以下、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
(第1実施形態)
図1は本発明の第1実施形態のエンジンの冷却装置2の概略構成図である。図1においてエンジン1を出た80〜90℃程度の冷却水は、ラジエータ3を通る冷却水通路4と、ラジエータ3をバイパスするバイパス冷却水通路5とに別れて流れる。その後、2つの流れは、両通路4、5を流れる冷却水流量の配分を決めるサーモスタットバルブ6で再び合流し、さらにウォータポンプ7を経てエンジン1に戻る。サーモスタットバルブ6は、冷却水温度に応じてラジエータ3に供給される冷却水流量を制御する三方弁であって、バルブ本体6a、2つの入口ポート6b、6c及び1つの出口ポート6dを有している。2つの入口ポート6b、6cには、ラジエータ3を通る冷却水通路4とラジエータ3をバイパスする冷却水通路5とが接続され、サーモスタットバルブ6により、冷却水温度に応じてラジエータ3に供給される冷却水流量が増減されて冷却水温度が適正に保持される。
例えば、エンジン冷間始動時のようにサーモスタットバルブ6を流れる冷却水の温度が所定値未満ではエンジン1を暖めることがエンジン1の効率を良くする。このため、エンジン冷間始動時にはバルブ本体6aで入口ポート6bを遮断してラジエータ3に冷却水を流さず、入口ポート6cと出口ポート6dを連通してバイパス冷却水通路5に冷却水を流し、これによってエンジン1が冷却されないようにする。一方、高負荷時のようにサーモスタットバルブ6を流れる冷却水の温度が所定値以上となる高温域では、ノッキングの回避が必要となる。このため、高負荷時にはバルブ本体6aで入口ポート6bを開放して入口ポート6bと出口ポート6dを連通する。これによってラジエータ3に冷却水を流し、ラジエータ3で冷却された冷却水をエンジン1に供給してエンジン1を冷却する。
以下、サーモスタットバルブ6が開弁状態となる温度を「開弁温度」という。サーモスタットバルブ6は、通常、冷却水温度がある温度範囲内にあるとき、冷却水温度の上昇に伴い開度(ラジエータ側に流れる量)が徐々に増加し全開状態に到るようになっている。以下、開弁温度は、開き始めの温度や、全開になる温度、あるいは、これらの平均値等の、代表温度を意味するものとする。
図2はエンジン1の概略斜視図、図3は図2に示した直列型のエンジン1の長手方向に直交する面で切断したエンジン1の縦断面図である。なお、図2ではシリンダヘッドを省略している。図3を用いてエンジン1の概略を先に説明すると、エンジン1は、シリンダブロック11、シリンダブロック11の上部に位置するシリンダヘッド61、シリンダブロック11の下部に位置するオイルパン(31、51)から構成されている。
アルミダイカスト部材で形成されるシリンダブロック11は、ほぼ直方体状のシリンダボア部12とスカート部15とで構成される。シリンダボア部12には、上下方向に貫通するシリンダ13がエンジン1の長手方向に一列に並んで穿設され、各シリンダ13の周囲にはウォータジャケット14が形成されている。シリンダボア部12の下方に形成されるスカート部15が下方に向けて開口する。
オイルパンは、相対的に上方に位置するアッパーオイルパン31と、相対的に下方に位置するロアオイルパン51とで構成される。アルミ合金部材で形成されるアッパーオイルパン31とシリンダブロック11とはボルト(図示しない)によって締結され、アッパーオイルパン31とシリンダブロック11のスカート部15とでクランクシャフトを収納するクランク室32が形成されている。クランク室32の内部には、シリンダ13を摺動するピストンとコンロッドを介して連結されるクランクシャフト(図示しない)が収納される。シリンダブロック11には、クランクシャフトの軸受け部が設けられる。例えばエンジン長手方向に複数のメインベアリングキャップが下方から固定され、このメインベアリングキャップに半割状のメインベアリング(ロア)が収納されている。一方、メインベアリングの取り付け位置に対向するシリンダブロック下面にも半割状のメインベアリング(アッパー)が収納され、これら一対の半割状メインベアリングによってクランクシャフトが複数箇所で回転支持されている。
ロアオイルパン51はアッパーオイルパン31とボルト(図示しない)によって締結される。アッパーオイルパン31は、ロアオイルパン51を取り付けるフランジ部として働くだけでなく、シリンダブロック11全体の曲げ、ねじり剛性を高めるのに役立っている。ロアオイルパン51は高分子化合物部材のみで浅皿状に形成され、ここに潤滑油が貯溜する。この潤滑油はオイルポンプ(図示しない)により、上記一対の半割状メインベアリングなどの潤滑各部に供給することで、エンジン内部の軸受け部に焼付きが生じることを防止している。上記のオイルポンプはクランクシャフトによって駆動される。上記のウォータポンプ7もクランクシャフトによって駆動される。
アルミ合金部材で形成されるシリンダヘッド61とシリンダブロック11とは、シリンダヘッドガスケット(図示しない)を介して接合され、ボルト(図示しない)によって締結される。シリンダヘッド61には、燃焼室62、吸気ポート63、排気ポート64、ウォータジャケット65などが形成されている。このウォータジャケット65と、シリンダボア部12に設ける上記のウォータジャケット14とは連通しており、エンジン1の冷却水通路の一部を構成している。
さて、エンジン1の軽量化の取り組みとしては、鋳鉄製のシリンダブロックに代えて、別体の鋳鉄ライナを鋳包むか、ライナを圧入したアルミ合金部材のシリンダブロックとするものやアルミ合金部材のアッパーオイルパンとするものが出現している。しかしながら、エンジン1を搭載する車両の操縦を将来的に安定よく行わせるためには車両全体を軽量化することであり、車両の軽量化に追従できるエンジン1の軽量化が必要である。この点でシリンダブロック11やアッパーオイルパン31をアルミダイカスト部材やアルミ合金部材で形成しただけではまだ不十分である。
そこで本発明の第1実施形態では、シリンダヘッド11及びアッパーオイルパン31のアルミダイカスト部材やアルミ合金部分の一部を、内部に高分子化合物部材を収納し外部をアルミ合金部材で被覆した構造体(22、41)で置き換える。これについて図3を用いて説明すると、シリンダブロック11のアルミダイカスト部分の一部をシリンダブロック構造体22で、アッパーオイルパン31のアルミ合金部分の一部をアッパーオイルパン構造体41で置き換える。すなわち、シリンダブロック11を円筒状の内側部分21とその外周に位置する外側部分とに大きく分けるとすれば、外側部分をシリンダブロック構造体22で置き換えている。ここで、シリンダブロック構造体22の範囲を一点鎖線で囲って示している。この場合、シリンダブロック11のアルミダイカスト部分の一部をシリンダブロック構造体22によって置き換えてもシリンダブロック11全体としての剛性が著しく低下しないように(つまり許容範囲の剛性低下で収まるように)する。
シリンダブロック構造体22は中空金属部材23と高分子化合物部材24とで構成する。中空金属部材23は、シリンダ13より遠い側の外周部材23aと、シリンダ13に近い側の内周部材23bと、これらを接続する部材(図示しない)とから構成し、全体を例えばアルミダイカスト部材で形成する。内周部材23bもアルミダイカスト部材であるので、実際にはシリンダブロック11の内側部分21と内周部材23bの境界はなく、シリンダブロック11の内側部分21と内周部材23bとは一体である。
同様に、アッパーオイルパン31のアルミ合金部分の一部をアッパーオイルパン構造体41で置き換える。ここで、アッパーオイルパン構造体41の範囲を二点鎖線で囲って示している。この場合、アッパーオイルタンク31のアルミ合金部分の一部をアッパーオイルタンク構造体41によって置き換えてもアッパーオイルタンク31全体としての剛性が著しく低下しないように(つまり許容範囲の剛性低下で収まるように)する。
