以下に、本発明に係る制動制御装置の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。尚、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。
[実施例]
本発明に係る制動制御装置の実施例を図1及び図2に基づいて説明する。
この制動制御装置は、リニア制御モードでの制動力制御を行う。そのリニア制御モードとは、高圧の圧力源のブレーキ液圧を各車輪のホイールシリンダに第1液圧経路を介して供給する制動力の制御モードのことである。また、この制動制御装置は、そのリニア制御モードよりも運転者のブレーキ操作に対する応答性に優れたレギュレータ増圧モードによる制動力制御が実行可能であってもよい。そのレギュレータ増圧モードとは、高圧の圧力源のブレーキ液圧を各車輪のホイールシリンダに第1液圧経路を介して供給すると共に、レギュレータ圧を各車輪のホイールシリンダに第2液圧経路を介して供給する制動力の制御モードのことである。以下、この制動制御装置の構成について詳述する。
この制動制御装置は、電磁弁に電流を印加することで夫々の車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrへのブレーキ液圧(つまりホイールシリンダ圧)を増圧又は減圧させることが可能な制動システムと、この制動システムを制御対象にして制動力の制御を行う制動力制御システムと、によって構成されている。その制動力制御システムは、図1に示す電子制御装置(ECU)1によってその制御機能が構成されている。
最初に、本実施例の制動システムの一例について図1に基づき説明する。
ここで例示する制動システムは、各車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrの制動力を個別に調節し得るものであり、その各車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrの内の少なくとも一輪のみに対して制動力を加えることもできるように構成されている。
この制動システムは、大別すると、ブレーキ液圧を発生させるブレーキ液圧発生部5と、そのブレーキ液圧を車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrr毎に調節可能なアクチュエータとしてのブレーキ液圧調節部6と、そのブレーキ液圧を利用して各車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrに加える制動力を発生させる制動力発生部7と、で構成する。
具体的に、この制動システムには、図1に示す如く、運転者のブレーキペダル10の操作量に応じたブレーキ液圧(マスタシリンダ圧)を発生させる液圧発生装置20と、ブレーキ液を加圧して液圧発生装置20によるブレーキ液圧よりも高圧のブレーキ液圧(アキュムレータ圧)を発生させる高圧発生装置(高圧の圧力源)30と、がブレーキ液圧発生部5として用意されている。また、この制動システムには、ブレーキ液圧調節部6の一部分を成す液圧調整装置40FL,40FR,40RL,40RRが車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrr毎に用意されている。これら各液圧調整装置40FL,40FR,40RL,40RRは、液圧発生装置20や高圧発生装置30の発生したブレーキ液圧を調圧できるものである。また、この制動システムには、それら各液圧調整装置40FL,40FR,40RL,40RRを経たブレーキ液圧(ホイールシリンダ圧)が夫々供給され、そのブレーキ液圧に応じた制動力を発生させる車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrr毎の制動力発生装置50FL,50FR,50RL,50RRが制動力発生部7として用意されている。
