JP2014091686A - アズキ由来骨代謝調節剤 - Google Patents

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Abstract

【課題】アズキの未利用な生理活性成分に着目し、骨粗鬆症の予防、治療に有効性を示す新規なアズキ由来骨代謝調節剤(骨代謝調節アズキ由来抽出物)を提供し、併せてこれを含む予防剤、治療剤、または食品を提供する。
【解決手段】アズキ(Vigna angularis)を熱水で煮熟し生じた煮汁から上清を分離し、上清を合成吸着剤に吸着させた後、吸着後の合成吸着剤に10%〜40%エタノール水溶液を添加して溶出して得たアズキ由来抽出物を有効成分とし、当該アズキ由来抽出物は骨芽細胞への分化を促進し、かつ、破骨細胞への分化を抑制することを特徴とするアズキ由来骨代謝調節剤である。
【選択図】図1

Description

本発明は、アズキ由来骨代謝調節剤に関し、特に、骨粗鬆症の予防、治療に有効に作用するアズキ由来抽出物であり、当該抽出物を含有する予防剤、治療剤、食品に関する。
我が国における高齢化の急速な進行は、加齢進行に伴う高齢者特有の疾患を増加させ、医療費上昇の社会問題である。このような加齢性疾患のひとつとして骨粗鬆症があり、その主な原因は老化や閉経後のホルモンバランスの不均衡とされている。骨粗鬆症は骨折を頻繁に誘発することから生活行動を制約することとなり、生活の質(QOL)を大きく低下させる。そのため、症状が悪化しやいように予防、対策が重要である。
生体における骨の代謝は静的ではなく極めて動的であり、恒常性を維持しながら系統的に調節されている。具体的に骨代謝(bone metabolism)とは、骨芽細胞の分化により骨が形成されると同時に破骨細胞により骨の溶解が進行することである。両細胞による骨の再生と破壊が好適な平衡状態を保つことによる新陳代謝の結果、健全な骨の再構築(リモデリング)が生じる。しかしながら、加齢による骨芽細胞の機能低下(低回転型)に加え、閉経後のエストロゲン量の減少に伴い破骨細胞の活動が骨芽細胞よりも優位となる機能促進(高回転型)が複雑に作用している。このため、骨形成よりも骨破壊が進行して骨密度低下が誘発される。
上記の骨代謝制御の変調による代表的な症状に骨粗鬆症(osteoporosis)がある。現在、骨粗鬆症の治療に際し、カルシウム製剤、活性型ビタミンD3製剤、ビタミンK2製剤、副甲状腺ホルモン(PTH)、カルシトニン製剤、イプリフラボン、ビスホスホネート製剤、エストロゲン製剤、選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)等の治療薬が用いられている。しかし、エストロゲン製剤に見られるホルモン剤は乳がん等の副作用を誘発することがあり、その使用には慎重さが求められる。前掲の治療薬には少なからず副作用も存在する。また、骨粗鬆症の進行は患者の生活習慣に多く影響される。このため、その影響を軽減する意味からも骨粗鬆症の予防として、あるいは、治療薬の使用と併用できる成分が求められている。
そこで、動植物等に由来する天然物抽出物を骨粗鬆症対策に役立てようとする試みが数多く報告されている(特許文献1,2,3,4,5,6,7,8,9,10等)。これらの文献によると、天然物抽出物は骨粗鬆症対策について一定の効果を発揮することを示している。しかし、専ら骨芽細胞の機能改善あるいは破骨細胞の作用抑制の限られた効果について言及、解明しているに留まっていた。
前述のとおり、骨の再構築には複数の細胞が関与し、各種のシグナル伝達により複雑に結びついている。例えば、骨芽細胞の表面に発現している膜結合型サイトカインのRANKLは、破骨細胞前駆細胞の表面の受容体のRANKと結合し、破骨細胞前駆細胞から破骨細胞への分化を促している。このため、骨の再構築を総合的に把握した場合、単に骨芽細胞あるいは破骨細胞のいずれかに作用するのみでは、骨粗鬆症の改善に十分効果的ではないと考えることもできる。
前述の経緯とは別に、発明者らは、以前からアズキに着目して各種の研究を行ってきた。アズキ(小豆:Vigna angularis)は、主に煮熟(炊きあげ)による加熱により軟らかく加工され、赤飯等の料理の食材、あるいは、砂糖が加えられ「小倉あん」等の製菓用食材に加工される。アズキの加工に際し、アズキの煮汁が大量に生じる。アズキの煮汁には、ポリフェノール類、サポニン類、アントシアニン類、さらには糖分子と結合した配糖体等も含有されていることが知られている。しかし、現状、利用されることなくそのまま廃棄されることが多い。
アズキの煮汁に着目し、この中に含まれる生理活性成分についての有効活用として、例えば、アズキの煮汁のアルコール抽出物の生理作用については、抗アレルギー活性、血糖降下活性、細胞接着阻害、高脂血症予防等の効果が報告されている(特許文献11等参照、非特許文献1、2、3、4、5等参照)。
前記の経緯を踏まえ、発明者はアズキから抽出される成分の生理活性効果についてさらに鋭意研究を重ねた結果、骨芽細胞及び破骨細胞の双方の分化に作用する知見を得た。すなわち、アズキ由来成分が骨粗鬆症の予防、治療に有効性を示す可能性を示唆する。
特開2007−137775号公報 特開2008−214237号公報 特開2008−303166号公報 特開2009−107995号公報 特開2009−256350号公報 特開2010−30905号公報 特開2010−215607号公報 特開2010−235533号公報 特開2010−235534号公報 特許第3909391号公報 特開2011−178680号公報
T.Itoh et al., Biosci.Biotechnol.Biochem.,68(12),2421−2426(2004) T.Itoh et al., Biosci.Biotechnol.Biochem.,69(3),448−454(2005) T.Itoh et al., Nutrition, 25,134−141(2009) T.Itoh et al., Nutrition, 25,318−321(2009) T.Itoh et al., Phytother.Res.,26(7),1003−1011(2012)