アッパーオイルパン構造体41は中空金属部材42と高分子化合物部材43とで構成する。中空金属部材42は、クランク室32より遠い側の外周部材42aと、クランク室32に近い側の内周部材42bと、これらを接続する部材(図示しない)とから構成し、全体を例えばアルミ合金部材で形成する。
図3では、シリンダブロック構造体22の中空金属部材22とアッパーオイルパン構造体41の中空金属部材42とを別体で示しているが、両者を一体に設けるものであってよい。
上記一方の中空金属部材23の内部には高分子化合物部材24を、上記他方の中空金属部材42の内部には高分子化合物部材43をそれぞれ収納する。高分子化合物部材24、43としては、軽くて断熱性に優れる発泡樹脂が望ましい。ここで、発泡樹脂とは、内部に細かな泡を無数に含む合成樹脂をいう。なお、発泡樹脂に限定されるものでなく、金属材料(アルミダイカスト部材やアルミ合金部材)より軽い高分子化合物材料であればかまわない。
これによって、シリンダブロック11の全体としてみれば、アルミダイカスト部材で形成されていた金属部分の一部が高分子化合物部材24で置き換わったことになる。高分子化合物部材24とアルミダイカスト部材とを比較すれば、比重は高分子化合物部材24のほうが小さいので、両者の比重差に高分子化合物部材24の体積を乗算した分だけシリンダブロック11が軽量化されることとなる。同様に、アッパーオイルパン31の全体としてみれば、アルミ合金部材で形成されていた金属部分の一部が高分子化合物部材43で置き換わったことになる。高分子化合物部材43とアルミ合金部材とを比較すれば、比重は高分子化合物部材43のほうが小さいので、両者の比重差に高分子化合物部材43の体積を乗算した分だけアッパーオイルパン31が軽量化されることとなる。
図3では、シリンダ13の周囲にシリンダブロック構造体22を設けているが、シリンダブロック構造体22を設ける部位はシリンダ13の周囲に限られるものでない。シリンダブロック構造体22の数や形状、シリンダブロック構造体22を設ける位置は任意である。例えば、シリンダブロック構造体22を特定のシリンダについてだけ設けてもよいし、シリンダ13毎に設けてもよい。シリンダ13毎に設けたシリンダブロック構造体をつないだ一体の形状としてもよい。同様に、アッパーオイルパン構造体41の数や形状、アッパーオイルパン構造体41を設ける位置も任意である。例えば、アッパーオイルパン構造体41をアッパーオイルパン31の特定の部位にだけ設けてもよいし、アッパーオイルパン31の広い範囲にわたって設けてもよい。エンジン1の長手方向の両側面にアッパーオイルパン構造体41を設けるだけでなく、一方の側面にだけ設けてもよい。
一方、高分子化合物部材24、43を収納した中空金属部材23、42でシリンダブロック11やアッパーオイルパン31のアルミダイカスト部分やアルミ合金部分の一部を置き換えることは、熱の授受の面からは不利となる場合がある。すなわち、高負荷時のようにエンジンが盛んに熱を発生して高温になるときには、それに応じて大量の熱をシリンダブロック構造体22及びアッパーオイルパン構造体41から外気に放出することが望ましい。このとき、構造体22、41内部の高分子化合物部材24、43が断熱部材として働いたのでは、特にエンジンの高負荷時にエンジン1を冷やし切れないこととなる。このとき、冷却水温及び油温がシリンダブロック構造体22及びアッパーオイルパン構造体41を設けていない場合より高くなり、エンジン内部の軸受け部に焼付きが生じるなどの問題が生じてしまう。
そこで本実施形態では、エンジン1の熱が外気に奪われないようにする断熱性とエンジン1から外気に熱を放出する放熱性とのバランスをとるため、中空金属部材23、42の外周部材23a、42aと高分子化合物部材24、43とを繋ぐように伝熱部材101を配置する。すなわち、シリンダブロック構造体22では中空金属部材23の外周部材23aと高分子化合物部材24とを繋ぐように複数の伝熱部材101を配置する。同様に、アッパーオイルパン構造体41では中空金属部材42の外周部材42aと高分子化合物部材43とを繋ぐように複数の伝熱部材101を配置する。伝熱部材101の一端は構造体22、41の外面からエンジン外部に突出(露出)させる。これは、特にエンジン高負荷時に伝熱部材101を介してのエンジンからの放熱性能を高めるためである。なお、図3では各伝熱部材101の内部の状態は示していない。
ここで、伝熱部材101の伝熱特性は、伝熱部材101自体の温度により伝熱部材101自体の温度が高くなるほど熱を伝え易くなるよう変化するものである。詳細には2つの構造体22、41に配置する各伝熱部材101は、図4Aにも示したように中空金属部材102にパラフィンワックスなどの蓄熱材103(媒体)を封入することによって構成されている。このため、伝熱部材101自体の温度により中空金属部材102内での蓄熱材103の移動の容易さが変化することによって、伝熱部材101の伝熱特性が変化する。
具体的には、蓄熱材103は、蓄熱材103の融点である所定温度以下のとき固体であり、所定温度を超えるとき相変化して液体となる。つまり、蓄熱材103が固体の状態では、中空金属部材102内で移動しにくくなる(蓄熱材103の移動量が相対的に減る)。蓄熱材103の移動量が減ると熱移動量も減る。一方、蓄熱材103が液体の状態になると、中空金属部材102内で移動し易くなる(蓄熱材103の移動量が相対的に増加する)。蓄熱材103の移動量が増加するほど熱移動量が大きくなる。
なお、伝熱部材101の中空金属部材102の材質は、シリンダブロック11やアッパーオイルパン31の各本体を構成するアルミダイカスト部材やアルミ合金部材より熱伝導性がよいもの(例えば錫)が好ましい。
ここで、シリンダブロック構造体22に配置している伝熱部材101で代表させて、伝熱部材101による放熱と断熱の切換の仕組みを図4Aを用いて説明する。なお、シリンダブロック構造体22に配置している各伝熱部材101と、アッパーオイルパン構造体41に配置している各伝熱部材101とで伝熱部材101の働きは同様である。
図4Aは、3つの異なる状態(図4Aの上よりエンジンを暖機している状態、エンジンを高負荷で運転している状態、エンジンを搭載する車両を停止している状態)で伝熱部材101に収納されている蓄熱材103がどのように状態を変化させるのかを示している。図4Aでは上下方向が鉛直方向であり、伝熱部材101の全体形状は水平方向に長いカプセル状であるとし、中空金属部材23の外周部材23aと高分子化合物部材24とを繋ぐように伝熱部材101が配置されている。さらに、伝熱部材101の一端(図4Aで左端)がシリンダブロック構造体22の外面22aから外気に突出しているものとする。
まず、図4A上段に示す(a)は冷間状態でエンジンの始動を行って暖機している状態を示している。暖機途中のエンジンの冷却水は例えば約60℃である。このとき、蓄熱材103の温度は蓄熱材103の融点(所定温度)より低いため、全て固体となって鉛直下方に存在し、鉛直上方には気体が存在する領域(気体ゾーン)が形成されている。このとき、固体の蓄熱材103を介して熱が移動する(熱伝導)ため、固体の蓄熱材103は伝熱部分として機能する。その一方で、気体ゾーンでは気体が自然対流することで熱を移動する(熱伝達)が、その熱移動量はわずかであるため、気体ゾーンは熱が伝わらない断熱部分として機能する。従って、固体の蓄熱材103を介しての熱の移動よりも気体ゾーンによる断熱のほうが優勢となるように蓄熱材103の種類や体積を定めてやれば、伝熱部材101全体としては、伝熱部材101が断熱部材として機能する。エンジンの暖機途中にはエンジンから熱がエンジンの外部に逃げないようにする必要があるところ、伝熱部材101が断熱部材として機能するので、エンジンの発生する熱を高分子化合物部材24から外気に逃すことが防止されることとなる。