先ず、液圧発生装置20は、運転者によるブレーキペダル10の操作量(以下、「ブレーキ操作量」という。)に応じたブレーキ液圧(マスタシリンダ圧)を発生させるマスタシリンダ21を備えている。また、この液圧発生装置20には、ブレーキ操作量に応じたブレーキ液圧(レギュレータ圧)を発生させるハイドロブースタ22も用意されている。本実施例においては、そのマスタシリンダ21とハイドロブースタ22とを一体化したものとして例示する。
そのマスタシリンダ21には、ブレーキペダル10の押動に伴い加圧される加圧室があり、この加圧室を介して第1液圧経路としてのマスタ通路101が接続されている。また、ハイドロブースタ22には、ブースタ室を介して第2液圧経路としてのブースタ通路102が接続されており、更に高圧発生装置30における後述するアキュムレータ33の下流側(高圧通路104)も接続されている。
ここで、そのマスタ通路101上には、ストロークシミュレータ61とシミュレータ制御弁62とを備えたストロークシミュレータ装置60が接続されている。そのシミュレータ制御弁62は、非通電時に閉弁状態になっている常閉式の電磁弁であって、電子制御装置1の制御指令に従って開閉動作を行う。その電子制御装置1は、ソレノイドに所定の電流値の電流を印加することでシミュレータ制御弁62を開弁させ、マスタ通路101からストロークシミュレータ61にブレーキ液を送る。
更に、このマスタ通路101上におけるストロークシミュレータ装置60との接続部よりも下流側(車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrr側)には、マスタシリンダ21の加圧室と後述する主制御圧通路105との間の連通又は遮断の状態を制御するマスタシリンダ圧供給制御弁(以下、「マスタカット弁」という。)71が配設されている。そのマスタカット弁71は、非通電時に開弁状態になっている常開式の電磁弁であって、電子制御装置1の制御指令に従って開閉動作を行う。その電子制御装置1は、ソレノイドに所定の電流値の電流を印加することでマスタカット弁71を閉弁させ、マスタシリンダ21の加圧室と主制御圧通路105とを遮断させる。一方、非通電時には後述する主制御圧通路105上の分割制御弁74が閉弁状態になるので、この電子制御装置1は、電流を印加せずにマスタカット弁71を開弁させることで、左側前輪Wflと右側前輪Wfrの夫々の液圧調整装置40FL,40FRへのマスタシリンダ圧の供給状態を制御する。
また、ブースタ通路102上には、レギュレータ圧を検出するレギュレータ圧センサ81が接続されている。そのレギュレータ圧センサ81の検出信号は、電子制御装置1に送られる。
更に、このブースタ通路102上におけるレギュレータ圧センサ81との接続部よりも下流側(車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrr側)には、ハイドロブースタ22のブースタ室と主制御圧通路105との間の連通又は遮断の状態を制御するレギュレータ圧供給制御弁(以下、「レギュレータカット弁」という。)72が配設されている。そのレギュレータカット弁72は、非通電時に開弁状態になっている常開式の電磁弁であって、電子制御装置1の制御指令に従って開閉動作を行う。その電子制御装置1は、ソレノイドに所定の電流値の電流を印加することでレギュレータカット弁72を閉弁させ、ハイドロブースタ22のブースタ室と主制御圧通路105とを遮断させる。一方、上述したように非通電時の分割制御弁74は閉弁状態なので、この電子制御装置1は、電流を印加せずにレギュレータカット弁72を開弁させることで、左側後輪Wrlと右側後輪Wrrの夫々の液圧調整装置40RL,40RRへのレギュレータ圧の供給状態を制御する。
また、この液圧発生装置20には、リザーバ23が接続されている。そして、そのリザーバ23には、ブレーキ液が大気圧で貯留されており、且つ、リザーバ通路103が接続されている。また、この液圧発生装置20には、ブレーキ液圧が設定圧以上になった際にその余剰分を低圧側に戻すリリーフ弁24も設けられている。そのリリーフ弁24は、上流側がリザーバ23に接続され、下流側がハイドロブースタ22のブースタ室に接続されている。更に、このリリーフ弁24は、その上流側が後述する高圧発生装置30のポンプ32の上流側にも接続され、下流側がアキュムレータ33の下流側にも接続されている。
