ところで、上述したようなInP系HBTの実用化にあたって、電流利得の経時劣化を抑制するために、よく知られているように、ベース層表面にレッジ構造を設けることは非常に重要である。実際、InP/InGaAs構造のHBTでは、InPからなるエミッタをInGaAsからなるベース層上に意図的に残し、ベース層表面を被覆することで表面再結合電流を抑制することで、50以上の高い電流利得と、デバイス接合温度125℃において1×108時間という実用に足るデバイス寿命を実現している(非特許文献3参照)。
前述したInP/GaAsSb構造のHBTにおいても同様に、実用化にはレッジ構造が不可欠となることが予測されるものの、レッジ構造に関する報告はほとんどない。このため、以下に、これまでInP/GaAsSb構造のHBTで報告されているエミッタ構造を用いてレッジ構造を作製する際の課題について説明する。
まず考えられるのが、InP/InGaAs構造HBTで使われているInPレッジ構造と同様の構造を用いる方法である。この構造としたHBTについて、図5を用いて説明する。図5に示すように、このHBTは、半絶縁性InPからなる基板201上に、InPからなるサブコレクタ層202が形成され、サブコレクタ層202の上にInPからなるコレクタ層203が形成されている。
また、コレクタ層203の上にp+−GaAsSbからなるベース層204が形成され、ベース層204の上にn−InPからなる第1エミッタ層205が形成され、第1エミッタ層205の上にn−InGaAsからなるエッチング停止層206が形成され、エッチング停止層206の上にn−InPからなる第2エミッタ層207が形成され、第2エミッタ層207の上にn−InGaAsからなるエミッタコンタクト層208が形成されている。第1エミッタ層205の周辺部分でベース層204の表面を覆うレッジ構造としている。このHBTの構造をエミッタ構造1とする。
このエミッタ構造1のHBTによれば、エミッタコンタクト層208、第2エミッタ層207およびエッチング停止層206を選択的にウェットエッチングすることで、容易に第1エミッタ層205の周辺部をレッジ層として用いるレッジ構造が実現できる。また、InPは酸化されにくく、SiN膜で被覆することで、再現性良く表面を不活性させることが可能であるため、n−InPからなる第1エミッタ層205は、SiNからなる保護膜212で被覆されている。なお、保護膜212は、エッチング停止層206,第2エミッタ層207,エミッタコンタクト層208よりなるエミッタメサの側面も覆っている。
また、第1エミッタ層205は、レッジ層を完全に空乏化させるために、層厚を15nm程度にすることが多い。レッジ層の厚さを十分に薄くすることで、エミッタからレッジを介してベース層表面に流れるレッジリーク電流を解消することが可能となる。
ここで、ベース電極210は、第1エミッタ層205の上に形成され、第1エミッタ層205内を拡散することでベース層204に接続している。ところで、このように形成しているベース電極210は、基板201の法線方向(垂直方向)だけでなく、基板201の平面方向(水平方向)にも拡散する。従って、少なくとも0.15μm以上は、第1エミッタ層205の水平方向にベース電極210が拡散することが予測される。このため、エミッタメサとベース電極210との距離(エミッタ・ベース間距離)を十分設ける必要がある。
しかしながら、エミッタ・ベース間距離の増加は、ベース・コレクタ容量の増大を招き、高周波特性を劣化させてしまう。また、前述したように、GaAsSbからなるベース層204の上にInPからなるエミッタ205を成長するエミッタ構造1では、エミッタ・ベース接合において良好な結晶品質を得ることが難しく、再結合電流の発生により、電流利得が劣化してしまう問題もある。
次に、エミッタ層にInAlGaAsを用いたInP/GaAsSb構造のHBT(非特許文献2参照)を用いてレッジ構造を作製する場合について、図6を用いて説明する。図6に示すように、このHBTは、半絶縁性InPからなる基板301上にInPからなるサブコレクタ層302が形成され、サブコレクタ層302上にInPからなるコレクタ層303が形成されている。