次に、図4A中段に示す(b)はエンジンを高負荷で運転している状態を示している。エンジンを高負荷で運転し高温の熱が発生しているときにはエンジンの冷却水は例えば約110℃まで上昇する。このときの高温の熱は高分子化合物部材24に蓄えられる。このとき、高分子化合物部材24が蓄える熱を受けて蓄熱材103の温度が融点(所定温度)を超えて上昇するため蓄熱材103の全てが固体から液体へと相変化する。このとき、蓄熱材103は融解熱として周囲から熱を奪う。さらに、液体となった蓄熱材103を介してエンジンの発生する熱が高分子化合物部材24から外気へと逃される(放熱)。この場合、固体から液体に相変化するときの溶解熱は、液体から気体に相変化するときの気化熱よりも小さく、かつ液体の移動は気体ほど容易でない。従って、液体が内部(高分子化合物部材24で囲まれた位置)から外部(外気に接する位置)まで移動しなければ、高分子化合物部材24から外気への熱の移動量も限られたものとなる。しかしながら、都合の良いことにエンジンは爆発圧力や慣性力に起因する加振源を有するので、クランクシャフトの回転に伴い周期的に振動する。すなわち、エンジンの振動を受けて液体となった蓄熱材103が加振される。この加振によって、液体となった蓄熱材103が内部(高分子化合物部材24で囲まれた位置)から外部(外気に接する位置)へ(図4Aでは左方向に)あるいは外部から内部へ(図4Aでは右方向)と容易に移動する。液体となった蓄熱材103の内部から外部への移動によって高分子化合物部材24の熱が外気へと運ばれ、熱を放出した液体の蓄熱材103が今度は外部から内部へと戻されるのである。これは、液体の蓄熱材103の流れによって熱が移動するので、熱伝達である。熱伝達では、高分子化合物部材24の温度と外気の温度との温度差に比例して熱が移動するため、液体の蓄熱材103の移動量が大きくなれば、その分、熱移動量が大きくなる。こうした液体の蓄熱材103の対流(移動)によって熱移動が活発に行われることから、伝熱部材101が放熱部材として機能し、高分子化合物部材24から外気への放熱が促進されることとなる。
図4A下段に示す(c)はエンジンを搭載している車両が停止した状態にあることを示している。停車中に一時的にエンジンを停止するアイドルストップが行われると、エンジンの温度が低下してゆき、エンジンの冷却水が例えば約90℃まで低下したとする。これに合わせて高分子化合物部材24の温度が低下するので、蓄熱材103の温度も低下し、蓄熱材103は再び液体から固体へとその全てが相変化し、鉛直上方に気体が存在する領域(気体ゾーン)を形成する。つまり、伝熱部材101は図4A上段に示す(a)と同様の状態となる。停車中には高分子化合物部材24から熱がエンジンの外部に逃げないようにする必要があるところ、伝熱部材101が断熱部材として機能する。これによって、高分子化合物部材24が蓄えている熱を高分子化合物部材24から外気に逃すことが防止され、エンジンが保温される。
アッパーオイルパン構造体41に設けている伝熱部材101の蓄熱材についても図示しないが、図4Aと同様に働くこととなる。
このように、軽量化のための高分子化合物部材の置き換えによってエンジンの放熱性が低下することを考慮し、放熱と断熱とを切換可能な機能を有する伝熱部材101を配置することによって熱交換可能な構造体22、41を構成する。熱交換可能な構造体22、41とすることで、特にエンジンの高負荷状態での放熱性が良くなるようにしているわけである。これによって、軽量化したからといってエンジンの冷間始動から高負荷状態までのエンジンの冷却性能及び潤滑性能に不都合が出ることはないので、従来のウォータポンプ及びオイルポンプをそのまま用いることができる。
さて、蓄熱材103はその融点未満の温度域で固体へと相変化し、その融点以上の温度域で液体へと相変化するのであるから、図4Aに示したエンジンの各運転状態に応じて最適に相変化するように蓄熱材103の融点(所定温度)を定める必要がある。
まず、融点の下限をどのように設定すればよいかを考える。上記サーモスタットバルブ6の開弁温度は60℃〜80℃である。つまり、サーモスタット6は冷却水通路を流れる冷却水が60℃付近で開き始め、80℃になると全開状態となる。このサーモスタットバルブ6の開弁温度を所定の切換温度として、蓄熱材103の融点の下限をこの開弁温度以下となるように、好ましくは開弁温度のうちの最低値である60℃となるように設定する。
この理由は次の通りである。すなわち、サーモスタットバルブ6の開弁温度のうちの最低値である60℃以下の温度域では、冷間状態でエンジンを始動した直後のエンジンの早期暖機のため、ラジエータ3をバイパスして冷却水を流している。この場合、蓄熱材103の融点を開弁温度のうちの最低値である60℃未満に設定していると、サーモスタットバルブ6が全閉状態となる温度域であっても蓄熱材103が液体へと相変化する。液体となった蓄熱材103が上記のようにエンジンの加振を受けて内部と外部との間を対流して熱を外気に逃す。サーモスタットバルブ6が全閉状態となる温度域では、エンジンを早期に暖機しなければならないのに、液体の蓄熱材103の対流によって熱移動が活発に行われ高分子化合物部材24が蓄えている熱を外部に盛んに逃すこととなり、エンジンの暖機完了までの時間を長引かせてしまう。そこで、エンジンを暖機している間は蓄熱材103が液体となって熱が高分子化合物部材24、43から外気に放出されないように、蓄熱材103の融点の下限がサーモスタット6の開弁温度のうちの最低値である60℃以上となるように設定するのである。
次に、融点の上限をどのように設定すればよいかを考える。エンジンが高温となって冷却水通路を流れる冷却水が蒸発してしまうと、エンジンがオーバーヒートしてしまうので、冷却水通路を流れる冷却水の沸点が110℃〜130℃となるように管理している。ここで、110℃が冷却水の劣化が生じ得ない許容値の限界であり、110℃を超えると冷却水の劣化が生じ得る。この冷却水の劣化を考慮して、蓄熱材103の融点の上限をこの冷却水の沸点以下となるように、好ましくは冷却水の沸点のうちの最低値である110℃となるように設定する。
この理由は次の通りである。すなわち、蓄熱材103の融点を冷却水通路を流れる冷却水の沸点のうちの最低値である110℃を超える温度に設定していると、冷却水の劣化が生じ得る温度域であっても蓄熱材103は固体の状態にとどまるので、伝熱部材101が断熱部材として機能する。冷却水の劣化が生じ得る温度域では、本来、エンジンを急速に冷やさなければならないのに、蓄熱材103が固体の状態にとどまり、伝熱部材101が断熱部材として機能したのではエンジンをかえって断熱し冷却水の劣化を生じさせてしまう。そこで、冷却水の劣化が生じ得る温度域では、蓄熱材103が液体となって熱が高分子化合物部材24、43から外気に盛んに放出するように、蓄熱材103の融点の上限が冷却水の沸点のうちの最低値である110℃以下となるように設定するのである。
蓄熱材103としてパラフィンワックスを挙げたが、これに限られるものでなく、有機系の蓄熱材であればかまわない。パラフィンワックスと別の例には市販のワックスがある。これらのワックスは多種類の物質の混合物であるため、混ぜる物質によって融点を調節することが可能である。したがって、上記融点の下限と上限の条件を満足する市販のワックスを選択するか、混ぜる物質を相違させて上記融点の下限と上限の条件を満足するワックスを新たに作製すればよい。そのほか、ナフタレン、ミリスチレン酸、ステアリン酸、ポリエチレングリコールなどを蓄熱材103として用いることができる。
