JP2014139266A - ポリカーボネート樹脂組成物及び成形品 - Google Patents

ポリカーボネート樹脂組成物及び成形品 Download PDF

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Abstract

【課題】成形品の軋み音の発生が長期にわたり著しく低減され、また耐衝撃性と表面外観に優れるポリカーボネート樹脂組成物およびそれからなる樹脂成形品を提供する。
【解決手段】ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、芳香族ビニル−ジエン−シアン化ビニル系共重合体(B)30〜100質量部、無水マレイン酸含量が3質量%超である無水マレイン酸−N−置換マレイミド−スチレン共重合体(C)1質量部以上13質量部未満及びシロキサン系エラストマー(D)1〜15質量部を含有することを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物およびそれからなる成形品。
【選択図】なし

Description

本発明は、ポリカーボネート樹脂組成物及び成形品に関し、詳しくは、嵌合構造を有するような成形品とした場合に軋み音の発生が著しく抑制されたポリカーボネート樹脂組成物およびそれからなる成形品に関する。
自動車等の車両には、従来より、内装材料として、成型のしやすさ、軽量化等の理由から樹脂部品が多用されている。特に、自動車室内に内装される各種のディスプレイ装置等に代表される製品は、軽量化目的のため、樹脂製の成形部品を嵌合して組み立てて作製される。例えば、ディスプレイ装置の筐体の場合、通常、上下半割れの容器状の成形部品に、それぞれ嵌合用の嵌合部が各所に一体成形され、ネジなどを殆ど使用しないか或いは最小限の使用に留めて、上下の成形部品の外周縁を向かい合わせて嵌合することにより筐体成形品が作製される。
しかし、このような成形品を車載する場合、自動車室内は環境下で低温から高温まで温度変化が激しく、樹脂成形品は熱変動による収縮膨張のため変形を生じやすく、嵌合部に変形が僅かでも生じた場合は、自動車の駆動時の振動等により、軋み音を発生しやすくなる。軋み音は乗車時の快適性を大きく損ねてしまうが、特に高級車ほど高度の室内静粛性が求められので、軋み音の発生防止は極めて重要な課題である。
このような軋み音の発生は、部材同士が摩擦されたときに発生する。軋み音を防止ないし低減させるための有効な手段としては、成形品表面にグリスやフッ素樹脂を塗布することが昔からまた現在も行われている。しかしながら、この方法では、自動化が困難で手作業に頼らざるを得ず、また効果が持続しないので、恒久的な対応とはならない。
特許文献1には、ノートパソコン等の液晶表示装置等を、フロントパネルとリヤキャビネットの2つの筐体を勘合して箱状体を構成する際、箱内空間の高さと同等または近似した高さのリブ状の突起を設けることにより、フロントパネルとリヤキャビネットの外周部の変形を減少させて軋み音の発生を防止することが記載されている。
しかしながら、このような突起を設けることは他の製品に適用するには構造上の制約があり、また外周部の変形を完全に防止するのは困難である。
また、成形品に用いられる樹脂材料自体を改質する方法として、樹脂にシリコーンを配合し自己潤滑性とする技術(特許文献2参照)も知られている。
しかしながら、このような手法による軋み音の低減効果は十分とはいえず、成形直後にはある程度の軋み音防止効果を示しても効果の持続性が乏しく、特に、高温下に長時間置かれた場合にはその効果が低下するという問題がある。
特開2005−332111号公報 特許第2798396号公報
本発明の課題(目的)は、上記従来技術の問題点に鑑み、成形品とした場合の軋み音の発生が著しく低減され、かつ高温下に長時間置かれた場合においても軋み音低減効果が維持される成形品、特に自動車室内搭載に好適な成形品を得ることが可能なポリカーボネート樹脂組成物を提供することを目的とする。
本発明者は、上記課題を達成すべく、鋭意検討を重ねた結果、軋み音の発生は成形品の嵌合部が振動して発生すること、その振動は成形品の一方の表面に他方が引っ掛かった後、力が解放されることによること、この力の解放は成形品の表層が剥離することが一因であること、引っ掛かりと開放の繰り返しで軋み音が発生すること、そして、表層剥離を起こさないことが軋み音の防止に有効であることを見出し、そのためには、樹脂材料としてポリカーボネート樹脂に、特定の共重合体を複数組み合わせ、さらに特定のエラストマーを配合した樹脂材料を用いると、軋み音の発生が長期にわたり著しく低減されることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は、以下のポリカーボネート樹脂組成物及び成形品を提供する。
[1]ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、芳香族ビニル−ジエン−シアン化ビニル系共重合体(B)30〜100質量部、無水マレイン酸含量が3質量%超である無水マレイン酸−N−置換マレイミド−スチレン共重合体(C)1質量部以上13質量部未満及びシロキサン系エラストマー(D)1〜15質量部を含有することを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。
[2]上記[1]に記載のポリカーボネート樹脂組成物を成形してなる成形品。
[3]成形品が、自動車室内に搭載されるための成形品である上記[2]に記載の成形品。
[4]成形品が、車載用ディスプレイ、カーナビ、カーオーディオ、コンソールパネル、ダッシュボードまたはドアトリム用部品である上記[3]に記載の成形品。
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、成形品の軋み音の発生が長期にわたり著しく低減され、また耐衝撃性と表面外観に優れるという効果を有する。そのため、本発明のポリカーボネート樹脂組成物を用いた成形品は、特に自動車室内に搭載される、嵌合組立製品として極めて好適に使用することができる。
本発明の樹脂組成物を用いた成形品の嵌合用部の表面形状の一例を示す要部断面図である。 本発明の樹脂組成物を用いた成形品の嵌合構造の一例を示す要部断面図である。 本発明の樹脂組成物を用いた成形品の一例である筐体の側断面図である。
以下、本発明について実施形態及び例示物等を示して詳細に説明するが、本発明は以下に示す実施形態及び例示物等に限定されるものではない。
なお、本願明細書において、「〜」とはその前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
[概要]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、芳香族ビニル−ジエン−シアン化ビニル系共重合体(B)30〜100質量部、無水マレイン酸含量が3質量%超である無水マレイン酸−N−置換マレイミド−スチレン共重合体(C)1質量部以上13質量部未満及びシロキサン系エラストマー(D)1〜15質量部を含有することを特徴とする。
