以下に、本発明に係る実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、或いは実質的に同一のものが含まれる。
[実施形態]
図1は、実施形態に係る制動力制御装置が適用された車両の概略構成図である。図2は、実施形態に係る制動力制御装置のVSCアクチュエータの一例を示す概略構成図である。図3は、実施形態に係る制動力制御装置におけるリニアパルス増圧制御の一例を説明する線図である。図4は、リニアパルス増圧制御における制御性について説明する線図である。図5は、実施形態に係るECUによる制御の一例を説明するフローチャートである。
本実施形態の制動力制御装置1は、図1に示すように車両2に搭載され、この車両2を制御するためのシステムであり、典型的には、車両2の車輪3に生じる制動力を制御することで各車輪3のスリップ状態を制御し、車両2の挙動を安定化させるシステムである。車両2は、車輪3として、左前輪3FL、右前輪3FR、左後輪3RL、右後輪3RRを備えるが、これらを特に分ける必要がない場合には単に車輪3という。
具体的には、車両2は、制動力制御装置1、アクセルペダル4、動力源5等を含んで構成される。制動力制御装置1は、ブレーキペダル6、制動装置7、制御装置としてのECU8などを備える。車両2は、運転者によるアクセルペダル4の操作に応じて動力源5が動力(トルク)を発生させ、この動力が動力伝達装置(不図示)を介して車輪3に伝達され、この車輪3に駆動力を発生させる。また、車両2は、運転者によるブレーキペダル6の操作に応じて制動装置7が作動することで車輪3に制動力を発生させる。
動力源5は、内燃機関などの走行用の動力源である。制動装置7は、車両2の各車輪3に生じる制動力を個別に調節可能である。制動装置7は、マスタシリンダ9からVSC(Vehicle Stability Control)アクチュエータ10を介してホイールシリンダ11に接続する油圧経路に作動流体であるブレーキ液が充填された種々の油圧ブレーキ装置である。制動装置7は、ホイールシリンダ11に供給される制動圧力に応じて油圧制動部12が作動し車輪3に圧力制動力を発生させる。
ECU8は、車両2の各部の駆動を制御するものであり、CPU、ROM、RAM及びインターフェースを含む周知のマイクロコンピュータを主体とする電子回路を含んで構成される。ECU8は、例えば、マスタシリンダ圧を検出するマスタシリンダ圧センサ13、各車輪3の回転速度を検出する各車輪速度センサ14等の車両2の各所に取り付けられた種々のセンサ、検出装置が電気的に接続され、検出結果に対応した電気信号が入力される。ECU8は、各種センサから入力された各種入力信号や各種マップに基づいて、格納されている制御プログラムを実行することにより、動力源5や制動装置7のVSCアクチュエータ10などの車両2の各部に駆動信号を出力しこれらの駆動を制御する。ECU8は、車両2の走行状態に応じてVSCアクチュエータ10を制御し、各車輪3にそれぞれ設けられたホイールシリンダ11のホイールシリンダ圧を個別に増減し、各車輪3における制動力を個別に制御することでABS(Antilock Brake System)制御等の制動力制御機能等を実現することができる。
ここで、制動装置7についてより詳細に説明する。制動装置7は、上記で説明したように、マスタシリンダ9、VSCアクチュエータ10、ホイールシリンダ11、油圧制動部12等を含んで構成される。マスタシリンダ9は、制動操作部材としてのブレーキペダル6に入力されたペダル踏力(操作力)に応じてブレーキ液(作動流体)に操作圧力としてのマスタシリンダ圧を付与する。ここでは、マスタシリンダ9は、倍力装置としてのブースタ16によって所定の倍力比で増加されたペダル踏力に応じてマスタシリンダ圧を付与する。ホイールシリンダ11は、マスタシリンダ圧に基づいた制動圧力としてのホイールシリンダ圧が作用することで車両2の車輪3に生じる制動力を発生させる。ホイールシリンダ圧は、各車輪3の油圧制動部12が発生させる制動力の大きさに応じた値となる。VSCアクチュエータ10は、ホイールシリンダ11に供給されるホイールシリンダ圧を個別に調節することで各車輪3に生じる制動力を個別に調節可能である。油圧制動部12は、キャリパ、ブレーキパッド、ディスクロータなどを含んで構成される。
制動装置7は、基本的には運転者がブレーキペダル6を操作することで、ブレーキペダル6に作用するペダル踏力に応じてマスタシリンダ9によりブレーキ液にマスタシリンダ圧が付与される。そして、制動装置7は、このマスタシリンダ圧に応じた圧力が各ホイールシリンダ11にてホイールシリンダ圧として作用することで油圧制動部12が作動する。各油圧制動部12は、ホイールシリンダ圧によってブレーキパッドがディスクロータに当接し押し付けられることで、車輪3と共に回転するディスクロータに対して、ホイールシリンダ圧に応じた所定の回転抵抗力が作用し、このディスクロータ及びこれと一体で回転する車輪3に制動力を付与することができる。この間、制動装置7は、VSCアクチュエータ10によってホイールシリンダ圧が運転状態に応じて適宜調圧される。