本発明は前記の点に鑑みなされたものであり、アズキの未利用な生理活性成分に着目し、骨粗鬆症等の予防、治療に有効性を示す新規なアズキ由来骨代謝調節剤(骨代謝調節アズキ由来抽出物)を提供し、併せてこれを含む予防剤、治療剤、または食品を提供する。
すなわち、請求項1の発明は、アズキを熱水で煮熟し生じた煮汁から上清を分離し、前記上清を合成吸着剤に吸着させた後、前記吸着後の合成吸着剤にエタノール水溶液を添加して溶出して得たアズキ由来抽出物を有効成分とすることを特徴とするアズキ由来骨代謝調節剤に係る。
請求項2の発明は、前記エタノール水溶液が10%〜40%エタノール水溶液である請求項1に記載のアズキ由来骨代謝調節剤に係る。
請求項3の発明は、前記アズキ由来抽出物が、骨芽細胞への分化を促進し、かつ、破骨細胞への分化を抑制する請求項1または2に記載のアズキ由来骨代謝調節剤に係る。
請求項4の発明は、請求項1ないし3のいずれか1項に記載のアズキ由来骨代謝調節剤を含有してなる骨粗鬆症の予防剤または治療剤に係る。
請求項5の発明は、請求項1ないし3のいずれか1項に記載のアズキ由来骨代謝調節剤を含有してなる食品に係る。
請求項1の発明に係るアズキ由来骨代謝調節剤によると、アズキを熱水で煮熟し生じた煮汁から上清を分離し、前記上清を合成吸着剤に吸着させた後、前記吸着後の合成吸着剤にエタノール水溶液を添加して溶出して得たアズキ由来抽出物を有効成分とするため、これまで廃棄されていたアズキの未利用な有効成分に着目し、新規のアズキ由来骨代謝調節剤を得ることができた。
請求項2の発明に係るアズキ由来骨代謝調節剤によると、請求項1の発明において、前記エタノール水溶液が10%〜40%エタノール水溶液であるため、より活性の高いアズキ由来骨代謝調節剤を得ることができた。
請求項3の発明に係るアズキ由来骨代謝調節剤によると、請求項1または2の発明において、骨芽細胞への分化を促進し、かつ、破骨細胞への分化を抑制するため、骨粗鬆症等の予防、治療に効果的な骨代謝活性を示す。
請求項4の発明に係る骨粗鬆症の予防剤または治療剤によると、請求項1ないし3のいずれか1項に記載のアズキ由来骨代謝調節剤を含有してなるため、骨粗鬆症等の骨代謝異常の改善に効果を有する薬剤を得ることができる。
請求項5の発明に係る食品によると、請求項1ないし3のいずれか1項に記載のアズキ由来骨代謝調節剤を含有してなるため、食品に配合して食事から骨粗鬆症等の骨代謝異常の改善に効果を有する成分を得ることができる。
本発明のアズキ由来骨代謝調節剤を得る概略工程図である。 アルカリホスファターゼ(ALP)活性を示すグラフである。 ALP活性を示した培養細胞の写真である。 前駆骨芽細胞内のシグナル伝達や転写等の概略模式図である。 骨芽細胞内の転写因子発現のウエスタンブロットの比較写真である。 定量リアルタイム−PCRにより骨芽細胞内の転写因子量を推定したグラフである。 リン酸化Smadのウエスタンブロットの比較写真である。 P38 MAP kinase等のウエスタンブロットの比較写真である。 骨型酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼ(TRACP)活性を示すグラフである。 TRACP染色の写真である。 前駆破骨細胞内のシグナル伝達や転写等の概略模式図である。 c−Fos及びNFATc1のウエスタンブロットの比較写真である。
本発明のアズキ由来骨代謝調節剤(骨代謝調節アズキ由来抽出物)について、図1の概略工程図を用い、これを得る過程を説明する。はじめに、アズキ〔小豆(Adzuki beans):Vigna angularis〕は、適宜水洗の後、蒸煮釜等において90℃ないし95℃の熱水(熱湯)中で、20分ないし60分間煮熟される(煮熟については、煮沸や炊きあげ等とも称される。)。当該加熱後、アズキ(茹でられた豆)とアズキの煮汁(熱水抽出物)は分離される。通常、アズキの煮汁はそのまま廃棄され、加熱されたアズキについては砂糖等が添加され小倉あん等に加工される。
アズキの煮汁は、その種皮色から推察されるように、赤茶色を呈していることから、何らかの成分が溶解していることは予想される。そこで、未利用物の有効活用の途を開くべく、その解明を進めることとした。
アズキを煮熟した際に生じる煮汁は室温に冷まされ、煮汁は上清(supernatant)と沈殿物(precipitates)に分けられる。煮汁の分離には、フィルター濾過の他、後述の実施例の条件による遠心分離も用いられる。
煮汁の上清中には、各種の熱水可溶性成分が含まれている。そこで、上清内の成分の濃縮と溶出分離のため、上清はいったん合成吸着剤に吸着される。合成吸着剤は適宜の樹脂製カラム、樹脂ビーズ等である。後記の実施例では、スチレン−ジビニルベンゼン系樹脂からなる細孔を備えた粒径0.25mm以上のビーズを用いた。
上清中の各種成分を吸着している合成吸着剤に対してエタノールの水溶液が添加、送通される。そして、合成吸着剤に吸着されているアズキの抽出物はエタノール水溶液中に溶出される。このように、アズキの煮熟、上清分離、吸着、溶出の過程を経ることにより得られる成分が、本発明に規定するアズキ由来骨代謝調節剤である。エタノール水溶液中に存在する溶出分の有無は、所定の波長(例えば280nm)の吸光度を確認することにより容易に把握することができる。
エタノール水溶液は、全量水の状態から徐々にエタノール濃度が連続的に高められる濃度勾配(グラジエント)の溶液(v/v%)として調製され、前記の抽出物の溶出に供される。実施例において、エタノール水溶液の濃度(v/v%)は、当初の0%(水のみ)から、10%ないし40%濃度の溶液、40%ないし60%濃度の溶液、60%ないし80%濃度の溶液の4種類としている。濃度勾配を形成する精度上、概ね前記の濃度域毎に分けられる。なお、合成吸着剤を乾燥させると分離能が変動してしまうため、濃度の切り替えの際に必要量の水も送通される。
