本発明の一実施形態に係る緩衝器を図面を参照して以下に説明する。
図1に示す本実施形態に係る緩衝器1は、作動流体として油液が用いられる油圧緩衝器である。緩衝器1は、内筒2と外筒3とを有する複筒式のシリンダ4を有している。外筒3は、内筒2より大径であり、内筒2を覆うように内筒2と同軸状に配置されている。内筒2と外筒3との間はリザーバ室5となっている。なお、本実施形態は、複筒式に限らず単筒式の緩衝器にも用いることができる。
緩衝器1は、図2にも示すように、ピストンロッド8とピストン9とを有している。ピストン9は、図1に示すように、ピストンロッド8の軸方向の一端部に連結されている。よって、ピストン9は、ピストンロッド8と一体的に移動する。ピストンロッド8は、内筒2および外筒3の中心軸線上に配置されており、その軸方向一端から中央部が内筒2および外筒3(つまりシリンダ4)の内部に挿入され、その軸方向他端が内筒2および外筒3(つまりシリンダ4)から外部に延出されている。ピストン9は、シリンダ4の内筒2内に摺動可能に嵌装されており、内筒2内を二つの室11,12に区画している。ピストンロッド8は、室11,12のうち室11を貫通するように配置されている。言い換えれば、室11は、緩衝器1においてピストンロッド8が配置されるロッド側の室となっている。
シリンダ4の内筒2内には、作動流体としての油液が封入されることになり、シリンダ4内の内筒2と外筒3との間のリザーバ室5には、作動流体としての油液および高圧(20〜30気圧程度)のガスが封入される。つまり、内筒2と外筒3とを有するシリンダ4には作動流体が封入されている。なお、リザーバ室5内には、高圧ガスにかえて大気圧の空気を封入してもよい。
緩衝器1は、図3にも示すように、ロッドガイド15とシール部材16と摩擦部材17とを有している。また、緩衝器1は、図1に示すようにベースバルブ18を有している。ロッドガイド15は、シリンダ4におけるピストンロッド8の外部突出側の端部位置に配置されており、外筒3の内側に嵌合されると共に内筒2の内側にも嵌合されている。シール部材16は、シリンダ4の端部であってシリンダ4の軸方向における内外方向(図1〜図3の上下方向で、以下、シリンダ内外方向という)のロッドガイド15よりも外側(図1〜図3の上下方向上側)に配置されている。摩擦部材17は、シール部材16よりもシリンダ内外方向の内側(図1〜図3の上下方向下側)であってシール部材16とロッドガイド15との間に配置されている。ベースバルブ18は、シリンダ4内の軸方向のロッドガイド15、シール部材16および摩擦部材17とは反対側の端部に配置されている。
図3に示すように、ロッドガイド15、シール部材16および摩擦部材17は、いずれも環状の形状を有する。ロッドガイド15、シール部材16および摩擦部材17のそれぞれの内側にピストンロッド8が摺動可能に挿通される。ロッドガイド15は、ピストンロッド8を、その径方向移動を規制しつつ軸方向移動可能に支持して、このピストンロッド8の移動を案内する。シール部材16は、その内周部で、軸方向に移動するピストンロッド8の外周部に摺接して、内筒2内の油液と外筒3内のリザーバ室5の高圧ガスおよび油液とが外部に漏洩するのを防止する。摩擦部材17は、その内周部でピストンロッド8の外周部に摺接して、ピストンロッド8に摩擦抵抗を発生させる。なお、摩擦部材17は、シールを目的とするものではない。
図1に示すように、シリンダ4の外筒3は、円筒状の胴部材21と底蓋部材22とからなっており、胴部材21の軸方向の一端に底蓋部材22が嵌合している。底蓋部材22は、底蓋部23と棒状部24とを有している。底蓋部23は、その外周部で胴部材21の内周部に嵌合している。棒状部24は、底蓋部23の径方向の中央から胴部材21とは反対側に伸びている。底蓋部材22は、底蓋部23が胴部材21に嵌合した状態で胴部材21に溶接により密閉状態となるように固定されている。棒状部24の底蓋部23とは反対側には、取付部材25が溶接により固定されている。室11,12のうち、シリンダ4の底蓋部23側の室12は、シリンダ4内のボトム側の室となっている。
胴部材21は、底蓋部材22とは反対側が開口部27となっており、図3に示すように、この開口部27に係止部28を有している。上記したシール部材16およびロッドガイド15は、胴部材21の開口部27側に嵌合されている。係止部28は、胴部材21における開口部27の端部位置から径方向内方に突出しており、シール部材16をロッドガイド15との間に挟持する。
図1に示すように、外筒3の底蓋部23のシリンダ内外方向内側(図1の上下方向上側)にはベースバルブ18のベースボディ30が配置されている。ベースボディ30は、シリンダ4内の室12と上記したリザーバ室5とを画成する。ベースボディ30は、軸方向一側が他側よりも小径となる段差状をなしている。ベースボディ30は、大径側において底蓋部23に載置される。
シリンダ4の内筒2は円筒状の形状を有する。内筒2は、軸方向の一端側がベースバルブ18のベースボディ30の小径側に嵌合状態で支持され、軸方向の他端側が外筒3の開口部27の内側にあるロッドガイド15に嵌合状態で支持されている。
ベースバルブ18のベースボディ30には、その軸方向に貫通する挿通孔29が径方向の中央に形成されており、この挿通孔29の周囲にはベースボディ30を軸方向に貫通する通路31a,31bが形成されている。これら通路31a,31bは、内筒2内の室12と、外筒3と内筒2との間のリザーバ室5とを連通可能となっている。また、ベースボディ30には、底蓋部23とは反対側にディスクバルブ33aが、底蓋部23側にディスクバルブ33bが、それぞれ配置されている。ディスクバルブ33aは、チェックバルブであり、外側の通路31aを開閉可能となっている。ディスクバルブ33bは、減衰バルブであり、内側の通路31bを開閉可能となっている。ベースボディ30には、その挿通孔29に底蓋部23側からリベット35が挿入されており、ディスクバルブ33a,33bは、このリベット35の一端の頭部36と他端の加締部37とで径方向の内側部分がクランプされてベースボディ30に取り付けられている。
ディスクバルブ33bは、ディスクバルブ33aの図示略の通路穴およびベースボディ30の通路31bを介して室12からリザーバ室5側への油液の流れを許容して減衰力を発生する一方で逆方向の油液の流れを規制する。これとは反対に、ディスクバルブ33aはベースボディ30の通路31aを介してリザーバ室5から室12側への油液の流れを抵抗無く許容する一方で逆方向の油液の流れを規制する。ディスクバルブ33bは、ピストンロッド8がシリンダ4への進入量を増大させる縮み側に移動しピストン9が室12側に移動して室12の圧力が上昇すると通路31を開くことになり、その際に減衰力を発生する縮み側の減衰バルブとなっている。また、ディスクバルブ33aは、ピストンロッド8がシリンダ4からの突出量を増大させる伸び側に移動しピストン9が室11側に移動して室12の圧力が下降すると通路31aを開くことになるが、その際にリザーバ室5から室12内に実質的に減衰力を発生せずに油液を流すサクションバルブである。
ピストンロッド8が伸び側に移動してシリンダ4からの突出量が増大すると、その分の油液が、リザーバ室5からディスクバルブ33aを開きつつ通路31aを介して室12に流れる。逆にピストンロッド8が縮み側に移動してシリンダ4への挿入量が増大すると、その分の油液が室12からディスクバルブ33bを開きつつ通路31bを介してリザーバ室5に流れることになる。
なお、チェックバルブとしてのディスクバルブ33aで伸び側の減衰力を積極的に発生させてもよい。また、これらのディスクバルブ33a,33bを廃止してオリフィスとしてもよい。
ピストンロッド8は、取付軸部40と主軸部41とを有している。取付軸部40は、ピストン9が取り付けられる部分であり、ピストンロッド8のシリンダ4内への挿入先端側に形成されている。主軸部41は、ピストンロッド8の取付軸部40以外の部分であり、取付軸部40よりも大径となっている。主軸部41には、径方向外側に広がるリテーナ42が固定されており、リテーナ42の取付軸部40とは反対には円環状の弾性材料からなる緩衝体43が設けられている。
図2に示すように、ピストン9には、複数(図2では断面とした関係上一カ所のみ図示)の通路50a(第1通路)と、複数(図2では断面とした関係上一カ所のみ図示)の通路50b(第1通路)とが設けられている。これら通路50aおよび通路50bは、室11と室12とを連通させる。ピストン9の室11側への移動時、つまりピストンロッド8がシリンダ4から伸び出る伸び行程においては、通路50bに対して設けられた後述の減衰力発生機構51bが通路50bを閉塞する。このため、ピストン9の移動によって油液が、通路50aを通って、室11および室12の一方である室11から他方である室12に向けて流れ出す。他方、ピストン9の室12側への移動時、つまりピストンロッド8がシリンダ4内に進入する縮み行程においては、通路50aに対して設けられた後述の減衰力発生機構51aが通路50aを閉塞する。このため、ピストン9の移動によって油液が、通路50bを通って、室11および室12の他方である室12から一方である室11に向けて流れ出す。ピストン9には、通路50aと通路50bとが同数ずつ形成されている。
通路50aは、円周方向において、隣り合うもの同士の間に一カ所の通路50bを挟むようにして等ピッチで形成されている。通路50aは、ピストン9の軸方向一側(室11側)が径方向外側に、軸方向他側(室12側)が径方向内側に開口している。そして、これらの通路50aに、減衰力を発生させる減衰力発生機構51a(第1の減衰力発生機構)が設けられている。減衰力発生機構51aは、ピストン9の軸方向の室12側に配置されている。通路50aは、上記したように伸び行程時に油液が室11から流れ出す伸び側の通路を構成している。通路50aに対して設けられた減衰力発生機構51aは、伸び側の通路50aの油液の流動を抑制して減衰力を発生させる伸び側の減衰力発生機構となっている。
また、通路50bは、円周方向において、隣り合うもの同士の間に一カ所の通路50aを挟むようにして等ピッチで形成されている。通路50bは、ピストン9の軸方向他側(室12側)が径方向外側に、軸方向一側(室11側)が径方向内側に開口している。そして、これらの通路50bに、減衰力を発生させる減衰力発生機構51b(第1の減衰力発生機構)が設けられている。減衰力発生機構51bは、ピストン9の軸方向の室11側に配置されている。通路50bは、上記した縮み行程時に油液が室12から流れ出す縮み側の通路を構成している。通路50bに対して設けられた減衰力発生機構51bは、縮み側の通路50bの油液の流動を抑制して減衰力を発生させる縮み側の減衰力発生機構となっている。
図1に示すように、ピストンロッド8には、主軸部41のピストン9とリテーナ42との間位置に、径方向に沿う通路穴55が形成されている。また、図2に示すように、ピストンロッド8には、通路穴55より大径の通路穴56が軸方向に沿って取付軸部40側に向けて形成されている。通路穴56は、通路穴55に連通し取付軸部40の先端部に開口している。これら通路穴55,56が、ピストンロッド8に設けられるロッド内通路57を構成しており、このロッド内通路57は、その通路穴55側が室11に常時連通している。
ピストンロッド8には、取付軸部40のピストン9に対し主軸部41とは反対側に、減衰力可変機構58が取り付けられている。減衰力可変機構58は、ロッド内通路57の通路穴56を覆うように取り付けられており、内部がロッド内通路57に連通している。
