的には、金型表面5a、6aに接触する樹脂材料3の表層部分3Dにおいては、剪断応力が比較的大きいため、タルクは樹脂材料3の流動方向に沿って横方向に配向する。これに対し、樹脂材料3の内層部分3Eにおいては、剪断応力が比較的小さいことから、フローフロントではタルクは上述したような噴水状の流れ(矢印C3参照)に沿って配向する。ここで、タルクについての配向とは、上述したように矩形板状のタルクがその長手方向を沿わせることに相当する。
そして、図2(b)に示すように、互いに対向する向きに流れてきた樹脂材料3の2つのフローフロントが樹脂合流部3Cにおいて衝突して合流する。樹脂合流部3Cにおいては、互いに合流した各フローフロント部分の表面側(上下の金型表面5a、6a側)の端部に小高い盛り上がり部分が生じ、表面に断面視でVノッチ状となるV字溝3Fが形成される。
このV字溝3Fは、図3の拡大図に示すように、タルク3xの配向について、樹脂合流部3Cの境界部分(中央部分)から遠ざかるにつれて縦方向(板厚方向、図において上下方向)から徐々に傾倒して横方向(板厚方向に対して垂直方向、図において左右方向)となる配向に起因して形成される。つまり、流動する樹脂材料3の表層部分においては樹脂材料3の流れに沿って寝た状態となるタルクが、噴水状の流れが形成される2つのフローフロントが衝突する樹脂合流部3Cの表層部分においては立った状態となり、こうしたタルクの配向によってV字溝3Fが形成される。図3に示すように、樹脂材料3の表面部においてV字溝3Fを形成する部分は、他の平坦な部分に対して数マイクロメートル程度隆起した部分となる。
図4に、樹脂合流部3Cおよびその近傍におけるタルクの配向を模式的に示す。図4において左側に示す図は、図3に示すようなV字溝3Fが生じる樹脂合流部3Cの部分について、樹脂材料3の流動時、つまり2つのフローフロントが合流した直後の高温条件におけるタルクの配向および樹脂の形状を示す。また、図4において右側に示す図は、図4の左側に示す図と同じ部分について、高温状態の樹脂材料3の冷却後、つまり樹脂材料3が固化した状態の常温条件におけるタルクの配向および樹脂の形状を示す。すなわち、図4は、V字溝3Fが生じる樹脂合流部3C付近についての、合流直後の高温状態から冷却されることで固化した状態となることによる、タルクの配向に起因する樹脂の形状の変化を示す。
図4に示すように、樹脂材料3においては、流動時(溶融状態)から冷却されて固化することによって板厚方向(図4において上下方向)について収縮が生じるが、その板厚方向の収縮に関して、タルクの配向によって収縮量に差が生じる。具体的には、図4に示すように、タルクが縦方向(板厚方向)に配向し(立った状態となり)V字溝3Fが形成される樹脂合流部3Cよりも、樹脂合流部3C以外の平坦な部分、つまりタルクが横方向に配向する(寝た状態となる)、樹脂合流部3Cを挟む両側の部分の方が、板厚方向の収縮量が大きくなる。
このため、樹脂合流部3Cおよびその近傍部分においては、樹脂材料が冷却されて固化することで、タルクが縦方向に配向する樹脂合流部3Cよりも、タルクが横方向に配向する平坦な部分の方が板厚方向に大きく収縮し、V字溝3Fの部分が相対的に突出した状態となる(高低差を示す符号D1参照)。つまり、上述したように隆起した部分となるV字溝3Fを形成する部分に対して、平坦な部分が熱収縮によって比較的大きく縮むことにより、V字溝3Fの部分が相対的により隆起した状態となり、山形状の部分が形成される。これにより、樹脂成形品の表面に樹脂合流部3Cの境界線に沿う突条部分が出現することになり、この突条部分が、線状痕であるウエルドとして現れる。
このように、樹脂成形品におけるウエルドは、樹脂合流部3Cにおけるタルクの縦方向の配向に起因して生じる。以上のようなウエルドの発生メカニズムとしての現象は、樹脂材料に混合されるフィラーがタルクの場合に限られず、他のフィラー、例えば、炭酸カルシウム、ガラス繊維、ウォラストナイト、マイカ等、各種無機フィラーおよび有機フィラーであっても生じ得る現象である。
本発明は、以上のような樹脂成形品におけるウエルドの発生メカニズムに着目し、縦方向(板厚方向)に配向する直立タルクをなくすことがウエルドをなくすことに繋がるという思想のもと、樹脂合流部において直立タルクを寝かせることを目的としてなされたものである。
樹脂合流部において直立タルクを寝かせるアプローチとしては、キャビティ内における樹脂材料の内部応力に着目し、キャビティに対する複数のゲートからの溶融樹脂の射出圧力を制御する手法がある。つまり、複数のゲートで溶融樹脂の射出圧力に差を設け、樹脂合流部において内部応力に不均衡を生じさせ、タルクを寝かせようとするものである。しかしながら、かかる手法によれば、ゲートによって射出圧力が異なることから、キャビティ内全体としての圧力バランスを保つことが困難となり、圧力過多によるパーティングライン(PL)におけるバリや段差、あるいは圧力不足による意図せぬ窪み(ヒケ)等といった成形不良が発生しやすくなる。
そこで、本発明は、キャビティ内の樹脂材料に力学的に外力を加えることに着目し、樹脂材料に外力を加えることで、樹脂合流部において互いに合流する樹脂材料に速度差を生じさせ、直立タルクを寝かせようとするものである。そして、本発明に係る射出成形方法は、樹脂合流部における直立タルクを寝かせるに際し、キャビティ内の樹脂合流部において樹脂材料が接触する金型要素の金型表面の一部をその場で回転させることにより、樹脂材料に外力を加えてタルクの配向を力学的に変える手法を採用する。以下、本発明の実施の形態を説明する。