ここで、VSCアクチュエータ10は、ホイールシリンダ圧を四輪独立に個別に増圧、減圧、保持を行うことで、各車輪3に生じる制動力を個別に調節するものである。VSCアクチュエータ10は、マスタシリンダ9とホイールシリンダ11とを接続するブレーキ液の油圧経路上に設けられ、ブレーキペダル6のブレーキ操作とは別にECU8による制御によって各ホイールシリンダ11内の液圧を増減し、各車輪3に付与する制動力を制御する。VSCアクチュエータ10は、例えば、ECU8により制御される種々の油圧制御装置(油圧制御回路)によって構成される。VSCアクチュエータ10は、例えば、複数の配管、オイルリザーバ、オイルポンプ、各車輪3にそれぞれ設けられた各ホイールシリンダ11に接続する各油圧配管、各油圧配管の油圧を各々に増圧、減圧、保持するための複数の電磁弁などを含んで構成される。VSCアクチュエータ10は、ECU8の制御指令にしたがって油圧配管内の油圧(マスタシリンダ圧)をそのまま、又は、加圧、減圧して後述する各ホイールシリンダ11に伝える作動流体圧力調節部として機能する。
VSCアクチュエータ10は、例えば、ECU8の制御指令にしたがってオイルポンプや所定の電磁弁が駆動することで、運転者によるブレーキペダル6の操作量(踏み込み量)に応じてホイールシリンダ11に作用するホイールシリンダ圧を調圧することができる。また、VSCアクチュエータ10は、ABS制御等の種々の制動力制御を実行する場合には、例えば、ECU8の制御指令にしたがってオイルポンプや所定の電磁弁が駆動することで、ホイールシリンダ11に作用するホイールシリンダ圧を増圧する増圧モード、ほぼ一定に保持する保持モード、減圧する減圧モードなどで作動可能である。VSCアクチュエータ10は、ECU8による制御によって、車両2の走行状態に応じて各車輪3のホイールシリンダ11ごとに個別に上記モードを設定することができる。すなわち、VSCアクチュエータ10は、運転者によるブレーキペダル6の操作とは無関係に車両2の走行状態に応じて各車輪3に作用する制動力を個別に調節することができる。
ここで、図2にVSCアクチュエータ10の一例を示す。なお、以下の説明では、添字FLは左前輪3FL、FRは右前輪3FR、RLは左後輪3RL、RRは右後輪3RRにかかる構成要素であることをそれぞれ示す。また、左前輪3FL、右前輪3FR、左後輪3RL、右後輪3RRを特に分ける必要がない場合に単に車輪3ということと同様に、他の構成についても、特に4輪を区別する必要がない場合、添字FL,FR,RL,RRを省略して記載する。なお、VSCアクチュエータ10の構成は図2に例示する構成に限られない。
このVSCアクチュエータ10は、各油圧制動部12FL、12FR、12RL、12RRの各ホイールシリンダ11FL、11FR、11RL、11RRとは、ブレーキ液配管42FL、42FR、42RL、42RRによって接続される。また、VSCアクチュエータ10とマスタシリンダ9とは、第1ブレーキ液配管45Aおよび第2ブレーキ液配管45Bによって接続されている。マスタシリンダ9、ブレーキ液配管42FL、42FR、42RL、42RR、第1ブレーキ液配管45A、第2ブレーキ液配管45BおよびVSCアクチュエータ10内に設けられるブレーキ液通路には、ブレーキ液が満たされている。
VSCアクチュエータ10は、マスタシリンダ9からのブレーキ液圧を各油圧制動部12FR、12RLの各ホイールシリンダ11FR、11RLへ伝達する第1液圧伝達系統51Aと、各油圧制動部12FL、12RRの各ホイールシリンダ11FL、11RRへ伝達する第2液圧伝達系統51Bとを備える。第1液圧伝達系統51Aは、第1ブレーキ液配管45Aによってマスタシリンダ9と接続され、第2液圧伝達系統51Bは、第2ブレーキ液配管45Bによってマスタシリンダ9と接続される。
第1液圧伝達系統51Aでは、マスタシリンダ9からのブレーキ液圧は、第1ブレーキ液配管45A、流量制御弁である第1マスタカット弁52A、ブレーキ液通路である第1高圧ブレーキ液配管58A、保持弁53FR、53RL、ブレーキ液配管42FR、42RLを介して、各ホイールシリンダ11FR、11RLへ伝えられる。第1液圧伝達系統51Aでは、保持弁53FR、53RLと各ホイールシリンダ11FR、11RLとの間には、減圧弁54FR、54RLが接続されている。ここでは、第1マスタカット弁52A、保持弁53FR、53RLは、非通電時に開弁状態になっている常開式の電磁弁(NO弁)であり、減圧弁54FR、54RLは、非通電時に閉弁状態になっている常閉式の電磁弁(NC弁)である。保持弁53FR、53RLは、増圧弁と呼ばれることもある。
第1液圧伝達系統51Aでは、保持弁53FR、53RL、及び、減圧弁54FR、54RLを動作させることにより、各ホイールシリンダ11FR、11RLに作用するホイールシリンダ圧を増減させて、右前輪3FR、及び、左後輪3RLの制動力がそれぞれ調整される。第1液圧伝達系統51Aでは、例えば、保持弁53FR、53RL、及び、減圧弁54FR、54RLの開時間と閉時間とのデューティ比を変更することにより、各ホイールシリンダ11FR、11RLに作用するホイールシリンダ圧を増減させる。
