図1には、本発明に係る超音波診断装置の好適な実施形態が示されており、図1はその全体構成を示す機能ブロック図である。
プローブ10は、対象組織を含む三次元空間内において超音波を送受波する。プローブ10は、超音波を送受波する複数の振動素子を備えており、複数の振動素子がビームフォーマ12によって送信制御されて送信ビームが形成される。また、複数の振動素子が対象組織から反射された超音波を受波し、これにより得られた信号がビームフォーマ12へ出力され、ビームフォーマ12が受信ビームを形成する。
本実施形態のプローブ10は、超音波ビーム(送信ビームと受信ビーム)を三次元空間内において立体的に走査する3Dプローブである。例えば、一次元的に配列された複数の振動素子(1Dアレイ振動子)によって電子的に形成される走査面を機械的に動かすことにより超音波ビームが立体的に走査される。また、二次元的に配列された複数の振動素子(2Dアレイ振動子)が電子的走査により超音波ビームを立体的に走査してもよい。
ビームフォーマ12は、プローブ10が備える複数の振動素子の各々に対応した送信信号を供給することにより超音波の送信ビームを形成する。また、ビームフォーマ12は、プローブ10が備える複数の振動素子の各々から得られる受信信号に対して整相加算処理などを施すことにより超音波の受信ビームを形成し、受信ビームに沿って得られるエコーデータを出力する。本実施形態において、ビームフォーマ12は、対象組織を通る基準ビームを形成する。対象組織は、周期的に運動する組織であり、例えば胎児の心臓などである。
図2は、基準ビームBsを説明するための図であり、対象組織である胎児の心臓32を含む三次元空間30内に形成された基準ビームBsを示している。一般に診断の対象となる組織はプローブ10が超音波の送受波を行う三次元空間30内の中央付近に配置される。図2において、胎児の心臓32は、三次元空間30内のほぼ中心に位置している。基準ビームBsは、胎児の心臓32を透過するように、例えば三次元空間30の中央に形成される。また、例えば、胎児の心臓32を含んだBモード画像が表示され、そのBモード画像を確認しながらユーザ(検査者)が所望の位置に基準ビームBsを設定してもよい。
図1に戻り、基準ビームが設定されると、基準ビームから得られるエコーデータがビームフォーマ12から同期信号生成部16へ出力される。同期信号生成部16は、基準ビームから得られるエコーデータに基づいて、胎児の心臓の心拍に対応した同期信号を生成する。
図3は、同期信号の生成処理を説明するための図である。基準ビームの位置を固定しつつ胎児の心臓から得られるエコーの大きさ(輝度)の時間変化を計測すると、例えば図3(A)に示すようなMモード画像に対応したデータが得られる。つまり、縦軸を深さとして横軸を時間軸とする胎児の輝度に関するデータが得られ、胎児の心臓内壁や心臓外壁の深さの時間変化の様子が確認される。
同期信号生成部16(図1)は、Mモード画像のデータに対して平滑化フィルタなどを利用して心臓内壁や心臓外壁の微視的な変動成分を除去する。そして、Mモード画像内の最大輝度値と最小輝度値に基づいて閾値を算出する。閾値は、例えば(最大輝度値−最小輝度値)×4/5に設定される。同期信号生成部16は、設定された閾値を利用してMモード画像に二値化処理を施す。つまり、閾値以上の(または閾値よりも大きい)輝度値のみを抽出することにより、図3(B)に示すような二値化画像を形成する。
Mモード画像内においては、心臓外壁(横隔膜の部分が含まれてもよい)の輝度値が比較的大きい。そのため、閾値によって比較的大きな輝度値のみを抽出することにより、図3(B)に示すように、心臓外壁の深さの時間変化の様子を示す波形が抽出される。
同期信号生成部16は、抽出された心臓外壁の波形から深さの極小値を検出する。つまり、図3(B)の二値化画像に含まれる心臓外壁の波形の傾きを時間軸方向に沿って確認し、傾きが正から負に変化する時刻(図の上向きから下向きに波形の傾きが変化する時刻)を次々に検出する。これにより、図3(B)において、破線の矢印で示される時刻において深さの極小値が次々に検出される。そして、同期信号生成部16は、次々に検出される極小値の時刻に対応した複数のパルスからなる図3(C)の同期信号を形成する。
心臓外壁の波形についての深さの極小値の時刻は心臓の拡張末期に対応するため、図3(C)の同期信号に含まれる各パルスのタイミングから、胎児の心臓の拡張末期が特定される。このように、例えば、基準ビームを利用して得られるMモード画像のデータから、胎児の心臓の心電情報(拡張末期時点)を特定することが可能になる。なお、Mモード画像以外のデータを利用してもよい。