[ポリカーボネート樹脂(A)]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物に用いるポリカーボネート樹脂(A)は、その種類に制限は無く、また、1種のみを用いてもよく、2種以上を、任意の組み合わせ及び任意の比率で、併用してもよい。
ポリカーボネート樹脂は、一般式 −[−O−X−O−C(=O)−]− で示される炭酸結合を有する基本構造の重合体である。上記式中、Xは、一般には炭化水素であるが、種々の特性付与のためヘテロ原子、ヘテロ結合の導入されたXを用いてもよい。
ポリカーボネート樹脂(A)としては、特には芳香族ポリカーボネート樹脂が好ましい。芳香族ポリカーボネート樹脂とは、炭酸結合に直接結合する炭素がそれぞれ芳香族炭素であるポリカーボネート樹脂をいう。芳香族ポリカーボネートは、各種ポリカーボネートのなかでも、耐熱性、機械的物性、電気的特性等の観点から、優れている。
芳香族ポリカーボネート樹脂の具体的な種類に制限は無いが、例えば、ジヒドロキシ化合物とカーボネート前駆体とを反応させてなる芳香族ポリカーボネート重合体が挙げられる。この際、ジヒドロキシ化合物及びカーボネート前駆体に加えて、ポリヒドロキシ化合物等を反応させるようにしてもよい。また、二酸化炭素をカーボネート前駆体として、環状エーテルと反応させる方法も用いてもよい。また芳香族ポリカーボネート重合体は、直鎖状でもよく、分岐鎖状でもよい。さらに、芳香族ポリカーボネート重合体は1種の繰り返し単位からなる単独重合体であってもよく、2種以上の繰り返し単位を有する共重合体であってもよい。このとき共重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体等、種々の共重合形態を選択することができる。なお、通常、このような芳香族ポリカーボネート重合体は、熱可塑性の樹脂となる。
芳香族ポリカーボネート樹脂の原料となるモノマーのうち、芳香族ジヒドロキシ化合物の例を挙げると、以下のとおりである。
1,2−ジヒドロキシベンゼン、1,3−ジヒドロキシベンゼン(即ち、レゾルシノール)、1,4−ジヒドロキシベンゼン等のジヒドロキシベンゼン類;
2,5−ジヒドロキシビフェニル、2,2’−ジヒドロキシビフェニル、4,4’−ジヒドロキシビフェニル等のジヒドロキシビフェニル類;
2,2’−ジヒドロキシ−1,1’−ビナフチル、1,2−ジヒドロキシナフタレン、1,3−ジヒドロキシナフタレン、2,3−ジヒドロキシナフタレン、1,6−ジヒドロキシナフタレン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、1,7−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン等のジヒドロキシナフタレン類;
2,2’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、3,3’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルエーテル、1,4−ビス(3−ヒドロキシフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−ヒドロキシフェノキシ)ベンゼン等のジヒドロキシジアリールエーテル類;
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(即ち、ビスフェノールA)、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、
2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、
2,2−ビス(3−メトキシ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、
2−(4−ヒドロキシフェニル)−2−(3−メトキシ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、
1,1−ビス(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、
2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシ−フェニル)プロパン、
2,2−ビス(3−シクロヘキシル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、
2−(4−ヒドロキシフェニル)−2−(3−シクロヘキシル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、
α,α’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,4−ジイソプロピルベンゼン、
1,3−ビス[2−(4−ヒドロキシフェニル)−2−プロピル]ベンゼン、
ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、
ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキシルメタン、
ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、
ビス(4−ヒドロキシフェニル)(4−プロペニルフェニル)メタン、
ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、
ビス(4−ヒドロキシフェニル)ナフチルメタン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、
1,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−ナフチルエタン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサン、
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、
4,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ノナン、
1,10−ビス(4−ヒドロキシフェニル)デカン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ドデカン、
等のビス(ヒドロキシアリール)アルカン類;
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3−ジメチルシクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,4−ジメチルシクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,5−ジメチルシクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3−プロピル−5−メチルシクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3−tert−ブチル−シクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3−tert−ブチル−シクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3−フェニルシクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−フェニルシクロヘキサン、
等のビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類;
9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン等のカルド構造含有ビスフェノール類;
4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルフィド等のジヒドロキシジアリールスルフィド類;
4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルホキシド等のジヒドロキシジアリールスルホキシド類;
4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルホン等のジヒドロキシジアリールスルホン類;等が挙げられる。
これらのなかでもビス(ヒドロキシアリール)アルカン類が好ましく、なかでもビス(4−ヒドロキシフェニル)アルカン類が好ましく、特に耐衝撃性、耐熱性の点から2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(即ち、ビスフェノールA)が好ましい。
なお、芳香族ジヒドロキシ化合物は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
芳香族ポリカーボネート樹脂の原料となるモノマーのうち、カーボネート前駆体の例を挙げると、カルボニルハライド、カーボネートエステル等が使用される。なお、カーボネート前駆体は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
カルボニルハライドとしては、具体的には例えば、ホスゲン;ジヒドロキシ化合物のビスクロロホルメート体、ジヒドロキシ化合物のモノクロロホルメート体等のハロホルメート等が挙げられる。
カーボネートエステルとしては、具体的には例えば、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート等のジアリールカーボネート類;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等のジアルキルカーボネート類;ジヒドロキシ化合物のビスカーボネート体、ジヒドロキシ化合物のモノカーボネート体、環状カーボネート等のジヒドロキシ化合物のカーボネート体等が挙げられる。
・ポリカーボネート樹脂の製造方法
ポリカーボネート樹脂の製造方法は、特に限定されるものではなく、任意の方法を採用できる。その例を挙げると、界面重合法、溶融エステル交換法、ピリジン法、環状カーボネート化合物の開環重合法、プレポリマーの固相エステル交換法などを挙げることができる。以下、これらの方法のうち特に好適なものについて、具体的に説明する。
・・界面重合法
まず、ポリカーボネート樹脂を界面重合法で製造する場合について説明する。界面重合法では、反応に不活性な有機溶媒及びアルカリ水溶液の存在下で、通常pHを9以上に保ち、ジヒドロキシ化合物とカーボネート前駆体(好ましくは、ホスゲン)とを反応させた後、重合触媒の存在下で界面重合を行うことによってポリカーボネート樹脂を得る。なお、反応系には、必要に応じて分子量調整剤(末端停止剤)を存在させるようにしてもよく、ジヒドロキシ化合物の酸化防止のために酸化防止剤を存在させるようにしてもよい。
ジヒドロキシ化合物及びカーボネート前駆体は、前述のとおりである。なお、カーボネート前駆体のなかでもホスゲンを用いることが好ましく、ホスゲンを用いた場合の方法は特にホスゲン法と呼ばれる。
反応に不活性な有機溶媒としては、例えば、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、クロロホルム、モノクロロベンゼン、ジクロロベンゼン等の塩素化炭化水素等;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;などが挙げられる。なお、有機溶媒は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
アルカリ水溶液に含有されるアルカリ化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、炭酸水素ナトリウム等のアルカリ金属化合物やアルカリ土類金属化合物が挙げられるが、なかでも水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムが好ましい。なお、アルカリ化合物は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
アルカリ水溶液中のアルカリ化合物の濃度に制限は無いが、通常、反応のアルカリ水溶液中のpHを10〜12にコントロールするために、5〜10質量%で使用される。また、例えばホスゲンを吹き込むに際しては、水相のpHが10〜12、好ましくは10〜11になる様にコントロールするために、ビスフェノール化合物とアルカリ化合物とのモル比を、通常1:1.9以上、なかでも1:2.0以上、また、通常1:3.2以下、なかでも1:2.5以下とすることが好ましい。
重合触媒としては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリプロピルアミン、トリヘキシルアミン等の脂肪族三級アミン;N,N’−ジメチルシクロヘキシルアミン、N,N’−ジエチルシクロヘキシルアミン等の脂環式三級アミン;N,N’−ジメチルアニリン、N,N’−ジエチルアニリン等の芳香族三級アミン;トリメチルベンジルアンモニウムクロライド、テトラメチルアンモニウムクロライド、トリエチルベンジルアンモニウムクロライド等の第四級アンモニウム塩等;ピリジン;グアニン;グアニジンの塩;等が挙げられる。なお、重合触媒は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
分子量調節剤としては、例えば、一価のフェノール性水酸基を有する芳香族フェノール;メタノール、ブタノールなどの脂肪族アルコール;メルカプタン;フタル酸イミド等が挙げられるが、なかでも芳香族フェノールが好ましい。このような芳香族フェノールとしては、具体的に、m−メチルフェノール、p−メチルフェノール、m−プロピルフェノール、p−プロピルフェノール、p−tert−ブチルフェノール、p−長鎖アルキル置換フェノール等のアルキル基置換フェノール;イソプロパニルフェノール等のビニル基含有フェノール;エポキシ基含有フェノール;o−オキシン安息香酸、2−メチル−6−ヒドロキシフェニル酢酸等のカルボキシル基含有フェノール;等が挙げられる。なお、分子量調整剤は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