続いて、高圧発生装置30は、図1に示す如く、モータ31と、このモータ31により駆動されてリザーバ23のブレーキ液を汲み上げ、これを加圧して吐出するポンプ32と、このポンプ32で加圧されたブレーキ液を貯留するアキュムレータ33と、を備えている。そのモータ31は、アキュムレータ33内の圧力(アキュムレータ圧)を所定範囲内に調節するよう電子制御装置1によって駆動制御される。この制動システムにおいては、そのアキュムレータ33内が一定の高さのアキュムレータ圧に調整されている。
この高圧発生装置30においては、ポンプ32及びアキュムレータ33の下流側(換言するならば、高圧側)に第3液圧経路としての高圧通路104が接続されている。
ここで、その高圧通路104上には、アキュムレータ圧を検出するアキュムレータ圧センサ82が接続されている。そのアキュムレータ圧センサ82の検出信号は、電子制御装置1に送られる。
また、この高圧通路104上におけるアキュムレータ圧センサ82との接続部よりも下流側(車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrr側)には、高圧発生装置30と主制御圧通路105との間の連通又は遮断の状態を制御して、主制御圧通路105への高圧発生装置30からの導入圧たる高いブレーキ液圧(アキュムレータ圧)の供給状態を制御するアキュムレータ圧供給制御弁(以下、「リニア増圧制御弁」という。)73が配設されている。そのリニア増圧制御弁73は、非通電時に閉弁状態になっている常閉式のリニア電磁制御弁であって、電子制御装置1の制御指令に従って開閉動作を行う。このリニア増圧制御弁73は、ソレノイドに供給される電流に応じて開弁し、アキュムレータ圧が下流側(主制御圧通路105側)に伝わるようにする。
本実施例においては、上述したマスタ通路101とブースタ通路102と高圧通路104とリザーバ通路103とがその順番で図1に示す主制御圧通路105に接続されている。その主制御圧通路105には、各液圧調整装置40FL,40FR,40RL,40RRの上流側制御圧通路106FL,106FR,106RL,106RRが夫々接続されている。尚、ここで云う上流とは、各液圧調整装置40FL,40FR,40RL,40RRを中心にして観た場合、液圧発生装置20側や高圧発生装置30側のことを指す。従って、その場合の下流とは、制動力発生装置50FL,50FR,50RL,50RR側のことを云う。
ここで、その主制御圧通路105上には、図1に示す如く、マスタ通路101とブースタ通路102との夫々の接続部分の間に分割制御弁74が配設され、且つ、リザーバ通路103と高圧通路104との夫々の接続部分の間にリニア減圧制御弁75が配設されている。更に、この主制御圧通路105には、その分割制御弁74を挟んだ一方の通路(以下、「第1通路」と云う。)105aに左右夫々の前輪Wfl,Wfrの液圧調整装置40FL,40FRが接続されており、他方の通路(以下、「第2通路」と云う。)105bに左右夫々の後輪Wrl,Wrrの液圧調整装置40RL,40RRが接続されている。その液圧調整装置40FL,40FRは、夫々に上流側制御圧通路106FL,106FRを介して第1通路105aに接続される。また、液圧調整装置40RL,40RRは、第2通路105bにおける分割制御弁74とリニア減圧制御弁75との間において、夫々に上流側制御圧通路106RL,106RRを介して接続される。