本実施形態に係る射出成形方法は、金型のキャビティに射出された樹脂材料がキャビティ内に充填されるまでの過程で、流動する樹脂材料の少なくとも2つのフローフロントが合流する樹脂合流部が生じる射出成形方法である。そして、本実施形態に係る射出成形方法は、樹脂製品を成形する金型において、樹脂製品においてウエルドが生じる部分の直下のコア側の金型要素の一部を回転させることで、樹脂合流部にて縦方向(板厚方向)に配向しようとするタルクを寝かせ、ウエルドを抑制して樹脂製品の表面の見栄えを向上させるものである。
図5および図6に示すように、本実施形態に係る射出成形用の金型11は、射出成形品として、矩形板状の樹脂製品を形成するためのものである。本実施形態に係る金型11によって得られる樹脂製品は、例えば、板厚が2.0mm、縦横が200mm×300mmの寸法の長方形状の板状の製品である。したがって、金型11においては、かかる樹脂製品の形状・寸法に対応するキャビティ12が形成される。
本実施形態に係る金型11は、コア側の金型要素である可動型13と、キャビティ側の金型要素である固定型14と、これらの型を保持するとともに可動型13を移動させる成形機(図示略)とを備える。金型11において、可動型13および固定型14は、可動型13の動作によって開閉する成形型を構成する。この成形型の型閉じ状態において、可動型13および固定型14それぞれの金型表面23、24によってキャビティ12が形成される。
なお、図5は、金型11を構成する可動型13をその金型表面23側から見た平面視で表したものである。また、以下では、金型11において樹脂製品の形状に対応するキャビティ12の長手方向(図5における左右方向)を左右方向とし、キャビティ12に対する可動型13側を下側、固定型14側を上側として上下方向を規定する。したがって、図6に示すように、キャビティ12を形成する金型表面のうち、上側の面が固定型14の金型表面24となり、下側の面が可動型13の金型表面23となる。
そして、本実施形態に係る金型11においては、固定型14の金型表面24が意匠面となり、可動型13の金型表面23が非意匠面となる。つまり、金型11によって形成される板状の樹脂製品において、固定型14の金型表面24によって形成される面が外観に表れる外側の面となり、可動型13の金型表面23によって形成される面が外観には表れない内側の面となる。このように、本実施形態に係る金型11は、金型要素として、成形品における意匠面側の面を形成する第1の金型要素である固定型14と、成形品における非意匠面側の面を形成する第2の金型要素である可動型13とを有する。
また、図5に示すように、金型11においては、キャビティ12に対する溶融樹脂の射出口であるゲート15が設けられている。本実施形態では、図5に示すように、キャビティ12の左右両側において互いに対向する位置となる2箇所にゲート15が設けられている。このようにキャビティ12の左右両側に設けられる2箇所のゲート15は、図5に示すような平面視において左右方向に対する垂直方向(図5において上下方向、以下「前後方向」とする。)について一側(図5において下側)に片寄った位置に設けられている。以下では、前後方向についてゲート15が片寄って位置する側(図5において下側)を前側とし、その反対側(図5において上側)を後側とする。ゲート15は、固定型14等に設けられホットランナーやスプルー等と称される樹脂通路に連通する。この樹脂通路には、シリンダ装置等として構成される射出装置から射出された溶融樹脂が供給される。
以上のような構成を備える金型11においては、可動型13および固定型14からなる成形型の型閉じ動作によって上下の金型表面23、24によりキャビティ12が形成された状態で、射出装置から射出された溶融樹脂が、金型11の樹脂通路を介してゲート15に導かれ、左右方向に互いに対向する2箇所のゲート15からキャビティ12内に同時に注入される(図5、矢印E1、E2参照)。キャビティ12内に注入された溶融樹脂は、冷却され固化した後、型開きされた成形型から成形品として取り出される。
以上のように、互いに対向する2箇所のゲート15からキャビティ12内に溶融樹脂が射出される構成においては、各ゲート15から射出されてキャビティ12内で流動する樹脂材料の2つのフローフロントが合流する樹脂合流部が生じる。このため、特に対策がなされない場合、樹脂合流部においてウエルドが発生することになる。
具体的には、上述したようにキャビティ12の左右両側において前側に片寄った位置に設けられた互いに対向する一対のゲート15から射出されて流動する各樹脂材料においては、図7に示すように、流動方向の成分として、相手方に対して左右方向に対向する方向の成分(矢印F1参照)と、前側から後側に向かう方向の成分(矢印F2参照)とが存在する。
このため、左右両側のゲート15から同時に射出された樹脂材料16は、矩形板状のキャビティ12内の左右方向の略中央位置において、前側から後側にかけて徐々に合流していくことになる。つまり、本実施形態の金型11においては、樹脂材料16がキャビティ12内に充填されるまでの過程で、キャビティ12の左右方向の略中央位置において、互いに対向する左右両側のゲート15から同時に射出された樹脂材料16の2つのフローフロント16A、16Bが合流する樹脂合流部16Cが生じる。なお、図7は、キャビティ12内で流動する樹脂材料16の樹脂合流部16Cの一部が含まれるようにキャビティ12の空間を直方体状に切り取った態様で樹脂材料16の流動状態を模式的に示す図である。したがって、図7に示す直方体形状において、上面は、固定型14の金型表面24に接触する面(意匠面)に相当し、下面は、可動型13の金型表面23に接触する面(非意匠面)に相当する。