分子量調節剤の使用量は、ジヒドロキシ化合物100モルに対して、通常0.5モル以上、好ましくは1モル以上であり、また、通常50モル以下、好ましくは30モル以下である。分子量調整剤の使用量をこのような範囲とすることで、ポリカーボネート樹脂組成物の熱安定性及び耐加水分解性を向上させることができる。
反応の際に、反応基質、反応媒、触媒、添加剤等を混合する順番は、所望のポリカーボネート樹脂が得られる限り任意であり、適切な順番を任意に設定すればよい。例えば、カーボネート前駆体としてホスゲンを用いた場合には、分子量調節剤はジヒドロキシ化合物とホスゲンとの反応(ホスゲン化)の時から重合反応開始時までの間であれば任意の時期に混合できる。
なお、反応温度は通常0〜40℃であり、反応時間は通常は数分(例えば、10分)〜数時間(例えば、6時間)である。
・・溶融エステル交換法
次に、ポリカーボネート樹脂を溶融エステル交換法で製造する場合について説明する。溶融エステル交換法では、例えば、炭酸ジエステルとジヒドロキシ化合物とのエステル交換反応を行う。
ジヒドロキシ化合物は、前述の通りである。
一方、炭酸ジエステルとしては、例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ−tert−ブチルカーボネート等の炭酸ジアルキル化合物;ジフェニルカーボネート;ジトリルカーボネート等の置換ジフェニルカーボネートなどが挙げられる。なかでも、ジフェニルカーボネート及び置換ジフェニルカーボネートが好ましく、ジフェニルカーボネートが特に好ましい。なお、炭酸ジエステルは1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとの比率は所望のポリカーボネート樹脂が得られる限り任意であるが、ジヒドロキシ化合物1モルに対して、炭酸ジエステルを等モル量以上用いることが好ましく、なかでも1.01モル以上用いることがより好ましい。なお、上限は通常1.30モル以下である。このような範囲にすることで、末端水酸基量を好適な範囲に調整できる。
ポリカーボネート樹脂では、その末端水酸基量が、熱安定性、加水分解安定性、色調等に大きな影響を及ぼす傾向がある。このため、公知の任意の方法によって末端水酸基量を必要に応じて調整してもよい。エステル交換反応においては、通常、炭酸ジエステルと芳香族ジヒドロキシ化合物との混合比率、エステル交換反応時の減圧度などを調整することにより、末端水酸基量を調整したポリカーボネート樹脂を得ることができる。なお、この操作により、通常は得られるポリカーボネート樹脂の分子量を調整することもできる。
炭酸ジエステルとジヒドロキシ化合物との混合比率を調整して末端水酸基量を調整する場合、その混合比率は前記の通りである。
また、より積極的な調整方法としては、反応時に別途、末端停止剤を混合する方法が挙げられる。この際の末端停止剤としては、例えば、一価フェノール類、一価カルボン酸類、炭酸ジエステル類などが挙げられる。なお、末端停止剤は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
溶融エステル交換法によりポリカーボネート樹脂を製造する際には、通常、エステル交換触媒が使用される。エステル交換触媒は任意のものを使用できる。なかでも、例えばアルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物を用いることが好ましい。また補助的に、例えば塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物、アミン系化合物などの塩基性化合物を併用してもよい。なお、エステル交換触媒は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
溶融エステル交換法において、反応温度は通常100〜320℃である。また、反応時の圧力は通常2mmHg以下の減圧条件である。具体的操作としては、前記の条件で、芳香族ヒドロキシ化合物等の副生成物を除去しながら、溶融重縮合反応を行えばよい。
溶融重縮合反応は、バッチ式、連続式の何れの方法でも行うことができる。バッチ式で行う場合、反応基質、反応媒、触媒、添加剤等を混合する順番は、所望のポリカーボネート樹脂が得られる限り任意であり、適切な順番を任意に設定すればよい。ただし、なかでも、ポリカーボネート樹脂及びポリカーボネート樹脂組成物の安定性等を考慮すると、溶融重縮合反応は連続式で行うことが好ましい。
溶融エステル交換法においては、必要に応じて、触媒失活剤を用いてもよい。触媒失活剤としてはエステル交換触媒を中和する化合物を任意に用いることができる。その例を挙げると、イオウ含有酸性化合物及びその誘導体などが挙げられる。なお、触媒失活剤は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
触媒失活剤の使用量は、前記のエステル交換触媒が含有するアルカリ金属又はアルカリ土類金属に対して、通常0.5当量以上、好ましくは1当量以上であり、また、通常10当量以下、好ましくは5当量以下である。更には、ポリカーボネート樹脂に対して、通常1ppm以上であり、また、通常100ppm以下、好ましくは20ppm以下である。
ポリカーボネート樹脂(A)の分子量は任意であり、適宜選択して決定すればよいが、粘度平均分子量[Mv]で10,000〜40,000であることが好ましい。粘度平均分子量が10,000未満では、機械的強度が十分ではなくなる傾向があり、粘度平均分子量が40,000を超えると、流動性が悪く成形性が悪くなる傾向にある。粘度平均分子量は、より好ましくは16,000〜40,000であり、さらに好ましくは18,000〜30,000、特には13,500〜20,500である。分子量をこのような範囲に調節するには、後記するような分子量調節剤の量を制御する等の公知の方法で可能である。
ここで、粘度平均分子量[Mv]とは、溶媒としてメチレンクロライドを使用し、ウベローデ粘度計を用いて温度20℃での極限粘度[η](単位dl/g)を求め、Schnellの粘度式、すなわち、η=1.23×10−4Mv0.83 から算出される値を意味する。また極限粘度[η]とは、各溶液濃度[C](g/dl)での比粘度[ηsp]を測定し、下記式により算出した値である。
Figure 2014139266
・ポリカーボネート樹脂に関するその他の事項
ポリカーボネート樹脂の末端水酸基濃度は任意であり、適宜選択して決定すればよいが、通常1,000ppm以下、好ましくは800ppm以下、より好ましくは600ppm以下である。このようにすることで、ポリカーボネート樹脂組成物の滞留熱安定性及び色調をより向上させることができる。また、その下限は、特に溶融エステル交換法で製造されたポリカーボネート樹脂では、通常10ppm以上、好ましくは30ppm以上、より好ましくは40ppm以上である。これにより、分子量の低下を抑制し、ポリカーボネート樹脂組成物の機械的特性をより向上させることができる。