また、コレクタ層303上に、p+−GaAsSbからなる層厚50nmのベース層304が形成され、ベース層304の上にn−InAlGaAsからなる層厚70nmのエミッタ層305が形成され、エミッタ層305上にn+−InPからなる第1エミッタコンタクト層306が形成され、第1エミッタコンタクト層306上にn+−InGaAsからなる第2エミッタコンタクト層307が形成されている。エミッタ層305の周辺部でベース層304の表面を覆うレッジ構造としている。このHBTの構造をエミッタ構造2とする。なお、エミッタ層305は、SiNからなる保護膜311で被覆され、第1エミッタコンタクト層306,第2エミッタコンタクト層307よりなるエミッタメサの側面も、保護膜311で覆われている。
このエミッタ構造2では、n−InAlGaAsからなるエミッタ層305を、p+−GaAsSbからなるベース層304上に意図的に残してレッジを形成している。なお、n+−InPからなる第1エミッタコンタクト層306をレッジ層上に残すと、レッジリーク電流の元となるため当然除去する必要がある。このエミッタ構造2では、第1エミッタコンタクト層306とベース層304との間にn−InAlGaAsからなるエミッタ層305を挿入しているため、エミッタ・ベース接合において良好な結晶品質が得られ、再結合電流が抑制され、電流利得の向上が期待できる。
しかしながら、エミッタ構造2でレッジ構造を作製した場合、エミッタ層305が層厚70nmと厚いため、空乏化が難しく、エミッタ層305からこの周辺部のレッジ層の表面上を通って、ベース層304の表面にレッジリーク電流が流れてしまい、電流利得が劣化してしまう。また、エミッタ層305を構成するInAlGaAsは、活性なAl元素を含むため、大気に触れると非常に酸化しやすい。このため、保護膜311などにより再現性よくレッジ層表面を不活性化することは難しいという課題もある。
更に、レッジ構造を形成する際、ベース電極309をエミッタ層305内に拡散させ、ベース層304に接触させる必要があるが、ベース電極309は少なくともエミッタ層305の厚さ分だけ、エミッタメサ方向に拡散するため、エミッタ・ベース間距離を十分に設けなければ、レッジリーク電流を発生させてしまい、電流利得の著しい低下を招く。また、エミッタ・ベース間距離を十分に設けることは、ベース・コレクタ容量の増大につながり、高周波特性を劣化させる恐れがある。
上述したエミッタ構造2では、ベース層304とベース電極309を接続させるために、ベース電極309をエミッタ層305内に拡散させているが、例えば、一部のエミッタ層305をエッチングしてベース層304を露出させ、ここにベース電極309を形成する方法も考えられる。しかしながら、一般的にInAlGaAsとGaAsSbとの選択エッチングは難しく、InAlGaAsからなるエミッタ層305のエッチングの際にある程度のGaAsSbからなるベース層304をエッチングしてしまう。この結果、ベース抵抗の増大を招き、高周波特性を劣化させてしまう。
以上に説明したように、上述した技術では、GaAsSbからなるベース層およびInPからなるコレクタ層によるHBTにおいて、レッジ構造を適用する場合、高い電流利得が得にくく、高周波特性の劣化を招きやすいという問題があった。
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、GaAsSbからなるベース層およびInPからなるコレクタ層を用いたレッジ構造を有するHBTを、高い電流利得が実現できると共に高周波特性に優れた状態で形成できるようにすることを目的とする。
本発明に係るヘテロ接合バイポーラトランジスタは、半絶縁性のInPからなる基板と、基板の上に形成された化合物半導体からなるサブコレクタ層と、サブコレクタ層の上にサブコレクタ層より小さな面積で形成された化合物半導体からなるコレクタ層と、GaAsSb,AlGaAsSb,およびInGaAsSbの中より選択された化合物半導体からなり、コレクタ層の上に形成されたベース層と、ベース層の上にベース層を覆って形成されたInAlGaAsからなる第1エミッタ層と、第1エミッタ層の上にベース層より小さな面積で形成されたInPからなる第2エミッタ層と、第2エミッタ層の上に第2エミッタ層より小さな面積で形成された化合物半導体からなるエミッタコンタクト層と、コレクタ層の周囲のサブコレクタ層の上に形成されたコレクタ電極と、第2エミッタ層の周囲の第1エミッタ層の上に形成されてベース層に接続するベース電極と、エミッタコンタクト層の上に形成されたエミッタ電極とを少なくとも備える。なお、ベース電極は、第1エミッタ層を拡散してベース層に接続している。