そして、キャビティ12内において生じる樹脂合流部16Cにおいては、キャビティ12内に充填された樹脂材料16が冷却・固化されることで、樹脂材料16に混合されたタルクの配向に起因して、樹脂材料16による成形品において線状痕となるウエルドが発生する。すなわち、図7に示すように、樹脂材料16においては、タルクが縦方向(板厚方向)に配向する樹脂合流部16Cの境界部分と、タルクが横方向に配向する他の部分とで、板厚方向の収縮量に差が生じ、この板厚方向の収縮量の差によって、樹脂成形品の表面に樹脂合流部16Cの境界線に沿う突条部分がウエルドとして現れる。本実施形態の金型11の場合、ウエルドは、樹脂製品の左右方向の略中央位置において前後方向に延びる直線状の線状痕として現れる。
そこで、本実施形態の射出成形方法は、上述したようなウエルドの発生を抑制するため、金型11のキャビティ12を形成する面(金型表面)のうち樹脂合流部16Cの樹脂材料が接触する部分を回転させることで、樹脂合流部16Cで合流する樹脂材料に速度差を生じさせる。
具体的には、金型11を構成する金型要素において、金型表面を形成する一部分を、他の部分から独立した型部材とし、その型部材を金型表面に対する垂直方向を回転軸方向として回転可能に設けることで、金型表面の形状、つまりキャビティ12の形状を維持したまま(形状を変えることなく)、金型表面の一部を部分的に回転させる。言い換えると、金型11を構成する金型要素を、金型表面に対する垂直方向を回転軸方向として回転しない非回転部と、金型表面に対する垂直方向を回転軸方向として回転する回転部とで構成する。
そして、こうした金型要素の部分的な回転を、ウエルドが生じることとなる樹脂合流部16Cの樹脂材料が接触する部分を対象として行う。なお、本実施形態に係る金型11において、金型表面に対する垂直方向は、可動型13および固定型14について相手方の金型要素に対する近接離間方向に相当する。
このように金型要素の樹脂合流部16Cに対応する部分が部分的に回転する構成においては、金型表面として、金型表面に対する垂直方向を回転軸方向として回転しない本体部分の金型表面部分(非回転領域)と、樹脂合流部16Cに対応する部分であって金型表面に対する垂直方向を回転軸方向として回転する金型表面部分(回転領域)とが存在することになる。すなわち、金型11を構成する金型要素の金型表面のうちの非回転領域は、キャビティ12内に樹脂材料が射出されてから充填されるまでの過程において終始固定の部分であり、キャビティ12内を流動する樹脂材料から受ける応力に対して能動的に動くことによる影響を与えないのに対し、金型表面のうちの回転領域は、樹脂材料の射出から充填までの過程において、所定のタイミングで回転する部分であり、流動する樹脂材料から受ける応力に対して回転動作によって作用する。
このような金型表面の部分的な回転を行うため、本実施形態に係る金型11は、図5、図6、および図8に示すように、可動型13を構成する型部材として、回転コア30を有する。なお、図8は、図7と同様にキャビティ12の空間を直方体状に切り取った態様で樹脂材料16の流動状態を模式的に示す図である。
回転コア30は、可動型13において金型表面23を形成する他の部分に対して独立した型部材である。図5および図6に示すように、回転コア30は、円柱状の外形を有し、円形状となる一方の端面30aを可動型13の金型表面23に臨ませるように、可動型13に埋設された状態で設けられる。したがって、可動型13においては、回転コア30の外形の形状寸法に対応する円柱状の空間を形成する孔部13aが設けられ、この孔部13aに対して、回転コア30が回動可能に挿入された状態で設けられる。本実施形態では、水平面状の金型表面23において、回転コア30の上側の端面30aは、金型表面23の他の部分に対して面一となるように、つまり共通の平面を形成するように設けられる。上述したような板厚が2.0mm、縦横が200mm×300mmの製品サイズに対し、回転コア30の直径は、例えば20mm程度である。
回転コア30は、可動型13の金型表面23に対する垂直方向(図5において紙面に対して垂直方向、図6において上下方向)を回転軸方向として回転可能に設けられる。つまり、図6に示すように、回転コア30は、その円柱状の外形における中心軸方向に沿う回転軸線G1回りに回転可能に設けられる(矢印G2参照)。回転コア30は、例えば、100°〜720°/秒の回転速度で回転するように設けられる。本実施形態では、回転コア30は、後述するようにモータを動力源として回転する。
回転コア30は、ウエルドが形成される位置、つまりキャビティ12内における樹脂合流部16Cに対応する位置に設けられる。すなわち、回転コア30は、可動型13の金型表面23の一部を形成する上側の端面30aに、樹脂合流部16Cにて合流する樹脂材料が接触するような位置に設けられる。本実施形態では、上述したように樹脂製品の左右方向の略中央位置において前後方向の直線状にウエルドが生じることになるので、回転コア30は、このウエルドに対応して、左右方向および前後方向について中央部に設けられている(図5参照)。
このように可動型13において回転コア30が設けられる構成においては、金型11を構成する金型要素としての可動型13が、金型表面に対する垂直方向を回転軸方向として回転する回転部としての回転コア30と、金型表面に対する垂直方向を回転軸方向として回転しない非回転部としての本体部分13Aとを有することになる。そして、可動型13が回転コア30を有する構成においては、本実施形態の場合、水平面状の金型表面23の一部が、回転コア30の上側の端面30aによって回転する部分として形成される。つまり、可動型13の金型表面23は、本体部分13Aによって形成される非回転領域23Aと、樹脂合流部16Cに対応する部分であって回転コア30の上側の端面30aによって形成される回転領域23Bとを有する。