その主制御圧通路105における第1通路105a上には、主制御圧通路105のブレーキ液圧を検出するブレーキ液圧センサ83が接続されている。その主制御圧通路105のブレーキ液圧は、リニア増圧制御弁73の開弁に伴うアキュムレータ圧の供給によって増圧させることができ、後述するリニア減圧制御弁75の開弁に伴い減圧させることができる。この主制御圧通路105は上流側制御圧通路106FL,106FR,106RL,106RRに連通しているので、そのブレーキ液圧センサ83は、上流側制御圧通路106FL,106FR,106RL,106RRのブレーキ液圧の検出も行える。また、その上流側制御圧通路106FL,106FR,106RL,106RRのブレーキ液圧は、液圧調整装置40FL,40FR,40RL,40RRの上流側のブレーキ液圧(以下、「上流圧」と云う。)や、後述する保持弁NOFL,NOFR,NORL,NORRの上流圧に相当する。従って、ブレーキ液圧センサ83は、その液圧調整装置40FL,40FR,40RL,40RRの上流圧や保持弁NOFL,NOFR,NORL,NORRの上流圧を検出することができる。このブレーキ液圧センサ83の検出信号は、電子制御装置1に送られる。
分割制御弁74は、主制御圧通路105を二分した状態と、その分けられた双方の通路を連通させた状態と、を作り出すものである。この分割制御弁74は、非通電時に閉弁状態になっている常閉式の電磁弁であって、電子制御装置1の制御指令に従って開閉動作を行う。その電子制御装置1は、ソレノイドに所定の電流値の電流を印加することで分割制御弁74を開弁させ、この分割制御弁74を間に置いた主制御圧通路105の双方の通路を連通させる。
また、リニア減圧制御弁75は、アキュムレータ圧の供給を止めた際に、主制御圧通路105のブレーキ液圧のブレーキ液圧を下げる為に用意されたものである。このリニア減圧制御弁75は、非通電時に閉弁状態になっている常閉式のリニア電磁制御弁であって、電子制御装置1の制御指令に従って開閉動作を行う。このリニア減圧制御弁75は、開弁することにより、主制御圧通路105における上記の第2通路105bからリザーバ通路103へとブレーキ液を流す。
続いて、液圧調整装置40FL,40FR,40RL,40RRについて詳述する。
これら液圧調整装置40FL,40FR,40RL,40RRは、前述したように液圧発生装置20や高圧発生装置30の発生したブレーキ液圧を調圧するものであって、各車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrの制動力発生装置50FL,50FR,50RL,50RRに供給するブレーキ液圧を各々調整して所謂ABS制御や所謂トラクション制御等を実行させるものである。そのブレーキ液圧は、制動力発生装置50FL,50FR,50RL,50RRのホイールシリンダに供給される。尚、その制動力発生装置50FL,50FR,50RL,50RRとは、例えばディスクロータやキャリパ等で構成されたものやドラム等で構成されたものである。
液圧調整装置40FL,40FR,40RL,40RRの下流側は、夫々に図1に示す減圧通路107FL,107FR,107RL,107RRを介して主減圧通路108に接続されている。その主減圧通路108は、リザーバ通路103を介してリザーバ23に接続されている。
左側前輪Wflの液圧調整装置40FLは、ブレーキ液の流量制御により制動力発生装置50FLへのブレーキ液圧を調節する流量制御弁であって、そのブレーキ液の流路を開け閉めすることでブレーキ液の流量制御を行う開閉弁を有する。具体的に、この液圧調整装置40FLは、その流量制御弁(開閉弁)として、非通電時に開弁状態になっている常開式の電磁弁であって、電子制御装置1の制御指令に従って開閉動作する保持弁NOFLと非通電時に閉弁状態になっている常閉式の電磁弁であって、電子制御装置1の制御指令に従って開閉動作する減圧弁NCFLと、を備えている。尚、その保持弁は、増圧弁と云われることもある。
その保持弁NOFLは、開弁状態において、液圧調整装置40FLの上流部(主制御圧通路105)と左側前輪Wflの制動力発生装置50FLとを連通させる。一方、この保持弁NOFLは、閉弁することで、液圧調整装置40FLの上流部とその制動力発生装置50FLとの間の連通を遮断する。
また、減圧弁NCFLは、閉弁状態において、左側前輪Wflの制動力発生装置50FLとリザーバ23との間の連通を遮断させる。一方、この減圧弁NCFLは、開弁することで、その制動力発生装置50FLとリザーバ23を連通させる。
この液圧調整装置40FLにおいては、その保持弁NOFLと減圧弁NCFLとの間に図1に示す左側前輪通路109FLが接続されている。その左側前輪通路109FLは、左側前輪Wflの制動力発生装置50FLにも接続されている。