なお、末端水酸基濃度の単位は、ポリカーボネート樹脂の質量に対する、末端水酸基の質量をppmで表示したものである。その測定方法は、四塩化チタン/酢酸法による比色定量(Macromol.Chem.88 215(1965)に記載の方法)にて行われる。
なお、ポリカーボネート樹脂(A)は、ポリカーボネート樹脂の1種のみを含む態様に限定されず、モノマー組成、分子量、末端水酸基濃度等が異なるポリカーボネート樹脂の2種以上を混合して使用してもよい。また、ポリカーボネート樹脂に他の熱可塑性樹脂を混合したアロイ(混合物)として組み合わせて用いてもよい。
さらに、例えば、難燃性や耐衝撃性をさらに高める目的で、ポリカーボネート樹脂を、シロキサン構造を有するオリゴマーまたはポリマーとの共重合体;熱酸化安定性や難燃性をさらに向上させる目的でリン原子を有するモノマー、オリゴマーまたはポリマーとの共重合体;熱酸化安定性を向上させる目的で、ジヒドロキシアントラキノン構造を有するモノマー、オリゴマーまたはポリマーとの共重合体;光学的性質を改良するためにポリスチレン等のオレフィン系構造を有するオリゴマーまたはポリマーとの共重合体;耐薬品性を向上させる目的でポリエステル樹脂オリゴマーまたはポリマーとの共重合体;等の、ポリカーボネート樹脂を主体とする共重合体として構成してもよい。
また、成形品の外観の向上や流動性の向上を図るため、ポリカーボネート樹脂は、ポリカーボネートオリゴマーを含有していてもよい。このポリカーボネートオリゴマーの粘度平均分子量[Mv]は、通常1,500以上、好ましくは2,000以上であり、また、通常9,500以下、好ましくは9,000以下である。さらに、含有されるポリカーボネートリゴマーは、ポリカーボネート樹脂(ポリカーボネートオリゴマーを含む)の30質量%以下とすることが好ましい。
さらにポリカーボネート樹脂は、バージン原料だけでなく、使用済みの製品から再生されたポリカーボネート樹脂(いわゆるマテリアルリサイクルされたポリカーボネート樹脂)であってもよい。前記の使用済みの製品としては、例えば、光学ディスク等の光記録媒体;導光板;自動車窓ガラス、自動車ヘッドランプレンズ、風防等の車両透明部材;水ボトル等の容器;メガネレンズ;防音壁、ガラス窓、波板等の建築部材などが挙げられる。また、製品の不適合品、スプルー、ランナー等から得られた粉砕品またはそれらを溶融して得たペレット等も使用可能である。
ただし、再生されたポリカーボネート樹脂は、ポリカーボネート樹脂組成物に含まれるポリカーボネート樹脂のうち、80質量%以下であることが好ましく、なかでも50質量%以下であることがより好ましい。再生されたポリカーボネート樹脂は、熱劣化や経年劣化等の劣化を受けている可能性が高いため、このようなポリカーボネート樹脂を前記の範囲よりも多く用いた場合、色相や機械的物性を低下させる可能性があるためである。
[芳香族ビニル−ジエン−シアン化ビニル系共重合体(B)]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物に用いる芳香族ビニル−ジエン−シアン化ビニル系共重合体(B)は、芳香族ビニル単量体とジエン及びシアン化ビニル単量体、および必要に応じて他の共重合可能な単量体からなる。
ジエンとしては、ブタジエン、イソプレン等であり、好ましくは予め重合されたジエン系ゴムであり、例えばポリブタジエン系ゴム、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体系ゴム、スチレン−ブタジエン共重合体系ゴム、ポリイソプレン系ゴムなどを挙げることができ、これらは一種または二種以上併用することができる。特に好ましくは、ポリブタジエン系ゴムおよび/またはスチレン−ブタジエン共重合体系ゴムが用いられる。
シアン化ビニル単量体としてはアクリロニトリルおよびメタクリロニトリルなどが挙げられ、特にアクリロニトリルが好ましい。
芳香族ビニル単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−t−ブチルスチレンおよびビニルトルエンなどが挙げられ、特にスチレンおよび/またはα−メチルスチレンが好ましい。
共重合組成比については特に制限はないが、成形加工性、耐衝撃性の点から共重合体100質量部に対してジエン系ゴム10〜70質量部が好ましい。また同様にシアン化ビニル単量体の量は8〜40質量部が好ましい。芳香族ビニル単量体は、20〜80質量部の範囲が好ましい。
上記共重合体の製造方法に関しては、特に制限なく、乳化重合、溶液重合、塊状重合、懸濁重合あるいは塊状・懸濁重合等の公知の方法が用いられる。
芳香族ビニル−ジエン−シアン化ビニル系共重合体(B)の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、3質量以上100質量部以下である。このように芳香族ビニル−ジエン−シアン化ビニル系共重合体(B)を含有することで、樹脂組成物の耐衝撃性と流動性を向上させることができる。より好ましい含有量は5〜70質量部、特には10〜50質量部である。
[無水マレイン酸−N−置換マレイミド−スチレン共重合体(C)]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物に用いる無水マレイン酸−N−置換マレイミド−スチレン共重合体(C)は、無水マレイン酸単位とN−置換マレイミド系単位とスチレン系単位、および必要に応じて他の共重合可能な単量体単位からなる。
本発明において、無水マレイン酸−N−置換マレイミド−スチレン共重合体(C)は無水マレイン酸単位の量を特定量にすることが重要であり、無水マレイン酸単位の含量は3質量%超であることが必要である。3質量%以下では、ポリカーボネート樹脂組成物を成形した成形品の軋み音が発生しやすくなる。無水マレイン酸の含量は、好ましくは4質量%以上であり、さらには5質量%以上であることが好ましい。無水マレイン酸の含量の上限は、20質量%以下であることが好ましく、より好ましくは15質量%以下であり、さらには10質量%以下であることが好ましい。
上記N−置換マレイミド系単位のための単量体としては、例えば、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−プロピルマレイミド、N−イソプロピルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−ナフチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−(p−ヒドロキシフェニル)マレイミド、N−(アルキル置換フェニル)マレイミドなどが例示できる。これらは単独で用いてもよいし2種以上を併用してもよい。また、
これらのなかで、N−フェニルマレイミドおよびN−シクロヘキシルマレイミドが好ましく、N−フェニルマレイミドがさらに好ましい。