可動型13の金型表面23のうち、本体部分13Aによって形成される非回転領域23Aは、キャビティ12内に樹脂材料が射出されてから充填されるまでの過程において終始固定の部分であり、キャビティ12内を流動する樹脂材料から受ける応力に対して能動的に動くことによる影響を与えない部分である。これに対し、可動型13の金型表面23のうち、回転コア30によって形成される回転領域23Bは、樹脂材料の射出から充填までの過程において、所定のタイミングで回転する部分であり、流動する樹脂材料から受ける応力に対して回転動作によって作用する。
以上のように金型表面の一部を形成する回転コア30を備える構成において、回転コア30が射出成形中に回転することで、樹脂合流部16Cにおいて流動する樹脂材料に外力が与えられる。このように流動する樹脂材料に外力が作用することにより、樹脂合流部16Cで合流する樹脂に速度差を生じる。これにより、ウエルドとしての線状痕を形成する部分が、回転コア30の回転にともなって回転コア30上(端面30a上)において移動し、ウエルドとしてのラインが変形する。ウエルドが移動することにより、上述したようなタルクの配向に起因して形成される山形状の部分の山の高さが低減され、結果としてウエルドが抑制される。
回転コア30の回転にともなう樹脂材料の速度変化について、図9を用いて説明する。図9(a)、(b)の各図は、可動型13の金型表面23において回転コア30が存在する中央部分を、図5と同様の平面視で拡大して示す図であって、回転コア30の前後(上流側および下流側)における樹脂材料の流動の状態を示す図である。図9(a)は、回転コア30に対して樹脂材料16の流動上流側でのウエルド形成状態を示す図であり、同図(b)は、同じく流動下流側でのウエルド形成状態を示す図である。また、回転コア30は、図9(a)、(b)に示す平面視において右回りに回転するものとする(矢印H1、H2参照)。
まず、図9(a)を用いて、回転コア30の上流側について説明する。図9(a)には、回転コア30に対する樹脂到達時の速度分布が表されている。図9(a)に示すように、キャビティ12内の左右方向の略中央位置においては、互いに対向する左右両側のゲート15(図5参照)から同時に射出された樹脂材料16の2つのフローフロント16A、16Bが合流する樹脂合流部16Cが生じる。ここで、図9(a)に示すように、キャビティ12内を流動する樹脂材料16の各フローフロント16A、16Bについては、その流動の過程で回転コア30に対する到達点Ja、Jbが存在する。すなわち、平面視において、進行方向に凸な曲線状をなす樹脂材料16の各フローフロント16A、16Bは、円形状の回転コア30に達した時には、回転コア30に対して点接触の状態となり、この接触点が、回転コア30に対する到達点Ja、Jbとなる。樹脂材料16の各フローフロント16A、16Bが回転コア30に到達した時点から、回転コア30の回転が樹脂材料16に作用する。
上述したようにキャビティ12の左右両側において前側に片寄った位置に設けられた一対のゲート15から射出されて流動する各樹脂材料16は、流動方向の成分として相手方に対して左右方向に対向する方向の成分と、前側から後側に向かう方向の成分とを有することから、斜め後ろ方向を進行方向とする。具体的には、図9(a)において左側の樹脂材料16は、左側のゲート15から射出された樹脂材料であり、そのフローフロント16Aの進行方向は、右斜め後ろ方向(図において右斜め上方向)となる。このように左側のゲート15からくる樹脂材料16の回転コア30に対する到達点Jaにおける進行速度成分をVaとする(到達点Jaから延びる実線矢印参照)。同様にして、右側のゲート15から射出された樹脂材料16のフローフロント16Bの進行方向は、左斜め後ろ方向(図9(a)において左斜め上方向)となり、その樹脂材料16の回転コア30に対する到達点Jbにおける進行速度成分をVa’とする。到達点Ja、Jbにおける進行速度成分Va、Va’の方向は、いずれも平面視における回転コア30の円形状の径方向と略同じ方向に沿う方向となる。また、左右の到達点Ja、Jbにおける進行速度成分Va、Va’は、左右方向に対称であるとする。
また、樹脂材料16の回転コア30に対する到達点Ja、Jbにおいては、回転コア30の回転による回転速度成分が存在する。この回転速度成分の方向は、平面視における回転コア30の円形状に対する接線方向となる。具体的には、図9(a)に示すように、上記のとおり右回り(矢印H1参照)に回転する回転コア30においては、回転コア30の円形状に対して左前側(図において左下側)に位置する左側の到達点Jaにおける回転速度成分Vbの方向は、左斜め後ろ方向(図において左斜め上方向)となる(到達点Jaから延びる破線矢印参照)。同様にして、回転コア30の円形状に対して右前側(図において右下側)に位置する右側の到達点Jbにおける回転速度成分Vb’の方向は、左斜め前方向(図9(a)において左斜め下方向)となる(到達点Jbから延びる破線矢印参照)。
以上のように進行速度成分(Va、Va’)および回転速度成分(Vb、Vb’)が存在する樹脂材料16の回転コア30に対する各到達点Ja、Jbにおいて、進行速度成分の方向と回転速度成分の方向とは略直角をなす。つまり、左側の到達点Jaにおける進行速度成分Vaの方向と回転速度成分Vbとのなす角度をθ、右側の到達点Jbにおける進行速度成分Va’の方向と回転速度成分Vb’とのなす角度をθ’とした場合、θ=θ’≒90degとなる。
したがって、左側の到達点Jaにおける、回転コア30の回転によって加減速された後の樹脂材料16の進行速度成分をVとすると、V≒Vaとなる。同様にして、右側の到達点Jbにおける、回転コア30の回転によって加減速された後の樹脂材料16の進行速度成分をV’とすると、V’≒Va’となる。よって、V=V’となる。以上のことから、回転コア30の上流側においては、樹脂合流部16Cで互いに合流する左右からの樹脂材料16の進行速度は同等であるといえる。