図4は、ドプラ信号から同期信号を生成する処理を説明するための図である。基準ビームの位置を固定し、胎児の心臓内にドプラゲートを設定して得られる血流に関するドプラ情報の時間変化を計測すると、例えば図4(A)に示すようなドプラ信号が得られる。つまり、縦軸をドプラ信号の大きさ(血流の速さに対応)として横軸を時間軸とする心臓内の血流に関するドプラ信号が得られ、胎児の心臓内における血流の時間変化の様子が確認される。
図4(A)に示すようなドプラ信号の波形に対して、例えば平滑化フィルタなどを利用して微視的な変動成分を除去する。そして、ドプラ信号の最大値と最小値に基づいて閾値を算出する。閾値は、例えば(最大値−最小値)/5に設定される。さらに、設定された閾値を利用して二値化処理を施してからドプラ波形の谷間の部分に谷埋め処理を施すことにより、図4(B)に示すような谷埋め処理後のドプラ信号波形が得られる。
そして、図4(B)に示す谷埋め処理後のドプラ信号波形から極大値を検出する。つまり、谷埋め処理後のドプラ信号波形の傾きを時間軸方向に沿って確認し、傾きが正から負に変化する時刻(図の上向きから下向きに波形の傾きが変化する時刻)を次々に検出する。こうして、次々に検出される極大値の時刻に対応した複数のパルスからなる図4(C)の同期信号が形成される。このように、例えば、基準ビームを利用して得られるドプラ信号から、胎児の心臓の心電情報を得るようにしてもよい。
図1に戻り、同期信号生成部16において胎児の心拍に関する同期信号が形成されると、その同期信号から得られる心拍の周期に基づいて、走査制御部14によって超音波ビームの走査制御が行われる。走査制御部14は、ビームフォーマ12を制御することにより、同期信号に基づいて確認される周期運動の各周期ごとに超音波ビームの走査面を形成し、複数周期に亘って走査面を段階的に移動させて、三次元空間内において複数の走査面を形成する。
図5は、走査面の傾きを変化させるプローブ10を説明するための図である。図5に示すプローブ10は、例えば、データ取得位置1において電子的に超音波ビームを走査して走査面を形成し、次に、データ取得位置2において電子的に超音波ビームを走査して走査面を形成する。さらに、データ取得位置を段階的にずらしつつ走査面を形成することにより、データ取得位置nまでの各位置において走査面が形成される。データ取得位置の段階的な移動は、電子的に行われてもよいし機械的に行われてもよい。
また、プローブ10は、データ取得位置1〜nまでの複数の走査面の形成と並行して基準ビームBsも形成する。例えば、複数の走査面を形成する期間内において、一定の時間間隔で基準ビームBsが形成される。
図6は、走査面を回転させるプローブ10を説明するための図である。図6に示すプローブ10は、データ取得位置を段階的に回転移動させつつ走査面を形成することにより、データ取得位置1〜nまでの各位置(回転角度)において走査面を形成する。データ取得位置の段階的な回転移動は、電子的に行われてもよいし機械的に行われてもよい。なお、データ取得位置は、基準ビームBsを中心軸として回転移動される。そのため、各データ取得位置において常に基準ビームBsが走査面内に含まれることになり、走査面を形成する複数の超音波ビームのうちの一つを基準ビームBsとして利用することが可能になる。
図7は、経食道用プローブ10´を説明するための図である。図6に示すプローブ10と同様に、図7に示す経食道用プローブ10´は、基準ビームBsを中心軸としてデータ取得位置を段階的に回転移動させつつ走査面を形成することにより、データ取得位置1〜nまでの各位置(回転角度)において走査面を形成する。このように、本実施形態の超音波診断装置は、経食道などから対象組織にアプローチする診断に利用することも可能である。
図1に戻り、走査制御部14の走査制御により、胎児の心拍の各周期ごとに超音波ビームの走査面が形成されると、各走査面ごとに、つまり各データ取得位置ごとに、複数の時相(時相T1〜Tm)の各時相に対応した断層画像データが収集される。収集される断層画像データは次々に前メモリ18に記憶される。
再構築処理部20は、前メモリ18に記憶された複数の断層画像データのうち、複数のデータ取得位置から同じ時相に対応した複数の断層画像データを抽出し、各時相ごとに複数の断層画像データからなるデータブロックに纏めて(再構築して)、後メモリ22に記憶する。