上述の緩衝器1は、図4に概略的に示すように、車両Vの各車輪Wそれぞれに対して設けられる。その際に、例えば緩衝器1の一方側は車体Bにより支持され、他方側が車輪W側に固定される。具体的には、ピストンロッド8にて車体B側に連結され、シリンダ4のピストンロッド8の突出側とは反対側が車輪W側に連結される。なお、上記とは逆に、緩衝器の他方側が車体Bにより支持され緩衝器の一方側が車輪W側に固定されるようにしても良い。
車輪Wが走行に伴って振動すると該振動に伴ってシリンダ4とピストンロッド8との位置が相対的に変化するが、上記変化は図2に示すピストン9に形成された通路の流体抵抗により抑制される。以下で詳述するごとくピストン9に形成された通路の流体抵抗は振動の速度や振幅により異なるように作られており、振動を抑制することにより、乗り心地が改善される。上記シリンダ4とピストンロッド8との間には、車輪Wが発生する振動の他に、車両Vの走行に伴って車体Bに発生する慣性力や遠心力も作用する。例えばハンドル操作により走行方向が変化することにより車体Bに遠心力が発生し、この遠心力に基づく力が上記シリンダ4とピストンロッド8との間に作用する。以下で説明する通り、本実施形態の緩衝器1は車両Vの走行に伴って車体Bに発生する力に基づく振動に対して良好な特性を有しており、車両Vの走行時における高い安定性が得られる。
図2に示すように、ピストン9は、略円板状のピストン本体61と、ピストン本体61の外周面に装着される摺接部材62とを有している。ピストン9は、摺接部材62においてシリンダ4内に摺接する。ピストン本体61には、径方向の中央に軸方向に貫通するように挿通穴63が形成されており、この挿通穴63にピストンロッド8の取付軸部40が挿通される。挿通穴63は軸方向一側が小径穴部64となっており、軸方向他側が小径穴部64よりも大径の大径穴部65となっている。また、このピストン本体61に、挿通穴63を囲むようにして上記した通路50a,50bが形成されている。
ピストン本体61の軸方向の室12側の端部にはシート部71aが形成されている。シート部71aは、伸び側の通路50aの一端開口位置の外側に円環状に形成されている。ピストン本体61の軸方向の室11側の端部にはシート部71bが形成されている。シート部71bは、縮み側の通路50bの一端の開口位置の外側に円環状に形成されている。シート部71aは減衰力発生機構51aを構成している。シート部71bは減衰力発生機構51bを構成している。
ピストン本体61において、シート部71aの挿通穴63とは反対側は、シート部71aよりも軸線方向高さが低い環状の段差部72bとなっている。この段差部72bの位置に縮み側の通路50bの他端が開口している。また、同様に、ピストン本体61において、シート部71bの挿通穴63とは反対側は、シート部71bよりも軸線方向高さが低い環状の段差部72aとなっている。この段差部72aの位置に伸び側の通路50aの他端が開口している。
減衰力発生機構51aは、上記したシート部71aと、シート部71aの全体に同時に着座可能な環状のディスク75aとから構成されており、ディスクバルブとなっている。ディスク75aは複数枚の環状の単体ディスクが重ね合わせられることで構成されている。ディスク75aのピストン本体61側には、ディスク75aよりも小径のスペーサ76aが配置されており、ディスク75aのピストン本体61とは反対側には、ディスク75aよりも小径の環状のバルブ規制部材77aが配置されている。
減衰力発生機構51aは、シート部71aとディスク75aとの間に、これらが当接状態にあっても通路50aを室12に連通させる固定オリフィス78aを有している。固定オリフィス78aは、シート部71aに形成された溝あるいはディスク75aに形成された開口によって形成されている。ディスク75aは、シート部71aから離座することで通路50aを開放する。その際に、バルブ規制部材77aはディスク75aの開方向への規定以上の変形を規制する。減衰力発生機構51aは、通路50aに設けられ、ピストン9の室11側への摺動によって通路50aに生じる油液の流れを抑制して減衰力を発生させる。
同様に、減衰力発生機構51bは、上記したシート部71bと、シート部71bの全体に同時に着座可能な環状のディスク75bとから構成されており、ディスクバルブとなっている。ディスク75bも複数枚の環状の単体ディスクが重ね合わせられることで構成されている。ディスク75bのピストン本体61とは反対側には、ディスク75bよりも小径の環状のバルブ規制部材77bが配置されている。バルブ規制部材77bは、ピストンロッド8の主軸部41の取付軸部40側の端面に当接している。
減衰力発生機構51bは、シート部71bとディスク75bとの間に、これらが当接状態にあっても通路50bを室11に連通させる固定オリフィス78bを有している。固定オリフィス78bは、シート部71bに形成された溝あるいはディスク75bに形成された開口によって形成されている。ディスク75bは、シート部71bから離座することで通路50bを開放し、その際に、バルブ規制部材77bはディスク75bの開方向への規定以上の変形を規制する。減衰力発生機構51bは、通路50bに設けられ、ピストン9の室12側への摺動によって通路50bに生じる油液の流れを抑制して減衰力を発生させる。
本実施形態では、減衰力発生機構51a,51bが内周クランプのディスクバルブである例を示したが、これに限らず、減衰力を発生する機構であればよく、例えば、ディスクバルブをコイルバネで付勢するリフトタイプのバルブとしてもよく、また、ポペット弁であってもよい。
ピストンロッド8の取付軸部40の先端には、オネジ80が形成されており、このオネジ80に上記した減衰力可変機構58が螺合されている。減衰力可変機構58は、周波数(振動状態)により外部から制御されることなく減衰力を可変とする周波数感応部である。減衰力可変機構58は、オネジ80に螺合された状態で、上記したバルブ規制部材77a、ディスク75a、スペーサ76a、ピストン9、ディスク75bおよびバルブ規制部材77bをピストンロッド8の主軸部41の端面との間に挟持することになり、ナットを兼用している。
減衰力可変機構58は、蓋部材82とハウジング本体83とからなるハウジング85と、フリーピストン87と、Oリング88(バネ部材)と、Oリング89(バネ部材)とで構成されている。蓋部材82には、ピストンロッド8の一端側のオネジ80に螺合されるメネジ81が形成されている。ハウジング本体83は、蓋部材82にその一端開口側が閉塞されるように取り付けられる略円筒状をなしている。フリーピストン87は、このハウジング85内に摺動自在に挿入されている。Oリング88は、フリーピストン87とハウジング85の蓋部材82との間に介装されてフリーピストン87がハウジング85に対し軸方向の蓋部材82側へ移動したときに圧縮変形する縮み側の弾性体となっている。Oリング89は、フリーピストン87とハウジング85のハウジング本体83との間に介装されてフリーピストン87がハウジング85に対し上記とは反対側へ移動したときに圧縮変形する伸び側の弾性体となっている。なお、図2においては便宜上自然状態のOリング88,89を図示している。特にOリング89は、シールとしても機能するので、取り付けられた状態で常時、断面非円形に変形しているように配置されることが望ましい。上記したOリング88はフリーピストン87が一方向へ移動したときに圧縮変形してフリーピストン87の変位に対し抵抗力を発生する抵抗要素となっており、Oリング89はフリーピストン87が他方向へ移動したときに圧縮変形してフリーピストン87の変位に対し抵抗力を発生する抵抗要素となっている。
蓋部材82は、切削加工を主体として形成される。蓋部材82は、蓋内筒部91と蓋基板部92と蓋外筒部93と嵌合凸部94とを有している。蓋内筒部91は略円筒状をなしており、その内周部に、上記したメネジ81が形成されている。蓋基板部92は、この蓋内筒部91の軸方向の一端部から径方向外側に延出する有孔円板状をなしている。蓋外筒部93は、蓋基板部92の外周側から蓋内筒部91と同方向に延出している。嵌合凸部94は、蓋外筒部93の軸方向の蓋基板部92と同側から径方向外側に突出する環状をなしている。
蓋内筒部91の蓋外筒部93の内周面は、蓋基板部92側から順に、円筒面部96および傾斜面部97を有している。円筒面部96は一定径をなしている。傾斜面部97は円筒面部96に繋がっており、円筒面部96から軸方向に離れるほど大径となる円環状をなしている。傾斜面部97は蓋部材82の中心軸線を含む断面が略円弧状をなしている。
ハウジング本体83は、切削加工を主体として形成されるもので、略円筒状をなしている。ハウジング本体83は、軸方向一側に径方向内方に突出する内側環状突起100が形成されている。ハウジング本体83の内周面には、軸方向一側から順に、小径円筒面部101、傾斜面部102、大径円筒面部103および嵌合円筒面部104が形成されている。小径円筒面部101は一定径をなしている。傾斜面部102は、小径円筒面部101に繋がっており、小径円筒面部101から離れるほど大径となる円環状となっている。大径円筒面部103は、傾斜面部102に繋がっており、小径円筒面部101より大径の一定径をなしている。傾斜面部102はハウジング本体83の中心軸線を含む断面が略円弧状をなしている。小径円筒面部101と傾斜面部102とは、内側環状突起100に形成されている。なお、ハウジング本体83を円筒状と記述しているが、内周面は断面円形となることが望ましいが、外周面は、多角形等断面非円形であってもよい。
このようなハウジング本体83は、嵌合円筒面部104が軸方向の内側環状突起100とは反対側の端部まで延在する状態で、嵌合円筒面部104に、蓋部材82の嵌合凸部94が嵌合される。その後、ハウジング本体83の嵌合凸部94よりも軸方向の内側環状突起100とは反対側の部分が内側に折り曲げられることで、ハウジング本体83および蓋部材82が一体化されてハウジング85となる。蓋部材82の蓋外筒部93は、ハウジング85において大径円筒面部103よりも径方向内側に突出する円環状の小径部を構成しており、この部分に傾斜面部97が形成されている。また、ハウジング本体83の内側環状突起100は、ハウジング85において大径円筒面部103よりも径方向内側に突出する円環状の小径部を構成しており、この部分に傾斜面部102が形成されている。これら傾斜面部97と傾斜面部102とが軸方向に対向するように配置されている。
フリーピストン87は、切削加工を主体として形成される。フリーピストン87は、略円筒状のピストン筒部108と板状のピストン閉板部109とを有している。ピストン閉板部109は、ピストン筒部108の軸方向の一側を閉塞するように形成されている。ピストン筒部108には、軸方向の中間位置に外側環状突起110が形成されている。外側環状突起110は、ピストン筒部108の他の部分より大径であって径方向外方に突出する円環状をなしている。外側環状突起110は、フリーピストン87の軸方向の中央位置より若干ピストン閉板部109とは反対側にずれて形成されている。
ピストン筒部108の外周面には、軸方向のピストン閉板部109側から順に、テーパ面部112、小径円筒面部113、傾斜面部114、大径円筒面部115、傾斜面部116、小径円筒面部117およびテーパ面部118が形成されている。傾斜面部114、大径円筒面部115および傾斜面部116は、外側環状突起110に形成されている。