第2液圧伝達系統51Bでは、マスタシリンダ9からのブレーキ液圧は、第2ブレーキ液配管45B、流量制御弁である第2マスタカット弁52B、ブレーキ液通路である第2高圧ブレーキ液配管58B、保持弁53FL、53RR、ブレーキ液配管42FL、42RRを介して、各ホイールシリンダ11FL、11RRへ伝えられる。第2液圧伝達系統51Bでは、保持弁53FL、53RRと各ホイールシリンダ11FL、11RRとの間には、減圧弁54FL、54RRが接続されている。ここでは、第2マスタカット弁52B、保持弁53FL、53RRは、非通電時に開弁状態になっている常開式の電磁弁(NO弁)であり、減圧弁54FL、54RRは、非通電時に閉弁状態になっている常閉式の電磁弁(NC弁)である。保持弁53FR、53RLは、増圧弁と呼ばれることもある。
第2液圧伝達系統51Bでは、保持弁53FL、53RRおよび減圧弁54FL、54RRを動作させることにより、各ホイールシリンダ11FL、11RRに作用するホイールシリンダ圧を増減させて、左前輪3FL、及び、右後輪3RRの制動力がそれぞれ調整される。第2液圧伝達系統51Bでは、例えば、保持弁53FL、53RRおよび減圧弁54FL、54RRの開時間と閉時間とのデューティ比を変更することにより、各ホイールシリンダ11FL、11RRに作用するホイールシリンダ圧を増減させる。
流量制御弁である第1マスタカット弁52A、及び、第2マスタカット弁52B(以下、必要に応じて「マスタカット弁52」と記載する場合がある。)は、リニアソレノイド、及び、スプリングを有している。マスタカット弁52は、開度を調整することにより、出口のブレーキ液圧Peと入口のブレーキ液圧Piとの間に差圧(マスタカット弁差圧)ΔP_SMC(=Pe−Pi)を作り出すことができると共に、当該差圧ΔP_SMCをリニアに変化させることができる。
第1マスタカット弁52A、第2マスタカット弁52Bの入口側の圧力は、マスタシリンダ圧センサ13によって検出され、ECU8に取得される。また、第1高圧ブレーキ液配管58A、第2高圧ブレーキ液配管58Bの内部におけるブレーキ液圧は、これらに取り付けられる第1出口側ブレーキ液圧センサ36A、第2出口側ブレーキ液圧センサ36Bによって検出されて、ECU8に取得される。なお、マスタカット弁差圧は、マスタカット弁52に供給する制御電流から求めることもできる。
減圧弁54FR、54RLの出口、及び、第1ブレーキ液配管45Aは、それぞれ第1ブレーキ液リザーバ57Aに接続されている。また、減圧弁54FL、54RRの出口、及び、第2ブレーキ液配管45Bは、それぞれ第2ブレーキ液リザーバ57Bに接続されている。
VSCアクチュエータ10は、第1液圧伝達系統51Aの液圧を調整するため、第1液圧伝達系統51A内のブレーキ液を加圧する第1ポンプ56Aを備え、また、第2液圧伝達系統51Bの液圧を調整するため、第2液圧伝達系統51B内のブレーキ液を加圧する第2ポンプ56Bを備える。VSCアクチュエータ10は、第1ポンプ56Aが第1液圧伝達系統51A内のブレーキ液を加圧することにより、各ホイールシリンダ11FR、11RLへ与えられるホイールシリンダ圧が上昇する。同様に、VSCアクチュエータ10は、第2ポンプ56Bが第2液圧伝達系統51B内のブレーキ液を加圧することにより、各ホイールシリンダ11FL、11RRへ与えられるホイールシリンダ圧が上昇する。
第1ポンプ56A、及び、第2ポンプ56Bは、ポンプ駆動用電動機55によって駆動される。ECU8は、電流計34から検出されるポンプ駆動用電動機55の駆動電流や、レゾルバ35から検出されるポンプ駆動用電動機55の回転角度に基づいて、ポンプ駆動用電動機55の動作を制御する。
第1マスタカット弁52A、第2マスタカット弁52Bを開いた状態とすると、第1ポンプ56A、及び、第2ポンプ56Bから吐出されるブレーキ液は、マスタカット弁52と第1ブレーキ液リザーバ57A、第2ブレーキ液リザーバ57Bとの間を循環する。このため、マスタカット弁差圧は発生しない。一方、第1マスタカット弁52A、第2マスタカット弁52Bへ制御電流を流し、これらの開度を小さくすると、マスタカット弁差圧が発生する。これによって、各ホイールシリンダ11FR、11RL、11FL、11RRに作用するホイールシリンダ圧を、マスタシリンダ9内のブレーキ液圧以上に増圧できる。
また、VSCアクチュエータ10は、第1ポンプ56A、及び、第2ポンプ56Bが作動していない状態であっても、第1マスタカット弁52A、及び、第2マスタカット弁52Bの開度を小さくすることで、各ホイールシリンダ11FR、11RL、11FL、11RRに作用するホイールシリンダ圧を保持することができる。マスタシリンダ9内のブレーキ液圧(マスタシリンダ圧)が低下したとしても、マスタシリンダ9内のブレーキ液圧の変化に応じてマスタカット弁52の開度を小さくすることで、マスタカット弁差圧を発生させて各ホイールシリンダ11FR、11RL、11FL、11RRに作用するホイールシリンダ圧を保持することができる。
ECU8は、VSCアクチュエータ10の動作を制御して、各車輪3の目標とする車輪制動力である目標車輪制動力を発生させる。ECU8は、目標車両制動力に基づいて、各車輪3の目標車輪制動力を決定する。ここで、目標車両制動力とは、例えば、運転者によるブレーキペダル6の操作状態量に応じた、車両2の制動に要する目標値のことである。ブレーキペダル6の操作状態量とは、例えば、ペダルストローク量、ペダルストローク位置、踏力、ペダル操作速度等である。また、目標車輪制動力とは、目標車両制動力を車両2に働かせるためにそれぞれの車輪3に分担させる制動力のことである。