上記ヘテロ接合バイポーラトランジスタにおいて、第1エミッタ層は、層厚が2nm〜5nmの範囲とされていればよい。また、第2エミッタ層は、層厚が10nm〜30nmの範囲とされていればよい。また、第1エミッタ層を構成するInAlGaAsにおけるAl組成は、22%〜47%の範囲にされていればよい。
以上説明したことにより、本発明によれば、GaAsSbからなるベース層およびInPからなるコレクタ層を用いたレッジ構造を有するHBTを、高い電流利得が実現できると共に高周波特性に優れた状態で形成できるようになるという優れた効果が得られる。
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。図1は、本発明の実施の形態におけるヘテロ接合バイポーラトランジスタの構成を示す断面図である。
このヘテロ接合バイポーラトランジスタは、まず、半絶縁性のInPからなる基板101と、基板101の上に形成された化合物半導体からなるサブコレクタ層102と、サブコレクタ層102の上にサブコレクタ層102より小さな面積で形成された化合物半導体からなるコレクタ層103と、コレクタ層103の上に形成されたベース層104とを備える。ベース層104は、GaAsSb,AlGaAsSb,およびInGaAsSbの中より選択された化合物半導体から構成されていればよい。以下では、ベース層104がGaAsSbから構成された場合を例にして説明するが、AlGaAsSbおよびInGaAsSbの場合も同様である。
また、ベース層104の上にベース層104を覆って形成されたInAlGaAsからなる第1エミッタ層105と、第1エミッタ層105の上にベース層104より小さな面積で形成されたInPからなる第2エミッタ層106と、第2エミッタ層106の上に第2エミッタ層106より小さな面積で形成された化合物半導体からなるエミッタコンタクト層107とを備える。基板101の平面方向(水平方向)に、エミッタコンタクト層107より広がっている第1エミッタ層105および第2エミッタ層106の部分が、レッジ構造を構成するレッジ層となる。
また、エミッタコンタクト層107の上に形成された第1エミッタ電極108と、第2エミッタ層106の周囲の第1エミッタ層105の上に形成されてベース層104に接続するベース電極109と、コレクタ層103の周囲のサブコレクタ層102の上に形成されたコレクタ電極112とを備える。ここで、ベース電極109は、第1エミッタ層105を拡散してベース層104に接続している。
また、エミッタコンタクト層107の側面、およびエミッタコンタクト層107形成領域より外側の第2エミッタ層106上面は、窒化シリコンからなる第1保護層110に被覆されている。また、素子全体が、ベンゾシクロブテン(BCB)からなる第2保護層113に埋め込まれている。なお、第1エミッタ電極108には、第2保護層113の上面を貫通する第2エミッタ電極111を介して配線114が接続している。
次に、本発明の実施の形態におけるヘテロバイポーラトランジスタの製造方法について、図2A〜図2Eを用いて説明する。図2A〜図2Eは、本発明の実施の形態におけるヘテロバイポーラトランジスタの製造方法を説明する各製造工程における断面の状態を示す構成図である。
まず、図2Aに示すように、半絶縁性InPからなる基板101の上に、n+−InP層102a、n−InP層103a、p+−GaAsSb層104a、アンドープのInAlGaAs層105a,アンドープのInP層106a、n+−InGaAs層107aを、例えば、公知の有機金属気相成長法により上記順序でエピタキシャル成長して形成する。例えば、InAlGaAs層105aは、層厚3nm程度に形成し、InP層106aは、層厚17nm程度とすればよい。また、n+−InGaAs層107aの上に、例えばスパッタ法および真空蒸着法などにより、タングステンを主成分とする金属を堆積して電極金属層109aを形成する。