各エタノール水溶液濃度の溶出の画分(フラクション)から水分等を蒸発、乾燥することにより、エタノール水溶液の濃度毎に振り分けた抽出物を得ることができる。その中において、10%ないし40%の濃度域のエタノール水溶液のアズキ由来抽出物の骨代謝調節に関わる活性発現が顕著である。抽出物はアズキの煮汁由来の成分であるため、配糖体、色素成分、各種カテキン類等のポリフェノール成分が含まれていると予想される。従って、本発明のアズキ由来骨代謝調節剤とは、前記の複数の成分を含む混合物であると考えられる。
10%ないし40%のエタノール濃度域の溶出画分が良好な活性を発現する理由については必ずしも明らかではない。濃度勾配あるエタノール水溶液を用いて溶出するため、完全に親水性もしくは疎水性の物質ではなく、比較的親水性が良好であるとともに一部疎水性を備えた物質の分離が可能となる。特に、生体への投与後あるいは服用後、細胞内への良好な浸透を勘案した場合、細胞膜から細胞内への透過性と細胞内での拡散性から適度な両親媒性を備えた分子ほど生理活性効果が高いと考えられる。
アズキからの抽出により得たアズキ由来骨代謝調節剤は、後記実施例に詳述するように、骨の再構築(リモデリング)に関与する前駆骨芽細胞と前駆破骨細胞の双方へ働きかける成分である。当該アズキ由来骨代謝調節剤(骨代謝調節アズキ由来抽出物)は、前駆骨芽細胞に対し骨芽細胞への分化とその石灰化を亢進させる。また、当該アズキ由来骨代謝調節剤は前駆破骨細胞に対し破骨細胞への分化を抑制する。すなわち、骨芽細胞の機能低下(低回転型)及び破骨細胞の活動が骨芽細胞よりも優位となる機能促進(高回転型)の双方の骨代謝調節を可能にすることにより、骨破壊を抑えながら骨形成を進めることを示唆している。例えば、骨粗鬆症、骨軟化症(くる病)等の疾患の予防、治療に効果的とされる。
従前の骨粗鬆症の予防、治療に提案されている天然物抽出物の多くは、骨形成の亢進あるいは骨破壊の抑制のいずれかに作用することを目的としていた。これに対し、アズキ由来骨代謝調節剤は、成分を共通としながらも骨形成と骨破壊の骨代謝に関与する双方の細胞に作用できるため、骨量、骨密度を増加させて症状を好転させる骨代謝調節に有効となる。また、既存の骨粗鬆症等の治療に使用される薬剤に起因する副作用への対処として、その影響を軽減する意味からも骨粗鬆症の予防または治療のための代替薬としての使用、あるいは、予防薬や治療薬の使用と併用できる利点が大きい。
アズキ由来骨代謝調節剤(骨代謝調節アズキ由来抽出物)を骨代謝異常の改善のための予防剤もしくは治療剤として用いる場合、経口投与の剤型は錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、液剤等の適宜である。また、注射薬、座薬、点滴薬、スプレー薬、点鼻薬等とすることもできる。列記の薬剤においては、アズキ由来骨代謝調節剤を単独としても他の薬剤を加えて併用しても良い。
本発明のアズキ由来骨代謝調節剤は、天然物であり、古くから食用されているアズキに由来する抽出物である。そのことから、アズキ由来骨代謝調節剤は常用する食品と馴染み良い。よって、新たにアズキ由来骨代謝調節剤を添加したアズキ由来骨代謝調節剤含有食品を作ることができる。
アズキ由来骨代謝調節剤(骨代謝調節アズキ由来抽出物)を添加可能な食品は、具体的に、水ようかん、ようかん、小倉あん、どら焼き、アズキのムース、アイスクリーム、飴(キャンデー)、キャラメル、カスタードプディング、コーヒーゼリー、グミ、ババロア、マシュマロ、カステラ、ホットケーキ、クッキー、フルーツジュース、炭酸飲料等がある。さらにはサプリメントとなる錠剤等も挙げられる。
列記のアズキ由来骨代謝調節剤含有食品を製造するに際し、アズキ由来骨代謝調節剤の含有量は、当該食品自体の味覚及び添加後の味の変化、他の添加成分、1回当たりの喫食量、喫食頻度、季節性、販売形態、さらに年齢、性別を加味した需要者層等を総合的に考慮して規定される。食品に添加するアズキ由来骨代謝調節剤の量は自由であり、例えば0.01重量%ないし100重量%(つまり、全量アズキ由来骨代謝調節剤とする食品)、1重量%ないし80重量%としても良い。
〔アズキ煮汁由来の抽出物の調製〕
原料となるアズキ(Vigna angularis)に北海道産の小豆を用いた。開放型の蒸煮釜にアズキを投入し、水から加熱して45分間煮熟した。煮上がって軟らかくなったアズキとその煮汁と分けた。煮汁を室温付近(約20℃)になるまで冷ました後、9000rpm、10分間の遠心分離をした。遠心分離より得た上清1kgに芳香族系合成吸着剤(三菱化学株式会社製 逆相吸着剤「DIAION HP−20」)300gを加えて4℃で12時間攪拌した。合成吸着剤とそれ以外の液に分けた後、合成吸着剤を蒸留水により洗浄し、さらに40%エタノール水溶液(v/v)により数回溶出を行った。
前記の洗浄、溶出した合成吸着剤をカラム(内径5mm×全長300mm)に充填した。当該合成吸着剤充填カラムを複数本用意した。合成吸着剤充填カラムに対し、はじめは蒸留水のみを送通し、次第にエタノールの割合を高めながら溶液を調製して送通した。本実施例では、当初の蒸留水のみの溶出から、10%ないし40%濃度のエタノール水溶液、40%ないし60%濃度のエタノール水溶液、60%ないし80%濃度のエタノール水溶液とする4種類の濃度による溶出を行った。溶出に供したエタノールは濃度勾配(グラジエント)を伴う。このため、濃度を切り替えるに際し濃度に幅が不可避的に生じる。そこで、上記のとおり濃度域を持った溶出条件とした。