図8は、再構築処理部による処理を説明するための図であり、図8には、前メモリ18に記憶されるデータと、後メモリ22に記憶されるデータの対応関係が示されている。図8において、「データ取得位置n,断層画像Tm」は、データ取得位置nにおける時相Tmの断層画像データを意味している。
前メモリ18には、各データ取得位置ごとに、複数の時相(時相T1〜Tm)に対応した断層画像データが記憶される。例えば、データ取得位置1における時相T1〜Tmまでの断層画像データが一つのデータブロックとなって前メモリ18内に記憶されている。同様に、前メモリ18内には、データ取得位置2からデータ取得位置nまでの各データ取得位置ごとに、時相T1〜Tmまでの断層画像データがデータブロックとなって記憶されている。
再構築処理部20(図1)は、複数のデータ取得位置1〜nの各々から、同一の時相に対応する断層画像データを抽出し、その時相に関するデータブロックを構築して、後メモリ22に記憶する。その結果、例えば、データ取得位置1〜nにおける時相T1の断層画像データが一つのデータブロックとなって後メモリ22内に記憶され、同様に、時相T2から時相Tmまでの各時相を単位とするデータブロックが後メモリ22内に形成される。
なお、前メモリ18を経由せずに直接的に、後メモリ22に対して図8に示すデータ配列どおりに断層画像データを次々に記憶させてもよい。
図1に戻り、表示画像処理部24は、後メモリ22に記憶された再構築後の複数の断層画像データに基づいて、胎児の心臓を立体的に映し出す三次元画像データを形成する。表示画像処理部24は、後メモリ22に記憶されたデータ取得位置1〜nにおける時相T1の断層画像データに基づいて時相T1の三次元画像データを形成する。また、データ取得位置1〜nにおける時相T2の断層画像データに基づいて時相T2の三次元画像データが形成され、同様に、時相Tmまでの各時相ごとに三次元画像データが形成される。
表示画像処理部24は、各時相ごとに形成された三次元画像データに基づいて表示画像データを形成し、形成された表示画像データに対応した表示画像が表示部26に表示される。これにより、時相T1〜Tmの三次元画像データの各々に対応した表示画像が次々に表示部26に表示され、擬似的にリアルタイムの三次元動画像が表示される。なお、三次元画像処理としては、ボリュームレンダリング法や積算法や投影法などの各種の手法を適用することが可能である。
図9は、本発明に係る機械式プローブの好適な実施形態を説明するための図である。図9に示す機械式プローブは、2つの可動振動子112,114と固定振動子120を備えている。
2つの可動振動子112,114は、対象組織(例えば胎児の心臓など)を含む三次元空間内で走査される超音波ビームを形成するための走査用振動子である。一方、固定振動子120は、対象組織に対して基準ビームBs(図2参照)を形成するための基準用振動子である。
可動振動子112,114は、各々、1次元的に配列された複数の振動素子を備えている。そして、複数の振動素子が電子的に制御されて超音波ビーム(送信ビームと受信ビーム)が形成され、さらに、形成された超音波ビームが電子的に走査制御される。この電子的な走査制御により、可動振動子112を介して一点鎖線で示す走査面S1が形成され、可動振動子114を介して破線で示す走査面S2が形成される。走査面S1と走査面S2は、図9のように互いに重なり合う領域を含んでもよいし、重なり合わなくてもよい。
さらに、可動振動子112,114は、回転軸130を軸として機械的に揺動される。回転軸130は、例えば、モータ等の駆動系からギアやベルト等の伝達系を介して得られる駆動力に応じて回転して可動振動子112,114を揺動する。
固定振動子120は、1つの振動素子あるいは少数の振動素子を備えており、1つ又は少数の振動素子を利用して基準ビームBsが形成される。固定振動子120は、2つの可動振動子112,114の間隙に固定的に配置され、走査面S1と走査面S2の間を通るように基準ビームBsが形成される。
図10は、可動振動子112,114の機械的な揺動を説明するための図であり、図10には、図9に示した2つの可動振動子112,114と固定振動子120と回転軸130の配置関係が斜視図により示されている。
可動振動子112,114は、回転軸130を軸として機械的に揺動され、可動振動子112,114の各々の振動子面が、円弧状の機械走査方向Dに沿って所定の走査範囲内で往復移動する。電子的走査と機械的走査の組み合わせにより、可動振動子112,114を介して、三次元空間内からエコーデータが三次元的に収集される。