次に、公知のリソグラフィ技術およびエッチング技術により電極金属層108aおよびn+−InGaAs層107aをメサ形状にパタニングし、図2Bに示すように、InP層106aの上にエミッタコンタクト層107および第1エミッタ電極108を形成する。
例えば、まず、平面視で1辺が0.25μm程度の矩形のレジストパタンを電極金属層108aの上に形成する。次いで、形成したレジストパタンをマスクとしてSF6ガスを用いた反応性イオンエッチング(Reactive ion etching:RIE)により、電極金属層108aを選択的にエッチングすることで、第1エミッタ電極108が形成できる。
また、引き続き、レジストパタンおよび第1エミッタ電極108をマスクとし、Cl2ガスを用いた反応性イオンエッチングにより、層厚方向に一部のn+−InGaAs層107aを選択的にエッチング除去し、更に、ウェットエッチングにより層厚方向に残りのn+−InGaAs層107aをエッチング除去することで、エミッタコンタクト層107が形成できる。Cl2ガスを用いた反応性イオンエッチングでは、層厚方向に8割程度n+−InGaAs層107aをエッチングすればよい。以上のことにより、所定のメサ形状に、第1エミッタ電極108およびエミッタコンタクト層107が形成できる。この段階で形成されたメサ形状を第1メサとする。
次に、第1メサを含むInP層106aの上に、スパッタ法またはプラズマCVD法などの堆積法により、窒化シリコンを堆積して窒化シリコン膜を形成する。例えば、膜厚150nm程度に窒化シリコン膜を形成する。次に、上記第1メサより広い面積のフォトレジストパタンを、上記第1メサの部分の上部にあたる窒化シリコン膜の上に形成する。このフォトレジストパタンの形成領域は、第1メサの周囲の外部ベースの領域を覆う範囲とする。また、上記フォトレジストパタンは、第1エミッタ電極108の上部にあたる中央部に、開口部を備える。
上述したフォトレジストパタンを形成した後、このフォトレジストパタンをマスクとし、SF6ガスを用いた反応性イオンエッチングにより窒化シリコン膜を選択的にエッチング除去し、図2Cに示すように、第1保護層110を形成する。第1保護層110により、エミッタコンタクト層107の側面、エミッタコンタクト層107形成領域より外側の第2エミッタ層106上面が覆われた状態とする。また、上記フォトレジストパタンを用い、塩酸系エッチャントを用いたウェットエッチングによりInP層106aを選択的にエッチングしてパタニングし、図2Cに示すように、第2エミッタ層106を形成する。このInPのエッチングにおいて、InAlGaAs層105aは、塩酸系エッチャントではあまりエッチングされないので、エッチング停止層として機能する。以上のことにより、所定のメサ形状に、第2エミッタ層106が形成できる。この段階で形成されたメサ形状を第2メサとする。
次に、第2エミッタ層106形成などに用いたフォトレジストパタンを除去した後、新たに、第2エミッタ電極およびベース電極の形成領域に開口部を備えるマスクパタンを形成し、この上に、Au,Pt,Ti,Ptを順次に蒸着して堆積し、Pt/Ti/Pt/Au構造の金属層を形成する。次いで、金属層の下に形成してあるマスクパタンを除去するリフトオフにより開口部に金属を残すことで、図2Cに示すように、ベース電極109および第2エミッタ電極111を形成する。InAlGaAs層105a表面のベース電極109が形成される箇所の近傍には、第2エミッタ層106および第1保護層110による段差があり、上述したリフトオフが比較的容易に行える。更に、ベース電極109がInAlGaAs層105aを拡散してp+−GaAsSb層104aに到達するように熱処理を行い、ベース電極109がp+−GaAsSb層104aに接続した状態とする。
次に、ベース電極109が形成されている領域を含む所定の範囲を覆うフォトレジストパタンを形成し、このフォトレジストパタンをマスクとし、p+−GaAsSb層104aを選択的に除去し、図2Dに示すように、ベース層104を形成する。以上のことにより、所定のメサ形状に、ベース層104が形成できる。この段階で形成されたメサ形状を第3メサとする。