蒸留水のみの溶出、10%ないし40%濃度のエタノール水溶液、40%ないし60%濃度のエタノール水溶液、及び60%ないし80%濃度のエタノール水溶液から得た画分(フラクション)のそれぞれについて、ロータリーエバポレーター(柴田科学株式会社製)を用い、画分中の水分等を蒸発、乾固した。こうして、溶出条件の異なる4種類のアズキ煮汁由来の抽出物を得た。以降の明細書、図面において、蒸留水のみの溶出から得た抽出物を「WEx」、10%ないし40%濃度のエタノール水溶液の溶出から得た抽出物を「EtEx.40」、40%ないし60%濃度のエタノール水溶液の溶出から得た抽出物を「EtEx.60」、及び60%ないし80%濃度のエタノール水溶液の溶出から得た抽出物を「EtEx.80」として表記する。当該アズキ由来の抽出物は暗紫色の粉末状であった。
〔細胞内機序の検証〕
4種類の抽出濃度の異なるアズキ煮汁由来の抽出物を調製後、骨代謝調節剤としての骨芽細胞への分化促進、並びに破骨細胞への分化抑制の作用機序を確認することにより、アズキ煮汁由来の抽出物の薬効性を確認した。以下、検証実験を述べる。
〔骨芽細胞への分化促進効果〕
実験に使用したマウス頭蓋冠由来MC3T3−E1細胞(骨芽細胞様細胞)は、須藤ら(J.Cell Biol.,vol96,191−198(1983))により樹立された細胞である。MC3T3−E1細胞は、骨芽細胞のモデルとして次述のアルカリホスファターゼ活性(以下、ALP活性)や石灰化の変化を比較的明瞭に示すことから選択した。
MC3T3−E1細胞を1.0×105cells/mLの密度として、10%ウシ胎児血清(FBS)を含むα−MEM培地に懸濁し、24穴マルチウェルプレートに播種した。12時間の培養後、アスコルビン酸を含む骨芽細胞分化培地(ODM:Osteoblast Differentation Medium)(和光純薬工業株式会社製,終濃度50μg/mL)、β−glycerophosphate(シグマアルドリッチ社製,終濃度10mM)、Hepes(N−2−hydroxyethylpiperazine−N−ethane sulfonic acid)(シグマアルドリッチ社製,終濃度5mM)を添加、調製した培地にMC3T3−E1細胞の培地を交換し、同細胞を分化誘導した。以下、単に骨芽細胞分化培地またはODMと記した場合についてもアスコルビン酸を含む培地を意味する。
骨芽細胞分化培地に前記の調製から得たEtEx.40について濃度を変えて添加した。培地交換から72時間経過後、ALP活性の測定及びアリザリンレッドS(Alizarin RedS)染色を行った。
〈アルカリホスファターゼ(ALP)活性の測定〉
骨芽細胞が分化して骨細胞に変化する際、同細胞内では石灰化を阻害するピロリン酸を分解するアルカリホスファターゼ(ALP;Alkaline Phosphatase)の発現が高まる。そこで、アルカリホスファターゼの活性を指標として利用することができる。
ALP活性の測定に際し、Tris−HCl(1.5M)、ZnCl2(1mM)、及びMgCl2(1mM)を含有するトリス緩衝液(アッセイ用バッファー)を調製した。同時に、同トリス緩衝液に界面活性剤(Triton X−100,和光純薬工業株式会社製)を1%量溶解した界面活性剤入りトリス緩衝液も調製した。
前記の骨芽細胞分化培地(ODM)にて培養後、氷冷したPBS(−)(リン酸緩衝生理的食塩水)によりMC3T3−E1細胞を2回洗浄して培地を取り除いた。続いて、界面活性剤入りトリス緩衝液を添加し、室温下で30分間静置して細胞中のタンパク分を抽出した。その後、適量のトリス緩衝液で希釈し、同量のpNPP(p−Nitrophenyl phosphate,和光純薬工業株式会社製,10mM)を含むトリス緩衝液を添加し、37℃、30分間インキュベートした。このとき生じた反応生成物(p−Nitrophenyl)の量を波長405nmの吸光度により測定してALP活性を評価した(n=5点)。ALP活性の単位は、「units/mgタンパク量」とした。
結果は図2のグラフである。骨芽細胞分化培地(ODM)を使用せずに培養した細胞(ODM(−))はほとんどALP活性が上昇しなかった。これに対し、骨芽細胞分化培地(ODM)のみを使用して培養した細胞(Control)ではALP活性は上昇した。次に、本発明のアズキ由来骨代謝調節剤であるEtEx.40の添加した培地にて培養した細胞においては、骨芽細胞分化培地のみの培養(Control)よりも、5μg/mL、10μg/mL、20μg/mLと濃度依存的に有意にALP活性は上昇した。このことから、EtEx.40は、その濃度に応じて骨芽細胞から骨細胞への分化促進作用を示唆する。
なお、EtEx.40以外のWEx、EtEx.60、及びEtEx.80についても同様に培養した。しかしながら有意な差異を見出すことができなかった。このため、分化促進作用の契機となる成分は希薄とみなしてEtEx.40について以下検証することにした。
〈アリザリンレッドS染色〉
培養細胞内の石灰化の評価に際しアリザリンレッドS染色法を用いた。MC3T3−E1細胞について、骨芽細胞分化培地(ODM)を使用せず(ODM(−))、骨芽細胞分化培地(ODM)を使用(Control,ODM(+))、細胞分化培地(ODM)にEtEx.40を10μg/mL添加(ODM(+)+EtEx.40,10μg/mL)、細胞分化培地(ODM)にEtEx.40を20μg/mL添加(ODM(+)+EtEx.40,20μg/mL)の4種類の培地条件の下で21日間培養した。培養後、細胞を氷冷したPBS(−)で2回洗浄して培地成分を除去し、適量のエタノールを添加して15分間静置し細胞を固定した。その後、エタノールを除き蒸留水で細胞を洗浄してアリザリンレッドS水溶液を添加し染色した。
〈培養細胞の観察〉
図3の上段(ALP)は培地成分とALP活性発現の様子を示した顕微鏡写真(倍率40倍)である。図3の下段(Alizarin RedS)は培地成分とアリザリンレッドS染色の様子を示した顕微鏡写真(倍率40倍)である。いずれの写真も最左列のODM(−)では薄い色であり発現、発色は少ない。左から右にODM(+)、EtEx.40の濃度順に色が濃くなった。すなわち、ALP活性及び細胞内の石灰化はアズキ抽出物EtEx.40の存在により高まり、さらにその濃度に依存して上昇することを確認した。