テーパ面部112は、軸方向の小径円筒面部113とは反対側ほど小径となるテーパ状をなしている。小径円筒面部113はテーパ面部112の大径側に繋がっており、一定径となっている。傾斜面部114は小径円筒面部113に繋がっており、小径円筒面部113から軸方向に離れるほど大径となる円環状をなしている。大径円筒面部115は、傾斜面部114の大径側に繋がっており、小径円筒面部113より大径の一定径をなしている。傾斜面部114は、フリーピストン87の中心軸線を含む断面が略円弧状をなしている。
傾斜面部116は、大径円筒面部115に繋がっており、大径円筒面部115から離れるほど小径となる円環状をなしている。傾斜面部116の小径側には、小径円筒面部117が繋がっている。小径円筒面部117は、小径円筒面部113と同径の一定径となっている。テーパ面部118は、小径円筒面部117に繋がっており、軸方向の小径円筒面部117とは反対側ほど小径となるテーパ状をなしている。傾斜面部116はフリーピストン87の中心軸線を含む断面が略円弧状をなしている。外側環状突起110はその軸線方向の中央位置を通る平面に対して対称形状をなしている。フリーピストン87には、通路穴119がフリーピストン87の周方向に間隔をあけて複数箇所に形成されている。通路穴119は、外側環状突起110の軸方向の中央位置に形成されており、外側環状突起110を径方向に貫通している。
フリーピストン87は、ピストン閉板部109を軸方向の内側環状突起100側に配置するようにして、ハウジング85内に配置される。フリーピストン87は、ハウジング85内に配置された状態で、大径円筒面部115がハウジング本体83の大径円筒面部103の位置を軸方向に移動する。また、フリーピストン87は、ハウジング85内に配置された状態で、一側のテーパ面部112および小径円筒面部113がハウジング本体83の小径円筒面部101の位置を軸方向に移動する。また、フリーピストン87は、ハウジング85内に配置された状態で、他側の小径円筒面部117およびテーパ面部118が蓋部材82の蓋外筒部93の円筒面部96の位置を軸方向に移動する。
フリーピストン87がハウジング85内に配置された状態で、ハウジング本体83の傾斜面部102とフリーピストン87の傾斜面部114とがこれらの径方向において位置を重ね合わせる。よって、ハウジング本体83の傾斜面部102と、フリーピストン87の傾斜面部114とがフリーピストン87の移動方向で対向する。加えて、蓋部材82の蓋外筒部93の傾斜面部97とフリーピストン87の傾斜面部116とがこれらの径方向において位置を重ね合わせる。よって、蓋部材82の傾斜面部97と、フリーピストン87の傾斜面部116とがフリーピストン87の移動方向で対向する。
そして、フリーピストン87の小径円筒面部113および傾斜面部114と、ハウジング本体83の傾斜面部102および大径円筒面部103との間に、Oリング89(図2において自然状態を図示)が配置されている。言い換えれば、フリーピストン87の外側環状突起110とハウジング85の内側環状突起100との間に、Oリング89が配置されている。このOリング89は、自然状態にあるとき、中心軸線を含む断面が円形状をなしている。Oリング89は、自然状態にあるとき、内径がフリーピストン87の小径円筒面部113よりも小径で、外径がハウジング本体83の大径円筒面部103よりも大径となっている。つまり、Oリング89は、フリーピストン87およびハウジング85の両方に対してこれらの径方向に締め代をもって嵌合される。
また、ハウジング85の大径円筒面部103および傾斜面部97と、フリーピストン87の傾斜面部116および小径円筒面部117との間に、Oリング88(図2において自然状態を図示)が配置されている。言い換えれば、フリーピストン87の外側環状突起110とハウジングの蓋外筒部93との間に、Oリング88が配置されている。このOリング88は、自然状態にあるとき、中心軸線を含む断面が円形状をなしている。Oリング88は、自然状態にあるとき、内径がフリーピストン87の小径円筒面部117よりも小径で、外径がハウジング85の大径円筒面部103よりも大径となっている。つまり、Oリング88も、フリーピストン87およびハウジング85の両方に対してこれらの径方向に締め代をもって嵌合される。
両方のOリング88,89は、同じ大きさの共通部品であり、フリーピストン87をハウジング85内でハウジング85に対して軸方向の所定の中立位置に保持するように付勢する。それとともに、Oリング88,89は、弾性変形することによって、フリーピストン87のハウジング85に対する軸方向両側の移動を許容する。
フリーピストン87においては、Oリング88が小径円筒面部117、傾斜面部116に接触する。これら小径円筒面部117および傾斜面部116のうち傾斜面部116は、フリーピストン87の移動方向に対し傾斜している。また、ハウジング85においては、Oリング88がハウジング85の大径円筒面部103および傾斜面部97に接触する。これら大径円筒面部103および傾斜面部97のうち傾斜面部97は、フリーピストン87の移動方向に対し傾斜している。
言い換えれば、フリーピストン87の外周部に外側環状突起110を設け、この外側環状突起110の軸方向両面は、傾斜面部114と傾斜面部116とを構成している。また、ハウジング85の内周における、外側環状突起110の両側の位置に、傾斜面部102を有する内側環状突起100と、傾斜面部97を有する蓋外筒部93とを設けている。また、外側環状突起110と、内側環状突起100および蓋外筒部93との間にそれぞれOリング89およびOリング88を設けている。
なお、減衰力可変機構58を組み立てる場合には、例えば、ハウジング本体83内に傾斜面部102の位置までOリング89を挿入する。そして、これらハウジング本体83およびOリング89の内側にフリーピストン87を嵌合する。その際に、フリーピストン87は、大径円筒面部115が、ハウジング本体83の大径円筒面部103に案内され、その後、テーパ面部112が小径側から、Oリング89およびハウジング本体83の小径円筒面部101に挿入される。次に、ハウジング本体83とフリーピストン87との間に傾斜面部116の位置までOリング88を挿入する。そして、蓋部材82をハウジング本体83に嵌合させてハウジング本体83を加締める。このように予め組み立てられた減衰力可変機構58が、ピストンロッド8の取付軸部40のオネジ80にメネジ81を螺合させて取り付けられる。その際に、ハウジング85の蓋基板部92がバルブ規制部材77aに当接する。減衰力可変機構58の外径つまりハウジング85の外径は、内筒2の内径よりも流路抵抗とならない程度に小さく設定されている。
ピストンロッド8には、上記したように室11に常時連通するロッド内通路57が形成されている。ハウジング85内には、ロッド内通路57に常時連通するハウジング内通路121が形成されている。これらロッド内通路57およびハウジング内通路121がロッド側通路122(第2通路)を構成している。よって、ハウジング85には、内部にロッド側通路122の一部の通路としてのハウジング内通路121が形成されている。フリーピストン87は、このハウジング85内に移動可能に設けられてロッド側通路122を上流側と下流側とに画成する。ロッド側通路122は、内筒2内の室11および室12のうちの一方である室11に連通されている。ロッド側通路122は、ピストン9の室11側への移動により室11の圧力が上昇すると室11から油液が流れ出す。つまり、ピストン9の室11側への移動により、室11から、上記した通路50aと、これとは別系統のロッド側通路122とに油液が流れ出す。
ハウジング内通路121は、Oリング89とフリーピストン87とハウジング85とによって、ピストンロッド8側の室11に連通するロッド室側通路部123と、ボトム側の室12に連通するボトム室側通路部124とに画成されている。ロッド室側通路部123は、室125と通路穴119と室126とから構成されている。室125は、蓋部材82とフリーピストン87とOリング88とで囲まれており、ロッド内通路57が開口する。通路穴119は、フリーピストン87に形成されており、この室125に一端が開口する。室126は、ハウジング本体83とOリング88とOリング89とフリーピストン87とで囲まれており、この通路穴119の他端が開口する。ボトム室側通路部124は、ハウジング本体83の内側環状突起100側とOリング89とフリーピストン87とで囲まれた部分から構成されている。
伸び行程でピストン9が室11側へ移動すると、室11の油液がロッド内通路57およびロッド室側通路部123に流れる。すると、フリーピストン87がボトム室側通路部124の油液を室12に排出しながらハウジング85に対して軸方向の蓋部材82とは反対側へ移動する。その際に、フリーピストン87とハウジング85との間に設けられた一方のOリング89が、フリーピストン87の外周部のOリング88,89間に位置する外側環状突起110の傾斜面部114と、ハウジング85の内周部の内側環状突起100の傾斜面部102とに当接し、これらで挟まれて弾性変形させられる。つまり、この一方のOリング89は、伸び行程でのフリーピストン87の一方への移動に対し弾性力を発生する。
縮み行程でピストン9が室12側へ移動すると、室12の油液がフリーピストン87を押圧する。すると、フリーピストン87がボトム室側通路部124へ油液を注入しながらハウジング85に対して軸方向の蓋部材82側へ移動する。その際に、フリーピストン87とハウジング85との間に設けられた他方のOリング88が、フリーピストン87の外周部の外側環状突起110の傾斜面部116と、ハウジング85の内周部の蓋外筒部93の傾斜面部97とに当接し、これらで挟まれて弾性変形させられる。つまり、この他方のOリング88は、縮み行程でのフリーピストン87の他方への移動に対し弾性力を発生する。
図3に示すように、ロッドガイド15は、ロッドガイド本体250とカラー251とから構成されている。ロッドガイド本体250は、金属製であり、略段付き円筒状の形状を有する。カラー251は、円筒状の形状を有しており、ロッドガイド本体250の内周部に嵌合固定される。カラー251は、SPCC材やSPCE材などの金属製の円筒体の内周にフッ素樹脂含浸青銅が被覆されて形成される。
ロッドガイド本体250は、軸方向一側に大径外径部252が形成され、軸方向他側に大径外径部252よりも小径の小径外径部253が形成された外形形状を有する。ロッドガイド本体250は、大径外径部252において外筒3の胴部材21の内周部に嵌合し、小径外径部253において内筒2の内周部に嵌合する。
ロッドガイド本体250の径方向の中央には、大径穴部254と中径穴部255と小径穴部256とが形成されている。大径穴部254は、ロッドガイド本体250の軸方向の大径外径部252側に形成されている。中径穴部255は、大径穴部254よりも若干小径であり、ロッドガイド本体250の軸方向の大径穴部254よりも小径外径部253側に形成されている。小径穴部256は、中径穴部255よりも小径であり、ロッドガイド本体250の軸方向の中径穴部255よりも小径外径部253側に形成されている。
中径穴部255には、その内周面および底面に連続して連通溝257が形成されている。連通溝257は中径穴部255の内周面に軸方向の全長にわたって形成され、中径穴部255の底面に径方向の全長にわたって形成されている。つまり、連通溝257は、大径穴部254の内周面と小径穴部256の内周面とを繋ぐように形成されている。