実施形態では、シリンダブロック構造体22、アッパーオイルパン構造体41にそれぞれ複数の伝熱部材101を配置してあるが、複数配置することは必ずしも必要ない。シリンダブロック構造体22、アッパーオイルパン構造体41にそれぞれ少なくとも1つ配置するものであってよい。すなわち、伝熱部材101の数や形状、伝熱部材101をシリンダブロック構造体22、アッパーオイルパン構造体41に配置する位置は、伝熱部材101が各構造体22、41の中空金属部材と高分子化合物部材とを繋ぐように配置されている限りにおいて任意である。これについて説明すると、図5は図3のA部の拡大断面図、図6は図3のB部の拡大断面図である。図5、図6には第1実施形態の4つの態様を上下方向に並べて示している。なお、図5、図6でも伝熱部材101の内部の状態は示していない。
図5最上段に示したように図3の場合には伝熱部材101の一端(図5で右端)をシリンダブロック構造体22の外面22aより突出(露出)させている。この場合に限られるものでなく、図5第2段目に第1実施形態の他の態様として示したように、中空金属部材23の外周部材23aと高分子化合物部材24とを繋いでいる限り、伝熱部材101の一端がシリンダブロック構造体22の外面22aより突出していなくてもかまわない。また、図5第3段目、第4段目に第1実施形態の他の態様として示したように、伝熱部材101の他端(図5で左端)を中空金属部材23の内周部材23bと繋ぐようにしてもかまわない。
図6最上段に示したように図3の場合には伝熱部材101の一端(図6で右端)をアッパーオイルパン構造体41の外面41aより突出(露出)させている。この場合に限られるものでなく、図6第2段目に第1実施形態の他の態様として示したように、中空金属部材42の外周部材42aと高分子化合物部材43とを繋いでいる限り、伝熱部材101の一端がアッパーオイルパン構造体41の外面41aより突出していなくてもかまわない。また、図6第3段目、第4段目に第1実施形態の他の態様として示したように、伝熱部材101の他端(図6で左端)を中空金属部材42の内周部材42bと繋ぐようにしてもかまわない。
上記図5、図6では伝熱部材101の断面が長方形状であったが、楕円状の断面であってもかまわない。伝熱部材101の全体の形状としては、断面が六角の鉛筆状、両端が曲面で突出するカプセル状(図4A参照)とする他、図2に示した平板状とすることが考えられる。ここで、図2ではシリンダブロック11及びアッパーオイルパン31についてエンジン長手方向の2つの側面の全体にわたって、シリンダブロック構造体22及びアッパーオイルパン構造体41を設けているものとする。この場合に、図2に示したようにエンジン長手方向の側面に設けているシリンダブロック構造体22に配置する伝熱部材101を、エンジン長手方向に水平に走る平板状のものとしてよい。なお、図2ではシリンダブロック構造体22の表面より突出(露出)した部分のみが記載されているので、上から3つの水平な割箸状の伝熱部材101及び下から4番目の水平な割箸状の伝熱部材101が、ここでいう平板状の伝熱部材101のことである。この水平な割箸状の伝熱部材101の断面は長方形状であるが、楕円状であってもかまわない。図2ではさらに、シリンダブロック構造体22に配置する複数の棒状の伝熱部材101を上から4番目及び下から3番目に示している。
同様に、エンジン長手方向の側面に設けているアッパーオイルパン構造体41に配置する伝熱部材101についても、全体の形状としては、断面が六角の鉛筆状、両端が曲面で突出するカプセル状(図4A参照)とする他、図2に示したようにエンジン長手方向に走る平板状のものであってよい。なお、図2ではアッパーオイルパン構造体41の表面より突出(露出)した部分のみが記載されているので、下から2番目の水平な割箸状の伝熱部材101が、ここでいう平板状の伝熱部材101のことである。この水平な割箸状の伝熱部材101の断面は長方形状であるが、楕円状であってもかまわない。図2ではさらに、アッパーオイルパン構造体41に配置する複数の棒状の伝熱部材101を下から1番目に示している。
このように、伝熱部材101の全体の形状として、断面が六角の鉛筆状、両端が曲面で突出するカプセル状、板状、棒状を挙げたが、伝熱部材101の形状は、筐体であればよい。筐体とは、通常、箱状のものをいうが、ここでは、箱状に限らず、上記の鉛筆状、カプセル状、板状、棒状を全て含んだ広い概念で使用している。内部に蓄熱材を封入し得るものであれば任意の形状であってよい。
なお、図2と図3とで伝熱部材101の数や位置は対応していない。すなわち、図2では、図3に示した伝熱部材101の数や配置に関係なく、シリンダブロック構造体22やアッパーオイルパン構造体41に配置する伝熱部材101を示している。
次に、本実施形態のロアオイルパン51は高分子化合部材のみで形成することで、金属一律部材でロアオイルパンを形成する場合より軽量化している。しかしながら、その一方で、ロアオイルパン51を高分子化合部材のみで形成すると、金属一律部材でロアオイルパンを形成する場合より断熱性が良くなる分だけ、エンジンの高負荷時に熱を外気に逃しにくくなる。そこで、本実施形態では、高分子化合物部材のみで形成されているロアオイルパン51に上記の伝熱部材101と同様の第2の伝熱部材105を一端が外部に突出(露出)するように配置する。ここで、第2の伝熱部材105の伝熱特性も、伝熱部材101と同様に、第2の伝熱部材105自体の温度により第2の伝熱部材105自体の温度が高くなるほど熱を伝え易くなるよう変化するものである。詳細にはロアオイルパン51に配置する第2の伝熱部材105は、図4Bにも示したように中空金属部材106にパラフィンワックスなどの蓄熱材107(媒体)を封入することによって構成されている。このため、第2の伝熱部材105自体の温度により中空金属部材106内での蓄熱材107の移動の容易さが変化することによって、第2の伝熱部材105の伝熱特性が変化する。
具体的には、蓄熱材107は、蓄熱材107の融点である所定温度以下のとき固体であり、所定温度を超えるとき相変化して液体となる。つまり、蓄熱材107が固体の状態では、中空金属部材106内で移動しにくくなる(蓄熱材107の移動量が相対的に減る)。蓄熱材107の移動量が減ると熱移動量も減る。一方、蓄熱材107が液体の状態になると、中空金属部材106内で移動し易くなる(蓄熱材107の移動量が相対的に増加する)。蓄熱材107の移動量が増加するほど熱移動量が大きくなる。
ここで、第2の伝熱部材105による放熱と断熱の切換の仕組みを図4Bを用いて説明する。
図4Bも図4Aと同様に、3つの異なる状態(上よりエンジンを暖機している状態、エンジンを高負荷で運転している状態、エンジンを搭載する車両を停止している状態)で第2の伝熱部材105に収納されている蓄熱材107がどのように状態を変化させるのかを示している。図4Bでも上下方向が鉛直方向であり、第2の伝熱部材105の全体形状は水平方向に長いカプセル状であり、高分子化合物から形成されているロアオイルパン51に第2の伝熱部材105が配置されている。さらに、第2の伝熱部材105の一端(図4Bで左端)がロアオイルパン51の外面51aから外気に突出しているものとする。
まず、図4B上段の(a)に示したように暖機途中のエンジンの冷却水は例えば約60℃である。このとき、蓄熱材107の温度は蓄熱材107の融点より低いため、全て固体となって鉛直下方に存在し、鉛直上方には気体が存在する領域(気体ゾーン)が形成されている。このとき、固体の蓄熱材107を介して熱が移動する(熱伝導)ため、固体の蓄熱材103は伝熱部分として機能する。その一方で、気体ゾーンでは気体が自然対流することで熱を移動する(熱伝達)が、その熱移動量はわずかであるため、気体ゾーンは熱が伝わらない断熱部分として機能する。従って、固体の蓄熱材107を介しての熱の移動よりも気体ゾーンによる断熱のほうが優勢となるように蓄熱材107の種類や体積を定めてやれば、伝熱部材105全体としては、伝熱部材105が断熱部材として機能する。エンジンの暖機途中には高分子化合物部材(51)から熱が外部に逃げないようにする必要があるところ、伝熱部材105が断熱部材として機能するので、エンジンの発生する熱を高分子化合物部材(51)から外気に逃すことが防止されることとなる。