〔骨芽細胞内の転写因子発現〕
図4は骨芽細胞内において骨細胞へ分化する際に関係する転写因子、遺伝子、タンパク質発現等を概略した模式図である。骨芽細胞のBMPレセプターにBMP−2(リガンド)が結合後、細胞内のR−Smad、TAK1等のシグナル伝達を介して核内にて、「Runx2」(Runt−related transcription factor 2)、「OSX」(Osterix)、「Dlx5」(distal−less homeobox 5)等に代表される転写因子の発現量が高まり、核内移行してプロモーター領域に付着して転写が促進する。そこで、前記の転写因子の発現とアズキ由来抽出物EtEx.40の関係を検証した。
〈ウエスタンブロットによる骨芽細胞分化関連タンパク質の発現〉
はじめに、アズキ由来抽出物EtEx.40の有無と転写因子であるRunx2、OSX、及びDlx5の各タンパク質と、内在性コントロールとしてのβ−actinの発現をウエスタンブロットにて確認した。図5は骨芽細胞分化培地(ODM)を使用して培養し、EtEx.40なし(−)とEtEx.40(20μg/mL)あり(+)の相違とした。図示から把握できるように、バンドは幾分濃く、太くなったことから、Runx2等の転写因子量の増大を示唆する。タンパク質の標識用一次抗体にSantacruz Biotechnology社製のRunx2、OSX、及びDlx5、SIGMA社製のβ−actinを使用した。
〈定量リアルタイム−PCR法による検証〉
各転写因子の発現を定量的に把握するため、リアルタイムPCR法(定量Real Time−PCR法)を使用した。Runx2、OSX、及びDlx5のタンパク質へ翻訳する際に生じるmRNA量から最終的に発現するタンパク質の量の多少を推定することができる。
1×105cells/mLに調整したMC3T3−E1細胞を6ウェルマルチプレートに播種し、12時間前培養した。その後、EtEx.40(20μg/mL)を添加して24時間刺激後、PBS(−)で3回洗浄した。洗浄後、TRIzol試薬(ライフテクノロジーズジャパン株式会社製/インビトロジェン社製)を1mL/ウェル加えて細胞を溶解後、1.5mLの蓋付きチューブ(エッペンドルフ株式会社製)に移した。
次に200μLのクロロホルムを加え、30秒間ボルテックスミキサーにより振動攪拌の後、11500rpm、15分間、4℃の状態で遠心分離し、上清を新しい1.5mLの蓋付きチューブ(前記社製)に移し2−プロパノールを加えて10分間静置した。10分の静置後、11500rpm、10分間、4℃の状態で遠心分離して上清を慎重に除去し、残渣分に75%エタノール500μLを加えて洗浄した。この残渣分を9000rpm、5分間、4℃の状態で遠心分離して回収し、洗浄液を慎重に捨てて30分間風乾した。30分の風乾後、DEPC水(ジエチルピロカーボネート水)(インビトロジェン社製)を180μL、×10のBuffer(タカラバイオ株式会社製)を20μL、DNase1を2μL添加し、37℃で1時間反応させた。
その後、酢酸ナトリウム(株式会社ニッポンジーン製,3M,pH5.2)を40μLと、フェノールクロロホルム溶液(インビトロジェン社製)を150μL加え、ボルテックスミキサーにより振動攪拌した。フェノールクロロホルムとサンプル溶液の入ったチューブを15000rpm、5分間遠心分離し、上清を新しい1.5mLの蓋付きチューブ(前記社製)に移し、800μLのエタノールにて総RNAを抽出した。その後、15000rpm、30分間、4℃の状態で遠心分離し、総RNAを回収した。最後に上清を捨て、風乾後、DNase−RNaseフリーの水に溶解した。
バイオフォトメーターによりサンプルの総RNA量を測定後、それぞれのRNAサンプルを100ng/μLに調整した。タカラバイオ株式会社製「PrimeScript(登録商標) RT reagent Kit」を用いて逆転写反応を行った。PCRの条件は「37℃:15分、85℃:2分、4℃:継続」とした。逆転写反応で得たサンプルcDNAと、タカラバイオ株式会社製のプライマーRunx2(MA073758)、OSX(MA117891)、Dlx5(MA090802)、GAPDH(MA095452)を用意し、タカラバイオ株式会社製「SYBR(登録商標) Premix Ex Taq II」に準じ、リアルタイムPCR(アプライドバイオシステム社製,ステップワン)を使用し発現解析を行なった。発現量はGAPDHを内部標準として評価した。
図6はMC3T3−E1細胞内で発現する転写因子Runx2、OSX、及びDlx5について、定量RT−PCR法に基づいてmRNAのコピー数からタンパク質発現量を推定した棒グラフである。図6(a)はRunx2、同(b)はOSX、同(c)はDlx5のmRNAのコピー数である。GAPDH(グリセロアルデヒド3リン酸デヒドロゲナーゼ)との相対割合として示す。各転写因子の棒グラフは、骨芽細胞分化培地(ODM)の使用の有無(+/−)、EtEx.40(20μg/mL)の有無(+/−)の培地条件の相違を示す。いずれもp<0.05、n=5とした。
結果、骨芽細胞分化培地(ODM)の使用、さらにはアズキ由来抽出物EtEx.40の投与の順に、mRNAの発現レベルから、骨芽細胞の分化に関与する転写因子Runx2、OSX、及びDlx5の増加を確認した。特に、アズキ由来抽出物EtEx.40の存在下で培養した細胞の発現レベルは顕著に増加した。前掲の図4に示すように、OSXの発現は、Runx2やDlx5の調整を受ける。このことから、アズキ由来抽出物EtEx.40によりRunx2、Dlx5の発現が促され、これに同調してOSXの発現が高まった可能性を示唆する。従って、アズキ由来抽出物EtEx.40は骨芽細胞の分化に関与する遺伝子発現を調節する作用を有する成分であるといえる。
〔アズキ由来抽出物の前駆骨芽細胞への作用機構〕