この液圧調整装置40FLは、保持弁NOFLが開弁状態で且つ減圧弁NCFLが閉弁状態のときに、その保持弁NOFLの上流側(主制御圧通路105及び上流側制御圧通路106FL)のブレーキ液を制動力発生装置50FLに供給する。これにより、この液圧調整装置40FLは、左側前輪Wflの制動力発生装置50FLのブレーキ液圧を増圧させ、その左側前輪Wflの制動力を増加させる(増圧モード)。また、この液圧調整装置40FLは、保持弁NOFLと減圧弁NCFLとが夫々閉弁状態のときに、制動力発生装置50FLのブレーキ液圧(換言するならば左側前輪Wflの制動力)をそのときの大きさのまま保持する(保持モード)。また、この液圧調整装置40FLは、保持弁NOFLが閉弁状態で且つ減圧弁NCFLが開弁状態のときに、制動力発生装置50FL内のブレーキ液をリザーバ23に戻す。これにより、この液圧調整装置40FLは、左側前輪Wflの制動力発生装置50FLのブレーキ液圧を減圧させ、その左側前輪Wflの制動力を減少させる(減圧モード)。
残りの車輪Wfr,Wrl,Wrrの液圧調整装置40FR,40RL,40RRについては、図1に示す如く、上述した左側前輪Wflの液圧調整装置40FLと同様に構成されている。つまり、右側前輪Wfrの液圧調整装置40FRは、保持弁NOFRと減圧弁NCFRとを備えており、右側前輪通路109FRを介して接続された右側前輪Wfrの制動力発生装置50FRに対するブレーキ液圧制御の増圧モード、保持モード又は減圧モードを実現させる。また、左側後輪Wrlの液圧調整装置40RLは、保持弁NORLと減圧弁NCRLとを備えており、左側後輪通路109RLを介して接続された左側後輪Wrlの制動力発生装置50RLに対するブレーキ液圧制御の増圧モード、保持モード又は減圧モードを実現させる。また、右側後輪Wrrの液圧調整装置40RRは、保持弁NORRと減圧弁NCRRとを備えており、右側後輪通路109RRを介して接続された右側後輪Wrrの制動力発生装置50RRに対するブレーキ液圧制御の増圧モード、保持モード又は減圧モードを実現させる。
この制動制御装置においては、高圧発生装置30からの高圧のブレーキ液(アキュムレータ圧)を用いた加圧制動力制御を行う場面として、所謂トラクション制御やビークルスタビリティ制御等の車両挙動制御などが挙げられる。トラクション制御とは、所謂トラクション・コントロール・システムによる制御のことであり、運転者のアクセル操作(つまり加速操作)に伴って駆動輪がスリップした際に、そのスリップ状態にある駆動輪の制動力やエンジン出力を調節し、最適な駆動力を駆動輪に対して働かせるようにするものである。加圧制動力制御は、その駆動輪の制動力を発生させる為に行われる。また、ビークルスタビリティ制御とは、所謂ビークル・スタビリティ・コントロール・システムによる制御のことであり、各車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrの内の何れかの制御対象輪にのみ制動力を加え、これにより車両の挙動の安定化を図るものである。加圧制動力制御は、その制御対象輪の制動力を発生させる為に行われる。
その加圧制動力制御を行うときには、その開始指令に基づきリニア増圧制御弁73と分割制御弁74を開弁させて、保持弁NOFL(NOFR,NORL,NORR)の上流側にアキュムレータ圧を供給し、制御対象輪の液圧調整装置40FL(40FR,40RL,40RR)による増圧モードのブレーキ液圧制御を実行する。これにより、その制御対象輪においては、保持弁NOFL(NOFR,NORL,NORR)の上流側のアキュムレータ圧に基づいて制動力発生装置50FL(50FR,50RL,50RR)のホイールシリンダ圧が増圧し、制動力が増加する。例えば、その後、電子制御装置1は、その制御対象輪の液圧調整装置40FL(40FR,40RL,40RR)を保持モードのブレーキ液圧制御に切り替え、増圧モードと保持モードを交互に繰り返しながら制御対象輪のホイールシリンダ圧(制動力)を目標値まで増加させる。尚、その際、電子制御装置1は、その制御対象輪が制動力の増加に伴ってロック状態になりそうならば、これを回避すべく液圧調整装置40FL(40FR,40RL,40RR)を減圧モードのブレーキ液圧制御に切り替え、ホイールシリンダ圧を減圧させて制御対象輪の制動力を低下させる。