また、N−置換マレイミド系単位は不飽和ジカルボン酸無水物単位をアミンでイミド化することによっても得ることができる。不飽和ジカルボン酸無水物としては、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、アコニット酸等の無水物があり、マレイン酸無水物が特に好ましい。また、これらの酸無水物は単独で用いてもよいし、2種類以上を併用しても差し支えないが、マレイン酸無水物を単独で使用することが特に好ましい。
アミンによってイミド化を行う際のアミンとしては、第1級アミン或いはアンモニアが好ましく用いられる。
第1級アミンの具体例としてメチルアミン、エチルアミン、n−プロピルアミン、iso−プロピルアミン、n−ブチルアミン、n−ペンチルアミン、n−ヘキシルアミン、n−オクチルアミン、シクロヘキシルアミン、デシルアミン等のアルキルアミン及びクロル又はブロム置換アルキルアミン、アニリン、トルイジン、ナフチルアミン等の芳香族アミンおよびクロル又はブロム置換芳香族アミン等が挙げられ、これらの中でアニリン、シクロヘキシルアミンが特に好ましい。また、これらの第1級アミンは単独で用いてもよいし、2種類以上を併用しても差し支えない。
上記スチレン系単位のための単量体としては、例えばスチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、α−エチルスチレン、メチル−α−メチルスチレン、ジメチルスチレン、t−ブチルスチレン、モノブロモスチレン、ジブロモスチレン、トリブロモスチレン、クロロスチレンおよびジクロロスチレンなどを例示できる。これらは単独で用いてもよいし2種以上を併用してもよい。
これらのなかでは、スチレン、α−メチルスチレンおよびp−メチルスチレンが好ましい。
無水マレイン酸−N−置換マレイミド−スチレン共重合体(C)は、上記無水マレイン酸、N−置換マレイミド系単量体及びスチレン系単量体の以外の他の単量体と共重合していてもよい。上記単量体と共重合可能なビニル単量体としては、例えばアクリロニトリル、メタクリロニトリル、クロロアクリロニトリル等のシアン化ビニル類、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート等のアクリル酸エステル類、アクリル酸、メタクリル酸等のビニルカルボン酸類等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし2種以上を併用してもよい。
無水マレイン酸−N−置換マレイミド−スチレン共重合体(C)の各単位の量は、無水マレイン酸の共重合量が3質量%超であれば制限はないが、3成分の合計100質量%基準で、無水マレイン酸残基単位:3質量%超〜20質量%、N−置換マレイミド残基単位:30〜70質量%、スチレン残基単位:30〜70質量%の範囲にあることが好ましい。
無水マレイン酸−N−置換マレイミド−スチレン共重合体(C)の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、1質量部以上13質量部未満であり、好ましくは1.5質量部以上、より好ましくは2質量部以上、さらに好ましくは3質量部以上であり、好ましくは12質量部以下、より好ましくは11質量部以下である。含有量が1質量部未満の場合は、軋み音が発生しやすく、また、熱老化試験後の変色が大きく、13質量部以上の場合は、耐衝撃性が低下する。
[シロキサン系エラストマー(D)]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物に用いるシロキサン系エラストマー(D)としては、ポリオルガノシロキサンゴムなどのシリコーン系ゴムが挙げられるが、特には、ポリシロキサンゴム成分にこれと共重合可能な単量体成分とをグラフト共重合したグラフト共重合体が好ましい。グラフト共重合体の製造方法としては、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合などのいずれの製造方法であってもよく、共重合の方式は一段グラフトでも多段グラフトであってもよい。
ポリオルガノシロキサンゴム成分とグラフト共重合可能な単量体成分の具体例としては、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、(メタ)アクリル酸エステル化合物、(メタ)アクリル酸化合物、グリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル化合物;マレイミド、N−メチルマレイミド、N−フェニルマレイミド等のマレイミド化合物;マレイン酸、フタル酸、イタコン酸等のα,β−不飽和カルボン酸化合物やそれらの無水物(例えば無水マレイン酸等)などが挙げられる。これらの単量体成分は1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの中でも、機械的特性や表面外観の面から、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、(メタ)アクリル酸エステル化合物、(メタ)アクリル酸化合物が好ましく、より好ましくは(メタ)アクリル酸エステル化合物である。(メタ)アクリル酸エステル化合物の具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル等を挙げることができる。
ポリオルガノシロキサンゴム成分を共重合したグラフト共重合体は、耐衝撃性や表面外観の点からコア/シェル型グラフト共重合体タイプのものが好ましい。なかでも、ポリオルガノシロキサンゴムとポリアルキルアクリレートゴムとからなるIPN型複合ゴムから選ばれる少なくとも1種のゴム成分をコア層とし、その周囲に(メタ)アクリル酸エステルを共重合して形成されたシェル層からなる、コア/シェル型グラフト共重合体が特に好ましい。上記コア/シェル型グラフト共重合体において、ポリオルガノシロキサンゴム成分を40〜80質量%含有するものが好ましく、50〜70質量%含有するものがさらに好ましい。
シロキサン系エラストマー(D)の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、1〜15質量部である。このように、エラストマーを含有することで、ポリカーボネート樹脂組成物の耐衝撃性を改良することができる。
シロキサン系エラストマー(D)の含有量は、1質量部より少ないと、エラストマーによる耐衝撃性向上効果が不十分となりやすく、15質量部を超えると、成形品の外観不良や耐熱性の低下が生じやすい。含有量は好ましくは1.5質量部以上であり、より好ましくは2質量部以上であり、また、その上限は、好ましくは12質量部以下であり、より好ましくは10質量部以下である。
[その他の成分]
ポリカーボネート樹脂組成物は、所望の諸物性を著しく損なわない限り、必要に応じて、上述したもの以外にその他の成分を含有していてもよい。その他の成分の例を挙げると、ポリカーボネート樹脂(A)、芳香族ビニル−ジエン−シアン化ビニル系共重合体(B)、無水マレイン酸−N−置換マレイミド−スチレン共重合体(C)およびシロキサン系エラストマー(D)以外の樹脂、各種樹脂添加剤などが挙げられる。なお、その他の成分は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていてもよい。