ロッドガイド本体250の軸方向の大径外径部252側の端部には、小径環状凸部258およびこれより大径の大径環状凸部259が形成されている。小径環状凸部258および大径環状凸部259は、いずれも、ロッドガイド本体250の軸方向の大径外径部252側の端部から軸方向外方に突出するように形成されている。ロッドガイド本体250には、大径環状凸部259と小径環状凸部258との間の大径環状凸部259側に、連通穴261が形成されている。連通穴261は、ロッドガイド本体250を軸方向に沿って貫通しており、外筒3と内筒2との間のリザーバ室5に連通している。カラー251は、ロッドガイド本体250の小径穴部256内に嵌合されて固定されている。ロッドガイド15には、このカラー251内にピストンロッド8が主軸部41の外周部において摺接するように挿通される。
シール部材16は、シリンダ4の軸方向の一端部に配置され、その内周部においてピストンロッド8の主軸部41の外周部に圧接する。シール部材16は、ロッドガイド15とピストンロッド8の主軸部41との隙間から漏れ出る油液等の外側への漏れ出しを規制する。
シール部材16は、シール部265と円環状の環状部材266とからなる一体成形品のシール部材本体267と、環状のスプリング268と、環状のスプリング269とから構成されている。シール部265は、ニトリルゴムやフッ素ゴムなどの摺動性のよい弾性ゴム材料から構成されている。環状部材266は、シール部265内に埋設されシール部材16の形状を維持し、固定のための強度を得るためのもので、金属製である。スプリング268は、シール部材本体267のシール部265のシリンダ内外方向外側の外周部に嵌合されている。スプリング269は、シール部265のシリンダ内外方向内側の外周部に嵌合されている。なお、図3においては、シール部材16を、ピストンロッド8が挿通される前の自然状態で示している(ピストンロッド8に食い込んでいるわけではない)。
シール部265は、その径方向内側に、円環筒状のダストリップ272と、円環筒状のオイルリップ273とを有している。ダストリップ272は、環状部材266の内周側のシリンダ内外方向外側から軸方向に沿って環状部材266から離れる方向に延出している。オイルリップ273は、環状部材266の内周側のシリンダ内外方向内側から軸方向に沿って環状部材266から離れる方向に延出している。また、シール部265は、その径方向外側に、外周シール274と、円環状のシールリップ275とを有している。外周シール274は、シール部265の径方向の外端位置にて環状部材266の外周面を覆っている。シールリップ275は、外周シール274からシリンダ内外方向内側に延出している。さらに、シール部265は、円環状のチェックリップ276を有している。このチェックリップ276は、径方向中間部分のシリンダ内外方向内側から、シリンダ内外方向内側に延びている。
ダストリップ272は、全体として環状部材266からシリンダ内外方向外側に離れるほど内径が小径となる先細筒状の形状を有し、その外周部には、上記したスプリング268を嵌合させる環状溝278が径方向内方に凹むように形成されている。
オイルリップ273は、全体として環状部材266からシリンダ内外方向内側に離れるほど小径となる先細筒状の形状を有し、その外周部には、上記したスプリング269が嵌合される環状溝279が径方向内方に凹むように形成されている。また、オイルリップ273は、内周部のシリンダ内外方向内側が段差状をなしている。
シール部材16は、ダストリップ272がシリンダ内外方向の外側に配置され、オイルリップ273がシリンダ内外方向の内側に配置された状態で、外周シール274において外筒3の胴部材21の内周部に密封接触する。シール部材16は、この状態で、環状部材266の位置がロッドガイド15の大径環状凸部259と外筒3の加締められた係止部28とに挟持されて係止される。この際に、シール部材16は、シールリップ275が、ロッドガイド15の大径環状凸部259と外筒3との間に配置されて、これらに密封接触する。また、オイルリップ273がロッドガイド15の大径穴部254内に配置される。
そして、シリンダ4に取り付けられた状態のシール部材16には、ダストリップ272およびオイルリップ273の内側にピストンロッド8の主軸部41が挿通される。この状態で、ピストンロッド8はその一端がシリンダ4の一端から突出する。また、この状態で、ダストリップ272は、シリンダ4のピストンロッド8が突出する一端側に設けられ、オイルリップ273は、ダストリップ272のシリンダ内外方向の内側に設けられる。
ダストリップ272の環状溝278に嵌合されるスプリング268は、ダストリップ272のピストンロッド8への密着方向の締付力を一定状態に保つ。また、このスプリング268は、設計仕様を満足させるための締付力の調整にも用いられる。オイルリップ273の環状溝279に嵌合されるスプリング269は、オイルリップ273のピストンロッド8への密着方向の締付力を調整する。
シール部265のロッドガイド15側のチェックリップ276は、ロッドガイド15の小径環状凸部258の外周側に所定の締め代を持って全周に渡り密封接触可能となっている。ここで、ロッドガイド15とピストンロッド8との隙間から漏れ出た油液は、シール部材16のチェックリップ276よりもこの隙間側の主に大径穴部254により形成される室285に溜まる。チェックリップ276は、この室285の圧力が、リザーバ室5の圧力よりも所定量高くなった時に開いて室285に溜まった油液を連通穴261を介してリザーバ室5に流す。つまり、チェックリップ276は、室285からリザーバ室5への方向にのみ油液およびガスの流通を許容し逆方向の流通を規制する逆止弁として機能する。
上記のシール部材16は、ダストリップ272がその締め代およびスプリング268による緊迫力でピストンロッド8に密着して気密性を保持する。また、シール部材16は、外部露出時にピストンロッド8に付着した異物の進入を主にこのダストリップ272が規制する。シール部材16は、オイルリップ273がその締め代およびスプリング269による緊迫力でピストンロッド8に密着して気密性を保持する。また、シール部材16は、ピストンロッド8の内筒2内への進入時にピストンロッド8に付着した油液が、ピストンロッド8の外部への露出にともなって外部へ漏出することを主にこのオイルリップ273が規制する。
摩擦部材17は、ロッドガイド15の中径穴部255内に嵌合されることになり、よって、シール部材16よりシリンダ4の内部側に配置されている。摩擦部材17は、その内周部においてピストンロッド8の主軸部41の外周部に圧接することになり、ピストンロッド8への摩擦抵抗を発生させる。
摩擦部材17は、円環状の弾性ゴム部291と円環状のベース部292とからなる一体成形品である。弾性ゴム部291は、ニトリルゴムやフッ素ゴムなどの弾性ゴム材料から構成されており、ベース部292に固着されている。ベース部292は金属製となっており、弾性ゴム部291の形状を維持し、固定のための強度を得るための部材である。なお、図3においては、摩擦部材17を、ピストンロッド8が挿通される前の自然状態で示している(ピストンロッド8に食い込んでいるわけではない)。
図5に片側の断面を示すように、摩擦部材17は、ベース部292が、底部301と筒部302とからなっている。底部301は有孔円板状の形状を有し、筒部302は底部301の外周側から軸方向に延びる円筒状の形状を有する。これら底部301および筒部302は中心軸を一致させている。言い換えれば、底部301に対し筒部302は垂直に延出している。
底部301は、内底面303と内端面304と外底面305とを有している。内底面303は、軸方向の筒部302側にあって円形の平坦面から構成されている。内端面304は径方向の筒部302とは反対側にあって円筒面から構成されている。外底面305は、軸方向の筒部302とは反対側にあって円形の平坦面から構成されている。内底面303の内周端部は、内端面304の軸方向の一端部に繋がっており、外底面305の内周端部は、内端面304の軸方向の他端部に繋がっている。
筒部302は、内周面306と先端面307と外周面308とを有している。内周面306は、径方向の底部301側にあって円筒面から構成されている。先端面307は、軸方向の底部301とは反対側にあって円形の平坦面から構成されている。外周面308は、径方向の底部301とは反対側にあって円筒面から構成されている。内周面306の底部301とは反対側の端部は先端面307の内径部に繋がっており、外周面308の底部301とは反対側の端部は先端面307の外径部に繋がっている。内底面303と内周面306との相互近接側には円環状の内側R面取り309が形成されており、外底面305と外周面308との相互近接側にも円環状の外側R面取り310が形成されている。
弾性ゴム部291は、ベース部292と中心軸を一致させた円環状の形状を有し、主部321と中間部322と被覆部323とを有している。主部321は、ベース部292の筒部302の径方向内側かつ底部301の軸方向の筒部302側に形成されている。中間部322は、主部321の内周部の軸方向の底部301側の端部から軸方向外方に延出しており、底部301の内周側に形成されている。被覆部323は、中間部322の軸方向の主部321とは反対側から径方向外側に延出しており、底部301の外底面305の内周側の一部を覆っている。
主部321は、外周側の筒部固着面326でベース部292の筒部302の内周面306に固着されている。また、主部321は、筒部固着面326の軸方向の一側に繋がる角部固着面327でベース部292の内側R面取り309に固着されている。また、主部321は、角部固着面327の筒部固着面326とは反対側に繋がる底部固着面328でベース部292の底部301の内底面303に固着されている。中間部322は、底部固着面328の角部固着面327とは反対側に繋がる内周固着面329でベース部292の底部301の内端面304に固着されている。被覆部323は、内周固着面329に繋がる外面固着面330でベース部292の底部301の外底面305に固着されている。
弾性ゴム部291は、主部321の底部固着面328とは軸方向反対向きに開放面335を有している。開放面335は、ベース部292に固着されない弾性変形可能な面となっている。また、弾性ゴム部291は、主部321および中間部322の内周側に内周面336を有している。内周面336もベース部292に固着されない弾性変形可能な面となっている。
弾性ゴム部291は、その内周部が、最小内径部337と拡径部338と拡径部339と定径部340とを有している。最小内径部337は、摩擦部材17の中で最小径となっている。拡径部338は、最小内径部337の軸方向一側にあって最小内径部337から離れるほど大径となるテーパ状の形状を有する。拡径部339は、最小内径部337の軸方向他側にあって最小内径部337から離れるほど大径となるテーパ状の形状を有する。定径部340は、一定径であり、軸方向の開放面335とは反対側の拡径部339の最小内径部337とは反対側に繋がっている。言い換えれば、弾性ゴム部291には、内周側に最小内径部337と最小内径部337の軸方向両側の拡径部338,339と定径部340とが設けられている。弾性ゴム部291は、拡径部338,339の境界部分が最小内径部337となっている。
よって、弾性ゴム部291の内周面336は、拡径部338のテーパ面状の内周面338Aと、拡径部339のテーパ面状の内周面339Aと、定径部340の円筒面状の内周面340Aとで構成されている。一方の拡径部338の内周面338Aの最小内径部337とは反対側の端部が開放面335に繋がっている。他方の拡径部339の内周面339Aの最小内径部337とは反対側の端部が定径部340の内周面340Aに繋がっている。