ECU8は、目標車輪制動力に対して実際の車輪制動力が不足する場合、その車輪3のホイールシリンダ11に供給するホイールシリンダ圧を増圧する。この増圧モードでは、その車輪3に対応する保持弁53を開弁し、減圧弁54を閉弁する。このときに、保持弁53のデューティ制御によって増圧速度を制御することもできる。また、ECU8は、目標車輪制動力を発生させるためにマスタシリンダ圧が不足する場合、ポンプ56を駆動することができる。
一方、目標車輪制動力に対して実際の車輪制動力が上回る場合、ECU8は、その車輪3のホイールシリンダ11に供給するホイールシリンダ圧を減圧する。この減圧モードでは、その車輪3に対応する保持弁53を閉弁し、減圧弁54を開弁する。また、VSCアクチュエータ10は、各車輪3のホイールシリンダ11に供給するホイールシリンダ圧を保持することが可能である。この保持モードでは、ECU8は、保持対象の車輪3に対応する保持弁53、及び、減圧弁54を閉弁する。
上記のように構成される制動装置7は、運転者がブレーキペダル6を操作しブレーキペダル6にペダル踏力が入力されると、このペダル踏力がブースタ16にて所定の倍力比で倍化されマスタシリンダ9に伝達される。ブースタ16によって増加されマスタシリンダ9に伝達されたペダル踏力は、マスタシリンダ9にて、マスタシリンダ圧に変換されると共にVSCアクチュエータ10を介してホイールシリンダ11に伝達される。このとき、ホイールシリンダ11に供給されるホイールシリンダ圧は、VSCアクチュエータ10にて、所定の油圧に調圧されてホイールシリンダ11に伝達される。そして、各油圧制動部12は、各ホイールシリンダ11に所定のホイールシリンダ圧が作用しキャリパのブレーキパッドがディスクロータに押し付けられることで摩擦力によって圧力制動トルクが作用することで車輪3の回転を減速することができる。
そして、本実施形態のECU8は、車両2の走行状態に応じてVSCアクチュエータ10を制御し、各車輪3にそれぞれ設けられたホイールシリンダ11のホイールシリンダ圧を個別に増減し、各車輪3における制動力を個別に制御することで車両2のABS機能等を実現することができる。すなわち、ECU8は、車両2の挙動を安定化させる制御として、例えば、制動装置7を制御して車輪3のスリップ状態を制御するABS制御等を実行可能である。
ECU8は、ABS制御として、例えば、運転者によるブレーキペダル6の踏み込み操作(制動操作)に伴って車輪3がスリップしたとき、そのスリップ状態にある車輪3の制動力を調節することで、車両2の走行状態に応じた最適な制動力を車輪3に対して付与するようにする。ECU8は、ABS制御では、制動装置7のホイールシリンダ圧を調節し車輪3に生じる制動力を制御することで、車輪3のスリップ状態、例えば、車輪3のスリップ率を制御する。
ここで、各車輪3のスリップ率は、車輪3のタイヤと路面とのスリップ(滑り)をあらわす指標である。ECU8は、例えば、各車輪速度センサ14が検出する各車輪3の回転速度(車輪速度)等に基づいて、種々の手法を用いて算出することができる。ECU8は、例えば、各車輪速度センサ14が検出した各車輪3の車輪速度Vwと、各車輪3の車輪速度Vwから推定される車両2の車速Vrとに基づき、下記の数式(1)を用いてスリップ率Sを求めることができる。スリップ率Sは、各車輪速度センサ14による各検出値に基づいて各車輪3に対応してそれぞれ演算される。なお、上記車速は、各車輪速度センサ14とは別個に設けられた車速センサによって検出されてもよい。
S=(Vr−Vw)/Vr ・・・ (1)
ECU8は、基本的には、実際のスリップ率が目標のスリップ率になるように車輪3に生じる制動力を制御する。ここで、目標のスリップ率は、例えば、車輪3のタイヤの摩擦係数が最大となるピークμスリップ率の近傍の狙いのスリップ率である。この目標のスリップ率は、所定の範囲を有していてもよい。
ECU8は、車両2の走行中に、運転者によるブレーキペダル6の踏み込み操作に応じて制動装置7が作動した際に車輪3と路面との間に生じうるスリップを抑制するためにABS制御を実行する。ECU8は、例えば、車輪3のスリップ率が予め設定されるABS制御開始閾値を超えた際にABS制御を開始する。ABS制御開始閾値は、実車評価等に基づいて、車輪3のスリップ状態、車両2の制動距離、挙動安定性、操舵性等に応じて予め設定され、ECU8の記憶部に記憶されている。この場合、ECU8は、実際のスリップ率が目標のスリップ率になるように制動装置7のホイールシリンダ圧を調節し車輪3に生じる制動力を制御する。ECU8は、例えば、実際のスリップ率と目標のスリップ率との偏差に基づいてABS制御量(ABSスリップ抑止制御量)を算出し、このABS制御量に基づいて制動装置7のVSCアクチュエータ10を制御してホイールシリンダ圧を調節し車輪3に生じる制動力を制御する。ここで、ABS制御量は、ABS制御においてVSCアクチュエータ10を制御するための制御量であって、上記目標のスリップ率を実現可能な制御量である。ECU8は、実際のスリップ率が目標のスリップ率より大きくなった場合にホイールシリンダ圧を減圧し制動力を低減する一方、実際のスリップ率が目標のスリップ率より小さくなった場合にホイールシリンダ圧を増圧し制動力を増加する。典型的には、ECU8は、これを周期的に繰り返すことでブレーキロックを防止しつつ車両2の制動距離を短くすることができると共に車両2の挙動安定性や操舵性を向上することができる。