次に、図9(b)を用いて、回転コア30の下流側について説明する。図9(b)には、回転コア30に対して樹脂通過中の速度分布が表されている。図9(b)に示すように、樹脂材料16が回転コア30上を通過する途中においては、平面視で、樹脂材料16の各フローフロント16A、16Bの回転コア30の円形状に対する通過点Ka、Kbが存在する。すなわち、進行方向に凸な曲線状をなしながら左右方向の外側から内側、かつ前側から後側に向いて進行する左右のフローフロント16A、16Bについては、平面視で回転コア30の円形状に対する交点である通過点Ka、Kbが存在する。
そして、左側の通過点Kaにおける樹脂材料16の進行速度成分Vaの方向は、右斜め後ろ方向(図において右斜め上方向)となり、右側の通過点Kbにおける樹脂材料16の進行速度成分Va’の方向は、左斜め後ろ方向(図において左斜め上方向)となる。通過点Ka、Kbにおける進行速度成分Va、Va’の方向は、いずれも平面視における回転コア30の円形状に対する接線方向と略同じ方向に沿う方向となる。また、左右の通過点Ka、Kbにおける進行速度成分Va、Va’は、左右方向に対称であるとする。
また、図9(b)に示すように、右回り(矢印H2参照)に回転する回転コア30においては、回転コア30の円形状に対して左後側(図において左上側)に位置する左側の通過点Kaにおける回転速度成分Vbの方向は、右斜め後ろ方向(図において右斜め上方向)であって、進行速度成分Vaと同じ方向となる。また、回転コア30の円形状に対して右後側(図において右上側)に位置する右側の通過点Kbにおける回転速度成分Vb’の方向は、右斜め前方向(図9(b)において右斜め下方向)であって、進行速度成分Va’と反対方向となる。
以上のように進行速度成分(Va、Va’)および回転速度成分(Vb、Vb’)が存在する樹脂材料16の回転コア30に対する各通過点Ka、Kbにおいては、左側の通過点Kaについては、進行速度成分Vaの方向と回転速度成分Vbとのなす角度θはθ≒0degとなり、右側の通過点Kbについては、進行速度成分Va’の方向と回転速度成分Vb’とのなす角度θ’はθ’≒180degとなる。
したがって、左側の通過点Kaにおける加減速後の樹脂材料16の進行速度成分Vは、V≒Va+Vbとなる。また、右側の通過点Kbにおける加減速後の樹脂材料16の進行速度成分V’は、V’≒Va’−Vb’となる。よって、V>V’となる。以上のことから、回転コア30の下流側においては、樹脂合流部16Cで互いに合流する左右からの樹脂材料16の進行速度に差異が発生しているといえる。
このように回転コア30の回転によって樹脂合流部16Cで合流する樹脂に速度差が生じることにより、ウエルドが移動し、ウエルドとしてのラインが変形する。このような回転コア30の回転にともなうウエルドの移動について、図10を用いて説明する。図10(a)は、回転コア30が回転しない場合のウエルドの状態を示す図であり、同図(b)は、回転コア30が回転する場合のウエルドの状態を示す図である。
図10(a)に示すように、回転コア30が回転しない場合、樹脂合流部16Cで合流する樹脂材料16について上述したような速度差は生じない。このため、回転コア30の左右方向の中心位置において前後方向に沿う直線状のウエルド35が生じる。
これに対し、図10(b)に示すように、回転コア30が右回り(矢印L1参照)に回転する場合、樹脂合流部16Cで合流する樹脂材料16について上述したような速度差が生じるため、図10(a)に示すような直線状のウエルド35が移動し、ウエルド35としてのラインの形状が変形する。具体的には、図10(b)に示すように、回転コア30の端面30a(回転領域23B)上においては、回転コア30の回転の作用によって、直線状のウエルド35のうち前後方向(図における上下方向)について回転コア30の中心位置よりも後側の部分は右側に移動して前側の部分は左側に移動することで、ウエルド35がS字状に湾曲した態様となる。
より詳細には、図10(a)に示すように、回転コア30上のウエルド35における位置について、前後方向について回転コア30の中心位置M1よりも後側(下流側)のポイントPaと、回転コア30の中心位置M1よりも前側(上流側)のポイントPbに着目した場合、回転コア30の右回りの回転によって、後側のポイントPaは右側に移動し、前側のポイントPbは左側に移動する。つまり、上述したような回転コア30上におけるウエルド35のS字状の湾曲は、ポイントPaが存在する後側の部分については右側に凸となるように湾曲し、ポイントPbが存在する前側の部分については左側に凸となるように湾曲したものである。
そして、ウエルドの左右方向の移動量については、回転コア30の中心位置M1よりも後側のポイントPaの方が、中心位置M1よりも前側のポイントPbよりも大きくなる。すなわち、図10(b)に示すように、ウエルド35の回転コア30よりも上流側の直線部分を基準として、後側のポイントPaの右側への移動量Xaは、前側のポイントPbの左側への移動量Xbよりも多い(Xa>Xb)。
以上のように、回転コア30の回転により樹脂合流部16Cで合流する樹脂材料16について速度差が発生し、ウエルドの位置が移動する。また、回転コア30の回転方向と樹脂材料16の進行方向とが重なる下流側では、上流側に比して速度差が大きくなり、ウエルドの移動量も大きくなる。この点、上述したようにウエルドが移動することによりタルクの配向に起因する山の高さが低減されてウエルドが抑制されることから、ウエルド移動量が大きいほど、山の高さが低減し、ウエルドが抑制されることになる。したがって、回転コア30の範囲内で、位置によってウエルドレベルが異なることになる。