次に、図4B中段の(b)に示したようにエンジンを高負荷で運転し高温の熱が発生しているときにはエンジンの冷却水は例えば約110℃まで上昇する。このときの高温の熱はロアオイルパン51を形成している高分子化合物部材に蓄えられる。このとき、高分子化合物部材が蓄える熱を受けて蓄熱材107の温度が融点を超えて上昇するため蓄熱材107の全てが固体から液体へと相変化する。このとき、蓄熱材107は融解熱として周囲から熱を奪う。さらに、液体となった蓄熱材107を介して熱が高分子化合物部材(51)から外気へと逃される(放熱)。この場合、固体から液体に相変化するときの溶解熱は、液体から気体に相変化するときの気化熱よりも小さく、かつ液体の移動は気体ほど容易でない。従って、液体が内部(高分子化合物部材で囲まれた位置)から外部(外気に接する位置)まで移動しなければ、高分子化合物部材(51)から外気への熱の移動量も限られたものとなる。しかしながら、都合の良いことにエンジンは振動する。すなわち、エンジンの振動を受けて液体となった蓄熱材107が加振される。この加振によって、液体となった蓄熱材107が内部(高分子化合物部材で囲まれた位置)から外部(外気に接する位置)へ(図4Bでは左方向に)あるいは外部から内部へ(図4Bでは右方向)と容易に移動する。液体となった蓄熱材107の内部から外部への移動によって高分子化合物部材(51)の熱が外気へと運ばれ、熱を放出した液体の蓄熱材107が今度は外部から内部へと戻されるのである。これは、液体の蓄熱材107の流れによって熱が移動するので、熱伝達である。熱伝達では、高分子化合物部材の温度と外気の温度との温度差に比例して熱が移動するため、液体の蓄熱材107の移動量が大きくなれば、その分、熱移動量が大きくなる。こうした液体の蓄熱材107の対流(移動)によって熱移動が活発に行われることから、伝熱部材105が放熱部材として機能し、高分子化合物部材(51)から外気への放熱が促進されることとなる。
図4B下段の(c)に示したように、停車中に一時的にエンジンを停止するアイドルストップが行われると、エンジンの温度が低下してゆき、エンジンの冷却水が例えば約90℃まで低下したとする。これに合わせてロアオイルパン51を形成している高分子化合物部材の温度が低下するので、蓄熱材107の温度も低下し、蓄熱材107は再び液体から固体へとその全てが相変化し、鉛直上方に気体が存在する領域(気体ゾーン)を形成する。つまり、伝熱部材105は図4B上段に示す(a)と同様の状態となる。停車中には高分子化合物部材(51)から熱がエンジンの外部に逃げないようにする必要があるところ、伝熱部材105が断熱部材として機能するので、高分子化合物部材(51)が蓄えている熱を外気に逃すことが防止され、エンジンが保温される。
第2の伝熱部材105の内部に収納する蓄熱材107の融点の下限、上限は、伝熱部材101の内部に封入する蓄熱材103の融点の下限、上限と同じでよい。
ロアオイルパン51は高分子化合物部材で形成されているので、もともと断熱効果を有している。従ってロアオイルパン51に第2の伝熱部材105を配置することは、放熱機能を有する熱交換可能なロアオイルパン51を構成することを意味する。すなわち、エンジンの高負荷時には、第2の伝熱部材105を介してエンジンの発生する高温の熱が高分子化合物部材(51)から外気に放出されることとなる。これによって、高負荷時にはロアオイルパン51に第2の伝熱部材105を配置していない場合よりも冷却水温及び油温の上昇を抑制することができる。
ここで、第1実施形態の作用効果を説明する。
第1実施形態では、シリンダブロック11のアルミダイカスト部分及びアッパーオイルパン31のアルミ合金部分の一部(エンジンの構造体の少なくとも一部)が中空金属部材23、42(金属部材)と高分子化合物部材24、43とで構成され、中空金属部材23、42と高分子化合物部材24、43とを繋ぐように配置される伝熱部材101を備えている。第1実施形態によれば、シリンダブロック11のアルミダイカスト部分及びアッパーオイルパン31のアルミ合金部分の一部を高分子化合物部材24、43で置き換えることで、従来シリンダブロックのようなアルミダイカスト一律部材及び従来アッパーオイルパンのようなアルミ合金一律部材の構造体と比較して、アルミダイカスト部材と高分子化合物24との間の比重差及び高分子化合物部材の体積に応じた分だけシリンダブロック11を、アルミ合金部材と高分子化合物部材43との間の比重差及び高分子化合物部材43の体積に応じた分だけアッパーオイルパン31をそれぞれ軽量化することができる。かつ、伝熱部材101を配置することで熱交換可能なシリンダブロック構造体22及びアッパーオイルパン構造体41が構成されることから、特にエンジンの高負荷時に冷却水温及び油温が高くなり過ぎず、冷却水温及び油温が従来と同等レベルに収めることが可能となり、これによってエンジン内部の軸受け部の焼付きなどを回避できる。
第1実施形態によれば、伝熱部材101は、伝熱部材101自体の温度により伝熱特性が変化するので、伝熱部材101自体の温度により熱を伝える量が変化するため、伝熱部材101自体の温度によりエンジンからの放熱と、エンジンからの放熱を遮断する断熱とをエンジンの温度状態に応じて切換えることができる。
第1実施形態によれば、伝熱部材101の伝熱特性は、伝熱部材101自体の温度が高くなるほど熱を伝え易くなるよう変化するので、エンジンが相対的に高温のときにはエンジンから放熱し、エンジンが相対的に低温のときにはエンジンからの放熱を遮断することができる。
第1実施形態によれば、伝熱部材101は、中空金属部材102(筐体)と中空金属部材102の内部に封入される蓄熱材103(媒体)とで構成され、伝熱部材101自体の温度により中空金属部材102内での蓄熱材103の移動の容易さが変化することによって、伝熱部材101の伝熱特性が変化するので、エンジンが相対的に高温のときには蓄熱材103が移動し易くなってエンジンから放熱し、エンジンが相対的に低温のときには蓄熱材103が移動しにくくなってエンジンからの放熱を遮断することができる。
第1実施形態によれば、蓄熱材103(媒体)は、蓄熱材103の融点(所定温度)以下のとき固体であり、蓄熱材103の融点を超えるとき液体となるので、冷却水温や油温が相対的に低い場合に、蓄熱材103が固体となって鉛直下方に溜まり鉛直上方に気体ゾーンが生じることから伝熱部材101が全体として断熱部材として機能する。つまり、冷却水温や油温が相対的に低い場合にこの伝熱部材101による断熱部材としての働きによって、エンジンの暖機を促進することができる。一方、高負荷時のように冷却水温や油温が相対的に高い場合に、蓄熱材103が液体となり、かつエンジンの振動を受けて中空金属部材102内での蓄熱材103の移動量が相対的に増大するから伝熱部材101が今度は放熱部材として機能する。つまり、冷却水温や油温が相対的に高い場合にエンジンからの放熱を活発に行わせてエンジンを冷却することができる。また、停車によるアイドルストップによって冷却水温や油温が徐々に低下したときには、中空金属部材102内の蓄熱材103が固体に相変換することで上方に気体ゾーンが生じることから伝熱部材101が全体として断熱部材として機能する。つまり、停車によるアイドルストップによって冷却水温や油温が徐々に低下したときにはこの伝熱部材101による断熱部材としての働きによって、油水温の急激な低下が抑制される(油水温の保温効果を発揮する)。この保温効果によってアイドルストップが長引いた後のコールドスタート時の燃費が向上する。