そして、本実施形態のECU8は、VSCアクチュエータ10を制御してホイールシリンダ圧を調節することで車輪3のスリップ状態を制御するABS作動時に、リニアパルス増圧制御を実行可能である。ここで、リニアパルス増圧制御とは、ABS作動時であってホイールシリンダ圧の増圧時に、VSCアクチュエータ10のリニア弁を制御し、ホイールシリンダ圧の増圧と保持とを組み合わせて当該ホイールシリンダ圧を増圧する制御である。
本実施形態では、リニアパルス増圧制御で制御対象となるリニア弁は、VSCアクチュエータ10の保持弁53FR、53RL、53FL、53RR(以下、必要に応じて「保持弁53」と記載する場合がある。)であるものとして説明する。本実施形態の保持弁53は、リニアソレノイド、及び、スプリングを有している。そして、保持弁53は、ソレノイドが非通電時には開いた状態となり、また、ソレノイドへ供給する電流を調整することで、開度を調整可能な常開型のリニア電磁流量制御弁である。
ここで、このような制動力制御装置1は、ABS作動時の増圧時に、マスタシリンダ圧と、対象となる車輪3のホイールシリンダ圧との差圧が大きい領域では、急増圧時に保持弁53等でブレーキ液の流量が急増することで、当該保持弁53等においてバルブ振動が発生するおそれがある。この場合、制動力制御装置1は、配管の油圧脈動から油柱共振音(いわゆるクー音)が発生するおそれがある。このような現象は、例えば、車両2が低μ路(例えば、雪路や凍結路)等を走行している状態で急ブレーキをした際にABSが作動した場合に発生しやすい傾向にある。
これに対して、ECU8は、ABS作動時の増圧時に、所定の条件下で、保持弁53を制御して増圧の対象となる車輪3のホイールシリンダ圧の増圧と保持とを周期的に繰り返して当該ホイールシリンダ圧を増圧するリニアパルス増圧制御を実行する。これにより、制動力制御装置1は、ABS作動時の増圧中に、リニアパルス増圧制御を実行することで、油柱共振音の発生を抑制し異音の発生を抑制することができる。
図3は、リニアパルス増圧制御の一例を説明する線図であり、横軸を時間軸、縦軸を油圧としている。図3中、点線L1は、ABS作動増圧時のホイールシリンダ圧の通常の目標圧(リニアパルス増圧制御を行わない場合の目標圧)L1を表している。実線L2は、ABS作動増圧時のリニア増圧制御におけるホイールシリンダ圧の制御圧L2を表している。実線L3は、ABS作動増圧時のリニアパルス増圧制御におけるホイールシリンダ圧の制御圧L3を表している。ECU8は、後述するように、ABS作動時の増圧時に、リニアパルス増圧制御を実行しない場合には、通常のリニア増圧制御を実行可能である。当該リニア増圧制御とは、ABS作動時であってホイールシリンダ圧の増圧時に、VSCアクチュエータ10のリニア弁を制御し、ホイールシリンダ圧をほぼ一定の増圧勾配(単位時間当たりの増圧量)で増圧する制御である。
ここで、ECU8は、例えば、上記で説明したように、実際のスリップ率と目標のスリップ率との偏差に基づいて算出されるABS制御量に応じて、ABS作動時の増圧時の目標圧L1を設定することができる。つまり、ECU8は、実際のスリップ率が目標のスリップ率より小さくなった場合に、当該実際のスリップ率と目標のスリップ率との偏差に基づいて、実際のスリップ率が目標のスリップ率に収束するように、ABS作動増圧時の対象となる車輪3のホイールシリンダ圧の目標圧L1を一定勾配で設定する。
そして、ECU8は、ABS作動増圧時のリニア増圧制御では、保持弁53を制御して、対象となる車輪3のホイールシリンダ圧の制御圧L2が目標圧L1に追従するように、当該ホイールシリンダ圧をほぼ一定の増圧勾配で増圧する。
一方、ECU8は、ABS作動増圧時のリニアパルス増圧制御では、保持弁53を制御して増圧と保持とを繰り返すことで、目標圧L1に対して、対象となる車輪3のホイールシリンダ圧の制御圧L3を階段状に増圧する。ここで、リニアパルス増圧制御におけるホイールシリンダ圧の保持時間は、保持弁53のメカニカル特性、仕様、性能等に応じて予め設定されればよく、例えば、確実に油圧を保持できる最小の時間に設定される。また、リニアパルス増圧制御におけるホイールシリンダ圧の増圧周期も同様に固定的な周期として予め設定されればよい。ECU8は、上記のように設定される目標圧L1と、予め固定的に設定される保持時間及び増圧周期とに基づいてリニアパルス増圧制御における各増圧時の増圧勾配を設定する。このとき、ECU8は、例えば、保持時間の終了時点の制御圧L3が目標圧L1上に位置するように、各増圧時の増圧勾配を設定し、対象となる車輪3のホイールシリンダ圧の制御圧L3を制御する。
ところで、制動力制御装置1は、リニアパルス増圧制御では、図4に例示するように、保持弁53を制御して対象となる車輪3のホイールシリンダ圧の増圧と保持とを周期的に繰り返していることから、例えば、種々の理由でABS制御の増圧制御を中断する場合等、中断のタイミング(例えば、図4中の時刻t1参照)によっては目標圧L1と実際の制御圧L3との乖離が大きくなってしまうおそれがある。つまり、制動力制御装置1は、例えば、ABS作動増圧時の増圧勾配が相対的に高い領域では、制御終了時の目標圧L1と実際の制御圧L3の乖離が大きくなってしまい、結果的に、制御性が悪化、すなわち、オーバーシュートするおそれがある。