また、回転コア30が回転することによって生じる樹脂材料の圧力差の面からみたウエルドの低減について、図11を用いて説明する。図11(a)は、回転コア30が回転しない場合の樹脂合流部16Cにおけるタルクの状態を示す図であり、同図(b)は、回転コア30が回転する場合の樹脂合流部16Cにおけるタルクの状態を示す図である。なお、図11(a)、(b)では、回転コア30の図示を省略している。
回転コア30が回転しない場合、図11(a)に示すように、樹脂合流部16Cで互いに合流する樹脂材料16について樹脂圧力の差は生じない。つまり、樹脂合流部16Cに対する左右両側からの樹脂圧力は均等となる。このため、キャビティ12内の樹脂合流部16Cにおける樹脂材料16について、固化せずに流動性が比較的高い内層部分16Eに対して固化の影響で流動性が比較的低い表層部分16Dにおいて、樹脂合流部16Cの中央部分(境界部分)に、縦方向に配向した直立タルクが発生する(符号N1で示す部分参照)。直立タルクはウエルド発生の原因となる。
これに対し、回転コア30が回転する場合、図11(b)に示すように、樹脂材料16が回転する回転コア30から外力を受けることで、樹脂合流部16Cにおける樹脂合流後に樹脂圧力差が生じる。これにより、図11(b)に示すように、固化せずに流動性が高い内層部分16Eの部分が、表層部分16Dに対して、樹脂圧力の高い方から低い方に動くといった現象が起きる。図11(b)に示す例では、左右方向について中央の樹脂合流部16Cに対して右側からの樹脂圧力の方が左側からの樹脂圧力よりも強い場合を示しており、この場合、内層部分16Eは右側から左側へと移動する。
このように樹脂合流部16Cにおいて板厚方向の中央部分である内層部分16Eが、表層部分16Dに対して相対的に、板厚方向に対して垂直方向(板面に沿う方向)に移動することにより、表層部分16Dが応力を受け、タルクが寝ることになる(図11(b)、符号N2で示す部分参照)。つまり、樹脂合流部16Cにおいて内層部分16Eが表層部分16Dに対して横方向に移動することで、表層部分16Dにおいてタルクを寝かせることができ、直立タルクの発生を抑制することができる。このように、回転コア30が回転することにより、2方向から合流する樹脂材料16に圧力差が生じ、樹脂合流部16Cにおけるタルクの縦方向の配向が緩和され、ウエルドが抑制されることになる。
以上のような本実施形態の射出成形方法によれば、サイクルタイムの長期化や、成形不良の原因となるキャビティ12内の圧力の過不足をともなうことなく、ウエルドを抑制することができる。すなわち、本実施形態の射出成形方法によれば、複数のゲート15からの樹脂材料16の射出タイミングを互いに異なるタイミングにする必要がないため、各ゲート15からの射出タイミングがずれることによって成形工程のサイクルタイムが長くなることがない。また、上述したように回転コア30の回転によって樹脂合流部16Cにおいて合流する樹脂材料16同士で圧力差は生じるものの、複数のゲート15からの樹脂材料16の射出圧力自体はゲートによって異ならせる必要がない。このため、キャビティ12内全体としての圧力バランスを保つことが容易となり、圧力過多による金型のパーティングライン(PL)におけるバリや段差、あるいは圧力不足による意図せぬ窪み(ヒケ)等といった成形不良が発生しにくくなる。そして、回転コア30の回転により、樹脂合流部16Cにおいて直立タルクを寝かせることができるので、ウエルドを抑制することができ、樹脂製品の見栄えを向上することができる。
また、本実施形態の金型11においては、回転コア30は、成形品における非意匠面側の面を形成するコア側の金型要素である可動型13の一部として設けられている。すなわち、本実施形態の射出成形方法においては、キャビティ12を形成する金型表面の一部を回転させることは、金型11が有する金型要素のうち成形品における非意匠面側の面を形成する金型要素である可動型13の一部を、金型表面23に対する垂直方向を回転軸方向として回転させることにより行われる。
このような射出成形方法によれば、樹脂成形品において、回転コア30と可動型13の本体部分13Aとの境界部分の円形状に沿う凹部が転写されて円形状の痕が生じる場合であっても、その円形状の痕は樹脂製品における非意匠面に存在して外観に現れることがないため、ウエルド抑制による樹脂製品の見栄え向上をより効果的なものとすることができる。
続いて、本実施形態に係る射出成形装置の構成について、図5、図6、および図8を用いて説明する。ここで説明する射出成形装置の構成は、上述したような回転コア30を回転させるための構成の一例である。
本実施形態に係る射出成形装置50は、金型11のキャビティ12に射出された樹脂材料16がキャビティ12内に充填されるまでの過程で、流動する樹脂材料16の少なくとも2つのフローフロント16A、16Bが合流する樹脂合流部16Cが生じる射出成形装置である。本実施形態では、キャビティ12の左右両側において互いに対向する位置となる2箇所にゲート15が設けられており(図5参照)、各ゲート15から同時に射出された樹脂材料16が合流し、樹脂合流部16Cが生じる。
図6に示すように、本実施形態に係る射出成形装置50は、回転型部としての回転コア30と、駆動部としてのモータ51とを備える。
回転コア30は、キャビティ12を形成する金型要素の1つである可動型13の一部を構成する。回転コア30は、可動型13のキャビティ12を形成する金型表面23に対する垂直方向を回転軸方向(回転軸線G1参照)として回転可能に設けられる(矢印G2参照)。そして、回転コア30は、キャビティ12を形成する金型表面23のうち、樹脂合流部16Cの樹脂材料16が接触する部分を構成する。つまり、回転コア30の上側の端面30aにより、金型表面23において樹脂合流部16Cの樹脂材料16が接触する回転領域23Bが形成される。なお、回転コア30の詳細は、上述したとおりである。