・その他の樹脂
その他の樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET樹脂)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT樹脂)、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT樹脂)等の熱可塑性ポリエステル樹脂;
ポリスチレン樹脂(PS樹脂)、高衝撃ポリスチレン樹脂(HIPS)、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリル−スチレン−アクリルゴム共重合体(ASA樹脂)、アクリロニトリル−エチレンプロピレン系ゴム−スチレン共重合体(AES樹脂)等のスチレン系樹脂;
ポリエチレン樹脂(PE樹脂)、ポリプロピレン樹脂(PP樹脂)、環状シクロオレフィン樹脂(COP樹脂)、環状シクロオレフィン共重合体(COP)樹脂等のポリオレフィン樹脂;
ポリアミド樹脂(PA樹脂);ポリイミド樹脂(PI樹脂);ポリエーテルイミド樹脂(PEI樹脂);ポリウレタン樹脂(PU樹脂);ポリフェニレンエーテル樹脂(PPE樹脂);ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS樹脂);ポリスルホン樹脂(PSU樹脂);ポリメタクリレート樹脂(PMMA樹脂);等が挙げられる。
なお、その他の樹脂は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていてもよい。
・樹脂添加剤
樹脂添加剤としては、例えば、熱安定剤、酸化防止剤、離型剤、紫外線吸収剤、染顔料、難燃剤、滴下防止剤、帯電防止剤、防曇剤、滑剤、アンチブロッキング剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤などが挙げられる。なお、樹脂添加剤は1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていてもよい。
[ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法]
ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法に制限はなく、公知の熱可塑性樹脂組成物の製造方法を広く採用できる。
具体例を挙げると、ポリカーボネート樹脂(A)、芳香族ビニル−ジエン−シアン化ビニル系共重合体(B)、無水マレイン酸−N−置換マレイミド−スチレン共重合体(C)およびシロキサン系エラストマー(D)、並びに、必要に応じて配合されるその他の成分を、例えばタンブラーやヘンシェルミキサーなどの各種混合機を用い予め混合した後、バンバリーミキサー、ロール、ブラベンダー、単軸混練押出機、二軸混練押出機、ニーダーなどの混合機で溶融混練する方法が挙げられる。
また、例えば、各成分を予め混合せずに、または、一部の成分のみを予め混合し、フィーダーを用いて押出機に供給して溶融混練して、ポリカーボネート樹脂組成物を製造することもできる。
また、例えば、一部の成分を予め混合し押出機に供給して溶融混練することで得られる樹脂組成物をマスターバッチとし、このマスターバッチを再度残りの成分と混合し、溶融混練することによってポリカーボネート樹脂組成物を製造することもできる。
また、例えば、分散し難い成分を混合する際には、その分散し難い成分を予め水や有機溶剤等の溶媒に溶解又は分散させ、その溶液又は分散液と混練するようにすることで、分散性を高めることもできる。
[成形体]
成形体を製造する方法に制限はなく、ポリカーボネート樹脂組成物について一般に採用されている成形法を任意に採用できる。その例を挙げると、射出成形法、超高速射出成形法、射出圧縮成形法、二色成形法、ガスアシスト等の中空成形法、断熱金型を使用した成形法、急速加熱金型を使用した成形法、発泡成形(超臨界流体も含む)、インサート成形、IMC(インモールドコーティング成形)成形法などが挙げられる。成形が容易なことと生産性の観点から射出成形、射出圧縮成形が好ましい。
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、軋み音の発生が抑制された成形体を提供することができる。このような成形体の好ましい態様として、以下のような勘合構造を有する樹脂成形品を挙げることが出来る。
すなわち、第1の樹脂成形体および第2の樹脂成形体を、それぞれに設けた嵌合用部を嵌合させることにより結合した樹脂成形品であって、
第1または第2の樹脂成形体の少なくとも一方は、本発明のポリカーボネート樹脂組成物からなり、
第1または第2の樹脂成形体の嵌合により他方と接触する表面の少なくとも一部に、凸状部またはシボを設けてなる樹脂成形品である。
以下、この様な樹脂成形品について説明する。
上記第1および上記第2の成形体は、その嵌合用部を嵌合させて結合して成形品(製品)とされる。この結合は全てを嵌合に依らずに一部にネジ止め等の他の結合手段を併用することも可能である。
このような成形品は、軋み音の発生が著しく低減され、かつ高温下に長時間置かれた場合においても軋み音低減効果が維持されるので、特に自動車室内に搭載される、嵌合組立製品として極めて好適に使用できる。このような製品としては、車載用ディスプレイ、カーナビ、カーオーディオ、コンソールパネル、ダッシュボードまたはドアトリム用部品等を好ましく例示することができる。
[樹脂成形品の嵌合構造]
図3は、上記した樹脂成形品の一例である車載用ディスプレイ等のための筐体の側断面図である。一般に、車載用ディスプレイ用等の筐体は、上下二つの筐体部材に分割されていて、第1の成形体である上筐体1と第2の成形体である下筐体2とからなり、樹脂成形体の少なくとも一方は本発明のポリカーボネート樹脂組成物から成形され、内装部品等の組み立て後の最終工程で、それぞれに一体成形された嵌合用部3、4で嵌合して両者を結合合体することにより、作製される。
図2は、このような嵌合部の様子の一例を示す要部断面図であって、上筐体1の嵌合用部3と下筐体2の嵌合用部4との嵌合状態の部分断面図である。図2の場合、嵌合用部は、上筐体1側の嵌合用部3が凸状嵌合用部であり、下筐体2の嵌合用部4が凹状嵌合用部によって構成されている。また、図2は、上筐体1側の嵌合用部3に凸状の係止用爪5が設けられ、下筐体2の嵌合用部4には凹状の係止部6を設けた例であるが、凹状の係止部6に凸状の係止用爪5が固定され、上筐体1と下筐体2とは強固に結合される。
しかしながら、このような強固な嵌合構造であっても、嵌合用部3と嵌合用部4とは、また上筐体1と下筐体2とが当接する接触部分9、10は、自動車室内等では熱変動による収縮膨張のため変形が生じやすく、振動により軋み音が発生することとなる。
このような第1または第2の樹脂成形体の嵌合により他方と接触する表面の少なくとも一部に、凸状部またはシボを設けて、面接触による表面剥がれを防止し、さらに、本発明のポリカーボネート樹脂組成物の軋み音抑制効果と合わせて、軋み音の発生を長期にわたり著しく低減させることが可能である。