そこで、本実施形態の制動力制御装置1は、リニアパルス増圧制御を実行するための条件を設定し、当該所定の条件を満たした場合にリニアパルス増圧制御を実行し、当該所定の条件を満たさない場合にはリニアパルス増圧制御を実行しないようにする。これにより、制動力制御装置1は、異音の抑制と、制御性悪化の抑制との両立を図っている。
具体的には、ECU8は、ABS作動時のマスタシリンダ圧とホイールシリンダ圧との目標の差圧(以下、「目標差圧」という場合がある。)と、目標のホイールシリンダ圧とに基づいて、リニアパルス増圧制御の実行の有無を決める。上記目標のホイールシリンダ圧は、上記のようにして設定されるABS作動増圧時のホイールシリンダ圧の目標圧L1に基づいて算出される。上記ABS作動増圧時の目標差圧は、上記のようにして設定されるABS作動増圧時のホイールシリンダ圧の目標圧L1上の目標のホイールシリンダ圧と、マスタシリンダ圧センサ13によって検出される実際のマスタシリンダ圧との差分を算出することで算出される。
具体的には、ECU8は、ABS作動増圧時のマスタシリンダ圧とホイールシリンダ圧との目標差圧が予め設定される制御許可差圧より大きく、ABS作動増圧時の目標のホイールシリンダ圧の変化量(所定時間当たりの変化量)、例えば、今回値と前回値との差分が予め設定される制御許可範囲内である場合に、リニアパルス増圧制御を実行する。そして、ECU8は、ABS作動増圧時のマスタシリンダ圧とホイールシリンダ圧との目標差圧が制御許可差圧以下である場合、又は、ABS作動増圧時の目標のホイールシリンダ圧の今回値と前回値との差分が制御許可範囲外である場合に、リニアパルス増圧制御を実行しない。この場合、ECU8は、リニアパルス増圧制御にかえて通常のリニア増圧制御を実行する。なおここでは、目標のホイールシリンダ圧の変化量は、目標のホイールシリンダ圧の今回値と前回値との差分を用いるものとして説明するがこれに限らず、例えば、今回値と前々回値との差分を用いてもよい。
ECU8は、ABS作動増圧時のホイールシリンダ圧の目標圧L1に基づいて、現在の制御周期における目標のホイールシリンダ圧を算出する。そして、ECU8は、現在の制御周期における目標のホイールシリンダ圧と、マスタシリンダ圧センサ13によって検出される現在の周期におけるマスタシリンダ圧との差分を算出することで、ABS作動増圧時のマスタシリンダ圧とホイールシリンダ圧との目標差圧を算出する。そして、ECU8は、当該目標差圧と予め設定される制御許可差圧とを比較し、当該目標差圧が制御許可差圧より大きいか否かを判定する。ここで、制御許可差圧は、マスタシリンダ圧とホイールシリンダ圧との差圧調圧時にVSCアクチュエータ10にてブレーキ液の流量の増大に起因して異音が発生するおそれがある大きさの差圧に応じて実車評価等に基づいて予め設定され、ECU8の記憶部に記憶されている。つまり、制御許可差圧は、マスタシリンダ圧とホイールシリンダ圧との差圧調圧時に保持弁53等でブレーキ液の流量が急増しすぎてバルブ振動が発生し、配管の油圧脈動から油柱共振音等の異音が発生するおそれがある大きさの差圧等に応じて設定される。制御許可差圧は、例えば、10MPa程度に設定される。
ECU8は、ABS作動増圧時の目標差圧がこの制御許可差圧より大きい場合、すなわち、当該目標差圧が、差圧調圧時に保持弁53等でブレーキ液の流量が急増しすぎてバルブ振動が発生し、配管の油圧脈動から油柱共振音が発生するおそれがある差圧である場合には、リニアパルス増圧制御を許容する。一方、ECU8は、ABS作動増圧時の目標差圧がこの制御許可差圧以下である場合、すなわち、当該目標差圧が、差圧調圧時に保持弁53等でブレーキ液の流量が急増しすぎてバルブ振動が発生し、配管の油圧脈動から油柱共振音が発生するおそれがない差圧である場合には、リニアパルス増圧制御にかえてリニア増圧制御を行うようにする。
また、ECU8は、例えば、ABS作動増圧時のホイールシリンダ圧の目標圧L1に基づいた現在の制御周期における目標のホイールシリンダ圧をABS作動増圧時の目標のホイールシリンダ圧の今回値とし、前回の制御周期における目標のホイールシリンダ圧をABS作動増圧時の目標のホイールシリンダ圧の前回値とする。そして、ECU8は、ABS作動増圧時の目標のホイールシリンダ圧の今回値と前回値との差分を算出する。ABS作動増圧時の目標のホイールシリンダ圧の今回値と前回値との差分は、ABS作動増圧時のホイールシリンダ圧の目標の増圧勾配に相当する。今回値と前回値との差分が大きいほど増圧勾配が大きいことを意味する。ECU8は、ABS作動増圧時の目標のホイールシリンダ圧の今回値と前回値との差分と予め設定される制御許可範囲とを比較し、当該今回値と前回値との差分が制御許可範囲内であるか否かを判定する。ここで、制御許可範囲は、ABS作動増圧時の目標のホイールシリンダ圧の今回値と前回値との差分に対して実車評価等に基づいて予め設定され、ECU8の記憶部に記憶されている。制御許可範囲は、例えば、予め設定される差分上限値(上限)と差分下限値(下限)との間の範囲である。制御許可範囲は、ホイールシリンダ圧の増圧時にVSCアクチュエータ10にてブレーキ液の流量の増大に起因して異音が発生するおそれがある増圧勾配に応じて差分下限値が設定され、制御終了時にホイールシリンダ圧の調圧精度の悪化のおそれがある増圧勾配に応じて差分上限値が設定される。