図4の概略模式図に示すとおり、OSX(Osterix)発現に関与する経路として、次の2種類が考えられている。BMPレセプターにBMP−2が結合後、R−Smadのリン酸化を介してRunx2等が発現する経路と、TAK1(TGF−β−activated kinase 1)を介してP38 MAP kinaseがリン酸化し最終的にOSX(Osterix)が発現する経路である。
そこで、分化刺激後の受容体型Smad1/5/8の活性化(リン酸化)がアズキ由来抽出物EtEx.40の有無により影響されるか否かを検証した。骨芽細胞培養培地にて培養したMC3T3−E1細胞にアズキ由来抽出物EtEx.40(20μg/mL)を投与しておき、2時間後にアズキ由来抽出物EtEx.40を含んだ骨芽細胞分化培地(ODM)で刺激した。ODM刺激直後から60分経過時までのSmad1/5/8リン酸化レベルをウエスタンブロットにて確認した。図7はそのときのブロッティング像であり、EtEx.40(−)は投与なし、EtEx.40(+)は投与ありである。標識用一次抗体にCell Signaling technology社製のphospho−Smad1/5/8を使用した。
ブロッティング像からわかるとおり、アズキ由来抽出物EtEx.40の有無に関わらずリン酸化Smad1/5/8のリン酸化レベルに差異は認められなかった。いずれの場合も、骨芽細胞分化培地刺激誘導から経時的にリン酸化レベルは増加した。この結果から、アズキ由来抽出物EtEx.40は、Smadの経路には影響していないといえる。
次に、TAK1を介したp38 MAP kinase(p38)の情報伝達経路がアズキ由来抽出物EtEx.40の有無により影響されるか否かを検証した。骨芽細胞培養培地にて培養したMC3T3−E1細胞にアズキ由来抽出物EtEx.40(20μg/mL)を投与しておき、2時間後にアズキ由来抽出物EtEx.40を含んだ骨芽細胞分化培地(ODM)で刺激した。ODM刺激直後から60分経過時までのp38 MAP kinaseのリン酸化レベルをウエスタンブロットにて確認した。タンパク質の標識用一次抗体にCell Signaling technology社製のp38 MAP kinase、Phospho−p38 MAP kinaseを使用した。
図8は各タンパク質のウエスタンブロットによるブロッティング像である。ODM刺激から15分経過時のp38 MAP kinase(p38)のリン酸化レベルは上昇した。アズキ由来抽出物EtEx.40を含むODM培地で分化誘導刺激した細胞では、同アズキ抽出物を含まないODM培地で分化誘導刺激した細胞よりもリン酸化レベルは亢進した。
すなわち、本発明のアズキ由来抽出物EtEx.40は、TAK1を介したp38 MAP kinaseのリン酸化を促進するといえる。図7及び図8の結果より得た知見をまとめると、アズキ由来抽出物EtEx.40(図示中央)は、p38 MAP kinase(p38)に作用し、そのリン酸化物であるPhospho−p38 MAP kinase(p−p38))が転写因子の活性化を促しプロモーター領域上に付着して新たな転写発現を増進する。そして、最終的にOSX(Osterix)が発現し、同転写因子により骨芽細胞から骨細胞へ分化が促進する機構を提唱することができる(図4参照)。
〔破骨細胞への分化抑制効果〕
破骨細胞は造血系幹細胞に由来し、複数の細胞が融合した多核細胞である。破骨細胞は酸性加水分解酵素の骨型酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼ(TRACP:Tartrate−resistant Acid Phosphate(以下、骨型酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼについてはTRACPと称する。))をその細胞質に含む。破骨細胞が骨に吸収する際にTRACPは細胞質から漏出することから破骨細胞数やその骨吸収活性の直接の指標となるマーカーとして多用される。従って、TRACP活性は破骨細胞への分化程度の指標となり、TRACP活性が低ければ骨破壊は抑制され、結果的に骨粗鬆症の抑制につながる。
前駆破骨細胞が破骨細胞へ分化する際、TNFファミリーに属し骨芽細胞から分泌される分化誘導シグナルのRANKL(receptor activator of NFκB ligand)(sRANKLも同義、sはsolubleの略)は、レセプターのRANKに結合し分化を誘導する(図11参照)。そこで、マウス由来単球白血病細胞株の前駆破骨細胞様細胞であるRAW264.7細胞を用い、sRANKL刺激存在下におけるアズキ由来抽出物EtEx.40有無の影響を調べた。RAW264.7細胞はマクロファージコロニー刺激因子(Macrophage colony−stimulating factor(以下、M−CSFと称する。))を必要としなくても分化可能であり、対照として都合がよい。
〈骨型酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼ(TRACP)活性の測定〉
マウス前駆破骨細胞様細胞のRAW264.7細胞を5.0×104cells/mLの密度として、10%ウシ胎児血清(FBS)を含むDulbecco’s Modified Eagle Medium培地(DMEM培地)に懸濁し、24時間培養した。この培養後、同DMEM培地により段階的に希釈して24ウェルプレートに播種するとともに、本発明のアズキ由来抽出物EtEx.40について、無投与(control)、5μg/mL、10μg/mL、20μg/mL、50μg/mLの順に濃度を高めて投与し、さらに2時間事前培養した。