また、n−InP層103aを選択的に除去し、図2Dに示すように、コレクタ層103を形成する。コレクタ層103は、平面視で基板101の側に行くほど面積が小さくなる逆テーパ形状に形成する。例えば、n−InP層103aをウェットエッチングすることで、ウェットエッチングにおける結晶異方性により、コレクタ層103は、基板101の平面に対して垂直な断面視で逆テーパ形状にすることができる。以上のことにより、所定のメサ形状に、コレクタ層103が形成できる。この段階で形成されたメサ形状を第4メサとする。なお、このように逆テーパ形状とすることで、BCメサ端におけるInPからなるベース側のコレクタ層103にかかる電界強度を緩和させることができ、耐圧特性が向上できる。
以上のように第3メサおよび第4メサを形成した後、コレクタ層103の周囲のn+−InP層102aの表面に、オーミック接続するコレクタ電極112を形成する。例えば、よく知られたリフトオフ法によりコレクタ電極112を形成すればよい。
次に、公知のフォトリソグラフィ技術およびエッチング技術によりn+−InP層102aをパタニングし、図2Eに示すように、サブコレクタ層102を形成する。サブコレクタ層102は、ベース層104(第3メサ)より大きな面積のメサ形状とする。この段階で形成されたメサ形状を、第5メサとする。
次に、第5メサ,第4メサ,第3メサ,第2メサ,および第1メサからなる素子部を埋め込む状態に第2保護層113を形成する。例えば、BCBをスピンコート法により塗布して塗布膜を形成し、この塗布膜を熱硬化させ、CF系ガスによるRIEによりエッチバックし、第2エミッタ電極111上部を露出させた状態とすればよい。第2保護層113は、上記素子部を埋め込む状態に形成する。この後、第2エミッタ電極111に接続する配線114を形成すれば、図1に示した本実施の形態におけるヘテロ接合バイポーラトランジスタが得られる。本実施の形態では、第1エミッタ層105は、層厚3nmに形成され、第2エミッタ層106は、層厚17nmに形成される。
上述した実施の形態によれば、ベース電極109は、第1エミッタ層105を拡散してベース層104に接続している。従って、ベース電極109は、第2エミッタ層106とは電気的に完全に分離されている。このため、ベース電極109を、第2エミッタ層106のメサ構造に対し、接触しない範囲で近設させることができる。この結果、実施の形態1によれば、レッジ構造としたヘテロ接合バイポーラトランジスタにおいて、ベース・コレクタ容量の増大が抑制でき、高周波特性を劣化させることがない。
また、本実施の形態では、InPよりなる第2エミッタ層106のエミッタコンタクト層107より広がっている領域の表面が、レッジ構造を構成しているレッジ層の上面となるので、活性なAl元素などを含まず、不活性化することが容易であり、レッジリーク電流抑制につながる。
また、実施の形態1では、GaAsSbからなるベース層104の上に、InAlGaAsからなる第1エミッタ層105を介してInPからなる第2エミッタ層106を形成しており、GaAsSbにInPが直接接触することがない状態としている。この結果、エミッタ・ベース接合において、再結合電流の発生が抑制され、高い電流利得が実現できるようになる。
ところで、ベース電極109は、水平方向にも拡散するが、この拡散は、第1エミッタ層105の水平方向にも拡散するものと考えられる。しかしながら、本実施の形態における第1エミッタ層105は層厚3nm程度であるため、レッジリーク電流の増加はほとんどないことが期待される。
以下、実際に作製したヘテロ接合バイポーラトランジスタのガンメルプロットを図3に示す。ここでは、エミッタコンタクト層107などによる第1メサの平面視の寸法(エミッタサイズ)は0.25μm×6μmとし、エミッタ・ベース間距離は0.15μmとした。なお、図3において、ICがベース−エミッタ電圧に対するコレクタ電流の変化を示し、IBがベース−エミッタ電圧に対するベース電流の変化を示している。また、βは、電流利得の変化を示している。