つまり、差分下限値は、ホイールシリンダ圧の増圧時に保持弁53等でブレーキ液の流量が急増しすぎてバルブ振動が発生し、配管の油圧脈動から油柱共振音等の異音が発生するおそれがある増圧勾配等に応じて設定される。一方、差分上限値は、上記で説明したように、制御終了時の目標のホイールシリンダ圧と実際のホイールシリンダ圧との乖離が相対的に大きくなるおそれがある増圧勾配、さらに言えば、制御終了時の目標のホイールシリンダ圧と実際のホイールシリンダ圧との乖離により制御性が悪化するおそれがある増圧勾配等に応じて設定される。制御許可範囲の差分下限値(変化量下限値)は、例えば、10MPa/sec程度に設定される。差分上限値(変化量上限)は、例えば、リニアパルスの増圧・保持のデューティ比、リニアパルスの増圧・保持の周期、許容オーバーシュート量等に基づいて設定される。許容オーバーシュート量は、制御性の確保等を踏まえて許容できる油圧のオーバーシュート量であり、予め任意に設定される。差分上限値は、例えば、[差分上限値=許容オーバーシュート量/リニアパルスの増圧・保持の周期×リニアパルスの増圧・保持のデューティ比]で算出することができる。例えば、リニアパルスの増圧・保持のデューティ比=50%、リニアパルスの増圧・保持の周期=0.02sec、許容オーバーシュート量=1.0MPaとした場合、差分上限値は、差分上限値=1.0/0.02×50/100=25MPa/sec程度に設定される。
ECU8は、ABS作動増圧時の目標のホイールシリンダ圧の今回値と前回値との差分がこの制御許可範囲内である場合、すなわち、当該差分が、差分下限値より大きく差分上限値より小さい場合にはリニアパルス増圧制御を許容する。これにより、ECU8は、保持弁53等でブレーキ液の流量が急増しすぎてバルブ振動が発生し、配管の油圧脈動から油柱共振音が発生するおそれがある場合で、かつ、制御終了時の目標のホイールシリンダ圧と実際のホイールシリンダ圧との乖離に起因した制御性の悪化のおそれがない場合に、リニアパルス増圧制御を許容することができる。一方、ECU8は、ABS作動増圧時の目標のホイールシリンダ圧の今回値と前回値との差分がこの制御許可範囲外である場合、すなわち、当該差分が差分下限値以下である場合、あるいは、当該差分が差分上限値以上である場合にはリニアパルス増圧制御にかえてリニア増圧制御を行うようにする。これにより、ECU8は、保持弁53等でブレーキ液の流量が急増しすぎてバルブ振動が発生し、配管の油圧脈動から油柱共振音が発生するおそれがない場合、あるいは、制御終了時の目標のホイールシリンダ圧と実際のホイールシリンダ圧との乖離に起因した制御性の悪化のおそれがある場合に、リニアパルス増圧制御を実行しないようにすることができる。
次に、図5のフローチャートを参照してECU8による制御の一例を説明する。なお、これらの制御ルーチンは、数msないし数十ms毎の制御周期で繰り返し実行される。
まず、ECU8は、リニアパルス増圧要求判定が成立したか否かを判定する(ステップST1)。ここでは、ECU8は、下記条件1、条件2、及び、条件3がすべて成立するか否かを判定することで、リニアパルス増圧要求判定が成立したか否かを判定する。
(条件1)リニアパルス増圧許可要求がONである。
(条件2)[マスタシリンダ圧とホイールシリンダ圧との目標差圧>制御許可差圧ΔPstart]を満たす。
(条件3)[差分上限値TargetPmax>目標のホイールシリンダ圧の今回値−目標のホイールシリンダ圧の前回値>差分下限値TargetPmin]を満たす。
条件1は、ECU8によって実際のスリップ率と目標のスリップ率との偏差に基づいたホイールシリンダ圧の目標圧を算出し、当該ホイールシリンダ圧の目標圧に応じてABS作動増圧勾配大の要求がある場合にリニアパルス増圧許可要求がONとされるものである。条件2は、上述したように、ABS作動増圧時のマスタシリンダ圧とホイールシリンダ圧との目標差圧が、当該差圧の調圧時にVSCアクチュエータ10にてブレーキ液の流量の増大に起因して異音が発生するおそれがある大きさの制御許可差圧ΔPstartより大きいか否かを判定するものである。ここでは、ECU8は、上述したような手法で当該目標差圧を算出すればよい。条件3は、上述したように、ABS作動増圧時の目標のホイールシリンダ圧の今回値と前回値との差分が制御許可範囲内にあるか否かを判定するものである。ここでは、制御許可範囲は、差分下限値TargetPminから差分上限値TargetPmaxまでの範囲である。差分下限値TargetPminは、ホイールシリンダ圧の増圧時にVSCアクチュエータ10にてブレーキ液の流量の増大に起因して異音が発生するおそれがある増圧勾配に応じて設定される。差分上限値TargetPmaxは、制御終了時の目標のホイールシリンダ圧と実際のホイールシリンダ圧との乖離が大きくなり制御性が悪化するおそれがある増圧勾配に応じて設定される。また、ECU8は、上述したような手法で当該差分を算出すればよい。
ECU8は、ステップST1にて上記条件1、条件2、及び、条件3がすべて成立し、リニアパルス増圧要求判定が成立したと判定した場合(ステップST1:Yes)、リニアパルス増圧要求フラグをONとする(ステップST2)。