第1実施形態によれば、冷却水を循環させてエンジンを冷却する冷却装置2を備え、冷却装置2は、冷却水の温度がサーモスタットバルブ6の開弁温度のうちの最低値である60℃(所定の切換温度)以上で冷却水からエンジン外部へ放熱される放熱量が増加するよう冷却水通路を切換えるように構成され、蓄熱材103の融点(所定温度)は、サーモスタットバルブ6の開弁温度のうちの最低値である60℃(所定の切換温度)以上であるので、冷却水温や油温が相対的に低い場合に、蓄熱材103は固体に相変換することで上方に気体ゾーンが生じることから伝熱部材101が全体として断熱部材として機能する。これによって、エンジンの暖機を促進することができ、エンジンの暖機完了までの時間を長引かせてしまうことを回避できる。
第1実施形態によれば、蓄熱材103の融点(所定温度)は、冷却水の沸点以下であるので、冷却水温や油温が相対的に高い場合に、蓄熱材103は液体に相変換することで伝熱部材101が放熱部材として機能して活発に放熱する。これによって、エンジンの高負荷時に冷却水温が冷却水の劣化が生じ得る温度域に到達することを回避することができる。
第1実施形態によれば、エンジンの構造体が、中空金属部材23、42(金属部材)と高分子化合物部材24、43とで構成されるシリンダブロック構造体22及びアッパーオイルパン構造体41(第1の構造体)と、高分子化合物部材のみで構成されるロアオイルパン51(第2の構造体)とを含み、シリンダブロック構造体22及びアッパーオイルパン構造体41に伝熱部材101が配置されるので、金属一律部材で構成されていた従来のシリンダブロック11及びアッパーオイルパン31の一部が高分子化合物24、43で置き換えられることになり、両者の比重及び高分子化合物部材24、43の体積に応じた分だけシリンダブロック11及びアッパーオイルパン31を軽量化することができる。かつ、シリンダブロック構造体22及びアッパーオイルパン構造体41に伝熱部材101が配置されるため、エンジンが相対的に高温のときに冷却水温および油温が高くなり過ぎず、エンジン内部の軸受けの焼付きなどを回避できる。
第1実施形態によれば、高分子化合物部材のみで構成されるロアオイルパン51(第2の構造体)に第2の伝熱部材105が配置されるので、熱交換可能なロアオイルパン51が構成されることから、高分子化合物部材のみで構成されるロアオイルパン51を備えている場合であっても、エンジンが相対的に高温のときに冷却水温及び油温が高くなり過ぎず、かつ冷間始動時の暖機促進やエンジン停止後の保温効果も向上する。
第1実施形態によれば、エンジンの構造体が、シリンダヘッド61とシリンダブロック11とアッパーオイルパン31とロアオイルパン51とを含み、第1の構造体はシリンダブロック11及びアッパーオイルパン31(シリンダヘッド、シリンダブロック、アッパーオイルパンの少なくとも一つ)であり、第2の構造体はロアオイルパン51である。エンジンの構造体のうち、シリンダブロック11及びアッパーオイルパン31はもともと重い部材であるところ、この部材の一部を金属部材と高分子化合物部材とで構成される第1の構造体で置き換えるので、エンジンの大幅な軽量化を行うことができる。かつ高分子化合物部材のみで構成される第2の構造体がロアオイルパン51であることから、保温効果が向上する。
第1実施形態によれば、伝熱部材101の一部が、シリンダブロック構造体22及びアッパーオイルパン構造体41(エンジン1の構造体)の外面からエンジン外部に突出(露出)しているので、エンジンからの放熱性能を向上することができる。
(第2実施形態)
図7は第2実施形態のエンジン長手方向に直交する面で切断したエンジン1の縦断面図で、第1実施形態の図3と置き換わるものである。図3と同一部分には同一の符号を付している。
第1実施形態では、シリンダブロック11のアルミダイカスト部分の一部を構造体22で、及びアッパーオイルパン31のアルミ合金部分の一部を構造体41で置き換えた。そして、当該構造体22に中空金属部材23と高分子化合物部材24とを繋ぐように伝熱部材101を、当該構造体41に中空金属部材42と高分子化合物部材43とを繋ぐように伝熱部材101をそれぞれ配置した。一方、第2実施形態は、アッパーオイルパン31のアルミ合金部分の一部のみを、第1実施形態と同じにアッパーオイルパン構造体41で置き換え、当該構造体41に中空金属部材42と高分子化合物部材43とを繋ぐように伝熱部材101を配置するものである。逆にいうと、第2実施形態では、アルミダイカスト一律部材で構成されていたシリンダブロック11は、従来のままである。
第2実施形態でも、アッパーオイルパン構造体41及び伝熱部材101について第1実施形態と同様の作用効果を奏する。
(第3実施形態)
図8は第3実施形態のエンジン長手方向に直交する面で切断したエンジン1の縦断面図で、第1実施形態の図3と置き換わるものである。図3と同一部分には同一の符号を付している。
第1実施形態では、軽量化のためロアオイルパン51を高分子化合部材のみで形成していた。しかしながら、ロアオイルパン51を高分子化合部材のみで形成しているエンジンはまだ少なく、ロアオイルパン51を、鉄、アルミニウム、マグネシウムなどの金属一律部材で形成しているエンジンのほうが一般的である。第3実施形態は、こうした金属一律部材で形成しているロアオイルパン51を前提とし、そのロアオイルパン51の金属部分の一部をロアオイルパン構造体111で置き換えるものである。ここで、ロアオイルパン構造体111の範囲を短破線で囲って示している。なお、シリンダブロック11、アッパーオイルパン31の構成は第1実施形態の構成と同じであるので、その説明を省略する。
上記のロアオイルパン構造体111は、その構成がシリンダブロック構造体22やアッパーオイルパン構造体41とは多少相違している。すなわち、ロアオイルパン構造体111は、板金製のロアオイルパン部材112の鉛直下方側の外周に、ロアオイルパン部材112と同形状の高分子化合物部材113を重ねて貼り合わせたもので構成する。ここで、金属部材であるロアオイルパン部材112と高分子化合物部材113の接合は接着剤による方法に限られない。最近出現している接着剤を使わない接合方法(金属部材と高分子化合物部材とをアンカー効果で接合する)であってよい。
これによって、ロアオイルパン51の全体としてみれば、金属一律部材で形成されていた従来のロアオイルパンの金属部分の一部が高分子化合物部材113で置き換わったことになる。高分子化合物部材113と金属部材とを比較すれば、比重は高分子化合物部材113のほうが小さいので、両者の比重差に高分子化合物部材113の体積を乗算した分だけロアオイルパン51が軽量化されることとなる。このように、第3実施形態は、ロアオイルパン51が金属一律部材で形成されており、かつロアオイルパン構造体111で置き換えが可能なほどロアオイルパン51が厚い場合に適用の余地がある。
一方、金属部材であるロアオイルパン部材112に高分子化合物部材113を重ねて貼り合わせたロアオイルパン構造体111でロアオイルパン51の金属部分の一部を置き換えることは、熱の授受の面からは不利となる場合がある。すなわち、高負荷時のようにエンジン1が盛んに熱を発生するときには、それに応じて大量の熱をロアオイルパン構造体111から外気に放出することが望ましい。このとき、ロアオイルパン構造体111内部の高分子化合物部材113が断熱部材として働いたのでは、特にエンジンの高負荷時にエンジンを冷やす効果が、金属一律部材のロアオイルパン51と相違して低下する。
そこで、ロアオイルパン構造体111に対して、板金製のロアオイルパン部材112と高分子化合物部材113とを繋ぐように伝熱部材114を配置する。伝熱部材114の一端は構造体111の外面からエンジン外部に突出(露出)させる。これは、特にエンジン高負荷時に伝熱部材114を介してのエンジンからの放熱性能を高めるためである。なお、図8でも伝熱部材114の内部の状態は示していない。