ところで、この制動システムは、夫々の車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrのホイールシリンダ圧を各々個別に直接検出することができる液圧センサ等の検出装置を備えていない。ここで、液圧調整装置40FL,40FR,40RL,40RRが後述する増圧モードのときには、主制御圧通路105と制動力発生装置50FL,50FR,50RL,50RRの油路とが連通しており、その主制御圧通路105のブレーキ液圧と各車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrのホイールシリンダ圧とが同じ圧力になっている。また、液圧調整装置40FL,40FR,40RL,40RRが後述する保持モードのときには、主制御圧通路105のブレーキ液圧に変化が無ければ、このブレーキ液圧と各車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrのホイールシリンダ圧とが同じ圧力になっている。これが為、各車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrのホイールシリンダ圧としては、主制御圧通路105のブレーキ液圧を用いることができる。従って、ブレーキ液圧センサ83は、ホイールシリンダ圧センサとして利用することもできる。以下、このブレーキ液圧センサ83のことをホイールシリンダ圧センサ83と云う。
この制動制御装置では、例えば上記の増圧モードにおいて、下記の式1に基づいて制御対象輪の保持弁NOFL(NOFR,NORL,NORR)を流れるブレーキ液の目標流量Qを求め、この保持弁NOFL(NOFR,NORL,NORR)のソレノイドを制御する。「K」は、この保持弁NOFL(NOFR,NORL,NORR)の上下流間のブレーキ液圧差に応じた流量変換係数である。「SQRT」は、保持弁NOFL(NOFR,NORL,NORR)の上流圧から下流圧(=ホイールシリンダ圧)を減算した値であり、この保持弁NOFL(NOFR,NORL,NORR)の上下流間のブレーキ液圧差のことである。
Q=K*SQRT … (1)
従って、制動力制御の精度を高める為には、精度良く保持弁NOFL,NOFR,NORL,NORRの上流圧や下流圧(ホイールシリンダ圧)を検出することが望まれる。保持弁NOFL,NOFR,NORL,NORRの上流圧については、ホイールシリンダ圧センサ83によって実際の上流圧に相当する値が検出できる。更に、保持弁NOFL,NOFR,NORL,NORRの下流圧(車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrのホイールシリンダ圧)については、増圧モードであれば、ホイールシリンダ圧センサ83によって実際の値に相当するものが検出でき、保持モードであれば、保持モード開始時のホイールシリンダ圧センサ83の検出値によって実際の値に相当するものが検出できる。また、減圧モードの場合には、減圧モード開始時のホイールシリンダ圧センサ83の検出値と、減圧弁NCFL,NCFR,NCRL,NCRRを流れたブレーキ液の流量(開弁時間等から推定)と、に基づいて、実際の値に相当する保持弁NOFL,NOFR,NORL,NORRの下流圧(車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrのホイールシリンダ圧)を推定できる。