最小内径部337は主部321に形成されており、最小内径部337は、軸方向位置をベース部292の筒部302と重ね合わせている。言い換えれば、最小内径部337は、ベース部292の底部301に対し軸方向位置をずらしている。
被覆部323は、面取り345と外面346と外周面347とを有している。面取り345は、定径部340の内周面340Aの拡径部339とは反対側の端部に繋がっており、定径部340から軸方向に離れるほど大径となるテーパ状の形状を有する。外面346は、面取り345の定径部340とは反対側の端部から径方向内方に延出しており、円形の平坦面から構成されている。外周面347は、外面346の面取り345とは反対側にあって円筒面状をなしている。つまり、弾性ゴム部291は、中間部322および被覆部323を設けることで、ベース部292の底部301の主部321に対し反対側まで回り込む形状となっている。
上述したように、弾性ゴム部291は、ベース部292と中心軸を一致させており、詳しくは、開放面335、最小内径部337、内周面338A,339Aを含む拡径部338,339、内周面340Aを含む定径部340、面取り345、外面346および外周面347がベース部292と中心軸を一致させている。この中心軸が、摩擦部材17の中心軸となっている。
弾性ゴム部291には、主部321の開放面335の筒部302側つまり径方向外側に、切欠部351が形成されている。切欠部351は、開放面335の、切欠部351以外の主面部350よりも軸方向の底部301側に底部301まで到達しない範囲で凹むように形成されている。開放面335の径方向内側の主面部350は、摩擦部材17の中心軸を中心とする円環状をなしている。主面部350は、摩擦部材17の中心軸に直交する面内に配置される円形の平坦面からなっている。切欠部351は、摩擦部材17の中心軸を中心とし摩擦部材17の周方向の全周にわたって連続する円環状をなしており、径方向において底部301の筒部302側および内側R面取り309と位置を重ね合わせるように形成されている。
切欠部351は、主部321の軸方向厚さの半分に満たない深さに形成されている。切欠部351は、凹底面352と外側延出面353と内側延出面354とを有している。凹底面352は、摩擦部材17の中心線を含む断面による形状が円弧状をなしており、軸方向の底部301側に凹んでいる。外側延出面353は、凹底面352の径方向外側の端部から、軸方向の底部301とは反対側に、底部301から離れるほど大径となるように傾斜して延出するテーパ状の形状を有する。内側延出面354は、凹底面352の径方向内側の端部から、軸方向の底部301とは反対側に、底部301から離れるほど小径となるように傾斜して延出するテーパ状の形状を有する。切欠部351は、凹底面352の軸方向の底部301側の端部つまり底位置が、深さが最も深い最深部355となっている。凹底面352、外側延出面353および内側延出面354も摩擦部材17の中心軸を中心として形成されており、最深部355も摩擦部材17の中心軸を中心とした円形状をなしている。
弾性ゴム部291の主部321は、切欠部351の筒部302側に延出部360を有している。延出部360は、切欠部351の最深部355より軸方向の浅い位置まで延びている。延出部360は、内周面が、凹底面352の最深部355よりも径方向外側部分および外側延出面353から構成されており、外周面が筒部固着面326から構成されている。この延出部360の軸方向先端位置は、主面部350と略一致しており、ベース部292の筒部302の先端面307よりも所定量底部301側となっている。言い換えれば、ベース部292の筒部302の内周面306は、その先端面307側の一部を除いて、延出部360を含む弾性ゴム部291で被覆されている。
切欠部351の最深部355の深さは、最小内径部337の軸方向位置より浅くなっている。つまり、最深部355は、摩擦部材17の軸方向において、最小内径部337よりも底部301とは反対側に位置しており、拡径部338,339のうちの底部301とは反対側の拡径部338と位置を重ね合わせている。
弾性ゴム部291は、摩擦部材17の中心線に対する、切欠部351の径方向内側の内側延出面354の角度αが、拡径部338,339のうちの底部固着面328側の拡径部339の内周面339Aの角度βよりも大きくなっている。言い換えれば、底部固着面328側の拡径部339の内周面339Aの底部301とは反対側への延長面と、切欠部351の径方向内側の内側延出面354とが、軸方向に底部固着面328から離れるにしたがい径方向に近づくようになっている。弾性ゴム部291は、拡径部338の内周面338Aと拡径部339の内周面339Aとのなす角の角度γが120°以上とされており、摩擦部材17の中心線の方向に対する、内周面339Aの角度βは、内周面338Aの角度δよりも大きくなっている。
上記構造の摩擦部材17は、図3に示すように、弾性ゴム部291の開放面335がシリンダ内外方向の外側に配置され、ベース部292の底部301がシリンダ内外方向の内側に配置された状態で、ロッドガイド15の大径穴部254側から中径穴部255に嵌合される。このとき、摩擦部材17は、ベース部292の筒部302が中径穴部255の内周面に嵌合し、底部301が弾性ゴム部291の被覆部323を変形させながら中径穴部255の底面に当接する。
そして、シリンダ4に取り付けられた状態の摩擦部材17には、弾性ゴム部291の内側にピストンロッド8の主軸部41が、所定の締め代をもって挿通される。よって、摩擦部材17は、弾性ゴム部291が径方向外側に弾性変形しつつピストンロッド8の主軸部41に密着する。そして、ピストンロッド8がシリンダ内外方向に移動するとこれに弾性ゴム部291が摺接する。その際に、摩擦部材17は、摩擦特性の調整を行う。
上記のように摩擦部材17を嵌合させた状態でロッドガイド15の中径穴部255と摩擦部材17との間には、中径穴部255に形成された連通溝257によって連通路361が形成される。この連通路361がロッドガイド15の小径穴部256側と大径穴部254側つまり室285側とを連通させる。ロッドガイド15の小径穴部256側は、カラー251とピストンロッド8との微少隙間を介して室11に連通している。よって、連通路361は室285と室11とを連通させて、これらの差圧を小さくする。言い換えれば、連通路361は、摩擦部材17の軸方向両側を連通させて摩擦部材17の軸方向両側の差圧を小さくする。よって、摩擦部材17は、積極的にシールとしての役割を果たすものではない。摩擦部材17および連通路361が、摩擦部材17によってピストンロッド8の摺動抵抗となって緩衝器1に減衰力を発生させる減衰力発生機構370(第2の減衰力発生機構)を構成する。
なお、連通路361に代えて、または、連通路361に加えて、摩擦部材17の内周に軸方向両側の差圧を小さくする連通路を設けてもよい。また、連通路361は常時連通していなくとも、例えば、摩擦部材17の軸方向両側に対して逆止弁を設けてもよい。ようは、摩擦部材17が完全なシールとして作用するものでなければよい。
次に、以上に述べた緩衝器1の作動について説明する。
まず、ピストン9に設けられた減衰力発生機構51a,51bおよびピストンロッド8に設けられた減衰力可変機構58の作動と、これらにより生じる緩衝器1の特性とについて主に図2を参照して説明する。
ピストンロッド8が伸び側に移動する伸び行程では、室11から通路50aを介して室12に油液が流れる。ピストン速度が微低速域の場合は、室11から通路50aに導入された油液が、基本的に、シート部71aとシート部71aに当接するディスク75aとの間に形成された常時開口の固定オリフィス78aを介して室12に流れ、その際オリフィス特性(減衰力がピストン速度の2乗にほぼ比例する)の減衰力が発生する。また、ピストン速度が上昇して低速域に達すると、室11から通路50aに導入された油液が、基本的にディスク75aを開きながらディスク75aとシート部71aとの間を通って室12に流れることになる。このため、バルブ特性(減衰力がピストン速度にほぼ比例する)の減衰力が発生する。
ピストンロッド8が縮み側に移動する縮み行程では、室12から通路50bを介して室11に油液が流れる。ピストン速度が微低速域の場合は、室12から通路50bに導入された油液が、基本的に、シート部71bとシート部71bに当接するディスク75bとの間に形成された常時開口の固定オリフィス78bを介して室11に流れ、その際オリフィス特性(減衰力がピストン速度の2乗にほぼ比例する)の減衰力が発生する。また、ピストン速度が上昇して低速域に達すると、室12から通路50bに導入された油液が、基本的にディスク75bを開きながらディスク75bとシート部71bとの間を通って室11に流れる。このため、バルブ特性(減衰力がピストン速度にほぼ比例する)の減衰力が発生する。
ここで、ピストン速度が遅いとき、つまり微低速域(例えば0.05m/s)の周波数が比較的高い領域(例えば7Hz以上)は、例えば路面の細かな表面の凹凸から生じる振動であり、このような状況では減衰力を下げるのが好ましい。また、同じくピストン速度が遅いときであっても、上記とは逆に周波数が比較的低い領域(例えば2Hz以下)は、いわゆる車体のロールによるぐらつき等の振動であり、このような状況では減衰力を上げるのが好ましい。図6は、ピストン速度つまり緩衝器1の加振速度が0.05m/sでの特性を示している。
これに対応して、上記した減衰力可変機構58が、ピストン速度が同じように遅い場合でも、周波数に応じて減衰力を可変とする。つまり、ピストン速度が遅い時、ピストン9の往復動の周波数が高くなると、その伸び行程では、室11の圧力が高くなって、ピストンロッド8のロッド内通路57を介して減衰力可変機構58のハウジング内通路121のロッド室側通路部123に室11から油液を導入させながら、フリーピストン87が軸方向の室12側にあるOリング89の付勢力に抗してハウジング85に対して軸方向の室12側に移動する。このようにフリーピストン87が軸方向の室12側に移動することにより、ハウジング内通路121に室11から油液を導入し、室11から通路50aに導入され減衰力発生機構51aを通過して室12に流れる油液の流量が減る。これにより、図6の周波数がf2(例えば5Hz)以上の領域に示すように、減衰力が下がる。
続く縮み行程では、室12の圧力が高くなるため、ピストンロッド8のロッド内通路57を介して減衰力可変機構58のハウジング内通路121のロッド室側通路部123から室11に油液を排出させながら、それまで軸方向の室12側に移動していたフリーピストン87が軸方向の室11側にあるOリング88の付勢力に抗してハウジング85に対して軸方向の室11側に移動する。このようにフリーピストン87が軸方向の室11側に移動することにより、室12の容積を拡大し、室12から通路50bに導入され減衰力発生機構51bを通過して室11に流れる油液の流量が減る。これにより、減衰力が下がる。
ピストン9の周波数が高い領域では、フリーピストン87の移動の周波数も追従して高くなる。その結果、上記した伸び行程の都度、室11からハウジング内通路121のロッド室側通路部123に油液が流れ、縮み行程の都度、室12の容積がフリーピストン87の移動の分拡大することになって、例えば、図6の周波数がf3(例えば10Hz)以上の領域での破線で示すように、減衰力が下がった状態に維持される。