伝熱部材114の構成は、第1実施形態の伝熱部材101と同様である。すなわち、伝熱部材114の伝熱特性は、伝熱部材114自体の温度により伝熱部材114自体の温度が高くなるほど熱を伝え易くなるよう変化するものである。詳細には構造体111に配置する伝熱部材114は、図4Aに示したと同様に中空金属部材にパラフィンワックスなどの蓄熱材(媒体)を封入することによって構成されている。このため、伝熱部材114自体の温度により中空金属部材内での蓄熱材の移動の容易さが変化することによって、伝熱部材114の伝熱特性が変化する。
具体的には、蓄熱材は、蓄熱材の融点である所定温度以下のとき固体であり、所定温度を超えるとき相変化して液体となる。つまり、蓄熱材が固体の状態では、中空金属部材内で移動しにくくなる(蓄熱材の移動量が相対的に減る)。蓄熱材の移動量が減ると熱移動量も減る。一方、蓄熱材が液体の状態になると、中空金属部材内で移動し易くなる(蓄熱材の移動量が相対的に増加する)。蓄熱材の移動量が増加するほど熱移動量が大きくなる。
なお、伝熱部材114の中空金属部材の材質は、板金製のロアオイルパン部材112を形成する金属部材より熱伝導性がよいものが好ましい。
このように、軽量化のための高分子化合物部材の置き換えによってエンジンの放熱性が低下することを考慮し、放熱と断熱とを切換可能な機能を有する伝熱部材114を配置することによって熱交換可能なロアオイルパン構造体111を構成する。熱交換可能なロアオイルパン構造体111とすることで、特にエンジンの高負荷状態での放熱性を良くする。これによって、ロアオイルパン51を軽量化したからといってエンジンの冷間始動から高負荷状態までのエンジンの冷却性能及び潤滑性能に不都合が出ることはないので、従来のウォータポンプ及びオイルポンプをそのまま用いることができる。
第3実施形態では、ロアオイルパン構造体111に複数の伝熱部材114を配置してあるが、複数配置することは必ずしも必要ない。ロアオイルパン構造体111に少なくとも1つ配置するものであってよい。すなわち、伝熱部材114の数や形状、伝熱部材114をロアオイルパン構造体111に配置する位置は、伝熱部材114が構造体111の中空金属部材と高分子化合物部材とを繋ぐように配置されている限りにおいて任意である。これについて説明すると、図9は図8のC部の拡大断面図である。図9には第3実施形態の2つの態様を上下に並べて示している。なお、図9でも伝熱部材114の内部の状態は示していない。
図9上段に示したように図8の場合には伝熱部材114の一端(図9で右端)をロアオイルパン構造体111の外面111aより突出(露出)させている。この場合に限られるものでなく、図9下段に第3実施形態の他の態様として示したように、ロアオイルパン部材112と高分子化合物部材113とを繋いでいる限り、伝熱部材114の一端がロアオイルパン構造体111の外面111aより突出していなくてもかまわない。
上記図9では、伝熱部材114の断面が長方形状であったが、楕円状の断面であってもかまわない。伝熱部材114の全体の形状としては、第1実施形態の伝熱部材101と同様に、断面が六角の鉛筆状、両端が曲面で突出するカプセル状とする他、図10に示した平板状とすることが考えられる。ここで、図10はロアオイルパン51を簡単な浅皿状でモデル化した概略斜視図である。図10ではロアオイルパン51についてエンジン長手方向の2つの側面の全体にわたって、ロアオイルパン構造体111を設けているものとする。この場合に、図10に示したようにエンジン長手方向の側面に設けているロアオイルパン構造体111に配置する伝熱部材114を、エンジン長手方向に水平に走る平板状のものとしてよい。なお、図10ではロアオイルパン構造体111の表面より突出(露出)した部分のみが記載されているので、上方の水平な割箸状の伝熱部材114が、ここでいう平板状の伝熱部材114のことである。この水平な割箸状の伝熱部材114の断面は長方形状であるが、楕円状であってもかまわない。図10ではさらに、ロアオイルパン構造体111に配置する複数の棒状の伝熱部材114を下方に示している。
なお、図8、図10では、ロアオイルパン構造体111の鉛直下方に位置する水平部分に伝熱部材114を配置することはしていない。これは、ロアオイルパン51の高さ位置によって、車両の最低地上高が定まっているため、伝熱部材114をロアオイルパン構造体111の鉛直下方に位置する水平部分に配置することによって、最低地上高が守れなくなってしまうことを回避するためである。もちろん、技術的には伝熱部材114をロアオイルパン構造体111の鉛直下方に位置する水平部分にも配置し得るので、この場合には最低地上高が変化しないように注意する必要がある。
第3実施形態では、ロアオイルパン51の金属部分の一部(エンジンの構造体の少なくとも一部)が板金製のロアオイルパン部材112(金属部材)と高分子化合物部材113とで構成され、板金製のロアオイルパン部材112と高分子化合物部材113とを繋ぐように配置される伝熱部材114を備えている。第3実施形態によれば、ロアオイルパン51の金属部分の一部を高分子化合物部材113で置き換えることで、金属一律部材のロアオイルパンと比較して、金属部材と高分子化合物部材113との間の比重差及び高分子化合物部材113の体積に応じた分だけロアオイルパン51を軽量化することができる。かつ、伝熱部材114を配置することで熱交換可能なロアイルパン構造体111が構成されることから、特にエンジンの高負荷時に冷却水温及び油温が高くなり過ぎず、冷却水温及び油温が従来と同等レベルに収めることが可能となり、これによってエンジン内部の軸受け部の焼付きなどを回避できる。
(第4、第5の実施形態)
図11、図12は第4、第5の実施形態のエンジン長手方向に直交する面で切断したエンジン1の縦断面図で、第3実施形態の図8と置き換わるものである。図8と同一部分には同一の符号を付している。
図8に示す第3実施形態では、金属一律部材でロアオイルパン51を形成する場合を前提とし、ロアオイルパン51の金属部材の一部をロアオイルパン構造体111で置き換えた。さらに、ロアオイルパン構造体111に対して、板金製のロアオイルパン部材112と高分子化合物部材113とを繋ぐように伝熱部材114を配置した。一方、図11、図12に示す第4、第5の実施形態でも、第3実施形態と同様に、金属一律部材でロアオイルパン51を形成する場合を前提とし、ロアオイルパン51の金属部材の一部をロアオイルパン構造体111で置き換えるものである。さらに、第4、第5の実施形態でもロアオイルパン構造体111に対して、板金製のロアオイルパン部材112と高分子化合物部材113とを繋ぐように伝熱部材114を配置している点で第3実施形態と同じである。
第4実施形態において、第3実施形態と相違するのは、第3実施形態のようにシリンダブロック11のアルミダイカスト部分の一部をシリンダブロック構造体22で置き換えていない点である。同様に、第5実施形態において、第3実施形態と相違するのは、第3実施形態のようにシリンダブロック11のアルミダイカスト部分の一部及びアッパーオイルパン31のアルミ合金部分の一部をシリンダブロック構造体22及びアッパーオイルパン構造体41で置き換えていない点である。
第4、第5の実施形態でも、ロアオイルパン構造体111及び伝熱部材114について第3実施形態と同様の作用効果を奏する。
(第6実施形態)
図13は第6実施形態のエンジン長手方向に直交する面で切断したエンジン1の縦断面図で、第1実施形態の図3と置き換わるものである。図3と同一部分には同一の符号を付している。
第1、第2の実施形態は、シリンダブロック11、アッパーオイルパン31の金属部分の一部をシリンダブロック、アッパーオイルパンの構造体22、41で置き換えると共に、その構造体22、41に伝熱部材101を配置するものであった。第3〜第5の実施形態は、ロアオイルパン51の金属部分の一部をロアオイルパン構造体111で置き換えると共に、その構造体111に伝熱部材114を配置するものであった。一方、第6実施形態は、シリンダヘッド61のアルミ合金部分の一部を、内部に高分子化合物部材を収納し外部を金属で被覆したシリンダヘッド構造体121で置き換え、そのシリンダヘッド構造体121に伝熱部材123を配置するものである。ここで、シリンダヘッド構造体121の範囲を二点鎖線で囲って示している。