モータ51は、回転コア30を回転させるための回転動力を生成するものであり、例えばステッピングモータである。モータ51の回転動力は、モータ51と一体的に設けられる減速機52を介して、出力軸53により出力される。モータ51および減速機52は、その出力軸53側を上側に向けて、出力軸53の軸方向が回転コア30の回転軸方向と平行となるように設けられる。つまり、回転コア30と、モータ51および減速機52とは、いずれも回転軸方向が金型表面23に対する垂直方向(上下方向)となるように設けられる。
出力軸53の回転は、歯車機構54によって回転コア30に伝達される。歯車機構54は、出力軸53に設けられる駆動側歯車54aと、回転コア30に設けられ駆動側歯車54aに噛合する従動側歯車54bとを有する。駆動側歯車54aは、出力軸53の上端部に固定されている。従動側歯車54bは、回転コア30の円柱状の外形における下端部において、回転コア30と一体的に回転するように鍔状に設けられている。駆動側歯車54aと従動側歯車54bとは、水平方向に隣り合った状態で互いに噛合し、出力軸53の回転を回転コア30に伝達する。
回転コア30は、上述したように可動型13に形成された孔部13aに挿入された状態で設けられる。回転コア30は、孔部13aに対して無給油ブッシュ55を介して回動可能に設けられている。無給油ブッシュ55は、孔部13aを形成する内周面に設けられた周溝13bに嵌められた状態で設けられる。
回転コア30の下端部は、孔部13aを貫通して、可動型13の下側に設けられた凹部13c内に突出する。凹部13cは、回転コア30が挿入される孔部13aに連続し、可動型13において歯車機構54等を収容する収容空間を形成する。この収容空間は、可動型13に対して凹部13cを下側から塞ぐ受け板56が設けられることにより形成される。このように凹部13cによって形成される収容空間に対して、回転コア30の下端部が上側から突出し、この回転コア30の突出部分に従動側歯車54bが設けられるとともに、同収容空間に対して下側から突出する出力軸53に、従動側歯車54bと噛合する駆動側歯車54aが設けられる。
回転コア30は、凹部13cを下側から塞ぐことで凹部13cとともに収容空間を形成する受け板56に対して、スラスト玉軸受57を介して回転可能に支持される。スラスト玉軸受57は、受け板56の上側の面に形成された凹部56aに嵌った状態で設けられ、回転コア30を下側から支持する。受け板56は、回転コア30やモータ51および減速機52等を支持する部分であって、可動型13を補強する役割も果たす。
また、回転コア30には、その円柱状の外形における下端面から下側に向けて延設される支持軸31が設けられている。支持軸31は、回転コア30の外径よりも小径であり、回転コア30と同軸心位置に設けられ、回転コア30と一体的に回転する。支持軸31は、スラスト玉軸受57および受け板56を上下方向に貫通し、下端部を受け板56の下側に突出させる。支持軸31の受け板56からの下側突出部分には、支持軸31の軸方向の移動を規制するナット部材58が設けられている。ナット部材58は、受け板56の下側の面に対して所定のガタをもつ位置に設けられる。
このような構成において、可動型13の凹部13cを下側から塞ぐ受け板56が、凹部13cに形成された段差部に嵌った状態で、可動型13の本体部分13Aに対して固定具59によって固定されることで、回転コア30や従動側歯車54b等の回転部分が、可動型13の本体部分13Aと受け板56との間に挟み込まれる。そして、可動型13に固定された受け板56に対して、モータ51および減速機52を含む構成が、出力軸53を受け板56から上側に突出させた状態で外側から(図6においては下側から)取り付けられる。
このようにモータ51や歯車機構54等の回転コア30を回転させるための構成が設けられた可動型13は、スペーサブロック60を介して、可動型取付板61に取り付けられる。可動型取付板61は、上述したように可動型13等を保持する成形機の可動部に固定され、成形機と可動型13とを連結させる。スペーサブロック60は、可動型13の下側と可動型取付板61との間に空間を保つための部材である。
スペーサブロック60によって形成された可動型13と可動型取付板61との間の空間内に、回転コア30の下側から延設される支持軸31の受け板56からの下側突出部分や、モータ51および減速機52等が位置する。ここで、一体的な構成であるモータ51および減速機52は、上側の減速機52の部分を受け板56に形成された嵌合孔部56bに嵌合させるとともに、下側のモータ51の下端部を可動型取付板61の上面に形成された嵌合凹部61aに嵌合させることで、位置決めされた状態で設けられる。
以上のような構成において、モータ51の回転が、減速機52、出力軸53に設けられた駆動側歯車54a、および従動側歯車54bによって回転コア30に伝達される。これにより、回転コア30が、金型表面23に対する垂直方向を回転軸方向(回転軸線G1参照)として回転する。
回転コア30は、射出成形装置50による射出成形の工程において所定のタイミングで回転させられる。例えば、ゲート15からの樹脂材料の射出開始から数秒後のタイミングで、回転コア30の回転が開始される。また、回転コア30の回転の停止については、回転コア30の回転量(例えば5回転(1800°))や、回転開始からの経過時間(例えば5秒)等によって制御される。また、回転コア30は、例えば100°〜720°/秒程度の回転速度で回転する。こうした回転コア30の回転動作(回転の開始・停止)、そのタイミング、回転速度等については、射出成形装置50が備えるコントローラ(図示略)によって制御される。