他方で、ピストン速度が遅い時、ピストン9の周波数が低くなると、フリーピストン87の移動の周波数も追従して低くなる。このため、伸び行程の初期に、室11からハウジング内通路121のロッド室側通路部123に油液が流れるものの、その後はフリーピストン87がOリング89を圧縮してハウジング85に対して軸方向の室12側で停止し、室11からハウジング内通路121のロッド室側通路部123に油液が流れなくなるため、室11から通路50aに導入され減衰力発生機構51aを通過して室12に流れる油液の流量が減らない状態となり、例えば、図6の周波数がf1(例えば2Hz)以下の領域に示すように、減衰力が高くなる。
続く縮み行程でも、その初期に、室12の容積がハウジング85に対するフリーピストン87の移動の分拡大することになるものの、その後はフリーピストン87がOリング88を圧縮してハウジング85に対し軸方向の室11側で停止し、室12の容積に影響しなくなるため、室12から通路50bに導入され減衰力発生機構51bを通過して室11に流れる油液の流量が減らない状態となり、減衰力が高くなる。
ピストン9が停止して、室11と室12との圧力が同等になると、ゴム材料からなるOリング88,89の弾性力によって、フリーピストン87が図2に示す中立位置に配置される。このようにフリーピストン87が中立位置にあるとき、Oリング88が、ハウジング85の大径円筒面部103と傾斜面部97とフリーピストン87の小径円筒面部117と傾斜面部116とに接触しており、Oリング89が、ハウジング85の大径円筒面部103と傾斜面部102とフリーピストン87の小径円筒面部113と傾斜面部114とに接触している。よって、これらOリング88,89が相互対向方向にフリーピストン87を押圧する。
フリーピストン87が中立位置にあるとき、ハウジング85の内側環状突起100の小径円筒面部101と、フリーピストン87のテーパ面部112および小径円筒面部113とが、軸方向位置を重ね合わせており、径方向に対向している。このときの小径円筒面部101とテーパ面部112および小径円筒面部113との間の隙間131は、その径方向断面積A1が、小径円筒面部101の内径を直径とする円の面積から、小径円筒面部113の外径を直径とする円の面積を減算したものとなる。
なお、フリーピストン87が中立位置から蓋部材82とは反対側に移動すると、ハウジング85の小径円筒面部101に対して、フリーピストン87のテーパ面部112が軸方向位置をずらすことになり、ハウジング85の小径円筒面部101はフリーピストン87の小径円筒面部113のみと軸方向位置を重ね合わせて、径方向に対向する。よって、径方向断面積A1は中立状態と同様の一定に維持される。他方、フリーピストン87が中立位置から蓋部材82側に移動すると、ハウジング85の小径円筒面部101に対して、フリーピストン87の小径円筒面部113が軸方向位置をずらすことになる。すると、ハウジング85の小径円筒面部101は、フリーピストン87のテーパ面部112のみと軸方向位置を重ね合わせて径方向に対向し、最終的にフリーピストン87とは径方向に対向しない状態となる。よって、径方向断面積A1は中立状態よりも徐々に大きくなった後、一気に拡大する。
フリーピストン87が中立位置にあるとき、ハウジング85の大径円筒面部103と、フリーピストン87の外側環状突起110の大径円筒面部115とが、軸方向位置を重ね合わせており、径方向に対向している。このときの大径円筒面部103と大径円筒面部115との間の隙間132は、その径方向断面積A2が、大径円筒面部103の内径を直径とする円の面積から、大径円筒面部115の外径を直径とする円の面積を減算したものとなる。
なお、フリーピストン87が中立位置から軸方向のいずれの方向に移動しても、ハウジング85の大径円筒面部103とフリーピストン87の大径円筒面部115とが、軸方向位置を重ね合わせており、径方向に対向している。よって、径方向断面積A2は常時一定に維持される。
フリーピストン87が中立位置にあるとき、ハウジング85の蓋外筒部93の円筒面部96と、フリーピストン87のテーパ面部118とが、軸方向位置を重ね合わせており、径方向に対向している。このときの円筒面部96とテーパ面部118との間の隙間133は、径方向断面積A3が、円筒面部96の内径を直径とする円の面積から、テーパ面部118において円筒面部96の傾斜面部97側の端部と軸方向位置が合う部分の外径を直径とする円の面積を減算したものとなる。
なお、フリーピストン87が中立位置から蓋部材82とは反対側に移動すると、ハウジング85の円筒面部96に対して、フリーピストン87のテーパ面部118が軸方向位置を徐々にずらすことになり、最終的にハウジング85の円筒面部96はフリーピストン87とは軸方向位置を重ね合わせることがなくなる。よって、径方向断面積A3は中立状態よりも徐々に大きくなった後、一気に拡大する。他方、フリーピストン87が中立位置から蓋部材82側に移動すると、ハウジング85の円筒面部96に対して、フリーピストン87のテーパ面部118が軸方向位置を徐々にずらすことになり、最終的にフリーピストン87の小径円筒面部117が軸方向位置を重ね合わせて、径方向に対向する。よって、径方向断面積A3は中立状態よりも徐々に小さくなり、その後、一定となる。
そして、本実施形態において、フリーピストン87が中立位置にある状態で、上記した隙間131と隙間132と隙間133とは、径方向断面積が、隙間131の径方向断面積A1が隙間132の径方向断面積A2および隙間133の径方向断面積A3よりも小さくされている。つまり、径方向断面積A1<径方向断面積A2、かつ、径方向断面積A1<径方向断面積A3となっている。より詳しくは、径方向断面積A1<径方向断面積A2<径方向断面積A3となっている。言い換えれば、フリーピストン87が中立位置にある状態で、隙間131の径方向最小値が、隙間132の径方向最小値および隙間133の径方向最小値よりも小さくなっており、隙間132の径方向最小値が隙間133の径方向最小値よりも小さくなっている。さらに言い換えれば、フリーピストン87が中立位置にある状態で、隙間131が最も径方向隙間が狭い部分となり、隙間132が次に径方向隙間が狭い部分となり、隙間133が次に径方向隙間が狭い部分となる。
ハウジング85の大径円筒面部103とフリーピストン87の外側環状突起110の大径円筒面部115との間の隙間132は、通路穴119の外側出口での圧力損失を下げることができるように設定されている。これにより、上室6に圧力変化が生じても、フリーピストン87の内側の室125と外側の室126との圧力を円滑に同等にすることができる。よって、フリーピストン87およびOリング88の挙動安定化を図ることができる。
フリーピストン87は、伸び行程において上室6の油液が高くなってハウジング85に対して蓋部材82とは反対側に移動すると、ハウジング85の小径円筒面部101とフリーピストン87の小径円筒面部113との間の隙間131が、隙間131〜133の中で最も径方向隙間が狭い部分となり、その径方向断面積A1は、小径円筒面部101の内径を直径とする円の面積から小径円筒面部113の外径を直径とする円の面積を減算したものとなる。この状態では、小径円筒面部101と小径円筒面部113とが当接することで、ハウジング85に対するフリーピストン87の径方向の相対移動が規制される。また、ロッド室側通路部123の室126とボトム室側通路部124との間にあって、伸び行程において隙間131に向けて移動する方向の差圧が発生するOリング89が、フリーピストン87の外側環状突起110による押圧に加えて、この差圧によって隙間131側へさらに移動させられることがあっても、小径円筒面部101と小径円筒面部113との隙間131の径方向断面積A1が狭いことから、隙間131に挟まる「喰われ」の発生を抑制することができる。したがって、信頼性を維持することができる。
また、フリーピストン87は、縮み行程において下室7の油液が高くなってハウジング85に対して蓋部材82側に移動すると、ハウジング85の小径円筒面部101とフリーピストン87の小径円筒面部113とが軸方向に位置をずらすことになり、ハウジング85の大径円筒面部103とフリーピストン87の大径円筒面部115との間の隙間132が、隙間131〜133の中で最も径方向隙間が狭い部分となって、その径方向断面積A2は、大径円筒面部103の内径を直径とする円の面積から大径円筒面部115の外径を直径とする円の面積を減算したものとなる。この状態では、大径円筒面部103と大径円筒面部115とが当接することで、ハウジング85に対するフリーピストン87の径方向の相対移動が規制される。このとき、Oリング89には、上記とは逆向きの隙間132に向けて移動する方向の差圧が生じるが、フリーピストン87から受ける力が少ないため、Oリング89の隙間132側へ移動は抑制され、隙間132の径方向断面積A2が若干広くても「喰われ」の発生は抑制される。したがって、信頼性を維持することができる。
また、ピストン9が停止しフリーピストン87が中立位置にある状態で、上記した隙間131〜133は、隙間131の径方向断面積A1が隙間132の径方向断面積A2および隙間133の径方向断面積A3よりも小さくされている。このように、隙間131〜133の径方向断面積A1〜A3に大小関係を付けることにより、フリーピストン87のこれら隙間131〜133を形成するテーパ面部112、小径円筒面部113、大径円筒面部115、小径円筒面部117およびテーパ面部118の同軸度を緩めることができる。
以上により、信頼性を維持しつつ生産性を改善できる。
ところで、上記した減衰力発生機構51a,51bおよび減衰力可変機構58により生じる緩衝器1の特性では、図6に示すように、周波数がf2(例えば5Hz)以上と高くなると減衰力が低くなるが、車両Vのバネ下共振周波数である15Hz付近(13〜17Hz)の減衰力が低いと、車両Vのバネ下の振動が大きくなり、バネ下制振性を悪化させてしまう。このため、乗り心地が悪化してしまう。また、ソフトの設定で減衰力が低すぎると、周波数が低い状態でも減衰力の初期の立ち上がりが悪くなり、ハンドリングの応答性が悪化してしまう。これらの問題は、上記した特開2011−202800号公報に記載された緩衝器においても同様に生じるものである。
これに対して、本実施形態1では、図3に示す摩擦部材17と連通路361とを有する減衰力発生機構370を設け、その摩擦部材17によって、ピストン速度が微低速であって微振幅入力時のピストンロッド8への作用力を適正化している。つまり、摩擦部材17を用いると、ピストン速度が微低速であって微振幅の入力時に、ピストン速度が0からの動き始めの摩擦領域において、摩擦部材17はピストンロッド8と滑りを生じず弾性ゴム部291の弾性変形によるバネ力が発生し、このバネ力が作用力となる(動バネ領域)。その後、ある程度(0.1mm)以上ピストンロッド8が動くと、摩擦部材17とピストンロッド8との間で滑りが発生し、動摩擦力が発生する(動摩擦領域)。本実施形態では、摩擦部材17によって微振幅時の動バネ定数が向上し動摩擦係数が高くなり、周波数が高い領域での減衰力を減衰力発生機構51a,51bおよび減衰力可変機構58による減衰力よりも上げることができる。つまり、図6の周波数がf3(例えば10Hz)以上の領域での破線で示す、減衰力発生機構370が設けられていない場合よりも、図6の周波数がf3からf4(例えば13Hz)以上の領域での実線で示す減衰力発生機構370が設けられている場合の方が減衰力が高く、つまりハード側に近づく。これにより、良好な減衰力特性を得ることができ、バネ下制振性が向上し乗り心地が向上する。
図4に示す車体Bの車輪Wに取り付けられたタイヤTが、パンク発生時も所定距離の走行が可能なランフラットタイヤや、空気圧が240kPa以上の低燃費タイヤである場合に、タイヤTの剛性(バネ定数)が高く、バネ下振動が大きくなって乗り心地が悪化傾向となる。特に、これらのタイヤTを備えた車体Bに上記緩衝器1を設けることにより、上記したバネ下制振性を向上させる効果が高い。