図3に示すように、エミッタ・ベース間距離が0.15mと微細であるにもかかわらず、ベース電流は低電流領域(VBE=0.4程度)でも十分低く、コレクタ電流とベース電流の交差は1nA程度でしか見られない。これらのことから、レッジリーク電流は十分に抑制されていることがわかる。また、従来報告(非特許文献2)のヘテロ接合バイポーラトランジスタに比べて、エミッタ幅が1/20のサイズであるにもかかわらず、従来報告よりもはるかに高い113という電流利得が実現されている(ベースシート抵抗は1100Ω/□)。
次に、エミッタサイズの差による電流利得の差について、図4を用いて説明する。図4は、本発明の実施の形態におけるヘテロ接合バイポーラトランジスタのコレクタ電流密度に対する電流利得の変化を示す特性図である。図4において、実線(a)は、エミッタサイズを0.25μm×6μmとした微細ヘテロ接合バイポーラトランジスタの特性を示し、破線(b)は、エミッタサイズを50μm×50μmとした大面積ヘテロ接合バイポーラトランジスタの特性を示している。何れのヘテロ接合バイポーラトランジスタも、前述した実施の形態のヘテロ接合バイポーラトランジスタの構成としている。
コレクタ電流密度0.1mA/m2以下の低電流領域に着目すると、大面積ヘテロ接合バイポーラトランジスタ(b)と微細ヘテロ接合バイポーラトランジスタ(a)の電流利得がほとんど変わらないことが分かる。これは、レッジリーク電流が十分に抑制されていることを示しており、本実施の形態におけるレッジ構造が微細ヘテロ接合バイポーラトランジスタの高電流利得化に極めて有用であることを実証している。また、エミッタ・ベース間距離を過度に設ける必要がないため、ベース・コレクタ容量の増大を招くこともない。従って、高周波動作の観点からも本実施の形態のヘテロ接合バイポーラトランジスタは優れているといえる。
ここで、上述では、第1エミッタ層105の層厚を3nmとしたが、第1エミッタ層105の層厚は、2nm以上5nm以下が望ましい。層厚を2nm以下とした場合、エッチング停止層としての機能が劣化し、第2エミッタ層106形成時にエッチングされてしまう。また、第1エミッタ層105の層厚を5nmよりも大きくすると、基板101の平面の法線方向へのベース電極109の拡散距離が大きくなり、レッジリーク電流が増加し、電流利得が著しく低下してしまう。また、第2エミッタ層106の層厚はレッジリーク電流の影響を考えると、10nm以上30nm以下が望ましい。10nmよりも薄い場合、結晶品質の悪いInP層が第2エミッタ層106の最表面になり、レッジリーク電流が増加してしまう。逆に、30nmよりも厚くなると、InPからなる第2エミッタ層106の表面を完全に空乏化できなくなり、やはりレッジリーク電流が増加する。
次に、本実施の形態におけるInAlGaAsからなる第1エミッタ層105のAl組成について説明する。Inの組成を53%とした時、Alの組成は22%以上47%以下とすることが望ましい。Al組成を22%よりも小さくすると、InAlGaAsの伝導帯端がInPの伝導帯端よりも低くなり、高電流領域において電子が蓄積し、エミッタ・ベース容量の増大を招き、高周波特性の劣化をもたらす。従って、Al組成は22%以上とすることが重要である。なお、Al組成47%は、Inの組成を53%とした時のAl組成の最大値であり、この場合、InAlAsとなる。第1エミッタ層105は、この状態のInAlAsから構成されていてもよい。
以上に説明したように、本発明によれば、GaAsSbからなるベース層およびInPからなるコレクタ層を用いたレッジ構造を有するHBTにおいて、ベース層の上にInAlGaAsからなる第1エミッタ層を設け、この上にInPからなる第2エミッタ層を設けるようにしたので、高い電流利得が実現できると共に高周波特性に優れた状態で形成できるようになる。
なお、本発明は以上に説明した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で、当分野において通常の知識を有する者により、多くの変形および組み合わせが実施可能であることは明白である。例えば、InP系の各化合物半導体層は、有機金属気相成長法に限らず、分子線エピタキシャル成長により形成してもよい。