各ウェル内にsRANKLを100ng/mLの濃度で投与し、また、M−CSFを50ng/mLの濃度で投与して分化刺激を与えた。M−CSF(+)は投与あり、M−CSF(−)は投与なしである。各成分の投与後、5日間培養した。培養後、ウェルプレートから上清を取り除き、10%ホルマリン溶液10μL/ウェルを添加し10分間固定した。固定後に上清を取り除き、90%エタノール5μL/ウェルを添加して乾燥した。ここにTRACP活性測定液(p−Nitrophenylphosphate(5.5mM)、酒石酸ナトリウム(50mM)、クエン酸緩衝液(pH4.5))を1ウェル当たり0.4mL添加し、37℃で1ないし2時間振とうした。予め別の測定用のウェルに0.1Nの水酸化ナトリウム溶液を1ウェル当たり20μL分注し、ここにTRACP活性測定液を添加して反応させた反応液を100μLずつ分注した。各ウェルについて、マイクロプレートリーダーにより405nmの吸光度を測定した。
結果は図9のTRACP活性のグラフである(n=5)。sRANKL及びM−CSFを含むcontrolと比較して、本発明のアズキ由来抽出物EtEx.40を含む培養条件下では有意にTRACP活性は低減した。このことから、アズキ由来抽出物EtEx.40は、M−CSFの刺激存在下においても破骨細胞への分化抑制を示唆する。
〈TRACP染色〉
TRACP染色を目的として、RAW264.7細胞をsRANKL(100ng/mL)及びM−CSF(10ng/mL)を含み、アズキ由来抽出物EtEx.40の有無並びに10μg/mLまたは20μg/mLの濃度別に、DMEM培地を用い前述の培養条件に従って培養した。TRACP染色に際し、染色キット(タカラバイオ株式会社製,TRACP&ALP double staining kit)を使用した。
図10の写真はTRACP染色を行った培養細胞である。最左は誘導因子やアズキ由来抽出物を含まない培養細胞であり対照である。sRANKL及びM−CSFの誘導因子の存在下、アズキ由来抽出物EtEx.40が存在しなければ、赤褐色の斑点(図示の写真上では黒い点)が頻出し、TRACP活性が高まったことを示す。つまり、破骨細胞への分化が進んでいる状態である。これに対し、アズキ由来抽出物EtEx.40存在下では、斑点の数が減少した。特に、濃度依存的ということができる。これは、前記のTRACP活性の結果と一致する。すなわち、アズキ由来抽出物EtEx.40は、破骨細胞への分化を促進する環境下においても破骨細胞への分化抑制を示唆する。
〔アズキ由来抽出物の前駆破骨細胞への作用機構〕
図11の概略模式図に示すとおり、破骨細胞表面のRANKにRANKL(sRANKL)が結合すると、同細胞内ではTRAF6(TNF receptor associated factor 6)を起点にJNK、ERK、c−Fos、NF−κB等のシグナル伝達物質を介し、c−Jun及びc−Fosからヘテロ二量体タンパク質の転写因子であるAP−1(activator protein 1)が形成される。NF−κBはNFATc1(cytoplasmic 1 protein nuclear factor of activated T−cell)を誘導する。NFATc1にAP−1が結合することにより、NFATc1はさらに増加する。AP−1及びNFATc1はその他の核内移行シグナルを伴い核内へ移行し、プロモーター領域上に付着して新たな転写発現を増進する。最終的にTRACPやカテプシンKの産生、受容体OSCARの発現等につながり、破骨細胞への分化を増進する。この結果、破骨細胞による骨代謝(骨破壊)が促進する。
従って、当該経路を遮断することができれば、破骨細胞への分化を抑制することができ、最終目標である骨破壊の原因物質の産生抑制による骨破壊を低減することができる。
図11の前駆破骨細胞内のシグナル伝達を踏まえ、本発明のアズキ由来抽出物EtEx.40はどの伝達物質に作用しているのかを検証した。RAW264.7細胞をsRANKL(100ng/mL)及びM−CSF(10ng/mL)を含み、DMEM培地を用い前述の培養条件に従って培養した。ここに、アズキ由来抽出物EtEx.40(20μg/mL)を投与し、経時的にc−Fos及びNFATc1をウエスタンブロットにて確認した。図12はそのときのブロッティングの写真であり、EtEx.40(−)は投与なし、EtEx.40(+)は投与ありである。指標としてβアクチンを用いた。c−Fosの標識用一次抗体にCell Signaling technology社製の抗体を使用し、NFATc1の標識用一次抗体にabcam社製の抗体を使用した。
図示から理解できるように、EtEx.40の投与ありの条件下では、c−Fosの発現量が低下した。これに同調してNFATc1も減少した。そこで、AP−1の形成も阻害でき、AP−1及びNFATc1の核内移行を抑制して転写量を低減可能とする強力な証拠となる。当該知見から、本発明のアズキ由来抽出物EtEx.40は前駆破骨細胞におけるシグナル伝達を阻害し転写抑制的に作用する。それゆえ、前駆破骨細胞の破骨細胞への分化抑制に貢献することを示唆する。
〔アズキ由来抽出物の作用機序のまとめ〕
骨芽細胞並びに破骨細胞の前段階の細胞に対するアズキ由来抽出物の作用を勘案すると、同一の抽出物でありながら、双方の細胞への作用を明らかにした。前駆骨芽細胞に対してはその分化を促進することから骨芽細胞への分化と石灰化が明らかとなった。すなわち、骨量増加に貢献する。同時に、前駆破骨細胞に対してはその分化を抑制することから骨破壊を軽減する。このように、本発明のアズキ由来抽出物EtEx.40は、骨破壊を抑えながら骨形成を進めるという骨代謝調節剤に求められる性能を好適に具備する。
〔製剤例〕
本発明のアズキ煮汁に由来の抽出物は骨代謝調節剤として有効に作用し骨粗鬆症等の予防、治療に効果的であると考えられる。そこで、本発明のアズキ由来抽出物EtEx.40を含有する薬剤を試作した。左欄に組成、右欄に配合割合(重量パーセント表記)を開示する。むろん、剤型、配合量等は適宜である。
〈製剤例1:錠剤〉
セルロース 30.00
ステアリン酸カルシウム 2.50
二酸化ケイ素 1.50
デンプン粉末 49.40
乳糖 10.00