このように、その何れの場合においても、制動力制御の精度を高める為には、ホイールシリンダ圧センサ83の検出値を要し、主制御圧通路105のブレーキ液圧を正しく検出する必要がある。しかしながら、分割制御弁74が閉弁している状態では、主制御圧通路105が2つの通路に分断され、その内の第1通路105aにのみホイールシリンダ圧センサ83が接続されていることになるので、その第1通路105aのブレーキ液圧はホイールシリンダ圧センサ83で検出できるが、そのホイールシリンダ圧センサ83で第2通路105bのブレーキ液圧を検出することができない。つまり、分割制御弁74が閉弁状態のときには、前輪Wfl,Wfrの保持弁NOFL,NOFRの上流圧や下流圧(ホイールシリンダ圧)をホイールシリンダ圧センサ83で検出できるが、後輪Wrl,Wrrの保持弁NORL,NORRの上流圧や下流圧(ホイールシリンダ圧)をホイールシリンダ圧センサ83で検出することができない。
例えば、分割制御弁74の閉弁状態とは、この分割制御弁74の経年変化等によってソレノイドに通電しても開弁できない状態も考えられれば、そのソレノイドへの通電が禁止されている状態も考えられる。この制動制御装置においては、例えば、マスタカット弁71、レギュレータカット弁72、リニア増圧制御弁73、分割制御弁74及びリニア減圧制御弁75の内の少なくとも1つに経年変化等による開閉作動不良等の失陥が生じた場合、非常時との判断に至り、そのマスタカット弁71等の各種制御弁への通電が禁止される。また、液圧調整装置40FL,40FR,40RL,40RRに所望のブレーキ液圧が加わらない様な失陥が生じた場合にも、非常時となり、その各種制御弁への通電が禁止される。尚、ここでは、制動制御装置に失陥等の無い通常時に、マスタカット弁71、レギュレータカット弁72及び分割制御弁74のソレノイドへの通電が行われているものとする。また、この通常時のリニア増圧制御弁73とリニア減圧制御弁75においては、主制御圧通路105のブレーキ液圧の増減要求に応じて、ソレノイドへの通電と非通電が行われる。従って、分割制御弁74の閉弁状態とは、結局の所、分割制御弁74のソレノイドへの通電が禁止されている状態のことであり、その主な状況として制動制御装置の非常時における各種制御弁の非通電状態が該当する。
ここで、例えば非常時には、分割制御弁74以外にもリニア増圧制御弁73とリニア減圧制御弁75が閉弁し、その一方でマスタカット弁71とレギュレータカット弁72が開弁する。これが為、非常時には、主制御圧通路105におけるホイールシリンダ圧センサ83の有る第1通路105aにマスタシリンダ圧が供給され、ホイールシリンダ圧センサ83の無い第2通路105bにレギュレータ圧が供給されることになる。従って、非常時には、ホイールシリンダ圧センサ83がマスタシリンダ圧を検出するので、これを前輪Wfl,Wfrの保持弁NOFL,NOFRの上流圧や下流圧(ホイールシリンダ圧)として用いることができる。これに対して、そのホイールシリンダ圧センサ83は、レギュレータ圧を検出できないので、後輪Wrl,Wrrの保持弁NORL,NORRの上流圧や下流圧(ホイールシリンダ圧)を明らかにすることができない。
そこで、この制動制御装置においては、分割制御弁74が開弁状態のときに、主制御圧通路105のブレーキ液圧をホイールシリンダ圧センサ83で検出し、これを全ての車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrの保持弁NOFL,NOFR,NORL,NORRの上流圧や下流圧(ホイールシリンダ圧)として用いる。一方、この制動制御装置においては、分割制御弁74が閉弁状態のときに、主制御圧通路105における第1通路105aのブレーキ液圧をホイールシリンダ圧センサ83で検出し、これを前輪Wfl,Wfrの保持弁NOFL,NOFRの上流圧や下流圧(ホイールシリンダ圧)として用いる。また、この制動制御装置においては、分割制御弁74が閉弁状態のときに、レギュレータカット弁72が開弁状態にあれば、レギュレータ圧センサ81でレギュレータ圧を検出し、これを後輪Wrl,Wrrの保持弁NORL,NORRの上流圧や下流圧(ホイールシリンダ圧)として用いる。
例えば、電子制御装置1は、図2のフローチャートに示すように、分割制御弁74が閉弁状態になっているのか否かを判定する(ステップST1)。分割制御弁74が閉弁状態のときには、電子制御装置1が当該分割制御弁74への通電禁止指令を行っている。これが為、この判定は、その通電禁止指令の有無に基づいて行えばよい。