次に、ECU8は、リニアパルス増圧補正演算として、実際のスリップ率と目標のスリップ率との偏差に基づいたホイールシリンダ圧の目標圧に対して、保持弁53を制御して増圧と保持とを繰り返すことで対象となる車輪3のホイールシリンダ圧の制御圧が階段状に増圧されるように、当該目標圧を補正する(ステップST3)。ECU8は、例えば、実際のスリップ率と目標のスリップ率との偏差に基づいて設定されるホイールシリンダ圧の目標圧と、予め固定的に設定されるリニアパルス増圧制御における保持時間及び増圧周期とに基づいてリニアパルス増圧制御における各増圧時の増圧勾配を設定し、該目標圧を補正する。
ECU8は、ステップST3で補正したリニアパルス増圧制御におけるホイールシリンダ圧の目標圧に基づいて、ABS作動時の増圧の対象となる車輪3の保持弁53を制御して、リニアパルス増圧制御を実行し(ステップST4)、今回の制御周期を終了し、次回の制御周期に移行する。
ECU8は、ステップST1にて、上記条件1、条件2、又は、条件3のうちの1以上が成立しておらず、リニアパルス増圧要求判定が成立していないと判定した場合(ステップST1:No)、リニアパルス増圧要求フラグをOFFとする(ステップST5)。
次に、ECU8は、実際のスリップ率と目標のスリップ率との偏差に基づいたホイールシリンダ圧の目標圧に基づいて、ABS作動時の増圧の対象となる車輪3の保持弁53を制御して、リニア増圧制御を実行し(ステップST6)、今回の制御周期を終了し、次回の制御周期に移行する。
上記のように構成される制動力制御装置1は、ECU8がABS作動時のマスタシリンダ圧とホイールシリンダ圧との目標の差圧と、目標のホイールシリンダ圧とに基づいて、リニアパルス増圧制御の実行の有無を決める。これにより、制動力制御装置1は、保持弁53等でブレーキ液の流量が急増しすぎてバルブ振動が発生し、配管の油圧脈動から油柱共振音が発生するおそれがある場合で、かつ、制御終了時の目標のホイールシリンダ圧と実際のホイールシリンダ圧との乖離に起因した制御性の悪化、すなわち、オーバーシュートのおそれがない場合に、リニアパルス増圧制御を実行することができる。一方、制動力制御装置1は、上記油柱共振音が発生するおそれがない場合、あるいは、上記制御性の悪化のおそれがある場合に、リニアパルス増圧制御を実行しないようにすることができる。この結果、制動力制御装置1は、異音の抑制と、制御性悪化の抑制とを両立することができる。
以上で説明した実施形態に係る制動力制御装置1によれば、制動装置7と、ECU8とを備える。制動装置7は、マスタシリンダ9と、ホイールシリンダ11と、VSCアクチュエータ10とを有する。マスタシリンダ9は、ブレーキペダル6に入力されたペダル踏力に応じてブレーキ液にマスタシリンダ圧を付与する。ホイールシリンダ11は、マスタシリンダ圧に基づいたホイールシリンダ圧が作用することで車両2の車輪3に生じる制動力を発生させる。VSCアクチュエータ10は、ホイールシリンダ11に供給されるホイールシリンダ圧を調節することで車輪3に生じる制動力を調節可能である。ECU8は、VSCアクチュエータ10を制御してホイールシリンダ圧を調節することで車輪3のスリップ状態を制御するABS作動時に、当該VSCアクチュエータ10の保持弁53を制御し、ホイールシリンダ圧の増圧と保持とを組み合わせて当該ホイールシリンダ圧を増圧するリニアパルス増圧制御を実行可能である。そして、ECU8は、ABS作動時のマスタシリンダ圧とホイールシリンダ圧との目標の差圧と、目標のホイールシリンダ圧とに基づいて、リニアパルス増圧制御の実行の有無を決める。したがって、制動力制御装置1、ECU8は、異音の抑制と、制御性悪化の抑制とを両立することができ、適切に異音を抑制することができる。
なお、上述した本発明の実施形態に係る制動力制御装置及び制御装置は、上述した実施形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された範囲で種々の変更が可能である。
以上の説明では、制動力制御装置の制御装置は、車両の各部を制御するECUであるものとして説明したが、これに限らず、例えば、ECUとは別個に構成され、このECUと相互に検出信号や駆動信号、制御指令等の情報の授受を行う構成であってもよい。
以上の説明では、ECU8は、図5のステップST1にて、上記条件1、条件2、及び、条件3がすべて成立するか否かを判定することで、リニアパルス増圧要求判定が成立したか否かを判定するものとして説明したが、例えば、条件1の判定を含まなくてもよい。
以上で説明した制動装置7は、保持弁(増圧弁)53FR、53RL、53FL、53RR及び減圧弁54FR、54RL、54FL、54RRがそれぞれ互いに共働して対応するホイールシリンダ11内の圧力を増圧し保持し減圧する増減圧弁を構成しているが、これらの開閉弁はそれぞれ上記増圧モード、保持モード、減圧モードに対応する増圧位置、保持位置、減圧位置を有する1つのリニア弁に置き換えられてもよい。
以上で説明した制動装置7は、VSCアクチュエータ10が右前輪3FR及び左後輪3RLのブレーキ液圧系統である第1液圧伝達系統51Aと、左前輪3FL及び右後輪3RRのブレーキ液圧系統である第2液圧伝達系統51Bとによって構成されるものとして説明したが、これに限らない。VSCアクチュエータ10は、例えば、左前輪3FL及び右前輪3FRのブレーキ液圧系統である第1液圧伝達系統と、左後輪3RL及び右後輪3RRのブレーキ液圧系統である第2液圧伝達系統とによって構成されるものであってもよい。