図1は、上記した樹脂成形品の嵌合用部の表面形状の一例を示す要部断面図である。図1に示すように、第1の成形体(上筐体)1の嵌合用部3の表面7には、第2の成形体(下筐体)2の嵌合用部4と接触する部分に、凸状部8が形成されている。図1の場合、凸状部が設けてあるが、接触表面7にはシボを設けることでもよい。このような構成の嵌合部とすることで、嵌合部表面における引っ掛かりと開放の現象を低減することが可能となる。なお、凸状部またはシボの形成は、図1の例に限ることなく、嵌合用部3、4あるいは係止用爪5または凹状の係止部6、上筐体1と下筐体2とが当接する接触部分9、10等のいかなる接触面に設けてもよい。凸状部またはシボの形成は、第1の成形体(上筐体)1と第2の成形体(下筐体)2のうち、硬度の低い方の成形体側に設けることが、軋み防止効果が高いので特に好ましい。
凸状部としては、その形状に特に制限はなく、半球状、針状、円錐状、台錘状、突起状等が挙げられ、径にして例えば0.1mm〜3mm程度が好ましく、より好ましくは0.1mm〜2mm程度、また、高さは、0.05mm〜1mm程度が好ましく、より好ましくは0.1mm〜0.6mm程度である。
またシボとしては、2μm〜100μm(=0.1mm)程度の成形品深さを有するものが好ましい。
凸状部またはシボは、例えば射出成形用金型に研削或いはシボ加工等によりそのような形状に対応するような加工を施し、これを使用して成形することにより製造することができる。
以下、本発明を実施例により説明する。
実施例及び比較例に用いた各原料成分は、以下の表1の通りである。
Figure 2014139266
[実施例1〜5、比較例1〜11]
上記各成分を下記表2〜4に記載の割合で配合し、タンブラーにて20分混合した後、1ベントを備えた日本製鋼所社製二軸押出機(TEX30HSST)に供給し、スクリュー回転数200rpm、吐出量15kg/時間、バレル温度250℃の条件で混練し、ストランド状に押出された溶融樹脂組成物を水槽にて急冷し、ペレタイザーを用いてペレット化してポリカーボネート樹脂組成物のペレットを得た。
<軋み音の評価>
(軋み音発生の予備評価)
上記で得られたポリカーボネート樹脂組成物のペレットを80℃で5時間乾燥させた後、射出成形機(住友重機械工業社製、サイキャップM−2、型締め力75T)を用い、シリンダー温度250℃、金型温度70℃の条件で射出成形して、リング状底面形状を有する円筒状試験片(外径26mmφ、内径20mmφ、肉厚3mm、高さ15mm)を作成した。
上記円筒状試験片の底面同士を上下に重ね合わせ、上部を加圧荷重450Nで押しつけながら、下部を線速度0.001m/secで60秒間回転させて滑らせ、きしみ音の発生有無について評価した。
(軋み音発生の評価)
結果を、以下の基準で評価した。
○:軋み音の発生が確認されない。
△:30秒以上回転後、軋み音が発生。
×:評価直後から30秒以内で軋み音が発生。
<各種物性の評価>
[試験片の作製]
また、得られたペレットを80℃で5時間乾燥させた後、住友重機械工業社製射出成形機(サイキャップM−2、型締め力75T)を用いて、シリンダー温度260℃、金型温度80℃の条件で、ISO多目的試験片(4mm厚)、およびタテ90mm×ヨコ50mm×厚さ3mmの平板状試験片を射出成形した。
(1)樹脂組成物のメルトボリュームレート(MVR):
得られたISO多目的試験片について、MVR(単位:cm/10分)をJIS K7210に準拠し、温度260℃、荷重11.8Nで測定した。
(2)密度:
得られたISO多目的試験片について、ISO1183に準拠して、密度(単位:g/cm)を測定した。
(3)ノッチ付きシャルピー衝撃強度:
上記ISO多目的試験片(3mm厚)を用い、ISO179−1及び179−2に準拠して、23℃及び−40℃の環境下において、ノッチ付きシャルピー衝撃強度(単位:kJ/m)を測定した。
(4)引張降伏強度、引張降伏歪み、破壊呼び歪:
上記ISO多目的試験片(4mm厚)を用い、ISO527−1及び527−2に準拠して、引張降伏強度(単位:MPa)、引張降伏歪(単位:%)、破壊呼び歪(単位:%)を測定した。
(5)曲げ弾性率、曲げ強度:
上記ISO多目的試験片(4mm厚)を用いて、ISO178に準拠して、23℃の温度で曲げ弾性率(単位:MPa)及び曲げ強度(単位:MPa)を測定した。
(6)荷重たわみ温度(DTUL):
耐熱性の評価として、上記ISO多目的試験片(4mm厚)を用い、ISO75−1及びISO75−2に準拠して荷重1.80MPaの条件で荷重たわみ温度(単位:℃)を測定した。
(7)耐熱老化試験:
上記3mm厚の平板状試験片を、100℃の空気雰囲気中で500時間保存し、この保存前後のYI値(イエローネスインデックス)及び色相E値の変化をそれぞれΔYI、ΔEとして算出し評価した。ΔYIが小さくなるほど黄変度の変化が小さいことを示し、ΔEが小さくなるほど色相の変化が小さいことを示し、いずれも耐熱老化性が優れることを意味する。
L値及びYI値は、JIS K−7105に準じ、日本電色工業(株)製のSE2000型分光式色彩計で、反射法により測定した。その他の諸値(a、b、L値、ΔE等)についてもYIと同様、式:ΔE=((ΔL)+(Δa)+(Δb)1/2 から各々の値を求めた。
Figure 2014139266
Figure 2014139266
Figure 2014139266
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、軋み音の発生が長期にわたり著しく低減され、また耐衝撃性と表面外観に優れるので、自動車室内に搭載される、嵌合組立製品として極めて好適に使用でき、車載用ディスプレイ、カーナビ、カーオーディオ、コンソールパネル、ダッシュボードまたはドアトリム用部品等に広く利用でき、産業上の利用性は非常に高い。
1 第1の成形体
2 第2の成形体
3 嵌合用部
4 嵌合用部
8 凸状部

Claims (4)

  1. ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、芳香族ビニル−ジエン−シアン化ビニル系共重合体(B)30〜100質量部、無水マレイン酸含量が3質量%超である無水マレイン酸−N−置換マレイミド−スチレン共重合体(C)1質量部以上13質量部未満及びシロキサン系エラストマー(D)1〜15質量部を含有することを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。
  2. 請求項1に記載のポリカーボネート樹脂組成物を成形してなる成形品。
  3. 成形品が、自動車室内に搭載されるための成形品である請求項2に記載の成形品。
  4. 成形品が、車載用ディスプレイ、カーナビ、カーオーディオ、コンソールパネル、ダッシュボードまたはドアトリム用部品である請求項3に記載の成形品。
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