アズキ由来抽出物 6.60
(合計) 100.00
〈製剤例2:カプセル剤〉
乳糖 50.00
アズキ由来抽出物 50.00
(合計) 100.00
上記の成分を公知のカプセル内に封入する。
〔食品への応用〕
本発明のアズキ由来抽出物EtEx.40は、古来よりヒトが常食しているアズキの煮汁に由来するため、食品に配合して食事から有効成分を摂取することが望ましいといえる。そこで、当該アズキ由来抽出物(骨代謝調節剤)を個々の食品に配合して、実際に調理、製造した。以下に、食品・飲料の名称、そのレシピ(組成):左欄、及び配合割合(重量パーセント表記):右欄を開示する。列記の食品、飲料は例示である。本発明のアズキ煮汁に由来の抽出物(骨代謝調節剤)の添加対象は、当然これら以外の食品、飲料にも広げることができる。また、配合割合も開示の量に限定されることはなく、必要により加減できる。
〈1.水ようかん〉
寒天 0.40
水 45.35
砂糖 27.00
生あん 27.00
食塩 0.10
アズキ由来抽出物 0.15
(合計) 100.00
〈2.ようかん〉
寒天 0.65
水 24.00
砂糖 24.00
生あん 48.00
水あめ 3.20
アズキ由来抽出物 0.15
(合計) 100.00
〈3.小倉あん〉
アズキ 31.00
砂糖 35.80
食塩 0.05
水 33.00
アズキ由来抽出物 0.15
(合計) 100.00
〈4.どら焼き〉
薄力粉 20.20
上白糖 17.00
全卵 17.50
はちみつ 2.50
重曹 0.20
水 12.45
アズキ由来抽出物 0.15
小倉あん 30.00
(合計) 100.00
〈5.小豆のムース〉
生あん 31.00
粉ゼラチン 1.40
生クリーム 14.20
卵白 10.50
砂糖 4.30
水 38.45
アズキ由来抽出物 0.15
(合計) 100.00
〈6.アイスクリーム〉
卵黄 11.00
グラニュー糖 17.80
牛乳 53.20
生クリーム 17.80
バニラ香料 0.05
アズキ由来抽出物 0.15
(合計) 100.00
〈7.キャンデー〉
水あめ 45.00
砂糖 54.75
アズキ由来抽出物 0.15
(合計) 100.00
〈8.キャラメル〉
水あめ 34.50
砂糖 19.70
小麦粉 4.85
無糖練乳 34.60
食塩 0.20
ショートニング 5.90
アズキ由来抽出物 0.25
(合計) 100.00
〈9.カスタードプディング〉
牛乳 58.90
卵 24.00
砂糖 17.00
アズキ由来抽出物 0.10
(合計) 100.00
〈10.コーヒーゼリー〉
コーヒー(液体) 82.90
砂糖 8.30
粉ゼラチン 1.40
コーヒーリキュール 0.30
水 7.00
アズキ由来抽出物 0.10
(合計) 100.00
〈11.グミ〉
グラニュー糖 39.00
水 51.85
ゼラチン 6.80
クエン酸 0.50
フルーツ香料 1.60
アズキ由来抽出物 0.25
(合計) 100.00
〈12.ババロア〉
牛乳 47.40
生クリーム 19.00
卵黄 12.60
砂糖 19.00
ゼラチン 1.90
アズキ由来抽出物 0.10
(合計) 100.00
〈13.マシュマロ〉
水あめ 46.30
砂糖 50.90
ゼラチン 2.70
アズキ由来抽出物 0.10
(合計) 100.00
〈14.カステラ〉
全卵 34.30
卵黄 3.80
砂糖 34.30
はちみつ 4.80
米飴 1.90
薄力粉 18.00
水 2.80
アズキ由来抽出物 0.10
(合計) 100.00
〈15.ホットケーキ〉
卵 19.70
砂糖 13.40
牛乳 23.40
ベーキングパウダー 1.80
薄力粉 36.00
バター 5.40
食塩 0.15
バニラ香料 0.05
アズキ由来抽出物 0.10
(合計) 100.00
〈16.クッキー〉
マーガリン 12.20
ショートニング 12.20
砂糖 18.40
全卵 8.20
薄力粉 44.80
強力粉 4.10
アズキ由来抽出物 0.10
(合計) 100.00
〈17.フルーツジュース〉
フルーツ果汁 50.00
果糖ブドウ糖液糖 10.00
クエン酸 0.30
フルーツ香料 0.20
水 39.25
アズキ由来抽出物 0.25
(合計) 100.00
〈18.炭酸飲料〉
果糖ブドウ糖液糖 11.00
クエン酸 0.20
クエン酸ナトリウム 0.05
フルーツ香料 0.20
炭酸水 88.45
アズキ由来抽出物 0.10
(合計) 100.00
本発明のアズキ煮汁に由来の抽出物(骨代謝調節剤)は、広汎な食品種に添加することができるため、通常の食事からの摂取が可能となる。従って、日常生活の質(QOL)の改善への効果が期待できる。
本発明のアズキ煮汁に由来の抽出物(骨代謝調節剤)は、広汎な食品種に添加することができるため、通常の食事から無理なく摂取が可能となる。また、有効成分を高めて薬剤とすることにより、骨粗鬆症等の骨代謝異常の改善に効果を有し予防、治療に有効な薬剤を得ることができる。

Claims (5)

  1. アズキを熱水で煮熟し生じた煮汁から上清を分離し、前記上清を合成吸着剤に吸着させた後、前記吸着後の合成吸着剤にエタノール水溶液を添加して溶出して得たアズキ由来抽出物を有効成分とすることを特徴とするアズキ由来骨代謝調節剤。
  2. 前記エタノール水溶液が10%〜40%エタノール水溶液である請求項1に記載のアズキ由来骨代謝調節剤。
  3. 前記アズキ由来抽出物が、骨芽細胞への分化を促進し、かつ、破骨細胞への分化を抑制する請求項1または2に記載のアズキ由来骨代謝調節剤。
  4. 請求項1ないし3のいずれか1項に記載のアズキ由来骨代謝調節剤を含有してなる骨粗鬆症の予防剤または治療剤。
  5. 請求項1ないし3のいずれか1項に記載のアズキ由来骨代謝調節剤を含有してなる食品。
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