一方、固定振動子120は、回転軸130によって揺動されず、例えばプローブの筐体(ケース)に対して相対的に固定される。なお、固定振動子120の振動子面を機械走査方向Dに沿って動かして位置を調整する機構を設けて、位置を調整した後にその位置において固定的に基準ビームを形成するようにしてもよい。また、固定振動子120が機械走査方向Dに沿って1次元的に配列された複数の振動素子を備えて、これら複数の振動素子のうちの少なくとも1つを選択的に利用して所望の方向に基準ビームを形成するようにしてもよい。
図9および図10を利用して説明した機械式プローブ(メカニカル3Dスキャナ)により、図3から図5および図8を利用して説明した三次元画像データの形成方法(方法1)を実現することができる。その方法1においては、同期信号生成部16(図1)において胎児の心拍に関する同期信号が形成され、その同期信号から得られる心拍の周期に基づいて、走査制御部14(図1)によって超音波ビームの走査制御が行われている。この方法1に換えて、次のような方法2を利用してもよい。
方法2においては、図9の機械式プローブにより可動振動子112,114を低速で機械走査させてエコーデータ(複数の断層画像データ)を収集して前メモリ18(図1)に記憶させつつ、固定振動子120を介して得られる基準ビームのエコーデータも前メモリ18に記憶させる。その記憶の際に、各断層画像データとその断層画像データが得られたタイミングにおける基準ビームのエコーデータとを互いに対応付けておく。そして、前メモリ18に記憶された基準ビームのエコーデータに基づいて、同期信号生成部16(図1)において同期信号が形成され、その同期信号に基づいて、再構築処理部20(図1)が複数の断層画像データの並べ替え(図8参照)を行い三次元画像データが形成される。
以上、本発明の好適な実施形態を説明したが、上述した実施形態は、あらゆる点で単なる例示にすぎず、本発明の範囲を限定するものではない。本発明は、その本質を逸脱しない範囲で各種の変形形態を包含する。例えば、以下に説明する内容も本発明の好適な態様である。
(態様1)周期運動する対象組織を含む三次元空間内で超音波を送受波するプローブと、プローブを制御することにより超音波ビームを形成するビーム形成部と、基準となる超音波ビームを介して得られる対象組織の周期運動を反映させた組織信号に基づいて、周期運動に対応した同期信号を生成する同期信号生成部と、ビーム形成部を制御することにより、前記同期信号に基づいて確認される周期運動の各周期ごとに超音波ビームの走査面を形成し、複数周期に亘って走査面を段階的に移動させて前記三次元空間内において複数の走査面を形成する走査制御部と、複数の走査面の各々に対応した断層画像データからなる複数の断層画像データに基づいて、対象組織の三次元画像データを形成する画像形成部と、を有する、ことを特徴とする超音波診断装置。
(態様2)態様1に記載の超音波診断装置において、前記同期信号生成部は、組織信号の波形から極値を検出して極値のタイミングに同期させた同期信号を生成する、ことを特徴とする超音波診断装置。
(態様3)態様2に記載の超音波診断装置において、前記同期信号生成部は、基準となる超音波ビームを介して得られるMモード画像から対象組織の形態の時間的な変化を示す組織信号を抽出する、ことを特徴とする超音波診断装置。
(態様4)態様2に記載の超音波診断装置において、前記同期信号生成部は、基準となる超音波ビームを介して対象組織から得られるドプラ信号を組織信号として利用する、ことを特徴とする超音波診断装置。
(態様5)態様1から4のいずれかに記載の超音波診断装置において、前記走査制御部は、基準となる超音波ビームを中心軸として複数周期に亘って走査面を段階的に回転移動させて複数の走査面を形成する、ことを特徴とする超音波診断装置。
(態様6)周期運動する対象組織を含む三次元空間内で走査される超音波ビームを形成するための走査用振動子と、前記対象組織に対して基準となる超音波ビームを形成するための基準用振動子と、を有し、前記走査用振動子を介して、三次元空間内からエコーデータが収集され、前記基準用振動子を介して、対象組織の周期運動を反映させた組織信号が得られる、ことを特徴とするプローブ。
(態様7)態様6に記載のプローブにおいて、前記走査用振動子は、1次元的に配列された複数の振動素子からなる1次元アレイ部を備え、前記1次元アレイ部が機械的に揺動される、ことを特徴とするプローブ。
(態様8)態様7に記載のプローブにおいて、前記走査用振動子は、前記1次元アレイ部を2つ備え、前記基準用振動子は、揺動される2つの1次元アレイ部の間隙に固定的に配置される、ことを特徴とするプローブ。