以上のように、本実施形態の射出成形装置50は、モータ51により生成した回転動力によって回転コア30を回転させることで、キャビティ12内の樹脂合流部16Cで合流する樹脂に速度差を生じさせる。これにより、上述したように樹脂合流部16Cにおいてタルクを寝かせることができ、ウエルドの発生が抑制される。なお、回転コア30を回転させるための構成は、本実施形態の射出成形装置50に限定されるものではなく、回転コア30を回転させるための構成としては、周知の技術を適宜採用することができる。例えば、回転動力を生成する駆動部としてモータ51の代わりにシリンダ機構等の直線動作するアクチュエータを用い、そのアクチュエータの直線動作を回転動作に変換して、回転動力を回転コア30に伝達する構成等であってもよい。
以上のような本実施形態の射出成形装置50によれば、上述したように、サイクルタイムの長期化や、成形不良の原因となるキャビティ内の圧力の過不足をともなうことなく、ウエルドを抑制することができる。
また、本実施形態の射出成形装置50においては、金型11は、金型要素として、成形品における意匠面側の面を形成する固定型14と、成形品における非意匠面側の面を形成する可動型13とを有し、回転コア30が、可動型13の一部として設けられている。
このような構成によれば、樹脂成形品において、回転コア30と可動型13の本体部分13Aとの境界部分の円形状に沿う凹部が転写されて円形状の痕が生じる場合であっても、その円形状の痕は樹脂製品における非意匠面に存在して外観に現れることがないため、ウエルド抑制による樹脂製品の見栄え向上をより効果的なものとすることができる。
以上説明した本実施形態の射出成形方法および射出成形装置50においては、回転コア30が金型11を構成する金型要素のうち可動型13のみに設けられているが、回転コア30等の回転型部は、キャビティ12を形成する少なくとも1つの金型要素の一部を構成するものであればよく、例えば、本実施形態では、回転コア30は、固定型14に設けられたり、可動型13および固定型14の両方に設けられたりしてもよい。また、本実施形態では、キャビティ12内における樹脂合流部として、2箇所のゲート15から樹脂材料が射出されることによって生じる樹脂合流部16Cが対象とされているが、樹脂合流部については、その発生原因となる構成(例えば、ゲートの数等)を限定するものではない。したがって、樹脂合流部としては、例えば、3箇所以上のゲートからキャビティ内に射出された樹脂材料が合流する樹脂合流部であってもよく、また、1箇所のゲートからキャビティに射出された樹脂材料が、成形品に孔等の開口部を形成するためにキャビティ内に存在する筒状または柱状の型部分を回り込むこと等によって生じる樹脂合流部であってもよい。
以下では、本発明の実施例について説明する。本実施例では、図5および図6に示すような構成により、ポリプロピレン樹脂に図12に示すような長さ7μm、厚さ2μmのタルクを混合した樹脂材料を用いて、板厚が2.0mm、縦横が200mm×300mmのサイズの長方形状の板状の製品を成形した。また、回転コア30としては、直径が20mmのものを採用した。また、射出成形における条件として、射出速度が[8mm/秒]、回転コア30の回転開始のタイミングがゲート15からの樹脂材料の射出開始から6.5秒後、回転コア30の回転速度が720°/秒という条件を用いた。
本実施例では、回転コア30の回転量が回転角度で360°の場合と1080°の場合の2パターンで成形を行った。前者の場合の条件で得られた成形品を実施例品1とし、後者の場合の条件に得られた成形品を実施例品2とする。また、回転コア30を回転させない場合の条件で得られた成形品を比較例品として採用した。
本実施例では、実施例品1および実施例品2のいずれについても、比較例品に対して山の高さが0.数マイクロメートル程度低かった。また、ウエルドの移動距離については、回転コア30の回転量が多い実施例品2の方が、実施例品1よりも数ミリメートル長かった。
ここで、「山の高さ」とは、直立タルクによって樹脂合流部の表面において生じるV字溝を形成する山形状の部分の高さ、つまり平坦な部分と山形状の部分の頂上との高低差であり、図4に示す例では、符号D1の寸法に相当する。山の高さは、ウエルドの視認性に影響し、山の高さが低いほど、ウエルドは目立たなくなり、樹脂製品の見栄えは向上する。また、「ウエルドの移動距離」とは、比較例品を基準として、回転コア30上における左右方向についてのウエルドの移動量が最も多い点の移動量であり、図10(b)に示す例では、移動量Xaがウエルドの移動距離に相当する。
本実施例により、実施例品1および実施例品2のいずれについても、比較例品と比べて、山の高さが低くなっていることがわかった。この結果から、回転コア30を回転させることにより、回転コア30を回転させない場合と比較して、山の高さが低減し、ウエルドが比較的目立たなくなるということがいえる。以上のように、本実施例から、本発明に係る射出成形技術を用いることにより、山の高さを低減することができ、ウエルドの発生を抑制することができるということが実証された。
以上のように、本発明に係る射出成形方法および射出成形装置は、射出条件ではなく金型の構造によって、樹脂合流部で合流する樹脂に速度差を生じさせることで、ウエルドの原因となる直立タルクを寝かせ、成形品の表面に生じるウエルドの発生を抑制しようとするものである。本発明に係る射出成形技術は、例えば薄板状の成形品領域を有する射出成形等において広く適用することができる。