具体的には、本実施形態の緩衝器1によれば、加振速度0.05m/sでの減衰力特性の実測値が図7に示す特性になる。この特性では、最大減衰力値が、10Hz以上の周波数の時に、1Hz以下の周波数の時よりも低くソフト側になり、5Hz付近(具体的には5Hz)の周波数の時よりも高くハード側になる。
また、ピストン速度が微低速であって微振幅の入力時に、減衰力発生機構370の摩擦部材17によって減衰力を速く立ち上げることができるため、ステアリングを中立位置に保持した状態からのハンドリングの応答性を向上できる。具体的に、緩衝器1は、そのストロークと減衰力との関係を示すリサージュ波形が図8に実線で示すようになり、図8に破線で示す減衰力発生機構370が設けられていない場合と比べて、行程反転時の反転初期において減衰力が高い状態を維持できるようになっている。
上記の減衰力発生機構51a,51bおよび減衰力可変機構58による油圧減衰力を発生させる油圧減衰領域に対し、ピストン速度がさらに遅い領域は、基本的に減衰力発生機構51a,51bおよび減衰力可変機構58による減衰力が殆ど発生しない。このため、常に発生しているシール部材16および摩擦部材17によるピストンロッド8への弾性力および摩擦抵抗とピストン9の内筒2への摩擦抵抗とが減衰力の主発生源となる。このような摩擦領域において、摩擦部材17の設定によってピストンロッド8への作用力を適正化することができる。
上記した特開2005−325997号公報には、底部と筒状部とを有する有底筒状の金属環の底部に、筒状部との間に隙間を設けて弾性ゴム材料からなる摩擦体を加硫接着した摩擦部材が記載されている(特開2005−325997号公報の図10参照)。また、上記した特開2003−156093号公報には、これとは異なるものとして、底部と筒状部とを有する有底筒状の芯金に筒状部との間に隙間がないようにゴムを焼き付けした摩擦部材が記載されている(特開2003−156093号公報の図6(D)等参照)。
この種の摩擦部材を用いた緩衝器では、ピストン速度が0からの動き始めの摩擦領域において、摩擦部材はピストンロッドと滑りを生じずゴムの弾性変形によるバネ力が発生し、このバネ力が作用力となる(動ばね領域)。その後、ある程度(0.1mm)以上ピストンロッドが動くと、摩擦部材とピストンロッドとの間で滑りが発生し、動摩擦力が発生する(動摩擦領域)。
昨今の開発において、この摩擦領域における動ばね領域を拡大し、動摩擦領域を小さくすることで、油圧減衰領域への接続を滑らかにすることと、ピストン速度の上昇に対する減衰力の上昇の傾きを大きくすることとが可能になり、その結果、高周波のざらざらするような振動を抑えて乗り心地を良くし、ロールの始まりや収まり時に力を発生することになって操縦安定性がより良くなることがわかった。
ところが、上記した特開2005−325997号公報に記載されたように、金属環の筒状部との間に隙間を設けて摩擦体を設けるものであると、摩擦体の剛性が低く、ピストンロッド8の移動に対して摩擦体が滑り出すのが早いため、摩擦領域における動ばね領域が狭く、動摩擦領域が広くなる。このため、油圧減衰領域に入るまでの間に減衰力が一定になる特性となって、油圧減衰力に滑らかに繋がることができない。また、ピストン速度が0から極低速の領域でピストン速度の上昇に対する減衰力の上昇の傾きが小さく、動ばね領域の効果が小さいという課題があった。また、特開2003−156093号公報のように、芯金の筒状部との間に隙間がないようにゴムを設けるものであると、ゴムをピストンロッドに押さえつける力を大きくすることで、ピストン速度が0から極低速の領域でピストン速度の上昇に対する減衰力の上昇の傾きが大きくなるものの、ピストンロッド8の移動に対して摩擦体が滑り出す力を大きくすることができるがゴムの変形が困難で有り、結果として、すべり出すまでのストロークが小さく、動ばね領域はさほど広くはならず、滑り出すと摩擦抵抗が急激に下がり、減衰力が、油圧減衰領域に入るまでの間一定になる特性となって、油圧減衰力に滑らかに繋がることができない。このように油圧減衰領域に入るまでの間、つまり、微振幅、微振動且つ高周波時の減衰力特性の改善が望まれている。
本実施形態に係る緩衝器1によれば、組み込まれた摩擦部材17の弾性ゴム部291は、底部固着面328と軸方向反対向きの開放面335の筒部302側に形成された切欠部351の最深部355が、内周側の軸方向両側の拡径部338,339の間の最小内径部337の軸方向位置より浅くなっている。よって、切欠部351の深さが浅くなる分、ピストンロッド8への圧縮力が高くなって、動ばね領域でピストン速度の上昇に対する減衰力の上昇の傾きが大きくなる。また、油圧減衰領域に入るまでの間、ピストンロッド8の移動で、最も高い圧縮力を発生させる最小内径部337をピストンロッド8に対して密着させながら、主部321に最深部355を中心として図5に矢印Rで示すように回転するような変形が生じることになり、よって、ピストンロッド8に対して滑らずに、動ばね力を発生させる領域(ストローク)が広くなる。これにより、動摩擦領域が減少し、ピストン速度の上昇に対して滑らかに減衰力が上がるように特性が変化して、油圧減衰力に滑らかに繋がることになり、良好な減衰力特性を得ることができる。したがって、特に微振幅、微振動且つ高周波時の減衰力特性の改善でき、搭載車両の乗り心地および操縦安定性を向上させることができる。また、従来は減衰力の上昇の傾きを大きくするため、摩擦部材を複数組み合わせて用いる場合があったが、一つの摩擦部材17で減衰力の上昇の傾きを大きくすることができるため、複数の摩擦部材を組み合わせる場合と比べてコストを低減することができ、基本長も短縮できる。また、複数の摩擦部材を組み合わせても動ばね領域を十分に増加させることは出来ないのに対し、上記実施形態では、動ばね領域を増加させることができる。なお、油圧緩衝器の要求仕様によっては、上記実施形態の摩擦部材17を複数組み合わせて用いてもよい。
具体的に、本実施形態に係る緩衝器1の摩擦部材17と図9A〜図9Dに示す比較例の各摩擦部材を緩衝器にそれぞれ組み込んだ場合について、ピストン速度に対する減衰力の特性を実験により求めた。なお、図9Aに示す比較例は、本実施形態に対しベース部292の筒部302との間全体に隙間を有して弾性ゴム部291aを設けた摩擦部材17a(特許文献2の図10に示すものに対応)である。図9Bに示す比較例は、本実施形態に対し最小内径部337bを最深部355よりも底部固着面328とは反対側に位置させた弾性ゴム部291bを設けた摩擦部材17bである。図9Cに示す比較例は、本実施形態に対しベース部292の筒部302との間全体に隙間を有して弾性ゴム部291cを設けるとともに最小内径部337cを底部固着面328とは反対側にずらした摩擦部材17cである。図9Dに示す比較例は、ベース部292の筒部302との間に隙間および切欠部がないように弾性ゴム部291dを設けた摩擦部材17dである。なお、摩擦部材17dは、特開2003−156093号公報の図6(D)に示すものに対応する。
その結果、摩擦部材17a,17b,17cは、いずれも、図10に破線a1で示すように、ピストン速度が0から極低速V1までの領域は、摩擦領域のうちの動ばね領域で、弾性ゴム部291がピストンロッドに対し滑らず、弾性ゴム部291の弾性変形によるバネ力が発生するが、最小内径部337の外径側が空間となっているので、押さえつける力が弱くピストン速度の上昇に対する減衰力の上昇の傾きが小さい。その後、V1〜V2の間は摩擦領域のうちの動摩擦領域で、弾性ゴム部291がピストンロッドに対し滑り、動摩擦状態となり、減衰力が一定になる特性となる。また、ピストン速度がV2以上となると、油圧減衰領域に入り、オリフィス、減衰バルブによる減衰力が前述の動摩擦に重畳し、支配的になる。このV1〜V2の間と、ピストン速度がV2以上の油圧減衰力との境界の変化が大きくなり、ピストン速度がV2以上の油圧減衰力に滑らかに繋がることができなかった。
つまり、摩擦部材17aのようにベース部292の筒部302との間全体に隙間を有して弾性ゴム部291aを設けると、ピストンロッド8に押圧されると弾性ゴム部291aが隙間に入り込むことで剛性が弱くなり、上記した回転するような変形を生じにくい。よって、ピストンロッド8に対してすぐに滑ってしまうため、減衰力が一定になる特性となってしまう。また、摩擦部材17bのように弾性ゴム部291bの最小内径部337bを底部固着面328とは反対側にずらすと、ベース部292とは遠い部分がピストンロッド8に大きな圧縮力で摺接することになるため、剛性が弱い部分の変形が大きく、上記した回転するような変形を生じにくい。よって、ピストンロッド8に対してすぐに滑ってしまうため、減衰力が一定になる特性となってしまう。
また、摩擦部材17dは、弾性ゴム部291dの剛性が高くなり、図10に一点鎖線d1で示すように、ピストン速度が0から極低速V0までの領域は、摩擦領域のうちの動ばね領域で、弾性ゴム部291がピストンロッドに対し滑らず、弾性ゴム部291の弾性変形によるバネ力が発生する。このとき、弾性ゴム部291dを押す力を増やすことで、ピストン速度の上昇に対する減衰力の上昇の傾きが大きくなるものの、外側に空間がないので、本実施形態のように回転するような変形を生じにくく、すぐに(V1より早く)滑ってしまう。
その後、V0〜V2の間は摩擦領域のうちの動摩擦領域で、弾性ゴム部291がピストンロッドに対し滑り、動摩擦状態となり、減衰力が一定になる特性となる。また、ピストン速度がV2以上となると、油圧減衰領域に入り、オリフィス、減衰バルブによる減衰力が前述の動摩擦に重畳し、支配的になる。このV0〜V2の間と、ピストン速度がV2以上の油圧減衰力との境界の変化が大きくなり、ピストン速度がV2以上の油圧減衰力に滑らかに繋がることができなかった。
これらに対して、本実施形態の摩擦部材17は、図10に実線x1で示すように、ピストン速度が0から極低速V2までの領域は、摩擦領域のうちの動ばね領域で、弾性ゴム部291がピストンロッドに対し滑らず、弾性ゴム部291の弾性変形によるバネ力が発生する。このとき、弾性ゴム部291を押す力を増やすことで、ピストン速度の上昇に対する減衰力の上昇の傾きが大きくなる。
その後、V2前後で、弾性ゴム部291がピストンロッドに対し滑り、動摩擦状態となり、減衰力が一定になる特性となる。また、ピストン速度がV2以上となると、油圧減衰領域に入り、オリフィス、減衰バルブによる減衰力が前述の動摩擦に重畳し、支配的になる。よって、ピストン速度がV0からV2以上まで油圧減衰力に滑らかに繋がることができる。この結果、良好な減衰力特性を得ることができ、搭載車両の乗り心地および操縦安定性を向上させることができる。なお、最小内径部337を底部固着面328に近づけすぎると、ベース部292に近いところで応力が高くなり、耐久性が低下してしまう。
なお、上記実施形態では、動摩擦領域がないものを示したが、本願発明は、動ばね領域を広げることが目的で有り、製品仕様によっては、動摩擦領域を設けてもよい。
このように、上記実験の結果から明らかなように、ベース部292の筒部302と弾性ゴム部との間全体に隙間を設けた場合は、押さえつける力が不足し、また、ベース部292の筒部302と弾性ゴム部との間全体を埋めた場合は、押さえつける力は増やせるが、回転方向への変形が出来ないので、動ばね領域を広げることが困難である。