電子制御装置1は、分割制御弁74が閉弁状態になっている場合、レギュレータ圧センサ81で検出したレギュレータ圧を後輪Wrl,Wrrの保持弁NORL,NORRの上流圧とする(ステップST2)。
一方、分割制御弁74が開弁状態になっている場合、電子制御装置1は、ホイールシリンダ圧センサ83で検出した主制御圧通路105のブレーキ液圧を後輪Wrl,Wrrの保持弁NORL,NORRの上流圧とする(ステップST3)。
この電子制御装置1は、その検出した後輪Wrl,Wrrの保持弁NORL,NORRの上流圧に基づいて、後輪Wrl,Wrrの制動力制御を実行する(ステップST4)。
その制動力制御の際、例えば、後輪Wrl,Wrrの液圧調整装置40RL,40RRが増圧モード(保持弁NORL,NORRが開弁状態で減圧弁NCRL,NCRRが閉弁状態)の場合、電子制御装置1は、後輪Wrl,Wrrの保持弁NORL,NORRの上流圧(レギュレータ圧)を後輪Wrl,Wrrの保持弁NORL,NORRの下流圧(ホイールシリンダ圧)とする。
また、増圧モードから保持モード(保持弁NORL,NORRと減圧弁NCRL,NCRRが閉弁状態)に移行した場合、電子制御装置1は、保持モード開始時の後輪Wrl,Wrrの保持弁NORL,NORRの上流圧(レギュレータ圧)を後輪Wrl,Wrrの保持弁NORL,NORRの下流圧(ホイールシリンダ圧)とする。
尚、増圧モードから減圧モード(保持弁NORL,NORRが閉弁状態で減圧弁NCRL,NCRRが開弁状態)に移行した場合、電子制御装置1は、減圧モード開始時の後輪Wrl,Wrrの保持弁NORL,NORRの上流圧(レギュレータ圧)又は下流圧に基づいて、その下流圧(ホイールシリンダ圧)を推定すればよい。また、保持モードから減圧モードに移行した場合、電子制御装置1は、保持モードにおける後輪Wrl,Wrrの保持弁NORL,NORRの下流圧(ホイールシリンダ圧)に基づいて、その下流圧(ホイールシリンダ圧)を推定すればよい。
以上示したように、この制動制御装置においては、分割制御弁74の開閉状態に拘わらず、後輪Wrl,Wrrの液圧調整装置40RL,40RR(保持弁NORL,NORR)の上流圧を検出できる。これが為、この制動制御装置は、分割制御弁74が閉弁状態のときに前輪Wfl,Wfrの保持弁NOFL,NOFRの上流圧を後輪Wrl,Wrrの保持弁NORL,NORRの上流圧として推定していた従来の制動制御装置と比較して、後輪Wrl,Wrrの保持弁NORL,NORRの上流圧の情報としての精度が高くなる。故に、本実施例の制動制御装置は、従来の制動制御装置と比して、分割制御弁74が閉弁状態であっても、後輪Wrl,Wrrの保持弁NORL,NORRの下流圧(ホイールシリンダ圧)の情報を精度良く得ることができ、その保持弁NORL,NORRの目標流量Qの演算精度が高くなる。何故ならば、従来は、分割制御弁74が閉弁状態のときに、ホイールシリンダ圧センサ83から得た前輪Wfl,Wfrの保持弁NOFL,NOFRの上流圧を後輪Wrl,Wrrの保持弁NORL,NORRの上流圧と推定していたので、前輪Wfl,Wfr側の主制御圧通路105(上記の第1通路105a)と後輪Wrl,Wrr側の主制御圧通路105(上記の第2通路105b)との間でブレーキ液圧にずれがある場合、実際とは違う値に後輪Wrl,Wrrの保持弁NORL,NORRの上流圧が推定され、そのずれの分だけ、その保持弁NORL,NORRの下流圧(ホイールシリンダ圧)や目標流量Qにもずれが生じてしまう。これに対して、本実施例の制動制御装置においては、レギュレータ圧から得た精度の良い後輪Wrl,Wrrの保持弁NORL,NORRの上流圧に基づいて、その保持弁NORL,NORRの下流圧(ホイールシリンダ圧)や目標流量Qを得ることができるからである。従って、この制動制御装置は、分割制御弁74の開閉状態に拘わらず、後輪Wrl,Wrrの保持弁NORL,NORRの上下流間の昇圧量を精度良く制御できるので、制動力制御の精度が高くなり、高い制動性能を得ることができる。