詳述すると、吸気ポート63側のシリンダヘッド側面61a(図13で左側)であって、シリンダヘッド側面61aに開口する吸気ポート63の一方の開口端63aとシリンダヘッド底面61bとの間にシリンダヘッド構造体121を貼り付ける。なお、シリンダヘッド61の形状が複雑であるため、説明の便宜上、シリンダヘッド構造体121をシリンダヘッド61の側面61aに貼り付ける場合で説明するが、単に貼り付けるのでは、シリンダヘッド61を軽量化することができない。実際には、シリンダヘッド61のアルミ合金部分のうち吸気側かつシリンダヘッド構造体121で置き換え可能な部位を探し、その部位をシリンダヘッド構造体121で置き換えることとなる。
ここで、シリンダヘッド構造体121は中空金属部材122と高分子化合物部材123とで構成する。中空金属部材122は、外周部材122aと内周部材122bとこれらを接続する部材(図示しない)とから構成し、全体を例えばアルミ合金部材で形成する。シリンダヘッド61もアルミ合金部材であるので、実際にはシリンダヘッド61と内周部材122bの境界はなく、シリンダヘッドと内周部材122bとは一体である。
上記の中空金属部材122の内部には高分子化合物部材123を収納する。高分子化合物部材123としては、第1実施形態と同じに、軽くて断熱性に優れる発泡樹脂が望ましい。なお、発泡樹脂に限定されるものでなく、金属材料より軽い高分子化合物材料であればかまわない。
これによって、シリンダヘッド61の全体としてみれば、アルミ合金部材で形成されていた金属部分の一部が高分子化合物部材123で置き換わったことになる。高分子化合物部材123とアルミ合金部材とを比較すれば、比重は高分子化合物部材123のほうが小さいので、両者の比重差に高分子化合物部材123の体積を乗算した分だけシリンダヘッド61が軽量化されることとなる。
シリンダヘッド構造体121の数や形状、シリンダヘッド構造体121を吸気ポート63側に設ける位置は任意である。例えば、シリンダヘッド構造体121を特定の吸気ポート63の近くにだけ設けてもよいし、各気筒の吸気ポート63の近くに設けてもよい。吸気ポート63毎に設けたシリンダヘッド構造体をつないだ一体の形状としてもよい。
一方、高分子化合物部材123を収納した中空金属部材122でシリンダヘッド61のアルミ合金部分の一部を置き換えることは、熱の授受の面からは不利となる場合がある。すなわち、高負荷時のようにエンジンが盛んに熱を発生して高温になるときには、それに応じて大量の熱をシリンダヘッド構造体121から外気に放出することが望ましい。このとき、シリンダヘッド構造体121内部の高分子化合物部材123が断熱部材として働いたのでは、特にエンジンの高負荷時にエンジンを冷やす効果が、シリンダヘッド構造体121を設けていない場合より低下する。
そこで中空金属部材122の外周部材122aと高分子化合物部材123とを繋ぐように伝熱部材124を配置する。なお、図13でも伝熱部材124の内部の状態は示していない。
ここで、伝熱部材124の伝熱特性も、第1実施形態の伝熱部材101と同様に、伝熱部材124自体の温度により伝熱部材124自体の温度が高くなるほど熱を伝え易くなるよう変化するものである。詳細には伝熱部材124は、図4Aと同様に中空金属部材にパラフィンワックスなどの蓄熱材(媒体)を封入することによって構成されている。このため、伝熱部材124自体の温度により中空金属部材内での蓄熱材の移動の容易さが変化することによって、伝熱部材124の伝熱特性が変化する。
具体的には、蓄熱材は、蓄熱材の融点である所定温度以下のとき固体であり、所定温度を超えるとき液体となる。つまり、蓄熱材が固体の状態では、中空金属部材内で移動しにくくなる(蓄熱材の移動量が相対的に減る)。蓄熱材の移動量が減ると熱移動量も減る。一方、蓄熱材が液体の状態になると、中空金属部材内で移動し易くなる(蓄熱材の移動量が相対的に増加する)。蓄熱材の移動量が増加するほど熱移動量が大きくなる。
なお、伝熱部材124の中空金属部材の材質は、シリンダヘッド61の本体を構成するアルミ合金部材より熱伝導性がよいものが好ましい。
伝熱部材124による放熱と断熱の切換の仕組みは、第1実施形態の伝熱部材101による放熱と断熱の切換の仕組みと同様である。
このように、軽量化のための高分子化合物部材の置き換えによってエンジンの放熱性が低下することを考慮し、放熱と断熱とを切換可能な機能を有する伝熱部材124を配置することによって熱交換可能なシリンダヘッド構造体121を構成する。熱交換可能なシリンダヘッド構造体121とすることで、特にエンジンの高負荷状態での放熱性を良くする。これによって、シリンダヘッド61を軽量化したからといってエンジンの冷間始動から高負荷状態までのエンジンの冷却性能及び潤滑性能に不都合が出ることはないので、従来のウォータポンプ及びオイルポンプをそのまま用いることができる。
第6実施形態でも、シリンダヘッド構造体121及び伝熱部材124について第1実施形態のシリンダブロック構造体22、アッパーオイルパン構造体41及び伝熱部材101と同様の作用効果を奏する。すなわち、第6実施形態では、シリンダヘッド61のアルミ合金部分の一部(エンジンの構造体の少なくとも一部)が中空金属部材122(金属部材)と高分子化合物部材123とで構成され、中空金属部材122と高分子化合物部材123とを繋ぐように配置される伝熱部材124を備えている。第6実施形態によれば、シリンダヘッド61のアルミ合金部分の一部を高分子化合物部材123で置き換えることで、従来シリンダヘッドのようなアルミ合金一律部材の構造体と比較して、アルミ合金部材と高分子化合物部材123との間の比重差及び高分子化合物部材123の体積に応じた分だけシリンダヘッド61を軽量化することができる。かつ、伝熱部材124を配置することで熱交換可能なシリンダヘッド構造体121が構成されることから、特にエンジンの高負荷時に冷却水温及び油温が高くなり過ぎず、冷却水温及び油温が従来と同等レベルに収めることが可能となり、これによってエンジン内部の軸受け部の焼付きなどを回避できる。
実施形態では、伝熱部材が、固体と液体との間で相変化する蓄熱材を内部に封入した伝熱部材である場合で説明したが、これに限られるものでなく、ヒートパイプを伝熱部材として用いることができる。ここで、ヒートパイプは、熱伝導性が高い材質からなるパイプの中に揮発性の液体(媒体)を作動液として封入したものである。ヒートパイプでは、パイプの一方を高温部として加熱し、パイプの他方を低温部として冷却することで、作動液の蒸発と凝縮のサイクルが発生して熱が移動する。このようなヒートパイプを伝熱部材として用いるときには、例えば、エンジンの高負荷時には、高温部で作動液が周囲から気化熱を吸収して蒸発する。この蒸気はパイプ内の空洞を通って低温部に移動する。低温部で冷却された蒸気は凝集して液体に戻り、再び高温部に移動する。このように両端に温度差を与えることによりヒートパイプ内で作動液が循環し、高温部から低温部への熱移動が起こる(放熱性が高まる)。
実施形態は、エンジンの構造体が、シリンダヘッド61とシリンダブロック11とアッパーオイルパン31とロアオイルパン51とを含み、第1の構造体はシリンダヘッド61、シリンダブロック11、アッパーオイルパン31の少なくとも一つであり、第2の構造体はロアオイルパン51であった。これに限らず、エンジンの構造体が、シリンダヘッドとシリンダブロックとオイルパンとを含むものであってよい。このときには、第1の構造体はシリンダヘッド、シリンダブロックの少なくとも一つであり、第2の構造体はオイルパンである。
実施形態では、エンジンの各気筒の配置が直列である場合で説明したが、これに限られるものでない。V型や水平対向のエンジンに対しても本発明の適用がある。