ここで、図9B、すなわち、本実施形態に対し最小内径部337bを最深部355よりも底部固着面328とは反対側に位置させた場合、なぜ、十分に動ばね領域を広げることが出来なかったかを検証するために、応力のシミュレーションを行なった。その結果を図11A、11Bに示す。
図11A、図11B、はφ12.5、μ=0.3のピストンロッドの外周部に摩擦部材を摺接させたときに弾性ゴム部291に発生している応力分布を示すシミュレーション結果である。色が白くなる程応力が高く、黒い部分が低い状態を表している。なお、本発明はこの数寸法、摩擦係数に限定されない。図11Aが本実施形態で、図11Bが図9Bの比較例である。
本実施形態の摩擦部材17である図11Aに示す弾性ゴム部291は、ピストンロッドと摺接する最小内径部337付近で白い部分が集中しており、応力集中が起こっていることが想定される。また、最深部355にも応力が生じており、最小内径部337付近から最深部355にかけて斜めに、周囲に比べて応力が高い部分がある。
このことから、ピストンロッドが伸びるに従い、最小内径部337が上側に移動しても、最深部355の応力の高い部分と近づいていき、更に応力がたかまるので、十分な押さえつける力が維持される。よって、弾性ゴム部291は回転変形しながらピストンロッドに対して静止摩擦状態が維持でき、この結果、動ばね領域が広がったことが推定される。
これに対し、図11Bに示す弾性ゴム部291bは、最小内径部337b付近のピストンロッドとの接触部から最深部355にかけて、図11Bの左右方向に応力が高い部分が集中している。これは、図11Aと異なり、略径方向(図11中左右方向)に応力が高い部分が延びているので、ピストンロッドが伸びるに従い、最小内径部337が上側に移動すると、最深部355の応力の高い部分と離間するので、応力が低下し、十分な押さえつける力が得られず、静止摩擦状態が維持できない。このため、弾性ゴム部291は回転変形も小さくなり、この結果、動ばね領域が十分広がらなかったと推定される。
さらに、ピストンロッドとの接触部があまり白くなく、応力が低いことからより、動ばね領域が十分広がらなかったと推定される。
図12に示すピストンロッドのストロークと減衰力との関係を示すリサージュ波形を見てみると、摩擦部材17a,17b,17cを用いた場合には、いずれも、図12に破線a2で示すように、減衰力が立ち上がる際に大きな段差が生じ、摩擦部材17dを用いた場合は、図12に一点鎖線d2で示すように、若干小さくなるものの段差が生じる。これらに対して、本実施形態の摩擦部材17を用いた場合は、図12に実線x2で示すように、ほぼ段差のない滑らかなリサージュ波形を描くことになる。なお、リサージュ波形は滑らかなほうが減衰力が滑らかに変化するので、好ましい。減衰力が滑らかに変化しないと乱れた部分が乗員に対して違和感をして感じられる。
図13は、静止摩擦特性のシミュレーション結果であり、摺動変位に対する摩擦力の関係を示している。図13に実線x3に示す特性の本実施形態の摩擦部材17は、図13に破線a3で示す特性の摩擦部材17a,17b,17cに比べて、大きな静止摩擦特性を得ることができ、その上で、剛性が高くなって立ち上がり初期の傾きθxを摩擦部材17a,17b,17cの傾きθaに対し大きくすることができる。
摩擦部材17の剛性を高めることで、緩衝器1の微振幅作動時の動バネ定数が上がり、動摩擦特性の向上が可能となる。図14は、動摩擦特性の実験結果であり、周波数に対する摩擦力の関係を示している。図14に実線x4に示す特性の本実施形態の摩擦部材17は、図14に破線a4で示す特性の摩擦部材17a,17b,17cに比べて、周波数が高くなると、動摩擦特性において摩擦力を高くすることができる。これにより、緩衝器1の油圧減衰力では制振できない領域の微振動を制振することができる。したがって、良好な減衰力特性を得ることができ、搭載車両の乗り心地および操縦安定性を向上させることができる。乗り心地は、搭載車両の走り出しが滑らかになり、減衰力の急激な変化により生じる角感および路面から車体に伝わるビリビリ・ザラザラ感を低減することができる。
弾性ゴム部291は、切欠部351の筒部302側に、最深部355より軸方向の浅い位置まで延びる延出部360を設けたため、製造が容易となる。なお、延出部360を形成せずに、図15に示すように、切欠部351の最深部355から筒部302までを主面部350と平行な底面部365で構成しても、上記と同様、図10,図12〜図14に示す実線x1〜x4の特性を得ることができる。また、図15を例に挙げて弾性ゴム部291の大きさについて説明する。図15に示すaは1.0mm、bは1.9mm、cは1.4mm、dは3.1mmである。図15に示す弾性ゴム部291の主部321の軸方向長さのみを長くしても、減衰力の上昇の傾きや、減衰力特性はほぼ同等であることは実験結果から明らかであった。なお、本発明はこの数寸法、摩擦係数に限定されない。
弾性ゴム部291は、底部固着面328側の拡径部339の内周面339Aの延長面と切欠部351の径方向内側の内側延出面354とが、軸方向に底部固着面328から離れるにしたがい径方向に近づくため、ピストンロッド8で弾性ゴム部291が径方向外方に圧縮された際にも、切欠部351を良好に維持でき、上記の良好な特性を得ることができる。つまり、切欠部351の径方向内側の内側延出面354の角度αが小さくなると内周側の剛性が下がることになり、大きくなると主部321が回転しにくくなる。上記した回転を伴った圧縮でストロークをかせぐためには、角度αを底部固着面328側の拡径部339の内周面339Aの角度βよりも大きくするのが好ましい。
本実施の形態の摩擦部材17が油圧減衰領域に入るまでのストロークは、±0.5mm程度であるが、そのような微振幅時の動バネ定数を向上させることにより、操縦安定性という観点では、ハンドル切り始めの滑らかさや、傾斜路から直線路に入る際のロールのスムーズな収まり、また乗り心地という観点では停車状態から走り出したときの滑らかさ、路面から伝わるビリザラ感の低減、さらにはロードノイズが車内に伝わるのを低減するといった様々な効果をもたらすことが可能となる。高級車においては特に、乗り心地、操縦安定性、車内の静音性は重要視されており、微振幅時、つまり多くは高周波振動時、また微振幅時の減衰力特性改善が車にもたらす効果は絶大である。
上記においては、切欠部351が全周にわたって連続していて円環状に形成される場合を例にとり説明したが、周方向に間隔をあけて断続的に配置されるように部分的に形成されていても良い。この場合、円弧状の切欠部351を三カ所以上等間隔で形成するのが良い。
また、拡径部338,339の内周面338A,339Aは、テーパ状ではなく湾曲面状とすることも可能である。また、摩擦部材17を、上記とは逆に、ベース部292の底部301をシリンダ内外方向外側に向けて設けることも可能である。また、連通路361は、摩擦部材17の軸方向両側の差圧を小さくするものであれば良く、チェック弁を有していても良い。摩擦部材17の内周側に軸方向に延びる連通溝を形成し、連通路361をこの連通溝とピストンロッド8とで形成しても良い。
上記実施形態では、ピストンロッド8のピストン9よりも軸方向の室11側に通路穴55を形成し、この通路穴55に交差するように通路穴56を形成してロッド内通路57を形成した。これに対し、図16に示すように、ピストンロッド8のピストン9の位置に通路穴55を形成し、ピストン9の挿通穴63の大径穴部65にこの通路穴55を連通させる。そして、スペーサ76aに通路溝380を形成し、この通路溝380を介して大径穴部65を通路50aに連通させる。これにより、室11と減衰力可変機構58の室125とを常時連通させる。このように構成すれば、通路穴56の深さを浅くすることができ、通路穴56の加工が容易となる。
また、上記実施形態は、複筒式の油圧緩衝器に本発明を用いた例を示したが、これに限らず、シリンダの外周に外筒を設けないモノチューブ式の油圧緩衝器に用いてもよく、あらゆる緩衝器に用いることができる。また、上記実施形態では、油圧緩衝器を例に示したが、流体として水や空気を用いることもできる。
以上の実施形態の緩衝器は、作動流体が封入されるシリンダと、前記シリンダ内に摺動可能に嵌装され、該シリンダ内を二室に区画するピストンと、前記ピストンに一端が連結されると共に他端が前記シリンダの外部に延出されるピストンロッドと、前記ピストンロッドに摺接して前記作動流体の前記シリンダ外への漏洩を防止するシール部材と、前記ピストンの移動により前記シリンダ内の一方の室から作動流体が流れ出す第1通路および第2通路と、前記第1通路に設けられて減衰力を発生させる第1の減衰力発生機構と、内部に前記第2通路の少なくとも一部の通路が形成されるハウジングと、前記ハウジング内に移動可能に設けられて前記第2通路を上流側と下流側とに画成するフリーピストンと、前記ハウジング内で前記フリーピストンを中立位置に保持するバネ部材と、を備える緩衝器において、前記シール部材より前記シリンダの内部側に設けられ、前記ピストンロッドに摺接する環状の弾性ゴム部と該弾性ゴム部が固着される環状のベース部とからなる摩擦部材と、前記摩擦部材の軸方向両側の差圧を小さくする連通路と、を備える第2の減衰力発生機構を有することを特徴とする。このように摩擦部材と連通路とを有する第2の減衰力発生機構を設けているため、その摩擦部材によって、ピストン速度が微低速であって微振幅入力時のピストンロッドへの作用力の適正化を図ることができる。したがって、良好な減衰力特性を得ることができる。
また、前記ベース部は、有孔円板状の底部と、該底部の外周側から軸方向に延びる筒部とから構成され、前記弾性ゴム部には、内周側に最小内径部と該最小内径部の軸方向両側の拡径部とが設けられ、外周側に前記筒部に固着する筒部固着面が設けられるとともに、前記底部に固着する底部固着面と軸方向反対向きの開放面の前記筒部側に少なくとも部分的に切欠部が形成され、前記切欠部の最深部は、前記最小内径部の軸方向位置より浅いことを特徴とする。よって、切欠部の深さが浅くなる分、ピストンロッドへの圧縮力が高くなって、極低速の領域でピストン速度上昇に対する減衰力上昇の傾きが大きくなる。また、液圧減衰領域に入るまでの間、ピストンロッドの移動で、最も高い圧縮力を発生させる最小内径部をピストンロッドに対して密着させながら、弾性ゴム部に最深部を中心として回転するような変形が生じることになり、よって、ピストンロッドに対して滑らずに、摩擦力を発生させる領域が広くなる。これにより、ピストン速度の上昇に対して滑らかに減衰力が上がるように特性が変化して、油圧減衰力に滑らかに繋がることになって、良好な減衰力特性を得ることができる。
また、加振速度0.05m/sでの最大減衰力値が、10Hz以上の周波数の時に、1Hz以下の周波数の時よりも低く、5Hz付近の周波数の時よりも高いことにより、ピストン速度が微低速であって微振幅入力時に、良好な減衰力特性を得ることができる。
また、上記の緩衝器を、タイヤの剛性(バネ定数)が高くバネ下振動が大きくなって乗り心地が悪化傾向となる、ランフラットタイヤを備えた車体に用いてなることにより、バネ下制振性を向上させる効果が高い。
また、上記の緩衝器を、タイヤの剛性(バネ定数)が高くバネ下振動が大きくなって乗り心地が悪化傾向となる、空気圧が240kPa以上のタイヤを備えた車体に用いてなることにより、バネ下制振性を向上させる効果が高い。
以上、本発明の好ましい実施例を説明したが、本発明はこれら実施例に限定されることはない。本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。本発明は前述した説明によって限定されることはなく、添付のクレームの範囲によってのみ限定される。